説明

光触媒担持セラミックフォームおよびその劣化度判断方法

【課題】硫化水素やアンモニア等の有害ガスの脱臭に使用される光触媒担持セラミックフォームにおいて、光触媒の劣化の程度を簡便に判断することができる光触媒担持セラミックフォームおよびその劣化の程度の簡易的な判断方法を提供する。
【解決手段】硫化水素またはアンモニア分解能を有する光触媒の表面に銅イオンが含まれている光触媒担持セラミックフォームにおいて、前記銅イオンの反応生成物の色の濃淡度を指標として、光触媒の劣化度を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素やアンモニア等の有害ガスの分解・除去能を有する光触媒を担持したセラミックフォームおよびその劣化度を判断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、福祉・医療施設、ホテル等の宿泊関連施設、レストラン等の比較的大型の商業・サービス施設等の不特定多数の者が利用し、臭いが気になるような場所においては、エアコンやダクト内等に脱臭装置等が用いられている。また、近年、家庭用のエアコンや空気清浄機等においても、脱臭フィルタが設けられているものが増えている。
【0003】
上記の脱臭フィルタの形態としては、通常、紙や不織布等に活性炭やセラミックス等を吸着させたひだ折りシート状のものが一般的であった。
例えば、特許文献1には、酸化チタン系光触媒で被覆されたガラス繊維等からなる繊維集合体に、抗菌性付与等の目的で銀や銅等の金属をドープしたり、着色したりしたもの等が開示されている。
【0004】
また、シリカ等の無機バインダを添加した酸化チタン系光触媒が表面に担持されたアルミナ等からなるセラミックフォーム等も、比較的大型の脱臭装置等には用いられている。
このような光触媒を担持しているセラミックフォームは、臭い成分や粒子を吸着するだけでなく、光を照射した際の光触媒作用により、有害成分を分解・除去することができるものであり、従来の活性炭等による吸着フィルタよりも優れた機能を有している。
【特許文献1】特開2002−292288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、光触媒担持セラミックフォームは、その光触媒作用を利用して脱臭機能を発揮するものであるため、基本的には、メンテナンスは不要である。
しかしながら、硫化水素ガスの脱臭を目的として使用する場合、硫化水素の分解後に生じた硫酸イオンが触媒毒となり、光触媒が劣化するという課題を有していた。
同様に、アンモニアガスの脱臭の際にも、アンモニアの分解後に生じた硝酸イオンが触媒毒となり、光触媒が劣化するという課題を有していた。
【0006】
上記のような光触媒の劣化の程度は、実際に、使用している光触媒担持セラミックフォームを取り出して分析評価を行なわなければ、判断することが困難であった。
したがって、上記のような態様で光触媒担持セラミックフォームを使用する場合において、その光触媒の劣化の程度を簡便に判断することができる方法が求められていた。
【0007】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、硫化水素やアンモニア等の有害ガスの脱臭に使用される光触媒担持セラミックフォームにおいて、光触媒の劣化の程度を簡便に判断することができる光触媒担持セラミックフォームおよびその劣化の程度の簡易的な判断方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光触媒担持セラミックフォームは、銅イオンが表面に含まれている光触媒を担持していることを特徴とする。
このようなセラミックフォームは、下記のような有害ガスの分解・除去に使用される場合、その劣化度の簡易的な判断を行う上で好適に用いることができる。
【0009】
また、本発明に係る光触媒担持セラミックフォームの劣化度判断方法は、硫化水素分解能を有する光触媒の表面に銅イオンが含まれている光触媒担持セラミックフォームにおいて、硫化水素と銅イオンとの反応により生成した硫化銅の黒色の濃淡度を指標とすることを特徴とする。
この方法によれば、硫化水素ガス脱臭において、銅イオンに由来する着色によって、目視で光触媒の劣化度が確認できるため、煩わしい分析評価を行わずに、簡易的な劣化度の判断を行なうことができる。
【0010】
また、本発明に係る他の態様の光触媒担持セラミックフォームの劣化度判断方法は、アンモニア分解能を有する光触媒の表面に銅イオンが含まれている光触媒担持セラミックフォームにおいて、アンモニアと銅イオンとの反応により生成したテトラアンミン銅錯体の深青色の濃淡度を指標とすることを特徴とする。
上記と同様に、アンモニア脱臭においても、光触媒の劣化度を簡易的に判断することができる。
【発明の効果】
【0011】
上述したとおり、本発明に係る光触媒担持セラミックフォームは、硫化水素やアンモニア等の有害ガスの分解・除去に使用される際、その光触媒の劣化度を簡便に判断する上で好適に用いることができる。
すなわち、本発明に係る光触媒担持セラミックフォームの劣化度判断方法によれば、銅イオンに由来する着色によって、目視で光触媒の劣化度が確認できるため、煩わしい分析評価を行わずに、簡易的な劣化度の判断を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明に係る光触媒担持セラミックフォームは、銅イオンが表面に含まれている光触媒を担持しているものである。
本発明におけるセラミックフォームは、主に、脱臭フィルタとして使用されるものであり、光触媒の作用により、有害ガスを分解・除去する際に、前記銅イオンが、それを含む光触媒の性能劣化を検知するセンサーとしての役割を果たす。
【0013】
前記銅イオンを添加する際の化合物の種類、形態等は、特に、限定されるものではないが、その色が、本発明における光触媒の劣化度の判断指標となるため、色の濃い銅化合物を用いることは好ましくない。
例えば、光触媒担持セラミックフォームに、硫酸銅水溶液を含浸させた後、乾燥することにより、光触媒表面に銅イオンを添加することができる。
【0014】
また、銅イオンの添加量は、前記判断指標としての色の変化が観察できる程度であることが好ましい。ただし、添加量が多すぎると、光触媒に照射光度が低下し、光触媒能が十分に発揮されなくなるため、光触媒能を損なわない程度の範囲とする。
【0015】
上記のような光触媒担持セラミックフォームを用いたその劣化度の判断方法は、硫化水素ガスの脱臭を行う場合、硫化水素と銅イオンとの反応により生成した硫化銅の黒色の濃淡度を指標として判断する。
光触媒能が十分に発揮される状態にある場合には、硫化水素は、光触媒により酸化され、硫酸イオンになる。この硫酸イオンは触媒毒となり、光触媒能を低下させる。
光触媒能が低下すると、分解しきれなくなった硫化水素が銅イオンと反応し、硫化銅となる。硫化銅は、黒色を呈するため、その色の濃淡により、光触媒の劣化の程度を判断することができる。すなわち、黒色が濃くなるほど、光触媒の劣化度は著しいことを示す。
【0016】
また、上記のような光触媒担持セラミックフォームを用いて、アンモニアガスの脱臭を行う場合は、アンモニアと銅イオンとの反応により生成したテトラアンミン銅錯体の深青色の濃淡度を指標として判断する。
光触媒能が十分に発揮される状態にある場合には、アンモニアは、光触媒により酸化され、硝酸イオンになる。この硝酸イオンは触媒毒となり、光触媒能を低下させる。
光触媒能が低下すると、分解しきれなくなったアンモニアが銅イオンと反応し、テトラアンミン銅錯体となる。テトラアンミン銅錯体は、深青色を呈するため、その色の濃淡により、光触媒の劣化の程度を判断することができる。すなわち、青色が濃くなるほど、光触媒の劣化度は著しいことを示す。
【0017】
本発明に係る光触媒担持セラミックフォームにおけるセラミックフォームは、上記のように、その色を観察して劣化度を判断することから、濃い色のものを用いることはあまり好ましくない。一般的には、例えば、白色アルミナセラミックフォームが用いられる。
このアルミナセラミックフォームは、通常のセラミックフォームの製造方法により得られる。
例えば、アルミナ原料粉末を溶媒に分散させてスラリーを調製し、該スラリーをウレタンフォームに浸透させて、骨格表面に前記スラリー層を形成させた後、焼成してウレタンを焼き抜くことにより、セラミックフォームが得られる。
あるいはまた、前記スラリーに架橋重合性樹脂を混合撹拌し、泡状として架橋させた後、焼成する方法等によっても、前記セラミックフォームが得られる。
【0018】
また、本発明に係る光触媒担持セラミックフォームにおける光触媒には、硫化水素やアンモニアの分解能を有する酸化チタン系光触媒が好適に用いられる。
特に、特開2005−254128号公報に記載されているようなOH基を有し、窒素がドープされた酸化チタンを用いることが好ましい。このような酸化チタン粒子は、セラミックス表面への付着性に優れており、バインダを用いることなく、セラミックフォームに担持させることができる。
具体的には、上記のようにして得られたアルミナセラミックフォームを、前記酸化チタン粒子が含まれるスラリーに浸漬等した後、熱処理等により乾燥し、前記セラミックフォーム表面に酸化チタンを担持させることができ、光触媒担持セラミックフォームが得られる。
【0019】
このようにして作製された光触媒担持セラミックフォームに銅イオンを添加する方法は、上述したように、銅イオンを含む溶液を、この光触媒担持セラミックフォームに含浸させ、乾燥することにより行なうことができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
酸化チタン系光触媒が担持されたアルミナセラミックフォーム(150mm×150mm×10mm)に0.05wt%硫酸銅水溶液を含浸させ、110℃で2時間乾燥し、セラミックフィルタを作製した。
そして、このセラミックフィルタと、4Wの紫外線ランプ4本とを備えた光触媒脱臭装置を作製した。
この光触媒脱臭装置内に、2ppmの硫化水素ガスを流し、ガス入口と出口における硫化水素ガスの濃度をガスクロマトグラフィにより測定し、また、セラミックフィルタの色を観察した。
硫化水素ガス濃度および色の経日変化、また、ガス入口と出口における硫化水素ガスの濃度の差から求めた脱臭効率を表1にまとめて示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1に示したように、日数が経過するにつれて、脱臭効率が低下し、それに伴い、セラミックフィルタの色が白色から濃灰色へと黒色が濃くなっていくことが認められた。
このことから、硫化水素脱臭を行う場合には、前記色の黒色の濃淡の程度が、セラミックフィルタの劣化度を判断する指標となることが確認された。
【0023】
[実施例2]
実施例1と同様にして作製した光触媒脱臭装置内に、3ppmのアンモニアガスを流し、ガス入口と出口におけるアンモニアガスの濃度をガスクロマトグラフィにより測定し、また、セラミックフィルタの色を観察した。
アンモニアガス濃度および色の経日変化、また、ガス入口と出口におけるアンモニアガスの濃度の差から求めた脱臭効率を表1にまとめて示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2に示したように、日数が経過するにつれて、脱臭効率が低下し、それに伴い、セラミックフィルタの色が、白色から深青色へと青色が濃くなっていくことが認められた。
このことから、アンモニア脱臭を行う場合には、前記色の青色の濃淡の程度が、セラミックフィルタの劣化度を判断する指標となることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオンが表面に含まれている光触媒を担持していることを特徴とする光触媒担持セラミックフォーム。
【請求項2】
硫化水素分解能を有する光触媒の表面に銅イオンが含まれている光触媒担持セラミックフォームにおいて、硫化水素と銅イオンとの反応により生成した硫化銅の黒色の濃淡度を指標とすることを特徴とする光触媒担持セラミックフォームの劣化度判断方法。
【請求項3】
アンモニア分解能を有する光触媒の表面に銅イオンが含まれている光触媒担持セラミックフォームにおいて、アンモニアと銅イオンとの反応により生成したテトラアンミン銅錯体の深青色の濃淡度を指標とすることを特徴とする光触媒担持セラミックフォームの劣化度判断方法。

【公開番号】特開2008−70275(P2008−70275A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250180(P2006−250180)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】