説明

光触媒塗装体およびそのための光触媒コーティング液

【課題】中間層中の有機防藻剤の分解を抑制し、かつ防藻、抗カビ性能を補完する有機防カビ剤の溶出も妨げることなく、耐候性、有害ガス分解性、耐光性ならびにその他の所望の特性(透明性、塗膜強度等)を発揮する光触媒塗装体および光触媒コーティング液を提供する。
【解決手段】基材上に、有機防カビ剤および紫外線吸収剤を含む中間層と光触媒層とを備えた構造とする。光触媒層は、1質量部以上20質量部未満の光触媒粒子と、70質量部を超え99質量部以下の無機酸化物粒子と、銅元素と、銀元素と、任意成分として0質量部以上10質量部未満の加水分解性シリコーンを、光触媒粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンの合計量が100質量部となるように含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防汚性、有害物質分解性、耐光性およびカビや藻の繁殖抑制などに優れた効果を発現する光触媒塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンなどの光触媒が、近年建築物の外装材など多くの用途に利用されている。基材表面に光触媒を塗装することにより、光エネルギーを利用してセルフクリーニング機能、NOx、SOx等有害物質の分解機能、カビや藻などの繁殖を抑制する機能を付与することが可能となる。このような光触媒塗装体を得る場合、ベースとなる基材と光触媒の間に、接着および/または光触媒による基材表面の劣化抑制を目的とした中間層を設けることが行われる。この中間層には、光触媒によるカビや藻の繁殖を抑制する機能を補完するため、特に日陰など光触媒機能が発現しにくい部位においても、カビや藻の繁殖を抑制する性能を確保する目的で、有機防カビ剤を添加する例が見られる。このような光触媒を塗装した光触媒塗装体を得る技術としては、以下のものが知られている。
【0003】
ベースとなる基材と光触媒の間に、接着および/または光触媒による基材表面の劣化抑制を目的としたシリコーン変性樹脂などの中間層を設ける技術が知られている。(例えば、特許文献1(国際公開第97/00134号パンフレット)参照)。
【0004】
またこのような中間層に、光触媒のカビや藻の繁殖を抑制する機能を補完するため、有機防カビ剤を添加する技術が知られている(特許文献2(特開2001−232215号公報)参照))。
【0005】
光触媒層に金属銀および金属銅またはそれらのイオンを添加し消臭、抗菌、防カビ機能を付与する技術が知られている(特許文献3(特許第3559892号公報)参照)。
【0006】
光触媒層に銀、銅、亜鉛、白金などを添加し光触媒活性を高める技術が知られている(特許文献4(特開平11−169726号公報)参照)、(特許文献5(国際公開第00/06300号パンフレット)参照)。
【0007】
また当該塗装体の耐久性を高める目的で、光触媒層に加水分解性シリコーン等のバインダー成分を添加する技術が知られている。(特許文献6(特開2000−212510号公報)参照),(特許文献7(特開2002−137322号公報)参照)。
【0008】
【特許文献1】国際公開第97/00134号パンフレット
【特許文献2】特開2001−232215号公報
【特許文献3】特許第3559892号公報
【特許文献4】特開平11−169726号公報
【特許文献5】国際公開第00/06300号パンフレット
【特許文献6】特開2000−212510号公報
【特許文献7】特開2002−137322号公報
【発明の開示】
【0009】
光触媒層にバインダー成分として加水分解性シリコーンを添加した場合、加水分解性シリコーンが緻密な膜を形成するため、光触媒層を構成する粒子間の空隙を塞ぐ。その結果、中間層に添加した防カビ剤の溶出速度が小さくなり、防藻、防カビ機能を補完する目的が果たせなくなる不具合が発生する懸念がある。さらには加水分解性シリコーンの添加量によっては、光触媒層を透過するガスの拡散速度が小さくなり、光触媒による有害ガス分解機能が低下するなど、光触媒が本来有する機能をも喪失する懸念がある。
【0010】
また、充分な光触媒活性を得るために、光触媒層に含まれる光触媒を増量することが従来より行われているが、そのような塗膜構成にした場合、中間層が光触媒によって劣化する恐れがあり、さらには、中間層に含まれる有機防カビ剤が分解され、光触媒による防藻、防カビ機能を補完する目的が果たせなくなることなどの不具合を発生する懸念があった。また、光触媒を減量させると光触媒層での紫外線遮蔽効果が弱まり、塗膜および下地の紫外線劣化が懸念される。
【0011】
したがって、本発明は、防藻性、防カビ性、有害ガス分解性、親水性など光触媒本来の機能と、塗膜の耐候性、耐光性および塗膜の強度を両立させるとともに、防藻、防カビ性能を補完する有機防カビ剤の溶出も妨げない、光触媒を有する複合材およびそのための光触媒コーティング液を提供することを目的とする。
【0012】
すなわち、本発明による光触媒塗装体は、基材と、該基材上に設けられる中間層と、該中間層上に設けられる光触媒層とを備えた光触媒塗装体であって、
前記中間層は有機防カビ剤および紫外線吸収剤を含んでなり、
前記光触媒層が、
1質量部以上20質量部未満の光触媒粒子と、
70質量部を超え99質量部以下の無機酸化物粒子と、
0質量部以上10質量部未満の加水分解性シリコーンとを、
前記光触媒粒子、前記無機酸化物粒子、および前記加水分解性シリコーンの合計量が100質量部となるように含んでなり、さらに銅元素および銀元素を含んでなるものである。
【0013】
また、本発明による光触媒コーティング液は、上記光触媒塗装体の製造に用いられる光触媒コーティング液であって、溶媒中に、
1質量部以上20質量部未満の光触媒粒子と、
70質量部を超え99質量部以下の無機酸化物粒子と、
0質量部以上10質量部未満の加水分解性シリコーンとを、
前記光触媒粒子、前記無機酸化物粒子、および前記加水分解性シリコーンの合計量が100質量部となるように含み、さらに銅元素および銀元素を含んでなるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
光触媒塗装体
本発明による光触媒塗装体は、基材上に設けられた、中間層上に設けられる光触媒層とを備えてなる。光触媒層は、1質量部以上20質量部未満の光触媒粒子と、70質量部を超え99質量部以下の無機酸化物粒子と、任意成分としての0質量部以上10質量部未満の加水分解性シリコーンと含み、さらに銅元素および銀元素とを含んでなる。
【0015】
すなわち、本発明による光触媒層は、光触媒粒子の配合割合が無機酸化物粒子よりも少ないことで、光触媒粒子の中間層との直接的な接触を最小限に抑えることができ、それにより中間層を浸食しにくくなるものと考えられる。
【0016】
銅元素および銀元素は、金属および/または金属化合物として存在する。銅元素に対する銀元素の割合は、各々AgO、およびCuOに換算して、AgO/CuOとして質量比で0/100<[AgO/CuO]≦60/40が好ましく、より好ましくは10/90以上60/40以下であり、さらに好ましくは10/90以上55/45以下である。また、銅元素および銀元素は、AgOおよびCuOに換算した合計量が光触媒粒子に対して0.5〜5質量%添加されたものが好ましい。銅元素に対する銀元素の割合がこのような範囲であると、銅元素や銀元素をそれぞれ単独で添加した光触媒層に比べて、紫外線などの光触媒を励起可能な光の照射下で、抗カビ性や防藻性が極めて良好な光触媒層を得ることができる。
【0017】
光触媒と銅化合物と銀化合物が共存した状況で適当量の紫外線が照射された場合、抗カビ性に直接作用するのは光触媒と銅化合物であると考えられる。銀化合物は光触媒によって発生した電子によって還元され、電荷分離効率の向上に寄与すると考えられる。光触媒層中のAgO/CuO比率に最適値があるのは、比率が小さすぎる場合、銀化合物の共存による特異的な効果も小さくなるため、逆に大きすぎる場合は、光触媒層中の銅化合物の相対的な濃度が小さくなり、抗カビ性が小さくなること、さらには、銀による着色の影響が無視できなくなるためであると考えられる。
【0018】
同時に、この構成により、有害ガス分解性、カビや藻の繁殖抑制および所望の各種被膜特性(透明性、塗膜強度等)に優れた光触媒塗装体を得ることが可能となる。これらの幾つもの優れた効果が同時に実現される理由は定かではないが、以下のようなものではないかと考えられる。ただし、以下の説明はあくまで仮説にすぎず、本発明は何ら以下の仮説によって限定されるものではない。まず、光触媒層は、光触媒粒子および無機酸化物粒子の二種類の粒子から基本的に構成されるため、粒子間の隙間が豊富に存在する。光触媒層のバインダーとして広く用いられる加水分解性シリコーンを多量に使用した場合にはそのような粒子間の隙間を緻密に埋めてしまうため、ガスの拡散を妨げるものと考えられる。しかし、本発明の光触媒層は加水分解性シリコーンを含まないか、含むとしても光触媒粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンの合計量100質量部に対して10質量部未満としているため、粒子間の隙間を十分に確保することができ、そのような隙間によってNOxやSOx等の有害ガスが光触媒層中に拡散しやすい構造が実現され、その結果、有害ガスが光触媒粒子と効率良く接触して光触媒活性により分解されるのではないかと考えられる。さらに光触媒粒子を非常に少なくしても、無機酸化物粒子と共存させることで、実用上十分な光触媒活性と膜強度、耐候性とが両立できることを見出した。
【0019】
また、光触媒層の粒子間の隙間を十分確保することで、中間層に添加した有機防カビ剤の溶出が妨げられないため、光触媒の防藻、防カビ機能を補完するという目的を充分に果たすことが可能となる。
【0020】
さらに、中間層に添加した紫外線吸収剤により下地の紫外線による劣化を抑制することが可能となる。
【0021】
上記したような種々の現象が同時に起こることで、中間層中の有機防カビ剤の分解を抑制し、防藻、防カビ性能を補完する有機防カビ剤の溶出も妨げることなく、かつ、中間層中の紫外線吸収剤により、耐候性、親水性、有害ガス分解性、耐光性、および所望の各種被膜特性(透明性、塗膜強度等)に優れた光触媒塗装体が実現されるものと考えられる。また、本発明の光触媒層には銅元素および銀元素が共存することから、紫外線が当たっている場合には抗カビ性、防カビ性が極めて良好になる。
【0022】
基材
本発明に用いる基材は、その上に中間層が形成可能な材料であれば無機材料、有機材料を問わず種々の材料であってよく、その形状も限定されない。材料の観点からみた基材の好ましい例としては、金属、セラミック、ガラス、プラスチック、ゴム、石、セメント、コンクリ−ト、繊維、布帛、木、紙、それらの組合せ、それらの積層体、それらの表面に少なくとも一層の被膜を有するものが挙げられる。用途の観点からみた基材の好ましい例としては、建材、建物外装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用遮音壁、鉄道用遮音壁、橋梁、ガードレ−ルの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、屋外用照明器具、台及び上記物品表面に貼着させるためのフィルム、シート、シール等といった外装材全般が挙げられる。
【0023】
中間層およびそのための中間層コーティング液
中間層に用いられる樹脂は、有機防カビ剤および紫外線吸収剤の相溶性が良好で、基材との接着性、光触媒との接着性を有し、光触媒による中間層表面の劣化を抑制できるものであれば特に限定されず、樹脂中にポリシロキサンを含むシリコーン変性アクリル樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性ウレタン樹脂、シリコーン変性ポリエステル等のシリコーン変性樹脂が好適である。外装用建材に適用する場合には、シリコーン変性アクリル樹脂が耐候性の点からより好適である。シリコーン変性アクリル樹脂において、カルボキシル基を有するシリコーン変性アクリル樹脂とエポキシ基を有するシリコーン樹脂の二液を混合して使用することが、塗膜の強度を向上させる点からさらに好適である。
【0024】
シリコーン変性樹脂は、ケイ素原子含有量が、シリコーン変性樹脂の固形分に対して0.2質量%以上16.5質量%未満が好ましく、より好ましくは6.5質量%以上16.5質量%未満である。シリコーン変性樹脂に含有されるケイ素原子含有量が0.2質量%未満の場合、すなわち有機樹脂成分が多い場合、中間層の耐候性が低下し、光触媒に侵食される可能性がある。またシリコーン変性樹脂に含有されるケイ素原子含有量が16.5質量%以上の場合すなわちシリコーン成分が多い場合、中間層の性質が無機物により近づくため、耐候性は向上するが、逆に可とう性に乏しくなり、中間層にクラックが発生する場合がある。
【0025】
前記シリコーン変性樹脂中のケイ素原子含有量は、X線光電子分光分析装置(XPS)による化学分析によって測定することができる。測定機器および条件は当業者によって適宜選択できる。
【0026】
中間層には、有機防カビ剤が添加される。本発明においては、中間層と相溶性が良好であればどのような有機防カビ剤でも使用することができる。例として、有機窒素硫黄系化合物、ピリチオン系化合物、有機ヨウ素系化合物、トリアジン系化合物、イソチアゾリン系化合物、イミダゾール系化合物、ピリジン系化合物、ニトリル系化合物、チオカーバメート系化合物、チアゾール系化合物、有機よう素化合物、ジスルフィド系化合物が挙げられ、単独もしくは混合物として用いられる。防カビ剤は一般に藻を防ぐ効果も合わせ持つものが多いことから、防カビ剤を添加することによって、カビと藻の両方を抑制することも期待できる。
【0027】
また防藻効果と防カビ効果を兼ねた有機防藻防カビ剤を中間層に添加しても同様な効果が得られる。
【0028】
有機防カビ剤の添加重量部は、有機防カビ剤メーカーが定める最適量あるいは、模擬的な防カビ試験を実施し、適宜決めてよい。
【0029】
中間層には、紫外線吸収剤が添加される。本発明においては、中間層と相溶性が良好であればどのような紫外線吸収剤でも使用することができる。例として、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物などが挙げられ、単独もしくは混合物として用いられる。
【0030】
中間層には、その他に有機溶剤、着色顔料、体質顔料、顔料分散剤、消泡剤、酸化防止剤等の塗料用添加剤、塗料に通常含まれるその他成分を含有することができる。また、艶消し剤としてシリカ微粒子を含んでもよい。上記着色顔料としては特に限定されず、例えば、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の無機系顔料、フタロシアニン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、アゾ系、アンスラキノン系、キノフタロン系、アンスラピリジニン系、キナクリドン系、トルイジン系、ピラスロン系、ペリレン系等の有機系顔料を用いることができる。
【0031】
本発明の中間層コーティング液は、前記したシリコーン変性樹脂、有機防カビ剤および紫外線吸収剤を溶媒中に分散させることにより得ることができる。溶媒としては、上記構成成分を適切に分散可能なあらゆる溶媒が使用可能であり、水および/または有機溶媒であってよい。また、本発明の中間層塗装用液剤の固形分濃度は特に限定されないが、10〜20質量%とするのが塗布し易い点で好ましい。なお、中間層コーティング液中の構成成分の分析は、樹脂成分に関しては、赤外分光分析で、有機防カビ剤成分については希釈後あるいは硬化させた後に、適切な溶媒で抽出し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて分析、スペクトルを解析することによって評価することができる。
【0032】
中間層製造方法
本発明の中間層塗装体は、本発明の中間層コーティング液を、前記基材上に塗布することにより簡単に製造することができる。中間層の塗装方法は、前記液剤を刷毛塗り、ローラー、スプレー、ロールコーター、フローコーター、ディップコート、流し塗り、スクリーン印刷等、一般に広く行われている方法を利用できる。コーティング液の基材への塗布後は、常温乾燥させればよく、あるいは必要に応じて加熱乾燥してもよい。
【0033】
中間層の乾燥膜厚は特に限定されるものでは無いが、好ましくは1μm〜50μm、より好ましくは1μm〜10μmである。1μmより薄い場合は、光触媒による基材の劣化抑制効果が劣る可能性がある。50μmより厚い場合は、中間層の種類に依存するが、乾燥後に微細なクラックが発生する恐れがある。
【0034】
光触媒層およびそのための光触媒コーティング液
本発明に用いる光触媒粒子は、光触媒活性を有する粒子であれば特に限定されず、あらゆる種類の光触媒の粒子が使用可能である。光触媒粒子の例としては、酸化チタン(チタニア)、ZnO、SnO、SrTiO、WO、Bi、Feのような金属酸化物の粒子が挙げられ、好ましくは酸化チタン粒子、より好ましくはアナターゼ型酸化チタン粒子である。酸化チタンは、無害で、化学的にも安定で、かつ、安価に入手可能である。また、酸化チタンはバンドギャップエネルギーが高く、従って、光励起には紫外線を必要とし、光励起の過程で可視光を吸収しないので、補色成分による発色が起こらない。酸化チタンは、粉末状、ゾル状、溶液状など様々な形態で入手可能であるが、光触媒活性を示すものであれば、いずれの形態でも使用可能である。
【0035】
本発明の好ましい態様によれば、光触媒粒子が10nm以上100nm以下の平均粒径を有するのが好ましく、より好ましくは10nm以上60nm以下である。なお、この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が最も良いが、略円形や楕円形でも良く、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。この範囲内であると、耐候性、有害ガス分解性、および所望の各種被膜特性(透明性、塗膜強度等)が効率良く発揮される。
【0036】
本発明の光触媒層およびコーティング液における光触媒粒子の含有量は、光触媒粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンの合計量100質量部に対して、1質量部以上20質量部未満、好ましくは3質量部以上15質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上10質量部以下である、このように光触媒粒子の配合割合を少なくすることで、光触媒粒子の中間層との直接的な接触を最小限に抑えることができ、それにより中間層に対する浸食を防止することができ、耐候性も向上すると考えられる。それにもかかわらず、有害ガス分解性などの光触媒活性に起因する機能も十分に発揮させることができる。
【0037】
本発明の光触媒層およびコーティング液は、高い光触媒能を発現するために、銅元素および銀元素を含んでなる。これらは、金属および/またはその金属からなる金属化合物を光触媒層および光触媒コーティング液に添加することができる。この添加は、前記金属または金属化合物を光触媒コーティング液に混合する方法、光触媒粒子または光触媒層に金属化合物を担持する方法のいずれの方法によっても行うことができる。
【0038】
本発明に用いる無機酸化物粒子は、光触媒粒子と共に層を形成可能な無機酸化物の粒子であれば特に限定されず、あらゆる種類の無機酸化物の粒子が使用可能である。そのような無機酸化物粒子の例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、イットリア、ボロニア、マグネシア、カルシア、フェライト、無定型チタニア、ハフニア等の単一酸化物の粒子;およびチタン酸バリウム、ケイ酸カルシウム等の複合酸化物の粒子が挙げられ、より好ましくはシリカ粒子である。これら無機酸化物粒子は、水を分散媒とした水性コロイド;またはエチルアルコール、イソプロピルアルコール、もしくはエチレングリコールなどの親水性溶媒にコロイド状に分散させたオルガノゾルの形態であるのが好ましく、特に好ましくはコロイダルシリカである。
【0039】
本発明の好ましい態様によれば、無機酸化物粒子が、5nmを超え40nm未満の平均粒径を有するのが好ましく、より好ましくは10nm以上40nm未満、さらに好ましくは10nm以上30nm以下である。5nm以下では、無機酸化物粒子の分散性が不安定となり、小粒径にもかかわらず透明性が低下する場合がある。また40nm以上の場合は中間層との密着性が損なわれる場合がある。なお、この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が最も良いが、略円形や楕円形でも良く、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。この範囲内であると、耐候性、有害ガス分解性、および所望の各種被膜特性(透明性、塗膜強度等)が効率良く発揮される。
【0040】
本発明の光触媒層およびコーティング液における無機酸化物粒子の含有量は、光触媒粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンの合計量100質量部に対して、70質量部を超え99質量部以下であり、好ましくは80質量部以上97質量部以下であり、より好ましくは85質量部以上95質量部以下、さらに好ましくは90質量部以上95質量部以下である。
【0041】
本発明の光触媒層は加水分解性シリコーンを実質的に含まないのが好ましく、より好ましくは全く含まない。加水分解性シリコーンとは、アルコキシ基を有するオルガノシロキサンおよび/またはその部分加水分解縮合物の総称である。しかしながら、本発明の有害ガス分解性を確保できる程度であれば加水分解性シリコーンを任意成分として含有することは許容される。したがって、加水分解性シリコーンの含有量は、シリカ換算で、光触媒粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンの合計量100質量部に対して、0質量部以上10質量部未満であり、好ましくは5質量部以下、最も好ましくは0質量部である。加水分解性シリコーンとしては、4官能シリコーン化合物がよく使用され、例えば、エチルシリケート40(オリゴマー、Rがエチル基)、エチルシリケート48(オリゴマー、Rがエチル基)メチルシリケート51(オリゴマー、Rがメチル基)(いずれもコルコート社製)の形で市販されている。
【0042】
光触媒コーティング液には任意成分として界面活性剤を含んでよい。本発明に用いる界面活性剤は、光触媒粒子、無機酸化物粒子、および加水分解性シリコーンの合計量100質量部に対して、0質量部以上10質量部未満光触媒層に含有されていてもよく、好ましくは0質量部以上8質量部以下であり、より好ましくは0以上6質量部以下である。界面活性剤の効果の1つとして基材へのレベリング性があり、コーティング液と基材との組合せによって界面活性剤の量を先述の範囲内で適宜決めれば良く、その際の下限値は0.1質量部とされてよい。この界面活性剤は光触媒コーティング液の濡れ性を改善するために有効な成分であるが、塗布後に形成される光触媒層にあってはもはや本発明の光触媒塗装体の効果には寄与しない不可避不純物に相当する。したがって、光触媒コーティング液に要求される濡れ性に応じて、上記含有量範囲内において使用されてよく、濡れ性を問題にしないのであれば界面活性剤は実質的にあるいは一切含まなくてよい。使用すべき界面活性剤は、光触媒や無機酸化物粒子の分散安定性、中間層上に塗布した際の濡れ性を勘案し適宜選択されることができるが、非イオン性界面活性剤が好ましく、より好ましくは、エーテル型非イオン性界面活性剤、エステル型非イオン性界面活性剤、ポリアルキレングリコール非イオン性界面活性剤、フッ素系非イオン性界面活性剤、シリコン系非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0043】
本発明の光触媒コーティング液は、光触媒粒子、無機酸化物粒子、および所望により加水分解性シリコーンおよび界面活性剤を上記特定の配合比率で溶媒中に分散させることにより得ることができる。溶媒としては、上記構成成分を適切に分散可能なあらゆる溶媒が使用可能であり、水および/または有機溶媒であってよい。また、本発明の光触媒コーティング液の固形分濃度は特に限定されないが、1〜10質量%とするのが塗布し易い点で好ましい。なお、光触媒コーティング組成物中の構成成分の分析は、コーティング液を限外ろ過によって粒子成分と濾液に分離し、それぞれを赤外分光分析、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、蛍光X線分光分析などで分析し、スペクトルを解析することによって評価することができる。
【0044】
本発明の光触媒層は、0.5μm以上3.0μm以下の膜厚を有し、好ましくは1.0μm以上2.0μm以下である。このような範囲内であると、光触媒層と中間層の界面に到達する紫外線が減衰されるので耐光性が向上する。また、無機酸化物粒子よりも含有比率が低い光触媒粒子を膜厚方向に増加させることができるので、有害ガス分解性も向上する。さらには、透明性においても優れた特性が得られる。
【0045】
光触媒層製造方法
本発明の光触媒塗装体は、本発明の光触媒コーティング液を、前記中間層を有する基材上に塗布することにより簡単に製造することができる。光触媒層の塗装方法は、前記液剤を刷毛塗り、ローラー、スプレー、ロールコーター、フローコーター、ディップコート、流し塗り、スクリーン印刷等、一般に広く行われている方法を利用できる。コーティング液の基材への塗布後は、常温乾燥させればよく、あるいは必要に応じて加熱乾燥してもよい。
【実施例】
【0046】
本発明を以下の例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
なお、以下の例において中間層コーティング液は、以下に示したいずれかのシリコーン変性アクリル樹脂材と水と造膜助剤を適宜混合して作製した。詳細を表1に示した。
・ケイ素原子含有量が、シリコーン変性樹脂の固形分に対して10質量%のシリコーン変性アクリル樹脂ディスパージョン
・ケイ素原子含有量が、シリコーン変性樹脂の固形分に対して0.2質量%のシリコーン変性アクリル樹脂ディスパージョン
・ケイ素原子含有量が、シリコーン変性樹脂の固形分に対して16.5質量%のシリコーン変性アクリル樹脂ディスパージョン
【0047】
有機防カビ剤は、市販の窒素硫黄系化合物とトリアジン系化合物からなるものを用い、防カビ剤の濃度は中間層コーティング液に対し0.5質量%とした。
【0048】
紫外線吸収剤は、市販のヒドロキシフェニルトリアジン系化合物からなるものを用い、その濃度は中間層コーティング液に対し1質量%とした。
【0049】
【表1】


【0050】
以下の例において光触媒層コーティング液は、以下に示した光触媒粒子と、いずれかの無機酸化物と水と界面活性剤を適宜混合して作製した。詳細を表2に示した。
光触媒粒子
・Ag・Cu含有チタニア水分散体:銀化合物および銅化合物を、AgOおよびCuOに換算した合計量がチタニアに対して表2に示す質量%で添加された光触媒性チタニア水分散体(平均粒径:48nm、塩基性、)
・チタニア水分散体(平均粒径:42nm、塩基性)
無機酸化物粒子
・水分散型コロイダルシリカ(平均粒径:14nm、塩基性)
・水分散型コロイダルシリカ(平均粒径:26nm、塩基性)
・水分散型コロイダルシリカ(平均粒径:5nm、塩基性)
・水分散型コロイダルシリカ(平均粒径:51nm、塩基性)
加水分解性シリコーン
・テトラメトキシシランの重縮合物(SiO換算濃度:51質量%。溶媒:メタノール、水)
界面活性剤
・ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤
【0051】
【表2】



【0052】
例1〜8:ガス分解性の評価
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスを用意した。あらかじめ加熱したガラス基材上に、表1のM−1に記載の中間層コーティング液をスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。このM−1液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、例1〜8のいずれの例においても約10μmであった。
【0053】
一方、光触媒としてのAg・Cu含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水とを表2のT−1〜T−8に示される配合比で混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の、光触媒、無機酸化物および加水分解性シリコーンの合計の固形分濃度は5.5質量%とした。得られた光触媒コーティング液をあらかじめ加熱した上記中間層塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例1〜8のいずれの例においても約0.5μmであった。こうして、中間層と光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。
【0054】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通りガス分解性試験を行った。光触媒塗装体に前処理として1mW/cmのBLB光で12hr以上照射した。JIS R1701に記載の反応容器内に塗装体サンプルを1枚セットした。25℃、50%RHに調整した空気に約1000ppbになるようにNOガスを混合し、遮光した反応容器内に20分導入した。その後ガスを導入したままで3mW/cmに調整したBLB光を20分間照射した。その後ガスを導入した状態で再度反応容器を遮光した。NOx除去量は、BLB光照射前後でのNO、NO濃度から下記の式に従って計算した。
NOx除去量=[NO(照射後)−NO(照射時)]−[NO(照射時)−NO(照射後)]
【0055】
得られた結果は表3に示される通りであった。表3に示されるように、光触媒層を光触媒粒子と無機酸化物から構成し、加水分解性シリコーンを含まない構造にすると、良好なNOx分解性を示した。一方、加水分解性シリコーンが10質量部入ったものは、NOx分解性が喪失していることが分かった。また光触媒層中の光触媒比率を2.5倍に増やしてもその傾向は変わらなかった。
【0056】
【表3】


【0057】
例9、10:防藻性の評価(参考)
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスを用意した。あらかじめ加熱したガラス基材上に、表1のM−1およびM−2に記載の中間層コーティング液をスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。M−1およびM−2液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、例9、10のいずれの例においても約10μmであった。
【0058】
一方、光触媒としてのチタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水とを表2のT−21に示される配合比で混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。得られた光触媒コーティング液をあらかじめ加熱した上記中間層塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例9、10のいずれの例においても約0.5μmであった。こうして、中間層と光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。
【0059】
こうして得られた50×50mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通り防藻性試験を行った。藻の代用としてクロレラ(NIES−642)を用いた。試験中のクロレラの栄養源として無機塩培地を使用した。シャーレ内に、光触媒塗装体をおき一定量のクロレラと無機塩培地を含む水を投入し、蓋をして温度25℃±2℃の条件下で、照度4000lxの蛍光灯下で培養した。なおシャーレと蛍光灯の間に透明なアクリル板を挟み、紫外線を完全に遮断した。クロレラの繁殖は目視にて比較、判定した。
【0060】
得られた結果は表4に示される通りであった。ここで、表中の○は目視で藻の発生が認められなかったもの、×は目視で藻の発生が認められたものを表す。表4に示されるように、光触媒層を光触媒粒子と無機酸化物から構成し、実質的に加水分解性シリコーンを含まないことにより紫外線が全く無い状況においても良好な防藻性能を示すことから、光触媒の防藻、防カビ機能を補完するという目的を充分に果たせることが分かった。
【0061】
【表4】


【0062】
例11〜13:塗膜の透明性評価
光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスを用意した。光触媒としてのAg・Cu含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水とを表2のT−4、T−9、T−10に示される配合比で混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。得られた光触媒コーティング液を50×50mmの板ガラス上に1g滴下した後、1000rpmで10秒間スピンコートして塗膜の透明性試験体を得た。
【0063】
こうして得られた50×50mmの大きさの光触媒塗装体について、BYK−Gardner社製haze−gard plusにてヘイズ値を測定した。
【0064】
得られた結果は表5に示される通りであった。表5より、例11、12の光触媒塗装体はヘイズ値を1%未満に抑えることができ、透明性が確保できることが分かった。
【0065】
【表5】


【0066】
例14〜16:塗膜の密着性評価
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスに汎用のエポキシ樹脂系の下塗り剤を塗装し、乾燥したものを用意した。あらかじめ加熱したガラス基材上に、表1のM−1に記載の中間層コーティング液をスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。M−1液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、例14〜16のいずれの例においても約10μmであった。
【0067】
一方、光触媒としてのAg・Cu含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水とを表2のT−4、T−9、T−11に示される配合比で混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。得られた光触媒コーティング液をあらかじめ50℃に加熱した上記中間層塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例14〜16のいずれの例においても約0.5μmであった。こうして、中間層と光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。
【0068】
こうして得られた50×50mmの大きさの光触媒塗装体について、常温の飽和水酸化カルシウム水溶液中に18時間浸漬した。水洗い後、50℃で1時間乾燥させた後、塗膜表面にJIS Z1522に規定されるセロハンテープを貼り、垂直に瞬間的に剥がしたあと、剥離面を観察して、前後での膜の残存を確認した。
【0069】
得られた結果は表6に示される通りであった。ここで表中の○は光触媒層の剥離が全く認められなかったもの、△は光触媒層の剥離が一部認められたものを表す。例14、15の光触媒塗装体は、光触媒層が中間層に対し充分な密着性を有することが分かった。
【0070】
【表6】


【0071】
例17〜23:塗膜の耐候性評価−1
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスを用意した。あらかじめ加熱したガラス基材上に、表1のM−3に記載の中間層コーティング液に着色顔料を混合したものをスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。M−3液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、例17〜23のいずれの例においても約10μmであった。
【0072】
一方、光触媒としてのAg・Cu含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水とを表2のT−1〜T−4、T−6、T−12、T−13に示される配合比で混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。得られた光触媒コーティング液をあらかじめに加熱した上記中間層塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例17〜23のいずれの例においても約0.5μmであった。こうして、中間層と光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。
【0073】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通り耐候性試験を行った。光触媒塗装体をJIS B7753に規定されるサンシャインウェザオメーター(スガ試験機製、S−300C)に投入した。300hr経過後に試験片を取り出し、日本電色製の測色差計ZE2000にて、促進試験前後で色差を測定し、そのΔb値を比較することで変色の度合いを評価した。
【0074】
得られた結果は表7に示される通りであった。ここで、表中のGはほとんど変色しなかったことを、NGはΔb値がプラス側(黄変側)に推移したことを表す。表7に示されるように、光触媒層中の光触媒の含有量を20質量部未満にすることによって、ケイ素原子含有量が小さい中間層に光触媒層を塗装しても充分な耐候性を有することが分かった。
【0075】
【表7】


【0076】
例24、25:塗膜の耐候性評価−2
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材として亜鉛メッキ鋼板に汎用のエポキシ樹脂系の下塗り剤を塗装し、乾燥したものを用意した。表1のM−1およびM−4に記載の中間層コーティング液をスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。M−1およびM−4液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、例24、25のいずれの例においても約10μmであった。
【0077】
一方、光触媒としてのチタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水とを表2のT−4に示される配合比で混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。得られた光触媒コーティング液をあらかじめ加熱した上記中間層塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例24、25のいずれの例においても約0.5μmであった。こうして、中間層と光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。
【0078】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通り耐候性試験を行った。光触媒塗装体をメタリングウェザメーター(スガ試験機製 M6T)に投入した。150hr経過後に試験片を外観を確認した。
【0079】
中間層に、シリコーン変性樹脂の固形分に対してケイ素原子含有量が10質量%のアクリル変性シリコーン樹脂を用いた例24は、クラックの発生が認められず、外観が良好で、十分な耐候性を有することがわかった。一方、ケイ素原子含有量が16.5質量%のアクリル変性シリコーン樹脂を用いた例25では、わずかではあるが、部分的にクラックの発生が認められた。
【0080】
例26:塗膜の耐候性評価−3
基材のサイズを150×65mmとした以外は例24と同じ条件で、光触媒塗装体を作成した。この光触媒塗装体について、以下の通り耐候性試験を行った。光触媒塗装体をJIS B7753に規定されるサンシャインウェザオメーター(スガ試験機製 S−300C)に投入した。4500hr経過後に試験片を取り出し、日本電色製の測色差計ZE2000にて色差を測定し、ΔE値を算出した。また接触角計(協和界面科学製 CA−X150)にて水接触角を測定した。なおΔE値は、JIS Z8730に記載の方法に基づいて算出した。
【0081】
本発明において得られた光触媒塗装体は、サンシャインウェザオメーター4500hr経過後のΔE値が0.5、水接触角は5°以下と驚異的な耐候性と、超親水性を有することが分かった。またNOxガス分解および塗膜の密着性も、初期とほとんど同等のレベルであった。
【0082】
例27:塗膜の耐候性評価−4
例26と同一条件にて作成した光触媒塗装体について、以下の通り耐候性試験を行った。光触媒塗装体を神奈川県茅ケ崎市にて、水平から上方に向け45°の傾斜をつけた状態で南の方角に向け、屋外曝露を実施した。約500日経過後に試験片を取り出し、日本電色製の測色差計ZE2000にて色差を測定した。
【0083】
本発明において得られた光触媒塗装体は、屋外曝露を実施した約500日経過後のΔE値が0.5以下と、驚異的な防汚性を有することが分かった。
【0084】
例28〜33:銀化合物および銅化合物による抗カビ性の評価−1
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスを用意した。あらかじめ加熱したガラス基材上に、表1のM−2に記載の中間層コーティング液をスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。M−2液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、例28〜33のいずれの例においても約10μmであった。
【0085】
一方、光触媒としてのチタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水とを表2のT−4、T−14〜T−17およびT−21に示される配合比で混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。なお、例28〜32においては、銀化合物と銅化合物の配合比を調整したAg・Cu含有チタニア水分散体を使用し(ただし、例31は全て銅化合物、例32は全て銀化合物)、例33においては銀化合物および銅化合物を含まないチタニア水分散体を使用した。
【0086】
得られた光触媒コーティング液をあらかじめ加熱した上記中間層塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例28〜33のいずれの例においても約1μmであった。こうして、中間層と光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。これら光触媒塗装体の前処理として1mW/cmのBLB光を24時間照射したのち、下記した抗カビ性試験を行った。
【0087】
こうして得られた50×50mmの大きさの光触媒塗装体について、以下の通り抗カビ性の評価を行った。試験菌としてポテトデキストロース寒天培地で、25℃で7〜14日前培養したAspergillus niger(NBRC6341)を用い、これを0.005重量%のスルホコハク酸ジオクチルナトリウムを含む生理食塩水中に分散させ胞子懸濁液を作成した。
【0088】
上記方法にて得られた光触媒塗装体に、前記胞子懸濁液を、試験片1枚あたり4〜6×10個/mLになるよう滴下し、抗カビ試験片とした。この試験片に、JIS R1702(2006)に記載のフィルム密着法に準じ、密着フィルムをかぶせ、保湿可能なシャーレ内に設置し、保湿ガラスを載せて試験に用いた。
【0089】
前記試験片をシャーレごとBLB光照射下に設置し、光触媒塗装体面で0.4mW/cmになるようBLB光を24時間照射した。
【0090】
24時間照射後、胞子懸濁液を回収し、ポテトデキストロース寒天培地で培養し、生残菌数を計測した。抗カビ性は、例28〜33によって得られた生残菌数の対数値と、同様の試験を実施した光触媒未加工の試験体の生残菌数の対数値の差を求めることによって得た。
【0091】
試験結果を表8に示した。ここで、表中の抗カビ活性値とは例28〜33によって得られた生残菌数の対数値と光触媒未加工の試験体の生残菌数の対数値との差の値であり、数値が大きいほど抗カビ性が高いことを示している。抗カビ活性値が、Ag・Cu含有チタニア水分散体を用いて作製した例において、銀化合物のみや銅化合物のみを添加した例に比べて高い値となっており、銀化合物と銅化合物とを混合することで高い抗カビ性能を得ることが確認できた。
【0092】
【表8】


【0093】
例34、35:銀化合物および銅化合物による抗カビ性の評価−2
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスを用意した。あらかじめ加熱したガラス基材上に、表1のM−2に記載の中間層コーティング液をスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。M−2液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、例34および例35のいずれにおいても約10μmであった。
【0094】
一方、光触媒としてのAg・Cu含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水とを表2のT−18およびT−20に示される配合比で混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。
【0095】
得られた光触媒コーティング液を、例28〜33と同様の方法で製膜し、例34および例35の光触媒体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例34および例35のいずれの例においても約1μmであった。この光触媒体について、例28〜33と同様の方法にて抗カビ性の評価を行った。
【0096】
試験結果を表9に示した。また例29の抗カビ活性値も表9にしめした。酸化チタン粒子に対して[Ag2O+CuO]量が0.5質量%、3質量%および5質量%のいずれにおいても、高い抗カビ性能を得ることが確認できた。
【0097】
【表9】


【0098】
例36、37:銀化合物および銅化合物による抗カビ性の評価−3
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスを用意した。あらかじめ加熱したガラス基材上に、表1のM−1およびM−2に記載の中間層コーティング液をスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。M−1またはM−2液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、例36および例37のいずれにおいても約10μmであった。
【0099】
一方、光触媒としてのAg・Cu含有チタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカと、溶媒として水とを表2のT−19に示される配合比で混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。
【0100】
得られた光触媒コーティング液を、例28〜33と同様の方法で製膜し、例36の光触媒体を得た。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、例36および例37のいずれにおいても約1μmであった。この光触媒体について、例28〜33と同様の方法にて抗カビ性の評価を行った。
【0101】
試験結果を表10に示した。中間層に有機防カビ剤が含まれている例37においては、防カビ剤による効果が相乗され、抗カビ活性値がさらに大きくなった。
【0102】
【表10】


【0103】
例38、39:耐光性評価
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスを用意した。あらかじめ加熱したガラス基材上に、表1のM−2およびM−5に記載の中間層コーティング液をスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。このM−2およびM−5液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、例38、39のいずれの例においても約10μmであった。
【0104】
こうして得られた50×50mmの大きさの中間層塗装体について、300〜400nmの紫外線の透過率の測定を紫外・可視・近赤外分光光度計(島津製作所製 UV−3150)を用いて行った。
【0105】
得られた結果は図1に示される通りであった。紫外線吸収剤を添加した例38において、300〜400nmの紫外線透過率は10%以下となり、紫外線を十分に遮蔽することが確認できた。
【0106】
例40:ガス分解性の評価−2
中間層および光触媒層を備えた光触媒塗装体を以下の通り製造した。まず、基材としてフロート板ガラスを用意した。あらかじめ加熱したガラス基材上に、表1のM−1に記載の中間層コーティング液をスプレーコートし、120℃で乾燥し中間層を得た。このM−1液中の樹脂の固形分濃度は約20質量%であった。走査型電子顕微鏡観察により中間層の膜厚を測定したところ、約10μmであった。
【0107】
一方、光触媒としてのチタニア水分散体と、無機酸化物としての水分散型コロイダルシリカとを、表2のT−4に示される配合比で水および1−プロパノールと混合して、加水分解性シリコーンを含有しない光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の、光触媒および無機酸化物の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。なお、この光触媒コーティング液は界面活性剤を添加する代わりに1−プロパノールを光触媒コーティング液に対して20質量%となるように配合した。得られた光触媒コーティング液をあらかじめ加熱した上記中間層塗装体上にスプレー塗布し、120℃で乾燥した。走査型電子顕微鏡観察により光触媒層の膜厚を測定したところ、約0.5μmであった。こうして、中間層と光触媒層を形成させて、光触媒塗装体を得た。
【0108】
こうして得られた50×100mmの大きさの光触媒塗装体について、例4と同様の方法でガス分解性試験を行ったところ、例4と同等の結果となった。

【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】例38、39において測定された、300〜400nmの紫外線の透過率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に設けられる中間層と、該中間層上に設けられる光触媒層とを備えた光触媒塗装体であって、
前記中間層は有機防カビ剤および紫外線吸収剤を含んでなり、
前記光触媒層が、
1質量部以上20質量部未満の光触媒粒子と、
70質量部を超え99質量部以下の無機酸化物粒子と、
0質量部以上10質量部未満の加水分解性シリコーンと
を、前記光触媒粒子、前記無機酸化物粒子、および前記加水分解性シリコーンの合計量が100質量部となるように含み、さらに銅元素および銀元素を含んでなる、光触媒塗装体。
【請求項2】
前記無機酸化物の平均粒子径が、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定することにより算出される、5nmを超え40nm未満の個数平均粒径を有する、請求項1に記載の光触媒塗装体。
【請求項3】
前記光触媒粒子が酸化チタンである、請求項1または2に記載の光触媒塗装体。
【請求項4】
前記無機酸化物粒子がシリカである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光触媒塗装体。
【請求項5】
前記中間層がシリコーン変性樹脂を含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光触媒塗装体。
【請求項6】
外装材として用いられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光触媒塗装体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の光触媒塗装体の製造に用いられる光触媒コーティング液であって、溶媒中に、
1質量部以上20質量部未満の光触媒粒子と、
70質量部を超え99質量部以下の無機酸化物粒子と
0質量部以上10質量部未満の加水分解性シリコーンとを、
前記光触媒粒子、前記無機酸化物粒子、および前記加水分解性シリコーンの合計量が100質量部となるように含み、さらに銅元素および銀元素を含んでなる、光触媒コーティング液。
【請求項8】
前記無機酸化物の平均粒子径が、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定することにより算出される、5nmを超え40nm未満の個数平均粒径を有する、請求項7に記載の光触媒コーティング液。
【請求項9】
前記光触媒粒子が酸化チタン粒子である、請求項7または8に記載の光触媒コーティング液。
【請求項10】
前記無機酸化物粒子が、シリカ粒子である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の光触媒コーティング液。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載された光触媒塗装体の製造に用いられる中間層を形成するためのコーティング液であって、溶媒と、シリコーン変性樹脂と、有機防カビ剤および紫外線吸収剤とを含んでなる、コーティング液。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載された光触媒塗装体の製造に用いられるコーティング液の組み合わせであって、請求項7〜10のいずれか一項に記載の光触媒コーティング液と、請求項11に記載の中間層を形成するためのコーティング液との組み合わせ。
【請求項13】
外装材用のコーティングのための、請求項12に記載のコーティング液の組み合わせ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−285534(P2009−285534A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138187(P2008−138187)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】