説明

光触媒担持構造体

【課題】光触媒層と接着層と担体とを備え、担体上に接着層、光触媒層が順次設けられた構造体であって、接着層が、細長い形状に結合したシリカを含有することを特徴とする光触媒担持構造体を提供すること。
【解決手段】光触媒層と接着層と担体とを備え、担体上に接着層、光触媒層が順次設けられた構造体であって、接着層が、細長い形状に結合したシリカを含有することを特徴とする光触媒担持構造体。好ましくは、細長い形状に結合したシリカが、接着層に0.1〜60重量%含有されることを特徴とする光触媒担持構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水、脱臭、防汚、殺菌、排水処理、藻の成育抑制、及び各種化学反応等に用いられる光触媒を担持した構造体、特に透明性に優れた屋外環境下でも十分な耐久性を有する光触媒担持構造体、及び接着層形成用塗布液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光触媒の作用により抗菌、防黴性や有害物質の分解を意図して、光触媒を担体(基材又は基板)上に担持させてなる光触媒担持構造体が知られている。かかる光触媒担持構造体は、通常、光触媒成分を含有する光触媒層形成用塗布液を担体表面に塗布、硬化させることによって光触媒層を形成させることにより製造されている。
【0003】
しかし、担体上に直接光触媒層(光触媒を含有する被膜または層)を形成させると、光触媒の強い酸化作用によって、担体が劣化、変色等する問題や、光触媒層が担体から剥離する問題などが生じるおそれがあった。そのため、担体と光触媒層の間に、バインダー層(難分解性の中間層:接着層)を備えている光触媒構造が知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)。そのようなバインダー層として、シリカゾルが多く用いられてきた。
【0004】
しかしながら、そのような光触媒担持構造体を屋外で使用すると、温度、湿度等の環境の変化に長期間にわたってさらされ、バインダー層及び光触媒層の透明性が劣化してしまうという問題があった。特に、担体の透明性や、担体の色や模様が重要な構造体の場合は、バインダー層及び光触媒層の透明性の劣化は大きな問題であった。
【0005】
一方、特許文献7は、粒状、鎖状シリカ等の微粒子シリカの表面を改質したシリカ組成物を樹脂モノマーに添加することにより、樹脂部材の弾性率を向上させ、かつ、熱膨張率を低減させ得ることを開示している。しかし、鎖状シリカ等として、細長い形状に結合したシリカを利用することによって、光触媒用の光触媒層及び接着層の透明性がより長期にわたって保持され得るということは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−137977号公報
【特許文献2】特開2004−351365号公報
【特許文献3】特開平8−131842号公報
【特許文献4】特開2005−61156号公報
【特許文献5】特開平10−278168号公報
【特許文献6】WO2003−033144号パンフレット
【特許文献7】特開2003−286306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、光触媒層と接着層と担体とを備え、担体上に接着層、光触媒層が順次設けられた構造体であって、光触媒層及び接着層の透明性がより長期にわたって保持される光触媒担持構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、細長い形状に結合したシリカ、特に、球状コロイダルシリカ粒子の連結物、棒状コロイダルシリカ、又はそれらの混合物を接着層に利用することによって、光触媒層及び接着層の透明性がより長期にわたって保持されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、(1)光触媒層と接着層と担体とを備え、担体上に接着層、光触媒層が順次設けられた構造体であって、接着層が、細長い形状に結合したシリカを含有することを特徴とする光触媒担持構造体や、(2)細長い形状に結合したシリカが、接着層に0.1〜60重量%含有されることを特徴とする上記(1)記載の光触媒担持構造体や、(3)細長い形状に結合したシリカが、球状コロイダルシリカ粒子の連結物、棒状コロイダルシリカ、又はそれらの混合物であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の光触媒担持構造体や、(4)球状コロイダルシリカ粒子の粒径が10〜50nmの範囲であることを特徴とする上記(3)記載の光触媒担持構造体や、(5)球状コロイダルシリカ粒子の連結物が、3個以上のコロイダルシリカが連結したものであることを特徴とする上記(3)又は(4)の光触媒担持構造体や、(6)球状コロイダルシリカ粒子の連結物が、その短辺の長さが10〜50nmの範囲であり、その長辺の長さが50〜400nmの範囲であることを特徴とする上記(3)〜(5)のいずれか記載の光触媒担持構造体や、(7)棒状コロイダルシリカが、その短辺の長さが10〜50nmの範囲であり、その長辺の長さが50〜400nmの範囲であることを特徴とする上記(3)〜(6)のいずれか記載の光触媒担持構造体や、(8)細長い形状に結合したシリカが、動的光錯乱法による測定粒子径(D1)と窒素ガス吸着法による測定粒子径(D2)の比D1/D2が5以上であって、このD1は40〜300nmであり、5〜20nmの範囲内の太さで一平面内のみの伸長を有する非晶質コロイダルシリカであることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれか記載の光触媒担持構造体や、(9)ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物及びシリコン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を、担体以外の部分にさらに含有することを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれか記載の光触媒担持構造体や、(10)ジルコニウム化合物が、ジルコニウムの酸化物、酸化水酸化物、水酸化物、オキシ硝酸塩、オキシ炭酸塩、炭素数1〜4のアルコキシド、及び該アルコキシドの加水分解物からなる群から選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする上記(9)記載の光触媒担持構造体に関する。
【0010】
また本発明は、(11)アルミニウム化合物が、アルミニウムの酸化物、酸化水酸化物、水酸化物、オキシ硝酸塩、オキシ炭酸塩、炭素数1〜4のアルコキシド、及び該アルコキシドの加水分解物からなる群から選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする上記(9)又は(10)に記載の光触媒担持構造体や、(12)シリコン化合物が、シリコン樹脂、ポリシロキサン及びコロイダルシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする上記(9)〜(11)のいずれか記載の光触媒担持構造体や、(13)ジルコニウム化合物及び/又はアルミニウム化合物が、150℃で乾燥後の比表面積が100m/g以上の多孔質ゲル状であることを特徴とする上記(9)〜(12)のいずれか記載の光触媒担持構造体や、(14)光触媒層が、酸化物に換算して、ジルコニウム化合物を5〜60重量%、アルミニウム化合物を20〜90重量%、酸化チタンを5〜60重量%、シリコン化合物を5〜50重量%含有することを特徴とする上記(9)〜(13)のいずれか記載の光触媒担持構造体や、(15)細長い形状に結合したシリカを、光触媒層にさらに含有することを特徴とする上記(1)〜(14)のいずれか記載の光触媒担持構造体や、(16)光触媒層及び接着層を合わせた塗膜のヘイズ率が3%以下であることを特徴とする上記(1)〜(15)のいずれか記載の光触媒担持構造体や、(17)沸騰イオン交換水中で1時間煮沸した後での、光触媒層及び接着層を合わせた塗膜のヘイズ率が3%以下であることを特徴とする上記(16)記載の光触媒担持構造体や、(18)担体が、外壁用であることを特徴とする上記(1)〜(17)のいずれか記載の光触媒担持構造体に関する。
【0011】
さらに本発明は、(19)光触媒担持構造体における接着層を形成するために用いられる塗布液であって、細長い形状に結合したシリカを含有することを特徴とする接着層形成用塗布液や、(20)細長い形状に結合したシリカを、固形分として酸化物換算で、0.01〜12.0重量%含有することを特徴とする上記(19)記載の接着層形成用塗布液や、(21)細長い形状に結合したシリカが、球状コロイダルシリカ粒子の連結物、棒状コロイダルシリカ、又はそれらの混合物であることを特徴とする上記(19)又は(20)記載の接着層形成用塗布液や、(22)球状コロイダルシリカ粒子の粒径が10〜50nmの範囲であることを特徴とする上記(21)記載の接着層形成用塗布液や、(23)球状コロイダルシリカ粒子の連結物が、3個以上のコロイダルシリカが連結したものであることを特徴とする上記(21)又は(22)記載の接着層形成用塗布液や、(24)球状コロイダルシリカ粒子の連結物が、その短辺の長さが10〜50nmの範囲であり、その長辺の長さが50〜400nmの範囲であることを特徴とする上記(21)〜(23)のいずれか記載の接着層形成用塗布液や、(25)棒状コロイダルシリカが、その短辺の長さが10〜50nmの範囲であり、その長辺の長さが50〜400nmの範囲であることを特徴とする上記(21)〜(24)のいずれか記載の接着層形成用塗布液や、(26)細長い形状に結合したシリカが、動的光錯乱法による測定粒子径(D1)と窒素ガス吸着法による測定粒子径(D2)の比D1/D2が5以上であって、このD1は40〜300nmであり、5〜20nmの範囲内の太さで一平面内のみの伸長を有する非晶質コロイダルシリカであることを特徴とする上記(19)〜(25)のいずれか記載の接着層形成用塗布液や、(27)シリコンを2〜60重量%含有するシリコン変性樹脂、コロイダルシリカを5〜40重量%含有する樹脂、ポリシロキサンを3〜60重量%含有する樹脂からなる群から選ばれる樹脂の少なくとも1種以上を、さらに含有することを特徴とする上記(19)〜(26)のいずれか記載の接着層形成用塗布液や、(28)アクリル−シリコン樹脂、ポリシロキサンを含有するシリコン変性樹脂、コロイダルシリカを含有するシリコン変性樹脂からなる群から選ばれるシリコン変性樹脂の少なくとも1種以上を、さらに含有することを特徴とする上記(19)〜(26)のいずれか記載の接着層形成用塗布液に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光触媒層と接着層と担体とを備えた光触媒担持構造体は、光触媒層と接着層の透明性がより長期にわたって保持される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光触媒担持構造体は、光触媒層と接着層と担体とを備え、担体上に接着層、光触媒層が順次設けられた光触媒担持構造体であって、接着層が、細長い形状に結合したシリカを含有することを特徴とする。なお、本発明の光触媒担持構造体は、光触媒層と接着層と担体とを備え、担体上に接着層、光触媒層が順次設けられてさえいれば、それ以外の部分に他の構成をさらに有していてもよい。他の構成は特に制限されないが、例えば、光触媒層上にさらに存在するコーティング層、光触媒層と接着層の間にさらに存在する中間層、接着層と担体の間にさらに存在する印刷層等の層などが挙げられる。
【0014】
本発明における接着層は、細長い形状に結合したシリカを含有している限り、特に制限されない。光触媒層と担体の間にこのような接着層を設けると、下地である担体が光触媒層中の光触媒の光触媒作用によって劣化することを防止することができ、光触媒層を担体に、より強固に接着させることができる上、光触媒層と接着層の透明性が長期にわたって保持され得る。
【0015】
本発明における、細長い形状に結合したシリカには、例えば、球状のシリカ粒子が連結して細長い形状になったもの、棒状のシリカそれ自体、又はそれらの混合物が含まれ、中でも、球状コロイダルシリカ粒子の連結物、棒状コロイダルシリカ、又はそれらの混合物が、光触媒層や接着層の透明度のより長期にわたる保持性の観点から好ましい。
【0016】
本発明の球状コロイダルシリカ粒子の連結物とは、球状のコロイダルシリカ粒子が連結したものを意味する。ここで「球状のコロイダルシリカ粒子」とは、その粒径が1〜1000nm、好ましくは1〜100nm、より好ましくは10〜50nmの範囲内にあるコロイダルシリカ粒子を意味する。また、本発明における球状のコロイダルシリカ粒子は、厳密な意味での球状に限られず、カプセル状、ラグビーボール状等の、長径と短径が異なる形状も含まれる。本発明においてコロイダルシリカ粒子が連結しているとは、コロイダルシリカ粒子同士が結合していることを意味する。ここで結合しているとは、直接的であるか間接的であるかを問わない。
【0017】
本発明における球状コロイダルシリカ粒子の連結物としては、球状のコロイダルシリカ粒子が3個以上連結したものを例示することができる。また、球状コロイダルシリカ粒子の連結物は、その連結物の短辺の長さが10〜50nmの範囲であり、その長辺の長さが50〜400nmの範囲であることが、光触媒層や接着層の透明度のより長期にわたる保持性の観点から好ましい。
ここで、球状コロイダルシリカ粒子の連結物の短辺とは、連結している球状コロイダルシリカ粒子のうち、最も粒径が小さい球状コロイダルシリカ粒子の粒径又は短径を意味し、球状コロイダルシリカ粒子の連結物の長辺とは、球状コロイダルシリカ粒子の連結物の最も長い一辺を意味する。また、本発明における球状コロイダルシリカ粒子の連結物の中でも、ある球状のコロイダルシリカ粒子を起点に、別の球状コロイダルシリカ粒子が2次元方向に(一平面内に)連結しているものが、光触媒層や接着層の透明度のより長期にわたる保持性の観点から好ましい。
【0018】
球状コロイダルシリカ粒子の連結物における球状コロイダルシリカ粒子の粒径又は短径は、それぞれ異なっていてもよいが、透明度のより長期にわたる保持性の観点から、最も大きい粒径と、最も小さい粒径との差、又は最も大きい短径と、最も小さい短径との差が20nmの範囲に含まれることが好ましく、10nmの範囲に含まれることが好ましい。本発明における球状コロイダルシリカ粒子の連結物の形状は特に制限されず、直鎖状、分岐した形状及びそれらが屈曲した形状等であってもよい。
【0019】
本発明における棒状コロイダルシリカとは、その短辺の長さに対する、その長辺の長さが少なくとも2倍以上であるコロイダルシリカを意味する。ここで、棒状コロイダルシリカの短辺とは、棒状コロイダルシリカの最も細い部分の直径を意味し、長辺とは、棒状コロイダルシリカの最も長い一辺を意味する。また、棒状コロイダルシリカは、その短辺の長さが10〜50nmの範囲であり、その長辺の長さが50〜400nmの範囲であることが、光触媒層や接着層の透明度のより長期にわたる保持性の観点から好ましい。
【0020】
本発明における棒状コロイダルシリカの太さは、全体にわたって等しくなくてもよいが、光触媒層や接着層の透明度のより長期にわたる保持性の観点から、最も太い部分の直径と最も細い部分の直径の差が20nmの範囲に含まれることが好ましく、10nmの範囲に含まれることが好ましい。本発明における棒状コロイダルシリカの形状は特に制限されず、棒状コロイダルシリカを一部に含んだ形状も含まれる。例えば、棒状のコロイダルシリカと球状コロイダルシリカが連結していてもよいし、棒状のコロイダルシリカが分岐していてもよいし、屈曲していてもよい。
【0021】
なお、球状コロイダルシリカ粒子の連結物又は棒状コロイダルシリカが、屈曲した形状である場合は、直線状に伸ばした状態を基準にして、最も長い一辺及び最も細い部分の直径を測定する。また、球状コロイダルシリカ粒子の連結物又は棒状コロイダルシリカが分岐している場合は、最も長い一辺が最も長くなるような状態を基準にして、最も長い一辺及び最も細い部分の直径を測定する。
【0022】
本発明における細長い形状に結合したシリカとして、具体的には、動的光散乱法による測定粒子径(D1)と窒素ガス吸着法による測定粒子径(D2)の比D1/D2が5以上であって、このD1は40〜300nmであり、そして電子顕微鏡観察による5〜20nmの範囲内の太さで一平面内のみの伸長を有する細長い形状の非晶質コロイダルシリカを例示することができる。このようなコロイダルシリカが分散したゾルの製造方法として、特開平1−317115号公報、特開平7−118008号公報に記載されている方法を例示することができる。
【0023】
本発明における接着層に含まれる細長い形状に結合したシリカの含有量は、光触媒層と接着層の透明性が長期にわたって保持されるという本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、接着層に対して、酸化物に換算して0.1〜60重量%であることが好ましく、1〜30重量%であることがより好ましく、1〜15重量%であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明における接着層は、より優れた接着力、及び光触媒作用による劣化防止作用が得られることから細長い形状に結合したシリカに加えて、樹脂を含有することが好ましく、細長い形状に結合したシリカが樹脂にほぼ均一に複合していることがより好ましい。本発明における接着層における樹脂の含有量は特に制限されないが、接着層全量に対して、固形分として30〜90重量%であることが好ましく、60〜80重量%であることがより好ましい。
【0025】
そのような樹脂としては、担体を光触媒作用による劣化から保護し、さらに光触媒層を固定できるものであれば特に制限されないが、例えば、(1)シリコン含有量が固形物として酸化物に換算して2〜60重量%のシリコン変性樹脂(アクリル−シリコン樹脂、エポキシシリコン樹脂、ポリエステルシリコン樹脂等)、(2)ポリシロキサンを固形物として酸化物に換算して3〜60重量%含有する樹脂(ポリシロキサンを含有するシリコン変性樹脂等)、又は(3)コロイダルシリカを固形物として酸化物に換算して5〜40重量%含有した樹脂(コロイダルシリカを含有するシリコン変性樹脂)を好ましく使用することができる。これらの樹脂は光触媒を強固に接着し、担体を光触媒から保護することができる。
【0026】
シリコン、ポリシロキサン又はコロイダルシリカを上記範囲で含むと、光触媒層に対する接着力と、担体に対する密着性とのバランスがよい。
【0027】
またシリコンを導入する樹脂は特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等を例示することができる。これらの内、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂が、成膜性、強靭性、担体との密着性の点で特に好ましい。これらの樹脂は、溶液状であってもエマルジョンタイプであってもどちらでも使用することができる。また、これらの樹脂には、架橋剤等の添加物が含まれていてもよい。
【0028】
接着層の樹脂にポリシロキサンが含まれている場合、ポリシロキサンが、炭素数1〜5のアルコキシ基を有するシリコンアルコキシドの加水分解物又は該加水分解物生成物であると、より優れた接着性及び耐久性が得られるため好ましい。また、部分的に塩素を含んだシリコンアルコキシドを加水分解したポリシロキサンを使用することもできる。
【0029】
かかるシリコンアルコキシドとしては、例えば、後述の式(IV)で表されるシリコンアルコキシド又はその加水分解生成物を好ましく使用することができる。
式(IV)で表されるシリコンアルコキシドの好ましい具体例としては、Si(OCH、Si(OC、Si(OC、Si(OC、Si(OC11、Si(OC13、SiCH(OCH、SiCH(OC、SiCH(OC、SiCH(OC、SiCH(OC、SiCl(OCH、SiCl(OC、SiCl(OC、SiCl(OC、SiCl(OC13、SiCl(OH)(OCH、SiCl(OH)(OC、SiCl(OH)(OC、SiCl(OH)(OC、SiCl(OCH、SiCl(OC等を挙げることができる。
【0030】
これらシリコン変性樹脂にシリコンを導入する方法は、特に制限されない。そのような方法として、例えば、エステル交換反応、シリコンマクロマーや反応性シリコンモノマーを用いたグラフト反応、ヒドロシリル化反応、ブロック共重合法等が挙げられる。
例えば、ポリシロキサンを樹脂に導入する、より具体的な方法としては、(1)シリコンアルコキシドをモノマーの状態で樹脂溶液と混合し、接着層形成時に空気中の水分で加水分解させる方法、(2)予めシリコンアルコキシドの部分加水分解物を樹脂と混合し、更に、接着剤層形成時に空気中の水分で加水分解する方法等を挙げることができる。なお、シリコンアルコキシドの加水分解速度を調整するために、酸や塩基触媒を少量添加してもよい。ポリシロキサンの樹脂への添加量は、担体に光触媒層をより強固に接着させる観点から、樹脂全量に対して、酸化物に換算して3〜90重量%であることが好ましい。
【0031】
ポリシロキサンを導入させる樹脂は特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂等を例示することができる。これらのうち、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂又はこれらの混合樹脂を用いると、ポリシロキサンを導入させた場合に、優れた耐久性が得られるので好ましい。
【0032】
接着層に用いる樹脂が、コロイダルシリカを含む樹脂である場合、コロイダルシリカの粒径は特に制限されないが、光触媒作用に対する耐久性、光触媒層との接着性の観点から、粒径が50nm以下であることが好ましい。
コロイダルシリカを樹脂に導入する方法は特に制限されないが、樹脂溶液とコロイダルシリカ溶液を混合後、塗布−乾燥して保護膜を形成する方法が最も簡便な方法の一つとして挙げられる他、コロイダルシリカを分散した状態で樹脂を重合させる方法も挙げることができる。また、コロイダルシリカと樹脂との接着性および分散性を良くするために、シランカップリング剤で処理されたコロイダルシリカを用いることもできる。
コロイダルシリカの樹脂への添加量は、担体に光触媒層をより強固に接着させる観点から、樹脂全量に対して、酸化物に換算して5〜90重量%であることが好ましい。
【0033】
コロイダルシリカを導入する樹脂は特に制限されないが、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等を挙げることができる。これらのうち、アクリル樹脂、エポキシ樹脂及びポリエステル樹脂を用いると、コロイダルシリカを導入した場合に、優れた耐久性が得られるので好ましい。
コロイダルシリカの製造方法は特に制限されないが、例えば、珪酸ナトリウム水溶液を陽イオン交換する方法や、シリコンアルコキシドを加水分解する方法などが挙げられる。
【0034】
さらに本発明においては、ポリシロキサン及びコロイダルシリカの両方を含有する樹脂を接着層として使用することができる。その場合、ポリシロキサン及びコロイダルシリカの樹脂への添加量の合計は、より優れた接着力が得られることから、樹脂全量に対して、酸化物に換算して5〜90重量%であることが好ましい。
【0035】
接着層に使用する樹脂がコロイダルシリカを含有する樹脂及び/又はポリシロキサンを含有する樹脂の場合、そのコロイダルシリカやポリシロキサンの粒径は特に制限されないが、より優れた分散性及び接着層の透光性が得られることから、それぞれ50nm以下が望ましい。
【0036】
なお、接着層樹脂には光触媒作用による劣化を抑える目的で、光安定化剤及び/又は紫外線吸収剤をさらに添加することができる。光安定化剤は特に制限されないが、ヒンダードアミン系の光安定化剤を好ましく用いることができる。また、紫外線吸収剤は特に制限されないが、トリアゾール系の紫外線吸収剤等を使用することができる。光安定化剤及び紫外線吸収剤の添加量は特に制限されないが、それぞれ接着層樹脂に対して、好ましくは0.005重量%〜10重量%、より好ましくは0.01重量%〜5重量%とすることができる。
【0037】
また、光触媒層に接する側の接着層の表面を、例えば、シラン系もしくはチタン系カップリング剤で処理することにより、光触媒層との接着性を高めることもできる。
【0038】
接着層を担体表面に形成する方法は特に制限されないが、例えば、印刷法、シート成形法、スプレー吹き付け法、ディップコーティング法、スピンコーティング法等の方法で、後述の接着層形成用塗布液を担体表面にコートし、乾燥・硬化させる方法を例示することができる。乾燥・硬化させる際の温度は、溶媒や樹脂の種類によっても異なるが、一般的に50℃〜300℃程度であることが好ましい。
【0039】
接着層の厚さは特に制限されないが、光触媒層との良好な接着を得るためには0.1μm〜20μm程度であることが好ましい。接着層の厚みが薄すぎると光触媒層に対する接着力が十分ではない場合がある一方、厚くし過ぎてもメリットは少ない。
【0040】
本発明における光触媒とは、光触媒活性を有する物質(以下、「光触媒」という)を含んでいれば特に制限はない。光触媒として、具体的にはTiO、ZnO、SrTiO、CdS、GaP、InP、GaAs、BaTiO、KNbO、Fe、Ta、WO、SnO、Bi、NiO、CuO、SiC、SiO、MoS、InPb、RuO、CeO等を例示することができ、さらにこれらの光触媒にPt、Rh、RuO、Nb、Cu、Sn、Ni、Fe等の金属もしくは金属酸化物を添加したものを使用することができる。これらの内、耐久性、コスト、光触媒活性を考慮すると酸化チタン(TiO)を主成分とするものが特に好ましく、さらに、光触媒活性を考慮するとアナターゼ型酸化チタンがより好ましい。また、太陽光のような紫外線を多く含む光で触媒活性を示す酸化チタンのみならず、貴金属をドープ等して紫外線の少ない室内光においても触媒活性を示す酸化チタンを用いることができる。
本発明の光触媒層は、光触媒を1種のみ含有してもよいが、2種以上含有してもよい。
【0041】
また、本発明の光触媒層は、接着層との接着性の向上、及び透明度のより長期にわたる保持性の観点から、光触媒に加えて、さらに、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物及びシリコン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有することが好ましい。
【0042】
光触媒は、粉末状、ゾル状、溶液状など、乾燥・硬化したときに接着層と固着して光触媒活性を示すものであればいずれも使用することができる。特にゾル状で粒径が50nm以下、好ましくは20nm以下のものを使用すると、光触媒層の透明性が向上し平行光線透過率が高くなるため、透明性が要求されるガラス基板やプラスチック成形体に塗布する場合に好ましい。また、色や模様が付された担体を用いる場合は、こうした透明な光触媒層を利用すると下地の色や柄を損なうことが少ないため好ましい。50nm以上の粒径の光触媒を用いると、50nm以下の粒径の光触媒を用いた場合に比べて、平行光線透過率が減少し、ヘイズ率が高くなる。ここで、ヘイズ率とは、ヘイズ率=(全光線透過率−平行光線透過率)×100/全光線透過率という関係式で求められる値である。例えば、トイレの窓ガラスは、外部の太陽光を十分に透過してトイレ内が明るくなるように全光線透過率の高いものであり、かつ、トイレ内部が外部からはっきりと見えてはいけないのでヘイズ率が高いものである必要がある。
【0043】
光触媒層中の光触媒の合計の含有量は、光触媒層に対して、酸化物に換算して0.1〜60重量%が好ましく、10〜40重量%がより好ましい。また、光触媒が酸化チタンの場合も同様の範囲が好ましい範囲として挙げられる。このような範囲で用いると、接着層との接着性、及び光触媒活性の観点からバランスの良い光触媒層が得られる。
また、本発明の光触媒層がジルコニウム化合物を含有する場合、ジルコニウム化合物の含有量は、光触媒層に対して、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは、10〜30重量%である。また、本発明の光触媒層がアルミニウム化合物を含有する場合、アルミニウム化合物の含有量は、光触媒層に対して、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは、20〜40重量%である。また、本発明の光触媒層がシリコン化合物を含有する場合、シリコン化合物の含有量は、光触媒層に対して、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは、20〜40重量%である。これらの範囲であると、接着層との接着性、透明度のより長期にわたる保持性の観点からバランスのよい光触媒層が得られる。
また、光触媒層が、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物及びシリコン化合物からなる群から選ばれるいずれか2つ以上の化合物を含有する場合は、それらの化合物の合計は、光触媒層に対して、好ましくは40〜95重量%、より好ましくは、60〜90重量%である。これらの範囲であると、接着層との接着性、透明度のより長期にわたる保持性、光触媒活性の観点からバランスのよい光触媒層が得られる。
【0044】
ジルコニウム化合物としては、特に制限されないが、ジルコニウムの酸化物、酸化水酸化物、水酸化物、硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、オキシ炭酸塩、蓚酸塩、オキシ蓚酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、炭素数1〜6のアルコキシド及び該アルコキシドの加水分解生成物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の混合物のゲルが好ましく、酸化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、水和酸化ジルコニウム、オキシ水酸化ジルコニウム、水和硝酸ジルコニウム、水和オキシ塩化ジルコニウム、蓚酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムジブトキシドアセチルアセトナート、ジルコニウムジブトキシドラクテート、ジルコニウムブトキシドの加水分解生成物、ジルコニウムイソプロポキシドの加水分解生成物が特に好ましい。
【0045】
アルミニウム化合物としては、特に制限されないが、アルミニウムの酸化物、酸化水酸化物、水酸化物、硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、オキシ炭酸塩、蓚酸塩、オキシ蓚酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、炭素数1〜6のアルコキシド、及び該アルコキシドの加水分解生成物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の混合物が好ましく、酸化アルミニウム、酸化水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水和酸化アルミニウム、ベーマイト、硝酸アルミニウム、オキシ硝酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、オキシ炭酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、オキシ蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、オキシ酢酸アルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド、アルミニウムブトキシドアセチルアセトナート、アルミニウムブトキシドラクテート、アルミニウムブトキシドの加水分解生成物、アルミニウムイソプロポキシドの加水分解生成物等が特に好ましい。
【0046】
本発明におけるジルコニウム化合物及びアルミニウム化合物の粒径については特に制限されないが、粒径が2nm〜50nm、好ましくは2nm〜20nmのゾルを使用することが好ましい。このような粒径のものを使用すると、光触媒層の透明性が向上し平行光線透過率が高くなるため、透明性が要求されるガラス基板やプラスチック成形体に塗布する場合に好ましい。また、色や模様が付された担体を用いる場合は、こうした透明な光触媒層を利用すると下地の色や柄を損なうことが少ないため好ましい。50nm以上の粒径の光触媒を用いると、50nm以下の粒径の光触媒を用いた場合に比べて、平行光線透過率が減少し、ヘイズ率が高くなる。
【0047】
本発明において、ジルコニウム又はアルミニウムの酸化物、酸化水酸化物、水酸化物を用いる場合は、150℃で60分乾燥後の比表面積が100m/g以上の多孔質ゲル状のものを使用することが好ましい。多孔質ゲルは吸着性を有しており、光触媒活性を高める効果を有する。
【0048】
ゾル状の光触媒、ジルコニウム化合物及び/または又はアルミニウム化合物を用いる場合は、安定化のために光触媒形成用塗布液中へ、酸やアルカリの解膠剤を添加することもできる。またゾル懸濁液中に、接着性や操作性を向上させるために光触媒に対して5重量%以下の界面活性剤を添加することもできる。
【0049】
本発明におけるシリコン化合物としては、特に制限されないが、シリコン樹脂、ポリシロキサン等が例示され、より具体的には、例えば、
式(I)
【0050】
【化1】

【0051】
(式中、Rは、炭素数1〜20の置換基を有してもよいアルキル基を示し、X、X及びXは、それぞれ独立して塩素原子、水素原子、水酸基又は炭素数1〜8のアルコキシ基を示す。)で表されるシリコン化合物、
式(II)
【0052】
【化2】

【0053】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜20の置換基を有してもよいアルキル基を示し、X及びXは、それぞれ独立して塩素原子、水素原子、水酸基又は炭素数1〜8のアルコキシ基を示す。)で表されるシリコン化合物、及び
式(III)
【0054】
【化3】

【0055】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜20の置換基を有してもよいアルキル基を示し、Xは、塩素原子、水素原子、水酸基又は炭素数1〜8のアルコキシ基を示す。)で表されるシリコン化合物並びにそれらの加水分解生成物からなる群から選ばれる1種以上のシリコン化合物が挙げられる。
【0056】
ここで、炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。また、X1、X2及びX3は、塩素原子、水素原子、水酸基又は炭素数1〜8のアルコキシ基を示す。この際、X1、X2及びX3は、同一であっても、異なっていてもよい。ここで、炭素数1〜8のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などが挙げられる。
【0057】
より具体的には、上記シリコン化合物のうち、式(I)で表される1置換アルキルのシリコン化合物として、n−ブチルトリクロロシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−デシルトリクロロシラン、n−デシルトリエトキシシラン、ジメトキシメチルクロロシラン、n−ドデシルトリクロロシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリクロロシラン、n−ヘキサデシルトリクロロシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリクロロシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリクロロシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−プロピルトリクロロシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0058】
また、式(II)で表される2置換アルキルのシリコン化合物としては、n−ブチルメチルジクロロシラン、n−デシルメチルジクロロシラン、ジ−n−ブチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルメトキシクロロシラン、ジ−n−オクチルジクロロシラン、ドコシルメチルジクロロシラン、ドデシルメチルジクロロシラン、ドデシルメチルジエトキシシラン、エチルメチルジクロロシラン、n−ヘプチルメチルジクロロシラン、n−ヘキシルメチルジクロロシラン、メチルペンチルジクロロシラン、n−オクタデシルメトキシジクロロシラン、n−オクタデシルメチルジクロロシラン、プロピルメチルジクロロシランなどが挙げられる。
【0059】
また、式(III)で表される3置換アルキルのシリコン化合物としては、n−デシルジメチルクロロシラン、エチルジメチルクロロシラン、n−オクタデシルジメチルクロロシラン、n−オクタデシルジメチルメトキシシラン、n−オクチルジメチルクロロシラン、n−プロピルジメチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチル−n−プロポキシシラン、トリ−n−プロピルクロロシランなどが挙げられる。
【0060】
なお、式(I)で表されるシリコン化合物、式(II)で表されるシリコン化合物、式(III)で表されるシリコン化合物における、R、R、及びRは、置換基を有していてよく、かつ、分岐を有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、塩素原子等が挙げられる。また、R、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1〜8の置換基を有してもよいアルキル基であってもよい。
【0061】
また、上記の本発明におけるシリコン化合物の中でも、
式(IV):SiCln(OH)n(OR)n
で表されるシリコンアルコキシド又はその加水分解生成物であることが好ましい。ここで、Rはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、アミノメチル、アミノエチル、カルボキシメチル、カルボキシエチル、クロロメチル、クロロエチル、クロロプロピル基等の(アミノ基、カルボキシル基又は塩素原子で置換されていてもよい)炭素数1〜8のアルキル基を表す。
は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル基等の炭素数1〜8のアルキル基、又はメトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、イソプロポキシメチル、ブトキシメチル、メトキシエチル、エトキシメチル、プロポキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル基等のアルコキシ基で置換された炭素数1〜8のアルキル基を表す。またn、n及びnは0、1又は2を表し、nは2から4の整数を表し、かつn+n+n+n=4である。
【0062】
式(IV)で表されるシリコンアルコキシドの好ましい具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0063】
本発明におけるシリコン化合物は、球状コロイダルシリカ粒子の連結物又は棒状コロイダルシリカでなくてもよいが、光触媒層の透明度をより長期にわたって維持させ得ることから、球状コロイダルシリカ粒子の連結物、棒状コロイダルシリカ又はそれらの混合物を光触媒層に含有させることが好ましい。この球状コロイダルシリカ粒子の連結物又は棒状コロイダルシリカ及びそれらの好ましい態様は、上述の接着層における球状コロイダルシリカ粒子の連結物又は棒状コロイダルシリカと同様である。
【0064】
光触媒層を接着層表面に形成する方法は特に制限されないが、例えば、印刷法、シート成形法、スプレー吹き付け法、ディップコーティング法、スピンコーティング法等の方法で、後述の光触媒層形成用塗布液を接着層表面にコートし、乾燥・硬化させる方法を例示することができる。乾燥・硬化させる際の温度は、担体材質及び接着層中の樹脂材質によっても異なるが、通常50℃〜300℃程度であることが好ましい。
【0065】
本発明における光触媒層の厚さは特に制限はされないが、0.1〜20μmの範囲内であることが好ましい。ある特定の光触媒層形成用塗布液を用いて光触媒層を形成させた場合、光触媒層を厚くするほど、得られる光触媒活性が高くなる傾向がみられるが、光触媒層の厚さが20μmを越えると光触媒活性はほぼ飽和する一方で、実際の塗布工程が困難となる場合が多く、また光触媒層の光透過率が低下してしまう。一方、光触媒の厚さが0.1μm未満の場合、透光性は良いものの、光触媒が光触媒作用を発揮する際に利用する紫外線も、その多くが光触媒層を透過してしまうため、優れた光触媒活性が得られない場合がある。
【0066】
本発明の光触媒担持構造体は、光触媒層と接着層を合わせた塗膜における波長550nmの全光線透過率が80%未満であるか、又はヘイズ率が2%より高くてもよいが、光触媒層と接着層を合わせた塗膜における波長550nmの全光線透過率が80%以上であって、かつヘイズ率が2%以下であることが好ましい。このような光触媒担持構造体は、例えば、光触媒層の厚さを0.1〜20μmの範囲内とし、しかも平均粒子が50nm以下の光触媒粒子、及びアルミニウムの酸化物又は水酸化物のゲルを用いること等によって得られるが、光触媒層と接着層を合わせた塗膜における波長550nmの全光線透過率が80%以上であって、かつヘイズ率が2%以下である限り、そのような光触媒担持構造体に限定されるものではない。該光触媒層及び接着層を、透明な担体に利用した場合は、その光触媒層、接着層、担体からなる光触媒担持構造体を透過した可視光線を照明として利用でき、また不透明な担体に利用した場合でも、その担体上の柄や模様を損なうことがないので装飾性の上でも優れた光触媒担持構造体が得られる。
【0067】
また、本発明の光触媒担持構造体は、沸騰イオン交換水中で1時間煮沸した後での接着層及び光触媒層を合わせた塗膜のヘイズ率が3%より高くてもよいが、3%以下であることが好ましい。このような光触媒担持構造体は、例えば、光触媒層の厚さを0.1〜20μmの範囲内とし、しかも平均粒子が50nm以下の光触媒粒子、及びアルミニウムの酸化物又は水酸化物のゲルを用いること等によって得られるが、沸騰イオン交換水中で1時間煮沸した後での接着層及び光触媒層を合わせた塗膜のヘイズ率が3%以下である限り、そのような光触媒担持構造体に限定されるものではない。
【0068】
また、本発明の光触媒担持構造体は、紫外線強度3mW/cmのブラックライトの光を、温度40℃、相対湿度90%の下で500時間照射した後での接着層及び光触媒層を合わせた塗膜のヘイズ率が3%より高くてもよいが、3%以下であることが好ましい。このような光触媒担持構造体は、例えば、光触媒層の厚さを0.1〜20μmの範囲内とし、しかも平均粒子が50nm以下の光触媒粒子、及びアルミニウムの酸化物又は水酸化物のゲルを用いること等によって得られるが、紫外線強度3mW/cmのブラックライトの光を、温度40℃、相対湿度90%の下で500時間照射した後での接着層及び光触媒層を合わせた塗膜のヘイズ率が3%以下である限り、そのような光触媒担持構造体に限定されるものではない。
【0069】
本発明の光触媒担持構造体は、建築用塗料、壁紙、窓ガラス、ブラインド、カーテン、カーペット、照明器具、照明灯、道路灯、トンネル照明灯、高速道や新幹線の遮音壁、ブラックライト、船底・漁網防汚塗料、水処理用充填剤、農ビフィルム、防草シート、包装資材等に使用できる。特に高温多湿の環境下や屋外の環境下で使用される場合に、その優れた耐久性や、透明性の優れた保持性などの特性を発揮する。
【0070】
本発明における担体は、その材質、形状、厚さ等、特に制限されない。担体の材質としては、例えば、セラミックス;無機質材料;有機質材料;などであってもよく、さらに、担体材質が熱をかけられない有機高分子体;熱や水等により酸化腐食し易い金属;などであってもよい。また、担体の形状としては、例えば、フィルム状、シート状、板状、管状、繊維状、網状等どのような複雑な形状であっても使用することができる。担体の厚さは、光触媒層及び接着層を強固に担持することができることから、10μm以上のものであることが好ましい。さらに、担体と接着層との密着性を良くするために、放電処理やプライマー処理等の易接着処理を表面に施した担体を用いることもできる。
また、本発明における担体は、外壁用であることが好ましい。
【0071】
本発明の接着層形成用塗布液の調製方法は特に制限されないが、例えば、溶媒中で、球状コロイダルシリカ粒子の連結物、棒状コロイダルシリカ、又はそれらの混合物と、樹脂とを混合する方法等が例示される。
【0072】
本発明の接着層形成用塗布液に含まれる細長い形状に結合したシリカの含有量は、光触媒層と接着層の透明性が長期にわたって保持されるという本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、接着層形成用塗布液に対して、酸化物に換算して0.01〜12.0重量%であることが好ましい。
【0073】
用いられる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジエチルエーテル、メチルセルソルブ、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、サクサンエチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素等を挙げることができる。
【0074】
光触媒層形成用塗布液の調製方法としては、特に制限されないが、例えば、溶媒中で、光触媒とジルコニウム化合物、アルミニウム化合物及びシリコン化合物を混合する方法等が例示される。溶媒は、接着層形成用塗布液における溶媒と同様のものを挙げることができる。
【0075】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
1)光触媒担持構造体の製造
以下のようにして、下記の表1に示す構成を有する実施例1〜6、及び比較例1〜3の光触媒担持体構造体を製造した。
【0077】
(1)接着層
シリコン変性樹脂等(PS−1)、樹脂溶液(J−1)、コロイダルシリカ(KS−1、KS−2)を混合し、濃度を調製した接着層形成用溶液を得た。
この溶液をディッピング法で、ソーダライムガラス担体(TA)上に塗工形成した。室温、60分乾燥して厚み1μmで接着層を形成した。
(PS−1):ポリエトキシシロキサン(コルコート製、商品名エチルシリケート40)
(J−1):アクリルシリコン樹脂キシレン溶液(シリコン含有量3重量%)
尚、シリコン含有量は樹脂固形分中のSiO2に換算して表示した。
(KS−1):コロイダルシリカ(日産化学製、商品名スノーテックスPS-S、ネックレス状)
(KS−2): コロイダルシリカ(触媒化成工業製、商品名カタロイドSI−350、粒状)
【0078】
(2)光触媒層
下記に示す光触媒、シリカゾル、アルミニウム化合物及びジルコニウム化合物を混合し、pH1.5〜9の適当な範囲に調製後、所定量の界面活性剤を加えて光触媒複合体溶液(光触媒層形成用組成物)を得た。
得られた光触媒複合体溶液をディッピング法で、上記接着層上に塗工形成した。光触媒層は、接着層を乾燥するのと同じ温度で乾燥して、厚み1μmで形成した。
光触媒、シリカゾル、アルミニウム化合物、ジルコニウム化合物は次のものを使用した。
(T−1):硝酸酸性酸化チタンゾル(結晶粒子径8nm)
(KS−1):コロイダルシリカ(日産化学製、商品名スノーテックスPS-S、ネックレス状)
(A−1):アルミニウム化合物(日産化学製、商品名アルミナゾル−520)
(Z−1):ジルコニウム化合物(オキシ硝酸ジルコニウム6水和物ジルコニウム化合物(和光純薬製、試薬特級)を水に溶解して10%水溶液とした後、12時間加熱して半量の水を除去して得られた液をオキシ硝酸ジルコニウム液とした)。
【0079】
【表1】

【0080】
2)光触媒担持構造体の性能試験
上記1)で得られた光触媒担持構造体を用いて以下の性能評価試験を行った。
(1)光触媒活性の評価試験
上記1)で得られた光触媒担持構造体を用いて、大きさ70mm×70mmの試験体を切り出し、容量4Lのパイレックス(登録商標)製ガラス容器中に設置した。この容器中に空気とアルデヒドの混合ガスをアルデヒド濃度を2000ppmに調整し、次いで、該試料に紫外線強度2mW/cm2のブラックライト(FL15BLB、東芝ライテック製)の光を3時間照射後、容器内部のアルデヒドガス濃度をガスクロマトグラフィーにより測定し、その減少量により光触媒活性を評価した。
その結果、実施例1〜6及び比較例1〜3の光触媒担持構造体は、100ppm以上のアルデヒドガスの減少をそれぞれ示したことから、いずれの光触媒担持構造体も優れた光触媒活性を示すことが分かった。
【0081】
(2)ヘイズ率の測定
ヘイズ率の測定を濁度計(日本電色工業製 NDH 300A)で測定した。空気をリファレンスとして測定した。ヘイズ率(%)は、「(全光線透過率−平行光線透過率)×100/全光線透過率」の数式より算出した。測定結果を下記の表2に示す。
【0082】
(3)テープ剥離試験
各試料表面に、切り傷によって2mmの間隔で25個のマス目を形成し、JISK5400に規定する碁盤目テープ法試験により付着性の評価を行った。剥離しなかったものを○、少しでも剥離したものを×として評価した。評価結果を下記の表2に示す。
【0083】
(4)指摩擦試験
試料表面を指で摩擦し、剥離しなかったものを○、少しでも剥離したものを×として評価した。評価結果を下記の表2に示す。
【0084】
(5)耐久性試験
試料表面に、ブラックライトで紫外線強度3mW/cm2の光を、温度40℃、相対湿度90%の恒温恒湿槽内で2000時間照射後、テープ剥離試験及び指摩擦試験をして耐久性の評価とした。結果を下記の表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2より、実施例1〜6の光触媒担持構造体は、促進耐候性試験においても低いヘイズ率を維持し優れた耐候性を有していた。それに比して、コロイダルシリカを添加しない接着層形成用溶液から形成された接着層を有する比較例1は、密着性には優れていたがヘイズ率において耐候性が劣る結果が得られた。光触媒とシリカゾルのみで形成された光触媒複合体溶液を用いた光触媒層を有する比較例2は、ヘイズ率及び密着性において耐候性が劣る結果であった。球状のコロイダルシリカを添加した接着層形成用溶液から形成された接着層を有する比較例3は、ヘイズ率及び密着性において耐候性が劣る結果であった。
【0087】
本発明の光触媒担持構造体は、光触媒活性が高く、透明性に優れるものであり、光触媒が担体に強固に接着されており、光触媒作用により担体が劣化したり、光触媒が脱離することがない。また、光照射下でも長時間使用できるものであり、高温多湿の環境下や屋外の環境下で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒層と接着層と担体とを備え、担体上に接着層、光触媒層が順次設けられた構造体であって、光触媒層が、酸化物に換算して、ジルコニウム化合物を5〜60重量%、アルミニウム化合物を20〜90重量%、酸化チタンを5〜60重量%、シリコン化合物を5〜50重量%含有し、接着層が、短辺の長さが10〜50nmの範囲であり、長辺の長さが50〜400nmの範囲である球状コロイダルシリカ粒子の連結物もしくは棒状コロイダルシリカ、又はそれらの混合物である細長い形状に結合したシリカ、及び、シリコンを2〜60重量%含有するシリコン変性樹脂並びにポリシロキサンを3〜60重量%含有する樹脂からなる群から選ばれる樹脂の少なくとも1種以上を含有することを特徴とする光触媒担持構造体。
【請求項2】
光触媒担持構造体における接着層を形成するために用いられる塗布液であって、短辺の長さが10〜50nmの範囲であり、長辺の長さが50〜400nmの範囲である球状コロイダルシリカ粒子の連結物もしくは棒状コロイダルシリカ、又はそれらの混合物である細長い形状に結合したシリカ、及び、シリコンを2〜60重量%含有するシリコン変性樹脂並びにポリシロキサンを3〜60重量%含有する樹脂からなる群から選ばれる樹脂の少なくとも1種以上を含有することを特徴とする接着層形成用塗布液。

【公開番号】特開2012−25163(P2012−25163A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195337(P2011−195337)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【分割の表示】特願2005−246679(P2005−246679)の分割
【原出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】