説明

光触媒ガラスの製造装置及び製造方法

【課題】 連続生産可能で、光触媒活性に優れたTiO2膜付きガラスを製造する装置と方法を提供する。特に、長尺物を含め、広範なガラスサイズに適用でき、かつ、光学的に均一なTiO2膜を形成し、いわゆる光彩やヘイズの少ない良質の膜を得ることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】 ガラス基板上に、アナターゼ型のTiO2膜を形成する光触媒板ガラスの製造方法のライン中、フロートバス出口から成形工程が終了する間のリボン状ガラス表面に、ペルオキシチタン酸および/またはチタンペロキソクエン酸アンモニウム水和物を含有するチタン酸水溶液を噴霧し、ガラスが保有する熱でTiO2膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建造物用、自動車用の窓ガラス、あるいは防曇ミラー等に用いられる、アナターゼ型のTiO2膜を形成した光触媒ガラスの製造装置及び製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】光触媒用TiO2膜を形成したガラスは、紫外線を照射すると光励起によりTiO2膜表面が高度に活性化され、親水性、防曇性、自己浄化性等を示すようになる。そして、一度活性化されたTiO2膜は、蛍光燈程度の微弱な光であっても活性を維持、または回復させることできる。そのため、この光触媒の用途は広く、例えば建造物、自動車、電車、飛行機、船舶用の窓ガラス、自動車、浴室、カーブミラー用の鏡、光学レンズ等に好適に使用することができる。
【0003】ガラス基材上に、TiO2膜からなる光触媒膜を形成する方法に関しては多くの提案がある。例えば特開平8−309204号公報には、Tiターゲットを用いて、酸素分子を有する不活性ガス中でリアクティブスパッタリングを行う方法が開示されている。また、特開平8−106132号公報には、二酸化チタンを主成分とするゾル液をベースに、塗布や、ディッピングにより光触媒膜を形成する方法が記載されている。また、特開平8−528290号公報には、無定形シリカの前駆体に、結晶性チアタニア粒子を分散させた懸濁液を塗布し、脱水縮合させて光触媒性の親水性表面を得る方法が開示されている。更に、特開平9−224796号公報には、基材上にアルカリ・バリアー層を形成した後、光触媒性のTiO2を主成分とする膜を塗布、乾燥、焼成する方法が開示されており、特開平9−233689号公報には、フロートガラス製造工程中のフロートバス中で気相合成する、オンラインCVD法により、光触媒性のTiO2被膜を形成する方法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開平8−309204号公報のスパッタリング法は、オフライン方式の専用のスパッタ装置が必要なため、装置費が高い上に、TiO2膜を厚くする有効な手段が見つかっていない。また、スパッタ装置の大きさで処理できるガラス基材の最大寸法は限定されてしまい、例えば4mを超えるような長尺物は製造できない。
【0005】一方、特開平8−106132号公報、特開平8−528290号公報あるいは特開平9−224796号公報に開示される塗布法、塗布・脱水縮合法、塗布・乾燥・焼成法では、自動化が難しく、サイズが制限され、生産量も制約がある。また、大型化した場合は均一塗布が困難であり、塗布・乾燥・焼成法については加熱を要するため処理時間がかかる難点がある。
【0006】更に、特開平9−233689号公報のオンラインCVD法では、膜形成時の温度が高すぎるため、光触媒活性の高いアナターゼ型でなく活性の低いルチル型の結晶膜が形成されること、およびTiO2形成に適した安価なCVD用TiO2原料の入手や、この原料の供給方法が難しく、設備も大掛かりとなるためコストがかかるという問題がある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、従来の技術が有する上記の様々な問題点を解決し、低コストで、連続的に、高生産効率で、光触媒活性に優れたTiO2膜付きガラスを製造する方法を提供することを目的とする。また、例えば4mを超える長尺物を含め、広範なガラスサイズに適用でき、かつ、光学的に均一なTiO2膜を形成し、いわゆる光彩やヘイズの少ない良質の膜を得ることのできる製造方法を提供することも目的とする。
【0008】上記課題を解決するため、本発明の光触媒ガラスの製造装置は、溶融ガラスを流し出しすフロートバスの下流側にフロートバス表面を流れる溶融ガラスをリボン状に引き出す成形ステーションを配置した板ガラス製造装置であって、前記成形ステーションにガラス表面に向けてチタン酸水溶液を噴霧する噴霧装置を配置した。
【0009】前記成形ステーションにリボン状が通過するケースを配置した場合には、このケースの入口、中間または出口の何れかに前記噴霧装置を配置するのが好ましい温度で噴霧することになる。
【0010】また、前記噴霧装置には、チタン酸水溶液をミスト状にする超音波ネブライザなどのミスト化装置を付設することが好ましい。このようにチタン酸水溶液をミスト状にして噴霧装置に供給することで、リボン状ガラス表面に形成される光触媒膜の厚みを均一にすることができる。
【0011】一方、本発明の光触媒ガラスの製造方法は、板ガラスをフロートバス法で製造するラインの途中の、フロートバス出口から引き出されたリボン状ガラスの表面温度が600℃以下となる位置で、リボン状ガラスの表面にチタン酸水溶液を噴霧し、ガラスの保有する熱でアナターゼ型のTiO2膜を形成する。
【0012】このようにガラスの保有する熱を利用してTiO2膜を形成することで、コスト的に有利であり、またリボン状ガラスの表面温度が600℃以下となる位置においてチタン酸水溶液を噴霧することで、光触媒活性に劣るルチル型の光触媒膜を形成することなく(約800℃でルチル型になる)、光触媒活性に優れたアナターゼ型の被膜を形成することができ、更に、リボン状ガラスの表面温度が600℃以下であれば、チタン酸水溶液がリボン状ガラスの表面に接触した際の熱衝撃も小さくなり、割れが発生しにくくなる。
【0013】尚、チタン酸水溶液としてはペルオキシチタン酸および/またはチタンペロキソクエン酸アンモニウム水和物を含有する水溶液を使用することが好ましい。
【0014】
【発明の実施の態様】以下に、本発明を図面を参照して具体的に説明する。ここで、図1は本発明に係る光触媒ガラスの製造装置の全体図、図2は図1のA−A方向矢視図である。フロート法による板ガラスの製造は、図1に示すように、錫等の溶融金属を入れたフロートバス中に、窒素と水素の混合ガス雰囲気下、溶融ガラスを連続的に流し込む。すると、ガラスは溶融金属液の表面に一様に広がり、一定幅のリボン状ガラスとなって徐々に冷却されながらフロートバス出口へ向かう。このフロートバス出口付近では、ガラスはロールに載せても変形しない600℃程度に冷やされている。そして、フロートバスを出たガラスはリフトアウトロールを経由してケース内に収められた成形ロールへ送られる。
【0015】本発明においては、TiO2膜を形成するための原料であるチタン酸水溶液を、フロートバス出口からケース出口に至る間のどこかで、リボン状ガラス表面に噴霧する。この成形工程において、ガラスの表面温度は、約600℃から250℃へと冷却されるため、アナターゼ型のTiO2膜を形成するのに最適であり、例えば、成形ケースの入口直前、内部、あるいは出口直後にスプレー噴霧装置を設けることが好ましい。図示した実施例にあってはケース内の入口近傍にスプレー噴霧装置を配置している。
【0016】前記噴霧装置は、多数のノズルを形成したパイプ部材の両端に、ポンプを介してタンク内のチタン酸水溶液を供給するようにし、特にこの実施例にあってはチタン酸水溶液を供給する配管の途中に超音波ネブライザ等のミスト化装置を配置し、ミスト状にしたチタン酸水溶液をノズルまで供給するようにし、チタン酸水溶液が均一にリボン状ガラス表面に噴霧される構成としている。
【0017】また、噴霧装置は昇降自在とされ、ガラスの板厚或いは目的とする光触媒被膜の厚さに自由に応じることが可能とされている。
【0018】一方、噴霧するチタン酸水溶液としては、ペルオキシチタン酸および/またはチタンペロキソクエン酸アンモニウム水和物を主成分とするものが好ましい。これらのチタン酸は結晶性がなく不定形のため、内部応力を発生することなくガラス表面に強固に付着し、水溶液の水分が蒸発して行くに連れて、光触媒性を発揮するアナターゼ型TiO2膜に徐々に変態して行く。
【0019】また、これらのチタン酸水溶液は有機物を含まないため、従来使用されてきた有機チタン酸の焼結によるTiO2膜の形成と異なり、有機物の燃焼に起因する炭素化合物の残渣がない。したがって、光触媒活性が高い上に、有機物の吸収による着色がなく、透明性に優れた光触媒膜が得られる。さらに、取り扱いが容易であること、高温のリボン状ガラス表面へ噴霧しても引火、爆発等の危険がないこと等の優れた特徴がある。
【0020】チタン酸水溶液の濃度は1〜20重量%が好ましく、さらに好ましくは2〜10重量%である。この濃度が1%未満ではTiO2膜の成膜速度が遅くなり、十分な膜厚を達成できないことがある。また、20重量%を超えると、粘性が高くなるため、均一な膜厚分布を得られない場合がある。
【0021】更に、リボン状ガラス表面に形成するTiO2膜の厚さは、0.1〜1.0μmが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.5μmである。膜厚が0.1μm未満では十分な光触媒活性を発揮できないことがあり、一方、1.0μmを超えると光彩やヘイズが高くなって実用に適さない場合がある。
【0022】上記膜厚を、通常のスプレー装置で均一に形成するのはかなり困難である。均一な膜厚を得るためには、チタン酸水溶液をミスト化して噴霧するのが有効であり、そのための噴霧装置として好ましいのは前記した超音波ネブライザである。超音波ネブライザによれば、超音波発振子を振動させてチタン酸水溶液をミスト化し、それをキャリアである空気に乗せてガラスリボン上へ噴霧することが容易である。超音波ネブライザを使用すると、チタン酸水溶液のミストの径は1μm程度になり、これをガラス表面に供給することができる。供給されたミストは、高温のガラス表面付近で水分を失いTiO2膜が形成される。
【0023】キャリアとして用いる空気は、ガラスリボン温度よりも若干高い温度で使用することが好ましい。その理由は、ミストが気相中で凝集するのを防止し、ペルオキシチタン酸やチタンペロキソクエン酸アンモニウム水和物がガラス基材上に供給された後、ガラス基板上で多数の核を形成し、熱分解反応を簡潔させるほうが、これら原料を熱分解させて、均一なTiO2膜を形成するのに効果的だからである。
【0024】
【発明の効果】本発明によれば、フロートバス出口から成形工程を終了する間のリボン状ガラス表面にチタン酸水溶液を噴霧するようにしたので、成形工程周辺でリボン状ガラスが約600℃から250℃へ冷却されて行く過程で、当該ガラスが保有する熱を利用してチタン酸を熱分解して光触媒活性の高いアナターゼ型のTiO2膜を形成することができる。
【0025】また、チタン酸水溶液として、ペルオキシチタン酸および/またはチタンペロキソクエン酸アンモニウム水和物を含有する水溶液を使用するため、多量の有機物を含まず、従来使用されてきた有機チタン酸の焼結によるTiO2膜の形成と異なり、有機物の燃焼に起因する炭素化合物の残さがない。したがって、有機物の吸収による着色がなく、透明性に優れた光触媒膜が得られる。さらに、取り扱いが容易であること、高温のガラスリボン上へ噴霧しても引火、爆発等の危険がないこと等の優れた特徴がある。
【0026】また、チタン酸水溶液の噴霧を、超音波ネブライザにより水溶液をミスト化して行へば、均一な膜厚で光学的にも均一なTiO2膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る光触媒ガラスの製造装置の全体図
【図2】図1のA−A方向矢視図

【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶融ガラスを流し出すフロートバスの下流側にフロートバス表面を流れる溶融ガラスをリボン状に引き出す成形ステーションを配置した板ガラス製造装置であって、前記成形ステーションにガラス表面に向けてチタン酸水溶液を噴霧する噴霧装置を配置したことを特徴とする光触媒ガラスの製造装置。
【請求項2】 請求項1に記載の光触媒ガラスの製造装置において、前記成形ステーションにはリボン状が通過するケースが配置され、このケースの入口、中間または出口の何れかに前記噴霧装置が配置されていることを特徴とする光触媒ガラスの製造装置。
【請求項3】 請求項1に記載の光触媒ガラスの製造方法において、前記噴霧装置には、チタン酸水溶液をミスト状にする超音波ネブライザなどのミスト化装置が付設されていることを特徴とする光触媒ガラスの製造方法。
【請求項4】 ガラス基板上に、アナターゼ型のTiO2膜を形成した光触媒板ガラスを製造する方法であって、板ガラスをフロートバス法で製造するラインの途中の、フロートバス出口から引き出されたリボン状ガラスの表面温度が600℃以下となる位置で、リボン状ガラスの表面にチタン酸水溶液を噴霧し、ガラスの保有する熱でアナターゼ型のTiO2膜を形成することを特徴とする光触媒ガラスの製造方法。
【請求項5】 請求項4に記載の光触媒ガラスの製造方法において、前記チタン酸水溶液として、ペルオキシチタン酸および/またはチタンペロキソクエン酸アンモニウム水和物を含有する水溶液を使用することを特徴とする光触媒ガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−80939(P2001−80939A)
【公開日】平成13年3月27日(2001.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−254671
【出願日】平成11年9月8日(1999.9.8)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】