光磁気記録媒体
【目的】 初期化磁石を必要とせずに、ディスクの半径方向、周方向の両方向に対して高密度化を行うことができる光磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【構成】 磁性体からなる再生層1、記録層2、及びバイアス層4をレーザ入射側から再生層1、記録層2、バイアス層4の順に積層して光磁気記録媒体を構成する。再生層1と記録層2とは交換結合が主となるように積層され、記録層2とバイアス層4とは静磁結合が主となるように積層され、かつ、前記バイアス層が記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度において磁化反転しない。
【構成】 磁性体からなる再生層1、記録層2、及びバイアス層4をレーザ入射側から再生層1、記録層2、バイアス層4の順に積層して光磁気記録媒体を構成する。再生層1と記録層2とは交換結合が主となるように積層され、記録層2とバイアス層4とは静磁結合が主となるように積層され、かつ、前記バイアス層が記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度において磁化反転しない。
【発明の詳細な説明】
[発明の目的]
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、情報の記録・再生・消去が可能な光磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】垂直磁気異方性を持つ磁性体薄膜にレーザを照射し、情報の記録・再生・消去を行なう光磁気記録技術は、光記録技術の有する高記録密度性や媒体の可換性といった特徴と、磁気記録技術の有するデータの書換え性とを併せ持つメモリ技術として実用化されている。
【0003】このような光磁気記録では、レンズによって絞りこんだレーザビームスポットによって情報の記録・消去・再生を行なっているため、記録密度はレーザの波長によって上限が与えられる。現在よく使われている波長830〜780nmの半導体レーザを用いて、十分なC/N(キャリヤ・ノイズ比)で記録・再生ができるのはトラックピッチで1.6μm 程度の密度であり、現行のレーザ、記録媒体、記録方法を用いる限りこれ以上の記録密度を得ることはできない。
【0004】このような問題点を解決するために、レーザの波長を短くしてビームスポット径を小さくする方法が検討されてきた。しかし、光磁気ディスクドライブに搭載できるような半導体レーザでは、十分に光磁気記録のできる出力パワーを持つものはまだ実用化されていない。また、現行の半導体レーザにSHG(Second Harmonic Generation)素子を用いて、波長を半分にする方法も検討されているが、高パワーが出ない、高速変調が困難である、といった問題点がある。
【0005】現行の半導体レーザの波長をそのまま用いて高密度記録を行なう方法も例えばnikkei electroncs 1991.3.4No.521p.92に報告されている。これは、再生層・記録層の交換結合2層膜からなる記録媒体を用い、レーザを再生層側から照射する。この媒体では、まず、通常の光磁気記録媒体と同じように高パワーのビ−ムを照射しつつ記録磁界Hexを印加して記録を行なう。この際には、記録層・再生層ともに磁化反転させる。この後、常温において媒体に初期化磁界Hini を印加して再生層のみ再磁化反転させて初期化する。再生は、再生パワーレベルのビ−ムを連続照射して行う。この際に、媒体のレーザが照射された部分の温度が上昇し、再生層の保磁力が低下するため、その位置で記録層に記録ビットがあると記録層からの交換力によって再生層が再び磁化反転を起こし、信号が検出される。この方法を用いれば、再生しているトラックの隣のトラックは温度上昇が小さいため、再生層は初期化されたままで信号を発生しない。従って、従来、隣接トラックからのクロストークのため制限されていた距離1.6μm よりもトラック幅を詰めて記録することができる。
【0006】しかし、この方法では通常の記録磁石の他に初期化磁石が必要である。通常の光磁気記録材料である希土類−遷移金属磁性体薄膜同士の交換力は数kOe になるため、それに打ち勝って再生層を磁化反転させる初期化磁石は大きなものとなり、装置の小型化が困難となる。また、再生した直後は再生トラック上に再生層に転写された磁区が残っているため、高密度化はディスクの半径方向しかできないといった難点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、初期化磁石を必要とせずに、ディスクの半径方向、周方向の両方向に対して高密度化を行うことができる光磁気記録媒体を提供することを目的とする。
[発明の構成]
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の態様に係る光磁気記録媒体は、磁性体からなる再生層、記録層、及びバイアス層を有し、レーザ入射側から再生層、記録層、バイアス層の順に積層された光磁気記録媒体であって、再生層と記録層とが交換結合が主となるように積層され、記録層とバイアス層とが静磁結合が主となるように積層され、かつ、前記バイアス層が記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度において磁化反転しないことを特徴とする。
【0009】第2の態様に係る光磁気記録媒体は、磁性体からなる再生層、記録層、及びバイアス層を有し、レーザ入射側から再生層、記録層、バイアス層の順に積層された光磁気記録媒体であって、再生層と記録層とが交換結合が主となるように積層され、記録層とバイアス層とが静磁結合が主となるように積層され、かつ、記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度においてバイアス層が磁化反転せず、再生時に到達する媒体の最高温度TR としたとき、前記バイアス層の磁化が室温からTR に向かって減少するような特性を持つ場合に再生層の着磁方向と逆方向にバイアス層が着磁され、バイアス層の磁化が室温からTR に向かって増加するような特性を持つ場合に再生層の着磁方向と同じ方向にバイアス層が着磁されることを特徴とする。
【0010】図1は本発明に係る光磁気記録媒体の一実施例を示す断面図である。図1において、1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層、5は保護層、6は干渉層、7は基板、8はレーザビームである。
【0011】再生層1、記録層2としては、Gd、Tb、Dyを代表とする重希土類元素(HRE)もしくはHREにNd、Pd等の軽希土類(LRE)を一部置換した希土類元素(RE)と、Fe、Coを代表とする遷移金属元素(TM)とからなる非晶質RE−TM膜、Bi置換ガーネット膜、ホイッスラー合金膜等の従来より光磁気記録媒体の記録層として用いられるものを適用することができる。また、バイアス層4としてはそれ自体が記録・消去・再生動作によって磁化反転しないような材料、たとえば記録層よりも低感度なRE−TM膜、Bi置換ガーネット膜、ホイッスラー合金膜、FeBN膜等が用いられる。
【0012】ここで、記録層より低感度というのは、バイアス層のキュリー温度が記録層のキュリー温度よりも大きいこと、バイアス層の膜厚が記録層よりも厚いこと、中間層が記録層、バイアス層よりも小さい熱伝導率を持ち熱絶縁機能があって、レーザ照射時に記録層ほどバイアス層の温度が上昇しないことのいずれか、又はそれらの組合せの場合を意味している。
【0013】再生層と記録層とを合わせた厚さは記録レベルのレーザを照射したときに十分に磁化反転が起こる程度に薄いほうが好ましい。バイアス層はレーザ照射時に十分なHbを発生し得る程度の厚さであればよい。ここで、Hbはバイアス層がレーザ照射によって局部的に加熱され、局部的な磁化分布を発生することによってバイアス層の外部に発生する漏洩磁界を意味する。
【0014】バイアス層に隣接して交換結合が主となるように初期化層を積層してもよい。このときには、初期化層からバイアス層に作用する交換力をHeIB、バイアス層から初期化層に作用する交換力をHeBI、バイアス層の保磁力をHcB 、初期化層の保磁力をHcI 、バイアス層が感じる漏洩磁界をHaB 、初期化層が感じる漏洩磁界をHaI とすると、記録・消去・再生過程においてバイアス層が到達する最高温度以下の温度においてHeIB+HaB がバイアス層の着磁の向きと同じ向きで、バイアス層において以下の式(1)が成り立ち、初期化層において以下の式(2)が成り立つようにバイアス層及び初期化層を選べばよい。
HcB <|HeIB+HaB | …(1)
HcI >|HeBI+HaI | …(2)
【0015】初期化層はレーザ照射による記録媒体の温度上昇を妨げない程度に厚ければよい。また、バイアス層のキュリー温度が再生時のバイアス層の最高到達温度よりも低いほうが漏洩磁界分布の大きな変化が得られるので好ましい。
【0016】中間層3は記録層2とバイアス層4との間の交換力を排除するために設けられる。また、保護層5は媒体に傷等が発生するために設けられるものであり、干渉層6はレ−ザ−ビ−ム照射した際に多重干渉を生じさせ、再生信号をエンハンスするために設けられるものである。これら中間層3、保護層5、干渉層6は通常の光磁気記録媒体で用いるSi−N、Si−O、Zr−O、Al−O、Al−N、Zn−S、Ti−O等の金属化合物材料や、保護機能を高めるなど本発明とは別の目的で金属元素等を添加した金属化合物材料、プラズマ重合膜等の有機物材料などの非磁性体であって、用いるレーザの波長に対して本発明を実施する上で必要な透光性を有していれば何を用いてもかまわない。また、中間層3、保護層5は必ずしも透光性を有していなくてもかまわない。
【0017】再生層1、記録層2、バイアス層4は各々本発明の主旨を逸脱しない範囲で、それ自体単層であっても多層であってもかまわない。再生層、記録層、バイアス層よりも熱伝導率の大きい中間層を設けることによって、交換力、漏洩磁界が適切になるように各層の温度上昇をコントロールすることもできる。また、透明な誘電体層を中間層として用いることによって、カー回転角の増加、各層の吸収率のコントロールといった干渉層としての役割を担わせることもできる。
【0018】また、本発明に最低限必要なのは再生層1、記録層2、バイアス層4であって、記録層2とバイアス層4が静磁結合が主となるように積層されていれば中間層3は必ずしも必要がなく、この中間層3は記録層の表面を酸化等で改質させたものでもかまわない。さらに、再生層1と記録層2とが交換結合が主となるように積層されていれば、これらの間に他の層があってもかまわない。また、保護層5と干渉層6も必須なものではない。
【0019】基板7としては、ガラス、ポリカーボネイト、ポリメチルメタクリレート、ポリオレフィン等、従来より光ディスク基板として用いられている材料等の中から幅広く選択が可能である。レーザービーム8の波長、スポット径は本発明の主旨からしてミクロンサイズまたはサブミクロンサイズが好ましい。上記の光磁気記録媒体を再生する際には外部磁界Hexを印加してもよい。Hexの印加手段は電磁石であっても永久磁石であってもかまわない。
【0020】この発明の第1の態様においては、再生層が感じる漏洩磁界(外部磁界Hexを除く)をHar′、記録層から再生層に作用する交換力をHewrと表わした場合に、Hex再生時に再生ビームスポット内のHewr+Har′の最小値よりも大きく、最大値よりも小さいことが好ましい。この外部磁界は必ずしも必要ではなく、再生時のみに印加しても、記録・消去・再生全過程を通して印加してもよい。
【0021】また、第1の態様及び第2の態様を通じて、記録層が感じる漏洩磁界(外部磁界Hexを除く)をHaw′、再生層から記録層に作用する交換力をHerw、記録層の保磁力をHcwとした場合に、記録過程を補助するために記録ビーム照射時に、記録層において以下の式(3)を満たす外部磁界を印加してもよい。
Hex+Haw′>Herw+Hcw …(3)
この外部磁界は再生動作が十分に行える範囲であるならば、記録動作時のみに印加しても、記録・再生動作中連続して印加してもかまわない。
【0022】
【作用】本発明による光磁気記録媒体は、再生時のレーザ照射によって、所望の記録情報に従ってすでに記録してある記録層の反転磁区を再生層に転写し、再生終了後の媒体の冷却時に、バイアス層あるいはバイアス層と初期化層の両方からの漏洩磁界によって再生層の磁区を再反転させることにより、高密度の光磁気記録を行なうものである。以下、本発明の第1の態様における記録・再生過程を詳しく説明する。
【0023】図2に本発明の記録媒体の典型的な記録層、再生層の保磁力と交換力の温度依存性を示す。図2中、Hcwは記録層の保磁力、Hcrは再生層の保磁力、Hewrは記録層から再生層に作用する交換力、Herwは再生層から記録層に作用する交換力、Taは室温、TR は再生時の媒体の温度、TWは記録時の媒体の温度を表わす。この図の場合、記録層は補償温度がないREリッチ、再生層はTMリッチの組成である。図3に本発明の記録媒体の典型的なバイアス層の保磁力と磁化の温度依存性を示す。
【0024】図4は、図2、3に示した磁気特性を持つ記録層、バイアス層を有し、第1の態様の動作を行う媒体において、記録層の磁化が下向きの場合の再生動作を行なっているときの媒体温度及び再生層が感じる磁界の位置分布を示したものである。図4(a)は媒体温度で、TcB はバイアス層のキュリー温度である。レーザは図4(a)の上方に矢印で記した方向に移動する。図4R>4(d)は各層の磁化の方向を示す。1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層で、矢印は各層の磁化の方向を表わす。
【0025】図4(b)は記録層から再生層に作用する交換力Hewr、およびバイアス層からの漏洩磁界HBと外部印加磁界Hexの和の位置分布を示す。図4(c)はHB+Hexと再生層を磁化反転させるための磁界の大きさの位置分布を示す。(b)、(c)においては、再生層の磁化を図4(d)の上方に反転させるようとする磁界の向きをプラスとした。記録層がREリッチ、再生層がTMリッチのため、図4(d)の場合には、再生層と記録層の間には界面磁壁が存在し、再生層には常に交換力Hewrが作用している。
【0026】図3のような磁気特性を持つバイアス層を用いると、バイアス層の発生する漏洩磁界は、図4(b)に示すように、温度がTcBに達するあたりに肩を持つ台形状の分布になる。外部磁界HexはHB 分布をマイナス側にシフトさせる方向に印加する。再生ビームが媒体上を通過すると、図4(c)に示すように、レーザスポットの中心部ではHB +Hexの大きさは再生層の磁化を上向きに反転させるための磁界Hcr−Hewrよりも大きくなり、再生層は磁化反転する。レーザが通過した後の冷却過程では、レーザスポットの周縁部で、|HB +Hex|が再生層の磁化を下向きに再反転させるための磁界|Hcr+Hewr|よりも大きくなり、再生層は再び磁化反転し、レーザが通り過ぎた後には図4(d)のような状態に戻る。
【0027】|HB +Hex|が|Hcr+Hewr|よりも大きくなるという条件はレーザ進行方向の周縁部(図4(c)の右側)でも成り立っているので、再生層の磁化の初期化状態がどのようなものであっても、レーザの進行にともなって、再生層の磁化は下→上→下の順に反転し、レーザが通り過ぎた後は図4(d)のような状態になる。
【0028】同様のことを、記録層の磁化が上向きの場合について図5を用いて説明する。図4と同様に、(a)は温度分布、(b)は磁界分布、(c)は各層の磁化状態である。(c)のような磁化状態の場合、記録層と再生層の間に界面磁壁が存在せず、レーザスポット中心部では、HB +Hexの大きさが再生層の磁化を上向きに反転させるための磁界Hcr+Hewrよりも大きくなるという条件は満たされず、何も起こらない(図5R>5(b))。また、再生層の磁化が上向きとなっている場合には図5(b)に示したように、進行方向のレーザスポット周縁部で、|HB+Hex|が再生層の磁化を下向きに再反転させる磁界|Hcr+Hewr|よりも大きくなり、スポット中心部の通過前に再生層の磁化は下向きに揃えられる。
【0029】図4、5に示すように、本発明の光磁気記録媒体において再生を行なう場合、再生層の磁化状態がどのようであっても、再生スポットの中心部で記録層が下向きの磁化を持っている場合には再生層が上向きに磁化反転し、記録層が上向きの磁化を持っている場合には再生層の磁化は下向きになる。そして、レーザスポット通過後は常に再生層の磁化は下向きになる。
【0030】以上の記録媒体を用いた記録過程を図6を用いて説明する。図6は、図4(d)と同様に各層の磁化の様子を矢印で示したもので、それぞれの層で反転磁区ができたときには磁壁の位置に縦線を記した。1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層である。
【0031】図6(a)は室温Taでの初期着磁状態である。これに高パワーのレーザのパルス照射を行なうと、媒体温度は図2、3に示すTwまで上昇し、レーザスポット中心部でバイアス層、記録層の磁化が消滅し、磁化状態は(b)のようになる。このとき外部磁界Hexを(b)の横に矢印で示した方向に印加すると、記録層2に反転磁区ができる。このときの各磁気特性の関係は、外部磁界Hexを除く記録層が感じる漏洩磁界をHaw′とすると、記録ビームスポット内で、記録層においてHex+Haw′>Herw+Hcw
【0032】が成り立っている。レーザ照射終了後、冷却過程において媒体温度がTR 近傍になると、図4で示したように再生層の磁化は上向きに反転し、記録層の磁区が再生層に転写される。この後、Taまでの冷却過程においては、図4(c)の周縁部の状態が保持されれば図5(d)に示すように記録層にのみ反転磁区が形成さる磁化状態となる。
【0033】しかし、記録過程では記録層に反転磁区が形成されればよく、再生層の磁化はどのような状態であってもかまわない。次に示すように再生層の初期磁化状態は、再生過程には影響を及ぼさないからである。また、記録層の自己漏洩磁界は図中のHexと同じ向きなので、自己漏洩磁界が大きければHexは必ずしも必要ではない。なお、消去過程についてもこの記録過程と同様に行うことができる。
【0034】次に、再生過程を図7を用いて説明する。図7は、図4(d)及び図6と同様に各層の磁化の様子を矢印で示したもので、それぞれの層で反転磁区ができたときには磁壁の位置に縦線を記した。1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層、8は再生ビームである。再生ビームは左から右へと移動する。
【0035】図7(a)は室温での磁化の状態で、図6の過程に従って生成された反転磁区が記録層に存在している。説明上、再生層の磁化は下向きに一様に磁化されているとする。再生レベルのレーザを照射すると媒体温度はTR まで上昇し、バイアス層ではレーザスポット中心部で磁化が消滅する(図7(b))。
【0036】記録層に反転磁区が存在しない領域を再生ビームが通っているときには、図5で示したように、レーザスポット中心では再生層の磁化は下向きのままである。再生レーザビームが記録層の反転磁区の上にさしかかると、レーザスポット中心部で、かつ、記録層の磁化が上向きの領域で、再生層の磁化が反転し、それ以外のところでは磁化の向きはそのままである(図7(c))。
【0037】再生レーザビームが記録層の反転磁区のちょうど上に来たときには、レーザスポット中心部でのみ再生層の磁化が反転する(図7(d))。レーザビームが記録層の反転磁区の上を少し通り過ぎると、レーザスポットの後方部分(図6の周縁部)では再生層の磁化が再反転し始める(図7(e))。レーザビームが記録層の反転磁区の上を通り過ぎてしまうと、再生層はすべて下向きの方向に磁化された状態となって初期着磁状態に戻る(図7(f)、(g))。
【0038】再生層の初期磁化状態はどのようなものであっても、図4、5で示したようにレーザビームの進行方向の周縁部で一度下向きに揃えられるので、図7の(b)〜(g)の過程は同じである。レーザスポット中心部では、記録層に反転磁区がある領域では再生層も反転磁区があるので、以上の再生過程はレーザビーム側から見れば通常の光磁気記録媒体の再生過程と変わりはない。次に、本発明の第2の態様における記録・消去過程を詳しく説明する。第2の態様においても記録層及びバイアス層は図2及び図3の磁気特性を有している。
【0039】図8は、図2、3に示した磁気特性を持つ記録層、バイアス層を有し、第2の態様の動作を行う媒体において、記録層の磁化が下向きの場合の再生動作を行なっているときの媒体温度及び再生層が感じる磁界の位置分布を示したものである。
【0040】図8(a)は媒体温度で、TcB はバイアス層のキュリー温度、実線は再生層の温度、点線はバイアス層の温度を示す。再生層、記録層、バイアス層の厚さが厚いため、あるいは、中間層の熱絶縁作用のために、再生層とバイアス層の温度分布には位相差が生じている。図8(b)は記録層から再生層に作用する交換力Hewr、およびバイアス層からの漏洩磁界HB の分布を示す。
【0041】図8(d)は各層の磁化の方向を示す。図4R>4(d)と同様、1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層で、矢印は各層の磁化の方向を表わす。記録層がREリッチ、再生層がTMリッチのため、図8(d)の場合には、再生層と記録層の間には界面磁壁が存在し、再生層には常に交換力Hewrが作用している。
【0042】図8(c)はHB +Hex、および再生層を図8(d)の状態から上向きに磁化反転させるための磁界Hcr−Hewr、およびそれを再磁化反転して図8R>8(d)の状態に戻すのに必要な磁界−|Hcr+Hewr|の分布を示す。ここでは再生層の磁化を図8(d)の上方に反転させるようとする磁界の向きをプラスとした。なお、レーザは図8(a)の上方に矢印で記した方向に移動する。
【0043】図3のような磁気特性を持つバイアス層を用いると、バイアス層の発生する漏洩磁界は、図8(b)に示すように、温度がTcB に達するあたりに肩を持つ台形状の分布になる。外部磁界Hexを図8(d)の上向きに印加すると、Hex+HB の分布は図8R>8(c)のようになる。再生ビームが媒体上を通過すると、レーザスポットの中心部では、HB +Hexの大きさは再生層の磁化を上向きに反転させるための磁界Hcr−Hewrよりも大きくなり、再生層は磁化反転する。
【0044】しかし、レーザスポット中心が通過した後、レーザスポットの周縁部で、|HB+Hex|が再生層の磁化を下向きに再反転させるための磁界|Hcr+Hewr|よりも大きくなり、再生層は再び磁化反転し、レーザが通り過ぎた後には図8(d)のような状態に戻る。
【0045】同様のことを、記録層の磁化が上向きの場合について図9を用いて説明する。図8と同様に、(a)は温度分布、(b)は磁界分布、(c)は各層の磁化状態である。(c)のような磁化状態の場合、記録層と再生層の間に界面磁壁が存在せず、レーザスポット中心部では、HB +Hexの大きさが再生層の磁化を上向きに反転させるための磁界Hcr+Hewrよりも大きくなるという条件は満たされず、磁化反転は起こらない。ただし、レーザスポット中心が通過した後では、レーザスポット周縁部で、HB +Hex|が再生層の磁化を下向きに再反転させる磁界|Hcr+Hewr|よりも大きくなる条件は満たされている。
【0046】図8、図9に示した動作を成り立たせるためには、Hcrが最も低下する付近、すなわち記録層において最高温度になっている付近よりも、HBのピーク付近はトラック上でレーザ進行方向に対して後方になければならない。HB のピークはバイアス層において最高温度になっている近傍にある場合が多いので、バイアス層において最高温度になっているトラック上の位置は、記録層において最高温度になってる位置よりも、トラック上でレーザ進行方向に対して後方にある方が好ましい。
【0047】以上の記録媒体を用いた記録過程を図10を用いて説明する。図10は、図6と同様に各層の磁化の様子を矢印で示したものであり、そこに示している参照符号も図6と同様である。また、反転磁区ができたときには磁壁の位置に縦線を記した。
【0048】図10(a)は室温Taでの初期着磁状態である。これに高パワーのレーザのパルス照射を行なうと、媒体温度は図2、3に示すTwまで上昇し、記録層、再生層ともに高温部では磁化が消滅し、最高温度Tmax のとき、磁化状態は(b)のようになる。このとき外部磁界Hexを(b)の横に矢印で示した方向に印加すると、記録層に反転磁区ができる。このときの各磁気特性の関係は、外部磁界Hexを除く記録層が感じる漏洩磁界をHaw′とすると、記録ビームスポット内で、記録層においてHex+Haw′>Herw+Hcw
【0049】が成り立っている。レーザ照射終了後、冷却過程において媒体温度がTR 近傍になると、図8で示したように再生層の磁化は上向きに反転し、記録層の磁区が再生層に転写される。この後、Taまでの冷却過程で再生層において、Hex+Har′>Hcr+Hewrが成立ち、再生層は再磁化反転され、室温に戻ったときには図10(c)のようになる。なお、消去過程についてもこの記録過程と同様に行うことができる。
【0050】次に、再生過程を図11を用いて説明する。図11は、図7と同様に各層の磁化の様子を矢印で示したものであり、そこに示している参照符号も図7と同様である。また、反転磁区ができたときには磁壁の位置に縦線を記した。なお、再生ビームは左から右へと移動する。
【0051】図11(a)は室温での磁化の状態で、図1010の過程に従って生成された反転磁区が記録層に存在している。再生層の磁化は下向きに一様に磁化されている。再生レベルのレーザを照射すると媒体温度はTR まで上昇し、バイアス層ではレーザスポット中心部より後方にずれた高温部で消滅する(図11(b))。
【0052】記録層に反転磁区が存在しない領域を再生ビームが通っているときには、図9で示したように、レーザスポット中心部では再生層の磁化は下向きのままである。再生レーザビームが記録層の反転磁区の上にさしかかると、レーザスポット中心部で、かつ、記録層の磁化が下向きの領域でのみ、再生層の磁化が反転し、それ以外のところでは磁化の向きはそのままである(図11(c))。
【0053】再生レーザビームが記録層の反転磁区のちょうど上に来たときには、レーザスポット中心部でのみ再生層の磁化が反転する(図11(d))。レーザビームが記録層の反転磁区の上を少し通り過ぎると、レーザスポットの後方部分では、バイアス層からの漏洩磁界のため、図9に示したように、再生層の磁化が再反転し始める(図11(e))。レーザビームが記録層の反転磁区の上を通り過ぎてしまうと、再生層はすべて下向きの方向に磁化された状態となり、室温では初期着磁状態に戻る(図11(f)、(g))。レーザスポット中心部では、記録層に反転磁区がある領域では再生層も反転磁区があるので、以上の再生過程はレーザビーム側から見れば通常の光磁気記録媒体の再生過程と変わりはない。
【0054】この記録媒体を利用すると高密度の光磁気記録が実現できる。すなわち、通常の光磁気記録ではクロストークが大きくて十分に再生信号出力が得られないようなビット密度で記録層に記録ビットを形成しても、再生するときにはレーザスポット中心部以外の領域にある磁区は再生層上には転写されず、隣接した記録ビットは信号として検出されないのでクロストークとならない。また、本発明の記録媒体は、再生レーザスポット通過後、再生層の磁化を下向きに揃える(初期化する)ので、他の高密度記録媒体(nikkei electronics 1991.3.4No.521p.92)のような、Hexとは別の初期化用磁石を必要とせず、また、上記の高密度記録媒体ではできなかったディスクトラック方向の高密度化も実現できる。
【0055】以上の説明では、再生層と記録層は、磁化の向きが逆の時に界面磁壁が生成されないような組成の組合せであったが、磁化の向きが同じときに界面磁壁が生成されないような組合せでも、磁区の転写の向きによってバイアス層の着磁の向きを変えてやることによって、同様な記録・再生を行なうことができる。
【0056】図3に示すようにキュリー温度が低い磁気特性を持つバイアス層を用いた場合、再生・記録過程中に媒体がTcB 以上に加熱され、バイアス層が磁化反転して図5、図9に示した漏洩磁界分布が得られなくなる可能性がある。バイアス層の磁化反転を防止するには、バイアス層の膜厚を厚くして膜厚方向に温度差を設け、バイアス層の記録層と反対側の面を低温に保持する、あるいはバイアス層の記録層と反対の面に、例えばAl膜等の熱拡散層の設けて、熱拡散層の設けられた面を低温に保持する、あるいはキュリー温度が高く、磁化反転がしにくい初期化層との交換結合2層膜とする、あるいは前記3手法を組合せて用いる等の方策がある。
【0057】初期化層との交換結合2層膜による方法においては、初期化層は、記録・再生・消去の全ての過程において磁化反転せず、バイアス層に及ぼす交換力が記録、消去、再生の全ての過程においてバイアス層を磁化反転させないくらい大きくなるように積層される。
【0058】本発明の記録媒体のバイアス層と初期化層の典型的な磁気特性を図12、13に示す。これらの図において、HcI は初期化層の保磁力、HcB はバイアス層の保磁力、HeIBは初期化層からバイアス層へ作用する交換力、HeBIはバイアス層から初期化層へ作用する交換力、TR は再生時の媒体温度、TW は記録時の媒体温度、MsI は初期化層の磁化、MsB はバイアス層の磁化である。バイアス層はTMリッチ組成、初期化層は補償温度を持つREリッチ組成で、各層の磁化が逆向きの時が界面磁壁が生成されず安定となる。
【0059】図12より明らかなように、全温度においてHeIBはHcB より大きく、バイアス層の磁化の向きは初期化層の向きに揃えられるため、バイアス層に反転磁区はできない。また、外部印加磁界Hexを含めた他の磁性層からの漏洩磁界HaB がバイアス層を反転させる方向であったとしても、|HaB|<|HeIB| かつHcB<|HaB+HeIB|
【0060】が成り立つ限りにおいては、バイアス層は磁化反転しない。初期化層とバイアス層との間には交換力が作用すればよいので、バイアス層と初期化層は磁化が同じ向きのときに界面磁壁が存在しないような組み合せであっても、磁化が逆向きのときに界面磁壁が存在しないような組み合せであってもかまわない。
【0061】初期化層を用いた場合の本発明の光磁気記録媒体の典型的な断面構成を図14に示す。1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層、5は保護層、6は干渉層、7は基板、9は初期化層である。バイアス層と初期化層の積層順はどちらが先でもかまわない。しかし、より大きな漏洩磁界を記録層に印加する観点、及び初期化層の温度上昇を抑えてバイアス層の磁化反転を防止する効果を高める観点から、バイアス層は記録層に近い方が好ましい。
【0062】図15(a)は、第1の態様の場合の各層の着磁方向を示すものである。なお、参照符号は図14と同様である。図15(b)のような温度分布が発生したとき、初期化層の磁化分布は(c)のように、バイアス層の磁化分布は(d)のようになる。このとき、初期化層の漏洩磁界はバイアス層の磁化反転を防止する向きであり、交換力による反転防止作用を助けることができる。また、初期化層は記録層までの距離が遠く、磁化分布はバイアス層よりもなだらかなので、記録層が感じる初期化層からの漏洩磁界は、大きさが小さく分布がなだらかでかつバイアス層からの漏洩磁界と逆向きとなる。
【0063】従って、バイアス層、初期化層からの漏洩磁界は図4(c)と同様なものとなり、Hexを適切に選ぶことによって、図6、7に示したものと同様な記録・再生過程を実現できる。初期化層から記録層、再生層への漏洩磁界の大きさが充分に大きければ、図4(b)のようなバイアス層からの漏洩磁界をプラス側にシフトさせる外部磁界を、初期化層から発生する漏洩磁界で置き換えることもできる。このように、初期化層はバイアス層と磁化が逆向きの時に界面磁壁が生成されないような組成の方が好ましい。
【0064】図16(a)は、第2の態様の場合の各層の着磁方向を示すものである。なお、参照符号は図15(a)と同様である。図16(b)のような温度分布が発生したとき、初期化層の磁化分布は(c)のように、バイアス層の磁化分布は(d)のようになる。このとき、第1の態様と同様、初期化層の漏洩磁界はバイアス層の磁化反転を防止する向きであり、交換力による反転防止作用を助けることができる。また、初期化層は記録層までの距離が遠く、磁化分布はバイアス層よりもなだらかなので、記録層が感じる初期化層からの漏洩磁界は、大きさが小さく分布がなだらかでかつバイアス層からの漏洩磁界と逆向きとなる。
【0065】従って、バイアス層、初期化層からの漏洩磁界は図8(c)と同様なものとなり、Hexを適切に選ぶことによって、図10、11に示したものと同様な記録・再生過程を実現できる。初期化層から記録層、再生層への漏洩磁界の大きさが充分に大きければ、図8(b)のようなバイアス層からの漏洩磁界をプラス側にシフトさせる外部磁界を、初期化層から発生する漏洩磁界で置き換えることもできる。このように、初期化層はバイアス層と磁化が逆向きの時に界面磁壁が生成されないような組成の方が好ましい。
【0066】
【実施例】以下に本発明の実施例を説明する。
(実施例−1)
【0067】Siウェハー上に、マグネトロンスパッタリング法によって、100nm厚のSi−N干渉層、25nm厚のTb0.29(Fe0.9 Co0.1 )0.71記録層、15nm厚のSi−N中間層、200nm厚のTb0.16(Fe0.95Co0.05)0.84バイアス層、200nm厚のTb0.22(Fe0.5 Co0.5 )0.78初期化層、20nm厚のSi−N保護層を順次積層した。誘電体層はSi3 N4 ターゲットの反応性スパッタ、磁性体層はTbとFeとCoの3元同時スパッタによって作成した。バイアス層はTMリッチ、初期化層はREリッチであった。バイアス層、初期化層ともに垂直磁気異方性を持ち、その磁気特性は図12、13に示すような特性であった。バイアス層は室温の磁化160emu/cc、キュリー温度150℃、室温の保磁力2kOe で、初期化層は室温の磁化100emu/cc、補償温度120℃、キュリー温度400℃以上、室温の保磁力3kOe であった。記録層は発生する漏洩磁界を評価するために積層したもので、室温の保磁力5kOe 、キュリー温度170℃であった。このバイアス層の発生する漏洩磁界を数値計算により算出した。1.6μm に絞った波長830nmの6mWのレーザ光を8m/sの線速で連続照射した場合の温度分布より記録層の位置で感じる漏洩磁界を計算したところ、バイアス層からの漏洩磁界分布は図4(b)のような形状であり、肩の部分で325Oe、たもとの部分で64Oe、肩の幅約200nmであった。また、初期化層からの漏洩磁界を合わせたものは、図4(b)のような分布をしているが初期化層の緩やかな磁化変化に基づく緩やかな漏洩磁界分布によって負にバイアスされたようになっており、肩の部分205Oe、たもとの部分−40Oe、肩の幅約200nmであった。また、記録層の光磁気記録特性を調べたところ、バイアス層、初期化層の存在によって記録磁界しきい値が約300Oe変化し、ピーク値で300Oe程度の漏洩磁界が発生していることが示された。また、初期化層からバイアス層へ作用する交換力はバイアス層のキュリー温度まで常にバイアス層の保磁力よりも大きく、バイアス層を反転させる方向の外部磁界−1kOe 〜500Oeの範囲で15mW、160nsecのパルス照射による記録動作を行なっても、バイアス層に反転磁区は形成されなかった。
(実施例−2)
【0068】厚さ1.2mmのグルーブなしガラスディスク基板に、マグネトロンスパッタリング法によって、100nm厚のSi−N干渉層、200nm厚のTb0.195 (Fe0.9 Co0.1)0.805 再生層、200nm厚のTb0.16(Fe0.95Co0.05)0.84バイアス層、200厚のTb0.22(Fe0.5 Co0.5 )0.78初期化層、20nm厚のSi−N保護層を順次積層した。誘電体層はSi3 N4 ターゲットの反応性スパッタ、磁性体層はTbとFeとCoの3元同時スパッタよって作成した。バイアス層、初期化層は実施例1と同じものである。記録層、再生層ともに垂直磁気異方性を持ち、その磁気特性は図2に示すような特性であった。再生層は室温の保磁力6kOe 、キュリー温度400℃以上、記録層は室温の保磁力15kOe 、キュリー温度200℃、記録層から再生層に作用する交換力は室温で2.5kOe で再生層の保磁力との交点は90℃であった。
【0069】この記録媒体を8m/sの線速で図6の下向きに1kOe の磁界を印加して、10mW、160nsの記録パルスを照射して、記録層にビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区を形成した。これを、図7の下向きに100Oeの磁界を印加して5mWのパワーで再生を行なったところ、クロストークなしに再生ができた。
(実施例−3)
【0070】実施例2と同様の媒体構造で、再生層と記録層の厚さのみを150nmにした試料を作成した。記録層から再生層に作用する交換力は室温で4kOe で、再生層の保磁力との交点は140℃であった。この記録媒体を図7の下向きに100Oeの印加磁界中で、8m/sの線速で、15mW、160nsで記録、同一の印加磁界中で6mWで再生した。ビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区がクロストークなしに再生できた。
(実施例−4)
【0071】実施例2と同様の媒体構造でバイアス層の厚さのみを300nmにした試料を作成した。この記録媒体を図7の上向きに800Oeの磁界中で、8m/sの線速で、8mWの連続照射の消去レベルに160ns、15mWの記録レベルのパルス照射を重畳した信号を照射したところ、外部磁界の大きさを変えることなく、照射パワーの選択のみで記録・消去ができる光パワー変調オーバーライトが実現できた。さらに、これを、図7の下向きに200Oeの磁界を印加して7mWのパワーで再生を行なったところ、ビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区がクロストークなしに再生ができた。
(実施例−5)
【0072】厚さ1.2mmのグルーブなしガラスディスク基板に、マグネトロンスパッタリング法によって、100nm厚のSi−N干渉層、200nm厚のTb0.195 (Fe0.9 Co0.1)0.805 記録層、200nm厚のTb0.254 (Fe0.7 Co0.3 )0.746 記録層、15nm厚のSi−N中間層、200nm厚の(Gd0.5 Tb0.5 )0.225 (Fe0.5 Co0.5 )0.775 バイアス層、20nm厚のSi−N保護層を順次積層した。誘電体層はSi3 N4 ターゲットの反応性スパッタ、磁性体層はTbとFeとCoの3元同時スパッタによって作成した。再生層は室温の保磁力6kOe 、キュリー温度400℃以上で、記録層は室温の保磁力15kOe 、キュリー温度200℃であった。また、記録層から再生層に作用する交換力は室温で2.5kOe で再生層の保磁力との交点は90℃であった。バイアス層は室温の磁化100emu/cc、補償温度110℃、キュリー温度400℃以上、室温の保磁力10kOe であった。
【0073】図10(a)のように着磁した記録媒体を、8m/sの線速で図10の下向きに800Oeの磁界を印加して、10mW、160nsの記録パルスを照射して、記録層にビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区を形成した。これを、図11の上向きに150Oeの磁界を印加して5mWのパワーで再生を行なったところ、クロストークなしに再生ができた。
(実施例−6)
【0074】厚さ1.2mmのグルーブなしガラスディスク基板に、マグネトロンスパッタリング法によって、100nm厚のSi−N干渉層、150nm厚のTb0.195 (Fe0.9 Co0.1)0.805 再生層、200nm厚のTb0.254 (Fe0.7 Co0.3 )0.746 記録層、15nm厚のSi−N中間層、200nm厚の(Gd0.5 Tb0.5 )0.175 (Fe0.97Co0.03)0.825 バイアス層、200nm厚の(Gd0.5 Tb0.5 )0.225 (Fe0.5 Co0.5 )0.775 初期化層、20nm厚のSi−N保護層を順次積層した。再生層は室温の保磁力6kOe、キュリー温度400℃以上、記録層は室温の保磁力15kOe 、キュリー温度200℃、であった。また、記録層から再生層に作用する交換力は室温で4kOe で、再生層の保磁力との交点は140℃であった。バイアス層は室温の磁化150emu/cc、キュリー温度210℃、室温の保磁力1.3kOe で、初期化層の室温の磁化100emu/cc、補償温度110℃、キュリー温度400℃以上、室温の保磁力10kOe であった。この記録媒体を図16(a)のように着磁し、図16の下向きに500Oeの印加磁界中で、8m/sの線速で、15mW、160nsで記録動作を行い、ビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区を形成した。これを、図16の上向きに100Oeの印加磁界中で6mWのパワーで、クロストークなしに再生ができた。
【0075】
【発明の効果】本発明によれば、記録時の外部磁界以外の初期化磁石を必要とせずに高密度の光磁気記録が可能であり、また、ディスクトラック方向にも高密度記録ができるので、光磁気ディスクの記憶容量を容易に大きくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る光磁気記録媒体の一実施例を示す断面図。
【図2】記録層及び再生層の保磁力、並びにこれら各層の間に作用する交換力の温度依存性を示す図。
【図3】バイアス層の保磁力と磁化の温度依存性を示す図。
【図4】第1の態様において、記録層と再生層との磁化の方向が同じときの媒体温度、漏洩磁界、交換力と再生層の保磁力の和の位置分布を示す図。
【図5】第1の態様において、記録層と再生層の磁化の方向が異なるときの媒体温度、漏洩磁界、交換力と再生層の保磁力の和の位置分布を示す図。
【図6】第1の態様における記録過程での各層の磁化の状態を示す図。
【図7】第1の態様における再生過程での各層の磁化の状態を示す図。
【図8】第2の態様において、記録層と再生層との磁化の方向が同じときの媒体温度、漏洩磁界、交換力と再生層の保磁力の和の位置分布を示す図。
【図9】第2の態様において、記録層と再生層の磁化の方向が異なるときの媒体温度、漏洩磁界、交換力と再生層の保磁力の和の位置分布を示す図。
【図10】第2の態様における記録過程での各層の磁化の状態を示す図。
【図11】第2の態様における再生過程での各層の磁化の状態を示す図。
【図12】バイアス層及び初期化層の保磁力、並びにこれら各層に作用する交換力の温度依存性を示す図。
【図13】バイアス層及び初期化層の磁化の温度依存性を示す図。
【図14】初期化層を用いた場合の光磁気記録媒体の一実施例を示す断面図。
【図15】第1の態様における、媒体温度、初期化層の磁化、及びバイアス層の磁化の位置分布を示す図。
【図16】第2の態様における、媒体温度、初期化層の磁化、及びバイアス層の磁化の位置分布を示す図。
【符号の説明】
1;再生層、2;記録層、3;中間層、4;バイアス層、5;保護層、6;干渉層、7;基板、8;レーザビーム、9;初期化層。
[発明の目的]
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、情報の記録・再生・消去が可能な光磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】垂直磁気異方性を持つ磁性体薄膜にレーザを照射し、情報の記録・再生・消去を行なう光磁気記録技術は、光記録技術の有する高記録密度性や媒体の可換性といった特徴と、磁気記録技術の有するデータの書換え性とを併せ持つメモリ技術として実用化されている。
【0003】このような光磁気記録では、レンズによって絞りこんだレーザビームスポットによって情報の記録・消去・再生を行なっているため、記録密度はレーザの波長によって上限が与えられる。現在よく使われている波長830〜780nmの半導体レーザを用いて、十分なC/N(キャリヤ・ノイズ比)で記録・再生ができるのはトラックピッチで1.6μm 程度の密度であり、現行のレーザ、記録媒体、記録方法を用いる限りこれ以上の記録密度を得ることはできない。
【0004】このような問題点を解決するために、レーザの波長を短くしてビームスポット径を小さくする方法が検討されてきた。しかし、光磁気ディスクドライブに搭載できるような半導体レーザでは、十分に光磁気記録のできる出力パワーを持つものはまだ実用化されていない。また、現行の半導体レーザにSHG(Second Harmonic Generation)素子を用いて、波長を半分にする方法も検討されているが、高パワーが出ない、高速変調が困難である、といった問題点がある。
【0005】現行の半導体レーザの波長をそのまま用いて高密度記録を行なう方法も例えばnikkei electroncs 1991.3.4No.521p.92に報告されている。これは、再生層・記録層の交換結合2層膜からなる記録媒体を用い、レーザを再生層側から照射する。この媒体では、まず、通常の光磁気記録媒体と同じように高パワーのビ−ムを照射しつつ記録磁界Hexを印加して記録を行なう。この際には、記録層・再生層ともに磁化反転させる。この後、常温において媒体に初期化磁界Hini を印加して再生層のみ再磁化反転させて初期化する。再生は、再生パワーレベルのビ−ムを連続照射して行う。この際に、媒体のレーザが照射された部分の温度が上昇し、再生層の保磁力が低下するため、その位置で記録層に記録ビットがあると記録層からの交換力によって再生層が再び磁化反転を起こし、信号が検出される。この方法を用いれば、再生しているトラックの隣のトラックは温度上昇が小さいため、再生層は初期化されたままで信号を発生しない。従って、従来、隣接トラックからのクロストークのため制限されていた距離1.6μm よりもトラック幅を詰めて記録することができる。
【0006】しかし、この方法では通常の記録磁石の他に初期化磁石が必要である。通常の光磁気記録材料である希土類−遷移金属磁性体薄膜同士の交換力は数kOe になるため、それに打ち勝って再生層を磁化反転させる初期化磁石は大きなものとなり、装置の小型化が困難となる。また、再生した直後は再生トラック上に再生層に転写された磁区が残っているため、高密度化はディスクの半径方向しかできないといった難点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、初期化磁石を必要とせずに、ディスクの半径方向、周方向の両方向に対して高密度化を行うことができる光磁気記録媒体を提供することを目的とする。
[発明の構成]
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の態様に係る光磁気記録媒体は、磁性体からなる再生層、記録層、及びバイアス層を有し、レーザ入射側から再生層、記録層、バイアス層の順に積層された光磁気記録媒体であって、再生層と記録層とが交換結合が主となるように積層され、記録層とバイアス層とが静磁結合が主となるように積層され、かつ、前記バイアス層が記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度において磁化反転しないことを特徴とする。
【0009】第2の態様に係る光磁気記録媒体は、磁性体からなる再生層、記録層、及びバイアス層を有し、レーザ入射側から再生層、記録層、バイアス層の順に積層された光磁気記録媒体であって、再生層と記録層とが交換結合が主となるように積層され、記録層とバイアス層とが静磁結合が主となるように積層され、かつ、記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度においてバイアス層が磁化反転せず、再生時に到達する媒体の最高温度TR としたとき、前記バイアス層の磁化が室温からTR に向かって減少するような特性を持つ場合に再生層の着磁方向と逆方向にバイアス層が着磁され、バイアス層の磁化が室温からTR に向かって増加するような特性を持つ場合に再生層の着磁方向と同じ方向にバイアス層が着磁されることを特徴とする。
【0010】図1は本発明に係る光磁気記録媒体の一実施例を示す断面図である。図1において、1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層、5は保護層、6は干渉層、7は基板、8はレーザビームである。
【0011】再生層1、記録層2としては、Gd、Tb、Dyを代表とする重希土類元素(HRE)もしくはHREにNd、Pd等の軽希土類(LRE)を一部置換した希土類元素(RE)と、Fe、Coを代表とする遷移金属元素(TM)とからなる非晶質RE−TM膜、Bi置換ガーネット膜、ホイッスラー合金膜等の従来より光磁気記録媒体の記録層として用いられるものを適用することができる。また、バイアス層4としてはそれ自体が記録・消去・再生動作によって磁化反転しないような材料、たとえば記録層よりも低感度なRE−TM膜、Bi置換ガーネット膜、ホイッスラー合金膜、FeBN膜等が用いられる。
【0012】ここで、記録層より低感度というのは、バイアス層のキュリー温度が記録層のキュリー温度よりも大きいこと、バイアス層の膜厚が記録層よりも厚いこと、中間層が記録層、バイアス層よりも小さい熱伝導率を持ち熱絶縁機能があって、レーザ照射時に記録層ほどバイアス層の温度が上昇しないことのいずれか、又はそれらの組合せの場合を意味している。
【0013】再生層と記録層とを合わせた厚さは記録レベルのレーザを照射したときに十分に磁化反転が起こる程度に薄いほうが好ましい。バイアス層はレーザ照射時に十分なHbを発生し得る程度の厚さであればよい。ここで、Hbはバイアス層がレーザ照射によって局部的に加熱され、局部的な磁化分布を発生することによってバイアス層の外部に発生する漏洩磁界を意味する。
【0014】バイアス層に隣接して交換結合が主となるように初期化層を積層してもよい。このときには、初期化層からバイアス層に作用する交換力をHeIB、バイアス層から初期化層に作用する交換力をHeBI、バイアス層の保磁力をHcB 、初期化層の保磁力をHcI 、バイアス層が感じる漏洩磁界をHaB 、初期化層が感じる漏洩磁界をHaI とすると、記録・消去・再生過程においてバイアス層が到達する最高温度以下の温度においてHeIB+HaB がバイアス層の着磁の向きと同じ向きで、バイアス層において以下の式(1)が成り立ち、初期化層において以下の式(2)が成り立つようにバイアス層及び初期化層を選べばよい。
HcB <|HeIB+HaB | …(1)
HcI >|HeBI+HaI | …(2)
【0015】初期化層はレーザ照射による記録媒体の温度上昇を妨げない程度に厚ければよい。また、バイアス層のキュリー温度が再生時のバイアス層の最高到達温度よりも低いほうが漏洩磁界分布の大きな変化が得られるので好ましい。
【0016】中間層3は記録層2とバイアス層4との間の交換力を排除するために設けられる。また、保護層5は媒体に傷等が発生するために設けられるものであり、干渉層6はレ−ザ−ビ−ム照射した際に多重干渉を生じさせ、再生信号をエンハンスするために設けられるものである。これら中間層3、保護層5、干渉層6は通常の光磁気記録媒体で用いるSi−N、Si−O、Zr−O、Al−O、Al−N、Zn−S、Ti−O等の金属化合物材料や、保護機能を高めるなど本発明とは別の目的で金属元素等を添加した金属化合物材料、プラズマ重合膜等の有機物材料などの非磁性体であって、用いるレーザの波長に対して本発明を実施する上で必要な透光性を有していれば何を用いてもかまわない。また、中間層3、保護層5は必ずしも透光性を有していなくてもかまわない。
【0017】再生層1、記録層2、バイアス層4は各々本発明の主旨を逸脱しない範囲で、それ自体単層であっても多層であってもかまわない。再生層、記録層、バイアス層よりも熱伝導率の大きい中間層を設けることによって、交換力、漏洩磁界が適切になるように各層の温度上昇をコントロールすることもできる。また、透明な誘電体層を中間層として用いることによって、カー回転角の増加、各層の吸収率のコントロールといった干渉層としての役割を担わせることもできる。
【0018】また、本発明に最低限必要なのは再生層1、記録層2、バイアス層4であって、記録層2とバイアス層4が静磁結合が主となるように積層されていれば中間層3は必ずしも必要がなく、この中間層3は記録層の表面を酸化等で改質させたものでもかまわない。さらに、再生層1と記録層2とが交換結合が主となるように積層されていれば、これらの間に他の層があってもかまわない。また、保護層5と干渉層6も必須なものではない。
【0019】基板7としては、ガラス、ポリカーボネイト、ポリメチルメタクリレート、ポリオレフィン等、従来より光ディスク基板として用いられている材料等の中から幅広く選択が可能である。レーザービーム8の波長、スポット径は本発明の主旨からしてミクロンサイズまたはサブミクロンサイズが好ましい。上記の光磁気記録媒体を再生する際には外部磁界Hexを印加してもよい。Hexの印加手段は電磁石であっても永久磁石であってもかまわない。
【0020】この発明の第1の態様においては、再生層が感じる漏洩磁界(外部磁界Hexを除く)をHar′、記録層から再生層に作用する交換力をHewrと表わした場合に、Hex再生時に再生ビームスポット内のHewr+Har′の最小値よりも大きく、最大値よりも小さいことが好ましい。この外部磁界は必ずしも必要ではなく、再生時のみに印加しても、記録・消去・再生全過程を通して印加してもよい。
【0021】また、第1の態様及び第2の態様を通じて、記録層が感じる漏洩磁界(外部磁界Hexを除く)をHaw′、再生層から記録層に作用する交換力をHerw、記録層の保磁力をHcwとした場合に、記録過程を補助するために記録ビーム照射時に、記録層において以下の式(3)を満たす外部磁界を印加してもよい。
Hex+Haw′>Herw+Hcw …(3)
この外部磁界は再生動作が十分に行える範囲であるならば、記録動作時のみに印加しても、記録・再生動作中連続して印加してもかまわない。
【0022】
【作用】本発明による光磁気記録媒体は、再生時のレーザ照射によって、所望の記録情報に従ってすでに記録してある記録層の反転磁区を再生層に転写し、再生終了後の媒体の冷却時に、バイアス層あるいはバイアス層と初期化層の両方からの漏洩磁界によって再生層の磁区を再反転させることにより、高密度の光磁気記録を行なうものである。以下、本発明の第1の態様における記録・再生過程を詳しく説明する。
【0023】図2に本発明の記録媒体の典型的な記録層、再生層の保磁力と交換力の温度依存性を示す。図2中、Hcwは記録層の保磁力、Hcrは再生層の保磁力、Hewrは記録層から再生層に作用する交換力、Herwは再生層から記録層に作用する交換力、Taは室温、TR は再生時の媒体の温度、TWは記録時の媒体の温度を表わす。この図の場合、記録層は補償温度がないREリッチ、再生層はTMリッチの組成である。図3に本発明の記録媒体の典型的なバイアス層の保磁力と磁化の温度依存性を示す。
【0024】図4は、図2、3に示した磁気特性を持つ記録層、バイアス層を有し、第1の態様の動作を行う媒体において、記録層の磁化が下向きの場合の再生動作を行なっているときの媒体温度及び再生層が感じる磁界の位置分布を示したものである。図4(a)は媒体温度で、TcB はバイアス層のキュリー温度である。レーザは図4(a)の上方に矢印で記した方向に移動する。図4R>4(d)は各層の磁化の方向を示す。1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層で、矢印は各層の磁化の方向を表わす。
【0025】図4(b)は記録層から再生層に作用する交換力Hewr、およびバイアス層からの漏洩磁界HBと外部印加磁界Hexの和の位置分布を示す。図4(c)はHB+Hexと再生層を磁化反転させるための磁界の大きさの位置分布を示す。(b)、(c)においては、再生層の磁化を図4(d)の上方に反転させるようとする磁界の向きをプラスとした。記録層がREリッチ、再生層がTMリッチのため、図4(d)の場合には、再生層と記録層の間には界面磁壁が存在し、再生層には常に交換力Hewrが作用している。
【0026】図3のような磁気特性を持つバイアス層を用いると、バイアス層の発生する漏洩磁界は、図4(b)に示すように、温度がTcBに達するあたりに肩を持つ台形状の分布になる。外部磁界HexはHB 分布をマイナス側にシフトさせる方向に印加する。再生ビームが媒体上を通過すると、図4(c)に示すように、レーザスポットの中心部ではHB +Hexの大きさは再生層の磁化を上向きに反転させるための磁界Hcr−Hewrよりも大きくなり、再生層は磁化反転する。レーザが通過した後の冷却過程では、レーザスポットの周縁部で、|HB +Hex|が再生層の磁化を下向きに再反転させるための磁界|Hcr+Hewr|よりも大きくなり、再生層は再び磁化反転し、レーザが通り過ぎた後には図4(d)のような状態に戻る。
【0027】|HB +Hex|が|Hcr+Hewr|よりも大きくなるという条件はレーザ進行方向の周縁部(図4(c)の右側)でも成り立っているので、再生層の磁化の初期化状態がどのようなものであっても、レーザの進行にともなって、再生層の磁化は下→上→下の順に反転し、レーザが通り過ぎた後は図4(d)のような状態になる。
【0028】同様のことを、記録層の磁化が上向きの場合について図5を用いて説明する。図4と同様に、(a)は温度分布、(b)は磁界分布、(c)は各層の磁化状態である。(c)のような磁化状態の場合、記録層と再生層の間に界面磁壁が存在せず、レーザスポット中心部では、HB +Hexの大きさが再生層の磁化を上向きに反転させるための磁界Hcr+Hewrよりも大きくなるという条件は満たされず、何も起こらない(図5R>5(b))。また、再生層の磁化が上向きとなっている場合には図5(b)に示したように、進行方向のレーザスポット周縁部で、|HB+Hex|が再生層の磁化を下向きに再反転させる磁界|Hcr+Hewr|よりも大きくなり、スポット中心部の通過前に再生層の磁化は下向きに揃えられる。
【0029】図4、5に示すように、本発明の光磁気記録媒体において再生を行なう場合、再生層の磁化状態がどのようであっても、再生スポットの中心部で記録層が下向きの磁化を持っている場合には再生層が上向きに磁化反転し、記録層が上向きの磁化を持っている場合には再生層の磁化は下向きになる。そして、レーザスポット通過後は常に再生層の磁化は下向きになる。
【0030】以上の記録媒体を用いた記録過程を図6を用いて説明する。図6は、図4(d)と同様に各層の磁化の様子を矢印で示したもので、それぞれの層で反転磁区ができたときには磁壁の位置に縦線を記した。1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層である。
【0031】図6(a)は室温Taでの初期着磁状態である。これに高パワーのレーザのパルス照射を行なうと、媒体温度は図2、3に示すTwまで上昇し、レーザスポット中心部でバイアス層、記録層の磁化が消滅し、磁化状態は(b)のようになる。このとき外部磁界Hexを(b)の横に矢印で示した方向に印加すると、記録層2に反転磁区ができる。このときの各磁気特性の関係は、外部磁界Hexを除く記録層が感じる漏洩磁界をHaw′とすると、記録ビームスポット内で、記録層においてHex+Haw′>Herw+Hcw
【0032】が成り立っている。レーザ照射終了後、冷却過程において媒体温度がTR 近傍になると、図4で示したように再生層の磁化は上向きに反転し、記録層の磁区が再生層に転写される。この後、Taまでの冷却過程においては、図4(c)の周縁部の状態が保持されれば図5(d)に示すように記録層にのみ反転磁区が形成さる磁化状態となる。
【0033】しかし、記録過程では記録層に反転磁区が形成されればよく、再生層の磁化はどのような状態であってもかまわない。次に示すように再生層の初期磁化状態は、再生過程には影響を及ぼさないからである。また、記録層の自己漏洩磁界は図中のHexと同じ向きなので、自己漏洩磁界が大きければHexは必ずしも必要ではない。なお、消去過程についてもこの記録過程と同様に行うことができる。
【0034】次に、再生過程を図7を用いて説明する。図7は、図4(d)及び図6と同様に各層の磁化の様子を矢印で示したもので、それぞれの層で反転磁区ができたときには磁壁の位置に縦線を記した。1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層、8は再生ビームである。再生ビームは左から右へと移動する。
【0035】図7(a)は室温での磁化の状態で、図6の過程に従って生成された反転磁区が記録層に存在している。説明上、再生層の磁化は下向きに一様に磁化されているとする。再生レベルのレーザを照射すると媒体温度はTR まで上昇し、バイアス層ではレーザスポット中心部で磁化が消滅する(図7(b))。
【0036】記録層に反転磁区が存在しない領域を再生ビームが通っているときには、図5で示したように、レーザスポット中心では再生層の磁化は下向きのままである。再生レーザビームが記録層の反転磁区の上にさしかかると、レーザスポット中心部で、かつ、記録層の磁化が上向きの領域で、再生層の磁化が反転し、それ以外のところでは磁化の向きはそのままである(図7(c))。
【0037】再生レーザビームが記録層の反転磁区のちょうど上に来たときには、レーザスポット中心部でのみ再生層の磁化が反転する(図7(d))。レーザビームが記録層の反転磁区の上を少し通り過ぎると、レーザスポットの後方部分(図6の周縁部)では再生層の磁化が再反転し始める(図7(e))。レーザビームが記録層の反転磁区の上を通り過ぎてしまうと、再生層はすべて下向きの方向に磁化された状態となって初期着磁状態に戻る(図7(f)、(g))。
【0038】再生層の初期磁化状態はどのようなものであっても、図4、5で示したようにレーザビームの進行方向の周縁部で一度下向きに揃えられるので、図7の(b)〜(g)の過程は同じである。レーザスポット中心部では、記録層に反転磁区がある領域では再生層も反転磁区があるので、以上の再生過程はレーザビーム側から見れば通常の光磁気記録媒体の再生過程と変わりはない。次に、本発明の第2の態様における記録・消去過程を詳しく説明する。第2の態様においても記録層及びバイアス層は図2及び図3の磁気特性を有している。
【0039】図8は、図2、3に示した磁気特性を持つ記録層、バイアス層を有し、第2の態様の動作を行う媒体において、記録層の磁化が下向きの場合の再生動作を行なっているときの媒体温度及び再生層が感じる磁界の位置分布を示したものである。
【0040】図8(a)は媒体温度で、TcB はバイアス層のキュリー温度、実線は再生層の温度、点線はバイアス層の温度を示す。再生層、記録層、バイアス層の厚さが厚いため、あるいは、中間層の熱絶縁作用のために、再生層とバイアス層の温度分布には位相差が生じている。図8(b)は記録層から再生層に作用する交換力Hewr、およびバイアス層からの漏洩磁界HB の分布を示す。
【0041】図8(d)は各層の磁化の方向を示す。図4R>4(d)と同様、1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層で、矢印は各層の磁化の方向を表わす。記録層がREリッチ、再生層がTMリッチのため、図8(d)の場合には、再生層と記録層の間には界面磁壁が存在し、再生層には常に交換力Hewrが作用している。
【0042】図8(c)はHB +Hex、および再生層を図8(d)の状態から上向きに磁化反転させるための磁界Hcr−Hewr、およびそれを再磁化反転して図8R>8(d)の状態に戻すのに必要な磁界−|Hcr+Hewr|の分布を示す。ここでは再生層の磁化を図8(d)の上方に反転させるようとする磁界の向きをプラスとした。なお、レーザは図8(a)の上方に矢印で記した方向に移動する。
【0043】図3のような磁気特性を持つバイアス層を用いると、バイアス層の発生する漏洩磁界は、図8(b)に示すように、温度がTcB に達するあたりに肩を持つ台形状の分布になる。外部磁界Hexを図8(d)の上向きに印加すると、Hex+HB の分布は図8R>8(c)のようになる。再生ビームが媒体上を通過すると、レーザスポットの中心部では、HB +Hexの大きさは再生層の磁化を上向きに反転させるための磁界Hcr−Hewrよりも大きくなり、再生層は磁化反転する。
【0044】しかし、レーザスポット中心が通過した後、レーザスポットの周縁部で、|HB+Hex|が再生層の磁化を下向きに再反転させるための磁界|Hcr+Hewr|よりも大きくなり、再生層は再び磁化反転し、レーザが通り過ぎた後には図8(d)のような状態に戻る。
【0045】同様のことを、記録層の磁化が上向きの場合について図9を用いて説明する。図8と同様に、(a)は温度分布、(b)は磁界分布、(c)は各層の磁化状態である。(c)のような磁化状態の場合、記録層と再生層の間に界面磁壁が存在せず、レーザスポット中心部では、HB +Hexの大きさが再生層の磁化を上向きに反転させるための磁界Hcr+Hewrよりも大きくなるという条件は満たされず、磁化反転は起こらない。ただし、レーザスポット中心が通過した後では、レーザスポット周縁部で、HB +Hex|が再生層の磁化を下向きに再反転させる磁界|Hcr+Hewr|よりも大きくなる条件は満たされている。
【0046】図8、図9に示した動作を成り立たせるためには、Hcrが最も低下する付近、すなわち記録層において最高温度になっている付近よりも、HBのピーク付近はトラック上でレーザ進行方向に対して後方になければならない。HB のピークはバイアス層において最高温度になっている近傍にある場合が多いので、バイアス層において最高温度になっているトラック上の位置は、記録層において最高温度になってる位置よりも、トラック上でレーザ進行方向に対して後方にある方が好ましい。
【0047】以上の記録媒体を用いた記録過程を図10を用いて説明する。図10は、図6と同様に各層の磁化の様子を矢印で示したものであり、そこに示している参照符号も図6と同様である。また、反転磁区ができたときには磁壁の位置に縦線を記した。
【0048】図10(a)は室温Taでの初期着磁状態である。これに高パワーのレーザのパルス照射を行なうと、媒体温度は図2、3に示すTwまで上昇し、記録層、再生層ともに高温部では磁化が消滅し、最高温度Tmax のとき、磁化状態は(b)のようになる。このとき外部磁界Hexを(b)の横に矢印で示した方向に印加すると、記録層に反転磁区ができる。このときの各磁気特性の関係は、外部磁界Hexを除く記録層が感じる漏洩磁界をHaw′とすると、記録ビームスポット内で、記録層においてHex+Haw′>Herw+Hcw
【0049】が成り立っている。レーザ照射終了後、冷却過程において媒体温度がTR 近傍になると、図8で示したように再生層の磁化は上向きに反転し、記録層の磁区が再生層に転写される。この後、Taまでの冷却過程で再生層において、Hex+Har′>Hcr+Hewrが成立ち、再生層は再磁化反転され、室温に戻ったときには図10(c)のようになる。なお、消去過程についてもこの記録過程と同様に行うことができる。
【0050】次に、再生過程を図11を用いて説明する。図11は、図7と同様に各層の磁化の様子を矢印で示したものであり、そこに示している参照符号も図7と同様である。また、反転磁区ができたときには磁壁の位置に縦線を記した。なお、再生ビームは左から右へと移動する。
【0051】図11(a)は室温での磁化の状態で、図1010の過程に従って生成された反転磁区が記録層に存在している。再生層の磁化は下向きに一様に磁化されている。再生レベルのレーザを照射すると媒体温度はTR まで上昇し、バイアス層ではレーザスポット中心部より後方にずれた高温部で消滅する(図11(b))。
【0052】記録層に反転磁区が存在しない領域を再生ビームが通っているときには、図9で示したように、レーザスポット中心部では再生層の磁化は下向きのままである。再生レーザビームが記録層の反転磁区の上にさしかかると、レーザスポット中心部で、かつ、記録層の磁化が下向きの領域でのみ、再生層の磁化が反転し、それ以外のところでは磁化の向きはそのままである(図11(c))。
【0053】再生レーザビームが記録層の反転磁区のちょうど上に来たときには、レーザスポット中心部でのみ再生層の磁化が反転する(図11(d))。レーザビームが記録層の反転磁区の上を少し通り過ぎると、レーザスポットの後方部分では、バイアス層からの漏洩磁界のため、図9に示したように、再生層の磁化が再反転し始める(図11(e))。レーザビームが記録層の反転磁区の上を通り過ぎてしまうと、再生層はすべて下向きの方向に磁化された状態となり、室温では初期着磁状態に戻る(図11(f)、(g))。レーザスポット中心部では、記録層に反転磁区がある領域では再生層も反転磁区があるので、以上の再生過程はレーザビーム側から見れば通常の光磁気記録媒体の再生過程と変わりはない。
【0054】この記録媒体を利用すると高密度の光磁気記録が実現できる。すなわち、通常の光磁気記録ではクロストークが大きくて十分に再生信号出力が得られないようなビット密度で記録層に記録ビットを形成しても、再生するときにはレーザスポット中心部以外の領域にある磁区は再生層上には転写されず、隣接した記録ビットは信号として検出されないのでクロストークとならない。また、本発明の記録媒体は、再生レーザスポット通過後、再生層の磁化を下向きに揃える(初期化する)ので、他の高密度記録媒体(nikkei electronics 1991.3.4No.521p.92)のような、Hexとは別の初期化用磁石を必要とせず、また、上記の高密度記録媒体ではできなかったディスクトラック方向の高密度化も実現できる。
【0055】以上の説明では、再生層と記録層は、磁化の向きが逆の時に界面磁壁が生成されないような組成の組合せであったが、磁化の向きが同じときに界面磁壁が生成されないような組合せでも、磁区の転写の向きによってバイアス層の着磁の向きを変えてやることによって、同様な記録・再生を行なうことができる。
【0056】図3に示すようにキュリー温度が低い磁気特性を持つバイアス層を用いた場合、再生・記録過程中に媒体がTcB 以上に加熱され、バイアス層が磁化反転して図5、図9に示した漏洩磁界分布が得られなくなる可能性がある。バイアス層の磁化反転を防止するには、バイアス層の膜厚を厚くして膜厚方向に温度差を設け、バイアス層の記録層と反対側の面を低温に保持する、あるいはバイアス層の記録層と反対の面に、例えばAl膜等の熱拡散層の設けて、熱拡散層の設けられた面を低温に保持する、あるいはキュリー温度が高く、磁化反転がしにくい初期化層との交換結合2層膜とする、あるいは前記3手法を組合せて用いる等の方策がある。
【0057】初期化層との交換結合2層膜による方法においては、初期化層は、記録・再生・消去の全ての過程において磁化反転せず、バイアス層に及ぼす交換力が記録、消去、再生の全ての過程においてバイアス層を磁化反転させないくらい大きくなるように積層される。
【0058】本発明の記録媒体のバイアス層と初期化層の典型的な磁気特性を図12、13に示す。これらの図において、HcI は初期化層の保磁力、HcB はバイアス層の保磁力、HeIBは初期化層からバイアス層へ作用する交換力、HeBIはバイアス層から初期化層へ作用する交換力、TR は再生時の媒体温度、TW は記録時の媒体温度、MsI は初期化層の磁化、MsB はバイアス層の磁化である。バイアス層はTMリッチ組成、初期化層は補償温度を持つREリッチ組成で、各層の磁化が逆向きの時が界面磁壁が生成されず安定となる。
【0059】図12より明らかなように、全温度においてHeIBはHcB より大きく、バイアス層の磁化の向きは初期化層の向きに揃えられるため、バイアス層に反転磁区はできない。また、外部印加磁界Hexを含めた他の磁性層からの漏洩磁界HaB がバイアス層を反転させる方向であったとしても、|HaB|<|HeIB| かつHcB<|HaB+HeIB|
【0060】が成り立つ限りにおいては、バイアス層は磁化反転しない。初期化層とバイアス層との間には交換力が作用すればよいので、バイアス層と初期化層は磁化が同じ向きのときに界面磁壁が存在しないような組み合せであっても、磁化が逆向きのときに界面磁壁が存在しないような組み合せであってもかまわない。
【0061】初期化層を用いた場合の本発明の光磁気記録媒体の典型的な断面構成を図14に示す。1は再生層、2は記録層、3は中間層、4はバイアス層、5は保護層、6は干渉層、7は基板、9は初期化層である。バイアス層と初期化層の積層順はどちらが先でもかまわない。しかし、より大きな漏洩磁界を記録層に印加する観点、及び初期化層の温度上昇を抑えてバイアス層の磁化反転を防止する効果を高める観点から、バイアス層は記録層に近い方が好ましい。
【0062】図15(a)は、第1の態様の場合の各層の着磁方向を示すものである。なお、参照符号は図14と同様である。図15(b)のような温度分布が発生したとき、初期化層の磁化分布は(c)のように、バイアス層の磁化分布は(d)のようになる。このとき、初期化層の漏洩磁界はバイアス層の磁化反転を防止する向きであり、交換力による反転防止作用を助けることができる。また、初期化層は記録層までの距離が遠く、磁化分布はバイアス層よりもなだらかなので、記録層が感じる初期化層からの漏洩磁界は、大きさが小さく分布がなだらかでかつバイアス層からの漏洩磁界と逆向きとなる。
【0063】従って、バイアス層、初期化層からの漏洩磁界は図4(c)と同様なものとなり、Hexを適切に選ぶことによって、図6、7に示したものと同様な記録・再生過程を実現できる。初期化層から記録層、再生層への漏洩磁界の大きさが充分に大きければ、図4(b)のようなバイアス層からの漏洩磁界をプラス側にシフトさせる外部磁界を、初期化層から発生する漏洩磁界で置き換えることもできる。このように、初期化層はバイアス層と磁化が逆向きの時に界面磁壁が生成されないような組成の方が好ましい。
【0064】図16(a)は、第2の態様の場合の各層の着磁方向を示すものである。なお、参照符号は図15(a)と同様である。図16(b)のような温度分布が発生したとき、初期化層の磁化分布は(c)のように、バイアス層の磁化分布は(d)のようになる。このとき、第1の態様と同様、初期化層の漏洩磁界はバイアス層の磁化反転を防止する向きであり、交換力による反転防止作用を助けることができる。また、初期化層は記録層までの距離が遠く、磁化分布はバイアス層よりもなだらかなので、記録層が感じる初期化層からの漏洩磁界は、大きさが小さく分布がなだらかでかつバイアス層からの漏洩磁界と逆向きとなる。
【0065】従って、バイアス層、初期化層からの漏洩磁界は図8(c)と同様なものとなり、Hexを適切に選ぶことによって、図10、11に示したものと同様な記録・再生過程を実現できる。初期化層から記録層、再生層への漏洩磁界の大きさが充分に大きければ、図8(b)のようなバイアス層からの漏洩磁界をプラス側にシフトさせる外部磁界を、初期化層から発生する漏洩磁界で置き換えることもできる。このように、初期化層はバイアス層と磁化が逆向きの時に界面磁壁が生成されないような組成の方が好ましい。
【0066】
【実施例】以下に本発明の実施例を説明する。
(実施例−1)
【0067】Siウェハー上に、マグネトロンスパッタリング法によって、100nm厚のSi−N干渉層、25nm厚のTb0.29(Fe0.9 Co0.1 )0.71記録層、15nm厚のSi−N中間層、200nm厚のTb0.16(Fe0.95Co0.05)0.84バイアス層、200nm厚のTb0.22(Fe0.5 Co0.5 )0.78初期化層、20nm厚のSi−N保護層を順次積層した。誘電体層はSi3 N4 ターゲットの反応性スパッタ、磁性体層はTbとFeとCoの3元同時スパッタによって作成した。バイアス層はTMリッチ、初期化層はREリッチであった。バイアス層、初期化層ともに垂直磁気異方性を持ち、その磁気特性は図12、13に示すような特性であった。バイアス層は室温の磁化160emu/cc、キュリー温度150℃、室温の保磁力2kOe で、初期化層は室温の磁化100emu/cc、補償温度120℃、キュリー温度400℃以上、室温の保磁力3kOe であった。記録層は発生する漏洩磁界を評価するために積層したもので、室温の保磁力5kOe 、キュリー温度170℃であった。このバイアス層の発生する漏洩磁界を数値計算により算出した。1.6μm に絞った波長830nmの6mWのレーザ光を8m/sの線速で連続照射した場合の温度分布より記録層の位置で感じる漏洩磁界を計算したところ、バイアス層からの漏洩磁界分布は図4(b)のような形状であり、肩の部分で325Oe、たもとの部分で64Oe、肩の幅約200nmであった。また、初期化層からの漏洩磁界を合わせたものは、図4(b)のような分布をしているが初期化層の緩やかな磁化変化に基づく緩やかな漏洩磁界分布によって負にバイアスされたようになっており、肩の部分205Oe、たもとの部分−40Oe、肩の幅約200nmであった。また、記録層の光磁気記録特性を調べたところ、バイアス層、初期化層の存在によって記録磁界しきい値が約300Oe変化し、ピーク値で300Oe程度の漏洩磁界が発生していることが示された。また、初期化層からバイアス層へ作用する交換力はバイアス層のキュリー温度まで常にバイアス層の保磁力よりも大きく、バイアス層を反転させる方向の外部磁界−1kOe 〜500Oeの範囲で15mW、160nsecのパルス照射による記録動作を行なっても、バイアス層に反転磁区は形成されなかった。
(実施例−2)
【0068】厚さ1.2mmのグルーブなしガラスディスク基板に、マグネトロンスパッタリング法によって、100nm厚のSi−N干渉層、200nm厚のTb0.195 (Fe0.9 Co0.1)0.805 再生層、200nm厚のTb0.16(Fe0.95Co0.05)0.84バイアス層、200厚のTb0.22(Fe0.5 Co0.5 )0.78初期化層、20nm厚のSi−N保護層を順次積層した。誘電体層はSi3 N4 ターゲットの反応性スパッタ、磁性体層はTbとFeとCoの3元同時スパッタよって作成した。バイアス層、初期化層は実施例1と同じものである。記録層、再生層ともに垂直磁気異方性を持ち、その磁気特性は図2に示すような特性であった。再生層は室温の保磁力6kOe 、キュリー温度400℃以上、記録層は室温の保磁力15kOe 、キュリー温度200℃、記録層から再生層に作用する交換力は室温で2.5kOe で再生層の保磁力との交点は90℃であった。
【0069】この記録媒体を8m/sの線速で図6の下向きに1kOe の磁界を印加して、10mW、160nsの記録パルスを照射して、記録層にビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区を形成した。これを、図7の下向きに100Oeの磁界を印加して5mWのパワーで再生を行なったところ、クロストークなしに再生ができた。
(実施例−3)
【0070】実施例2と同様の媒体構造で、再生層と記録層の厚さのみを150nmにした試料を作成した。記録層から再生層に作用する交換力は室温で4kOe で、再生層の保磁力との交点は140℃であった。この記録媒体を図7の下向きに100Oeの印加磁界中で、8m/sの線速で、15mW、160nsで記録、同一の印加磁界中で6mWで再生した。ビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区がクロストークなしに再生できた。
(実施例−4)
【0071】実施例2と同様の媒体構造でバイアス層の厚さのみを300nmにした試料を作成した。この記録媒体を図7の上向きに800Oeの磁界中で、8m/sの線速で、8mWの連続照射の消去レベルに160ns、15mWの記録レベルのパルス照射を重畳した信号を照射したところ、外部磁界の大きさを変えることなく、照射パワーの選択のみで記録・消去ができる光パワー変調オーバーライトが実現できた。さらに、これを、図7の下向きに200Oeの磁界を印加して7mWのパワーで再生を行なったところ、ビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区がクロストークなしに再生ができた。
(実施例−5)
【0072】厚さ1.2mmのグルーブなしガラスディスク基板に、マグネトロンスパッタリング法によって、100nm厚のSi−N干渉層、200nm厚のTb0.195 (Fe0.9 Co0.1)0.805 記録層、200nm厚のTb0.254 (Fe0.7 Co0.3 )0.746 記録層、15nm厚のSi−N中間層、200nm厚の(Gd0.5 Tb0.5 )0.225 (Fe0.5 Co0.5 )0.775 バイアス層、20nm厚のSi−N保護層を順次積層した。誘電体層はSi3 N4 ターゲットの反応性スパッタ、磁性体層はTbとFeとCoの3元同時スパッタによって作成した。再生層は室温の保磁力6kOe 、キュリー温度400℃以上で、記録層は室温の保磁力15kOe 、キュリー温度200℃であった。また、記録層から再生層に作用する交換力は室温で2.5kOe で再生層の保磁力との交点は90℃であった。バイアス層は室温の磁化100emu/cc、補償温度110℃、キュリー温度400℃以上、室温の保磁力10kOe であった。
【0073】図10(a)のように着磁した記録媒体を、8m/sの線速で図10の下向きに800Oeの磁界を印加して、10mW、160nsの記録パルスを照射して、記録層にビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区を形成した。これを、図11の上向きに150Oeの磁界を印加して5mWのパワーで再生を行なったところ、クロストークなしに再生ができた。
(実施例−6)
【0074】厚さ1.2mmのグルーブなしガラスディスク基板に、マグネトロンスパッタリング法によって、100nm厚のSi−N干渉層、150nm厚のTb0.195 (Fe0.9 Co0.1)0.805 再生層、200nm厚のTb0.254 (Fe0.7 Co0.3 )0.746 記録層、15nm厚のSi−N中間層、200nm厚の(Gd0.5 Tb0.5 )0.175 (Fe0.97Co0.03)0.825 バイアス層、200nm厚の(Gd0.5 Tb0.5 )0.225 (Fe0.5 Co0.5 )0.775 初期化層、20nm厚のSi−N保護層を順次積層した。再生層は室温の保磁力6kOe、キュリー温度400℃以上、記録層は室温の保磁力15kOe 、キュリー温度200℃、であった。また、記録層から再生層に作用する交換力は室温で4kOe で、再生層の保磁力との交点は140℃であった。バイアス層は室温の磁化150emu/cc、キュリー温度210℃、室温の保磁力1.3kOe で、初期化層の室温の磁化100emu/cc、補償温度110℃、キュリー温度400℃以上、室温の保磁力10kOe であった。この記録媒体を図16(a)のように着磁し、図16の下向きに500Oeの印加磁界中で、8m/sの線速で、15mW、160nsで記録動作を行い、ビット間隔0.6μm 、トラック間隔0.6μm の記録磁区を形成した。これを、図16の上向きに100Oeの印加磁界中で6mWのパワーで、クロストークなしに再生ができた。
【0075】
【発明の効果】本発明によれば、記録時の外部磁界以外の初期化磁石を必要とせずに高密度の光磁気記録が可能であり、また、ディスクトラック方向にも高密度記録ができるので、光磁気ディスクの記憶容量を容易に大きくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る光磁気記録媒体の一実施例を示す断面図。
【図2】記録層及び再生層の保磁力、並びにこれら各層の間に作用する交換力の温度依存性を示す図。
【図3】バイアス層の保磁力と磁化の温度依存性を示す図。
【図4】第1の態様において、記録層と再生層との磁化の方向が同じときの媒体温度、漏洩磁界、交換力と再生層の保磁力の和の位置分布を示す図。
【図5】第1の態様において、記録層と再生層の磁化の方向が異なるときの媒体温度、漏洩磁界、交換力と再生層の保磁力の和の位置分布を示す図。
【図6】第1の態様における記録過程での各層の磁化の状態を示す図。
【図7】第1の態様における再生過程での各層の磁化の状態を示す図。
【図8】第2の態様において、記録層と再生層との磁化の方向が同じときの媒体温度、漏洩磁界、交換力と再生層の保磁力の和の位置分布を示す図。
【図9】第2の態様において、記録層と再生層の磁化の方向が異なるときの媒体温度、漏洩磁界、交換力と再生層の保磁力の和の位置分布を示す図。
【図10】第2の態様における記録過程での各層の磁化の状態を示す図。
【図11】第2の態様における再生過程での各層の磁化の状態を示す図。
【図12】バイアス層及び初期化層の保磁力、並びにこれら各層に作用する交換力の温度依存性を示す図。
【図13】バイアス層及び初期化層の磁化の温度依存性を示す図。
【図14】初期化層を用いた場合の光磁気記録媒体の一実施例を示す断面図。
【図15】第1の態様における、媒体温度、初期化層の磁化、及びバイアス層の磁化の位置分布を示す図。
【図16】第2の態様における、媒体温度、初期化層の磁化、及びバイアス層の磁化の位置分布を示す図。
【符号の説明】
1;再生層、2;記録層、3;中間層、4;バイアス層、5;保護層、6;干渉層、7;基板、8;レーザビーム、9;初期化層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 磁性体からなる再生層、記録層、及びバイアス層を有し、レーザ入射側から再生層、記録層、バイアス層の順に積層された光磁気記録媒体であって、再生層と記録層とが交換結合が主となるように積層され、記録層とバイアス層とが静磁結合が主となるように積層され、かつ、前記バイアス層が記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度において磁化反転しないことを特徴とする光磁気記録媒体。
【請求項2】 磁性体からなる再生層、記録層、及びバイアス層を有し、レーザ入射側から再生層、記録層、バイアス層の順に積層された光磁気記録媒体であって、再生層と記録層とが交換結合が主となるように積層され、記録層とバイアス層とが静磁結合が主となるように積層され、かつ、記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度においてバイアス層が磁化反転せず、再生時に到達する媒体の最高温度TR としたとき、前記バイアス層の磁化が室温からTR に向かって減少するような特性を持つ場合に再生層の着磁方向と逆方向にバイアス層が着磁され、バイアス層の磁化が室温からTR に向かって増加するような特性を持つ場合に再生層の着磁方向と同じ方向にバイアス層が着磁されることを特徴とする光磁気記録媒体。
【請求項1】 磁性体からなる再生層、記録層、及びバイアス層を有し、レーザ入射側から再生層、記録層、バイアス層の順に積層された光磁気記録媒体であって、再生層と記録層とが交換結合が主となるように積層され、記録層とバイアス層とが静磁結合が主となるように積層され、かつ、前記バイアス層が記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度において磁化反転しないことを特徴とする光磁気記録媒体。
【請求項2】 磁性体からなる再生層、記録層、及びバイアス層を有し、レーザ入射側から再生層、記録層、バイアス層の順に積層された光磁気記録媒体であって、再生層と記録層とが交換結合が主となるように積層され、記録層とバイアス層とが静磁結合が主となるように積層され、かつ、記録・消去・再生過程において到達する最高温度以下の温度においてバイアス層が磁化反転せず、再生時に到達する媒体の最高温度TR としたとき、前記バイアス層の磁化が室温からTR に向かって減少するような特性を持つ場合に再生層の着磁方向と逆方向にバイアス層が着磁され、バイアス層の磁化が室温からTR に向かって増加するような特性を持つ場合に再生層の着磁方向と同じ方向にバイアス層が着磁されることを特徴とする光磁気記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図12】
【図13】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図8】
【図9】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図12】
【図13】
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【図10】
【図8】
【図9】
【図11】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開平5−47055
【公開日】平成5年(1993)2月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−205795
【出願日】平成3年(1991)8月16日
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【公開日】平成5年(1993)2月26日
【国際特許分類】
【出願日】平成3年(1991)8月16日
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
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