説明

光触媒コーティング組成物

【課題】有機樹脂バインダを用いることにより良好な柔軟性を発揮でき、従来より塗膜物性や塗装性の調整が容易で良好な汎用性を有し、工業生産に適した光触媒塗料組成物を比較的低コストで提供する。
【解決手段】鋼板基材10の表面に、有機層(下塗層(プライマー)20、中塗層(着色層)30)、光触媒層30を順次形成する。光触媒層30は光触媒粒子401とバインダ成分を含有する。バインダ成分は、非フッ素樹脂(ポリエステルディスパージョン成分403)及びフッ素系親水性樹脂(フッ化度40%以上のフッ素系親水性樹脂粒子402)で構成する。光触媒粒子401は粒子402に保護させ、樹脂成分403中に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生産性、加工性、耐候性、耐久性等の諸機能に優れる光触媒コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、耐汚染性や抗菌性に優れた光触媒材料を配合した光触媒塗料(光触媒コーティング組成物)が注目され、幅広い用途で用いられている。
また、建築物外壁や車体鋼板、テント地等の基体に使用される塗料において、塗膜に雨筋汚れ等の汚染物質が付着し難い性質、つまり環境汚染に対する耐汚染性を備えることが望まれている。
【0003】
ここで、光触媒塗料には、光触媒である金属酸化物を分散させ、塗布乾燥後に塗膜層を形成するバインダ成分が配合される。通常、金属酸化物による光触媒反応は激烈な酸化還元反応であり、汚染物質である有機物を分解する。バインダ成分に一般的な樹脂成分を用いた場合、光触媒反応で分解(自己崩壊)されてしまい、当該塗料が剥離や劣化を生じるなど耐久性の低下を招く。
【0004】
そこで、例えば特許文献1に示すように、シリカゾルあるいはシリケートと称されるガラス質の無機バインダを用い、塗膜安定性を向上させた技術が開発されている。
さらに、有機樹脂でありながら光触媒反応で分解困難な性質を有する、超フッ素系親水性樹脂のパーフルオロスルホン酸グラフト重合体−PTFE共重合体(Perfluorosulfonic Acid/PTFE copolymer(H)を有機樹脂バインダとして用いた光触媒塗料が知られている(例えば特許文献2参照)。この有機樹脂バインダでは、分子構造中のC−F結合部分において光触媒反応に対する化学安定性が確保され、これを分子骨格とすることで良好な特性を持つ塗膜を長期にわたり維持できる。また、当該有機樹脂バインダを用いると、無機バインダを用いた場合よりも塗布後の乾燥時間を短縮できるため、例えばカラー鋼板等の高速の連続生産において好適である。さらに無機バインダを用いた塗膜は柔軟性がなく、塗膜形成した基体を折り曲げると塗膜に亀裂が発生しうるが、有機樹脂バインダを用いた塗膜は良好な柔軟性を有し、塗膜を基体とともに折り曲げることもできる。従って、幅広い種類の基体に塗膜を形成できるという大きな利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−343426号公報
【特許文献2】特開2006−233073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載される有機樹脂バインダは、主成分にフッ素樹脂を含むため、組成物やこれを用いてなる塗膜特性に当該フッ素樹脂の特性が大きく影響する。当該フッ素樹脂は本来的に塗料用ではなく、当該フッ素樹脂を多く含む光触媒塗料を用いて塗装性等の調整や塗膜の物性を調整することは非常に難しい。また、塗装対象の基材選択性が低く汎用性にも課題があり、例えば建築外装材等を工業生産する場合に適していない。さらに、市販されているフッ素樹脂溶液は高価であり、固形分が低く、塗料として用いる場合の取り扱いにおいても課題を有している。
【0007】
本発明は上記した各課題に鑑みてなされたものであって、有機樹脂バインダを用いることにより良好な柔軟性を発揮でき、従来より塗膜物性や塗装性の調整が容易で良好な汎用性を有し、工業生産に適した光触媒塗料組成物を比較的低コストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、フッ素系親水性樹脂及び非フッ素系樹脂を含むバインダ成分と、光触媒成分とを含有し、樹脂不揮発成分換算において、光触媒成分が前記フッ素系親水性樹脂に保護された状態で、前記フッ素系親水性樹脂とともに前記非フッ素系樹脂中に分散されている、光触媒コーティング組成物とした。
ここで、前記フッ素系親水性樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンの側鎖にスルホン酸を有するグラフト重合体、ポリテトラフルオロエチレンの側鎖にカルボン酸を有するグラフト重合体、ポリテトラフルオロエチレンの側鎖にアミノ基を有するグラフト重合体、末端にリン酸エステルを有するパーフルオロアルキルオリゴマー、末端にスルホン酸基を有するパーフルオロアルキルオリゴマー、末端にカルボン酸基を有するパーフルオロアルキルオリゴマー、末端にアミノ酸基を有するパーフルオロアルキルオリゴマー、パーフルオロアルキルエチレン付加物の中から選択される、1種または2種以上の混合物とすることもできる。
【0009】
また、前記非フッ素系樹脂は、水系エマルジョン、水系ディスパージョンであり、ポリエステルディスパージョン、ポリオレフィンディスパージョン、アクリレートエマルジョンの中から選んだ1種または2種以上の混合物である構成とすることもできる。
また、フッ素系親水性樹脂と非フッ素系樹脂を含み、樹脂不揮発成分換算において、前記フッ素系親水性樹脂が前記非フッ素系樹脂中に分散されている構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明者らが有機樹脂バインダを含む光触媒塗料について鋭意検討した結果、フッ素系親水性樹脂で光触媒粒子を保護すれば、これをその他の非フッ素系樹脂に分散させて光触媒コーティング組成物が得られることを見出した。
これにより本発明の光触媒コーティング組成物では、光触媒を保護するための最低限量のフッ素系親水性樹脂を用いれば済み、塗膜の全体的な特性にフッ素系親水性樹脂が影響するのを抑制できる。
【0011】
一方、光触媒をフッ素系親水性樹脂で保護しているため、光触媒と非フッ素系樹脂との接触が防止され、光触媒反応による非フッ素系樹脂の分解を低減できる。これにより、バインダ成分に比較的多くの非フッ素系樹脂を用いても塗膜の自己分解を防止でき、長期にわたって非フッ素系樹脂の特性を塗膜に発現することができる。従って、光触媒に対する耐性が十分でない非フッ素系樹脂を主成分とする組成物に対しても、良好な光触媒特性を付与しつつ、長期間塗膜を維持することが可能である。
【0012】
また、光触媒をフッ素系親水性樹脂で保護しているため、光触媒層の下地にバリアコートを設ける必要がない。このため、いわゆる1コートで光触媒層を設けることが可能である。
さらに、フッ素系親水性樹脂の量を低減することにより、材料コストの低減を効果的に図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光触媒塗膜付PCMの構成と効果を示す、模式図である。
【図2】本発明のPCM(曲げ加工済PCM)の構成を示す図である。
【図3】本発明の光触媒コーティング組成物を用いた塗膜形成工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の各実施の形態を説明するが、当然ながら本発明はこれらの形式に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
<実施の形態1>
(光触媒塗膜付焼付鋼板の構成)
図1(a)は本発明の実施の形態1に係る光触媒塗膜付焼付鋼板1(以下、「焼付鋼板1」と称する。)の構成を示す、模式断面図である。
【0015】
焼付鋼板1は、鋼板10の片面に対し、下塗層20、中塗層30、光触媒層(光触媒塗膜)40を順次形成してなる。
鋼板10は厚みが1mm以下(例えば0.27mm)の鋼板であり、焼付鋼板1の主たる構成要素である。好適な素材として、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板を例示できる。この場合、市販品としては、亜鉛−55%アルミニウム合金めっき鋼板である、新日本製鐵株式会社製「ガルバリウム鋼板」を利用できる。その他の好ましい例として、アルミニウムめっき鋼板、亜鉛めっき鋼板、ステンレス鋼板のいずれかを挙げることができる。鋼板10の素材はこれらに限定されない。また、異種金属の積層板として鋼板10を構成することもできる。
【0016】
なお、本発明で言及する「鋼板」とは、各種金属材料及び合金材料を含む、広く金属板一般を指すものとする。
下塗層20及び中塗層30は、ともに有機塗料を焼付塗装してなる有機層(着色層)である。
下塗層20は、着色層の一層目に相当し、熱硬化性樹脂を主成分とする厚み数μm程度(例えば約2μm)のプライマー層である。主に焼付鋼板1における中塗層30の塗膜耐久性を向上させる目的で設けられる。また、中塗層30の発色性確保や、防錆機能、或いは遮熱機能を付与する目的で設けられる場合もある。この場合、熱硬化性樹脂に発色剤や防錆材等の機能付与剤を添加する。また、消泡剤、レベリング材、顔料等を添加できる。
【0017】
熱硬化性樹脂には公知材料を利用でき、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、及びこれらを含む樹脂等を例示できる。また、硬化剤も公知材料を利用でき、アミノ系材料、ポリイソシアネート系材料を例示できる。
中塗層30は焼付鋼板1の主たる着色層(焼き付け塗膜)であり、所定の顔料成分と、前記下塗層20と良好に密着する樹脂材料を含んでなる。中塗層30の厚みは、十分な発色が得られ、且つ、加工時に剥離等を生じない範囲で調節する。具体的には一例として数〜数十μmに設定できる。成分としてはその他、光沢調整材、艶消し材、消泡剤等を含むこともできる。
【0018】
この中塗層30の樹脂材料についても公知の材料を利用できる。例えば着色性、耐食性の向上を期待できる樹脂材料として、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等を利用できる。これらの樹脂材料を選ぶ目安として、鋼板に対して連続的に塗布し、焼き付け塗装する、いわゆるコイルコーティングラインへ良好に適用できるものを選ぶ。ここで、ポリエステル系樹脂はこれらの要求を良好に満足するため特に望ましい。
【0019】
光触媒層40は、焼付鋼板1の主たる特徴部分であって、光触媒粒子401とバインダ成分(フッ素系親水性樹脂粒子402及び非フッ素系樹脂成分403)を含んでなる光触媒塗膜である。光触媒層40の膜厚は適宜調整可能であるが、一例として0.5μm以上5μm以下に設定できる。
ここで図1(b)は、図1(a)の部分拡大図である。当図に示すように光触媒層40では、フッ素系親水性樹脂粒子402が光触媒粒子401を保護した状態で、非フッ素系樹脂成分403の中に分散されている。このようにバインダ成分は、フッ素系親水性樹脂と、前記フッ素系親水性樹脂よりも多く非フッ素系樹脂とを含んで構成されている。
【0020】
光触媒粒子401をフッ素系親水性樹脂粒子402で保護することで、光触媒反応による非フッ素系樹脂成分403の分解が防止される。従って光触媒層40では、非フッ素系樹脂成分403を安定的に多く利用でき、且つ、全体的な塗膜特性において非フッ素系樹脂成分403の特性を積極的に発揮させることが可能である。
次にバインダ成分の具体例を示す。光触媒層40では、非フッ素系樹脂としてポリエステルディスパージョン、フッ素系樹脂としてフッ化度40%以上のフッ素系親水性樹脂を用いている。これらの樹脂材料を用いることで、PCM1では光触媒層40を焼付塗装で形成できるようにしている。
【0021】
フッ素系親水性樹脂及び非フッ素系樹脂の配合比としては適宜調整が可能であるが、図1(a)に示すように、少なくとも非フッ素系樹脂成分(ポリエステルディスパージョン成分)403中にフッ素系樹脂(フッ素系親水性樹脂粒子402)が分散されるように調整する。具体的に前記バインダ成分においては、樹脂不揮発成分換算において、前記ポリエステルディスパージョンと前記フッ素樹脂との配合比率が20:1〜1:1の範囲であり、且つ、前記フッ素樹脂と前記光触媒との配合重量比率が1:6〜3:1の範囲となるように設定されている。
【0022】
次に、フッ素系親水性樹脂粒子402を構成する樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の側鎖にスルホン酸を有するグラフト重合体、ポリテトラフルオロエチレンの側鎖にカルボン酸を有するグラフト重合体、ポリテトラフルオロエチレンの側鎖にアミノ基を有するグラフト重合体、末端にリン酸エステルを有するパーフルオロアルキルオリゴマー、末端にスルホン酸基を有するパーフルオロアルキルオリゴマー、末端にカルボン酸基を有するパーフルオロアルキルオリゴマー、末端にアミノ酸基を有するパーフルオロアルキルオリゴマー、パーフルオロアルキルエチレン付加物の中から選択される、1種または2種以上の混合物を挙げることができる。
【0023】
光触媒反応は根源的には水の分解反応であるため、反応種である水が光触媒粒子401近傍に集中し易いように、光触媒層40ではこのようなフッ素系親水性樹脂をバインダ成分に用いている。
なお、フッ素系親水性樹脂が上記配合比率で含まれていれば、その他のフッ素樹脂、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の内の1種乃至2種以上の混合物が光触媒層40中に含まれていても良い。
【0024】
本発明で利用可能なフッ素系親水性樹脂は多岐にわたるが、本願発明者らが厳密に検討した結果、上記配合比率に基づいて光触媒層40中に所定のフッ素樹脂を適量添加することで、光触媒反応に対して十分な耐久性を発揮するだけでなく、光触媒機能を維持しつつ、バインダ成分として共存するポリエステルディスパージョンや、中塗層40の劣化を効果的に抑制することが可能となっている。
【0025】
一般にフッ素樹脂は豊富なC−F結合を有しており、化学的に安定である。具体的には、C−F結合の結合エネルギーは、C−H結合(415kJ/mol)やC−C結合(347kJ/mol)のいずれの結合エネルギーに対しても十分大きい(約500kJ/mol)。従って、フッ素樹脂を用いることで化学的に安定性の高い分子鎖を形成できる。この化学安定性により、本発明では長期にわたり、光触媒粒子401による分解反応を受けずに安定に光触媒層40を保持できる。また、フッ素樹脂は結晶化度が高く、非常に緻密な結晶構造を形成できるほか、優れた耐薬品性、耐候性をも示し、電気化学反応に対しても高度に安定である。これに加え、低表面張力、低摩擦係数という性質をも示すが、これはF原子が小さな原子半径と低い分極性を持つことから、分子間凝集力が低く、優れた柔軟性を有するためと考えられる(プラスチック・機能性高分子材料事典:産業調査会事典出版センター発行(2004年)の306頁参照)。
【0026】
ポリエステルディスパージョンは非フッ素系樹脂成分403の一例であり、高度な柔軟性と加工性を付与するために用いている。
一方、フッ素系親水性樹脂粒子402は、スルホン酸基やカルボン酸基において親水性を呈し、且つ、それ以外の部位において疎水性を呈する両性の樹脂で構成される。よってフッ素系親水性樹脂粒子402を非フッ素系樹脂成分403中に分散させるには、非フッ素系樹脂にフッ素系親水性樹脂との相溶性が求められる。
【0027】
この点を本願発明者らが鋭意検討した結果、水ディスパーション樹脂であればフッ素系親水性樹脂に対して良好な相溶性を発揮し、当該水ディスパージョン樹脂を所定量用いることで、良好なバインダ成分を構成できることを見出した。これにより、塗工性に優れる光触媒塗料を構成でき、塗膜形成後においても優れた性能を持つ光触媒層40を実現している。
【0028】
なお、非フッ素系樹脂成分403としては、上記ポリエステルディスパージョンの他、例えばオレフィンディスパージョンの中から選んだ1種または2種以上の混合物等を例示できる。
次に、光触媒粒子401の種類は特に限定されない。例えばTiO、ZnO、WO、SnO、SrTiO、Bi、Feから選択される1種または2種以上の金属酸化物を挙げることができる。このうち酸化チタン(TiO)は光触媒機能が安定であり、容易に入手可能できて市販品も多いため好適である。光触媒層40に添加する際の光触媒の形態は限定されないが、粒径が揃った光触媒粒子401を用いると、光触媒層40全体で均一な光触媒機能を期待できる。具体的には、平均粒径が約7nmの一次粒子が、平均粒径200〜300nm程度に凝集してなる二次及び三次粒子として、光触媒粒子401を触媒層40中に分散させるようにするとよい。なお、光触媒層40への光触媒粒子401の添加量は、発揮させたい光触媒効果等に合わせて適宜調整可能であるが、例えば光触媒層40において5〜80wt%の割合で添加することができる。
【0029】
光触媒粒子401は、フッ素系親水性樹脂粒子402に保護され、当該フッ素系親水性樹脂粒子402と共に非フッ素系樹脂成分403中に分散されている。これは前記した水を反応種とする光触媒反応を起こしやすくするとともに、フッ素系親水性樹脂粒子402の強固なC−F結合を利用して、前記光触媒反応により触媒層40の不要な自己分解反応を適切に防止するためである。
【0030】
なお、本発明では光触媒粒子401をフッ素系親水性樹脂粒子402に保護させているが、保護される光触媒粒子401は一次粒子、二次粒子、三次粒子のいずれの形態であっても良く、これらの光触媒粒子401または当該401の粒子群をフッ素系親水性樹脂粒子402が保護している状態を指す。さらに、「保護」の語義は広く解釈するものとし、フッ素系親水性樹脂粒子402の内部に含まれている場合のほか、フッ素系親水性樹脂粒子402の表面に粒子401が担持されている場合も含む。
【0031】
なお、光触媒効果を良好に得るためには、焼付鋼板1において触媒層40を最上層として設けることが好適である。
(焼付鋼板1の効果について)
以上の構成を持つPCM1の光触媒層40では、光触媒粒子401を保護させる目的で必要最小限のフッ素系親水性樹脂粒子402を使用し、且つ、非フッ素系樹脂成分403をフッ素系親水性樹脂粒子402よりも多く含有して構成される。このため、光触媒層40の全体の塗膜特性としては、非フッ素系樹脂成分403の特性が優勢的に発揮される。本実施の形態1では、非フッ素系樹脂成分403としてポリエステルディスパージョンを用いるため、光触媒層40においてもポリエステルディスパージョンの特性が効果的に発揮される。
【0032】
具体的に光触媒層40は、ポリエステル系樹脂を比較的多く含むことで、高度な柔軟性及び伸張性を呈する。これにより、焼付鋼板1をプレス加工等で変形させる場合でも、鋼板10の変形に追従して光触媒層40も柔軟に曲がり、容易に剥離や欠落を生じることがない。このような追従性・加工性は特許文献1、2のような無機材料のみを用いてなる光触媒層には見られない優位性であり、焼付鋼板1の加工性や美観調整の制約をほとんど受けることなく、優れた生産性を発揮できる。
【0033】
また、光触媒層40では、高価なフッ素系親水性樹脂を粒子402として必要最小限の量で用いているため、材料コストを効果的に低減でき、大面積への塗膜形成を容易にできる。
このように光触媒層40では、塗膜特性、塗工性等の調節を図り、諸効果を低コストで両立して発揮できるものである。
【0034】
一方、光触媒層40には光触媒粒子401及びフッ素系親水性樹脂粒子402が含まれているため、これらの構成によって光触媒効果が発揮される。すなわち、使用時に光触媒層40の表面に水が付着すると、フッ素系親水性樹脂粒子402の効果により光触媒層40の表面全体に平坦な水膜が形成される。この時の様子を、図1(c)に示す。図1(c)は、図1(a)の光触媒層40表面付近における領域Bの拡大断面図である。
【0035】
このような状態で光触媒層40に親油性の汚染物質(雨に含まれる煤煙粒子など)が付着する。ここで図1(c)のように、光触媒層40の表面に水分が付着すると、フッ素系親水性樹脂粒子402の効果により速やかに水膜が形成される。これにより汚染物質は水膜の表面に浮き上がり、水と共に流れて除かれる。これと同様の原理で、汚染物質が付着した後に光触媒層40の表面に雨滴が付着すれば、水膜が形成されて汚染物質を除去できる。
【0036】
一方、フッ素系親水性樹脂粒子402に保護された光触媒粒子401は、外部からの光照射により励起される。この励起により、大気に近接する光触媒層40の表面付近では、大気中の酸素が光触媒からエネルギーを受けて活性酸素に変化する。活性酸素は、光触媒層40の表面またはその近傍において、親油性の汚染物質を分解し、付着力を弱め、容易に除去されるように作用する。これにより、雨等が光触媒層40に当たっても、汚染物質は容易に洗い流される。
【0037】
さらに光触媒層40には、前記フッ素系親水性樹脂粒子402の添加により摩擦係数が非常に小さく、良好な耐摩耗性が付与されており、外部接触時の表面摩擦を極めて小さく抑制できる。その結果、多少の外部接触があっても光触媒層40の損傷や欠落を回避でき、長期にわたる光触媒機能を期待できる。これはPCM1を家電製品の外装等に利用する場合に特に有効である。
【0038】
なお特許文献1、2では、光触媒反応により光触媒塗膜に有機バインダ成分を添加できない旨が記載されているが、本発明はきわめて化学安定性に優れる40%以上のフッ化度を持つフッ素系親水性樹脂をバインダ成分に利用している。これにより、激烈な光触媒反応にも耐えうる光触媒層40を実現したものであり、この点において従来技術よりも飛躍的な優位性を有している。
(本発明の光触媒コーティング組成物とこれを用いてなる光触媒層について)
従来、有機バインダを用いた光触媒コーティング組成物では、耐光触媒反応保護材としてポリテトラフルオロエチレン−スルホン酸等のフッ素系親水性樹脂を有機バインダの主成分として用いている。しかしながら、当該フッ素系親水性樹脂は塗料用樹脂でないため、塗膜物性や塗装性の調整がほとんどできない問題がある。また材料が高価であり、基材選択性がある等の汎用性に課題を有し、特に工業生産には適さないという問題がある。
【0039】
これに対して本発明の光触媒コーティング組成物では、光触媒材料を必要最低量のフッ素系親水性樹脂で保護し、これを非フッ素樹脂に分散させて、高濃度光触媒分散液としたものである。
この組成では、非フッ素系樹脂を用いることができ、しかもフッ素系親水性樹脂よりも多く非フッ素系樹脂を用いることが可能である。従って、塗膜に当該非フッ素系樹脂の特性を効果的に活かすことができる。
【0040】
前記非フッ素系樹脂としては、水系樹脂もしくは水分散性樹脂等を例示でき、具体的な水分散系樹脂を用いた液として、水系エマルション、水性ディスパージョン(特にエチレン系、ウレタン系、スチレン系等のアイオノマー樹脂)を例示できる。
光触媒コーティング組成物をこのような組成とすることで、本発明では塗膜物性及び塗装性と光触媒性能の両立を実現できる。
【0041】
ここで、本発明の光触媒コーティング組成物は、優れた耐水性を有しており、浴室や台所の水回り品等に塗膜形成しても、長期にわたり良好な光触媒効果を期待できる。一般に親水性塗膜は耐水性に劣るため、本発明の光触媒コーティング組成物が耐水性を発揮することで、非常に高い有用性を期待できると思われる。
また、本発明によれば、光触媒コーティング組成物の汎用性を飛躍的に拡大することもできる。例えば非フッ素系樹脂を適宜選択することで、塗膜の硬化方法として、自然乾燥、焼き付け(熱硬化反応)、UVやEB等の活性エネルギー線を用いた硬化反応のいずれかにより塗膜を形成できる。このように、焼き付け塗装以外の方法でも塗膜を硬化できるため、基材の材質を選ばない。例えば焼き付けが困難な、プラスチック基材、PETフィルム等の樹脂フィルム、木加工品、金属等、様々な基材に塗膜形成できる。これにより、光触媒コーティング組成物を外装用、内装用、家電製品やその他の加工品のいずれにも利用でき、工業生産性を飛躍的に向上することが可能である。
【0042】
また、高価なフッ素系親水性樹脂を最小限で使用しているため、材料コストを極力低減できる点においても有用である。
さらに、当該光触媒コーティング組成物では非フッ素系樹脂の添加により塗装性の向上が図れるため、塗装方法も幅広く選択でき、例えば刷毛やスプレー、各種コーターを用いた塗装が可能である。
【0043】
さらに、光触媒コーティング組成物に公知の顔料、着色料を添加できるため、着色層として塗膜形成することも可能である。
また、前述したように光触媒成分はフッ素系親水性樹脂に保護されており、激烈な光触媒反応によって非フッ素系樹脂のC−C結合を過度に損傷されることがない。このため、長期にわたって塗膜を維持でき、良好な光触媒効果を期待できる。この場合の光触媒効果としては、防汚性に限定されず、例えば防臭、抗菌、抗ウイルス、帯電防止等の効果も期待できる。これらの効果は、本発明の光触媒コーティング組成物を内装に適用した場合に特に有用である。
【0044】
また、本発明の光触媒コーティング組成物では、塗膜厚みを比較的厚く(例えば20μm以上の膜厚)形成することができる。これは非フッ素系樹脂によるものであり、耐減耗性の利点がある。
なお従来、光触媒成分をリン酸カルシウム等で包含し、これを樹脂バインダに分散させた組成物が存在する(例えば特許第3487336号公報を参照)。しかしながら、この構成は著しく光触媒表面積を減らす欠点がある。この点において、本発明とは大きく異なっている。
【0045】
以下、本発明のその他の実施の形態について、実施の形態1との差異を中心に説明する。
<実施の形態2>
本発明の光触媒コーティング組成物は、バインダ成分を構成する非フッ素系樹脂を適宜選択することができる。このため、焼き付け工程以外の方法でも塗膜を形成でき、幅広い材質の基材に塗膜を配設できる。
【0046】
図2に本発明の実施の形態2である、光触媒塗膜付基体1Aの模式断面図を示す。当図に示す構成は、プラスチック製基体10Aの片面に光触媒層40を形成してなる。
この構成では、光触媒コーティング組成物のバインダ成分において、非フッ素系樹脂成分に紫外線硬化型アクリル樹脂(一例として、アリルメタクリレート)を用いている。塗膜形成の際には、基体表面に塗料を塗布した後、UVランプを用いて紫外線照射する。これによりバインダ成分が硬化し、光触媒層40が形成される。
【0047】
このように実施の形態2では、UVランプで比較的簡単に光触媒層40を形成できるため、たとえば浴室の内壁に対するアフターコートとして光触媒層40を容易に配設できる。
なお、基体10Aは当然ながらプラスチック製品に限定されず、その他の材質からなるもの、例えば木加工品、金属板等であってもよい。
<光触媒コーティング組成物の調整例>
以下、本発明の光触媒コーティング組成物の具体的な調整例と塗工例を、図3の調整フロー図及び表1〜5に基づいて説明する。
【0048】
まず図3に示すように、調整ステップとして、光触媒とフッ素系親水性樹脂を混合し、分散液を調整する(混合工程S1)。これにより光触媒がフッ素系親水性樹脂に包含された状態となる。
表1に、高濃度光触媒/ナフィオン(登録商標)分散液の構成例を示す。ここでは光触媒粒子として代表的な市販品の酸化チタン粒子を用いているが、後述するように必要に合わせて各種酸化チタン、或いはその他の光触媒である金属酸化物と置き替えることもできる。
【0049】
【表1】

【0050】
次に、上記作製した分散液に非フッ素系樹脂と、所定の溶剤、重合開始剤、分散剤等を加え、混合する(混合工程S2)。このとき、比較的多くの非フッ素系樹脂中に前記分散液を分散させるようにする。これにより図1(a)、(b)に示したように、光触媒粒子がフッ素系親水性樹脂粒子に担持され、さらに前記フッ素系親水性樹脂粒子が非フッ素系樹脂成分に分散されてなる、本発明の光触媒コーティング組成物を得ることができる。
【0051】
次に、表2〜6に、混合工程S2で作製される組成物の具体的な組成例を示すが、当然ながら本発明はこれらの組成に限定されない。各表中、「phr」は樹脂固形分100gに対する顔料重量を示す。例えば「50phr」は樹脂固形分100gに対して顔料を50g添加したことを表わしている。また、カッコ内は加熱残量としての重量%(樹脂不揮発成分換算)を示す。「塗料重量範囲%」は、組成物中における各成分の好適な添加重量範囲を示したものである。
【0052】
なお、いずれの組成物の場合でも、フッ素系親水性樹脂の量が少なすぎると光触媒保護効果が低下し、光触媒の量が少ないと光触媒活性が低下することに留意する。
表2は、実施の形態1の触媒層40として適したPCM焼付塗装用の組成例を示す。表2中、最上段の“200phr(ST01/Nafion)”は表1で作製した分散液を指す。
【0053】
【表2】

【0054】
次に示す表3の構成は室内環境型光触媒塗料の組成である。例えば内装用の機能性塗料として利用可能であり、VOCガス分解、防臭、抗菌効果を期待できる。
なお、表3〜6中、“200phr(硫黄ドープ酸化チタン/T−Nafion)”は表1の酸化チタンを硫黄ドープ酸化チタンで置き換えて作製した分散液を指す。
【0055】
【表3】

【0056】
次に示す表4の構成は、活性エネルギー線硬化型塗料の組成である。この組成は光重合反応を利用して硬化するため、例えば電子線やUVランプを用いて硬化できる。従って表3と同様に、焼付塗装が困難な基体への塗膜形成に適しており、内装用の機能性塗料として利用可能である。
【0057】
【表4】

【0058】
次に示す表5の構成は光触媒ワックスの組成である。
【0059】
【表5】

【0060】
以上のように組成物を調整した後、所定の基体表面に塗布する(塗布工程S3)。
そして、必要に応じて乾燥工程S4(表2、5の組成物の場合は焼付工程)を実施すると、光触媒塗膜付基体が完成する。
<その他の事項>
本発明の光触媒コーティング組成物におけるバインダ成分は、これ単独で塗膜を形成することもできる。一般に水溶性塗料は耐水性、耐光性、帯電防止性に劣るが、本発明のバインダ成分を用いて構成されるコーティング組成物及びその塗膜は、耐水性、防曇性に優れており、広範な用途に利用することが可能である。
【0061】
光触媒塗料には、さらに別途、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系、ベンゾフェノン系等の有機紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等の光安定化剤から選択される化合物を添加してもよい。これにより、光触媒層40に紫外線防止機能が付与される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の光触媒塗料組成物は、たとえばサイディング、住宅ドア、パーティションパネル、ロッカー、米櫃等の建材や配電盤、スチール机、ベンチの他、クーラー、冷蔵庫等の電化製品の外装などの光触媒塗膜付焼付鋼板に利用できる。また、焼き付け塗装できないプラスチック製品、木加工品等の表面にも塗装でき、その産業上の利用可能性は極めて幅広いと言える。
【符号の説明】
【0063】
1 光触媒塗膜付基体(光触媒塗膜付焼付鋼板)
1A 光触媒塗膜付基体(光触媒塗膜付プラスチック製基体)
10 基材(鋼板)
10A 基材(プラスチック基体)
20 着色層(下塗層)
30 着色層(中塗層)
40 光触媒層
401 光触媒粒子
402 フッ素系親水性樹脂粒子(フッ化度40%以上のフッ素系親水性樹脂粒子)
403 非フッ素系樹脂成分(ポリエステルディスパージョン成分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系親水性樹脂及び非フッ素系樹脂を含むバインダ成分と、光触媒成分とを含有し、
樹脂不揮発成分換算において、光触媒成分が前記フッ素系親水性樹脂に保護された状態で、前記フッ素系親水性樹脂とともに前記非フッ素系樹脂中に分散されている
ことを特徴とする、光触媒コーティング組成物。
【請求項2】
前記フッ素系親水性樹脂は、
ポリテトラフルオロエチレンの側鎖にスルホン酸を有するグラフト重合体、ポリテトラフルオロエチレンの側鎖にカルボン酸を有するグラフト重合体、ポリテトラフルオロエチレンの側鎖にアミノ基を有するグラフト重合体、末端にリン酸エステルを有するパーフルオロアルキルオリゴマー、末端にスルホン酸基を有するパーフルオロアルキルオリゴマー、末端にカルボン酸基を有するパーフルオロアルキルオリゴマー、末端にアミノ酸基を有するパーフルオロアルキルオリゴマー、パーフルオロアルキルエチレン付加物の中から選択される、1種または2種以上の混合物である
ことを特徴とする、請求項1に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項3】
前記非フッ素系樹脂は、水系エマルジョン、水系ディスパージョンであり、ポリエステルディスパージョン、ポリオレフィンディスパージョン、アクリレートエマルジョンの中から選んだ1種または2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光触媒コーティング組成物。
【請求項4】
フッ素系親水性樹脂と非フッ素系樹脂を含み、
樹脂不揮発成分換算において、前記フッ素系親水性樹脂が前記非フッ素系樹脂中に分散されている
ことを特徴とする、コーティング組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−49787(P2013−49787A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188690(P2011−188690)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(591164794)株式会社ピアレックス・テクノロジーズ (25)
【Fターム(参考)】