説明

光触媒体の製造方法

【課題】光触媒の触媒活性度の低下を抑制する光触媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】形成された光触媒体が、以下の少なくとも1つの条件を満たすように、水素イオン指数、イオン添加剤の種類、および乾燥の条件を制御する。(I)3450cm−1における吸収強度の、1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が2.5以下。(II)1500cm−1以上1700cm−1以下の範囲における吸収の最大ピーク強度の、1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が0.7以下。(III)5000cm−1以上5400cm−1以下の範囲における吸収ピークを有していない、または、吸収の最大ピーク強度の、5250cm−1における吸収強度に対する比が1.7以下。(IV)3690cm−1近傍における吸収のピーク強度の、1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が0.01以上。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光触媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒材料としては、二酸化チタン、酸化タングステンなどが知られている。
【0003】
ここで、「光触媒材料」とは、半導体的な物性を有し、その伝導電子帯と荷電子帯とのバンドギャップエネルギーより大きなエネルギーを有する光が照射されると励起状態となり、電子・正孔対を生成する物質のことである。
【0004】
紫外光応答型二酸化チタンの場合、387nm以下の波長の光が照射されると光励起され、その内部に電子・正孔対が生成される。すると、その電子・正孔対により光触媒材料の表面及びその近傍に、水酸基ラジカルや、スーパーオキサイドイオンなどの活性酸素種が発生し、これらの活性酸素種の持つ酸化力が分解活性や親水化を引き起こす。そして、これらの作用を利用して自己洗浄作用や、脱臭作用、抗菌作用などを得ることができる。
【0005】
ここで、紫外光応答型二酸化チタンの場合には主な励起光が紫外光であるため、紫外光の少ない室内では充分な性能が得られないという問題がある。そのため、いわゆる可視光応答型二酸化チタンや、酸化タングステンなどの光触媒材料が提案されている。
【0006】
一般に、酸化タングステンと呼ばれているものは三酸化タングステン(WO)であり、空気中では極めて安定した金属酸化物である。また、酸化タングステンはバンドギャップが2.5eVであり480nmまでの可視光を利用することができるので、室内用途に使用する光触媒材料として有用である。また、酸化タングステンは工業材料として比較的入手しやすく、有害性の少ない比較的安価な材料でもある。
【0007】
光触媒を一般的な屋内環境で使用するためには、基体の表面に光触媒を備えた層状や膜状の光触媒体を形成する必要がある。この様な光触媒体を形成する際には、光触媒材料と水を含む溶媒とを有する光触媒分散体を基体の表面に付着させ、これを乾燥させることで基体の表面に光触媒を設けるようにしている。
【0008】
ここで、光触媒分散体製造時の装置に関する制約や光触媒体を形成させる基材の制約等により、光触媒分散体を中性付近に制御する必要があり、アルカリイオン等を添加することがある。このとき、光触媒表面状態の変化が引き起こされ、光触媒性能を低下させる可能性がある。しかし、これまではこのような光触媒表面状態の変化に対する制御技術がなく、実環境で使用する上で充分な性能を有した光触媒分散体や光触媒体が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−1620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の実施形態は、光触媒の触媒活性度の低下を抑制することができる光触媒体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態によれば、酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子と、溶媒と、を含む光触媒分散体を生成する工程と、
前記光触媒分散体を基体の表面に付着させる工程と、
前記付着させた前記光触媒分散体を乾燥させることで前記基体の表面に光触媒を形成する工程と、
を有した光触媒体の製造方法であって、
前記光触媒分散体を生成する工程において、前記光触媒分散体の水素イオン指数がpH7.1以下となるようにイオン添加剤により調整し、
前記基体の表面に光触媒を形成する工程において、110℃以上500℃以下に加熱すること、または大気圧よりも減圧された雰囲気におくこと、の内の少なくとも1つを満たす条件により、前記付着させた前記光触媒分散体を乾燥させ、
前記形成された光触媒体が、以下の(I)ないし(IV)のうちの少なくとも1つの条件を満たすように、前記水素イオン指数、前記イオン添加剤の種類、および前記乾燥の条件を制御すること、を特徴とする光触媒体の製造方法が提供される。
(I)前記光触媒体の表面を赤外分光法により分析した場合に、波数が3450cm−1における吸収強度の、波数が1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が2.5以下となる。
(II)前記光触媒体の表面を赤外分光法により分析した場合に、波数が1500cm−1以上1700cm−1以下の範囲における吸収の最大ピーク強度の、波数が1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が0.7以下となる。
(III)前記光触媒体の表面を近赤外分光法により分析した場合に、波数が5000cm−1以上5400cm−1以下の範囲における吸収ピークを有していない、または、吸収の最大ピーク強度の、波数が5250cm−1における吸収強度に対する比が1.7以下となる。
【0012】
(IV)前記光触媒体の表面を赤外分光法により分析した場合に、波数が3690cm−1近傍における吸収のピーク強度の、波数が1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が0.01以上となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、光触媒表面に吸着した水や水酸基が適切に制御されているため、実環境で使用する上で充分な光触媒性能を有した光触媒体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】光触媒表面の水の吸収強度比(i)と光触媒のアセトアルデヒドガスの分解性能の関係を示す。
【図2】光触媒表面の水の吸収強度比(ii)と光触媒のアセトアルデヒドガスの分解性能の関係を示す。
【図3】近赤外分光法による光触媒体表面の水の吸収強度を示す。
【図4】光触媒表面の水酸基の吸収強度と光触媒のアセトアルデヒドガスの分解性能の関係を示す。
【図5】イオン添加剤としてNHを使用した場合の光触媒表面の水の吸収強度比(i)と光触媒のアセトアルデヒドガスの分解性能の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の実施形態に係る光触媒体は、基体の表面に形成された酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を含む光触媒体であって、
前記光触媒体は、以下の(1)ないし(3)のうちの少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とするものである。
(1)前記光触媒体の表面を赤外分光法により分析した場合に、波数が3450cm−1における吸収強度の、波数が1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が2.5以下となる。
これを、「水の吸収強度比(i)」という。
(2)前記光触媒体の表面を赤外分光法により分析した場合に、波数が1500cm−1以上1700cm−1以下の範囲における吸収の最大ピーク強度の、波数が1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が0.7以下となる。
これを、「水の吸収強度比(ii)」という。
(3)前記光触媒体の表面を近赤外分光法により分析した場合に、波数が5000cm−1以上5400cm−1以下の範囲における吸収ピークを有していない、または、吸収の最大ピーク強度の、波数が5250cm−1における吸収強度に対する比が1.7以下となる。
これを、「水の吸収強度比(iii)」という。
酸化タングステン系微粒子からなる光触媒の表面に水が吸着していると光触媒性能が低下する。本実施形態によれば、水の吸着を示す吸収強度と酸化タングステンの吸収強度との比を小さく制御することにより、高い光触媒性能を発揮することが出来る。具体的には、水の吸収強度比(i)が2.5以下、あるいは、水の吸収強度比(ii)が0.7以下、あるいは、水の吸収強度比(iii)が1.7以下である。
【0016】
「水の吸収強度」は、水のOH伸縮やOH変角による吸収強度、あるいは、水の結合音吸収による吸収強度であり、波数が3450cm−1近傍、1500cm−1以上1700cm−1以下の範囲、あるいは、5000cm−1以上5400cm−1以下の範囲に表れる。したがって、これらの範囲における吸収強度が大きくなるほど光触媒の表面に吸着した水が多いことになる。
【0017】
ここで、光触媒分散体の水素イオン濃度指数は光触媒の表面に吸着する水の量に影響を与える。光触媒分散体を作製する際には、分散性の向上や装置や基材の保護などの目的のために水素イオン濃度を調整する場合があり、このときの水素イオン濃度指数により光触媒性能が左右されることとなる。光触媒分散体の水素イオン濃度指数が大きくなる(中性付近に近づく)と光触媒の表面に吸着した水の量が多くなり、光触媒の触媒活性度が低下する。
【0018】
「水の吸収強度比(i)」は、0.9以下、さらには0.7以下の特性を有することが好ましい。また、「水の吸収強度比(ii)」が0.5以下、さらには0.4以下の特性を有することが好ましい。
【0019】
次に光触媒材料である酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子について説明する。ここで微粒子とは、平均一次粒子径(D50)が1nm以上400nm以下であるものをいう。平均一次粒子径(D50)は、光触媒体の粒子、あるいは、分散体を乾燥させた粒子をSEMやTEM等で評価し、写真の画像解析からnが50個以上の粒子の体積基準の積算径における平均粒子径に基づいて求める。光触媒の粒径が小さい、すなわち比表面積が大きい方が光触媒性能が高い。平均一次粒子径(D50)は、2.7nm以上75nm以下の範囲であることが好ましい。
また、酸化タングステン複合材は、Ti、Mn、Fe、Pd、Pt、Cu、Ag、Al、Ceから選ばれる少なくとも1種の金属元素を0.01〜2質量%以下の範囲で含んだものをいう。これらの存在形態は、金属元素の単体、金属元素を含む化合物、酸化タングステンとの複合化合物の形態としても存在しても良い。複合方法は、混合法、含浸法、担持法などを適用することが可能であり、限定されるものではない。
【0020】
次に他の実施形態に係る光触媒は、基体の表面に形成された酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を含む光触媒体であって、
前記光触媒体の表面を赤外分光法により分析した場合に、波数が3690cm−1近傍における吸収のピーク強度の、波数が1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が0.01以上であることを特徴とするものである。このときの強度比を、「水酸基の吸収強度比」とする。
【0021】
酸化タングステン系微粒子からなる光触媒の表面水酸基(−OH)が少ないと光触媒性能が低下する。本実施形態によれば、水酸基(−OH)を多く存在させる、すなわち、水酸基(−OH)の存在を示す吸収強度と酸化タングステンの吸収強度との比を大きく制御することにより、高い光触媒性能を発揮することが出来る。また、光触媒表面に水酸基が多く存在すると乾燥時に酸素基(−O−)を介して酸化タングステン粒子同士を強固に結合させることができ、硬度が高い光触媒体を形成することが出来るという利点もある。
【0022】
具体的には、「水酸基の吸収強度比」が0.01以上であり、0.02以上、さらに0.025以上であることが好ましい。
【0023】
光触媒体の表面に吸着する水の量や水酸基の量を同時に制御し、前記吸収強度比の特性を満たす場合、高い光触媒性能を発揮させることができる。
【0024】
また、光触媒分散体を基板表面に付着させ光触媒体を形成し、得られた光触媒体の評価を行ったとき、前記の吸収強度比の特性を示した場合、その光触媒分散体は、本発明の光触媒体を形成することが可能な特性を有しているといえる。
【0025】
ここで、光触媒体の評価方法について、説明する。
【0026】
光触媒体の表面吸着水の結合状態については、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)および近赤外分光(NIR)によって分析を行う。このとき大気中の水分が試料に付着しないように10Pa以下の減圧環境下で行う。
【0027】
「水の吸収強度」の内、水のOH伸縮における吸収強度は、波数が3450cm−1近傍において赤外分光法により得られた吸収スペクトルのピーク値に基づいた値としている。水のOH変角における吸収強度は、波数が1500cm−1以上1700cm−1以下の範囲における吸収の最大ピーク値に基づいた値としている。また、水の結合音吸収における吸収強度は、波数が5000cm−1以上5400cm−1以下の範囲における近赤外分光法により得られた吸収スペクトルのピーク値に基づいた値としている。
【0028】
一方、「酸化タングステン(WO)の吸収強度」は、酸化タングステン(WO)のWO伸縮における吸収強度であり、波数が1037cm−1において赤外分光法により得られた赤外吸収スペクトルのピーク値に基づいた値としている。
【0029】
また、「水酸基の吸収強度」については、波数が3690cm−1近傍において赤外分光法により得られた吸収スペクトルのピーク値に基づいた値としている。ただし、このピークは、3450cm−1近傍の水の吸収ピーク(主ピーク)の肩のピークになっている場合もある。肩ピークになっている場合、ピーク強度は、主ピークの傾斜部分でベースラインを取り、対象の波数におけるこのベースラインの強度を差し引いた値を用いるものとする。
【0030】
次に、本実施の形態に係る光触媒体の製造方法について例示をする。
本実施の形態に係る光触媒体の製造方法は、酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子を含む光触媒材料と、溶媒と、を含む光触媒分散体を生成する工程と、
前記光触媒分散体を基体の表面に付着させる工程と、
前記付着させた前記光触媒分散体を乾燥させることで前記基体の表面に光触媒を形成する工程と、を有している。
【0031】
まず、酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子を含む光触媒材料と、溶媒と、を含む光触媒分散体を生成する工程について例示をする。
溶媒としては、水、アルコールなどの有機溶剤、水と有機溶剤との混合液などを例示することができる。
【0032】
また、イオン添加剤などを添加しても良く、この場合は、無機アルカリ、有機アルカリとすることができる。この場合、前述したように、光触媒分散体が塗布される基体の材質などにより水素イオン濃度指数の範囲が規定されるような場合には、それに応じてイオン添加剤を使い分けるようにすることができる。
【0033】
前述したように、赤外分光法により分析した場合に「水の吸収強度比(i)」が2.5以下となるようにすることが好ましい。あるいは、「水の吸収強度比(ii)」が0.7以下となるようにすることが好ましい。あるいは、近赤外分光法により分析した場合に「水の吸収強度比(iii)」が1.7以下となるようにすることが好ましい。
【0034】
また、赤外分光法により分析した場合に「水酸基の吸収強度比」が0.01以上となるようにすることが好ましい。
【0035】
この場合、イオン添加剤等により光触媒分散体の水素イオン濃度指数を調整することで、これらの条件のうちの少なくとも1つを満たすような光触媒を基体の表面に形成することができる。
【0036】
また、水素イオン指数の調整に用いるイオン添加剤の種類により光触媒の表面に吸着する水の量が変わることが判明した。
【0037】
水素イオン指数の調整に用いるイオン添加剤の種類により光触媒の表面に吸着する水の量の変化の態様が異なるものとなる。例えば、中性付近の領域においては、イオン添加剤としてアンモニア(NH)を用いる場合の方が光触媒の表面に吸着した水を少なくすることができる。
【0038】
イオン添加剤としてアンモニア(NH)を用いる場合は、光触媒の表面に吸着した水がアンモニア水となるので、試料を作成する際の加熱により光触媒の表面に吸着した水を蒸散させやすくなると考えられる。そのため、イオン添加剤の添加量が多い中性付近の領域においては、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いる場合よりも光触媒の表面に吸着した水を少なくすることができたものと考えられる。
【0039】
ここで、イオン添加剤の種類は例示をしたものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0040】
例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、アンモニア(NH)の他にも、水酸化アンモニウム(NHOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)などの無機アルカリや、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)などの有機アルカリを用いることができる。
【0041】
この場合、光触媒分散体の水素イオン濃度指数が小さい場合(酸性側の場合)においては、イオン半径の小さなイオンが生成される無機アルカリの方が塩析力が大きくなるので、光触媒の表面に吸着する水を少なくすることができると考えられる。
【0042】
光触媒分散体の水素イオン濃度指数が中性に近い場合においては、イオン半径の大きなイオンが生成される有機アルカリの方が水を引き付けにくくなるので、光触媒の表面に吸着する水を少なくすることができると考えられる。
【0043】
そのため、光触媒分散体が塗布される基体の材質などにより水素イオン濃度指数の範囲が規定されるような場合には、それに応じてイオン添加剤を使い分けるようにすることもできる。
【0044】
同様に、水素イオン指数の調整に用いるイオン添加剤の種類により光触媒の表面の水酸基の量も変わる。水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を用いるよりアンモニア(NH)を用いる方が、光触媒表面の水酸基が多い。
【0045】
光触媒表面の吸着した水および水酸基の量を同時に制御することにより、光触媒性能の低下を抑制し、高い性能を発揮させることが出来る。
【0046】
さらに、酸化タングステンの粒子も一般の金属酸化物粒子同様、水素イオン指数の増加に伴い、ゼータ電位の絶対値が大きくなり、分散体の分散性が向上する。分散体の分散性が向上すると光触媒体を形成する際に凝集などが起こりにくく均一になるため、高い光触媒性能が発揮することが出来る。これらを総合して、イオン添加剤の選定や水素イオン濃度の調整を行う必要がある。
例えば、光触媒材料が酸化タングステン(WO)の場合には、光触媒分散体の水素イオン濃度指数をpH7.1以下とすれば良い。光触媒分散体の水素イオン濃度指数をpH5.5以下とすることがより好ましい。
【0047】
本実施の形態に係る光触媒体によれば、光触媒の表面に吸着している水を少なくする、あるいは水酸基を減少させないようにすることができるので、光触媒の触媒活性度の低下を抑制することができる。
【0048】
次に、光触媒分散体を基体の表面に付着させる工程について例示をする。
【0049】
基体の材料としては、特に限定されることがなく、例えば、ガラスやセラミックスなどの無機材料、ステンレスなどの金属材料、あるいは高分子材料などの有機材料など、各種の材料を用いることができる。また、その形状やサイズも適宜決定することができる。なお、基体として高分子材料などの有機材料を用いる場合には、光触媒の作用により基体が分解、劣化するおそれがある。そのため、有機材料からなる基体を用いる場合には、光触媒と基体との間に中間層を設けるようにすることが好ましい。中間層としては、例えば、シリコーン樹脂層、アクリル変性シリコーン樹脂層、有機−無機複合傾斜層などを例示することができる。
【0050】
付着方法は特に限定されるわけではなく、例えば、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを例示することができる。
また、光触媒分散体の粘度を適宜変更することで付着作業の作業性を向上させることができる。例えば、風などの外乱の影響を受けやすい場所や垂直な面などに対しては粘度の高い光触媒分散体とすることが好ましい。そのようにすれば、液だれなどを抑制することができるので作業性を向上させることができる。一方、粘度の低い光触媒分散体を用いるものとすれば、光触媒の厚みの均一性を向上させることができる。
【0051】
光触媒分散体の粘度は、コロイダルシリカやコロイダルアルミナなどの結合剤を添加することで調整することができる。なお、結合剤を添加する場合には、添加後の光触媒分散体の水素イオン指数が前述した範囲にあるようにする。
【0052】
次に、付着させた光触媒分散体を乾燥させることで基体の表面に光触媒を形成する工程について例示をする。
【0053】
付着させた光触媒分散体の乾燥方法に関しては特に限定されるわけではなく、例えば、自然乾燥(室温乾燥)、加熱による乾燥、減圧雰囲気における乾燥などとすることができる。
【0054】
ただし、光触媒の表面に吸着した水を少なくするという観点からは、加熱による乾燥とすることが好ましい。例えば、基体の表面に付着させた光触媒分散体を110℃以上500℃以下に加熱することで乾燥させるようにすることができる。
【0055】
また、大気圧より減圧された雰囲気中において、基体の表面に付着させた光触媒分散体を乾燥させるようにすることもできる。基体の材質などによっては、基体の表面に付着させた光触媒分散体を高温で乾燥させることができない場合がある。この様な場合には、大気圧より減圧された雰囲気中において、基体の表面に付着させた光触媒分散体を乾燥させるようにすることができる。
さらに、高温かつ大気圧より減圧された雰囲気中において、基体の表面に付着させた光触媒分散体を乾燥させるようにすることもできる。
すなわち、110℃以上500℃以下に加熱すること、または大気圧よりも減圧された雰囲気におくことのうちの少なくともいずれかにより、付着させた光触媒分散体を乾燥させるようにすることができる。加熱温度が高すぎると光触媒粒子が粒成長して光触媒活性が低下する場合もある。400℃以下が好ましく、また、加熱時間と併せて制御することが可能である。
【0056】
乾燥条件の兼ね合いによっては、光触媒表面の吸着水の減少とともに、水酸基の減少も引き起こす。この場合、水酸基の減少を伴っても前記吸収ピーク強度比の特性のいずれかを満たすことにより光触媒性能の低下は抑制される。
【0057】
次に、光触媒分散体の濃度について説明する。光触媒微粒子の濃度は、高すぎると分散性が低下したり、粘度が高くなり光触媒体の形成がしにくくなるため、0.1質量%以上20質量%以下が良い。
【0058】
製造された光触媒体の用途に関しては特に限定されるわけではなく、各種の部材、製品などに広く適用させることができる。
【0059】
例えば、室内外の建材などの表面に光触媒を形成させたものを例示することができる。室内外の建材などの表面に光触媒を形成させることができれば、太陽光や室内光を利用することで、大気中の有害物質や臭気物質を分解除去したり、防汚、抗菌・抗ウイルス、防黴などの優れた機能を発揮させることができる。
【0060】
この場合、光触媒材料として酸化タングステン(WO)を用いるため、紫外光の少ない室内などにおいても、光触媒の作用を発揮させることができる。そのため、室内などであってもアセトアルデヒドやホルムアルデヒドなどの有害物質を室内光を利用して分解除去することができるので、シックハウス症候群への対応としても有益である。
【0061】
光触媒体の適用例としては、例えば、壁紙、カーテン、カーペット、インテリア用品、天井材、床材、窓ガラス、鏡、タイル、衛生用品、家具、照明器具、空調機器や脱臭器のフィルター部品、家電製品、文房具、ペット関連用品、包装材料、情報記録媒体などへの適用を例示することができる。
【0062】
また、建築物の外面を構成する部材に適用させることもできる。例えば、建築物の壁面を構成する建材(例えば、石膏ボード、セメント硬化板、コンクリート板、木質繊維板など)にも適用させることができる。
【0063】
また、自動車、電車、航空機、船舶などの輸送機器の内外壁面や内外装品、食品などの包装容器などにも適用させることができる。
【0064】
適用する基材としては、ガラス、セラミックス、プラスチック、アクリル等の樹脂、紙、繊維、金属、木材などが挙げられる。
【0065】
本実施の形態に係る光触媒体の製造方法によれば、光触媒の表面に吸着している水を少なくする、あるいは、水酸基を多く維持することができるので、光触媒の触媒活性度の低下を抑制することができる。
【0066】
以下に、本発明のいくつかの実施形態を例示するが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びそれと等価とみなされるものの範囲に含まれる。また、前述した実施形態も含めて、各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【実施例】
【0067】
はじめに、光触媒体の光触媒性能の評価について説明する。光触媒性能はアセトアルデヒドガスの分解率を測定することにより評価する。具体的には、JIS−R−1701−1(2004)の窒素酸化物の除去性能(分解能力)評価と同様の流通式の装置を用いて、以下に示す条件でガス分解率を測定する。
【0068】
アセトアルデヒドの初期濃度は10ppm、ガス流量は140mL/min、試料は5×10cmの大きさに調整する。また、光触媒分散体からの評価を行う場合には、通常、乾燥時の試料量を0.2gとするが、今回は光触媒性能の向上した場合の差を明確にするため試料量0.03gとした。5×10cmのガラス板に塗布して150℃に加熱して乾燥させ、光触媒体を形成する。通常、前処理はブラックライトで12時間照射するが、今回は光触媒体を形成してすぐに測定しており、汚れ等の付着の影響がほとんどないため、前処理は省略する。光触媒体を入手して評価する場合などには、前処理を行う。光源に白色蛍光灯(東芝ライテック社製FL20SS・W/18)を使用し、紫外線カットフィルタ(日東樹脂工業社製クラレックスN−169)を用い、380nm未満の波長をカットする。照度は6000lxに調整する。初めに光を照射せずに、ガス吸着がなくなり安定するまで待つ。安定した後に光照射を開始する。このような条件下で光を照射し、15分後のガス濃度を測定してガス分解率を求める。ただし、15分経過後もガス濃度が安定しない場合には、ガス濃度の最小値と15分経過時のガス濃度の平均を求め測定する。
【0069】
光照射前のガス濃度をA、光照射から15分以上経過し、かつ安定したときのガス濃度をBとし、これらガス濃度Aとガス濃度Bから[式:(A−B)/A×100]に基づいて算出した値をガス分解率(%)とする。ガス分析装置としてはINOVA社製マルチガスモニタ1412を使用する。
(実施例1)
平均一次粒子径(D50)が25〜35nmの酸化タングステン微粒子を水に分散させた種々の分散体を用い、水素イオン濃度指数を調整し、ガラス基板の表面に付着させ、これを150℃に加熱することで基体表面に光触媒体を形成し、試料を作製した。イオン添加剤として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いた。
【0070】
得られた光触媒体について、水素イオン濃度指数の測定、赤外分光法による水の吸収強度比(i)、水の吸収強度比(ii)の評価、およびアセトアルデヒドガス分解率の評価を行った。結果を表1に示す。水の吸収強度比(i)とアセトアルデヒドガス分解率の関係を図1に、水の吸収強度比(ii)とアセトアルデヒドガス分解率の関係を図2に示す。
【0071】
また、得られた光触媒体について、近赤外分光法による水の吸収強度比(iii)の評価を行った。結果を表2に、吸収強度データのプロファイルの一例を図3示す。
【0072】
さらに、得られた光触媒体について、赤外分光法による水酸基の吸収強度比の評価を行った。結果を表1に示す。水酸基の吸収強度比とアセトアルデヒドガス分解率の関係を図4に示す。
【表1】


【表2】

【0073】
光触媒体はpH3.2〜pH6.9の範囲であり、このとき本発明で規定した範囲の水の吸収強度比あるいは水酸基の吸収強度比の時に、アセトアルデヒドガス分解性能が高かった。通常の試料量の時と比較すると今回の測定では試料量が少ないため、ガス分解率の値そのものは低くなる。しかし、試料量0.03gでガス分解率40%のものは、通常の試料量0.2gの時にはガス分解率約80%程度を示し、高い光触媒性能を有しているといえる。
(比較例1)
実施例1と同様に酸化タングステン微粒子の分散体を用い、水素イオン濃度指数を調整し、光触媒体を形成し、試料を作製した。イオン添加剤として水酸化ナトリウム(NaOH)を用いた。
【0074】
得られた光触媒体について、同様の評価を行った。表1、表2、および図1、図2、図3、図4に示す。
【0075】
光触媒体はpH7.1〜pH7.7の範囲であり、このとき本発明で規定した範囲の水の吸収強度比あるいは水酸基の吸収強度比を満たしておらず、アセトアルデヒドガス分解性能が低い結果であった。
【0076】
これらの結果から、光触媒表面の吸着水が少ない方が、また、水酸基が多い方がガス分解性能が高くなることが確認された。さらに、水の吸着が少ないことと水酸基が多いことの両方を満たす場合により高いガス分解性能が発揮される。
(実施例2)
実施例1と同様に酸化タングステン微粒子の分散体を用い、水素イオン濃度指数を調整し、光触媒体を形成し、試料を作製した。イオン添加剤としてアンモニア(NH)を用いた。
【0077】
得られた光触媒体について、水素イオン濃度指数の測定、赤外分光法による水の吸収強度比(i)の評価、およびアセトアルデヒドガス分解率の評価を行った。結果を表3に示す。水の吸収強度比(i)とアセトアルデヒドガス分解率の関係を図5に示す。
【表3】

【0078】
光触媒体は、pH3.2〜pH7.7の範囲であり、このとき本発明で規定した範囲の水の吸収強度比あるいは水酸基の吸収強度比の時に、アセトアルデヒドガス分解性能が高かった。
(比較例2)
実施例1と同様に酸化タングステン微粒子の分散体を用い、水素イオン濃度指数を調整し、光触媒体を形成し、試料を作製した。イオン添加剤としてアンモニア(NH)を用いた。
【0079】
得られた光触媒体について、実施例2同様の評価を行った。表3、および図5に示す。
【0080】
光触媒体のpHは7.7であり、このとき本発明で規定した範囲の水の吸収強度比あるいは水酸基の吸収強度比を満たしておらず、アセトアルデヒドガス分解性能が低い結果であった。
【0081】
これらの結果から、イオン添加剤の添加量が多い中性付近の領域においては、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いる場合よりもアンモニア(NH)を用いる場合の方が光触媒の表面に吸着した水を少なくすることができることが確認できた。
(実施例3)
実施例1と同様の方法で光触媒体の試料を作製した。ガラス基板の表面に光触媒分散体を付着させ、加熱する温度において、150℃、および150℃に加熱後さらに400℃に加熱したもの2条件とした。
【0082】
得られた光触媒体について、赤外分光法による水の吸収強度比(i)、水酸基の吸収強度比の評価、およびアセトアルデヒドガス分解率の評価を行った。結果を表4に示す。
【表4】

【0083】
加熱温度を高くすることにより、吸着水の減少とともに水酸基も減少したが、水の吸収強度比と水酸基の吸収強度比ともに本発明の規定した範囲を満たしており、高いガス分解性能を発揮することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子と、溶媒と、を含む光触媒分散体を生成する工程と、
前記光触媒分散体を基体の表面に付着させる工程と、
前記付着させた前記光触媒分散体を乾燥させることで前記基体の表面に光触媒を形成する工程と、
を有した光触媒体の製造方法であって、
前記光触媒分散体を生成する工程において、前記光触媒分散体の水素イオン指数がpH7.1以下となるようにイオン添加剤により調整し、
前記基体の表面に光触媒を形成する工程において、110℃以上500℃以下に加熱すること、または大気圧よりも減圧された雰囲気におくこと、の内の少なくとも1つを満たす条件により、前記付着させた前記光触媒分散体を乾燥させ、
前記形成された光触媒体が、以下の(I)ないし(IV)のうちの少なくとも1つの条件を満たすように、前記水素イオン指数、前記イオン添加剤の種類、および前記乾燥の条件を制御すること、を特徴とする光触媒体の製造方法。
(I)前記光触媒体の表面を赤外分光法により分析した場合に、波数が3450cm−1における吸収強度の、波数が1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が2.5以下となる。
(II)前記光触媒体の表面を赤外分光法により分析した場合に、波数が1500cm−1以上1700cm−1以下の範囲における吸収の最大ピーク強度の、波数が1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が0.7以下となる。
(III)前記光触媒体の表面を近赤外分光法により分析した場合に、波数が5000cm−1以上5400cm−1以下の範囲における吸収ピークを有していない、または、吸収の最大ピーク強度の、波数が5250cm−1における吸収強度に対する比が1.7以下となる。
(IV)前記光触媒体の表面を赤外分光法により分析した場合に、波数が3690cm−1近傍における吸収のピーク強度の、波数が1037cm−1近傍における吸収のピーク強度に対する比が0.01以上となる。
【請求項2】
前記光触媒分散体を生成する工程において、
前記微粒子の濃度が0.1質量%以上20質量%以下とされることを特徴とする請求項1記載の光触媒体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−78766(P2013−78766A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−2899(P2013−2899)
【出願日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【分割の表示】特願2010−204973(P2010−204973)の分割
【原出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】