説明

光触媒コーティング用組成物およびコーティング膜

本発明に係る光触媒コーティング用組成物は、金属酸化物の結晶の格子間に窒素原子をドーピングしたもの等の光触媒物質、特定の構造を有するチタン化合物、特定の構造を有するオルガノシランの加水分解物、および特定の構造を有するオルガノシロキサンオリゴマーを含有する。このような光触媒コーティング用組成物は、400nm以下のスペクトル成分が少なく、可視光が多い環境下、たとえば室内環境下や紫外線カットガラスを有する車室内においても、十分な光触媒作用を示し、かつ透明性に優れたコーティング膜を形成することができ、さらには分散液の保存安定性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、可視光によって光触媒作用を示す光触媒コーティング用組成物および該光触媒コーティング用組成物からなるコーティング膜に関する。
【背景技術】
本発明者は、先に、可視光環境下で光触媒作用を発現する材料として、(i)酸化チタンなどの金属酸化物の結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換したもの、(ii)酸化チタンなどの金属酸化物の結晶の格子間に窒素原子をドーピングしたもの、および(iii)酸化チタンなどの金属酸化物の結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配したものからなる群から選択される少なくとも1種の可視光応答型の光触媒物質を提案した(国際公開番号WO01/10552号および特開2001−205094号公報)。この光触媒材料は半導体であり、可視光を吸収して電子と正孔を生成し、有機物質の分解などの種々の化学反応における触媒作用や殺菌作用を示す。
この可視光応答型の光触媒物質粉末を低温(たとえば200℃以下)でさまざまな基材に固定化してその光触媒作用を発現させるには、光触媒性能を維持したまま、分散性、安定性に優れた塗膜を形成する必要がある。ところが、(i)金属酸化物の結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換したもの、(ii)金属酸化物の結晶の格子間に窒素原子をドーピングしたもの、あるいは(iii)金属酸化物の結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配したものは、一般的な金属酸化物の粉末と表面特性が相違し、従来のコーティング用組成物では、分散性、安定性に問題が生じていた。
一方、金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子を含有するコーティング材料は、前記金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子が有する各種機能を特徴として幅広く利用することができる。中でもシラン系バインダーは有機バインダーと比較して、その優れた耐久性から、特に紫外線照射下や高温下などで好適に使用されている。金属酸化物微粒子を含有するシラン系コーティング材料の製造方法として、(1)金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子を相溶性の良い溶媒に微粒化、分散させゾル状態とした後、シラン系バインダーと混合する方法、
(2)シラン系バインダーの原料となる加水分解性シランと金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子とを混合させた後、金属微粒子あるいは金属酸化物存在下で加水分解性シランを高分子量化させる方法
などが挙げられる。
しかしながら、これらの方法では、特に金属微粒子あるいは金属酸化物微粒子の含有量が多くなると分散安定性が悪くなり、微粒子が凝集して塗膜の透明性の低下したり、分散液の保存安定性が低下するという問題があった。
発明の目的
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、400nm以下のスペクトル成分が少なく可視光が多い環境下、たとえば室内環境下や紫外線カットガラスを有する車室内においても、十分な光触媒作用を示し、かつ塗膜の透明性や分散液の保存安定性に優れる光触媒コーティング用組成物および該光触媒コーティング用組成物からなるコーティング膜を提供することを目的としている。
【発明の開示】
本願発明者は、上記問題点を解決すべく鋭意研究し、金属酸化物の結晶、たとえば酸化チタン結晶の格子間に窒素原子をドーピングしたもの等の光触媒物質、特定の構造を有するチタン化合物、特定の構造を有するオルガノシランの加水分解物、および特定の構造を有するオルガノシロキサンオリゴマーを含有する光触媒コーティング用組成物から得られるコーティング膜(以下、「塗膜」ともいう)が、通常の蛍光灯を照射した室内や紫外線カットガラスを有する車室内などの400nm以下のスペクトル成分の少ない環境下においても、十分な光触媒作用を示し、かつ透明性に優れ、さらには前記光触媒コーティング用組成物の分散液が保存安定性に優れることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る光触媒コーティング用組成物は、
(a)(i)金属酸化物の結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換したもの、
(ii)金属酸化物の結晶の格子間に窒素原子をドーピングしたもの、および
(iii)金属酸化物の結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配したものからなる群から選択される少なくとも1種の可視光応答型の光触媒物質、
(b)下記式(1)

(式中、Rは炭素数1〜8個の有機基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜6個のアルキル基、炭素数1〜6個のアシル基およびフェニル基からなる群から選択される有機基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、mは0〜3の整数である)
で表される、オルガノチタンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のチタン化合物、
(c)下記一般式(2)

(式中、Rは炭素数1〜8個の1価の有機基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜5個のアルキル基または炭素数1〜6個のアシル基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、nは0〜3の整数である)
で表される、オルガノシランおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物、
(d)Si−O結合を有し、重量平均分子量が300〜100,000であり、かつ下記式(3)

(式中、RおよびRは炭素数1〜5個のアルキル基を表し、同じであっても異なっていてもよく、Rは水素原子または炭素数1〜5個のアルキル基を表し、pおよびqは、p+qの値が2〜50となる数である)
で表される構造を含有するオルガノシロキサンオリゴマー、
(e)水および/または有機溶剤
を含有することを特徴としている。
前記光触媒コーティング用組成物は、さらに、前記シラン化合物(c)の加水分解・縮合反応を促進する触媒(f)を含有することが好ましい。また、光触媒物質(a)中の窒素原子と金属酸化物の金属原子とが化学結合を形成していることが好ましい。
さらに、前記金属酸化物は酸化チタンであることが好ましい。
本発明に係るコーティング膜は、前記光触媒コーティング用組成物から得られるコーティング膜であって、
前記光触媒物質(a)と、ポリチタノキサンと、ポリシロキサンとを
含有することを特徴としている。
前記光触媒物質(a)は、前記ポリチタノキサンに隣接し、かつ該ポリチタノキサンを介してポリシロキサン中に分散していることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1は、可視光照射時間と二酸化炭素発生量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
A:光触媒コーティング用組成物Aをコーティングした不織布
B:光触媒コーティング用組成物Bをコーティングした不織布
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明に係る光触媒コーティング用組成物の各成分について詳細に説明する。
(a)光触媒物質:
本発明に用いられる光触媒物質(a)は、(i)金属酸化物の酸素サイトの一部を窒素原子で置換したもの、(ii)金属酸化物の結晶の格子間に窒素原子をドーピングしたもの、および(iii)金属酸化物の結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配したものからなる群から選択される少なくとも1種の可視光応答型の光触媒物質である。ここで、「可視光応答型の光触媒物質」とは、可視光を吸収して励起し、光触媒作用を示す物質のことを意味する。
前記金属酸化物としては、たとえば、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化銅、チタン酸鉄、酸化ニッケル、酸化ビスマスおよび酸化ケイ素が挙げられる。これらのうち、酸化チタンが特に好ましく用いられる。
また、光触媒物質(a)は、金属酸化物の結晶格子中に窒素原子を含有したものであって、前記窒素原子と金属酸化物の金属原子との間で化学結合が形成された、可視光応答型の光触媒物質であることが好ましい。金属原子と窒素原子との間で化学結合を形成すること、たとえば、金属酸化物の結晶の酸素サイトの一部を窒素で置換した構造を形成することにより、結晶構造はより安定し、光触媒性能もより長期にわたって安定する。
光触媒物質(a)は、粉末であっても、水に分散した水系のゾルもしくはコロイド、あるいはアルコールなどの極性溶媒やトルエンなどの非極性溶媒中に分散した有機溶媒系のゾルもしくはコロイドなどの形態であってもよい。光触媒物質(a)が有機溶媒系のゾルもしくはコロイドである場合、その分散性に応じて、さらに水や有機溶媒を用いて希釈してもよく、また分散性を向上させるために光触媒物質(a)の表面を処理して用いてもよい。また、光触媒物質(a)の一次粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下であることが望ましい。一次粒子径が上記範囲を超えると、塗膜透明性が低下することがある。
このような光触媒物質(a)、たとえば、金属酸化物として酸化チタンを用いる光触媒物質(a)は、以下のいずかの方法により製造することができる。
(I)酸化チタンまたは含水酸化チタンを、アンモニアガス、窒素ガス、および窒素ガスと水素ガスとの混合ガスからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含む雰囲気中で熱処理する方法。
(II)チタンアルコキシド溶液を、アンモニアガス、窒素ガス、および窒素ガスと水素ガスとの混合ガスからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含む雰囲気中で熱処理する方法。
(III)エマルジョン燃焼法において、
(1)エマルジョン中の水相であるチタン塩水溶液中またはサスペンジョン中に、硝酸イオン以外の窒素元素を含むイオンまたは分子、たとえばアンモニア、ヒドラジンが存在し、かつ(2)エマルジョン中に含まれる油および界面活性剤を含む燃焼成分が完全に燃焼し、かつ水溶液中に含まれる金属イオンまたは金属化合物が大気中で最も安定な酸化物を形成するために必要な酸素量(以下、必要酸素量という)以下の酸素が反応装置内に導入された雰囲気中で、
エマルジョンを噴霧燃焼させる方法。
(IV)エマルジョン燃焼法において、
(1)エマルジョン中の水相であるチタン塩水溶液またはサスペンジョン中に、硝酸イオン以外の窒素原子を含むイオンあるいは分子、たとえばアンモニア、ヒドラジンが存在せず、
(2)窒素ガス以外の窒素含有ガス、たとえばアンモニアを含み、かつ反応装置内に導入された酸素量が必要酸素量よりも少ない雰囲気中で、
エマルジョンを噴霧燃焼させる方法。
(V)窒化チタン結晶または窒酸化チタン結晶を、酸素、オゾン、水分子、またはヒドロキシル基を含む化合物を含む酸化雰囲気中で熱処理あるいはプラズマ処理する方法。
(VI)酸化チタンと、常温で酸化チタンに吸着する窒素化合物との混合物を加熱する方法。
また、金属酸化物として、酸化スズ、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化銅、チタン酸鉄、酸化ニッケル、酸化ビスマスおよび酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を用いる光触媒物質(a)は、該金属酸化物、各金属の水酸化物またはアルコキシド、あるいは金属塩などを用いて製造できる。
光触媒物質(a)は、光触媒コーティング用組成物中に、該組成物の全固形分に対して、1重量%〜90重量%、好ましくは15〜85重量%、より好ましくは25〜80重量%の量で含有されることが望ましい。光触媒物質(a)の量が、光触媒コーティング組成物の全固形分中に対して、上記下限未満であると光触媒作用を示さないことがあり、上記上限を超えるとコーティング膜を形成する際にチョーキング等が発生し、製膜性が劣ることがある。
(b)チタン化合物:
本発明に用いられるチタン化合物(b)は、下記式(1)

(式中、Rは炭素数1〜8個の有機基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜6個のアルキル基、炭素数1〜6個のアシル基およびフェニル基からなる群から選択される有機基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、mは0〜3の整数である)
で表される、オルガノチタンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のチタン化合物である。
このようなオルガノチタンおよびその誘導体としては、たとえば、チタンアルコレート、チタンアシレートおよびこれらの誘導体が挙げられる。チタンアルコレートの誘導体としては、前記チタンアルコレートの加水分解物、前記チタンアルコレートの縮合物、前記チタンアルコレートのキレート化合物、前記チタンアルコレートのキレート化合物の加水分解物、および前記チタンアルコレートのキレート化合物の縮合物が挙げられる。
また、チタンアシレートの誘導体としては、前記チタンアシレートの加水分解物、前記チタンアシレートの縮合物、前記チタンアシレートのキレート化合物、前記チタンアシレートのキレート化合物の加水分解物、および前記チタンアシレートのキレート化合物の縮合物が挙げられる。
上記式(1)において、Rは炭素数1〜8個の有機基であり、具体的には、
メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などのアルキル基;
ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基などのアシル基;
ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、エポキシ基、グリシジル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アミド基、フルオロアセトアミド基、イソシアナート基などが挙げられる。
さらに、Rとして、上記有機基の置換誘導体などが挙げられる。Rの置換誘導体の置換基としては、たとえば、ハロゲン原子、置換もしくは非置換のアミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアナート基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アンモニウム塩基などが挙げられる。ただし、これらの置換誘導体からなるRの炭素数は、置換基中の炭素原子を含めて8個以下が好ましい。
式(1)中にRが複数個存在する場合には、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
炭素数が1〜6個のアルキル基であるRとして、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。
また、炭素数が1〜6個のアシル基であるRとして、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基などが挙げられる。
式(1)中にRが複数個存在する場合には、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
チタンアルコレートのキレート化合物は、前記チタンアルコレートと、β−ジケトン類、β−ケトエステル類、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸エステル、ケトアルコールおよびアミノアルコールからなる群から選択される少なくとも1種の化合物(以下、キレート化剤ともいう)とを反応させることによって得ることができる。また、チタンアシレートのキレート化合物は前記チタンアシレートと前記キレート化剤とを反応させることによって得ることができる。これらのキレート化剤うち、β−ジケトン類またはβ−ケトエステル類が好ましく用いられる。より具体的には、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸−i−プロピル、アセト酢酸−n−ブチル、アセト酢酸−sec−ブチル、アセト酢酸−t−ブチル、2,4−ヘキサン−ジオン、2,4−ヘプタン−ジオン、3,5−ヘプタン−ジオン、2,4−オクタン−ジオン、2,4−ノナン−ジオン、5−メチル−ヘキサン−ジオンなどが用いられる。
チタンアルコレートおよびチタンアルコレートのキレート化合物として、具体的には、テトラ−i−プロポキシチタニウム、テトラ−n−ブトキシチタニウム、テトラ−t−ブトキシチタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(ラクテタート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナート)チタニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタニウムなどが挙げられる。
これらのうち、テトラ−i−プロポキシチタニウム、テトラ−n−ブトキシチタニウム、テトラ−t−ブトキシチタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウムが好ましい。
また、チタンアシレートおよびチタンアシレートのキレート化合物として、具体的には、ジヒドロキシ・チタンジブチレート、ジ−i−プロポキシ・チタンジアセテート、ビス(アセチルアセトナート)・チタンジアセテート、ビス(アセチルアセトナート)・チタンジプロピオネート、ジ−i−プロポキシ・チタンジプロピオネート、ジ−i−プロポキシ・チタンジマロニエート、ジ−i−プロポキシ・チタンジベンゾイレート、ジ−n−ブトキシ・ジルコニウムジアセテート、ジ−i−プロピルアルミニウムモノマロニエートなどが挙げられる。これらのうち、ジヒドロキシ・チタンジブチレート、ジ−i−プロポキシ・チタンジアセテートが好ましい。
チタンアルコレートの加水分解物、チタンアルコレートのキレート化合物の加水分解物、チタンアシレートの加水分解物、またはチタンアシレートのキレート化合物の加水分解物は、チタンアルコレートまたはチタンアシレートに含まれるOR基の少なくとも1個が加水分解されていればよく、たとえば1個のOR基が加水分解されたもの、2個以上のOR基が加水分解されたもの、あるいはこれらの混合物であってもよい。
チタンアルコレートの縮合物、チタンアルコレートのキレート化合物の縮合物、チタンアシレートの縮合物、およびチタンアシレートのキレート化合物の縮合物はそれぞれ、チタンアルコレート、チタンアルコレートのキレート化合物、チタンアシレート、およびチタンアシレートのキレート化合物が加水分解して生成する加水分解物中のTi−OH基が縮合してTi−O−Ti結合を形成したものである。本発明では、このTi−OH基がすべて縮合している必要はなく、前記縮合物は、僅かな一部のTi−OH基が縮合したもの、大部分(全部を含む)のTi−OH基が縮合したもの、さらには、Ti−OR基とTi−OH基とが混在している縮合物の混合物なども包含する。
本発明では、チタン化合物(b)は、反応性をコントロールしてゲル化を抑制するために、前記縮合物を使用することがより好ましく、該縮合物の縮合度は2量体から10量体が特に好ましい。この縮合物は、チタンアルコレート、チタンアルコレートのキレート化合物、チタンアシレート、およびチタンアシレートのキレート化合物からなる群から選択される1種のチタン化合物もしくは2種以上のチタン化合物の混合物を、予め加水分解・縮合したものを使用してもよく、あるいは市販されている縮合物を使用してもよい。また、チタンアルコレートまたはチタンアシレートの縮合物は、そのまま使用してもよく、該縮合物中に含まれるOR基の一部もしくは全部を加水分解したもの、または該縮合物を前記キレート化剤と反応させて得られる、チタンアルコレートもしくはチタンアシレートのキレート化合物の縮合物として使用してもよい。
市販されているチタンアルコレートの縮合物(2量体から10量体)として、日本曹達(株)製のA−10、B−2、B−4、B−7、B−10等が挙げられる。
このようなチタン化合物(b)は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明に用いられるチタン化合物(b)の量は、光触媒物質(a)の固形分100重量部に対して、完全加水分解縮合物換算で1〜50重量部、好ましくは2〜45重量部、さらに好ましくは3〜40重量部が好ましい。ここで、完全加水分解縮合物とは、式(1)中のOR基が100%加水分解してTi−OH基となり、さらにTi−OH基が完全に縮合してTi−O−Ti構造を形成したものをいう。
これらのチタン化合物(b)は、光触媒物質(a)の表面に吸着、結合し、光触媒物質(a)の分散粒子径を減少させる作用や分散性を高める作用があると考えられる。
(c)シラン化合物:
本発明に用いられるシラン化合物(c)は、下記式(2)

(式中、Rは炭素数1〜8個の1価の有機基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜5個のアルキル基または炭素数1〜6個のアシル基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、nは0〜3の整数である)
で表される、オルガノシラン(以下、「オルガノシラン(2)」という)およびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物である。
オルガノシラン(2)の誘導体としては、オルガノシラン(2)の加水分解物およびオルガノシラン(2)の縮合物が挙げられる。
本発明に用いられるシラン化合物(c)は、オルガノシラン(2)、オルガノシラン(2)の加水分解物、およびオルガノシラン(2)の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物であって、これら3種のシラン化合物うち、1種のシラン化合物だけを用いてもよく、任意の2種のシラン化合物を混合して用いてもよく、または3種すべてのシラン化合物を混合して用いてもよい。
上記式(2)において、Rは炭素数1〜8個の1価の有機基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などのアルキル基;
ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基などのアシル基;
ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、エポキシ基、グリシジル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アミド基、フルオロアセトアミド基、イソシアナート基などが挙げられる。
さらに、Rとして、上記有機基の置換誘導体などが挙げられる。Rの置換誘導体の置換基としては、たとえば、ハロゲン原子、置換もしくは非置換のアミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアナート基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アンモニウム塩基などが挙げられる。ただし、これらの置換誘導体からなるRの炭素数は、置換基中の炭素原子を含めて8個以下が好ましい。
式(2)中にRが複数個存在する場合には、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
炭素数が1〜5個のアルキル基であるRとして、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基などを挙げることができ、炭素数1〜6のアシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、カプロイル基などが挙げられる。
また、炭素数が1〜6個のアシル基であるRは、(b)チタン化合物に記載の炭素数が1〜6個のアシル基が挙げられる。
式(2)中にRが複数個存在する場合には、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
このようなオルガノシラン(2)として、具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン類;
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン類;
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジ−i−プロピルジメトキシシラン、ジ−i−プロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどのジアルコキシシラン類;
トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシランなどのモノアルコキシシラン類;
メチルトリアセチルオキシシラン、ジメチルジアセチルオキシシランなどが挙げられる。
これらのうち、トリアルコキシシラン類、ジアルコキシシラン類が好ましく、より好ましくは、トリアルコキシシラン類として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが望ましく、ジアルコキシシラン類として、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが望ましい。
本発明に用いられるオルガノシラン(2)は、上記オルガノシラン(2)を1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。たとえば、トリアルコキシシランのみ、またはトリアルコキシシラン40〜95モル%とジアルコキシシラン60〜5モル%との混合物が特に好ましく用いられる。ジアルコキシシランとトリアルコキシシランとを併用することにより、得られるコーティング膜が柔軟化し、耐アルカリ性を向上させることができる。
本発明では、シラン化合物(b)として、オルガノシラン(2)をそのまま使用してもよいが、オルガノシラン(2)の加水分解物および/または縮合物を使用することができる。
オルガノシラン(2)の加水分解物は、オルガノシラン(2)に含まれる2〜4個のOR基のうちの少なくとも1個が加水分解されていればよく、たとえば、1個のOR基が加水分解されたもの、2個以上のOR基が加水分解されたもの、あるいはこれらの混合物であってもよい。
オルガノシラン(2)の縮合物は、オルガノシラン(2)が加水分解して生成する加水分解物中のシラノール基が縮合してSi−O−Si結合を形成したものである。本発明では、シラノール基がすべて縮合している必要はなく、前記縮合物は、僅かな一部のシラノール基が縮合したもの、大部分(全部を含む)のシラノール基が縮合したもの、さらには、これらの混合物などをも包含する。
このようなオルガノシラン(2)の加水分解物および/または縮合物は、オルガノシラン(2)を予め加水分解・縮合させて製造することができる。また、後述するように、光触媒コーティング用組成物を調整する際に、オルガノシラン(2)と水とを加水分解・縮合させて、オルガノシラン(2)の加水分解物および/または縮合物を調製することもできる。なお、この水は、独立して添加してもよいし、光触媒物質(a)あるいは後述する(e)水または有機溶媒に含有される水を使用してもよい。前記水の量は、オルガノシラン(2)1モルに対して、通常0.5〜3モル、好ましくは0.7〜2モルが望ましい。
このようなオルガノシラン(2)の縮合物は、ポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、「Mw」と表す)が、好ましくは300〜100,000、より好ましくは500〜50,000の縮合物が用いられる。
本発明におけるシラン化合物(c)は、上記シラン化合物を調製してもよいし、市販されているシラン化合物を用いてもよい。市販されているシラン化合物としては、三菱化学(株)製のMKCシリケート、コルコート社製のエチルシリケート、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製のシリコーンレジン、GE東芝シリコーン(株)製のシリコーンレジン、信越化学工業(株)製のシリコーンレジン、ダウコーニング・アジア(株)製のヒドロキシル基含有ポリジメチルシロキサン、日本ユニカー(株)製のシリコーンオリゴマーなどが挙げられる。これらの市販されているシラン化合物は、そのまま用いてもよく、縮合させて使用してもよい。
このようなシラン化合物(c)は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明において、シラン化合物(c)は、光触媒コーティング用組成物から上記光触媒物質(a)を除いたもののうちの固形分に対して、完全加水分解縮合物換算で5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上の量で用いられることが望ましい。ここで、完全加水分解縮合物とは、式(2)中のOR基が100%加水分解してSi−OH基となり、さらにSi−OH基が完全に縮合してシロキサン構造を形成したものをいう。シラン化合物(c)の含有率が上記下限未満であると、形成されたコーティング膜が脆く、チョーキング等が発生することがある。
(d)オルガノシロキサンオリゴマー:
本発明に用いられるオルガノシロキサンオリゴマー(d)は、Si−O結合を有し、重量平均分子量が300〜100,000であり、かつ、側鎖および/または末端に下記式(3)

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜5個のアルキル基を表し、Rは水素原子または炭素数1〜5個のアルキル基を表し、pおよびqは、それぞれ独立に、p+qの値が2〜50となる数である)
で表される構造を含有する。
上記式(3)で表される官能基として、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)基などのポリオキシアルキレン基が挙げられる。オルガノシロキサンオリゴマー(d)がこのような官能基を含有することにより、官能基中のポリオキシアルキレン基の部分が光触媒物質(a)に吸着しやすく、光触媒物質(a)の分散安定性が向上する。
オルガノシロキサンオリゴマー(d)に主鎖には、水酸基、ハロゲン原子、または炭素数1〜15の有機基を含む官能基が置換していてもよい。
前記ハロゲン原子としてフッ素、塩素などが挙げられる。
炭素数1〜15の有機基として、アルキル基、アシル基、アルコキシル基、アルコキシシリル基、ビニル基、アリル基、アセトキシル基、アセトキシシリル基、シクロアルキル基、フェニル基、グリシジル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アミド基、フルオロアセトアミド基、イソシアナート基などが挙げられる。
炭素数1〜15のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。
炭素数1〜15のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トルオイル基などが挙げられる。
炭素数1〜15のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。
炭素数1〜15のアルコキシシリル基としては、メトキシシリル基、エトキシシリル基、プロポキシシリル基、ブトキシシリル基などが挙げられる。
これらの基は、部分的に加水分解・縮合したものであってもよく、置換誘導体であってもよい。置換誘導体の置換基として、たとえば、ハロゲン原子、置換もしくは非置換のアミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアナート基、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、(メタ)アクリルオキシ基、ウレイド基、アンモニウム塩基、ケトエステル基などが挙げられる。
これらのうち、シリル基のケイ素原子が加水分解性基および/または水酸基と結合した構造を含有するオルガノシロキサンオリゴマー(d)が特に好ましく用いられ、たとえば、クロロシランの縮合物あるいはアルコキシシランの縮合物が用いられる。このようなオルガノシロキサンオリゴマー(d)は、本発明に係る光触媒コーティング組成物を硬化する際に、チタン化合物(b)およびシラン化合物(c)と共縮合して固定化されるため、安定なコーティング膜を得ることができる。
オルガノシロキサンオリゴマー(d)のポリスチレン換算の重量平均分子量(以下「Mw」ともいう)は、300〜100,000、好ましくは600〜50,000である。重量平均分子量が、上記下限未満では得られるコーティング膜が十分な柔軟性を得られないことがあり、また、上記上限を超えると得られるコーティング組成物が十分な保存安定性を得られないことがある。
本発明において、オルガノシロキサンオリゴマー(d)は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上を混合したオルガノシロキサンオリゴマー(d)として、Mw=400〜2,800のオルガノシロキサンオリゴマーとMw=3,000〜50,000のオルガノシロキサンオリゴマーとの混合物、または異なる官能基を有する2種類のオルガノシロキサンオリゴマーの混合物が挙げられる。
また、本発明では、オルガノシロキサンオリゴマー(d)として、市販されているオルガノシロキサンオリゴマーを用いることができ、たとえば、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製の変性シリコーンオイル、GE東芝シリコーン(株)製の変性シリコーンオイル、信越化学工業(株)製の変性シリコーンオイル、日本ユニカー(株)製の変性シリコーンオリゴマーなどが挙げられる。これらのオルガノシロキサンオリゴマーは、そのまま使用してもよく、または縮合させて使用してもよい。
本発明に用いられるオルガノシロキサンオリゴマー(d)の量は、光触媒物質(a)の固形分100重量部に対して、1〜200重量部、好ましくは5〜100重量部、さらに好ましくは10〜80重量部が望ましい。オルガノシロキサンオリゴマー(d)の量が、上記下限未満であると十分な分散安定性を得られないことがあり、上記上限を超えると形成されたコーティング膜が脆く、チョーキング等が発生することがある。
(e)水および/または有機溶剤:
本発明に係る光触媒コーティング用組成物は、(e)水および/または有機溶剤を含有する。有機溶剤としては、公知の有機溶剤を使用することができ、たとえば、アルコール類、芳香族炭化水素類、エーテル類、ケトン類、エステル類が挙げられる。
より具体的には、アルコール類として、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレンモノメチルエーテルアセテート、ジアセトンアルコールなどが挙げられ、
芳香族炭化水素類として、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられ、
エーテル類として、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられ、
ケトン類として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどが挙げられ、
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ノルマルプロピル、乳酸イソプロピル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチルなどが挙げられる。
これらの有機溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
(f)触媒:
本発明に係る光触媒コーティング組成物は、シラン化合物(c)の加水分解・縮合反応を促進する触媒(f)をさらに含有することが好ましい。本発明に用いられる触媒(f)として、酸性化合物、アルカリ性化合物、塩化合物、アミン化合物、有機金属化合物および/またはその部分加水分解物(以下、有機金属化合物および/またはその部分加水分解物をまとめて、「有機金属化合物類」という)が挙げられる。
前記酸性化合物として、たとえば、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、アルキルチタン酸、p−トルエンスルホン酸、フタル酸などが挙げられ、これらのうち酢酸が好ましい。
前記アルカリ性化合物として、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、これらのうち水酸化ナトリウムが好ましい。
前記塩化合物として、ナフテン酸、オクチル酸、亜硝酸、亜硫酸、アルミン酸、炭酸などのアルカリ金属塩などが挙げられる。
前記アミン化合物として、たとえば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ピペリジン、ピペラジン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、エタノールアミン、トリエチルアミン、3−アミノプロピル・トリメトキシシラン、3−アミノプロピル・トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・トリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・メチル・ジメトキシシラン、3−アニリノプロピル・トリメトキシシラン、アルキルアミン塩類、四級アンモニウム塩類が挙げられる。また、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる各種変性アミンなどを用いることもできる。これらのうち、3−アミノプロピル・トリメトキシシラン、3−アミノプロピル・トリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)−アミノプロピル・トリメトキシシランが好ましい。
前記有機金属化合物類としては、たとえば、下記式(4)

(式中、Mは、ジルコニウム、チタンおよびアルミニウムからなる群からを選択される少なくとも1種の金属原子を表し、RおよびRは、それぞれ独立に、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基などの炭素数1〜6個の1価の炭化水素基を表し、R10は、前記炭素数1〜6個の1価の炭化水素基、または、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ラウリルオキシ基、ステアリルオキシ基などの炭素数1〜16個のアルコキシル基を表し、rおよびsは、それぞれ独立に0〜4の整数であって、(r+s)=(Mの原子価)の関係を満たす)
で表される化合物(以下、「有機金属化合物(4)」という)、
1つのスズ原子に炭素数1〜10個のアルキル基が1〜2個結合した4価のスズの有機金属化合物(以下、「有機スズ化合物」という)、あるいは、
これらの部分加水分解物などが挙げられる。
また、有機金属化合物類として、上記したチタン化合物(b)を用いることができる。
有機金属化合物(4)として、たとえば、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(n−プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウムなどの有機ジルコニウム化合物;
テトラ−i−プロポキシチタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトン)チタニウムなどの有機チタン化合物;
トリ−i−プロポキシアルミニウム、ジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、ジ−i−プロポキシ・アセチルアセトナートアルミニウム、i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、モノアセチルアセトナート・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物が挙げられる。
これらの有機金属化合物(4)およびその部分加水分解物のうち、トリ−n−ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、あるいはこれらの部分加水分解物が好ましく用いられる。
有機スズ化合物として、たとえば、

などのカルボン酸型有機スズ化合物;


などのメルカプチド型有機スズ化合物;

などのスルフィド型有機スズ化合物;

などのクロライド型有機スズ化合物;


などの有機スズオキサイド;
これらの有機スズオキサイドと、シリケート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フタル酸ジオクチルなどのエステル化合物との反応生成物
などが挙げられる。
このような触媒(f)は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよく、また、亜鉛化合物やその他の反応遅延剤と混合して使用することもできる。
触媒(f)は、本発明に係る光触媒コーティング用組成物を調製する工程で配合してもよく、また、コーティング膜を形成する工程で光触媒コーティング用組成物に配合してもよく、さらには、光触媒コーティング用組成物の調製工程とコーティング膜の形成工程との両方で配合してもよい。
本発明に用いられる触媒(f)の量は、シラン化合物(c)中に含まれるOR基1モルに対して、通常10モル以下、好ましくは0.001〜7モル、より好ましくは0.001〜5モルが望ましい。触媒(f)の量が上記上限を超えると、光触媒コーティング用組成物の保存安定性が低下したり、コーティング膜にクラックが発生することがある。
触媒(f)は、シラン化合物(c)、オルガノシロキサンオリゴマー(d)などの加水分解・縮合反応を促進する。したがって、触媒(f)を使用することにより、たとえば、オルガノシロキサンオリゴマー(d)の重縮合反応により生成するポリシロキサン樹脂の分子量が大きくなり、得られるコーティング膜の硬化速度を向上させるとともに、強度や耐久性などに優れたコーティング膜を得ることができ、かつコーティング膜の厚膜化を図ることができ、塗装作業も容易となる。
(g)安定性向上剤:
本発明に係る光触媒コーティング用組成物には、必要に応じて安定性向上剤(g)を含有させることができる。本発明に用いられる安定性向上剤(g)は、下記式(5)

(式中、R11は、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基などの炭素数1〜6個の1価の炭化水素基を表し、R12は、前記炭素数1〜6個の1価の炭化水素基、または、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ラウリルオキシ基、ステアリルオキシ基などの炭素数1〜16個のアルコキシル基を表す)
で表されるβ−ジケトン類、β−ケトエステル類、カルボン酸化合物、ジヒドロキシ化合物、アミン化合物およびオキシアルデヒド化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
このような安定性向上剤(g)として、たとえば、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−n−プロピル、アセト酢酸−i−プロピル、アセト酢酸−n−ブチル、アセト酢酸−sec−ブチル、アセト酢酸−t−ブチル、ヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、ヘプタン−3,5−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、ノナン−2,4−ジオン、5−メチルヘキサン−2,4−ジオン、マロン酸、シュウ酸、フタル酸、グリコール酸、サリチル酸、アミノ酢酸、イミノ酢酸、エチレンジアミン四酢酸、グリコール、カテコール、エチレンジアミン、2,2−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、ジエチレントリアミン、2−エタノールアミン、ジメチルグリオキシム、ジチゾン、メチオニン、サリチルアルデヒドなどが挙げられる。これらのうち、アセチルアセトンおよびアセト酢酸エチルが好ましい。
このような安定性向上剤(g)は、チタン化合物(b)または触媒(f)として有機金属化合物類を使用する場合に、特に好ましく用いられる。また、安定性向上剤(g)は、1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
安定性向上剤(g)を用いることによって、安定性向上剤(g)が有機金属化合物類の金属原子に配位し、この配位が、シラン化合物(c)やオルガノシロキサンオリゴマー(d)の共縮合反応についての有機金属化合物類の促進作用を適度に調節し、得られる光触媒コーティング用組成物の保存安定性をさらに向上させることができると考えられる。
本発明に用いられる安定性向上剤(g)の量は、前記有機金属化合物類の有機金属化合物1モルに対して、通常2モル以上、好ましくは3〜20モルが望ましい。安定性向上剤(g)の量が上記下限未満であると、固形分濃度が高い光触媒コーティング用組成物では、得られる組成物の保存安定性の向上効果が不充分となることがある。
(h)その他の添加剤:
本発明に係る光触媒コーティング用組成物には、必要に応じて、
オルトギ酸メチル、オルト酢酸メチル、テトラエトキシシランなどの公知の脱水剤;
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、ポリカルボン酸塩、ポリリン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリアミドエステル塩、ポリエチレングリコールなどの分散剤
を配合することができる。
また、本発明に係る組成物のコーティング性(製膜性ともいう)をより向上させるために、レベリング剤を配合することができる。このようなレベリング剤として、たとえば、ビーエムケミー(BM−CHEMIE)社のBM1000(商品名、以下同様)、BM1100;エフカケミカルズ社のエフカ772、エフカ777;共栄社化学(株)のフローレンシリーズ;住友スリーエム(株)のFCシリーズ;東邦化学(株)のフルオナールTFシリーズなどのフッ素系のレベリング剤;
ビックケミー社のBYKシリーズ;シュメグマン(Sshmegmann)社のSshmegoシリーズ;エフカケミカルズ社のエフカ30、エフカ31、エフカ34、エフカ35、エフカ36、エフカ39、エフカ83、エフカ86、エフカ88などのシリコーン系のレベリング剤;
日信化学工業(株)のカーフィノール;花王(株)のエマルゲン、ホモゲノールなどのエーテル系またはエステル系のレベリング剤が挙げられる。
このようなレベリング剤を配合することにより、コーティング膜の仕上がり外観が改善されるとともに、均一な薄膜を調製することができる。
本発明において、レベリング剤は、全組成物に対して、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.02〜3重量%の量で用いられる。
レベリング剤を配合する方法は、本発明に係る光触媒コーティング用組成物を調製する工程で配合してもよく、またコーティング膜を形成する工程で光触媒コーティング用組成物に配合してもよく、さらには光触媒コーティング用組成物の調製工程とコーティング膜の形成工程との両方で配合してもよい。
<光触媒コーティング用組成物の製造方法>
本発明に係る光触媒コーティング用組成物の製造方法は、少なくとも光触媒物質(a)、チタン化合物(b)およびオルガノシロキサンオリゴマー(d)の存在下、シラン化合物(c)を加水分解・縮合させる方法が好ましい。具体的には、以下の方法が挙げられる。
(1)光触媒物質(a)が粉末の場合:
光触媒物質(a)に、(e)水および/または有機溶剤、(b)チタン化合物および(d)オルガノシロキサンオリゴマーを添加し、たとえば分散機により分散した後、(c)シラン化合物と、必要に応じて(e)水および/または有機溶剤、および/または(f)触媒とを添加し、加水分解・縮合させる。
(2)光触媒物質(a)がスラリーの場合:
光触媒物質(a)に、(b)チタン化合物および(d)オルガノシロキサンオリゴマーを添加し、攪拌した後、さらに(c)シラン化合物と、必要に応じて(e)水および/または有機溶剤、および/または(f)触媒とを添加し、加水分解・縮合させる。
上記製造方法(1)および(2)において、成分(b)〜(f)は、それぞれを一括添加しても、逐次添加してもよい。特に、光触媒物質(a)に対する相溶性が低い成分については、逐次添加することが好ましい。ここで、「一括添加」とは、ある1種の成分を一時に添加することをいい、「逐次添加」とは、ある1種の成分を任意の時間をかけて添加することをいう。さらに、成分(b)〜(f)は、それぞれを一括添加する場合、成分(b)〜(f)を一時に一括して添加してもよいが、光触媒物質との相溶性を考慮して、各成分を独立して添加してもよい。
前記製造方法(1)において用いられる分散機として、超音波分散機、ボールミル、サンドミル(ビーズミル)、ホジナイザー、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、プロペラミキサー、ハイシェアミキサーなどが挙げられる。
本発明に係る光触媒コーティング用組成物中の全固形分濃度は、通常1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%が望ましい。全固形分濃度が上記上限を超えると、保存安定性が低下することがある。
本発明に係る光触媒コーティング用組成物は、通常、使用目的に応じてさらに適宜調製することができ、たとえば、基材に製膜するコーティング膜の材料や劣化塗膜の再塗装用材料として用いることができる。
<コーティング膜>
本発明に係るコーティング膜は、前記光触媒コーティング用組成物を、たとえば下記の基材に製膜して形成させることができる。
(基材)
前記基材として、たとえば、鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属;
セメント、コンクリート、軽量コンクリート(ALC)、フレキシブルボード、モルタル、スレート、石膏、セラミックス、レンガなどの無機窯業系材料;
フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)、熱可塑性ノルボルネン系樹脂などのプラスチック成型品;
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアクリル、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ノルボルネン系樹脂などのプラスチックフィルムおよびプラスチックシート;
シリコンウエハー、石英ガラス、ガラスなどの無機材料や、木材、紙、不織布などが挙げられる。
これらの基材は、下地調整、密着性向上、多孔質基材の目止め、平滑化、模様付けなどを目的として、予め表面処理を施してもよい。
金属系基材に対する表面処理として、研磨、脱脂、メッキ処理、クロメート処理、火炎処理、カップリング処理など;
プラスチック系基材に対する表面処理として、ブラスト処理、薬品処理、脱脂、火炎処理、酸化処理、蒸気処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、イオン処理など;
無機窯業系基材に対する表面処理として、研磨、目止め、模様付けなど;
木質基材に対する表面処理として、研磨、目止め、防虫処理など;
紙質基材に対する表面処理として、目止め、防虫処理など;
劣化塗膜に対する表面処理として、ケレンなどが挙げられる。
また、基材との密着性を確保するために各種プライマーを用いてもよい。
(コーティング膜形成方法)
本発明に係るコーティング膜を形成する方法は、たとえば、前記光触媒コーティング用組成物を基材に製膜した後、この塗膜を乾燥する方法が挙げられる。
前記光触媒コーティング用組成物を基材に製膜する方法として、たとえば、刷毛、ロールコーター、バーコーター、フローコーター、遠心コーター、超音波コーター、(マイクロ)グラビアコーターなどを用いた塗布;ディップコート;流し塗り;スプレー;スクリーンプロセス;電着;蒸着など方法が挙げられる。
これらの方法により光触媒コーティング用組成物を基材に製膜した後、常温で乾燥することにより、または30〜200℃程度の温度で通常1〜60分間加熱して乾燥することにより、安定なコーティング膜を形成することができる。
本発明に係る光触媒コーティング用組成物を製膜すると、1回塗りの場合には乾燥膜厚0.05〜20μm程度、2回塗りの場合には乾燥膜厚0.1〜40μm程度のコーティング膜を形成することができる。
本発明に係るコーティング膜は、前記光触媒物質(a)と、ポリチタノキサンと、ポリシロキサンとを含む。このポリチタノキサンは前記チタン化合物(b)に由来すると推定される。また、前記ポリシロキサンは前記シラン化合物(c)および/または前記オルガノシロキサンオリゴマー(d)に由来すると考えられる。
前記光触媒物質(a)が、前記ポリチタノキサンに隣接し、かつ前記ポリチタノキサンを介して前記ポリシロキサン中に分散していることが望ましい。
前記光触媒物質(a)は、前記ポリチタノキサンを介して前記ポリシロキサンと結合することにより、前記光触媒物質(a)の分散粒子径を減少させる作用や分散性を高める作用があると考えられる。また、前記ポリシロキサンはコーティング膜を安定させる作用がある。
本発明に係るコーティング膜は、前記光触媒物質(a)の固形分100重量部に対して、ポリチタノキサンを、通常1〜50重量部、好ましくは2〜45重量部、さらに好ましくは3〜40重量部含有することが望ましい。ポリチタノキサンの含有量が上記下限未満であると結合安定性や分散性が劣ることがあり、上記上限を超えると可視光での光触媒機能を損なうことがある。また、ポリシロキサンは、前記コーティング膜中に、通常1〜200重量部、好ましくは5〜100重量部、さらに好ましくは10〜80重量部含まれることが望ましい。ポリシロキサンの含有量が、上記下限未満であると十分な分散安定性を得られないことがあり、上記上限を超えると形成されたコーティング膜が脆く、チョーキング等が発生することがある。
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、この実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例中の部および%は、特に限定しない限り、重量基準とする。また、光触媒コーティング用組成物を下記の方法により評価した。
(1)保存安定性:
光触媒コーティング用組成物をポリエチレン製ビン内に常温で1ヶ月密栓保存して、ゲル化の有無を目視により判定した。ゲル化しなかったものについて、東京計器(株)製のBM型粘度計により粘度測定を行った。以下の基準に従って、光触媒コーティング用組成物の保存安定性を評価した。
A:密閉保存前後の粘度変化率が20%以下のもの
B:密閉保存前後の粘度変化率が20%を超えるもの
C:密閉保存後、ゲルが生成したもの
(2)透明性:
光触媒コーティング用組成物を、i−プロピルアルコールで固形分濃度5%に希釈し、石英ガラス上に、ROD.NO.3のバーコーターで乾燥膜厚が0.2μmになるように塗布したのち、150℃で1時間乾燥した。ガードナー社製のヘイズ試験器(haze−gard plus illuminant CIE−C)を用いてコーティング膜の全光線透過率を測定した。下記基準にしたがってコーティング膜の透明性を評価した。
A:全光線透過率が80%を超えるもの
B:全光線透過率が60〜80%のもの
C:全光線透過率が60%未満のもの
(3)光触媒性能:
光触媒コーティング用組成物を不織布にコーティングした。
この不織布を容積1リットルのガラス製容器に入れ、アセトアルデヒドを600ppm導入した。蛍光ランプ(FL10N、松下電器産業(株)製)を用い、410nm以下の紫外線をフィルタ(SC42、富士写真フィルム(株)製)によってカットした可視光のみを照射(1.8mW/cm)し、温度25℃でアセトアルデヒドの分解反応を行った。アセトアルデヒドが分解して生成した二酸化炭素の濃度をメタナイザ付きガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製、商品名:GC−14B、MTN−1)により測定した。
(合成例1)
一次粒径が7nmの酸化チタン粉末(ST01、石原産業(株)製)を、アンモニアを含む雰囲気下、600℃で熱処理して、可視光応答型光触媒粉末A(1次粒子径19nm)を製造した。
(合成例2)
一次粒径7nmの酸化チタン粉末(ST01、石原産業(株)製)と、常温で酸化チタンに吸着する尿素との混合物を250〜350℃の温度範囲で加熱をして、可視光応答型光触媒粉末Bを製造した。
【実施例1】
光触媒物質(a)として合成例1で調製した可視光応答型光触媒粉末A:60部、チタン化合物(b)としてテトラ−n−ブトキシチタンの10量体(日本曹達(株)製、商品名:B−10):32部、シラン化合物(c)としてメチルトリメトキシシラン:200部、オルガノシロキサンオリゴマー(d)としてエポキシ・ポリオキシアルキレン・アルコキシ変性ジメチルポリシロキサン(日本ユニカー(株)製:MAC−2101):41部、有機溶媒(e)としてイソプロピルアルコール:44部を容器に入れ、粒子径0.3mmのジルコニアビーズ:300部を加え、ビーズミルを用いて1500rpmで1時間攪拌・分散した。その後、有機溶剤(e)としてi−プロピルアルコール:577部を添加し、ビーズを除去した後、触媒(f)としてジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム:10部、水(e):50部を添加し、60℃で4時間加熱攪拌して、固形分濃度約20%の光触媒コーティング用組成物Aを得た。得られた組成物Aの保存安定性は「A」、透明性は「A」であった。
この光触媒コーティング用組成物Aを不織布にコーティングし、光触媒性能試験を行った。結果を図1に示す。不織布のみでは二酸化炭素は発生しなかったが、光触媒コーティング用組成物Aをコーティングした不織布では、可視光の照射により二酸化炭素が発生し、光触媒効果が確認された。
【実施例2】
光触媒物質(a)として合成例2で調製した可視光応答型光触媒粉末B:60部を用いた以外は、実施例1と同様にして固形分濃度約20%の光触媒コーティング用組成物Bを得た。得られた組成物Bの保存安定性は「A」、透明性は「A」であった。
実施例1と同様にして、この光触媒コーティング用組成物Bの光触媒性能を評価した。図1に示すように、光触媒コーティング用組成物Bをコーティングした不織布についても光触媒効果が確認された。
[比較例1]
光触媒物質(a)として合成例1で調製した可視光応答型光触媒粉末A:60部、シラン化合物(c)としてメチルトリメトキシシラン:200部、オルガノシロキサンオリゴマー(d)としてMAC−2101:41部、有機溶媒(e)としてi−プロピルアルコール:44部を容器に入れ、粒子径0.3mmのジルコニアビーズ:300部を加え、ビーズミルを用いて1500rpmで1時間攪拌・分散した。その後、有機溶剤(e)としてi−プロピルアルコール:545部を添加し、ビーズを除去した後、触媒(f)としてジ−i−プロポキシ・エチルアセトアセテートアルミニウム:10部、水(e):50部を添加し、60℃で4時間加熱攪拌して、固形分濃度約20%の光触媒コーティング用組成物Cを得た。保存安定性は非常に悪く、静置1時間後で分離、沈降した(評価「C」)。透明性は「C」であった。
この光触媒コーティング用組成物Cを用いてコーティングすると、均一なコーティング膜が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明によると、400nm以下のスペクトル成分が少なく、可視光が多い環境下、たとえば室内環境下や紫外線カットガラスを有する車室内においても、十分な光触媒作用を示し、かつ透明性に優れたコーティング膜を得ることができ、さらには分散液の保存安定性に優れた光触媒コーティング用組成物を得ることができる。また、このような光触媒コーティング用組成物から得られるコーティング膜は有機物分解など光触媒性能を利用した幅広い用途に好適に使用できる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)金属酸化物の結晶の酸素サイトの一部を窒素原子で置換したもの、
(ii)金属酸化物の結晶の格子間に窒素原子をドーピングしたもの、および
(iii)金属酸化物の結晶の多結晶集合体の粒界に窒素原子を配したものからなる群から選択される少なくとも1種の可視光応答型の光触媒物質、
(b)下記式(1)

(式中、Rは炭素数1〜8個の有機基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜6個のアルキル基、炭素数1〜6個のアシル基およびフェニル基からなる群から選択される有機基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、mは0〜3の整数である)
で表される、オルガノチタンおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のチタン化合物、
(c)下記一般式(2)

(式中、Rは炭素数1〜8個の1価の有機基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、Rは炭素数1〜5個のアルキル基または炭素数1〜6個のアシル基を表し、複数個存在する場合には同じであっても異なっていてもよく、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、nは0〜3の整数である)
で表される、オルガノシランおよびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のシラン化合物、
(d)Si−O結合を有し、重量平均分子量が300〜100,000であり、かつ下記式(3)

(式中、RおよびRは炭素数1〜5個のアルキル基を表し、同じであっても異なっていてもよく、Rは水素原子または炭素数1〜5個のアルキル基を表し、pおよびqは、p+qの値が2〜50となる数である)
で表される構造を含有するオルガノシロキサンオリゴマー、
(e)水および/または有機溶剤
を含有することを特徴とする光触媒コーティング用組成物。
【請求項2】
さらに、前記シラン化合物(c)の加水分解・縮合反応を促進する触媒(f)を含有することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の光触媒コーティング用組成物。
【請求項3】
光触媒物質(a)中の金属酸化物の金属原子の一部が窒素原子と化学結合を形成していることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の光触媒コーティング用組成物。
【請求項4】
前記金属酸化物が酸化チタンであることを特徴とする請求の範囲第1項〜第3項のいずれかに記載の光触媒コーティング用組成物。
【請求項5】
請求の範囲第1項〜第4項のいずれかに記載の光触媒コーティング用組成物から得られるコーティング膜であって、
前記光触媒物質(a)と、ポリチタノキサンと、ポリシロキサンとを
含有することを特徴とするコーティング膜。
【請求項6】
前記光触媒物質(a)が、前記ポリチタノキサンに隣接し、かつ該ポリチタノキサンを介してポリシロキサン中に分散していることを特徴とする請求の範囲第5項に記載のコーティング膜。

【国際公開番号】WO2004/081130
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503494(P2005−503494)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002740
【国際出願日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】