説明

光触媒含有極細繊維およびその製造方法

【課題】優れた光触媒性能を有し、長期間の使用や繰返しの洗濯等によっても初期の性能の劣化が少ない光触媒含有極細繊維とその製造方法を提供する。
【解決手段】下記要件を満足する光触媒含有極細マルチフィラメント。
a)極細単糸繊維の平均直径が200〜2000nmであること。
b)極細単糸繊維直径以上の2次粒子径を有する光触媒粒子を少なくとも含み、該光触媒粒子のうち繊維ポリマーに被覆されることなく繊維表面に露出している部分が存在するものの個数が5ケ/25μm以上であること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた光触媒の機能を発現可能な光触媒含有極細繊維に関する。更に詳しくは光触媒が繊維から脱落せず、かつ従来になく光触媒機能を効果的に発現させることが可能な極細マルチフィラメントおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、快適生活を指向する生活環境の多様化に伴い、家庭だけでなく、オフィスや病院などにおいても種々の臭いに対する関心が高くなってきている。また、住宅の気密性の向上に伴い、顕在化してきた問題として、住居内における悪臭や有害な成分、例えばホルムアルデヒドのような成分への対応が迫られてきている。
【0003】
このような状況において、消臭性能を有する繊維構造物を使用して悪臭を取り除く試みが種々提案されており、単なる吸着機能だけでなく、光触媒など分解機能も有しているものが永続的な消臭性能を発揮し続けることができるものとして提案されている。
【0004】
従来、光触媒消臭性能の繊維構造物への付与方法は、例えば繊維構造物に後加工を施して消臭性分を付着させる方法(特開2001−254281号公報など)が提案されているが、この方法では消臭性能を有する機能剤粒子が繊維表面に存在する為に機能剤粒子の脱落が起こりやすく、付着の為にバインダーを用いる為繊維布帛そのものの風合いが硬くなるなどの問題を有している。
【0005】
これらの耐久性や風合いの問題を解決する為に、光触媒を繊維中に練り込んだものが種々提案されている(特開2005−220471号公報など)。しかしこの方法では光触媒が繊維に埋没する為、臭い成分と光触媒の反応が繊維構成ポリマーによって制限され、光触媒の性能が発揮され難いという問題を有する。また、光触媒自身による基材の劣化により繊維強度が経時的に低下するという問題があった。その対策として、特開2004−169217号公報などの様に、芯鞘型複合繊維の鞘部にのみ光触媒を担持させ、芯部で強度を確保する方法が提案されている。
【0006】
しかしこの方法では強度の問題は解決されるものの、光触媒が鞘部に埋没し機能が発現しにくい問題があった。これらの問題を解決する為に、光触媒を練り込んだ剥離分割型複合繊維を分割することにより、繊維表面への光触媒の露出割合を増やし、性能の発現を容易にする方法が提案されている(特開平10−204727号公報)。この方法により露出割合は増加し且つ細繊度化できるため、ある程度光触媒効果及び風合いの向上を図ることができるものの、分割率が変動するため安定した品質のもの得られないという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2001−254281号公報
【特許文献2】特開2005−220471号公報
【特許文献3】特開2004−169217号公報
【特許文献4】特開平10−204727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術の有する課題を克服した、優れた光触媒性能を有し、長期間の使用や繰返しの洗濯等によっても初期の性能の劣化が少ない光触媒粒子含有極細マルチフィラメントとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記問題を解決するため鋭意検討した結果、極細繊維中に含有する光触媒の粒子径と繊維直径を特定範囲とする極細マルチフィラメントとすることにより達成されることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明によれば、
下記要件を満足する光触媒粒子含有極細マルチフィラメント
a)極細単糸繊維の平均直径が200〜2000nmであること。
b)極細単糸繊維直径以上の2次粒子径を有する光触媒粒子を少なくとも含み、該光触媒粒子のうち繊維ポリマーに被覆されることなく繊維表面に露出している部分が存在するものの個数が5ケ/25μm以上であること。
が提供される。
【0011】
また、海成分と島成分からなる海島型複合繊維から海成分を除去し島成分からなる極細マルチフィラメントを得る極細マルチフィラメントの製造方法において、下記要件を満足する光触媒粒子含有極細マルチフィラメントの製造方法
a)島成分からなる極細単糸繊維の平均直径が200〜2000nmであること。
b)島成分に極細単糸繊維直径以上の2次粒子径を有する光触媒粒子を少なくとも含むこと。
c)海島型複合繊維が溶融紡糸し、一旦巻き取ることなく直接延伸することにより得られたものであること。
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、極細単糸繊維の平均直径以上の粒子径を有する光触媒粒子がポリマーに被覆されない形で繊維表面に存在する部分を有するので光触媒機能が飛躍的に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光触媒粒子含有極細繊維を構成するポリマーは、繊維形成能を有する結晶性熱可塑性ポリマーであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドなどを挙げることができ、なかでも汎用的に用いられ、コスト面や性能のバランスのとれたポリエチレンテレフタレートを使用することが好ましい。
【0014】
本発明の光触媒含有極細マルチフィラメントの極細単糸繊維の軸方向に直交する断面における平均直径は、200〜2000nmであることが必要である。直径が200nm未満の場合は、光触媒粒子の凝集によって繊維の形成が困難となり、2000nmを超す場合はソフトな風合いが得られず又光触媒粒子径の大きなものを用いないと光触媒の露出度合いが少なくなり、また繊維比表面積が減少する為、光触媒の反応効率が下がる。好ましくは、300〜1000nmである。
【0015】
一般的に光触媒は光を吸収して性能を発揮するが、繊維に練り込むと繊維を構成するポリマー自身が光の吸収、および分解対象物と光触媒との接触を妨げ、効率が落ちてしまう。
【0016】
そこで本発明の光触媒粒子含有極細マルチフィラメントにおいては、極細単糸繊維の平均直径よりも大きな2次粒子径を有する光触媒粒子を少なくとも含有し且つ該極細単糸繊維の平均直径よりも大きな2次粒子径を有する光触媒粒子が繊維ポリマーにより被覆されない部分が存在することが特徴であり、その結果光触媒効率が飛躍的に向上する。
【0017】
通常、繊維の直径よりも大きな粒子を含有する様な繊維は紡糸時に曳糸性がその粒子により阻害される為作成することは不可能である。特に極細化は至難である。
しかしながら海島複合繊維の海成分を除去して島成分からなる極細繊維とする、いわゆる海島型極細繊維化法を採用することにより可能であることを見出したものである。すなわち海島複合繊維においては島成分が脆い繊維(2次粒子径が単糸繊維直径よりも大きいものを含むような繊維、従って強度の低い繊維)であったとしても海成分により紡糸延伸上の強度保持が可能となる。又海成分を除去した極細化後であってもマルチフィラメントであることにより強度を保持することが可能となる。
【0018】
更に海島複合繊維の複合紡糸時に一旦巻き取りすることなく引き続いて延伸処理する紡糸直接延伸法が好ましい。紡糸直接延伸法によって極細単糸繊維直径以上の2次粒子径の光触媒粒子が繊維ポリマーの延伸に追随できず、繊維ポリマーで被覆されず繊維表面に露出する部分が多くなる。ここで光触媒効果と繊維物性をバランスするには、該光触媒粒子のうち繊維ポリマーに被覆されず繊維表面に露出している部分が存在するものの個数が5ケ/25μm以上であることが必要である。
【0019】
この際光触媒粒子は繊維ポリマーに対して異物であり、光触媒粒子を含有する部分の繊維ポリマー量が少ないことによって、延伸に追随できずに亀裂が生じ、光触媒粒子が繊維ポリマーと遊離する部分(露出部分)が生じることとなる。この露出部分によって光の照射効率と対象となる成分に対する光触媒分解反応が非常に効率的に行われ、性能が飛躍的に増加することとなる。
【0020】
本発明の光触媒粒子含有極細繊維の断面形状は特に限定されず異形断面でも良い。異形断面の具体例としてはT 字形、U字形、V字形、H字形、Y字形、W字形、3〜14葉型、多角形等を挙げることができるが、本発明においてはこれらの形状に限定されるものではない。また、中実繊維であっても中空繊維であってもよい。
【0021】
本発明で使用される光触媒物質としては、紫外線等の光線の照射により活性ラジカルを生成させ、多くの有害物、悪臭物を酸化分解し、光酸化触媒として機能するものをいう。そのために、光触媒は酸化性光触媒の範疇に属する場合が多い。このような光触媒を用いると、単なる吸着作用ではなく、触媒的な分解を利用して消臭できるため、消臭または脱臭効果が長期間に亘り持続できる。さらに、この光触媒は有害物、悪臭物を分解するだけでなく、殺菌作用、抗菌作用等も有している。
【0022】
光触媒物質としては、無機、有機を問わず、種々の光半導体が使用できるが、無機光半導体である場合が多く、たとえば硫化半導体(CdS、ZnS、In、PbS、CuS、MoS、WS、Sb、Bi、ZnCdS等)、金属カルコゲナイト(CdSe、InSe、WSe、HgSe、PbSe、CdSe等)、酸化物半導体(TiO、ZnO、WO、CdO、In、AgO,MnO、CuO、Fe、V、SnO等)などが挙げられ、硫化物と酸化物以外の半導体として、GaAs、Si、Se、CdP、Zn等も含まれる。これらの光触媒は単独または2種以上の組合わせで使用できる。
【0023】
これらの光触媒物質のうち、CdS、ZnS等の硫化物半導体、TiO、ZnO、SnO、WO等の酸化物半導体が好ましく、特に酸化物半導体であるTiOが好ましい。前述の光触媒を構成する光半導体の結晶構造はとくに制限されない。たとえばTiOはアナターゼ型、ブルカイト型、ルチル型、アモルファス型等のいずれであってもよい。とくに好ましいTiOにはアナターゼ型酸化チタンが含まれる。
【0024】
光触媒物質はゾルやゲル状で使用できると共に粉粒(粒子)状で使用してもよい。光触媒を粉粒状で使用する場合、光触媒の平均2次粒子径は、0.1〜2μmであることが好ましく、繊維の細さと凸部形成能から選択することができる。粒径は好ましくは0.2〜1.5μmである。粒子径が2μmを越えると、たとえば溶融紡糸時にフィルター詰まりや毛羽断糸が生じ易くなり、延伸時の糸切れも増大しやすくなる。
【0025】
該光触媒物質の使用量は、繊維の構造に応じて触媒活性を損なわない広い範囲から選択でき、たとえば繊維全体に対して0.1〜25質量%、好ましくは0.3〜20質量%、さらに好ましくは0.5〜10重量%の範囲である。
【0026】
又光触媒を島成分ポリマーに添加する方法としては、
1.島成分ポリマーの重合時または重合直後に光触媒を添加含有させる方法、
2.島成分ポリマーをベースとする光触媒を含有するマスターバッチを作製しておき、それを使用する方法、
3.紡糸するまでの任意の段階(例えば、ポリマーのペレットの作製段階、溶融紡糸段階など)で光触媒を添加させる方法
などを挙げることができるが重合時の触媒活性による副反応の防止などの観点からマスターバッチ添加法が好ましく用いられる。
【0027】
また、本発明の光触媒粒子含有極細繊維マルチフィラメントにおいては触媒性能を向上させるために、光触媒以外に光がなくても機能する吸着剤を併用しても良い。吸着剤も繊維の表層部に配置させることにより、より効果的に成分を吸着させることができる。吸着剤としては四価金属のリン酸塩、二価金属の水酸化物を挙げることができる。
【0028】
本発明で使用する海島型複合繊維は例えば図1、図2に示すような公知の海島型複合紡糸口金を用い前述の海成分、島成分を溶融状態で繊維状に押出し、それを500〜3500m/分の速度で溶融紡糸後、一旦巻き取ることなく延伸、熱処理することが必要である。
【0029】
島数は多いほうが海溶解後の島成分からなる繊維が細くなり、100〜1,000島/単糸であることが好ましい。100島未満では、島比率が小さい場合に極細繊維としての効果が期待できない。一方、1,000島を超えると、紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、加工精度自体も低下しやすくなる。好ましくは、500〜1,000島である。
【0030】
海成分の島成分に対する溶解速度比は、海成分が島成分の30〜5,000倍であることが好ましい。より好ましくは、100〜4,000倍である。30倍未満の場合には、繊維断面表層部の分離した島成分の一部が溶解されて、繊維断面中央部にある海成分まで溶解されないという問題が起こり易くなる。これにより、島成分の太さ斑が発生し、品位に問題が低下する傾向にある。一方、5,000倍を超えると、繊維化が難しい。
【0031】
かかる海島型複合繊維を構成するポリマーとして、海成分ポリマーとしては、島成分との溶剤溶解速度差が30倍以上であれば、いかなる繊維形成性ポリマーであってもよく、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステルなどいずれのポリマーでも良い。なかでもポリエステルは溶剤溶解性を調節する上で好ましい。例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液溶解性ポリマーの場合は、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール系共重合ポリエステル、5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが最適である。特に海島複合繊維とした後、製編織し、公知のアルカリ減量装置を用いて海成分を溶解除去し、極細化することが好ましい。また、ナイロン6はギ酸に溶解し、ポリスチレンはトルエンなど有機溶剤に溶解することができる。
【0032】
一方、島成分ポリマーについても、いかなる繊維形成性ポリマーであってもよく、ポリアミド系、ポリスチレン系、ポリエチレン系、ポリエステル系などいずれのポリマーでも良い。好ましくはポリエチレンテレフタレートである。
【0033】
本発明の光触媒含有極細繊維は、繊維の長さ方向の形態が特に制限されるものではない。すなわち、繊維の長さ方向に程同じ直径を有する繊維であってもよく、太細を有するシックアンドシン繊維であってもよく、それ以外の繊維であってもよい。さらに光触媒含有極細繊維は短繊維または長繊維のいずれであってもよく、繊維製品が糸である場合、紡績糸、マルチフィラメント糸、短繊維と長繊維との複合糸であってもよい。さらに本発明の繊維には、用途や繊維の種類に応じて、仮撚加工、インターレース加工などの空気絡合処理、捲縮加工、防縮処理、防皺処理、親水加工、防水加工、防染加工などの任意の加工・処理が施されてもよい。
【0034】
本発明の光触媒含有極細繊維は上述の消臭剤の他に、繊維の種類に応じて繊維に用いられている各種の添加剤、たとえば酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、艶消剤等を含有してもよい。
【0035】
また本発明の光触媒含有極細繊維は種々の繊維製品として利用することができ、糸、織布、編布、不織布等の布帛、パイル織物、パイル編物等のパイル布帛、これらのものから形成された衣類やその他の身体着用品、インテリア製品類、寝具類、食品用包装材などを挙げることができる。具体的には下着、セーター、ジャケット、パジャマ、浴衣、白衣、スラックス、靴下、手袋、ストッキング、エプロン、マスク、タオル、ハンカチ、サポーター、ヘッドハンド、帽子、靴のインソール、芯地等の衣類や身体着用品、各種カーペット、カーテン、のれん、壁紙、障子紙、襖、繊維製ブラインド、人工観葉植物、椅子等の布張用生地、テーブルクロス、電気製品カバー、畳、布団の中詰材(詰綿等)、布団の側地、シーツ、毛布、布団カバー、枕、枕カバー、ベッドカバー、ベッドの中詰材、マット、衛生材料、便座カバー、ワイピングクロス、空気清浄機やエアーコンディショナー等のフィルターなどを挙げることができる。
【0036】
本発明の光触媒含有極細繊維および該繊維を用いた繊維製品の性能として、例えば、太陽光、蛍光灯、紫外線ランプ等の照射下、アンモニア、アミン類等の塩基性臭気成分、酢酸等の酸性臭気成分、ホルマリン、アセトアルデヒド等の中性臭気成分などの多くに臭気成分を速やかに、しかも長期に亘り分解し、無臭化することができる。そのため、多数の臭気成分を含むたばこ臭等であっても効率よく除去でき、室内や車内の消臭に有効である。また家具や新建材などから発生するホルマリン、アセトアルデヒド等のアルデヒド類の消臭に対しても有効である。
【0037】
なお光照射においては光触媒に応じた波長の光線が利用できる。この光線の波長は光触媒を励起する波長であればよいが、通常、紫外線を含む光線である場合が多い。光触媒として酸化チタンを用いた場合、太陽光や蛍光灯の光でも十分その触媒機能を有効に働かせることができる。なお、光照射は、通常、酸素、空気等の酸素含有基体の存在下で行われる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例における各項目は下記の方法で測定した。
(1)光触媒性能
下記の方法により消臭率で評価した。
臭気成分の初期濃度をアセトアルデヒド100ppmとした総量3リットル分を、試料量1g/リットルとした筒網状試料と共にテドラーバッグ内に封入し、紫外線ランプを1.2mW/cm・hrの強度で照射し、24hr後の容器中の臭気成分の残存濃度を検知管を用いて測定して求めた。
(2)露出している粒子の個数
引き揃えた延伸糸の側面を走査型電子顕微鏡にて5000倍にて撮影し、繊維表面が裂けて粒子が剥き出しになっている部分の個数を数え、25μm当たりの個数としてn=10にて測定し、平均値として算出した。
(3)単糸系より太い部分の個数
露出している粒子の個数と同様に、写真から平均単糸径より明らかに太くなっている部分の個数を数え、25μm当たりの個数としてn=10にて測定し、平均値として算出した。
(4)光触媒平均2次粒子径
光触媒の平均2次粒子径は各種測定法により測定することができる。一例を挙げれば、動的光散乱式粒度分布測定装置によって測定することができ、この動的光散乱式粒度分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製 MICROTRAC UPA(model:9340−UPA150)が挙げられる。
【0039】
[実施例1]
固有粘度0.64(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリエチレンテレフタレートに対し、このポリマーをベースポリマーとし、日機装株式会社製 MICROTRACUPA(model:9340−UPA150)を用いて測定した平均2次粒子径が1.2μmの光触媒粒子(石原産業株式会社製、光触媒酸化チタンST−01)10重量部を用いて作成したマスターバッチを、上記ベースポリマーに対して10重量%チップブレンドし、溶融温度285℃で押出機にて溶融した。他方、海成分に285℃での溶融粘度が1600poiseである平均分子量4000のポリエチレングリコール(PEG)4wt%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)を8mol% 共重合した改質ポリエチレンテレフタレートを別の押出機にて溶融した。それぞれの溶融ポリマーを、光触媒を含有するポリエステルが島成分となるようにして、海成分:島成分を30:70の重量比率で、島数836の紡糸口金を用いて紡糸温度285℃で溶融吐出させ、紡糸速度1000m/分にて引き取った後、一旦巻き取ることなく、予熱温度90℃、熱セット温度120℃、延伸倍率4.0倍で延伸し、4000m/分の速度で巻き取り50dtex/10filの延伸糸を得た。得られた延伸糸を用いて筒編みを作成し4%NaOH水溶液で95℃にて30%減量した。繊維断面を観察したところ、均一な極細繊維群を形成しており、極細単糸繊維の平均直径は690nmであった。また、繊維側面においては繊維直径より大きな光触媒粒子による太細部分が確認され、また一方では繊維直径より小さな光触媒粒子が繊維表面の裂け目から直接観測される状態で存在していた。この筒編を用いて消臭性を評価したところ、100%の消臭率を示した。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
実施例1において、吐出量を変更して極細単糸繊維の平均直径を385nmとした以外は同様に行った。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、光触媒マスターバッチを添加せずに作成した以外は同様に行った。結果を表1に示す。
【0042】
[比較例2]
実施例1において、紡糸時に異なる口金を用い、極細単糸繊維の平均直径を2510nmとした以外は同様に行った。結果を表1に示す。
【0043】
[比較例3]
実施例1において、吐出量を大きく減少させて、極細単糸繊維の平均直径を153nmとしたが、紡糸および延伸時の単糸切れがかなり大きく、消臭性を測ることのできる試料作成までには至らなかった。結果を表1に示す。
本発明の範囲内である実施例2においては、同様に優れた消臭性を示すものを得ることができたが、光触媒のない比較例1や、光触媒の露出および繊維径より太い部分が非常に少ない比較例2においては消臭性に大きく劣るものとなった。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
耐久性を有する光触媒性能(消臭性能)を有し、かつ強度や風合いにも優れるポリエステル布帛として、スポーツ用、カジュアル用、紳士婦人スーツ等の衣料用途をはじめ、メディカル用途、インテリア用途、などの用途に対しても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】海島型複合繊維の紡糸口金の例
【図2】海島型複合繊維の紡糸口金の例
【符号の説明】
【0047】
1.分配前島成分ポリマー溜め部分
2.島成分分配用パイプ
3.海成分導入孔
4.分配前海成分ポリマー溜め部分
5.個別海/島構造形成部
6.海島全体合流絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件を満足することを特徴とする光触媒粒子含有極細マルチフィラメント。
a)極細単糸繊維の平均直径が200〜2000nmであること。
b)極細単糸繊維直径以上の2次粒子径を有する光触媒粒子を少なくとも含み、該光触媒粒子のうち繊維ポリマーに被覆されることなく繊維表面に露出している部分が存在するものの個数が5ケ/25μm以上であること。
【請求項2】
光触媒粒子の平均2次粒子径が0.1〜2μmである請求項1に記載の光触媒含有極細マルチフィラメント。
【請求項3】
繊維を構成するポリマーがポリエステル系ポリマーである請求項1〜2いずれかに記載の光触媒含有極細マルチフィラメント。
【請求項4】
光触媒粒子が酸化チタンを主たる成分とするものである請求項1〜3いずれかに記載の光触媒含有極細マルチフィラメント。
【請求項5】
海成分と島成分からなる海島型複合繊維から海成分を除去し島成分からなる極細マルチフィラメントを得る極細マルチフィラメントの製造方法において、下記要件を満足することを特徴とする光触媒粒子含有極細マルチフィラメントの製造方法。
a)島成分からなる極細単糸繊維の平均直径が200〜2000nmであること。
b)島成分に極細単糸繊維直径以上の2次粒子径を有する光触媒粒子を少なくとも含むこと。
c)海島型複合繊維が溶融紡糸し、一旦巻き取ることなく直接延伸することにより得られたものであること。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−53470(P2010−53470A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218079(P2008−218079)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】