光触媒の製造方法及び光触媒
【課題】 簡便かつ工業的に有効な手法で酸化チタンそのものの光応答能力を向上させることにより、太陽光並びに蛍光灯照射下で高い触媒活性を発揮する光触媒の製造方法、及び光触媒を提供すること。
【解決手段】 (1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、(2)水性媒体の存在下で、工程(1)の会合体にアルコキシシランを加え、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、(3)工程(2)の複合体と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、酸化チタン(A)を吸着させる工程、(4)工程(3)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着した複合体を600〜900℃で焼成し、複合体中のポリマーの除去と、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程を有する、酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒の製造方法、及び光触媒。
【解決手段】 (1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、(2)水性媒体の存在下で、工程(1)の会合体にアルコキシシランを加え、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、(3)工程(2)の複合体と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、酸化チタン(A)を吸着させる工程、(4)工程(3)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着した複合体を600〜900℃で焼成し、複合体中のポリマーの除去と、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程を有する、酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒の製造方法、及び光触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性の光触媒に関し、詳しくは、シリカナノ構造体に酸化チタンが焼結固定されてなる光触媒とその簡便な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先端材料において、酸化チタンは従来の白色顔料、高屈折率材料と異なる応用物性を示すことで、ますます注目を集めている(例えば、非特許文献1参照。)。例えば、光触媒又は色素増感電荷分離機能では、酸化チタンは群を抜いた触媒材料であり、次世代型光触媒デバイス、太陽電池への応用分野での期待が大きい。また、エネルギー問題で大きな注目を集める燃料電池でも、酸化チタンに白金ナノ粒子を埋め込んだ電極層研究開発が脚光を浴びている。燃料電池の実用化には、水素製造が要求されるが、その水素製造用触媒でも、酸化チタン・白金のコンポジットが有力な候補となっている。
【0003】
近年、酸化チタンは、汚れや有害物質等を自発分解し無害化する光触媒機能が非常に注目されている。その応用分野は、住宅、車、医療、土地処理などへと広がり、循環型社会構築の不可欠技術として位置付けられている。しかしながら、酸化チタンの該光触媒機能を発現させるためには、紫外線を光源とすることが前提条件である。自然光(太陽光)や室内様蛍光灯にはごく少量の紫外線しか含まれておらず、その大部分は可視光であり、紫外線のみを吸収する光触媒では、太陽光線や蛍光灯下での利用は極めて厳しいものとなる。そのため、酸化チタンを有効な光触媒として用いるために、酸化チタンそのものの吸収範囲を可視光へ変換させる試みが様々検討されてきた。例えばアニオン(窒素原子、炭素原子、硫黄原子、リン原子)ドーピング、またはカチオン(遷移金属、希土類金属、半金属等の金属イオン)ドーピングを行うもの等である。
【0004】
上記手法の内、近年、窒素原子を中心としたアニオンドープ型酸化チタンが可視光照射下で通常の酸化チタンと比較して高い触媒活性を示すことが見出された(例えば、非特許文献2〜4参照。)。しかしながら、アニオンドープ型酸化チタンは、酸素原子をアニオン原子で置き換えているために結晶格子内に欠陥構造を生じてしまう。このため、可視光線への応答能力は発現するものの、紫外線応答能力が著しく低下してしまい、結果として太陽光や蛍光灯照射下ではかえって活性が低下するという現象がしばしば見受けられている。
【0005】
このような状況を脱するため、不純物をドープするのではなく、酸化チタンに白金錯体を担持した高活性可視光応答型も開発されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この触媒の高活性理由は主に紫外線応答能力が白金錯体担持により増強されているためであり、可視光線の吸収はごくわずかでしかない。
【0006】
また、可視光応答能力は議論せず、酸化チタン自身の紫外線応答能力を向上させることにより、太陽光や蛍光灯中に含まれる紫外線を有効利用する試みも積極的に行われている。活性な結晶面を選択的に露出させた多面体形状酸化チタン等が通常の酸化チタンと比較して高い触媒活性を持つことが報告されている(例えば非特許文献5参照)。しかしながら、これらの白金担持酸化チタンや多面体形状酸化チタンは高価な元素や、特殊な製造プロセスを必要としており循環型社会へ実用的な光触媒を供給するには不向きであると言っても過言ではない。ましてや実際の使用空間で触媒活性が非修飾酸化チタンと比較して低下してしまう現行の可視光応答型光触媒では市場のニーズには到底対応できない。
【0007】
更に又、比表面積の大きな多孔性シリカ(メソポーラスシリカ)と可視光応答型光触媒酸化チタンを複合化させることで、光触媒機能を向上させることが提案されている。多孔性シリカを用いることにより、分解すべき有機物質を光触媒の近傍に存在させること(濃縮すること)ができるため、一定の効果はあるものの、依然としてそのレベルは実用的ではなく、またもともと可視光応答型である酸化チタンを用いることしかできず、汎用の通常の酸化チタンを用いた場合には可視光下での光触媒機能を発現させることができるものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−183522号公報
【特許文献2】特開2009−131760号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.L.Linsebiger et al.、Chem.Rev.1995年、第95巻、735頁
【非特許文献2】Asahi.R et al.、Science.2001年、第293巻、269貢
【非特許文献3】Hashimoto.K et al.、J.Phys.Chem.B.2003年、107巻、5483貢
【非特許文献4】Umebayashi.T et al.、Appl.Phys.Lett.2002年、第81巻、454貢
【非特許文献5】大谷等、日本化学会、2004年、第84春季年会4L2−32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、簡便かつ工業的に有効な手法で酸化チタンそのものの光応答能力を向上させることにより、太陽光並びに蛍光灯照射下で高い触媒活性を発揮する光触媒の製造方法、及び光触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、複雑形状を持つ広比表面積のシリカナノ構造体の粉末と酸化チタンの粉末とを水溶液中で接触させた後、固体を取り出し、熱焼成することで、該シリカナノ構造体上に酸化チタンを焼結固定した複合体を容易且つ再現性良く得られること、また、得られた複合体が太陽光及び蛍光灯下での有機物質分解に極めて高い光触媒活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(I−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、
(I−2)水性媒体の存在下で、工程(I−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、
(I−3)工程(I−2)で得られた複合体と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、複合体に酸化チタン(A)の粉末を吸着させる工程、
(I−4)工程(I−3)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着した複合体を600〜900℃で焼成し、複合体中のポリマーの除去と、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする光触媒の製造方法を提供するものである。
【0013】
更に本発明は、酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(II−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、
(II−2)水性媒体の存在下で、工程(II−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、
(II−3)工程(II−2)で得られた複合体を焼成し、ポリマーを除去し、シリカナノ構造体(B)を得る工程、
(II−4)工程(II−3)で得られたポリマー除去後のシリカナノ構造体(B)と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、当該構造体に酸化チタン(A)の粉末を吸着させる工程、
(II−5)工程(II−4)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着したシリカナノ構造体(B)を350〜900℃で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする光触媒の製造方法を提供するものである。
【0014】
更にまた本発明は、酸化チタン(A)の結晶がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、
前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、
かつ、当該複合体中における酸化チタンの含有率が10〜80質量%であることを特徴とする光触媒をも提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光触媒は、太陽光及び蛍光灯への応答性が高く、気相反応における有機物の分解能に優れる。また、その製造方法は、工業的汎用の整備のみで製造可能であり、再現性も高く工業的有用性が高い。
【0016】
また、本発明の製造方法では、単一種類の酸化チタン結晶に限らず、複数種の酸化チタン結晶を同時にシリカナノ構造体に固定することも可能である。従って、本発明の製造方法で得られる酸化チタン/シリカナノ構造体からなる複合体は、日常空間で使用する光触媒として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】合成例1で得られたシリカナノ構造体SEM写真である。
【図2】実施例1で得られたT13のX線回折パターンである。
【図3】実施例2でのP25酸化チタンのX線回折パターンである。
【図4】実施例2で得られたT19のSEM画像である。
【図5】実施例2で得られたT19のTEM画像である。
【図6】実施例4で得られたT31のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図7】実施例5(■)、比較例1(▲)、比較例2(●)のアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図8】実施例6(実線)、比較例3(破線)のアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図9】実施例7(実線)、比較例4(破線)のアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図10】実施例8(実線)と、比較例5(破線)のアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図11】実施例9(■)、比較例6(▲)、比較例7(●)の酢酸の分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図12】実施例10(■)、比較例8(▲)、比較例9(●)の2−プロパノールの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図13】実施例11(■)、比較例10(▲)、比較例11(●)、比較例12(×)の蛍光灯照射下におけるアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では光触媒活性向上の方法として、二つの要素に着眼している。一つは、照射した光を光触媒の空間内に閉じ込めることであり、もう一つは、分解すべき有機物質を光触媒周辺に効率的に濃縮することである。
【0019】
一般に、酸化チタン結晶はその屈折率が高いため、光触媒反応において大部分の入射光を反射させてしまい、光源からの光を有効的に活用できていない。一方、シリカはアモルファス構造で、光を散乱することができる。一定の空間構造にて、光を散乱させ、その散乱光を外部に出さず、内部空間にて閉じ込めることができれば、光の使用効率は格段にあがることになる。色素増感太陽電池の構築において、これは良く利用される手段である。どのような空間構造でこの光閉じ込め効果を発現できるのかについては一概に言えないが、ナノメートルオーダーの構造体を基本ユニットとし、これが集合してなるマイクロメートルオーダーの集合体であって、非球状で且つ内部に微小空間を有し、比表面積が大きい(以下、複雑形状と略記する)構造を形成していることが必要と考えられる。
【0020】
本発明では、前述の光閉じ込めのモデルとして、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー鎖の会合体を鋳型とするゾルゲル反応で得られるシリカナノ構造体を用いることにした。即ち、該シリカナノ構造体は前述のようにナノメートルオーダーの基本ユニットの集合体であって、複雑形状を持つ。このシリカナノ構造体の表面にナノメートルオーダーの酸化チタンの粉末(結晶)を固定することが出来れば、それに閉じ込められた光は酸化チタンへの光子注入量を大幅に向上させ、結果的には、一定時間における酸化チタン表面での正孔と電子発生効率が向上し、光エネルギーを化学エネルギーに変換する効率が高くなる、即ち光触媒活性を向上させうると考えられる。
【0021】
さらに、シリカナノ構造体の高い比表面積を利用することができれば、分解すべき有機物質を光触媒の活性点(即ち酸化チタン)周辺に効率的に濃縮させることもできる。
【0022】
この様に、閉じ込まれた光により効率的に発生する正孔と電子の周辺に高濃度の有機物質を存在させることで、該有機物質を分解する光触媒機能の活性を格段に向上させたものが本発明の光触媒である。
【0023】
〔酸化チタン(A)〕
本発明で用いる酸化チタン(A)としては、特に限定されるものではなく、アナターゼ、ルチル、またはアナターゼ/ルチル混晶の何れの結晶相であっても良く、又当該酸化チタンの結晶中に金属イオンや窒素原子等がドープされた酸化チタンであっても良い。
【0024】
また、酸化チタン(A)を後述するシリカナノ構造体(B)上に効率良く固定するためには、10〜100nmの微粒子状の酸化チタン粉末を使用することが好ましい。
【0025】
〔シリカナノ構造体(B)〕
本発明で用いるシリカナノ構造体(B)は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で形成する結晶性会合体を鋳型とし、シリカ前駆体であるアルコキシシランのゾルゲル反応を用いて製造するものである。具体的には、既に本発明者によって、特開2005−264421号、特開2005−336440号、特開2006−63097号、特開2006−306711号、特開2007−51056号、特開2009−24124号にて提供している何れのシリカナノ構造体であっても本発明のシリカナノ構造体(B)として用いることができる。これらのシリカナノ構造体(B)はシリカゲル等の一般的なマクロサイズシリカと比較し、ナノメートルオーダーの基本ユニットを構成単位として有し、これが三次元空間で集合してなるものであることを特徴とする。又、これらの特許文献において提供されているシリカナノ構造体中に金属イオンや金属ナノ粒子が含まれている場合もあるが、金属イオン・金属ナノ粒子は光触媒機能を阻害するものではないため(金属種によっては、光触媒機能を増強する効果も有する)、そのまま本発明のシリカナノ構造体(B)として好適に用いることができる。
【0026】
より具体的には、太さが10〜100nm、好ましくは20〜80nmであり、アスペクト比が2以上、好ましくは4以上のファイバー状の構造体(以下、ナノファイバー)を基本ユニットとしているものや、厚さが10〜100nm、好ましくは15〜50nmであり、この厚みに対する長さをアスペクト比とした場合のその値が2以上、好ましくは4以上のリボン状の構造体(以下、ナノリボン)を基本ユニットとしているものが挙げられる。そして、この基本ユニットを構成単位として集合してなる集合体の大きさ(TEM画像で観測したときの、最も長い部分)は、通常1μm〜20μm、好ましくは3〜15μmである。
【0027】
製造方法としては、例えば、直鎖状ポリエチレンイミンポリマーを水中に懸濁させ、80℃付近の温度で溶解させる。ポリマーの溶解を確認した後、室温で静置冷却を行う。30分程度の静置冷却でナノファイバー構造を基本ユニットとするポリエチレンイミン沈殿物が得られる。ポリエチレンイミンのナノファイバーが沈殿した水溶液にテトラアルコキシシラン(縮合物を含む)を20wt%含んだエタノール溶液を混合させることで、ポリエチレンイミンのナノファイバー上に均一にシリカを析出させるとともに、ナノファイバー同士が会合体を形成し、ポリマー鎖を内部に有するシリカナノ構造体を得ることができる。
【0028】
また、上記の直鎖状ポリエチレンイミンを80℃の加温で溶解させる際に、ポリエチレングリコール等の他のポリマーを混合させることにより、異なった形状を持つ沈殿物を得ることが可能である。この場合も直鎖状ポリエチレンイミン部分の結晶性により、ナノファイバー又はナノリボン状の構造体を基本ユニットとしており、該ポリエチレンイミン部の周辺でシリカが析出すると共に会合して全体形状(二次形状)を作り上げ、ポリマー鎖を内部に有する、複雑形状のシリカナノ構造体が得られる。
【0029】
また、上記の方法で調製したシリカナノ構造体の内部に存在する、鋳型として使用した直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーは、該構造体を600〜900℃で焼成することにより除去することが可能である。このとき、全体形状は焼成の前後で変化が無いため、シリカを主構成成分とするシリカナノ構造体を得ることができる。尚、シリカを主構成成分とするということは、焼成温度・雰囲気等によってポリマーが炭化した成分が残ることもあるが、意図的に第三成分を併用しない場合において、シリカ以外の成分を含まないことを示すものである。
【0030】
本発明においては、前述の、ポリマー鎖を含むシリカナノ構造体であっても、焼成によって該ポリマー鎖を除去したシリカナノ構造体であっても好適に用いることができる。
【0031】
〔シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定〕
前記シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定は、「吸着」と引き続き行なう「焼成」によって容易且つ再現性良く実施することができる。具体的には、まず、シリカナノ構造体(B)の粉末と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で懸濁することによって、分散・混合、及び物理的吸着を行なう。このとき、超音波処理やスターラー等で攪拌、分散を行うことが好ましい。
【0032】
通常シリカの表面は多数のOH基の存在により極性が強く、また、酸化チタン表面も同様の理由で極性が高い。そのため、攪拌、分散処理を行ったあとに遠心分離等により、上澄み水溶液を取り除き、乾燥処理を行うことでシリカナノ構造体表面上に酸化チタンの粉末を物理吸着させることができる。
【0033】
酸化チタン(A)の粉末とシリカナノ構造体(B)との使用割合としては、(A)/(B)で表される質量比として10/95〜80/20であることが好ましく、より好ましくは、30/60〜50/50の範囲である。
【0034】
酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(B)とを混合する際に使用する水性媒体の量は特に限定するものではないが、酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(B)との合計の質量に対し、質量比で10〜30倍の範囲であれば好適である。
【0035】
前記水性媒体としては、水単独のほか、種々の親水性有機溶媒との混合溶媒であっても良く、例えば、エタノール、2−プロパノール、アセトン等が挙げられる。
【0036】
酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(A)とを水性媒体中で混合する際に、より吸着を確実にするために、塩基性ポリマーを併用しても良い。このとき使用できる塩基性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリシンなどのポリアミン類を挙げることができる。塩基性ポリマーを用いて、効率的に吸着させることもできる。
【0037】
酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(B)との混合による吸着工程の詳細な方法については特に制限されるものではなく、例えば、一定割合で混合した後、それを室温(20〜30℃)で1〜24時間攪拌することで十分に物理吸着できる。
【0038】
[焼成工程]
上記で得られた、シリカナノ構造体(B)に酸化チタン(A)の粉末が吸着した構造体を加熱焼成することで、シリカナノ構造体(B)に酸化チタン(A)が固定される。
【0039】
加熱焼成温度は、用いたシリカナノ構造体(B)が、既に内部のポリマー鎖を除去したものである場合には、350〜900℃の温度範囲であれば良く、ポリマー鎖が内部に存在するシリカナノ構造体(B)を用いた場合には、ポリマー鎖の除去を同時に行なう目的で600℃以上の温度で焼成する。
【0040】
焼成時間は通常2〜8時間であればよく、温度上昇をプログラム的に制御することが好ましい。例えば、室温から300℃まで1時間をかけて上昇させ、その後、30分かけて500℃まで上昇させた後、その温度で3時間保持させること等、段階的な焼成であることが好ましい。
【0041】
温度上昇プログラムは得られる酸化チタン焼結固定後のシリカナノ構造体の光触媒活性に影響を与えるが、固定する酸化チタン(A)の種類によってもそのプログラムをその都度調整することが好ましい。例えば、炭素または窒素ドープされた酸化チタンを焼結固定する際は、ドープされた構造を維持させるために、温度上昇での最高温度を500℃以下に設定することが望ましく、450℃以下がより望ましい。また、固定される酸化チタン結晶がすでにアナターゼとルチルの二つの結晶の混晶状態の場合、焼成における最高温度を600℃以下にすることが好ましい。
【0042】
また、加熱焼成過程を空気雰囲気下で行なうことが好ましいが、不活性ガス、例えば、窒素雰囲気下で行なうこともできる。
【0043】
焼成後の酸化チタン(A)の含有率は、基本的に吸着された酸化チタン(A)の量によって決まるものであり、10〜80質量%の範囲に調製することができる。
【0044】
本発明における酸化チタン固定シリカナノ構造体において、酸化チタン(A)の結晶とシリカナノ構造体(B)とがどのような接合界面を形成しているかは不明であるが、焼成処理を行わないと触媒活性の向上が見られない点、シリカゲル等の複雑形状を持たないシリカ系でもある程度の光触媒活性の向上が見られる点から、酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(B)の接合界面において高い光閉じ込め効果と有機物質の濃縮効果が発現していると推察される。
【0045】
本発明の光触媒は、前述の手法で得られた、酸化チタン(A)の結晶がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなるものであり、前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、かつ、当該複合体中における酸化チタンの含有率が10〜80質量%であることを特徴とする。
【0046】
[光触媒機能]
本発明での光触媒機能は、有機物質の分解反応において有効であることを言うものであり、使用する光源は、太陽光・蛍光灯等、何れのものであっても良い。実施例においては、太陽光は擬似太陽照射装置を用いた光源を用いているが、自然光であっても光触媒機能を発現することはもちろんである。
【0047】
従って、本発明において光触媒の活性を測る手法としては、一定濃度の揮発性有機化合物(VOC)ガスを封入したガラス製反応容器中に光触媒の粉末を静置し、反応器に擬似太陽光、又は、蛍光灯を照射することで、揮発性有機化合物ガスが酸化分解することによって発生した、二酸化炭素濃度の光照射時間に伴う変化から見積もることができる。
【0048】
前述の手法で光触媒の活性を測る場合には、用いる揮発性有機化合物の濃度は50〜500ppmであればよく、触媒粉末の使用量は反応器の体積に対して5〜100mg/500mL範囲であれば好適である。
【0049】
前記揮発性有機化合物としては、特に限定することではなく、低分子有機物全般を用いることができる。更に低分子化合物以外の有機化合物、例えば、有機色素、ポリマーなど光触媒の表面に付着可能であれば、光照射によって分解反応を行うことができ、例えば有機色素の発色度合いを測定することによっても光触媒の活性を測ることができる。
【0050】
光照射時間は、用いる有機物質の濃度またはその構造により異なるが、1時間〜1日の範囲であることが望ましい。
【0051】
また、本発明の光触媒は、紫外線単独でも高い触媒活性を示し、キセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプなど、種々の光源下でも光触媒として用いることができる。
【0052】
本発明の光触媒を実用の現場で用いる際には、その形態においてなんら制限されるものではなく、その他の光触媒と併用しても、様々な基材等を含有していても良い。また、光触媒として用いるときの形状としても制限されず、例えば、粉末、粒子、ペレット、膜などの形状で用いることができ、使用する環境下に応じて適宜選択することが好ましい。また、コーティング剤に混合して用いることにより、光触媒機能を有する塗膜とすることも可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0054】
〔X線回折法(XRD)による酸化チタンの分析〕
酸化チタンを測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲20〜40°の条件で行った。
【0055】
〔UV−vis反射スペクトル〕
UV−vis反射スペクトルはOceanOptics製のUSB−4000分光器、DH−2000ランプを使用した。
【0056】
〔透過型電子顕微鏡による光触媒の構造観察〕
透過型電子顕微鏡はJEOL製のTEM2200FSを使用し、電圧200keVの条件で行った。
【0057】
粉体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、それをキーエンス製表面観察装置VE−9800にて観察した。
【0058】
〔蛍光X線スペクトルによる酸化チタン含有量測定〕
蛍光X線測定は株式会社リガク製のZSXを用いて、真空条件下で行った。
【0059】
〔光触媒活性評価〕
光触媒活性は気相反応での、アセトアルデヒド、酢酸、2−プロパノール、アセトンの酸化分解反応における二酸化炭素発生量の時間変化から評価した。アセトアルデヒドガスは擬似太陽光照射下では500ppm、蛍光灯照射下では250ppmで行った。酢酸、2−プロパノール、アセトンはそれぞれ0.5μLを反応器内に滴下し、擬似太陽光照射を行い二酸化炭素の発生量を調査した。光触媒は0.05gを使用し、500mLのガラス製反応器に封入した状態で光照射を行った。光量は擬似太陽光約10,000lx、蛍光灯は約6000lxで行った。尚、二酸化炭素発生量はINNOVA社の光音響マルチガスモニタ1312型をテトラフルオロエチレン製のチューブで光反応器に連結して調査した。
【0060】
合成例1 [シリカナノ構造体(B−1)の作製]
特許文献(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報)に開示した方法により、形状が異なる粉体を作製した。
【0061】
<線状のポリエチレンイミン(P5K)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500,000、平均重合度5,000、Aldrich社製)5gを、5Mの塩酸水溶液20mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を1H−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0062】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した粉末を濾過し、その粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、線状のポリエチレンイミン(P5K)を得た。収量は4.5g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、P5Kの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0063】
<シリカナノ構造体の合成>
一定量のP5Kを蒸留水中に混合し、それを90℃に加熱し透明溶液を得た後、全体3%の水溶液に調製した。該水溶液を室温で自然冷却し、真っ白のP5Kの会合体液を得た。攪拌しながら、その会合体液100mL中に、70mLのTMOS(テトラメトキシシラン)のエタノール溶液(体積濃度50%)を加え、室温で1時間攪拌続けた。析出した沈殿物をろ過し、それをエタノールで3回洗浄した後、40℃で加熱下乾燥することにより、粉体15gを得た。図1に得られた粉体のSEM写真を示す。ナノファイバーの会合体であることを確認した。
【0064】
これで得た粉体の熱重量損失分析(SII Nano Technology Inc社製のTG/DTA6300)から、ポリマー含有量が7%であることを確認した。また、比表面積測定(Micrometrics社製 Flow Sorb II 2300)を行なった結果、112m2/gであった。
【0065】
合成例2[シリカナノ構造体(B−2)の作製]
合成例1で得たB−1シリカナノ構造体 5gを空気導入条件下、電気炉にて600℃、2時間加熱し、B−1に含まれたポリエチレンイミンを除去し、白い粉末B−2を得た。比表面積は216m2/gであった。SEM観察から、焼成後のナノファイバー構造には変化がなかった。
【0066】
実施例1
<シリカナノ構造体へのアナターゼ型結晶性酸化チタン粒子の固定>
上記合成例1で得られた、直鎖状ポリエチレンイミンを内部に含むシリカナノ構造体(B−1)とアナターゼ型結晶性酸化チタンの粉末〔以下、酸化チタン(A−1)、関東化学株式会社製〕を、(B−1)中のポリマー存在量を22%として、シリカと酸化チタンの存在比が表中記載の割合になるように計算し、(A−1)と(B−1)とのが合計1.5gとなるように秤量した。
【0067】
酸化チタン(A−1)とシリカナノ構造体(B−1)の混合物を蒸留水30mLに懸濁させ、超音波洗浄器にて、1時間超音波照射を行った後、1晩静置した。遠心分離機を用いて蒸留水を除去し、沈殿物を真空乾燥機を用いて乾燥させ粉末を得た。乾燥した粉末を、空気雰囲気下、電気炉を用いて室温から300℃まで30分加熱し、300℃/1時間保持後、さらに30分かけて600℃まで温度を上げ、その温度で30分保持した後、自然冷却した。この焼成プログラムにより、酸化チタン(A−1)がシリカナノ構造体(B−1)に固定されてなる光触媒T11〜T16(表1記載)を得た。
【0068】
【表1】
【0069】
焼成後の試料No.T13の結晶構造がアナターゼ結晶性であることをX線回折パターンから確認した(図2)。
【0070】
実施例2
<シリカナノ構造体へのP25酸化チタンの固定>
酸化チタン(A)として、P25〔アナターゼ型結晶性とルチル型結晶性の混晶物、デグサ社製、以下酸化チタン(A−2)〕を用い、上記実施例1と同様な方法でシリカナノ構造体への固定を行った。これらの結果を表2に示す。尚、原料として用いた酸化チタン(A−2)の結晶構造を、X線回折測定を用いて調べたところ、アナターゼ結晶相とルチル結晶相が4/1の割合で存在していることが確認できた(図3)。
【0071】
【表2】
【0072】
試料No.T19のSEM観察の結果、シリカナノ構造体(B−1)上に酸化チタン(A−2)の粉末がコートされていることが確認できた(図4)。更に、TEM撮影の結果、酸化チタン(A−2)のナノサイズの粒子がシリカナノ構造体(B−1)上に存在していることが確認できた(図5)。このことから、酸化チタン(A−1)の微粒子がナノサイズレベルでシリカナノ構造体(B−1)上に固定されていることが確認できた。
【0073】
実施例3
<シリカナノ構造体へのルチル型結晶性酸化チタン粒子の固定>
酸化チタン(A)として、ルチル型結晶性酸化チタン〔和光純薬工業株式会社製、以下、酸化チタン(A−3)〕を用い、上記実施例1と同様な方法でシリカナノ構造体へ固定を行った。これらの結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
実施例4
<シリカナノ構造体への窒素ドープ可視光応答型酸化チタン粒子の固定>
酸化チタン(A)として、窒素ドープを行った可視光応答型酸化チタン粒子〔V−cat、豊田中央研究所製、以下酸化チタン(A−4)〕を用いた。シリカナノ構造体(B)としては、合成例2で得たポリマー成分を除去したシリカナノ構造体(B−2)を使用し、シリカと酸化チタンの存在比が表中記載の割合になるように計算し、(A−4)と(B−2)との合計質量が1.5gとなるように秤量した。
【0076】
(A−4)と(B−2)の混合物を蒸留水30mLに懸濁させ、超音波洗浄器にて、1時間超音波照射を行った後、1晩静置した。遠心分離機を用いて蒸留水を除去し、沈殿物を、真空乾燥機を用いて乾燥させ粉末を得た。得られた粉末を、空気雰囲気下、電気炉を用いて室温から300℃まで30分加熱し、300℃/1時間保持後、さらに30分かけて400℃まで温度を上げ、その温度で30分保持した後、自然冷却した。この焼成プログラムにより、酸化チタン(A−4)がシリカナノ構造体(B−2)に固定された光触媒を得た。これらの結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
試料No.31のUV−vis反射スペクトルを測定したところ、原料である可視光応答型光触媒である酸化チタン(A−4)と同様、500nm付近までの可視光線の吸収特性を示した(図6)。シリカナノ構造体への固定によっても、酸化チタンが変質していないことを確認した。
【0079】
実施例5及び比較例1〜2
<試料No.T13を用いる擬似太陽光照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
上記実施例1で得た光触媒である試料No.T13(50mg)を用い、アセトアルデヒドの酸化分解実験を500mLのガラス製反応容器内で行った。光源として擬似太陽光を使用し、10,000lxの光を照射して二酸化炭素の発生量を追跡することで触媒活性の調査を行った(図7)。同様な条件下、比較例1として50mgの酸化チタン(A−1)と、比較例2として、600℃焼成後のシリカナノ構造体(B−2)の光触媒活性を測定したが、試料No.T13と比較するとどちらも半分以下の触媒活性しか示さなかった。即ち、光触媒機能を有する酸化チタンの含有率が少ないにも関わらず、シリカナノ構造体へ酸化チタンを固定することで、アセトアルデヒド分解速度は速くなる。このことは、アナターゼ型酸化チタンをシリカナノ構造体へ固定することによって、極めて高い光触媒活性を発揮していることを強く示唆する。
【0080】
実施例6及び比較例3
<試料No.T19を用いる擬似太陽光照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
上記実施例2で光触媒である試料No.T19(50mg)を用い、実施例5と同様にアセトアルデヒドの酸化分解実験を行った(図8)。同様な条件下、比較例3として、50mgの酸化チタン(A−2)の光触媒活性の測定を行ったが、試料No.T19と比較すると半分以下の触媒活性しか示さなかった。このことは、アナターゼ型結晶性酸化チタンとルチル型結晶性酸化チタンの混晶状態を持つ酸化チタン(A−2)をシリカナノ構造体上へ固定することによっても、極めて高い光触媒活性を発揮していることを強く示唆する。
【0081】
実施例7及び比較例4
<試料No.T25を用いる擬似太陽光照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
上記実施例3で得た光触媒である試料No.T25(50mg)を用い、実施例5と同様にしてアセトアルデヒドの酸化分解実験を行った(図9)。同様な条件下、比較例4して、50mgの酸化チタン(A−3)の光触媒活性の測定を行ったところ、試料No.T25と比較すると半分以下の触媒活性しか示さなかった。このことは、ルチル型酸化チタンであってもシリカナノ構造体上に固定することによって、極めて高い光触媒活性を発揮することを強く示唆する。
【0082】
実施例8及び比較例5
<試料No.T31を用いる擬似太陽光照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
上記実施例4で得た光触媒である試料No.T31(50mg)を用い、実施例5と同様にしてアセトアルデヒドの酸化分解実験を行った(図10)。同様な条件下、比較例5として、50mgの酸化チタン(A−4)の光触媒活性の測定を行なったところ、試料No.T31と比較すると半分以下の触媒活性しか示さなかった。このことは、可視光応答型酸化チタンとシリカナノファイバーを複合化することによって、極めて高い光触媒活性を発揮していることを強く示唆する。
【0083】
実施例9及び比較例6〜7
<試料No.T19を用いる擬似太陽光照射下での酢酸の酸化分解反応>
上記実施例2で得た光触媒である試料No.T19(50mg)を用い、酢酸の酸化分解実験を500mLのガラス製反応容器内で行った。光源として擬似太陽光を使用し、10,000lxの光を照射して二酸化炭素の発生量を追跡することで触媒活性の調査を行った(図11)。同様な条件下、比較例6として、50mgの酸化チタン(A−2)と、比較例7として、600℃焼成後のシリカナノ構造体(B−2)の光触媒活性の測定を行った。試料No.T19はアセトアルデヒドの分解と同様、酸化チタン(A−2)の2倍以上の光触媒活性を示し、シリカナノ構造体(B−2)のみである比較例7では全く光触媒活性を示さなかった。このことは、酸化チタン(A−2)をシリカナノ構造体(B−2)へ固定することによって、酢酸に対しても極めて強い光触媒活性を示すことを強く示唆する。
【0084】
実施例10及び比較例8〜9
<試料No.T19を用いる擬似太陽光照射下での2−プロパノールの酸化分解反応>
上記実施例9において、酢酸の代わりに2−プロパノールを用いる以外は実施例9と同様にして、2−プロパノールの酸化分解実験を行った(図12)。比較例8及び9も実施例9と同様にして行なった。試料No.T19はアセトアルデヒド、酢酸の分解と同様、比較例8である酸化チタン(A−2)の2倍以上の光触媒活性を示し、比較例9であるシリカナノ構造体(B−2)はほとんど光触媒活性を示さなかった。このことは、酸化チタン(A−2)をシリカナノ構造体(B−2)へ固定することによって、2−プロパノールに対しても極めて強い光触媒活性を示すことを強く示唆する。
【0085】
実施例11及び比較例10〜12
<試料No.T19を用いる蛍光灯照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
実施例6において、擬似太陽光の代わりに、一般的に広く利用されている白色蛍光灯(株式会社東芝製:FL10D)を使用し、8000lxの光を照射して二酸化炭素の発生量を追跡することで触媒活性の調査を行った(図13)。同様な条件下、比較例10として、50mgの酸化チタン(A−2)、比較例11として50mgの酸化チタン(A−4)を用いて触媒活性を測定した。
【0086】
更に、比較例12として、実施例2の試料No.T19において、シリカナノ構造体(B−1)の代わりに、シリカゲル(メルク社製、シリカゲル60)を用いる以外は実施例2と同様にして、シリカゲルの表面に酸化チタン(A−2)を固定したものを調製し、これを同様な条件下で、触媒活性の調査を行った。
【0087】
擬似太陽光を光源に用いたときと同様、試料No.T19は、酸化チタン(A−2)との比較においては2倍以上の光触媒活性を発揮し、更に、可視光応答型の酸化チタン(A−4)と比較すると3倍以上の触媒活性を持っていることが確認できた。
【0088】
更に、シリカゲル表面に酸化チタンを固定したものよりも顕著に光触媒活性の向上が見受けられることから、シリカナノ構造体の光閉じ込め効果が効果的に働いていることも、併せて確認した。このことは、アナターゼ型結晶性酸化チタンとルチル型結晶性酸化チタンの混晶状態を持つ酸化チタン(A−2)をシリカナノ構造体に固定することによって、家庭用蛍光灯照射下においても極めて高い光触媒活性を発揮し、高い実用能力を持っていることを強く示唆するものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高活性の光触媒に関し、詳しくは、シリカナノ構造体に酸化チタンが焼結固定されてなる光触媒とその簡便な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先端材料において、酸化チタンは従来の白色顔料、高屈折率材料と異なる応用物性を示すことで、ますます注目を集めている(例えば、非特許文献1参照。)。例えば、光触媒又は色素増感電荷分離機能では、酸化チタンは群を抜いた触媒材料であり、次世代型光触媒デバイス、太陽電池への応用分野での期待が大きい。また、エネルギー問題で大きな注目を集める燃料電池でも、酸化チタンに白金ナノ粒子を埋め込んだ電極層研究開発が脚光を浴びている。燃料電池の実用化には、水素製造が要求されるが、その水素製造用触媒でも、酸化チタン・白金のコンポジットが有力な候補となっている。
【0003】
近年、酸化チタンは、汚れや有害物質等を自発分解し無害化する光触媒機能が非常に注目されている。その応用分野は、住宅、車、医療、土地処理などへと広がり、循環型社会構築の不可欠技術として位置付けられている。しかしながら、酸化チタンの該光触媒機能を発現させるためには、紫外線を光源とすることが前提条件である。自然光(太陽光)や室内様蛍光灯にはごく少量の紫外線しか含まれておらず、その大部分は可視光であり、紫外線のみを吸収する光触媒では、太陽光線や蛍光灯下での利用は極めて厳しいものとなる。そのため、酸化チタンを有効な光触媒として用いるために、酸化チタンそのものの吸収範囲を可視光へ変換させる試みが様々検討されてきた。例えばアニオン(窒素原子、炭素原子、硫黄原子、リン原子)ドーピング、またはカチオン(遷移金属、希土類金属、半金属等の金属イオン)ドーピングを行うもの等である。
【0004】
上記手法の内、近年、窒素原子を中心としたアニオンドープ型酸化チタンが可視光照射下で通常の酸化チタンと比較して高い触媒活性を示すことが見出された(例えば、非特許文献2〜4参照。)。しかしながら、アニオンドープ型酸化チタンは、酸素原子をアニオン原子で置き換えているために結晶格子内に欠陥構造を生じてしまう。このため、可視光線への応答能力は発現するものの、紫外線応答能力が著しく低下してしまい、結果として太陽光や蛍光灯照射下ではかえって活性が低下するという現象がしばしば見受けられている。
【0005】
このような状況を脱するため、不純物をドープするのではなく、酸化チタンに白金錯体を担持した高活性可視光応答型も開発されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この触媒の高活性理由は主に紫外線応答能力が白金錯体担持により増強されているためであり、可視光線の吸収はごくわずかでしかない。
【0006】
また、可視光応答能力は議論せず、酸化チタン自身の紫外線応答能力を向上させることにより、太陽光や蛍光灯中に含まれる紫外線を有効利用する試みも積極的に行われている。活性な結晶面を選択的に露出させた多面体形状酸化チタン等が通常の酸化チタンと比較して高い触媒活性を持つことが報告されている(例えば非特許文献5参照)。しかしながら、これらの白金担持酸化チタンや多面体形状酸化チタンは高価な元素や、特殊な製造プロセスを必要としており循環型社会へ実用的な光触媒を供給するには不向きであると言っても過言ではない。ましてや実際の使用空間で触媒活性が非修飾酸化チタンと比較して低下してしまう現行の可視光応答型光触媒では市場のニーズには到底対応できない。
【0007】
更に又、比表面積の大きな多孔性シリカ(メソポーラスシリカ)と可視光応答型光触媒酸化チタンを複合化させることで、光触媒機能を向上させることが提案されている。多孔性シリカを用いることにより、分解すべき有機物質を光触媒の近傍に存在させること(濃縮すること)ができるため、一定の効果はあるものの、依然としてそのレベルは実用的ではなく、またもともと可視光応答型である酸化チタンを用いることしかできず、汎用の通常の酸化チタンを用いた場合には可視光下での光触媒機能を発現させることができるものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−183522号公報
【特許文献2】特開2009−131760号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.L.Linsebiger et al.、Chem.Rev.1995年、第95巻、735頁
【非特許文献2】Asahi.R et al.、Science.2001年、第293巻、269貢
【非特許文献3】Hashimoto.K et al.、J.Phys.Chem.B.2003年、107巻、5483貢
【非特許文献4】Umebayashi.T et al.、Appl.Phys.Lett.2002年、第81巻、454貢
【非特許文献5】大谷等、日本化学会、2004年、第84春季年会4L2−32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、簡便かつ工業的に有効な手法で酸化チタンそのものの光応答能力を向上させることにより、太陽光並びに蛍光灯照射下で高い触媒活性を発揮する光触媒の製造方法、及び光触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、複雑形状を持つ広比表面積のシリカナノ構造体の粉末と酸化チタンの粉末とを水溶液中で接触させた後、固体を取り出し、熱焼成することで、該シリカナノ構造体上に酸化チタンを焼結固定した複合体を容易且つ再現性良く得られること、また、得られた複合体が太陽光及び蛍光灯下での有機物質分解に極めて高い光触媒活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(I−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、
(I−2)水性媒体の存在下で、工程(I−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、
(I−3)工程(I−2)で得られた複合体と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、複合体に酸化チタン(A)の粉末を吸着させる工程、
(I−4)工程(I−3)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着した複合体を600〜900℃で焼成し、複合体中のポリマーの除去と、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする光触媒の製造方法を提供するものである。
【0013】
更に本発明は、酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(II−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、
(II−2)水性媒体の存在下で、工程(II−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、
(II−3)工程(II−2)で得られた複合体を焼成し、ポリマーを除去し、シリカナノ構造体(B)を得る工程、
(II−4)工程(II−3)で得られたポリマー除去後のシリカナノ構造体(B)と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、当該構造体に酸化チタン(A)の粉末を吸着させる工程、
(II−5)工程(II−4)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着したシリカナノ構造体(B)を350〜900℃で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする光触媒の製造方法を提供するものである。
【0014】
更にまた本発明は、酸化チタン(A)の結晶がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、
前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、
かつ、当該複合体中における酸化チタンの含有率が10〜80質量%であることを特徴とする光触媒をも提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光触媒は、太陽光及び蛍光灯への応答性が高く、気相反応における有機物の分解能に優れる。また、その製造方法は、工業的汎用の整備のみで製造可能であり、再現性も高く工業的有用性が高い。
【0016】
また、本発明の製造方法では、単一種類の酸化チタン結晶に限らず、複数種の酸化チタン結晶を同時にシリカナノ構造体に固定することも可能である。従って、本発明の製造方法で得られる酸化チタン/シリカナノ構造体からなる複合体は、日常空間で使用する光触媒として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】合成例1で得られたシリカナノ構造体SEM写真である。
【図2】実施例1で得られたT13のX線回折パターンである。
【図3】実施例2でのP25酸化チタンのX線回折パターンである。
【図4】実施例2で得られたT19のSEM画像である。
【図5】実施例2で得られたT19のTEM画像である。
【図6】実施例4で得られたT31のUV−vis拡散反射スペクトルである。
【図7】実施例5(■)、比較例1(▲)、比較例2(●)のアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図8】実施例6(実線)、比較例3(破線)のアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図9】実施例7(実線)、比較例4(破線)のアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図10】実施例8(実線)と、比較例5(破線)のアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図11】実施例9(■)、比較例6(▲)、比較例7(●)の酢酸の分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図12】実施例10(■)、比較例8(▲)、比較例9(●)の2−プロパノールの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【図13】実施例11(■)、比較例10(▲)、比較例11(●)、比較例12(×)の蛍光灯照射下におけるアセトアルデヒドの分解による二酸化炭素濃度の増加量対光照射時間のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では光触媒活性向上の方法として、二つの要素に着眼している。一つは、照射した光を光触媒の空間内に閉じ込めることであり、もう一つは、分解すべき有機物質を光触媒周辺に効率的に濃縮することである。
【0019】
一般に、酸化チタン結晶はその屈折率が高いため、光触媒反応において大部分の入射光を反射させてしまい、光源からの光を有効的に活用できていない。一方、シリカはアモルファス構造で、光を散乱することができる。一定の空間構造にて、光を散乱させ、その散乱光を外部に出さず、内部空間にて閉じ込めることができれば、光の使用効率は格段にあがることになる。色素増感太陽電池の構築において、これは良く利用される手段である。どのような空間構造でこの光閉じ込め効果を発現できるのかについては一概に言えないが、ナノメートルオーダーの構造体を基本ユニットとし、これが集合してなるマイクロメートルオーダーの集合体であって、非球状で且つ内部に微小空間を有し、比表面積が大きい(以下、複雑形状と略記する)構造を形成していることが必要と考えられる。
【0020】
本発明では、前述の光閉じ込めのモデルとして、直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマー鎖の会合体を鋳型とするゾルゲル反応で得られるシリカナノ構造体を用いることにした。即ち、該シリカナノ構造体は前述のようにナノメートルオーダーの基本ユニットの集合体であって、複雑形状を持つ。このシリカナノ構造体の表面にナノメートルオーダーの酸化チタンの粉末(結晶)を固定することが出来れば、それに閉じ込められた光は酸化チタンへの光子注入量を大幅に向上させ、結果的には、一定時間における酸化チタン表面での正孔と電子発生効率が向上し、光エネルギーを化学エネルギーに変換する効率が高くなる、即ち光触媒活性を向上させうると考えられる。
【0021】
さらに、シリカナノ構造体の高い比表面積を利用することができれば、分解すべき有機物質を光触媒の活性点(即ち酸化チタン)周辺に効率的に濃縮させることもできる。
【0022】
この様に、閉じ込まれた光により効率的に発生する正孔と電子の周辺に高濃度の有機物質を存在させることで、該有機物質を分解する光触媒機能の活性を格段に向上させたものが本発明の光触媒である。
【0023】
〔酸化チタン(A)〕
本発明で用いる酸化チタン(A)としては、特に限定されるものではなく、アナターゼ、ルチル、またはアナターゼ/ルチル混晶の何れの結晶相であっても良く、又当該酸化チタンの結晶中に金属イオンや窒素原子等がドープされた酸化チタンであっても良い。
【0024】
また、酸化チタン(A)を後述するシリカナノ構造体(B)上に効率良く固定するためには、10〜100nmの微粒子状の酸化チタン粉末を使用することが好ましい。
【0025】
〔シリカナノ構造体(B)〕
本発明で用いるシリカナノ構造体(B)は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で形成する結晶性会合体を鋳型とし、シリカ前駆体であるアルコキシシランのゾルゲル反応を用いて製造するものである。具体的には、既に本発明者によって、特開2005−264421号、特開2005−336440号、特開2006−63097号、特開2006−306711号、特開2007−51056号、特開2009−24124号にて提供している何れのシリカナノ構造体であっても本発明のシリカナノ構造体(B)として用いることができる。これらのシリカナノ構造体(B)はシリカゲル等の一般的なマクロサイズシリカと比較し、ナノメートルオーダーの基本ユニットを構成単位として有し、これが三次元空間で集合してなるものであることを特徴とする。又、これらの特許文献において提供されているシリカナノ構造体中に金属イオンや金属ナノ粒子が含まれている場合もあるが、金属イオン・金属ナノ粒子は光触媒機能を阻害するものではないため(金属種によっては、光触媒機能を増強する効果も有する)、そのまま本発明のシリカナノ構造体(B)として好適に用いることができる。
【0026】
より具体的には、太さが10〜100nm、好ましくは20〜80nmであり、アスペクト比が2以上、好ましくは4以上のファイバー状の構造体(以下、ナノファイバー)を基本ユニットとしているものや、厚さが10〜100nm、好ましくは15〜50nmであり、この厚みに対する長さをアスペクト比とした場合のその値が2以上、好ましくは4以上のリボン状の構造体(以下、ナノリボン)を基本ユニットとしているものが挙げられる。そして、この基本ユニットを構成単位として集合してなる集合体の大きさ(TEM画像で観測したときの、最も長い部分)は、通常1μm〜20μm、好ましくは3〜15μmである。
【0027】
製造方法としては、例えば、直鎖状ポリエチレンイミンポリマーを水中に懸濁させ、80℃付近の温度で溶解させる。ポリマーの溶解を確認した後、室温で静置冷却を行う。30分程度の静置冷却でナノファイバー構造を基本ユニットとするポリエチレンイミン沈殿物が得られる。ポリエチレンイミンのナノファイバーが沈殿した水溶液にテトラアルコキシシラン(縮合物を含む)を20wt%含んだエタノール溶液を混合させることで、ポリエチレンイミンのナノファイバー上に均一にシリカを析出させるとともに、ナノファイバー同士が会合体を形成し、ポリマー鎖を内部に有するシリカナノ構造体を得ることができる。
【0028】
また、上記の直鎖状ポリエチレンイミンを80℃の加温で溶解させる際に、ポリエチレングリコール等の他のポリマーを混合させることにより、異なった形状を持つ沈殿物を得ることが可能である。この場合も直鎖状ポリエチレンイミン部分の結晶性により、ナノファイバー又はナノリボン状の構造体を基本ユニットとしており、該ポリエチレンイミン部の周辺でシリカが析出すると共に会合して全体形状(二次形状)を作り上げ、ポリマー鎖を内部に有する、複雑形状のシリカナノ構造体が得られる。
【0029】
また、上記の方法で調製したシリカナノ構造体の内部に存在する、鋳型として使用した直鎖状ポリエチレンイミン鎖を有するポリマーは、該構造体を600〜900℃で焼成することにより除去することが可能である。このとき、全体形状は焼成の前後で変化が無いため、シリカを主構成成分とするシリカナノ構造体を得ることができる。尚、シリカを主構成成分とするということは、焼成温度・雰囲気等によってポリマーが炭化した成分が残ることもあるが、意図的に第三成分を併用しない場合において、シリカ以外の成分を含まないことを示すものである。
【0030】
本発明においては、前述の、ポリマー鎖を含むシリカナノ構造体であっても、焼成によって該ポリマー鎖を除去したシリカナノ構造体であっても好適に用いることができる。
【0031】
〔シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定〕
前記シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定は、「吸着」と引き続き行なう「焼成」によって容易且つ再現性良く実施することができる。具体的には、まず、シリカナノ構造体(B)の粉末と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で懸濁することによって、分散・混合、及び物理的吸着を行なう。このとき、超音波処理やスターラー等で攪拌、分散を行うことが好ましい。
【0032】
通常シリカの表面は多数のOH基の存在により極性が強く、また、酸化チタン表面も同様の理由で極性が高い。そのため、攪拌、分散処理を行ったあとに遠心分離等により、上澄み水溶液を取り除き、乾燥処理を行うことでシリカナノ構造体表面上に酸化チタンの粉末を物理吸着させることができる。
【0033】
酸化チタン(A)の粉末とシリカナノ構造体(B)との使用割合としては、(A)/(B)で表される質量比として10/95〜80/20であることが好ましく、より好ましくは、30/60〜50/50の範囲である。
【0034】
酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(B)とを混合する際に使用する水性媒体の量は特に限定するものではないが、酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(B)との合計の質量に対し、質量比で10〜30倍の範囲であれば好適である。
【0035】
前記水性媒体としては、水単独のほか、種々の親水性有機溶媒との混合溶媒であっても良く、例えば、エタノール、2−プロパノール、アセトン等が挙げられる。
【0036】
酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(A)とを水性媒体中で混合する際に、より吸着を確実にするために、塩基性ポリマーを併用しても良い。このとき使用できる塩基性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリシンなどのポリアミン類を挙げることができる。塩基性ポリマーを用いて、効率的に吸着させることもできる。
【0037】
酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(B)との混合による吸着工程の詳細な方法については特に制限されるものではなく、例えば、一定割合で混合した後、それを室温(20〜30℃)で1〜24時間攪拌することで十分に物理吸着できる。
【0038】
[焼成工程]
上記で得られた、シリカナノ構造体(B)に酸化チタン(A)の粉末が吸着した構造体を加熱焼成することで、シリカナノ構造体(B)に酸化チタン(A)が固定される。
【0039】
加熱焼成温度は、用いたシリカナノ構造体(B)が、既に内部のポリマー鎖を除去したものである場合には、350〜900℃の温度範囲であれば良く、ポリマー鎖が内部に存在するシリカナノ構造体(B)を用いた場合には、ポリマー鎖の除去を同時に行なう目的で600℃以上の温度で焼成する。
【0040】
焼成時間は通常2〜8時間であればよく、温度上昇をプログラム的に制御することが好ましい。例えば、室温から300℃まで1時間をかけて上昇させ、その後、30分かけて500℃まで上昇させた後、その温度で3時間保持させること等、段階的な焼成であることが好ましい。
【0041】
温度上昇プログラムは得られる酸化チタン焼結固定後のシリカナノ構造体の光触媒活性に影響を与えるが、固定する酸化チタン(A)の種類によってもそのプログラムをその都度調整することが好ましい。例えば、炭素または窒素ドープされた酸化チタンを焼結固定する際は、ドープされた構造を維持させるために、温度上昇での最高温度を500℃以下に設定することが望ましく、450℃以下がより望ましい。また、固定される酸化チタン結晶がすでにアナターゼとルチルの二つの結晶の混晶状態の場合、焼成における最高温度を600℃以下にすることが好ましい。
【0042】
また、加熱焼成過程を空気雰囲気下で行なうことが好ましいが、不活性ガス、例えば、窒素雰囲気下で行なうこともできる。
【0043】
焼成後の酸化チタン(A)の含有率は、基本的に吸着された酸化チタン(A)の量によって決まるものであり、10〜80質量%の範囲に調製することができる。
【0044】
本発明における酸化チタン固定シリカナノ構造体において、酸化チタン(A)の結晶とシリカナノ構造体(B)とがどのような接合界面を形成しているかは不明であるが、焼成処理を行わないと触媒活性の向上が見られない点、シリカゲル等の複雑形状を持たないシリカ系でもある程度の光触媒活性の向上が見られる点から、酸化チタン(A)とシリカナノ構造体(B)の接合界面において高い光閉じ込め効果と有機物質の濃縮効果が発現していると推察される。
【0045】
本発明の光触媒は、前述の手法で得られた、酸化チタン(A)の結晶がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなるものであり、前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、かつ、当該複合体中における酸化チタンの含有率が10〜80質量%であることを特徴とする。
【0046】
[光触媒機能]
本発明での光触媒機能は、有機物質の分解反応において有効であることを言うものであり、使用する光源は、太陽光・蛍光灯等、何れのものであっても良い。実施例においては、太陽光は擬似太陽照射装置を用いた光源を用いているが、自然光であっても光触媒機能を発現することはもちろんである。
【0047】
従って、本発明において光触媒の活性を測る手法としては、一定濃度の揮発性有機化合物(VOC)ガスを封入したガラス製反応容器中に光触媒の粉末を静置し、反応器に擬似太陽光、又は、蛍光灯を照射することで、揮発性有機化合物ガスが酸化分解することによって発生した、二酸化炭素濃度の光照射時間に伴う変化から見積もることができる。
【0048】
前述の手法で光触媒の活性を測る場合には、用いる揮発性有機化合物の濃度は50〜500ppmであればよく、触媒粉末の使用量は反応器の体積に対して5〜100mg/500mL範囲であれば好適である。
【0049】
前記揮発性有機化合物としては、特に限定することではなく、低分子有機物全般を用いることができる。更に低分子化合物以外の有機化合物、例えば、有機色素、ポリマーなど光触媒の表面に付着可能であれば、光照射によって分解反応を行うことができ、例えば有機色素の発色度合いを測定することによっても光触媒の活性を測ることができる。
【0050】
光照射時間は、用いる有機物質の濃度またはその構造により異なるが、1時間〜1日の範囲であることが望ましい。
【0051】
また、本発明の光触媒は、紫外線単独でも高い触媒活性を示し、キセノンランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプなど、種々の光源下でも光触媒として用いることができる。
【0052】
本発明の光触媒を実用の現場で用いる際には、その形態においてなんら制限されるものではなく、その他の光触媒と併用しても、様々な基材等を含有していても良い。また、光触媒として用いるときの形状としても制限されず、例えば、粉末、粒子、ペレット、膜などの形状で用いることができ、使用する環境下に応じて適宜選択することが好ましい。また、コーティング剤に混合して用いることにより、光触媒機能を有する塗膜とすることも可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および参考例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0054】
〔X線回折法(XRD)による酸化チタンの分析〕
酸化チタンを測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「Rint−ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲20〜40°の条件で行った。
【0055】
〔UV−vis反射スペクトル〕
UV−vis反射スペクトルはOceanOptics製のUSB−4000分光器、DH−2000ランプを使用した。
【0056】
〔透過型電子顕微鏡による光触媒の構造観察〕
透過型電子顕微鏡はJEOL製のTEM2200FSを使用し、電圧200keVの条件で行った。
【0057】
粉体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、それをキーエンス製表面観察装置VE−9800にて観察した。
【0058】
〔蛍光X線スペクトルによる酸化チタン含有量測定〕
蛍光X線測定は株式会社リガク製のZSXを用いて、真空条件下で行った。
【0059】
〔光触媒活性評価〕
光触媒活性は気相反応での、アセトアルデヒド、酢酸、2−プロパノール、アセトンの酸化分解反応における二酸化炭素発生量の時間変化から評価した。アセトアルデヒドガスは擬似太陽光照射下では500ppm、蛍光灯照射下では250ppmで行った。酢酸、2−プロパノール、アセトンはそれぞれ0.5μLを反応器内に滴下し、擬似太陽光照射を行い二酸化炭素の発生量を調査した。光触媒は0.05gを使用し、500mLのガラス製反応器に封入した状態で光照射を行った。光量は擬似太陽光約10,000lx、蛍光灯は約6000lxで行った。尚、二酸化炭素発生量はINNOVA社の光音響マルチガスモニタ1312型をテトラフルオロエチレン製のチューブで光反応器に連結して調査した。
【0060】
合成例1 [シリカナノ構造体(B−1)の作製]
特許文献(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報)に開示した方法により、形状が異なる粉体を作製した。
【0061】
<線状のポリエチレンイミン(P5K)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500,000、平均重合度5,000、Aldrich社製)5gを、5Mの塩酸水溶液20mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を1H−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0062】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した粉末を濾過し、その粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、線状のポリエチレンイミン(P5K)を得た。収量は4.5g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、P5Kの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0063】
<シリカナノ構造体の合成>
一定量のP5Kを蒸留水中に混合し、それを90℃に加熱し透明溶液を得た後、全体3%の水溶液に調製した。該水溶液を室温で自然冷却し、真っ白のP5Kの会合体液を得た。攪拌しながら、その会合体液100mL中に、70mLのTMOS(テトラメトキシシラン)のエタノール溶液(体積濃度50%)を加え、室温で1時間攪拌続けた。析出した沈殿物をろ過し、それをエタノールで3回洗浄した後、40℃で加熱下乾燥することにより、粉体15gを得た。図1に得られた粉体のSEM写真を示す。ナノファイバーの会合体であることを確認した。
【0064】
これで得た粉体の熱重量損失分析(SII Nano Technology Inc社製のTG/DTA6300)から、ポリマー含有量が7%であることを確認した。また、比表面積測定(Micrometrics社製 Flow Sorb II 2300)を行なった結果、112m2/gであった。
【0065】
合成例2[シリカナノ構造体(B−2)の作製]
合成例1で得たB−1シリカナノ構造体 5gを空気導入条件下、電気炉にて600℃、2時間加熱し、B−1に含まれたポリエチレンイミンを除去し、白い粉末B−2を得た。比表面積は216m2/gであった。SEM観察から、焼成後のナノファイバー構造には変化がなかった。
【0066】
実施例1
<シリカナノ構造体へのアナターゼ型結晶性酸化チタン粒子の固定>
上記合成例1で得られた、直鎖状ポリエチレンイミンを内部に含むシリカナノ構造体(B−1)とアナターゼ型結晶性酸化チタンの粉末〔以下、酸化チタン(A−1)、関東化学株式会社製〕を、(B−1)中のポリマー存在量を22%として、シリカと酸化チタンの存在比が表中記載の割合になるように計算し、(A−1)と(B−1)とのが合計1.5gとなるように秤量した。
【0067】
酸化チタン(A−1)とシリカナノ構造体(B−1)の混合物を蒸留水30mLに懸濁させ、超音波洗浄器にて、1時間超音波照射を行った後、1晩静置した。遠心分離機を用いて蒸留水を除去し、沈殿物を真空乾燥機を用いて乾燥させ粉末を得た。乾燥した粉末を、空気雰囲気下、電気炉を用いて室温から300℃まで30分加熱し、300℃/1時間保持後、さらに30分かけて600℃まで温度を上げ、その温度で30分保持した後、自然冷却した。この焼成プログラムにより、酸化チタン(A−1)がシリカナノ構造体(B−1)に固定されてなる光触媒T11〜T16(表1記載)を得た。
【0068】
【表1】
【0069】
焼成後の試料No.T13の結晶構造がアナターゼ結晶性であることをX線回折パターンから確認した(図2)。
【0070】
実施例2
<シリカナノ構造体へのP25酸化チタンの固定>
酸化チタン(A)として、P25〔アナターゼ型結晶性とルチル型結晶性の混晶物、デグサ社製、以下酸化チタン(A−2)〕を用い、上記実施例1と同様な方法でシリカナノ構造体への固定を行った。これらの結果を表2に示す。尚、原料として用いた酸化チタン(A−2)の結晶構造を、X線回折測定を用いて調べたところ、アナターゼ結晶相とルチル結晶相が4/1の割合で存在していることが確認できた(図3)。
【0071】
【表2】
【0072】
試料No.T19のSEM観察の結果、シリカナノ構造体(B−1)上に酸化チタン(A−2)の粉末がコートされていることが確認できた(図4)。更に、TEM撮影の結果、酸化チタン(A−2)のナノサイズの粒子がシリカナノ構造体(B−1)上に存在していることが確認できた(図5)。このことから、酸化チタン(A−1)の微粒子がナノサイズレベルでシリカナノ構造体(B−1)上に固定されていることが確認できた。
【0073】
実施例3
<シリカナノ構造体へのルチル型結晶性酸化チタン粒子の固定>
酸化チタン(A)として、ルチル型結晶性酸化チタン〔和光純薬工業株式会社製、以下、酸化チタン(A−3)〕を用い、上記実施例1と同様な方法でシリカナノ構造体へ固定を行った。これらの結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
実施例4
<シリカナノ構造体への窒素ドープ可視光応答型酸化チタン粒子の固定>
酸化チタン(A)として、窒素ドープを行った可視光応答型酸化チタン粒子〔V−cat、豊田中央研究所製、以下酸化チタン(A−4)〕を用いた。シリカナノ構造体(B)としては、合成例2で得たポリマー成分を除去したシリカナノ構造体(B−2)を使用し、シリカと酸化チタンの存在比が表中記載の割合になるように計算し、(A−4)と(B−2)との合計質量が1.5gとなるように秤量した。
【0076】
(A−4)と(B−2)の混合物を蒸留水30mLに懸濁させ、超音波洗浄器にて、1時間超音波照射を行った後、1晩静置した。遠心分離機を用いて蒸留水を除去し、沈殿物を、真空乾燥機を用いて乾燥させ粉末を得た。得られた粉末を、空気雰囲気下、電気炉を用いて室温から300℃まで30分加熱し、300℃/1時間保持後、さらに30分かけて400℃まで温度を上げ、その温度で30分保持した後、自然冷却した。この焼成プログラムにより、酸化チタン(A−4)がシリカナノ構造体(B−2)に固定された光触媒を得た。これらの結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
試料No.31のUV−vis反射スペクトルを測定したところ、原料である可視光応答型光触媒である酸化チタン(A−4)と同様、500nm付近までの可視光線の吸収特性を示した(図6)。シリカナノ構造体への固定によっても、酸化チタンが変質していないことを確認した。
【0079】
実施例5及び比較例1〜2
<試料No.T13を用いる擬似太陽光照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
上記実施例1で得た光触媒である試料No.T13(50mg)を用い、アセトアルデヒドの酸化分解実験を500mLのガラス製反応容器内で行った。光源として擬似太陽光を使用し、10,000lxの光を照射して二酸化炭素の発生量を追跡することで触媒活性の調査を行った(図7)。同様な条件下、比較例1として50mgの酸化チタン(A−1)と、比較例2として、600℃焼成後のシリカナノ構造体(B−2)の光触媒活性を測定したが、試料No.T13と比較するとどちらも半分以下の触媒活性しか示さなかった。即ち、光触媒機能を有する酸化チタンの含有率が少ないにも関わらず、シリカナノ構造体へ酸化チタンを固定することで、アセトアルデヒド分解速度は速くなる。このことは、アナターゼ型酸化チタンをシリカナノ構造体へ固定することによって、極めて高い光触媒活性を発揮していることを強く示唆する。
【0080】
実施例6及び比較例3
<試料No.T19を用いる擬似太陽光照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
上記実施例2で光触媒である試料No.T19(50mg)を用い、実施例5と同様にアセトアルデヒドの酸化分解実験を行った(図8)。同様な条件下、比較例3として、50mgの酸化チタン(A−2)の光触媒活性の測定を行ったが、試料No.T19と比較すると半分以下の触媒活性しか示さなかった。このことは、アナターゼ型結晶性酸化チタンとルチル型結晶性酸化チタンの混晶状態を持つ酸化チタン(A−2)をシリカナノ構造体上へ固定することによっても、極めて高い光触媒活性を発揮していることを強く示唆する。
【0081】
実施例7及び比較例4
<試料No.T25を用いる擬似太陽光照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
上記実施例3で得た光触媒である試料No.T25(50mg)を用い、実施例5と同様にしてアセトアルデヒドの酸化分解実験を行った(図9)。同様な条件下、比較例4して、50mgの酸化チタン(A−3)の光触媒活性の測定を行ったところ、試料No.T25と比較すると半分以下の触媒活性しか示さなかった。このことは、ルチル型酸化チタンであってもシリカナノ構造体上に固定することによって、極めて高い光触媒活性を発揮することを強く示唆する。
【0082】
実施例8及び比較例5
<試料No.T31を用いる擬似太陽光照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
上記実施例4で得た光触媒である試料No.T31(50mg)を用い、実施例5と同様にしてアセトアルデヒドの酸化分解実験を行った(図10)。同様な条件下、比較例5として、50mgの酸化チタン(A−4)の光触媒活性の測定を行なったところ、試料No.T31と比較すると半分以下の触媒活性しか示さなかった。このことは、可視光応答型酸化チタンとシリカナノファイバーを複合化することによって、極めて高い光触媒活性を発揮していることを強く示唆する。
【0083】
実施例9及び比較例6〜7
<試料No.T19を用いる擬似太陽光照射下での酢酸の酸化分解反応>
上記実施例2で得た光触媒である試料No.T19(50mg)を用い、酢酸の酸化分解実験を500mLのガラス製反応容器内で行った。光源として擬似太陽光を使用し、10,000lxの光を照射して二酸化炭素の発生量を追跡することで触媒活性の調査を行った(図11)。同様な条件下、比較例6として、50mgの酸化チタン(A−2)と、比較例7として、600℃焼成後のシリカナノ構造体(B−2)の光触媒活性の測定を行った。試料No.T19はアセトアルデヒドの分解と同様、酸化チタン(A−2)の2倍以上の光触媒活性を示し、シリカナノ構造体(B−2)のみである比較例7では全く光触媒活性を示さなかった。このことは、酸化チタン(A−2)をシリカナノ構造体(B−2)へ固定することによって、酢酸に対しても極めて強い光触媒活性を示すことを強く示唆する。
【0084】
実施例10及び比較例8〜9
<試料No.T19を用いる擬似太陽光照射下での2−プロパノールの酸化分解反応>
上記実施例9において、酢酸の代わりに2−プロパノールを用いる以外は実施例9と同様にして、2−プロパノールの酸化分解実験を行った(図12)。比較例8及び9も実施例9と同様にして行なった。試料No.T19はアセトアルデヒド、酢酸の分解と同様、比較例8である酸化チタン(A−2)の2倍以上の光触媒活性を示し、比較例9であるシリカナノ構造体(B−2)はほとんど光触媒活性を示さなかった。このことは、酸化チタン(A−2)をシリカナノ構造体(B−2)へ固定することによって、2−プロパノールに対しても極めて強い光触媒活性を示すことを強く示唆する。
【0085】
実施例11及び比較例10〜12
<試料No.T19を用いる蛍光灯照射下でのアセトアルデヒドの酸化分解反応>
実施例6において、擬似太陽光の代わりに、一般的に広く利用されている白色蛍光灯(株式会社東芝製:FL10D)を使用し、8000lxの光を照射して二酸化炭素の発生量を追跡することで触媒活性の調査を行った(図13)。同様な条件下、比較例10として、50mgの酸化チタン(A−2)、比較例11として50mgの酸化チタン(A−4)を用いて触媒活性を測定した。
【0086】
更に、比較例12として、実施例2の試料No.T19において、シリカナノ構造体(B−1)の代わりに、シリカゲル(メルク社製、シリカゲル60)を用いる以外は実施例2と同様にして、シリカゲルの表面に酸化チタン(A−2)を固定したものを調製し、これを同様な条件下で、触媒活性の調査を行った。
【0087】
擬似太陽光を光源に用いたときと同様、試料No.T19は、酸化チタン(A−2)との比較においては2倍以上の光触媒活性を発揮し、更に、可視光応答型の酸化チタン(A−4)と比較すると3倍以上の触媒活性を持っていることが確認できた。
【0088】
更に、シリカゲル表面に酸化チタンを固定したものよりも顕著に光触媒活性の向上が見受けられることから、シリカナノ構造体の光閉じ込め効果が効果的に働いていることも、併せて確認した。このことは、アナターゼ型結晶性酸化チタンとルチル型結晶性酸化チタンの混晶状態を持つ酸化チタン(A−2)をシリカナノ構造体に固定することによって、家庭用蛍光灯照射下においても極めて高い光触媒活性を発揮し、高い実用能力を持っていることを強く示唆するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(I−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、
(I−2)水性媒体の存在下で、工程(I−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、
(I−3)工程(I−2)で得られた複合体と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、複合体に酸化チタン(A)の粉末を吸着させる工程、
(I−4)工程(I−3)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着した複合体を600〜900℃で焼成し、複合体中のポリマーの除去と、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項2】
酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(II−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、
(II−2)水性媒体の存在下で、工程(II−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、
(II−3)工程(II−2)で得られた複合体を焼成し、ポリマーを除去し、シリカナノ構造体(B)を得る工程、
(II−4)工程(II−3)で得られたポリマー除去後のシリカナノ構造体(B)と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、当該構造体に酸化チタン(A)の粉末を吸着させる工程、
(II−5)工程(II−4)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着したシリカナノ構造体(B)を350〜900℃で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項3】
シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のファイバー状又はリボン状の基本構造体の集合体であって、該集合体の大きさ(TEM画像で観測したときの、最も長い部分)が1μm〜20μmの範囲である請求項1又は2記載の光触媒の製造方法。
【請求項4】
酸化チタン(A)の粉末の大きさが、10〜100nmである請求項1〜3の何れか1項記載の光触媒の製造方法。
【請求項5】
酸化チタン(A)の粉末とシリカナノ構造体(B)との使用割合が、(A)/(B)で表される質量比として10/95〜80/20である請求項1〜4の何れか1項記載の光触媒の製造方法。
【請求項6】
酸化チタン(A)の結晶がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、
前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、
かつ、当該複合体中における酸化チタンの含有率が10〜80質量%であることを特徴とする光触媒。
【請求項7】
可視光応答型である請求項6記載の光触媒。
【請求項1】
酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(I−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、
(I−2)水性媒体の存在下で、工程(I−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、
(I−3)工程(I−2)で得られた複合体と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、複合体に酸化チタン(A)の粉末を吸着させる工程、
(I−4)工程(I−3)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着した複合体を600〜900℃で焼成し、複合体中のポリマーの除去と、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項2】
酸化チタン(A)がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる光触媒を製造する方法であって、
(II−1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを、水性媒体中で会合させる工程、
(II−2)水性媒体の存在下で、工程(II−1)で得られたポリマーの会合体にアルコキシシランを加えることにより、前記ポリマーの会合体とシリカとの複合体を得る工程、
(II−3)工程(II−2)で得られた複合体を焼成し、ポリマーを除去し、シリカナノ構造体(B)を得る工程、
(II−4)工程(II−3)で得られたポリマー除去後のシリカナノ構造体(B)と酸化チタン(A)の粉末とを水性媒体中で混合し、当該構造体に酸化チタン(A)の粉末を吸着させる工程、
(II−5)工程(II−4)で得られた酸化チタン(A)の粉末を吸着したシリカナノ構造体(B)を350〜900℃で焼成し、シリカナノ構造体(B)への酸化チタン(A)の固定を行なう工程、
を有することを特徴とする光触媒の製造方法。
【請求項3】
シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のファイバー状又はリボン状の基本構造体の集合体であって、該集合体の大きさ(TEM画像で観測したときの、最も長い部分)が1μm〜20μmの範囲である請求項1又は2記載の光触媒の製造方法。
【請求項4】
酸化チタン(A)の粉末の大きさが、10〜100nmである請求項1〜3の何れか1項記載の光触媒の製造方法。
【請求項5】
酸化チタン(A)の粉末とシリカナノ構造体(B)との使用割合が、(A)/(B)で表される質量比として10/95〜80/20である請求項1〜4の何れか1項記載の光触媒の製造方法。
【請求項6】
酸化チタン(A)の結晶がシリカナノ構造体(B)に固定されてなる複合体からなる光触媒であって、
前記シリカナノ構造体(B)が、太さ又は厚みが10〜100nmでアスペクト比が2以上のシリカナノファイバー又はシリカナノリボンを基本ユニットとして1μm〜20μmの範囲で集合してなるものであり、
かつ、当該複合体中における酸化チタンの含有率が10〜80質量%であることを特徴とする光触媒。
【請求項7】
可視光応答型である請求項6記載の光触媒。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【公開番号】特開2011−20023(P2011−20023A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165559(P2009−165559)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
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