説明

光脳機能計測装置

【課題】 送受光プローブから装置本体に接続する光ファイバをなくして測定時の拘束感を解消した光脳機能計測装置を提供する。
【解決手段】被検者1の頭部に被せられたホルダ2に取り付けられる送光プローブA並びに受光プローブBと、装置本体Cとからなる光脳機能計測装置において、送光プローブAは、近赤外光を被検者の頭部に照射する発光素子5bと、発光素子5bを制御する制御部9と、装置本体Cとの無線機能部10と、電源7とを備え、受光プローブBは、被検者の脳内を通過した光を検出する光センサ12bと、光センサ12bで検出した光情報を収集するデータ収集部17と、データを装置本体に送信する無線機能部18と、電源14とを備え、装置本体Cは、送受光プローブA、Bと通信する無線通信部19と、該プローブを制御する制御部20と、受光プローブBより受信したデータを解析処理し表示装置22で画像化するデータ解析部21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光を用いて脳の活動を非侵襲で計測し、脳機能を測定する光脳機能計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近赤外光は、皮膚組織や骨組織を通過し、かつ、血液中のオキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビンにより吸収される性質を有する。近赤外光のこのような性質を利用して、非侵襲で脳活動を測定できる近赤外光分析法(Near infrared spectroscopy、以下NIRSと略す)を用いた経頭蓋的測定技術が、例えば特許文献1や特許文献2、特許文献3等で知られている。
【0003】
NIRSでは、被検者の頭皮上から近赤外光を照射し、脳皮質内を通過した光を頭皮上で受光して検出する。この検出光により、測定部位でのオキシヘモグロビン濃度、デオキシヘモグロビン濃度の変化から脳の活動データを計測し、取得した脳活動データに画像処理を行って画像化するものである。
【0004】
一般に、NIRSに用いる近赤外光光源には、高い波長純度と光強度のある半導体レーザが用いられ、NIRSの検出器には、高感度な光電子増倍管やアバランシェフォトダイオードが用いられている。そして近赤外光光源から発せられる照射光を被検者の測定部位に送り、測定部位からの検出光を検出器に送るために、送光用、受光用の光ファイバが用いられている。
【0005】
図7は、従来のNIRSを用いた脳機能計測装置を説明するための模式図である。
装置本体31の近赤外光光源32からコネクタ(図示せず)を介して延出された送光用光ファイバ33の先端に送光プローブ34が取り付けられ、装置本体31の光検出器35からコネクタ(図示せず)を介して延出された受光用光ファイバ36の先端に受光プローブ37が取り付けられている。被検者41の頭部にプローブ取付用の多数のソケット(取付孔)42を備えたホルダ43が頭皮に密着して被せられ、このソケットに送光プローブ34と受光プローブ37とを互いに近接する位置で対をなすように取り付ける。そして、近赤外光光源32から送光用光ファイバ33を介して送られてきた近赤外光を送光プローブ34から被検者41の頭皮に照射し、脳皮質内を通過した光を受光プローブ37で受光して受光用光ファイバ36を介して装置本体31の光検出器35に送られる。光検出器35で検出されたアナログ信号はアナログ/デジタル変換器38でデジタル電気信号に変換されてデータ解析部39でデータを解析して画像処理され、モニタ等の表示装置40で表示されるようになっている。
なお、近赤外光光源32や光検出器35を駆動させるための電気は、配線45を用いて電気的に接続された外部電源44から取得される。また、近赤外光光源32や光検出器35には、多数の送光用光ファイバ33や受光用光ファイバ36が接続されるためのコネクタが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−322612号公報
【特許文献2】特開2006−247253号公報
【特許文献3】特開2008−289710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の脳機能計測装置では、被検者の頭部と装置本体とを接続する送、受光用の光ファイバは、束になるとかなりの重量があるため、中間部がたるむと荷重がプローブに負荷されてプローブがホルダのソケットから外れたり、あるいは被検者の頭部に直接的に荷重が負荷されて被検者に不快感を与えたりするなどの弊害が生じていた。そのため、光ファイバの中間部を束ねて天井から吊すなどの工夫が必要となり、その作業が面倒であるとともに準備にかなりの時間を必要としていた。また、歩行などの運動時の脳活動を測定する場合には、光ファイバで移動範囲が制限されるため、被検者の自由な動きが妨げられるといった問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、送、受光プローブから装置本体に接続する光ファイバをなくして、光ファイバの存在による弊害や測定時の被検者の拘束を解消するとともに、上記した従来課題を解決する新規な光脳機能計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明では次のような技術的手段を講じた。すなわち、本発明の光脳機能計測装置は、被検者の頭部に近赤外光を照射し、当被検者の脳内を通過した光を計測することにより脳の活動を計測する光脳機能計測装置において、被検者の頭部に被せられたホルダのソケットに取り付けられる送光プローブ並びに受光プローブと、装置本体とからなり、前記送光プローブは、近赤外光を被検者の頭部に照射する発光素子と、発光素子を制御する制御部と、装置本体と通信する無線機能部と、電源となる電池とを備え、前記受光プローブは、被検者の脳内を通過した光を検出する光センサと、光センサで検出した光情報を収集するデータ収集部と、データを装置本体に送信する無線機能部と、電源となる電池とを備え、前記装置本体は、送光プローブ並びに受光プローブと通信する無線通信部と、これら送、受光プローブを無線で制御する制御部と、受光プローブより受信したデータを解析処理するデータ解析部とを備える構成とした。
【0010】
上記受光プローブのデータ収集部で取得したデータは、一定量蓄積して装置本体に送信するようにしてもよく、順次リアルタイムで装置本体に送信するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、送光プローブや受光プローブが電池をそれぞれ備えるため、発光素子や光センサを駆動することができる。さらに、近赤外光の照射や検出したデータの送受信を行うことができるため、従来のような送、受光プローブと装置本体とを接続する光ファイバをなくすことができる。これにより、光ファイバの存在による測定時の被検者への拘束をなくすことができるとともに、被検者に対する送、受光プローブの装着を短時間で容易にでき、かつ、装置全体をシンプルに構成することができるといった効果がある。
また、送光プローブと受光プローブとの取り付け数を簡単に増加・減少することができる。そして、装置本体も送光プローブと受光プローブと光ファイバを用いて接続される必要がないので、光ファイバを接続するためのコネクタを設ける必要がないため、小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光脳機能計測装置において、ホルダを被検者の頭部に装着した状態を示す説明図である。
【図2】ホルダの一部と、送、受光プローブを示す斜視図である。
【図3】送、受光プローブの外観を示す斜視図である。
【図4】送光プローブの概略的な断面図である。
【図5】受光プローブの概略的な断面図である。
【図6】本発明の光脳機能計測装置の構成を示すブロック図である。
【図7】従来の光脳機能計測装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明に係る光脳機能計測装置を、図1〜図6に示した実施例に基づいて詳細に説明する。図1はホルダを被検者の頭部に装着した状態を示す説明図であり、図2はホルダの一部を示す斜視図であり、図3は送、受光プローブの外観を示す斜視図であり、図4は送光プローブの概略的な断面図であり、図5は受光プローブの概略的な断面図であり、図6は本発明の光脳機能計測装置の構成を示すブロック図である。
【0014】
本発明に係る光脳機能計測装置は、被検者1の頭部に被せられたホルダ2のソケット3に取り付けられる送光プローブA並びに受光プローブBと、装置本体Cとから構成されている。ホルダ2は、被検者1の頭部の形態に合わせて密着して被せることができるように、柔軟なシート材や変形可能な部材で形成されている。
【0015】
送光プローブAは、ホルダ2のソケット3に着脱可能に差し込まれる円柱状(例えば、外径10mm)の差込み部4を備え、内部にレンズ5aと、制御基板6と、電源となるボタン型電池7とを備えている。
また、制御基板6には、近赤外光を被検者1の頭部に照射する発光素子(例えば、780nmの近赤外光を出射するLEDと、830nmの近赤外光を出射するLED)5bと、発光素子5bを駆動する光源駆動回路8と、光源駆動回路8を制御する制御回路9と、装置本体Cと通信する無線機能部10とが搭載され、制御基板6は、ボタン型電池7と接続端子7aを介して電気的に接続されている。
【0016】
受光プローブBは、ホルダ2のソケット3に着脱可能に装着される円柱状(例えば、外径10mm)の差込み部11を備え、内部にレンズ12aと、データ収集基板13と、電源となるボタン型電池14とを備えている。
また、データ収集基板13には、被検者1の脳内を通過した光を検出する光センサ(例えば、フォトダイオード)12bと、光センサ12bで検出したアナログ信号を増幅するアンプ15と、増幅したアナログ信号をデジタル電気信号に変換するアナログ/デジタル変換器16と、デジタル電気信号を収集するデータ収集回路17と、装置本体Cと通信する無線機能部18と、メモリモジュール(図示せず)とが搭載され、データ収集基板13は、ボタン型電池14と接続端子14aを介して電気的に接続されている。
【0017】
前記した送光プローブA並びに受光プローブBのボタン型電池7、14は、各プローブに対して交換ができるように装着されている。また、ボタン型電池7、14は、充電可能となっていてもよく、1個のボタン型電池7、14でなく2個のボタン型電池7、14が装着されるようにしてもよい。さらに、ボタン型電池7、14でなく太陽電池が取り付けられていてもよい。
【0018】
さらに、前記装置本体Cは、送光プローブA並びに受光プローブBと通信する無線通信部19と、これら送、受光プローブA、Bを無線で制御する制御部20と、受光プローブBより受信したデータを解析し画像処理するデータ解析部21と、画像処理されたデータを表示するモニタ等の表示装置22とから構成されている。また、装置本体Cを駆動させるための電気は、配線25を用いて電気的に接続された外部電源24から取得される。
【0019】
脳機能を測定するに際して、図1並びに図2に示すように、被検者1の頭部に被せられたホルダ2の測定部位にあるソケット3に、送、受光プローブA、Bを互いに近接する位置で対をなすように取り付ける。図面では便宜上、一対の送、受光プローブA、Bのみを示したが、実際には複数対の送、受光プローブが取り付けられる。
装置本体Cからの無線による指示により、送、受光プローブA、Bが起動すると、発光素子5bから被検者の頭部に近赤外光が所定のタイミングと時間幅とで照射され、当被検者の脳内を通過した光は、光センサ12bで所定のタイミングと時間幅とで検出される。検出されたアナログ信号は、アンプ15で増幅されてアナログ/デジタル変換器16に送られてデジタル電気信号に変換され、データ収集回路17で順次収集される。収集されたデータは一定量ごとにまとめられて無線機能部18で装置本体Cに送信される。このとき、送信するデータが、どの受光プローブBから送信されたものであるかが装置本体Cで区別されるように、シリアル番号等と一緒に送信されるようになっている。
【0020】
装置本体Cの無線通信部19で受信した受光プローブBからのデータは、従来の近赤外光分析法を利用した光脳機能計測装置と同様に、データ解析部21でデータ解析されて画像処理され、画像処理されたデータは表示装置22で画像表示される。
【0021】
上記のように、本発明に係る光脳機能計測装置では、送光プローブAや受光プローブBがボタン型電池7、14をそれぞれ備えている。また、近赤外光の照射や検出したデータの送受信を行うため、従来のような送、受光プローブと装置本体とを接続する光ファイバをなくすことができる。これにより、光ファイバの存在による測定時の拘束をなくすことができるとともに、被検者への送、受光プローブの装着を短時間で容易にでき、かつ、装置全体をシンプルに構成することができる。また、送光プローブと受光プローブとの取り付け数を簡単に増加・減少することができる。そして、装置本体も送光プローブと受光プローブと光ファイバを用いて接続される必要がないので、光ファイバを接続するためのコネクタを設ける必要がないため、小型化することができる。
【0022】
なお、上記実施例では、受光プローブBのデータ収集回路17に光センサ12bで取得したデータを一定量ごとにまとめて装置本体Cに送信するようにしたが、データを順次リアルタイムで装置本体Cに送信するようにしてもよい。
また、1個の送光プローブAに1個のボタン型電池7を備えるとともに1個の受光プローブBに1個のボタン型電池14を備えるような構成を示したが、1個の送光プローブAと1個の受光プローブBとに1個のボタン型電池を備えるとともに、1個の送光プローブAと1個の受光プローブBとを配線で電気的に接続するような構成としてもよい。
さらに、装置本体Cを駆動させるための電気は、配線25を用いて電気的に接続された外部電源24から取得されるような構成を示したが、装置本体Cにバッテリ等が内蔵されているような構成としてもよい。
【0023】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものでなく、本発明の目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、被検者の頭部に近赤外光を照射し、当被検者の脳内を通過した光を計測することにより近赤外光分光法を用いて脳の活動を計測する光脳機能計測装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0025】
A 送光プローブ
B 受光プローブ
C 装置本体
1 被検者
2 ホルダ
3 ソケット
5b 発光素子
7 電池
9 制御部
10 送光プローブの無線機能部
12b 光センサ
14 電池
18 受光プローブの無線機能部
19 装置本体の無線通信部
20 装置本体の制御部
21 データ解析部
22 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の頭部に近赤外光を照射し、当被検者の脳内を通過した光を計測することにより脳の活動を計測する光脳機能計測装置において、
被検者の頭部に被せられたホルダのソケットに取り付けられる送光プローブ並びに受光プローブと、装置本体とからなり、
前記送光プローブは、近赤外光を被検者の頭部に照射する発光素子と、発光素子を制御する制御部と、装置本体と通信する無線機能部と、電源となる電池とを備え、
前記受光プローブは、被検者の脳内を通過した光を検出する光センサと、光センサで検出した光情報を収集するデータ収集部と、データを装置本体に送信する無線機能部と、電源となる電池とを備え、
前記装置本体は、送光プローブ並びに受光プローブと通信する無線通信部と、これら送、受光プローブを無線で制御する制御部と、受光プローブより受信したデータを解析処理するデータ解析部とを備えることを特徴とする光脳機能計測装置。
【請求項2】
前記受光プローブのデータ収集部で取得したデータを一定量蓄積して装置本体に送信するようにした請求項1に記載の光脳機能計測装置。
【請求項3】
前記受光プローブのデータ収集部で取得したデータを順次リアルタイムで装置本体に送信するようにした請求項1に記載の光脳機能計測装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−223523(P2012−223523A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96449(P2011−96449)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)