説明

光蓄積型レーザーイオン化質量分析装置

【課題】 キャリヤガスに含まれる極微量の物質を効率よく同定・定量できる超音速ジェット多光子共鳴イオン化による分析装置を提供する。
【解決手段】 レーザーイオン化質量分析装置は、サンプル分子を含んだキャリヤガスを真空室17内へパルス的に噴射する12と、噴射されたキャリヤガス中のサンプル分子を選択的に光反応させるためのレーザー光照射システムと、光反応によって生成されたサンプル分子イオンを引き出す電場を形成するリペラー電極18及び引き出し電極19と、引き出されたサンプル分子イオンを質量分析する質量分析装置26とを有する。レーザー光照射システムは、パルスガス噴射装置12から噴射されて真空室17を並進するパルスガスが、フラット部を有するフラットトップ台形型圧力分布からフラット部を有しない三角型圧力分布に遷移する位置付近において、レーザー光をサンプル分子へ照射するように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速パルスバルブを備えた噴射装置のノズルから真空容器内へダイオキシン類サンプル分子を含んだキャリヤガスを噴出し、このガス流にレーザー光を照射して選択的にサンプル分子をイオン化し、これを質量分析計で検出・分析する光蓄積型のレーザーイオン化質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ごみ焼却炉等から排出されるダイオキシン類の濃度を常時監視し、施設の総合的な運転管理を実施することは、ダイオキシン類濃度の低減化を進める上で重要である。このため、「ダイオキシン類対策特別措置法」では、規制対象濃度基準を0.1ng−TEQ/Nmと定め、年一回以上の排出量測定を施設管理者に義務づけている。この排出量測定に用いられる分析法はJISで規定された標準分析法(JIS K 0311)であり、上記基準値の1000分の1以下の検出感度で精度良く分析することが出来る。しかしこの標準分析法では、多大な人手・時間・費用がかかり、特に排ガスのサンプリングから分析までの工程には1ヶ月以上必要とする。
近年、焼却炉施設に設置してダイオキシン類を直接迅速に分析できるレーザー多光子共鳴イオン化法(Jet−REMPI)による分析装置が提案された。この方法は、高速パルスバルブを備えた噴射装置のノズルから真空容器内へダイオキシン類サンプル分子を含んだキャリヤガスを噴出し、このガス流にレーザー光を照射して選択的にサンプル分子をイオン化し、これを質量分析計で検出・分析するものである。サンプル分子の同定は、同族体についてはサンプル分子親イオンの質量数(m/z)で行い、異性体の特定はサンプル分子の共鳴波長で行うことができる。
この方法では、高速パルスバルブのノズルからどの距離離れた位置のガス流にレーザー光を照射するのが最適かが、大きな技術的課題となる。特許文献1には、ガス流が連続流から分子流へ遷移する領域が最適位置であるとの知見が開示されている。レーザー光を照射するのに好適な位置、すなわちイオン化ゾーンは、キャリヤガスが真空中に膨張して形成される連続流ゾーンと分子流ゾーンの境界付近にあるとする。このイオン化ゾーンのノズル出口開口部からの距離Xの範囲は、気体分子運動論から、ノズル部から連続流ゾーンと分子流ゾーンの境界までの距離(X)を設定し、0.5X<X<3Xの範囲であるとしている。
上記「ダイオキシン類対策特別措置法」で規定されている4塩素化以上のダイオキシン類サンプル分子をJet−REMPI法により検出・分析するためには、ピコ秒やフェムト秒のパルス幅を有するレーザー光をサンプル分子に照射する必要がある。これはダイオキシン類サンプル分子が、塩素原子の数に比例して励起一重項状態の寿命が短くなる重原子効果を持つことによる。しかし、上記パルス幅を有するレーザー光をサンプル分子に照射して、ダイオキシン類を検出できても、同定・定量できた報告はない。さらに上記方法とは別に、ダイオキシン類を短励起寿命の励起一重項状態から遷移した長寿命の励起三重項状態でイオン化するために、イオン化ポテンシャルと励起三重項状態間のエネルギー以上の光子エネルギーを有するナノ秒パルス幅を持ったレーザー光をサンプル分子に照射する方法もある。しかし、この方法においても、ダイオキシン類を同定・定量できた報告はない。
特許文献1に記載された方法におけるサンプル分子異性体の同定は、サンプル分子に固有のレーザー光の共鳴波長で行うが、これは高速パルスバルブから噴射されたガスがイオン化ゾーンにおいて十分に冷却された結果、サンプル分子の振動および回転スペクトルが離散スペクトルとなることを前提としている。
非特許文献1には、高速パルスバルブから噴射されたガス流が十分に冷却されるためには、パルス的でない定常流と同等の特性を所定時間内に生成することが必須条件であるとの記載がある。さらに、その流れをパルスガスの時間圧力分布として高速電離真空計で観測すると、時間圧力分布にフラットトップ部が形成されていることが必須であると記載されている。またキャリヤガスの種類に応じて、形成されたフラットトップ部の最低持続時間が明記されており、その時間より長い場合には十分に冷却されたガス流が得られるとしている。
しかし、非特許文献1,2には、十分な持続時間を持ったフラットトップ部をパルスガスに形成するための具体的手段、すなわち、高速パルスバルブの構造条件、ノズルから噴射されたガス流が真空中を進行する過程の知見に関しては記載されてはいない。
【特許文献1】特開平8−222181号公報
【非特許文献1】John M. Hayes, Chem. Rev., 87, (1987) 745-760.
【非特許文献2】Katherine L. Saenger and John B. Fenn, J. Chem. Phys., 79(12), (1983) 6043-6045.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、キャリヤガスに含まれる極微量の物質を効率よく同定・定量できる超音速ジェット多光子共鳴イオン化による分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明に係るレーザーイオン化質量分析装置は、サンプル分子を含んだキャリヤガスを真空室17内へパルス的に噴射するパルスガス噴射装置12と、真空室17内に噴射されたキャリヤガス中のサンプル分子を選択的に光反応させるためのレーザー光を照射するレーザー光照射システムと、光反応によって生成されたサンプル分子イオンを引き出すための電場を形成するリペラー電極18及び引き出し電極19と、この2つの電極によって引き出されたサンプル分子イオンを質量分析するリフレクトロン型飛行時間質量分析装置のような質量分析装置26とを有する。
このレーザーイオン化質量分析装置におけるレーザー光照射システムは、パルスガス噴射装置12から噴射されて真空室17を並進するパルスガスが、フラット部を有するフラットトップ台形型圧力分布からフラット部を有しない三角型圧力分布に遷移する位置付近において、レーザー光をサンプル分子へ照射するように設定される。
【0005】
このパルスガス噴射装置12は、被測定ガス源35およびキャリヤガス源36に接続されたガス貯留空間58を備える。このガス貯留空間58は、フランジ54によって真空室17との間が遮断される。ノズル55が、フランジ54に支持される。ノズル55は、ガス貯留空間58に面するシート面59と、このシート面59の反対側にあって真空室17に面する外側面37と、シート面59と外側面37との間を貫通する通気路13を有する。弾性シール材56が、ノズル55のシート面59上に配置される。弁体57は、そのシート面が、弾性シール材56に接して通気路13を遮断する閉位置と、通気路13を開く開位置との間を電磁力駆動で変位可能である。弁体57は、それが開位置にあるときに、通気路13を流れるガスの流量が閉塞状態となるように設定される。そのために、好ましくは、弁体57おけるシール材56からのリフト距離が、通気路13のシート面59上の直径の0.25以上となるように設定される。さらには、通気路13のシート面59上の直径が、0.75mm以上あることが望ましい。
レーザー光照射システムは、パルスガス24の半値全幅長と比較して長い距離ノズル外側面37から離れた位置で、レーザー光9をパルスガス24へ照射するように配置されることが望ましい。
好ましくは、ノズル55の通気路13は、シート面59から外側面37へ向かう所定位置まで直径が等しい直管部と、その所定位置より直径が所定角度で外側面37に向かって円錐形に広がっていく発散管部とを持つ発散型通気路13aとする。さらに好ましくは、通気路13は、シート面59上において直径0.75mm以上で、直管部がシート面59から外側面37までの距離の3分の1以下であり、発散管部の発散角が4°〜20°である。
【0006】
サンプル分子を含んだ被測定ガスとしての大気もしくは燃焼炉排ガスは、キャリヤガスとしての希ガスもしくは軽ガスと混合され、パルスガス噴射装置12へ送られる。この混合ガス中の希ガスもしくは軽ガスの割合は、混合ガス総体積の80Vol%〜99.9Vol%であることが望ましい。被測定ガスとキャリヤガスは、エジェクタ34のような混合部において混合される。
サンプル分子を含んだキャリヤガスをガス貯留空間12に流入させるためのキャリヤガス流入管10およびガス貯留空間12からキャリヤガスの残部を排出するためのガス流出管11は、いずれも加熱可能に構成することができる。
【0007】
パルスガス噴射装置12によるパルスガスの噴射方向と、リペラー電極18と引き出し電極19によって引き出されるサンプル分子イオンの進行方向とを同方向とする。そのために、リペラー電極18と引き出し電極19には、パルスガスをレーザー光照射位置へ通過させることができるメッシュ38を具備させる。
マルチミラー組立体8が、レーザー光照射位置にレーザー光束の集合領域を形成するために設けられる。マルチミラー組立体8は、複数の凹面鏡からなる対向一対のミラーセット77,78を有する。ミラーセットを構成する各凹面鏡M1,M2,・・・Mnは、レーザー光が順次反射して往復することにより、レーザー光照射位置にレーザー光束の集合領域を形成するように角度を定めて配置される。レーザー光束の集合領域でサンプル分子を光反応させる。
被測定ガスの分析に先だって、既知の標準サンプル分子を分析することで、装置の分析感度の校正を行うために標準ガス発生装置33が設けられる。
標準ガス発生装置33は、サンプル分子を含んだキャリヤガスのガス貯留空間への流路10に、三方弁31を介して接続される。標準ガス発生装置33は、三方弁31に接続されるガス出口97と、標準サンプル分子を希釈するための希釈用ガス源32に接続されるガス入口81と、ガス出口97とガス入口81との間を接続するガス通路とを有する。このガス通路の途上には、これに連通するように標準サンプル分子を保有する拡散管79が配置される。この拡散管79は、加熱されるように、恒温槽に収容される。希釈用ガス源32と拡散管79と間のガス通路の途上には、希釈ガスの流量を調節するための調節器が配置される。被測定ガスが大気や焼却炉排気ガスである場合には、標準ガス発生装置33で用いられる希釈用ガスを希ガスもしくは軽分子ガスとすることが望ましい。
リペラー電極18と引き出し電極19は、マルチミラー組立体8で形成されたレーザー光束と衝突しない極板間隔と、極板間の電場スペクトルをパルスガスの進行方向とほぼ一致させるような極板面積を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、上記の手段を講じることにより、4塩素化以上置換されたダイオキシン類異性体の同定が可能となった。
図19に2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン(以下「2,3,7,8−TeCDD」という)サンプル分子の波長スペクトルを示す。図1に示すように、キャリヤガスに含まれるサンプル分子のイオン化には2色2光子イオン化法を用いた。1色目のレーザー光3は波長可変レーザー光であり、2色目のレーザー光4はNd:YAGレーザー光の5倍高調波(以下「213nm」という)を用いた。図の上側の波長スペクトルは、図5に示す弁体上部57bが0.25D以下の変位距離において通気路13から噴射されたパルスガスにレーザー光を照射してイオン化した波長スペクトルである。したがって、このパルスガスには、図2(a)に示すようなフラットトップ台形型圧力分布が形成されない。図の下側の波長スペクトルは、弁体上部57bが0.25D以上の変位距離にあるときに、通気路13から噴射されたパルスガスにレーザー光を照射してイオン化した波長スペクトルである。このパルスガスには、図2(a),(b)に示すようなフラットトップ台形型圧力分布が形成されている。そして、レーザー光照射位置は、パルスガスの圧力分布が、フラットトップ台形型から三角型(図2c)に遷移する位置付近である。使用したパルスガスのパルス時間半値幅はいずれも40(μsec)である。
パルスガス噴射装置12の弁体上部57bを0.25D以上閉位置から変位させること、通気路13から噴射されたパルスガス24の圧力分布が、フラットトップ台形型43(図2(a),(b))から三角型45(図2(a),(b))に遷移する位置付近においてレーザー光を照射すること、及びこのレーザー光照射位置とノズル外側面37との距離より短いガスパルスであること、3条件を満足しない場合、波長スペクトルは、図22の下側波形のように、ブロードである。これは、通気路13から噴射されたパルスガス24が、十分に冷却されていないためである。
一方、上記3つの条件を満たしている場合には、図22の上側波形のように、波長スペクトルはシャープである。これは、通気路13から噴射されたパルスガス24が、十分に冷却されているためである。
【0009】
従来4塩素化以上のダイオキシン類のイオン化には、ピコ秒もしくはフェムト秒のパルス幅を有するレーザー光を使用することが必須であった。しかし、ガスが十分に冷却されたことで、ダイオキシン類の波長スペクトルはシャープになり、さらにナノ秒レーザー光でもダイオキシン類のイオン化が可能となった。
すなわち、ガスが十分に冷却されていない場合は、ナノ秒レーザー光によるサンプル分子親イオンの検出ができないため、1色2光子イオン化によってサンプル分子親イオンを取得することは不可能であった。しかし、ガスを十分に冷却することにより、ナノ秒レーザー光による1色2光子イオン化が可能となる。
【0010】
ナノ秒レーザー光を用いて1色2光子イオン化法により、2,3,7,8−TeCDD親イオンの検出を行う場合、ノズルから噴射されたガスが十分に冷却されることにより励起一重項状態の寿命がナノ秒オーダーとなる。したがって、この場合のイオン化は励起一重項状態におけるものであると考えられる。また2色2光子イオン化法による同サンプルの親イオン検出におけるイオン化は、ナノ秒オーダーとなった励起一重項状態からのイオン化と、その励起一重項状態から系間交差した励起三重項状態からのイオン化であると考えられる。一般的に励起三重項状態は励起一重項状態より基底状態からのエネルギー差は小さい。故に、励起三重項状態からイオン化するためには、励起一重項状態からイオン化するよりも大きな光子エネルギーを持つレーザー光を用いなければならないといわれている。これを示すためには2色2光子イオン化法による信号強度の1色目のレーザー光3と2色目のレーザー光4間の遅延時間特性を調査すればよい。図20にその特性を調査した結果を示す。
図20の上段は、1色目のレーザー光3の波長を310.99nmとし、2色目のレーザー光4をNd:YAGレーザー光の第4高調波である266nmを使用した遅延時間特性結果である。一方、図20の下段は1色目のレーザー光3を同様に310.99nmとし、2色目のレーザー光4をNd:YAGレーザー光の第5高調波である213nmとしたときの遅延時間特性結果である。図20の上段の結果では、遅延時間が数ナノ秒で検出信号が増加し、また減少する傾向が観測されており、図20の下段の結果では、遅延時間数ナノ秒で検出信号が増加し、その後1マイクロ秒に向かって減少する傾向が観測された。図20の下段の結果は、励起三重項状態からのイオン化が数マイクロ秒であることを示している。
一方、図20の上段は、図20の下段の時間特性と比較して検出信号が出現する時間が数ナノ秒と短い。これは2色目のレーザー光266nmの光子エネルギーでは励起一重項状態からのみイオン化はできるが、励起三重項状態からイオン化はできないことを示している。この励起一重項状態からのイオン化によって得られた検出信号が、ナノ秒オーダーであることは従来から言われている現象と異なっている。故に、ガスが十分に冷却されることによって、4塩素化以上のダイオキシン類の励起一重項状態での寿命が延びたと考えられる。
【0011】
図21(a),(b)は、通気路13の形状の差異による2,3,4,7,8−ペンタクロロジベンゾフラン(以下「2,3,4,7,8−PeCDF」という)と1,2,3,7,8−ペンタクロロジベンゾフラン(以下「1,2,3,7,8−PeCDF」という)の波長スペクトルを示している。図21(a)は、0.75mm直径の直管型通気路13bを有するノズル67b(図7(b))を使用した場合のサンプル分子の波長スペクトルである。一方、図21(b)は、シート面66aでの直径1.1mm発散型通気路13aを有するノズル67a(図7(a))を使用した場合のサンプル分子の波長スペクトルである。図21(b)における波長スペクトルが、図21(a)の波長スペクトルより、ダイオキシン類異性体を分離するには好適である。
【0012】
発散型通気路13aを有するノズル67aを使用すると、質量スペクトルにおいて解離したスペクトル(フラグメントスペクトル)を軽減できる。前記したように、発散型通気路13aを有するノズル67aは通気路13aでのガス滞留を最小限に抑えられる利点がある。通気路13aから噴射されたパルスガス24中のサンプル分子が十分に冷却されていれば解離は起こらないと考えられる。しかし、冷却ガスに熱いガスが混合されていると、その熱いガス中に含まれているサンプル分子は解離を起こすと考えられる。
直管型通気路13bを有するノズル67bを用いた場合と、発散型通気路13aを有するノズル67aを用いた場合における2,3,7,8−TeCDDの質量スペクトルの差違を図22に示す。いずれの通気路13a,13bもシート面66における口径は同じく1.1mmである。
これによると直管型通気路13bを使用した場合は、フラグメントスペクトルが発生すると共に、親スペクトルの強度も小さい。一方、発散型通気路13aを使用した場合は、フラグメントスペクトルはほとんど発生しないと共に、信号強度も増加している。すなわち冷却されたサンプル分子数が増加したことを示している。故に、使用するノズルは、直管型通気路13bを有するノズル67bより発散型通気路13aを有するノズル67aが好適であると考えられる。
【0013】
図23は、図11に示す標準ガス発生装置33のガス源32からの希釈用ガスを窒素ガスとヘリウムガスの混合ガスとし、その混合比を変化させた場合において、本発明の質量分析装置で2,3,7,8−TeCDDのサンプル分子を分析したときの親スペクトル信号の強度を示している。この場合、実際の被測定ガスを大気と想定し、通気路の出口を通過するガス流の速度が大気とほぼ同等である窒素ガスを一方の代替ガスとした。また、実際の測定において用いられるキャリヤガスを希ガスと想定し、ヘリウムガスを他方の代替ガスとしたものである。なお、サンプル分子の濃度は一定としている。
図23より、本発明の質量分析装置の感度を増強するためには、窒素ガスにヘリウムガスを80Vol%〜99.9Vol%混合することが好適であると考えられる。すなわち、このことから、実際には、大気や焼却炉の排ガスのような被測定ガスに、キャリヤガスとしての希ガスを80Vol%〜99.9Vol%混合することが好適であると考えられる。
【0014】
図24は、図1におけるマルチミラー組立体8により形成されたレーザー光束9をベンゼンサンプル分子へ照射したときの照射回数(照射時間)とレーザー光エネルギーに対するベンゼンイオン信号量の依存性を示している。
従来のJet−REMPI法(例えば、レーザー光1回照射、レーザー光出力1mJ)と、マルチミラー組立体8を使用した本発明のレーザーイオン化質量分析装置を用いる方法(例えば、レーザー光8回照射、レーザー光出力5mJ)によるベンゼンガスの信号強度を比較すると、図24に示されるように1000倍程度の感度差がある。したがって、マルチミラー組立体8を使用してサンプル分子24にレーザー光を多重照射することが好適であると考えられる。なお、図24のグラフにおける横軸は、マルチミラー組立体へ入射するレーザー光7のエネルギーとサンプル分子24への照射時間を考慮した関数である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1において、焼却炉排ガスや大気等のサンプル分子を含んだ被測定ガスが、ガス源36から採取される。エジェクタ34は、管16で被測定ガスのガス源36に接続され、また管15でキャリヤガス源35に接続される。被測定ガスは、エジェクタ34にて、ガス源35からの希ガスもしくは軽ガスのような混合用のキャリヤガスと混合される。被測定ガスをガス源36から引き込むための駆動力は、エジェクタ34において生成される。サンプル分子を含んだキャリヤガスは三方弁31を介して加熱されたガス流入管10を通り、パルスガス噴射装置12のガス貯留空間58へ送られ、その一部は真空室17へパルスガス24となって噴射され、残りは加熱されたガス流出管11を通って、三方弁30を介し、ガス源36へ戻される。
本発明のレーザーイオン化質量分析装置を感度校正するため、標準ガス発生装置33として、高沸点定濃度有機物ガス発生装置が付設される。感度校正過程においては、希釈用ガス源32から管32aを介して標準ガス発生装置33へ希釈用ガスが送り込まれ、標準試料サンプル分子と混合され、管97a、三方弁31を介し、ガス流入管10を通り、パルスガス噴射装置12のガス貯留空間58へ送られ、その一部は真空室17へパルスガス24となって噴射され、残りは加熱されたガス流出管11を通って、三方弁30、管96aを介し、標準ガス発生装置33へ戻される。
真空室17へ噴射されたパルスガス24は、リペラー電極18のメッシュ38を通り、パルスガス噴射装置12のノズル外側面37からの所定距離離れた位置において、レーザー光9を照射され、選択的な光反応により、サンプル分子イオン29が生成される。
生成されたサンプル分子イオン29は、リペラー電極18と引き出し電極19との間で形成された電場によって、リフレクトロン型飛行時間質量分析装置26の方向へ引き出され、さらに引き出し電極19と接地電極20との間で形成された電場によって加速される。
加速されたサンプル分子イオン29は、イオンレンズ21によって集束され、さらに偏向電極22によって軌道が曲げられ、差動排気用アパーチャ23を通り、質量分析装置26へ引き込まれる。
質量分析装置26へ引き込まれたサンプル分子イオン29は、イオンビーム軌道25に沿って真空中を進行し、イオン反射電極27によって反射され、さらに真空中を進行して、MCP28に到達し、電気信号に変換されて検出される。
パルスガス24中のサンプル分子に光反応を起こさせるためのレーザー光9は、レーザー光照射システムによって生成、導入され、パルスガス24に照射される。レーザー光照射システムにおいて、励起用レーザー光発生装置1で発生した励起用レーザー光3が全反射ミラー5で反射され、レーザー光混合プリズム6へ入射される。またイオン化用レーザー光発生装置2で発生したイオン化用レーザー光4は、同様にレーザー光混合プリズム6へ入射される。レーザー光混合プリズム6へ入射した励起用レーザー光3はレーザー光混合プリズム6内を透過し、同様に入射したイオン化用レーザー光4はレーザー光混合プリズム6内を反射し、結果として二重レーザー光7となってプリズム6から導出される。
二重レーザー光7は、真空室17へ入射され、マルチミラー組立体8へ入射される。マルチミラー組立体8は、図9に示されるように、相対向する一対のミラーセット77,78を有する。各ミラーセット77,78は、複数の反射鏡M1,M2,M3・・・Mnを有する。各反射鏡M1,M2,M3・・・Mnは、2つのミラーセット77,78間でレーザー光9が環状に回転移動しつつ順次反射して往復するように、鏡面の角度を定めて配置される。ミラーセット77,78間を反射往復するレーザー光は、中間位置で交互に交差してレーザー光束9の柱状の集合領域Zを形成する。このレーザー光束9の集合領域Zでサンプル分子を光反応させる。
【0016】
図1に示すパルスガス噴射装置12の通気路13から真空室17中へ噴射されるパルスガス24は図16に示すような波形と考えられる。
「先頭部ガス」は、通気路13を通過するガスの流れがマッハ数M=1の臨界状態に達するまでの流れであり、所定の時刻を基点にして、時間の経過と共に流量が増加する。このガスは通気路13において閉塞した流れではないので、通気路13から真空室17中へ噴射したガスは超音速流より遅い速度で並進する。またノズル外側面37を通過するガス圧力も時間の経過と共に増加する。
「フラット部ガス」は、「先頭部ガス」に追従して通気路13を通過し、ガスの流れはマッハ数M=1の臨界状態に達している流れであり、閉塞しているので、時間の経過と共に流量の変化は見られない。またノズル外側面37を通過するガス圧力も時間の経過と共に変化がない。
「後尾部ガス」は、「フラット部ガス」に追従した流れであり、通気路13を通過するガスの流れがマッハ数M=1の臨界状態からガス流が終止するまでの流れであり、時間の経過と共に流量が減少する。この流れは閉塞した流れではないので、通気路13から真空室17中へ噴射したガスは超音速流より遅い速度で並進する。またノズル外側面37を通過するガス圧力も時間の経過と共に減少する。
これら「先頭部ガス」「フラット部ガス」および「後尾部ガス」を有するフラットトップ台形型圧力分布のパルスガス24が真空室17内を並進する。
【0017】
図2において、通気路13から真空室17へ噴射された直後のパルスガス42はフラットトップ台形型の圧力分布41を有しており(t=t1)、このパルスガス42が並進するに従って、フラット部持続時間が圧力分布41のフラット部持続時間より短い、フラットトップ台形型圧力分布43を伴ったパルスガス44に遷移し(t=t2)、さらに真空室17内を並進することで、パルスガス44はフラット部を有しない三角型圧力分布45を伴ったパルスガス46へ遷移する(t=t3)と考えられる。このフラットトップ台形型圧力分布43を伴ったパルスガス44が、三角型圧力分布45を伴ったパルスガス46へ遷移する所定位置において、パルスガス46にレーザー光9を照射することが望ましいと考えられる。
【0018】
図6は、パルスガス噴射装置12の通気路13から噴射されたパルスガス63,64,65のパルス長Lと、ノズル外側面37からレーザー照射位置までの距離Xとの相互関係を示している。図6(a)において、パルスガス63のパルス長Lは、距離Xと比較して長い。パルスガス63は、ノズル外側面37から距離X離れた位置でレーザー光9を照射される。図6(b)において、パルスガス64のパルス長Lは、図6(a)のパルスガス63と同等である。パルスガス64は、ノズル外側面37から距離X離れた位置でレーザー光9を照射されるが、この距離Xは、図6(a)の距離Xと比較すると短い。図6(c)において、距離Xは図6(a)と同等であるが、パルスガス65のパルス長Lは図6(a)におけるパルスガス63のパルス長距離Lと比較すると長い。
本発明のレーザーイオン化質量分析装置では、図6(a)に示された相互位置関係において、パルスガス63にレーザー光が照射されることが望ましい。
【0019】
図2、図6に示すパルスガス42,44,46,63,64,65がパルスガス噴射装置12の通気路13から真空室17へ噴射され、真空室17中を並進するときのパルスガスの流体状態を説明する。
「先頭部ガス」におけるガス流成分の平均流速をV1、「フラット部ガス」におけるガス流成分の流速をV2、「後尾部ガス」におけるガス流成分の平均流速をV3とすると、それぞれ平均流速の関係はV2≧V1≠V3と考えられる。平均流速V1を有する「先頭部ガス」は、真空室17中を並進する過程において、平均流速V2がより速い「フラット部ガス」に追いつかれ、これと混合されることにより、フラット部が消失していく。一方、平均流速V3がより遅い「後尾部ガス」は、平均流速V2を有する「フラット部ガス」から離れていく。すなわち、パルスガスの内部には、ノズル外側面37から離れるに従って混合ガスが生成される。そして、所定距離離れた位置において、パルスガスのフラット部は完全に消失し、三角型圧力分布に遷移する。
【0020】
従来、通気路13から噴射されるガス流の挙動は、気体分子運動論によって、以下のように説明される。図4に示されるガス貯留空間58においてキャリヤガスの気体分子同士の衝突で生じた熱エネルギーは、キャリヤガスが、断熱膨張しつつ真空室内を並進する際、並進エネルギー(並進速度)に遷移するに従って、失われていく(ガス温度が低下していく)。すなわち熱的エネルギーの保存が行われる。
この気体分子運動論によると、ノズルの通気路から真空中へ噴射されたガス流は、並進エネルギーの増加と共に並進速度が増加し、最終マッハ数に達する。ガス流の最終マッハ数(到達速度)は、ガス貯留空間58内の圧力とノズル口径の二つの条件から算出される。これに基づいて冷却最低温度も算出される。さらに最終マッハ数に到達する位置のノズル外側面からの距離も算出できる。この距離に至るまでのガス流は、連続流(気体分子同士の衝突がある)、この距離以降のガス流は分子流(気体分子同士の衝突がない)と定義されている。なお分子流の領域では、気体分子の衝突がないためガス温度の低下はなく、ガス温度は一定となる。故に気体分子運動論では、ノズルから噴射されたパルス状ガスを、時間的に変動のない定常流状態のガスと同等の単一ガスであるとの見解で取り扱っている。
【0021】
一方、図1に示されたパルスガス24の場合は、前述のように、部分的に3つの速度成分を有するガス流であると考えられる。3つのガス流成分がそれぞれの速度でノズルから噴射されるので、成分毎に断熱膨張が行われる。通気路13から噴射された直後では、成分毎に並進速度が異なるが、並進するに従って「先頭部ガス」ガス流は「フラット部ガス」ガス流に混合され、ガス流同士の衝突が行われる。このため、並進時間中にガス流の熱エネルギーが若干増加し、ガスの冷却効果も並進距離に対して緩やかに減少していく。ノズル外側面37からの所定の距離においてガスの混合は完了するが、ガス流内の分子間の衝突は継続している。この距離からさらに並進すると、分子間の衝突がなくなると共に、ガス流の形状は、フラットトップ台形型圧力分布から三角型圧力分布へ遷移する。このとき、ガス温度が最低温に達したことになる。すなわち、ガス流の圧力分布形状が、図2(c)におけるフラットトップ台形型圧力分布43から三角型圧力分布45へ遷移した位置(ノズル外側面37から距離X離れた位置)にレーザー光9を照射する。パルス状ガスにおけるそれぞれのガス成分についての並進距離と流速の関係を図17に示す。
【0022】
上記のような現象が真空室17で発現するためには、追加の条件が必要となる。図6(a)において、真空室内へ噴射されたパルスガス63のパルス半値全幅長(パルス長)Lが、外側面37からレーザー光9を照射する所定位置までの距離Xより短いことが必要である。以下、このようなパルス長Lが距離Xより短いパルスガスを「短パルスガス」という。すなわち、図6(b),(c)に示すような、パルス長Lが距離Xより長いガス(以下「長パルスガス」という)の場合、外側面37とレーザー光9の照射位置との間でガス流でつながっているため、定常流と同等であると考えられる。
発明者らは、実験により、図6(a)に示されるような短パルスガス63を噴射するためには、通気路13の直径が、0.75mm以上必要であるとの知見を得た。
例えば、図16において、サンプル分子を含んだヘリウムガスのような時間半値全幅40(μsec)の短パルスガスが真空室内へ1000(m/sec)で並進し、ノズル外側面からの距離100(mm)の位置でレーザー光を照射されるとすると(通気路直径:1.1mmφ、ガス貯留空間内気圧:1atm)、そのパルス長は、40(μsec)×1000(m/sec)=40(mm)である。したがって、この場合、レーザー光照射位置は、ノズル外側面からの距離40(mm)以上の条件を満足する。一方時間半値全幅200(μsec)の長パルスガスの場合は、パルス長が200(mm)となり、ガス流が、ノズル外側面とレーザー光を照射する位置との間でつながっているので、上記のように定常流と同等に見なされる。
【0023】
通気路13の直径が0.75mm以上であり、噴射されるガスが図6(a)に示すような短パルスガスである場合においては、パルス1個あたりのガス密度が大きく、さらにレーザー光9を照射する位置ではパルスガス内の気体分子の衝突が殆ど無いと考えられる。
このように、高密度、短パルスで、気体分子同士の衝突がほとんどないパルスガスを講学上「クリスタルフロー」と呼ぶ。クリスタルフロー状態では、十分にガスの冷却がなされているので、ガス中の4塩素化以上置換されたダイオキシン類異性体を本発明のレーザーイオン化質量分析装置によって、同定することができる。
【0024】
図2において、フラットトップ台形型圧力分布41を有するパルスガス42(図2(a))が、フラットトップ台形型圧力分布43を有するパルスガス44(図2(b))に遷移し、さらに、三角型圧力分布45を有するパルスガス46(図2(c))へ遷移する過程において、レーザー光照射位置決定装置を用いて、レーザー光9を照射する最適位置を実験的観測から確定することができる。レーザー光照射位置決定装置の概念図を図3に示す。
パルスガス噴射装置12を固定している真空蛇腹管47が真空容器48に接続される。パルスガス噴射装置12は、真空容器48内にパルス的にガスを噴射する通気路13を有する。真空容器48内には、高速電離真空計49が設けられる。真空容器48は、真空ポンプ50で真空排気される。
【0025】
例えば、真空容器48が1×10−4 (Pa)の真空度まで排気されたら、キャリヤガスボンベから噴射装置12のガス流入管10へキャリヤガスを流し、還流した余分のキャリヤガスがガス流出管11から排出されていることを確認する。駆動装置51を動作させキャリヤガス流24を真空中へ噴射させる。
真空中にキャリヤガス24が噴射されていることを、例えば電離真空計で確認後、高速電離真空計49のフィラメントがガス流の下流側へ向いていることを確認する。次いで、高速電離真空計の駆動装置52を動作させ、高速電離真空計49のフィラメントが点灯していることを確認する。
オシロスコープ53を動作させ、駆動装置52の電圧及び電流を計器目盛りの半分の量に調節し、オシロスコープ53にて、高速電離真空計49測定されるキャリヤガスパルスの圧力の時間波形を観測する。
オシロスコープ53にてキャリヤガスパルスの圧力の時間波形を観測できたら、駆動装置52の電圧及び電流を調節し、キャリヤガスパルスの圧力時間波形にフラットトップ部が出来ることを確認する。
観測された時間波形の一例を図16に示す。外側面37から高速電離真空計49までの距離が最適なレーザー光照射位置までの距離(X)よりも長い場合、駆動装置52の電圧及び電流を調節してもフラットトップ部を有するキャリヤガスの圧力時間波形は観測されない。
この場合は、真空容器48の上部に設置されている蛇腹管47を調整し、高速電離真空計49と通気路13との距離を近づける。これにより図16に示すフラットトップ部を有するキャリヤガスの圧力時間波形が観測できる。
図16に示す時間波形を確認後、通気路13から高速電離真空計49までの距離を徐々に伸ばし、かつ駆動装置52の電圧及び電流を調節し、フラットトップ部を確認する。
通気路13から高速電離真空計49までの距離を変化させている途中、フラットトップ部が消失する距離(X)付近を、最適レーザー光照射位置(X)とする。
最適レーザー光照射位置をXとし、およびノズル外側面からの距離をXとすると、実験によれば、0.5X < X < 1.5X、好ましくは、0.7X < X < 1.3X、より好ましくは、0.86X < X < 1.14Xとする。
使用する高速電離真空計49及びその駆動装置52の時間分解能は、立ち上がり時間5μsec以下とすることが望ましい。
【0026】
図2におけるフラットトップ台形型圧力分布41を有するパルスガス42を真空室17へ噴射可能なパルスガス噴射装置12の一例を図4に示す。
サンプル分子を含んだキャリヤガスはガス流入管10からガス貯留空間58を経て、ガス流出管11へ流れる。ガス貯留空間58は、弁体57の上部57bと弾性シール材56との接触、および弾性シール材56とノズル55のシート面59との接触によって、真空室17から遮断される。弁体57は、電磁力駆動によって通気路13を開閉可能である。弁体下部57aから弁体上部57bへの順にパルス電流を流すことで、生成された電磁的反発力が弁体上部57bを、弾性シール材56と接する閉位置から離れた開位置へ瞬時変位させ、閉位置へ戻る。この間に、ガス貯留空間58内のキャリヤガスの一部が、通気路13を通って、真空室17に噴射される。
【0027】
真空室17に噴射されたガスが超音速流となるためには、通気路13での流れがマッハ数M=1の臨界状態に達し、流量が閉塞(チョーキング)した状態、すなわちチョークフローとなることが必要である。時間的に連続で定常的に通気路13から真空室17内に噴射されるガスはチョークフローとなる。
しかし、時間的に不連続でパルス的に通気路13から真空室17内へ噴射されるガスがチョークフローになるとは限らない。パルスガス噴射装置12内の弁体上部57bが閉位置から開位置へ変位する距離が、所定距離以上でない限り、チョークフローとはならない。
【0028】
図5は、パルスガス噴射装置12から噴射されるパルスガスが、チョークフローとなるための条件を説明する模式図であり、(a)はパルスガス噴射装置12とガスの流束との関係を示し、(b)はそのガスの流束体を拡大して模式的に示すものである。
パルス的電磁力によって弁体上部57bが閉位置から開位置へ変位している間に、通気路13から真空室17へ噴射されるガスがチョークフローとなる条件を導出する。弁体上部57bが閉位置から変位するときに、弁体内でのガス流速V0と外側面37でのガス流速Vnが定義され、それぞれ下記のとおり表すことができる。
【数1】

ここでd0は弁体内に存在し、通気路13へ流入するガス61の流束体直径、Dは通気路13の口径(通気路13を進行するガス流束体62の直径)であり、hはガス61の流束体の高さ、すなわち弁体上部57bのシール材56(図4)からのリフト高さである。またQはガス流量であるが、Qは通気路13の上下で変化しないものとする。チョークフローを通気路13から真空室17へ噴射するためにはVn≧V0条件を満足する必要があり、
【数2】

となる。ここで流束体61の径と通気路13に関する近似式
【数3】

を仮定すると、上式は
【数4】

となりチョークフロー生成のための条件が決定される。パルスガス噴射装置12では閉位置から開位置までの距離が0.25D以上必要となる。故にチョークフロー条件はリフト高さhと通気路直径Dで決定される。
弁体上部57bがシール材56(図4)に接している閉位置から距離0.25D以上離れた開位置まで変位すると、通気路13から噴射されるパルスガスは、時間的に連続で定常的に通気路から真空室17内に噴射されるガスと同等のチョークフロー状態となる。真空室17内へ噴射されるガスは閉塞した流れなので、流量は一定となる。すなわちパルス的に真空室17に噴射されるガスに、時間の経過に依存しない、流量一定のフラット部が存在することになる。
【0029】
図1において、パルスガス24に含まれるサンプル分子を光反応させるレーザー光として、マルチミラー組立体8によって多重反射されたレーザー光束9を使用することが望まれる。
マルチミラー組立体8は、図9に示されるように、レーザー光線を全反射する多くの凹面鏡M1、M2・・・Mnを向かい合わせに配置することによって形成された像転送系であり、レーザー光線の交叉する中心部にイオン化効率のよいイオン化ゾーンZを作ることができる。
マルチミラー組立体8におけるレーザー光9は、図9(a)に示されるように、往路の円柱状のレーザー光(平行ビーム)を軸上の中央部に集め、図9(b)に示されるように、復路のレーザー光(収束ビーム)は軸から離れた外側を帰し、全体として鼓の紐のような反射光路を作ることができる。レーザー光は、外部光学系(例えば、ビームエクスパンダー)により収束ビームとして導入することで、往路を収束ビーム、復路を平行ビームとすることもできる。
マルチミラー組立体8によって形成されたレーザー光束9で、キャリヤガスに含まれたサンプル分子を光反応させ、その結果、生成されるサンプル分子イオン29の量は、単一レーザー光によって生成されるサンプル分子イオン量より多量であることが理論的にも実験的にも確認され、発表されている(例えば、Yasuo SUZUKI,et.al., Analytical Sciences 2001. VOL.17 SUPPLEMENT i563.参照)。この報告によると、ベンゼンガスを使用した実験では、単一レーザー光によって生成されるベンゼン分子イオンと比較して約1000倍の感度向上が達成できている。
【0030】
しかしながら、ガス源36内のガスに含まれている有害物質、特にダイオキシン類の存在量は極微量である。したがって、本発明のレーザーイオン化質量分析装置で定量分析するためには、図1、図2及び図6に示されるように、パルスガス噴射装置12から真空室17へ噴射されるパルスガス24の並進方向と、生成されるサンプル分子イオン29の進行方向が、レーザー光照射位置において同方向となるようにすることにより、装置感度を向上させる必要がある。これにより、パルスガス24の並進方向とサンプル分子イオン29の進行方向とが一致しない場合の10倍以上装置感度が向上することが実験的に確認された。
パルスガス24の並進方向と、サンプル分子イオン29の進行方向をレーザー光照射位置において同方向にするために、メッシュ38を備えたリペラー電極18と、メッシュ39を備えた引き出し電極19が用いられる。メッシュ38を備えたリペラー電極18は、パルスガス24の流れを乱さない。メッシュ39を備えた引き出し電極19は、パルスガス24の流れを乱さず、サンプル分子イオンを透過率100%付近で通過させることが出来る。リペラー電極18と引き出し電極19によって生成されるの方向は、パルスガス24の並進方向と同方向とすることが望ましい。
真空室17と質量分析装置26との間には、差動排気用アパーチャ23が設置される。これにより、サンプル分子イオン29の進行方向と同方向に進行して、接地電極20のメッシュ40を通過したパルスガス24が、質量分析装置26内へ流入することを極力防ぐことができる。
【0031】
図1、図9におけるマルチミラー組立体8で形成されたレーザー光束9をキャリヤガスに含まれたサンプル分子に照射する際、レーザー光束9の往路のビーム104と復路のビーム105がリペラー電極99と引き出し電極102に衝突しないようにする対策が必要である。電極99、102の間隔を広げる対処方法が考えられる。しかし、これでは電極99、102間に形成された電場が乱れて、サンプル分子イオンの軌道25が曲げられ、さらに所定の直径を有したイオンビーム25が発散もしくは集束することで、MCP28に到達するまでにサンプル分子イオン29の総量が減少すると考えられる。この問題を防ぐため、本発明のレーザーイオン化質量分析装置では、電極99および102の対向部面積を大きくし、また両者の相互間隔を広げ、さらに図1および図12(b)に示されるよにメッシュ38,39を具備させた。
なお図13,14,15において、リペラー電極99,18には1200Vの電位を印加し、さらに引き出し電極100,19には800Vの電位を印加する。図13は、1インチ×1インチの正方形のリペラー電極101と1インチ×1インチの正方形の引き出し電極102を極板間隔0.5インチで配置した場合に極板間に形成される電場ベクトルを示し、図14は、1インチ×1インチの正方形のリペラー電極101と1インチ×1インチの正方形の引き出し電極102を極板間隔1インチで配置した場合に極板間に形成される電場ベクトルを示し、図15は、3インチ×3インチの正方形のリペラー電極18と3インチ×3インチの正方形の引き出し電極19を極板間隔1インチで配置した場合に極板間に形成される電場ベクトルを示す。
図13と図15では、極板間に形成されている電場ベクトルはすべてパルスガス24の方向と同方向であるが、図14での電場ベクトルはパルスガス24と同方向ではない。従ってマルチミラー組立体8によって形成されたレーザー光束9によってサンプル分子イオン25を生成するためには、図15に示すような比較的広い極板対向部面積、極板間隔を備えることが必要である。
【0032】
ノズル67は、図7に示されるような通気路13の形状の異なるものを適宜採用できる。図7(b)に示されるノズル67bにおいては、通気路13bが、シート面66bから外側面68bまで同一直径Dである。図7(a)に示されるノズル67aにおいては、通気路13aが、シート面66aから所定位置まで同一直径Dで、その位置から外側面68aに向かって所定の角度で円錐形状に直径が広がる。好ましくは、発散型通気路13aを有するノズル67aが採用される。より好ましくは発散型通気路13aの直管部直径が0.75mm以上である。さらに好ましくは発散型通気路13aの直管部直径が0.75mm以上、直管部長さはシート面66aから外側面68aまでの距離の3分の1以下、円錐管部の拡散角4°〜20°である。
【0033】
発散型通気路13aを有するノズル67aは、Robert E.Smith and Roy J.Matz, Trans. ASME, Series D, J. Basic Eng., 84−4(1962)p.434 に記載されているラバール型通気路を有するノズルをモデルとしている。このモデルは風洞の流量測定をするための研究を用途として考案されたものである。このノズルは、クラスター生成用として一般的に使用されており、クラスター分析装置には広く使用されている。しかし、本発明においてはクラスターの生成用としてではなく、分析装置の検出感度向上および質量スペクトルの品質向上を目的として、発散型通気路13aが採用される。発散型通気路13aでは、直管型通気路13bと比較すると、通気路出口における噴出ガスのマッハ数が3.06〜3.62倍向上する。これにより、パルスガスの冷却効果がより促進され、通気路13a出口のガス温度が0.51〜0.39倍低下する。
図7(b)に示されるように、直管型通気路13bを通過するガス流70bとノズル67bとの間には、ガス滞留部69bが発生し、通気路13bの出口からは冷却されたガス流70bとガス滞留部69bに滞留された熱いガスが、混合されて真空室17へ噴射される。一方、図7(a)に示されるように、発散型通気路13aを通過するガス流70aとノズル67aとの間のガス滞留部69aは最小限に押さえられ、通気路13aの出口からは冷却されたガス流70aのみが真空室17へ噴射される。
【0034】
図1において、サンプル分子を含んだ被測定ガスのガス源36を大気環境もしくは燃焼炉の排ガス流路とし、キャリヤガス源35から送出されるキャリヤガスを希ガスもしくは軽ガスとすることができる。被測定ガスとキャリヤガスは、エジェクタ34のような混合部において混合される。生成される被測定ガスとキャリヤガスとの混合ガスにおけるキャリヤガスの割合が、混合ガス総体積の80Vol%〜99.9Vol%になるように混合部34を調整する。
図8においてエジェクタ34は、キャリヤガス源35から希ガスもしくは軽ガスを引き込むために設置された配管15とエジェクタ内ノズル73を接続するための駆動側フランジ71と、ガス源36から被測定ガスを引き込むための配管15とエジェクタ本体74とを接続するための吸引側フランジ76と、混合ガスをガス噴射装置12へ送る管10とエジェクタ本体とを接続する吐出側フランジ75を有する。
【0035】
本発明のレーザーイオン化質量分析装置において、キャリヤガスに含まれたサンプル分子を分析する際、キャリヤガスの種類によって装置感度および被測定サンプル分子の同定に差が生じる。これは、キャリヤガスの種類によって、通気路13から真空室17中に噴射される流速が異なり、ガス流速に比例してガス温度の冷却度が増すためである。
図18に大気とヘリウムガスの通気路13内での速度に対する確率密度分布関数を示した。確率密度分布内の面積は、ガス量を示している。大気においてもヘリウムガスにおいてもガス量は等しい。また確率密度分布の半値全幅はガス温度を示している。流速が遅い大気は、冷えにくく、また平均流速でのガス量も少ない。一方、流速が速いヘリウムは冷却されやすく、平均流速でのガス量も多い。
図4において、ノズル55のシート面59と外側面37の間での通気路13におけるガスの流速算出には、
【数5】

の関係式を用いる。ここで、aは流速、kは比熱比、Tは断熱膨張前の気体の温度、mはガスの分子量、R0はガス定数(=8.31443J/mol・K)である。この算出式から代表的なガスの通気路13における流速を算出すると、下表のとおりとなる。
【表1】

この表から判断されるように、通気路におけるガスの流速は軽分子ガスおよび希ガスが大きく、分子量の増加と共に遅くなる。ダイオキシン類の様なサンプル分子は、大気空間および燃焼炉排ガスに含まれている。このガスを直接レーザーイオン化質量分析装置に導入すると、流速が低いために装置感度が低減する。そこで、被測定ガスに、キャリヤガスとして、希ガスもしくは軽分子ガスを混合する。キャリヤガスの混合により、被測定ガスが希釈されことで、体積あたりのサンプル分子の個数は減少するが、装置感度は増加する。
【0036】
図1において、ガス源36からの被測定ガスに含まれるサンプル分子を本発明のレーザーイオン化質量分析装置で分析・検出するに先だって、標準ガス発生装置33で生成した標準試料ガスをレーザーイオン化質量分析装置で分析・検出し、装置の感度校正を行う。
標準ガス発生装置33は、希釈用ガスに既知量のサンプル分子を混合してなる標準試料ガスを生成する。図11に標準ガス発生装置33の一例を示す。図11において、希釈用ガス源32から希釈用ガスが装置内へ導入される。希釈用ガスは、キャリヤガスと同一の希ガスもしくは軽ガスと、被測定ガスと性質の同等の大気等を混合したものである。希ガスもしくは軽ガスの混合比を80Vol%〜99.9Vol%とする。希釈用ガスは、入口81からガス発生装置33へ流入し、精製用活性炭フィルタ82、チェック弁83a、調節器84を経て恒温槽80へ入る。希釈用ガスは、熱交換チューブ85を通過することによって加熱され、一部はホルダ86に入り、拡散管79内発生した標準サンプル分子と混合され、混合器87へ流入する。加熱された希釈用ガスの残部は、弁88を介して、混合器87へ流入し、ここでサンプル分子を含む希釈用ガスと混合されて標準ガスが生成される。混合器87で混合された標準ガスは、弁89a、ガス採取口97、管97a、三方弁31を経て、ガス流入管10へ流入する。そして、標準ガスは、図1に示すように、ガス流入管10からガス貯留空間58へ入り、一部は真空室17へ噴射されて質量分析の用に供され、残部はガス流出管11へ排出される。次いで、残部ガスは、図11に示すように、三方弁30、管96a、ガス戻り口96、弁89b、弁83bを介して、活性炭フィルタ91a,91bを通ることでスサンプル分子が除去され、希釈用ガスのみとなる。通過した希釈用ガスは、弁95、吸引ポンプ94またはバイパス流量弁92を通ってガス出口93に達し、装置33外へ排出される。真空計90は、吸引ポンプ94を動作させたときの、ガス流路圧力を観測するために使用される。その圧力調節は、流量調節弁95によって行われる。標準ガスを使用しない場合には、ガスは、弁89aから弁89bへ流され、排出経路に導入される。
【0037】
図10に示すように、標準ガス発生装置33の恒温槽80内に設置された拡散管79からサンプル分子が発生し、希釈用ガスと混合されることで、所定濃度の標準サンプル分子を含んだキャリヤガスを生成する。
拡散管79から発生した標準サンプル分子と希釈用ガスの混合によって生成される混合ガスの濃度は、
【数6】

の式で求めることができる。ここでCは発生濃度(μg/m)、dは拡散管の直径(mm)、Lはディフュージョンチューブの長さ(cm)、tは恒温槽の温度(℃)、Fは希釈用ガスの流量(L/min)、Mは対象物質の分子量(g/mol)、Mは対象物質に類似した構造を持つ物質の分子量(g/mol)、DA(25)は対象物質に類似した構造をもつ物質Aの25℃における拡散係数(cm/sec)、Psaは恒温槽温度t(℃)における試料の飽和蒸気圧(Torr)である。
またPsa(Torr)はAntoineの式
【数7】

で求めることができる。ここでA、B、CはAntoine定数であり、大抵の物質に関するAntoine定数は、例えば、日本化学会編「化学便覧 基礎編 改訂第4版」(丸善)に掲載されている。
算出の一例として、1,2−ジクロロベンゼンの発生濃度を算出する。拡散管の直径d=1.5(mm)、ディフュージョンチューブの長さL=5(cm)、恒温槽温度t=100(℃)、希釈用ガスの流量F=1(L/min)、1,2−ジクロロベンゼンの分子量M=147(g/mol)、対象物質に類似した構造を持つ物質の分子量は、モノクロロベンゼンの分子量MA=112.56(g/mol)、対象物質に類似した構造をもつ物質Aの25℃における拡散係数はモノクロロベンゼンの25℃における拡散係数を使用しDA(25)=0.073とし、Antoine定数をそれぞれA=7.0703、B=1649.55、C=213.31とすると、Antoine式から恒温槽温度t=100(℃)における飽和蒸気圧は、Psa=63.88(Torr)となり、これらを前記発生濃度算出式へ代入すると、発生濃度C=6787.527(μg/m)となる。
【0038】
希釈ガスを加圧して送出する標準ガス発生装置33を本発明のレーザーイオン化質量分析装置における感度校正に適用するのは、以下の理由による。希釈ガスに使用されるガスは、空気、希ガス、軽ガスなどの軽い分子量であり、これに高分子量のサンプル分子を混合し、静止状態にすると、重力により軽い分子と重い分子がガス貯留空間58内で分離して横たわるので、その横たわる場所によって、濃度差が生じる。一方、希釈ガスが加圧されてガス貯留空間58内で流れていると、濃度が均一な層流となり、真空室17へ噴射されるサンプル分子濃度も均一となり、サンプル分子量の再現性がよいからである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、高速パルスバルブを備えた噴射装置のノズルから真空容器内へダイオキシン類サンプル分子を含んだキャリヤガスを噴出し、このガス流にレーザー光を照射して選択的にサンプル分子をイオン化し、これを質量分析計でキャリヤガスに含まれる極微量の物質を効率よく同定・定量するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】レーザーイオン化質量分析装置の概略的斜視図である。
【図2】真空室内を並進するパルスガスの概念図である。
【図3】最適レーザー光照射位置決定装置の概念図である。
【図4】パルスガス噴射装置内の詳細図である。
【図5】パルスガス噴射装置から噴射されるパルスガスがチョークフローとなるための条件を示した図である。
【図6】パルスガスのパルス長と、レーザー光照射位置との関係を示した概略図である。
【図7】直管型通気路を有するノズルと、発散型通気路を有するノズルの概略図であり、それぞれの通気路を流れるキャリヤガスの模式図を含んでいる。
【図8】エジェクタの概略図である。
【図9】マルチミラー組立体の説明図である。
【図10】拡散管を用いた標準ガス発生装置の説明図である。
【図11】標準ガス発生装置の説明図である。
【図12】リペラー電極と引き出し電極の説明図である。
【図13】リペラー電極と引き出し電極の間で生成された電場パターンの計算結果を示した図である。
【図14】リペラー電極と引き出し電極の間で生成された電場パターンの計算結果を示した図である。
【図15】リペラー電極と引き出し電極の間で生成された電場パターンの計算結果を示した図である。
【図16】ノズルからの噴出ガスの圧力分布を示す波形のグラフである。
【図17】パルスガスを構成する3成分のガス流と混合されたガス成分の並進距離と流速の関係を示すグラフである。
【図18】キャリヤガスの種類(例えば、大気とヘリウムガス)によって異なる通気路内での確率密度分布関数を説明したグラフである。
【図19】通気路から噴射された2,3,7,8−TeCDD標準サンプル分子を含んだ混合ガスが十分冷却された状態と、不十分な冷却状態でのレーザーイオン化質量分析による1色2光子イオン化波長スペクトルおよび2色2光子イオン化波長スペクトルの観測結果を示すグラフである。
【図20】十分に冷却された2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン標準サンプル分子を含んだキャリヤガスをナノ秒パルス幅のレーザー光で2色2光子イオン化した際、励起用レーザー光とイオン化用レーザー光(266nmおよび213nmを使用)間の時間間隔を変えたときのイオン信号量の変化を示したグラフである。
【図21】通気路形状の差異による1,2,3,7,8−ペンタクロロジベンゾフランと2,3,4,7,8−PeCDFの波長スペクトル観測結果を示したグラフである。
【図22】発散型ノズルと直管型ノズルの差異による、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン標準サンプル分子を含んだキャリヤガスをナノ秒パルス幅のレーザー光で2色2光子イオン化した際の質量スペクトル観測結果を示したグラフである。
【図23】希釈用ガスとして窒素、リウムガス混合ガスを使用し、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン(TeCDD)標準サンプル分子を含んだ混合ガスを2色2光子イオン化した際のヘリウムガス混合割合とイオン信号量の関係を示したグラフである。
【図24】マルチミラー組立体により形成されたレーザー光束をベンゼンサンプル分子へ照射したときの、レーザー光の照射回数(照射時間)とレーザー光エネルギーに対するベンゼンイオン信号量の依存性を示したグラフである。
【符号の説明】
【0041】

1 励起用レーザー光発生装置
2 イオン化用レーザー光発生装置
3 励起用レーザー光
4 イオン化用レーザー光
5 全反射ミラー
6 レーザー光混合プリズム
7 二重レーザー光
8 マルチミラー組立体
9 レーザー光束
10 ガス流入管
11 ガス流出管
12 パルスガス噴射装置
13 通気路
13a 発散型通気路
13b 直管型通気路
14 パルスガス噴射軌道
15 管
16 管
17 真空室
18 メッシュ付きリペラー電極
19 引き出し電極
20 接地電極
21 イオンレンズ
22 イオン偏向電極
23 差動排気用アパーチャ
24 パルスガス
25 イオンビーム軌道
26 リフレクトロン飛行時間型質量分析装置
27 イオン反射電極
28 MCP
29 サンプル分子イオン
30 三方弁(ガス流出用)
31 三方弁(ガス流入用)
32 希釈用ガス源
33 標準ガス発生装置
34 エジェクタ(キャリヤガス混合部)
35 キャリヤガス源
36 被測定ガス源
37 外側面
38 リペラー電極用メッシュ
39 引き出し電極用メッシュ
40 接地電極用メッシュ
41 パルスガスの圧力時間分布
42 パルスガス
43 パルスガスの圧力時間分布
44 パルスガス
45 パルスガスの圧力時間分布
46 パルスガス
47 真空蛇腹管
48 真空容器
49 高速電離真空計
50 真空ポンプ
51 パルスガス噴射装置の駆動装置
52 高速電離真空計の駆動装置
53 オシロスコープ
54 フランジ
55 ノズル
56 弾性シール材
57 弁体
57a 弁体上部
57b 弁体下部
58 ガス貯留空間
59 シート面
61 通気路へ流入するガス
62 通気路を進行するガス
63 パルスガス
64 パルスガス
65 パルスガス
66 シート面
66a シート面
66b シート面
67 ノズル
67a 発散型通気路を有するノズル
67b 直管型通気路を有するノズル
68 外側面
68a ノズルの外側面
68b ノズルの外側面
69 ガスの滞留部
69a ガスの滞留部
69b ガスの滞留部
70 通気路を流れるガス
70a 通気路を流れるガス
70b 通気路を流れるガス
71 駆動側フランジ
72 エジェクタ本体のフランジ
73 ノズル
74 スロート部
75 吐出側フランジ
76 吸引側フランジ
77 ミラーセット
78 ミラーセット
79 拡散管
80 恒温槽
81 希釈用ガス入口
82 希釈用ガス精製用活性炭
83 漏れチェック弁
83a 希釈用ガス漏れチェック弁
83b 排出ガス漏れチェック弁
84 調節器
85 熱交換チューブ
86 発散管ホルダ
87 混合器
88 流路切り替え弁
89 発生ガス採取弁
89a 発生ガス採取口側発生ガス採取弁
89b 発生ガス戻り口側発生ガス採取弁
90 真空計
91 排出ガス処理用活性炭
92 バイパス流量弁
93 浄化後排出ガス出口
94 吸引ポンプ
95 流量調節弁
96 発生ガス採取口
97 発生ガス戻り口
98 レーザー光
99 リペラー電極(単一レーザー光用)
100 引き出し電極(単一レーザー光用)
101 メッシュ(単一レーザー光用リペラー電極に付属)
102 メッシュ(単一レーザー光用引き出し電極に付属)
103 多面鏡で形成された往路の円柱状レーザー光
104 多面鏡で形成された復路のレーザー光
D 通気路直径(m)
L パルスガスのパルス長(圧力分布の半値全幅長)(m)
外側面37とレーザー光照射位置間距離(m)
h 通気路13へ流入するガスの流束体高さ(m)
通気路13へ流入するガスの流束体断面の直径(m)
M1,M2,・・・Mn 凹面鏡
Z イオン化ゾーン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速パルスバルブを備えた噴射装置のノズルから真空容器内へダイオキシン類サンプル分子を含んだキャリヤガスを噴出し、このガス流にレーザー光を照射して選択的にサンプル分子をイオン化し、これを質量分析計で検出・分析する光蓄積型のレーザーイオン化質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ごみ焼却炉等から排出されるダイオキシン類の濃度を常時監視し、施設の総合的な運転管理を実施することは、ダイオキシン類濃度の低減化を進める上で重要である。このため、「ダイオキシン類対策特別措置法」では、規制対象濃度基準を0.1ng−TEQ/Nmと定め、年一回以上の排出量測定を施設管理者に義務づけている。この排出量測定に用いられる分析法はJISで規定された標準分析法(JIS K 0311)であり、上記基準値の1000分の1以下の検出感度で精度良く分析することが出来る。しかしこの標準分析法では、多大な人手・時間・費用がかかり、特に排ガスのサンプリングから分析までの工程には1ヶ月以上必要とする。
近年、焼却炉施設に設置してダイオキシン類を直接迅速に分析できるレーザー多光子共鳴イオン化法(Jet−REMPI)による分析装置が提案された。この方法は、高速パルスバルブを備えた噴射装置のノズルから真空容器内へダイオキシン類サンプル分子を含んだキャリヤガスを噴出し、このガス流にレーザー光を照射して選択的にサンプル分子をイオン化し、これを質量分析計で検出・分析するものである。サンプル分子の同定は、同族体についてはサンプル分子親イオンの質量数(m/z)で行い、異性体の特定はサンプル分子の共鳴波長で行うことができる。
この方法では、高速パルスバルブのノズルからどの距離離れた位置のガス流にレーザー光を照射するのが最適かが、大きな技術的課題となる。特許文献1には、ガス流が連続流から分子流へ遷移する領域が最適位置であるとの知見が開示されている。レーザー光を照射するのに好適な位置、すなわちイオン化ゾーンは、キャリヤガスが真空中に膨張して形成される連続流ゾーンと分子流ゾーンの境界付近にあるとする。このイオン化ゾーンのノズル出口開口部からの距離Xの範囲は、気体分子運動論から、ノズル部から連続流ゾーンと分子流ゾーンの境界までの距離(X)を設定し、0.5X<X<3Xの範囲であるとしている。
上記「ダイオキシン類対策特別措置法」で規定されている4塩素化以上のダイオキシン類サンプル分子をJet−REMPI法により検出・分析するためには、ピコ秒やフェムト秒のパルス幅を有するレーザー光をサンプル分子に照射する必要がある。これはダイオキシン類サンプル分子が、塩素原子の数に比例して励起一重項状態の寿命が短くなる重原子効果を持つことによる。しかし、上記パルス幅を有するレーザー光をサンプル分子に照射して、ダイオキシン類を検出できても、同定・定量できた報告はない。さらに上記方法とは別に、ダイオキシン類を短励起寿命の励起一重項状態から遷移した長寿命の励起三重項状態でイオン化するために、イオン化ポテンシャルと励起三重項状態間のエネルギー以上の光子エネルギーを有するナノ秒パルス幅を持ったレーザー光をサンプル分子に照射する方法もある。しかし、この方法においても、ダイオキシン類を同定・定量できた報告はない。
特許文献1に記載された方法におけるサンプル分子異性体の同定は、サンプル分子に固有のレーザー光の共鳴波長で行うが、これは高速パルスバルブから噴射されたガスがイオン化ゾーンにおいて十分に冷却された結果、サンプル分子の振動および回転スペクトルが離散スペクトルとなることを前提としている。
非特許文献1には、高速パルスバルブから噴射されたガス流が十分に冷却されるためには、パルス的でない定常流と同等の特性を所定時間内に生成することが必須条件であるとの記載がある。さらに、その流れをパルスガスの時間圧力分布として高速電離真空計で観測すると、時間圧力分布にフラットトップ部が形成されていることが必須であると記載されている。またキャリヤガスの種類に応じて、形成されたフラットトップ部の最低持続時間が明記されており、その時間より長い場合には十分に冷却されたガス流が得られるとしている。
しかし、非特許文献1,2には、十分な持続時間を持ったフラットトップ部をパルスガスに形成するための具体的手段、すなわち、高速パルスバルブの構造条件、ノズルから噴射されたガス流が真空中を進行する過程の知見に関しては記載されてはいない。
【特許文献1】特開平8−222181号公報
【非特許文献1】John M. Hayes, Chem. Rev., 87, (1987) 745-760.
【非特許文献2】Katherine L. Saenger and John B. Fenn, J. Chem. Phys., 79(12), (1983) 6043-6045.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、キャリヤガスに含まれる極微量の物質を効率よく同定・定量できる超音速ジェット多光子共鳴イオン化による分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明に係るレーザーイオン化質量分析装置は、サンプル分子を含んだキャリヤガスを真空室17内へパルス的に噴射するパルスガス噴射装置12と、真空室17内に噴射されたキャリヤガス中のサンプル分子を選択的に光反応させるためのレーザー光を照射するレーザー光照射システムと、光反応によって生成されたサンプル分子イオンを引き出すための電場を形成するリペラー電極18及び引き出し電極19と、この2つの電極によって引き出されたサンプル分子イオンを質量分析するリフレクトロン型飛行時間質量分析装置のような質量分析装置26とを有する。
このレーザーイオン化質量分析装置におけるレーザー光照射システムは、パルスガス噴射装置12から噴射されて真空室17を並進するパルスガスが、フラット部を有するフラットトップ台形型圧力分布からフラット部を有しない三角型圧力分布に遷移する位置付近において、レーザー光をサンプル分子へ照射するように設定される。
【0005】
このパルスガス噴射装置12は、被測定ガス源35およびキャリヤガス源36に接続されたガス貯留空間58を備える。このガス貯留空間58は、フランジ54によって真空室17との間が遮断される。ノズル55が、フランジ54に支持される。ノズル55は、ガス貯留空間58に面するシート面59と、このシート面59の反対側にあって真空室17に面する外側面37と、シート面59と外側面37との間を貫通する通気路13を有する。弾性シール材56が、ノズル55のシート面59上に配置される。弁体57は、そのシート面が、弾性シール材56に接して通気路13を遮断する閉位置と、通気路13を開く開位置との間を電磁力駆動で変位可能である。弁体57は、それが開位置にあるときに、通気路13を流れるガスの流量が閉塞状態となるように設定される。そのために、好ましくは、弁体57おけるシール材56からのリフト距離が、通気路13のシート面59上の直径の0.25以上となるように設定される。さらには、通気路13のシート面59上の直径が、0.75mm以上あることが望ましい。
レーザー光照射システムは、パルスガス24の半値全幅長と比較して長い距離ノズル外側面37から離れた位置で、レーザー光9をパルスガス24へ照射するように配置されることが望ましい。
好ましくは、ノズル55の通気路13は、シート面59から外側面37へ向かう所定位置まで直径が等しい直管部と、その所定位置より直径が所定角度で外側面37に向かって円錐形に広がっていく発散管部とを持つ発散型通気路13aとする。さらに好ましくは、通気路13は、シート面59上において直径0.75mm以上で、直管部がシート面59から外側面37までの距離の3分の1以下であり、発散管部の発散角が4°〜20°である。
【0006】
サンプル分子を含んだ被測定ガスとしての大気もしくは燃焼炉排ガスは、キャリヤガスとしての希ガスもしくは軽分子ガスと混合され、パルスガス噴射装置12へ送られる。この混合ガス中の希ガスもしくは軽分子ガスの割合は、混合ガス総体積の80Vol%〜99.9Vol%であることが望ましい。被測定ガスとキャリヤガスは、エジェクタ34のような混合部において混合される。
サンプル分子を含んだキャリヤガスをガス貯留空間12に流入させるためのキャリヤガス流入管10およびガス貯留空間12からキャリヤガスの残部を排出するためのガス流出管11は、いずれも加熱可能に構成することができる。
【0007】
パルスガス噴射装置12によるパルスガスの噴射方向と、リペラー電極18と引き出し電極19によって引き出されるサンプル分子イオンの進行方向とを同方向とする。そのために、リペラー電極18と引き出し電極19には、パルスガスをレーザー光照射位置へ通過させることができるメッシュ38を具備させる。
マルチミラー組立体8が、レーザー光照射位置にレーザー光束の集合領域を形成するために設けられる。マルチミラー組立体8は、複数の凹面鏡からなる対向一対のミラーセット77,78を有する。ミラーセットを構成する各凹面鏡M1,M2,・・・Mnは、レーザー光が順次反射して往復することにより、レーザー光照射位置にレーザー光束の集合領域を形成するように角度を定めて配置される。レーザー光束の集合領域でサンプル分子を光反応させる。
被測定ガスの分析に先だって、既知の標準サンプル分子を分析することで、装置の分析感度の校正を行うために標準ガス発生装置33が設けられる。
標準ガス発生装置33は、サンプル分子を含んだキャリヤガスのガス貯留空間への流路10に、三方弁31を介して接続される。標準ガス発生装置33は、三方弁31に接続されるガス出口97と、標準サンプル分子を希釈するための希釈用ガス源32に接続されるガス入口81と、ガス出口97とガス入口81との間を接続するガス通路とを有する。このガス通路の途上には、これに連通するように標準サンプル分子を保有する拡散管79が配置される。この拡散管79は、加熱されるように、恒温槽に収容される。希釈用ガス源32と拡散管79と間のガス通路の途上には、希釈ガスの流量を調節するための調節器が配置される。被測定ガスが大気や焼却炉排気ガスである場合には、標準ガス発生装置33で用いられる希釈用ガスを希ガスもしくは軽分子ガスとすることが望ましい。
リペラー電極18と引き出し電極19は、マルチミラー組立体8で形成されたレーザー光束と衝突しない極板間隔と、極板間の電場スペクトルをパルスガスの進行方向とほぼ一致させるような極板面積を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、上記の手段を講じることにより、4塩素化以上置換されたダイオキシン類異性体の同定が可能となった。
図19に2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン(以下「2,3,7,8−TeCDD」という)サンプル分子の波長スペクトルを示す。図1に示すように、キャリヤガスに含まれるサンプル分子のイオン化には2色2光子イオン化法を用いた。1色目のレーザー光3は波長可変レーザー光であり、2色目のレーザー光4はNd:YAGレーザー光の5倍高調波(以下「213nm」という)を用いた。図の上側の波長スペクトルは、図5に示す弁体上部57bが0.25D以下の変位距離において通気路13から噴射されたパルスガスにレーザー光を照射してイオン化した波長スペクトルである。したがって、このパルスガスには、図2(a)に示すようなフラットトップ台形型圧力分布が形成されない。図の下側の波長スペクトルは、弁体上部57bが0.25D以上の変位距離にあるときに、通気路13から噴射されたパルスガスにレーザー光を照射してイオン化した波長スペクトルである。このパルスガスには、図2(a),(b)に示すようなフラットトップ台形型圧力分布が形成されている。そして、レーザー光照射位置は、パルスガスの圧力分布が、フラットトップ台形型から三角型(図2c)に遷移する位置付近である。使用したパルスガスのパルス時間半値幅はいずれも40(μsec)である。
パルスガス噴射装置12の弁体上部57bを0.25D以上閉位置から変位させること、通気路13から噴射されたパルスガス24の圧力分布が、フラットトップ台形型43(図2(a),(b))から三角型45(図2(a),(b))に遷移する位置付近においてレーザー光を照射すること、及びこのレーザー光照射位置とノズル外側面37との距離より短いガスパルスであること、3条件を満足しない場合、波長スペクトルは、図22の下側波形のように、ブロードである。これは、通気路13から噴射されたパルスガス24が、十分に冷却されていないためである。
一方、上記3つの条件を満たしている場合には、図22の上側波形のように、波長スペクトルはシャープである。これは、通気路13から噴射されたパルスガス24が、十分に冷却されているためである。
【0009】
従来4塩素化以上のダイオキシン類のイオン化には、ピコ秒もしくはフェムト秒のパルス幅を有するレーザー光を使用することが必須であった。しかし、ガスが十分に冷却されたことで、ダイオキシン類の波長スペクトルはシャープになり、さらにナノ秒レーザー光でもダイオキシン類のイオン化が可能となった。
すなわち、ガスが十分に冷却されていない場合は、ナノ秒レーザー光によるサンプル分子親イオンの検出ができないため、1色2光子イオン化によってサンプル分子親イオンを取得することは不可能であった。しかし、ガスを十分に冷却することにより、ナノ秒レーザー光による1色2光子イオン化が可能となる。
【0010】
ナノ秒レーザー光を用いて1色2光子イオン化法により、2,3,7,8−TeCDD親イオンの検出を行う場合、ノズルから噴射されたガスが十分に冷却されることにより励起一重項状態の寿命がナノ秒オーダーとなる。したがって、この場合のイオン化は励起一重項状態におけるものであると考えられる。また2色2光子イオン化法による同サンプルの親イオン検出におけるイオン化は、ナノ秒オーダーとなった励起一重項状態からのイオン化と、その励起一重項状態から系間交差した励起三重項状態からのイオン化であると考えられる。一般的に励起三重項状態は励起一重項状態より基底状態からのエネルギー差は小さい。故に、励起三重項状態からイオン化するためには、励起一重項状態からイオン化するよりも大きな光子エネルギーを持つレーザー光を用いなければならないといわれている。これを示すためには2色2光子イオン化法による信号強度の1色目のレーザー光3と2色目のレーザー光4間の遅延時間特性を調査すればよい。図20にその特性を調査した結果を示す。
図20の上段は、1色目のレーザー光3の波長を310.99nmとし、2色目のレーザー光4をNd:YAGレーザー光の第4高調波である266nmを使用した遅延時間特性結果である。一方、図20の下段は1色目のレーザー光3を同様に310.99nmとし、2色目のレーザー光4をNd:YAGレーザー光の第5高調波である213nmとしたときの遅延時間特性結果である。図20の上段の結果では、遅延時間が数ナノ秒で検出信号が増加し、また減少する傾向が観測されており、図20の下段の結果では、遅延時間数ナノ秒で検出信号が増加し、その後1マイクロ秒に向かって減少する傾向が観測された。図20の下段の結果は、励起三重項状態からのイオン化が数マイクロ秒であることを示している。
一方、図20の上段は、図20の下段の時間特性と比較して検出信号が出現する時間が数ナノ秒と短い。これは2色目のレーザー光266nmの光子エネルギーでは励起一重項状態からのみイオン化はできるが、励起三重項状態からイオン化はできないことを示している。この励起一重項状態からのイオン化によって得られた検出信号が、ナノ秒オーダーであることは従来から言われている現象と異なっている。故に、ガスが十分に冷却されることによって、4塩素化以上のダイオキシン類の励起一重項状態での寿命が延びたと考えられる。
【0011】
図21(a),(b)は、通気路13の形状の差異による2,3,4,7,8−ペンタクロロジベンゾフラン(以下「2,3,4,7,8−PeCDF」という)と1,2,3,7,8−ペンタクロロジベンゾフラン(以下「1,2,3,7,8−PeCDF」という)の波長スペクトルを示している。図21(a)は、0.75mm直径の直管型通気路13bを有するノズル67b(図7(b))を使用した場合のサンプル分子の波長スペクトルである。一方、図21(b)は、シート面66aでの直径1.1mm発散型通気路13aを有するノズル67a(図7(a))を使用した場合のサンプル分子の波長スペクトルである。図21(b)における波長スペクトルが、図21(a)の波長スペクトルより、ダイオキシン類異性体を分離するには好適である。
【0012】
発散型通気路13aを有するノズル67aを使用すると、質量スペクトルにおいて解離したスペクトル(フラグメントスペクトル)を軽減できる。前記したように、発散型通気路13aを有するノズル67aは通気路13aでのガス滞留を最小限に抑えられる利点がある。通気路13aから噴射されたパルスガス24中のサンプル分子が十分に冷却されていれば解離は起こらないと考えられる。しかし、冷却ガスに熱いガスが混合されていると、その熱いガス中に含まれているサンプル分子は解離を起こすと考えられる。
直管型通気路13bを有するノズル67bを用いた場合と、発散型通気路13aを有するノズル67aを用いた場合における2,3,7,8−TeCDDの質量スペクトルの差違を図22に示す。いずれの通気路13a,13bもシート面66における口径は同じく1.1mmである。
これによると直管型通気路13bを使用した場合は、フラグメントスペクトルが発生すると共に、親スペクトルの強度も小さい。一方、発散型通気路13aを使用した場合は、フラグメントスペクトルはほとんど発生しないと共に、信号強度も増加している。すなわち冷却されたサンプル分子数が増加したことを示している。故に、使用するノズルは、直管型通気路13bを有するノズル67bより発散型通気路13aを有するノズル67aが好適であると考えられる。
【0013】
図23は、図11に示す標準ガス発生装置33のガス源32からの希釈用ガスを窒素ガスとヘリウムガスの混合ガスとし、その混合比を変化させた場合において、本発明の質量分析装置で2,3,7,8−TeCDDのサンプル分子を分析したときの親スペクトル信号の強度を示している。この場合、実際の被測定ガスを大気と想定し、通気路の出口を通過するガス流の速度が大気とほぼ同等である窒素ガスを一方の代替ガスとした。また、実際の測定において用いられるキャリヤガスを希ガスと想定し、ヘリウムガスを他方の代替ガスとしたものである。なお、サンプル分子の濃度は一定としている。
図23より、本発明の質量分析装置の感度を増強するためには、窒素ガスにヘリウムガスを80Vol%〜99.9Vol%混合することが好適であると考えられる。すなわち、このことから、実際には、大気や焼却炉の排ガスのような被測定ガスに、キャリヤガスとしての希ガスを80Vol%〜99.9Vol%混合することが好適であると考えられる。
【0014】
図24は、図1におけるマルチミラー組立体8により形成されたレーザー光束9をベンゼンサンプル分子へ照射したときの照射回数(照射時間)とレーザー光エネルギーに対するベンゼンイオン信号量の依存性を示している。
従来のJet−REMPI法(例えば、レーザー光1回照射、レーザー光出力1mJ)と、マルチミラー組立体8を使用した本発明のレーザーイオン化質量分析装置を用いる方法(例えば、レーザー光8回照射、レーザー光出力5mJ)によるベンゼンガスの信号強度を比較すると、図24に示されるように1000倍程度の感度差がある。したがって、マルチミラー組立体8を使用してサンプル分子24にレーザー光を多重照射することが好適であると考えられる。なお、図24のグラフにおける横軸は、マルチミラー組立体へ入射するレーザー光7のエネルギーとサンプル分子24への照射時間を考慮した関数である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1において、焼却炉排ガスや大気等のサンプル分子を含んだ被測定ガスが、ガス源36から採取される。エジェクタ34は、管16で被測定ガスのガス源36に接続され、また管15でキャリヤガス源35に接続される。被測定ガスは、エジェクタ34にて、ガス源35からの希ガスもしくは軽分子ガスのような混合用のキャリヤガスと混合される。被測定ガスをガス源36から引き込むための駆動力は、エジェクタ34において生成される。サンプル分子を含んだキャリヤガスは三方弁31を介して加熱されたガス流入管10を通り、パルスガス噴射装置12のガス貯留空間58へ送られ、その一部は真空室17へパルスガス24となって噴射され、残りは加熱されたガス流出管11を通って、三方弁30を介し、ガス源36へ戻される。
本発明のレーザーイオン化質量分析装置を感度校正するため、標準ガス発生装置33として、高沸点定濃度有機物ガス発生装置が付設される。感度校正過程においては、希釈用ガス源32から管32aを介して標準ガス発生装置33へ希釈用ガスが送り込まれ、標準試料サンプル分子と混合され、管97a、三方弁31を介し、ガス流入管10を通り、パルスガス噴射装置12のガス貯留空間58へ送られ、その一部は真空室17へパルスガス24となって噴射され、残りは加熱されたガス流出管11を通って、三方弁30、管96aを介し、標準ガス発生装置33へ戻される。
真空室17へ噴射されたパルスガス24は、リペラー電極18のメッシュ38を通り、パルスガス噴射装置12のノズル外側面37からの所定距離離れた位置において、レーザー光9を照射され、選択的な光反応により、サンプル分子イオン29が生成される。
生成されたサンプル分子イオン29は、リペラー電極18と引き出し電極19との間で形成された電場によって、リフレクトロン型飛行時間質量分析装置26の方向へ引き出され、さらに引き出し電極19と接地電極20との間で形成された電場によって加速される。
加速されたサンプル分子イオン29は、イオンレンズ21によって集束され、さらに偏向電極22によって軌道が曲げられ、差動排気用アパーチャ23を通り、質量分析装置26へ引き込まれる。
質量分析装置26へ引き込まれたサンプル分子イオン29は、イオンビーム軌道25に沿って真空中を進行し、イオン反射電極27によって反射され、さらに真空中を進行して、MCP28に到達し、電気信号に変換されて検出される。
パルスガス24中のサンプル分子に光反応を起こさせるためのレーザー光9は、レーザー光照射システムによって生成、導入され、パルスガス24に照射される。レーザー光照射システムにおいて、励起用レーザー光発生装置1で発生した励起用レーザー光3が全反射ミラー5で反射され、レーザー光混合プリズム6へ入射される。またイオン化用レーザー光発生装置2で発生したイオン化用レーザー光4は、同様にレーザー光混合プリズム6へ入射される。レーザー光混合プリズム6へ入射した励起用レーザー光3はレーザー光混合プリズム6内を透過し、同様に入射したイオン化用レーザー光4はレーザー光混合プリズム6内を反射し、結果として二重レーザー光7となってプリズム6から導出される。
二重レーザー光7は、真空室17へ入射され、マルチミラー組立体8へ入射される。マルチミラー組立体8は、図9に示されるように、相対向する一対のミラーセット77,78を有する。各ミラーセット77,78は、複数の反射鏡M1,M2,M3・・・Mnを有する。各反射鏡M1,M2,M3・・・Mnは、2つのミラーセット77,78間でレーザー光9が環状に回転移動しつつ順次反射して往復するように、鏡面の角度を定めて配置される。ミラーセット77,78間を反射往復するレーザー光は、中間位置で交互に交差してレーザー光束9の柱状の集合領域Zを形成する。このレーザー光束9の集合領域Zでサンプル分子を光反応させる。
【0016】
図1に示すパルスガス噴射装置12の通気路13から真空室17中へ噴射されるパルスガス24は図16に示すような波形と考えられる。
「先頭部ガス」は、通気路13を通過するガスの流れがマッハ数M=1の臨界状態に達するまでの流れであり、所定の時刻を基点にして、時間の経過と共に流量が増加する。このガスは通気路13において閉塞した流れではないので、通気路13から真空室17中へ噴射したガスは超音速流より遅い速度で並進する。またノズル外側面37を通過するガス圧力も時間の経過と共に増加する。
「フラット部ガス」は、「先頭部ガス」に追従して通気路13を通過し、ガスの流れはマッハ数M=1の臨界状態に達している流れであり、閉塞しているので、時間の経過と共に流量の変化は見られない。またノズル外側面37を通過するガス圧力も時間の経過と共に変化がない。
「後尾部ガス」は、「フラット部ガス」に追従した流れであり、通気路13を通過するガスの流れがマッハ数M=1の臨界状態からガス流が終止するまでの流れであり、時間の経過と共に流量が減少する。この流れは閉塞した流れではないので、通気路13から真空室17中へ噴射したガスは超音速流より遅い速度で並進する。またノズル外側面37を通過するガス圧力も時間の経過と共に減少する。
これら「先頭部ガス」「フラット部ガス」および「後尾部ガス」を有するフラットトップ台形型圧力分布のパルスガス24が真空室17内を並進する。
【0017】
図2において、通気路13から真空室17へ噴射された直後のパルスガス42はフラットトップ台形型の圧力分布41を有しており(t=t1)、このパルスガス42が並進するに従って、フラット部持続時間が圧力分布41のフラット部持続時間より短い、フラットトップ台形型圧力分布43を伴ったパルスガス44に遷移し(t=t2)、さらに真空室17内を並進することで、パルスガス44はフラット部を有しない三角型圧力分布45を伴ったパルスガス46へ遷移する(t=t3)と考えられる。このフラットトップ台形型圧力分布43を伴ったパルスガス44が、三角型圧力分布45を伴ったパルスガス46へ遷移する所定位置において、パルスガス46にレーザー光9を照射することが望ましいと考えられる。
【0018】
図6は、パルスガス噴射装置12の通気路13から噴射されたパルスガス63,64,65のパルス長Lと、ノズル外側面37からレーザー照射位置までの距離Xとの相互関係を示している。図6(a)において、パルスガス63のパルス長Lは、距離Xと比較して長い。パルスガス63は、ノズル外側面37から距離X離れた位置でレーザー光9を照射される。図6(b)において、パルスガス64のパルス長Lは、図6(a)のパルスガス63と同等である。パルスガス64は、ノズル外側面37から距離X離れた位置でレーザー光9を照射されるが、この距離Xは、図6(a)の距離Xと比較すると短い。図6(c)において、距離Xは図6(a)と同等であるが、パルスガス65のパルス長Lは図6(a)におけるパルスガス63のパルス長距離Lと比較すると長い。
本発明のレーザーイオン化質量分析装置では、図6(a)に示された相互位置関係において、パルスガス63にレーザー光が照射されることが望ましい。
【0019】
図2、図6に示すパルスガス42,44,46,63,64,65がパルスガス噴射装置12の通気路13から真空室17へ噴射され、真空室17中を並進するときのパルスガスの流体状態を説明する。
「先頭部ガス」におけるガス流成分の平均流速をV1、「フラット部ガス」におけるガス流成分の流速をV2、「後尾部ガス」におけるガス流成分の平均流速をV3とすると、それぞれ平均流速の関係はV2≧V1≠V3と考えられる。平均流速V1を有する「先頭部ガス」は、真空室17中を並進する過程において、平均流速V2がより速い「フラット部ガス」に追いつかれ、これと混合されることにより、フラット部が消失していく。一方、平均流速V3がより遅い「後尾部ガス」は、平均流速V2を有する「フラット部ガス」から離れていく。すなわち、パルスガスの内部には、ノズル外側面37から離れるに従って混合ガスが生成される。そして、所定距離離れた位置において、パルスガスのフラット部は完全に消失し、三角型圧力分布に遷移する。
【0020】
従来、通気路13から噴射されるガス流の挙動は、気体分子運動論によって、以下のように説明される。図4に示されるガス貯留空間58においてキャリヤガスの気体分子同士の衝突で生じた熱エネルギーは、キャリヤガスが、断熱膨張しつつ真空室内を並進する際、並進エネルギー(並進速度)に遷移するに従って、失われていく(ガス温度が低下していく)。すなわち熱的エネルギーの保存が行われる。
この気体分子運動論によると、ノズルの通気路から真空中へ噴射されたガス流は、並進エネルギーの増加と共に並進速度が増加し、最終マッハ数に達する。ガス流の最終マッハ数(到達速度)は、ガス貯留空間58内の圧力とノズル口径の二つの条件から算出される。これに基づいて冷却最低温度も算出される。さらに最終マッハ数に到達する位置のノズル外側面からの距離も算出できる。この距離に至るまでのガス流は、連続流(気体分子同士の衝突がある)、この距離以降のガス流は分子流(気体分子同士の衝突がない)と定義されている。なお分子流の領域では、気体分子の衝突がないためガス温度の低下はなく、ガス温度は一定となる。故に気体分子運動論では、ノズルから噴射されたパルス状ガスを、時間的に変動のない定常流状態のガスと同等の単一ガスであるとの見解で取り扱っている。
【0021】
一方、図1に示されたパルスガス24の場合は、前述のように、部分的に3つの速度成分を有するガス流であると考えられる。3つのガス流成分がそれぞれの速度でノズルから噴射されるので、成分毎に断熱膨張が行われる。通気路13から噴射された直後では、成分毎に並進速度が異なるが、並進するに従って「先頭部ガス」ガス流は「フラット部ガス」ガス流に混合され、ガス流同士の衝突が行われる。このため、並進時間中にガス流の熱エネルギーが若干増加し、ガスの冷却効果も並進距離に対して緩やかに減少していく。ノズル外側面37からの所定の距離においてガスの混合は完了するが、ガス流内の分子間の衝突は継続している。この距離からさらに並進すると、分子間の衝突がなくなると共に、ガス流の形状は、フラットトップ台形型圧力分布から三角型圧力分布へ遷移する。このとき、ガス温度が最低温に達したことになる。すなわち、ガス流の圧力分布形状が、図2(c)におけるフラットトップ台形型圧力分布43から三角型圧力分布45へ遷移した位置(ノズル外側面37から距離X離れた位置)にレーザー光9を照射する。パルス状ガスにおけるそれぞれのガス成分についての並進距離と流速の関係を図17に示す。
【0022】
上記のような現象が真空室17で発現するためには、追加の条件が必要となる。図6(a)において、真空室内へ噴射されたパルスガス63のパルス半値全幅長(パルス長)Lが、外側面37からレーザー光9を照射する所定位置までの距離Xより短いことが必要である。以下、このようなパルス長Lが距離Xより短いパルスガスを「短パルスガス」という。すなわち、図6(b),(c)に示すような、パルス長Lが距離Xより長いガス(以下「長パルスガス」という)の場合、外側面37とレーザー光9の照射位置との間でガス流でつながっているため、定常流と同等であると考えられる。
発明者らは、実験により、図6(a)に示されるような短パルスガス63を噴射するためには、通気路13の直径が、0.75mm以上必要であるとの知見を得た。
例えば、図16において、サンプル分子を含んだヘリウムガスのような時間半値全幅40(μsec)の短パルスガスが真空室内へ1000(m/sec)で並進し、ノズル外側面からの距離100(mm)の位置でレーザー光を照射されるとすると(通気路直径:1.1mmφ、ガス貯留空間内気圧:1atm)、そのパルス長は、40(μsec)×1000(m/sec)=40(mm)である。したがって、この場合、レーザー光照射位置は、ノズル外側面からの距離40(mm)以上の条件を満足する。一方時間半値全幅200(μsec)の長パルスガスの場合は、パルス長が200(mm)となり、ガス流が、ノズル外側面とレーザー光を照射する位置との間でつながっているので、上記のように定常流と同等に見なされる。
【0023】
通気路13の直径が0.75mm以上であり、噴射されるガスが図6(a)に示すような短パルスガスである場合においては、パルス1個あたりのガス密度が大きく、さらにレーザー光9を照射する位置ではパルスガス内の気体分子の衝突が殆ど無いと考えられる。
このように、高密度、短パルスで、気体分子同士の衝突がほとんどないパルスガスを講学上「クリスタルフロー」と呼ぶ。クリスタルフロー状態では、十分にガスの冷却がなされているので、ガス中の4塩素化以上置換されたダイオキシン類異性体を本発明のレーザーイオン化質量分析装置によって、同定することができる。
【0024】
図2において、フラットトップ台形型圧力分布41を有するパルスガス42(図2(a))が、フラットトップ台形型圧力分布43を有するパルスガス44(図2(b))に遷移し、さらに、三角型圧力分布45を有するパルスガス46(図2(c))へ遷移する過程において、レーザー光照射位置決定装置を用いて、レーザー光9を照射する最適位置を実験的観測から確定することができる。レーザー光照射位置決定装置の概念図を図3に示す。
パルスガス噴射装置12を固定している真空蛇腹管47が真空容器48に接続される。パルスガス噴射装置12は、真空容器48内にパルス的にガスを噴射する通気路13を有する。真空容器48内には、高速電離真空計49が設けられる。真空容器48は、真空ポンプ50で真空排気される。
【0025】
例えば、真空容器48が1×10−4 (Pa)の真空度まで排気されたら、キャリヤガスボンベから噴射装置12のガス流入管10へキャリヤガスを流し、還流した余分のキャリヤガスがガス流出管11から排出されていることを確認する。駆動装置51を動作させキャリヤガス流24を真空中へ噴射させる。
真空中にキャリヤガス24が噴射されていることを、例えば電離真空計で確認後、高速電離真空計49のフィラメントがガス流の下流側へ向いていることを確認する。次いで、高速電離真空計の駆動装置52を動作させ、高速電離真空計49のフィラメントが点灯していることを確認する。
オシロスコープ53を動作させ、駆動装置52の電圧及び電流を計器目盛りの半分の量に調節し、オシロスコープ53にて、高速電離真空計49測定されるキャリヤガスパルスの圧力の時間波形を観測する。
オシロスコープ53にてキャリヤガスパルスの圧力の時間波形を観測できたら、駆動装置52の電圧及び電流を調節し、キャリヤガスパルスの圧力時間波形にフラットトップ部が出来ることを確認する。
観測された時間波形の一例を図16に示す。外側面37から高速電離真空計49までの距離が最適なレーザー光照射位置までの距離(X)よりも長い場合、駆動装置52の電圧及び電流を調節してもフラットトップ部を有するキャリヤガスの圧力時間波形は観測されない。
この場合は、真空容器48の上部に設置されている蛇腹管47を調整し、高速電離真空計49と通気路13との距離を近づける。これにより図16に示すフラットトップ部を有するキャリヤガスの圧力時間波形が観測できる。
図16に示す時間波形を確認後、通気路13から高速電離真空計49までの距離を徐々に伸ばし、かつ駆動装置52の電圧及び電流を調節し、フラットトップ部を確認する。
通気路13から高速電離真空計49までの距離を変化させている途中、フラットトップ部が消失する距離(X)付近を、最適レーザー光照射位置(X)とする。
最適レーザー光照射位置をXとし、およびノズル外側面からの距離をXとすると、実験によれば、0.5X < X < 1.5X、好ましくは、0.7X < X < 1.3X、より好ましくは、0.86X < X < 1.14Xとする。
使用する高速電離真空計49及びその駆動装置52の時間分解能は、立ち上がり時間5μsec以下とすることが望ましい。
【0026】
図2におけるフラットトップ台形型圧力分布41を有するパルスガス42を真空室17へ噴射可能なパルスガス噴射装置12の一例を図4に示す。
サンプル分子を含んだキャリヤガスはガス流入管10からガス貯留空間58を経て、ガス流出管11へ流れる。ガス貯留空間58は、弁体57の上部57bと弾性シール材56との接触、および弾性シール材56とノズル55のシート面59との接触によって、真空室17から遮断される。弁体57は、電磁力駆動によって通気路13を開閉可能である。弁体下部57aから弁体上部57bへの順にパルス電流を流すことで、生成された電磁的反発力が弁体上部57bを、弾性シール材56と接する閉位置から離れた開位置へ瞬時変位させ、閉位置へ戻る。この間に、ガス貯留空間58内のキャリヤガスの一部が、通気路13を通って、真空室17に噴射される。
【0027】
真空室17に噴射されたガスが超音速流となるためには、通気路13での流れがマッハ数M=1の臨界状態に達し、流量が閉塞(チョーキング)した状態、すなわちチョークフローとなることが必要である。時間的に連続で定常的に通気路13から真空室17内に噴射されるガスはチョークフローとなる。
しかし、時間的に不連続でパルス的に通気路13から真空室17内へ噴射されるガスがチョークフローになるとは限らない。パルスガス噴射装置12内の弁体上部57bが閉位置から開位置へ変位する距離が、所定距離以上でない限り、チョークフローとはならない。
【0028】
図5は、パルスガス噴射装置12から噴射されるパルスガスが、チョークフローとなるための条件を説明する模式図であり、(a)はパルスガス噴射装置12とガスの流束との関係を示し、(b)はそのガスの流束体を拡大して模式的に示すものである。
パルス的電磁力によって弁体上部57bが閉位置から開位置へ変位している間に、通気路13から真空室17へ噴射されるガスがチョークフローとなる条件を導出する。弁体上部57bが閉位置から変位するときに、弁体内でのガス流速V0と外側面37でのガス流速Vnが定義され、それぞれ下記のとおり表すことができる。
【数1】

ここでd0は弁体内に存在し、通気路13へ流入するガス61の流束体直径、Dは通気路13の口径(通気路13を進行するガス流束体62の直径)であり、hはガス61の流束体の高さ、すなわち弁体上部57bのシール材56(図4)からのリフト高さである。またQはガス流量であるが、Qは通気路13の上下で変化しないものとする。チョークフローを通気路13から真空室17へ噴射するためにはVn≧V0条件を満足する必要があり、
【数2】

となる。ここで流束体61の径と通気路13に関する近似式
【数3】

を仮定すると、上式は
【数4】

となりチョークフロー生成のための条件が決定される。パルスガス噴射装置12では閉位置から開位置までの距離が0.25D以上必要となる。故にチョークフロー条件はリフト高さhと通気路直径Dで決定される。
弁体上部57bがシール材56(図4)に接している閉位置から距離0.25D以上離れた開位置まで変位すると、通気路13から噴射されるパルスガスは、時間的に連続で定常的に通気路から真空室17内に噴射されるガスと同等のチョークフロー状態となる。真空室17内へ噴射されるガスは閉塞した流れなので、流量は一定となる。すなわちパルス的に真空室17に噴射されるガスに、時間の経過に依存しない、流量一定のフラット部が存在することになる。
【0029】
図1において、パルスガス24に含まれるサンプル分子を光反応させるレーザー光として、マルチミラー組立体8によって多重反射されたレーザー光束9を使用することが望まれる。
マルチミラー組立体8は、図9に示されるように、レーザー光線を全反射する多くの凹面鏡M1、M2・・・Mnを向かい合わせに配置することによって形成された像転送系であり、レーザー光線の交叉する中心部にイオン化効率のよいイオン化ゾーンZを作ることができる。
マルチミラー組立体8におけるレーザー光9は、図9(a)に示されるように、往路の円柱状のレーザー光(平行ビーム)を軸上の中央部に集め、図9(b)に示されるように、復路のレーザー光(収束ビーム)は軸から離れた外側を帰し、全体として鼓の紐のような反射光路を作ることができる。レーザー光は、外部光学系(例えば、ビームエクスパンダー)により収束ビームとして導入することで、往路を収束ビーム、復路を平行ビームとすることもできる。
マルチミラー組立体8によって形成されたレーザー光束9で、キャリヤガスに含まれたサンプル分子を光反応させ、その結果、生成されるサンプル分子イオン29の量は、単一レーザー光によって生成されるサンプル分子イオン量より多量であることが理論的にも実験的にも確認され、発表されている(例えば、Yasuo SUZUKI,et.al., Analytical Sciences 2001. VOL.17 SUPPLEMENT i563.参照)。この報告によると、ベンゼンガスを使用した実験では、単一レーザー光によって生成されるベンゼン分子イオンと比較して約1000倍の感度向上が達成できている。
【0030】
しかしながら、ガス源36内のガスに含まれている有害物質、特にダイオキシン類の存在量は極微量である。したがって、本発明のレーザーイオン化質量分析装置で定量分析するためには、図1、図2及び図6に示されるように、パルスガス噴射装置12から真空室17へ噴射されるパルスガス24の並進方向と、生成されるサンプル分子イオン29の進行方向が、レーザー光照射位置において同方向となるようにすることにより、装置感度を向上させる必要がある。これにより、パルスガス24の並進方向とサンプル分子イオン29の進行方向とが一致しない場合の10倍以上装置感度が向上することが実験的に確認された。
パルスガス24の並進方向と、サンプル分子イオン29の進行方向をレーザー光照射位置において同方向にするために、メッシュ38を備えたリペラー電極18と、メッシュ39を備えた引き出し電極19が用いられる。メッシュ38を備えたリペラー電極18は、パルスガス24の流れを乱さない。メッシュ39を備えた引き出し電極19は、パルスガス24の流れを乱さず、サンプル分子イオンを透過率100%付近で通過させることが出来る。リペラー電極18と引き出し電極19によって生成されるの方向は、パルスガス24の並進方向と同方向とすることが望ましい。
真空室17と質量分析装置26との間には、差動排気用アパーチャ23が設置される。これにより、サンプル分子イオン29の進行方向と同方向に進行して、接地電極20のメッシュ40を通過したパルスガス24が、質量分析装置26内へ流入することを極力防ぐことができる。
【0031】
図1、図9におけるマルチミラー組立体8で形成されたレーザー光束9をキャリヤガスに含まれたサンプル分子に照射する際、レーザー光束9の往路のビーム104と復路のビーム105がリペラー電極99と引き出し電極102に衝突しないようにする対策が必要である。電極99、102の間隔を広げる対処方法が考えられる。しかし、これでは電極99、102間に形成された電場が乱れて、サンプル分子イオンの軌道25が曲げられ、さらに所定の直径を有したイオンビーム25が発散もしくは集束することで、MCP28に到達するまでにサンプル分子イオン29の総量が減少すると考えられる。この問題を防ぐため、本発明のレーザーイオン化質量分析装置では、電極99および102の対向部面積を大きくし、また両者の相互間隔を広げ、さらに図1および図12(b)に示されるよにメッシュ38,39を具備させた。
なお図13,14,15において、リペラー電極99,18には1200Vの電位を印加し、さらに引き出し電極100,19には800Vの電位を印加する。図13は、1インチ×1インチの正方形のリペラー電極101と1インチ×1インチの正方形の引き出し電極102を極板間隔0.5インチで配置した場合に極板間に形成される電場ベクトルを示し、図14は、1インチ×1インチの正方形のリペラー電極101と1インチ×1インチの正方形の引き出し電極102を極板間隔1インチで配置した場合に極板間に形成される電場ベクトルを示し、図15は、3インチ×3インチの正方形のリペラー電極18と3インチ×3インチの正方形の引き出し電極19を極板間隔1インチで配置した場合に極板間に形成される電場ベクトルを示す。
図13と図15では、極板間に形成されている電場ベクトルはすべてパルスガス24の方向と同方向であるが、図14での電場ベクトルはパルスガス24と同方向ではない。従ってマルチミラー組立体8によって形成されたレーザー光束9によってサンプル分子イオン25を生成するためには、図15に示すような比較的広い極板対向部面積、極板間隔を備えることが必要である。
【0032】
ノズル67は、図7に示されるような通気路13の形状の異なるものを適宜採用できる。図7(b)に示されるノズル67bにおいては、通気路13bが、シート面66bから外側面68bまで同一直径Dである。図7(a)に示されるノズル67aにおいては、通気路13aが、シート面66aから所定位置まで同一直径Dで、その位置から外側面68aに向かって所定の角度で円錐形状に直径が広がる。好ましくは、発散型通気路13aを有するノズル67aが採用される。より好ましくは発散型通気路13aの直管部直径が0.75mm以上である。さらに好ましくは発散型通気路13aの直管部直径が0.75mm以上、直管部長さはシート面66aから外側面68aまでの距離の3分の1以下、円錐管部の拡散角4°〜20°である。
【0033】
発散型通気路13aを有するノズル67aは、Robert E.Smith and Roy J.Matz, Trans. ASME, Series D, J. Basic Eng., 84−4(1962)p.434 に記載されているラバール型通気路を有するノズルをモデルとしている。このモデルは風洞の流量測定をするための研究を用途として考案されたものである。このノズルは、クラスター生成用として一般的に使用されており、クラスター分析装置には広く使用されている。しかし、本発明においてはクラスターの生成用としてではなく、分析装置の検出感度向上および質量スペクトルの品質向上を目的として、発散型通気路13aが採用される。発散型通気路13aでは、直管型通気路13bと比較すると、通気路出口における噴出ガスのマッハ数が3.06〜3.62倍向上する。これにより、パルスガスの冷却効果がより促進され、通気路13a出口のガス温度が0.51〜0.39倍低下する。
図7(b)に示されるように、直管型通気路13bを通過するガス流70bとノズル67bとの間には、ガス滞留部69bが発生し、通気路13bの出口からは冷却されたガス流70bとガス滞留部69bに滞留された熱いガスが、混合されて真空室17へ噴射される。一方、図7(a)に示されるように、発散型通気路13aを通過するガス流70aとノズル67aとの間のガス滞留部69aは最小限に押さえられ、通気路13aの出口からは冷却されたガス流70aのみが真空室17へ噴射される。
【0034】
図1において、サンプル分子を含んだ被測定ガスのガス源36を大気環境もしくは燃焼炉の排ガス流路とし、キャリヤガス源35から送出されるキャリヤガスを希ガスもしくは軽分子ガスとすることができる。被測定ガスとキャリヤガスは、エジェクタ34のような混合部において混合される。生成される被測定ガスとキャリヤガスとの混合ガスにおけるキャリヤガスの割合が、混合ガス総体積の80Vol%〜99.9Vol%になるように混合部34を調整する。
図8においてエジェクタ34は、キャリヤガス源35から希ガスもしくは軽分子ガスを引き込むために設置された配管15とエジェクタ内ノズル73を接続するための駆動側フランジ71と、ガス源36から被測定ガスを引き込むための配管15とエジェクタ本体74とを接続するための吸引側フランジ76と、混合ガスをガス噴射装置12へ送る管10とエジェクタ本体とを接続する吐出側フランジ75を有する。
【0035】
本発明のレーザーイオン化質量分析装置において、キャリヤガスに含まれたサンプル分子を分析する際、キャリヤガスの種類によって装置感度および被測定サンプル分子の同定に差が生じる。これは、キャリヤガスの種類によって、通気路13から真空室17中に噴射される流速が異なり、ガス流速に比例してガス温度の冷却度が増すためである。
図18に大気とヘリウムガスの通気路13内での速度に対する確率密度分布関数を示した。確率密度分布内の面積は、ガス量を示している。大気においてもヘリウムガスにおいてもガス量は等しい。また確率密度分布の半値全幅はガス温度を示している。流速が遅い大気は、冷えにくく、また平均流速でのガス量も少ない。一方、流速が速いヘリウムは冷却されやすく、平均流速でのガス量も多い。
図4において、ノズル55のシート面59と外側面37の間での通気路13におけるガスの流速算出には、
【数5】

の関係式を用いる。ここで、aは流速、kは比熱比、Tは断熱膨張前の気体の温度、mはガスの分子量、R0はガス定数(=8.31443J/mol・K)である。この算出式から代表的なガスの通気路13における流速を算出すると、下表のとおりとなる。
【表1】

この表から判断されるように、通気路におけるガスの流速は軽分子ガスおよび希ガスが大きく、分子量の増加と共に遅くなる。ダイオキシン類の様なサンプル分子は、大気空間および燃焼炉排ガスに含まれている。このガスを直接レーザーイオン化質量分析装置に導入すると、流速が低いために装置感度が低減する。そこで、被測定ガスに、キャリヤガスとして、希ガスもしくは軽分子ガスを混合する。キャリヤガスの混合により、被測定ガスが希釈されことで、体積あたりのサンプル分子の個数は減少するが、装置感度は増加する。
【0036】
図1において、ガス源36からの被測定ガスに含まれるサンプル分子を本発明のレーザーイオン化質量分析装置で分析・検出するに先だって、標準ガス発生装置33で生成した標準試料ガスをレーザーイオン化質量分析装置で分析・検出し、装置の感度校正を行う。
標準ガス発生装置33は、希釈用ガスに既知量のサンプル分子を混合してなる標準試料ガスを生成する。図11に標準ガス発生装置33の一例を示す。図11において、希釈用ガス源32から希釈用ガスが装置内へ導入される。希釈用ガスは、キャリヤガスと同一の希ガスもしくは軽分子ガスと、被測定ガスと性質の同等の大気等を混合したものである。希ガスもしくは軽分子ガスの混合比を80Vol%〜99.9Vol%とする。希釈用ガスは、入口81からガス発生装置33へ流入し、精製用活性炭フィルタ82、チェック弁83a、調節器84を経て恒温槽80へ入る。希釈用ガスは、熱交換チューブ85を通過することによって加熱され、一部はホルダ86に入り、拡散管79内発生した標準サンプル分子と混合され、混合器87へ流入する。加熱された希釈用ガスの残部は、弁88を介して、混合器87へ流入し、ここでサンプル分子を含む希釈用ガスと混合されて標準ガスが生成される。混合器87で混合された標準ガスは、弁89a、ガス採取口97、管97a、三方弁31を経て、ガス流入管10へ流入する。そして、標準ガスは、図1に示すように、ガス流入管10からガス貯留空間58へ入り、一部は真空室17へ噴射されて質量分析の用に供され、残部はガス流出管11へ排出される。次いで、残部ガスは、図11に示すように、三方弁30、管96a、ガス戻り口96、弁89b、弁83bを介して、活性炭フィルタ91a,91bを通ることでスサンプル分子が除去され、希釈用ガスのみとなる。通過した希釈用ガスは、弁95、吸引ポンプ94またはバイパス流量弁92を通ってガス出口93に達し、装置33外へ排出される。真空計90は、吸引ポンプ94を動作させたときの、ガス流路圧力を観測するために使用される。その圧力調節は、流量調節弁95によって行われる。標準ガスを使用しない場合には、ガスは、弁89aから弁89bへ流され、排出経路に導入される。
【0037】
図10に示すように、標準ガス発生装置33の恒温槽80内に設置された拡散管79からサンプル分子が発生し、希釈用ガスと混合されることで、所定濃度の標準サンプル分子を含んだキャリヤガスを生成する。
拡散管79から発生した標準サンプル分子と希釈用ガスの混合によって生成される混合ガスの濃度は、
【数6】

の式で求めることができる。ここでCは発生濃度(μg/m)、dは拡散管の直径(mm)、Lはディフュージョンチューブの長さ(cm)、tは恒温槽の温度(℃)、Fは希釈用ガスの流量(L/min)、Mは対象物質の分子量(g/mol)、Mは対象物質に類似した構造を持つ物質の分子量(g/mol)、DA(25)は対象物質に類似した構造をもつ物質Aの25℃における拡散係数(cm/sec)、Psaは恒温槽温度t(℃)における試料の飽和蒸気圧(Torr)である。
またPsa(Torr)はAntoineの式
【数7】

で求めることができる。ここでA、B、CはAntoine定数であり、大抵の物質に関するAntoine定数は、例えば、日本化学会編「化学便覧 基礎編 改訂第4版」(丸善)に掲載されている。
算出の一例として、1,2−ジクロロベンゼンの発生濃度を算出する。拡散管の直径d=1.5(mm)、ディフュージョンチューブの長さL=5(cm)、恒温槽温度t=100(℃)、希釈用ガスの流量F=1(L/min)、1,2−ジクロロベンゼンの分子量M=147(g/mol)、対象物質に類似した構造を持つ物質の分子量は、モノクロロベンゼンの分子量MA=112.56(g/mol)、対象物質に類似した構造をもつ物質Aの25℃における拡散係数はモノクロロベンゼンの25℃における拡散係数を使用しDA(25)=0.073とし、Antoine定数をそれぞれA=7.0703、B=1649.55、C=213.31とすると、Antoine式から恒温槽温度t=100(℃)における飽和蒸気圧は、Psa=63.88(Torr)となり、これらを前記発生濃度算出式へ代入すると、発生濃度C=6787.527(μg/m)となる。
【0038】
希釈用ガスを加圧して送出する標準ガス発生装置33を本発明のレーザーイオン化質量分析装置における感度校正に適用するのは、以下の理由による。希釈用ガスに使用されるガスは、空気、希ガス、軽分子ガスなどの軽い分子量であり、これに高分子量のサンプル分子を混合し、静止状態にすると、重力により軽い分子と重い分子がガス貯留空間58内で分離して横たわるので、その横たわる場所によって、濃度差が生じる。一方、希釈用ガスが加圧されてガス貯留空間58内で流れていると、濃度が均一な層流となり、真空室17へ噴射されるサンプル分子濃度も均一となり、サンプル分子量の再現性がよいからである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、高速パルスバルブを備えた噴射装置のノズルから真空容器内へダイオキシン類サンプル分子を含んだキャリヤガスを噴出し、このガス流にレーザー光を照射して選択的にサンプル分子をイオン化し、これを質量分析計でキャリヤガスに含まれる極微量の物質を効率よく同定・定量するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】レーザーイオン化質量分析装置の概略的斜視図である。
【図2】真空室内を並進するパルスガスの概念図である。
【図3】最適レーザー光照射位置決定装置の概念図である。
【図4】パルスガス噴射装置内の詳細図である。
【図5】パルスガス噴射装置から噴射されるパルスガスがチョークフローとなるための条件を示した図である。
【図6】パルスガスのパルス長と、レーザー光照射位置との関係を示した概略図である。
【図7】直管型通気路を有するノズルと、発散型通気路を有するノズルの概略図であり、それぞれの通気路を流れるキャリヤガスの模式図を含んでいる。
【図8】エジェクタの概略図である。
【図9】マルチミラー組立体の説明図である。
【図10】拡散管を用いた標準ガス発生装置の説明図である。
【図11】標準ガス発生装置の説明図である。
【図12】リペラー電極と引き出し電極の説明図である。
【図13】リペラー電極と引き出し電極の間で生成された電場パターンの計算結果を示した図である。
【図14】リペラー電極と引き出し電極の間で生成された電場パターンの計算結果を示した図である。
【図15】リペラー電極と引き出し電極の間で生成された電場パターンの計算結果を示した図である。
【図16】ノズルからの噴出ガスの圧力分布を示す波形のグラフである。
【図17】パルスガスを構成する3成分のガス流と混合されたガス成分の並進距離と流速の関係を示すグラフである。
【図18】キャリヤガスの種類(例えば、大気とヘリウムガス)によって異なる通気路内での確率密度分布関数を説明したグラフである。
【図19】通気路から噴射された2,3,7,8−TeCDD標準サンプル分子を含んだ混合ガスが十分冷却された状態と、不十分な冷却状態でのレーザーイオン化質量分析による1色2光子イオン化波長スペクトルおよび2色2光子イオン化波長スペクトルの観測結果を示すグラフである。
【図20】十分に冷却された2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン標準サンプル分子を含んだキャリヤガスをナノ秒パルス幅のレーザー光で2色2光子イオン化した際、励起用レーザー光とイオン化用レーザー光(266nmおよび213nmを使用)間の時間間隔を変えたときのイオン信号量の変化を示したグラフである。
【図21】通気路形状の差異による1,2,3,7,8−ペンタクロロジベンゾフランと2,3,4,7,8−PeCDFの波長スペクトル観測結果を示したグラフである。
【図22】発散型ノズルと直管型ノズルの差異による、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン標準サンプル分子を含んだキャリヤガスをナノ秒パルス幅のレーザー光で2色2光子イオン化した際の質量スペクトル観測結果を示したグラフである。
【図23】希釈用ガスとして窒素、ヘリウムガス混合ガスを使用し、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン(TeCDD)標準サンプル分子を含んだ混合ガスを2色2光子イオン化した際のヘリウムガス混合割合とイオン信号量の関係を示したグラフである。
【図24】マルチミラー組立体により形成されたレーザー光束をベンゼンサンプル分子へ照射したときの、レーザー光の照射回数(照射時間)とレーザー光エネルギーに対するベンゼンイオン信号量の依存性を示したグラフである。
【符号の説明】
【0041】

1 励起用レーザー光発生装置
2 イオン化用レーザー光発生装置
3 励起用レーザー光
4 イオン化用レーザー光
5 全反射ミラー
6 レーザー光混合プリズム
7 二重レーザー光
8 マルチミラー組立体
9 レーザー光束
10 ガス流入管
11 ガス流出管
12 パルスガス噴射装置
13 通気路
13a 発散型通気路
13b 直管型通気路
14 パルスガス噴射軌道
15 管
16 管
17 真空室
18 メッシュ付きリペラー電極
19 引き出し電極
20 接地電極
21 イオンレンズ
22 イオン偏向電極
23 差動排気用アパーチャ
24 パルスガス
25 イオンビーム軌道
26 リフレクトロン飛行時間型質量分析装置
27 イオン反射電極
28 MCP
29 サンプル分子イオン
30 三方弁(ガス流出用)
31 三方弁(ガス流入用)
32 希釈用ガス源
33 標準ガス発生装置
34 エジェクタ(キャリヤガス混合部)
35 キャリヤガス源
36 被測定ガス源
37 外側面
38 リペラー電極用メッシュ
39 引き出し電極用メッシュ
40 接地電極用メッシュ
41 パルスガスの圧力時間分布
42 パルスガス
43 パルスガスの圧力時間分布
44 パルスガス
45 パルスガスの圧力時間分布
46 パルスガス
47 真空蛇腹管
48 真空容器
49 高速電離真空計
50 真空ポンプ
51 パルスガス噴射装置の駆動装置
52 高速電離真空計の駆動装置
53 オシロスコープ
54 フランジ
55 ノズル
56 弾性シール材
57 弁体
57a 弁体上部
57b 弁体下部
58 ガス貯留空間
59 シート面
61 通気路へ流入するガス
62 通気路を進行するガス
63 パルスガス
64 パルスガス
65 パルスガス
66 シート面
66a シート面
66b シート面
67 ノズル
67a 発散型通気路を有するノズル
67b 直管型通気路を有するノズル
68 外側面
68a ノズルの外側面
68b ノズルの外側面
69 ガスの滞留部
69a ガスの滞留部
69b ガスの滞留部
70 通気路を流れるガス
70a 通気路を流れるガス
70b 通気路を流れるガス
71 駆動側フランジ
72 エジェクタ本体のフランジ
73 ノズル
74 スロート部
75 吐出側フランジ
76 吸引側フランジ
77 ミラーセット
78 ミラーセット
79 拡散管
80 恒温槽
81 希釈用ガス入口
82 希釈用ガス精製用活性炭
83 漏れチェック弁
83a 希釈用ガス漏れチェック弁
83b 排出ガス漏れチェック弁
84 調節器
85 熱交換チューブ
86 発散管ホルダ
87 混合器
88 流路切り替え弁
89 発生ガス採取弁
89a 発生ガス採取口側発生ガス採取弁
89b 発生ガス戻り口側発生ガス採取弁
90 真空計
91 排出ガス処理用活性炭
92 バイパス流量弁
93 浄化後排出ガス出口
94 吸引ポンプ
95 流量調節弁
96 発生ガス採取口
97 発生ガス戻り口
98 レーザー光
99 リペラー電極(単一レーザー光用)
100 引き出し電極(単一レーザー光用)
101 メッシュ(単一レーザー光用リペラー電極に付属)
102 メッシュ(単一レーザー光用引き出し電極に付属)
103 マルチミラー組立体で形成された往路の円柱状レーザー光
104 マルチミラー組立体で形成された復路のレーザー光
D 通気路直径(m)
L パルスガスのパルス長(圧力分布の半値全幅長)(m)
外側面37とレーザー光照射位置間距離(m)
h 通気路13へ流入するガスの流束体高さ(m)
通気路13へ流入するガスの流束体断面の直径(m)
M1,M2,・・・Mn 凹面鏡
Z イオン化ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル分子を含んだキャリヤガスを真空室内へパルス的に噴射するパルスガス噴射装置と、真空室内に噴射されたキャリヤガス中のサンプル分子を選択的に光反応させるためのレーザー光を照射するレーザー光照射システムと、前記光反応によって生成されたサンプル分子イオンを引き出すための電場を形成するリペラー電極及び引き出し電極と、このリペラー電極及び引き出し電極によって引き出されたサンプル分子イオンを質量分析する質量分析装置とを有するレーザーイオン化質量分析装置において、
前記レーザー光照射システムは、前記パルスガス噴射装置から噴射されて前記真空室を並進するパルスガスが、フラット部を有するフラットトップ台形型圧力分布からフラット部を有しない三角型圧力分布に遷移する位置付近において、レーザー光をサンプル分子へ照射するように設定されることを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項2】
前記パルスガス噴射装置が、前記サンプル分子を含んだキャリヤガス源に接続されたガス貯留空間と、
このガス貯留空間と前記真空室との間を遮断するフランジと、
前記フランジに支持され、前記ガス貯留空間に面するシート面と、このシート面の反対側にあって真空室に面する外側面と、シート面と外側面との間を貫通する通気路とを有するノズルと、
このノズルの前記シート面上に配置された弾性シール材と、
前記ガス貯留空間に配置され、前記シール材にシート面が接して前記ノズルの通気路を遮断する閉位置と、電磁力駆動でシート面が前記シール材から所定距離離れて前記ノズルの通気路を開く開位置との間を変位可能な弁体とを具備し、
前記弁体の開位置における前記シール材からの離間距離が、前記ノズルの通気路におけるシート面上の直径の0.25倍以上となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項3】
前記ノズルの通気路直径が、シート面上において0.75mm以上に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項4】
前記レーザー光照射システムによる前記パルスガス流へのレーザー光照射位置が、前記ノズルの外側面から前記パルスガス流のパルス半値全幅長より長い距離離れていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項5】
前記ノズルの通気路が、前記シート面から前記外側面へ向かう所定位置まで同一直径で、所定位置から前記外側面に向かって所定角度で直径を拡大する発散型通気路であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項6】
前記発散型通気路が、前記シート面上において、直径0.75mm以上の直径を有することを特徴とする請求項5に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項7】
前記発散型通気路は、前記シート面から前記外側面までの距離の3分の1以下の所定位置まで同一直径で、当該所定位置から前記外側面に向かって発散角4°〜20°で直径を拡大するように設定されていることを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項8】
サンプル分子を含んだキャリヤガスが、大気もしくは燃焼炉排ガスを希ガスまたは軽ガスと混合した混合ガスであり、
当該混合ガスに含まれる前記希ガスもしくは軽ガスの割合が、混合ガス総体積の80Vol%〜99.9Vol%であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項9】
前記混合ガスを生成するためのエジェクタを備えることを特徴とする請求項8に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項10】
前記リペラー電極が、前記パルスガスを前記レーザー光照射位置へ通過させることができるメッシュを有し、前記パルスガス噴射装置と前記引き出し電極との間に配置されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項11】
前記レーザー光照射システムが、複数の凹面鏡からなる対向一対のミラーセットを具備し、前記各凹面鏡は、一対のミラーセット間をレーザー光が順次反射して往復することにより前記レーザー光照射位置にレーザー光束の集合領域を形成するように、角度を定めて配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の光蓄積型レーザーイオン化質量分析装置。
【請求項12】
被測定ガスの分析に先だって、既知の標準サンプル分子を分析することで、装置の分析感度の校正を行うための標準ガス発生装置をさらに具備し、
この標準ガス発生装置は、サンプル分子を含んだキャリヤガスがガス貯留空間へ流れる流路に三方弁を介して接続され、
前記三方弁に接続されるガス出口と、
前記標準サンプル分子を希釈するための希釈用ガス源に接続されるガス入口と、
前記ガス出口とガス入口との間を接続するガス通路と、
前記標準サンプル分子を保有し、前記ガス通路の途上に、これに連通するように配置された拡散管と、
この拡散管を加熱可能に収容する恒温槽と、
前記希釈用ガス源と前記拡散管との間の前記ガス通路の途上に設置され、前記拡散管から前記ガス通路に放出される標準サンプル分子を所定濃度に希釈するために、希釈ガスの流量を調節可能な調節器とを具備することを特徴とする請求項1に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項13】
前記サンプル分子を含んだキャリヤガスを前記ガス貯留空間に流入させるための加熱可能なキャリヤガス流入管と、
前記ガス貯留空間から前記キャリヤガスの残部を排出するための加熱可能なガス流出管とをさらに具備し、
前記標準ガス発生装置のガス出口が、三方弁を介して前記ガス流入管に接続されていることを特徴とする請求項12に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項14】
前記希釈用ガス源が、希ガス源もしくは軽分子ガス源であることを特徴とする請求項12に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項15】
前記リペラー電極と前記引き出し電極が、前記マルチミラー組立体により形成される前記レーザー光束と衝突しない十分な相互間隔をもって配置され、かつ前記リペラー電極と前記引き出し電極が、相互間に形成される電場を歪ませない十分な対向部面積を有することを特徴とする請求項11に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項16】
前記質量分析装置が、リフレクトロン型飛行時間質量分析装置
であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル分子を含んだキャリヤガスを真空室内へパルス的に噴射するパルスガス噴射装置と、真空室内に噴射されたキャリヤガス中のサンプル分子を選択的に光反応させるためのレーザー光を照射するレーザー光照射システムと、前記光反応によって生成されたサンプル分子イオンを引き出すための電場を形成するリペラー電極及び引き出し電極と、このリペラー電極及び引き出し電極によって引き出されたサンプル分子イオンを質量分析する質量分析装置とを有するレーザーイオン化質量分析装置において、
前記レーザー光照射システムは、前記パルスガス噴射装置から噴射されて前記真空室を並進するパルスガスが、フラット部を有するフラットトップ台形型圧力分布からフラット部を有しない三角型圧力分布に遷移する位置付近において、レーザー光をサンプル分子へ照射するように設定されることを特徴とするレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項2】
前記パルスガス噴射装置が、前記サンプル分子を含んだキャリヤガス源に接続されたガス貯留空間と、
このガス貯留空間と前記真空室との間を遮断するフランジと、
前記フランジに支持され、前記ガス貯留空間に面するシート面と、このシート面の反対側にあって真空室に面する外側面と、シート面と外側面との間を貫通する通気路とを有するノズルと、
このノズルの前記シート面上に配置された弾性シール材と、
前記ガス貯留空間に配置され、前記シール材にシート面が接して前記ノズルの通気路を遮断する閉位置と、電磁力駆動でシート面が前記シール材から所定距離離れて前記ノズルの通気路を開く開位置との間を変位可能な弁体とを具備し、
前記弁体の開位置における前記シール材からの離間距離が、前記ノズルの通気路におけるシート面上の直径の0.25倍以上となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項3】
前記ノズルの通気路直径が、シート面上において0.75mm以上に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項4】
前記レーザー光照射システムによる前記パルスガス流へのレーザー光照射位置が、前記ノズルの外側面から前記パルスガス流のパルス半値全幅長より長い距離離れていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項5】
前記ノズルの通気路が、前記シート面から前記外側面へ向かう所定位置まで同一直径で、所定位置から前記外側面に向かって所定角度で直径を拡大する発散型通気路であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項6】
前記発散型通気路が、前記シート面上において、直径0.75mm以上の直径を有することを特徴とする請求項5に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項7】
前記発散型通気路は、前記シート面から前記外側面までの距離の3分の1以下の所定位置まで同一直径で、当該所定位置から前記外側面に向かって発散角4°〜20°で直径を拡大するように設定されていることを特徴とする請求項5または6のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項8】
サンプル分子を含んだキャリヤガスが、大気もしくは燃焼炉排ガスを希ガスまたは軽分子ガスと混合した混合ガスであり、
当該混合ガスに含まれる前記希ガスもしくは軽分子ガスの割合が、混合ガス総体積の80Vol%〜99.9Vol%であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項9】
前記混合ガスを生成するためのエジェクタを備えることを特徴とする請求項8に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項10】
前記リペラー電極が、前記パルスガスを前記レーザー光照射位置へ通過させることができるメッシュを有し、前記パルスガス噴射装置と前記引き出し電極との間に配置されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項11】
前記レーザー光照射システムが、複数の凹面鏡からなる対向一対のミラーセットを具備し、前記各凹面鏡は、一対のミラーセット間をレーザー光が順次反射して往復することにより前記レーザー光照射位置にレーザー光束の集合領域を形成するように、角度を定めて配置されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の光蓄積型レーザーイオン化質量分析装置。
【請求項12】
被測定ガスの分析に先だって、既知の標準サンプル分子を分析することで、装置の分析感度の校正を行うための標準ガス発生装置をさらに具備し、
この標準ガス発生装置は、サンプル分子を含んだキャリヤガスがガス貯留空間へ流れる流路に三方弁を介して接続され、
前記三方弁に接続されるガス出口と、
前記標準サンプル分子を希釈するための希釈用ガス源に接続されるガス入口と、
前記ガス出口とガス入口との間を接続するガス通路と、
前記標準サンプル分子を保有し、前記ガス通路の途上に、これに連通するように配置された拡散管と、
この拡散管を加熱可能に収容する恒温槽と、
前記希釈用ガス源と前記拡散管との間の前記ガス通路の途上に設置され、前記拡散管から前記ガス通路に放出される標準サンプル分子を所定濃度に希釈するために、希釈ガスの流量を調節可能な調節器とを具備することを特徴とする請求項1に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項13】
前記サンプル分子を含んだキャリヤガスを前記ガス貯留空間に流入させるための加熱可能なキャリヤガス流入管と、
前記ガス貯留空間から前記キャリヤガスの残部を排出するための加熱可能なガス流出管とをさらに具備し、
前記標準ガス発生装置のガス出口が、三方弁を介して前記ガス流入管に接続されていることを特徴とする請求項12に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項14】
前記希釈用ガス源が、希ガス源もしくは軽分子ガス源であることを特徴とする請求項12に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項15】
前記リペラー電極と前記引き出し電極が、前記マルチミラー組立体により形成される前記レーザー光束と衝突しない十分な相互間隔をもって配置され、かつ前記リペラー電極と前記引き出し電極が、相互間に形成される電場を歪ませない十分な対向部面積を有することを特徴とする請求項11に記載のレーザーイオン化質量分析装置。
【請求項16】
前記質量分析装置が、リフレクトロン型飛行時間質量分析装置
であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のレーザーイオン化質量分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate


【公開番号】特開2006−73437(P2006−73437A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257696(P2004−257696)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年6月1日 日本質量分析学会発行の「第52回 質量分析総合討論会(2004)講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年7月5日 第13回環境化学討論会実行委員会発行の「日本環境化学会 第13回環境化学討論会講演要旨集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、知的基盤創成・利用促進研究開発、ダイオキシン類等の迅速超微量物分析装置の研究開発委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(502317493)株式会社IDXテクノロジーズ (3)
【出願人】(599140828)
【Fターム(参考)】