説明

光触媒材料

【課題】光触媒作用のみならず、磁気特性も有した特定の結晶構造を有する光触媒材料を提供する。
【解決手段】光触媒材料は、一般式ε−Fe、ε−AFe2−x(但し、0<x<2)、又は、ε−BFe2−x−y(但し、0<x,y<1)を主相とすることを特徴とする。前記Aが、Al,Sc,Ti,V,Cr,Ga,In,及びYの中から選択されるいずれか1種の元素である。前記Bが、Tiであり、前記CがCo,Ni,Mn,Cu,及びZnの中から選択されるいずれか1種の元素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料に関し、特に特定の結晶構造を有する光触媒材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光触媒材料としては、代表的なものとして酸化チタン光触媒が知られている。この酸化チタン光触媒は、光を吸収すると、主に、酸化作用、及び超親水作用を発現する。酸化チタン光触媒の酸化作用は、水を酸素と水素に分解するほど顕著であるので、太陽エネルギーから水素を生成するクリーンエネルギーの循環サイクルの実用化の礎を担う材料として期待されている。また、この酸化作用を利用して、有害物質を分解することにより、殺菌や、脱臭処理を行うこともできる。このような光触媒作用を利用して、光触媒をセラミック多孔体(セラミックフォーム)の表面に担持させてなる光触媒フィルタが、空調機、空気清浄機、分煙機、レンジフード用フィルタや水処理装置等に応用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、酸化チタン光触媒の超親水作用は、自動車のバックミラーなどにコーティングすることにより、バックミラーに細かい水滴が付着するのを防止できるので、視認性を向上できるという効果が得られる。また、建物の外壁などにコーティングを施すことによって、雨水により表面が洗浄され、セルフクリーニング効果を得ることができる。
【0004】
このように代表的な酸化チタン光触媒では、種々の用途が試されているだけでなく、今後の用途のさらなる広がりが期待されている。
【特許文献1】特開平3−157125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化チタンと似た電子構造を有する光触媒材料は、他にも存在するものの、現時点において顕著な光触媒活性が見当たらない。また、光触媒作用のみならず、他の物性を備えた粒子を提供することができれば、上記したような用途をさらに広げることも期待できる。
【0006】
そこで本発明は上記した問題点に鑑み、酸化チタン以外の光触媒材料として、光触媒作用のみならず、他の物性を備えた特定の結晶構造を有した光触媒材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本願発明者らは上記の目的を達成するために材料を種々検討したところ、ε−Fe相を主体とする粒子には光触媒作用のみならず、磁気特性をも具備することを知った。
【0008】
すなわち、請求項1に係る発明は、一般式ε−Feを主相とすることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、一般式ε−AFe2−x(但し、0<x<2)を主相とすることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、一般式ε−BFe2−x−y(但し、0<x,y<1)を主相とすることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、前記Aが、Al,Sc,Ti,V,Cr,Ga,In,及びYの中から選択されるいずれか1種の元素であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明は、前記Bが、Tiであり、前記CがCo,Ni,Mn,Cu,及びZnの中から選択されるいずれか1種の元素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光触媒材料は、特定の結晶構造(一般式ε−Fe)を有する磁性酸化鉄粒子で構成され磁性を発現させることができる。さらに、1種又は2種の元素をFeイオンサイトの一部と置換することにより、磁性において熱安定性にすぐれた光触媒材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明に係る光触媒材料の結晶構造であり、一般式:ε−Feで表されるイプシロン型の磁性酸化鉄粒子、又は、ε−Feの前記Fe3+イオンサイトの一部が、互いに異なる1種類または2種類の元素と置換された構造を有している。つまり、一般式:ε−AFe2−xまたはε−BFe2−y−zと表記される(但し、A、B、Cは、Feを除く、互いに異なる元素である。)イプシロン型の磁性酸化鉄粒子である。尚、上述の式に記載された元素以外であっても、製造上の不純物等の成分や化合物の含有は許容される。因みに、この磁性酸化鉄粒子は、粒径が100nm以下、特に10nm〜50nmのものが好適である。これにより、光の波長よりずっと小さく、光が散乱しないため透明性を高めることができる。
(Feを除く、1種類または互いに異なる2種類の元素A、B、Cについて)
まず、Fe3+イオンサイトの一部と置換された元素が1種類の場合、ε−Feの結晶構造を安定に保つため、Aとしては、3価の元素を用いることが好ましい。さらにAとしては、Al,Sc,Ti,V,Cr,Ga,In,Yから選択される1種の元素を挙げることができる。尚、xは、0<x<2の範囲であればよい。
【0015】
これらの元素のうち、Al及びGaは、Fe3+イオンサイトの一部であるFe4サイトと置換し、Sc,Ti,V,Cr,In,及びYは、Fe3+イオンサイトの一部であるFe1サイトと置換する。
【0016】
また、Fe3+イオンサイトの一部と置換された元素が互いに異なる2種類で構成される場合、ε−Feの結晶構造を安定に保つため、Bとしては4価の元素、Cとしては2価の元素を用いることが好ましい。さらにBとしてはTi、Cとしては、Co,Ni,Mn,Cu及びZnから選択される1種の元素を挙げることができる。尚、x,yは、0<x,y<1の範囲であればよい。
【0017】
上記Bを構成するTiは、Fe3+イオンサイトの一部であるFe4サイトと置換する。また、上記Cを構成するCo,Ni,Mn,Cu及びZnは、いずれもFe3+イオンサイトの一部であるFe1サイトと置換する。
【0018】
尚、当該A、B、CからFeを除くのは、当該ε−FeのFe3+イオンサイトの一部を、1種類または互いに異なる2種類の元素で置換するためである。
(本発明に係る光触媒材料の製造方法)
次に本発明に係る光触媒材料の製造方法の一例について説明する。以下に説明する製造方法は、逆ミセル法とゾル−ゲル法との組み合わせ法によるものである。ここでの逆ミセル法とは、界面活性剤を含んだミセル溶液α(原料ミセル)と、ミセル溶液β(中和剤ミセル)との2種類を混合することによって、ミセル内で水酸化鉄の沈殿反応を進行させる工程をさす。一方、ここでのゾル−ゲル法とは、ミセル内で生成した水酸化鉄微粒子の表面にシリカコートを施す工程をいう。
【0019】
逆ミセル法とゾル−ゲル法との両方法を組み合わせることで、シリカによる被覆層をもつ水酸化鉄微粒子を得ることが出来る。得られたシリカコートをもつ水酸化鉄微粒子は、液から分離されたあと、所定の温度(700〜1300℃の範囲内)で大気雰囲気下での熱処理に供されることにより、単相のε−Feを生成する。
【0020】
以下、具体例を挙げて説明する。まず、n−オクタンを油相とするミセル溶液αの水相に、硝酸鉄(III)と界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム(本明細書において、CTABと記載する場合がある。)を溶解する。その際、CTABを効率よく溶解させるため、直鎖のアルコール、例えばブチルアルコールを添加しても差し支えない。ここで、ミセル溶液αの水相に溶解させる硝酸鉄(III)の一部を、他元素A、B、Cに置き換えることもできる。同じく、n−オクタンを油相とするミセル溶液βの水相にはアンモニア水溶液を用いる。
【0021】
尚、ミセル溶液αの水相に形状制御剤として、適量のアルカリ土類元素(Ba、Sr、Caなど)の硝酸塩を溶解させておくこともできる。この形状制御剤添加を行うことで、単相のε−Fe粒子を棒状の形状とすることが出来る。しかし、当該アルカリ土類元素が、生成する結晶の表層部に残存することがある。この場合、残存するアルカリ土類元素の含有量が8質量%を超えなければ、当該形状制御剤が他の物性に与える影響は、それ程強くはない。従って、本発明に係る光触媒材料の原料へは、形状制御剤としてアルカリ土類元素の少なくとも1種を、8質量%以下の量で添加することが出来る。
【0022】
ミセル溶液αとβとを混合し、シランを適宜添加することで、ゾル−ゲル法により、得られた棒状、もしくはそれ以外の形状を有する水酸化鉄粒子表面にシリカによる被覆を施す。これらの反応はミセル中で行われており、ミセル内では、ナノオーダーの微細な水酸化鉄粒子の表面において加水分解が起こり、表面がシリカで被覆された粒子を得ることができる。
【0023】
次いで、シリカコーティングされた水酸化鉄粒子を液から分離し、洗浄・乾燥の後、水酸化鉄粒子粉体を得る。得られた粒子粉体を炉内に装入し、空気中で700〜1300℃の温度範囲で熱処理(焼成)する。この熱処理により、水酸化鉄粒子はシリカ殻内部での酸化反応により、微細なε−Fe粒子が生成する。この酸化反応の際、水酸化鉄粒子がシリカにより被覆されていることが、α−Feやγ−Feではなく、ε−Fe単相が生成するのに寄与していると考えられる。加えて、当該シリカコートは、粒子同士の焼結を防止する作用を果たす。また、上述したように、適量の形状保持剤としてアルカリ土類元素が共存していると、棒状のε−Fe単相粒子に成長し易くなる。
【0024】
このようにして、ε−Feと同じ結晶構造を有しながら、Fe3+イオンサイトの一部が置換されたε−AFe2−x単相粒子や、ε−BFe2−y−z単相粒子を合成できる。従って、本発明によれば、磁気特性を備える光触媒材料を提供することができる。
(実施例)
上記した製造方法により、Fe3+イオンサイトの一部を前記AとしてのGaと置換して実施例に係る試料を合成した。本実施例に係る試料のTEM像を図2に示す。この試料に対し、組成分析と、VSM(振動試料型磁力計)測定を行った結果を表1に示す。この結果から組成割合を計算したところ、本実施例に係る試料は、ε−Ga0.47Fe1.53であった。
【0025】
【表1】

【0026】
X線回折結晶構造解析の結果を図3に示す。因みに、この試料の結晶構造において、図1に示す各FeサイトのGaイオン占有率は、Fe1サイトとFe2サイトが共に0であるのに対し、Fe3サイトが0.21、Fe4サイトが0.75であった。
【0027】
さらに、得られた試料の粒径分布を図4に、ヒステリシスループを図5に示す。さらに、10[Oe]の外部磁場のもとでの各温度における磁化を測定した。この測定は、試料を1K/minの速度で加熱及び冷却しながら磁化を測定した。その結果(図6)、キュリー点(Tc)は408Kであった。
【0028】
次に、上記試料の光触媒活性を、図7に示すように、2−プロパノール(IPA)気相酸化分解反応で評価した。500mlのガラスベッセル内に25mmφの試料を載置して石英フタで密閉した。密閉した前記ガラスベッセル中に2−プロパノールを充満させ、暗室においてランプ光を照射し、所定時間毎にガラスベッセル中の気体成分をガスクロマトグラフィにより測定した。
【0029】
図8はランプ光として水銀灯による紫外光を用いた場合(λ=310〜370nm、400mW/cm、吸収率=98.8%)の測定結果である。尚、2−プロパノールの初期濃度は、294ppmである。図8中、1はCO、2はアセトン、3は2−プロパノールの濃度をそれぞれ表す。32時間から93時間のCO増加量で計算した量子効率は、1.4×10−3%であった。
【0030】
また、図9はランプ光として水銀キセノンランプによる可視光を用いた場合(λ=437nm、30mW/cm、吸収率=98.8%)の結果である。尚、2−プロパノールの初期濃度は、247ppmである。図9中、4はCO、5はアセトン、6は2−プロパノールの濃度をそれぞれ表す。565時間から853時間のCO増加量で計算した量子効率は、2.4×10−3%であった。この結果から、可視光においても紫外光とほぼ同様の光触媒活性が得られることが分かった。
【0031】
以上より、ε−Feと同じ結晶構造を有する試料においては、磁気特性のみならず光触媒活性を得ることができることが分かった。
【0032】
本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る光触媒材料の結晶構造を示す模式図である。
【図2】本発明に係る光触媒材料のTEM像(×300,000)である。
【図3】本発明に係る光触媒材料のX線回折結晶構造解析の結果を示す図である。
【図4】本発明に係る光触媒材料の粒径分布を示す図である。
【図5】本発明に係る光触媒材料のヒステリシスループであり、(A)300K雰囲気、(B)2K雰囲気における測定結果を示す図である。
【図6】本発明に係る光触媒材料のFCM曲線である。
【図7】本発明の実施例に係る試料の光触媒活性評価方法を示す図である。
【図8】同上、水銀灯による紫外光を用いた場合の光触媒活性評価の測定結果を示す図である。
【図9】同上、水銀キセノンランプによる可視光を用いた場合の光触媒活性評価の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ε−Feを主相とすることを特徴とする光触媒材料。
【請求項2】
一般式ε−AFe2−x(但し、0<x<2)を主相とすることを特徴とする光触媒材料。
【請求項3】
一般式ε−BFe2−y−z(但し、0<x,y<1)を主相とすることを特徴とする光触媒材料。
【請求項4】
前記Aが、Al,Sc,Ti,V,Cr,Ga,In,及びYの中から選択されるいずれか1種の元素であることを特徴とする請求項2記載の光触媒材料。
【請求項5】
前記Bが、Tiであり、
前記CがCo,Ni,Mn,Cu,及びZnの中から選択されるいずれか1種
の元素であることを特徴とする請求項3記載の光触媒材料。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−34584(P2009−34584A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199520(P2007−199520)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】