説明

光触媒をコーティングした多孔質担体によるバイオリアクター

【課題】雑菌の混入を防止できるバイオリアクターを提供すること。
【解決手段】光触媒と多孔質材料を組合わせた担体に光を照射しながら反応させることにより、担体表面には光触媒による抗菌効果を発現させながら、担体内部には酵母や細胞などの成育できる環境が確保できる方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒をコーティングした多孔質担体によるバイオリアクターに関する。さらに詳しくは、本発明は、平均粒径が0.1〜10mmであり、平均細孔径が0.1〜100μmである多孔質材料の表面に光触媒をコーティングさせ、多孔質材料の細孔の内部を利用するバイオリアクターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、酵母、酵素、微生物、細胞などを担体に担持させて培養する培養技術あるいは、それらを用いて有用物の生産などを行うバイオリアクター技術などは盛んに開発が進められており、一部においては実用化がなされている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等)。
こうした従来の培養プロセス及びバイオリアクターにおける大きな問題の一つとして、外部からの雑菌の混入による混入雑菌の増殖が挙げられる。例えば、酵母を用いた醸造プロセスや、酵素を用いた有用物生産プロセスにおける、乳酸菌や大腸菌などの一般細菌や野生酵母、カビなどの混入がある。これらの問題は、得られる目的物質の品質を低下させる大きな要因である(非特許文献1〜3を参照)。
この問題を解決するために、一部のプロセスでは加熱工程を経る方法がとられることもあった(例えば、特許文献4等)。これには加熱滅菌洗浄などの綿密な運転準備を必要とする。また、薬剤を添加する方法がとられることもある。しかし、この加熱工程や薬剤添加では、非常に複雑な工程管理を必要とし、かつ余分なエネルギーを必要となるためコスト高の原因になることもあった。また、抗生物質添加ではそれ自身による品質低下の原因を引き起こすこともあった。このように、加熱工程や抗生物質添加では、本質的な解決に至っていない。
【0003】
他方、光触媒活性材料(以下、単に光触媒と称することがある。)は、そのバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射すると、励起されて伝導帯に電子が生じ、かつ価電子帯
に正孔が生じる。そして、生成した電子は表面酸素を還元してスーパーオキサイドアニオン(・O2-)を生成させると共に、正孔は表面水酸基を酸化して水酸ラジカル(・OH)を生成し、これらの反応性活性酸素種が強い酸化分解機能を発揮し、光触媒の表面に付着している有機物質を高効率で分解することが知られている。
この光触媒活性材料としては、二酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンが実用的なものとして有用である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−149975号公報
【特許文献2】特開平10−204204号公報
【特許文献3】特開平10−150982号公報
【特許文献4】特開2002−355023号公報
【非特許文献1】合葉修一他、永谷正治訳、「生物化学工学(第2版)」、東大出版会、1976、P249−276
【非特許文献2】吉沢淑、百瀬洋夫、蓮尾徹夫、鈴木修、丹野一雄、発酵工学、第58巻、第3号、P139−144
【非特許文献3】「光触媒反応の原理」、橋本和仁、工業材料、日刊工業新聞社、1997年10月、第45巻、第10号、P31−35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、バイオリアクターや細胞培養プロセスなどにおいて、外部からの雑菌の混入を防止・抑制する手段として光触媒技術を用いたものであり、具体的には、多孔質担体表面に光触媒をコーティングして、そこに光を照射することによって、混入した雑菌の増殖を防止することを目的とする。
また、これによって、簡便に、効率よく、高品質の目的物質を得ることができるバイオリアクターを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、多孔質ガラスビーズのような多孔質材料を担体として用いて、そこに光触媒をコーティングすることによって、細孔内に混入した雑菌を増殖させないバイオリアクターを実現し、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明は下記の知見に基づくものである。
(a) 平滑な担体に光触媒をコーティングした場合には、全面が光触媒活性をもつため、雑菌が繁殖しないばかりか、本来培養しなければならない酵母や細菌なども繁殖できない。
(b) 多孔質材料に光触媒をコーティングした場合には、乱反射などで光が届くのは外表面だけであるため、外部からの混入した雑菌の増殖を防止しつつ、内部の細孔内では酵母や細菌が死滅することなく繁殖することができる。
(c) 外表面だけに光触媒をコーティングするのが上記の環境を実現する上で最も効率の良い形態であるが、仮に細孔内部にまで光触媒がコーティングされていても、光が届かないため、酵母や細胞などは繁殖することが可能である。
(d) 適切な光源、光触媒、担体の組合せにより、最適なバイオリアクターシステムを構築できる。
(e) 光触媒として、可視光応答光触媒を使用すれば、新たな光源を必要とせず、周囲の照明光などで触媒活性を発現して目的の効果を実現できる。
【0008】
以上の知見に基づき完成した本発明は、
(1)表面に光触媒をコーティングした多孔質材料の細孔内を利用するバイオリアクター、
(2)多孔質材料の平均粒径が0.1〜10mmであり、平均細孔径が0.1〜100μmである(1)のバイオリアクター、
(3)多孔質材料がガラス材料である(1)または(2)のバイオリアクター、
(4)光触媒が酸化チタンである(1)〜(3)のバイオリアクター、
(5)光触媒が可視光線応答性である(1)〜(4)のバイオリアクター、
(6)ガラス材料と水溶性塩類を微粉末化し、それらの混合粉に非水系バインダーを加え、造粒することで球状ビーズを作成し、該球状ビーズを熱処理し、水洗することにより多孔質材料を作成し、その表面に光触媒をコーティングさせるバイオリアクター用担体の製造方法、
(7)(1)〜(5)のバイオリアクター用担体の細孔内に目的物質を生産させる有用微生物を固定化し、表面の光触媒で外部から進入した雑菌の増殖を阻止することによって、細孔内で該有用微生物を効率よく働かせるバイオリアクターシステム、および
(8)該酵母がエタノール生産性酵母である(7)のバイオリアクターシステム
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、バイオリアクターや細胞培養プロセスなどにおいて、外部から進入した雑菌の増殖を防止・抑制する手段として光触媒技術を用いること、具体的には、多孔質担体表面に光触媒をコーティングして、そこに光を照射することによって、混入した雑菌の増殖を防止でき、さらにこれによって、簡便に、効率よく、高品質の目的物質を得ることができるバイオリアクターを提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、多孔質ガラスビーズのような多孔質材料を担体として用いて、そこに光触媒をコーティングすることによって、細孔内に雑菌の混入がないバイオリアクターを実現しようとするものである。
以下、多孔質材料の表面に光触媒をコーティングしたバイオリアクター用担体の製造方法の一例を説明する。
【0011】
本発明における多孔質材料としては、種々あり、多孔質の粉末、ビーズ、ファイバー、フィルタ、板状成型体、柱状成型体などが挙げられるが、これらのうち、実際のプロセスに適用する際の取扱い易さと種々の容器形状への対応しやすさを両立させる観点から多孔質ビーズが好ましい。以下、多孔質材料として多孔質ガラスビーズを用いた場合を例に詳細に説明する。
(1)多孔質ガラスビーズの製造方法
多孔質ガラスビーズはソーダライムガラスカレットなどのガラス材料と水溶性塩類および非水系バインダーを用いて製造する。具体的には例えば、ソーダライムガラスカレットを粉砕し微粉末にする。一方、水溶性塩類も同様に粉砕し微粉末にする。これらを適当な割合で混合する。この混合粉とポリビニルピロリドンなどの非水系バインダーを混合して、造粒装置を用いて、平均粒径0.1〜10mmの球状ビーズを作成する。この球状ビーズを560〜570℃程度の温度で加熱処理し、冷却した後、水にさらしてビーズ中の水溶性塩類を溶出させる。こうして得られる多孔質ガラスビーズ内の細孔は連結多孔であって、その平均細孔径は、水溶性塩類の微粉末の平均粒径に依存するが、通常、0.1〜100μmであり、好ましくは10〜50μmである。
【0012】
次に多孔質材料の表面に光触媒をコーティングさせる。光触媒の種類としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化銅、酸化鉄、酸化スズなどが挙げられるが、これらのうち、性能、耐久性、コストのバランスから最も優れる酸化チタンを選択した。以下、上記多孔質ガラスビーズに酸化チタンをコーティングする場合を例に詳細に説明する。
(2)ガラスビーズへの酸化チタンのコーティング方法
(a)洗浄・乾燥
多孔質ガラスビーズを水中に浸漬し、撹拌する。ふるいで多孔質ガラスビーズと水を分離して、新たに用意した純水へ浸漬・撹拌を行う。この浸漬・撹拌・ふるいを分離水が濁らなくなるまで、繰り返したあと、乾燥機で乾燥する。
【0013】
(b)成膜処理液調合
濃度0.1mol/Lのチタンフッ化アンモニウムと0.2mol/Lのホウ酸となるように成膜処理液を調製する。
【0014】
(c)成膜
恒温槽中で、前記成膜処理液へ多孔質ガラスビーズを浸漬し、超音波を照射して細孔内の気泡を抜く。その後、撹拌しながら、後述のように成膜を行う。
【0015】
(d)洗浄
成膜後、ふるいで成膜処理液を除去し、純水でリンスする。
【0016】
(e)乾燥・焼成
乾燥機中で乾燥を行った後、300℃で焼成を行い、酸化チタン付き多孔質ガラスビーズを得る。
【0017】
上記の(b)および(c)で行っている成膜は液相析出(Liquid Phase Deposition:LPD)法と呼ばれている。この方法は、溶液中の金属錯体の平衡反応をずらすこと、溶解物質の溶解度を変化させること、溶液中で脱水縮合反応を起こさせることなどの方法により、金属酸化物を析出させる方法である。具体的には、溶液の温度、濃度、pHを調整するか、溶液に触媒や反応開始剤などを添加することにより、金属酸化物を析出させることが可能となる。濃度の調製方法としては、例えば、金属錯体の配位子と安定な化合物を形成する物質を添加する方法や、金属錯体の過飽和溶液に水を加える方法などが挙げられるが、用途に応じて適宜選択すればよい。
LPD法は、液相から金属酸化物を析出させるため、複雑な形状を有する基材に対しても、基材と処理液を接触させることができ、金属酸化物を制御性よく析出可能であることが特徴である。従って本発明においては、酸化チタンをガラスビーズに均一にコーティングすることができ、特に好ましい。
【0018】
種々の析出方法の中でも、金属錯体の平衡反応を利用する方法が、最も制御性よく金属酸化物を析出することが可能である。金属錯体は、析出する金属酸化物の陽イオンとハロゲン化物、アミン等の配位子から構成され、用途に応じて選択すればよいが、配位子としては、F-、Cl-、ClO4-、SO42-、OSO44-等が挙げられる。特に、F-またはOSO44-を用いると、平衡反応の制御が容易となるので好ましく、F-を用いた場合は、F-の強い酸化力のため、高酸化数の錯体が得られる点とフルオロ錯体として処理液中で安定に存在できるため、処理液を調整しやすい点で、より好ましい。
【0019】
フッ素および金属Mを含む処理液では、下記の化学式(1)に示す平衡状態が成立しており、下記の化学式(2)による反応によって、酸化物が析出すると考えられている。金属Mは1種またはそれ以上でもよい。
[MF6-x(OH)x]2-+(6−x)H2O=[M(OH)62-+(6−x)HF (1)
[M(OH)62- + 2H+ → MO2 + 4H2O (2)
化学式(1)中の[M(OH)62-は不安定な錯イオンであり、化学式(1)の平衡反応を[M(OH)62-が生成する方向へ意図的にずらすことにより、化学式(2)の脱水縮合反応を起こしてMO2で示される酸化物が析出する。フッ素を配位子としたフルオロ錯体を含む処理液を用いると、緻密な構造の酸化物を容易に得ることができる。
【0020】
上記化学式(1)の平衡反応を意図的にずらす方法として、HFと容易に反応して安定な化合物を形成する反応開始剤を添加する方法がある。
反応開始剤としては、H3PO3、FeCl2、FeCl3、NaOH、NH3、Al、Ti、Fe、Ni、Mg、Cu、Zn、Si、SiO2、CaO、B23、Al23およびMgOから少なくとも1種を選択すれがよい。
上記のいずれの反応開始剤を用いても、処理液中で安定なフルオロ錯化合物やフッ化物を生成するため、析出が阻害されることなく、安定して析出物が得られる。上記反応開始剤のうち、Al等の金属を用いると、金属の表面積の大きさによって、HFとの反応速度を調節することができ、反応を制御することが可能であるので、好ましい。またH3BO3を用いると、不純物の析出が抑制されるので、より好ましい。
また、可視光線応答性の光触媒についても、種々の研究開発がなされているが、中でも、前記の酸化チタンに窒素、硫黄などをドープしてバンドギャップをずらして可視光線を吸収できるようにしたものが一般的である。
酸化チタンをコーティングする方法として、本発明の場合は前記LPD法が最も適しているが、他にチタンアルコキシドを用いたゾルゲル法や、有機バインダに酸化チタン粉末を分散しディップコーティングする方法もある。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
(1)ガラスビーズの製造
ソーダライムガラスカレットを粉砕し、平均粒径30μm程度の微粉末にした。塩化ナトリウムも同様に粉砕し、平均粒径30μm程度の微粉末にした。これらを質量比でソーダライムガラス:塩化ナトリウム=25:22の割合で混合した。ポリビニルピロリドン(非水系バインダー)を、混合粉に対して5質量%、混合して、フロイント産業製造粒装置を用いて、平均粒径0.5〜1.0mmの球状ビーズを作成した。この球状ビーズを560〜570℃で1時間加熱処理し、冷却した後、水にさらしてビーズ中の塩化ナトリウムを溶出させた。
【0022】
(2)酸化チタンのコーティング
上記(1)で得られた多孔質ガラスビーズ150gを500mLビーカー中の50℃の水中に浸漬し、約3分間撹拌した。125μmφのふるいで多孔質ガラスビーズと水を分離して、新たに用意した50℃の純水へ浸漬・撹拌を行った。この浸漬・撹拌・ふるいを分離水が濁らなくなるまで、約10回繰り返したあと、50℃の乾燥機で乾燥した。
濃度0.1mol/Lのチタンフッ化アンモニウムと0.2mol/Lのホウ酸となるように成膜処理液を1L調製した。
30℃に調製した恒温槽中で、前記成膜処理液中に多孔質ガラスビーズを浸漬し、周波数40kHzの超音波を約1分間照射して細孔内の気泡を抜いた。その後、プロペラ羽根により350 rpmで撹拌しながら、5時間の成膜を行った。
成膜後、125μmφのふるいで成膜処理液を除去し、純水でリンスした。
50℃の乾燥機中で24時間以上の乾燥を行った後、300℃で2時間の焼成を行い、酸化チタン付き多孔質ガラスビーズ(バイオリアクター用担体)を得た。
【0023】
比較例1
実施例1において、(2)酸化チタンのコーティングを行わなかったこと以外は実施例1と同様にしてバイオリアクター用担体を得た。
【0024】
<ガラスビーズの評価>
実施例1および比較例1で得られたバイオリアクター用担体のそれぞれを用いた場合の酵母によるエタノール生産能について下記の評価実験を行った。
【0025】
[評価実験の条件]
(供試酵母)
エタノール生産能の高い酵母サッカロマイセス セルビシエ NBRC 0224を用いた。
(培地)
酵母保存用寒天培地(2%ポリぺプトン、1%酵母エキス、2%グルコース、2%寒天)、固定化酵母増殖用液体培地(2%ポリピプトン、1%酵母エキス、2%グルコース)およびエタノール生産用液体培地(2%ポリピプトン、1%酵母エキス、5%グルコース)を培地として用いた。いずれの培地も121℃で15分間のオートクレーブ滅菌を行った。
(酵母の培養方法)
種母培養液を得るために保存用寒天培地上に増殖している酵母1白金耳を酵母増殖用液体培地に植菌し30℃、100rpmで振とう培養を行った。
(酵母の固定化方法)
ガラスビーズの滅菌は、ビーカーにビーズを入れアルミホイルで蓋をした後、170℃で3時間の乾熱滅菌を行った。固定化酵母増殖用液体培地50mLを100mL三角フラスコに入れ121℃、15分間オートクレーブ滅菌を行った。室温まで冷却した後、クリーンベンチの中で滅菌済みのガラスビーズを入れ、さらに種母培養液1mLを無菌的に植菌し固定化担体内に酵母を増殖させた。2日間培養を行った後、液体培地のみを排出し、再度新鮮培地に入れさらに2日間振とう培養を行った。
(エタノール生産方法)
固定化増殖菌体の入った三角フラスコにエタノール生産用液体培地を入れ25℃、100rpmで振とうしながらエタノール生産を行った。連続生産は、生産終了後、無菌的に発酵液抜き取り、再度新鮮培地を入れて繰り返しエタノール生産を行った。
(分析方法)
固定化された酵母数の計測は、9mLの0.1M EDTA溶液に酵母が固定化されたガラスビーズを1mL入れ、ガラス棒で破砕後、十分にボルテックスを行い、酵母を遊離させてトーマの血球計で計測した。酵母の死細胞の判定はメチレンブルー染色法を用いた。エタノール濃度はFキット(JKインターナショナル社)およびグルコース濃度はB・テストワコー(和光純薬株式会社)を用いた酵素法により定量した。
【0026】
[酵母の固定化能の評価結果]
ガラスビーズの酵母固定化能の検討を行った。2種類のガラスビーズをそれぞれ常法に従い固定化酵母を作成し、十分にガラスビーズ内で酵母が増殖してから酵母の計測を行った。その結果、酸化チタンコートガラスビーズ1mLあたりの固定化酵母数は9.5×108個であり、固定化担体としては十分な性能を示し、酵母が所定どおりに固定化されていることが確認された。
【0027】
[エタノール生産能の評価結果]
(回分発酵)
ガラス担体に固定化された酵母のエタノール生産能の検討を行った。十分に酵母が増殖したガラス担体を用いてエタノール生産用液体培地で発酵を行わせた。ガラスビーズ2mLを50mLの培地の入った100mL三角フラスコに入れ振とうした。その結果、酸化チタンコートガラスビーズのエタノール生産速度は0.1599(g/100mL/hr)と十分な性能を示し、エタノールが所定どおりに生産されていることが確認された。
(連続発酵)
ガラスビーズに固定化された酵母の連続エタノール生産試験を行った。十分に酵母が増殖したガラスビーズを用いてエタノール生産用液体培地で発酵を行わせた。ガラス担体20mLを100mLの培地の入った200mL三角フラスコに入れ振とうした。連続生産は24時間ごとに培地を交換する繰り返しの連続生産を行った。図1に示したとおり、5回にわたり安定に、活性の低下も見られずに繰り返しの連続生産を行うことができ、エタノールが所定どおり繰り返し生産されることを確認された。
【0028】
[紫外線照射下でのアルコール生産試験結果‐1]
0.7%YNB(イーストナイトロジンベース)とグルコース5%の培地を用いた。発酵方法として、100mLビーカーに固定化酵母を入れ、50mL液体培地を入れ、紫外線照射下マグネチックスターラーで撹拌しながら発酵させた。コントロールとして、液体培地のみの入ったビーカーに酵母を植菌し、同様に発酵を行わせた。その結果を表1に示す。遊離酵母のみでの発酵試験では、エタノールは全く生産されなかったが、酸化チタンコーティングビーズでは紫外線照射下でもエタノールの生産が行われ、外部から紫外線を照射しても、内部生息酵母がエタノールを生産することが確認された。
【0029】
【表1】

【0030】
[紫外線照射下での繰り返し発酵試験]
紫外線照射下で48時間ごとに培地を交換して7回まで繰り返した。その結果を図2に示す。発酵能が低下することなく安定に発酵が行われた。このように、外部から紫外線を照射しても、内部生息酵母が繰り返しエタノールを生産することを確認した。
【0031】
[細菌の増殖阻害性能試験−1]
酸化チタンガラスビーズに固定化された固定化酵母の入ったYNB培地に乳酸菌を植菌し、図3のような装置で液体を循環させながら乳酸菌の増殖阻害を検討した。その結果、乳酸菌を2.0×103個/mLになるように植菌し、紫外線照射をしながら発酵を行わせたところ、24時間で乳酸菌が5個/mLまで減少し、死細胞率が99.75%と非常に高い値を得ることができた。
【0032】
[細菌の増殖阻害性能試験−2]
100mLのYNB培地に酸化チタンガラスビーズ50mLを加えたものと、別にコントロールビーズ50mLを加えたものを、それぞれビーカーに入れ大腸菌を植菌して紫外線照射下で静置培養を行った。その結果を表2に示す。酸化チタンのないコントロールビーズでは初期生菌数145個/mLが17時間後18個/mLと、死細胞率は87.6%にとどまったが、酸化チタンガラスビーズでは大腸菌を完全に死滅させることができた。すなわち、紫外線照射のみでは大腸菌は完全には除去することができないが、光触媒効果を利用すると大腸菌を完全に除去することを確認した。
【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の多孔質材料の表面に光触媒をコーティングしたバイオリアクター用担体は、光を照射しながら反応させることにより、担体表面には光触媒による抗菌効果を発現させながら、担体内部には酵母や細胞などの育成できる環境が確保されているため、バイオリアクタープロセスへに混入した雑菌の増殖を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】紫外線を照射せずに繰り返しの発酵試験の結果を示す図である。
【図2】紫外線照射下での繰り返しの発酵試験の結果を示す図である。
【図3】乳酸菌の増殖阻害性能試験装置を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に光触媒をコーティングした多孔質材料の細孔内を利用するバイオリアクター。
【請求項2】
多孔質材料の平均粒径が0.1〜10mmであり、平均細孔径が0.1〜100μmである請求項1記載のバイオリアクター。
【請求項3】
多孔質材料がガラス材料である請求項1または2に記載のバイオリアクター。
【請求項4】
光触媒が酸化チタンである請求項1〜3のいずれかに記載のバイオリアクター。
【請求項5】
光触媒が可視光線応答性である請求項1〜4のいずれかに記載のバイオリアクター。
【請求項6】
ガラス材料と水溶性塩類を微粉末化し、それらの混合粉に非水系バインダーを加え、造粒することで球状ビーズを作成し、該球状ビーズを熱処理し、水洗することにより多孔質材料を作成し、その表面に光触媒をコーティングさせるバイオリアクター用担体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のバイオリアクター用担体の細孔内に目的物質を生産させる有用微生物を固定化し、表面の光触媒で外部からの雑菌の進入を阻止することによって、細孔内で該有用微生物を効率よく働かせるバイオリアクターシステム。
【請求項8】
該酵母がエタノール生産性酵母である請求項7記載のバイオリアクターシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−199924(P2008−199924A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37597(P2007−37597)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】