説明

光触媒シートおよびその接合方法並びにその製造方法

基材や光触媒含有層の樹脂が光触媒粒子によって分解されることなく、シート同士の接合が容易にでき、かつ、光触媒の光酸化還元の効用を得られる、光触媒シートおよびその接合方法並びにその製造方法を提供する。
光触媒シート(1b)は、繊維などの基材(2)と、基材(2)の両面に被膜した被膜
層(3)とからなり、被膜層(3)を、アパタイトで被覆した光触媒粒子(4)を分散して樹脂で固定した光触媒含有層とする。このとき、光触媒含有層表面にあるアパタイトで被覆した光触媒粒子(4)は、光触媒含有層表面から露出する部分を有するように固定する。光触媒シート(1b)同士を接合する場合は、各光触媒シート(1b)の光触媒含有層を除去せずに接合面同士を合わせ、熱溶着などにより接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光触媒粒子によって基材や光触媒含有層の樹脂やゴムが分解されることのない光触媒シートおよびその接合方法並びにその製造方法に係り、特に光触媒シート同士の接合が容易にでき、かつ、光触媒の光酸化還元の効用を得られる光触媒シートおよびその接合方法並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
現在、光触媒は消臭、抗菌、防汚機能を有するので各種の分野で利用されつつある。例えば、光触媒粒子を有したシートに対して日光などに含まれる紫外線が照射すると、光酸化還元反応が生じ、シートの表面に付着している有機物などの汚れが分解する。一方で、光触媒は、汚染物質などだけに作用するわけではなく、繊維やプラスチック自身も分解するため、光触媒である酸化チタンの表面に、光触媒として不活性の多孔質リン酸カルシウム膜を被覆することが考えられている(例えば、特許文献1〜5)。
図8は、従来の光触媒を含むシートの断面構造図である。従来のシート10は以下のような四層構造である。すなわち、ベースとなる合成繊維や無機繊維織物などの繊維からなる第一層11上に、合成樹脂やゴムからなる第二層12が被膜されている。この第二層12上に中間層13が被膜され、更に中間層13上に酸化チタンなどの光触媒粒子15による光触媒層14が被膜されている(例えば、特許文献6)。
光触媒層14に含有する光触媒粒子15が光照射を受けて酸化還元反応が生じると、この光酸化還元反応により、下地である第二層12や第一層11を構成する樹脂や繊維などを劣化させないように、中間層13を、第二層12と光触媒層14に介在してある。つまり、中間層13は一種の保護接着層として機能する。また、光触媒粒子の固定には、フッ素樹脂などの難分解性の素材が用いられている。
図9は、図8とは別の光触媒を含むシートの断面構造図である。図8では、第一層11の表裏一方の面上に、第二層12、中間層13および光触媒層14を順に被膜したシート10であるが、図9のように、第一層11の表裏の両面に対称的に、第二層12、中間層13および光触媒層14を順に被膜したシート10aもある。
従来のシート10,10a同士を接合する方法として、次のような方法がある。
図10(a)は従来のシート10aを接合する前段階での断面図、(b)は接合段階での断面図である。前段階において、図10(a)のように、シート10a同士を接合する幅dだけ、接合するシート10aの何れも、光触媒層14および中間層13を研磨などにより除去して、一方の面に熱溶着可能な樹脂層である第二層12を露出させる。
次に、接合段階において、図10(b)のように、幅dの接合面を合わせ、熱溶着する。すなわち、第二層12を構成する樹脂同士で溶融固化させる。熱溶着の方法としては、熱風溶着、熱板溶着、高周波溶着、超音波溶着、熱コテ式溶着などがある。また、接着剤や両面テープを用いることにより接合することも可能である。光触媒層14が片面に被膜されたシート10においても同様に、前段階として、接合幅dだけ光触媒層14および中間層13を除去する必要がある。
このように、第二層12と光触媒層14との間に介在させた中間層13で、光触媒粒子15による光酸化還元反応が第二層12や第一層11に対して悪影響を及ぼさないようにしたシート10,10aを接合する場合には、接合幅dだけ、光触媒層14および中間層13を除去することが必要である(例えば、特許文献7)。
[特許文献1] 特許第3275032号公報([0006],[0009])
[特許文献2] 特開平11−267519号公報([0004],[0009])
[特許文献3] 特開2000−1631号公報(フロントページ)
[特許文献4] WO01/017680号公報(フロントページ)
[特許文献5] 特開2000−119957号公報([0009])
[特許文献6] 特開平10−237769号公報([0004]、[0005])
[特許文献7] 特許第2889224号公報([0007])
しかしながら、第二層12と光触媒層14との間に中間層13を設けると、シート10,10aを製造する上で作業工程を増やすことになり、生産効率が悪くコスト高となる。また、従来のシート10,10a同士を接合する場合には、接合幅分の光触媒層を除去しなければならないという、接合工程上煩雑な作業を必要となる。さらに、光触媒粒子を固定する場合に、フッ素樹脂などの難分解性の素材を用いる必要があり、加工し難くまたコスト高となってしまう。
【発明の開示】
本発明は、上記課題に鑑み、基材や光触媒含有層の樹脂やゴムが光触媒によって分解されることなく、シート同士の接合が容易にでき、かつ、光触媒の光酸化還元の効用を得られる、光触媒シートおよびその接合方法並びにその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の光触媒シートの第一の構成は、アパタイトで被覆した光触媒粒子を少なくとも表面に固定した光触媒シートであって、上記光触媒シート同士の一部を互いに重ね合わせて接合する各接合面が、熱溶着できる素材で成ることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、アパタイトで被覆した光触媒粒子と、この光触媒粒子を表面に固定した基材とで成る光触媒シートであって、上記各光触媒シートの一部を互いに重ね合わせて接合する基材の各接合面を、熱溶着できる素材で形成したことを特徴とする。
本発明の光触媒シートの第二の構成は、基材と、この基材の片面または両面に被膜された被膜層と、からなり、上記被膜層を、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層としたことを特徴とする。
本発明の光触媒シートの第三構成は、基材と、この基材の片面または両面に被膜された第一被膜層と、上記第一被膜層上に被膜された第二被膜層と、からなり、第二被膜層を、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層としたことを特徴とする。
前記光触媒含有層表面にあるアパタイトで被覆した光触媒粒子は、光触媒含有層表面から露出する部分を有していることが好ましい。前記アパタイトで被覆した光触媒粒子は、光触媒粒子の表面の一部にアパタイトを被覆した粒子であるか、または、光触媒粒子の表面に多孔質のアパタイトを被覆した粒子であることが好ましい。特に、前記光触媒粒子に被覆するアパタイトの被覆量は、前記光触媒シート表面に強度18mW/cmの紫外線を1時間照射した場合に前記光触媒シート全体の重量減少率が好ましくは10%以下となる量にする。光触媒粒子は、紫外線応答型、可視光応答型の何れかまたは双方であることが好ましい。
前記光触媒粒子は酸化チタンを含み、前記アパタイトは、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、フッ素アパタイトおよび塩素アパタイトの何れか一種類またはそれらの混合物であることが好ましい。前記基材は、ケナフ、ジュートその他の天然繊維、ポリアミド系繊維、ポリアラミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維その他の合成繊維、または、ガラス繊維、シリカ繊維、バサルト繊維その他の無機繊維からなることが好ましい。
前記アパタイトで被覆した光触媒粒子は、前記光触媒含有層をなす樹脂またはゴムで固定されていることが好ましい。この樹脂またはゴムに対するアパタイトで被覆した光触媒粒子の割合は好ましくは、10〜90重量%の範囲である。また、前記樹脂は、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、フッ素樹脂、ポリスチレン、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド、アクリル樹脂、ポリカーボネート、メチルペンテン樹脂の何れかまたはこれらの混合物であり、前記ゴムは、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴムの何れかであることが好ましい。特に、前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)の何れかであることが好ましい。
本発明による光触媒シートでは、光触媒シートの表面である光触媒含有層は表面に樹脂またはゴムが露出しているので直接熱溶着または接着剤や両面テープによる接合も可能であり、光触媒シート同士を接合するために何らかの特別な工程を必要とせず、容易に接合することができる。また、その光触媒含有層にはアパタイトで被覆した光触媒粒子を分散して固定しているので、光触媒の作用を得ることができる。しかも、光触媒粒子にはアパタイトが被覆されているので、光触媒含有層の光触媒以外の素材、第三の構成における第一被膜層、及び基材に光触媒の作用が及ぶことがない。すなわち、光酸化還元反応によって基材を分解させることがほとんどない。特に第三の構成においては、光触媒含有層である第二被膜層と基材との間に、光触媒含有層から光触媒を除いたものと同一の素材で構成された第一被膜層を介在させることで、光触媒含有層を薄くでき、光触媒含有層に固定するアパタイトで被覆した光触媒粒子の量を大幅に減少させることができる。また、光触媒粒子としてアパタイトで被覆した光触媒粒子を用いているので、フッ素樹脂などの難分解性の素材を用いる必要がない。もっとも、フッ素樹脂で、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定しても構わない。
一方で、本発明の光触媒シートの接合方法は、本発明の光触媒シートの第二の構成または第三の構成の光触媒シートの接合方法であって、光触媒シートの光触媒含有層を除去せずに接合面同士を合わせ、該接合面同士を接合することを特徴とする。特に、前記接合面に存在する樹脂またはゴム同士を熱溶着して接合することが好ましい。光触媒含有層において、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定する樹脂またはゴムに対する該アパタイトで被覆した光触媒粒子の割合は、好ましくは10〜60重量%の範囲である。
本発明による光触媒シートの接合方法によれば、従来と異なり、接合幅分の光触媒層を除去し樹脂層を表面に露出するという前段階の処理を行う必要がなくなるので、容易に接合を行うことができる。特に、熱溶着の場合には、樹脂またはゴムに対するアパタイトで被覆した光触媒粒子の割合を、10〜60重量%の範囲とすることで、十分な接合強度で接合することができる。
本発明の光触媒シートの製造方法は、基材と基材の片面または両面に被膜された被膜層とからなり、被膜層の最上層を、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層とした光触媒シートの製造方法であって、光触媒含有層が樹脂またはゴムからなり、光触媒含有層を、アパタイトで被覆した光触媒粒子が含有された分散液の塗布により形成することを特徴とする。
また、本発明の光触媒シートの製造方法は、基材と基材の片面または両面に被膜された被膜層とからなり、被膜層の最上層を、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層とした光触媒シートの製造方法であって、光触媒含有層が樹脂またはゴムからなり、光触媒含有層を、アパタイトで被覆した光触媒粒子が含有された樹脂またはゴムでシート状に形成し、このシート状の光触媒含有層を上記被膜層の最上層へ貼りあわせることにより、光触媒シートを形成することを特徴とする。
上記製造方法において、好ましくは、分散液が、樹脂またはゴムと、アパタイトで被覆した光触媒粒子と、有機溶剤とを含み構成され、光触媒含有層の、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定する樹脂またはゴムに対するアパタイトで被覆した光触媒粒子を、10〜90重量%の範囲とする。また、好ましくは、分散液が、樹脂またはゴムと、アパタイトで被覆した光触媒粒子と、水とを含み構成され、光触媒含有層において、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定する樹脂またはゴムに対するアパタイトで被覆した光触媒粒子の割合を、10〜90重量%とする。
本発明による光触媒シートの製造方法によれば、基材の最上層に設けられるアパタイトで被覆した光触媒を含有する光触媒含有層を分散液の塗布などの方法で容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の光触媒シートの断面図である。
図2は、図1とは別の、本発明の光触媒シートの断面図である。
図3は、図1,2とは別の、本発明の光触媒シートの断面図である。
図4は、図1乃至図3とは別の、本発明の光触媒シートの断面図である。
図5は、本発明の光触媒シートの接合方法を模式的に示した断面図である。
図6は、実施例1〜5のアパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒PVCシート及び比較例1〜6の最上層の、光触媒活性、熱接合特性及び光酸化分解による質量変化率の評価結果を示す表である。
図7は、実施例6〜10のアパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒を含有したFEP層を最上層としたPTFEシート及び比較例7の最上層の、光触媒活性、熱接合特性及び光酸化分解による質量変化率の評価結果を示す表である。
図8は、従来の光触媒シートの断面図である。
図9は、図8とは別の、従来の光触媒シートの断面図である。
図10は、従来の光触媒シートの接合方法を模式的に示し、(a)は前段階での断面図、(b)は接合段階での断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、以下の詳細な発明及び本発明の幾つかの実施の形態を示す添付図面に基づいて、より良く理解されるものとなろう。なお、添付図面に示す種々の実施例は本発明を特定または限定することを意図するものではなく、単に本発明の説明及び理解を容易とするためだけのものである。
以下、この発明の実施の形態を図面により詳細に説明する。
図1は、本発明の光触媒シートの断面図である。図1の光触媒シート1は、基材2と、アパタイトで被覆した光触媒粒子4を分散して固定した被膜層3とからなる。
ここで、特許請求の範囲を含め本明細書において、基材2とは、各種の製品自体又は製品に用いられる材料を含む概念であり、材料(素材)の表面に表面処理剤を被覆した状態又は被覆する前の状態のものを含む概念として用いることにする。基材2としては、例えば、野球場,催し場などのドームやサッカースタジアム,テント倉庫,体育館,商業施設などの膜構造物や、軒出テント,トラック幌,養生シート、フレキシブルコンテナなどに使用される基材や、防雨服,カバン,椅子などに使用される防水布、ベルトコンベア,タイミングベルトなど機械用の繊維補強樹脂の基材などが挙げられる。基材2が繊維である場合には、ケナフ、ジュートその他の天然繊維や、ポリアミド系繊維、ポリアラミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維などの合成繊維や、ガラス繊維、シリカ繊維、バサルト繊維などの無機繊維などが挙げられ、織物として加工済みであってもよい。
被膜層3は、アパタイトで被覆した光触媒粒子4を樹脂やゴムに固定した光触媒含有層である。アパタイトで被覆した光触媒粒子4を固定する固定剤は、光触媒粒子の表面がアパタイトで被覆されているので、フッ素樹脂などの難分解性の素材である必要がない。また、被膜層3は、光触媒含有層を除去せずに光触媒シート1同士を熱溶着する際、十分な接合強度を得るために、樹脂またはゴムに対するアパタイトで被覆した光触媒粒子4の割合は、10〜60重量%であることが好ましい。
樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリウレタン(PU)、フッ素樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合休(ABS)、ポリアミド(PA、ナイロン(登録商標))、アクリル樹脂(PMA)、ポリカーボネート(PC)、メチルペンテン樹脂(TPX)などの合成樹脂か、またはこれらの混合物が挙げられる。ここで、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)などのフッ素樹脂モノマーの重合体が挙げられる。また、ゴムとしては、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Si)、フッ素ゴム(FPM)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)などが挙げられる。
被膜層3に固定されるアパタイトで被覆した光触媒粒子4は、光触媒粒子の表面の一部に島状にまたは全部に、光触媒として不活性のアパタイトを被覆した粒子である。光触媒粒子に被覆するアパタイトの被覆量は、基材や樹脂などが光触媒によって分解されない程度の量となっている。例えば、光触媒シート表面に強度18mW/cmの紫外線を1時間照射した場合に、光触媒作用による光触媒シート1全体の重量減少率が10%以下となる量となっているのが好ましい。ここで、紫外線照射には、主として360nm前後の紫外放射を発生させるように設計された高圧水銀ランプや蛍光ランプ、キセノンランプ、ブラックライトランプ等の光を用いる。
アパタイトで被覆した光触媒粒子4が、光触媒の表面全部にアパタイトを被覆した粒子である場合には、アパタイトは多孔質であることが必要であり、アパタイトの表面に有する細孔の底に光触媒として活性な光触媒が露出した状態になっている。
ここで、光触媒は、光半導体とも呼ばれる材料で、例えば1〜100nmのアナターゼ型TiO(二酸化チタン、禁制帯幅3.2eV,波長388nm)などの光触媒微粒子である。酸化チタン(チタン酸化物)には、アナターゼ型TiOのほか、ルチル型TiO(禁制帯幅3.0eV,波長414nm)や三酸化チタン(TiO)などがあるが、いずれでもよい。これらの光触媒を適宜酸化チタンと呼ぶ。さらには、光触媒として、酸化亜鉛(ZnO、禁制帯幅3.2eV、波長388nm)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO、禁制帯幅3.2eV、波長388nm)、三酸化タングステン(WO、禁制帯幅3.2eV、波長388nm)などを用いてもよい。
また、光触媒粒子は、紫外線で光酸化還元反応を生じる紫外線応答型だけでなく、室内光に含まれる可視光線で光酸化還元反応を生じる可視光線応答型であってもよいし、これらを混ぜてもよい。
アパタイトは、リン酸カルシウムを主成分としており、水酸アパタイト(ハイドロキシアパタイト)、炭酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイトなどが挙げられ、それら混合物でもよい。
すなわち、アパタイトは実質的に水酸アパタイト(Ca10(PO(OH))からなるものであればよく、少量の他成分を含むことは許容される。この水酸アパタイトのCaサイト、POサイト、OHサイトを他の元素あるいは分子に置換または部分固溶させた種々の化合物構造であるアパタイトでもよい。ここで、CaサイトのCaは、Sr,Ba,Pb,Cd,Raなどに置き換えることができる。あるいは、Nd,Y,La,Mn,Fe,Zn,Tl,Rh,Hなどの元素を部分固溶させてもよい。PbサイトのPbOは、VO,AsO,CrOなどに置換できる。あるいは、CO,HPO,BOなどを部分固溶していてもよい。OHサイトのOHは、F,Cl,Br,O,CO,BOなどと置換していてもよい。
また、アパタイトは、容易に析出しないように水に難溶性のものが好ましい。また、多孔質のアパタイトで被覆したものが好ましい。多孔質であることで、細孔中に光触媒表面が被覆されず露出した部分が存在し、この部分に光照射して酸化還元反応が生じる。すなわち、光、特に紫外線または可視光線の照射の下で、光触媒によって生じた電子と正孔の光酸化還元反応により、リン酸カルシウムなどのアパタイトによって吸着された有機物質や有害物質その他の有機化合物が容易に分解除去される。よって、防汚、抗菌、消臭などの光触媒の作用を得ることができる。可視光応答型光触媒を用いて屋内で光触媒シートを使用する場合は、照明等により光触媒反応が起こり室内の環境汚染物質をも分解する。また、光触媒反応によって光触媒シート表面の接触角が130°以下となり、シート表面を濡らすため、光触媒シートを膜構造建築物やテントとして使用する場合は、結露による水滴落下を防止できる。
このアパタイトで光触媒を被覆していることから、アパタイトで被覆した光触媒粒子4を固定する樹脂やゴムに、光触媒の表面が直接接触することは実質的にない。また、このアパタイトが光触媒として不活性であることから、アパタイトで被覆した光触媒粒子4を固定する被膜層3を構成する樹脂やゴムの媒体に混入して添加して使用しても、樹脂やゴムがアパタイトで保護され、樹脂やゴムなどの媒体自身の分解が生じ難い。よって、光触媒の光酸化還元反応の影響が下地の基材2に悪影響を与えなくなり、光触媒シート1の耐久性を向上させることができる。
また、アパタイトは、雑菌、空気中の細菌、ウイルス、悪臭源となる有機物や窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物(VOC)などの有害物質を吸着する性質を持つため、特に光触媒含有層の表面に固定されたアパタイトで被覆した光触媒粒子4は、それらの有害物質を吸着するとともに、その吸着した有害物質を光触媒の強力な酸化力によって確実にしかも効率よく死滅または分解させることができる。
また、このアパタイトで光触媒のみを被覆したアパタイトで被覆した光触媒粒子4のみならず、アパタイトで被覆する際に光触媒粒子の表面部分などに、Pt,Rh,Ru,Pd,Ag,Cu,Znなどの金属を混入させて、光触媒の作用による酸化分解される速度を速めたアパタイトで被覆した光触媒粒子4であってもよい。
また、アパタイトで被覆した光触媒粒子4は、被膜層3である光触媒含有層に、好ましくは均一に分散して固定されていることが好ましい。
また、光触媒含有層の表面にあるアパタイトで被覆した光触媒粒子4については、被膜層3、すなわち、光触媒含有層の表面から露出している方が、日光などの光に含まれる紫外線などの照射により、光酸化還元反応が起き易くなり、光触媒の作用が得られやすくなる。光触媒の作用を高めるには、光触媒含有層の表面に露出したアパタイトで被覆した光触媒粒子4の面積を大きくする。そのため、アパタイトで被覆した光触媒粒子4の粒径は、適度に小さいことが望ましい。
また、従来のシート10(図8)のように光触媒層14に光触媒粒子15を充填しているのとは異なり、本発明では被膜層3である光触媒含有層に分散させて固定している。これにより、必要以上にアパタトで被覆した光触媒粒子4を準備する必要がない。
また、光触媒シート1に導電性を付与したり光触媒効果を増強するために、被膜層3に、金属材料や光触媒機能補助物質などを添加してもよい。金属材料としては、Ag,Al,Au,Cu,Fe,In,Ir,Ni,Os,Pd,Pt,Rh,Ru,Sb,Sn,Zn,Zrなどが挙げられる。なお、被膜層3には、悪臭物質や有害物質などを吸収する活性炭、ゼオライトのような吸収剤を光触媒シート1の用途に応じて添加してもよい。
図2は、図1とは異なる本発明の光触媒シートの断面図である。図2の光触媒シート1aは、基材2と、基材2の片面に被膜された第一被膜層5と、第一被膜層5上に被膜された第二被膜層3aとで構成された三層構造である。第二被膜層3aは、アパタイトで被覆した光触媒粒子4を分散して固定した光触媒含有層である。基材2は図1の基材2と同一であり、第二被膜層3aは図1の被膜層3と同一であるが、光触媒シート1aの第二被膜層3aは光触媒シート1(図1)と比べると薄い。
第一被膜層5は、第二被膜層3aでアパタイトで被覆した光触媒粒子4を固定している樹脂またはゴムで構成される。その他については、図1の光触媒シートと同様である。
この構成により、第二被膜層3aである光触媒含有層に分散して固定するアパタイトで被覆した光触媒粒子4の量を減らすことができ、コストを抑えることができると共に、光触媒シート1aの強度の面においても図1の光触媒シート1と比べて遜色がなく、また光触媒シート1a同士を接合させる場合にも、図1の場合と同様に行うことができる。
図3は、図1および図2とは異なる、本発明の光触媒シートの断面図である。図3の光触媒シート1bは、図1の光触媒シート1のように基材2の片面に被膜層3を被膜したシートと異なり、基材2の両面に被膜層3を被膜したシートである。ここで、基材2、被膜層3の各層については、図1の場合と同様である。
図3に示すように光触媒シート1bの両面に光触媒含有層である被膜層3がある場合には、光触媒シート1bの一方の被膜層3には、紫外線応答型の光触媒粒子をアパタイトで被覆した光触媒粒子4を用い、光触媒シート1bのもう一方の被膜層3には、可視光応答型の光触媒粒子をアパタイトで被覆した光触媒粒子4を用いてもよい。
なお、図面は省略するが、図2の光触媒シート1aの場合についても同様で、基材2の両面に第一被膜層5を被膜し、更に第一被膜層5の上に第二被膜層3aを被膜したシートとしてもよい。
図4は、図1乃至図3と異なる、本発明の光触媒シートの断面図である。図4の光触媒シート1cは、基材6の表面に光触媒粒子7を固定したシートである。基材6は、光触媒シート1c同士の接合面となる基材6の表面が熱溶着できる素材で形成されている。例えば、基材6の材質としては、前述した各種の樹脂やゴムを挙げることができる。また、基材6の表面には、アパタイト8で被覆された光触媒粒子7が固定されている。固定される光触媒粒子7の一部は、アパタイト8で被覆されており、光触媒粒子7の表面、すなわち、アパタイト8が被覆されてない表面7aが大気側に露出していることが好ましい。これで、光触媒粒子7が光を受けやすくなり、光触媒作用が効率良く発揮される。なお、図4では、基材6の一方の表面に光触媒粒子7を固定しているが、基材6の両方の表面に光触媒粒子7を固定したほうが、接合の際に接合面を逐一確認する必要がないので、接合作業を行い易くなる。
次に、本発明の光触媒シート1,1a,1bを接合する方法について、一例として、図3の光触媒シート1b同士を接合する方法を例に挙げて説明する。
図5は、図3の光触媒シート同士を接合する段階の断面図である。光触媒シート1bの表裏面は被膜層3であり、この被膜層3はアパタイトで被覆した光触媒粒子4を分散して固定した光触媒含有層である。光触媒含有層は、アパタイトで被覆した光触媒粒子4が充填されているのではなく、分散しており、表面やその内部にはアパタイトで被覆した光触媒粒子4を固定する樹脂が存在する。
よって、光触媒シート1b同士を接合する段階では、光触煤シート1bの接合面同士を合わせた後に、接合面を熱溶着することで、容易に光触媒含有層の樹脂同士が溶融固化して、光触媒シート1bを接合することができる。熱溶着としては、熱風溶着したり、熱板で溶着したり、高周波を用いて溶着したり、超音波を用いて溶着したり、熱コテを用いて溶着することが、挙げられる。
以上の接合方法は、既に説明した他の光触媒シート1,1aなどでも各光触媒シートの表面に同様の光触媒含有層が存在するので、何ら変更なく同様に適用できる。
以上説明したように、光触媒シートでは、アパタイトで被覆した光触媒粒子を用い、かつ、このアパタイトで被覆した光触媒粒子を樹脂やゴムで固定している。よって、光触媒の作用、すなわち光酸化還元反応の影響を、光触媒含有層の光触媒以外の素材、図2の光触媒シートにおける第一被膜層及び基材に及ぼさないようにできるとともに、接合の際に余分な箇所を取り除く必要がない。
また、この光触媒シート同士を接合する際には、従来余分な光触媒層や中間層を除去する必要があったが、以上に説明したように、除去すべき箇所がなく、光触媒シートの接合面を合わせて熱溶着すればよいので、生産コストを低減できるととともに、従来では除去により廃棄物が生したが、除去部分がないので廃棄物が生じることもない。
次に、本発明の光触媒シートの製造方法について説明する。
本発明の光触媒シートは、ポリエステル繊維織物やガラス繊維織物の両面に、塩化ビニル樹脂を被覆したシート(以下、適宜PVCシートと呼ぶ)や、PTFEを被覆したシート(以下、適宜PTFEシートと呼ぶ)に、アパタイトで被覆された光触媒を含有した合成樹脂分散液を塗布し、所定の温度で所定時間乾燥し、自然冷却することにより製造することができる。
アパタイトで被覆した光触を媒含した有合成樹脂分散液とは、メチルエチルケトン(MEK)及び/または、トルエン等の有機溶剤に、塩化ビニルやアクリル等の合成樹脂、アパタイトで被覆した光触媒粉末、MEK等の希釈剤を添加し、混合、攪拌したものである。有機溶剤及び希釈剤は、上記の合成樹脂やゴムなどを溶解できればよく、上記したものに限定されない。また、有機溶剤は、分散液の粘度が100mPa・s以下となるように添加すれば、塗工性がよくなる。
アパタイトで被覆した光触媒粉末は、有機溶剤を用いずに塩化ビニルやアクリル等の合成樹脂に直接練りこむことも出来るが、製造効率や混合しやすさを考えると、有機溶剤を用い、分散体にして塗布することが好ましい。フッ素樹脂以外の合成樹脂であるPVCやゴムを分散液に用いた場合、最外表面層に塗布する場合の塗布量は5g/m〜20g/mとすることが好ましく、乾燥温度は使用する有機溶剤により異なるが、70℃から120℃が好ましい。
また、フッ素樹脂を分散液に用いた場合、PTFE,PFA,FEPなどのフッ素樹脂は、水系分散体だけでなく、酢酸ブチル等の溶剤を用いてエナメル塗料という形にして利用することも可能である。また、PVFやPVDFは、適当な有機溶剤を選択し、溶融させることが可能である。このような有機溶剤としては、MEK,トルエン、アセトン等が挙げられる。フッ素樹脂の最外表面層に塗布する場合の塗布量は5g/m〜30g/mとすることが好ましい。
塗布方法は、バーコート法、グラビアコート法、ダイレクトグラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアリバースコート法、コンマコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、ディッピングコート法、キスコート法、ダイコート法、フローコート法など、均一に塗布できる方法であればどのような方法を用いても良い。
本発明の光触媒シートの製造方法において、フッ素樹脂以外の合成樹脂やゴムを用いる場合には、アパタイトで被覆した光触媒粒子を含有する樹脂またはゴムをカレンダー加工等によりシート化して、光触媒含有層を形成し、このシート化された光触媒含有層を基材の最上層へ貼りあわせることにより製造することができる。
具体的には、アパタイトで被覆した光触媒粒子と、必要により、可塑剤、加工助剤、耐候安定剤、酸化防止剤、顔料などを合成樹脂またはゴムに含有させ、溶融、混練し、シート化を行う。このシート化された光触媒含有層を、基材の最上層に貼り合わせることにより、本発明の光触媒シートを製造することができる。この基材としては、合成樹脂またはゴムを被膜した基材でもよい。
【実施例1】
最初に、ポリエステル繊維の両面を塩化ビニル樹脂で被覆したPVCシートにアパタイトで被覆した光触媒粒子を表面に固定した光触媒シートの実施例1〜5とその比較例1〜6について説明する。
実施例1として、塩化ビニル樹脂用有機溶剤型表面処理剤(大日精化社製、レザヒットLM−1249、不揮発分13.5wt%(重量%))10.0gと、アパタイトで被覆したアナターゼ型二酸化チタン光触媒粉末(昭和電工社製F1S02(平均粒子径90nm、アパタイト被覆量2%))0.15gと、希釈剤としてMEK3.5gと、を添加し、混合、攪拌し、溶液Aを調製した。この溶液Aの塩化ビニル樹脂(PVC)及びアクリル樹脂(PMA)とアパタイト被覆酸化チタンとの比率は、90:10であった。
次に、この溶液Aを、ポリエステル繊維の両面を塩化ビニル樹脂で被覆したPVCシートにバーコート法により片面のみ塗布した。この塗膜を、常温乾燥した後、100℃で2分間加熱乾燥し、自然冷却し、実施例1の試料aを作製した。
【実施例2】
アパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒粉末を0.34gとした以外は実施例1と同様にして溶液Bを調製し、実施例2の試料bを作製した。溶液Bの塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイト被覆二酸化チタンとの比率は80:20であった。
【実施例3】
アパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒粉末を0.90gとした以外は実施例1と同様にして溶液Cを調製し、実施例3の試料cを作製した。溶液Cの塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイト被覆二酸化チタンとの比率は60:40であった。
【実施例4】
アパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒粉末を2.03gとした以外は実施例1と同様にして溶液Dを調製し、実施例4の試料dを作製した。溶液Dの塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイト被覆二酸化チタンとの比率は40:60であった。
【実施例5】
アパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒粉末を3.15gとした以外は実施例1と同様にして溶液Eを調製し、実施例5の試料eを作製した。溶液Eの塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイトで被覆した二酸化チタンとの比率は30:70であった。
(比較例1)
実施例1に用いたポリエステル繊維の両面が塩化ビニル樹脂で被覆され、光触媒を塗布していないシート単体を比較例1の試料fとした。
(比較例2)
アパタイトが被覆されていないアナターゼ型二酸化チタン光触媒粉末(石原産業社製ST01、1次粒子径約7nm)0.15g以外は実施例1と同様にして溶液Gを調製し、比較例2の試料gを作製した。溶液Gの塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイトを被覆していない二酸化チタンとの比率は90:10であった。
(比較例3)
比較例2のアパタイトが被覆されていない二酸化チタン光触媒粉末を0.34gとした以外は実施例1と同様にして溶液Hを調製し、比較例3の試料hを作製した。溶液Hの塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイトを被覆していない二酸化チタンとの比率は80:20であった。
(比較例4)
比較例2のアパタイトが被覆されていない二酸化チタン光触媒粉末を0.9gとした以外は実施例1と同様にして溶液Iを調製し、比較例4の試料iを作製した。溶液Iの塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイトを被覆していない二酸化チタンとの比率は60:40であった。
(比較例5)
比較例2のアパタイトが被覆されていない二酸化チタン光触媒粉末を2.03gとした以外は実施例1と同様にして溶液Jを調製し、比較例6の試料jを作製した。溶液Jの塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイトを被覆していない二酸化チタンとの比率は40:60であった。
(比較例6)
比較例2のアパタイトが被覆されていない二酸化チタン光触媒粉末を3.15gとした以外は実施例1と同様にして溶液Kを調製し、比較例6の試料kを作製した。溶液Jの塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイトを被覆していない二酸化チタンとの比率は30:70であった。
【実施例6】
次に、ガラス繊維織物の両面にPTFEを被覆したシートに、アパタイトで被覆した光触媒粒子を表面に固定した光触媒シートの実施例6〜10とその比較例7について説明する。
アパタイトで被覆したアナターゼ型二酸化チタン光触媒水系分散体(昭和電工社製F1S02FS(平均粒子径90nm、アパタイト被覆量2%、固形分25wt%)10g、精製水10g、FEPからなる水系ディスパージョン(固形分54wt%)を41.7g、シリコン系界面活性剤を0.6g(全体の1重量部)入れ、混合、攪拌し、溶液M(FEP/アパタイトで被覆した二酸化チタン=90/10)を調製した。
次に、ガラス繊維の両面がPTFEとさらにその最表面層FEPで被覆したシートに、溶液Mをバーコート法により片面のみ塗布した。この塗膜を常温乾燥した後、60℃で5分間加熱乾燥し、さらに360℃で3分間加熱焼成し、自然冷却した。さらに、漂白処理として、低温サイクルキセノンウェザメーターを用い、放射照度180W/m(波長300〜400nm)で24時間紫外線照射し、実施例6の試料mを作製した。
【実施例7】
実施例6のFEPからなる水系ディスパージョンを18.5gとした以外は同じにして溶液Nを調製し、実施例7の試料nを作製した。溶謀NのFEPとアパタイトで被覆した二酸化チタンとの比率は、80:20であった。
【実施例8】
実施例6のFEPからなる水系ディスパージョンを6.9gとした以外は同じにして溶液Pを調製し、実施例8の試料pを作製した。溶液PのFEPとアパタイトで被覆した二酸化チタンの比率は、60:40であった。
【実施例9】
実施例6のFEPからなる水系ディスパージョンを3.1gとした以外は同じにして溶液Qを調製し、実施例9の試料qを作製した。溶液QのFEPとアパタイトで被覆した二酸化チタンとの比率は、40:60であった。
【実施例10】
実施例6のFEPからなる水系ディスパージョンを2.0gとした以外は同じにして溶液Rを調製し、実施例10の試料rを作製した。溶謀RのFEPとアパタイトで被覆した二酸化チタンとの比率は、30:70であった。
(比較例7)
実施例6のPTFEシートのその最表面層をFEPで被覆したシートを、漂白処理として、低温サイクルキセノンウェザーメーターを用い、放射照度180W/m(波長300〜400nm)で24時間紫外線照射し、比較例7の試料sを作製した。
次に実施例1〜10のアパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒を含有する光触媒シート及び比較例1〜7のシートの最上層の、光触媒活性、熱接合特性、及び光酸化分解による質量変化率の評価を行った。
図6は、実施例1〜5のアパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒PVCシート及び比較例1〜6の最上層の、光触媒活性、熱接合特性、及び光酸化分解による質量変化率の評価結果を示す表である。光触媒活性としての還元作用は、硝酸銀水溶液による呈色反応後の色差(△E)により評価を行った。各試料を0.1モル/リットル(0.1規定)の硝酸銀水溶液中に浸漬させた状態で、1mW/cmの紫外線を1分間照射し呈色反応を示したものは光触媒反応があったとし○、呈色反応を示さなかったものは×とした。
図6の評価1から明らかなように、光触媒を含有していない比較例1以外の、光触媒を含有した実施例1〜6及び比較例2〜7の光触媒シートは、光触媒反応があり、○であった。
次に、熱接合はPVCシートの光触媒面同士を重ね合わせて熱接合を行った。熱接合には4cm×30cmの平板電極(凹凸、歯型がついていない平面状の電極)を装着した高周波ウェルダー溶着機(山本ビニター株式会社製、YC−10000F型、出力10kW)を用いた。接合条件は、比較例2の試料fが十分に溶着した電流設定値90、速度設定値10、同調70、溶着時間4秒、冷却時間3秒とした。溶着後、接合部を引張試験機により50mm/分の速度で剥離させ、ポリエステル繊維又はガラス繊維より剥がれた場合は良好として○、部分的に光触媒層が残る剥離外観を示した場合は△、光触媒層間で剥離した場合は溶着していないと判断し×とした。
図6の評価2から明らかなように、アパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒を含有した実施例1〜3及び比較例2〜5の引張試験は良好(○)であり、実施例4のそれは、△であり、実施例5,比較例5,6においては、溶着できなかった(×)。
これから、実施例1〜4の光触媒シートにおいては、塩化ビニル樹脂及びアクリル樹脂とアパタイトで被覆した二酸化チタンとの比率は40:60以上から90:10であり、熱接合性が良好であることが分かった。
次に、光酸化分解による質量変化率についての評価を行った。各試料から5cm×5cmの試験片を切り出した後、質量をmg単位で測定した。その後、各試験片をキセノンランプ使用ウェザーメーター(スガ試験機製、照射波長300〜400nm、照射強度:18mW/cm)に入れ、1時間及び24時間照射した後の質量をmg単位測定し、試験前との質量変化率を求めた。
PVCシートの場合は、特に紫外線の照射により可塑剤等の揮発が発生する。質量変化量は試験片シート全体の変化量とした。質量変化率は光触媒含有樹脂層近傍の変化率に着目するため、塗布量(今回約10g/mと設定したため25cm試験片当り25mg)に対する質量変化率とし、可塑剤等の揮発分を考慮するため、比較例1を基準とした(図6評価3参照)。
したがって、この数値が大きい数値(+)ほど、塩ビ樹脂及びアクリル樹脂の表面処理剤の効果により可塑剤の揮発が抑制されているものと考えられる。逆に、数値のマイナスが大きい数値(−)ほど光触媒による分解の影響を受けていると判断でき、又、小さいものは光触媒の影響を受けにくいと考えられる。
図6の評価3から明らかなように、アパタイトで被覆した酸化チタン光触媒を含有した実施例1〜5の質量変化率は+であり、光触媒の影響がないことが分かった。これに対して、比較例2〜6は、質量変化率は−であり、光触媒による分解の影響を受けていることが分かった。
次に、実施例6〜10及び比較例7のシートの最上層の、光触媒活性、熱接合特性及び光酸化分解による質量変化率の評価について説明する。
図7は、実施例6〜10のアパタイトで被覆した酸化チタン光触媒を含有したFEP層を最上層としたPTFEシート及び比較例7の最上層の、光触媒活性、熱接合特性及び光酸化分解による質量変化率の評価結果を示す表である。評価方法は、PTFEシートの熱接合条件以外は、実施例1〜5の評価方法と同じであるので説明は省略する。
PTFEシートの熱接合性は、各試料の最上層を重ね合わせて、10cm×40cmの熱板(凹凸、歯型がついていない平面状の熱板)を装着した熱板溶着機を用いた。接合条件は、比較例7(試料s)が十分に溶着した温度370℃、圧力0.78kg/cm、溶着時間70秒、冷却時間20秒とした。
図7の評価1から明らかなように、光触媒を含有していない比較例7以外の、光触媒を含有した実施例5〜10の光触媒シートは、光触媒反応があり、○であった。
図7の評価2から、熱接合状況は、アパタイトで被覆した二酸化チタン光触媒を含有した実施例5〜9及びPTFE単体のシートである比較例7の引張試験は良好(○)または可(△)であり、実施例10は溶着できなかった(×)。これから、実施例6〜9の光触媒シートにおいては、FEPとアパタイトで被覆した二酸化チタンの比率は、40:60以上から90:10であり、熱接合性が良好であることが分かった。
さらに、図7の評価3から明らかなように、実施例6〜10及び比較例7の質量変化及びその変化率は何れも0であり、光触媒の影響がないことが分かった。
上記実施例の結果から、実施例1〜10の場合には、その最上層の光触媒活性及び光酸化分解による質量変化率が、比較例1〜7に対して良好であることが分かった。また、特に実施例1〜4及び6〜9においては、さらに、熱接合特性が、良好であることが分かった。
本発明は、上記発明を実施するための最良の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々変更が可能であり、それらも本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。なお、本明細書および特許請求の範囲においては光触媒シートなどシートという言葉を用いたが、シートにはフィルムをも包含する意味で用いている。
【産業上の利用可能性】
本発明の光触媒シート及びその製造方法によれば、容易に光触媒シート同士を接合できる光触媒シートが得られる。また、アパタイトで被覆した光触媒粒子を光触媒含有層に分散して固定しているので、光触媒の作用により生じる光酸化還元反応によって基材を分解させることがほとんどない。また、光触媒含有層の表面には、接合の際に互いに溶融固化することにより結合できる素材が存在するので、接合に際して従来と異なり、前段階の処理を行う必要がなくなる。特に、本発明の光触媒シートの第三の構成のように、光触媒含有層である第二被膜層と基材との間に、光触媒含有層から光触媒を除いたものと同一の素材で構成された第一被膜層を介在させることで、光触媒含有層を薄くでき、光触媒含有層に固定するアパタイトで被覆した光触媒粒子の量を大幅に減少させることができる。また、光触媒粒子としてアパタイトで被覆した光触媒粒子を用い、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定する際にはフッ素樹脂などの難分解性の素材を用いる必要がなく、コスト高とならず加工し難いこともない。なお、アパタイトで被覆した光触媒粒子をフッ素樹脂で固定する場合でも適用できる。特に、光触媒粒子として、紫外線応答型だけでなく可視光応答型を採用することで、屋内の照明などで光触媒としての作用が得られる。また、樹脂またはゴムに対するアパタイトで被覆した光触媒粒子の割合を、10〜90重量%とすることで、樹脂またはゴムや基材を劣化させることなく、光触媒の作用効果を十分に得ることができる。
さらに、本発明の光触媒シートの接合方法では、光触媒含有層中、好ましくはその表面にもアパタイトで被覆した光触媒粒子を分散して固定している。それ故、その固定剤である樹脂も表面に存在するので、接着剤や両面テープで両光触媒シート同士を接合したり熱処理を施すことにより、光触媒シートの光触媒含有層同士が溶融固化し両光触媒シート同士を接合できる。よって、従来のように、接合に当たって中間層や光触媒層を部分的に除去する前段階の処理が不要となる。これにより接合作業が大幅に短縮される。さらに、熱溶着する場合は、樹脂またはゴムに対するアパタイトで被覆した光触媒粒子の割合を10〜60重量%とすることで、光触媒シート同士の接合時に十分な接合強度を得ることができる。
本発明の光触媒シートは、ドームなどの膜構造建造物、テント、内装材、フレキシブルコンテナーバック、土木建築用シートなどに用いられ、本発明の光触媒シートの接合方法は、各種所望の大きさにシートを容易に繋ぎ合わせる際に利用される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アパタイトで被覆した光触媒粒子を少なくとも表面に固定した光触媒シートであって、
上記光触媒シート同士の一部を互いに重ね合わせて接合する各接合面が、熱溶着できる素材で成ることを特徴とする光触媒シート。
【請求項2】
アパタイトで被覆した光触媒粒子と、この光触媒粒子を表面に固定した基材とで成る光触媒シートであって、
上記各光触媒シートの一部を互いに重ね合わせて接合する基材の各接合面を、熱溶着できる素材で形成したことを特徴とする光触媒シート。
【請求項3】
基材と、該基材の片面または両面に被膜された被膜層と、からなり、
上記被膜層が、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層であることを特徴とする、光触媒シート。
【請求項4】
基材と、該基材の片面または両面に被膜された第一被膜層と、該第一被膜層上に被膜された第二被膜層と、からなり、
上記第二被膜層は、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層であることを特徴とする、光触媒シート。
【請求項5】
前記光触媒含有層に固定されたアパタイトで被覆した光触媒粒子は、該光触媒含有層表面から露出する部分を有することを特徴とする、請求項3または4に記載の光触媒シート。
【請求項6】
前記アパタイトで被覆した光触媒粒子は、光触媒粒子の表面の一部にアパタイトを被覆した粒子であるか、または、光触媒粒子の表面に多孔質のアパタイトを被覆した粒子であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の光触媒シート。
【請求項7】
前記光触媒粒子に被覆するアパタイトの被覆量は、前記光触媒シート表面に強度18mW/cmの紫外線を1時間照射した場合に前記光触媒シート全体の重量減少率が10%以下となる量にすることを特徴とする、請求項6に記載の光触媒シート。
【請求項8】
前記光触媒粒子は、紫外線応答型、可視光応答型の何れかまたは双方であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の光触媒シート。
【請求項9】
前記光触媒粒子は酸化チタンを含み、
前記アパタイトは、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、フッ素アパタイトおよび塩素アパタイトの何れか一種類またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の光触媒シート。
【請求項10】
前記基材は、ケナフ、ジュートその他の天然繊維、ポリアミド系繊維、ポリアラミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維その他の合成繊維、または、ガラス繊維、シリカ繊維、バサルト繊維その他の無機繊維からなることを特徴とする、請求項3または4に記載の光触媒シート。
【請求項11】
前記アパタイトで被覆した光触媒粒子は、前記光触媒含有層をなす樹脂またはゴムで固定されたことを特徴とする、請求項3または4に記載の光触媒シート。
【請求項12】
前記樹脂またはゴムに対する前記アパタイトで被覆した光触媒粒子の割合は、10〜90重量%であることを特徴とする、請求項11に記載の光触媒シート。
【請求項13】
前記樹脂は、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、フッ素樹脂、ポリスチレン、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド、アクリル樹脂、ポリカーボネート、メチルペンテン樹脂の何れかまたはこれらの混合物であり、
前記ゴムは、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴムの何れかであることを特徴とする、請求項11に記載の光触媒シート。
【請求項14】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリビニルフルオライド(PVF)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)の何れかであることを特徴とする、請求項13に記載の光触媒シート。
【請求項15】
光触媒シートの接合方法であって、
上記光触媒シートが、基材と、該基材の片面または両面に被膜された被膜層と、からなり、上記被膜層が、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層であるか、または、
上記光触媒シートが、基材と、該基材の片面または両面に被膜された第一被膜層と、該第一被膜層上に被膜された第二被膜層と、からなり、上記第二被膜層は、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層であり、
上記光触媒シートの上記光触煤含有層を除去せずに接合面同士を合わせ、該接合面同士を接合することを特徴とする、光触媒シートの接合方法。
【請求項16】
前記接合面に存在する樹脂またはゴム同士を熱溶着して接合することを特徴とする、請求項15に記載の光触媒シートの接合方法。
【請求項17】
前記光触媒含有層において、前記アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定する樹脂またはゴムに対する該アパタイトで被覆した光触媒粒子の割合は、10〜60重量%であることを特徴とする、請求項16に記載の光触媒シートの接合方法。
【請求項18】
基材と、該基材の片面または両面に被膜された被膜層と、からなり、
上記被膜層の最上層を、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層とした光触媒シートの製造方法であって、
上記光触媒含有層が樹脂またはゴムからなり、
上記光触媒含有層を、上記アパタイトで被覆した光触媒粒子が含有された分散液の塗布により形成することを特徴とする、光触媒シートの製造方法。
【請求項19】
基材と、該基材の片面または両面に被膜された被膜層と、からなり、
上記被膜層の最上層を、アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定した光触媒含有層とした光触媒シートの製造方法であって、
上記光触媒含有層が樹脂またはゴムからなり、
上記光触媒含有層を、アパタイトで被覆した光触媒粒子が含有された樹脂またはゴムでシート状に形成し、
このシート状の光触媒含有層を上記被膜層の最上層へ貼りあわせることにより、上記光触媒シートを形成することを特徴とする、光触媒シートの製造方法。
【請求項20】
前記分散液が、樹脂またはゴムと、アパタイトで被覆した光触媒粒子と、有機溶剤とを含み構成され、前記光触媒含有層の、前記アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定する樹脂またはゴムに対する該アパタイトで被覆した光触媒粒子が、10〜90重量%の範囲で固定されていることを特徴とする、請求項l8に記載の光触媒シートの製造方法。
【請求項21】
前記分散液が、樹脂またはゴムと、アパタイトで被覆した光触媒粒子と、水とを含み構成され、前記光触媒含有層の、前記アパタイトで被覆した光触媒粒子を固定する樹脂またはゴムに対する該アパタイトで被覆した光触媒粒子が、10〜90重量%の範囲で固定されていることを特徴とする、請求項18に記載の光触媒シートの製造方法。

【国際公開番号】WO2005/063392
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516566(P2005−516566)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018854
【国際出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】