説明

光触媒坦持炭素繊維及び光触媒坦持炭素繊維フィルタ

【課題】炭素繊維の表面に光触媒を安定的に固定することにある。
【解決手段】四塩化ケイ素(SiCl)等のハロゲン化ケイ素化合物を用いる化学気相蒸着法(CVD法:Chemical Vapor Deposition)により蒸着処理が施された炭素繊維の表面に、二酸化チタン(TiO)を含む光触媒を坦持してなることを特徴とする光触媒坦持炭素繊維及び光触媒坦持炭素繊維の集合体からなる光触媒坦持炭素繊維部材と導光体等の紫外線照射部材とを組み合わせた光触媒坦持炭素繊維フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒坦持炭素繊維及び光触媒坦持炭素繊維フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンは、有機物質の分解活性を有する光触媒として、環境浄化の視点から注目されている。例えば、特許文献1には、反応ガス及び光が流通可能な三次元網目構造を有し、かつ金属、セラミックス及びカーボンよりなる群から選択した少なくとも1種の基材に、活性炭と光触媒活性成分が担持された触媒構造体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2691751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二酸化チタン等の粉末状の光触媒は、適当な担体上に固定化して使用される。例えば、担体として炭素繊維を選択し、その表面に光触媒を固定化する方法が種々検討されている。しかし、炭素繊維と光触媒との付着性が不十分な場合があり、安定化技術に改良の余地が残されている。
本発明の目的は、炭素繊維の表面に光触媒を安定的に固定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かくして、以下の請求項1〜請求項9に係る発明が提供される。
請求項1に係る発明は、ケイ素化合物を用いる蒸着処理が施された炭素繊維の表面に、光触媒を坦持してなることを特徴とする光触媒坦持炭素繊維である。
請求項2に係る発明は、前記蒸着処理は、化学気相蒸着法(CVD法)により前記炭素繊維と前記ケイ素化合物とを反応させて当該炭素繊維の表面を炭化ケイ素(SiC)に転化させることを特徴とする請求項1に記載の光触媒坦持炭素繊維である。
請求項3に係る発明は、前記ケイ素化合物は、ハロゲン化ケイ素化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒坦持炭素繊維である。
請求項4に係る発明は、前記光触媒は、二酸化チタン(TiO)を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光触媒坦持炭素繊維である。
【0006】
請求項5に係る発明は、表面にケイ素が蒸着処理され且つ当該表面に光触媒が坦持された光触媒坦持炭素繊維の集合体であって、被浄化流体が通過可能な多孔質構造を有する光触媒坦持炭素繊維部材と、前記光触媒に紫外線エネルギが照射可能に配置された紫外線照射部材と、を有することを特徴とする光触媒坦持炭素繊維フィルタである。
請求項6に係る発明は、前記紫外線照射部材は、前記光触媒坦持炭素繊維部材の内部に配置されることを特徴とする請求項5に記載の光触媒坦持炭素繊維フィルタである。
請求項7に係る発明は、前記紫外線照射部材は、波長300nmの紫外線の光線透過率が70%以上である紫外線透過性アクリル樹脂から形成された紫外線導光体であることを特徴とする請求項5又は6に記載の光触媒坦持炭素繊維フィルタである。
請求項8に係る発明は、前記紫外線導光体は、前記被浄化流体が流れる方向に略平行に配置された棒状形状を有し、且つ当該紫外線導光体の周囲は、当該棒状形状の長手方向に沿って前記光触媒坦持炭素繊維部材に取り囲まれていることを特徴とする請求項7に記載の光触媒坦持炭素繊維フィルタである。
請求項9に係る発明は、前記紫外線導光体は、前記被浄化流体が流れる方向と略直交するように配置された平板形状を有し、且つ前記光触媒坦持炭素繊維部材により、当該平板形状の表面側及び裏面側から挟まれていることを特徴とする請求項7に記載の光触媒坦持炭素繊維フィルタである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、炭素繊維の表面に、光触媒が安定的に固定される。
本発明によれば、炭化ケイ素の転化が炭素繊維の表面に止まり、炭素繊維の機械的強度等を保持しつつ光触媒作用が発揮される。
本発明によれば、光触媒坦持炭素繊維部材の内部に坦持された光触媒に紫外線エネルギが効率良く照射され、光触媒作用が活性化される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施の形態が適用される光触媒坦持炭素繊維フィルタの一例を説明する図である。
【図2】本実施の形態が適用される光触媒坦持炭素繊維フィルタの他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0010】
<光触媒坦持炭素繊維>
(炭素繊維)
本実施の形態で使用する炭素繊維は、一般に樹脂等の補強材に用いられる公知のものならば特に限定されない。具体的には、例えば、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維、異方性ピッチ系炭素繊維、カイノール樹脂系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、黒鉛繊維等が挙げられる。また、長繊維タイプまたは短繊維タイプのチョプドストランド、ミルドファイバー等から選択される。
炭素繊維は、成形時などの繊維折損を抑えるため高強度・高伸度タイプのものを用いることが望ましい。本実施の形態では、通常、引張強度が3500MPa以上、引張弾性率が300GPa以下、破断伸度が1.4%以上である炭素繊維が好ましい。
炭素繊維は、1種を単独で使用、または2種以上を併用してもよい。
【0011】
(光触媒)
本実施の形態で使用する光触媒は、例えば、フィルタとして使用する場合、浄化対象としての空気等の流体中に含まれる有害有機物質等を酸化分解による光触媒反応が可能な金属酸化物が挙げられ、特に限定されるものではない。
光触媒の具体例としては、例えば、二酸化チタン(特に、アナタース型二酸化チタン)、ルチル型二酸化チタン、ブルッカイト型二酸化チタンが挙げられる。さらに、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉛、酸化第二鉄等を含んでいても良い。
【0012】
本実施の形態では、光触媒としては、アナタース型二酸化チタンを50質量%以上含んでいるものが好ましい。尚、これらの化合物は、複数種を適宜混合して用いてもよい。
光触媒は、粉末状、塊状、粒状、平板状、繊維状等の様々な形態のものを用いることができる。本実施の形態では、平均粒径1nm〜100nmの粉末状の二酸化チタンを使用している。
光触媒坦持炭素繊維に坦持された光触媒の量は特に限定されない。本実施の形態では、0.01%〜99.9%の範囲で調製される。
【0013】
<光触媒坦持炭素繊維の製造方法>
(炭素繊維の蒸着処理)
本実施の形態で使用する炭素繊維は、ケイ素化合物を用いる化学気相蒸着法(CVD法:Chemical Vapor Deposition)により蒸着処理が施される。CVD法による炭素繊維とケイ素化合物との反応により、炭素繊維の表面が炭化ケイ素(SiC)に転化すると考えられる。炭化ケイ素の転化が炭素繊維の表面に止まることにより、炭素繊維の機械的強度等を保持しつつ、後述する光触媒の坦持する坦体として使用することができる。
【0014】
ケイ素化合物としては、例えば、フッ化ケイ素、塩化ケイ素、臭化ケイ素、ヨウ化ケイ素等のハロゲン化ケイ素化合物;シラン(SiH)等の水素化ケイ素化合物等が挙げられる。これらの中でも、塩化ケイ素、臭化ケイ素が好ましい。
【0015】
塩化ケイ素としては、例えば、四塩化ケイ素(SiCl)、ヘキサクロルジシラン、オクタクロルトリシラン、デカクロルトリシラン、ドデカクロルペンタシラン等が挙げられる。また、クロルシラン(SiHCl)、ジクロルシラン(SiHCl)、トリクロルシラン(SiHCl)等のシラン誘導体が挙げられる。
【0016】
臭化ケイ素としては、四臭化ケイ素(SiBr)、六臭化二ケイ素、八臭化三ケイ素、十臭化四ケイ素等が挙げられる。さらに、臭化三塩化ケイ素、二臭化二塩化ケイ素、三臭化塩化ケイ素、ヨウ化三塩化ケイ素、塩化硫化水素ケイ素、ヘキサクロルジシロキサン等も挙げられる。これらのなかでも、四塩化ケイ素(SiCl)が特に好ましい。
【0017】
CVD法によるSiCの生成温度は、1000℃〜1800℃である。圧力は40kPa〜100kPaの範囲である。減圧下で処理すると、SiCの核生成温度が低下する傾向がある。また、析出速度が早くなる傾向がある。蒸着処理の温度が過度に高温の場合、炭素繊維の全体が炭化ケイ素に転化し、機械的強度が低下する傾向がある。
【0018】
(光触媒の坦持)
本実施の形態において、光触媒は、通常、以下の手順により表面蒸着処理が施された炭素繊維に坦持される。即ち、上述した表面蒸着処理が施された炭素繊維を、二酸化チタン(TiO)等の光触媒を含有するスラリー(TiOスラリー)に浸漬し、乾燥後、大気中において100℃〜800℃程度の温度で焼成する。尚、TiOスラリーの分散媒として水を使用する。
【0019】
本実施の形態では、TiOスラリーには、例えば、ポリビニルアルコールの水溶液中に二酸化チタン(TiO)等を添加、所定の粘度に調整する。ポリビニルアルコールはTiOを炭素繊維の表面に固定する結着剤としても有用である。
TiOスラリー中の二酸化チタン(TiO)の濃度は特に限定されないが、本実施の形態では、炭素繊維に坦持した際に、チタン(Ti)と炭素(C)のモル比(Ti/C)が0.1〜2の範囲内になるように調整されている。
炭素繊維は、ケイ素化合物を用いるCVD法により蒸着処理が施されることにより、その表面に、光触媒が安定的に固定される。
【0020】
<光触媒坦持炭素繊維フィルタ>
次に、光触媒坦持炭素繊維を用いた光触媒坦持炭素繊維フィルタについて説明する。
図1は、本実施の形態が適用される光触媒坦持炭素繊維フィルタ100の一例を説明する図である。図1に示すように、光触媒坦持炭素繊維フィルタ100は、光触媒30を坦持した光触媒坦持炭素繊維部材10と、光触媒坦持炭素繊維部材10の内部に配置された紫外線照射部材の一例としての紫外線導光体20と、を備えている。
【0021】
(光触媒坦持炭素繊維部材10)
光触媒坦持炭素繊維部材10は、表面にケイ素が蒸着処理され且つ表面に光触媒30が坦持された光触媒坦持炭素繊維の集合体であって、フィルタとして使用する際、被浄化流体としての空気等が通過可能な多孔質構造を有している。
【0022】
(紫外線導光体20)
紫外線導光体20は、光触媒坦持炭素繊維部材10の内部に坦持された光触媒30に、紫外線エネルギを照射するために、光触媒坦持炭素繊維部材10の内部に配置されている。後述するように、紫外線導光体20には、光触媒坦持炭素繊維フィルタ100の外部に設けた電源(図示せず)を用い、例えば、発光ダイオード(LED)(図示せず)により発生した波長200nm〜400nmの紫外線エネルギが導入される。発光ダイオード(LED)から発生する紫外線エネルギは、例えば、光ファイバ又は他の導光板等を介して、光触媒坦持炭素繊維フィルタ100の紫外線導光体20に導入する。
【0023】
本実施の形態では、紫外線導光体20は、波長300nmの紫外線の光線透過率が70%以上である紫外線透過性材料から形成されることが好ましい。通常、光触媒30は、波長400nm以下の紫外線エネルギの照射により触媒作用を発揮することが知られている。このため、紫外線の光線透過率が高い材料を用いて紫外線導光体20を形成することにより、光触媒坦持炭素繊維部材10の内部に坦持された光触媒30が効率よく活性化される。
【0024】
紫外線透過性材料としては、例えば、紫外線透過性アクリル樹脂が挙げられる。このようなアクリル樹脂としては、例えば、株式会社クラレ製メタクリル樹脂パラグラス(登録商標)、住友化学株式会社製スミペックス010等の市販品が挙げられる。
【0025】
尚、本実施の形態では紫外線導光体20を紫外線照射部材として使用しているが、発光ダイオード(LED)を光触媒坦持炭素繊維部材10の内部に配置することもできる。発光ダイオード(LED)としては、例えば、ナイトライド・セミコンダクタ株式会社製NS375L−5RLL(発光波長375nm〜380nm、発光出力8.4mW〜14.0mW)等が挙げられる。
【0026】
図2は、本実施の形態が適用される光触媒坦持炭素繊維フィルタの他の例を説明する図である。図2(a)は、紫外線導光体22aが流体の流れる方向に略平行に配置された例であり、図2(b)は、紫外線導光体22bが流体の流れる方向と略直交するように配置された例である。
図2(a)に示す光触媒坦持炭素繊維フィルタ101は、光触媒(図示せず)が坦持された光触媒坦持炭素繊維の集合体である光触媒坦持炭素繊維部材12aと、浄化対象となる空気等の流れる方向(A)に略平行に配置された複数の紫外線導光体22aを有している。紫外線導光体22aは棒状形状を有している。そして、紫外線導光体22aの周囲が長手方向に沿って光触媒坦持炭素繊維部材12aに取り囲まれるように、光触媒坦持炭素繊維部材12aの内部に配置されている。
【0027】
図2(b)示す光触媒坦持炭素繊維フィルタ102は、光触媒(図示せず)が坦持された光触媒坦持炭素繊維の集合体である光触媒坦持炭素繊維部材12bと、浄化対象となる空気等が流れる方向(B)と略直交するように配置された複数の紫外線導光体22bを有している。紫外線導光体22bは平板形状を有している。そして、紫外線導光体22bの表面側及び裏面側が光触媒坦持炭素繊維部材12bにより挟まれるように、光触媒坦持炭素繊維部材12bと積層構造を形成している。本実施の形態では、図2(b)に示すように、平板形状の紫外線導光体22bには、浄化対象となる空気等が方向(B)に流れるように複数の貫通孔23が設けられている。
【0028】
光触媒30の担持体として多孔質構造を有する光触媒坦持炭素繊維部材10は、それ自身がフィルタとしての構造を有し、被浄化流体の空気等と接触しやすい性質を備えている。また、多孔質構造を有することにより、表面積が大きくなる。このため、被浄化流体の空気等に含まれる有機物を多孔質構造の表面で捕捉し分解する処理効率が高まると考えられる。
【0029】
本実施の形態では、光触媒30に照射される紫外線エネルギは、発光ダイオード(LED)(図示せず)により発生されることが好ましい。一般に、発光ダイオード(LED)は、従来の蛍光灯等の光源と比較して長寿命であり、消費電力は低下する。また、防水効果も大きい。 発光ダイオード(LED)により発生する紫外線エネルギを、例えば、光ファイバや他の導光板を介して紫外線導光体20に導入する構造を採用すれば、LED光源と光触媒とを分離することができる。
【符号の説明】
【0030】
10,12a,12b…光触媒坦持炭素繊維部材、20,22a,22b…紫外線導光体、23…貫通孔、30…光触媒、100,101,102…光触媒坦持炭素繊維フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物を用いる蒸着処理が施された炭素繊維の表面に、光触媒を坦持してなることを特徴とする光触媒坦持炭素繊維。
【請求項2】
前記蒸着処理は、化学気相蒸着法(CVD法)により前記炭素繊維と前記ケイ素化合物とを反応させて当該炭素繊維の表面を炭化ケイ素(SiC)に転化させることを特徴とする請求項1に記載の光触媒坦持炭素繊維。
【請求項3】
前記ケイ素化合物は、ハロゲン化ケイ素化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒坦持炭素繊維。
【請求項4】
前記光触媒は、二酸化チタン(TiO)を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光触媒坦持炭素繊維。
【請求項5】
表面にケイ素が蒸着処理され且つ当該表面に光触媒が坦持された光触媒坦持炭素繊維の集合体であって、被浄化流体が通過可能な多孔質構造を有する光触媒坦持炭素繊維部材と、
前記光触媒に紫外線エネルギが照射可能に配置された紫外線照射部材と、
を有することを特徴とする光触媒坦持炭素繊維フィルタ。
【請求項6】
前記紫外線照射部材は、前記光触媒坦持炭素繊維部材の内部に配置されることを特徴とする請求項5に記載の光触媒坦持炭素繊維フィルタ。
【請求項7】
前記紫外線照射部材は、波長300nmの紫外線の光線透過率が70%以上である紫外線透過性アクリル樹脂から形成された紫外線導光体であることを特徴とする請求項5又は6に記載の光触媒坦持炭素繊維フィルタ。
【請求項8】
前記紫外線導光体は、前記被浄化流体が流れる方向に略平行に配置された棒状形状を有し、且つ当該紫外線導光体の周囲は、当該棒状形状の長手方向に沿って前記光触媒坦持炭素繊維部材に取り囲まれていることを特徴とする請求項7に記載の光触媒坦持炭素繊維フィルタ。
【請求項9】
前記紫外線導光体は、前記被浄化流体が流れる方向と略直交するように配置された平板形状を有し、且つ前記光触媒坦持炭素繊維部材により、当該平板形状の表面側及び裏面側から挟まれていることを特徴とする請求項7に記載の光触媒坦持炭素繊維フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−179530(P2012−179530A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43216(P2011−43216)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(508179615)株式会社 シリコンプラス (10)
【Fターム(参考)】