説明

光線療法における適用のための、並びに皮膚及び/又は関節疾患の処置のためのポルフィリン合成の物質の使用

本発明は、例えば、哺乳動物及びヒトの皮膚及び/又は関節上の炎症過程を処置するために、特に関節炎、単純な乾癬、関節症性乾癬、及び手根管圧迫症候群又はベクテレフ病のような神経障害を治療するために、波長が400〜700nmの範囲である発光により光線療法が行われるとき、必要ならばアセチルサリチル酸の形のサリチラート及びアスコルビン酸の形の酸化防止剤と組合せた、ポルフィリン合成物質、特に5−アミノレブリン酸の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物及びヒトの皮膚及び/又は関節などの乾癬又は炎症過程の処置のための光線療法の適用における、必要に応じてサリチラート及び酸化防止剤と組合せた、ポルフィリン合成の物質の使用に関する。
【0002】
本発明は更に、哺乳動物及びヒトの皮膚及び/又は関節などの乾癬又は炎症過程の処置のための光線療法における適用用製剤の製造のための、必要に応じてサリチラート及び酸化防止剤と組合せた、ポルフィリン合成の物質の使用に関する。
【0003】
本発明の範囲内において、関節炎性乾癬及び非乾癬性多発関節炎が特に、炎症過程として理解されよう。慢性関節リウマチ及び類似の症候群のような非乾癬性多発関節炎とは対照的に、関節炎性乾癬は、斑状乾癬と単発関節炎又は多発関節炎の関節変化との同時発生であり、そしてこれは、特に指、足関節及び足指関節、更には他の関節は言うまでもなく脊柱及び股関節にも影響を及ぼす。関節炎性乾癬の患者では、リウマチ様疾患に関する血清学的試験は、慢性関節リウマチにおける結果とは対照的に、通常陰性である。目下、乾癬性関節炎は、大体は非ステロイド性抗炎症薬で処置されるが、金剤、グルココルチコステロイド及びレチノイド並びにメトトレキサート及びシクロスポリンも使用される。しかし、これらの薬物療法の成功度は、しばしば不充分なものであり、そして特に比較的強力な有害反応又は有害反応のリスクを伴っている。特に、望ましくない有害反応は、通常必要とされる長期療法において観察される。
【0004】
本発明の目的は、有害反応の弱い活性成分又はその組合せを、これに続く可視光での照射と併せて提供及び投与することにより、このような有害反応を大いに防止することであり、そして同時に純粋に薬剤に基づく既知の治療法と比較して成功率及び許容性を大幅に上昇させることである。
【0005】
薬剤の適用と組合せた光線療法の措置は、さまざまなソースから既に知られている:
【0006】
例えば、ドイツ特許A 10063076は、亜致死光線量の適用による、光力学療法での再狭窄の防止のためのアミノレブリン酸の使用を記述している。
【0007】
また、UV又はVIS光での身体の照射と併せた種々の活性成分が、皮膚疾患の治療に有効であることが既に知られている(「乾癬」, Medizin in der Praxis [Medicine in Practice], 20/00, pp. 55-59)。
【0008】
Mund- Kiefer- und Gesichtschirurgie [Oral and Facial Surgery], Abstract Volume 5, Issue 2 (2001), pp. 98-101, ISSN No.: 1432-0417から、充実性腫瘍の治療のための実験的な5−アミノレブリン酸誘発光線力学療法(ALA−PDT)も知られている。635nmの波長及び0.75ワットの出力を持つレーザー光が光源として使用されている。
【0009】
更にイブプロフェンのような非ステロイド性抗炎症薬と一緒にしたアスピリンは、関節炎の処置に使用することができる(Medications for Arthritis: www.orthop.washington.edu/arthritis/medications/05)。
【0010】
本発明の目的を達成するために、ポルフィリン合成の物質並びに薬理学的に利用できるそのエステル又は塩(薬理学的に適合性の酸又は塩基との)を、必要に応じてサリチラート(好ましくはアセチルサリチル酸)及びことによると適合性の酸化防止剤(好ましくはアスコルビン酸)と組合せて、ヒト又は哺乳動物の関節における乾癬及び/又は炎症過程の治療のための、400〜700nm(好ましくは520〜580nm、特に545nmの範囲内)の波長を有する光による放射線療法のために調製及び使用することが提案されている。
【0011】
先に引用された先行技術の方法は、本発明の目的の達成案に貢献することはなく、そして当業者に対して、同時に有害反応を大幅に排除しながら、関節の乾癬又は炎症過程を首尾よく確実に有効に治療できる何らの方法も開示していない。
【0012】
よって本発明の主題は、必要に応じてサリチラート及び酸化防止剤と組合せた、ポルフィリン合成の物質、特に5−アミノレブリン酸の使用(更に詳細には請求の範囲において特徴付けられる)である。
【0013】
ポルフィリン合成の物質(好ましくは5−アミノレブリン酸、ALAと略す)並びに薬理学的に利用できるその誘導体又は塩は、単独で、又はサリチラート(好ましくはアセチルサリチル酸)と組合せて使用される。必要に応じて、これらは更に酸化防止剤、好ましくはアスコルビン酸と組合せられる。本発明の物質は、従来の製剤の剤形で、全身又は局所に、非経口又は経腸的に、好ましくは経口又は局所投与することができる。各場合に選択される活性成分又はその組合せは、例えば水又はフルーツジュースに溶解又は懸濁して、患者が特に簡単なやり方で経口的に摂ることができる。特定の注射剤形は、特に局所治療のために提供することができる。
【0014】
局所治療には、活性成分又はその組合せを、罹患した身体の部分の組織への経皮的浸潤により局所投与するか、あるいはこれらを罹患組織中にさらに深く注射することが有利である。よって考えられるオプションは、一方では、軟膏剤、クリーム剤又はローション剤のような経皮適用剤形であり、他方では、非経口注射に適した無菌液剤又は乳剤である。軟膏基剤については、活性成分で覆われた閉鎖包帯を照射の前に適用する(これによって効力の増大及び必要な曝露時間の短縮の両方が得られる)ことが推奨される。
【0015】
したがって、非経口又は経腸的投与に適した、そして特に経口又はことによると局所投与に適した全ての標準的な製剤の剤形が、典型的な製剤処方として考えられる。例としては、標準的な助剤及び補助剤物質を含む、粉剤、錠剤、コーティング錠、軟又は硬ゼラチンカプセル剤、発泡錠、乳剤、油剤、液剤又は凍結乾燥物質、並びに無菌注射液又は乳液を含む。
【0016】
本発明の新規な併用療法に基づいて、驚くべきことに、少なくとも部分的であるが、しばしば完全でもある、急性又は慢性の特異的又は非特異的な関節炎症の減少、更には可動性制限の消失、疼痛からの広範な免除及び罹患体領域の正常状態への膨潤の回復が達成された。
【0017】
同様に本発明により提案された治療法は、その種々の臨床型として、皮膚の乾癬の治療に特に有効である。有害反応の弱い活性成分の投与と、400〜700nm、好ましくは520〜580nmの明確な波長領域、特に約545nmの領域の光を用いる照射との新規な組合せは、特に、関節炎性乾癬(乾癬性関節炎)、別の病因を有する関節炎型、神経障害(手根管圧迫症候群など)及び強直性脊椎炎(ベクテレフ病:Bekhterev's disease)の治療に適用される。
【0018】
本発明により、5−アミノレブリン酸(ALA)又はそのエステル(メチルエステル(MALA)など)若しくはその塩(特に塩酸塩)は、ポルフィリン合成の物質として特に理解すべきである。
【0019】
一般に、治療中、ヒト又は動物組織においてプロトポルフィリンIX(PP IX)に代謝することができる全ての物質を使用することができる(PP IXは、照射中、有効な光増感剤であるため);次にこれは、生体内で更にヘムへと変換される。本発明の範囲内において、使用される活性成分のカルボキシル基と、安全であるか又は本治療法を支持する、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐のC1〜C4脂肪族又はC3〜C7脂環式アルコール、あるいはアルコール性OH基を含む他の化合物とのエステルが、エステルという用語により理解される。逆に、活性成分のアルコール性OH基と、酢酸又はプロピオン酸のような薬理学的に安全な酸とにより形成されるエステルもまた、当然考えられる。
【0020】
これらのアルコールは、特に、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロパノールのような、C1〜C4脂肪族アルコールを含む。
【0021】
本発明の範囲内において、薬理学的に適合性の無機又は有機の酸又は塩基との塩は、本発明により使用される物質の塩基性又は酸性基との塩成分として理解される。例としては、塩酸塩及び臭化水素塩、更に類推により、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マンデル酸塩、ソルビン酸塩、アスコルビン酸塩又はマレイン酸塩を含む。活性成分の酸性基、特にカルボキシル基とは、有用なリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム又は亜鉛塩、更にはアンモニア又はメチルアミン若しくはエチルアミンのような脂肪族アミンとの第4級アンモニウム塩が得られる。製剤用に既に広く利用され知られているような、非常に多くの更に別の塩成分も、ここでは考えられると理解されたい。
【0022】
有害反応の弱いアセチルサリチル酸は、サリチラートとして特に有用である。他の可能性は、サリチル酸自体、又はサリチル酸ナトリウム、サリチル酸メチル若しくはサリチル酸ヒドロキシエチルのような、他の活性サリチル酸誘導体若しくはその塩である。
【0023】
酸化防止剤として、薬理学的に安全であり、そして必要であれば治療法を支持する、充分なレドックス電位を有する全ての化合物、特にアスコルビン酸を使用することができる。また他の例としては、以下の物質又はその塩若しくは誘導体を含む:イソアスコルビン酸、トコフェロール、グルコン酸又はカロテノイド。約1:3:2の重量比の5−アミノレブリン酸とアセチルサリチル酸及び必要に応じてアスコルビン酸との組合せが有効であることが判明している。
【0024】
治療のコースは、本発明の処方の非経口又は経腸的、特に経口又は局所投与、続いての60〜180、好ましくは150分の待機時間、そして次の本明細書に上記される波長領域での非細胞傷害レベルの照射線量による光線療法を含むことを特徴とする。全身照射が有効であるだけでなく、部分領域及び個々の関節を特に有効に照射することもできる。また、光ファイバー又は内視鏡を用いて、炎症組織に光を直接導くことも可能である。
【0025】
約5〜50J/cm2の範囲の有効放射線量は、非細胞傷害性であると考えられる。線量は、照射した体領域の皮膚刺激又は炎症の前兆のような、目に見える望ましくない二次的現象が防止できるように、患者の感受性に応じて選択しなければならない。本療法は、通常何回かの(好ましくは6〜15回の)照射よりなるため、担当医師が、最適な照射線量に調整し、そして過剰照射を回避することは容易である。照射は、あまり攻撃的でない可視光で行われるため、紫外線を用いる治療に比較して、非常に広い限界内でいずれの場合にも問題にならない。
【0026】
曝露及び照射システムは、本明細書に上述の波長領域の可視光(特に好ましくは540〜550nmの波長範囲の緑色光)で皮膚を完全又は部分的に照射する、1つ以上のランプ単位から構成することができる。本療法の強度は、患者の体質並びに疾患の罹病時間及び重篤度の関数として、活性成分、照射強度、波長、照射距離、照射時間、及び反復処置の場合には照射の時間間隔の変化により制御される。必要な照射線量又は照射時間は、医師により上記基準及び特別な病歴に基づいて直接決定することができる。
【0027】
本発明では、全身照射には5〜50J/cm2の照射線量が提案される。約15J/cm2の照射線量が好ましい。局所処置には、10〜80J/cm2の照射線量が推奨される。照射時間は、照射される体表面からの放射線源の距離及び使用される線源の放射出力に依存する。標準の場合には、全身照射用の光源は、10〜50cmの距離とすべきである。20mW/cm2の放射出力では、1回の処置当たりの照射時間は、約20〜30分である。
【0028】
局所処置には、処置すべき部分の体表面からの40mW/cm2の出力を有する線源の距離は、約10〜15cmである。この場合に、照射時間は、10〜20分の間である。引用したパラメーターは、標準の場合に該当するが、許容できる範囲内の異なる値を使用することも全く可能である。
【0029】
試験結果
重篤な関節炎性乾癬と診断された患者5名を予備試験において処置した。
【0030】
結果は、以下のとおり要約される:
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
症例
体重80kgの41歳男性は、最頻発部位の紅斑落屑性乾癬に15年間、及び両手足の指節間関節の関節炎性乾癬に5年間罹患していた。彼は、可動性制限、朝のこわばり及び加圧による疼痛を訴えていた。以前の治療は、抗リウマチ薬として15mg/週の用量のメトトレキサート及び非ステロイド性抗炎症薬の投与からなっていた。この処置の成功は、中等度であった。
【0034】
以前の治療の中止の2週間後、5−アミノレブリン酸160mg(2mg/kg体重)、アセチルサリチル酸400mg(5mg/kg体重)及びアスコルビン酸240mg(3mg/kg体重)の組合せを1週間に3回、3週間の期間にわたり経口投与した。各場合に、薬物投与後150分の待機時間後に、緑色光(波長540〜550nm、線量:15J/cm2)による全身照射を受けた。この処置の結果は、良好であった。朝のこわばりと疼痛の両方がかなり軽減した。以前の処置の結果と比較すると、自覚的な有害反応なしに、自覚症状及び他覚症状の明瞭な軽減が達成された。関節炎スコア(改善(%))は56であり、そして朝のこわばりのスコアは83%であった。臨床検査値(トランスアミナーゼ、血球数、赤血球沈降速度)には、変化がなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
400〜700nmの波長を有する光による光線療法の適用用製剤の製造のための、更には、哺乳動物及びヒトの皮膚及び/又は関節の乾癬及び炎症過程の処置のための、ポルフィリン合成の物質又は薬理学的に適合性のその塩の使用。
【請求項2】
活性成分としてサリチラートが追加して使用されることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項3】
活性成分として酸化防止剤が追加して使用されることを特徴とする、請求項2記載の使用。
【請求項4】
ポルフィリン合成の物質として5−アミノレブリン酸(ALA)が使用されることを特徴とする、請求項1〜3記載の使用。
【請求項5】
サリチラートとしてアセチルサリチル酸が使用されることを特徴とする、請求項1〜4記載の使用。
【請求項6】
酸化防止剤としてアスコルビン酸又は薬理学的に適合性のその塩が使用されることを特徴とする、請求項1〜5記載の使用。
【請求項7】
光の波長が、400〜700nmであることを特徴とする、請求項1〜6記載の使用。
【請求項8】
光の波長が、約545nmであることを特徴とする、請求項7記載の使用。
【請求項9】
関節炎、斑状乾癬、関節炎性乾癬、手根管圧迫症候群又はベクテレフ病のような神経障害の処置のための、請求項1〜8記載の使用。
【請求項10】
光線療法のための、請求項1〜9記載のポルフィリン合成の物質の使用。

【公表番号】特表2006−514072(P2006−514072A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566721(P2004−566721)
【出願日】平成15年12月23日(2003.12.23)
【国際出願番号】PCT/DE2003/004254
【国際公開番号】WO2004/064827
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(505272065)
【氏名又は名称原語表記】SAALMANN,Gerhard
【Fターム(参考)】