説明

光触媒タイル

【課題】駅のコンコースや空港などのような過酷な摩耗条件に晒される場合であっても、光触媒機能を持続可能な光触媒タイルを提供する。
【解決手段】磁器質またはせっ器質の無釉タイル焼成素地の表面近傍に光触媒粒子が含浸固定されていることを特徴とする光触媒タイル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒タイル、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンなどの光触媒が、近年建築物の外装材、内装材など多くの用途において利用されている。
外装用途については、基材表面に光触媒を塗装することにより、太陽光のエネルギーを利用してNOx、SOx等の有害物質の分解機能を付与したり、雨水によるセルフクリーニング性を付与したり、防藻機能を付与したりすることが可能となる。
また内装用途についても、基材表面に光触媒を塗装することにより、光エネルギーを利用してVOC等の有害物質の分解機能を付与したり、たばこの臭いや悪臭の分解機能を付与したり、抗菌・防カビ機能を付与したりすることが可能となる。
【0003】
タイル表面に光触媒層を形成する技術も知られている。それにより、プール内の防藻、病院内の院内感染防止、浴室床のぬめり防止、外壁の雨水によるセルフクリーニング等がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−83106号公報
【特許文献2】特開平5−253544号公報
【特許文献3】特開平7−102678号公報
【特許文献4】WO96/29375号公報
【特許文献5】特開平8−26746号公報
【特許文献6】特開2001−258783号公報
【特許文献7】特開2001−49829号公報
【特許文献8】WO00/6300号公報
【発明の概要】
【0005】
駅のコンコースや空港などのような重歩行の場所(人が非常に多く通る場所)では、その表面を硬質な靴で歩き回ることになるため、高い耐摩耗性が要求される。特に外装用途ではその表面を強風で砂が吹き付けられる中で硬質な靴で歩き回るという過酷な条件での使用も想定される。このような使用にタイルが耐え得るか否かを確認するために、PEI試験(砂とセラミックスとを混合した水中下で鉄球をタイルに擦る試験を繰り返し、目視で変化がないことを確認する試験)等が広く行われている。
しかし、従来の光触媒タイルでは、光触媒層は一般に膜厚がサブミクロンオーダーかミクロンオーダーであるため、回転数が多くなると、上記評価では光触媒層が失われてしまうという問題があった。
そこで、本発明では、駅のコンコースや空港などのような過酷な摩耗条件に晒される場合であっても、光触媒機能を持続可能な光触媒タイルを提供する。
【0006】
すなわち、本発明による光触媒タイルは、磁器質の無釉タイル焼成素地の表面近傍に光触媒粒子が含浸固定されていることを特徴とする光触媒タイルである。
また、本発明による光触媒タイルの製造方法は、タイル生成形体表面に光触媒粒子を含浸させた後に、前記表面の吸水率が3%以下になる温度で焼成することを特徴とする光触媒タイルの製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
光触媒タイル
本発明による光触媒タイルは、磁器質の無釉タイル焼成素地の表面近傍には光触媒粒子が含浸固定されていることを特徴とする光触媒タイルである。
このような構成とすることにより、駅のコンコースや空港などのような過酷な摩耗条件に晒される場合であっても、光触媒機能を持続可能となる。
【0008】
本発明において、タイル焼成体表面近傍に含浸固定する光触媒粒子としては、光触媒性金属酸化物粒子が好ましく、例えば、ルチル型酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化セリウムが好適に利用可能である。上記のうち2種以上を混合して利用してもよい。また、上記金属酸化物粒子に白金、銅、鉄等の金属や窒素、フッ素等の陰イオン等をドープして抗菌性を付与したり、可視光で励起するようにしたものも含む。
光触媒粒子は10nm以上100nm未満の平均粒径を有するのが好ましく、より好ましくは10nm以上60nm以下である。なお、この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。
【0009】
本発明において、タイル焼成素地の表面近傍には光触媒粒子が含浸固定され、かつタイル焼成素地表面の吸水率は3%以下であるのが好ましい。そうすることで、優れた耐摩耗性が発揮されるとともに、摩耗後も光触媒機能が持続する。ここで、吸水率とは、24時間常温の水に浸漬して材料に吸水させる方法により測定する、いわゆる自然吸水率をいう。
【0010】
タイル焼成素地における光触媒粒子が含浸固定されている部分は表面から1mm以上が好ましい。
そうすることで、摩耗後の光触媒機能が充分に持続する。
【0011】
タイル焼成素地における光触媒粒子が含浸固定されている部分における光触媒粒子の比率は、タイル焼成体表面近傍下部を水平に切断した面において、焼成素地面積と光触媒粒子面積の和に対する光触媒粒子面積の比率が1面積%以上50面積%以下であるのが好ましい。
そうすることで、焼成素地が焼結反応により充分強固に結合し、優れた耐摩耗性が発揮されるとともに、摩耗後の光触媒機能が充分に発揮可能となる。
【0012】
本発明において、タイル焼成素地の表面近傍には光触媒粒子が含浸固定され、かつタイル焼成素地表面の吸水率を0.1%以上にしてもよい。ここで、吸水率とは、24時間常温の水に浸漬して材料に吸水させる方法により測定する、いわゆる自然吸水率をいう。
そうすることで、優れた耐摩耗性が発揮されるとともに、摩耗後の光触媒によるガス分解機能がより良好な状態で持続する。
【0013】
本発明において、タイル焼成素地表面近傍には光触媒粒子以外に、さらに高い光触媒能を発現するために、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、白金および金からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属および/またはその金属からなる金属化合物を添加してもよい。
そうすることで、優れた耐摩耗性とあわせて抗菌性が発揮されるとともに、摩耗後の光触媒機能がより良好な状態で持続する。
【0014】
以上のように、本発明の光触媒タイルは優れた耐摩耗性が発揮されるとともに、摩耗後の光触媒機能が持続するので、駅のコンコースや空港などのような過酷な摩耗条件に晒される場所に適用した床タイルとして好適に使用可能となる。
【0015】
光触媒タイルの製造方法
本発明による光触媒タイルの製造方法は、タイル生成形体表面に光触媒粒子を含浸させた後に、前記表面の吸水率が3%以下になる温度で焼成することを特徴とする光触媒タイルの製造方法である。
このような製法とすることにより、駅のコンコースや空港などのような過酷な摩耗条件に晒される場合であっても、光触媒機能が持続可能となる。
【0016】
本発明では、まず、磁器質またはせっ器質のタイル素地原料を成形した無釉の生成形体に、光触媒粒子を含浸させる。
この光触媒粒子の生成形体表面からの含浸の深さは、表面から1mm以上が好ましい。
そうすることで、摩耗後の光触媒機能が充分に持続する。
【0017】
光触媒粒子の含浸方法は、湿式法が好適に利用できる。
湿式法を用いる場合は、磁器質またはせっ器質のタイル素地原料を成形した生成形体への光触媒粒子の含浸は、基本的に、磁器質またはせっ器質のタイル素地原料を成形した生成形体に光触媒粒子含有液をスプレー、ディップ、フロー等の方法で適用した後に生成形体表面を乾燥させる工程を備える。ここで、光触媒粒子の生成形体表面からの含浸の深さは、光触媒含有液の粘性、光触媒含有液の適用方法等の含浸速度を支配する因子と、予め素地の乾燥温度を調整したりする方法等の乾燥速度を支配する因子とを適宜選択することで制御できる。
【0018】
次いで、前記表面の吸水率が3%以下になる温度で焼成し、焼成体を得る。この温度は、タイル素地の組成により異なるが、一般的には1000℃以上の温度である。従って、光触媒粒子として酸化チタン粒子を用いた場合は、出発原料がアナターゼやブルッカイトであっても、多くの場合、ルチルに相転移することになる。
【実施例】
【0019】
本発明を以下の例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0020】
<塗装体試料の作製>
以下のようにして、実施例および比較例を作製した。
実施例1:
磁器質のタイル素地原料を乾式プレス法により成形した無釉の複数の生成形体を100℃で乾燥させ、表面が60℃のときに、平均粒径70nmのアナターゼ型酸化チタンと銀化合物とを含む液をスプレー塗布させた後に再び100℃乾燥させた。こうして得た生成形体の1つの断面におけるTiおよびAgの分析により生成形体表面からの光触媒粒子およびAgの浸透深さは約3mmと推定された。
次いで、この生成形体を1250〜1300℃の温度で焼成して焼成体を作製した。
尚、この焼成体の吸水率は0.2%であった。
【0021】
比較例1:無釉タイル焼成体の表面に、フローコート法により、平均粒径50nmのアナターゼ型酸化チタンとアルカリシリケートとの混合液を塗布した後に乾燥・硬化させて、膜厚0.5μmの光触媒層を形成した。
【0022】
<評価>
得られた試料について、砂とセラミックスとを混合した水中下で鉄球をタイルに擦る試験を6000回繰り返した。
摩耗後の試料について10W/mのBLBによる光触媒酸化還元活性を調べた。光触媒酸化還元活性は、試料表面に硝酸銀を塗布し10分経過後の色差Eを求め、光触媒を塗布しない試料に硝酸銀を塗布し10分経過後の色差E0との差ΔEで評価した。
その結果、上記実施例1ではΔEが2.6となり光触媒酸化還元活性が確認できたが、比較例1ではΔEが0で光触媒光触媒酸化還元活性は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁器質又はせっ器質の無釉タイル焼成素地の表面近傍に光触媒粒子が含浸固定されていることを特徴とする光触媒タイル。
【請求項2】
前記焼成素地表面の吸水率は3%以下であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒タイル。
【請求項3】
タイル生成形体表面に光触媒粒子を含浸させた後に、前記表面の吸水率が3%以下になる温度で焼成することを特徴とする光触媒タイルの製造方法。

【公開番号】特開2012−107375(P2012−107375A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65530(P2009−65530)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】