説明

光触媒を利用した水処理方法及び水浄化装置

【課題】光触媒を水中に懸濁させた懸濁液に光を照射して有機物を分解する光触媒を利用した水処理方法において、効率よく分解し、水処理することを目的とする。
【解決手段】従来の酸化チタン光触媒より水中で凝集を抑制する、フッ素を含有させた酸化チタン光触媒を、従来の酸化チタン光触媒に対して低濃度でも優位に水中の有機物分解性能を発揮できる光触媒の濃度範囲で使用することによって、効率よく有機物を分解できる水処理方法および水処理装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒を利用した水浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒の有機物分解作用は約30年前に見出された。酸化チタンなどある種の半導体は光照射で励起電子と、正孔を生成し、その電荷担体が半導体表面でスーパーオキサイドアニオンやヒドロキシラジカルを生成する。これらが有機分子を攻撃し、有機物を分解する。
【0003】
この種の作用をもつ半導体材料を光触媒と呼んでいる。特に酸化チタンは、光触媒の代表的な材料の一つである。
【0004】
光触媒材料そのものの改良により、有機物分解性能を向上させた例として、酸化チタンの表面にフッ素を化学結合させることで、OHラジカルのような活性酸素種の放出を促すことで有機物分解活性を向上させる方法などが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
それ以外にも多種多様な方法で、光触媒そのものの有機物分解活性の向上がなされている。
【0006】
また、光触媒による有機分解作用を利用した製品やデバイスの提案は数多くなされており、多様な、フィルタ、デバイス、装置が開発されている。
【0007】
特に水処理に用いる場合においては、光触媒を担持した充填材を用い、水の流れを制御する方法などがある(例えば特許文献2参照)。
【0008】
水中の有機物を分解する際、処理水量当たり同量の光触媒を使用するならば、フィルタなどの触媒担体に担持させて使用するより、水中に懸濁させて使用する方が、担体に結着させるためのバインダーなど、光触媒の性能を阻害する要因が減ることで、有効な表面積を広くすることができ、その結果、有機物と光触媒との接触確率が高まるため、単位時間当たりの有機物分解量が増加する(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2008/132824号
【特許文献2】特開平8−47687号公報
【特許文献3】特開平10−249336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、光触媒を懸濁させて有機物を分解させる際、処理時間の短縮を図るため、光触媒の濃度を高くするにつれて、光触媒同士が凝集し、沈殿してしまう。その結果、投入した光触媒が、有機物分解に有効に使われず、ロスしてしまう問題があった。
【0011】
そこで本発明では、凝集を抑制することにより、光触媒をロスせず、処理時間の短縮を図ることができる水浄化方法、および水浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前期従来の課題を解決するために、本発明の水処理方法は、フッ素を含有する酸化チタン光触媒を処理水中に懸濁させた懸濁液に、光を照射することにより処理水中の有機物を分解する光触媒による水処理方法である。
【0013】
本発明の処理方法によって、従来の酸化チタン光触媒よりも凝集を抑制し、有機物を効率よく分解し、水処理することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光触媒による水処処理方法によって、従来の酸化チタン光触媒よりも凝集を抑制し、有機物を効率よく分解し、水処理することができる。
【0015】
すなわち、従来は、空気中でしか使用されていないフッ素を含有する酸化チタン光触媒を処理水中に、通常の光触媒より高濃度で懸濁させた懸濁液に光を照射することにより水中の有機物を効率よく分解し、水処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の比較例1、実施例1に使用した水中有機物分解実験装置の概略図
【図2】本発明の実施例2に使用した水浄化装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明者らは、水処理に使用可能な光触媒として、水中の濃度を高くしても凝集しにくく、処理効率を向上できる光触媒として、多くの光触媒の中から、フッ素を含有する酸化チタン光触媒を見出し、発明に至ったものである。
【0018】
本発明の請求項1記載の水処理方法は、フッ素を含有する酸化チタン光触媒を処理水中に懸濁させた懸濁液に、光を照射することにより処理水中の有機物を分解する光触媒による水処理方法である。これにより、従来の酸化チタン光触媒よりも凝集を抑制し、有機物を効率よく分解し、水処理することができるという効果を奏する。
【0019】
また、前記光触媒の懸濁液の濃度が3g/L以上30g/L以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒による水処理方法にしてもよい。これにより、従来の酸化チタン光触媒よりも凝集を抑制し、従来の光触媒の有機物分解性能よりも効率よく分解し、水処理することができるという効果を奏する。
【0020】
また、前記光触媒の懸濁液の濃度が7g/L以上30g/L以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒による水処理方法にしてもよい。これにより、従来の酸化チタン光触媒よりも凝集を抑制し、従来の光触媒の有機物分解の下げ止まった性能よりも効率よく分解し、水処理することができるという効果を奏する。
【0021】
また、前記フッ素を含有する酸化チタンのフッ素の含有量が、重量比2.5%以上3.5%以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の光触媒による水処理方法にしてもよい。これにより、従来の酸化チタン光触媒よりも凝集を抑制し、有機物を効率よく分解し、水処理することができるという効果を奏する。
【0022】
また、処理水の流入口と流出口を有する光触媒反応槽を備え、この光触媒反応槽内で請求項1乃至4いずれかに記載の方法を用いて処理水中の有機物分解を行う水浄化装置であって、前記光触媒反応槽の後段に固液分離装置と、前記光触媒反応槽の前段と前記固液分離装置の後段にそれぞれ流量計と、前記光触媒反応槽への流入量を制御する流入制御弁と、
前記固液分離装置からの流出量を制御する流出制御弁を備え、分離した光触媒を前記固液分離装置から光触媒反応層に戻し、流入量と流出量が等しくなるように流入制御弁と流出制御弁を制御することを特徴とする水浄化装置にしてもよい。これにより、最適な濃度範囲内で、従来の酸化チタン光触媒よりも凝集を抑制し、有機物を効率よく分解し、水処理することができるという効果を奏する。
【0023】
また、照射する光源を水中に設けたことを特徴とする請求項5記載の水浄化装置にしてもよい。これにより、照射光の水面での反射、散乱や光の減衰の影響を抑制し、有機物を効率よく分解し、水処理することができるという効果を奏する。
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
(比較例1)
図1に水中有機物分解実験装置の概略図を示した。
【0026】
光触媒を各濃度になるように調整したジメチルスルホキシド(和光純薬製)10mg/L水溶液を1Lコニカルビーカー1に入れ、スターラー2とスターラーチップ3にて撹拌しながら、8W殺菌灯4(三共電気製:GLK8MQ)をビーカー中央、底面より20mmの位置まで挿入した。
【0027】
殺菌灯4を、30分間照射し、10分おきにサンプリングした。この実験は5Lステンレス製角型ポット5(アズワン製)内で水浴させ、25℃に保ちながら行った。
【0028】
今回用いた光触媒は、光触媒酸化チタンとして市販されている、堺化学工業製のSSP−25である。
【0029】
表1に、光触媒濃度を変化させ、各時間の減少量より半減時間を求めた結果を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
7g/Lまでは投入量の増加に伴い、性能が向上するが、7g/L以上で性能の下げ止まりが確認できる。
【0032】
これは、光触媒の投入量の増加に伴い、光触媒同士の凝集がおこり沈殿してしまうからだと考えられる。
【0033】
(実施例1)
次に、図1に示した試験方法と同様の方法にて、酸化チタン光触媒を、凝集を抑制する酸化チタン光触媒に変更して実験を行った。
【0034】
今回用いた光触媒は、光触媒酸化チタンとして市販されている、堺化学工業製のSSP−25の表面をフッ酸処理することで、表面の水酸基の一部をフッ素に置き換えた、重量比2.5%以上3.5%以下のフッ素を含有する、フッ素含有酸化チタンである。
【0035】
表2に、表1と同様、光触媒濃度を変化させ、各時間の減少量より半減時間を求めた結果を示す。
【0036】
【表2】

【0037】
また比較例に対し同濃度で同等性能未満には×、同等以上には○と判定した。また○判定の内、従来の酸化チタン光触媒SSP−25の最小半減時間30.1分より短縮している濃度には◎として判定した。
【0038】
3g/Lから30g/Lの範囲において従来の酸化チタン光触媒SSP−25の半減時間にくらべ短縮している。
【0039】
特に、7g/Lから30g/Lの範囲でSSP−25の最小半減時間30.1分を上回り、10g/Lのとき半減時間が最も小さくなったため、懸濁液中の光触媒の濃度は、フッ素含有酸化チタンが7g/Lから30g/Lの範囲のときが好ましい。
【0040】
これはフッ素を表面に修飾することで、酸化チタン光触媒の表面が親水性になり単分散しやすくなり、光触媒の凝集を抑制していると考えられる。
【0041】
光触媒の凝集を抑制することで、同量の光触媒の投入量にたいして、有機物分解に寄与する光触媒が、従来品より増え、性能の向上につながった。
【0042】
10g/Lまでは投入量の増加に伴い、性能が向上するが、10g/Lから18g/Lまでの範囲で性能が下がり、18g/L以上では性能の下げ止まりが確認できる。
【0043】
これは、10g/L以上18g/L以下の範囲では光触媒の投入量の増加に伴い、照射している光の透過率が下がり、光触媒が有効に作用する光量が照射される範囲が狭まったために有機物の分解性能が低下したと考えられる。
【0044】
そして18g/L以上では、フッ素の表面修飾の凝集抑制効果を超えて、光触媒同士が凝集をおこし、沈殿してしまうと考えられる。
【0045】
従来の酸化チタン光触媒SSP−25の最小半減時間は30.1分に対してフッ素含有酸化チタンでは20.6分であり、約46%の性能向上となった。このことから、凝集を抑制する、フッ素含有酸化チタン光触媒は、従来酸化チタン光触媒に対して優位な水中有機物分解性能を有していることがいえる。
【0046】
特に従来の光触媒では、比較例の結果にもあるように、ある一定濃度以上では性能が濃度に依存しないので、特に濃度を規定せず、余裕を持って高い濃度で使用する。
【0047】
一方、本発明の方法では、比較例にあるように、従来の酸化チタン光触媒SSP−25の性能が下げ止まる濃度7g/Lでは約36%の性能向上、また10g/Lで約46%の性能向上をしており、高濃度での使用をする必要がなく、低濃度で性能の向上が可能となる。
【0048】
光触媒の量が低濃度であるほうが、光触媒の使用量の削減になり、処理コストも低減できる。そして水浄化装置での使用を考えた場合、固液分離の作業時間の短縮、装置洗浄頻度の減少につながり、総じて処理水量の向上になることからも、メンテナンスコストも低減でき、産業上の利用価値が高い。従って、フッ素を含有する酸化チタンは、水中に懸濁して利用する方法において、従来の酸化チタンよりも産業的な利用価値が高いといえる。
【0049】
本発明では、光触媒にフッ素含有酸化チタンを用いたが、凝集を抑制する光触媒であればよく、フッ素含有酸化チタンに限定するものではない。例えばシランカップリング表面処理した光触媒や、SiO2に覆われたコアシェル型光触媒でもよい。
【0050】
本発明では、光源に殺菌灯を使用したが、光源は光触媒に作用する波長の光を照射できるものであればよく、殺菌灯に限定したものではない。
【0051】
(実施例2)
本発明の水処理方法における水浄化装置構成について、図2を用いて説明する。
【0052】
水流ポンプ6後方に流量計7をつなぎ、流量計7の後方に流入制御弁8をつける。その後方に光触媒反応槽9がつながる。光触媒反応槽9中には、固液分離装置13までの容量を考慮し、光触媒10を10g/Lになるように水中に分散させた懸濁液を入れた。
【0053】
本実施例では光触媒反応槽9の形状は円筒状であるが、角筒状でもよい。
【0054】
光触媒10は、光触媒反応槽9内に存在する、光源11によって光が照射される。
【0055】
本実施例では光源11は光触媒反応槽9上面中央より懸濁液に挿入する形で1本設置したが、増やしてもよい。特に溶液の濁度が高いときや有機物濃度が高いときなどは本数を増やしてもよい。
【0056】
また光源は反応容器の外側にあってもかまわないが、水面の反射、散乱や光の減衰の影響を少なく使用できるため、水中に設けることが好ましい。
【0057】
光触媒反応槽9後方には加圧用水流ポンプ12があり、固液分離装置13へとつながる。固液分離装置13では光触媒10を含む懸濁液と処理済水とに分離される。分離された光触媒10を含む懸濁液は、再び光触媒反応槽9に戻される。
【0058】
具体的には、固液分離装置13として、沈降分離装置、ろ過装置、遠心分離装置、圧搾分離装置などを用いることができるが、特に限定するものではない。
【0059】
本実施例では固液分離装置13としてクロスフローろ過装置を用いたため、加圧用水流ポンプ12を必要としたが、固液分離装置13によっては使用しなくてもよい。
【0060】
固液分離装置13後方には、流量計14と流出制御弁15がつながり、処理済水が排出される。光触媒反応槽9前段の流量計7に固液分離装置13後段の流量計14から流量情報が送られ、流入量と流出量が常に等しくなるよう流入制御弁8、流出制御弁15によって調節する。流入量と流出量が等しいため、固液分離装置13から戻される光触媒10によって光触媒反応槽9中の光触媒濃度は一定に保たれる。
【0061】
本実施例では流入量と流出量の制御を自動で行ったが、手動で制御できるようにしてもよい。
【0062】
上記構成において、未処理水は水流ポンプ6、流量計7、流入制御弁8を通り、光触媒反応槽9に入る。そこで光触媒10と混合され、光源11によって未処理水は処理される。
【0063】
そして、加圧用水流ポンプ12により、固液分離装置13で光触媒10と処理済水に固液分離される。処理済水は流量計14と流出制御弁15を通じ排出される。
【0064】
分離された光触媒10は光触媒反応槽9に戻されるが、流入制御弁8、流出制御弁15によって、流入量と流出量を等しく調節されているため、光触媒反応槽9中の光触媒濃度は一定に保たれる。
【0065】
よって上記構成では、最適な濃度範囲内で、従来の酸化チタン光触媒よりも凝集を抑制し、有機物を効率よく分解し、水処理することができるという効果を奏する。
【0066】
また、本実施例では、一過式で処理を行ったが、装置の形態によっては、循環式、回分式で行う方法でもよく、その処理方式を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明にかかる水処理方法及び水浄化装置は、光触媒を懸濁させて効率よく水処理できるものであって、飲料水、工業用水、海水、汚水等の浄化に使用される水浄化装置として有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 コニカルビーカー
2 スターラー
3 スターラーチップ
4 殺菌灯
5 ステンレス製角型ポット
6 水流ポンプ
7 流量計
8 流入制御弁
9 光触媒反応槽
10 光触媒
11 光源
12 加圧用水流ポンプ
13 固液分離装置
14 流量計
15 流出制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含有する酸化チタン光触媒を処理水中に懸濁させた懸濁液に、光を照射することにより処理水中の有機物を分解する光触媒による水処理方法。
【請求項2】
前記光触媒の懸濁液の濃度が3g/L以上30g/L以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒による水処理方法。
【請求項3】
前記光触媒の懸濁液の濃度が7g/L以上30g/L以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒による水処理方法。
【請求項4】
前記フッ素を含有する酸化チタンのフッ素の含有量が、重量比2.5%以上3.5%以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の光触媒による水処理方法。
【請求項5】
処理水の流入口と流出口を有する光触媒反応槽を備え、この光触媒反応槽内に光を照射する光源を設け、請求項1乃至4いずれかに記載の方法を用いて処理水中の有機物分解を行う水浄化装置であって、
前記光触媒反応槽の後段に光触媒と処理水を分離する固液分離装置と、
前記光触媒反応槽の前段と前記固液分離装置の後段にそれぞれ流量計と、
前記光触媒反応槽への流入量を制御する流入制御弁と、
前記固液分離装置からの流出量を制御する流出制御弁を備え、
分離した光触媒を前記固液分離装置から前記光触媒反応層に戻し、前記光触媒反応槽の前段に設けた流量計で計測した流量と前記固液分離装置の後段に設けた流量計で計測した流量が等しくなるように前記流入制御弁と前記流出制御弁を制御することを特徴とする水浄化装置。
【請求項6】
照射する光源を水中に設けたことを特徴とする請求項5記載の水浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−31799(P2013−31799A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168938(P2011−168938)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】