説明

光触媒コーティング剤及びそれにより処理した光触媒被覆物品。

【課題】光触媒を含有する光触媒コーティング剤で基材表面を処理する場合に、光励起のための光線量が少ない環境や少ない光触媒量であっても、基材の耐久性を確保しながら優れた光触媒能を発揮できるようにする。
【解決手段】水または有機溶剤に、紫外線照射により光触媒能を発揮する酸化チタン微粒子の表面の少なくとも一部にリン酸カルシウムが付着してなるアパタイト被覆酸化チタン微粒子が分散されており、基材表面に塗布することで光触媒能を付与するものとした光触媒コーティング剤において、紫外線照射により蛍光発光する蛍光剤が所定割合で混合されてなるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装材や布等の物品や壁材の表面等に光触媒コーティング処理を施すための酸化チタンを用いたコーティング剤、及びそれにより処理した光触媒被覆物品に関し、殊に、光触媒活性が増強され光励起のための光線量が少なくても充分な光触媒能を発揮できるものとした、光触媒コーティング剤及びそれにより処理した光触媒被覆物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒物質を物品表面に塗布し所定波長を含む光線を照射することで、付着した汚染物質を分解させるセルフクリーニング機能を付与する技術が普及している。例えば、特開平9−268280号公報や特開平10−259325号公報に記載されているように、光触媒物質を建築物の壁面または内外装面に塗布することで、付着または吸着した有害物質や汚染物質を分解させるための空気清浄及び防汚処理として、或いは医療施設の内装面に塗布することで院内感染を減少させる抗菌処理として等、様々な用途で広く実施されている。
【0003】
これは、光触媒物質が所定波長の光線を受けることで光励起状態となり、その表面に所定の物質を付着・活性化させることで所定の作用を発揮する光触媒能を利用したものである。例えば器物表面に塗布された酸化チタンは、紫外線を含む太陽光やライト光を受けることで付着した有害物質を酸化して分解したり、或いは空気中の水分を電気的に分解して活性酸素を発生し、付着した細菌を傷害して減少させたりする作用が知られている。
【0004】
また、特開平9―296364号公報には、光触媒物質を水または有機溶剤に分散してスラリーとしたものを布と接触させて光触媒を繊維に固定することにより、抗菌防臭機能を付与するものとした技術が提案されている。この技術により、布の風合いや手触りを損ねることなく比較的簡易な手順で抗菌防臭布を作製することができる。
【0005】
しかし、光触媒物質を繊維等の有機性素材に直接固定した場合には、光触媒の物質分解能によりその素材自体が分解されるため、素材の耐久性において難点が生じる。また、光触媒にはこれを充分に光励起させるだけの紫外線等の光線量が必要となるところ、室内などの太陽光や強力な紫外線照射手段等による照射が期待できない場所においては、光励起のための光線量が不足して充分な光触媒機能を発揮できないという問題がある。
【0006】
これらの問題に対し、シェラック樹脂等の光触媒による分解に比較的強いバインダを用いることで、基材の分解速度を遅らせる技術が知られている。また、本願発明者らは、先に特願2005−344203号において、酸化チタンを含有する抗菌防臭処理液に蛍光剤を混合することにより、酸化チタンの触媒能を増強できることを示した。即ち、光触媒物質を含有する光触媒コーティング剤で物品を処理した場合に光触媒コート層の有無及びその残存量を蛍光剤による発光強度で確認するための技術において、副次的な効果として酸化チタンと蛍光剤との組み合わせが光触媒活性を増強することを発見し、これを提示したものである。
【0007】
一方、特開2003−275600号公報には、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムが被覆されてなるアパタイト被覆酸化チタン及びこれを含有する塗料が提示され、特開2004―168601号公報にはその製造方法が提示されている。これは粒子状の酸化チタンをカルシウム溶液とリン酸溶液とに交互に接触させ、表面にリン酸カルシウムを生成・固化させてアパタイト被覆層を設けた点を特徴としたものである。
【0008】
即ち、アパタイトは臭い物質や細菌などの有機物質に親和性が高いことから、これらを吸着して効率的に処理することで結果的に光触媒能の増強作用と同様の効果を有し、光線量の少ない場所においても抗菌防臭機能等を発揮しやすくなったものである。また、光触媒による分解に強く極めて安定的な物質であるアパタイトが、基材と酸化チタンとの間でスペーサの役割を発揮するため、基材が酸化チタンの触媒能により分解されることを抑制して、その耐久性を確保しやすいことが利点となっている。
【0009】
このように、アパタイトで酸化チタンを被覆したものは結果的に光触媒能の増強効果を有しており、また素材の耐久性確保という点において特に優れている。しかしながら、アパタイトが酸化チタンの光触媒能自体を直接増強するものではないため、太陽光が殆ど届かないような室内等においては光励起のための光線量が不足し、吸着した汚染物質等が充分に処理されずにアパタイト表面が飽和して、抗菌防臭機能等の光触媒能を有効に発揮できない場合も多い。
【特許文献1】特開平9−268280号公報
【特許文献2】特開平10−259325号公報
【特許文献3】特開平9―296364号公報
【特許文献4】特開2003−275600号公報
【特許文献5】特開2004―168601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解決しようとするものであり、光触媒を含有する光触媒コーティング剤で基材表面を処理する場合に、光励起のための光線量が少ない環境や少ない光触媒量であっても、基材の耐久性を確保しながら優れた光触媒能を発揮できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明は、水または有機溶剤に、紫外線照射により光触媒能を発揮する酸化チタン微粒子の表面の少なくとも一部にリン酸カルシウムが付着してなるアパタイト被覆酸化チタン微粒子が分散されており、基材表面に塗布することで光触媒能を付与するものとした光触媒コーティング剤において、紫外線照射により蛍光発光する蛍光剤が所定割合で混合されてなるものとした。
【0012】
このように、酸化チタン微粒子表面にリン酸カルシウムを付着させてなるアパタイト被覆酸化チタン微粒子は、アパタイトが目的物質を効率的に吸着するとともに基材と酸化チタンとの間のスペーサとなって基材の耐久性を確保しやすいものとなるが、これに蛍光剤を加えたことでその光触媒活性自体が直接増強され、僅かな紫外線量や少ない光触媒量でも優れた抗菌防臭機能を発揮しやすいものとなる。
【0013】
また、この光触媒コーティング剤は、混合する蛍光剤が有機系の蛍光増白剤であるものとすれば、基材の外観を損なうことが少なく塗布性に優れるとともに光触媒活性の増強作用が確実なものとなり、その有機系の蛍光剤をユビテックスERNとすれば人体に悪影響が少ないものとしながら光触媒活性の増強効果に優れたものとなり、アパタイト被覆酸化チタン微粒子とこれら蛍光剤との比率を質量比で1:0.01乃至10とすれば、光触媒活性の増強効果に一層優れたものとなる。
【0014】
さらに、上述した光触媒コーティング剤において、アパタイト被覆酸化チタン微粒子は酸化チタンとアパタイトの比率が質量比で1:0.02乃至1であるものとすれば、光触媒能と物質吸着能および基材の耐久性のバランスに優れたものとなり、その平均粒子径が0.007μm乃至0.2μmであるものとすれば、液体への分散性および基材への密着性を確保しながらアパタイトを良好な状態で付着させて酸化チタンを被覆しやすいものとなり、これに用いる酸化チタンが光触媒性二酸化チタンであるものとすれば、光触媒能を効率的に発揮しやすいものとなる。
【0015】
さらにまた、上述した光触媒コーティング剤を用いて所定の物品を処理することにより得た光触媒被覆物品とすれば、その耐久性を確保して長期間に亘りその美観を維持しながら、紫外線等の光線照射量の比較的少ない場所であっても配置するだけで光触媒活性の増強効果で優れた抗菌防臭機能を発揮できるものとなり、その物品が建築物用の内装材であるものとすれば、内装材は通常風雨に曝されることがないことから光触媒を基材側に固定させるためのバインダやコート層を不要または最小限として、その美観・風合いを損ないにくいものとなり、これらの物品が紙製品や布製品であるものとすれば光触媒コーティング剤の付着が容易でさらに多様な用途に使用できるものとなる。
【発明の効果】
【0016】
アパタイト被覆酸化チタン微粒子と蛍光剤とを組み合わせた本発明によると、塗布される基材側の耐久性を確保しやすいことに加え、光触媒活性増強効果により光励起のための光線量や光触媒量が少ない場合であっても、抗菌防臭機能等の優れた光触媒能を発揮できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明における最良の実施の形態を説明する。尚、本発明において、濃度は特にことわりの無い限り質量%を表し、粒子径とは電子顕微鏡により液中の粒子径(長径)を実際に測定した数値であり、特にことわりの無い限り一次粒子径を指す。また、微粒子とは最大粒子径が10μm以下に微細化された粒子を指すものとする。さらに、物品とは例えば壁紙・襖・障子・内装板等の内装材、または包装材ペーパーフィルタ等の紙製品、或いはカーテンなどの布製品、電灯の傘、カバー・ブラインド・家具等の調度品のように、単独で流通可能なものを指している。
【0018】
本発明の実施の形態として、アパタイト被覆酸化チタン微粒子を水に所定割合で混合・分散させてスラリーとしたものに、有機系蛍光増白剤(液状)を所定割合で加えて混合・分散させた光触媒コーティング剤、およびこの光触媒コーティング剤で内装材等の物品を処理してなる光触媒被覆物品について説明する。
【0019】
斯かる光触媒コーティング剤は、アパタイト被覆酸化チタン微粒子として繊維や内装材等の物品表面への結合性および塗布後の外観を保持する観点から最大粒子径が10μm以下の微粒子状のものを用いるが、さらに手触りや風合いを保持する観点から平均粒子径0.007μm〜0.2μmのものが好適である。また、酸化チタンとしては、光触媒作用の強さの観点から光触媒性二酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンが好適であるが、これに限定されるものではなく、その他の結晶(ルチル型、ブルカイト型等)、更には非晶(アモルファス)でも実施可能であり、それぞれの場合に基材の耐久性を確保しつつ光触媒能の増強効果が期待できるものである。
【0020】
本実施の形態の光触媒コーティング剤に用いるアパタイト被覆酸化チタンは、例えば微粒子状の光触媒性二酸化チタンを、カルシウムイオンおよびリン酸イオンを含有した、いわゆる擬似体液に浸漬させ、或いは、リン酸イオンを含まないカルシウム溶液とカルシウムイオンを含まないリン酸溶液とに交互に浸漬させることで、その表面にリン酸カルシウムを生成固化させ、所定温度で乾燥または焼成すること堅固で安定的なアパタイト被覆層を形成してなるものである。尚、この場合、X線結晶解析法において、23°乃至27°の間にあるアナターゼ型二酸化チタンに起因するピークの強度を100としたとき、30°乃至35°の間にあるリン酸カルシウムに起因するピークの強度が1乃至30であるものとすれば、基材の耐久性を確保しやすいとともにその外観・風合いを損ないにくいものとなる。
【0021】
このアパタイト覆酸化チタン微粒子を、水または有機溶剤に投入・分散させて200倍(質量)希釈液としたもの100質量部に、未希釈の蛍光剤を0.005〜5質量部投入して、アパタイト被覆酸化チタンと有機系蛍光剤とが質量比で1:0.01〜10となるようにして、これを混合撹拌することで均一に分散させたスラリー状の光触媒コーティング剤とする。これは、各成分を様々な割合にして試験した結果、この割合で混合・分散させた場合に、アパタイト被覆酸化チタンと蛍光剤との組合せによる抗菌防臭機能の増強効果に優れていたからである。尚、蛍光剤に有機系の蛍光剤、殊に有機系蛍光増白剤を用いれば、塗布後に人体への悪影響が少ないことに加え溶液化しやすいとともに光触媒微粒子との分子レベルでの複合性に優れており光触媒活性への優れた増強効果が期待できるものとなるが、この有機性蛍光増白剤としては、ユビテックスERNが安全性および光触媒活性の増強効果の観点で好適である。
【0022】
そして、光触媒コーティング剤で処理する対象物品として、例えば洗濯・洗浄の機会が殆どなく基材への結合性の強さがあまり問題とならず、且つ、本発明における抗菌防臭機能等の光触媒能の増強が有効であるものとして、壁紙や襖・障子などの建築物用の内装材が挙げられる。或いは、少なくとも室内灯レベルの紫外線が照射されるものであれば紙製の包装材やペーパーフィルタ・紙マスク等の紙製品、或いはカーテンなどの布製品も好適である。そして、その物品表面に上述の光触媒コーティング剤を充填した噴霧器で20〜30cmの距離からまんべんなくスプレーして均一に湿るまで塗布し、その後、所定時間乾燥させるだけで光触媒被覆物品としての内装材や紙製品を得る。
【0023】
例えば、光触媒コーティング剤で処理した抗菌防臭性内装材としての壁紙の場合を考えると、屋内の照明は屋外の太陽光に比べ紫外線照射量が極めて少ないことから通常は光触媒の機能が十分に発揮されにくいのに対し、アパタイトによる有害物質の吸着能に優れることに加え、アパタイト被覆酸化チタンと蛍光剤との組合せによる光触媒活性の増強効果で、室内光下でも優れた抗菌防臭能等の光触媒能を発揮しやすいものとなる。また、紙などの有機性素材は酸化チタンの触媒作用で容易に分解し変色・劣化しやすいものであるが、酸化チタンがアパタイトで被覆されていることで基材との間のスペーサとして働き、その耐久性を確保しやすいものとなって長期間に亘りその外観を維持できる点で有用性が高い。
【0024】
このような光触媒被覆物品は、現場で光触媒コーティング剤を塗布して光触媒被覆物品としたり、或いは予め抗菌防臭処理を施した壁紙・障子や襖などの抗菌防臭性内装材、或いは抗菌防臭性紙製品などの光触媒被覆物品を搬入し、現場で貼付または設置したりすることで、容易に抗菌防臭機能等の光触媒能を発揮させることができる。尚、光触媒コーティング剤に蛍光剤を含むことで、例えばブラックライト等の紫外線照射手段で照射すれば塗布した部分が蛍光発光することから、光触媒塗布層の有無や塗りムラのチェックが容易となり、時間の経過で塗布層が脱落する場合は再塗布時期の判定が容易なものとなる。
【0025】
そして、これらの光触媒被覆物品は、蛍光灯などの室内灯から照射される僅かな紫外線量でも上述した光触媒能を充分に発揮することができ、室内空気に存在する、例えばタバコの煙やペット由来の有機系悪臭物質を分解・無臭化し、或いはシックハウス症候群の原因の一つでもあるアセトアルデヒド等の有害物質を分解して無害化することができ、さらに、汚れの原因となる付着した手垢や煙等の物質を分解して壁面の汚れを防ぐ防汚効果を発揮したり、付着した細菌等の病原体を傷害して感染を防ぐ感染防止効果を発揮したりする等、多岐に亘る優れた光触媒能を発揮するものである。
【0026】
尚、壁紙のように光触媒物質の固着が比較的容易な基材や洗濯・洗浄の機会の少ない物品とは異なり、平滑性の高いコンクリート内壁や光沢のある家具類のように光触媒物質の固着が比較的困難な素材、または屋外への設置や洗濯・洗浄など、塗布した光触媒物質が脱落しやすい環境に置かれるものにおいては、アパタイト被覆酸化チタンを基材側に固着させるためのバインダを最小限度使用することが推奨される。この場合、用いるバインダとしては対象に応じた周知のもので充分であるが、少なくともアパタイト被覆酸化チタンの一部分が外部に露出する状態になることが条件となる。
【0027】
また、抗菌防臭性紙製品においては、例えば空気清浄機において外面に露出して室内灯の照射を受ける部位に設けるタイプの抗菌防臭性ペーパーフィルタとすれば、部屋の臭い対策と同時に微生物による感染対策としても有用なものとなり、これを紙マスクとすれば、唾液や口腔由来の悪臭対策と同時に感染予防対策として有用なものとなり、これを紙製の包装材とすれば、貴重な被服や美術品等の保管用としてタバコ等による臭いや汚れがつきにくいものとなる。
【0028】
さらに、上述と同様の手法でカーテンを光触媒コーティング処理すれば、紫外線照射を受ける面積が比較的広いとともに空気に触れる表面積が大きいものとなり、抗菌防臭機能等の優れた光触媒能を発揮することが期待されるが、殊にカーテンに付着しやすい汚れの微粒子の多くを分解する防汚効果が充分に期待できるものである。
【0029】
以下に、本発明の作用・効果、殊に光触媒活性の増強効果について、実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0030】
蛍光剤添加によるアパタイト被覆酸化チタンの光触媒活性に対する影響について、先ず試験1において、電子スピン共鳴分析(ESR)装置を用いたスピントラップESR法により添加する蛍光剤の最適濃度を検討し、次に試験2において、ガスクロマトグラフ分析により有機物分解能について通常の酸化チタンと比較した。
【0031】
[試験1]
(スピントラップESR法の概要)
試料にスピントラップ剤(5,5-dimethyl-1-pyrroline-1-oxide(略称:DMPO))水溶液を滴下し、紫外線照射時に試料から発生するラジカル量を測定するものであり、試料の光触媒活性が高ければ紫外線照射時に生成する電子・正孔の影響を受けて発生するラジカル量も多くなると考えられるからである。尚、発生するラジカルは主としてヒドロキシラジカル(・OH)であるが、スピントラップ剤がDMPOと反応して安定なラジカル(DMPO・OH)を形成し、これにより光触媒反応で発生する・OH量変化を見積もり、蛍光剤添加による光触媒活性増強効果を調べるものである。
【0032】
(試料の作成)
アパタイト被覆二酸化チタン含有液(製品名:ノナミック(登録商標)スラリー、規格:10%、品番:NSP−S001、(株)ナノウェイヴ製)10μlを純水で希釈して200μlとしたものと、光触媒コーティング剤の対照例としてアナターゼ型二酸化チタン(製品名:試薬1級 二酸化チタン(アナターゼ型)、品番:40167―01、関東化学(株)製)1mgを純水200μlに懸濁させた二酸化チタン含有液を用意し、各々有機系蛍光増白剤として未希釈のユビテックスERN(製品名:Hakkol.STR,昭和化学工業(株)製)を質量%で0%,0.01%,0.05%,0.1%,0.5%,1.0%となるように加えてよくかき混ぜ、これを直径15mmのガラス瓶に滴下した後、70℃で4時間乾燥させて蛍光剤の濃度別試料を作成した。尚、使用したアパタイト被覆二酸化チタン含有液は、メーカーの発表によると質量比でアナターゼ型二酸化チタン1に対し0.15のアパタイトで被覆されたアパタイト被覆二酸化チタンを水中に10%を含有した液剤である。
【0033】
(濃度別蛍光剤添加による光触媒活性増強効果の測定)
2%DMPO水溶液(型名:LM―2110,品名:DMPO(5,5―dimethyl−1−pyrroline−1−oxide),ラボテック(株)製)を、上記各試料瓶にそれぞれ滴下後、ブラックライト照射後に、スピントラップESR法により光生成ラジカル量を測定してピーク強度比を比較した。
【0034】
ブラックライト光照射は、20Wのブラックライト光(中心波長360nm)で1mW/cmの紫外線を1分間照射した。そして紫外線照射後、試料中のDMPO水溶液を容量25μlのキャピラリー管に迅速に採取してからESR装置(品番:JER―FR80 日本電子(JOEL)社製)にセットし、安定化ラジカル量を測定した。尚、ESR装置の中心磁場は336.7mT±5mT、マイクロ波は9.447GHz―8mW、変調周波数は100KHz、検出器ゲインは4×100、Time Constantは0.1秒であり、紫外線照射停止から測定開始までの時間は2分、測定時間は4分であった。
【0035】
(結果)
試験結果を図1のグラフに示す。各蛍光剤濃度における光生成ラジカル量は試料2つの平均値である。グラフから分かるように、アパタイト被覆二酸化チタンにおいて、蛍光剤濃度0.05%で光生成ラジカル量が顕著に多く、これに次いで0.1%で有意に多かった。これに対し、対照例の二酸化チタンでは0.05%で有意に増加し、これ以上の濃度でほぼ同等の光生成ラジカル量を示した。また、蛍光剤添加による光生成ラジカル量の増加、即ち光触媒活性増強効果は、対象例である二酸化チタンで最大2.4倍であったのに対し、アパタイト被覆二酸化チタンでは最大約4.8倍であった。
【0036】
この結果より、0.5%アパタイト被覆二酸化チタン含有光触媒コーティング剤において添加する蛍光剤の濃度は、光触媒活性増強効果の観点から0.05%〜0.1%が好適であり、特に0.05%が優れていた。また、アパタイトで被覆されていない二酸化チタンとの比較において、この濃度で光触媒活性増強効果に約2倍の差があり、酸化チタンを用いる光触媒コーティング剤において本発明のアパタイトと蛍光剤との組合せによる効果が顕著であることが分かった。
【0037】
[試験2]
試験1で本発明における蛍光剤添加による光触媒活性増強効果が明らかとなったが、光触媒コーティング剤としての抗菌防臭機能の増強効果について、有害物質(有機分子)の分解能を調べることにより検証した。
【0038】
(試料の作成)
試験1と同様に、アパタイト被覆二酸化チタン含有液200μlを作成して試料Bとし、その対照例も試験1と同様に二酸化チタン含有液200μlを作成して試料Aとして、各々2つずつ用意した。そして、各々一方に試験1と同じ蛍光増白剤を本発明の好適濃度と考えられる0.05質量%となるように添加後、よくかき混ぜて作成し、これをヘッドスペースサンプラーガスクロマトグラフ質量分析用バイアル(材質:ガラス,容量:20ml,直径:15mm,Agilent製)に滴下し、70℃で4時間乾燥させた。その後、専用キャップで密閉し、蛍光剤を添加しないものを試料A1,B1、添加したものを試料A2,B2とした。
【0039】
(ブラックライト光下での有機分子分解活性)
分解対象の有機分子として、イソプロピルアルコール(IPA)を用いた。IPAは光触媒反応中間体としてアセトンが生成する物質であり、これを測定することで吸着による減少ではなく分解による減少であることが分かるとともに、光触媒反応の進行度をアセトン生成量により確認できるからである。紫外線照射は試験1と同様にブラックライト(1mW/cm)を用いて30分間実施し、IPAの濃度変化をガスクロマトグラフ分析により求め、その変化を紫外線照射時間に対し片対数表示した。また、これと同様にしてガスクロマトグラフ分析により生成アセトン量を測定した。
【0040】
上記各バイアルに1%IPA水溶液1μlを導入した後、ヘッドスペースサンプラー装置(型番:HP7694,Agilent製)を用いて50℃で20分間加熱し、平衡状態となったバイアル内のガスをガスクロマトグラフ質量分析計(型番:6890/5973,Agilent製)にて分離・分析した。尚、バイアルからのガス採取量は1μl、スプリット比は500/1としてガスクロマトグラフへ導入した。また、分離に用いたカラムはキャピラリーカラム(製品名:DB―WAX,仕様:60m×0.25mm×0.5μm,J&W製)であり、カラムの昇温条件は35℃(5分)〜5℃/分〜240℃(5分)とした。分析後、各バイアルに20Wブラックライトを用いて約1mW/cmの照射強度で10分間、紫外線を照射し、再び分析を行った。これを2回繰り返し、紫外線照射10分毎のIPA及びアセトン量を測定して図2(A),(B)のグラフとなった。
【0041】
(結果)
図2(A)のIPAの減少比率のグラフに示すように、総ての試料において、紫外線照射時間10分以降ではIPAがほぼ直線的に(一次反応的に)減少している。この場合、グラフに示す片対数表示にした近似直線の傾きから減少率(反応活性)を評価できるが、二酸化チタン+蛍光剤(A1)の傾きが蛍光剤不添加(A2)の約1.5倍であったのに対し、アパタイト被覆二酸化チタン+蛍光剤(B2)の傾きは蛍光剤不添加(B1)の約3倍以上であった。
【0042】
一方、図2(B)のアセトン生成量のグラフに示すように、二酸化チタンとアパタイト被覆二酸化チタンの両方で蛍光剤添加の方が不添加に比べて明らかにアセトン生成量が増えているが、アパタイト被覆二酸化チタン(B2)では照射10分後にアセトン生成量が顕著に増加し、その後減少して照射20分後ではアセトン生成量が極端に減少した。
【0043】
上記試験結果から、光触媒微粒子に蛍光剤を添加したことで有機分子の分解活性の増強効果が認められたが、アパタイト被覆二酸化チタンにおいてその増強効果が特に顕著であることが分かった。尚、図2(B)においてアパタイト被覆二酸化チタンに蛍光剤を添加した場合(B2)に、紫外線照射10分以降にアセトン生成量が急激に低下したのは、中間生成物として生成したアセトンも光触媒反応により分解され光触媒活性が大きく増強された結果、急激に分解されて減少したものと推定される。
【0044】
そして、上述した各試料のうち、蛍光増白剤を0.05%含有したものを光触媒コーティング剤(アパタイト被覆二酸化チタンとして0.5%含有)として、各種物品に塗布して(500ml液にしてスプレー)、光触媒被覆物品を作成して、表面処理剤としての適用性について調べた。その結果、布、紙などの繊維製品はもとより、プラスティックやコンクリート等の表面が平滑なものでも、所定距離(20〜30cm)からまんべんなくスプレーして乾燥させることで問題なく塗布できた。また、その光触媒被覆物品の外観や風合いには特に大きな変化はなく、光触媒コーティング剤として充分に適用性があると考えられた。さらに、暗所においてブラックライト等で紫外線照射することにより光触媒コート層の有無や塗りムラを確認することもできた。
【0045】
尚、蛍光増白剤添加による光触媒活性増強のメカニズムとしては、蛍光増白剤と光触媒間の電子移動が起因していると推定される。光触媒および蛍光増白剤は紫外線照射により原子・分子に束縛されていた電子が励起されて正孔が発生するが、この励起電子と正孔は通常短時間のうちに再結合する。ところが、長寿命化した正孔等は化学反応に関与するようになり、表面に吸着した化学物質を分解するとともに、分解時に発生するラジカルと相俟って化学反応を引き起こす。酸化チタンの場合、この化学反応が効率的に進むため光触媒効果をもたらすと考えられている。
【0046】
一方、蛍光増白剤自身では通常、光触媒反応は進行しないものであるが、酸化チタンと複合した際に、励起した電子が酸化チタンとの間で移動することが考えられる。そのため、酸化チタン側の励起電子が蛍光増白剤側に移動し、取り残された正孔が長寿命化することで反応に関与する正孔の量が増え、その結果、光触媒活性が増強されるものと推定される。そして、蛍光増白剤添加による触媒活性の増強作用は、酸化チタン単独のものに対するよりもアパタイト被覆酸化チタンに対する方が強いことが検証されたが、この増強作用はアパタイトによる物質吸着効果による増強分を遙かに超えるものと考えられ、そのメカニズムについては現在のところ不明であり今後の研究課題である。
【0047】
以上述べたように、アパタイト被覆酸化チタン微粒子に蛍光剤を加えてなる光触媒コーティング剤、およびこれにより処理してなる光触媒被覆物品とした本発明により、酸化チタンを単独で含有するものに蛍光剤を加えた場合よりも、有意に光触媒活性が増強され、優れた抗菌防臭作用を発揮できるものとなった。また、このことにより、少ない紫外線照射量・照射時間でも充分な光触媒能を発揮するものとなった。尚、上述の実施の形態において、酸化チタンはアナターゼ型二酸化チタンを用いたが、これに限定されるものではなく、その他の結晶(ルチル型、ブルカイト型等)、更には非晶(アモルファス)でも実施可能であり、それぞれの場合に基材の耐久性を確保しつつ光触媒能の増強効果が期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施例において、各蛍光剤濃度の試料で生成したラジカル量を比較するためのグラフ。
【図2】(A)は、本発明の実施例において各試料のイソプロピルアルコールの減少率を比較するためのグラフ、(B)は各試料のアセトン生成量を比較するためのグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水または有機溶剤に、紫外線照射により光触媒能を発揮する酸化チタン微粒子の表面の少なくとも一部にリン酸カルシウムが付着してなるアパタイト被覆酸化チタン微粒子が分散されており、基材表面に塗布することで光触媒能を付与するものとした光触媒コーティング剤において、
紫外線照射により蛍光発光する蛍光剤が所定割合で混合されてなることを特徴とした光触媒コーティング剤。
【請求項2】
前記蛍光剤が有機系の蛍光増白剤である、ことを特徴とする請求項1に記載した光触媒コーティング剤。
【請求項3】
前記有機系の蛍光増白剤はユビテックスERNである、ことを特徴とする請求項2に記載した光触媒コーティング剤。
【請求項4】
前記アパタイト被覆酸化チタン微粒子と前記蛍光剤との比率は、質量比で1:0.01乃至10とされている、ことを特徴とする請求項1,2または3に記載した光触媒コーティング剤。
【請求項5】
前記アパタイト被覆酸化チタン微粒子は、前記酸化チタンと前記アパタイトの比率が質量比で1:0.02乃至1である、ことを特徴とする請求項1,2,3または4に記載した光触媒コーティング剤。
【請求項6】
前記アパタイト被覆酸化チタン微粒子の平均粒子径は、0.007μm乃至0.2μmであることを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載した光触媒コーティング剤。
【請求項7】
前記酸化チタンは光触媒性二酸化チタンである、ことを特徴とする請求項1,2,3,4,5または6に記載した光触媒コーティング剤。
【請求項8】
請求項1,2,3,4,5,6または7に記載した光触媒コーティング剤を用いて所定の物品を処理してなる光触媒被覆物品。
【請求項9】
前記物品は、建築物用の内装材であることを特徴とする請求項8に記載した光触媒被覆物品。
【請求項10】
前記物品は紙製品であることを特徴とする請求項8または9に記載した光触媒被覆物品。
【請求項11】
前記物品は布製品であることを特徴とする請求項8または9に記載した光触媒被覆物品。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−262180(P2007−262180A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−87153(P2006−87153)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(505153096)有限会社バースケア (5)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】