説明

光触媒のコーティング方法とこの方法により光触媒をコーティングした光触媒加工紙

【課題】
光触媒を印刷物等の物品表面にコーティングする際に、無駄に使用される光触媒の量を非常に小なるものにでき、それでいて光触媒作用が高効率で行なわれる光触媒のコーティング方法とこの方法により光触媒をコーティングした光触媒加工紙を提供する。
【解決手段】
粉末の二酸化チタン1と中性乃至アルカリ性の水2とを混合して光触媒水溶液3を調製し、同光触媒水溶液3を印刷物本体5の表面に塗布するとともに、光触媒水溶液3の水分を自然にもしくは強制的に蒸発させて、光触媒を印刷物本体5の表面にコーティングする。
これにより、コーティングされた光触媒の大多数が大気と接触できて、高効率の光触媒作用を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を紙や印刷物等の基材表面にコーティングする方法に関し、より詳しくは、コーティングに使用する光触媒の量を小にでき、それでいて高効率の光触媒作用を期待できる光触媒のコーティング方法とこの方法により光触媒をコーティングした光触媒加工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光触媒の酸化作用を利用して大気の浄化を図る製品には各種のものが提案されており、紙そのものや印刷物を基材として光触媒を使用するものとしては例えば壁紙やカレンダー等のものがあり(例えば、特許文献1参照)、光触媒活性物質たる光触媒原材料となる二酸化チタン粉末をバインダとなる透明な合成樹脂塗料に混合して、この合成樹脂塗料を紙そのものの表面や、文字や数字またイラスト等の印刷を終えた印刷物の表面に塗布することによって光触媒をコーティングしている。
【0003】
しかしながら、前記印刷物などの表面にコーティングされた光触媒において大気の浄化作用が有効なのは、バインダの表面から外部に臨んで大気と接触している光触媒だけであって、バインダ内に埋もれた光触媒は何ら浄化作用に寄与しない。
【0004】
このため、大なる光触媒作用を得ようと、バインダに混合する光触媒の量を増やして同バインダの表面から外部に臨んで大気と接触する光触媒の数を多くしているのであるが、当然のことながらバインダの表面から外部に臨む光触媒の数よりもバインダ内に埋もれてしまう数の方が多く、したがって、光触媒の使用(混合)量に対する光触媒の作用効率は非常に低いものであって、結果的に光触媒を無駄に使っていた。
【0005】
また上述の問題点は、製紙工程において紙に光触媒を混入させる場合においても同様であり、この場合、抄紙の原材料が溶け込む水槽に光触媒たる二酸化チタン粉末を混合して抄紙を行うのであるが、殆どの割合の二酸化チタン粉末は漉き上がった紙の内部に存在して紙の表面における光触媒作用に資することができない。
【0006】
しかも、抄紙の際の水槽内に二酸化チタン粉末が大量に沈殿し、歩留まりが極めて悪いという問題もある。
【0007】
また、上述する光触媒の原材料となる二酸化チタン粉末を含有した紙を印刷用紙とする場合は、インキで紙の表面から外部に臨む光触媒をも覆ってしまうため、光触媒の使用(混合)量に対する光触媒の作用効率はさらに低下する。
【0008】
また上記のことは、光触媒の原材料となる二酸化チタン粉末を混合したバインダを紙の表面にコーティングしている印刷用の紙材として多く利用されている紙にも言えることで、すなわち、バインダの表面から外部に臨む光触媒を印刷によるインキで覆って紙表面の光触媒が作用できなくなる。
【0009】
【特許文献1】特開2006−77367号公報(第1〜13頁、図1〜3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、光触媒を印刷物等の物品表面にコーティングする際に、無駄に使用される光触媒の量を非常に小なるものにでき、それでいて光触媒作用が高効率で行なわれる光触媒のコーティング方法とこの方法により光触媒をコーティングした光触媒加工紙を提供できるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明に係る光触媒のコーティング方法は、粉末の光触媒原材料から光触媒水溶液を調製し、この光触媒水溶液を物品の表面に塗工し、光触媒水溶液中の水分を蒸発させて、光触媒を基材の表面にコーティングする構成としてある。
【0012】
また前記光触媒水溶液を、中性乃至アルカリ性に調整することを特徴としている。
【0013】
さらに前記光触媒原材料を、二酸化チタンもしくは二酸化チタンと他物質の混合物からなるものとしてある。
【0014】
また前記基材を、印刷物とした構成としてある。
【0015】
そして、本発明に係る光触媒をコーティングした光触媒加工紙は、粉末の光触媒原材料から光触媒水溶液を調製し、この光触媒水溶液を紙の表面に塗工し、光触媒水溶液中の水分を蒸発させて、光触媒を紙の表面にコーティングしたものとしてある。
【0016】
また前記光触媒水溶液を、中性乃至アルカリ性に調整することを特徴としている。
【0017】
さらに前記光触媒原材料が、二酸化チタンもしくは二酸化チタンと他物質の混合物からなるものとしてある。
【0018】
また前記加工紙が、日付や曜日等を印刷したカレンダー用紙としてある。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、光触媒の原材料である二酸化チタンを含有させた光触媒水溶液を物品の表面に塗布し、その後この光触媒水溶液の水分だけを蒸発させて、光触媒水溶液中の二酸化チタンだけを物品の表面に残留させて二酸化チタンすなわち光触媒をコーティングしているので、従来のように、光触媒がバインダとなる合成樹脂塗料の中に埋もれてしまうことがなく、したがって光触媒はその大多数が基材表面に偏在して大気と十分に接触させられ、高効率の光触媒作用を発揮することができ、大気の浄化作用を好適に行なうことができる。
【0020】
しかも、光触媒は基材の表面に偏在するので、使用する光触媒の量を従来のものに比して格段に小なるものにでき、したがって光触媒の無駄な使用を防止できる。
【0021】
そして、光触媒の原材料となる二酸化チタンの粉末、すなわち準安定状態にあるナノサイズの微粒子からなる二酸化チタンを中性乃至アルカリ性の水と混合することで、二酸化チタンの等電点(電荷の総和がゼロになるpH値)が中性乃至アルカリ性の領域に傾いてナノサイズの微粒子が凝縮し、これにより準安定状態にあるナノサイズの微粒子が不安定状態のミクロンサイズの粒子にサイズアップして、この不安定状態にあるミクロンサイズの粒子からなる二酸化チタンすなわち光触媒に、他のものの表面へ付着しようとする付着力が生じる。
【0022】
この付着力により、光触媒水溶液の水を蒸発させても光触媒が物品の表面に付着して残り、この付着した光触媒を手等で強制的に払い落さなければ相当な期間物品の表面に付着しているので、あまり手を触れることのない物品や例えばカレンダー等のように定期的に交換されるような物品に対して好適に用いることができる。
【0023】
さらには、光触媒(二酸化チタン)の粉末を含有する水溶液は、専門知識を持たない一般の人でも取り扱える中性乃至アルカリ性であるため、取り扱いが容易であるというメリットもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の光触媒のコーティング方法とこの方法により光触媒をコーティングした光触媒加工紙を添付図面に基づいて説明する。
本実施例では、塗布手段を圧縮空気によるスプレーガン4とし、被塗布物たる基材を、文字やイラスト等を印刷してなる例えばカレンダー用紙等の印刷物として説明している。
【0025】
光触媒のコーティング方法は、図1に示すように、光触媒の原材料である二酸化チタン1の粉末と、中性乃至アルカリ性の水2とを混合して光触媒水溶液3を調製する(工程1)。
【0026】
次に、光触媒水溶液3を、スプレーガン4によって印刷が完了した印刷物本体5に吹き付けて塗布する(工程2)。
【0027】
この塗布された光触媒水溶液3は、図2に示すように、紙材等からなる印刷物本体5、印刷用のインキ5a上に付着する。
【0028】
次に、印刷物本体5に塗布した光触媒水溶液3の水分を、蒸発させる(工程3)。
【0029】
かくすると、図3に示すように、印刷物本体5、インキ5aの表面に光触媒水溶液3に含有する二酸化チタン1すなわち光触媒だけが残る。
【0030】
なお、二酸化チタン1の粉末と混合する水2は、中性乃至アルカリ性(pH7以上)の水2を用いた方が二酸化チタン1の水2中での分散が良好に行われる。
【0031】
図4は、従来の方法により光触媒を付加した印刷物と本発明の方法により光触媒を付加した印刷物との光触媒作用比較試験における試験装置の構成図である。
【0032】
図5は、光触媒作用比較試験に用いた試験サンプルを示しており、図5(a)は、光触媒となる二酸化チタン粉末を混合したバインダ(合成樹脂塗料6)を紙の表面にコーティングしている紙を用いて印刷した従来の印刷物(試験サンプル1)、図5(b)は、本発明に係る方法で光触媒をコーティングした印刷物(試験サンプル2)を示している。
また図5(c)は、参考として光触媒を付加していない紙を用いて印刷した印刷物(試験サンプル3)を示している。
【0033】
当該比較試験は、以下の文献(報告書)に記載されている試験方法により行っている。
報告書:(平成16年度経済産業省委託事業成果)基準認証研究開発事業
光触媒試験方法の標準化
編集:社団法人 日本ファインセラミックス協会
発行:平成17年3月
記載頁:179〜184頁
題目:ファインセラミックス−光触媒材料の空気浄化性能試験方法
第3部:トルエンの除去性能
【0034】
以下、表1に比較試験の条件を示す。
【表1】

【0035】
測定手順は以下の順で行っている。
暗吸着(30分) → 紫外線照射(3時間) → ガス濃度測定
【0036】
以下、表2に光触媒作用比較試験の結果を示す。
【表2】

尚、トルエン除去量は1時間当たりの除去量、また1時間当たりのトルエン
供給量は1.33μ molとしている。
【0037】
以上、表2の結果からもわかるように、本発明に係る方法により光触媒をコーティングした印刷物は、トルエン除去量における測定値が従来の方法で光触媒を付加した印刷物に対して約2倍の数値で、またトルエン除去率においても2倍以上の数値となっており、したがって本発明に係る方法によって光触媒をコーティングすることで、数値上からも高効率の光触媒作用が発揮されることが立証された。
【0038】
なお、上述した実施例では印刷物本体5へ光触媒水溶液をスプレーガン4によって吹き付ける構成としてあるが、実用的には印刷工場において所要色数の各色を印刷する工程で、最終工程の版胴にて光触媒水溶液を塗工することができる。
【0039】
かくすると、従来の印刷工程における最終工程において表面に保護被膜を塗工するのと同様の手段によって光触媒のコーティングを行うことができ、産業上の利用可能性およびその優位性が格段に向上する。
【0040】
また、光触媒水溶液を中性乃至アルカリ性のものとした場合には、光触媒水溶液を塗工する印刷機械に酸による腐食が生じるおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る光触媒のコーティング方法を示す工程図。
【図2】光触媒水溶液を塗布した状態の印刷物の断面図。
【図3】図2における光触媒水溶液の水分が蒸発した状態の印刷物の断面図。
【図4】従来の方法により光触媒を付加した印刷物と本発明の方法により光触媒を付加した印刷物との光触媒作用比較試験における試験装置の構成図。
【図5】光触媒作用比較試験に用いた印刷物の側面図。
【符号の説明】
【0042】
1 二酸化チタン
2 水
3 光触媒水溶液
4 スプレーガン
5 印刷物本体
5a インキ
6 合成樹脂塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を印刷物等の基材の表面にコーティングする方法であって、粉末の光触媒原材料から光触媒水溶液を調製し、この光触媒水溶液を物品の表面に塗工し、光触媒水溶液中の水分を蒸発させて、光触媒を基材の表面にコーティングするように構成してなる光触媒のコーティング方法。
【請求項2】
前記光触媒水溶液を、中性乃至アルカリ性に調整することを特徴とする請求項1に記載の光触媒のコーティング方法。
【請求項3】
前記光触媒原材料が、二酸化チタンもしくは二酸化チタンと他物質の混合物からなる請求項1に記載の光触媒のコーティング方法。
【請求項4】
前記基材を印刷物としてなる請求項1に記載の光触媒のコーティング方法。
【請求項5】
光触媒を表面にコーティングした加工紙であって、粉末の光触媒原材料から光触媒水溶液を調製し、この光触媒水溶液を紙の表面に塗工し、光触媒水溶液中の水分を蒸発させて、光触媒を紙の表面にコーティングしてなる光触媒加工紙。
【請求項6】
前記光触媒水溶液を、中性乃至アルカリ性に調整することを特徴とする請求項5に記載の光触媒加工紙。
【請求項7】
前記光触媒原材料が、二酸化チタンもしくは二酸化チタンと他物質の混合物からなる請求項5に記載の光触媒加工紙。
【請求項8】
前記加工紙が、日付や曜日等を印刷したカレンダー用紙である請求項5に記載の光触媒加工紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−95753(P2009−95753A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269599(P2007−269599)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000205823)大昭和紙工産業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】