説明

光触媒リアクタとポリカルボシランの超高分子量化方法

【課題】形態制御した高機能光触媒を利用したポリカルボシランの超高分子量化に利用できる高効率光反応リアクタを提供する。
【解決手段】液相中に繊維状、ナノシート状、あるいは多孔質球状光触媒を懸濁し、さらに、必要により内壁に光触媒を固定化し、紫外線照射することにより、液相中の化学反応を高効率で行わせることができる高効率リアクタを開発した。このリアクタによるマイルドな条件化での光化学反応を利用するポリカルボシランの超高分子量化の方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形態制御した光触媒を高効率で利用するリアクタと、このリアクタによるポリカルボシランの超高分子量化の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖骨格中に炭素以外の元素を含む高分子化合物、いわゆる無機高分子はセラミックスの前駆体として注目され、特に形態制御セラミックスの原料として種々の用途に利用されているが、一般的に有機高分子と比較して分子量が小さく、形態を付与した成形物の強度が低く、またセラミック収率が低いために、成形体の収縮率が大きく形態保持性能が十分でなかったり、緻密化ができないなどの課題があった。特に、次世代高温構造材料として期待が大きなSiC材料の前駆体であるポリカルボシランは高分子量化できればこのような課題を解決できるばかりでなく、超微粒SiCが合成できると期待されている。しかしながら、ポリカルボシランは450℃程度の高温で合成されるポリマーで、熱的に安定であり、セラミックス材料として高分子量化するためには、加熱して酸素や不飽和炭化水素ガスで架橋するか、電子線照射による架橋など過酷な条件が必要であり、なおかつその制御が困難であった。そのため、どうしても高分子量ポリカルボシランが必要な場合には、溶媒分別法により極めて歩留まりが悪い方法で高分子量ポリカルボシランが抽出されており、マイルドな条件下で高分子量化できる方法が探索されていた。
【0003】
一方、光触媒は太陽光を利用し環境汚染物質を分解除去できるためエネルギーミニマム型環境浄化材料、更には環境低負荷型化学反応場として期待され、水の分解による次世代のクリーンエネルギーとして期待される水素製造の可能性も示され、新しい光反応による物質製造プロセスとして期待されている。このようなエネルギー・環境関連の人類が直面する課題を解決できる材料として非常に活発に研究開発が進められている。大気や水などを対象とした環境浄化材料としての光触媒は種々検討されているが、化学的安定性や安全性の観点からチタニアに勝るものはないとされ、これについて環境浄化材料への応用が活発に検討されている。しかしチタニアの優れた性能は微粉末や薄膜についての物質本来の特性であり、実際に利用するためには基材に固定して用いる必要があった。これを固定化というが、固定化は一般的に困難で、しかもバインダーを使って固定化すると本来有していた性能が極端に低下してしまうという欠点があった。特に水系では微粉末を水中に均一に混合すると処理後の水と光触媒微粒子を分離することが困難であるため、光触媒をガラスウールやセラミックスなどの基材表面に高温で固定化して、触媒の性能が低下したものを使用し、その表面をかなりの速度で流水を通過させるという方法をとることが多い。しかしこの方法では光触媒と汚染物質との接触確率も低く光触媒表面への光照射も均等ではなく、基礎研究でのデータを大きく下回る結果しか得られていないのが現状である。
【0004】
従来、光触媒の固定化方法として利用される、基材上のセラミックス薄膜の製造方法には、ナノ粒子のスラリーや前駆体溶液をスピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、スキージ法などの湿式プロセスで塗布し、焼結する方法や、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、スプレー法、スプレーパイロリシス法等の乾式プロセスがある。また、フィルム基板などでは、低温成膜が必須であり、電着法、電析法、水熱処理法、プレス法、マイクロ波照射法などがある。量産にはスクリーン印刷法など湿式法が有望であり、非常に多くの研究開発が行われ、特許出願が行われている。しかしながら、実用的な湿式法にも長所短所がある。一般的に、大きな表面積を有する透明な薄膜作製には、原料として比表面積の大きなナノ粒子が使用されるが、原料の粒子サイズと得られる膜の表面積はトレードオフの関係にある。すなわち、原理的にナノ粒子は原料の比表面積が大きくなればなるほど得られる膜の緻密化が進行し表面積は小さくなってしまうといった問題があり、膜の構造を任意に制御することは困難であり、また、何よりも組成、構造を制御した膜を形成するためには、原料であるナノ粒子をまず製造することが必要である。また、金属アルコキシドなどを用いる前駆体溶液をディップコートやスピンコーティング法などでは、緻密な膜を作製することが可能であるが、一回のコーティングで厚い膜を作製することは剥離などの問題があり、何度もコーティング、焼成プロセスを繰り返す必要がある。特に比表面積の大きな膜を作製することは、酸化物であれば焼成プロセスで焼失する有機成分を加えておくなど特別の配慮が必要であり、しかも厳密な制御は困難である。
この課題を克服する手段として、本発明者らにより自立型光触媒として、繊維状光触媒、さらに超多孔質積層膜としても利用できるナノシート状光触媒が提案されている。
【0005】
一方、液相中で化学反応を効率的に行わせ、物質の合成や分析に利用する光触媒の使用方法にも大きな期待がある。その典型的な成功例として、水中に溶けている有機化合物を全有機炭素量として分析する光触媒方式の全有機炭素分析装置がある。これは、水に分散させたチタニア光触媒微粒子を反応液として、反応液に分析しようとする飲料水などの試料を混合し、紫外線を照射して完全分解されて発生する二酸化炭素量を測定して全有機炭素量を分析するものである。
【0006】
この新方式の全有機炭素分析のためのリアクタは、現在、難分解性物質である尿素なども分析できるようになりつつあるが、まだすべての有機物質の分解を高速で行えるわけではなく、オンライン、オンサイト型で環境水をモニタリングしようとする場合には、あらゆる有機物を高速で分解できる光触媒の開発、システムの構築が必要である。本発明者らは、光触媒を流動層化して使用するために多孔質球状の光触媒を開発している。しかしながら、光触媒を利用する化学反応は、上記全有機炭素分析のためのリアクタが水中のppmオーダーの有機炭素を対象としていることから明らかなように、きわめて低濃度の物質処理を対象としており、環境低負荷型プロセスとして大きな期待を集めているにもかかわらず、高濃度で化学反応を利用する物質製造プロセスに利用され、実用化された例はない。
【特許文献1】特開2002-204929号
【特許文献2】特開2002-205064号
【特許文献3】特開2004-224623号
【特許文献4】特開2005-263551号
【特許文献5】特開2005-263552号
【特許文献6】特開2005-262069号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光触媒を利用する液相中の化学反応を高効率で行わせることができる高効率リアクタを開発するための問題点に鑑みなされたものであり、形態制御した高機能光触媒を利用したポリカルボシランの超高分子量化に利用できる高効率光反応リアクタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、光触媒を利用する液相中の化学反応を高効率で行わせることができる高効率リアクタを開発するための課題を解決すべく鋭意研究した結果、液相中に繊維状、ナノシート状、あるいは多孔質球状光触媒を懸濁し、さらに、必要により内壁に光触媒を固定化し、紫外線照射することにより液相中の化学反応を高効率化することにより、上記課題を解決しうることを見いだした。
【0009】
請求項1に係る発明は、液相中に光触媒を懸濁し紫外線照射することにより液相中の化学反応を高効率化する光触媒リアクタ、である。
請求項2に係る発明は、液相中に懸濁する光触媒が繊維状、ナノシート状、あるいは多孔質球状光触媒であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒リアクタ、である。
請求項3に係る発明は、内壁に光触媒を固定化することを特徴とする請求項1〜2に記載の光触媒リアクタ、である。
請求項4に係る発明は、光触媒ゲルナノシートを転写し、転写したゲルナノシートを乾燥、焼成して光触媒を固定化することを特徴とする請求項3に記載の光触媒リアクタ、である。
請求項5に係る発明は、使用する光触媒が白金を担持したアナターゼ型チタニアあるいは白金を担持したアナターゼ型チタニアが混合されてなることを特徴とする請求項1〜4に記載の光触媒リアクタ、である。
請求項6に係る発明は、液相中の化学反応がポリカルボシランの超高分子量化であることを特徴とする請求項1〜5に記載の光触媒リアクタ、である。
請求項7に係る発明は、液相を形成する液体がポリカルボシランを溶解し、紫外部に吸収を有しない飽和炭化水素系溶媒であることを特徴とする請求項1〜6に記載の光触媒リアクタを利用するポリカルボシランの超高分子量化方法、である。
請求項8に係る発明は、化学反応を酸素が存在しない不活性ガス雰囲気下で行わせることを特徴とする請求項7に記載のポリカルボシランの超高分子量化方法、である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、形態制御した高機能光触媒を利用したポリカルボシランの超高分子量化に利用できる高効率光反応リアクタを提供することができる。この高効率光反応リアクタは、形態制御した光触媒として、繊維状、ナノシート状、あるいは多孔質球状光触媒を液相中に懸濁させて利用し、また、内壁に光触媒を固定化した光触媒リアクタであり、液相中での光化学反応を高効率で行わせることができる汎用的な光触媒リアクタとしての用途が期待できる。例えば、このリアクタは、あらゆる有機物質を高速で分解し、オンライン,オンサイト型で環境水をモニタリングしようとする光触媒方式の全有機炭素分析計への応用などへの展開が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の光触媒を利用する光反応の高効率リアクタは、形態制御した光触媒として、繊維状、ナノシート状、あるいは多孔質球状光触媒を液相中に懸濁させて利用し、また、内壁に光触媒を固定化して利用する光触媒リアクタである。
【0012】
光触媒としては、アナターゼ型チタニアが最も高効率な光触媒として利用でき、例えばP−25のようなナノ粒子光触媒を懸濁させて利用することができ、また、公知の高活性な光触媒を用いてもよい。しかしながら、液体に懸濁させて光触媒を利用すると、反応後液相と分離するためにろ過などの簡便な方法で分離することができず、実用的ではない。これに対して、すでに本発明者らが提案している繊維状、ナノシート状、あるいは多孔質球状の形態制御光触媒を利用すると、反応終了後、ろ過により容易に液相と分離することができ、好適である。
【0013】
光触媒の濃度は特に制限はないが、微粉末では光が内部に到達できなくなるので、濃度を大きくしても意味がないので通常2g/L以下が好ましい。繊維状や多孔質球状光触媒では光が内部まで到達しやすいので液相が攪拌できればよい濃度まで大きくすることができるが、通常30容積%程度以下が望ましい。
【0014】
また、光触媒を機能させるためのリアクタは、紫外線を透過する例えば石英ガラスや硬質珪ホウ酸ガラス(登録商標:パイレックスガラス)などで作製される必要があるが、このようなガラス基材に光触媒を透明な薄膜でコーティングしておくと、リアクタに照射される光を高効率で利用することができる。このような光触媒をリアクタ内部にコーティングして固定化する方法は公知の方法を採用することができ、ナノ粒子のスラリーや前駆体溶液をディップコート法、スピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、スキージ法などの湿式プロセスで塗布し、焼結する方法や、スパッタリング法、CVD法、蒸着法、スプレー法、スプレーパイロリシス法等の乾式プロセス、また、低温成膜が必要な場合には、電着法、電析法、水熱処理法、プレス法、マイクロ波照射法などを利用することができるが、高効率リアクタを製造するために、本発明者らによる超多孔質チタニアナノシート積層膜が好適である。この積層膜は、化学修飾した一種以上の金属アルコキシドを部分加水分解によりポリマー化し、このポリマーを水に対する適度な溶解性を有する溶媒を用いて所望の濃度の溶液にした後、流動界面ゾル−ゲル法でゲルナノシート化し、これを基材に転写して、焼成して製造される。
【0015】
コーティングの厚みは一般的に1μm以下でよい。1μm以上では紫外線が膜内から液相部に到達できず、反応の効率が低下してしまうので好ましくない。
このような光触媒を固定化したリアクタは、リアクタを構成するガラス材料にあらかじめ光触媒をコーティングした後、リアクタに組み上げて製造することができる。
【0016】
本発明のリアクタは、使用する光触媒に、ニッケルや白金などの金属を担持して電荷分離効率を高めた光触媒を用いるとさらに反応速度を増大させることができる。特に白金を担持したチタニア光触媒は化学的安定性に優れている。金属の担持量は光触媒に対して0.05〜2%でよく、0.05%以下では効果が十分でなく、2%以上では反応速度は増加せず、0.1〜1%が好適である。
【0017】
本発明の高効率リアクタの構造は、リアクタ内部の液層が紫外線によって照射され、攪拌や気体のバブリングで攪拌できる構造であればよいが、光反応に利用する紫外線を照射するランプをリアクタの内部に設置し、ランプから照射される紫外線を100%リアクタ内の液相に導入できる2重管構造が好ましく、必要により外部からの照射を併用してもよい。ランプは、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプなど光触媒を励起できる紫外線を照射できるものであればいずれも使用することができるが、200〜400nmの紫外線を1mW/cm以上で照射できることが望ましい。
【0018】
次に本発明の光触媒リアクタにより達成される液相中の化学反応であるポリカルボシランの超高分子量化の方法について述べる。
ポリカルボシランをリアクタ内で液相を形成する液体に溶解し、攪拌しながら紫外線を照射することによりポリカルボシランを高分子量化することができる。
【0019】
液相を形成する液体は、ポリカルボシランを溶解し紫外部に吸収を有しない飽和炭化水素系溶媒であることが望ましく、ポリカルボシランに対する貧溶媒、すなわち、アルコール系溶媒やアセトンなどの極性溶媒では、ポリカルボシランが溶媒中に懸濁することになり、光の利用率が低く、また酸素を含む溶媒ではポリカルボシラン中に光反応により酸素が導入される可能性があり好ましくない。また、紫外部に吸収を有する、例えばベンゼンやトルエンなど芳香族系溶媒では、紫外線が溶媒に吸収され、光触媒が活性化されないので好ましくない。飽和炭化水素系溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどが好ましい
【0020】
反応は、ポリカルボシランに酸素を導入しないために酸素が存在しない不活性ガス雰囲気下で行わせることが好ましい。液相中から酸素を除去する方法は、窒素ガスなど不活性ガスをバブリングさせればよく、さらに反応中も外部からの酸素の侵入を防止するためにこのバブリングを継続することが好ましく、これにより液相の攪拌を促進することができる。
【0021】
液相の攪拌は、液相中の光触媒を均一に分散させるために必要で機械的に行えばよい。
ポリカルボシランの濃度は溶液の粘度が大きく攪拌が十分に行われない場合を除けば特に制限はないが、通常入手できるポリカルボシランでは30重量%以下であることが好ましい。
反応を行わせる温度は通常室温でよく、ランプにより液温が上昇する場合があるので、溶媒の蒸発を抑制するために冷却する必要がある場合がある。
【0022】
反応時間は、照射する紫外線強度が大きければ短く、小さければ長時間を必要とするし、所望する高分子量化の程度にもよるが、通常6時間程度以上で実質的な高分子量化の効果が得られる。本発明のポリカルボシランの超高分子量化とは、ポリカルボシランが加熱により溶融することなくセラミックス化できる、いわゆる三次元架橋構造が発達した状態と定義することができ、そのためには、24時間程度反応を継続すればよい。
【0023】
反応終了後は、液相からろ過などにより光触媒をろ別し、溶媒を蒸留などで除去し、高分子量化したポリカルボシランを回収する。
以下に、本光触媒リアクタにより高効率でポリカルボシランが高分子量化する機構を説明するが、これはあくまで推定であって、本発明の方法によるポリカルボシランの高分子量化を限定するものではない。
【0024】
ポリカルボシランは、−SiH(CH)−CH−で示されるようなSi−C結合の繰り返しを基本構造とする有機ケイ素ポリマーであり、室温では大気中でも極めて安定な物質である。通常これを高分子量化しようとすれば、酸素存在下で200℃程度に過熱するか、350℃程度で不飽和炭化水素雰囲気中で加熱するか、電子線照射するなど過酷な条件で処理しなければならない。このような条件化では、主にSi−Hの開裂が開始反応と考えられている。この開裂は、ケイ素原子上の電子密度の低下と水素原子の電子密度の増加が原因と考えられ、反応中間体としてシリルラジカルが関与しているとされている。光触媒存在下では紫外線の照射により励起された光触媒表面には正孔と電子が生成する。この光触媒表面でポリカルボシラン中のSi−H結合の開裂が促進され、シリルラジカルである≡Si・と水素ラジカルH・が生成し。ラジカル連鎖反応により−CH・や=CH・が生成し、ラジカルの再結合反応によりポリカルボシラン分子間の結合、すなわち架橋が生成し高分子量化するものと推定される。このような反応は、溶液中では均一に起こり、分子間の架橋は時間とともに増加すると考えられるので、高分子量化は時間の関数として制御できる。
【0025】
この反応によるポリカルボシランの高分子量化の最大の特徴は、上述したように溶液中の分子すべてで均一に起こるのできわめて高収率、すなわち、ほぼ100%の収率で高分子量化したポリカルボシランを得ることができる。これは良溶媒と貧溶媒の適当な組み合わせでポリカルボシランから高分子量ポリカルボシランを分別する方法に対して圧倒的に有利な点である。また、原料ポリカルボシラン中に存在しなかった更に高分子量の、いわゆる超高分子量ポリカルボシランを得ることができる。
【0026】
本発明のポリカルボシランの超高分子量化方法は、従来のポリカルボシランによる次世代複合材料であるセラミックス基複合材料の緻密化による高性能化や、易焼結性のSiCナノ粒子製造原料として期待される、理論的限界値のセラミックス収率を有し、また溶融することなくセラミックス化するポリカルボシランの低コストの製造方法として重要である。
【0027】
更に、このような高効率リアクタは、全有機炭素分析計の更なる高速化を実現するリアクタとしても利用でき、今後広くマイルドな条件で高効率な化学反応を実現するリアクタとして応用されることが期待される。
次に、本発明の具体例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
1モルのテトライソプロポキシチタンを0.6モルの3−オキソブタン酸エチルでキレート化し、発熱がおさまってから、攪拌しながら1時間かけて1モルの水で部分加水分解を行いポリマー化し、さらにロータリーエバポレーターにより減圧下で60℃まで加熱し濃縮して、粘稠な生成物を得た。これにイソプロパノールを加え90%溶液を調整した。この溶液をセラミックスナノシート製造装置を用いて、ノズル周囲の雰囲気を窒素雰囲気として、15℃に制御した流動する水面上で85%イソプロパノール溶液からゲルナノシートを作製した。得られたゲルナノシートを回収して、80℃で6時間乾燥し、500℃まで加熱し、1時間保持して焼成した。得られたチタニアナノシートの厚みはほぼ100nmで、X線回折測定の結果から結晶層はアナターゼで、結晶子サイズは10.2nmと推定された。
【0029】
さらに、このチタニアナノシート500mgを100mLの純水中に分散し、ヘキサクロロ白金酸六水和物を白金換算で0.5wt%になるように添加し、さらにイソプロパノールを300mL混合して、1時間光反応装置中で攪拌後、低圧水銀灯の光を水フィルターを通して3時間照射して、白金をチタニアナノシート上に析出させた。反応終了後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、100℃で乾燥して、0.5wt%Pt担持チタニアナノシートを得た。
【0030】
また、水面上に形成されたゲルナノシートを直径3cmの石英ガラス管表面に気相側から転写し、転写後10秒間水中に浸漬し、その後、室温で1時間乾燥した。乾燥後、大気中で、100℃/時の昇温速度で450℃まで加熱し、1時間保持して焼成し、厚みがおよそ100nmのチタニアナノシート膜をコーティングした石英ガラス管を作製し、これをリアクタの内管に利用した。
【0031】
次に、テトライソプロポキシチタンに当量の3−オキソブタン酸エチルを加え、これをエタノールで希釈した後、塩酸とエタノールの混合液を滴下しながら1時間攪拌した。その後ロータリーエバポレーターにて減圧下で濃縮を行い、チタニア繊維の前駆体である無機高分子を得た。この前駆体を紡糸した後、大気中で1時間に100℃の昇温速度で500℃まで加熱し、1時間保持して直径約6μmから20μmの繊維状チタニア光触媒を得た。X線回折測定の結果から結晶層はアナターゼで、結晶子サイズは20.8nmと推定された。
【0032】
更に、繊維と同様の方法で調製した前駆体をトルエンに溶解し、50wt%に調整した。この溶液を市販の直径およそ100μmのジビニルベンゼン系球状ポーラスポリマーに含浸し、100℃で乾燥した。乾燥後、大気中500℃で1時間焼成してアナターゼ型のチタニア球状多孔質体を得た。得られたチタニア球状多孔質体の直径、空隙率、比表面積はそれぞれ、およそ70μm、60%、50m/gであった。
【0033】
これらの光触媒とリアクタを用いて、ポリカルボシランの高分子量化を行った。用いたポリカルボシランは、数平均分子量が約3000で、非酸化性雰囲気では約300℃で溶融した。また、アルゴン中、1時間に200℃の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持した場合のセラミック収率は74.5%であった。このポリカルボシラン10gを光触媒とともにヘキサン150mLに溶解し、リアクタ内でマグネチックスターラーで攪拌しながら窒素ガスをバブリングし、内部から低圧水銀灯で紫外線を照射した。低圧水銀灯は水冷した。用いたそれぞれの光触媒量は表中に示したとおりである。
【0034】
所定時間反応を行わせた後、ろ過により光触媒を除去し、溶液からヘキサンを減圧蒸留により除去し、更に100℃で6時間乾燥し、得られたポリカルボシランの収量から反応収率を計算するとともに、1時間に200℃の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持した場合のセラミック収率でポリカルボシランの高分子量化を評価した。ただし、比較用の光触媒として用いたP−25の場合には、ろ過により光触媒を除去することができなかったので遠心分離により光触媒を沈降させた後、上澄み液を濃縮することによりポリカルボシランを回収した。また、光触媒なしで同様に48時間処理した結果も比較のために示した。
【0035】
この結果を表1に示す。いずれもセラミック収率が増加し、高分子量化が進行していることが確認された。ナノシートで48時間反応させたもの、および白金担持ナノシートで12時間および24時間反応させたものはまったく溶融せず、図1に示すように1000℃で得られたセラミックスのX線回折の結果はまったく酸素に起因するピークを示さず、酸素が導入されていないことが判明した。
【0036】
【表1】

【比較例】
【0037】
実施例と同様のポリカルボシランを、両溶媒であるヘキサンと貧溶媒であるエタノールの重量比で5.25:4.75の混合溶媒から沈殿させて分別する操作を3回繰り返して、実施例と同様の熱処理で溶融することなく80.2%のセラミック収率でセラミックス化する超高分子量ポリカルボシランを得た。しかしながら、原料ポリカルボシランからの超高分子量ポリカルボシランの収率はおよそ30%で、極めて低い値であった。
【0038】
同様に、ポリカルボシラン中の比較的低分子量成分に対して良溶媒である1−ブタノールで原料ポリカルボシランから低分子量成分を抽出する操作を3回繰り返して得た高分子量ポリカルボシランは、原料ポリカルボシランからの収率がおよそ77.5%と低く、実施例と同様の熱処理では、セラミック収率は78.5%であったが、大部分が溶融してセラミックス化した。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のチタニアナノシートを利用した光触媒リアクタで48時間処理後のポリカルボシランを1000℃で焼成して得られたセラミックスのX線回折図形である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相中に光触媒を懸濁し紫外線照射することにより液相中の化学反応を高効率化する光触媒リアクタ。
【請求項2】
液相中に懸濁する光触媒が繊維状、ナノシート状、あるいは多孔質球状光触媒であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒リアクタ。
【請求項3】
内壁に光触媒を固定化することを特徴とする請求項1〜2に記載の光触媒リアクタ。
【請求項4】
光触媒ゲルナノシートを転写し、転写したゲルナノシートを乾燥、焼成して光触媒を固定化することを特徴とする請求項3に記載の光触媒リアクタ。
【請求項5】
使用する光触媒が白金を担持したアナターゼ型チタニアあるいは白金を担持したアナターゼ型チタニアが混合されてなることを特徴とする請求項1〜4に記載の光触媒リアクタ。
【請求項6】
液相中の化学反応がポリカルボシランの超高分子量化であることを特徴とする請求項1〜5に記載の光触媒リアクタ。
【請求項7】
液相を形成する液体がポリカルボシランを溶解し、紫外部に吸収を有しない飽和炭化水素系溶媒であることを特徴とする請求項1〜6に記載の光触媒リアクタを利用するポリカルボシランの超高分子量化方法。
【請求項8】
化学反応を酸素が存在しない不活性ガス雰囲気下で行わせることを特徴とする請求項7に記載のポリカルボシランの超高分子量化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−229566(P2007−229566A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51948(P2006−51948)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、経済産業省、関東第74号委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503032588)株式会社アート科学 (12)
【出願人】(301035194)株式会社ひたちなかテクノセンター (11)
【Fターム(参考)】