説明

光触媒含有塗料組成物

【課題】光触媒により活性化される分解反応に対する耐性および可とう性に優れた塗膜、および該塗膜を形成し得る光触媒含有塗料組成物を提供すること。
【解決手段】(A)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンと、(B)水性有機バインダーと、(C)光触媒とを含み、(A)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンおよび(B)水性有機バインダーの合計固形分中におけるポリヒドロキシシロキサン濃度が、50〜95質量%である、光触媒含有塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒含有塗料組成物に関する。具体的には、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンと、水性有機バインダーと、光触媒とを含む光触媒含有塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒を含む塗膜は、特定の波長の光を照射することにより光化学反応が引き起こされ、塗膜表面が親水化されるので、耐汚染性に優れることが知られている。しかし、光触媒は、塗膜表面を親水化する性質に加えて、有機物を分解する性質を有している。このため、通常の有機樹脂と光触媒とを含む塗料組成物から塗膜を形成した場合、樹脂成分の分解に伴い、経時的に塗膜が崩壊する場合がある。
【0003】
このため、光触媒は有機樹脂成分を極力含まない無機材料と共にコーティングされることが一般的である(例えば、特許文献1参照)。しかし、このようなコーティングで得られる塗膜は、割れやすいという問題がある。さらには、塗膜を得るために高温で焼成する必要があるので、耐熱性の弱い基材に適用できないという問題や、厚膜化が困難であるという問題がある。
【特許文献1】特開2007−167718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、光触媒により活性化される分解反応に対する耐性(以下、「分解耐性」と称する場合がある)および可とう性に優れた塗膜、および該塗膜を形成し得る光触媒含有塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光触媒含有塗料組成物は、(A)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン溶液と、(B)水性有機バインダーと、(C)光触媒とを含み、(A)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン溶液および(B)水性有機バインダーの合計固形分中におけるポリヒドロキシシロキサン濃度が、50〜95質量%である。
【0006】
好ましい実施形態においては、上記(B)水性有機バインダーが、エマルション樹脂である。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記(C)光触媒の含有量が、光触媒含有塗料組成物の全固形分100質量部に対して、20〜90質量部である。
【0008】
本発明の別の局面によれば、塗膜が提供される。該塗膜は、上記光触媒含有塗料組成物から形成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分解耐性および可とう性に優れた塗膜、および該塗膜を形成し得る光触媒含有塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔光触媒含有塗料組成物〕
本発明の光触媒含有塗料組成物は、(A)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン溶液と、(B)水性有機バインダーと、(C)光触媒とを含み、(A)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサンおよび(B)水性有機バインダーの合計固形分中におけるポリヒドロキシシロキサン濃度が、50〜95質量%である。
【0011】
光触媒含有塗料組成物の固形分濃度(NV)は、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは1〜5質量%であり、さらに好ましくは1〜3質量%である。固形分濃度が上記好適範囲内であれば、光触媒含有塗料組成物を塗装に用いた際に、タレ等が少なく、作業性に優れるという利点がある。なお、固形分濃度の測定方法については、後述する。
【0012】
光触媒含有塗料組成物の20℃における粘度は、好ましくは2〜20mPa・s、より好ましくは2〜10mPa・s、さらに好ましくは2〜5mPa・sである。粘度が上記好適範囲内であれば、光触媒含有塗料組成物を塗装に用いた際に、1μm程度の薄膜を得やすい。
【0013】
(A)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン溶液
アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン溶液としては、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン(以下、「アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン」と称する場合がある。)を含有する限り、溶媒を含んだ任意の適切なものが採用され得る。本明細書において、「アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン溶液」は、例えば、核磁気共鳴分析(H−NMR)または赤外分光分析(IR)で、アルコキシ基に基づくピークが観察されない、すなわち、アルコキシ基のピークがないか、または、アルコキシ基に基づくピークの強度が検出感度以下であるポリヒドロキシシロキサン溶液である。
【0014】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液に含まれるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンは、模式的に式(1)で表される化合物を含む。式(1)は、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンが分岐や架橋のない直鎖状の縮合体である場合を示している。
【化1】

(式中、n1は1以上の数である。)
【0015】
式(1)で表される化合物は、通常、単一の化合物ではなく、代表的には、縮合度、分岐や架橋の有無等の点で、種々の構造を有する化合物の混合物である。したがって、式(1)において、n1は平均値である。n1は、1以上であり、2〜50が好ましく、2〜20がより好ましい。n1が2以上である場合、ヒドロキシシリル基の数が多くなるので、得られた塗膜の硬度が向上され得る。また、n1が50以下である場合、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液の反応性を緩和できるので、溶液の取り扱い性が良好である。アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの縮合度は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の分子量等を用いて求めることができる。
【0016】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンは、好ましくは有機基を有するポリヒドロキシシロキサンをさらに含むことができる。この有機基を有するポリヒドロキシシロキサンもアルコキシ基を実質的に有さないものである。有機基を有するポリヒドロキシシロキサンは、少なくとも1つのSi−C結合を有する。すなわち、水酸基の代わりに有機基がSi原子に結合した構造を有する。該化合物を含むことにより、有機バインダーとの相溶性が向上され得る。
【0017】
1つの実施形態において、有機基は、好ましくは炭素数1〜21の置換もしくは非置換の直鎖または分岐アルキル基、または炭素数6〜21の芳香族基、より好ましくは1〜10の置換もしくは非置換の直鎖または分岐アルキル基、フェニル基等が挙げられる。有機基が炭素数4以上のアルキル基である場合、特に有機バインダーとの相溶性が向上され得る。なお、上記アルキル基は、反応性基を置換基として有することが好ましい。反応性基としては、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基、ビニル基等が挙げられる。
【0018】
反応性基を置換基として有する有機基としては、例えば、ビニル、メタクリロキシプロピル、アクリロキシプロピル、グリシドキシプロピル、(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、スチリル、N−2−(アミノエチル)アミノプロピル、アミノプロピル、N−フェニルプロピル、メルカプトプロピル、クロロプロピル等が例示される。好ましくは、ビニル、(メタ)アクリロキシプロピル、グリシドキシプロピル、アミノプロピルである。
【0019】
有機基を有するポリヒドロキシシロキサンの含有量としては、式(1)で表される化合物100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜10質量部である。当該範囲内で使用することにより、所望の硬度を有する塗膜を得ると共に、有機バインダーとの充分な相溶性を確保し、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの急激な縮合反応を抑制する効果をも得ることができる。
【0020】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンは、典型的には、特開平9−165450号公報やWO95/17349公報に記載されるテトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物の加水分解物が示すような、溶液中での粒子性を有さず、また、3nm以上のミクロドメインを形成することもない。すなわち、ポリヒドロキシシロキサンの均一な溶液であり得る。粒子性または3nm以上のミクロドメインの有無は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察やレーザー光散乱測定装置、小角X線散乱装置により確認することができる。
【0021】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液のポリヒドロキシシロキサン濃度は、好ましくは1〜25質量%、より好ましくは1〜20質量%である。固形分濃度が1質量%未満であると、光触媒含有塗料組成物の固形分濃度(NV)が確保できない場合がある。また、固形分濃度が25質量%を超えると、製造が困難となる場合がある。
【0022】
1つの実施形態において、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液のpHは、酸性であることが好ましく、より好ましくは2〜5、さらに好ましくは2.5〜4.5、特に好ましくは3〜4である。このようなpHであれば、水性有機バインダーとしてカチオン性樹脂を用いた場合に、得られる塗料組成物の貯蔵安定性を向上させ得る。また、別の実施形態において、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液のpHは、塩基性であることが好ましく、より好ましくは8〜13、さらに好ましくは8〜12、特に好ましくは8〜11である。このようなpHであれば、水性有機バインダーとしてアニオン性樹脂を用いた場合に、得られる塗料組成物の貯蔵安定性を向上させ得る。なお、一般に、ポリヒドロキシシロキサンは、pHが5を超え7以下の環境下で不安定な状態となり、析出、ゲル化等の現象が生じ易い。
【0023】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液は、任意の適切な方法で調製され得る。例えば、アルコキシシラン化合物、親水性有機溶媒、該アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水、および、酸性触媒を混合することにより、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液が得られ得る(第1の調製方法)。また、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液を塩基に添加することにより、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液が得られ得る(第2の調製方法)。また、アルコキシシラン化合物を、塩基性触媒を含む水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に添加することにより、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液が得られ得る(第3の調製方法)。
【0024】
A−1.アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液の第1の調製方法
第1の調製方法においては、アルコキシシラン化合物、親水性有機溶媒、該アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上の水、および、酸性触媒を混合することにより、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液が得られ得る。得られる酸性溶液のpHは、通常2〜5、好ましくは2.5〜4.5、より好ましくは3〜4である。
【0025】
A−1−1.アルコキシシラン化合物
アルコキシシラン化合物は、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物を含む。テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物は、通常、単一の化合物ではなく、代表的には、縮合度、分岐や架橋の有無等の点で、種々の構造を有するものの混合物である。このため、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物は、模式的に式(2)によって表されている。式(2)は、テトラアルコキシシランおよび/またはその縮合物が分岐や架橋を有さない場合を示している。
【化2】

【0026】
式(2)において、n2は平均値である。n2は、1以上であり、1〜50が好ましく、1〜20がより好ましい。テトラアルコキシシランの縮合物の縮合度は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0027】
式(2)において、Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、好ましくは炭素数1〜4の置換もしくは非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の非置換の直鎖状または分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは非置換の炭素数1〜2のアルキル基である。Rが上記好ましいアルキル基である場合、加水分解性が向上するので、効率良くポリヒドロキシシロキサンを得ることができる。
【0028】
上記Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、およびn−ブチル基が好ましく、メチル基およびエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0029】
したがって、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランまたはこれらの縮合物が好ましく用いられる。なかでも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、およびこれらの縮合物が好ましく、テトラメトキシシランおよびその縮合物がより好ましい。本発明においては、テトラアルコキシシランおよびその縮合物を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
テトラアルコキシシランの縮合物としては、好ましくは6個以上、より好ましくは6〜102個、さらに好ましくは12〜42個のアルコキシ基を有するものが用いられる。加水分解により適度な数のヒドロキシシリル基が得られるので、硬度が高い塗膜を得ることができるからである。上記のとおり、テトラアルコキシシランの縮合物は、種々の縮合度を有するものを含み得ることから、当該アルコキシ基の数は、それらの平均値である。テトラアルコキシシランの縮合物が有するアルコキシ基の数は、上記縮合度から求めることができる。
【0031】
上記Rが置換基を有する場合、テトラアルコキシシランまたはその縮合物が有する置換基の数はアルコキシ基の数の半分以下であることが好ましい。置換基としては、任意の適切なものを用いることができる。具体的には、例えば、クロル、ブロム等のハロゲン原子、メトキシ、エトキシ、ブトキシ等のアルコキシ基、シアノ基、ジメチルアミノ基が挙げられる。このような置換基を有する場合には、置換アルキル基の炭素数の合計は1〜6であることが好ましい。また、上記アルキル基は、アルキレンオキサイドユニットを有する化合物で置換されていてもよい。アルキレンオキサイドユニットの種類としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドが挙げられる。
【0032】
上記テトラアルコキシシランの縮合物は、任意の適切なテトラアルコキシシランを加水分解縮合することにより調製することができる。また、市販製品を用いてもよい。当該市販製品としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS51」、「MKCシリケートMS56」、「MKCシリケートMS57」、「MKCシリケートMS60」(いずれもテトラメトキシシランの縮合物)、コルコート社製、商品名「エチルシリケート40」、「エチルシリケート48」(いずれもテトラエトキシシランの縮合物)が挙げられる。また、含有するアルキル基が異なるテトラアルコキシシランの縮合物の市販製品の例としては、例えば、三菱化学社製、商品名「MKCシリケートMS56B15」、「MKCシリケートMS56B30」、「MKCシリケートMS58B15」、「MKCシリケートMS56I30」、「MKCシリケートMS56F20」、コルコート社製、商品名「EMS−485」が挙げられる。
【0033】
テトラアルコキシシランとその縮合物とを組み合わせて用いる場合には、含有するアルキル基が同一であってもよく、異なっていてもよい。含有するアルキル基が異なる場合の具体例としては、テトラメトキシシランの縮合物と、モノマーのテトラエトキシシランとを含む場合を挙げることができる。なお、モノマーのテトラアルコキシシランの配合量は、テトラアルコキシシランの縮合物100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。
【0034】
アルコキシシラン化合物は、有機基を有するアルコキシシランを含み得る。有機基を有するアルコキシシランは、少なくとも1つのSi−C結合を有する。好ましくは有機基を有するトリアルコキシシランである。このようなアルコキシシラン化合物が加水分解されることにより、上記有機基を有するポリヒドロキシシロキサンを含むアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンが得られるからである。なお、有機基については上記(A)項で説明したとおりである。
【0035】
有機基を有するアルコキシシランの具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ジブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ノナフルオロブチルエチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、オクタデシルジメチル[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、スチリルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0036】
有機基を有するアルコキシシランの使用量としては、テトラアルコキシシランおよびその縮合物の合計100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜10質量部である。
【0037】
A−1−2.親水性有機溶媒
親水性有機溶媒としては、上記アルコキシシラン化合物を、その加水分解反応が進行する程度に溶解し得る限り、任意の適切なものを用いることができる。例えば、アルコール、グリコール、グリコールのエーテルまたはエステル、ケトン等が挙げられる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、R−O−(CHCH(R)O)−H(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基であり、RはHまたはCHであり、mは1〜3の整数である。)、CH−O−(CHCH(R)O)−CH(式中、RはHまたはCHであり、lは1または2である。)、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等が好ましく用いられ得る。親水性有機溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
上記親水性有機溶媒の水への溶解度(20℃)としては、好ましくは5g/100gHO以上、より好ましくは20g/100gHO以上、さらに好ましくは100g/100gHO以上である。このような溶解度を有する親水性有機溶媒を用いることにより、該親水性有機溶媒と水と水に対する溶解性が十分でないアルコキシシラン化合物とを含む系を均一化することができる。その結果、効率的にアルコキシシラン化合物の加水分解反応を進行させ得る。
【0039】
上記親水性有機溶媒の使用量は、アルコキシシラン化合物を溶解し得る量以上であればよい。当該混合量は、例えばアルコキシシラン化合物の質量の0.5〜5倍、好ましくは0.5〜4倍、さらに好ましくは1〜4倍である。混合量が当該好適範囲にある場合、後述の第2の調製方法で好適に用いられ得るアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液が得られる。
【0040】
A−1−3.水
上記水としては、任意の適切なものを用いることができる。例えば、水道水、イオン交換水、および純水が好ましく用いられる。
【0041】
上記水の使用量は、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上である。当該量の水を用いることにより、上記アルコキシシラン化合物の加水分解反応を十分に進行させ得る。その結果、アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン溶液を得ることができる。なお、水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合、水の比率を50質量%以上とし、水と親水性有機溶媒との混合溶媒の使用量を、得られるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液中のアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン含有量を5〜25質量%にし得る量とすれば、必然的に水の使用量はアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上となる。
【0042】
上記水の使用量は、好ましくはアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の20倍当量(モル)以下であり、より好ましくは10倍当量(モル)以下である。当該量の水を用いることにより、加水分解反応中におけるアルコキシシラン化合物またはその加水分解物の析出を防止し得るとともに、得られるポリヒドロキシシロキサンの貯蔵安定性を向上させ得る。
【0043】
A−1−4.酸性触媒
上記酸性触媒としては、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を有するプロトン酸類やルイス酸類であれば、任意の適切なものを使用することができる。具体的には、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;酢酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸;チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシドまたはキレート化合物;が挙げられる。触媒作用が適度であるので、生成したポリヒドロキシシロキサンの縮合が進行し難いからである。なかでも、アルミニウム触媒が好ましく用いられる。アルミニウム触媒としては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレートが挙げられる。
【0044】
上記酸性触媒の使用量としては、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の加水分解反応に対して触媒作用を発揮する量以上であればよい。具体的には、当該使用量は、上記アルコキシシラン化合物100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0045】
A−1−5.混合方法
混合方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、アルコキシシラン化合物と酸性触媒と親水性有機溶媒とを混合した混合液に、水を加える方法が用いられる。このような方法で混合することにより、得られる混合液の白濁、沈殿の生成、またはゲル化を防止し得る。水は、少量ずつ添加することが好ましく、滴下によって添加することがより好ましい。なお、混合中に副生成物として析出物等が生成する場合、濾過等の任意の適切な方法によって除去し、目視で濁りのない状態にすればよい。
【0046】
上記混合液中においては、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が進行することから、ポリヒドロキシシロキサンが生成する。加水分解反応の好適な条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。すなわち、反応温度は、好ましくは10〜100℃、より好ましくは20〜80℃、さらに好ましくは40〜60℃である。水の添加が終了してからの反応時間は、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは1〜8時間、さらに好ましくは2〜6時間である。当該条件で加水分解反応を行うことにより、加水分解反応を十分に進行させて目的のポリヒドロキシシロキサンを生成させ得ると共に、生成したポリヒドロキシシロキサン同士の縮合を抑制し得る。
【0047】
A−2.アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液の第2の調製方法
第2の調製方法においては、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液を塩基に添加することにより、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液が得られ得る。得られる塩基性溶液のpHは、通常8〜13、好ましくは8〜12、より好ましくは8〜11である。
【0048】
A−2−1.アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液としては、任意の適切なものが採用され得る。例えば、上記第1の調製方法によって得られる酸性溶液を用いることができる。この場合、該酸性溶液は、ポリヒドロキシシロキサンと、親水性有機溶媒と、水と、触媒と、アルコキシ基が加水分解されて生じたアルコールとを含む。好ましい実施形態においては、塩基へ添加する前に、該酸性溶液からアルコールや親水性有機溶媒を除去する。これらの除去方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。代表的には、除去すべきアルコールおよび親水性有機溶媒の沸点以上の温度に加熱し、系外に除去した量が所定量に達した段階で加熱を終えればよい。該除去は、常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。
【0049】
A−2−2.塩基への添加
塩基としては、任意の適切な塩基が用いられ得る。好ましくは水溶性の塩基である。なかでも、アンモニア、エタノールアミン、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のモノアミン類が好ましく、アンモニア、エタノールアミン、ジエタノールアミンがより好ましく、アンモニアがさらに好ましい。
【0050】
塩基の使用量としては、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンが有するヒドロキシシリル基の1〜20モル%が好ましく、1〜10モル%がより好ましく、3〜10モル%がさらに好ましい。このような使用量であれば、ヒドロキシシリル基が残存する状態でアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液を得ることができる。
【0051】
アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液の塩基への添加は、少量ずつ行うことが好ましく、滴下によって行うことがより好ましい。このように酸性溶液を塩基に徐々に添加することで、不安定な状態となるpH5〜7を実質的に経ることなく、塩基性溶液を調製し得る。中和熱の影響を避けるために、好ましくは冷却条件下で添加を行う。取り扱いを容易にする観点から、塩基は水溶液としておくことが好ましい。塩基水溶液の量は、得られるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液中のアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン含有量を5〜25質量%にし得る量が好ましい。代表的には、添加するアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液と同量程度である。塩基性溶液中におけるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン含有量が5質量%未満であると、粘度が低くて塗料として用いることができない場合がある。該含有量が25質量%を超えると、ゲル化により製造できない場合がある。
【0052】
A−3.アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液の第3の調製方法
第3の調製方法においては、アルコキシシラン化合物を、塩基性触媒を含む水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に添加することにより、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液が得られ得る。得られる塩基性溶液のpHは、通常8〜13、好ましくは8〜12、より好ましくは8〜11である。該方法によれば、ポリヒドロキシシロキサンをpH5〜7の環境下におくことがないので、ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液を安定して調製することができる。
【0053】
A−3−1.アルコキシシラン化合物
アルコキシシラン化合物としては、上記A−1−1項で説明したアルコキシシラン化合物が使用され得る。また、有機基を有するアルコキシシランを含み得ることについても、上記A−1−1項で説明した内容が適用される。
【0054】
A−3−2.塩基性触媒
塩基性触媒としては、水溶性の塩基性化合物であれば任意の適切なものが用いられ得る。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の無機水酸化物類;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン等のアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン類;N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアミノアルコール類;ピリジン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のアミノ基を有するその他の有機化合物類等が挙げられる。上記アミン類はモノアミン類であることが好ましい。また、上記有機基を有するアルコキシシランとして、アミノ基を置換基として有するものを用いる場合、これらは塩基性化合物であるため、塩基性触媒としても機能し得る。これらの塩基性触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
アルコキシシラン化合物の加水分解反応は、塩基性触媒を含む溶媒中で行われる。その際、塩基性触媒は、後述する、水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に溶解して使用される。塩基性触媒の使用量は、触媒の有する塩基性の程度(pKb)によって決定され、代表的には、アルコキシシラン化合物を添加する前の溶媒のpHが9〜11の範囲内になるように調整される。
【0056】
A−3−3.水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒
第3の調製方法で使用される溶媒としては、水または水と親水性有機溶媒との混合液が用いられる。溶媒として水を用いた場合は、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が速いという利点がある。一方、上記アルコキシシラン化合物またはアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの水への溶解度が十分でない場合には、溶媒として水と親水性有機溶媒との混合液を用いることができる。親水性有機溶媒としては、上記A−1−2項で説明したものが利用可能である。
【0057】
水はアルコキシシラン化合物の加水分解に使用される。そのため、水の使用量は、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上である必要がある。水と親水性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合、水の比率を50質量%以上とし、水と親水性有機溶媒との混合溶媒の使用量を、得られるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液中のアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン含有量を5〜25質量%にし得る量とすれば、必然的に水の使用量はアルコキシシラン化合物が有するアルコキシ基の当量(モル)以上となる。
【0058】
A−3−4.添加方法
上記アルコキシシラン化合物を、塩基性触媒を含む水または水と親水性有機溶媒との混合溶媒中に添加することにより、アルコキシシラン化合物の加水分解反応が進行する。添加時間は、2時間以内であることが好ましい。添加方法は、全量を一挙に添加してもよく、所定の時間で連続的に添加してもよく、少量ずつを分割して添加してもよい。アルコキシ化合物がテトラアルコキシシランの縮合物を含む場合、アルコキシシラン化合物を親水性有機溶媒に溶解した溶液として添加することが好ましい。加水分解反応が穏やかに進行するからである。なお、混合中に副生成物として析出物等が生成する場合、上記A−1−5項と同様、濾過等の任意の適切な方法によって除去し、目視で濁りのない状態にすればよい。
【0059】
アルコキシシラン化合物の添加時の反応温度および反応時間は、上記A−1−5項における反応温度および反応時間の記載内容が適用される。
【0060】
(B)水性有機バインダー
水性有機バインダーとしては、使用するアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンに応じて、任意の適切なものが採用され得る。例えば、塗料組成物の貯蔵安定性を向上する観点から、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの溶液のpHに応じて、アニオン性樹脂、カチオン性樹脂、またはノニオン性樹脂が採用され得る。具体的には、酸性のアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液を用いる場合は、カチオン性樹脂、またはノニオン性樹脂を用いることが好ましい。また、塩基性のアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサン溶液を用いる場合は、アニオン性樹脂、またはノニオン性樹脂を用いることが好ましい。水性有機バインダーは、上記アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンとの反応点(例えば、アルコキシシリル基、ヒドロキシシリル基、ヒドロキシ基)を有していてもよく、有していなくてもよい。また、重合性二重結合またはエポキシ基を含んでもよい。水性有機バインダーを含むことにより、本発明の塗料組成物は、可とう性に優れた塗膜を十分な膜厚で形成することができる。さらには、低VOC化が可能となる。
【0061】
水性有機バインダーは、任意の適切な形態であり得る。例えば、エマルション、ディスパージョン、水溶性等の形態が挙げられ、好ましくはエマルションの形態である。水性有機バインダーがエマルションである場合、得られる塗膜は、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンから形成された無機マトリックス中に有機バインダーから形成された部分(以下、「有機部分」と称する場合がある。)が分散した、いわゆる海‐島構造を有する。このため、光触媒によって有機部分が分解された場合であっても、無機マトリックスからなる多孔質かつ硬質な塗膜(いわゆる、蜂の巣状塗膜)が形成されるので、塗膜構造が実用的な状態で保持され得る。水性有機バインダーとしてエマルションを用いる場合、上述の海−島構造が保持される範囲内で、ディスパージョンや水溶性の樹脂を併用することも可能である。なお、海‐島構造の確認は、塗膜断面を透過型電子顕微鏡で観察することによって行うことができる。
【0062】
エマルションである水性有機バインダーとしては、アクリル系エマルション樹脂が好ましく用いられる。耐久性、光沢、コスト、樹脂設計の自由度等に優れるからである。アクリル系エマルション樹脂としては、例えば、アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体が用いられ得る。
【0063】
アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸等のエチレン性不飽和カルボン酸;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド含有(メタ)アクリル系単量体;アクリロニトリル等のニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル系単量体等を挙げることができる。上記単量体を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素系ビニル単量体;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸含有ビニル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン等の塩素含有単量体;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル等の水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル等のアルキレングリコールモノアリルエーテル類;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテル等を挙げることができる。上記単量体を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
エマルション樹脂の体積平均粒子径は、代表的には5nm〜100μm、好ましくは10nm〜10μmであり、より好ましくは20nm〜1000nmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。体積平均粒子径は、レーザー光散乱法等によって測定することができる。
【0066】
エマルション樹脂は、任意の適切な調製方法によって調製される。代表的な調製方法としては、乳化重合および懸濁重合が挙げられる。乳化重合により調製する場合には、バッチ重合、モノマー滴下重合、乳化モノマー滴下重合等の方法に加えて、平均粒子径5〜500nmのミニエマルション重合法を用いることも可能である。懸濁重合とは、二重結合を有するモノマーを水中に分散させて重合させる方法である。一般的には、まず水等の媒体中で媒体に不溶なラジカル重合性モノマーを激しくかき混ぜることにより分散、懸濁し、0.5〜100μm程度の大きさの液滴を得る。これにラジカル重合性モノマーに可溶な開始剤を加え、ラジカル重合性モノマーの液滴中で重合反応を生じさせる。これにより、0.5〜100μm程度の比較的粒子径の大きい樹脂粒子を製造することができる。
【0067】
重合に用いる乳化剤としては、任意の適切な乳化剤が採用され得る。例えば、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性、ノニオン−カチオン性、ノニオン−アニオン性のものを単独又は併用して使用することができる。
【0068】
重合開始剤としては、任意の適切な重合開始剤が採用され得る。例えば、過硫酸アンモニウム塩等の過硫酸塩、過酸化水素と亜硫酸水素ナトリウム等との組み合わせからなるレドックス開始剤、第一鉄塩、硝酸銀等の無機系開始剤、ジコハク酸パーオキシド、ジグルタール酸パーオキシド等の二塩基酸過酸化物、アゾビスブチロニトリル等の有機系開始剤等を挙げることができる。重合開始剤の使用量は、単量体100質量部に対して、通常、0.01〜5質量部である。
【0069】
ディスパージョンである水性有機バインダーとしては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、好ましくは水分散性付与基を有する。水分散性付与基としては、アミノ基等のカチオン性基;カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等のアニオン性基;ポリエーテル基等のノニオン性基が挙げられる。上記樹脂のなかでも、アクリル系樹脂が好ましい。耐久性、光沢、コスト、樹脂設計の自由度等に優れるからである。好ましいアクリル系樹脂としては、例えば、アクリル系単量体と、アクリル系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体が用いられる。これらの単量体については、上記と同様の説明を適用し得る。
【0070】
ディスパージョン樹脂の体積平均粒子径は、好ましくは10〜1000nmであり、より好ましくは20〜500nmであり、さらに好ましくは50〜200nmである。
【0071】
ディスパージョン樹脂は、任意の適切な調製方法によって調製される。代表的な調製方法としては、後乳化が挙げられる。後乳化は、水分散性付与基がカチオン性基(例えば、アミノ基)およびアニオン性基(例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基)である場合には、任意の適切な有機溶媒中で溶液重合した樹脂に、水および中和剤を加えて混合攪拌することによって行われ得る。水分散性付与基がノニオン性基(例えば、ポリオキシエチレン基)である場合には、樹脂に水を加えて混合攪拌することによって行われ得る。後乳化においては、必要に応じて乳化剤を併用し得る。
【0072】
水溶性である水性有機バインダーとしては、例えば、親水性基(例えば、アミド基、ポリオキシエチレン基等)を有し、樹脂自体が水溶性であるアクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド化合物が好ましい。また、上記水分散性付与基を有する樹脂において、水分散性付与基(カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基)の量を増加させ、カチオン性基およびアニオン性基の場合はこれを中和することにより、水溶性を付与し、水溶性樹脂として用いることができる。
【0073】
水溶性樹脂の具体例としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0074】
水溶性樹脂の数平均分子量(Mn)は、好ましくは200〜200,000である。数平均分子量(Mn)が200未満である場合、加熱硬化時の揮散、塗膜の硬度の低下、塗料の硬化性の低下によって塗膜の耐溶剤性、耐水性や耐候性が低下する場合がある。数平均分子量(Mn)が200,000を超える場合、有機バインダー自体の粘度が高くなり、塗布する際の希釈された塗料中の溶媒の含有量が多量になる場合がある。なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0075】
水性有機バインダーの固形分濃度(NV)は、好ましくは20〜70質量%であり、より好ましくは25〜60質量%である。
【0076】
水性有機バインダーとしては、市販の樹脂を用いることができる。このような市販製品としては、三井化学ポリウレタン社製 商品名「タケラック W−635」、EMS−PRIMD社製 商品名「PRIMD XL−552」、Bayer MaterialScience AG社製 商品名「バイヒドロールXP2470」、ADEKA社製 商品名「UN−420」等が挙げられる。
【0077】
光触媒含有塗料組成物中における水性有機バインダーの含有量は、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンおよび水性有機バインダーの合計固形分中におけるポリヒドロキシシロキサン濃度が50〜95質量%となる限り、適切に設定され得る。当該ポリヒドロキシシロキサン濃度は、好ましくは50〜80質量%、より好ましくは50〜70質量%である。ポリヒドロキシシロキサン濃度が95質量%を超える場合、得られる塗膜の可とう性が低下するおそれがある。また、ポリヒドロキシシロキサン濃度が50質量%未満の場合、分解耐性が低下するおそれがある。
【0078】
「アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンおよび水性有機バインダーの合計固形分中におけるポリヒドロキシシロキサン濃度」とは、該合計固形分に対するアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの質量割合を意味する。このとき、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンが、式(1)に示された構造を有するものとして扱う。式(1)におけるn1の値は、原料のアルコキシシランのn2の値、あるいはGPC測定で得られるアルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンの重量平均分子量(ポリスチレン換算)から求められる。なお、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンが、有機基を有するポリヒドロキシシロキサンを含む場合は、有機基も含めてポリヒドロキシシロキサン成分とする。
【0079】
(C)光触媒
光触媒としては、任意の適切なものが用いられ得る。光触媒を含有することにより、本発明の光触媒含有塗料組成物は、耐汚染性に優れた塗膜を形成し得る。なお、本明細書中において、光触媒とは、光を照射することにより触媒作用を示す物質を意味し、特定の波長の光が照射されることにより、光化学反応を起こして、有機物を分解する触媒として作用したり、防汚作用(親水化作用)、抗菌または防黴作用等を発揮する物質を包含する。
【0080】
光触媒としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化ゲルマニウム、酸化鉛、酸化カドミウム、酸化銅、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ロジウム、酸化レニウム等の金属酸化物が挙げられる。また、可視光応答型光触媒として、オキシナイトライド化合物(例えば、特開2002−66333号公報参照)、オキシサルファイド化合物(例えば、特開2002−233770号公報参照)、Ta3N5等の窒化化合物、d10電子状態の金属イオンを含む酸化物(例えば、特開2002−59008号公報参照)、窒素ドープ酸化チタン(例えば、特開2002−29750号公報、特開2002−87818号公報、特開2002−154823号公報、特開2001−207082号公報参照)、硫黄ドープ酸化チタン、酸素欠陥型の酸化チタン(例えば、特開2001−98219号公報参照)、光触媒粒子をハロゲン化白金化合物で処理すること(例えば、特開2002−239353号公報参照)、タングステンアルコキシドで処理すること(特開2001−286755号公報参照)等によって得られる表面処理光触媒も使用可能である。本発明においては、光触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
上記光触媒の中でも、酸化チタンが好ましい。太陽光や日常生活で用いられる照明光によって高い触媒活性を示し得るからである。酸化チタンとしては、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、フルッカイト型酸化チタン等が挙げられ、好ましくはアナターゼ型酸化チタンが挙げられる。入手が容易であること、安価であること、特性が安定していること、人体に無害であることに加え、光触媒として優れた効果を発揮し得るからである。
【0082】
上記酸化チタンの微粒子として市販されているものとしては、例えば、石原産業(株)製のST−01、ST−21、その加工品であるST−K01、ST−K03、水分散タイプであるSTS−01、STS−02、STS−21、堺化学工業(株)製のSSP−25、SSP−20、SSP−M、CSB、CSB−M、塗料タイプであるLACTl−01、LACTI−03−A、テイカ(株)製の光触媒用酸化チタンコーティング液TKS−201、TKS−202、TKC−301、TKC−302、TKC−303、TKC−304、TKC−305、TKC−351、TKC−352、光触媒用酸化チタンゾルTKS−201、TKS−202、TKS−203、TKS−251、アリテックス(株)製のPTA、TO、TPX等、多木化学社製のタイノックAM−10、タイノックA−6が挙げられる。
【0083】
上記酸化チタンは、白金、ルテニウム、銀、酸化ルテニウム、ニオブ、銅、スズ、酸化ニッケル、酸化ケイ素等の金属および金属酸化物を光触媒活性促進剤として、その表面に付着または被覆させたものであってよい。例えば、SiOで表面処理されている酸化チタンの微粒子として、石原産業(株)製のMPT−422が挙げられる。
【0084】
光触媒の形態としては、粉体、分散液、ゾルのいずれであってもよい。光触媒ゾルおよび光触媒分散液とは、光触媒粒子が水および/または有機溶媒中に、代表的には0.01〜80質量%、好ましくは0.1〜50質量%で一次粒子および/または二次粒子として分散されたものである。
【0085】
光触媒含有塗料組成物中における光触媒の含有量は、光触媒含有塗料組成物の全固形分100質量部に対し、好ましくは20〜90質量部、より好ましくは50〜90質量部である。この範囲内とすることで塗膜の分解耐性と親水化とを、高い水準で両立することができる。90質量部を超えると、有機物の分解反応が必要以上に活性化されるので、塗膜の分解耐性が低下する場合がある。また、20質量部未満であると、塗膜の親水化が不十分となるので、塗膜の耐汚染性が低下する場合がある。
【0086】
(D)非イオン性粘性調整剤
本発明の光触媒含有組成物は、必要に応じて、非イオン性粘性調整剤をさらに含有してもよい。非イオン性粘性調整剤としては、任意の適切なものが用いられ得る。非イオン性粘性調整剤を含むことにより、本発明の光触媒含有塗料組成物は、塗布する際の作業性に優れるという効果を奏し得る。非イオン性粘性調整剤の具体例としては、例えば、ポリエーテルポリオール系ウレタンプレポリマー等のウレタン系増粘剤、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系増粘剤、モンモリロナイト、ベントナイト、クレイ等の層状化合物系増粘剤、その他のものとして疎水変性エトキシレートアミノプラスト系増粘剤が挙げられる。増粘剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
非イオン性粘性調整剤としては、市販されているものを使用し得る。好ましい市販製品としては、ウレタン系粘性調整剤として商品名「アデカノールUH−814N」(ADEKA社製 ポリエーテルポリオール系ウレタンポリマー)、セルロース系粘性調整剤として商品名「HECダイセルSP600N」(ダイセル化学工業社製 ヒドロキシエチルセルロース)、層状化合物系粘性調整剤として商品名「BENTONE HD」(エレメンティスジャパン社製)、疎水変性エトキシレートアミノプラスト系粘性調整剤として商品名「Optiflo H600VF」(ロックウッドアディティブズ社製)等が挙げられる。
【0088】
光触媒含有塗料組成物中における非イオン性粘性調整剤の含有量は、水性有機バインダーの樹脂固形分100質量部に対して、好ましくは0.1〜25質量部であり、より好ましくは0.3〜15質量部、さらに好ましくは0.3〜5質量部である。含有量を上記範囲内とすることにより、塗料として好適な粘性を塗料組成物に付与することができる。
【0089】
(E)その他の成分
光触媒含有塗料組成物は、さらに任意の適切なその他の成分を含み得る。その他の成分としては、例えば、硬化剤、艶消し剤、顔料、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、光安定剤(例えば、HALS)、酸化防止剤が挙げられる。
【0090】
硬化剤としては、任意の適切なものが用いられ得る。具体的には、例えば、アミノ樹脂、ブロックイソシアネート、エポキシ樹脂等が挙げられる。硬化剤の含有量は、目的に応じて適切に設定され得る。硬化剤の含有量は、通常、光触媒含有塗料組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜30質量部である。
【0091】
(F)製造方法
光触媒含有塗料組成物は、上記の各成分を混合することにより製造される。必要に応じて、任意の適切な溶媒をさらに混合してもよい。混合手段としては、ディスパー等の任意の適切な手段を採用し得る。
【0092】
〔塗膜〕
別の局面において、本発明は、塗膜を提供する。該塗膜は、上記光触媒含有塗料組成物から形成される。
【0093】
本発明の塗膜は、上記光触媒含有塗料組成物を任意の適切な被塗装物に対して塗布することにより形成される。塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、ドクターブレード法、バーコーター法、スプレー法等が挙げられる。
【0094】
塗布により得られる塗膜を加熱硬化させてもよい。加熱硬化させることで、塗膜の物性および諸性能が向上し得る。加熱温度は、光触媒含有塗料組成物の種類に応じて適切に設定され得る。一般的には40〜180℃に設定されることが好ましい。加熱時間は加熱温度に応じて任意に設定し得る。
【0095】
本発明の塗膜は、分解耐性および可とう性に優れる。さらには、例えば1μm以上、更には5μm以上に厚膜化することも可能である。このような効果が奏されるメカニズムは定かではないが、以下のように推測される。すなわち、本発明の光触媒含有塗料組成物は、無機材料として、アルコキシ基非含有ポリヒドロキシシロキサンを含む。該ポリヒドロキシシロキサンは、水性有機バインダーとの相溶性に優れるので、本発明の光触媒含有塗料組成物から形成される塗膜は、分解耐性に優れる無機マトリックスと可とう性に優れる有機マトリックスとが高度に入り組んだ構造を有する。その結果、分解耐性と可とう性とを両立する塗膜を形成することができると考えられる。さらには、有機マトリックスが厚膜化に寄与するので、塗膜の厚膜化も可能になると考えられる。なお、可とう性に優れるか否かの判断は、塗膜の表面をマイクロスコープ等で拡大観察することによって行うことができる。可とう性を有しない塗膜では、微少なクラックが表面に存在する。これは、塗膜形成時の応力を緩和することができないためと考えられる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0097】
実施例で行った各測定の測定条件を以下に示す。
〔アルコキシ基の有無の確認〕
IR分析:アルコキシ基のC−H伸縮に基づくピーク(Si−O−CH結合の場合は2846〜2849cm−1付近)を観察した。
上記アルコキシ基に基づくピークまたはシグナルが認められない場合は「無」と評価し、認められる場合は「有」と評価した。
【0098】
〔ポリヒドロキシシロキサン濃度〕
用いたアルコキシシランのGPCで求めた平均縮合度を用いて、加水分解率100%、縮合反応率0%として、仕込み量から計算にて求めた、アルコキシシラン中のポリヒドロキシシロキサンの有効成分の濃度(質量%)をいう。
【0099】
〔固形分濃度(NV)〕
試料(約1g)の質量を測定後、該試料を140℃オーブンにて10分間乾燥させた。次いで、乾燥後の試料の質量を測定した。乾燥後の試料の質量を乾燥前の試料の質量で除して100を乗じた値を固形分濃度(%)とした。
【0100】
[可とう性]
塗膜の表面をマイクロスコープで目視観察し、クラックが観察されなかったものを合格(○)、クラックが観察されたものを不合格(×)とした。
【0101】
[水接触角]
可とう性評価で用いた塗膜にブラックライト(F15BB、東芝ライテック社製)にて紫外線強度2mW/cmの光を3時間照射した後、水接触角を協和界面科学社製接触角計CA−A型で測定した。
【0102】
[塗膜構造の観察]
実施例または比較例で得られた塗膜を小さく切り出し、エポキシ樹脂にて包埋、ウルトラミクロトームにて断面方向に切り出し、厚さ80nmの超薄切片を作成して観察試料とした。この試料を日本電子社製の透過型電子顕微鏡「JEM−2000FXII」を用いて、加速電圧100kVにて塗膜構造を観察し、黒っぽい全体(海)の中に白っぽいドメイン(島)が存在するミクロ層分離構造が観察された場合を海−島構造があるとし、観察できなかった場合を海−島構造がないとして評価した。
【0103】
[分解耐性]
実施例または比較例で得られた塗膜について、JIS K5600−7−7サイクルAの条件に準じ、放射強度180W/mでスーパーキセノン促進耐候性試験を5000時間実施した。試験の前後における塗膜外観の変化を以下の基準で判断した。
○:変化なし、△:若干の変化あり、×:白化などの著しい変化
【0104】
[製造例1]
1Lコルベンにメチルシリケート51(MKCメチルシリケート51、三菱化学社製;固形分100%、分子量576、O−CHユニットの含有率64.6質量%)141部、アルミキレートD(アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、固形分76%)、川研ファインケミカル社製)6部、エキネンF6(日本アルコール販売社製)341部を仕込み、攪拌しながら40℃に加温した。イオン交換水512部を2時間で滴下した。さらに40℃で2時間加温攪拌したのち、冷却し、ポリヒドロキシシロキサンの酸性溶液a−1を得た。得られた溶液のpHは3.4であった。さらに、得られた溶液におけるポリヒドロキシシロキサン含有率、ポリヒドロキシシロキサン中のSiO換算濃度および全固形分濃度を表1に示す。得られたポリヒドロキシシロキサンの溶液をIR分析したところ、アルコキシ基に基づくピークは観察されなかった。なお、本明細書中においてポリヒドロキシシロキサン中のSiO換算濃度とは、ポリヒドロキシシロキサンをSiO(分子量=60)に換算したときの濃度(質量%)をいう。
【0105】
[製造例2]
1Lコルベンに25%アンモニア水9.6部を仕込み、イオン交換水838.4部を加えて希釈した。25℃の水で水冷し、攪拌しながら、テトラメトキシシラン(固形分100%、分子量152、O−CHユニットの含有率81.6質量%)152部を2分30秒で滴下した。液温は38℃まで上昇した。滴下後、冷却しながら1時間攪拌したあと、ろ紙でろ過してポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液a−2を得た。得られた溶液のpHは9.4であった。さらに、得られた溶液におけるポリヒドロキシシロキサン含有率、ポリヒドロキシシロキサンのSiO換算濃度および全固形分濃度を表1に示す。得られたポリヒドロキシシロキサンの溶液をIR分析したところ、アルコキシ基に基づくピークは観察されなかった。
【0106】
[製造例3]
100mLコルベンにイオン交換水75.1部、25%アンモニア水1.2部を仕込み、攪拌した。得られた溶液にテトラメトキシシラン13.7部を約3分で滴下した。1時間攪拌したあと、ビニルトリメトキシシラン(固形分100%、分子量148、O−CHユニットの含有率62.8質量%)0.67部とメタノール0.67部の混合溶液を滴下した。滴下後、さらに1.5時間攪拌し、得られた溶液をろ紙(アドバンテック東洋社製 No.2定性ろ紙)でろ過して無色透明なポリヒドロキシシロキサンの塩基性溶液a−3を得た。さらに、得られた溶液におけるポリヒドロキシシロキサン含有率、ポリヒドロキシシロキサンのSiO換算濃度および全固形分濃度を表1に示す。得られたポリヒドロキシシロキサンの溶液をIR分析したところ、アルコキシ基に基づくピークは観察されなかった。
【0107】
[製造例4]
1Lコルベンにメチルシリケート51(MKCメチルシリケート51、三菱化学社製)141部、アルミキレートD(アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート))、川研ファインケミカル社製)6部、エキネンF6(日本アルコール販売社製)831.8部を仕込み、攪拌しながら40℃に加温した。イオン交換水21.2部を10分で滴下した。さらに40℃で2時間加温攪拌したのち、冷却し、ポリヒドロキシシロキサンの溶液a−4を得た。さらに、得られた溶液におけるポリヒドロキシシロキサン含有率、ポリヒドロキシシロキサンのSiO換算濃度および全固形分濃度を表1に示す。得られたポリヒドロキシシロキサンの溶液をIR分析したところ、アルコキシ基に基づくピークが観察された。
【0108】
【表1】

【0109】
[水性有機バインダー]
水性有機バインダーとして、以下のものを用いた。
b−1:ポリウレタンディスパーション(三井化学社製W−635、固形分濃度36%)
b−2:アンモニア中和アクリルエマルション(固形分濃度50%、粒子径180nm、pH:9)
b−3:水溶性ウレタン樹脂(ADEKA社製UN−420、固形分濃度30%、pH:7)
【0110】
[光触媒]
光触媒として、以下のものを用いた。
c−1:酸化チタンゾル(多木化学社製、タイノックAM−10、TiO濃度15%、結晶子サイズ10nm、pH:4)
c−2:酸化チタンゾル(多木化学社製、タイノックA−6、TiO濃度6%、結晶子サイズ10nm、pH:10)
c−3:SiOで表面処理された酸化チタンゾル(石原産業社製、MPT−422、ゾル濃度20%、結晶子サイズ30nm、pH:7.5)
【0111】
[実施例1〜7]
表2に示すポリヒドロキシシロキサンの溶液、水性有機バインダーおよび光触媒を、表2に示す配合割合で混合し、塗料組成物を調製した。得られた塗料を固形分濃度が2%となるように水で希釈した。一方、アルミ板に日本ペイント製オーデパワー600クリヤー塗料を、6ミルのドクターブレードにて塗装し、100℃で10分乾燥させた。この板に、上記希釈塗料を、スプレーにて、乾燥膜厚が2μmになるよう塗装し、常温にて24時間乾燥させて塗膜を得た。得られた塗膜の表面を目視して可とう性を評価した後、水接触角を測定し、さらに、海−島構造の有無を観察した。また、塗膜の分解耐性を評価した。結果を表2に示す。なお、表2中のa成分〜c成分の配合割合の単位は質量部である。
【0112】
【表2】

【0113】
[比較例1〜3]
表3に示すポリヒドロキシシロキサンの溶液、水性有機バインダーおよび光触媒を、表3に示す配合割合で混合し、塗料組成物を調製した。以下の手順は実施例と同様にして塗膜を形成し、得られた塗膜の表面を目視して可とう性を評価した後、水接触角を測定し、さらに、海−島構造の有無を観察した。結果を表3に示す。なお、表3中のa成分〜c成分の配合割合の単位は質量部である。
【0114】
【表3】

【0115】
[評価]
表2および表3から明らかなように、本発明の実施例の塗料組成物から得られた塗膜は、非常に優れた親水性と非常に優れた外観とを同時に満足する。言い換えれば、本発明の塗料組成物から得られる塗膜は、優れた分解耐性を有し、かつ、可とう性に優れる。一方、ポリヒドロキシシロキサンの含有量が少ない比較例1の塗料組成物は、ブラックライト照射後には接触角測定用の塗膜が白化してしまい、水接触角を測定できなかった。水性有機バインダーを含有しない比較例2の塗料組成物は、アルミ板に塗装した塗膜にクラックが発生した。アルコキシ基を有するポリヒドロキシシロキサンを用いた比較例3の塗料組成物は、ブラックライト照射後には接触角測定用の塗膜にクラックが発生してしまい、水接触角を測定できなかった。光触媒の含有量が少ない実施例7の塗料組成物は、実施例1〜6に比べて水接触角が大きく親水性が不十分であった。また、水性有機バインダーとして、エマルション樹脂を用いた実施例3および4は、ディスパージョンまたは水溶性の樹脂を用いた実施例1、2、5および6に比べて、塗膜の分解耐性に優れていた。これは塗膜構造が、ポリヒドロキシシロキサンから形成された無機マトリックス中に有機バインダーから形成された部分が分散した、いわゆる海−島構造となっているためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の光触媒含有塗料組成物は、塗料の分野等で好適に用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン溶液と、
(B)水性有機バインダーと、
(C)光触媒とを含み、
(A)アルコキシ基を実質的に有さないポリヒドロキシシロキサン溶液および(B)水性有機バインダーの合計固形分中におけるポリヒドロキシシロキサン濃度が、50〜95質量%である、
光触媒含有塗料組成物。
【請求項2】
前記(B)水性有機バインダーが、エマルション樹脂である、請求項1に記載の光触媒含有塗料組成物。
【請求項3】
前記(C)光触媒の含有量が、光触媒含有塗料組成物の全固形分100質量部に対して、20〜90質量部である、請求項1または2に記載の光触媒含有塗料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒含有塗料組成物から形成される、塗膜。

【公開番号】特開2010−18767(P2010−18767A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194969(P2008−194969)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】