説明

光触媒およびその製造方法

【課題】二酸化炭素を安定して還元できる光触媒を提供する。
【解決手段】チタン,コバルト,および酸素からなるアナターゼ型の結晶構造を有した金属酸化物から構成された光触媒である。金属酸化物は、化学式Ti1-xCox2-a(0≦x≦1,−0.1≦a≦0)で表される化合物である。この光触媒は、二酸化チタンにコバルトを添加して構成しており、二酸化炭素を還元することで生成される還元生成物の生成量が、時間が経過しても飽和することがなく、光照射による二酸化炭素の還元生成物の生成量を、時間の経過とともに増加させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンを含んで構成された金属酸化物からなる光触媒およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの一つとして、排出量削減が課題とされている。二酸化炭素の大気中への排出量を削減する方法としては、省エネルギー機器の使用により電力使用量を減らすことで、発電所から発生する二酸化炭素を削減する省エネルギー化がある。また、電気自動車のように二酸化炭素を発生しない機器に交換するクリーン化がある。これらに加え、排出源から排出された二酸化炭素を大気中に放出させない固定化という方法がある。
【0003】
二酸化炭素の固定化の一例として、外部からエネルギーを加えることにより二酸化炭素を還元し、別の物質に化学変化させる方法がある。例えば、光触媒により、光を外部からのエネルギーとして用いて二酸化炭素を還元することで、二酸化炭素が固定化できる。このような光触媒として、例えばTiO2(二酸化チタン)、ZnO、CdS、GaP、SiCなどがある。特に二酸化チタンは、比較的安価かつ安定な材料として注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Inoue et al. , "Photoelectrocatalytic reduction of carbon dioxide in aqueous suspensions of semiconductor powders", Nature, vol.277, pp637-638, 1979.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者らの検討の結果、二酸化チタンを用いる場合、二酸化炭素の還元反応が時間の経過とともに飽和する現象が確認された。例えば、二酸化チタンを光触媒とした二酸化炭素の還元反応では、図2に示すように、還元により生成する生成物の量が、時間の経過に伴い飽和している。なお、図2の縦軸は、光照射3時間で生成されるCOの量を1として正規化している。これは、二酸化炭素の還元反応の進行に従い、二酸化チタンの表面の微細な構造の変化により二酸化炭素の還元反応が阻害されることが原因と考えられる。このように、二酸化チタンでは、二酸化炭素を安定して還元させることができないなどのように、安定した触媒反応が得られないという問題がある。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、より安定して触媒反応が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光触媒は、チタン,コバルト,および酸素からなるアナターゼ型の結晶構造を有した金属酸化物から構成されている。
【0008】
上記光触媒において、金属酸化物は、化学式Ti1-xCox2-a(0.03≦x≦0.07,−0.1≦a≦0.1)で表されるものであればよい。
【0009】
本発明に係る光触媒の製造方法は、チタンおよびコバルトを有する水酸化物を前駆体として用意する第1工程と、前駆体を650〜750℃の範囲で加熱してチタン,コバルト,および酸素からなるアナターゼ型の結晶構造を有した金属酸化物からなる光触媒を生成する第2工程とを少なくとも備える。
【0010】
上記光触媒の製造方法において、前駆体は、化学式Ti1-yCoy(OH)4-b(0.03≦y≦0.07,−0.2≦b≦0.2)で表されるものであればよい。
【0011】
上記光触媒の製造方法において、前駆体は、4価のチタン塩と2価のコバルト塩とを含む水溶液と、アルカリの水溶液とを混合して合成することで用意すればよい。なお、4価のチタン塩は、硫酸チタンであり、2価のコバルト塩は、硝酸コバルト及び塩化コバルトより選択されたものであり、アルカリはアンモニアであればよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、チタン,コバルト,および酸素からなるアナターゼ型の結晶構造を有した金属酸化物から光触媒を構成したので、より安定して触媒反応が得られるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施例1における光触媒による二酸化炭素還元生成物の時間による生成量の変化を示す特性図である。
【図2】図2は、二酸化チタンからなる光触媒による二酸化炭素還元生成物の時間による生成量の変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。本実施の形態における光触媒は、チタン,コバルト,および酸素からなるアナターゼ型の結晶構造を有した金属酸化物から構成されたものである。金属酸化物は、化学式Ti1-xCox2-a(0<x<1,−0.1≦a≦0)で表される化合物である。
【0015】
本実施の形態における光触媒では、二酸化チタンにコバルトを添加して構成しており、これにより、例えば、二酸化炭素を還元することで生成される還元生成物の生成量が、時間が経過しても飽和することがない。本実施の形態における光触媒によれば、光照射による還元生成物の生成量を、時間の経過とともに増加させることができる。これは、コバルトが含まれることで、光触媒(金属酸化物)の表面の微細な構造の変化が抑制され、上述した効果が得られるようになるものと考えられる。
【0016】
ここで、光触媒におけるコバルトの組成比が大きすぎると、触媒として機能しない安定な複合酸化物であるCoTiO3が生成しはじめ、最終的には、ほとんどがCoTiO3となる。このため、コバルトの組成比は、チタンの組成比に対し、モル比で0〜10%の間であることが望ましく、特に0〜7%の範囲とすることが望ましい。また、光触媒におけるコバルトの組成比が小さすぎると、コバルトの存在による効果を十分に得ることができない。従って、コバルトの組成比は、チタンの組成比に対し、モル比で3〜7%の間であることがより望ましい。この状態を化学式で示すとTi1-xCox2-a(0.03≦x≦0.07,−0.1≦a≦0.1)となる。
【0017】
次に、本実施の形態における光触媒の製造方法について説明する。チタン,コバルト,および酸素からなるアナターゼ型の結晶構造を有した金属酸化物は、例えば、水酸化チタンなどのチタン化合物の粉末と炭酸コバルトなどのコバルト塩の粉末を混合した後、500〜750℃の温度で加熱して合成することで得られる。ただし、このような固体粉末を原料とした合成では、アナターゼ型の結晶構造とすることができる比較的低温の焼成条件では、コバルトが二酸化チタン光触媒中に十分に取り込まれず、満足な性能が得られないことがある。
【0018】
これに対し、各金属の塩を用いることで、アナターゼ型の結晶構造とした上で、コバルトを十分に取り込めることを発明者らは見いだした。まず、4価のチタン塩と2価のチタン塩とを溶解した水溶液を用意する。この水溶液にアルカリの水溶液を混合し、この混合により沈殿する沈殿物(チタンおよびコバルトの水酸化物)を得る。この水酸化物は、化学式Ti1-yCoy(OH)4-b(0<y<1,−0.2≦b≦0.2)で表されるものである。このようにして得られた水酸化物を前駆体とし、これを650〜750℃の範囲で加熱することで、本実施の形態における光触媒が得られる。
【0019】
ここで、4価のチタン塩は硫酸チタンであり、2価のコバルト塩は、硝酸コバルトもしくは塩化コバルトであり、アルカリはアンモニアであればよい。硫酸チタンの水溶液によれば、安定した4価のチタンイオンの状態が得られる。また、硝酸コバルトもしくは塩化コバルトであれば、水に溶けやすい。また、アンモニアは、二酸化チタンの構造中に取り込まれやすいアルカリ金属のイオン(ナトリウムイオン,カリウムイオンなど)を生成しない。これらのことより、硫酸チタン,硝酸コバルトもしくは塩化コバルト,およびアンモニアは、本実施の形態における光触媒を得るための前駆体の原料として好ましい。
【0020】
以下、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0021】
[実施例1]
はじめに、実施例1について説明する。まず、実施例1における光触媒試料の合成について説明する。原料は、4価のチタン塩として硫酸チタン、2価のコバルト塩として塩化コバルト、アルカリとしてアンモニア水を用いた。硫酸チタンは、市販されている硫酸チタン水溶液を用いる。この硫酸チタン水溶液に、チタンとコバルトがモル比で95:5(コバルトの添加量5%)となるように塩化コバルトを混合し、チタン−コバルト塩の水溶液を作製した。
【0022】
次に、上述したチタン−コバルト塩の水溶液に、化学量論比の水酸化物を形成するのに必要な量の5倍の量のアンモニアを含有するように調整したアンモニア水を、70℃に加熱しながら混合し、70℃で3時間加熱を継続させた。この処理により得られた緑灰色の沈殿物を、ろ過し、また洗浄することにより、前駆体となるチタン−コバルト水酸化物を得た。
【0023】
次に、得られたチタン−コバルト水酸化物を、空気中で700℃・3時間の加熱条件で加熱した。この焼成処理により、コバルトが添加された二酸化チタンからなる緑灰色の光触媒試料を得た。得られた光触媒試料の結晶構造をX線回折測定により同定した結果、アナターゼ型二酸化チタンと類似の結晶構造を有していた。
【0024】
上述したことにより作製した光触媒試料を、石英製の触媒性能評価セルの中において水酸化ナトリウム水溶液中に分散させ、ここに二酸化炭素をバブリングした後、密閉した。密閉した触媒性能評価セル中で光触媒試料を分散した水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しつつ、100Wの紫外線ランプにより紫外線を照射したところ、二酸化炭素の還元生成物として一酸化炭素の生成が確認された。実施例1の光触媒試料における一酸化炭素の生成量を一定時間ごとに測定すると、図1に示すように、一酸化炭素の生成量は時間経過にしたがって飽和することなく、増加し続ける結果が得られた。なお、図1の縦軸は、光照射3時間で生成されるCOの量を1として正規化している。
【0025】
[比較例1]
次に、比較例1について説明する。比較例1では、コバルトを含まない酸化チタンからなる光触媒比較試料を合成し、上述した実施例1の光触媒試料と比較する。まず、比較例1における光触媒比較試料の合成について説明する。原料は、4価のチタン塩として硫酸チタン、アルカリとしてアンモニア水を用いた。硫酸チタンは市販されている硫酸チタン水溶液を用い、この硫酸チタン水溶液に、化学量論比の水酸化物を形成するのに必要な量の5倍の量のアンモニアを含有するように調整したアンモニア水を、70℃に加熱しながら混合し、70℃で3時間加熱を継続させた。この処理により得られた白色の沈殿物を、ろ過しまた洗浄することにより、前駆体となるチタン水酸化物を得た。
【0026】
次に、得られたチタン水酸化物を、空気中で700℃・3時間の加熱条件で加熱した。この焼成処理により、二酸化チタンからなる白色の光触媒比較試料を得た。得られた光触媒比較試料の結晶構造をX線回折測定で同定した結果、アナターゼ型二酸化チタンであることが分かった。
【0027】
上述したことにより作製した光触媒比較試料を、石英製の触媒性能評価セルの中において水酸化ナトリウム水溶液中に分散させ、ここに二酸化炭素をバブリングした後、密閉した。密閉した触媒性能評価セル中で光触媒比較試料を分散した水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しつつ、100Wの紫外線ランプにより紫外線を照射したところ、二酸化炭素の還元生成物として一酸化炭素の生成が確認された。
【0028】
光触媒比較試料における一酸化炭素の生成量を一定時間ごとに測定すると、図2に示すように、一酸化炭素の生成量は時間経過にしたがって飽和し、一定量以上は増加しない結果が得られた。なお、図2の縦軸は、光照射3時間で生成されるCOの量を1として正規化している。
【0029】
以上に説明したように、本発明によれば、二酸化チタンにコバルトを添加して光触媒としているので、光照射による二酸化炭素の還元生成物の生成量を、時間の経過とともに増加させることができる。このように、本発明によれば、より安定して触媒反応が得られるようになる。
【0030】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述では、主に二酸化炭素の還元を例に本発明の光触媒について説明したが、これに限るものではなく、本発明の光触媒は、二酸化チタンと同様に、他の物質の還元などの光触媒反応にも適用できることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン,コバルト,および酸素からなるアナターゼ型の結晶構造を有した金属酸化物から構成されたことを特徴とする光触媒。
【請求項2】
請求項1記載の光触媒において、
前記金属酸化物は、化学式Ti1-xCox2-a(0.03≦x≦0.07,−0.1≦a≦0.1)で表されるものであることを特徴とする光触媒。
【請求項3】
チタンおよびコバルトを有する水酸化物を前駆体として用意する第1工程と、
前記前駆体を650〜750℃の範囲で加熱してチタン,コバルト,および酸素からなるアナターゼ型の結晶構造を有した金属酸化物からなる光触媒を生成する第2工程と
を少なくとも備えることを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の光触媒の製造方法において、
前記前駆体は、化学式Ti1-yCoy(OH)4-b(0.03≦y≦0.07,−0.2≦b≦0.2)で表されるものであることを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の記載の光触媒の製造方法において、
前記前駆体は、4価のチタン塩と2価のコバルト塩とを含む水溶液と、アルカリの水溶液とを混合して合成することで用意することを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の光触媒の製造方法において、
前記4価のチタン塩は、硫酸チタンであり、前記2価のコバルト塩は、硝酸コバルト及び塩化コバルトより選択されたものであり、前記アルカリはアンモニアであることを特徴とする光触媒の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−34915(P2013−34915A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170728(P2011−170728)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】