説明

光触媒を含有した塗膜を形成する塗装方法

【課題】従来の技術では、所望の塗布量とするには数回の重ね塗りが必要であり、そのために強度の強い塗膜が得られ難く、また、作業環境によっては斑点、白化、欠損、クラックが発生するという問題があり、このような塗膜では膜の剥離や欠落が起こり、光触媒性能を長期間にわたって継続的に活用できない。そこで、耐久性、耐摩耗性に優れ、しかも、斑点、白化、欠損、クラックが生じ難い光触媒性塗膜をどのような作業環境下でも形成できる塗装方法を提供する。
【解決手段】塗液吐出ノズルの先端口径が0.5〜3.0mmである塗装機、さらには、エアーカーテンを発生させるためのブロアを備えた塗装機を用い、塗液吐出ノズルの吐出圧を0.01〜0.098MPaとして、アルコキシシラン、その部分加水分解縮合物およびその加水分解生成物から選ばれる少なくとも一種のバインダ成分と光触媒と溶媒とを少なくとも配合した、粘度が0.1〜100mPa・sの塗液を基材に塗布し乾燥して、基材の表面に光触媒を含有した塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒を含有した塗膜を形成する塗装方法に関する。また、その塗装方法によって形成された塗膜、その塗膜を表面に有する光触媒性物品に関する。さらに、その光触媒性物品の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒はそのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光を照射すると励起し、強い触媒活性を発現するものである。このような光触媒を用いて、居住空間、生活環境に発生する有害物、悪臭物、不快物等を除去しあるいはその量を削減したり、さらには、光触媒の励起による親水性の発現により防曇、防汚の効果を利用して、居住空間の快適化や生活環境の保全に活用している。光触媒を実際に使用するには、光触媒を含有した塗膜を種々の物品の表面に形成し、それに励起光を照射する。光触媒を固定する物品としては、ガラス、セラミックス、金属などの無機質からなる物品、プラスチックス、木材、紙などの有機質からなる物品、無機質と有機質とを複合した物品などあらゆる物品を用いることができる。例えば、建築物の外壁、窓ガラス、自動車のフロントガラスなどに光触媒性塗膜を形成して、空間に存在するアルデヒド類、NOx、COなどの有害物、メルカプタン類、アンモニアなどの悪臭物、油分、汚れ、菌類、カビ類、細菌類などの不快物を分解しあるいは除去したり、それらの物品表面に付着する汚れ、水滴や曇りの形成を防止することができる。また、光触媒を含有した塗膜を窓ガラスなどに形成すると、光触媒によって紫外線を遮蔽し室内進入を抑えて、人体への照射紫外線量を削減することもできる。
【0003】
光触媒を含有した塗膜を形成するには、光触媒、バインダ成分、溶媒等を配合した塗液をスプレーガンなどを用いてスプレー塗装するのが一般的である。例えば、下記の特許文献1には、光触媒含有塗液を物品の表面に塗布する際に、物品の材質に応じてスプレーガンのノズル径、空気圧、塗装圧を選定する方法を開示しており、例えばガラスに塗布する場合はスプレーガンのノズル径を0.13〜0.23mmを基準としていることを記載している。また、特許文献2には、光触媒含有塗液を吐出圧1〜5Kgf/cm(0.098〜0.49MPa)、吐出量20〜100ml/分の条件でスプレーノズルから吐出させる方法を開示しており、光触媒含有塗液は粘性が高いため比較的小径のノズルを用いて吐出量を小さくする必要があることを記載している。
【0004】
【特許文献1】特開2000−290534号公報(請求項6、段落0029〜0030)
【特許文献2】特開2002−80751号公報(請求項2、段落0024、0030)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1の方法のように吐出ノズル径を小さくしたり、特許文献2の方法のように高圧力で吐出ノズル径を小さくして光触媒含有塗液を超微粒子化して噴霧する条件では吐出量が小さくなり、所望の塗布量とするには数回の重ね塗りが必要であり、そのために強度の強い塗膜が得られ難く、また、作業環境によっては斑点、白化、欠損、クラックが発生するという問題がある。このような塗膜では膜の剥離や欠落が起こり、光触媒性能を長期間にわたって継続的に活用できない。
そこで、本発明は以上のような従来技術の問題点を克服し、耐久性、耐摩耗性に優れ、しかも、斑点、白化、欠損、クラックが生じ難い光触媒性塗膜をどのような作業環境下でも形成できる塗装方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、従来の条件では光触媒を含有した塗液を超微粒子化して噴霧しているために数回の重ね塗りが必要であること、さらには、各回の塗布面の乾燥条件が微妙に異なることによって、所望の塗膜が得られないと考えた。そして、塗液の液滴を超微粒子化せず、水滴に近い大きさで塗布するために、スプレーガンなどの塗装機の吐出ノズルの先端口径を比較的大きくするとともに吐出ノズルの吐出圧を比較的低圧として、特定のバインダ成分を配合した低粘度の塗液を塗布することにより、塗布回数を減らすことができ所望の塗膜が形成できること、さらには、塗布直後に均一な膜化、乾燥を行うために、塗液吐出ノズルの周辺から被塗面に向けて塗液を囲むようにエアーカーテンを発生させるブロアを備えた塗装機を用いることにより、吹き付けるエアーの圧力によって塗液の液滴を押しつぶし液滴同士をつなぎ合わせて膜化、乾燥して、所望の塗膜が形成できることなどを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、塗液吐出ノズルの先端口径が0.5〜3.0mmである塗装機を用い、塗液吐出ノズルの吐出圧を0.01〜0.098MPaとして、アルコキシシラン、その部分加水分解縮合物およびその加水分解生成物から選ばれる少なくとも一種のバインダ成分と光触媒と溶媒とを少なくとも配合した、粘度が0.1〜100mPa・sの塗液を基材に塗布し乾燥して、基材の表面に光触媒を含有した塗膜を形成する塗装方法であり、また、エアーカーテンを発生させるブロアを備えた、塗液吐出ノズルの先端口径が0.5〜3.0mmである塗装機を用いて、上記の光触媒含有塗液を基材に塗布し乾燥して、基材の表面に光触媒を含有した塗膜を形成する塗装方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗装方法では、あらゆる物品の表面に耐久性、耐摩耗性に優れ、しかも、斑点、白化、欠損、クラックが生じ難い、光触媒を含有した塗膜を形成することができ、光触媒性能を活用することができる。しかも、どのような作業環境下でも1回塗りで均質な光触媒性塗膜を簡便に形成でき、また、透明性も十分確保することができる。
このため、例えば、建築物の外壁、窓ガラス、浴室タイル、鏡には新築・リフォーム時に簡単に施工でき、光触媒性塗膜によって汚れの付着を防止でき、それによって、危険な高所の拭き掃除が軽減される。窓ガラスに光触媒性塗膜を塗装すると窓ガラスから進入する紫外線を遮断でき、それによって物品の日焼け、変色を防止でき、有害な紫外線から人体を守ることができる。また、自動車のフロントガラス、サイドガラス、サイドミラー、後部ガラスなどに光触媒性塗膜を塗装すると油膜の生成を防止でき、光触媒親水性効果により曇りの発生を防止し、雨滴の膜化を促進することができることから、雨天走行時の安全に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で用いる塗装機は市販されているスプレーガンなどの塗装機を用いることができ、光触媒含有塗液を供給する供給手段と、上記供給手段から供給される光触媒含有塗液を吹き出す吐出ノズルとを少なくとも具備する。塗液吐出ノズルの先端口径は0.5〜3.0mmとする必要があり、塗液吐出ノズルの吐出圧を0.01〜0.098MPaとする必要がある。このような範囲とすることにより塗液を超微粒子化せず、水滴に近い液滴径とすることができる。塗液吐出ノズルの先端口径は1.0〜2.0mm程度の範囲が好ましく、1.0〜1.5mm程度の範囲がより好ましい。先端口径が0.5mmより小さいと、液滴が微細化し易いほかに所望の塗布量を1回で塗布できず、数回の重ね塗りをすると白化し易く、塗膜透明性や強度の低下や剥離の要因となる。一方、先端口径が3.0mmより大きいと、塗布中に液ダレなどが発生して形成膜厚に著しい部分差が生じ、塗膜には虹彩色等の外観不良が発生し易い傾向となる。供給手段としては吹上げ式、重力式、圧送式など従来の手段を用いることができるが、圧送式の供給ポンプを用いるのが好ましく、この場合、塗液吐出ノズルの吐出圧を比較的低圧で行うのが良く、0.01〜0.09MPaの吐出圧が好ましく、0.01〜0.05MPa程度がより好ましい。吐出圧が0.01MPaより小さいと、吐出塗液の液滴の大きさを均一に維持したまま基材の表面に塗布し難く、斑点の原因となり、吐出圧が0.098MPaを超えると、液滴が微細化し易いほかに塗液が飛び散り塗着効率を低下させ、均一な塗膜が形成困難となる傾向がある。塗液吐出ノズルからの吐出量は30〜200ml/分が好ましく、50〜100ml/分程度がより好ましい。吐出量が30ml/分より小さいと、水滴に近い液滴径をつなぎ合わせることが困難で斑点の原因となり好ましくなく、吐出量が200ml/分を超えると、塗布中に液ダレなどが発生して形成膜厚に著しい部分差が生じ、塗膜には虹彩色等の外観不良が発生し易い傾向となり好ましくない。供給ポンプなどの供給手段と塗液吐出ノズルは直接あるいはホースや管で連結され塗装機を構成し、供給手段により供給され塗液吐出ノズルから吹き出された塗液は被塗面まで運ばれ付着する。
【0010】
また、本発明で用いる好ましい塗装機は、光触媒含有塗液を供給する供給手段と、エアーを供給するブロアと、上記供給手段から供給される光触媒含有塗液と上記ブロアから供給されるエアーとを一緒に吹き出すガンとを少なくとも具備し、上記ガンは、その先端の内側に光触媒含有塗液吐出ノズルを、その光触媒含有塗液吐出ノズルの外周側にエアー吹出口を有し、吐出した塗液の周辺を囲むようにエアーカーテンを発生させる。供給ポンプなどの供給手段とガン(塗液吐出ノズル)は直接あるいはホースや管で連結され、また、ブロアとガン(エアー吹出口)もホースや管で連結され塗装機を構成し、供給手段により供給され塗液吐出ノズルから吹き出された塗液は、その外側のブロアにより供給されエアー吹出口から吹き出される大量のエアーの流れ(これをエアーカーテンという)によって囲まれて被塗面まで運ばれ付着する。このようなエアーカーテンを発生させるブロアを備えた塗装機を用いることにより、塗液吐出ノズルから吹き出された塗液は、その外側がエアーによって囲まれているため周辺への飛散が少なく、作業者の健康阻害要因が激減し、塗液の無駄が減り、大掛かりなマスキングが不要になる。
【0011】
エアー吹出口から吹き出されるエアーは、低圧とし風量を多くするとより十分なエアーカーテンが得られるため好ましい。このため、エアーカーテンを発生させるためのブロアは、ブロア送風圧力を0.01〜0.098MPaとするのが好ましく、0.01〜0.05MPaとするのがより好ましく、0.015〜0.04MPa程度とするのがさらに好ましい。ブロア送風圧力が前記範囲であると十分な風量のエアーカーテンを発生させることができるため好ましく、ブロア送風圧力が0.01MPaより低いとエアーカーテンの発生が不十分になり好ましくなく、また、0.098MPaより高いとエアー風量が大きくなりすぎて好ましくない。エアー風量は500〜5000リットル/分程度が好ましく、1000〜3000リットル/分程度がより好ましい。エアーの温度は塗装環境温度より少なくとも10℃高くするのが好ましく、10〜50℃程度高くするのがより好ましく、10〜25℃程度高くするのがさらに好ましい。エアー温度を塗装環境温度より高く設定することにより塗膜の乾燥、硬化をあわせて行うことができる。塗装環境温度より高い温度のエアーを発生させるためには、高回転型タービンを備えたブロアを用いるのが好ましく、その回転摩擦熱によりエアーの温度を高めることができる。高回転型タービンの回転数は通常毎分21000〜25000回転程度であるが、その回転数を適宜調節することによりエアー温度を調整することができ、このようにすると特別な温風発生手段を備えなくても良い。このような塗装機としてはチロン社製の温風低圧塗装機(SG−2500、SG−2000、SG−91など)、ワグナー社製のスプレーガンなどを好ましく用いることができる。エアー温度を30℃以上高くする場合において高回転型タービンで不充分な際には所定温度の温風を発生させるための加温手段を備えることもできる。
【0012】
次に、本発明で用いる光触媒含有塗液は、光触媒、バインダ成分、溶剤を少なくとも配合したものであり、その粘度が0.1〜100mPa・sであることが重要である。光触媒含有塗液の粘度が少なくとも上記範囲であれば、前記の塗装機で塗布すると所望の塗膜が得られ、0.1〜50mPa・s程度が好ましく、0.5〜10mPa・s程度がより好ましい。また、バインダ成分は塗膜を形成した際にバインダとして作用するものであり、本発明ではアルコキシシラン、その部分加水分解縮合物およびその加水分解生成物から選ばれる少なくとも一種を用いることが重要である。光触媒含有塗液の粘度はオストワルド粘度計を用いて25℃の温度で測定する。
【0013】
光触媒含有塗液にバインダ成分として用いるアルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン、モノアルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシランのモノマーを挙げることができ、そのアルコキシル基としてはメトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基などの炭素が1〜8程度のアルコキシル基を用いることができ、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素が1〜8程度のアルキル基を用いることができる。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノエチルトリエトキシシラン、モノプロピルトリプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジプロポキシシラン、トリメチルモノメトキシシラン、トリエチルモノエトキシシラン、トリプロピルモノプロポキシシランなどを用いることができる。また、バインダ成分として用いるアルコキシシランの部分加水分解縮合物は、前記のアルコキシシランモノマーを部分的に加水分解・縮合した二量体あるいは三量体以上のオリゴマーであり、1分子中にケイ素原子を2〜9個程度含むものが好ましい。また、アルコキシシランの加水分解生成物はアルコキシシランを完全に近い程度まで加水分解縮合して粒子形状を形成したものであり、一般にオルガノシリカゾルと呼ばれるものを用いることができる。
【0014】
塗液中に配合するバインダ成分の配合量はそれぞれの用途に応じて適宜設定することができ、例えばバインダ成分を固形分に換算して塗液中に0.01〜10重量%配合させるのが好ましく、0.1〜5重量%程度がより好ましく、0.1〜1重量%程度がさらに好ましい。0.01重量%より小さい場合は、基材あるいは予め施した下地層との密着性や、塗膜強度が低下する傾向にあり好ましくなく、10重量%を超えると、形成される塗膜にバインダ成分が多すぎて光触媒活性が十分に発揮されない傾向となるため好ましくない。なお、本発明では上記のアルコキシシラン、その部分加水分解縮合物、その加水分解生成物のほかにバインダ成分としてシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、シリコンアクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、尿素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、アクリルウレタン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、水ガラス、セメント、石膏などを適宜配合しても良い。
【0015】
光触媒としては紫外線の光で励起する物質、紫外線のほか可視光でも励起する物質、可視光で励起する物質など公知の物質を用いることができ、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステンなどの酸化物や、硫化亜鉛などの硫化物を用いることができる。光触媒の粒子径、形状等には特に制限なくどのような大きさのものでもどのような粒子形状のものでも用いることができるが、透明性を確保する必要がある場合には可視光を透過するような粒子径や形状を適宜選択して用いることができ、例えば1〜100nm程度の粒子径のものを用いるのが好ましい。また、光触媒には、その粒子表面あるいはその結晶内部にV、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Auなどの異種元素または酸化物等の異種元素の化合物が含まれていても良い。塗液中の光触媒の配合量はそれぞれの用途に応じて適宜設定することができ、塗液中に0.01〜10重量%配合するのが適当であり、0.05〜5重量%程度が好ましい量である。本発明では光触媒として酸化チタンは光触媒活性が高いので好ましく用いることができる。酸化チタンとしては、無水酸化チタン、含水酸化チタン、水和酸化チタン、水酸化チタン、チタン酸などと呼ばれるものを含み、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などの結晶形を有していても良く、それらが混合したものであっても、あるいは、非結晶形、不定形であっても良い。酸化チタンの粒子径は1〜100nm程度がより高活性であるため好ましく、3〜50nm程度がさらに好ましい。また、酸化チタンの表面にハロゲン化白金化合物を担持させると、紫外線のほかに可視光の光でも励起する可視光応答型光触媒となるので好ましく用いることができる。また、酸化チタンに窒素をドープした可視光応答型光触媒も好ましく用いられる。
【0016】
光触媒含有塗液に配合する溶剤は、水などの無機系溶媒、アルコール、グリコール、エーテル、アミドなどの有機系溶媒から選ばれる少なくとも一種を配合して用いることができ、配合量は塗液の粘度を考慮して適宜調整することができる。溶媒としてメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコールを用いたり、その他の溶媒とともに配合すると乾燥温度を比較的低くすることができるため好ましい。塗液中のアルコールの配合量はそれぞれの用途に応じて適宜設定することができる。光触媒含有塗液には、光触媒、バインダ成分、溶剤のほかに、分散剤、増粘剤、粘度調整剤、レベリング剤、界面活性剤、顔料、充填剤、吸着剤、脱臭剤、抗菌剤、紫外線遮蔽剤、赤外線遮蔽剤、導電剤、帯電防止剤、電磁波遮蔽剤などの添加剤を適宜配合しても良い。前記の光触媒、バインダ成分、溶剤さらには必要に応じて添加剤をそれぞれ所定量混合して光触媒含有塗液とすることができ、溶媒の種類や配合量などによって塗液の粘度を調整することができる。塗液中の全固形分濃度は0.1〜30重量%程度が好ましく、0.1〜20重量%がより好ましい。塗液中の全固形分濃度が0.1重量%未満であると、形成される塗膜に光触媒活性が十分に発揮されない傾向となり好ましくなく、30重量%を超えると、形成される塗膜にクラックが生じ易く、また塗膜透過率の低下に繋がる傾向にあるため好ましくない。全固形分濃度に対する光触媒の配合量はそれぞれの用途に応じて適宜設定することができ、10〜90重量%程度でも十分な光触媒活性が得られるため適当であり、40〜80重量%程度がさらに良い。本発明では、塗液中の全固形分濃度が0.1〜20重量%であって、その塗液中にバインダ成分を固形分に換算して0.01〜10重量%配合し、溶媒としてアルコールを少なくとも配合した塗液を用いるのが好ましい。
【0017】
前記の塗液吐出ノズルの先端口径が0.5〜3.0mmである塗装機を用いて、あるいは、エアーカーテンを発生させるブロアを備えた、塗液吐出ノズルの先端口径が0.5〜3.0mmである塗装機を用い、塗液吐出ノズルの吐出圧を0.01〜0.098MPaとして、アルコキシシラン、その部分加水分解縮合物およびその加水分解生成物から選ばれる少なくとも一種のバインダ成分と光触媒と溶媒とを少なくとも配合した、粘度が0.1〜100mPa・sの塗液を基材に塗布し乾燥して、基材の表面に光触媒を含有した塗膜を形成する。光触媒含有塗液の塗布速度、塗布回数、吹付け高さ等は基材や塗布量設定条件等に応じて適宜調節することができる。例えば本発明では基材の縦幅または横幅1m当たり0.3〜30秒程度の短時間で行うことができ、0.5〜10秒がより好ましい。短時間で塗布しても基材1m当たり0.01〜30gの乾燥塗布量を得ることができ、0.01〜20gが好ましい範囲である。塗膜の膜厚は適宜調節することができ、10nm〜10μm程度とするのが好ましく、50nm〜1.0μm程度とするのがより好ましい。また、本発明では1回の塗布でも十分な塗布量を得ることができ、1/3程度を重ねて塗りつぐ程度で十分である場合が多いが、更なる高塗布量が必要になる場合などでは必要に応じて2回〜数回重ね塗りを行うこともできる。塗布した後、風乾またはエアーカーテンのエアーで塗布面を順じ乾燥し、硬化することができる。乾燥、硬化は風乾またはエアーで十分な場合が多いが、さらに高い温度での硬化が必要な場合はヒーターを使用して塗布面が150℃程度になるように10〜15分程度加熱しても良い。また、必要に応じて光沢を出す場合、塗膜表面をポリッシャーで磨くこともできる。したがって本発明では、基材の幅1m当たり0.3〜30秒間で1回塗布し、風乾またはエアーカーテンのエアーにより乾燥し溶媒を除去して、基材1m当たり0.01〜30gの乾燥塗布量を得ることができる。
【0018】
基材としては、無機質の物品、有機物の物品、それらを複合した物品などあらゆる物品を対象とすることができ、例えば、ガラス、タイル、コンクリート、モルタル、陶器などのセラミックスや金属の材質のもの、プラスチック、紙、木などの材質のものを用いることができる。具体的には、窓ガラスなどの建築物のガラス部材、建築物の外壁、ドア、柵、扉、建築物室内の壁、天井、ドア、床、食器、家具、特に浴室の床や壁、ドア、台所の天井、レンジ、換気扇、トイレの便器や壁、自動車や電車のフロントガラス、後部ガラス、サイドガラス、自動車のサイドミラーなど種々のものに塗布することができる。また、前記の物品を基材として用いるほかに、予め基材の表面に光触媒性塗膜を形成した後、それらを加工して物品とすることもできる。光触媒性塗膜を形成する基材は、その表面を予めガラスコンパウンドで磨いたりサンダーで研摩したり、水、アルコール、酸、アルカリの少なくとも一種で洗浄した後、光触媒含有塗液を塗布すると塗膜の接着強度を高めることができるので好ましい。ガラス基材の場合、その表面をガラスコンパウンドで汚染物質、油分の除去を行ない、さらにアルコールで洗浄した後、塗液を塗布するのが好ましい。また、基材にはそのままの状態で塗布することもできるが、基材の表面に予めプライマー処理やシーラー処理を施したり、下塗り層、中塗り層を形成した後、光触媒含有塗液を塗布することもできる。
【0019】
低粘度の光触媒含有塗液を先端口径が大きい塗液吐出ノズルを用いて低圧力で塗布して形成した本発明の塗膜は、鉛筆硬度試験、耐久性試験、耐摩耗性試験の結果、十分な強度を有しており、目視判定の結果、斑点、白化、欠損、クラックがほとんどない塗膜とすることができる。また、膜厚は全固形分濃度を調整することにより適宜調節することができるため10nm〜10μm程度の膜厚を得ることができ、50nm〜1.0μm程度の膜厚で透明性にも優れた塗膜を得ることができる。また、可視光透過率が85%以上であり、24時間のブラックライト照射後の水の接触角が10°以下、さらには5°以下である、高い透明性と親水性を有する好ましい塗膜を得ることもできる。さらに、塗膜のヘイズ値が0.5%以下、さらには0.3%以下である、白化やにごりの少ない好ましい塗膜を得ることもできる。可視光透過率とヘイズ値の測定には日本電色工業社製ヘイズメーターNDH 300Aを用い、水との接触角は接触角測定器を用いて、その際のブラックライトの照射光量は0.5〜1.0mW/cm程度で行う。
【0020】
前記のような光触媒を含有した塗膜を物品の表面に形成して実際に使用することができる。このような光触媒性物品は通常の光触媒用途に用いられるほかに、物品に該光触媒を励起する光を照射して塗膜を親水性にし、物品の表面に付着した泥、汚れを雨または水によって洗い流すことができる。例えば、光触媒を含有した塗膜を有するガラス物品とすることができ、このようなガラス物品に該光触媒を励起する光を照射して塗膜を親水性にし、ガラス物品の表面に付着した泥、汚れを雨または水によって洗い流すことができる。また、光触媒を含有した塗膜をフロントガラス、後部ガラス、サイドガラスおよびサイドミラーの少なくとも一部に有する光触媒性自動車とすることができ、特に、光触媒を含有した塗膜をフロントガラス、後部ガラス、サイドガラスおよびサイドミラーの大気と接する側の少なくとも一部に有する光触媒性自動車とすることができる。この光触媒を含有した塗膜を有する自動車を運転し、塗膜に太陽光を照射して、フロントガラス、後部ガラス、サイドガラスまたはサイドミラーの表面に汚れの付着、水滴、曇りの形成を防止したり、この自動車に該光触媒を励起する光を照射して塗膜を親水性にし、フロントガラス、後部ガラス、サイドガラスまたはサイドミラーの表面に付着した泥、汚れを雨または水によって洗い流すことができる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
実施例1
下記の光触媒含有塗液をスプレー式温風低圧塗装機を用いて、ソーダガラス板(150×70×6mm)に対してスプレー塗布し、常温乾燥にて光触媒性塗膜を作製した。乾燥塗布量は0.056g/mであった。得られた塗膜には未塗布ガラス板に対する大きな外観変化は確認されず、可視光透過率88.3%、ヘイズ値0.2%以下、鉛筆硬度試験法による塗膜硬度の確認では4Hを示した。また、水接触角測定による塗膜の親水性評価を行った結果、24時間のブラックライト照射(ナショナル製ブラックライトブルー蛍光灯 20形 FL20SBLB 照射光量0.5mW/cm)後、接触角が5°以下となり超親水性が確認された。
光触媒含有塗液として、下記組成の石原産業製の二酸化チタン光触媒コーティング剤ST−K211(全固形分濃度0.2重量%)を用いた。
(1)二酸化チタン光触媒:0.08g
(2)溶媒:水およびアルコール99.8ml
(3)バインダ成分:アルキルシリケートの部分加水分解縮合物(固形分として0.08gであり、塗液中に0.1重量%含有)
(4)粘度:2.1mPa・s(25℃)
塗装機として、高回転型タービンのブロアを備えたスプレー式温風低圧塗装機(チロン社製SG−91)を用いて、次の条件で運転した。
(1)塗液吐出ノズルの先端口径:1.2mm
(2)吐出圧:0.018MPa
(3)吐出量:70ml/分
(4)ブロア送風圧力:0.018MPa
(5)エアーカーテンのエアー風量:2200リットル/分
(6)エアーカーテンのエアー温度:塗装作業の環境温度より15℃高い温度
(7)塗装速度:被塗物の幅1mを3秒間で塗装機を移動させた。
基材として用いたソーダガラス板の前処理として市販のガラスコンパウンドを用いて汚染物質、油分の十分な除去を行ない、さらにイソプロピルアルコールにて洗浄を行った。
【0023】
実施例2
光触媒含有塗液として下記組成の石原産業製の二酸化チタン光触媒材料ST−K03(全固形分濃度10重量%)を用い、塗装機の塗装速度を被塗物の幅1mに対し0.5秒の速度とすること以外は、実施例1と同じ条件で光触媒性塗膜を作製した。乾燥塗布量は0.47g/mであった。得られた塗膜には未塗布ガラス板に対する大きな外観変化は確認されず、可視光透過率86.5%、ヘイズ値0.2%以下、鉛筆硬度試験法による塗膜硬度の確認では3Hを示した。また、実施例1と同じように水接触角測定による塗膜の親水性評価を行った結果、24時間のブラックライト照射(ナショナル製ブラックライトブルー蛍光灯 20形 FL20SBLB 照射光量0.5mW/cm)後、接触角が5°以下となり超親水性が確認された。
ST−K03の組成
(1)二酸化チタン光触媒:4g
(2)溶媒:水およびアルコール90ml
(3)バインダ成分:アルキルシリケートの部分加水分解縮合物(固形分として4gであり、塗液中に5重量%含有)
(4)粘度:1.7mPa・s(25℃)
【0024】
実施例3
基材として自動車のフロントガラスを用いたこと以外は実施例1と同じ条件で光触媒性塗膜を作製した。得られた塗膜には未塗布のフロントガラスに対する大きな外観変化は確認されず、また塗膜硬度も実用上問題なかった。また、4か月での実用試験後でも塗膜の外観変化は確認されず、自動車を運転し、塗膜に太陽光を照射すると、フロントガラスの表面に汚れの付着、水滴、曇りの形成を防止でき、フロントガラスの表面に付着した泥、汚れは流水によって洗い流すことができた。
【0025】
比較例1
温風低圧塗装機の塗液吐出ノズルの先端口径を0.3mmとし、下記条件で運転すること以外は実施例1と同様にして光触媒性塗膜を作製した。
(1)塗液吐出ノズルの先端口径:0.3mm
(2)吐出圧:0.018MPa
(3)吐出量:70ml/分
(4)ブロア送風圧力:0.018MPa
(5)エアーカーテンのエアー風量:2200リットル/分
(6)エアーカーテンのエアー温度:塗装作業の環境温度より15℃高い温度
(7)塗装速度:被塗物の幅1mを3秒間で塗装機を移動させた。
得られた光触媒性塗膜の乾燥塗布量は0.019g/mであり、良好な外観を示したが、水接触角測定による塗膜の親水性評価を行った結果、24時間のブラックライト照射(ナショナル製ブラックライトブルー蛍光灯 20形 FL20SBLB 照射光量0.5mW/cm)後も、接触角5°以下を示さず、超親水性が確認されなかった。なお可視光透過率、ヘイズ値はそれぞれ89.0%、0.2%以下、また塗膜硬度も実用上問題なかった。
【0026】
比較例2
比較例1の温風低圧塗装機を用い、3回重ね塗りする以外は比較例1と同様にして光触媒性塗膜を作製した。得られた光触媒性塗膜の乾燥塗布量は0.056g/mであったが、未塗布ガラス板に対して斑点や透明性の低下が確認され、塗膜硬度も不充分であった。
【0027】
実施例1、2で作製した光触媒性塗膜に対して、自然曝露(曝露地、四日市)およびサンシャインウェザーメーター(スガ試験機製S80)による促進曝露を実施し、耐候性を評価した。その結果、いずれの塗膜も優れた耐候性を有し、長期間の使用が可能であることを確認した。また、曝露試験後の塗膜も優れた親水性を維持していることも確認し、未塗布ガラス板に対する防汚性の優位差が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の塗装方法では、あらゆる物品の表面に耐久性、耐摩耗性に優れ、しかも、斑点、白化、欠損、クラックが生じ難い、光触媒を含有した塗膜を形成することができ、光触媒が有する性能を活用することができる。しかも、どのような作業環境下でも1回塗りで均質な光触媒性塗膜を簡便に形成でき、また、透明性も十分確保することができる。このため、このような光触媒性塗膜を活用し、居住空間、生活環境に発生する有害物、悪臭物、不快物等を除去しあるいはその量を削減して、居住空間の快適化や生活環境の保全に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗液吐出ノズルの先端口径が0.5〜3.0mmである塗装機を用い、塗液吐出ノズルの吐出圧を0.01〜0.098MPaとして、アルコキシシラン、その部分加水分解縮合物およびその加水分解生成物から選ばれる少なくとも一種のバインダ成分と光触媒と溶媒とを少なくとも配合した、粘度が0.1〜100mPa・sの塗液を基材に塗布し乾燥して、基材の表面に光触媒を含有した塗膜を形成する塗装方法。
【請求項2】
塗液吐出ノズルからの吐出量を30〜200ml/分の範囲で塗布する請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
塗液中の全固形分濃度が0.1〜20重量%であって、その塗液中にバインダ成分を0.01〜10重量%配合し、溶媒としてアルコールを少なくとも配合した塗液を用いる請求項1または2に記載の塗装方法。
【請求項4】
エアーカーテンを発生させるためのブロアを備えた塗装機を用いる請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装方法。
【請求項5】
ブロア送風圧力を0.01〜0.098MPaとする請求項4に記載の塗装方法。
【請求項6】
エアーカーテンのエアーの温度を塗装環境温度より少なくとも10℃高くする請求項4または5に記載の塗装方法。
【請求項7】
基材の幅1m当たり0.3〜30秒間で1回塗布し、風乾またはエアーカーテンのエアーにより乾燥し溶媒を除去して、基材1m当たり0.01〜30gの乾燥塗布量を得る請求項1〜6のいずれか一項に記載の塗装方法。
【請求項8】
ガラス基材の表面をガラスコンパウンドで汚染物質、油分の除去を行ない、さらにアルコールで洗浄した後、塗液を塗布する請求項1〜7に記載の塗装方法。
【請求項9】
基材が建築物のガラス部材の少なくとも一部である請求項1〜8のいずれか一項に記載の塗装方法。
【請求項10】
基材が自動車のフロントガラス、後部ガラス、サイドガラスおよびサイドミラーの少なくとも一部である請求項1〜8のいずれか一項に記載の塗装方法。
【請求項11】
可視光透過率が85%以上であり、24時間のブラックライト照射後の水の接触角が5°以下であり、アルコキシシラン、その部分加水分解縮合物およびその加水分解生成物から選ばれる少なくとも一種のバインダ成分と光触媒からなる塗膜。
【請求項12】
請求項1〜10に記載の塗装方法を用いて基材の表面に形成した、10nm〜10μmの膜厚を有する光触媒を含有した塗膜。
【請求項13】
請求項11または12に記載の光触媒を含有した塗膜を表面に有する光触媒性物品。
【請求項14】
請求項11または12に記載の光触媒を含有した塗膜を表面に有する光触媒性ガラス物品。
【請求項15】
請求項11または12に記載の光触媒を含有した塗膜をフロントガラス、後部ガラス、サイドガラスおよびサイドミラーの少なくとも一部に有する光触媒性自動車。
【請求項16】
請求項11または12に記載の光触媒を含有した塗膜をフロントガラス、後部ガラス、サイドガラスおよびサイドミラーの大気と接する側の少なくとも一部に有する光触媒性自動車。
【請求項17】
請求項13に記載の光触媒を含有した塗膜を有する物品に該光触媒を励起する光を照射して塗膜を親水性にし、物品の表面に付着した泥、汚れを雨または水によって洗い流す方法。
【請求項18】
請求項14に記載の光触媒を含有した塗膜を有するガラス物品に該光触媒を励起する光を照射して塗膜を親水性にし、ガラス物品の表面に付着した泥、汚れを雨または水によって洗い流す方法。
【請求項19】
請求項15または16に記載の光触媒を含有した塗膜を有する自動車を運転し、塗膜に太陽光を照射して、フロントガラス、後部ガラス、サイドガラスまたはサイドミラーの表面に汚れの付着、水滴、曇りの形成を防止する方法。
【請求項20】
請求項15または16に記載の光触媒を含有した塗膜を有する自動車に該光触媒を励起する光を照射して塗膜を親水性にし、フロントガラス、後部ガラス、サイドガラスまたはサイドミラーの表面に付着した泥、汚れを雨または水によって洗い流す方法。

【公開番号】特開2008−100122(P2008−100122A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50958(P2005−50958)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【出願人】(501282604)株式会社フミン (2)
【Fターム(参考)】