説明

光磁気記録媒体再生装置および光磁気記録媒体再生方法

【課題】データの記録領域として磁性細線でトラックを形成した光磁気ディスクを内蔵し、2本以上のトラックのデータを並列に再生する装置および方法を提供する。
【解決手段】光磁気ディスク50の隣り合う4本のトラック5を選択する制御部と、トラック5の両端に設けられた電極に接続されて選択されたトラック5にパルス電流を供給する電流供給部と、光磁気ディスク50表面における全トラック5のそれぞれに固定されている再生領域5ROを含む領域に密着させた磁気転写膜8と、磁気転写膜8を透過させて選択されたトラック5に偏光を照射する光学系と、この偏光がトラック5から反射した光の旋光角を検出して、4本のトラック5に記録されているデータを並列に再生する検出部と、を備える再生装置であって、トラック5に生成している磁壁がパルス電流により断続的に移動して、磁壁が静止している時に再生領域5ROに到達した領域のデータが再生される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体から磁気光学的にデータを読み出す再生装置、特にトラックが細線状の磁性体で形成された磁気記録媒体を適用して、パルス電流を供給することでトラック内で磁区を移動させながら再生する光磁気記録媒体再生装置、および光磁気記録媒体再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(HDD)等の記憶装置は、扱われる情報量の増大に伴い、高記録密度化ならびに記録や再生の高速化が進められている。高記録密度化に伴い、HDD等に使用される磁気ディスク等の記録媒体のトラックは狭ピッチ化し、このような微小な領域の磁気を検出するために、記録・再生方式はGMR(Giant MagnetoResistance:巨大磁気抵抗効果)素子等からなる磁気ヘッドによる磁気記録方式が適用されている。
【0003】
磁気ディスクにおける記録および再生は、ディスクをスピンドルモータで回転駆動させ、磁気ヘッドをディスクの径方向のみに移動させることで、トラックに沿って(ディスクの周方向に)所定方向に磁化する(記録する)、または磁気を検出する(再生する)。このようなディスクにおいて記録および再生を高速化するためには、ディスクの回転速度を速くすることが第一に挙げられる。しかし、記録においてはトラックの磁化、再生においては磁気の検出にそれぞれ要する時間、ならびにディスクの振動による誤動作等の問題から、回転速度の高速化には限界がある。そのため、パーソナルコンピュータに内蔵されるHDD等の2〜10枚程度の磁気ディスクを重ねて構成される記憶装置では、それぞれの磁気ディスクに磁気ヘッドを備えることで、各磁気ディスクを並列に記録または再生を行うことを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6834005号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Koyama et al., Appl. Phys. Express 1, 101303 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記HDD等の記憶装置が同時に再生できるデータは、内蔵するディスク枚数と同数に制限され、さらにデータを大量にかつ高速で再生する場合には複数台を同時に稼動する必要がある。例えば、スーパーハイビジョン(高精細度テレビジョン)システムを実現するためには、約72Gbpsの超高速で再生する必要がある。約24Gbpsの実験用のスーパーハイビジョンシステムであっても、例えば3〜10枚程度のディスクを搭載したサーバ用の大容量ストレージを、数十台同時に稼動する必要があり、大規模かつ高消費電力を必要とする。
【0007】
1台の記憶装置でさらに高速で再生するためには1枚のディスクから同時に2以上のデータを再生する必要があり、その方法として、ディスクの径方向に複数の磁気ヘッドを備える方法が挙げられる。しかし、ディスクの外側と内側では周すなわちトラックの長さが異なるので、ディスクを回転駆動させると磁気ヘッドのトラック上の移動速度が異なってしまい、ディスクの外周寄りのトラックは1データ分の長さを長くするような、ディスクにおける位置別の調整が必要となる。あるいは隣り合う2〜十数本程度のトラック同士での同時再生であれば長さの差は僅かなものであるが、この場合もディスクが1回転する長さにおいてはずれが生じる可能性があり、それぞれの磁気ヘッドの位置を微調整する必要が生じる。さらに、2本以上のトラックを同時に再生するためには、磁気ヘッドであれば再生するトラックの本数分のTMR素子等とそれに接続して電流を供給する配線が必要であるが、互いに絶縁されるように、狭ピッチで隣り合う2本以上のトラックのそれぞれに対向させることは困難である。
【0008】
ここで、記録媒体を駆動させずに記録または再生領域を移動する方法として、特許文献1には、細線状の磁性体(以下、適宜磁性細線)をU字型等に形成してトラックとしたメモリデバイスが開示されている。これは、磁性体を細線状に形成すると、その長さ方向に磁区が形成され、さらに当該長さ方向に電流を供給すると磁区同士を区切る磁壁がシフト移動する特性を利用したものである(非特許文献1参照)。すなわち、トラック(磁性細線)上の所定の一箇所(特許文献1ではU字型の頂部)に記録用および再生用の各磁気ヘッドを固定させて、両端から電流を可逆的に供給して所望の磁区をヘッドに対向する位置に移動させる。この方法においては、磁性体の形状(線幅等)や供給する電流により異なるが、磁壁の移動速度は数十m/sから約100m/sと極めて高速であるので、現行のディスクの回転による再生速度を超えることが期待される。
【0009】
特許文献1では、ランダムアクセス方式によるデータの書換えを可能とするために、U字型を多数直列に接続した波型の磁性細線をさらに並列に設けて、U字型の頂部のそれぞれに磁気ヘッドを備える形態としているが、磁性細線を3次元に形成する必要があり、記録媒体の構造が複雑化する。例えば映画等の連続したデータからなる情報を記録された再生専用の記録媒体であれば、先頭のデータ(磁区)から再生を開始し、磁区の移動は一方向かつ一定速度でよい。そこで、本願発明者は、磁性細線を同心円状に形成して、これを一般的な磁気ディスクや光磁気ディスクと同様にトラックとして、円盤形状の記録媒体(ディスク)とすることに至った。このような記録媒体であれば、記録媒体本体を回転駆動させる必要がないため振動による誤動作等がなく、また、トラック毎に電流を供給することで複数のトラックについてそれぞれのデータ(磁区)の移動を制御することができるので、トラック同士でデータがずれることなく同時に複数のトラックを再生できる。
【0010】
本発明は前記再生における問題点に鑑み創案されたもので、前記の磁性細線でトラックを形成した記録媒体を対象として、1つの記録媒体から2以上のデータを並列に再生する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明者は、狭ピッチの隣り合うトラックからデータを再生する方法に、光磁気(Magneto-Optical:MO)ディスクに適用されている光磁気方式を採用することとした。光磁気方式における再生方法は、磁性体からなるトラックの記録層にレーザー光を照射して、その光が反射する際に偏光面が回転する(旋光する)磁気光学カー効果により、記録層の磁化方向の違いで旋光の向きが反転することを利用している。ただし、記録層に適用される磁性体による旋光角(カー回転角)は概ね1°未満であることから、検出精度を高くして複数の微小な磁区からの同時検出を可能とするために、磁気光学効果の大きい磁気転写膜を用いる方法に至った。
【0012】
本発明に係る光磁気記録媒体再生装置は、基板上に磁性体を細線状に形成してなる複数の磁性細線をデータの記録領域として備えて、前記磁性細線のそれぞれに、2値のデータを異なる2方向の磁化のいずれかとして当該磁性細線の細線方向に連続して記録された光磁気記録媒体を内蔵して、2以上の磁性細線を選択してそれぞれに記録されているデータを並列に再生する装置である。このような再生を可能とするために、光磁気記録媒体再生装置は、密着している領域における磁性細線の磁化方向に対応して磁化方向が変化する磁気転写膜を、前記光磁気記録媒体表面における前記複数の磁性細線のそれぞれに予め位置を設定されている光磁気検出領域を含む領域に密着させて備える。光磁気記録媒体再生装置は、さらに、前記光磁気記録媒体の複数の磁性細線から隣り合う2以上の磁性細線を選択する制御手段と、前記光磁気記録媒体の複数の磁性細線のそれぞれの両端に接続されて、前記2以上の磁性細線に、当該磁性細線において2値の一方のデータを記録された領域と2値の他方のデータを記録された領域との間に生成している磁壁を断続的に移動させるパルス電流をその細線方向に供給する電流供給手段と、前記磁気転写膜を透過させて光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線のそれぞれの光磁気検出領域に1つの向きの偏光の光を入射させる照射手段と、この照射手段から入射して光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線から反射して磁気転写膜を透過した光の偏光の向きを検出して、この光の偏光の向きから前記2以上の磁性細線のそれぞれに記録されているデータを並列に再生する検出手段と、を備え、前記検出手段は、電流供給手段が供給するパルス電流に同期して、磁性細線において前記磁壁の断続的な移動における静止時に、当該磁性細線の光磁気検出領域に到達したデータを再生することを特徴とする。
【0013】
かかる構成により、光磁気記録媒体再生装置は、パルス電流を供給することで光磁気記録媒体の磁性細線中をその細線方向に2値のデータの1つを記録された領域がこの領域の距離ずつ移動して、データ再生のための固定された領域である光磁気検出領域におけるデータが順番に入れ替わるので、スピンドルモータ等の回転駆動手段によることなく、光磁気記録媒体本体を固定した状態で高速でデータを移動させることができる。また、光磁気記録媒体再生装置は、磁性細線におけるデータを記録された領域の移動速度を電流供給により磁性細線毎に制御できるので、2以上の磁性細線のデータを誤動作なく並列に移動できる。さらに、光磁気記録媒体再生装置においては、光磁気記録媒体の磁性細線の光磁気検出領域に磁気転写膜を密着させることで、磁性細線を反射した光は磁気転写膜を透過することで旋光して偏光の向きの変化を大きくして、磁気光学式による磁気の検出精度が向上し、狭ピッチで隣り合う2以上の磁性細線の各データを共通の反射光から検出することができる。
【0014】
前記光磁気記録媒体再生装置においては、検出手段は、光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線から反射して磁気転写膜を透過した光における特定の向きの偏光の光を遮光する偏光子と、この偏光子を透過した光を磁性細線において前記磁壁の断続的な移動における静止時に撮像する撮像装置と、を備えて、この撮像装置が撮像した領域を前記2以上の磁性細線のそれぞれに合わせて区分けして、光の明暗を0または1のデータとして再生するようにすることができる。かかる構成により、光磁気記録媒体再生装置は従来公知の撮像装置を適用して2以上のデータを並列に再生できる。
【0015】
さらに、光磁気記録媒体が、円盤形状の基板に複数の磁性細線が同心円状に形成され、磁性細線のそれぞれが円環の一部を欠いた形状であることが好ましい。かかる構成により、光磁気記録媒体を従来公知の記録媒体と同様の外形とし、また光磁気記録媒体の大きさが制限されても、磁性細線を屈曲させることなく基板上に長く連続した形状とすることができるので、光磁気記録媒体再生装置を大型化する必要がない。
【0016】
さらに、光磁気記録媒体が、前記磁性細線に、前記磁気検出領域の近傍に括れ部を形成していることが好ましい。かかる構成により、並列に再生する磁性細線同士でデータのずれ等の不具合を発生し難くすることができる。
【0017】
また、磁気転写膜はビスマス置換磁性ガーネットからなることが好ましい。かかる構成により、光磁気記録媒体に反射した光はその偏光の向きをさらに回転させて累積での回転角が大きくなるので、検出精度がいっそう向上する。
【0018】
また、本発明に係る光磁気記録媒体再生方法は、前記の磁性体を細線状に形成してなる複数の磁性細線をデータの記録領域として備える光磁気記録媒体について、2以上の磁性細線を選択してそれぞれに記録されているデータを並列に再生する方法である。そのために、光磁気記録媒体再生方法は、まず、光磁気記録媒体表面における複数の磁性細線のそれぞれに位置を設定された光磁気検出領域を含む所定の領域に、密着している領域における磁性細線の磁化方向に対応して磁化方向が変化する磁気転写膜を密着させる準備工程を行い、次に、前記光磁気記録媒体の複数の磁性細線から隣り合う2以上の磁性細線を選択する選択工程と、光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線のそれぞれに記録されたデータを並列に再生する再生工程と、を行う。再生工程においては、前記2以上の磁性細線に、当該磁性細線において2値の一方のデータを記録された領域と2値の他方のデータを記録された領域との間に生成している磁壁を断続的に移動させるパルス電流を、その細線方向に供給する電流供給処理と、前記磁気転写膜を透過させて、光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線のそれぞれの光磁気検出領域に1つの向きの偏光の光を入射させる照射処理と、この照射処理にて入射して光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線から反射して磁気転写膜を透過した光の偏光の向きを検出する光検出処理と、この光検出処理で検出された偏光の向きから、前記電流供給処理にて供給されるパルス電流に同期して、磁性細線において前記磁壁の断続的な移動における静止時に当該磁性細線の光磁気検出領域に到達したデータを再生するデータ再生処理と、を行うことを特徴とする。
【0019】
かかる手順により、細線状の磁性体からなる狭ピッチのトラックを有する光磁気記録媒体について、同時に2以上のデータを精度よく再生できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る光磁気記録媒体再生装置によれば、狭ピッチのトラックであっても隣り合う2以上から同時にデータを再生できるので、特にハイビジョン画像のような高密度データで構成される情報を再生する装置をコンパクトに構成することができる。また、本発明に係る光磁気記録媒体再生方法によれば、前記のハイビジョン画像のような高密度データで構成される情報を適正に再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る光磁気記録媒体再生装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光磁気記録媒体再生装置に内蔵される光磁気記録媒体の構成を模式的に説明する平面図である。
【図3】図1に示す光磁気記録媒体再生装置による再生方法を説明するための、光磁気記録媒体の再生領域の部分断面図である。
【図4】図2に示す光磁気記録媒体の磁性細線における磁区の移動を模式的に説明する長さ方向の断面図である。
【図5】図2に示す光磁気記録媒体の再生領域の拡大平面図である。
【図6】図1に示す光磁気記録媒体再生装置および光磁気記録媒体の再生領域の拡大図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る光磁気記録媒体再生方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る光磁気記録媒体再生装置および光磁気記録媒体再生方法(以下、適宜再生装置および再生方法)を実現するための形態について図を参照して説明する。
【0023】
[光磁気記録媒体再生装置]
本発明の一実施形態に係る再生装置(光磁気記録媒体再生装置)1は、図1に示すように、光磁気ディスク(光磁気記録媒体)50を内蔵し、その表面(上面)の所定の領域に貼り付けられた磁気転写膜8と、磁気転写膜8を透過させて光磁気ディスク50に入射光を照射する光学系(照射手段)10と、入射光が光磁気ディスク50で反射した出射光を検出する検出部(検出手段)20と、光磁気ディスク50のトラック(磁性細線)5(図2参照)にパルス電流を供給する電流供給部(電流供給手段)30と、これらを制御する制御部40と、を備える。再生装置1は、現行の光磁気ディスクの再生と同様に、光磁気ディスク50の上面に形成されたトラック5に光を入射して、この光が磁気光学効果によりトラック5の磁化方向に応じて偏光の向きを変化させて(旋光して)反射した光について、偏光の向きから磁気を検出することでデータを再生する。再生装置1において、光磁気ディスク50は、現行のDVD(Digital Versatile Disc)再生装置のように交換可能としても、現行のHDD装置と同様に非可換としてもよい。なお、本明細書において光磁気ディスク50の表面は光の入射/出射面である上面とし、上方が光の入射/出射方向である。
【0024】
光学系10は、レーザー照射装置11、ならびにこれに光学的に接続されてレーザー光を所定のスポット径に縮小(または拡大)するレンズ、さらに縮小されたレーザー光を平行光とするレンズ、およびレーザー光を1つの偏光成分の光(この光を以下、適宜偏光という。)とする入射偏光フィルタ13で構成される。一方、検出部20は、光磁気ディスク50で反射して出射した光から特定の向きの偏光を遮光する出射偏光フィルタ(偏光子)23、およびこれを透過した光を撮像する撮像装置21で構成される。光学系10および検出部20は、それぞれ移動可能なミラー12,22をさらに備えて、光磁気ディスク50表面の光の入射する領域(レーザースポット)を径方向に移動させる。レーザー照射装置11は、所定波長(例えば500nm)のレーザー光を照射する装置で、現行の光磁気ディスクの記録/再生装置に適用されているものと同様の装置を適用できる。撮像装置21としては、CCDカメラやフォトダイオード等の、出射偏光フィルタ23を透過した光を検出可能で、トラック幅(磁区の平面視サイズ)以下の分解能、かつ1データの再生速度より速い時間分解能の光検出器であれば適用できる。また、撮像装置21の分解能に合わせて光を拡大するレンズ(図示省略)を設けてもよい。偏光フィルタ13,23は公知の偏光板を適用できる。また、光学系10および検出部20のそれぞれにおいて、偏光フィルタ13,23、ミラー12,22および各種レンズの並び順は前記に限らず入れ替えてもよい。
【0025】
電流供給部30は、光磁気ディスク50の各磁性細線(トラック)5の両端に設けられた電極52,53(図2参照)に接続して、パルス電流を磁性細線5へその長さ方向に供給する。このパルス電流により、後記するように、磁性細線5中を、データを記録された領域が当該磁性細線5の長さ方向に沿って断続的に移動する。すなわち、本発明に係る再生装置および再生方法においては、光磁気ディスク50はそれ自体が駆動するものではない。制御部40は、データを再生する磁性細線5を選択し、それに合わせて電流供給部30に電流を供給する磁性細線5を指示し、かつ光学系10および検出部20のミラー12,22を移動させ、さらに電流供給部30が供給するパルス電流の周期に合わせて検出部20にデータを再生させる。
【0026】
(光磁気ディスク)
本発明の一実施形態に係る再生装置1で再生されるデータを格納されている光磁気ディスク(光磁気記録媒体)50は、図2に示すように、現行の磁気ディスクや光磁気ディスクと同様に円盤形状の基板7をベースとして、表面(上面)に、データの記録(格納)領域として複数の磁性細線5,5,…が同心円状に形成されている。それぞれの磁性細線5には、その長さ方向(細線方向)の所定の単位長さ(データ長)毎に、2値のデータすなわち「0」または「1」のデータを一方向の磁化またはその反対方向の磁化の磁区として記録されている。このように、本実施形態において、光磁気記録媒体50は、その外形が現行の光磁気ディスク等と同様に円盤形状であるので、光磁気ディスク50と称し、また磁性細線5のそれぞれは、現行の磁気ディスクや光磁気ディスクのデータの記録領域であるトラックの形状に類似するため、適宜トラック5と称する。さらに、この磁性細線5の、1つのデータを格納された単位領域をデータ領域と称する。本発明において、光磁気ディスク(光磁気記録媒体)50は、前記したように磁性細線5中でデータ領域を移動させるために、以下のように構成される。
【0027】
光磁気ディスク50において、磁性細線(トラック)5のそれぞれは、図2に示すように平面視で円環の一部を欠いたC字型であり、その両端に一対の電極52,53が接続され、図3に示すように、円盤状の基板7の上に絶縁層6を介して形成されている。また、光磁気ディスク50に形成する磁性細線5の本数は特に制限されず、トラックピッチ(幅および間隔)や光磁気ディスク50の大きさ等に応じて設定すればよい。なお、図3において、磁性細線5はその内部に矢印で磁化方向を表示しているため、空白(透明)領域で示す。
【0028】
光磁気ディスク50の磁性細線(トラック)5は強磁性材料からなり、特に膜面に垂直な方向の磁化を有する、すなわち垂直磁気異方性材料が好ましく、具体的にはNi,Fe,Co等の遷移金属やその合金、さらにPd,Pt,Cuとの積層膜が挙げられる。磁性細線5の厚さ(膜厚)は5〜100nm、幅(光磁気ディスク50の径方向長さ)は100〜800nm、磁性細線5,5間は100〜800nmが好ましく、幅および間隔が短いほど、いわゆるトラックピッチが狭いほど光磁気ディスク50の記録容量を大きくできる。ただし、トラックピッチ(磁性細線5の幅と間隔の和)は、レーザー照射装置11から照射されるレーザー光の半波長以上とする。磁性細線5の長さ方向長(トラック長)は、特に制限しないが、厚さおよび幅方向長に対して十分に長いものであればよい。さらに、光磁気ディスク50におけるすべての磁性細線5が同じ長さでなくてもよいが、同時にデータを再生する(磁気を検出する)隣り合う所定本数の磁性細線5(以下、適宜並列再生する磁性細線5)同士は長さを揃えることが好ましい。また、磁性細線5の細線形状(平面視形状)は、屈曲しない直線、または厚さおよび幅方向長に対して十分に緩やかな曲線とし、本実施形態のように、外形が円盤形状である光磁気ディスク(光磁気記録媒体)50の場合は、その外形寸法に対して十分な長さとすることができ、また製造が容易な形状として、円環(円弧)が好ましい。このような磁性細線5は、光磁気ディスク50の外周寄りに形成したものほど長くすることが可能であり、光磁気ディスク50の全体として記録領域を大きくすることができるので、前記したように同じ長さに統一しなくてよい。なお、光磁気記録媒体50は円盤形状に限らず、例えば平面視が矩形の板状でもよく、この場合は、磁性細線5のそれぞれは平行な直線状に形成すればよい。
【0029】
磁性細線5の電極52,53は、Cu,Al,Au,Pt,Ag等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなり、図2ではそれぞれの磁性細線5の両端における当該磁性細線5上に積層されて設けられているが、並列再生する磁性細線5同士の両端で並列に接続してもよい。また、電極52,53は、裏面(下面)に形成されてもよく、その場合は、電流供給部30へ電気的に接続可能となるように基板7の一部が除去されて、図1における電流供給部30は光磁気ディスク50の下面に接続される。
【0030】
再生領域(光磁気検出領域)5ROは磁性細線5の磁気を磁気光学効果により検出するための領域であり、磁性細線5において1つのデータ領域に含まれる長さとする。再生領域5ROの位置は、当該磁性細線5(光磁気ディスク50)において予め設定され、光磁気ディスク50のすべてのトラック(磁性細線)5において、隣り合う磁性細線5,5における再生領域5RO,5ROが互いに近接するように設けられる。これは、選択された2本以上(適宜、所定本数)の磁性細線5の各再生領域5ROを1つの並列再生領域50RO(図5,6参照)として、1条のレーザー光(入射光)により再生するためである。また、1回の所定本数のトラック5の再生完了後に次回の所定本数のトラック5の再生に移行(シーク)する際に、レーザースポットを移動させる距離を最短とすることができる。本実施形態では、図2に示すように、再生領域5ROを光磁気ディスク50の半径の一直線に沿って設けているが、これに限らず光磁気ディスク50の半径から外れた一本の直線または曲線に沿って設けてもよい。また、本実施形態では、再生領域5ROを磁性細線5の長さ方向の中心近傍に揃えているが、これに限らず、例えば連続するデータの先頭側である電極52の側(図4参照)に寄せた位置であってもよい。本実施形態に係る再生装置1においては、磁性細線(トラック)5中を磁区(データ領域)が移動するため、後記するように、再生領域5ROにおけるデータ領域が順番に入れ替わる。
【0031】
このような光磁気ディスク50は、例えば以下に示すように、磁性細線(トラック)5をダマシン法にて形成することで製造できる。まず、表面を熱酸化したSi基板やガラス基板等の公知の基板材料からなる基板7上に、SiO2やAl23等の絶縁膜をスパッタリング法等の公知の方法により成膜し、この絶縁膜に電子線リソグラフィーおよびイオンミリングや反応性イオンエッチング(RIE)等のエッチングで磁性細線5,5,…の形状の溝を形成して絶縁層6とする。この絶縁層6の上に磁性材料をスパッタリング法等の成膜方法にて溝に堆積させた後、表面をCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)等で溝内以外の磁性材料を除去して磁性細線5,5,…とする。そして、磁性細線5の両端の上に、電極用金属材料をスパッタリング法等により成膜、フォトリソグラフィおよびエッチング、またはリフトオフ法等により加工して、電極52,53とする。最後に、電極52,53および再生領域5ROを除いて樹脂等で表面を被覆する。あるいは、磁性細線5を、その下地の絶縁膜(絶縁層6)を成膜した後にリフトオフ法にて形成し、その後に磁性細線5,5間に絶縁層6を堆積させてもよい。また、光磁気ディスク50は、必要に応じて、再生領域5ROを含む表面(磁性細線5の表面)に後記の磁気転写膜8を密着させて貼り付ける。
【0032】
(磁気転写膜)
本発明の一実施形態に係る再生装置1による光磁気ディスク50の再生には磁気転写膜8を用いる。磁気転写膜8は、接触する磁性体の磁化に対応して磁化を帯びるため、光磁気ディスク50の表面に密着させるとその直下における磁性細線5の領域の磁化に対応した磁化を示す。垂直磁気異方性を有する磁性細線(トラック)5の場合は、図3に示すように、磁気転写膜8は、それぞれの再生領域5ROにおいて磁化が上方向のn番目のトラック、n+2番目とn+3番目のトラックの直上の領域において上方向の磁化を示し、磁化が下方向のn+1番目のトラックの直上の領域において下方向の磁化を示すように、磁性細線5の再生領域5ROの磁化が転写される。また、磁性細線5における磁気転写膜8の直下の磁区、すなわち再生領域5ROにおける磁区が移動して磁化方向の異なる磁区に入れ替われば、それに対応して磁気転写膜8に転写される磁化が速やかに変化する。
【0033】
光磁気ディスク50に入射した光について、磁性細線5を反射したカー回転角のみでは反射光の旋光角が1°未満と小さく、また磁性細線5の膜厚が薄く、光が磁性細線5を透過してその底面で反射する場合はファラデー回転角で旋光するため、旋光角は膜厚に比例してさらに小さくなる。そこで、本実施形態に係る再生装置1においては、磁気転写膜8を透過させることで、磁化方向の違いによる出射光の偏光の向きの差を拡大して磁気の検出精度を向上させる。したがって、磁気転写膜8は磁気光学効果の大きい(ファラデー回転角の大きい)、また透過率の高い材料が好ましい。このような材料として、具体的には低保磁力な磁性ガーネット膜、補償温度が使用温度に対して十分に高いGd−Co系、Gd−Fe系、Tb−Fe系の非晶質磁性膜が挙げられ、特にファラデー回転角が約5°/μm(波長532nm)であるビスマス置換磁性ガーネット(Y3-XBiXFe512)が好ましい。ビスマス置換磁性ガーネットは、例えばGd3Ga512(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット:GGG)単結晶基板上に液相エピタキシャル成長にて成膜させることで製造でき、GGG基板上に成膜された状態で光磁気ディスク50の表面に貼り付けて密着させる(GGG基板(図示省略)が上に位置する)。なお、磁気転写膜8は、図2に示すように、光磁気ディスク50の表面における、少なくともすべての磁性細線5の再生領域5ROを含む領域に貼り付けて密着させるようにし、光磁気ディスク50の製造時にその表面に貼り付けてもよいし、再生装置1に光磁気ディスク50を内蔵する際に密着させてもよい。
【0034】
[光磁気記録媒体再生装置による再生方法]
次に、本発明に係る光磁気記録媒体再生装置による光磁気ディスクの再生方法を説明する。本実施形態においては、n〜n+3番目の隣り合う4本のトラック(磁性細線)を同時に再生するものとして説明する。本発明の一実施形態に係る再生方法は、図7に示すように、準備工程S0を行った後、選択工程S1および再生工程S2を必要に応じて繰り返す。
【0035】
(準備工程)
準備工程S0は、再生装置1に光磁気ディスク50をステージ(図示せず)に載置して内蔵する工程であり、光磁気ディスク50に磁気転写膜8が貼り付けられていない場合は、すべての磁性細線5の再生領域5ROに磁気転写膜8を密着させる。また、光磁気ディスク50のすべての磁性細線5の電極52,53へ電流供給部30の出力端子(図示せず)を接続する。なお、再生装置1において、光磁気ディスク50への磁気転写膜8や電流供給部30の接続等が完了した状態、例えば再生装置1がディスクの非可換な現行のHDD装置と同様の構造であれば、準備工程S0は不要であり、次工程の選択工程S1から開始する。
【0036】
(選択工程)
選択工程S1は、制御部40が、光磁気ディスク50のトラック(磁性細線)5,5,…から、次の再生工程S2にて再生しようとするデータが格納されている隣り合う所定本数(2本以上)のトラック5を選択する工程であり、本実施形態においては、4本のトラック5を選択する。選択するトラック5は、例えば1回目の選択工程S1(準備工程S0の次の選択工程S1)であれば、光磁気ディスク50の最外周から1〜4番目のトラック5を選択するように、また2回目以降であれば、直前の再生工程S2(後記参照)にて再生された4本のトラック5に隣り合う、次の隣り合う4本を選択するように設定されていてもよい。あるいは再生装置1外部からの操作により、任意のトラック5から隣り合う4本を選択できるように設定されていてもよい。本実施形態においては、前記したようにn〜n+3番目のトラック5を選択する。選択工程S1において4本のトラック5が選択されると、制御部40が光学系10のミラー12を移動させてレーザースポットを当該4本のトラック5の再生領域5RO(並列再生領域50RO)に照射し、さらに並列再生領域50ROからの反射光が撮像装置21に入射するように検出部20のミラー22を移動させる。さらに、制御部40は電流供給部30に当該4本のトラック5へのパルス電流の供給を開始させて、再生工程S2が開始される。
【0037】
(再生工程)
再生工程S2は、選択工程S1で選択された光磁気ディスク50のn〜n+3番目の4本のトラック(磁性細線)5に、電流供給部30からパルス電流を供給して、データ領域を断続的に移動させながら(電流供給処理S21)、これらのトラック5の再生領域5ROに照射して(照射処理S22)反射光の偏光の向きを検出し(光検出処理S23)、データ領域が静止するタイミングでトラック5の再生領域5ROにおける磁気を検出する(データ再生処理S24)工程である(図7参照)。以下、データ領域の移動方法および磁気の検出方法を説明する。
【0038】
(再生工程:電流供給処理)
まず、光磁気ディスク50のトラック(磁性細線)5におけるデータ領域の移動について、図4を参照して説明する。
本実施形態においては、磁性細線5は垂直磁気異方性材料からなり、その磁化方向は上または下を示すため、データ「0」は下方向の磁化、「1」は上方向の磁化として、所定の単位長さ(データ長)のデータ領域に記録されているとする。この、磁性細線5に記録されている「0」、「1」のデータを格納データと称する。ここでは、1本の磁性細線5について、図4(a)に示すように、再生領域5ROに存在している第m番目のデータ領域(データ領域m)から4つの連続した格納データとして、「1001」が記録されている領域を採り上げて説明する。磁性細線5におけるデータ領域m〜m+3は、磁化方向が上、下、下、上であるため、データ領域mに対応する磁区D1、データ領域m+1とデータ領域m+2の2つの連続するデータ領域に対応する磁区D2、データ領域m+3に対応する磁区D3、の3つの磁区が形成されている。データ長は、磁性細線5の幅および厚さにもよるが100〜500nmが好ましく、短いほど光磁気ディスク50の記録容量を大きくでき、またトラック(磁性細線)5の1本における再生速度を速くすることができる。また、データ長は、磁性細線5毎に異なる長さとしてもよいが、1回の再生工程S2にて並列再生する所定本数(本実施形態では4本)の磁性細線5同士では同じ長さとすることが好ましい。
【0039】
磁性細線5の、磁化方向の異なる磁区D1,D2間(データ領域m,m+1間)および磁区D2,D3間(データ領域m+2,m+3間)には、それぞれ磁壁DW1,DW2が生成される。すなわち、磁性細線5において、データ「0」を記録された領域とデータ「1」を記録された領域との間には磁壁が生成される。磁壁DW1内では磁区D1の磁化方向(上方向)から磁区D2の磁化方向(下方向)へと磁化が徐々に変化すなわち回転しており、磁壁DW2においても同様に磁化が回転している。磁壁DW1,DW2の領域の長さ(磁性細線5の長さ方向長)は、磁性細線5の幅および厚さならびにデータ長にもよるが、5〜100nm程度になる。
【0040】
図4(a)においては、磁性細線5の再生領域5ROに磁区D1があるため、上向きの磁化が検出されて、データ領域mの格納データ「1」が再生データとなる。なお、磁化の検出方法の詳細は後記する。この磁性細線5に、図4(b)に示すように、その両端の電極52,53から、左方向に所定の大きさの電流を供給して右方向に電子を注入する。すると、電子スピンのトルクに影響されて、磁壁DW1,DW2がそれぞれ右へ移動する。そして、磁壁DW1,DW2が1データ長の距離を移動するまでの時間tH電流を供給して、電流の供給を停止すると、図4(c)に示すように、磁性細線5の再生領域5ROに磁区D2が移動してきているため、下向きの磁化が検出されて、データ領域m+1の「0」が再生データとなる。再び磁性細線5に左方向に電流を時間tH供給して、磁壁DW1,DW2をさらに右へ1データ長移動させて電流の供給を停止すると、磁区D2はデータ領域m+1,m+2の2データ長の長さであるため、図4(d)に示すように、磁性細線5の再生領域5ROには引き続き磁区D2が配置して下向きの磁化が検出され、データ領域m+2の「0」が再生データとなる。また、さらに磁性細線5に電流を時間tH供給すると、磁性細線5の再生領域5ROに磁区D3が移動してくるため、上向きの磁化が検出されて、データ領域m+3の「1」が再生データとなる(図示省略)。
【0041】
このように、磁性細線5への電流の所定時間の供給と停止とを繰り返すことで、磁壁すなわちその両側の磁区を一定の距離ずつ移動させては静止させることができる。すなわち、パルス幅(電流供給時間tH)を調整してパルス電流を供給することで、トラック(磁性細線)5におけるデータ領域を1データ長ずつ長さ方向にシフトさせて固定された再生領域5ROのデータ領域を順番に入れ替えることができる。あるいは、データ領域を1データ長移動させるために、パルス幅tHの時間1回の電流供給に限らず、2回以上の所定回数の電流供給で、すなわち電流の停止を挟んで断続的に移動させてもよい。なお、パルス電流における電流の停止時間tLは後記の磁気の検出に要する時間以上、すなわち撮像装置21の時間分解能以上に設定すればよい。電流の大きさについては、磁性細線5の断面積あたりの電流密度を大きくすると磁壁移動速度が速くなるので、磁性細線5の幅と厚さ、および再生速度に基づいて設定し、磁壁移動方向と逆の一定の向きに電流を供給するため正または負のいずれかの直流とする。具体的には、電流密度105〜1013A/m2、パルス幅tH1ps〜10μs、停止時間tL10ps〜10μsの範囲で調整することが好ましい。
【0042】
さらに、本発明に係る光磁気記録媒体再生装置によるデータの再生においては、2本以上のトラック5を並列に再生するため、これらのトラック5のそれぞれのデータ領域を1データ長ずつ揃えて移動させる必要がある。データ領域の移動距離は電流のパルス幅(tH)および大きさ(電流密度)の調整で制御されるが、各トラック5のデータ長や移動距離に微小な誤差があると、これが累積されて1データ長以上ずれる虞がある。また、磁性細線(磁性体)は、その製造上で部分的な剥離や表面の疵等が生じると、この部位に磁壁が生成、固定され易く、例えばあるトラック5における1データ長の中間部でデータ領域の境界が静止してしまう虞がある。このような誤差を電流供給部30からのパルス電流の供給のみで修正することは困難である。そこで、本発明に係る再生装置においては、光磁気ディスクを以下のように構成することが好ましい。
【0043】
磁性細線は、前記の疵等の他にも、断面積(長さ方向に垂直な面)の小さい括れた箇所や屈曲した箇所があると、これらの箇所に磁壁が生成、固定され易い(特許文献1、非特許文献1参照)。そこで、光磁気ディスク50において、磁性細線5は、再生領域5RO近傍に括れ部54を形成されていることが好ましい。本実施形態においては、図5に示すように、磁性細線(トラック)5の再生領域5RO(図5では並列再生領域50ROとして示す)の磁壁移動方向(データ領域移動方向)における後方(手前)に括れ部54を形成されている。磁性細線5をこのような形状に形成することで、電流の供給が停止した状態において、この括れ部54から外れてかつ近傍に存在する磁壁は、括れ部54まで移動してから固定される(トラップされる)。図5では、n番目のトラック5(磁壁DW1がトラップされている)とn+3番目のトラック5がこれに該当する。なお、図5は、パルス電流の停止時間tLにおける状態であり、磁性細線5においてデータ領域は静止している。
【0044】
ここで、n+2番目のトラック5においては、データ領域m+1,m+2間の磁壁、およびデータ領域m+2,m+3間の磁壁の位置から、他のトラック5に比べてデータ領域の位置が磁壁移動方向前方にずれていることがわかる(図5に「ずれ」と示す。)。この図5に示す状態から、各トラック5に電流を供給してデータ領域を1データ長の距離を移動させると、n+2番目のトラック5については、データ領域m+1,m+2間の磁壁が括れ部54を通り過ぎてこの括れ部54の近傍に到達するが、電流の供給を停止すると速やかに括れ部54まで戻って静止する。反対に、データ領域の位置が磁壁移動方向後方にずれている場合は、電流による移動は括れ部54の手前までとなるが、電流の供給を停止しても括れ部54まで到達してから静止する。すなわち、データ領域の位置のずれが修正される(以上、図示省略)。このように、磁壁、すなわち格納データが「0」、「1」で異なるデータ領域の境界が括れ部54に到達するたびに、データ領域の位置のずれが修正される。したがって、データ長を同じとして設計されたトラック5同士であれば、データ領域の移動距離の誤差は括れ部54にて修正可能な範囲に収まるので、トラック5毎にパルス電流を調整しなくとも誤動作を抑えることができる。例えば前記したように、同時に再生する2本以上(本実施形態では4本)のトラック5について、それぞれの電極52,53を共通として並列に電流供給部30に接続してもよい。なお、括れ部54の位置は、図5に示す再生領域5ROの後方近傍に限らず、前方近傍でもよく、さらにはトラック5の2箇所以上に、例えば再生領域5ROの近傍以外にも設けてよい。
【0045】
さらに、前記した2回以上の電流供給(2クロック以上)でデータ領域を1データ長移動させるように設定した場合は、部分的な剥離や表面の疵等の意図せず磁壁がトラップされ易い部位が、磁性細線(トラック)5における1データ長の中間部等に存在しても、1クロックの移動距離が短いことでデータ領域の位置のずれが小さく、括れ部54でいっそう修正され易い。
【0046】
磁性細線(トラック)5の括れ部54は、断面積が磁性細線5の他の領域に対して20〜98%の範囲において磁壁が好適にトラップされるように設計されることが好ましい。本実施形態における、図5に示すように平面視で幅方向に括れを形成する場合は、括れ部54の幅を前記範囲で調整すればよい。具体的には、括れ部54の幅が他の領域の幅に対して差が小さい(括れが小さい)と、磁壁をトラップする効果が不十分となって、データ領域の位置のずれが修正されない虞がある。一方、括れ部54の幅が他の領域の幅に対して過剰に狭い(括れが大きい)と、磁壁が括れ部54に強く固定されて、磁壁を括れ部54から移動させる、すなわちデータ領域を移動させるために磁性細線5に供給する電流(電流密度)を大きくする必要がある。なお、図5に示すように幅方向に括れを形成する場合は、前記光磁気ディスク50の製造において、磁性細線5を形成する際に設けることができる。また、磁性細線5の幅方向の片側のみに凹みを形成して括れ部54としてもよい。さらに、括れ部54は厚さ方向の括れとしてもよく、例えば磁性細線5の形成後に表面を部分的に削って凹ませることで、括れ部54を設けることができる。
【0047】
次に、本発明に係る光磁気記録媒体再生装置による光磁気ディスクの並列再生、すなわち隣り合う4本のトラック(磁性細線)の磁気を同時に検出する方法の詳細を、図3および図6(適宜図1)を参照して説明する。
【0048】
(再生工程:照射処理)
光学系10において、レーザー照射装置11から照射されたレーザー光を、レンズにより、選択されている4本の磁性細線5の再生領域5RO(並列再生領域50RO)を内側に含むようなスポット径の平行光とし、さらに様々な偏光成分を含んでいるので、これを光磁気ディスク50の手前の入射偏光フィルタ13を透過させて、1つの偏光成分の光(入射偏光)とする。なお、入射偏光のスポット径は、並列再生領域50ROのサイズ、すなわちトラック(磁性細線)5のピッチおよび並列再生する本数に応じて調整されるが、0.2〜100μmが好ましい。入射偏光は、光磁気ディスク50の並列再生領域50RO上の磁気転写膜8に入射、これを透過して光磁気ディスク50の4本の磁性細線5のそれぞれに所定入射角度で入射、反射して、再び磁気転写膜8を透過して出射する。
【0049】
(再生工程:光検出処理)
トラック(磁性細線)5のそれぞれで反射して出射した出射偏光は、その偏光の向きから当該トラック5に記録されているデータが「0」、「1」のいずれかであるかを判別される。偏光の向きの検出方法としては、公知の光磁気方式による再生に適用される差動方式が挙げられるが、本実施形態においては以下のように検出する。
【0050】
入射偏光は、磁気転写膜8を下方へ透過したとき、磁性細線5に反射したとき、そして磁気転写膜8を上方へ透過したときに、それぞれその偏光の向きが回転する。したがって、磁気転写膜8を上方へ透過して出射した光(出射偏光)は、入射偏光に対してこれらの回転角を累計した角度で旋光した偏光となっている。本実施形態においては、1つの偏光が入出射する磁性細線5の再生領域5ROにおけるデータ領域とその直上における磁気転写膜8の領域とで上方向または下方向に揃った磁化を示すので、それぞれの出射偏光の入射偏光に対する旋光角(回転角の累計)は、+θkまたは−θkで表せる。すなわち、下方向の磁化を示す格納データ「0」のデータ領域で反射した出射偏光は角度−θk、上方向の磁化を示す格納データ「1」のデータ領域で反射した出射偏光は角度+θkで旋光した偏光である。旋光角の差2|θk|は、磁性細線5の材料、磁気転写膜8の材料および膜厚、ならびにレーザー光の波長および入射角度等で決まり、0.1°以上とすることが好ましく、大きくなるほど(90°に近付くほど)後記するように磁気の検出精度が向上する。
【0051】
なお、光学系10からの入射偏光の入射角は、図1,3,6においてはいずれも光磁気ディスク50に対して傾斜させているが、これは入射偏光と出射偏光のそれぞれの光路を分けて示して識別し易くするためであり、例えば光磁気ディスク50の表面に垂直に(入射角0°で)入射してもよい。特に、磁性細線5が垂直磁気異方性材料からなる場合は、入射角0°に近付けるほど磁気光学効果が大きくなる(2|θk|が大きくなる)ので、検出精度を向上させることができる。なお、入射角0°の場合はハーフミラーを配置して入射偏光と出射偏光とを分岐させればよい(図示せず)。
【0052】
それぞれのトラック(磁性細線)5で反射して出射したすべての出射偏光は、出射偏光フィルタ23に到達する。出射偏光フィルタ23は、特定の偏光、ここでは入射偏光に対して角度−θk旋光した偏光、すなわち下方向の磁化のデータ領域で反射した光を遮光し、それ以外の光を透過させる。詳しくは、出射偏光フィルタ23は、遮光する偏光に対してその向きの差が大きい偏光ほど多く透過させ、90°の差の偏光であれば原理上100%透過させるため、2|θk|が大きくなるほど(90°に近付くほど)入射偏光に対して角度+θk旋光した偏光、すなわち上方向の磁化のデータ領域で反射した光を多く透過させる。ここで、図6に示すように、光磁気ディスク50表面の入射偏光が照射された領域(レーザースポット)は並列再生領域50RO外であるトラック5における前後のデータ領域等も含み、出射偏光についてもこれらのデータ領域で反射した光が含まれる。したがって出射偏光フィルタ23を透過した光は、並列再生領域50RO外における上方向の磁化のデータ領域等で反射した光が含まれている。そこで、出射偏光フィルタ23の上方に、並列再生領域50ROに合わせた形状の孔(スリット)を形成したスリット板24を配置して、並列再生領域50RO外で反射した出射偏光を遮光する。これにより、撮像装置21には並列再生領域におけるn〜n+3番目の4本のトラック5の各データ領域の明暗パターン(明、暗、明、明)が撮像される。あるいは、出射偏光フィルタ23を透過させる前の出射偏光を、スリット板24のスリットに通過させる構成としてもよい。また、スリット板24を設けず、撮像装置21において所定の領域に入射する光のみを撮像する構成としてもよい。
【0053】
(再生工程:データ再生処理)
撮像装置21では、撮像領域を並列再生領域50ROに対応させて、並列再生したトラック5の本数に合わせて4分割し、光電変換にて、光を撮像(検出)した領域を再生データ「1」、撮像しなかった領域を再生データ「0」として認識し、領域(トラック5)の位置情報と合わせてあるいはトラック5別に信号化する。2|θk|が大きく、出射偏光フィルタ23を透過した偏光の光量が多ければ、撮像装置21で撮像される明暗パターンのコントラストがより鮮明になるので、微小に分割された撮像領域でも判別し易い。また、レベルスライス処理による「0」、「1」のデータ2値化が困難な場合、例えばトラック5のデータ長がレーザー照射装置11から照射されるレーザー光の波長(半波長)に対して短い場合は、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)等の信号処理を行えばよい。得られた信号を再生装置1外部に出力して、映像、音声等の情報として再生する。なお、撮像装置21による明暗パターンの撮像は、パルス電流における電流の停止時間tLにおいて実行されるように、電流供給部30および撮像装置21を制御部40にて制御する。
【0054】
以上のように、磁気の検出を行いながら、トラック(磁性細線)5中を、データ領域を移動させ、当該トラック5に格納されたすべてのデータを再生したら、パルス電流の供給を停止して再生工程S2を完了し、図7に示すように、再び選択工程S1にて新たなトラック5を選択する。本実施形態においては、設定により、前記再生工程S2で再生を完了したn〜n+3番目のトラック5に続くn+4〜n+7番目のトラック5を選択する。
【0055】
以上のように、本発明の実施形態に係る光磁気記録媒体再生装置および光磁気記録媒体再生方法によれば、1つの光磁気ディスク(光磁気記録媒体)から複数のデータを並列に再生できるので、高速応答を要求される高精細の画像情報等の再生に好適なものとなる。また、本実施形態においては、光磁気記録媒体再生装置に1枚の光磁気ディスクを内蔵する構成としたが、再生する情報の容量に対応して2枚以上を内蔵する構成としてもよい(図示省略)。この場合、光磁気ディスク50の差し換え手段をさらに備えて、1枚目の光磁気ディスク50に記録されたデータを再生した後に、2枚目の光磁気ディスク50と位置を差し換えて、2枚目の光磁気ディスク50に電流供給部30等を接続してデータ再生を開始する。あるいは、光学系10、検出部20、電流供給部30等を2枚以上の光磁気ディスク50のそれぞれに備えて、これらを並列に再生してもよい。
【0056】
以上、本発明の光磁気記録媒体再生装置および光磁気記録媒体再生方法を実施するための実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 再生装置(光磁気記録媒体再生装置)
10 光学系(照射手段)
20 検出部(検出手段)
30 電流供給部(電流供給手段)
40 制御部(制御手段)
50 光磁気ディスク(光磁気記録媒体)
50RO 並列再生領域
5 磁性細線(トラック)
RO 再生領域(光磁気検出領域)
8 磁気転写膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に磁性体を細線状に形成してなる複数の磁性細線をデータの記録領域として備えて、前記磁性細線のそれぞれに、2値のデータを異なる2方向の磁化のいずれかとして当該磁性細線の細線方向に連続して記録された光磁気記録媒体を備えて、前記磁性細線に記録されているデータを再生する光磁気記録媒体再生装置であって、
前記光磁気記録媒体表面の、前記複数の磁性細線のそれぞれに予め位置を設定されている光磁気検出領域を含む領域に密着して、当該密着している領域における磁性細線の磁化方向に対応して磁化方向が変化する磁気転写膜と、
前記光磁気記録媒体の前記複数の磁性細線から隣り合う2以上の磁性細線を選択する制御手段と、
前記光磁気記録媒体の前記複数の磁性細線のそれぞれの両端に接続されて、前記2以上の磁性細線に、当該磁性細線において前記2値の一方のデータを記録された領域と前記2値の他方のデータを記録された領域との間に生成している磁壁を断続的に移動させるパルス電流をその細線方向に供給する電流供給手段と、
前記磁気転写膜を透過させて、前記光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線のそれぞれの前記光磁気検出領域に1つの向きの偏光の光を入射させる照射手段と、
前記照射手段から入射して前記光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線から反射して前記磁気転写膜を透過した光の偏光の向きを検出して、この光の偏光の向きから前記2以上の磁性細線のそれぞれに記録されているデータを並列に再生する検出手段と、を備え、
前記検出手段は、前記電流供給手段が供給するパルス電流に同期して、前記磁性細線において前記磁壁の断続的な移動における静止時に、当該磁性細線の前記光磁気検出領域に到達したデータを再生することを特徴とする光磁気記録媒体再生装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線から反射して前記磁気転写膜を透過した光における特定の向きの偏光の光を遮光する偏光子と、この偏光子を透過した光を、前記磁性細線において前記磁壁の断続的な移動における静止時に撮像する撮像装置と、を備え、
前記撮像装置が撮像した領域を前記2以上の磁性細線のそれぞれに合わせて区分けして、前記光の明暗を0または1のデータとして再生することを特徴とする請求項1に記載の光磁気記録媒体再生装置。
【請求項3】
前記光磁気記録媒体は、前記基板が円盤形状であり、この基板上に前記複数の磁性細線が同心円状に形成され、前記磁性細線のそれぞれが円環の一部を欠いた形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光磁気記録媒体再生装置。
【請求項4】
前記光磁気記録媒体は、前記磁性細線が前記光磁気検出領域の近傍に括れ部を有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の光磁気記録媒体再生装置。
【請求項5】
前記磁気転写膜がビスマス置換磁性ガーネットからなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の光磁気記録媒体再生装置。
【請求項6】
基板上に磁性体を細線状に形成してなる複数の磁性細線をデータの記録領域として備えて、前記磁性細線のそれぞれに2値のデータを異なる2方向の磁化のいずれかとして当該磁性細線の細線方向に連続して記録された光磁気記録媒体の、前記磁性細線に記録されているデータを再生する光磁気記録媒体再生方法であって、
前記光磁気記録媒体表面の、前記複数の磁性細線のそれぞれに位置を設定された光磁気検出領域を含む領域に、密着している領域における磁性細線の磁化方向に対応して磁化方向が変化する磁気転写膜を密着させる準備工程と、
前記光磁気記録媒体の前記複数の磁性細線から隣り合う2以上の磁性細線を選択する選択工程と、
前記光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線のそれぞれに記録されているデータを並列に再生する再生工程と、を行い、
前記再生工程は、前記2以上の磁性細線に、当該磁性細線において前記2値の一方のデータを記録された領域と前記2値の他方のデータを記録された領域との間に生成している磁壁を断続的に移動させるパルス電流を、その細線方向に供給する電流供給処理と、
前記磁気転写膜を透過させて、前記光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線のそれぞれの前記光磁気検出領域に1つの向きの偏光の光を入射させる照射処理と、
前記照射処理にて入射して前記光磁気記録媒体の前記2以上の磁性細線から反射して前記磁気転写膜を透過した光の偏光の向きを検出する光検出処理と、
前記光検出処理で検出された偏光の向きから、前記電流供給処理にて供給されるパルス電流に同期して、前記磁性細線において前記磁壁の断続的な移動における静止時に当該磁性細線の前記光磁気検出領域に到達したデータを再生するデータ再生処理と、を行うことを特徴とする光磁気記録媒体再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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