説明

光硬化性組成物及びコーティング層付き基材

【課題】高い耐指紋性を有すると共に耐久性にも優れた塗膜を形成するための光硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る光硬化性組成物は、(A)1分子あたり5個以上のアクリル基を有する光重合性多官能化合物、(B)ポリアルキレンオキシド基とポリアルキル基とのうちいずれかを有する親油性樹脂、(C)光重合性モノマー、及び(D)光重合開始剤を含む。前記(A)〜(D)成分の合計量100質量部に対して、前記(A)成分の割合が50〜90質量部、前記(B)成分の割合が1〜20質量部、前記(C)成分の割合が8〜48質量部である。不揮発性成分の粘度は5000mPa・s(25℃時)以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物、及びこの光硬化性組成物から形成されるコーティング層を備えるコーティング層付き基材に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルディスプレイなどの光学表示装置や、携帯電話機、ポータブル音楽プレーヤーなどの電子機器の筐体などの部材は、指で触れられることで機器の操作がされるため、表面に皮脂などの脂質成分による指紋跡が付着しやすい。このような指紋跡の付着により、部材の外観が損なわれたり、視認性、操作性が妨げられたりするという問題がある。このため、これらの部材には、表面上に指紋跡がつきにくく、或いは指紋跡がついたとしても簡単に拭き取り可能であるという、いわゆる耐指紋性の機能が求められている。
【0003】
これらの部材の耐指紋性を向上させる方法として、部材の表面に耐指紋性のフィルムを設ける方法が挙げられる。特許文献1には、炭素数3以上であるアルキレンオキシドを含む特定の構造のポリエーテル骨格含有ウレタン樹脂を含む光硬化性組成物により形成されるコーティング層が透明性基材の表面上に設けられることで構成される耐指紋性のフィルムが提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1で開示されているフィルムは、コーティング層の硬度が低いため、充分な耐久性を有しないという問題がある。
【0005】
耐久性の高い耐指紋性の材料としては、特許文献2に、オルガノ(ポリ)シロキサン基及び有機フッ素化合物基のいずれも含まない撥水性基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として含む(メタ)アクリル系共重合体又はこれと無機酸化物微粒子との複合体を含有する耐汚染性付与剤が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献2に記載されている技術においても、耐汚染性付与剤から形成される塗膜の表面硬度は充分に高いとはいえず、このため高い耐久性のフィルムは得られない。
【0007】
このように、従来の耐指紋性のためのフィルムは、耐指紋性と実用上充分な耐久性とを兼ね備えていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−255301号公報
【特許文献2】特開2004−359834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、高い耐指紋性を有すると共に耐久性にも優れた塗膜を形成するための光硬化性組成物、及びこの光硬化性組成物から形成されるコーティング層を備えるコーティング層付き基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光硬化性組成物は、
(A)1分子あたり5個以上のアクリル基を有する光重合性多官能化合物、
(B)ポリアルキレンオキシド基とポリアルキル基とのうちいずれかを有する親油性樹脂、
(C)光重合性モノマー、及び
(D)光重合開始剤
を含み、前記(A)〜(D)成分の合計量100質量部に対して、(A)成分の割合が50〜90質量部、(B)成分の割合が1〜20質量部、(C)成分の割合が8〜48質量部であり、且つ不揮発性成分の粘度が5000mPa・s(25℃時)以下である。
【0011】
本発明に係る光硬化性組成物においては、前記(B)成分が、炭素数3以上であるアルキレンオキシドを繰り返し単位とするポリアルキレンオキシド基と、炭素数3以上であるポリアルキル基とのうちいずれかを有することが好ましい。
【0012】
本発明に係るコーティング層付き基材は、基材と、この基材上に形成されているコーティング層とを備え、前記コーティング層が前記光硬化性組成物から形成されている。
【0013】
本発明に係るコーティング層付き基材においては、前記基材がフィルム状であり且つ透明であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るコーティング層付き基材においては、前記コーティング層の表面のオレイン酸接触角が10°以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い耐指紋性を有すると共に耐久性にも優れた硬化物を形成するための光硬化性組成物、及びこの光硬化性組成物から形成されるコーティング層を備えるコーティング層付き基材が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態による光硬化性組成物は、次の(A)〜(D)成分を含有する。
【0017】
(A)1分子あたり5個以上のアクリル基を有する光重合性多官能化合物。
【0018】
(B)ポリアルキレンオキシド基とポリアルキル基とのうちいずれかを有する親油性樹脂。
【0019】
(C)光重合性モノマー。
【0020】
(D)光重合開始剤。
【0021】
上記(A)成分に含まれる1分子あたり5個以上のアクリル基を有する光重合性多官能化合物は、モノマーであってもオリゴマーであってもよい。(A)成分の数平均分子量は、特に制限されないが、300〜3000の範囲であることが好ましく、500〜2500の範囲であれば更に好ましい。この数平均分子量は、光散乱法により測定される。
【0022】
光重合性多官能化合物の1分子あたりに含まれるアクリル基の数は、光硬化性組成物から形成される硬化物が高い物理的、化学的強度を有するようになるために重要である。このアクリル基の数が5個以上であることで、硬化物の物理的、化学的強度が高くなり、硬化物が高い耐久性(耐擦傷性、耐薬品性等)を発揮するようになる。このアクリル基の上限は特に制限されないがモノマー又はプレポリマーが有し得るアクリル基の個数を考慮すると、実質上の上限値は15個である。
【0023】
光重合性多官能化合物のアクリル基当量(アクリル基一つあたりの分子量)は、特に制限はされないが、300以下であることが好ましく、200以下であることが更に好ましい。この場合、光硬化性組成物から形成される硬化物の架橋密度が特に向上し、硬化物の物理的、化学的強度が更に高くなる。このアクリル基当量の下限は特に制限されないが、現実に存在し得る化合物の構造を考慮すると、実質上の下限は96である。
【0024】
(A)成分に含まれる光重合性多官能化合物の好ましい具体例としては、ジペンタエリスリトールペンタ、ヘキサアクリレートなどのポリオールポリアクリレート;ポリオールポリアクリレートのアルキレンオキサイド変成体;イソシアヌル酸アルキレンオキシド変成体のポリオールポリアクリレート;ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー;ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー;ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー;ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、などが挙げられる。これらの光重合性多官能化合物のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0025】
(B)成分に含まれるポリアルキレンオキシド基とポリアルキル基とのうちいずれかを有する親油性樹脂は、光硬化性組成物から形成される硬化物に充分な耐指紋性が付与される程度の親油性を有することが好ましい。親油性樹脂の、デイビス法により決定されるHLB値が6.5以下であることが好ましく、更に6.0以下であることが好ましい。このHLB値の下限は特に制限されないが、入手可能な樹脂のHLB値を考慮すると、実質上の下限値は−3.5である。
【0026】
親油性樹脂における、ポリアルキレンオキシド基中の繰り返し単位であるアルキレンオキシド基の炭素数、又はポリアルキル基の炭素数は、3以上であることが好ましい。この場合、親油性樹脂の親油性が特に高くなり、光硬化性組成物から形成される硬化物の耐指紋性が大きく向上する。炭素数の上限は特に制限されないが、入手可能な樹脂の構造を考慮すると、実質上の上限値は22である。
【0027】
更に親油性樹脂は光重合性を備えることが好ましく、そのためには親油性樹脂はアクリル基を有することが好ましい。
【0028】
(B)成分の数平均分子量は、特に制限されないが、200〜2000が好ましく、250〜1500が更に好ましい。
【0029】
親油性樹脂の好ましい具体例としては、4−tert―ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、HF(C)−P00(ハリマ化成製)、HF(C)−KT20(ハリマ化成製)、などが挙げられる。これらの親油性樹脂のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0030】
(C)成分には、(A)成分及び(B)成分以外の光重合性モノマーが含まれる。この光重合性モノマーによって、光硬化性組成物の光硬化性が維持されると共に、光硬化性組成物の粘度が調整される。
【0031】
光重合性モノマーの好ましい具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの低分子量ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはそのアルキレンオキシド変成体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジまたはトリまたはテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタまたはヘキサ(メタ)アクリレートなどのポリオールポリ(メタ)アクリレートまたはそのアルキレンオキサイド変成体;イソシアヌル酸アルキレンオキシド変成体のジまたはトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、などが挙げられる。これらの光重合性モノマーのうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0032】
(D)成分に含まれる光重合開始剤により、活性エネルギー線照射に対する光硬化性組成物の光硬化性が向上する。
【0033】
光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、チタノセン系光重合開始剤、オキシムエステル系重合開始剤などが挙げられる。アルキルフェノン系光重合開始剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノンなどが挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の具体例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。チタノセン系光重合開始剤の具体例としては、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウムなどが挙げられる。オキシムエステル系重合開始剤の具体例としては、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0−アセチルオキシム)、オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステル、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルなどが挙げられる。これら以外の光硬化剤の例として、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸メチル、2,4−ジエチルチオキサントン、2−エチルアントラキノン、カンファーキノン、オキシフェニル酢酸エステルなどの水素引き抜き型開始剤も挙げられる。光重合開始剤の特に好ましい具体例として、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、および、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オンなどが挙げられる。これらの光重合開始剤のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0034】
光硬化性組成物はさらに必要に応じて、希釈溶媒として有機溶媒を含有してもよい。有機溶媒の具体例としては、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ミネラルスピリットなどの脂肪族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテルエステル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。これらの有機溶媒のうち、一種のみが用いられても、二種以上が併用されてもよい。
【0035】
光硬化性組成物は、更に必要に応じて適宜の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、光重合開始助剤、帯電防止剤、無機充填材、有機充填材、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、着色剤などが挙げられる。
【0036】
上記の成分が適宜の手法で混合されることで、光硬化性組成物が得られる。
【0037】
光硬化性組成物中における(A)成分の割合は、(A)〜(D)成分の合計量100質量部に対して50〜90質量部の範囲である。(A)成分の割合が50質量部以上であることで、光硬化性組成物から形成される硬化物の物理的、化学的強度が充分に向上する。硬化物の更なる物理的、化学的強度の向上のためには、更に(A)成分の割合が80質量部以上であることが好ましい。(A)成分の割合が93質量部以下であることで、光硬化性組成物から形成される硬化物の耐指紋性が充分に向上する。硬化物の更なる耐指紋性向上のためには、更に(A)成分の割合が70質量部以下であることが好ましい。
【0038】
光硬化性組成物中における(B)成分の割合は、(A)〜(D)成分の合計量100質量部に対して1〜20質量部の範囲である。(B)成分の割合が20質量部以下であることで、光硬化性組成物から形成される硬化物の物理的、化学的強度が充分に向上する。硬化物の更なる物理的、化学的強度の向上のためには、更に(B)成分の割合が5質量部以下であることが好ましい。(B)成分の割合が1質量部以上であることで、光硬化性組成物から形成される硬化物の耐指紋性が充分に向上する。硬化物の更なる耐指紋性向上のためには、更に(B)成分の割合が10質量部以上であることが好ましい。
【0039】
光硬化性組成物中における(C)成分の割合は、(A)〜(D)成分の合計量100質量部に対して8〜48質量部の範囲である。この範囲において、光硬化性組成物から形成される硬化物の物理的、化学的強度が向上する。光硬化性組成物から形成される硬化物の物理的、化学的強度が更に向上するためには、(C)成分の割合が更に10〜30質量部の範囲であることが好ましい。
【0040】
光硬化性組成物中における(D)成分の割合は、光硬化性組成物に充分な光硬化性が付与されるように適宜設定される。(D)成分の割合は、光硬化性組成物を構成する成分の種類にもよるが、(A)〜(D)成分の合計量100質量部に対して1〜20質量部の範囲で設定されることが好ましく、1〜10質量部の範囲で設定されると更に好ましい。
【0041】
光硬化性組成物中の不揮発性成分の粘度は、5000mPa・s(25℃時)以下に調整される。不揮発性成分とは、光硬化性組成物から揮発性成分を除いた成分である。揮発性成分とは、光硬化性組成物から硬化物が形成される過程で揮発して光硬化性組成物或いは硬化物から除去される成分のことである。例えば光硬化性組成物が(A)〜(D)成分並びに希釈溶剤からなる場合には、揮発性成分は希釈溶剤であり、不揮発性成分は(A)〜(D)成分の混合物である。光硬化性組成物が揮発性成分を含む場合における不揮発性成分の粘度の測定にあたっては、例えば揮発性成分以外の光硬化性組成物の原料が混合されることで混合物(不揮発性成分)が調製され、続いてこの混合物の粘度が測定される。或いは、光硬化性組成物が加熱されるなどしてこの光硬化性組成物から揮発性成分が除去されると共に不揮発性成分が残留し、続いてこの不揮発性成分の粘度が測定される。揮発性成分が除去される際には、光硬化性組成物は、揮発性成分が充分に除去されると共に不揮発性成分の変質が生じないような適宜の条件で加熱され、例えば80℃で1時間加熱される。不揮発性成分の粘度が前記の範囲内であると、光硬化性組成物から形成される硬化物の物理的、化学的強度が大きく向上する。硬化物の物理的、化学的強度の更なる向上のためには、不揮発性成分の粘度は、4000mPa・s(25℃時)以下が更に好ましい。不揮発性成分の粘度の下限は特に制限されないが、達成可能な粘度の値を考慮すると、実質上の下限値は500mPa・s(25℃時)である。
【0042】
光硬化性組成物中の成分の種類並びに割合が適宜選択されることで、不揮発性成分の粘度が調整される。特に光硬化性組成物中の(C)成分の割合が調整されることで、光硬化性組成物の光硬化性並びに硬化物の特性が充分に高く維持されながら、不揮発性成分の粘度が容易に調整される。
【0043】
本実施形態では、(A)成分が1分子あたり5個以上という多くのアクリル基を有することで、硬化物の架橋密度が高くなる。このため、(B)成分によって硬化物に高い耐指紋性が付与されつつ、更にこの硬化物の物理的、化学的強度が大きく向上すると考えられる。更に、本実施形態では硬化反応時に光硬化性組成物中の成分のモビリティーが高く維持され、このため(A)成分のアクリル基の反応性が向上して反応速度が速くなり、これにより架橋密度が高い硬化物が得られると考えられる。但し、本発明はこの理論に拘束されない。
【0044】
本実施形態によるコーティング層付き基材は、基材と、この基材上に形成されているコーティング層とを備える。コーティング層は本実施形態による光硬化性組成物から形成される。このため、コーティング層は優れた耐指紋性を有すると共に、物理的、化学的強度が高く、高い耐久性(耐擦傷性、耐薬品性等)を有する。
【0045】
基材としては、特に制限されないが、例えばタッチパネルディスプレイなどの光学表示装置や、携帯電話機、ポータブル音楽プレーヤーなどの電子機器の筐体などの部材が挙げられる。
【0046】
基材はフィルム状であり且つ透明であってもよい。すなわち、コーティング層付き基材は、フィルム状の透明な基材と、この基材上に形成されているコーティング層とを備える光学フィルムであってもよい。このような光学フィルムが、タッチパネルディスプレイなどの光学表示装置や、携帯電話機、ポータブル音楽プレーヤーなどの電子機器の筐体などの適宜の部材に重ねて固定されると、これらの部材の最外層に、コーティング層が設けられる。
【0047】
フィルム状の透明な基材の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル類、環状ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルケトン等の樹脂から形成されるフィルムが挙げられる。フィルム状の透明な基材は、一枚のフィルムからなる単層構造を有していてもよく、同じ材質若しくは異種の材質からなる複数のフィルムが積層することで構成される多層構造を有していてもよい。フィルム状の透明な基材は無色透明であることが好ましいが、着色されていてもよい。フィルム状の透明な基材の可視光透過率はできる限り高いことが好ましい。
【0048】
フィルム状の透明な基材の厚みは、充分な透明性が維持されていれば特に制限されない。可視光透過率の向上のためには厚みは薄いほど好ましいが、加工性の面からは厚みは10〜300μmの範囲であることが好ましい。
【0049】
基材上にコーティング層が形成されるにあたっては、例えばまず基材上に光硬化性組成物が塗布されることで塗膜が形成される。光硬化性組成物が有機溶剤を含有する場合には、光硬化性組成物が塗布され、更に加熱されることで有機溶剤が揮発することで、塗膜が形成される。この塗膜に紫外線等のエネルギー線が照射されて光硬化性組成物が硬化することで、コーティング層が形成される。コーティング層の厚みは特に制限されないが、1〜10μmの範囲であることが好ましい。
【0050】
光硬化性組成物の塗布方法としては、特に制限なく適宜の方法が適用され得る。塗布方法の例としては、ウェットコーティング法(ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、プレードコーティング法、ワイヤードクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等)が挙げられる。
【0051】
塗膜に照射されるエネルギー線の種類は光硬化性組成物の組成に応じて適宜選択され、照射条件も光硬化性組成物の組成、塗膜の膜厚等に応じて適宜設定される。
【0052】
本実施形態によるコーティング層付き基材におけるコーティング層は、上述のとおり高い耐指紋性を有するが、特にこのコーティング層のオレイン酸接触角が10°以下であることが好ましい。この場合、コーティング層は非常に優れた耐指紋性を発揮する。このオレイン酸接触角は小さいほど好ましく、理想的には0°である。オレイン酸接触角が10°以下であるコーティング層は、本実施形態による光硬化性組成物から容易に形成される。このオレイン酸接触角は、例えば光硬化性組成物中における(A)成分と(B)成分の割合が調整されることで、容易に調整される。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、実施例によって本発明が制限されることはない。
【0054】
[光学フィルムの作製]
各実施例及び比較例において、表1に示す成分を混合し、更にメチルエチルケトンを加えることで、不揮発分率が35質量%の光硬化性組成物を得た。
【0055】
光硬化性組成物をPETフィルムの表面上に塗布し、80℃で3分間加熱して乾燥させることで、塗膜を形成した。この塗膜に紫外線照射機を用いて紫外線を500mJ/cmの条件で照射することで、塗膜を硬化させた。これにより、PETフィルムとその上に形成されているコーティング層とを備える光学フィルムを得た。
【0056】
【表1】


表1に示されている成分の詳細は、次のとおりである。
【0057】
〈(A)成分又は(A)成分に対応する化合物〉
・A−DPH;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、新中村化学工業株式会社製、品番A−DPH、1分子あたりのアクリル基数6個、アクリル基当量96、数平均分子量578。
・U−15HA;ウレタンアクリレートプレポリマー、新中村化学工業株式会社製、品番U−15HA、1分子あたりのアクリル基数15個、アクリル基当量153、数平均分子量2300。
・A−9530;ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、新中村化学工業株式会社製、品番A−9530、1分子あたりのアクリル基数5個、アクリル基当量105、数平均分子量524。
・M−403;ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの含有量50〜60質量%〉、東亞合成株式会社製、品番M−403、1分子あたりのアクリル基数5個、アクリル基当量105、数平均分子量524。
・M−405;ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートの含有量10〜20質量%)、東亞合成株式会社製、品番M−405、1分子あたりのアクリル基数5個、アクリル基当量105、数平均分子量524。
・A−TMPT;ペンタエリスリトールテトラアクリレート、新中村化学工業株式会社製、品番A−TMPT、1分子あたりのアクリル基数4個、アクリル基当量74、数平均分子量296。
【0058】
〈(B)成分又は(B)成分に対応する化合物〉
・ANP−300;ノニルフェノキシポリプロピレングリコールアクリレート、日油株式会社製、品番ANP−300、アルキレンオキシド単位の炭素数3、HLB値2.0、数平均分子量564。
・ADP−400;ポリプロピレングリコールジアクリレート、日油株式会社製、品番ADP−400、アルキレンオキシド単位の炭素数3、HLB値6.1、数平均分子量474。
・ADT−250;ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、日油株式会社製、品番ADT−250、アルキレンオキシド単位の炭素数4、HLB値5.2、数平均分子量342。
・S−1800A;イソステアリルアクリレート、新中村化学工業株式会社製、品番S−1800A、ポリアルキル基の炭素数18、HLB値−1.6、数平均分子量324。
・AE−400;ポリエチレングリコールモノアクリレート、日油株式会社製、品番AE−400、アルキレンオキシド単位の炭素数2、HLB値12.2、数平均分子量512。
【0059】
〈(C)成分〉
・A−TMM−3;ペンタエリスリトールトリアクリレート、新中村化学工業株式会社製、品番A−TMM−3。
・A−HD−N;1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、新中村化学工業株式会社製、品番A−HD−N。
・A−TMM−3LM−N;ペンタエリスリトールトリアクリレート、新中村化学工業株式会社製、品番A−TMM−3LM−N。
・M−306;ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(ペンタエリスリトールトリアクリレートの含有量65〜70質量%)、東亞合成株式会社製、品番M−306。
・M−450;ペンタエリスリトールトリ及びテトラアクリレートの混合物(ペンタエリスリトールトリアクリレートの含有量10質量%以下)、東亞合成株式会社製、品番M−450。
【0060】
〈(D)成分〉
・IRGACURE184;1−ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、BASF社製、品番IRGACURE184。
・IRGACURE127;2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル-プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、BASF社製、品番IRGACURE127。
【0061】
[評価試験]
各実施例及び比較例で得られた光学フィルムの性能評価試験を、次に示すとおり行った。
【0062】
・粘度測定
(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を表1に示す割合で混合した混合物を調製し、この混合物の25℃における粘度を、B型粘度計(BM型、トキメック社製)を用いて測定した。
【0063】
・全光線透過率及びヘイズの測定
日本電色工業株式会社製の濁度計(型番NDH2000)を用い、JIS K7361−1997に準拠して、光学フィルムの全光線透過率及びヘイズを測定した。
【0064】
・耐指紋性評価試験
コーティング層上に人の指を接触させた後に、この指をコーティング層から離した。続いて、コーティング層をその表面に対して垂直な方向から目視で観察し、指紋跡が確認された場合を「不良」、指紋跡が確認されなかった場合を「良」と評価した。
・鉛筆硬度の測定
JIS K5600に従って、コーティング層の鉛筆硬度を測定した。引っかき試験を10回おこない、傷が認められない回数が8回以上である場合を合格と評価した。
【0065】
・耐擦傷性評価試験
#0000のスチールウールをコーティング層と接触させた状態で、スチールウールからコーティング層へ向けて49kPaの荷重をかけながら、スチールウールを3000mm/minの速度でコーティング層上で100往復させた。続いて、コーティング層の表面を目視で観察し、多数の傷が認められた場合を「傷多数」、少数本の傷が認められた場合を「傷少数」、傷が認められなかった場合を「傷なし」と評価した。
【0066】
・密着性
コーティング層に対して、JIS D0202−1988に準拠した碁盤目テープ剥離試験をおこない、100個のマス目のうちの剥離が生じなかったマス目の数によって、密着性を評価した。
・オレイン酸接触角の測定
自動接触角計(協和界面科学製)を用いて、コーティング層のオレイン酸の接触角を測定した。
【0067】
・耐薬品性
試験用の薬品として、トルエン、アセトン、塩酸水溶液(濃度10質量%)、食塩水(濃度10質量%)、及び石灰水(濃度10質量%)を用意し、これらの薬品に対するコーティング層の耐性を次のようにして調査した。
【0068】
コーティング層の表面上に薬品をピペットから1滴滴下した。コーティング層上に薬品の液滴が載っている状態を、室温で2.5時間維持してから、薬品をコーティング層上から除去した。続いて、コーティング層の表面を目視で観察し、外観に変色が確認された場合を「不良」、外観に変化が確認されなかった場合を「良」と評価した。
【0069】
・結果
以上の評価試験の結果を、下記表2に示す。
【0070】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子あたり5個以上のアクリル基を有する光重合性多官能化合物、
(B)ポリアルキレンオキシド基とポリアルキル基とのうちいずれかを有する親油性樹脂、
(C)光重合性モノマー、及び
(D)光重合開始剤
を含み、前記(A)〜(D)成分の合計量100質量部に対して、前記(A)成分の割合が50〜90質量部、前記(B)成分の割合が1〜20質量部、前記(C)成分の割合が8〜48質量部であり、且つ不揮発性成分の粘度が5000mPa・s(25℃時)以下である光硬化性組成物。
【請求項2】
前記(B)成分が、炭素数3以上であるアルキレンオキシドを繰り返し単位とするポリアルキレンオキシド基と、炭素数3以上であるポリアルキル基とのうちいずれかを有する請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
基材と、この基材上に形成されているコーティング層とを備え、前記コーティング層が請求項1又は2に記載の光硬化性組成物から形成されているコーティング層付き基材。
【請求項4】
前記基材がフィルム状であり且つ透明である請求項3に記載のコーティング層付き基材。
【請求項5】
前記コーティング層の表面のオレイン酸接触角が10°以下である請求項3又は4に記載のコーティング層付き基材。

【公開番号】特開2012−72212(P2012−72212A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216198(P2010−216198)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】