説明

光触媒を有する印刷物及びその印刷物の連続的製造方法

【課題】短尺な印刷物の上に印刷面の美観を損なうことなく、光触媒が薄く均一に塗布された印刷物を連続的に製造する。
【解決手段】次の工程を順次施工して、短尺な印刷用紙の印刷層の上に、美観を実質上損なわせることのない超微粒の光触媒を付加した印刷物2を得る。すなわち、短尺な被印刷基材1に印刷を施す印刷工程Aと、得られる印刷物をコンベア5の上に載せて移動させる移動工程Bと、印刷物を移動させながら微粒の光触媒3を含有する分散媒体7を簡潔的に噴射して透明層を形成する光触媒塗布工程Cと、前記透明層に光源20のエネルギーを照射して、光触媒を活性化する触媒活性化工程Dとからなる工程を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙で代表される短尺な被印刷基材の上に通常の印刷を連続的に行なって、得られた印刷物に上にさらに続いて光触媒の透明層を有する印刷物及びその印刷物の連続的製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被印刷基材の上に光触媒を含有する透明塗料を形成する技術は、特開2001−089704号公報で公知である。この公知技術においては、印刷された長尺な印刷物に対して環境に優しい光触媒を有する透明塗料を噴射装置により塗布している。
【0003】
ところが、この技術を使用して短尺な印刷用紙の表面上に印刷を施した後、得られた印刷物の印刷層の上に、大気浄化、脱臭、殺菌等の効果を発揮する光触媒、特に酸化チタンを有する透明層を形成できない。すなわち、前記公知技術は長尺な被印刷基材が連続的に移動している途中に光触媒を塗布する装置を使用しなければならないからである。
【0004】
また、図5に示すように、短尺な被印刷基材1の上に連続的に印刷を施す印刷工程Aに引続いて、印刷された短尺な印刷物2の上にその印刷面Pの美観を損なわせることなく、光触媒3を有する透明膜Qを連続的に形成する光触媒塗布工程Cを採用しようとすると、印刷工程Aにおけるコンベア4と光触媒塗布工程Cのコンベア5との印刷物2の移送速度を同じにしなければならいという問題がある。次に、仮に前記の速度を同一にしても、特に工夫を凝らすことなく公知の光触媒の噴射手段6を使用してみると、今度は光触媒の噴射手段6が前記移送速度に追従せず、そのため印刷面Pに薄くかつ均一に光触媒を塗布できないという問題がある。
【特許文献1】特開2001−089704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を解消しようとするもので、従って、本発明の課題は、短尺な被印刷基材、特に紙の上に所定の印刷を施した後、引き続いて、その印刷物の上に印刷面の美観を損なうことなく、光触媒が薄く均一に塗布された印刷物を連続的に製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記の課題を解決するために、短尺な印刷用紙の表面上に、印刷された印刷層及び、その印刷層の上に印刷層の美観を実質上損なわせることのない超微粒の光触媒を含有する透明層を順次積層させた光触媒を有する印刷物を形成する。
【0007】
本発明は、同様に前記の課題を解決するために、短尺な被印刷基材の上に連続的に所定の印刷を施す印刷工程(A)と、得られた印刷物をコンベアの上に載せて搬送させる搬送工程(B)と、コンベア上に搬送される印刷物の上に超微粒の光触媒を含有する分散媒体を噴射手段から間欠的に噴射して、前記印刷物の上に印刷面の美観を実質上損なわない透明塗料層を積層・形成する光触媒塗布工程(C)とからなる方法を採用する。
【0008】
なお、本発明において「被印刷基材」とは印刷がされておらず、これから印刷されようとする面状基材を意味する。また、「印刷物」とは、光触媒を含有する透明塗料が塗布されようとする、印刷された面状基材又は光触媒を含有する透明塗料が塗布された面状基材を意味する。さらに本発明において、分散媒体とは、光触媒を分散する水又有機溶媒と、印刷された面状基材上に光触媒を定着する機能を発揮する媒体との混合物を意味する。
【0009】
本発明は前記の手段を採用することにより、コンベア上を移動する短尺な被印刷基材の長さに応じて噴射手段が間欠的に前記分散媒体を噴射する。従って、前記コンベアにより短尺な印刷物を搬送する過程で、印刷物同士の間に形成される時間的空間に合わせて、噴射手段の作動停止と作動開始が可能になる。
【0010】
さらに、本発明は上記の課題をより効率的に達成するために、短尺な被印刷基材の上に連続的に印刷を施す印刷工程(A)と、得られた印刷物をコンベアの上に載せて搬送させる搬送工程(B)と、コンベア上を搬送する印刷物の上に超微粒の光触媒を含有する分散媒体を噴射手段から連続的に噴射して、前記印刷物の上に印刷面の美観を実質上損なわない透明塗料層を積層・形成する光触媒塗布工程(C)と、前記コンベアの近くに設置した光源の光を前記印刷物の透明塗料層に照射して、その中に分散している光触媒を活性化する触媒活性化工程(D)とからなる印刷物の連続製造方法を採用する。
【0011】
本発明において、さらに上記触媒活性化工程(D)を、印刷工程(A)、搬送工程(B)及び光触媒塗布工程(C)に付加したことにより、コンベアの近くに設置した光源のエネルギーにより、光触媒が活性化されるとともに、透明塗料の乾燥が促進される。また、前記被印刷基材として、紙が選択されるので、本発明に係る印刷方法において、その紙は、他の日印刷基材に比較して、搬送し易くかつ取り扱い易い。
【0012】
さらに本発明において、連続的に印刷されてくる印刷物が、前記光触媒塗布工程(C)の噴射手段の影響下に入ったときに、噴射手段を作動させて、その印刷物の上に分散媒体を噴射する。逆に、印刷物が噴射手段の影響下に存在しなくなったとき、噴射手段の作動を停止する。このようにすることにより、噴射手段は印刷物に対する光触媒を含有する分散媒体の使用量を必要最小限に抑制できるとともに、印刷物以外の領域に対する前記分散媒体の噴射が少なくて済むので、印刷環境を悪くすることはない。
【0013】
このように本発明においては、印刷物に対する超微粒の光触媒を含有する分散媒体の塗布及びその停止をコンベアの移動速度に同期させるとともに、噴射手段から印刷物までに前記噴射手段から噴射される光触媒を含有する分散媒体の到達時間をより短縮するために、噴射手段として、好ましくはいわゆるインクジェット、すなわち分散媒体がジェットノズルから気泡により微細な液滴となって高速で噴射される手段を採用する。
【0014】
なお、本発明において光触媒として好ましくは酸化チタンを使用する。そして噴射手段としてのインクジェットに噴射可能にするとともに、印刷そのものの美観を実質的に損なわせることがないようにするために、1〜100nm、好ましくは3〜70nmの平均粒径を有する超微粒の酸化チタンが使用される。酸化チタンの平均粒径が1nm未満であるとその分布量にもよるが光触媒の効果が充分発揮されず、100nmよりも大きいと、印刷面に対する美観が損なわれる。そして、印刷物の上に散布された酸化チタンが触媒効果を発揮して印刷物がおかれた環境を改善するために、酸化チタンは、印刷物の上に所定距離をおいて分散・付着させる。そのために、本発明においては酸化チタンの濃度が0.5〜10重量%、好ましくは、1〜5重量%の分散媒体を使用して、その媒体を被印刷基材の上に実質上重ね塗りが起こらない程度に分散媒体を塗布する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、短尺な被印刷基材の印刷を施した後、引き続いて、その印刷物の上に印刷面の美観を損なわせることなく、環境に優しいし光触媒が薄く均一に塗布された短尺な印刷物を、印刷工程の処理速度に合わせて効率よく製造できるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の実施形態について説明する。図1に示すように、本発明法は、紙で代表される短尺な被印刷基材1の上に連続的に所定の印刷を施す印刷工程Aと、得られた印刷物2をコンベア5上に載せて移動させる移動工程Bと、コンベア5上を移動する印刷物2の上に超微粒の光触媒3を含有する分散媒体7を噴射手段6から間欠的に噴射して、前記印刷物2の上に印刷面の美観を実質上損なわない透明な塗膜を積層・形成する光触媒塗布工程Cと、前記コンベア5上に設置した光源20のエネルギーを前記印刷物3の塗膜に照射して、その中に分散している光触媒3を活性化する触媒活性化工程Dとからなる。
【0017】
前記印刷工程Aは、従来から公知の装置からなり、例えば、版胴8、それにインクを供給するインクローラ9、インクの付着した版胴8が転写されブランケット胴10、そのブランケット胴10に被印刷基材1を接触させる圧胴11等から構成されている。
【0018】
前記移動工程Bにおけるコンベア5は、第一搬送機5aと第二搬送機5bとからなり、第一搬送機5aは、所定間隔をおいて平行に設置された一対の回転体13、14と、それらの周面上に張り渡されたチェーンと、そのチェーンに間歇的に設置された把持爪15とからなり、印刷工程Aからの印刷物2を第二搬送機5bに搬送する。
【0019】
前記第二搬送機5bは、所定間隔をおいて平行に設置された一対の回転体16、17と、それらの周面上に張り渡された無端ベルトとからなり、第一搬送機5aの把持爪15に把持されてくる印刷物2を無端ベルトに載せて光触媒塗布工程Cに搬送する。
【0020】
前記光触媒塗布工程Cは、光触媒3を含有する分散媒体7の貯留タンク18と、そのタンク18中の分散媒体7を噴射するインクジェット6、すなわち、気泡の噴射により光触媒としての酸化チタン含有する分散媒体を噴射する噴射手段とからなる。本発明に使用される分散媒体としては水とバインダ又は有機溶媒、すなわち、アルコール、炭化水素、アルデヒド、ケトン等とが使用される。分散媒体の中に混合される酸化チタンは前記した混合範囲とする。
【0021】
本発明においては、インクジェット6は、印刷物2が無端ベルト5上において所定の位置まで移動したとき、作動するよう、無端ベルト5と同期して分散媒体7を噴射する。具体的には、図2に示すように、無端ベルト5上に間歇的に並んで送られてくる印刷物2の先端2aがインクジェット6の影響下にきたとき、図3に示すように、センサーをONさせて、インクジェット6を始動させる。次に、印刷物2が移動して、その後端2bがインクジェット6の影響下から外れるとき、前記同様にセンサーをOFFにさせることにより、インクジェット6を停止させる。このようにすることにより、分散媒体7の無駄吹きをなくして資源の節約を図るとともに印刷環境の悪化を抑制する。
【0022】
本発明においてはさらに触媒活性化工程Dとして、図1に示すように、前記コンベア5上に光源20を設置し、そのエネルギーを前記印刷物2の塗膜に照射して、その中に分散している光触媒3を活性化するとともに、前記塗膜の乾燥を促進する。この工程においては塗膜が約70〜100℃で乾燥される。このようにして本発明に係る目的とする光触媒付加印刷物19が得られる。
【0023】
このように本発明を実施することにより、短尺な被印刷基材に印刷を施した後、引き続いて、その印刷物の上に印刷面の美観を損なわせることなく、連続的に環境に優しいし光触媒を薄く均一に塗布することができる。その結果、被印刷基材の上に印刷を連続的に施した後、続いて光触媒を半連続的に付着させることができる。
【0024】
本発明はその根本的技術思想を踏襲し、発明の効果を著しく損なわない限度において、前記実施形態の一部を変更して実施することができる。例えば、分散媒体の中に香料を混合しておき、得られた印刷物が芳香を発するようにすることができる。また、図4に示すように、第一搬送機5aに前記光触媒塗布工程Cを設けて本発明を実施することができる。この態様は、即座に触媒を活性化する必要がない場合に、採用される。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、短尺な被印刷基材の上に印刷を施して後、光触媒を付着して環境改善に役立つ印刷物を製造する分野に広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】は、本発明方法を構成する工程図である。
【図2】は、本発明の主要工程の説明図である。
【図3】は、前記主要工程に対応して作動するセンサーのON−OFF動作を示す線図である。
【図4】は、本発明の別の態様を示す工程図である。
【図5】は、従来技術の工程図である。
【符号の説明】
【0027】
1:被印刷基材(紙)、2:印刷物、2a:先端、2b:後端、3:光触媒、4、5:コンベア、5a:第一搬送機、5b:第二搬送機、6:インクジェット、7:分散媒体、8:版胴、9:インクローラ、10:ブランケット胴、11:圧胴、12:つめ、13:回転体、14:回転体、15:把持爪、16:回転体、17:回転体、18:光触媒タンク、19:光触媒付加印刷物、20:光源、A:印刷工程、B:移動工程、C:触媒塗布工程、D:触媒活性化工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短尺な印刷用紙の表面上に、印刷された印刷層及び、その印刷層の上に印刷層の美観を実質上損なわせることのない超微粒の光触媒を含有する透明層を順次積層させたことを特徴とする光触媒を有する印刷物。
【請求項2】
短尺な被印刷基材の上に連続的に印刷を施す印刷工程(A)と、得られた印刷物をコンベアの上に載せて移動させる移動工程(B)と、コンベア上を移動する印刷物の上に超微粒の光触媒を含有する分散媒体を噴射手段から間欠的に噴射して、前記印刷物の上に印刷面の美観を実質上損なわない透明層を積層・形成する光触媒塗布工程(C)とからなる光触媒を有する印刷物の連続的製造方法。
【請求項3】
短尺な被印刷基材の上に連続的に印刷を施す印刷工程(A)と、得られた印刷物をコンベアの上に載せて移動させる移動工程(B)と、コンベア上を移動する印刷物の上に超微粒の光触媒を含有する分散媒体を噴射手段から間欠的に噴射して、前記印刷物の上に印刷面の美観を実質上損なわない透明層を積層・形成する光触媒塗布工程(C)と、前記コンベア上に設置した光源の光を前記印刷物の透明層に照射して、その中に分散している光触媒を活性化する触媒活性化工程(D)とからなる光触媒を有する印刷物の連続的製造方法。
【請求項4】
前記被印刷基材は、紙である請求項2又は3記載の光触媒を有する印刷物の連続的製造方法。
【請求項5】
前記光触媒塗布工程(C)の噴射手段は、その下位において前記移動工程(B)の印刷物が通過するとき、分散媒体を噴射する請求項1または2記載の光触媒を有する印刷物の連続的製造方法。
【請求項6】
前記噴射手段が気泡の噴射により超微粒の光触媒を含有する分散媒体が噴射されるインクジェットである請求項1または2記載の光触媒を有する印刷物の連続的製造方法。
【請求項7】
前記インクジェットは、印刷物がコンベアの所定の位置まで移動したとき、コンベアと同期して作動する請求項6記載の光触媒を有する印刷物の連続的製造方法。
【請求項8】
前記光触媒が酸化チタンである請求項1又は請求項2記載の光触媒を有する印刷物の連続的製造方法。
【請求項9】
前記酸化チタンが3〜70nmの平均粒径を有している請求項8記載の光触媒を有する印刷物の連続的製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−120055(P2008−120055A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−309795(P2006−309795)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(505087643)トヨダ印刷株式会社 (5)
【Fターム(参考)】