説明

光触媒コーティング組成物

【課題】基材に対する浸食を防止しながら、優れた耐候性、有害ガス分解性、カビや藻の繁殖抑制ならびにその他の所望の特性(透明性、膜強度等)を有する光触媒コーティングを形成可能な、優れた液剤の安定性を有する光触媒コーティング組成物を提供する。
【解決手段】この光触媒コーティング組成物は、溶媒中に、酸化チタン粒子と、無機酸化物粒子と、銅元素と、銀元素と、水酸化第四アンモニウムと、任意成分として加水分解性シリコーンとを含んでなる。また、光触媒コーティング組成物の原料である光触媒酸化チタンゾルに水酸化第四アンモニウムを含むことで銅および銀を安定に分散させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な光触媒コーティングを形成可能であり、また液剤の安定性に優れた光触媒コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンなどの光触媒が、建築物の外装材など多くの用途において近年利用されている。光触媒の利用により、光エネルギーを利用して種々の有害物質を分解したり、あるいは、光触媒が塗布された基材表面を親水化して表面に付着した汚れを容易に水で洗い流すことが可能となる(特許文献1〜3参照)。
【0003】
酸化チタンの光触媒効果は、原則として、太陽光や紫外線ランプなどの光が照射されているときだけに限定される。光触媒による効果の内、超親水性に起因する防汚性については連続的に紫外線が照射されずとも、間欠的な照射によっても光触媒機能を有する膜表面の外観的な汚れは取り除くことができる。また、有害物質の分解においても、自然に増加しない物質であれば、間欠的な光照射で徐々に分解が進むことになる。しかしながら、抗菌性や脱臭効果については、光触媒効果が発現していない間に菌や臭気が増殖、拡大することから、効果を持続させるためには連続的な紫外線の照射が好ましいといえる。したがって、屋内、屋外において用いられる建材やその他のアメニティー関連製品などは独自の光源を持たないため、太陽光やランプがない暗所では光触媒が機能しないことになる。
【0004】
光のない暗所で抗菌効果を発現させるには、光触媒以外の抗菌剤を光触媒と併用させることがもっとも安易で簡便な方法である。抗菌剤には各種の化合物があるが、光触媒が有機物を分解することから、光触媒と併用する場合には、無機物からなる抗菌剤を使用する必要がある。無機の抗菌性成分としては銀、銅、亜鉛等の金属が挙げられ、これらを基材表面に存在させて抗菌性を発現させる各種の工業製品が数多く開発されている。
【0005】
光触媒においてもこのような抗菌性金属の効果を利用することができ、例えば光触媒と抗菌性金属を同一塗膜上に存在させることによって照射光の有無にかかわらず抗菌性を発現させることができる。
【0006】
例えば、光触媒を含む塗膜形成材料に抗菌性金属である銀や銅の化合物を混合した後、光を照射して銀や銅の化合物を還元処理することによって、抗菌性金属を光触媒に固定する技術が知られている(特許文献4参照)。しかしながら、このような方法では効率の低い還元処理の工程が増えることになり、コストアップになる。
【0007】
また、光触媒を含む塗膜形成材料に抗菌性金属である銀や銅の化合物を混合する技術も知られている(特許文献5参照)。この技術にあっては、塗膜形成材料としては酸化チタンが利用されており、酸化チタンの酸性分散体に、銀や銅がそれぞれ硝酸塩の状態で混合されている。硝酸で安定化された酸化チタンゾルに硝酸銀水溶液を加えた場合、硝酸銀を添加してしばらくは見かけ上安定である。しかし、やがて銀成分が還元を受ける結果、ゾルが黄色から茶色に着色し、ついには銀成分の沈殿さえ生じるようになる。ゾルに沈殿が生じると、塗膜が安定に形成できず、沈殿物により塗布後の外観に不具合が生じたり、抗菌性効果にバラツキが生じる。そこで、着色や沈殿が生じないように塗膜の製造直前にゾルに銀成分を都度添加することも考えられるが合理的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第97/00134号パンフレット
【特許文献2】特開平11−140432号公報
【特許文献3】特開平11−169727号公報
【特許文献4】特開平11−169726号公報
【特許文献5】特開2000−051708号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、今般、酸化チタン粒子と無機酸化物粒子とを含み、さらに銅元素および銀元素ならびに水酸化第四アンモニウムを含むコーティング組成物が、変色や沈殿発生が無く安定であるとの知見を得た。
【0010】
したがって、本発明の目的は、液剤の安定性に優れた光触媒コーティング組成物を提供することにある。
【0011】
すなわち、本発明による光触媒コーティング組成物は 酸化チタン粒子、無機酸化物粒子、銅元素、銀元素、水酸化第四アンモニウム、および溶媒を含んでなるものである。また、本発明による光触媒コーティング組成物の好ましい一態様においては、任意成分として加水分解性シリコーンを含有することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
光触媒コーティング組成物
本発明の光触媒コーティング組成物は、酸化チタン粒子、無機酸化物粒子、銅元素、銀元素、水酸化第四アンモニウム、および溶媒を含んでなる。本発明によれば、酸化チタン粒子を含有するコーティング組成物に銅元素と銀元素とを安定的に含有させることが可能となった。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の光触媒コーティング組成物は、任意成分として加水分解性シリコーンをさらに含んでなり、
1質量部以上20質量部未満の前記酸化チタン粒子と、
70質量部を超え99質量部以下の前記無機酸化物粒子と、
シリカ換算で0質量部以上10質量部未満の前記加水分解性シリコーンと、
を、前記酸化チタン粒子、前記無機酸化物粒子および前記加水分解性シリコーンのシリカ換算量の合計量が100質量部となるように含んでなる。本発明によるコーティング組成物を用いて光触媒層を形成することにより、基材(特に有機基材)への浸食を抑制しながら、被膜の耐候性、有害ガス分解性、カビや藻の繁殖抑制、または所望の各種被膜特性(透明性、膜強度等)に優れた被膜を得ることが可能となる。
【0014】
本発明に用いる酸化チタン粒子は、アナターゼ型酸化チタン粒子が好ましい。本発明の好ましい態様によれば、酸化チタン粒子が10nm以上100nm以下の平均粒径を有するのが好ましく、より好ましくは10nm以上60nm以下である。なお、この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が最も好ましいが、略円形や楕円形でも好ましく、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。この範囲内であると、耐候性、有害ガス分解性、および所望の各種被膜特性(透明性、膜強度等)が効率良く発揮される。
【0015】
本発明の光触媒コーティング組成物における酸化チタン粒子の好ましい含有量は、酸化チタン粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンのシリカ換算量の合計量100質量部に対して、1質量部以上20質量部未満であり、より好ましくは1質量部を超え15質量部以下である。このように酸化チタン粒子の配合割合を少なくすることで、酸化チタン粒子の基材との直接的な接触をできるだけ少なくして、基材(特に有機材料)に対する浸食を防止することができ、耐候性も向上すると考えられる。それにもかかわらず、有害ガス分解性といった光触媒活性に起因する機能も十分に発揮させることができる。さらに、酸化チタン粒子の含有量を、1質量部を超え5質量部未満、より好ましくは2質量部以上4.5質量部以下とすることで、光触媒層の耐候性をさらに大きく向上できる。また、酸化チタン粒子の含有量を5質量部以上15質量部以下、より好ましくは5質量部以上10質量部以下とすることで、前述した耐候性、光触媒活性に起因する機能のみならず、紫外線吸収性も充分に発揮させることができる。
【0016】
本発明の光触媒コーティング組成物における銀元素および銅元素の存在形態としては、酸化物、水酸化物などのイオン化していない、銀化合物および銅化合物が好ましい(以下、銀化合物を銀と、銅化合物を銅と、それぞれ称する)。本発明の好ましい態様によれば、光触媒コーティング組成物中の銀の含有量は、銀をAgOに換算して酸化チタン粒子に対して0.05質量%以上6.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下、より好ましくは、0.3質量%以上3質量%以下の範囲である。前記下限は、銀による抗菌効果が好ましく期待できるものであり、上限はコーティング組成物をより安定に存在させることが期待できる値である。
【0017】
本発明による光触媒コーティング組成物は、水酸化第四アンモニウムを含む。通常、アンモニアや一級〜三級アミン類等のアルカリ化合物はいずれもアルカリ性の酸化チタンのゾル自体を安定化する成分として知られているが、一方でこれらのアルカリ化合物は銀などの抗菌性金属を溶解させる傾向にある。一般に、抗菌金属成分の変色は抗菌金属のイオン化によるところが大きいと考えられ、抗菌性金属を溶解させるこれらアルカリ化合物がゾル中に存在することは好ましくないと考えられた。本発明者らは、今般、意外なことに、ゾルの分散安定化剤としてアルカリ化合物でありながら水酸化第四アンモニウムを用いることにより、上記問題が解決できるとの知見を得た。すなわち、水酸化第四アンモニウムは、抗菌金属をほとんど溶解させないため、光触媒酸化チタンゾルを安定化させながら抗菌金属の変色を抑制する傾向にあることを見出した。本発明に使用する水酸化第四アンモニウムとしては水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムを例示することができる。特に水酸化テトラメチルアンモニウムはそれ自身安定であり、容易に入手できることから本発明の光触媒コーティング組成物の安定化には好適である。
【0018】
水酸化第四アンモニウムの含有量は、酸化チタン1モルに対して0.01〜0.1モルの範囲で含有されることが、本発明による光触媒コーティング組成物を安定化させることができ好ましい。また、上記上限を超えて添加してもゾルの安定性が大幅に悪化することはないが、水酸化第四アンモニウムはわずかながら抗菌金属を溶解させるため、大量に用いることは避けることが好ましい。
【0019】
本発明において驚くべきことは、本発明による光触媒コーティング組成物中の銀の変色が、上記水酸化第四アンモニウムに加えて、銅の存在下で更に抑えられることである。銅の本発明による組成物中での形態については不明であるが、添加する材料形態としては酸化物、水酸化物などがゾルを不安定化する硝酸イオンや塩素イオンを含まないため好ましい。本発明による光触媒コーティング組成物中の銅の含有量は、銀および銅を各々AgO、およびCuOに換算した量として、AgO/CuOとして、質量比で0/100<[AgO/CuO]≦65/35が好ましく、より好ましくは10/90以上60/40以下である。その量が上記範囲にあることで、銅の変色を良く抑えることができる。また、銅および銀の量は、AgOおよびCuOに換算した合計量が酸化チタン粒子に対して0.1を超え10質量%以下添加されたものが好ましい。より好ましい範囲は0.1を超え8質量%以下であり、さらに好ましい範囲は0.5質量%以上5質量%以下である。
【0020】
光触媒と銅と銀が共存した状況で適当量の紫外線が照射された場合、抗カビ性に直接作用するのは光触媒と銅であると考えられる。銀化合物は光触媒によって発生した電子によって還元され、電荷分離効率の向上に寄与すると考えられる。従って、光触媒層中のAgO/CuO比率は、比率が小さすぎる場合、銀の共存による特異的な効果も小さくなり、逆に大きすぎる場合は、光触媒層中の銅の相対的な濃度が小さくなり、抗カビ性が小さくなること、さらには、銀による着色をよく抑える観点から決定されてよい。
【0021】
また、本発明の好ましい態様によれば、酸化チタン粒子の配合割合が無機酸化物粒子よりもかなり少なくする。このことで、酸化チタン粒子の基材との直接的な接触を最小限に抑えることができ、それにより基材(特に有機基材)を浸食しにくくなるものと考えられる。また、光触媒自体による紫外線吸収によって基材に到達する紫外線量を低減して紫外線による基材の損傷も低減できると考えられる。その結果、本発明の光触媒層は少なくともその表面が有機材料で形成された基材に対しても、基材保護のための中間層を介在させることなく、直接塗布して形成することができる。したがって、中間層の形成が不要となる分、光触媒塗装体の製造に要する時間やコストを削減できる点で有利である。また、上記したような種々の現象が同時に起こることで、基材(特に有機基材)に対する浸食を防止しながら、耐候性、有害ガス分解性、または所望の各種被膜特性(透明性、膜強度等)に優れた光触媒塗装体が実現される点でも有利であり、好ましい。
【0022】
本発明に用いる無機酸化物粒子は、酸化チタン粒子と共に層を形成可能な無機酸化物の粒子であれば特に限定されず、あらゆる種類の無機酸化物の粒子が使用可能である。そのような無機酸化物粒子の例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、イットリア、ボロニア、マグネシア、カルシア、フェライト、無定型チタニア、ハフニア等の単一酸化物の粒子;およびチタン酸バリウム、ケイ酸カルシウム等の複合酸化物の粒子が挙げられ、より好ましくはシリカ粒子である。これら無機酸化物粒子は、水を分散媒とした水性コロイド;またはエチルアルコール、イソプロピルアルコール、もしくはエチレングリコールなどの親水性溶媒にコロイド状に分散させたオルガノゾルの形態であるのが好ましく、特に好ましくはコロイダルシリカである。本発明の好ましい態様によれば、前記無機酸化物粒子が5nmを超え40nm未満の平均粒径を有する。より好ましくは5nmを超え30nm以下である。なお、本発明において、平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が最も好ましいが、略円形や楕円形でも好ましく、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。平均粒径が上記範囲内であることで、耐候性、有害ガス分解性、あるいは所望の各種被膜特性(透明性、膜強度等)が効率良く発揮される。とりわけ透明で密着性が良好な光触媒層を得ることができる。さらに、無機酸化物粒子の平均粒径を5nmを超え20nm以下とすることにより、光触媒層の耐摺動性をより高くすることができる。
【0023】
本発明の光触媒コーティング組成物における無機酸化物粒子の含有量は、酸化チタン粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンのシリカ換算量の合計量100質量部に対して、70質量部を超え99質量部以下であり、好ましくは85質量部以上99質量部未満である。
【0024】
本発明の光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを実質的に含まないのが好ましく、より好ましくは全く含まない。加水分解性シリコーンとは、アルコキシ基を有するオルガノシロキサンおよび/またはその部分加水分解縮合物の総称である。しかしながら、本発明の有害ガス分解性を確保できる程度であれば加水分解性シリコーンを任意成分として含有することは許容される。したがって、加水分解性シリコーンの含有量は、シリカ(SiO)換算で、酸化チタン粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンの合計量100質量部に対して、0質量部以上10質量部未満であり、好ましくは5質量部以下、最も好ましくは0質量部である。加水分解性シリコーンとしては、4官能シリコーン化合物がよく使用され、例えば、エチルシリケート40(オリゴマー、Rがエチル基)、エチルシリケート48(オリゴマー、Rがエチル基)メチルシリケート51(オリゴマー、Rがメチル基)(いずれもコルコート社製)の形で市販されている。
【0025】
光触媒コーティング組成物には任意成分として界面活性剤を含んでよい。本発明に用いる界面活性剤は、酸化チタン粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンのシリカ換算量の合計量100質量部に対して、0質量部以上10質量部未満含有されていてもよく、好ましくは0質量部以上8質量部以下であり、より好ましくは0以上6質量部以下である。界面活性剤の効果の1つとして基材へのレベリング性があり、光触媒コーティング組成物と基材との組合せによって界面活性剤の量を先述の範囲内で適宜決めれば良く、その際の下限値は0.1質量部とされてよい。この界面活性剤は光触媒コーティング組成物の濡れ性を改善するために有効な成分であるが、塗布後に形成される光触媒層にあってはもはや本発明の光触媒塗装体の効果には寄与しない不可避不純物に相当する。したがって、光触媒コーティング組成物に要求される濡れ性に応じて、上記の範囲内において使用されてよく、濡れ性を問題にしないのであれば界面活性剤は実質的にあるいは一切含まなくてよい。使用すべき界面活性剤は、酸化チタン粒子や無機酸化物粒子の分散安定性、中間層上に塗布した際の濡れ性を勘案し適宜選択されることができるが、非イオン性界面活性剤が好ましく、より好ましくは、エーテル型非イオン性界面活性剤、エステル型非イオン性界面活性剤、ポリアルキレングリコール非イオン性界面活性剤、フッ素系非イオン性界面活性剤、シリコン系非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0026】
本発明の光触媒コーティング組成物は、酸化チタン粒子、無機酸化物粒子、銅、銀、水酸化第四アンモニウム、および所望により加水分解性シリコーンや界面活性剤を上記特定の配合比率で溶媒中に分散させることにより得ることができる。溶媒としては、上記構成成分を適切に分散可能なあらゆる溶媒が使用可能であり、水または有機溶媒であってよい。また、本発明の光触媒コーティング組成物の固形分濃度は特に限定されないが、1〜10質量%とするのが塗布し易い点で好ましい。なお、光触媒コーティング組成物中の構成成分の分析は、コーティング組成物を限外ろ過によって粒子成分と濾液に分離し、それぞれを赤外分光分析、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、蛍光X線分光分析などで分析し、スペクトルを解析することによって評価することができる。
【0027】
光触媒塗装体
本発明による光触媒塗装体は、基材と、この基材上に設けられる光触媒層とを備えてなる。光触媒層は、酸化チタン粒子と、無機酸化物粒子と、任意成分としての加水分解性シリコーンとを被膜形成成分として含み、さらに、銀および銅と、水酸化第四アンモニウムと、任意成分としての界面活性剤とを含んでなる。
【0028】
本発明による光触媒層の好ましい態様は、1質量部以上20質量部未満、好ましくは1質量部を超え15質量部以上の酸化チタン粒子と、70質量部を超え99質量部以下、好ましくは85質量部以上99質量部未満の無機酸化物粒子と、任意成分として、シリカ換算で0質量部以上10質量部未満の加水分解性シリコーンとを、これらの合計量が100質量部となるように含有し、さらに銀および銅と、水酸化第四アンモニウムと、任意成分としての界面活性剤とを含んでなるものである。
【0029】
この構成により、基材(特に有機基材)に対する浸食を防止しながら、耐候性、有害ガス分解性、カビや藻の繁殖抑制、または所望の各種被膜特性(透明性、膜強度等)に優れた光触媒塗装体を得ることが可能となる。これらの幾つもの優れた効果が時に同時に実現される理由は定かではないが、以下のようなものではないかと考えられる。ただし、以下の説明はあくまで仮説にすぎず、本発明は何ら以下の仮説によって限定されるものではない。まず、光触媒層は、酸化チタン粒子および無機酸化物粒子の二種類の粒子から基本的に構成されるため、粒子間の隙間が豊富に存在する。光触媒層のバインダーとして広く用いられる加水分解性シリコーンを多量に使用した場合にはそのような粒子間の隙間を緻密に埋めてしまうため、ガスの拡散を妨げるものと考えられる。しかし、本発明の光触媒層は加水分解性シリコーンを含まないか、含むとしても酸化チタン粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンのシリカ換算量の合計量100質量部に対して10質量部未満としているため、粒子間の隙間を十分に確保することができると考えられる。そして、そのような隙間によってNOxやSOx等の有害ガスが光触媒層中に拡散しやすい構造が実現され、その結果、有害ガスが酸化チタン粒子と効率良く接触して光触媒活性により分解されるのでないかと考えられる。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、光触媒層は0.5μm以上3.0μm以下の膜厚を有するのが好ましく、より好ましくは1.0μm以上2.0μm以下である。このような範囲内であると、光触媒層と基材の界面に到達する紫外線が充分に減衰されるので耐候性が向上する。また、無機酸化物粒子よりも含有比率が低い光触媒粒子を膜厚方向に増加させることができるので、有害ガス分解性も向上する。さらには、透明性、膜強度においても優れた特性が得られる。
【0031】
基材
本発明に用いる基材は、その上に光触媒層を形成可能な材料であれば無機材料、有機材料を問わず種々の材料であってよく、その形状も限定されない。材料の観点からみた基材の好ましい例としては、金属、セラミック、ガラス、プラスチック、ゴム、石、セメント、コンクリ−ト、繊維、布帛、木、紙、それらの組合せ、それらの積層体、それらの表面に少なくとも一層の被膜を有するものが挙げられる。用途の観点からみた基材の好ましい例としては、建材、建物の内外装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の内外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用遮音壁、鉄道用遮音壁、橋梁、ガードレ−ルの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、屋外用照明器具、台及び上記物品表面に貼着させるためのフィルム、シート、シール等が挙げられ、より好適には外装材全般が挙げられる。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、基材として、少なくともその表面が有機材料で形成された基材を用いることができ、基材全体が有機材料で構成されているもの、無機材料で構成された基材の表面が有機材料で被覆されたもの(例えば化粧板)のいずれをも包含する。本発明の光触媒層の好ましい態様によれば、光触媒活性により損傷を受けやすい有機材料に対しても浸食しにくいことから、中間層を介在させることなく、光触媒層という一つの層で優れた機能を有する光触媒塗装体を製造することができる。その結果、中間層の形成が不要となる分、塗装体の製造に要する時間やコストを削減できる。
【0033】
製造方法
本発明の光触媒塗装体は、本発明の光触媒コーティング組成物を基材上に直接、または中間層を介して、塗布することにより簡単に製造することができる。光触媒層の塗装方法は、前記液剤を刷毛塗り、ローラー、スプレー、ロールコーター、フローコーター、ディップコート、流し塗り、スクリーン印刷、電着、蒸着等、一般に広く行われている方法を利用できる。コーティング組成物の基材への塗布後は、常温乾燥させればよく、あるいは必要に応じて加熱乾燥してもよい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
材料の用
以下の材料を用意し、例に使用した。
酸化チタン粒子
・四塩化チタン水溶液にアンモニア水を攪拌下で添加し、チタンゲルを生成させ、ろ過水洗して得たチタンゲルからなるスラリーに所望量の酸化銀(AgO、和光純薬工業 社製)と水酸化銅(Cu(OH)、関東化学 社製)を添加し、さらに水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(多摩化学工業 社製)を添加して攪拌した後、オートクレーブに入れ、130℃で水熱処理を行って得た、銅化合物および銀化合物をゾルとして共存させたチタニア水分散体(以下、銅/銀含有チタニア水分散体という)(平均粒径:48nm 塩基性)を得た。
無機酸化物粒子
・水分散型コロイダルシリカ(平均粒径:26nm 塩基性)
・水分散型コロイダルシリカ(平均粒径:14nm 塩基性)
・水分散型コロイダルシリカ(平均粒径:5nm 塩基性)
界面活性剤
・ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤
加水分解性シリコーン
・テトラメトキシシランの重縮合物(SiO換算濃度:51質量%、溶媒:アルコール・水)
【0035】
以下の例でも用いたT−1〜T−22のコーティング組成物の組成は、下記表1に示される通りとした。
【表1】


【0036】
例1〜6:耐候性の評価
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として着色有機塗装体を用意した。この着色有機塗装体は、フロート板ガラス上にカーボンブラック粉末を添加した汎用アクリルシリコーンを塗布して、十分に乾燥および硬化させたものである。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−1〜T−6に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。なお、この光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを含まない。光触媒コーティング組成物中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、いずれも沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
【0037】
得られた光触媒コーティング組成物をあらかじめ加熱した上記着色有機塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。こうして、光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例1〜6のいずれにおいても約0.5μmであった。
【0038】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通り耐候性試験を行った。光触媒塗装体をJIS B7753に規定されるサンシャインウエザオメーター(スガ試験機製、S−300C)に投入した。300hr経過後に試験片を取り出し、サンシャインウェザオメータに投入しなかった例1〜6の光触媒塗装体と、その外観の比較を目視で行った。
【0039】
得られた結果は表2に示される通りであった。光触媒層中の光触媒の含有量を20質量部未満にすることによって、有機基材上に光触媒層を塗装しても充分な耐候性を有することが分かった。
【0040】
【表2】


【0041】
例7〜10:有害ガス分解性の評価
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として着色有機塗装体を用意した。この着色有機塗装体は、フロート板ガラス上にカーボンブラック粉末を添加した汎用アクリルシリコーンを塗布して、十分に乾燥および硬化させたものである。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−1、T−4、T−7およびT−8に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。なお、例8および例9この光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを含まない。光触媒コーティング組成物中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、いずれも沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
【0042】
得られた光触媒コーティング組成物をあらかじめ加熱した上記着色有機塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。こうして、光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例7〜10のいずれにおいても約1μmであった。
【0043】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通りガス分解性試験を行った。光触媒塗装体に前処理として1mW/cmのBLB光で12hr以上照射した。JIS R1701に記載の反応容器内に塗装体サンプルを1枚セットした。25℃、50%RHに調整した空気に約1000ppbになるようにNOガスを混合し、遮光した反応容器内に20分導入した。その後ガスを導入したままで3mW/cmに調整したBLB光を20分間照射した。その後ガスを導入した状態で再度反応容器を遮光した。NOx除去量は、BLB光照射前後でのNO、NO濃度から下記の式に従って計算した。
NOx除去量=[NO(照射後)−NO(照射時)]−[NO(照射時)−NO(照射後)]
【0044】
得られた結果は表3に示される通りであった。ここで、表中のGはNOx除去量が150ppb以上、NGはNOx除去量が50ppb以下を表す。表2に示されるように、光触媒層を酸化チタン粒子と無機酸化物から構成し、実質的に加水分解性シリコーンを含まないことにより、良好なNOx分解性を示した。一方、加水分解性シリコーンが10質量部入ったものはNOx分解性が低いことが分かった。
【0045】
【表3】


【0046】
例11〜21:直線透過率および紫外線遮蔽率の測定
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として550nmの波長の透過率が94%のフロート板ガラスを用意した。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−1〜T−4に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。
【0047】
得られた光触媒コーティング組成物をあらかじめ加熱した上記フロート板ガラス板上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。こうして、光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、表4に示される値であった。
【0048】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通り直線(550nm)透過率および紫外線(300nm)遮蔽率の測定を紫外・可視・近赤外分光光度計(島津製作所製 UV−3150)を用いて行った。
【0049】
得られた結果は表4に示される通りであった。ここで、直線透過率および紫外線遮蔽率の評価基準は以下の通りとした。
<直線透過率>
A:直線(550nm)透過率が97%以上
B:直線(550nm)透過率が95%以上97%未満
<紫外線遮蔽率>
a:紫外線(300nm)遮蔽率が80%以上
b:紫外線(300nm)遮蔽率が30%以上80%未満
c:紫外線(300nm)遮蔽率が30%未満
【0050】
表4に示されるように、光触媒層中の光触媒の含有量が5質量部以上15質量部以下では膜厚を3μm以下にすることで、有機物の劣化に起因する紫外線を十分に遮蔽し、かつ透明性も好ましく確保できることが分かった。
【0051】
【表4】


【0052】
例22〜24:ヘイズの測定
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として550nmの波長の透過率が94%のフロート板ガラスを用いた。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−1、T−9、T−10に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。なお、この光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを含まない。光触媒コーティング組成物中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、いずれも沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
【0053】
得られた光触媒コーティング組成物を先述の基材上に1000rpmで10秒間スピンコートし、120℃で乾燥し光触媒層を得た。こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体のヘイズをヘイズ計(Gardner製 haze e−gard plus)を用いて測定した。
【0054】
得られた結果は表5に示される通りであった。表5に示されるように、例22、23の光触媒塗装体は、ヘイズ値を1%未満に抑えることができ透明性が確保でき、好ましいことが分かった。
【0055】
【表5】


【0056】
例25〜例30:銀化合物および銅化合物による抗カビ性の評価1
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として着色有機塗装体を用意した。この着色有機塗装体は、フロート板ガラス上に白色顔料を添加した汎用アクリルシリコーンを塗布して、十分に乾燥および硬化させたものである。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体およびチタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−1、T−11〜T−14およびT−22に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。なお、この光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを含まない。なお、例25〜29においては、銀化合物と銅化合物の配合比を調整(例28は全て銅化合物、例29は全て銀化合物)した銅/銀含有チタニア水分散体を使用した。また、例30においては銀化合物および銅化合物を含まないチタニア水分散体を使用した。光触媒コーティング組成物中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、例29がわずかに黄変した以外は、いずれも沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
【0057】
得られた光触媒コーティング組成物をあらかじめ加熱した上記白色塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。こうして、光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例25〜30のいずれにおいても約1μmであった。これら光触媒塗装体の前処理として1mW/cmのBLB光を24時間照射したのち、下記した抗カビ性試験を行った。
【0058】
こうして得られた50×50mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通り抗カビ性の評価を行った。試験菌としてポテトデキストロース寒天培地で、25℃で7〜14日前培養したAspergillus niger(NBRC6341)を用い、これを0.005重量%のスルホコハク酸ジオクチルナトリウムを含む生理食塩水中に分散させ胞子懸濁液を作成した。
【0059】
上記方法にて得られた光触媒塗装体に、前記胞子懸濁液を、試験片1枚あたり4〜6×10個/mLになるよう滴下し、抗カビ試験片とした。この試験片に、JIS R1702(2006)に記載のフィルム密着法に準じ、密着フィルムをかぶせ、保湿可能なシャーレ内に設置し、保湿ガラスを載せて試験に用いた。
【0060】
前記試験片をシャーレごとBLB光照射下に設置し、光触媒塗装体面で0.4mW/cmになるようBLB光を24時間照射した。
【0061】
24時間照射後、胞子懸濁液を回収し、ポテトデキストロース寒天培地で培養し、生残菌数を計測した。抗カビ性は、例25〜例30によって得られた生残菌数の対数値と光触媒未加工の試験体の生残菌数の対数値の差を求めることによって得た。
【0062】
試験結果は表6に示される通りであった。ここで、表中の抗カビ活性値とは例25〜例30によって得られた生残菌数の対数値と光触媒未加工の試験体の生残菌数の対数値との差の値であり、数値が大きいほど抗カビ性が高いことを示している。抗カビ活性値が、銀/銅含有チタニア水分散体を用いて作製した例において、銀化合物のみや銅化合物のみを添加した例に比べて高い値となっており、銀化合物と銅化合物とを混合することで高い抗カビ性能を得ることが確認できた。
【0063】
【表6】


【0064】
例31、32: 銀化合物および銅化合物による抗カビ性の評価2
光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体およびチタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−15およびT−16に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、いずれも沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
得られた光触媒コーティング組成物を、例25〜例30と同様の方法で製膜し、例31および例32の光触媒塗装体を得た。
この光触媒塗装体について、例25〜例30と同様の方法にて抗カビ性の評価を行った。
【0065】
試験結果は表7に示されるとおりであった。また、表7には、例26の抗カビ活性値も併せて示した。酸化チタン粒子に対して[AgO+CuO]量が0.5質量%、3質量%および5質量%のいずれにおいても、高い抗カビ性能を得ることが確認できた。
【0066】
【表7】


【0067】
例33:塗膜密着性の評価
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として着色有機塗装体を用意した。この着色有機塗装体は、フロート板ガラス上にカーボンブラック粉末を添加した汎用アクリルシリコーンを塗布して、十分に乾燥および硬化させたものである。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−3に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。なお、この光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを含まない。光触媒コーティング組成物中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
【0068】
得られた光触媒コーティング組成物をあらかじめ加熱した上記着色有機塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。こうして、光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、約0.5μmであった。
【0069】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通り塗膜密着性の評価を行った。光触媒塗装体を20±5℃の水酸化カルシウム飽和溶液中に浸漬した。7日間経過後に取り出し、室内で表面を乾燥させた後、表面にセロハンテープを貼付け、上から擦りつける様に押さえて完全に密着させた。テープの一方の端を持って、表面に対して垂直方向に瞬間的に引き剥がした後、塗膜の表面をデジタルマイクロスコープで観察した結果、剥離が見られず充分な密着性を有することが分かった。
【0070】
例34〜例36:耐候性の評価(屋外暴露)
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として着色有機塗装体を用意した。この着色有機塗装体は、シーラー処理した窯業系サイディング基材上にカーボンブラック粉末を添加した汎用アクリルシリコーンを塗布して、十分に乾燥および硬化させたものである。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−9、T−17およびT−18に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。なお、この光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを含まない。光触媒コーティング組成物中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、いずれも沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
【0071】
得られた光触媒コーティング組成物をあらかじめ加熱した上記着色有機塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。こうして、光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例34〜例36のいずれの例においても約1μmであった。
【0072】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、宮古島にてJIS K 5600−7−6に規定される暴露架台を用い南面に向けて水平より20°の角度で屋外暴露を行った。三ヶ月毎に外観を目視で確認した。
【0073】
得られた結果は表8に示される通りであった。ここで、表中の○はほとんど変化しなかったことを、△はわずかに白華が生じたことを示す。表8に示されるように、光触媒層中の光触媒の含有量を5質量部以下とすることで、宮古島において有機基材上に光触媒層を塗装しても充分な耐候性を有することが分かった。
【0074】
【表8】


【0075】
例37〜39:親水性評価
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として着色有機塗装体を用意した。この着色有機塗装体は、フロート板ガラス上にカーボンブラック粉末を添加した汎用アクリルシリコーンを塗布して、十分に乾燥および硬化させたものである。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−17、T−19およびT−20に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。したがって、この光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを含まない。光触媒コーティング組成物中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、いずれも沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
【0076】
得られた光触媒コーティング組成物をあらかじめ加熱した上記着色有機塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。こうして、光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例37〜39のいずれの例においても約1μmであった。
【0077】
こうして得られた光触媒塗装体について、以下の通り親水性の評価を行った。光触媒塗装体を暗所にて1日間養生した後に、1mW/cmに調整したBLB光下に光触媒塗装面を上にして7日間放置後、光触媒塗装面の接触角を接触角計(協和界面科学製 CA−X150型)にて測定した。なお、接触角の測定は親水性の代用とした。
【0078】
得られた結果は表9に示される通りであった。ここで、紫外線曝露親水性の評価基準は以下の通りとした。
<親水性>
A:接触角が10°未満
B:接触角が10°以上、20°未満
C:接触角が20°以上
表9に示されるように、光触媒層中の光触媒粒子の含有量を2質量部以上とすることによって、高い親水性を確保することが分かった。
【0079】
【表9】


【0080】
例40、41:耐摺動磨耗性評価
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として着色有機塗装体を用意した。この着色有機塗装体は、エポキシ樹脂で目止め処理したスレート板に、カーボンブラック粉末を添加した汎用アクリルシリコーンを塗布して、十分に乾燥および硬化させたものである。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−17およびT−21に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。したがって、この光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを含まない。光触媒コーティング組成物中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、いずれも沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
【0081】
得られた光触媒コーティング組成物をあらかじめ加熱した上記着色有機塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。こうして、光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例40、41のいずれの例においても約1μmであった。
【0082】
こうして得られた光触媒塗装体について、以下の通り耐洗浄性試験を行った。試験方法はJIS A6909に準じて行った。光触媒塗装体を洗浄試験機(東洋精機製作所製 No.458 ウオッシャビリティテスタ)の試験台に光触媒塗装面を上向きにして水平に固定した。乾燥したブラシの質量が450gの豚毛ブラシの毛先を0.5%溶液の石鹸水に浸した後に光触媒塗装面に載せ、500往復させ、その後取り外して水で洗浄し乾燥させた。
【0083】
十分乾燥させた光触媒塗装体に3mW/cmに調整したBLB光を24時間照射した後、光触媒塗装面の接触角を接触角計(協和界面科学製 CA−X150型)にて測定した。なお、接触角の測定は親水性の代用とした。
【0084】
得られた結果は表10に示される通りであった。ここで、耐摺動磨耗性の評価基準は以下の通りとした。
<耐摺動磨耗性>
A:接触角が10°未満
B:接触角が10°以上、20°未満

表10に示されるように、例40の光触媒塗装体は、摺動に対して、より強固な膜を形成することが分かった。
【0085】
【表10】


【0086】
例42〜45:有害ガス分解性の評価
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として着色有機塗装体を用意した。この着色有機塗装体は、フロート板ガラス上にカーボンブラック粉末を添加した汎用アクリルシリコーンを塗布して、十分に乾燥および硬化させたものである。一方、光触媒としての銅/銀含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水と、界面活性剤とを表1のT−9、T−17およびT−20に示される配合比で混合して、光触媒コーティング組成物を得た。したがって、この光触媒コーティング組成物は加水分解性シリコーンを含まない。光触媒コーティング組成物中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。また、得られた光触媒コーティング組成物を室温で1ヶ月間放置した後観測したが、いずれも沈殿や変色は見られず安定な組成物であった。
【0087】
得られた光触媒コーティング組成物をあらかじめ加熱した上記着色有機塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。こうして、光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、表11に示される値であった。
【0088】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通りガス分解性試験を行った。光触媒塗装体に前処理として1mW/cmのBLB光で12hr以上照射した。JIS R1701に記載の反応容器内に塗装体サンプルを1枚セットした。25℃、50%RHに調整した空気に約1000ppbになるようにNOガスを混合し、遮光した反応容器内に20分導入した。その後ガスを導入したままで3mW/cmに調整したBLB光を20分間照射した。その後ガスを導入した状態で再度反応容器を遮光した。NOx除去量は、BLB光照射前後でのNO、NO濃度から下記の式に従って計算した。
NOx除去量=[NO(照射後)−NO(照射時)]−[NO(照射時)−NO(照射後)]
【0089】
得られた結果は表11に示される通りであった。表11に示されるように、光触媒層中の光触媒粒子の含有量を5質量部以下としてもNOx分解活性が得られることが分かった。
【0090】
【表11】


【0091】
例46:光触媒酸化チタンゾルの安定性(参考例)
四塩化チタン水溶液(TiO=0.5質量%)にアンモニア水(NH=3.0質量%)を攪拌下で添加し、チタンゲルを生成させた。これをろ液中の塩素イオンがチタンゲル(TiO)に対して100ppm以下になるまでろ過水洗した。このゲルをオートクレーブに入れ120℃で水熱処理を行い、TiO=6.2質量%のスラリーを得た。このスラリー200gに酸化銀0.1gと水酸化銅0.6gおよび水酸化テトラメチルアンモニウム25質量%水溶液1.7gを添加してよく攪拌した後、130℃で水熱処理し、ゾルを得た。
このゾルを100℃で乾燥させて得られる粉を粉末X線回折法により測定したところ、アナターゼ型の酸化チタンのピークが認められた。得られたゾルを室温で1ヶ月間放置した後観測したが、いずれも沈殿は見られず安定なゾルであった。また、得られたゾルの変色の程度を評価するため、色質指数ΔL値を求めたところ、1.29であった。
〈色質指数ΔLの測定方法〉
ゾルをAgO=0.05%になるよう濃度調整した後、50mlのガラス製サンプル瓶に30g分注する。ブラックライト照射前のゾルの色質指数L1値を測定した後、サンプル瓶は震盪器に据え付け、20W型のブラックライト照射下で容器表面が1mW/cm(365nm)になるようにセットし、30分間照射後のゾルの色質指数L2値を測定する。なお、色質指数L値の測定は日本電色工業(株)製Z−1001DPPを用い、照射面積30mmΦのセルに試料5gを入れて測定し、その差を色質指数ΔL値=|L1−L2|とした。
【0092】
例47(比較例):光触媒酸化チタンゾルの安定性
四塩化チタン水溶液(TiO=0.5質量%)にアンモニア水(NH=3.0質量%)を攪拌下で添加し、チタンゲルを生成させた。これをろ液中の塩素イオンがチタンゲル(TiO)に対して100ppm以下になるまでろ過水洗し、TiO=6.2質量%のスラリーを得た。このスラリー200gに酸化銀0.1gと水酸化銅0.6gおよび100質量%モノエタノールアミン溶液0.3gを添加してよく攪拌した後、これを130℃で水熱処理を行ない、ゾルを得た。このゾルを100℃で乾燥させて得られる粉を粉末X線回折法により測定したところ、アナターゼ型の酸化チタンのピークが認められた。さらに、得られたゾルの変色の程度を評価するために、色質指数ΔL値を求めたところ、4.82であった。また、得られたゾルは、室温で保存中7日後には粘度が上昇し、ゲル化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン粒子、無機酸化物粒子、銅元素、銀元素、水酸化第四アンモニウム、および溶媒を含んでなる、光触媒コーティング組成物
【請求項2】
前記銀元素および前記銅元素の合計量が、AgOおよびCuOに換算した合計量で表したとき、酸化チタン粒子に対して0.1質量%を超え10質量%以下である、請求項1に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項3】
前記銀元素および前記銅元素の量が、AgOおよびCuOに換算した量で表したとき、AgO/CuO(質量比)が、0/100<[AgO/CuO]≦65/35を満たすものである、請求項1または2に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項4】
水酸化第四アンモニウムが水酸化テトラメチルアンモニウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項5】
水酸化第四アンモニウムの量が、酸化チタン1モルに対して0.01〜0.1モルである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項6】
加水分解性シリコーンをさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項7】
1質量部以上20質量部未満の前記酸化チタン粒子と、
70質量部を超え99質量部以下の前記無機酸化物粒子と、
シリカ換算で0質量部以上10質量部未満の前記加水分解性シリコーンと、
を、前記酸化チタン粒子、前記無機酸化物粒子および前記加水分解性シリコーンのシリカ換算量の合計量が100質量部となるように含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項8】
前記無機酸化物粒子がシリカ粒子である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項9】
外装材用コーティングのための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の光触媒コーティング組成物。

【公開番号】特開2009−263651(P2009−263651A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81070(P2009−81070)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】