説明

光触媒塗装体の形成方法

【課題】 既存の建築基材の表面に短期間で形成でき、良好な光触媒性親水機能、耐水性、耐候性を、長期に亘り維持しうる光触媒塗装体の形成方法を提供すること。
【解決手段】 基材上に、セメント及び/又は消石灰を含有するパテを塗装する工程と、前記パテが完全に乾燥する前にエポキシ樹脂を含有する第一の水性コート液をその上から塗布する工程と、シリコーン変性樹脂を含有する第二の水性コート液をさらにその上から塗布する工程と、さらにその上に光触媒粒子を含有する第三の水性コート液をさらにその上から塗布して光食害層を形成する工程とを含んでなる、前記光触媒粒子の光励起により親水性を呈する光触媒塗装体の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒塗装体の形成方法に関する。特に、既設の基材に短期間で光触媒層を形成でき、かつ優れた光触媒機能、耐水性、耐候性を有する光触媒層を形成可能な光触媒塗装体の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンなどの光触媒が、近年広く利用されている。光触媒の光エネルギーにより励起された活性を利用して、種々の有害物質を分解したり、あるいは光触媒粒子を含む表面層が形成された部材表面を親水化して、表面に付着した汚れを容易に水で洗い流したりすることが可能となる。
【0003】
このような光触媒塗装体は、例えば、光触媒を含むコーティング組成物を基材に適用し、コーティング組成物を乾燥、さらには焼成して形成される。既設の基材、例えば外壁に光触媒塗装しようとすると比較的長い工期がかかるという課題があった。すなわち、既設の基材に光触媒塗装しようとすると、以下の工程を必要とした。
【0004】
(1)洗浄工程
既設の基材の表面は種々の状態にある。例えば特開平10−337526号公報(特許文献1)に示されるように、既設のエアコン室外機では難溶性カルシウム塩に起因する汚れが付着している場合が多い。また、窓ガラス、窓枠、外壁ではシリコーンシーリング材に起因する汚れが付着している場合が多い。そのような表面に光触媒塗装を行おうとする場合、汚れの種類により洗剤、研磨剤等を使い分けて汚れを除去して、均一な塗膜ができる表面状態とする必要がある。
【0005】
(2)不陸処理工程
また、既設の基材には、表面に凹凸があることが多いことから、現場での下塗りによる不陸処理を必要とする。
【0006】
(3)下塗りの養生工程
下塗りの十分な乾燥のためには、長い養生期間を必要とする。光触媒塗装において上塗りの光触媒層を透明にしたい場合、上塗りの光触媒層を非常に薄く(例えば、膜厚3μm未満)形成する必要がある。光触媒粒子の下層への沈み込みを防止するためには、下塗りは十分に乾燥させる必要があり、そのためには長い養生期間が必須となる。例えば、セメント及び/又は消石灰を含有するパテを下塗りした場合には、一般的には7〜14日程度外気温で放置し、十分に乾燥させる必要がある。
【0007】
(4)中塗り工程
光触媒による下塗りや基材の酸化を防止するため、シリコーン系材料等の光触媒耐蝕成分を含むバインダー層を形成することが行われている(特開平7−171408号公報(特許文献2))。
【0008】
(5)上塗り工程
以上の工程を経た基材上に光触媒を含む光触媒を含むコーティング組成物を適用し、光触媒層を形成する。透明な光触媒層を形成する場合には、膜厚は非常に薄くすることが必要であり、例えば3μm未満の光触媒層を形成する。
【0009】
このように既設の基材、例えば外壁に光触媒塗装しようとすると比較的長い工期がかかり、より短時間で良好な光触媒層が得られる光触媒塗装体の形成方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−337526号公報
【特許文献2】特開平7−171408号公報
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは、今般、基材に光触媒層を形成するに際し、セメント及び/又は消石灰を含有するパテを塗布し、パテが完全に乾燥する前にエポキシ樹脂を含有する水性コート液をその上から塗装し、さらにその上にシリコーン変性樹脂を含有する層を形成することで、良好な性能の光触媒層を形成可能な下地処理が短時間で可能であることを見出した。このような下地処理層の上に設けられた光触媒層良好な光触媒性親水機能、耐水性、耐候性を有し、それを長期に亘り維持しうることを見出した。
【0012】
したがって、本発明は、基材の表面に、良好な光触媒性親水機能、耐水性、耐候性を、長期に亘り維持しうる光触媒層を有した光触媒塗装体を短時間で形成可能な方法の提供をその目的としている。
【0013】
そして、本発明による光触媒塗装体の形成方法は、基材上に、セメント及び/又は消石灰を含有するパテを塗装する工程と、前記パテが完全に乾燥する前にエポキシ樹脂を含有する第一の水性コート液をその上から塗布する工程と、シリコーン変性樹脂を含有する第二の水性コート液をさらにその上から塗布する工程と、さらにその上に光触媒粒子を含有する第三の水性コート液をさらにその上から塗布して光触媒層を形成する工程とを含んでなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明による光触媒塗装体の形成方法によれば、基材、特に凹凸等のある既存の基材の表面に短期間に光触媒層を形成でき、得られた光触媒塗装体は良好な光触媒性親水機能、耐水性、耐候性を有し、かつそれを長期に亘り維持しうるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
光触媒塗装体の形成方法
本発明による方法によれば、短時間で、良好な下塗り層が得られ、その上に設けられた光触媒層は良好な光触媒性親水機能、耐水性、耐候性を有し、かつそれを長期に亘り維持しうる。
【0016】
このような効果が得られる理由は定かではないが、それは以下の通りと考えられる。しかし、以下の説明はあくまで仮説であり、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。すなわち、セメント及び/又は消石灰を含有するパテを利用することで既設の基材の洗浄工程を省略できるとともに凹凸等のある建築基材であっても簡便に不陸処理できる。さらに、上記パテが完全に乾燥する前にエポキシ樹脂を含有する第一の水性コート液をその上から塗装することで、パテに上記水性コート液が充分な量浸透して、パテが高いエポキシ樹脂充填率を持つものとなり、かつエポキシ樹脂の硬化にともないパテは比較的速やかに硬化する。そのため、パテに通常必要とする養生の時間を経なくとも、その後に光触媒粒子を含むコート液を塗布しても光触媒粒子がパテ内に沈み込むことがない。その結果、良好な光触媒層が形成できるものと考えられる。また、パテにエポキシ樹脂が十分な量充填されていることから、パテも使用にあたり充分な耐水性を有するものとなる。さらに、パテと光触媒層との間に第二の水性コート液によるシリコーン変性樹脂を含有する層が介在することで、エポキシ樹脂の光触媒による酸化を長期に亘り抑制することができる。また、上記パテ、第一の水性コート、および第二の水性コートから形成される介在層が基材と光触媒層とも間に存在することで、基材から光触媒の機能を阻害する成分がしみ出す(ブリード)おそれが存在する場合にも、この介在層がその成分のしみ出しを防ぎ、その結果長期に亘り光触媒層の活性を維持できるものと考えられる。
【0017】
基材
本発明による方法が適用可能な基材は、その上に光触媒層を形成可能な材料であれば無機材料、有機材料を問わず種々の材料であってよく、その形状も特に限定されないが、本発明による方法は、既設の基材、特に吸水性のある多孔質の基材や凹凸のある基材に対して好ましく適用可能である。ここで既設の基材とは、例えば、既に自立して存在している建築構造物およびその付属物を意味し、さらなる具体例としては後記する物が挙げられる。
【0018】
材料の観点からみた基材の好ましい例としては、金属、セラミック、ガラス、樹脂、ゴム、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、木、紙、それらの組合せ、それらの積層体、それらの表面に少なくとも一層の被膜を有するものが挙げられる。
【0019】
用途の観点からみた基材の好ましい例としては、建材、建物外装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用遮音壁、鉄道用遮音壁、橋梁、ガードレ−ルの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、屋外用照明器具、台及び上記物品表面に貼着させるためのフィルム、シート、シール等といった外装材全般が挙げられる。外装材においては、太陽光と降雨を利用して親水セルフクリーニング機能が発揮される。
【0020】
パテおよびその塗布
本発明による方法に用いられるパテは、セメント及び/又は消石灰を含有するものである。パテは、通常は、セメント及び/又は消石灰を水に分散させてペースト状としたものを意味する。本発明による方法にあっては、まず、このパテを基材に塗布する。塗布の方法は特に限定されず、一般的にセメント及び/又は消石灰を含有するパテを塗布するのに用いられる手法、例えばコテ塗りなどによりおこなわれてよい。
【0021】
第一の水性コート液およびその塗布
本発明による方法にあっては、次にエポキシ樹脂を含有する第一の水性コート液を、上述の基材上のパテが完全に乾燥する前に、その上に塗布する。ここで、パテが完全に乾燥する前とは、パテが湿った状態にあることを意味し、例えばその塗布直後であってもよく、また、外気温で1日〜3日程度放置した後であっても良い。
【0022】
完全に乾燥する前のパテに塗布されたエポキシ樹脂は、パテの層に浸透して、パテを構成するセメント及び/又は消石灰の粒子間に入り込む。パテの層中の前記エポキシ樹脂の含有比率は適宜決定されてよいが、5%以上100%未満であることが好ましく、より好ましい下限値は10%である。この範囲にエポキシ樹脂の含有比率があることで、パテ層を十分に補強し、気温の変化にともない塗装体が膨張・収縮を繰り返しても、塗膜表面にクラックを生じさせたり、剥離が発生することがない。
【0023】
第一の水性コート液へのエポキシ樹脂の添加形態としては、好ましくはエポキシ樹脂エマルション及び/又は水溶性エポキシ樹脂水溶液として添加することができる。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、エポキシ樹脂として、好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることができる。
【0025】
本発明の一つの好ましい態様によれば、第一の水性コート液は、エポキシ樹脂に加えて樹脂成分を含むことができ、その好ましい例としては水溶性アクリル樹脂、水溶性アクリルアミド樹脂が挙げられ、これらはエマルジョンまたは樹脂水溶液として添加されてよい。その添加量はエポキシ樹脂との総量に対して1〜99質量部程度が好ましい。
【0026】
本発明において、第一の水性コート液中の乾燥時に固形化する成分の濃度は適宜決定されてよいが、5質量%以上40質量%以下が好ましく、より好ましくは下限が10質量%以上であり、上限が30%質量%以下である。上記範囲にあることでパテ層の補強が十分に得られる。特に上記範囲にあることで水性コート液の粘度がパテ層への浸透に好ましいものとなる点で有利である。
【0027】
本発明において第一の水性コート液は、エポキシ樹脂を適当な溶媒に溶解または分散させて得ることができる。この溶媒としては、水を主成分とするものが好ましく、アルコール系、エチレングリコール系、プロピレングリコール系等の水に任意に溶解する有機溶媒を含んでもよい。
【0028】
本発明の一つの好ましい態様によれば、第一の水性コート液は、有機防カビ剤、界面活性剤、造膜助剤、着色顔料、体質顔料、顔料分散剤、消泡剤の塗料用添加剤を含んでいてもよい。
【0029】
第一の水性コート液のパテの層への塗布方法は、特に限定されないが、例えば刷毛塗り、ロールコート、スプレー、バーコート、フローコート等の方法を用いることにおこなわれてよい。塗布後は、常温で乾燥させればよいが、必要に応じて加熱乾燥してもよく、これによりエポキシ樹脂を硬化させる。
【0030】
第二の水性コート液およびその塗布
本発明による方法にあっては、上記第一の水性コート液が塗布された後に、その上にシリコーン変性樹脂を含有する第二の水性コート液を塗布する。第一の水性コート液が塗布されたパテの層は、エポキシ樹脂が十分に硬化していれば、その上に第二の水性コート液を塗布してよい。
【0031】
本発明において第二の水性コート液が含むシリコーン変性樹脂は、ケイ素原子含有量が、シリコーン変性樹脂の固形分に対して0.2質量%以上16.5質量%未満が好ましく、より好ましくはその下限が6.5質量%以上であり、その上限が16.5質量%未満である。シリコーン変性樹脂に含有されるケイ素原子含有量が0.2質量%以上であることにより、光触媒耐蝕性が充分に発揮され、16.5質量%未満であることにより可とう性が充分になり、塗膜のクラック生成をより抑制できる。ここで、前記シリコーン変性樹脂中のケイ素原子含有量は、X線光電子分光分析装置(XPS)による化学分析によって測定することができる。
【0032】
本発明において、シリコーン変性樹脂としては、樹脂中にポリシロキサンを含むシリコーン変性アクリル樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性ウレタン樹脂、シリコーン変性ポリエステル等が、耐候性の点から好ましく用いられる。
【0033】
本発明において第二の水性コート液は、シリコーン変性樹脂を適当な溶媒に溶解または分散させることによって得ることができる。この溶媒としては、水を主成分とするものが好ましく、アルコール等の有機溶媒を含んでもよい。
【0034】
本発明において、第二の水性コート液中の乾燥時に固形化する成分の濃度は10質量%以上60質量%以下が好ましい。
【0035】
本発明の一つの好ましい態様によれば、第二の水性コート液は、有機防カビ剤、界面活性剤、造膜助剤、着色顔料、体質顔料、顔料分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、艶消し剤、フィラー等の塗料用添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
第二の水性コート液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば刷毛塗り、ロールコート、スプレー、バーコート、フローコート等の方法を用いることが可能である。塗布後は、常温で乾燥させればよいが、必要に応じて加熱乾燥してもよい。本発明の好ましい態様によれば、第二の水性コート液による塗膜の膜厚は、5μm以上50μm以下とするのが好ましい。
【0037】
第三の水性コート液およびその塗布
本発明による方法にあっては、上記第二の水性コート液が塗布された後に、その上に光触媒粒子を含有する第三の水性コート液を塗布する。第二の水性コート液による塗膜は乾燥していることが好ましい。
【0038】
本発明において第三の水性コーティング液が含む光触媒粒子は、光触媒活性を有する粒子であれば特に限定されないが、その好ましい例としては、酸化チタン(TiO)、ZnO、SnO、SrTiO、WO、Bi、Feのような金属酸化物の粒子が挙げられ、より好ましくは酸化チタン粒子、最も好ましくはアナターゼ型酸化チタン粒子である。また、酸化チタンはバンドギャップエネルギーが高く、従って、光励起には紫外線を必要とし、光励起の過程で可視光を吸収しないので、補色成分による発色が起こらない点で有利である。酸化チタンは、粉末状、ゾル状、溶液状など様々な形態で入手可能であるが、光触媒活性を示すものであれば、いずれの形態でも使用可能である。
【0039】
本発明の好ましい態様によれば、光触媒粒子は10nm以上100nm以下の平均粒径を有するのが好ましく、より好ましくは10nm以上60nm以下である。なお、この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が好ましいが、略円形や楕円形でもよく、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。
【0040】
本発明の第三の水性コート液には、さらにバインダーを含むことができる。バインダーとしては、無機酸化物粒子、シリコーン、アルカリシリケート、アルキルシリケート等が好適に利用できる。
【0041】
バインダーとしての無機酸化物粒子の好ましい例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、イットリア、ボロニア、マグネシア、カルシア、フェライト、無定型チタニア、ハフニア等の単一酸化物の粒子;およびチタン酸バリウム、ケイ酸カルシウム等の複合酸化物の粒子が挙げられ、より好ましくはシリカ粒子である。
【0042】
本発明の一つの好ましい態様によれば、バインダーとしての無機酸化物粒子の粒径は、平均粒径が5nmを超え100nm以下であることが好ましく、より好ましくは下限が10nm以上であり、上限が50nm以下である。なお、この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が最も良いが、略円形や楕円形でも良く、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。
【0043】
本発明の一つの好ましい態様によれば、バインダーのシリコーンは、エマルション又はコロイダルディスパージョンの形態をとるのが好ましい。
【0044】
本発明において第三の水性コート液は、光触媒粒子を適当な溶媒に分散させることによって得ることができる。この溶媒としては、水を主成分とするものが好ましく、アルコール等の有機溶媒を含んでもよい。
【0045】
本発明において、第三の水性コート液中の乾燥時に固形化する成分の濃度は1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0046】
本発明の一つの好ましい態様によれば、第三の水性コート液は、有機防カビ剤、界面活性剤、造膜助剤、着色顔料、体質顔料、顔料分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、艶消し剤、フィラー等の塗料用添加剤を含んでいてもよい。
【0047】
第三の水性コート液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば刷毛塗り、ロールコート、スプレー、バーコート、フローコート等の方法を用いることが可能である。塗布後は、常温で乾燥させればよいが、必要に応じて加熱乾燥してもよい。本発明の好ましい態様によれば、第三の水性コート液による光触媒層の膜厚は、3μm以下が透明性確保の観点から好ましく、さらに良好な光触媒機能を発揮するためには0.1μm以上3μm以下が好ましい。
【0048】
光触媒塗装体
上記のようにして得られた光触媒塗装体は、光触媒層の光触媒粒子が光エネルギーにより励起され、分解作用または親水化作用を発揮する。これら作用により、種々の有害物質を分解したり、あるいは親水化により表面に付着した汚れを容易に水で洗い流したりすることが可能となる。本発明の好ましい態様によれば、光触媒塗装体は、その表面が水との接触角に換算して20°未満とされる。このような光触媒による高度の親水性により、降雨や水洗による充分なセルフクリーニング機能を発揮することができる。
【実施例】
【0049】
(試料)
パテの調製
白セメント100部、消石灰33部、炭酸カルシウム115部、および可撓性樹脂粉3部を混練し、続いて水125部を混合して撹拌することによりパテを得た。
【0050】
第一の水性コート液1の調製
ビスフェノールA型エポキシ樹脂エマルション100部に水127部を混合し、撹拌することにより固形分濃度が15%である組成物を得た。
【0051】
第一の水性コート液2の調製
ビスフェノールA型エポキシ樹脂エマルション100部に、アクリル樹脂エマルション340部、造膜助剤34部、水127部を混合し、撹拌することにより固形分濃度が15%である組成物を得た。
【0052】
第一の水性コート液3の調製
ビスフェノールA型エポキシ樹脂エマルション100部に、水溶性アクリルアミド樹脂水溶液907部、水693部を混合し、撹拌することにより固形分濃度が10%である組成物を得た。
【0053】
第一の水性コート液4の調製
アクリル樹脂エマルション100部、造膜助剤10部、水175部を混合し、撹拌することにより固形分濃度が15%である組成物を得た。
【0054】
第一の水性コート液5の調製
水溶性アクリルアミド樹脂水溶液100部、水50部を混合し、撹拌することにより固形分濃度が10%である組成物を得た。
【0055】
第二の水性コート液6の調製
シリコーン変性アクリル樹脂ディスパージョン(固形分濃度40%)100部、顔料酸化チタン水分散体(固形分濃度65%)41部、造膜助剤6部、水20部を混合し、撹拌することにより固形分濃度が40%である組成物を得た。塗装時は硬化剤を混合して使用した。
【0056】
第三の水性コート液7の調製
光触媒としてチタニア水分散体(平均粒子径:30〜60nm)と無機酸化物として水分散型コロイダルシリカ(平均粒子径:20〜30nm)と水とを混合し、固形分濃度が5.5質量%、コロイダルシリカ含有量が固形分中90質量%、光触媒含有量が固形分中10質量%である組成物を得た。これに更に、第三の水性コート液を塗装する際に基材への濡れ性が良好となるようにノニオン系界面活性劑を水性コート液100質量部に対して0.3質量部混合して、第三の水性コート液を得た。
【0057】
(試験体の作成)
フレキシブルボードにパテを1mm厚でコテを用いて塗装して、室温下で3日間放置した。次いで第一の水性コート液を、ローラーブラシを用いて塗布量が100〜150g/mになるように塗装した。室温下で1日放置した。更に第二の水性コート液をローラーブラシにより塗布量が2回塗合計で200〜240g/mとなるように塗装し室温下1日放置後、第三の水性コート液をスプレーにより塗布量が10〜20g/mになるように塗装した。室温下で7日間放置することにより試験体を得た。
【0058】
(密着試験)
試験体上、パテ層にまで達するX状の切傷(Xカット)をカッターナイフで付け、その上にセロハン粘着テープをはり付けて剥がし、残存塗膜の状態により付着性の優劣を調べた。その結果を、次の基準で評価した。
評価○:剥がれなし
評価×:剥がれあり
【0059】
(温冷サイクル試験)
試験体をJISA6909.6.11温冷繰り返し試験に準じて試験を行い、塗膜の膨れ、剥がれ、クラックの状態を目視にて観察した。その結果を、次の基準で評価した。
評価◎:膨れ、剥がれなし。15倍ルーペ観察でクラックは確認できない。
評価○:膨れ、剥がれなし。目視でクラック確認できないが、15倍ルーペ観察でわずかに確認できる。
評価×:膨れ、剥がれあり。目視でクラックが確認できる。
【0060】
第一の水系コート液における樹脂の固形分の質量比を表1に、密着試験および温冷繰り返し試験の結果を表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
さらに、上記実施例1〜3について、JIS B7753に規定されるサンシャインウエザオメーター(スガ試験機製、S−300C)に投入し、150時間後に取り出した後の水との接触角および外観を観察した。その結果、水との接触角はいずれも10°未満となった。また、試験前後での外観変化も目視上認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、セメント及び/又は消石灰を含有するパテを塗布する工程と、
前記パテが完全に乾燥する前にエポキシ樹脂を含有する第一の水性コート液をその上から塗布する工程と、
シリコーン変性樹脂を含有する第二の水性コート液をさらにその上から塗布する工程と、
さらにその上に光触媒粒子を含有する第三の水性コート液をさらにその上から塗布して光触媒層を形成する工程と
を含んでなることを特徴とする、光触媒塗装体の形成方法。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂が、エポキシ樹脂エマルション及び/又は水溶性エポキシ樹脂水溶液の形態で前記第一の水性コート液に添加されてなる、請求項1に記載の光触媒塗装体の形成方法。
【請求項3】
前記光触媒層の表面が、前記光触媒粒子の光励起により親水性を呈する、請求項1または2に記載の光触媒塗装体の形成方法。
【請求項4】
前記光触媒層の表面が、水との接触角に換算して20°未満の親水性を呈する、請求項3に記載の光触媒塗装体の形成方法。
【請求項5】
前記光触媒層の膜厚が3μm未満である、請求項1乃至4のいずれか一1項に記載の光触媒塗装体の形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法により形成された、光触媒塗装体。

【公開番号】特開2012−232223(P2012−232223A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100335(P2011−100335)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】