説明

光触媒コーティング組成物

炭酸カルシウムおよび1つまたはそれを超える別のエクステンダーの混合物を含む、防汚性、自己洗浄コーティング組成物を開示する。本発明のコーティングは、NOx化合物の光触媒除去に影響を及ぼすことなく、向上した耐久性と不透明性を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、表面に光触媒コーティングを与える組成物に関する。より具体的には、本発明は、光触媒二酸化チタン粒子ならびに炭酸カルシウムおよび別のエクステンダーを含有するエクステンダーを含む、防汚性の自己洗浄性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
二酸化チタンは、顔料としてコーティング、紙、プラスチックおよびインクに広く用いられる光活性物質である。顔料アプリケーションについては、光活性特性は典型的には望ましくなく、顔料等級の二酸化チタンは一般的には、その物質の光活性を抑制する方法により調製される。二酸化チタンは、格子構造、屈折率および密度の異なる2つの結晶相、ルチルおよびアナターゼで調製される。ルチル相はより安定な相であり、ルチル顔料はアナターゼ対応物よりも高い屈折率を有することでより良い不透明性および美白性を与えることとなるため、顔料アプリケーションでの使用に好ましい。
【0003】
通常、二酸化チタンのアナターゼ型はルチル型よりも良好な光活性があり、光触媒に適用されるが、一方で、ルチル型は顔料として用いられる。二酸化チタンの光触媒特性は、紫外線(UV)および近紫外線(near UV)照射の影響下での電子の価電子帯から伝導帯への昇位に起因する。形成された反応性の電子正孔対は、二酸化チタン粒子の表面に移動し、そこで正孔対は吸着した水を酸化して反応性のヒドロキシルラジカルを生成し、そしてその電子が吸着した酸素を還元してスーパーオキシドラジカルを生成し、その両方が空気中のNOおよび揮発性有機化合物(VOC)を分解する。これらの特徴を踏まえ、光触媒二酸化チタンは、空気から汚染物質を取り除くためのコーティングやその他の類似物に用いられてきた。そのようなコーティングが自己洗浄されるという利点も有することがあるのは、土壌(グリース、白カビ、モールド、藻など)もその表面で酸化されるためである。
【0004】
Goodwinら、による国際公開第2005/083014号、第2006/030250号、および第2005/083013号は、光触媒性TiOを含む自己洗浄性および防汚性のコーティング組成物を記載する。
【0005】
NOが光触媒反応により生成された反応種により酸化されると、硝酸および亜硝酸が形成される。この酸性種は、コーティング組成物中に存在するアルカリ性の充填剤またはエクステンダーにより亜硝酸塩や硝酸塩に中和され、降雨によりそのコーティングから除去される。最も一般的にも用いられるエクステンダーは炭酸カルシウムである。
【0006】
光触媒二酸化チタンを含むコーティング組成物は、様々な種類の有機バインダーまたは樹脂系を用いて作製できる。有機バインダーは、他の物質が存在しない場合、UV光下で二酸化炭素、水および窒素含有の分子種に分解されるが、存在する場合にはコーティングが劣化する結果となる。この問題は、コーティングが屋外用のペイントのように直射日光による強烈なUV光に曝される場合より深刻なものとなる。そのようなコーティングは、無機バインダーを用いてまたは比較的低い触媒濃度で光触媒酸化に耐性のある有機ポリマーを用いてしばしば構成される。これまで光触媒二酸化チタンを含むコーティングが、シリコンベースのポリマー、例えばシロキサンポリマーを用いて調製されてきたのは、光触媒反応により生成される活性種の存在下での、これらの物質のより高い安定性のためである。シリコンベースのポリマーだけを含むバインダーの使用は、シリコンベースのポリマーが他の有機ポリマー、例えばアクリルベースのポリマーまたはスチレンベースのポリマーと比べて著しく高価であるため、好ましいものではない。低価格の有機ポリマーと混合された減少した量のシリコンベースポリマーを含有する費用効率の高い光触媒コーティング組成物を調製することが望ましい。しかしながら、有機ポリマーをシリコンベースのポリマーと混合すると、コーティング組成の低い耐久性を与える結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/083014号
【特許文献2】国際公開第2006/030250号
【特許文献3】国際公開第2005/083013号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、低価格で向上した耐久性と光学特性を発揮しつつ、光触媒NO酸化反応の酸性の副産物を除去する能力を維持した、改良された光触媒コーティング組成物に関する必要性が存在する。
【0009】
前述の議論は、当該分野で直面する問題の性質のよりよい理解を提供するためだけに与えられ、先行技術に対する承認とはいかようにも解釈すべきではなく、また本明細書中のいずれの文献についての引用も、そのような文献が本出願に対する「先行技術」を構成するという承認と解釈すべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要約)
本発明の自己洗浄性の防汚性コーティング組成物は、触媒の二酸化チタン、シリコンベースのポリマーを含むバインダー、および炭酸カルシウムと1つまたはさらに別のエクステンダーとの混合物を含有するエクステンダー成分を含む。本発明のコーティング組成物は、低価格で向上した耐久性および不透明性を発揮しつつ、環境からNOを除去する能力を維持し、NO基質の光触媒酸化による酸性副産物を中和する。
【0011】
1つの実施形態において、コーティング組成物は顔料をさらに含み、その顔料は、顔料二酸化チタンまたは二酸化チタンと1つまたはそれを超える顔料との混合物であってよい。
【0012】
本発明の組成物のバインダーは、典型的には、シリコンベースのポリマーに加えて有機ポリマーもまた含む。本発明により包含されるものは、シリコンベースのポリマーおよび有機ポリマーまたは共重合体の混合物を含有するバインダー成分を含む組成物である。本発明の幾つかの実施形態において、有機ポリマーは、スチレンポリマーもしくは共重合体またはアクリルポリマーもしくは共重合体である。好ましくは、有機ポリマーまたは共重合体はスチレン−アクリル共重合体である。
【0013】
本発明の組成物中の1つまたはそれを超える別のエクステンダーは、本組成物を基材に適用した場合に形成されるコーティングの耐久性を向上させる炭酸カルシウム以外のいずれかのエクステンダーであって、限定するものではないが、カオリンクレイ、シリカ、タルク(talc)、石英およびバライトが挙げられる。「フラッシュ焼成した」カオリンクレイは、特に本発明の組成物に関して有用である。幾つかの実施形態において、組成物中のエクステンダー成分は、炭酸カルシウム対1つまたはそれを超える別のエクステンダーの容積あたりの比率が約50:50〜約90:10または約65:35〜約75:25である炭酸カルシウムと1つまたはそれを超える別のエクステンダーとの混合物を含む。
【0014】
本発明の組成物は、ルチル型およびアナターゼ型またはその混合型のいずれかの型の光触媒二酸化チタンを使用することができる。典型的には、光触媒二酸化チタンはアナターゼ型である。好ましくは、光触媒二酸化チタンは実質的にルチル型が存在しないものである。1つの実施形態において、光触媒二酸化チタンは、乾燥組成物の容積あたり約2%〜約10%の間のPVCを含む。
【0015】
1つの実施形態において、本発明のコーティング組成物は、ポリシロキサンポリマーとスチレン−アクリル共重合体との混合物を含有するバインダー成分および炭酸カルシウムとフラッシュ焼成したカオリンクレイとの混合物を含有するエクステンダー成分を含む。本発明の組成物の1つの実施形態において、バインダー成分は、ポリシクロキサンポリマー対スチレン−アクリル共重合体の容積あたりの比率が約50:50〜約70:30であるポリシロキサンポリマーとスチレン−アクリル共重合体との混合物を含む。他の実施形態において、本組成物中のエクステンダー成分は、炭酸カルシウム対カオリンクレイの容積あたりの比率が約60:40〜約80:20の間である炭酸カルシウムとフラッシュ焼成したカオリンクレイとの混合物を含む。
【0016】
本発明のこれらの態様および他の態様は、以下の詳細な説明および添付する図面を参照することでより理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、種々のエクステンダーの機能としてコーティング組成物から作製されるコーティングの耐久性を表すプロットを示す。
【図2】図2は、バインダーであるシロキサン含有量の関数としてのコーティングの耐久性を示すプロットである。
【図3】図3は、エクステンダーである炭酸カルシウム含有量の関数としてのコーティング耐久性を表すプロットである。
【図4】図4は、エクステンダーである炭酸カルシウム含有量の関数としてのNO除去を表すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(詳しい説明)
好ましい実施形態において、本発明は、光触媒二酸化チタン、シリコンベースのバインダーと有機バインダーとの混合物、および炭酸カルシウムと1つまたはそれを超える別のエクステンダーとの混合物を含有するエクステンダー成分を含むコーティング組成物を提供する。本発明のコーティング組成物を基材に適用した場合、周囲からNOを取り除き、NO基質の光触媒酸化による酸副産物を中和する能力を維持しつつ、低価格で秀逸な耐久性および改善した不透明性を発揮するコーティングを与える。
【0019】
光触媒コーティング組成物は、種々のバインダーまたは樹脂系を用いて作製できる。典型的には、これらのコーティング組成物は、光触媒酸化還元条件下で優れた安定性を発揮するシリコンベースのバインダー、例えばポリシロキサンポリマーを含む。炭素、水素、酸素および窒素だけで構成される有機バインダーは、UV光の存在下では光触媒二酸化チタンにより迅速に酸化されて、水、二酸化炭素および窒素を含有する分子種になり、結果的にコーティングが劣化する。
【0020】
シロキサン型のポリマーを含むコーティング組成物は秀逸な耐久性を示すが、シロキサン型のポリマーの価格は、他の有機ポリマー、例えばアクリルポリマーまたはスチレンポリマーでの価格よりも著しく高い。したがって、コーティング組成物の原料の材料費を抑えるための第二の有機ポリマーを選びシロキサン型のポリマーの量を減らしたコーティング組成物を作製することが望ましい。しかしながら、シロキサン型のポリマーを、炭素、水素および酸素だけで構成される有機ポリマーを用いて希釈すると、逆に作製されるコーティングの耐久性に影響が及ぶ。例えば、100%のシロキサンポリマーで構成されるコーティングをアトラス・ウエザオメータ(Atlas Weatherometer)中で2000時間暴露すると、結果として126mg/100cmの重量損失となったのに対して、スチレン/アクリル共重合体をベースとするコーティングの暴露では419mg/100cmの重量損失という結果となった。シロキサンポリマーと有機ポリマーとの混合物をコーティング組成物に使用することは、有機ポリマーベースの組成物だけに対して対応するコーティングの耐久性を向上させるが、シロキサンポリマー濃度が低下するため依然として徐々に低下した耐久性の結果となる。
【0021】
光触媒コーティング組成物はまた無機充填剤、すなわちエクステンダーを典型的に含む。ポリマーアプリケーションまたはプラスチックアプリケーションでは、これらの成分は一般には充填剤と称されるが、コーティングアプリケーションの場合にはそれらはエクステンダーと称される。幾つかのエクステンダーは、隠蔽力および顔料としての機能も与え得る。ほとんどのエクステンダーは中間色(color neutral)である。アルカリ性のエクステンダーは、それらがNO種の光触媒酸化により形成される硝酸および亜硝酸などの酸性種を中和することができるため、特に有用である。硝酸および亜硝酸の中和により形成される亜硝酸塩および硝酸塩は、水と接触した際に溶解され、コーティングから除去される。任意のアルカリ性のエクステンダーは、亜硝酸または硝酸と反応することができ、それらには炭酸塩類、例えば炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウムおよびそれらの混合物が挙げられる。コーティングアプリケーションにおいて最も一般的に用いられるアルカリ性のエクステンダーは、炭酸カルシウムである。
【0022】
驚くべきことに、シロキサン型のポリマーと有機ポリマーとの混合物を含むコーティングの耐久性の低下は、エクステンダー成分中の炭酸カルシウムの一部を1つまたはそれを超える別のエクステンダーと部分的に置き換えることで回復させ得ることが見出された。別のエクステンダーは、炭酸カルシウム以外のいずれかの種類のエクステンダーであってよく、結果的にコーティング組成物から得られるコーティングの向上した耐久性となるものである。適切な別のエクステンダーは、限定するものではないが、チャイナクレイ、カオリンクレイシリカ、タルク、石英およびバライト(硫酸バリウム)を含む。さらに、炭酸カルシウムおよび1つまたはそれを超える別のエクステンダーの混合物の使用は、結果として改善された不透明性を与えるコーティング組成物となる。したがって、本発明のコーティング組成物は、系の不透明性を低下させることなく顔料である二酸化チタンの減少を可能にし、さらにコーティング組成物の原料の材料費を低くすることも可能にする。
【0023】
(定義)
本明細書中で用いられる用語はすべて、別に示さない限りそれらの通常の意味を有するものである。
【0024】
「重量あたりの%」に対する言及は全て、別の特定しない限り、本明細書中では乾燥塗料というよりは溶剤を含むコーティング組成物全体の重量%を意味する。
【0025】
本明細書中で用いられる用語「容積あたりの%」または「顔料容積濃度(PVC)」は、別に特定しない限り、乾燥塗料またはコーティングの容積%を意味する。「容積あたりの%」値を計算するために用いる乾燥塗料またはコーティングの成分には、光触媒性TiO、顔料、エクステンダーおよびポリマーが含まれる。
【0026】
用語「NO」はNO(酸化窒素)種およびNO(二酸化窒素)種をまとめてまたはその個々のいずれかを意味する。
【0027】
用語「フラッシュ焼成したカオリンクレイ」は、迅速な加熱焼成工程により製造されたカオリンクレイを意味する。
【0028】
用語「エクステンダー」は、当該分野でのその慣用の意味を有するものである。本明細書で用いられるように、用語「エクステンダー」は、コーティングの媒剤と類似する屈折率を有する無機物質または無機物質の混合物を意味し、それらは通常その臨界顔料容積濃度未満ではコーティング溶剤中で透明であるが臨界顔料容積濃度を超えると(TiO未満であっても)著しい不透明性を有するようになる。エクステンダー物質は、典型的には、TiOを含む顔料よりも低価格で、特定の状況下で顔料の幾つかと置き換えることが可能である。
【0029】
用語「臨界顔料容積濃度」(CPVC)は、当該分野でその慣用の意味を有し、例えば顔料粒子を湿らせるのに必要十分なポリマーが存在する点であり、また顔料粒子とポリマーの連続性を提供することを意味する。CPVC未満では、顔料の湿潤に十分なポリマーが存在するが、CPVCを超えるとそうではなくなる。
【0030】
用語「脂肪族」は、当該分野で慣用の意味を有するものであり、限定するものではないが、完全に飽和されているか、または1つまたはそれを超える単位で不飽和を含むが、芳香族ではない、直鎖、分岐鎖または環状炭化水素を含む。脂肪族基の非限定的な例には、置換または非置換の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル、アルケニルおよびアルキニル基、およびそのハイブリッド、例えば(シクロアルキル)アルキル、(シクロアルケニル)アルキルまたは(シクロアルキル)アルケニルが挙げられる。
【0031】
用語「アルキル」は、その慣用の意味を有するものであり、直鎖、分岐鎖または環状の一級、二級または三級の炭化水素を含む。
【0032】
用語「アリール」は、当該分野で慣用の意味を有するものであり、いずれかの安定な単環式、二環式または三環式の炭素環(群)を含み、少なくとも1つの環がヒュッケル(Huckel)4n+2規則により定義される芳香族であり、フェニル、ビフェニルまたはナフチルが挙げられる。
【0033】
用語「ヘテロアリール」は、その慣用の意味を有するものであり、その芳香環中に少なくとも1個の硫黄、酸素、窒素またはリンを含む芳香環を含む。
【0034】
用語「アラルキル」は、別に特定しない限り、上で定義されたアルキル基を介して分子と連結された、上で定義されたアリール基を意味する。
【0035】
用語「アルカリル」は、別に特定しない限り、上で定義されたアリール基を介して分子と連結された、上で定義されたアルキル基を意味する。
【0036】
光触媒二酸化チタン粒子に加えて、本発明のコーティング組成物は、当業者には既知の他の成分を典型的には含む。光触媒コーティング組成物は、増粘剤、分散剤、消泡剤、1つまたはそれを超える乳白剤、エクステンダー、バインダー、例えばシロキサンまたはアクリルポリマー、合体剤(coalescent)および安定剤、ならびに当業者には既知のコーティング組成物で用いられる他の成分を含むことがあってよい。
【0037】
ルチル型またはアナターゼ型を含む二酸化チタンのいずれかの型を、本発明のコーティング組成物に用いることができる。さらに、ルチル型とアナターゼ型の二酸化チタンの混合物を用いることができる。本発明の光触媒コーティング組成物は、電磁波照射、具体的には紫外線(UV)、近−UV、および/または可視光の存在下で電子正孔対を形成することができる光触媒二酸化チタン(TiO)粒子を含む。好ましくは、光触媒二酸化チタンは、可視光の存在下で実質的に光活性となり得るものである。
【0038】
コーティング組成物での使用のための光触媒二酸化チタン粒子は、ルチル型よりも高いその光活性のために、好ましくは主にアナターゼ結晶型である。「主に」は、塗料の二酸化チタン粒子のうちのアナターゼレベルが重量あたり50%超であることを意味し、アナターゼレベルは約80%超であることが好ましく、より好ましくは約90%超または約95%超である。幾つかの実施形態において、組成物の光触媒二酸化チタン粒子は、実質的に純粋なアナターゼ型であろう、これは、ルチル結晶型の含有量が約5%未満であることを意味し、より具体的には約2.5%未満、さらに好ましいのは重量あたり約1%未満であることを意味する。幾つかの実施形態において、光触媒二酸化チタン粒子は、ルチル型を含まないものであろう、これは、ルチル結晶型が結晶学的に検出されないことを意味する。換言すれば、光触媒二酸化チタン粒子は100%のアナターゼ型を含むことがあってよい。結晶化度および結晶相の性質は、X線回折により測定される。他の実施形態において、光触媒性ルチル型二酸化チタンは光触媒単独の供給源として用いることもできるし、アナターゼ型光触媒二酸化チタンと組み合わせて用いることもできる。
【0039】
コーティング組成物での使用のための光触媒二酸化チタン粒子は、その粒子が紫外線を吸収し散乱させることが可能な平均粒子サイズを典型的には有するであろう。その粒子サイズは非常に小さいため、価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップは減少する。このように十分に小さな粒子サイズを有する場合、二酸化チタン粒子は可視光スペクトル中の光を吸収し得ることが観察された。本発明の塗料中の含有物としての二酸化チタン粒子は、典型的には約1nm〜約150nmの間の粒子サイズを有する。幾つかの実施形態において、光触媒二酸化チタン粒子の粒子サイズは、約5nm〜約20nmの間、25nm、30nm、または40nmであろう。好ましい実施形態において、塗料中の二酸化チタンの粒子サイズは約5nm〜約15nmの間、より好ましくは約5nm〜約10nmの間であろう。本明細書で二酸化チタン粒子(または結晶)のサイズについての言及は、二酸化チタン粒子の平均粒子サイズを意味するものと理解されよう。粒子サイズは用語「約」により修正されるものであり、これは、当業者には明らかであるように、測定法に内包される実験誤差や粒子サイズを測定する際の種々の方法論間のばらつきを考慮して表示の数値から幾らか増減した粒子サイズを包含するものであると理解されるであろう。直径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、またX線回折(XRD)によっても測定することができる。
【0040】
別には、粒子は表面積によりキャラクタライズされ得る。典型的には、粉末の二酸化チタン光触媒は、5ポイントBETを含むいずれかの適当な方法により測定されるように、約20m/g超の表面積を有するであろう。より典型的には、光触媒二酸化チタン粒子は、約50m/g超または約70m/g超の表面積を有する。さらに好ましい実施形態においては、二酸化チタン粒子は約100m/g超、好ましくは約150m/g超の表面積を有する。幾つかの実施形態において、二酸化チタン光触媒は約200m/gm/g超、約250m/g超、またさらに約300m/g超の表面積を有するであろう。
【0041】
Millennium Inorganic Chemicalsから表示PC50、PC105、PCS300、SP300NおよびPC500で入手できる光触媒二酸化チタンは、本発明にかかるコーティング組成物中の含有物に特に有用であることが見出された。PCS300およびSP300Nは、約5nm〜約10nmの間の平均結晶サイズを有する100%アナターゼ型二酸化チタンの分散水溶液である。PC500は、重量あたり約82%〜約86%の間のTiO内容量を有し、そして5ポイントBETにより測定して約250m/g〜約300m/gの表面積を有する(これは平均粒子サイズ約5nm〜約10nmに変換される)100%アナターゼ型二酸化チタン粉剤である。PC50およびPC105と称される製品もまたMillennium Inorganic Chemicalsからのものであり、本発明の幾つかの実施形態においてまた有効であることが見出されよう。PC50は重量あたり97%超の二酸化チタンを含み、PC105は重量あたり95%超の二酸化チタンを含む。PC50およびPC100製品は両方とも固形のTiOが100%アナターゼであり、その表面積は、それぞれ約45m/g〜約55m/gの間および約80m/g〜約100m/gの間である。もちろん、適当な光活性二酸化チタンの他の供給源を本発明に用いることができ、光触媒二酸化チタンは当該分野で既知のいずれかの工程により調製することができる。例えば、出典明示によりその全部が本明細書の一部とされる米国特許第4,012,338号に記載の工程を、本発明のコーティング組成物に用いる光触媒二酸化チタンを調製するために用いることができる。
【0042】
本発明のコーティング組成物は、乾燥コーティング組成物の容積あたり約1%〜約40%(PVC)の光触媒二酸化チタンを典型的には含むであろう。より典型的には、組成物は、乾燥組成物の容量あたり約2%〜約20%の間の光触媒二酸化チタン、または容積あたり約5%〜約15%、および好ましくは約2%〜約10%もしくは約5%〜約10%の光触媒二酸化チタンを含むであろう。1つの具体的な実施形態において、本発明のコーティング組成物は、乾燥コーティング組成物の容積あたり約7.5%の光触媒二酸化チタンを含む。前述の光触媒二酸化チタンの量は、光触媒、顔料、エクステンダーおよびバインダーのみを考慮した乾燥塗料組成物における光触媒の容積を表す。
【0043】
2種もしくはそれを超える種々の二酸化チタン光触媒を有するコーティング組成物を提供することは本発明の範囲内にあり、少なくとも1つの、また好ましくは各々の二酸化チタン光触媒物質は上記した詳細に見合うものである。このように、例えば、本発明は、2つの異なる二酸化チタン粉末またはゾルを合することにより形成され、少なくとも1つの、好ましくはその両方が上で規定されるような粒子サイズおよび/または表面積を有する二峰性の光触媒二酸化チタン物質の使用を包含する。他の実施形態において、光触媒は、本明細書に記載の特定の二酸化チタン物質から「本質的に構成されてよい」により、物質的に異なる活性を有するいずれかの付加的な光触媒が排除されること、または物質的に塗料の耐久性、防汚性または自己洗浄の特性に影響を与える付加的な光触媒の量が排除されることを意味する。
【0044】
光触媒二酸化チタンに加えて、本発明のコーティング組成物は1つまたはそれを超える顔料をさらに含む。用語「顔料」は限定するものではないが、着色剤として用いられる白色顔料を含む顔料化合物、ならびに当該分野で一般に「乳白剤」として知られる成分を包含するものである。隠蔽力をコーティングに与えることができる微粒子物質の有機または無機化合物のいずれかが含まれ、特に、少なくとも1つの顔料等級の二酸化チタンのような無機化合物が含まれる。そのような二酸化チタン顔料は、米国特許第6,342,099号(Millennium Inorganic Chemicals Inc.)に開示されており、その開示内容は出典明示により本明細書の一部とされる。特に、二酸化チタン顔料は、Millennium Inorganic Chemicals Ltdにより販売されるTiona(商標)595粒子であってよい。顔料等級の二酸化チタンは典型的にはルチル型であり、より低い光触媒活性を有する。顔料二酸化チタンは、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素のコーティング、またはその粒の表面に不動態化した層のようなコーティングを含み得る。
【0045】
本発明にかかるコーティング組成物は、必ずしも必要ではないが、約40%〜約90%の間の、より典型的には約40%〜約70%の間の、好ましくは約45%〜約65%の間の顔料容積濃度(PVC)を典型的には有する。
【0046】
典型的には、本発明のコーティング組成物は、1つまたはそれを超える有機バインダー、好ましくは高分子有機バインダーを含む。本発明の最も広い態様においては、いずれかの高分子バインダーが用いられてもよい。1つの態様において、高分子バインダーは、水分散可能なポリマー、限定するものではないが、ラテックスバインダー、例えば天然ラテックス、ネオプレン・ラテックス、ニトリル・ラテックス、アクリル・ラテックス、ビニル・アクリル・ラテックス、スチレン・アクリル・ラテックス、スチレン・ブタジエン・ラテックス、および他の類似物がある。本発明は、単一のバインダーまたは同じクラスまたは別のクラスのものであってもよい2種またはそれを超える高分子バインダーの混合物を含む組成物を包含する。例えば、有機バインダーはシリコンベースのバインダーと組み合わされていてもよい。
【0047】
本発明の光触媒コーティング組成物は、コーティング組成物の容積あたり約1%〜約60%(PVC)の間のバインダーを典型的には含む。この濃度は、2種またはそれを超えるバインダー、ならびに他の成分および溶剤を含み得る組成物の容積あたりの全バインダーの内容量を意味する。より典型的には、組成物中のバインダーの量は、容積あたり約5%〜約50%の間、約10%〜約40%または約15%〜約40%の間である。好ましくは、バインダーの量は容積あたり約20%〜約30%の間であろう。
【0048】
光触媒二酸化チタンを含む組成物に関して、少なくとも1つのシリコンベースのバインダーを含むことが望ましいのは、光触媒二酸化チタンにより作り出される光化学条件に対するこれらのポリマーの秀逸な安定性のためである。
【0049】
幾つかの実施形態において、本発明にかかるポリシロキサンは、限定するものではないが、例えばポリジアルキルシロキサン、ポリジアリールシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン、ポリアルキルアルコキシシロキサンまたはその類似物を含むポリオルガノシロキサンであってよい。本発明の1つの実施形態において、シリコンベースのバインダーは、以下の式により表されるポリシロキサンポリマーを含む:
【0050】
【化1】

[式中、nは典型的には5〜約5000の範囲、より典型的には約500〜約5000の範囲、好ましくは約1500〜約5000の範囲であり;および
およびRは独立して、アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、2−エチルブチルおよびオクチルを含む脂肪族基;シクロアルキル基、例えばシクロヘキシルおよびシクロペンチル;アルコキシ基、例えばメトキシおよびエトキシ;アルケニル基、例えばビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニル;フェニル、トリル、キシリル、ナフチルおよびビフェニルを含むアリール;ベンジルおよびフェニルエチルを含むアラルキル;アルカリルまたはヘテロアリール基である。R基およびR基はいずれも、限定するものではないが、ハロゲン、シアノ、ニトロ、アミノ、アルコキシ、アシル、カルボキシルまたはスルホニル基を含む、1つまたはそれを超える官能基で場合により置換されていてもよい。]。
【0051】
適当なポリシロキサンポリマーは、商用名Silres(登録商標)BS45でWACKER-Chemie GmbHから販売されているものが挙げられ、それは重量あたり30%〜60%のポリメチルエトキシシロキサンを含む乳濁水溶液として販売されるアルキルシリコン樹脂である。
【0052】
本発明コーティング組成物のバインダー成分は、典型的にはポリシロキサンポリマーを含み、場合により別のバインダーを含み、シロキサンポリマーの別のバインダーに対する容積あたりの比率は約20:80〜約100:0の間である。より典型的には、本組成物中のバインダー成分は、ポリシロキサンポリマーと別のバインダーの混合物を含んでいてよく、ポリシロキサンポリマー対別のバインダーの比率は約40:60〜約80:20の間または約40:60〜約70:30の間である。好ましくは、バインダー成分は、ポリシロキサンポリマー対別のバインダーの容積あたりの比率が約50:50〜約70:30の間であるポリシロキサンポリマーと別のバインダーとの混合物を含み得る。
【0053】
本発明の1つの実施形態において、ポリシロキサンポリマーは、有機バインダーと混合されてもよい。適当な有機バインダーには、有機ポリマー、例えばスチレンポリマーまたはスチレン/ブタジエン共重合体;アクリル酸アルキルおよびメタクリル酸アルキルを含むアルキルポリマーおよび共重合体、アクリル酸およびメタアクリル酸ポリマー、アクリロニトリルおよびアクリルアミドポリマーおよびその類似物;ならびに、ポリビニルアセテートポリマーが含まれる。1つの実施形態において、バインダーはポリシロキサンポリマーおよびスチレン−アクリル共重合体の混合物を含む。
【0054】
適当な有機ポリマーには、限定するものではないが、メタクリル酸メチル、スチレン、メタアクリル酸・2−ヒドロキシエチルアクリラートポリマー(CAS#70677−00−8)、アクリル酸、メタクリル酸メチル、スチレン、ヒドロキシエチルアクリラート、ブチルアクリラートポリマー(CAS#7732−38−6)、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、ヒドロキシエチルアクリラートポリマー(CAS#25951−38−6)、アクリル酸ブチル、2−エチルヘキシルアクリラート、メタクリル酸メチル、アクリル酸ポリマー(CAS#42398−14−1)、ブチルアクリラートポリマー(CAS#25767−47−9)、アクリル酸ブチル、2−エチルヘキシルアクリラート、メタアクリル酸ポリマーC(CAS#31071−53−1)、カルボキシル化スチレン・ブタジエン重合体、ポリビニルアルコールポリマーおよび共重合体、ポリビニルアセテートポリマーおよび共重合体、およびその類似物もまた含まれる。1つを超える有機バインダーの組み合わせもまた、本発明の実施に有用であると考えられる。
【0055】
幾つかの実施形態において、有機ポリマーは、スチレン/ブタジエンの共重合体、ならびにアクリル酸エステルのポリマーおよび共重合体、特にポリビニルアクリルおよびスチレン/アクリルエステルの共重合体の中から選択され得る。本発明において、スチレン−アクリル共重合体は、そのスチレン/アクリルエステルの共重合体を含む。商用名ACRONAL(登録商標)290D(BASF)で販売されるスチレン−アクリル乳濁液は、本発明のコーティング組成物の有機バインダーとして特に有用であることが見出された。
【0056】
本発明のコーティング組成物は典型的に、コーティング膜を厚くし、かつコーティング組成物の構造を支持する助けになるエクステンダーまたは充填剤も含む。幾つかのエクステンダーは、隠蔽力を提供することもできるし、具体的には臨界顔料容積濃度以上で顔料として機能でき、ならびにほとんどのエクステンダーは中間色(color neutral)である。一般的なエクステンダーには、粘土、例えばカオリンクレイ、チャイナクレイ、タルク、石英、バライト(硫酸バリウム)および炭酸塩類、例えば炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウムまたはそれらの混合物が含まれる。
【0057】
幾つかのエクステンダーはアルカリ性であり、酸性種、例えばNO種の光触媒酸化により形成される硝酸および亜硝酸を中和する能力を有する。硝酸および亜硝酸の中和により形成される亜硝酸塩および硝酸塩は、水と接触した際にそのコーティングから溶け出し除去される。触媒性NO酸化の酸副産物を除去できるエクステンダーは、亜硝酸または硝酸と反応することができるいずれかのアルカリ種であってよく、炭酸塩類、例えば炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウムおよびそれらの混合物が含まれる。コーティングアプリケーションにおいて最も一般的なアルカリ性のエクステンダーは、炭酸カルシウムである。
【0058】
本組成物で用いられるエクステンダーの量に関して制限はないが、典型的には本発明のコーティング組成物は、容積あたり約1%〜約60%のエクステンダー(PVC)の間を含む。より典型的には、本組成物は、約5%〜約30%の間、または約10%〜約40%を含む。好ましくは、本組成物は、容積あたり、約20%〜約40%の間、または約25%〜約35%の間のエクステンダーを含み得る。
【0059】
驚くべきことに、炭酸カルシウムと1つまたはそれを超える別のエクステンダーとの混合物を光触媒コーティング組成物に用いた場合、その結果得られるコーティングの耐久性が、炭酸カルシウムのみをエクステンダーとして用いた同一の組成物の耐久よりも優れていることが見出された。炭酸カルシウムと別のエクステンダーとの混合物を用いることは、光触媒コーティングの向上した耐久性を与える結果となり、コーティングの耐久性を損なうことなく、組成物中のシリコンベースのバインダーの一部を有機バインダーと置き換えることを可能にする。コーティング組成物の耐久性は、促進耐候条件(accelerated weathering condition)に曝された場合の、コーティングの面積あたりの重量損失により評価される。この別のエクステンダーは、炭酸カルシウムと合せた場合に、光触媒コーティング組成物の耐久性を向上させるいずれかのエクステンダーであればよい。典型的には、別のエクステンダーは、限定するものではないが、カオリンクレイ、チャイナクレイ、タルク、石英およびバライト(硫酸バリウム)を含む。好ましい実施形態において、別のエクステンダーは、「フラッシュ焼成した」カオリンクレイである。本発明での使用に特に好ましいフラッシュ焼成したカオリンクレイは、Imerys, Ltdから商用名Opacilite(商標)で販売されている。本発明はまた、炭酸カルシウムの幾らかを2つまたはそれを超える別のエクステンダーと交換することも考えられる。
【0060】
例えば、ポリシロキサンポリマーとスチレン−アクリル共重合体の60:40(容積あたり)の混合物を含むバインダー成分を含有する光触媒コーティング組成物については、容積あたり約三分の一の炭酸カルシウムをOpacilite(商標)と置き換えることで、その結果得られるコーティングの重量損失は耐久性試験した場合、約265mg/100cmから約126mg/cmに減少する結果となった。上記のように、126mg/cmの重量損失は100%シロキサンバインダーを含有するコーティングの重量損失と同等である。換言すれば、シリコンベースのバインダーと有機バインダーとの混合物の使用によるコーティングの耐久性の損失は、約三分の一の炭酸カルシウムを別のエクステンダー、例えばOpacilite(商標)と置き換えることにより相殺される。エクステンダー成分が50:50(容積あたり)の炭酸カルシウムとOpacilite(商標)との混合物を含む場合、そのコーティングの重量損失は僅か76mg/l00cmに低下し、100%シリコンベースの組成物を用いたコーティングの耐久性を上回る顕著な耐久性の向上となる。
【0061】
1つの実施形態において、本発明のコーティング組成物は、形成された光触媒コーティングの安定性を増加させ、そのため、本明細書に記載の方法に従った促進暴露試験(accelerated exposure testing)に曝された場合、エクステンダー成分として炭酸カルシウムのみを含む組成物から得られた対照コーティングと比較して、そのコーティングの重量損失は少なくとも20%低下する。他の実施形態において、本発明のコーティング組成物から作製されるコーティングの重量損失は、対照組成物と比較して、少なくとも30%または少なくとも40%低下する。より典型的には、本発明の組成物から作製されるコーティングの耐久性は、その重量損失が少なくとも50%または少なくとも60%低下する程度にまで高められる。好ましくは、本発明のコーティングの安定性は、エクステンダーとして炭酸カルシウムのみを含む組成物から作製される対照コーティングと比較して、その重量損失が少なくとも75%または80%低下するコーティングである。
【0062】
図1は、比率60:40のポリシロキサンポリマー対スチレン−アクリル共重合体を含むバインダー混合物と、幾つかの種類の炭酸カルシウムを含むエクステンダー成分およびタルク、チャイナクレイ (カオリンクレイ)、シリカ、バライト(BaSO)を含む別のエクステンダーとを含む組成物から作製されるコーティングの重量損失を示す。この図は、炭酸カルシウムを別のエクステンダーに置き換えることが、促進耐候性条件に曝した場合に、コーティングの重量損失が低下することを実際に示す。
【0063】
アルカリ性のエクステンダー、例えば炭酸カルシウムを、非アルカリ性の別のエクステンダーと置き換えることは、防汚性光触媒コーティングの酸性種を取り除く能力を低下させそうであるが、NOの除去率は、その組成物が最低限度のアルカリ性のエクステンダー量を含む限り影響を受けないであろう。エクステンダー成分中の炭酸カルシウムを(容積あたり)三分の一までOpacilite(商標)と置き換えることではNO除去率に影響がほとんど及ばないことが見出された。例えば、エクステンダー成分を100%炭酸カルシウムから80:20の炭酸カルシウムと別のエクステンダー、例えばOpacilite(商標)に代えることは、暴露の42日後のNO除去率を全NOの約69%から約68%に低下させるだけである。
【0064】
炭酸カルシウムの一部を1つまたはそれを超える別のエクステンダーに置き換えることは、散乱係数測定により決定されるように、コーティングの改善された不透明性をもたらすこととなる。例示として、エクステンダー成分における炭酸カルシウム含有量を100%炭酸カルシウムから80:20の炭酸カルシウムとOpacilite(商標)との混合物に変更することで、コーティングの散乱係数は4.4から5.0に改善する。従って、本発明の幾つかの実施形態において、炭酸カルシウムの一部を1つまたはそれを超える別のエクステンダーに置き換え、コーティング組成物中の顔料TiOの量をコーティングの不透明性に影響を与えることなく減量する。コーティングの不透明性は、Opacilite(商標)が炭酸カルシウムよりもそれに付随する大きな光散乱ボイド(void)を有するために増加する。Opacilite(商標)を用いることによる不透明性における改善は、次いで、顔料TiOの減量を可能にする。本発明のコーティング組成物において減量可能な顔料の量は、用いられる別のエクステンダーおよびこの系の不透明性に対するその効果に依存する。典型的には、本発明の組成物は、(容積あたり)約5%〜約20%の間の顔料TiO減量を可能にし得る。より典型的には、約5%〜約15%の間の顔料等級を減量させ得る。
【0065】
別のエクステンダーに置き換えることができる炭酸カルシウムの総量は、限定されないが、実験的に決定される光触媒コーティングの性能に依存する。例えば、幾つかの別のエクステンダーはその他のエクステンダーよりもコーティングの耐久性の向上にあまり効果を示さないことがあり得るし、この場合、組成物中でより多くの量を必要とする。他の別のエクステンダーは、その他のエクステンダーよりも酸性種を除去する能力にあまり効果を示さないことがあり得る。本発明のコーティング組成物は、典型的には、炭酸カルシウム対1つまたはそれを超える別のエクステンダー(群)の容積あたり比率が約40:60〜約90:10の間または約50:50〜約75:25の間である、炭酸カルシウムと1つまたはそれを超える別のエクステンダー(群)との混合物を含むエクステンダー成分を含んでいてよい。このバランスは2種以上のエクステンダーを含み得る。例えば、炭酸カルシウムと1つまたはそれを超える別のエクステンダーの比率が75:25の混合物を含むエクステンダー成分に関し、その25には2以上の別のエクステンダーの混合物を含んでいてよい。より典型的には、エクステンダー成分は、炭酸カルシウム対別のエクステンダー(群)の容積あたり比率が約60:40〜約80:20の間または約60:40〜約70:30の間である、炭酸カルシウムと別のエクステンダーとの混合物を含むことがある。好ましくは、本組成物は、別のエクステンダー(群)対炭酸カルシウムの比率が約70:30〜約80:20の間または約65:35〜約75:25の間である、炭酸カルシウムと別のエクステンダーとの混合物を含むことがある。当業者であれば、本発明のコーティング組成物中のエクステンダーの総量は限定されず、具体的な組成物の所望の特徴に基づくものであることは理解するであろう。
【0066】
要すれば、様々な別の化合物を、本発明の組成物に加えることができるが、好ましくはそのような添加物は、結果として得られるコーティングの貯蔵期間、光活性、耐久性または非汚染性を損なわないものである。そのような添加化合物の例としては、充填剤(充填剤類)、例えば石英、方解石、粘土、タルク、バライトおよび/またはNa−Al−ケイ酸塩、その類似物;顔料、例えばTiO、リトポンおよび他の無機顔料;分散剤、例えばポリホスフェート、ポリアクリラート、ホスホネート、ナフテンおよびリグニンスルホネート、ほんの数例を挙げれば;湿潤剤、例えば陰イオン性、陽イオン性、両性および/または非イオン性の界面活性剤;消泡剤、例えばシリコンエマルジョン、炭化水素および長鎖アルコール;安定剤、例えばほんど陽イオン性の化合物;合体剤(coalescing agent)、例えば限定するものではないが、アルカリ安定エステル、グリコールおよび炭化水素;レオロジー添加剤、例えば、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロースおよび/またはヒドロキシエチルセルロース)、キサンタンガム、ポリウレタン、ポリアクリラート、加工デンプン、ベントンおよび他の層状ケイ酸塩;撥水剤、例えばアルキルシリコネート、シロキサン、ワックスエマルジョン、脂肪酸Li塩;および、通常の殺菌剤または殺生物剤が挙げられる。
【0067】
本発明は、以下の実施例に言及してより詳細に記載されるであろう。これらの提示する実施例は、本発明の例示であり、限定を意図するものではない。
【0068】
実施例1
コーティングの耐久性に対する、組成物中のバインダーにおけるポリシロキサンポリマーの濃度を低下させることの影響を、スチレン−アクリル共重合体と混合した様々な量のポリシロキサンポリマーを含む6個の組成物を調製することにより試験した。その完全な組成は以下の表1において示される。表1中の組成物成分の量は重量(グラム)で示される。
【0069】
表1.
【0070】
【表1】

【0071】
各組成物は、Millennium Inorganic Chemicalsからの15%のTiona(商標)595の顔料のTiOおよび7.5%のPC105の光触媒のTiO(PVC)を含んだ。これらのコーティング組成物は、2つのパート(パートAおよびB)で調製される。パートAに関しては、表1中の原料は、攪拌しながら水に順に添加し、得られた混合液を高速剪断にて20分間さらに混合する。パートBに関しては、ポリシロキサンおよび/またはスチレン−アクリル共重合体を混合しながら水に加え、続いて合体剤および殺菌剤を加えた。その成分を最低5分間さらに混合する。次いで、パートAを高速剪断混合しながらパートBに混ぜた。
【0072】
Acronal(商標)290Dは、BASFから入手可能な有機バインダーとして用いられるスチレン−アクリル共重合体である。Acronal(商標)290Dは、水中に50重量%の固体を含む。Silres(登録商標)BS45は、Wacker Chemie AGから入手可能なバインダーとして用いられるシリコン樹脂の水−希薄可能溶媒の少ないエマルジョン(water-thinable solvent less emulsion)である。
【0073】
各塗料試料は、基材に77g/m(コーティングの乾燥重量に基づく)の範囲で用いられ、基材をコーティングの耐久性に対するスチレン−アクリル共重合体の増加量の影響を決定するために試験した。
【0074】
コーティングの耐久性の決定
塗料の耐久性を決定するための完全な方法論は、米国特許公報第2007/0167551号に記載されており、その開示内容は出典明示により本明細書の一部とされる。その方法論は、340nmの550W/m UVを照射する6.5kWのキセノン光源下で、Ci65A Weatherometer(Atlas Electric Devices、Chicago)において、ステンレス鋼基材上で20〜50ミクロン厚の塗料膜の促進耐候試験を含む。黒パネルの温度は約63℃であり、暗サイクルなしで散水を120分ごとに18分間行った。耐久性は、暴露後の試料の重量損失の関数として測定する。上記の表1に示される組成物1〜7の各々から得られるコーティングを、試験プロトコルに従って2000時間暴露し、その重量損失を決定した。下記の表2は、ポリシロキサンポリマーとスチレン−アクリル共重合体との混合物を含むコーティングの耐久性試験の結果を概説する。
【0075】
表2
【0076】
【表2】

【0077】
表2で示すように、コーティングの耐久性は、スチレン−アクリル共重合体の比率を増加させることによって悪影響を受ける。上記のように、炭素、水素および酸素だけを含む有機ポリマーは、光触媒コーティングにより急速に酸化されて、水とCOを形成する。シロキサンポリマー・パーセンテージの関数とした暴露後のコーティングの重量損失の関係には線形性がある。ポリシロキサン・パーセンテージの関数としての重量損失のプロットを図2に示す。
【0078】
実施例2
上記のように、炭酸カルシウムエクステンダーの一部を1つまたはそれを超える別のエクステンダーと置き換えることがコーティングの耐久性を向上させることが見出されたことは、驚くべきことである。NO汚染物質を除去するための本発明コーティングの能力、それらの耐久性および炭酸カルシウムをOpacilite(商標)に置換することの不透明性に対する効果は、バインダーとしてのポリシロキサンポリマー(Silres(登録商標)BS45)およびスチレン−アクリル共重合体(Acronal(商標)290D)から成る標準60:40混合物(重量あたり)を含み、種々の比率の炭酸カルシウムと商用名Opacilite(商標)で販売されるフラッシュ焼成されたカオリンクレイを含む、7個の水ベースの光触媒コーティングを調製することにより調べた。コーティング組成物は、上記の実施例1と同じ手順を用いて調製した。作製したエクステンダーは、炭酸カルシウムの一部を商用名Opacilite(商標)で販売される「フラッシュ焼成した」カオリンクレイと置き換えることにより変更した。コーティング組成物は、炭酸カルシウム対Opacilite(商標)の容積あたりの比率が100:0、80:20、60:40、50:50、40:60、20:80および0:100で調製された。全ての組成物を以下の表3に示す。各成分を体重によって示す。CaCOの比率は容積あたりである。
【0079】
表3
【0080】
【表3】

【0081】
耐久性に対する別のエクステンダーの影響
炭酸カルシウムの一部をOpacilite(商標)で置き換えることの効果は、上記の実施例1と同じ方法論を用いて試験した。組成物7〜13それぞれからのコーティングを、Ci65A Weatherometer(Atlas Electric Devices, Chicago)において、2000時間の暴露後に評価した。結果を以下の表3に示す。
【0082】
表3
【0083】
【表4】

【0084】
組成物中の炭酸カルシウムのパーセンテージを低下させてOpacilite(商標)と置き換えることで、コーティングの重量損失が顕著に低下したという結果から、向上した耐久性を示すもことは明らかである。組成物#3の結果は、100%炭酸カルシウムおよび60:40のポリシロキサンポリマー対スチレン−アクリル共重合体の混合物を用いてこれまでに得られた結果と一致している(表2、組成物3を参照のこと)。この結果はまた、容積あたり80:20〜60:40の間の比率の炭酸カルシウムとOpacilite(商標)とから成る混合物を含有するエクステンダー成分を含む組成物が、シロキサンとスチレン−アクリル共重合体の60:40混合物を用いて得られた結果のような耐久性の損失を回復することを示す。
【0085】
実施例3
コーティングによるNO除去の決定
本発明の組成物から作製されるコーティングのNOを除去する能力を試験して、光触媒酸化の効率に対する炭酸カルシウムの一部をOpacilite(商標)と置き換えることの影響を評価した。炭酸カルシウムの一部を非アルカリ性のエクステンダーに置き換えることは、そのコーティングの硝酸および亜硝酸を除去する能力を低下させそうであるが、NO除去速度は理論的には著しい影響を受けないはずである。NO除去を決定するための完全な方法論は、米国特許公報第2007/0167551号に記載されており、その開示内容は出典明示により本明細書の一部とされる。炭酸カルシウムの減少するレベルを含む光触媒コーティング組成物7〜13の各々から調製されるコーティングを、従標準的な方法論に従って試験した。概説すれば、試料を気密試料チャンバーに移して密閉した。その試料チャンバーは、NO(一酸化窒素)および水蒸気を含む圧縮空気をそのチャンバーに所定のレベルで導入する3チャンネル・ガスミキサー(Brooks Instruments, Holland)に連通する。試料に、UV Lamp Model VL−6LM 365および312ナノメーター波長(BDH)からの300〜400nm範囲の8W/mのUVを照射する。NOの初期値と最終的な値(5分の照射後)を、試料チャンバーに接続されたNitrogen Oxides Analyser Model ML9841B(Monitor Europe)により測定した。NOの低下%は、(ΔNO/初期NO)×100として測定した。結果を表4にまとめる。
【0086】
表4
【0087】
【表5】

【0088】
この試験の結果は、炭酸カルシウムだけを含む成分から炭酸カルシウムとOpacilite(商標)とを比率80:20の混合物に変えても、環境からNO種を除去するコーティングの能力に対して無視し得る程度の影響しか及ぼさないことを示す。データは、さらに、NOを除去するコーティングの能力が炭酸カルシウムの80%をOpacilite(商標)に置き換えた後でさえ維持されることを示す。
【0089】
実施例4
本発明の組成物から得られるコーティングの不透明性もまた評価した。組成物7〜13の散乱係数測定は、当該分野で既知の標準的な方法論(Gardner Colorview instrument, BYKGardner USA, Columbia, Md)を用いて、乾式コーティング膜から得られた反射率データからKubelka-Munk式を用いて得た。測定の結果を以下の表5に示す。
【0090】
表5
【0091】
【表6】

【0092】
表5で示されるデータは、系の不透明性がより少ない炭酸カルシウムとより多くのOpacilite(商標)を含むコーティングにおいて向上されることを示す。これらの結果に基づいて、本発明組成物中の顔料TiOの量をコーティングの不透明性を低下させることなく減少させることが可能である。
【0093】
本明細書中で引用される特許出願および刊行物を含む全ての引例は、その個々の刊行物または特許もしくは特許出願が具体的かつ個別に全目的についてその全体を出典明示により組み込まれると示されている場合と同じ範囲で、その全体および全目的について出典明示により本明細書に組み込まれる。本発明の多くの修正および変更は、当業者には明らかなように、その目的および範囲を逸脱することなく行うことができる。本明細書に記載の具体的な実施形態は例示のみを目的として提供され、本発明は添付の特許請求の範囲の用語のみにより限定されるものであり、該特許請求の範囲の権利が及ぶ均等物の範囲を全て伴う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)光触媒二酸化チタン;
(iii)ポリシロキサンポリマーを含むバインダー成分;および
(iv)炭酸カルシウムおよび1つまたはそれを超える別のエクステンダーを含むエクステンダー成分を含む自己洗浄、防汚性コーティングを形成するための組成物であって、該1つまたはそれを超える別のエクステンダーを含まないこと以外は同一のコーティングと比較して、優れた耐久性を有するサブストレート上のコーティングを提供できる、該組成物。
【請求項2】
さらに顔料を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
顔料が二酸化チタンである、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
バインダーが有機ポリマーをさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
有機ポリマーがスチレンポリマーまたは共重合体である、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
有機ポリマーがアクリルポリマーまたは共重合体である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
スチレン共重合体がスチレン−アクリル共重合体である、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
顔料が二酸化チタンである、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
1つまたはそれを超える別のエクステンダーが、カオリンクレイ、シリカ、タルク、石英およびバライトからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
別のエクステンダーがフラッシュ焼成したカオリンクレイである、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
別のエクステンダーがタルクである、請求項9記載の組成物。
【請求項12】
別のエクステンダーがバライトである、請求項9記載の組成物。
【請求項13】
別のエクステンダーがシリカである、請求項9記載の組成物。
【請求項14】
光触媒二酸化チタンが実質的にルチル型の存在しないものである、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
乾燥組成物の容積あたり約2%〜約10%の間の光触媒二酸化チタンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
エクステンダー成分が、炭酸カルシウム対別のエクステンダーの容積あたり比率が約50:50〜約90:10の間である炭酸カルシウムと1つまたはそれを超える別のエクステンダーとの混合物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
エクステンダー成分が、炭酸カルシウム対別のエクステンダーの容積あたり比率が約65:35〜約75:25の間である炭酸カルシウムと1つまたはそれを超える別のエクステンダーとの混合物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
バインダー成分がスチレン−アクリル共重合体をさらに含み;およびエクステンダー成分が炭酸カルシウムとフラッシュ焼成したカオリンクレイとの混合物を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
バインダー成分が、ポリシロキサンポリマー対スチレン−アクリル共重合体の容積あたりの比率が約50:50〜約70:30であるポリシロキサンポリマーとスチレン−アクリル共重合体との混合物を含む、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
エクステンダー成分が、炭酸カルシウム対フラッシュ焼成したカオリンクレイの比率が約60:40〜約80:20である炭酸カルシウムとフラッシュ焼成したカオリンクレイとの混合物を含む、請求項18記載の組成物。
【請求項21】
エクステンダー成分が、炭酸カルシウム対フラッシュ焼成したカオリンクレイの比率が約60:40〜約70:30である炭酸カルシウムとフラッシュ焼成したカオリンクレイとの混合物を含む、請求項18記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−511126(P2011−511126A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544958(P2010−544958)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国際出願番号】PCT/US2008/072120
【国際公開番号】WO2009/097004
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(510055149)ミレニアム・イノーガニック・ケミカルス・インコーポレイテッド (7)
【氏名又は名称原語表記】MILLENNIUM INORGANIC CHEMICALS, INC.
【Fターム(参考)】