説明

光触媒作用のための非晶質状態の複合構造物

本発明は光触媒に関する。該光触媒は、非晶質状態の光触媒成分(10)と、第1種の自由な電荷担体である電子または正孔を中和して、第2種の電荷担体を再結合から保護するように設計された活性基材(12)とを含む複合体系に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質状態の複合構造物である新型の光触媒に関し、該光触媒は自由な電荷担体(電子、正孔)の即時再結合を防ぐ、それらの強制的分離現象に基づき作用する。
【背景技術】
【0002】
光触媒効果は、光線(UVまたは可視)により半導体が刺激される現象に基づく。光子の刺激で、半導体の価電子帯からその伝導帯への電子の移行により生じる「電子−正孔」対が生成する。自由な電荷担体の再結合に対するエネルギー障壁の役割を果たす禁制帯が存在するため、自由な電荷担体は固体表面に到達でき、吸着複合体に作用し、したがってそれらの最終生成物中への転換を促進する。
【0003】
現在、ミクロンおよびナノ粒子の形態の半導体(固体結晶体)のみが有望な光触媒であると考えられている。それらの結晶度は、一方では電荷担体(e、h)の効果的な分離およびそれらの即時再結合の回避を確実にする。他方では、多数の自由な担体が接触表面に確実に接近できるように、これらの結晶子の粒径が好ましくは数十または数百ナノメーターに配分されている。参考文献の文献[1]に記載のように、このような配分値は、自由な電荷担体の平均寿命の間に、自由な電荷担体が結晶体内で移動した距離と適合する。
【0004】
後に続く角括弧中の数字は、本明細書の末尾の参考文献に一致する。
【0005】
図1は、重要な光触媒能力を示すことで公知の、3つの主要な活性材料を提示している。これらの材料は、通常結晶子状態の光触媒成分を含む。
【0006】
最も広汎に使用されている工業的光触媒は、Degussa−Deutsche Gesellschaft、Germanyにより市販されている製品(商品名、Degussa P25、アナターゼ型80%、ルチル型20%を含む二酸化チタンの結晶子生成物)である[2]。
【0007】
現在、二酸化チタンの結晶子ナノ粒子の調製は、ほとんどの場合プラズマの適用に基づいた技術またはゾル−ゲル法を使用して実行されている。プラズマ技術[例えば、3を参照]は、有機または無機のチタンの前駆体を高温でイオン化した気体状態で使用する。酸素の存在下でTi4+gasイオンは、ナノ粒子がクラスター化した二酸化チタン、TiOに変化する。ゾル−ゲル法は、金属アルコキシドのゾルの加水分解に基づき、その最終生成物は金属酸化物である。TiOのナノ粒子は、それぞれ制御された条件でチタンアルコキシドの加水分解により調製できる[4]。
【0008】
交互吸着自己組織化法(LBL−SA)[5]、または超音波噴霧熱分解法(USP)[6]などのさらに高度化された方法が、実験室規模でナノメーター結晶を製造するために適用される。
【0009】
[5、6]に記載された技術は、さらに最適な大きさ(直径10÷100nm)の結晶子を得ることもできる。これらの大きさは光触媒用途に最も適していると考えられる。
【0010】
しかし、参考文献[3〜6]の方法により製造された生成物は、「既製の」物質を常に示しており、該生成物は光触媒単位の要素として適用するために、その後基材壁上に強固に固定する必要がある。従来の結晶子粒子(「既製の」)を基材の外面に固定できる唯一の手段は、その物理的吸着である。一方、物理的吸着は十分に安定した複合物を良好に生産できない。機械的に非常にもろく、これらの系は使用中に急速に分解する。
【0011】
既製の結晶子ナノ粒子の取り扱いに関するこれらの困難を避けるために、該粒子がその場で化学的に基材上にグラフトされた、活性相を有することができる複合生成物での代用を考えることは賢明である。
【0012】
現在の科学文献は、光触媒特性を有する複合生成物を調製するための、一定数の高価で高度な技術を提示している(例えば、Arc Ion Plating(AIP)[7]、Dip−coating[8]、Photo−Inducted Sol−gel[9]、Plasma Associated Metallo−Organic CVD[10、11]、Sputtering[12、13]、Photo−assisted pulsed laser deposition[14]、etc.)。
【0013】
現在、これらの方法は実験室規模を超えない。しかし該技術の適用は、さまざまな多孔質の支持体(SiO、γ−Al、活性炭など)上にグラフトされたTiO結晶子ナノ粒子を含む複合構造物の調製を可能にする。一般的に、これらの生成物はDegussa p25の光触媒活性に匹敵する光触媒活性を示す。
【0014】
[7〜12、14]の技術および他の最新の技術は、結晶子ナノ構造物により提示される活性相を有する複合光触媒の調製を必要とする。活性成分が始めは無秩序な構造として形成される場合、[11]に記載のように、活性成分を結晶子状態に転換させるために、放射線照射または焼成などの補足の処置が施される。
【0015】
いくつかのまれな文献(例えば、[13、15、16])は別として、非結晶子材料の無秩序構造は電荷担体の即時再結合を好むため、非結晶子材料は光触媒生成物であるとは考えられていない。実質的に、無秩序構造には電荷担体の即時再結合に対して反応する内部エネルギー障壁(禁制帯)がないことが、非晶質生成物を結晶子生成物と競うことから妨げる致命的障害であると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、基材の表面に化学的に結合された、非晶質状態の二酸化チタンのナノメーターおよびミクロンメーター球状凝集体を構成する活性相を有する、複合光触媒の組成物および作用原理に関するものであり、該基材は強酸性またはルイス塩基性を示し、第1種の電荷(負または正)を別種の電荷に優先して中和(トラッピング)することにより自由な電荷担体の強制的分離を起こす、外部電場源の役割を果たしている。
【0017】
より詳細には本発明は、外力を使用して電荷担体を分離することにより、非晶質構造物を異種の光触媒として作用させることが可能であるという仮説の結果である。この外力の役割は、対立する電荷の間で相互に作用するエネルギーにより実施できる。例えば、第1種の担体(負または正)は、特定の型の電気特性(受容体特性または供与体特性)を示す基材により、その場で選択的に中和できる。この好ましい状態において、第2種の担体は即時再結合から保護される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって本発明は、自由な電荷担体(電子、正孔)の即時再結合を妨げる、それらの強制的分離現象に従って作用する非晶質状態の複合構造物に関する。
【0019】
シリカ、酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムまたは酸化ジルコニウムなどの重要なレベルのルイス酸性度を有する受容体基材は、電子トラップとして組み合わせる際に使用される唯一の基材であり、一方強いルイス塩基性を示す金属基材は正孔トラップとして使用される。
【0020】
したがって本発明は全般に、非晶質状態の光触媒成分と、第1種の自由な電荷担体(電子または正孔)を中和し、第2種の電荷担体を再結合から保護するように意図された活性基材とを含む複合体系に関する。
【0021】
一実施形態において、活性基材はルイス酸性度の高い受容体基材である。
あるいは、活性基材は供与体基材である。
【0022】
一実施形態によれば、受容体基材または供与体基材の集合体に向かって中和担体が確実に効果的な転移をするために、光触媒要素(活性成分)は基材に化学的に結合された無秩序な(非晶質の)二酸化チタンのナノ粒子およびミクロン粒子で作製されている。
【0023】
本発明はしたがって、一実施形態において、光触媒方法の活性成分として二酸化チタンの使用法に関する。現在実際に使用されている結晶子構造物は、重要な電子受容能力または電子供与能力を有する固体基材(受容体基材/供与体基材)の表面に化学的に固定された、TiOの非晶質ナノ凝集体からなる複合生成物で代用される。
【0024】
非晶質TiOの光触媒活性は、受容体基材/供与体基材により供給される外部電場での電荷担体(e、h)の人工的分離によるものである。この強制的分離は、電荷担体を即時再結合から保護し、選択された型の担体が活性表面に向かって移動する時に、それらの自由な状態を維持できるようにする。第2種の担体は基材の活性によりその場で中和される。
【0025】
本発明の方法のために、「非晶質ナノ凝集体TiO、顕著な受容体能力を有する酸化物基材」型の複合生成物の調製に関する一実施例を記載した。
【0026】
非晶質酸化物の表面は、いくつかの官能基を有する。周囲条件と250〜300℃までとで、該官能基は活性ブレンステッド状態(酸および塩基)に強化される。この活性集団によって、各種の修飾剤の酸化物表面上への化学的グラフトが可能となる。
【0027】
無機基材上のTiO複合構造物(結晶子型および非晶質型)の調製は、以下に記載の方法のほとんどにより実施できる。技術的観点から、これらの複合物は特にゾル−ゲル法、スパッタリング、プラズマアシストCVD、および分子層形成または代替用語によれば原子層エピタキシーを意味するML−ALE−CVD[17、18]により調製できる。後者は比較的簡素であるため、意図された生成物、特に「非晶質TiOナノ、ミクロン凝集体−受容体基材」型の調製のために、実験室および工業的両方の条件下で最もよく適合されたと思われる。
【0028】
ML−ALE−CVD法によれば、活性ブレンステッド状態で表面を強化するために、表面があらかじめ機能化されている固体基材を、揮発性無機前駆体(例えば、オキシ−ハロゲンまたはハロゲン生成物、−MeHal、MeHal)または有機金属生成物(例えば、アルコキシド、−Me−OR)によりその場で処理し、次いで加水分解し、複合材料「ナノメーター酸化物凝集体−基材」に転換させる。
【0029】
(反応(1)および(2)、ハロゲン前駆体の例)
MeLHalN + X(H - O) - 支持体 → N-XHal-MeL-OX - 支持体+ X H-Hal ↑ (1)
N-XHal-MeL-OX- 支持体+ (N-X) H2OvapourN-X (H - O)-MeL-OX- 支持体+ (N-X) H-Hal ↑ (2)
【0030】
一連の「非晶質TiOナノ凝集体−受容体基材」型の複合生成物は、特殊な作用パラメータを有するML−ALE−CVD法を使用して調製できる。
【0031】
自由電荷を、強制的分離により再結合からその場で保護することは、電子で光触媒凝集体を強化する役割を果たす活性供与体基材によっても実施できる。この場合、高いルイス酸性度(電子受容体)の酸化物基材は、その表面上に分布している、基本的な金属凝集体を含む多孔質基材により置き換えられる。これらの供与体基材は、光触媒成分に正電荷(電子の孔)を固定することにより追加の電子を供給する。「非晶質TiOナノ、ミクロン凝集体−供与体基材」型の複合生成物の調製は、金属表面上に酸化物の堆積物を作製するために考案された技術の1つ、例えば、ゾル−ゲル法により実施できる。
【0032】
図2は、非晶質状態の活性成分10とルイス酸性度の高い受容体基材12または供与体基材とを含む、本発明による系を表している。受容体基材の場合は、電子e14が基材12に向かって移動する。供与体基材の場合は、基材の電子が(点線で記したように)成分10の正孔h16に向かって移動する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明による複合生成物は、シリカ(SiO)上、および活性化酸化アルミニウム(γ−Al)基材ならびに複合体基材(SiO*Fe3+、SiO*Cr2−、SiO*CrO2−、γ−Al*Fe3+、γ−Al*Cr2−、γ−Al*CrO2−)上にグラフトされた非晶質TiOナノメーター凝集体を含む。純粋な基材にFe3+またはCr6+を添加することが、複合「非晶質TiO−、ミクロン凝集体−受容体基材」の機能化の手段をよりよく示すために選択される。しかしこれらの添加は本発明による複合生成物の光触媒特性を改善するために必要不可欠なものではない。
【0034】
活性基材として選択された酸化物(SiO、γ−Al)は強いルイス酸(電子受容体)である。光線により刺激された表面構造物中の「自由な」正の電荷(電子の孔)を奪うと同時に、該酸化物は負の電荷(電子)を固定できる[19、20]。電子の孔は、表面上の予備吸着生成物の効果的分解を好む強い酸化剤と考えられる[21]。
【0035】
調製した試料の光触媒活性を試験するために、揮発性有機組成物の2つの全酸化反応を選択した。トリクロロエタン蒸気(CCl)の光触媒灰化およびトルエン蒸気(C)の光触媒灰化である。
C2H3Cl3 + 2O2 → 2CO2 + 3HCl (3)
C7H8 + 9O2 → 7CO2 + 4H2O (4)
【0036】
トリクロロエタンの全酸化生成物の1つは、塩酸、HC1である(反応(3))。塩酸の水への高い溶解性(標準条件で700体積のHClに対して1体積の水)は、試験装置の下流で撹拌されている容器内のpHを測定することにより、トリクロロエタンCClの光触媒能力の観察を可能にする。CClおよびCの光触媒能力を観察するための第2の技術はクロマトグラフ技術である(クロマトグラフHewlett−Packard5890、シリーズIIおよびHP5972検出器(FID))
光触媒試験は、実験室条件下で実施した。作用パラメータは表1に提示した。試験したすべての複合体試料は、その表面上に質量で6〜7%の間の非晶質状態のTiOを含んでいた(下記の表2の生成物番号3〜5および7〜9、または表2の結晶子生成物番号2)。
【0037】
表1:操作条件
【表1】


純粋シリカ基材上、および活性化酸化アルミニウム基材上の光触媒試料を比較したところ、前者には重要な活性レベルが存在し、後者は活性レベルが低いことが顕著である(表2、試料3および7)。
【0038】
光触媒活性におけるこの差は、「TiO−SiOおよびTiO−γAl」の力学系の特殊性により説明できる。実際に、シリカ表面上に非常に強いルイス酸状態が存在する結果、シリカの受容体基材としての能力は酸化アルミニウムの能力よりはるかに上回っている[19]。
【0039】
Degussa p25に基づく試料の活性は、純粋および受容体基材上の両方で、「非晶質TiO−純粋酸化アルミニウム」複合体(表2の試料1,2および7)の活性より優れたままであるが、「非晶質TiO−純粋シリカ」複合体(試料3)はDegussap25に基づく生成物をはるかに上回っている。
【0040】
表2:トリクロロエタン、CClの完全酸化反応における生成物の光触媒活性

【表2】


複合生成物の光触媒能力を改善するための取り組みにおいて、一連の試料は電子トラップ(遷移金属を基に構成された)にドープされた酸化物基材上に調製された。この研究の目的は高い能力を有する受容体基材を作ることである。ドープ成分として、陽イオンFe2+およびFe3+の形態で活性状態を示す酸化鉄(Fe)が使用された。陰イオンのクロム複合体(クロム酸塩または重クロム酸塩、CrO2−、Cr2−)も使用された。
【0041】
ドープ基材の調製は、まず基材(SiO、γ−Al)の金属塩溶液による飽和、次いで熱調整および熱処置により実施した(調整24時間、周囲温度;乾燥8時間、温度110℃;焼成4時間、温度550℃)。
【0042】
表2に提示したデータは、γ−Al*TiO(試料7)と比較した、試料[γAl−Fe3+]*TiOおよび[γAl−Cr6+]*TiO(試料8、9)の光触媒活性の重要な改善を表している。この現象は、ドープされた酸化アルミニウム(γAl*Me)の表面上に、元々の状態(Al3+)より強い受容体状態が存在することにより説明できるであろう[20]。純粋な酸化アルミニウムとの比較により、これらの基材複合体は、したがって電荷の強制的分離におけるさらに効果的な受容体作用物質として考えるべきである。
【0043】
これに反して、基材[SiO−Fe3+]および[SiO−Cr6+]のための電子受容能力は、純粋シリカの電子受容能力と比較してより低いと考えられた。試料4および5の光触媒活性は、試料3の活性より低いままである(表2)。これらの状況はまず間違いなく、ルイス酸などの、Si4+が例外的に多い状態による[19]。
【0044】
基材がドープ成分に富んでいる場合、電荷分離の効果について基材の源(SiOおよびγ−Al)の影響が急速に減少することに注目すべきである。例えば、試料5はSiOの基材上に、試料9はγ−Alの基材上に調製されている時であっても、試料5および9(表2)は、同様の光触媒活性を示している。
【0045】
純粋シリカの受容体基材(表2の試料3)を使用した時に最良の結果が得られた。この事実は、基材がシリカで構成されている「非晶質TiOナノ、ミクロン凝集体−受容体基材」型の複合生成物において、追加の受容体(電子トラップ)を供給する必要がないことを示している。
【0046】
図3は、光触媒単位のトルエン下流の濃度の時間的変化を示している。中白の三角、四角、ひし形を含む、曲線22〜24は、それぞれ光非照射Degussa p25の曲線、光非照射「シリカ−TiO」複合体の曲線、光非照射「酸化アルミニウム−TiO」複合体の曲線に相当する。一方、中黒三角、四角、ひし形を含む、曲線25〜27は、それぞれ光照射Degussa p25の曲線、光照射「シリカ−TiO」複合体の曲線、光照射「酸化アルミニウム−TiO」複合体の曲線に相当する。
下記の表3はトルエンCの全酸化反応における生成物の光触媒活性を示している。
【0047】
【表3】


トルエン蒸気を担持する空気の光触媒処理に関する試料の挙動は、この表3を通して示されており、この図3は多孔質複合体の吸着能力の観点、および活性基材の電子特性の観点から議論できる。
【0048】
最良の光触媒能力は、シリカベースの「非晶質TiOナノ、ミクロン凝集体−受容体基材」複合体により常に明示される(表3の試料1および図3の中黒四角で表される曲線)。それに反して、板紙ベースの複合体試料(表3の4番)は活性を一切備えていない、なぜならその基材は電子受容体能力を有さず、したがって基材表面上の非晶質TiO凝集体を活性化できないからである。
【0049】
トルエンCが固体表面上に吸着される容易さは、トリクロロエタンCClの場合と比較してはるかに優れており、特殊な包囲比表面積が260〜270m/gである活性化酸化アルミニウムの試料は、比表面積が50m/gより狭いDegussa p25の光触媒活性より優れた光触媒活性を有する
【0050】
トルエンの場合とトリクロロエタンの場合とでは、光触媒活性はしたがって逆転する(表2および表3を参照のこと)。この現象は、シリカおよび活性化酸化アルミニウムのような高い吸着能力を有する多孔質の基材は、それらが吸着した複合体を高速で最終生成物に転換することにより、予備吸着生成物の光触媒性能に貢献することができるという事実により説明できる。この仮説は、表3の「光非照射吸着能力」および「光触媒活性」の欄に示された試験結果の比較分析により、ならびに図3の光照射、および光非照射で得られた曲線の外観を比較することにより確認した。
【0051】
さらに図4は、XRD(X回折)技術を使用した試料中の結晶度の状態を表す曲線を示している。これらの曲線はAles School of MinesのM.Pierre Gaudonにより実施された分析の間に得られた。
【0052】
この図4は、本発明に従った複合構造物が非晶質であることを明示している。実際に、酸化アルミニウムおよびシリカに基づく、本発明による生成物の曲線30および31は、29で表されるDegussa p25の結晶度をはるかに下回る結晶度状態の値を有する。
【0053】
図5は基材の表面構造の画像および本発明に従った複合生成物の画像を示している。これらの画像はMEB(Sweep Electronic Microscope)を使用して、Saint−Etienne School of MinesのPaul Jouffreyにより得られた。
【0054】
より詳細には、図5aは酸化アルミニウムの基材32の表面を示している。そして、図5bは酸化アルミニウムの基材32上のTiOの凝集体33〜35を示している。
【0055】
さらに、図5cはシリカの基材36の表面を示している。そして、図5dはシリカの基材36上のTiOの凝集体37〜39を示している。
【0056】
これらの凝集体は球状で、500と2000nmとの間の平均直径を有する。
(新規な活性生成物の利点(光触媒活性、製造方法、用途))
【0057】
非晶質複合体「TiO−多孔質受容体基材(供与体)」の光触媒活性は、Degussa p25(市販の光触媒、表2の試料1および2を参照)の活性よりはるかに上回っている。
【0058】
既成の結晶構造物と比較して、「非晶質TiOナノ、ミクロン凝集体−多孔質基材」複合体は技術的観点から同様に有利である(容易に使用できる活性要素としての製造の容易さ、および基材表面上への固定する確実性)。
【0059】
したがって工業条件下での光触媒要素(反応器部、活性パネルなど)の調製において、該複合体の最終的な適用は非常に都合がよいと思われる。
【0060】
非晶質光触媒複合体「TiO供与体基材」は、既存の基材が工場部品(チューブ、プレート、パネルなど)の形態である場合は、達成が困難であろうことが認められるであろう。この障害は、金属の非多孔質性により生じる。
【0061】
(本発明の改変および拡張)
本発明に従った複合生成物の殺菌能力を明示するために、検査を実施した。
【0062】
図6はさらに、殺菌能力を試験するための実験装置を表している。遺伝的に修飾された大腸菌(供給元−INRA、フランス)を、試験のための細菌種として選択した。
【0063】
図6aに表された第1段階において、光触媒複合体試料43および非修飾基材44を、細菌ミスト45に3分間湿らせた。
【0064】
ミスト45は、乾燥空気47とチューブ48の末端48.1に配置された細菌溶液46とから得られる。この乾燥空気47は溶液46を貫く末端48.1より、細菌ミスト45を生成するような方法で噴出される。したがってミスト45はチューブ48中を流れ、48.1と反対側のチューブ48の末端48.2にある、試料43および44を湿らせる。
【0065】
図6bに表された第2段階において、光触媒複合体試料43.1を、UV灯49の下でUV−A(波長365nm)照射に曝した。本発明による複合体試料43.1を日光に曝した。さらに非修飾基材44.1を日光に曝した。これらの曝露はすべて、20分間継続した。
【0066】
図6cにより表される第3段階では、試料43.1、43.2および44.1またはそれらの表面を、栄養ゲル51を含む2枚のペトリ皿50に移した。これらの皿を、細菌コロニーの発育を促すために暗所で20時間、35℃で放置した。それぞれの皿50の一部52はどの試料も含んでおらず、実験の対照として機能する。
【0067】
図7は、前記試料各々に関する、保存後のペトリ皿における細菌コロニーの発育を示す。これらの試験はAles School of MinesのChristine Blachere−Lopezと共同で実施した。
【0068】
栄養ゲルのみを、対照区画として機能する区画4および12とでは、細菌コロニーは発育しなかった。
【0069】
皿が日光に曝された純粋シリカ(非修飾基材)の試料44.1を含む皿の区画1および9では、20時間のインキュベーションで、それぞれ21および6個の細菌コロニー(参照番号53)が発育した。
【0070】
日光に曝された本発明による複合体の試料43.2を含む区画3および11では、わずか1個の細菌コロニー53が発育した。
【0071】
UV−A照射に曝された本発明による複合体の試料43.1を含む区画2および10では、細菌コロニーは発育しなかった。
【0072】
言い換えれば、本発明による生成物の試料43.1および43.2の表面上にはわずか1個であるのに対して、27個のコロニー(21+6)が非殺菌試料44.1の表面上に発育した。
【0073】
このデータは、本発明による非晶質TiO複合構造物は、人工照射(UV「ブラックライト、λ=365nm」)の下および太陽光線下の両方で重要な殺菌能力を明示することを表している。
【0074】
したがってこれらの活性生成物は、揮発性有機組成物の初期濃度が一定限度を超えない条件で(例えば、気相に関して3÷5ppm、この例は密閉された場所での気体の条件に相当する)、非常に広い範囲の揮発性有機組成物を光触媒還元すると想像できる。
【0075】
しかしこれらの生成物はさらに、生物学的汚染から全体的および個別に保護された活性生成物として想像できる。
【0076】
本発明による非晶質複合光触媒に関する他の分野の用途は、排水処理である。汚染された水を溶液中の有機複合材料により光触媒浄化することに、これらの意図された生成物を適用する利点を明示するために、予備検査を実施した。
【0077】
したがって、図8は太陽光のもとで非晶質TiOベースの活性複合体を使用して、液体相のアセトンおよびエタノールの光触媒分解の図式的説明を表している。
【0078】
三角形からなる曲線55は、アセトンの分解回収率を表しており、一方四角形からなる曲線56はエタノールの分解回収率を表している。
【0079】
これらの曲線55および56を得るために、水中に25mg/Lのアセトンおよびエタノールを含む、体積25mlの2つの液体試料を、質量1.1gのS−1T−070504(表2の試料番号3)複合体の2つの試料に接触させた。2つの同じ液体試料を1.1gの純粋シリカの2つの試料に接触させた。容器として4枚のペトリ皿を使用した。
混合物を静止状態で2日間日光に曝した。
【0080】
蒸発による損失も計算に入れた光触媒分解の間のアセトンおよびエタノールの損失を、クロマトグラフィー法を使用して観察した。
【0081】
溶液中の有機生成物の分解回収率を、純粋シリカを含む有機生成物の容器中の残留濃度(CSiO2)と、光触媒複合体を有する有機生成物の容器中の濃度(Cphoto)との間の差により、CSiO2の値と比較して計算した。
【0082】
試料を日光に直接曝す前の最初の読み取りは暗室で行った。したがって試験初日の100時00分と11時00分の時点での回収率はごくわずかであった。
【0083】
次いで、ガラスでふたをした容器を暗室から日当たりのよいテラスに持ち出した。回収率曲線55および56の2つのピーク57および58は最大日光時間(14時〜16時)に相当する。2日間の試験で光触媒試料を含む容器中のアセトンおよびエタノールの溶液は完全に分解された。
【0084】
したがって本発明の改変および拡張は、少なくとも水処理、特にその浄化およびその殺菌の分野において考えられ、その結果、例えば病院での空調装置、衣類の製作および自動殺菌ツールの実現を、生物学的汚染から全体的におよび個別に保護する分野において考えられる。
【0085】
本発明によるこれらの光触媒材料はさまざまな基材(多孔質セラミック、ガラス、板紙、繊維製品など)上に実現できる。
【0086】
[参考文献]
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【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】重要な光触媒能力を示すことで公知の、3つの主要な活性材料
【図2】非晶質状態の活性成分10とルイス酸性度の高い受容体基材12または供与体基材とを含む、本発明による系
【図3】光触媒単位のトルエン下流の濃度の時間的変化
【図4】本発明に従った複合構造物が非結晶であることを明示
【図5】基材の表面構造の画像および本発明に従った複合生成物の画像。(a)は酸化アルミニウムの基材32の表面。(b)は酸化アルミニウムの基材32上のTiOの凝集体33〜35。(c)はシリカの基材36の表面(d)はシリカの基材36上のTiO凝集体37〜39。
【図6】殺菌能力を試験するための実験装置。(a)は第1段階。(b)は第2段階。(c)は第3段階。
【図7】前記試料各々に関する、保存後のペトリ皿における細菌コロニーの発育を示す。
【図8】太陽光のもとで非結晶質TiOベースの活性複合体をしようして、液体相のアセトンおよびエタノールの光触媒分解の図式的説明。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性な酸基材または塩基基材上に化学的に固定された非晶質状態の光触媒成分により生成する自由な電荷担体に対して、前記光触媒成分の第1種の担体である電子または正孔を、別種の担体に優先して前記基材中に固定することにより、強制的分離を行うための前記酸基材または塩基基材の使用。
【請求項2】
活性基材に化学的に結合した非晶質状態の光触媒成分であり、光により刺激された際に自由な電荷担体である電子および正孔を発生する光触媒成分
を含む複合体系であって、
前記活性基材は、ルイス酸部位(陽イオン)を有する固体状態の受容体基材、または自由電子を有する固体状態の供与体基材であり、前記受容体基材はルイス酸性を表し、前記供与体基材はルイス塩基性を表すことにより、
前記活性基材が電子受容体である場合、光により刺激される前記光触媒成分の前記電子が前記活性基材の前記酸性部位により惹きつけられ、
前記活性基材が電子供与体である場合、光により刺激される前記光触媒成分の前記正孔が前記活性基材の前記自由電子により大幅に削減される
ことを特徴とする複合体系。
【請求項3】
前記光触媒成分が二酸化チタンであることを特徴とする、請求項2に記載の系。
【請求項4】
前記光触媒成分がナノ凝集体またはミクロン凝集体の形態をとる、請求項2または3に記載の系。
【請求項5】
前記活性受容体基材が、シリカ、活性化酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、酸化ジルコニウムなどのルイス酸性度の強い成分を、単体または組み合わせて含むことを特徴とする、請求項2から4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
前記活性受容体基材が、酸化鉄などの遷移金属ベースの電子トラップでドープされていることを特徴とする、請求項2から5のいずれか一項に記載の系。
【請求項7】
前記活性電子供与体基材が、金属を含むことを特徴とする、請求項2から6のいずれか一項に記載の系。
【請求項8】
前記活性供与体基材が、陰イオンクロム複合体によりドープされていることを特徴とする、請求項2から7のいずれか一項に記載の系。
【請求項9】
前記活性基材が、自由な電荷担体の前記強制的分離、および第1種の担体である電子または正孔の別種の担体に優先した固定をするための、外部電場源として作用することを特徴とする、請求項2から8のいずれか一項に記載の系。
【請求項10】
供与体能力または受容体能力からなる独自の電子的能力により作用する前記活性基材が、前記光触媒結晶構造物において認めることのできる禁制帯の役割の機能を果たすことを特徴とする、請求項2から9のいずれか一項に記載の系。
【請求項11】
気体または汚染液体の浄化および化学的調整、および/またはこれらの気体または汚染液体の殺菌のための、前記請求項のいずれか一項に記載の系の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−523979(P2008−523979A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546150(P2007−546150)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/FR2005/051101
【国際公開番号】WO2006/064168
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(507199942)
【Fターム(参考)】