説明

光触媒及びその製造方法並びにそれを用いた光触媒コート剤、光触媒分散体、光触媒体

【課題】400〜500nmの波長を有する白色蛍光灯等の光照射下で優れた活性を有する光触媒を用いた光触媒コート剤や光触媒分散体を提供する。
【解決手段】酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄が担持され、オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒であり、400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、2倍以上となる光触媒を使用する。この光触媒をバインダーに配合することにより光触媒コート剤を得ることができ、分散媒に配合することにより光触媒分散体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒及びその製造方法並びにそれを用いた光触媒コート剤、光触媒分散体、光触媒体に関し、さらに詳細には、白色蛍光灯等の光照射によっても優れた触媒活性を有する光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、そのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光を照射すると励起し、強い触媒活性が発現するものである。特に、有機物やNOxなどの一部無機物の酸化・分解力が大きく、エネルギー源として低コストで、環境負荷の非常に小さい光を利用できることから、近年環境浄化や脱臭、防汚、殺菌などへの応用が進められている。また、光触媒が励起するとその表面が親水性になり水との接触角が低下することが見出され、この作用を利用して防曇、防汚などへの応用も進められている。光触媒としては、酸化物や硫化物などの金属化合物が、特に、高い光触媒活性を有する微粒子の酸化チタン、酸化亜鉛などが一般的に用いられている。酸化チタン、酸化亜鉛などは、励起光の波長が400nm以下の紫外線領域にある。例えば、酸化チタン粒子の内部及び/または表面に、酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄等の鉄化合物を含有させ、光触媒活性を向上させる技術(特許文献1参照)が知られている。また、酸化チタン粒子の表面に10〜100Åの酸化第二鉄の微粒子を担持させて太陽光の利用効率を高める技術(特許文献2参照)、アナターゼ型酸化チタンの粒子表面に酸化第一鉄、酸化第二鉄、マグネタイト等の鉄酸化物を担持させて可視光線の照射によって高い活性を得る技術(特許文献3参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−303835号公報
【特許文献2】特開平6−39285号公報
【特許文献3】特開2003−190811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可視光照射によって光触媒活性を有する光触媒は、紫外線ランプなど特別な光源が必要でなく、太陽光や白色蛍光灯などの光源を用いることができるので、光触媒の応用分野が更に広がることが期待されているが、特許文献2及び3に記載の光触媒では、白色蛍光灯等の光照射下での光触媒活性は十分ではない。そこで、本発明は、白色蛍光灯等の照射によって優れた光触媒活性を有する光触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の特許文献1に基づいて、白色蛍光灯でも優れた活性を有する酸化チタン光触媒を開発するために鋭意研究を重ねた結果、種々の鉄化合物の中でも白色蛍光灯の光に含まれる400〜500nmの波長の光を吸収するオキシ水酸化鉄を併用することにより、このようなオキシ水酸化鉄と酸化チタンを含む光触媒が白色蛍光灯の光照射下で、オキシ水酸化鉄を用いずに同じ条件で測定した酸化チタンに比べ約2倍以上の光触媒活性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の点に特徴がある。
(1)少なくともオキシ水酸化鉄と酸化チタンを含む光触媒であって、オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒である。このような光触媒は、400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、約2倍以上の光触媒活性を有する。
(2)本発明の光触媒の製造方法では、少なくともオキシ水酸化鉄と酸化チタンとを混合すること、より好ましくは、アルカリ金属元素及び/またはアルカリ土類金属元素を含有する酸化チタンを含む媒液中に、鉄化合物を添加し反応させて、該酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄を担持することなどにより、オキシ水酸化鉄と酸化チタンを含有させる。
(3)少なくともオキシ水酸化鉄と酸化チタンを含む光触媒に、バインダーを配合することにより光触媒コート剤として、また、分散媒を配合することにより光触媒分散体とすることができる。また、少なくともオキシ水酸化鉄と酸化チタンを含む光触媒を成形したり、基材上に固定したりすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光触媒は、400〜500nmの波長を有する白色蛍光灯等の光照射下で優れた光触媒活性を有しているので、紫外線ランプなどの特殊な光源を必要とせずに、蛍光灯などの室内照明や太陽光でも、NOxや有機の環境汚染物質などを効果的に分解する。親水性効果も期待できるので、浄化材、脱臭材、防汚材、殺菌材、防曇材等として好適なものである。また、酸化チタン、オキシ水酸化鉄といった比較的安価な材料を用いているので、低コストの光触媒を提供できる。
更に、本発明の光触媒は、コート剤、分散体などの液状組成物とすることができ、また、成形したり、基材に固定したりして光触媒体とすることができ、これらを用いて防汚性や親水性などの機能性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例2の試料Bの差分吸収スペクトルである。
【図2】比較例4の試料Iの差分吸収スペクトルである。
【図3】比較例5の試料Jの差分吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、少なくともオキシ水酸化鉄と酸化チタンを含む光触媒であって、オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する。このため、光触媒活性の評価基準として、400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数を測定し(後述の評価1を参照)、これにより活性を評価する。このようにして評価した本発明の光触媒の活性は、同じ条件で測定した酸化チタン自体の活性(アセトアルデヒド分解反応速度定数で評価)に対して、好ましくは約2倍以上、より好ましくは約5倍以上、更に好ましくは約7倍以上、最も好ましくは約10倍以上である。本発明の光触媒は、少なくともオキシ水酸化鉄と酸化チタンを含むものであれば良いが、オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現するために、オキシ水酸化鉄と酸化チタンとが相互作用する程度に接合した状態が好ましく、それらが強固に接合した状態がより好ましい。このような状態とするには、オキシ水酸化鉄と酸化チタンとを混合することが好ましく、より好ましくは混合機を用いて混合し、更に好ましくはオキシ水酸化鉄と酸化チタンを懸濁状態で撹拌機等を用いて混合する。好ましくはオキシ水酸化鉄は酸化チタンの粒子表面に担持されている。オキシ水酸化鉄の担持様態は制限されず、酸化チタン粒子表面に吸着した状態であっても、酸化チタン粒子が表面に有する水酸基と水素結合するなどして強固に結合した状態であっても良い。本発明の光触媒、光触媒コート剤、光触媒分散体及び光触媒体においては、オキシ水酸化鉄、酸化チタン以外に酸化亜鉛、硫化カドミウムなどの光触媒性物質、各種吸着剤などが適宜含まれていても良く、その含有形態は特に限定されない。
【0010】
本発明の光触媒に含まれるオキシ水酸化鉄は、FeOOHまたはFe・nHOの化学式で表される化合物であって、α態、β態、γ態等の結晶性のもの、あるいは無定形のものを用いることができる。特にα−オキシ水酸化鉄は400〜500nmの波長の光の吸収効果が高く、より優れた活性を有する光触媒を与えるので好ましい。オキシ水酸化鉄の含有量は適宜設定できるが、オキシ水酸化鉄と酸化チタンの合量に対しFe換算で0.01〜5重量%の範囲にあるのが好ましく、0.05〜2重量%の範囲が更に好ましい。酸化チタンがオキシ水酸化鉄を含有あるいは担持しているか、より詳細には、α態のオキシ水酸化鉄を含有あるいは担持しているかなどは、例えば、メスバウアー分光法や電子顕微鏡などで確認することができる。
【0011】
本発明の光触媒に含まれる酸化チタンとしては、一般的なチタンの酸化物の他に、無水酸化チタン、含水酸化チタン、水和酸化チタン、水酸化チタン、チタン酸などと呼ばれるものが含まれ、アナターゼ型やルチル型など結晶形には制限は無く、不定形であっても良く、それらが混合したものであっても良い。これらの中でも、特に結晶性の高いものは、光触媒活性が高いため好ましく、ルチル型酸化チタンの励起光の波長はアナターゼ型よりもやや大きいので、ルチル型結晶を有する酸化チタンがより好ましい。また、酸化チタンの一部がチタン酸アルカリ金属、チタン酸アルカリ土類金属等の複合酸化物であっても良く、このような酸化チタンの内部には、その複合酸化物を構成するアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素が含まれるため好ましい。また、酸化チタンには、その励起に悪影響を与えない程度であれば、V、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、Auから選ばれる1種以上の異種元素または酸化物等の異種元素の化合物が含まれていても良い。酸化チタンの大きさも制限されないが、BET法による比表面積が10〜400m/g程度の範囲にあるのが好ましく、10〜200m/g程度の範囲がより好ましく、10〜100m/g程度の範囲が更に好ましく、30〜80m/g程度の範囲が最も好ましい。比表面積が前記範囲より小さ過ぎると、有機物、窒素酸化物等の処理対象物質の吸着力が低下して分解効率が低下するため好ましくなく、大き過ぎると、微細になり過ぎて結晶性が高いものが得られ難いため好ましくない。
【0012】
酸化チタンの粒子形状にも制限は無く、真球状、略球状、異方性形状等の定形粒子や、粒塊状等の不定形粒子等を用いることができる。特に異方性形状を有するものであれば、優れた光触媒活性が得られ易く好ましい。本発明で言う「異方性形状」とは、一般的には、紡錘状粒子、棒状粒子、針状粒子、板状粒子等と呼ばれるものであり、一個の一次粒子を最も安定な状態で平面上に静止させ、平面上への投影像を二つの平行線で挟み、その平行線の間隔が最小となるときの距離を粒子の幅または短軸径w、この2平行線に直角な方向の二つの平行線で粒子を挟むときの距離を粒子の長さまたは長軸径l、最大安定面に平行な面で挟むときの距離を粒子の高さhとした場合、l>w≧hを満たすものを言う。長軸径、短軸径、高さは、一次粒子を電子顕微鏡写真から、約1000個の粒子の算術平均値により求めることができる。本発明で用いる異方性形状を有する酸化チタンの大きさは、前述のようにBET法による比表面積が10〜200m/g程度の範囲がより好ましく、10〜100m/g程度の範囲が更に好ましく、30〜80m/g程度の範囲が最も好ましい。このような異方性形状粒子としては、10〜500nmの範囲の平均長軸径と、1〜25nmの範囲の平均短軸径とを有するものが好ましく、中でも、軸比(平均長軸径/平均短軸径)が1.5以上の紡錘状粒子、棒状粒子、針状粒子と呼ばれるものが好ましく、軸比が1.5〜10の範囲にあればより好ましく、さらに好ましくは2〜7の範囲である。
【0013】
また、酸化チタンとオキシ水酸化鉄とを含有した光触媒はアルカリ金属元素及び/またはアルカリ土類金属元素を含有していると、優れた光触媒活性を有することができるため好ましい。アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素を、酸化チタン粒子の表面に有しても、先に記載の通り内部に含有してもよく、さらにオキシ水酸化鉄の内部に含有していても、オキシ水酸化鉄の表面に有していても良く、あるいは、これらから選択されるいずれか二ヶ所以上に有していても良い。特に、酸化チタンの内部及び/または表面に有していると、オキシ水酸化鉄を強固に担持することができるなど優れた光触媒活性を有することができるため好ましい。また、酸化チタンの一部がチタン酸アルカリ金属、チタン酸アルカリ土類金属の複合酸化物であっても良い。アルカリ金属元素としては、ナトリウム、カリウム、リチウム等が、アルカリ土類金属元素としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ストロンチウム、ベリリウム等が挙げられる。中でもナトリウムは400〜500nmの波長の光を吸収するオキシ水酸化鉄を生成し易いため好ましい。アルカリ金属元素及び/またはアルカリ土類金属元素の含有量は、オキシ水酸化鉄と酸化チタンの合量に対する酸化物換算(例えば、NaO、KO、LiO、CaO、MgO、BaO、SrO、BeO等)で表すと、0.01〜30重量%の範囲が好ましく、0.05〜15重量の範囲が更に好ましく、0.05〜5重量%の範囲が最も好ましい。アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素の含有形態は、イオン、金属、あるいは酸化物、水酸化物、塩化物等の化合物などいずれでも良く制限されない。尚、本発明における化学組成は、オキシ水酸化鉄の含有量等も含めて、全て蛍光X線による分析値である。
【0014】
次に、少なくともオキシ水酸化鉄と酸化チタンを含む本発明の光触媒を製造するには、(a)予め製造したオキシ水酸化鉄と酸化チタンとをヘンシェルミキサー、レディゲミキサー、アイリッヒミキサー、ライカイ機等の混合機、乳鉢・乳棒等を用いた混合手段、ボールミル、コロイドミル等の粉砕混合機を用いて混合する方法またはオキシ水酸化鉄と酸化チタンを懸濁状態で撹拌機等を用いて混合する方法、(b)チタン化合物と鉄化合物の混合液と、後述の塩基性化合物とを混合して中和し、反応させて、オキシ水酸化鉄と酸化チタンの両方を析出させる方法、(c)予め製造した酸化チタンの懸濁液に鉄化合物を添加し反応させて、酸化チタンの存在下にオキシ水酸化鉄を生成させる方法、(d)予め製造したオキシ水酸化鉄の懸濁液にチタン化合物を添加し反応させて、オキシ水酸化鉄の存在下に酸化チタンを生成させる方法などを用いることができる。これらの方法の際に、必要に応じて酸化亜鉛、硫化カドミウムなどの光触媒性物質、各種吸着剤などを含ませても良い。
【0015】
オキシ水酸化鉄を予め製造するには、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、塩化第一鉄などの第一鉄化合物の溶液に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アミン、炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加し第一鉄化合物の一部分あるいは全部を中和して、次いで、pHを調整しながら空気、酸素などのガスを吹き込んで酸化する方法、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二鉄などの第二鉄化合物の溶液に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アミン、炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加し第二鉄化合物を例えば10〜70℃程度の温度で中和した後熟成処理あるいは加熱処理または水熱処理する方法など公知の方法を用いることができる。塩基性のナトリウム化合物を使用すると、400〜500nmの光を吸収するオキシ水酸化鉄を生成し易いため好ましい。この方法における熟成処理は、中和生成物を中和温度を保ったまま一定時間保持してオキシ水酸化鉄を生成させる処理であり、熟成時間は10分〜5時間程度が適当である。加熱処理は、中和生成物を媒液中50〜200℃程度の範囲で、より好ましくは70〜100℃程度の範囲で加熱してオキシ水酸化鉄を生成させる処理であり、加熱時間は10分〜5時間程度が適当である。加熱処理の温度が50℃より低過ぎると、短時間では脱水が進み難く水酸化第二鉄がオキシ水酸化鉄に十分に変性され難いため好ましくない。水熱処理は、中和生成物をオートクレーブなどの高温高圧装置を用いて100℃程度以上で、より好ましくは150〜200℃程度の範囲で加熱しその温度に応じた水蒸気圧下でオキシ水酸化鉄を生成する処理であり、加熱時間は10分〜5時間程度が適当である。水熱処理の温度が200℃より高過ぎると、脱水が進み過ぎて酸化第二鉄にまで変性され易いため好ましくない。得られたオキシ水酸化鉄には、通常行われる手法で濾別、洗浄、乾燥等の操作を適宜行っても良い。
【0016】
酸化チタンを予め製造するには、公知の方法を用いることができ、例えば、(1)塩化チタン等を中和する方法、(2)硫酸チタン、硫酸チタニル等を加熱加水分解する方法、(3)前記(1)、(2)の方法で得た生成物を焼成あるいは水熱処理する方法を用いることができる。また、異方性形状を有する酸化チタンも公知の方法で製造したものを用いることができ、例えば、含水酸化チタンを水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム等の塩基性ナトリウム化合物で処理した後、塩酸で処理する方法を用いることができる。このような方法で得られた酸化チタンは微粒子であり、所謂紡錘状のものであるため、好ましく用いられる。得られた酸化チタンには、通常行われる手法で濾別、洗浄、乾燥等の操作を適宜行っても良い。
【0017】
後述する(B)の方法で用いるアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素を予め含有する酸化チタンは、前記の方法で得られた酸化チタンまたは以下に記載する酸化チタン前駆体と、アルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、酸化物等とを、好ましくはナトリウム化合物とを混合し、焼成することで得られる。酸化チタン前駆体は、焼成によって酸化チタンとなる化合物を言い、例えば、硫酸チタン、硫酸チタニル、塩化チタン、チタンアルコキシド等が挙げられる。含水酸化チタン、水酸化チタンを焼成して酸化チタンとする場合には、含水酸化チタン、水酸化チタンは酸化チタン前駆体に属する。また、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素を予め含有する酸化チタンは、上記(1)の方法において、塩化チタンを大過剰のアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩基性化合物で中和することで、更に好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩基性化合物の溶液中に、塩化チタンを添加し中和することでも得られる。同様に、異方性形状を有する酸化チタンは、含水酸化チタンや塩化チタンを大過剰の塩基性ナトリウム化合物で処理した後、好ましくは、塩基性ナトリウム化合物の溶液中に含水酸化チタンを添加して処理した後、塩酸で処理する方法により得ることができる。この方法で得られた異方性形状を有する酸化チタンでは、ナトリウムはイオンとして粒子内部に含有されていると考えられる。
【0018】
本発明の酸化チタンとしては、酸化チタンを予め焼成したものや、酸化チタン前駆体を焼成して得られたものが酸化チタンの結晶性が高く、含有する水酸基や水分の量が適度に減少して光触媒活性が一層向上しているので好ましい。焼成温度は200〜700℃の範囲が好ましく、焼成温度がこの範囲より低過ぎると、光触媒活性の改良効果が得られ難いため好ましくなく、この範囲より高過ぎても更なる改良効果が得られ難いばかりでなく、生成または成長した光触媒の粒子間の焼結が生じ易くなるため好ましくない。より好ましい焼成温度の範囲は200〜600℃であり、更に好ましい範囲は300〜600℃である。焼成時間、焼成雰囲気等の条件は適宜設定することができ、焼成時間としては例えば1〜10時間程度が適当であり、焼成雰囲気としては空気または酸素含有ガスの雰囲気下あるいは窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うのが適当である。
【0019】
本発明では、前記(c)に記載したように予め製造した酸化チタンの懸濁液に鉄化合物を添加し反応させて、酸化チタンの存在下にオキシ水酸化鉄を生成させると、酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄が担持し易く、担持したオキシ水酸化鉄と酸化チタンが相互作用して優れた光触媒活性を発現できるためより好ましい。この方法においてより好ましい方法としては、(A)酸化チタンを含む媒液中で鉄化合物を添加し、酸化あるいは熟成処理、加熱処理または水熱処理して反応させる方法、(B)アルカリ金属元素及び/またはアルカリ土類金属元素を含有した酸化チタンを用いて鉄化合物と接触させ、酸化チタンから溶出したアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素により鉄化合物を中和し、その中和生成物を酸化あるいは熟成処理、加熱処理または水熱処理して反応させる方法、更に、(C)媒液中に酸化チタンとアルカリ金属元素及び/またはアルカリ土類金属元素の化合物を含ませた後に、鉄化合物を添加し中和して、その中和生成物を酸化あるいは熟成処理、加熱処理または水熱処理して反応させる方法が挙げられる。(B)に記載の方法は別に中和剤の塩基性化合物を添加する必要が無く、工程が合理的であり、本発明で最も好ましい方法である。また、(B)及び(C)に記載の方法によれば、オキシ水酸化鉄を酸化チタン粒子の表面に担持するとともに、アルカリ金属元素及び/またはアルカリ土類金属元素を含有させることができる。尚、(C)の方法では媒液に鉄化合物とアルカリ金属元素及び/またはアルカリ土類金属元素を別々に添加しても良く、同時並行的に添加しても良い。
【0020】
前記の(A)、(B)、(C)の方法において、媒液としては、水、アルコール、トルエンなどの無機系、有機系の液を用いることもできるが、工業的には水が取り扱い易く好ましい。鉄化合物として第一鉄化合物を用い、その溶液に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アミン、炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加し第一鉄化合物の一部分あるいは全部を中和して、次いで、pHを調整しながら空気、酸素などのガスを吹き込んで酸化して、酸化チタン粒子に水酸化第二鉄を担持させても良いが、第二鉄化合物を用いると酸化する工程が不要であるため好ましい。水系媒液を用いる場合には、水溶性鉄化合物を用いるのが好ましい。水溶性の第二鉄化合物としては、例えば、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等が挙げられる。アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物としては、これらの水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、酸化物等が挙げられ、本発明で光触媒にはアルカリ金属元素としてナトリウムが含有されているのが好ましいので、ナトリウム化合物を用いるのが好ましい。前記酸化チタンと鉄化合物との接触は、酸化チタン粒子の内部や外部に含有されているアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素が遊離し易くなり、鉄化合物との反応が促進されるので酸性下で行うことが好ましい。媒液のpHは3以下にするのが好ましく、2以下であれば更に好ましい。pH調整には、硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸等を用いることができる。
【0021】
このようにして得られた酸化チタンとオキシ水酸化鉄を含有した生成物を粉体とする場合は、通常行われる手法で濾別、洗浄、乾燥等の操作を適宜行っても良く、必要に応じて粉砕を行っても良い。乾燥は、オキシ水酸化鉄が酸化第二鉄に変性しないような温度で行い、例えば200℃以下の温度で行うのが好ましい。濾別、洗浄する際には、媒液のpHを中性付近に、好ましくはpHを7前後に調整した後に行うと、酸化チタンが凝集して洗浄性が向上するので好ましいが、媒液中に未反応の鉄化合物が存在すると水酸化鉄が析出するため、予め濾別、洗浄して未反応の鉄化合物を取り除いた後に媒液に再分散させ、改めて媒液のpHを中性付近に調整し、濾別し、洗浄するのが好ましい。中和剤には、水酸化物、炭酸塩等の塩基性アルカリ金属化合物、塩基性アルカリ土類金属化合物や、アンモニア、アミン等を用いることができる。再分散に用いる媒液も、水が好ましい。
【0022】
本発明の光触媒を、光触媒反応に実際に用いる場合、必要に応じて、基材に固定させたり、光触媒を成形・造粒して成形体として用いるのが便利である。基材としては例えば、金属、タイル、ホーロー、セメント、コンクリート、ガラス、プラスチック、繊維、木材、紙などの種々の材質で形成されたものであり、その形状としては板状、波板状、ハニカム状、球状、曲面状など種々の形状のものを用いることができる。
【0023】
基材に光触媒を固定するには、前記光触媒を光触媒コート剤とし、このコート剤を基材表面に塗布あるいは吹きつけた後、乾燥または焼成する方法を用いることができる。光触媒コート剤には少なくともバインダーが含まれ、バインダーとしては、無機系樹脂、有機系樹脂を用いることができ、光触媒反応により分解され難いバインダー、例えば、重合性ケイ素化合物、セメント、コンクリート、石膏、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが好ましく、中でも重合性ケイ素化合物は耐久性が高く、比較的取扱が容易で汎用性が高いので好ましい。重合性ケイ素化合物としては、例えば、加水分解性シランまたはその加水分解生成物またはその部分縮合物、水ガラス、コロイダルシリカ、オルガノポリシロキサン等が挙げられ、これらの中の1種を用いても、2種以上を混合して用いても良い。加水分解性シランはアルコキシ基、ハロゲン基等の加水分解性基を少なくとも1個含むもので、中でもアルコキシシランが安定性、経済性の点で望ましく、特にテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランが反応性が高く好ましい。水ガラスとしてはナトリウム−ケイ酸系、カリウム−ケイ酸系、リチウム−ケイ酸系等を用いることができ、中でもナトリウム−ケイ酸系が安定性が高いので好ましい。ナトリウム−ケイ酸系の水ガラスはNaOとSiOのモル比が2〜4の範囲にあると硬化性が高く、安定性と硬化性とのバランスから前記モル比が3の3号水ガラスが特に好ましい。コロイダルシリカやオルガノポリシロキサンとしては、シラノール基を有するものを用いることができる。コート剤には、更に水や、アルコール類、炭化水素類、エーテル類、エーテルアルコール類、エステル類、エーテルエステル類、ケトン類等の非水溶媒が分散媒として含まれていても良く、バインダーとの相溶性に応じて、これらの1種または2種以上を含む混合溶媒などを適宜選択して用いる。コート剤中の固形分濃度は0.05〜50重量%の範囲が好ましく、0.1〜40重量%の範囲が更に好ましい。光触媒は固形分中に20〜95重量%含まれているのが好ましく、40〜95重量%の範囲が更に好ましい。
【0024】
コート剤には、光触媒及びバインダーや、分散媒以外にも、本発明の効果を損ねない範囲で、pH調整剤、分散剤、消泡剤、乳化剤、着色剤、増量剤、防カビ剤、硬化助剤、増粘剤等の各種添加剤、充填剤等が含まれていても良い。これらの添加剤または充填剤が不揮発性であれば、光触媒作用により分解され難い無機系のものを選択するのが好ましい。
【0025】
本発明の光触媒は、予め分散媒に分散させた分散体とすることもできる。分散体を用いて光触媒コート剤を調製すると、高度の分散性が得られ易くなるので好ましい。あるいは、バインダーを用いず、分散体を適当な濃度に希釈して基材表面に塗布あるいは吹きつけた後、乾燥、焼成して、光触媒を基材に固定することもできる。分散体の分散媒には、コート剤に配合されている分散媒と同種のものか、または相溶性が高いものを選択する。また、分散体には分散剤を配合しても良く、分散媒に応じて分散剤種を適宜選択する。分散剤としては、例えば、(1)界面活性剤((a)アニオン系(カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等)、(b)カチオン系(アルキルアミン塩、アルキルアミンの4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩、複素環4級アンモニウム塩等)、(c)両性(ベタイン型、アミノ酸型、アルキルアミンオキシド、含窒素複素環型等)、(d)ノニオン系(エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型等)等、(2)シリコーン系分散剤(アルキル変性ポリシロキサン、ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサン等)、(3)リン酸塩系分散剤(リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、オルトリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等)、(4)アルカノールアミン類(アミノメチルプロパノール、アミノメチルプロパンジオール等)等が挙げられる。中でもカルボン酸塩系の界面活性剤が、特に高分子型のものが酸化チタンを高度に分散させることができるので好ましい。具体的には、ポリアクリル酸塩([CHCH(COOM)]:Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム等、以下も同様)、アクリル酸塩−アクリルアミドコポリマー([CHCH(COOM)]−[CHCH(CONH)])、アクリル酸−マレイン酸塩コポリマー([CHCH(COOH)]−[CHCH(COOM)CH(COOM)])、エチレン−マレイン酸塩コポリマー([CHCH−[CH(COOM)CH(COOM)])、オレフィン−マレイン酸塩コポリマー([CHCH(R)]−[CH(COOM)CH(COOM)])、スチレン−マレイン酸塩コポリマー([CHCH(C)]−[CH(COOM)CH(COOM)])等が挙げられる。分散体中の光触媒の配合量は、5〜90重量%の範囲が好ましく、10〜80重量%の範囲が更に好ましい。また、分散剤の配合量は、光触媒に対し0.01〜20重量%の範囲が好ましく、0.01〜10重量%の範囲が更に好ましい。
【0026】
光触媒を成形して用いる場合には、必要に応じて粘土、珪藻土、有機系樹脂、無機系樹脂などのバインダーと混合した後、任意の形状に成形することができる。
【0027】
実施例
次に実施例によって本発明をさらに説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0028】
実施例1
(1)TiOとして200g/リットルの濃度の四塩化チタン水溶液700ミリリットルに、NaOとして100g/リットルの濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加した。その後、系のpHを7に調整した後、濾過し、濾液の導電率が100μS/cmとなるまで洗浄し、乾燥して酸化チタンを得た。
この酸化チタンは、平均長軸径64nm、平均短軸径13nm(軸比4.9)、比表面積160m/gのルチル型結晶を有する紡錘状二酸化チタンであり、酸化チタン粒子の内部にナトリウムをNaOとして1.7重量%含有していた。
(2)純水0.5リットルに、前記の紡錘状二酸化チタン50gを添加、撹拌して分散液とし、硫酸を用いてpHを1に調整した。次に、酸化チタンに対しFe換算で0.2重量%に相当する硝酸第二鉄水溶液を添加、混合して、酸化チタンに含有したナトリウム成分により硝酸第二鉄を中和し、引き続き90℃で1時間加熱処理を行った。加熱処理後、濾過し、得られた酸化チタン粒子の脱水ケーキを、純水0.5リットルに再分散させた。再分散液のpHを、水酸化ナトリウムで7前後になるように中和してから、濾過、洗浄し、110℃で1昼夜乾燥した後、ライカイ機にて粉砕し、本発明の光触媒(試料A)を得た。
この試料Aにおいて、α−オキシ水酸化鉄が酸化チタン粒子表面に担持されていることがメスバウアー分光法による分析で確認された。また、試料Aはα−オキシ水酸化鉄をFe換算で0.2重量%、ナトリウムをNaOとして1.7重量%含有していた。
【0029】
実施例2
実施例1で用いた未焼成の紡錘状二酸化チタンを、350℃で5時間焼成し、比表面積は63m/g、平均長軸径は38nm、平均短軸径は19nm(軸比2.0)、ナトリウムの含有量がNaOとして0.26重量%のルチル型結晶を有する焼成紡錘状二酸化チタン(試料a)を得た。
未焼成の紡錘状二酸化チタンに替えて、この焼成紡錘状二酸化チタンを用いた以外は実施例1と同様にして本発明の光触媒(試料B)を得た。
この試料Bにおいて、α−オキシ水酸化鉄が酸化チタン粒子表面に担持されていることがメスバウアー分光法による分析で確認された。また、試料Bはα−オキシ水酸化鉄をFe換算で0.19重量%、ナトリウムをNaOとして0.26重量%含有していた。
【0030】
実施例3
(1)80g/リットルの硫酸チタニルの水溶液1リットルを85℃の温度に加熱し3時間保持して、硫酸チタニルを加水分解した。このようにして得られた加水分解生成物を濾過し、洗浄し、乾燥して、酸化チタンを得た。この酸化チタンは、アナターゼ型結晶を有する球状酸化チタンであり、平均粒子径4.5nm、比表面積320m/gを有し、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素は分析されなかった。
(2)純水0.5リットルに、前記の球状二酸化チタン50gを添加、撹拌して分散液とし、硫酸を用いてpHを1に調整した。次に、酸化チタンに対しFe換算で0.2重量%に相当する硝酸第二鉄水溶液と水酸化ナトリウムを添加、混合して、硝酸第二鉄を中和し、引き続き90℃で1時間加熱処理を行った。加熱処理後、濾過し、得られた酸化チタンの脱水ケーキを、純水0.5リットルに再分散させた。再分散液のpHを、水酸化ナトリウムで7前後になるように中和してから、濾過、洗浄し、110℃で1昼夜乾燥した後、ライカイ機にて粉砕し、本発明の光触媒(試料C)を得た。
この試料Cは、α−オキシ水酸化鉄が酸化チタン粒子表面に担持されていることがメスバウアー分光法による分析で確認された。また、試料Cにはα−オキシ水酸化鉄をFe換算で0.25重量%含有していたが、ナトリウムなどアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素は分析されなかった。
【0031】
実施例4
実施例1で用いた紡錘状二酸化チタンとα−オキシ水酸化鉄(石原産業社製:N−600)とをライカイ機を用いて混合して、本発明の光触媒(試料D)を得た。
この試料Dは、α−オキシ水酸化鉄が存在していることがメスバウアー分光法による分析で確認された。また、試料Dにはα−オキシ水酸化鉄をFe換算で0.75重量%、ナトリウムをNaOとして1.19重量%含有していた。
【0032】
実施例5
実施例1で用いた紡錘状二酸化チタンの懸濁液とα−オキシ水酸化鉄(石原産業社製:N−600)の懸濁液とを撹拌機を備えた容器に入れ混合して、その後、濾過、洗浄し、110℃で1昼夜乾燥した後、ライカイ機にて粉砕し、本発明の光触媒(試料E)を得た。
この試料Eは、α−オキシ水酸化鉄が存在していることがメスバウアー分光法による分析で確認された。また、試料Eにはα−オキシ水酸化鉄をFe換算で0.75重量%、ナトリウムをNaOとして1.19重量%含有していた。
【0033】
比較例1
実施例1で用いた紡錘状酸化チタンを比較試料(試料F)として用いた。
【0034】
比較例2
実施例2で用いた焼成紡錘状酸化チタンを比較試料(試料G)として用いた。
【0035】
比較例3
実施例3で用いた球状酸化チタンを比較試料(試料H)として用いた。
【0036】
比較例4
硝酸第二鉄添加後の加熱処理を行わないこと以外は、実施例2と同様にして光触媒(試料I)を得た。試料Iには、水酸化第二鉄が担持されていることがメスバウアー分光法による分析で確認された。
【0037】
比較例5
実施例2で得られた試料Bを、空気中350℃の温度で1時間加熱して光触媒(試料J)を得た。試料Jには、酸化第二鉄が担持されていることがメスバウアー分光法による分析で確認された。
【0038】
比較例6
実施例4で用いたα−オキシ水酸化鉄(石原産業社製:N−600)を比較試料(K)として用いた。
【0039】
評価1:アセトアルデヒド分解活性の評価
実施例1〜5及び比較例1〜6で得られた試料(A〜K)0.1gを6cmφのシャーレに均一に広げた。容量が2リットルのフレキシブルバッグにアセトアルデヒドと合成空気を充填し、アセトアルデヒド濃度が210ppmになるように調整した。500ミリリットル・セパラブルフラスコ内にシャーレを設置した後、フレキシブルバッグと接続し、ポンプにより3リットル/分の速度で系内のガスを循環し、反応を行った。暗条件にて、吸着平衡に到達させた後(30分程度)、5700ルクスの白色蛍光灯で500時間光照射した。サンプリング口より系内のガスをシリンジにて採取し、アセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフにて測定した。アセトアルデヒド濃度の減少速度定数(k)を下式1で計算し、光触媒活性を評価した。このアセトアルデヒドの分解反応速度定数が大きい程、光触媒活性が優れている。結果を表1に示す。本発明で得られた光触媒は、酸化チタンとオキシ水酸化鉄を含有することにより、白色蛍光灯の光照射下での光触媒活性が高いことがわかった。また、本発明の光触媒は紫外線照射下での光触媒活性も高いことから、紫外光に加えて可視光を有効に利用できるため、優れた光触媒活性を有していることがわかった。
式1:ln(C/Co)=−kt
k :反応速度定数(l/h)
t :反応時間(h)
C :光照射後のアセトアルデヒド濃度(ppm)
Co:光照射開始時のアセトアルデヒド濃度(ppm)
【0040】
【表1】

【0041】
実施例2、比較例4、5で得られた試料B、I、Jの反射スペクトルと、実施例2で用いた酸化チタン(試料a)の反射スペクトルを400〜700nmの波長領域で測定し、各波長での試料B、I、Jの反射スペクトルから酸化チタン(試料a)の反射スペクトルを差し引いて、試料B、I、Jに含有した鉄化合物の吸収スペクトルを求めた。その結果を図1〜図3に示す。α−オキシ水酸化鉄を担持した試料Bは、400〜500nmの範囲に高い吸収ピークを有することがわかった。この吸収ピークからオキシ水酸化鉄は白色蛍光灯の光に含まれる400〜500nmの波長の光を吸収し、この吸収によって酸化チタンが光触媒活性を発現することがわかった。これらのことから、本発明の光触媒が白色蛍光灯の光に含まれる400〜500nmの波長の光を吸収するオキシ水酸化鉄を併用することにより、白色蛍光灯の光照射下での光触媒活性が高いことがわかった。
【0042】
実施例1、2で得られた試料A、Bを用いて、コロイダルシリカをバインダーに、純水を分散媒に用いてコート剤を調製した。また、純水を分散剤に、ポリアクリル酸塩系高分子を分散剤に用い、分散体を得た。これらのコート剤及び水分散体とし、6cmφのシャーレに滴下し、均一に広げた後110℃の温度で12時間乾燥させ光触媒体を得た。その後、評価1と同様に試験したところ、いずれも白色蛍光灯の光に含まれる400〜500nmの波長の光を吸収するオキシ水酸化鉄を併用することにより、白色蛍光灯の光照射下での光触媒活性が高く、安定していることを確認し、しかも、紫外線照射下での光触媒活性も高いことから、紫外光に加えて可視光を有効に利用できるため、優れた光触媒活性を有していることを確認した。
【0043】
実施例1、2で得られた試料A、Bを、粘土を用いて成形・造粒して光触媒成形体としても、白色蛍光灯の光に含まれる400〜500nmの波長の光を吸収するオキシ水酸化鉄を併用することにより、白色蛍光灯の光照射下での光触媒活性が高く、安定していることを確認し、しかも、紫外線照射下での光触媒活性も高いことから、紫外光に加えて可視光を有効に利用できるため、優れた光触媒活性を有していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の光触媒は、白色蛍光灯等の光に含まれる400〜500nmの波長の光を吸収するオキシ水酸化鉄を併用することにより、白色蛍光灯等の光照射に対して優れた光触媒活性を有しており、可視光(400〜800nmの波長の光)が照射する環境下における浄化材、脱臭材、防汚材、殺菌材、防曇材等として広範囲の用途に利用が可能である。
本発明の好ましい態様は下記のとおりである。
1. 酸化チタンを含む媒液中に、鉄化合物を添加し反応させて、該酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄を担持することを特徴とする光触媒の製造方法。
2. アルカリ金属元素及び/またはアルカリ土類金属元素を含有する酸化チタンを含む媒液中に、鉄化合物を添加し反応させて、該酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄を担持することを特徴とする光触媒の製造方法。
3. 酸化チタンとアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属の化合物を含む媒液中に、鉄化合物を添加し反応させて、該酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄を担持することを特徴とする光触媒の製造方法。
4. 酸化チタンを含む媒液のpHを酸性に調整した後、鉄化合物を添加することを特徴とする1〜3のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
5. 媒液のpHを3以下に調整することを特徴とする4に記載の光触媒の製造方法。
6. 鉄化合物を添加した後、媒液を加熱することを特徴とする1〜3のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
7. 加熱温度が50〜200℃の範囲であることを特徴とする6に記載の光触媒の製造方法。
8. 異方性形状を有する酸化チタンを用いることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
9. 酸化チタンまたは酸化チタン前駆体を焼成して得られた酸化チタンを用いることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
10. 酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄を担持した光触媒であって、
オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒であり、
前記光触媒に400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、2倍以上である光触媒と、バインダーとを少なくとも含む光触媒コート剤。
11. 酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄を担持した光触媒であって、
オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒であり、
前記光触媒に400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、2倍以上である光触媒と、分散媒とを少なくとも含む光触媒分散体。
12. 酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄を担持した光触媒であって、
オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒であり、
前記光触媒に400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、2倍以上である光触媒を少なくとも含む光触媒成形体。
13. 酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄を担持した光触媒であって、
オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒であり、
前記光触媒に400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、2倍以上である光触媒を基材上に固定した光触媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒とバインダーとを少なくとも含む光触媒コート剤であって、
前記光触媒が、酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄が担持され、オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒であり、
400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、2倍以上となる光触媒であることを特徴とする光触媒コート剤。
【請求項2】
光触媒と、分散媒とを少なくとも含む光触媒分散体であって、
前記光触媒が、酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄が担持され、オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒であり、
400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、2倍以上となる光触媒であることを特徴とする光触媒分散体。
【請求項3】
光触媒を少なくとも含む光触媒成形体であって、
前記光触媒が、酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄が担持され、オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒であり、
400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、2倍以上となる光触媒であることを特徴とする光触媒成形体。
【請求項4】
光触媒を基材上に固定した光触媒体であって、
前記光触媒が、酸化チタンの粒子表面にオキシ水酸化鉄が担持され、オキシ水酸化鉄が400〜500nmの波長の光を吸収することによって酸化チタンが光触媒活性を発現する光触媒であり、
400〜500nmの波長の光を含む白色蛍光灯の光を照射した際のアセトアルデヒド分解反応速度定数が、同じ条件で測定した前記酸化チタンのアセトアルデヒド分解反応速度定数に対して、2倍以上となる光触媒であることを特徴とする光触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−210632(P2012−210632A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−166619(P2012−166619)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【分割の表示】特願2008−513258(P2008−513258)の分割
【原出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】