説明

光触媒を含有するコーティング剤

【課題】ハードコート特性と光触媒機能を有する高分子組成物を提供する。
【解決手段】
(a)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(b)HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物:
を、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率で反応させて得られる反応生成物を含む、高分子物質と、
(c)光触媒活性を有する酸化物半導体と、
を含む、高分子組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート特性と光触媒機能を有する高分子組成物、特にコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
地球規模であるいは身近な生活レベルで、ますます進行する環境汚染は無視できない社会問題になってきている。特に産業廃棄物や生活廃棄物による水質汚濁、SO、NOなどの大気汚染による吸収器疾患、新建材から発生する有機化合物による室内空気の汚染、あるいは樹脂材料の焼却などによるダイオキシンの発生など、数えあげればきりがないほどの環境汚染がある。
【0003】
この環境汚染対策の為、石化資源からのエネルギーを用いれば炭酸ガスの増大を招き、地球温暖化という問題が発生する。
【0004】
この対策の1つが光触媒による環境浄化である。
【0005】
光触媒は、太陽や蛍光灯などの光があたると、その表面で強力な酸化力が生まれ、接触している有機化合物や細菌などの有害物質を除去できる。
【0006】
この原理を用いて、水処理や大気中のNOの分解、室内空気の清浄化などに利用できる。
一般的には無機半導体、例えば二酸化チタン(アナターゼなど)が使用されているが、チタンアルコキシドなどを出発原料として、ゾルゲル法の手法で、加水分解することにより得られるゾルを基板にコーティングして、焼成するなどして結晶化して、薄膜として利用している。また例えば二酸化チタン粉末(アナターゼ)をバインダーで固定して使用することもあるが、有機バインダーを利用した場合、光触媒反応により、有機バインダー自体が破壊され、耐久性に問題があることが知られている。
【0007】
特許文献1および特許文献2には光触媒の最新技術をあげて見た。
【0008】
また、無機バインダーは基板への密着性や耐水性あるいは光触媒を大量に添加しても、実際に光触媒効果のあるのは無機塗膜の表面のみであり、実用上種々の問題点があって充分ではなかった。
【0009】
特許文献2には、可視光光触媒活性を有する酸化物半導体とポリシロキサンおよびオルガノシロキサンオリゴマーからなる可視光光触媒組成物が開示されているが、この組成物は従来の有機バインダーを用いた組成物に比べ、若干性能は良いものの、ハードコート特性という観点では充分ではなかった。
【特許文献1】特開2006−192318号公報
【特許文献2】特開2006−068686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ゾルゲル法などで必要とされる加水分解などの複雑な工程を要せず、透明性が高く、かつハードコート特性に優れた新規高分子物質に光触媒活性を有する酸化物半導体を配合してなる新規な高分子組成物、すなわち、光触媒コーティング組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記の課題を解決したものであり、
(a)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(b)HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物:
を、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率で反応させて得られる反応生成物を含む、高分子物質と、
(c)光触媒活性を有する酸化物半導体と、
を含む、高分子組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
ゾル・ゲル法などで必要とされる加水分解などの複雑な工程を要せず、しかも耐候性が高く、優れた光学特性(例えば透明性など)と、かつハードコート特性に優れた、光触媒特性を有する高分子組成物が得られる。本発明の高分子組成物(光触媒コーティング組成物)は、ガラス、セラミックス、金属及びプラスチックへの応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(詳細な説明)
本発明における(a)成分と(b)成分とを反応させて得られる反応生成物を含む高分子物質に関しては、本発明者らにより、すでに、2005年5月31日に日本特許出願がなされ(特願2005−159037)、また、2006年5月31日にPCT国際出願がなされた(PCT/JP2006/310859)。本件出願は、これらの日本特許出願及びPCT国際出願の内容を参照することにより、本出願に取り込む。
【0014】
(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)と(b)成分(ホウ素化合物)を混合すると、反応し、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、固化する。これは、ホウ素化合物が、(a)成分中のアミノ基を介して架橋剤として働き、これらの成分を高分子化させて、その結果、粘稠な液体となり、固化するからであると考えられる。なお、(a)成分は液体である。本発明では、上記(a)成分と(b)成分との反応に際し、水を使用しない。
【0015】
(a)成分は、以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物である。
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす。)
【0016】
ここで、Rはアミノ基含有の有機基を表わすが、たとえば、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、テトラアミノエチル、モノアミノプロピル、ジアミノプロピル、トリアミノプロピル、テトラアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、テトラアミノブチル、及び、これらよりも炭素数の多いアルキル基またはアリール基を有する有機基を挙げることができるが、それらに限定されない。γ―アミノプロピルや、アミノエチルアミノプロピルが特に好ましく、γ―アミノプロピルが最も好ましい。
【0017】
(a)成分中のR’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。その中でも、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0018】
(a)成分中のnは1〜3から選択される整数を表わす。その中でも、nは2〜3であるのが好ましく、nは3であるのが特に好ましい。
すなわち、(a)成分としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0019】
(b)成分は、HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物である。(b)成分は、好ましくは、HBOである。
【0020】
(a)成分と(b)成分との反応における両成分の使用量は、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率であり、好ましくは、0.02モル〜8モルの比率、より好ましくは、0.02モル〜5モルの比率である。
(a)成分1モルに対し、(b)成分が0.02モル未満では、固化に要する時間が長くなったり、充分に固化しなかったりすることがある。また、(b)成分が8モルを越すと、(b)成分が(a)成分に溶解せず残ってしまうことがある。
【0021】
本発明の高分子物質(a)成分と(b)成分との混合条件(温度、混合時間、混合方法など)は、適宜選択することができる。通常の室温条件では、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、その後、固化する。固化する時間や得られる反応生成物の粘度や剛性はホウ素化合物の割合でも異なる。
【0022】
前記ホウ素化合物(b)は、好ましくは、炭素数1〜7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液である。炭素数1〜7のアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、各種プロピルアルコール、各種ブチルアルコール、及びグリセリンなどが挙げられるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。当該アルコール溶液を使用することにより、(b)成分を(a)成分に溶解する時間を短縮できる。なお、取り扱い上アルコール中のホウ素化合物の濃度は高いほうが好ましい。
【0023】
前記反応生成物は、好ましくは、水を添加して加水分解する工程を経ないで(a)成分と(b)成分を反応させて得られる反応生成物である。
【0024】
(c)成分は、光触媒活性を有する酸化物半導体である。(c)成分を配合することにより、本発明の高分子組成物には、光触媒機能が付与される。
【0025】
光触媒活性の高い酸化物半導体としては、二酸化チタン(アナターゼ)が最初に開発され、特に紫外線領域で高い光触媒活性が確認された。
【0026】
二酸化チタンは代表的な酸化物半導体であり、光のエネルギーをもらうことで自分自身が高エネルギーの状態となり、光に当った表面の電子を放出し、光触媒機能を発揮する。
【0027】
近年、可視光で高い光触媒活性を示す酸化物半導体や窒化物半導体などが開発されており、光触媒の利用範囲が拡大している。
【0028】
本発明における(c)成分である光触媒活性を有する酸化物半導体の種類には特に制限されるものではないが、好ましいものとして、光触媒機能が波長380nm以上の可視光で発現する酸化物半導体(光触媒)をあげることができる。すなわち、(c)成分である光触媒活性を有する酸化物半導体は、可視光応答型光触媒であるのが好ましい。
【0029】
また、(c)成分として、当該酸化物半導体の微粒子の表面の一部が前記光触媒機能に対して不活性な保護物質により被覆されているものや、当該酸化物半導体の一部が窒素原子及び/又は硫黄原子に置換されたものであっても良い。
【0030】
波長380nm以上の可視光で発現する光触媒機能を発現する酸化物半導体微粒子としては、Fe、CuO、In、WO、FeTiO、PbO、V、FeTiO、Bi、Nb、SrTiO、ZnO、BaTiO、CaTiO、KTaO、SnO、ZrOなどを例示できる。なお、当該酸化物半導体としては、微粒子であるのが好ましい。
【0031】
それらの中でも、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化銅、チタン酸鉄、酸化ニッケル、酸化ビスマスなどの酸化物半導体に、可視光で光触媒を発現するよう変性処理を施したものを更に挙げる事ができる。
【0032】
これらについては、特開2004−143032号公報や特開2001−212457号公報などに記載の方法により製造することが出来る。
【0033】
本発明に使用する(c)成分である酸化物半導体の形態は特に限定されないが、例えば粉体、アルコール等の極性溶媒に分散した有機溶媒ゾルもしくはコロイドなどの形態をあげることができる。
【0034】
(c)成分の酸化物半導体がゾルあるいはコロイドの形態である場合、固形分濃度は40重量%以下が好ましい。当該酸化物半導体の一次粒径は200nm以下、特に100nm以下が好ましい。一次粒子径が200nmを超える場合は透明性が劣りヘーズが2を超えることがある。
【0035】
(c)成分である酸化物半導体は、本発明の高分子組成物中に、該組成物の不揮発性成分(105℃、30分間の加熱で揮発しない成分)に対して、好ましくは1重量%〜90重量%、より好ましくは3〜50重量%、更により好ましくは5〜30重量%添加されるのが好ましい。(c)成分である酸化物半導体の量が、1重量%未満であると可視光光触媒作用を示さないことがあり、90重量%を超えるとコーティング膜を形成する際に白化現象(チョーキング)等が発生したりして製膜性が劣る事がある。
【0036】
本発明の高分子組成物は、(d)成分として、金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物を更に含むことができる。すなわち、前記(a)成分と(b)成分との反応に際して、あるいは、反応後、(d)成分を添加させることができる。(d)成分を添加することにより、得られる反応生成物中の金属塩の含有率を高めることができ、電気特性や化学特性をより向上させることができるとともに、(d)成分を用いない場合と同様の粘稠な液体の状態となるので、繊維やフィルム状に加工することができる。
【0037】
(d)成分の金属アルコキシドの金属としては、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sb、などを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、Si、Ti、Zr、Alであり、より好ましくは、Si、Ti、Zrであり、また、(d)成分の金属アルコキシドは液体であることが好ましいため、Si、Tiが特に好ましい。(d)成分の金属アルコキシドのアルコキシド(アルコキシ基)としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、及びそれ以上の炭素数を有するアルコキシ基を挙げることができる。メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシが好ましく、メトキシ及びエトキシがより好ましい。
【0038】
(d)成分の金属アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、プロピルトリプロポキシチタン、ブチルトリブトキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、メチルトリメトキシジルコニウム、エチルトリエトキシジルコニウム、プロピルトリプロポキシジルコニウム、及びブチルトリブトキシジルコニウムなどを挙げることができる。その中でも、好ましいものとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、及びメチルトリメトキシシランを挙げることができ、より好ましいものとしては、テトラエトキシシラン及びテトラメトキシシランを挙げることができる。
【0039】
(d)成分の金属アルコキシドの使用量は、(a)成分1モルに対して10モル以下の比率が好ましい。より好ましくは、0.1モル〜5モルの比率である。(a)成分1モルに対し、(d)成分が0.1モル未満では、前述したような(d)成分を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、(d)成分が5モルを越すと、白濁してしまうことがある。
【0040】
(d)成分の金属アルコキシドの縮合物としては、以下の式(d1)及び(d2)からなる群から選択される少なくとも1種の式で表わされる金属アルコキシドの縮合物(d)を挙げることができる。
【化1】


(式中、Rは、アルキル基を表わし、その一部は水素であってもよく、Rは、夫々独立に同一であっても異なっていてもよく、mは2〜20から選択される整数を表わし、Mは、Si、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を表わす。)
【0041】
すなわち、前記(a)成分と(b)成分との反応に際して、あるいは、反応後、(d)成分を添加することができる。(d)成分を添加することにより、硬度を高めることができ、電気特性や化学特性をより向上させることができるとともに、粘稠な液体の状態となるので、繊維やフィルム状に加工することができる。
【0042】
(d)成分である前記金属アルコキシドの縮合物の添加量は、前記(a)成分1モルに対し、金属アルコキシドモノマー重量換算で、2〜50モルであるのが好ましく、4モル以上であるのが、より好ましい。すなわち、(d)成分の添加量が多すぎる場合には、硬度が低下する傾向があり、逆に、少なすぎる場合には、Si含有量が少なくなるので用途によっては硬度が低下したり化学的耐久性の問題が発生することがある。また、(d)成分の添加量が多すぎる場合には、本発明の高分子組成物を得るための硬化時間が長くなる傾向がある。
【0043】
(d)成分中のRはアルキル基を表わし、その一部は水素であってもよく、Rは、夫々独立に同一であっても異なっていてもよいが、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びそれ以上の炭素数を有するアルキル基であり、メチル基あるいはエチル基であるのが好ましい。
【0044】
(d)成分中のmは、2〜20から選択される整数を表わすが、3〜10であるのが好ましく、5であるのが最も好ましい。
【0045】
(d)成分中のMは、Si、Ti及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属を表わすが、SiまたはTiであるのが好ましく、Siが最も好ましい。
【0046】
(d)成分を構成する金属アルコキシドモノマー単位としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、プロピルトリプロポキシチタン、ブチルトリブトキシチタン、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、メチルトリメトキシジルコニウム、エチルトリエトキシジルコニウム、プロピルトリプロポキシジルコニウム、及びブチルトリブトキシジルコニウムなどを挙げることができる。
【0047】
(d)成分が前記式(d1)で表わされる場合には、テトラエトキシシランの縮合物(5量体)又はテトラメトキシシランの縮合物(5量体)であるのが好ましく、前記式(d2)で表わされる場合には、エチルトリエトキシシランの縮合物(5量体)又はメチルトリメトキシシランの縮合物(5量体)であるのが好ましい。
【0048】
本発明の高分子組成物は、上記のように、(d)成分として、金属アルコキシド(モノマー)及び/又は金属アルコキシドの縮合物を含むことができるが、金属アルコキシドモノマーの粘性は、同縮合物に比べて低いため、金属アルコキシドモノマーを更に含有させることにより、得られる高分子組成物の基材への密着性が向上することがあるという優位点があるが、金属アルコキシドモノマーの含有量を、同縮合物と同量以上など多くすると、塗膜を厚くした時の被膜性が低下してしまうことがある。
【0049】
本発明の高分子組成物は、前記(d)成分の代わりにあるいは(d)成分に加えて、合成樹脂((e)成分)を更に含むことができる。すなわち、前記(a)成分と(b)成分との反応に際して、あるいは、反応後、(d)成分の代わりにあるいは(d)成分に加えて、(e)成分を添加させることができる。(e)成分を加えることで、得られる反応生成物にクラック防止性を付与することができ、(e)成分を含む高分子組成物は、透明性樹脂へのハードコート剤として使用できる。
【0050】
(e)成分の合成樹脂としては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び紫外線硬化性樹脂などを挙げることができ、具体的には、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂を挙げることができ、様々な重合度(分子量)を有する合成樹脂を使用することができる。その中でもエポキシ樹脂、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エポキシアクリレート、ビニルエステル樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、オリゴビニルエステル、オリゴエステルアクリレートなどが好ましい。
【0051】
(e)成分の使用量は、組成物全体に対して50重量%以下の比率が好ましい。より好ましくは、1重量%〜40重量%の比率である。(e)成分が1重量%未満では、前述したような(e)成分を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、(e)成分が40重量%を越すと、樹脂硬化剤を添加する必要があることがあり、また、高い硬度が得られないことがある。
【0052】
本発明の高分子組成物に(e)成分を含有させしかも(d)成分として金属アルコキシドの縮合物を含有させる時は、(d)成分の金属アルコキシドの縮合物の含有量を少なめにすることが好ましい。すなわち、(e)成分を含有して(d)成分の含有量が多い場合には、本発明の高分子組成物を得るための硬化時間が長くなる傾向があり、湿気硬化時間が長くなる問題が発生することがある。この場合、具体的には、(d)成分の添加量は、前記(a)成分1モルに対し、金属アルコキシドモノマー重量換算で、2〜20モルであるのが好ましい。
【0053】
本発明の組成物は、前記(e)成分の代わりにあるいは(e)成分に加えて、ジオール系化合物を更に含むことができる。ジオール系化合物を加えることで、前述したような(e)成分を添加する効果と同様の効果が得られることがある。
【0054】
当該ジオール系化合物としては、特に限定されないが、ポリカプトラクトンジオール、1,6ヘキサンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオールを挙げることができる。その中でもポリエステルジオールが特に好ましい
【0055】
当該ジオール系化合物は、組成物全体に対して50重量%以下の比率が好ましい。より好ましくは、1重量%〜40重量%の比率である。1重量%未満では、前述したようなジオール系化合物を添加する効果が得られにくくなることがあり、また、40重量%を越すと、樹脂硬化剤を添加する必要があることがあり、また、高い硬度が得られないことがある。
【0056】
本発明の高分子組成物は、上記で列挙した成分以外にも、その用途に応じて、着色剤、防黴剤、防錆剤、防食剤、防藻剤、撥水剤、導電性材料、などを含ませることができる。
【0057】
本発明の高分子組成物を主成分として含ませることにより、コーティング剤を得ることができる
【0058】
本発明の高分子組成物を、無機基材または有機基材に塗布することにより、機能材料を得ることができる。無機基材または有機基材としては、木材、石材、プラスチック、繊維製品等あらゆるものを挙げることができる。このように、本発明のコーティング組成物は、その粘度を1ポイズ以下でも塗工できるため基材の内部に含浸させることにより、その基材材料の素材を活かしながら改質することも可能である。
更に光触媒を含有させてバインダーとして使用しても、通常の有機物バインダーに比べ、経時的に分解することは少ない。また、基材に塗布することにより、基材表面に耐熱性や電気絶縁性を付与することができる。
【0059】
本発明の高分子組成物としての用途は、光表示材及び装置のハードコート用が有用である。例えば、液晶用(具体的には、AG・ARフィルム、TACフィルム、偏光膜、セパレートフィルム、透明電極、カラーフィルター、配向膜、位相差フィルム、プリズムシート、拡散板、導光板、反射板など)のハードコート用として、また、プラズマディスプレーについてもPC、PPコートのハードコート用として有用である。
【0060】
本発明の高分子組成物は、無機物質(Si)を骨格とするため、光触媒用のコーティング剤などとして使用しても、有機物(炭素骨格の)接着剤に比べ、分解、劣化しにくい傾向にある。
【実施例】
【0061】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳しく説明する。
下記の実施例に示す配合の高分子組成物(ハードコート特性と光触媒機能を有するコーティング組成物)は、(a)成分と(b)成分を室温で充分混合してから、反応変性した後、(c)成分、及び必要に応じて(d)成分や(e)成分をを添加することにより、試料を調製した。
【0062】
[光触媒活性を有する酸化物半導体(光触媒)の準備]
<光触媒A>
拡散反射スペクトル測定により測定した400nmにおける吸光度が0.20である硫黄ドープタイプの二酸化チタンを準備した。
<光触媒B>
四塩化チタン(東邦チタニウム株式会社製)500gを純水の氷水(水として2リットル)に添加し、撹拌し、溶解し、四塩化チタン水溶液を得た。この水溶液200gをスターラーで撹拌しながら、約50mlのアンモニア水(NHとして13重量%含有)を出来るだけ速やかに加えた。アンモニア水の添加量は、水溶液の最終的なpHが約8になるように調整した。これにより水溶液は白色のスラリー状となった。さらに撹拌を15分間続けた後、吸引濾過した。濾取した沈殿は200mlのアンモニア水(NHとして6重量%含有)に分散させ、スターラーで約20時間撹拌した後、再度吸引濾過して、白色の加水分解物を得た。得られた白色の加水分解物をるつぼに移し、電気炉を用い、大気中400℃で一時間加熱し、可視光光触媒である黄色の生成物を得た。
【0063】
<高分子組成物の作製>
下記の実施例に示す配合の高分子組成物(ハードコート特性と光触媒機能を有するコーティング組成物)は、(a)成分と(b)成分を室温で充分混合してから、反応変性した後、(c)成分、及び必要に応じて(d)成分や(e)成分を添加攪拌することにより、試料を調製した。
なお、(b)成分と、(c)成分はイソプロパノールに分散し10重量%イソプロパノール分散液にして配合した。
【0064】
実施例1
(a)成分としてγ−アミノプロピルトリエトキシシランを221重量部(1モル相当)、(b)成分としてホウ酸を61.8重量部(1モル相当)、(c)成分として光触媒Aを100重量部、(d)成分としてテトラエトキシシランを832重量部(4モル相当)を添加し、実施例1の高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物の保存安定性は、ポリエチレン製ビン内に常温で一ヶ月密栓保存して、ゲル化の有無を目視により判定したが、密閉保存前後の粘度変化は全く見られなかった。
得られた高分子組成物をイソプロパノールで固形分濃度5%に希釈し、この組成物を乾燥膜厚0.1μmになるように石英ガラス上に塗布し常温で乾燥し、光触媒層を作成し、ヘイズ試験機でヘイズを測定したところヘイズ値は1以下であった。
【0065】
実施例2
実施例1の高分子組成物に更に、(e)成分としてビスフェノールFを50重量部添加し、実施例2の高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物の保存安定性は、ポリエチレン製ビン内に常温で一ヶ月密栓保存して、ゲル化の有無を目視により判定したが、密閉保存前後の粘度変化は全く見られなかった。
得られた高分子組成物をイソプロパノールで固形分濃度5%に希釈し、この組成物を乾燥膜厚0.1μmになるように石英ガラス上に塗布し常温で乾燥し、光触媒層を作成し、ヘイズ試験機でヘイズを測定したところヘイズ値は1以下であった。
【0066】
実施例3
(a)成分としてγ−アミノプロピルトリエトキシシランを221重量部(1モル相当)、(b)成分としてホウ酸を61.8重量部(1モル相当)、(c)成分として光触媒Aを100重量部、(d)成分としてテトラエトキシシランの5量体を600重量部(テトラエトキシシランモノマー換算重量で4モル相当)を添加し、実施例3の高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物の保存安定性は、ポリエチレン製ビン内に常温で一ヶ月密栓保存して、ゲル化の有無を目視により判定したが、密閉保存前後の粘度変化は全く見られなかった。
得られた高分子組成物をイソプロパノールで固形分濃度5%に希釈し、この組成物を乾燥膜厚0.1μmになるように石英ガラス上に塗布し常温で乾燥し、光触媒層を作成し、ヘイズ試験機でヘイズを測定したところヘイズ値は1以下であった。
【0067】
実施例4
実施例3の高分子組成物に更に、(e)成分としてビスフェノールFを50重量部添加し、実施例4の高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物の保存安定性は、ポリエチレン製ビン内に常温で一ヶ月密栓保存して、ゲル化の有無を目視により判定したが、密閉保存前後の粘度変化は全く見られなかった。
得られたコーティング組成物をイソプロパノールで固形分濃度5%に希釈し、この組成物を乾燥膜厚0.1μmになるように石英ガラス上に塗布し常温で乾燥し、光触媒層を作成し、ヘイズ試験機でヘイズを測定したところヘイズ値は1以下であった。
【0068】
実施例5
(a)成分としてN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン190g(1モル)を190重量部(1モル相当)、(b)成分としてホウ酸を61.8重量部(1モル相当)、(c)成分として光触媒Bを300重量部、(d)成分としてテトラエトキシシランを832重量部(4モル相当)を添加し、(e)成分としてジペンタエリストールヘキサアクリレート100重量部を配合して、実施例5の高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物をPETフィルム(125μm、表面処理グレード;帝人株式会社製)の表面に仕上がり膜厚が15μmになるよう塗布し、約30分常温硬化し、可視光光触媒機能を有するPETフィルム得た。得られた製品の特性を測定し、次の結果が得られた。
・ヘイズ値:1.0
・全光線透過率:85.3%
・鉛筆硬度:4H
【0069】
実施例6
成分としてN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン190g(1モル)を190重量部(1モル相当)、(b)成分としてホウ酸を61.8重量部(1モル相当)、(c)成分として光触媒Bを300重量部、(d)成分としてテトラエトキシシランの5量体を600重量部(テトラエトキシシランモノマー換算重量で4モル相当)、(e)成分としてジペンタエリストールヘキサアクリレート100重量部を配合して、実施例6の高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物をPETフィルム(125μm、表面処理グレード;帝人株式会社製)の表面に仕上がり膜厚が15μmになるよう塗布し、約30分常温硬化し、可視光光触媒機能を有するPETフィルム得た。3日後に得られた製品の特性を測定し、次の結果が得られた。
・ヘイズ値:1.0
・全光線透過率:85.3%
・鉛筆硬度:4H
【0070】
なお、上述のヘイズ値、全光線透過率、鉛筆硬度はJIS規格に準拠して測定して評価した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によると、その表面で光触媒機能を発現する光触媒コーティング膜およびこれを有する積層体を得る事ができる。本発明の高分子組成物(ハードコート特性と光触媒活性を有するコーティング組成物)は、セラミック、金属そして樹脂フィルムやシートなどに利用でき、例えば、照明カバー、建具、建材(壁紙など)、自動車内塗材、ガラス製品、鏡などの基材に塗布することにより、これら塗布製品を光触媒機能を有する成形体として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)以下の式で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
4−n−Si−(OR’)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1〜3から選択される整数を表わす);及び
(b)HBO及びBからなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物:
を、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率で反応させて得られる反応生成物を含む、高分子物質と、
(c)光触媒活性を有する酸化物半導体と、
を含む、高分子組成物。
【請求項2】
前記ホウ素化合物(b)が、炭素数1〜7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液である、請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項3】
(d)金属アルコキシド及び/又は金属アルコキシドの縮合物を更に含む、請求項1又は請求項2に記載の高分子組成物。
【請求項4】
(d)成分中の金属が、Si、Ti及びZrから成る群から選択される少なくとも1つの元素である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項5】
前記(c)光触媒活性を有する酸化物半導体が可視光応答型光触媒である請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項6】
(e)合成樹脂を更に含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子組成物を含む、コーティング剤。

【公開番号】特開2008−120961(P2008−120961A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308740(P2006−308740)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】