説明

光触媒材

【課題】VOC等の物質を効果的に処理できる光触媒材を提供する。
【解決手段】本発明に係る光触媒材は、光触媒と、ゼオライトに担持された金属イオンと、を含む。この光触媒材は、前記金属イオンとして、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、銀イオン、カルシウムイオン、マンガンイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種とナトリウムイオンとを含み、又はナトリウムイオンのみを含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材に関し、特に、光触媒材の機能の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン等の光触媒は、例えば、空気中の揮発性有機化合物(VOC)を除去するために用いることができる。従来、この光触媒の活性を高めるため、様々な工夫が試みられてきた。例えば、特許文献1には、酸化チタンの表面に、銅や鉄等の金属を、酸化物、水酸化物又は塩の状態で固定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3885825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、例えば、VOCの光触媒反応における中間生成物を十分に処理できなかった。すなわち、例えば、アセトアルデヒドの酸化反応で生じる酢酸を効率よく除去できないため、異臭の発生を十分に防止することができなかった。また、トルエン等、光触媒によって処理されにくい物質については、依然として効率よく除去することができなかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、VOC等の物質を効果的に処理できる光触媒材を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る光触媒材は、光触媒と、ゼオライトに担持された金属イオンと、を含むことを特徴とする。本発明によれば、VOC等の物質を効果的に処理できる光触媒材を提供することができる。
【0007】
また、前記光触媒材は、前記金属イオンとして、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、銀イオン、カルシウムイオン、マンガンイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種とナトリウムイオンとを含み、又はナトリウムイオンのみを含むこととしてもよい。また、この場合、前記金属イオンとして、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン及び銀イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種とナトリウムイオンとを含むこととしてもよく、さらに、前記金属イオンとして、銅イオンとナトリウムイオンとを含むこととしてもよい。こうすれば、光触媒材の処理能力をより効果的に高めることができる。
【0008】
また、前記ゼオライトは、そのシリカ/アルミナ比が30未満であることとしてもよい。こうすれば、中間生成物の処理能力をより効果的に高めることができる。また、前記金属イオンは、前記金属イオンを担持した前記ゼオライトに1〜25重量%の範囲内で担持されていることとしてもよい。また、前記金属イオンを担持した前記ゼオライトの前記光触媒に対する重量比は、0.1〜30の範囲内であることとしてもよい。こうすれば、光触媒材の処理能力をより効果的に高めることができる。
【0009】
また、上述の光触媒材は、前記光触媒と、前記ゼオライトに担持された前記金属イオンと、が担持された基材をさらに含むこととしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、VOC等の物質を効果的に処理できる光触媒材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るアセトアルデヒド除去試験で使用された光触媒材の構成及び試験結果の一例を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るアセトアルデヒド除去試験で測定されたアセトアルデヒド残存率の一例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るアセトアルデヒド除去試験で測定されたアセトアルデヒド残存率の他の例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るアセトアルデヒド除去試験で測定された酢酸濃度の一例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るトルエン除去試験で使用された光触媒材の構成及び試験結果の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るトルエン除去試験で測定されたトルエン残存率の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態に係る光触媒材(以下、「本材」という。)について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0013】
本材は、その光触媒活性を利用して、VOCをはじめとする異臭物質や有害物質等、好ましくない物質を処理するために用いることができる。すなわち、本材は、例えば、異臭物質を除去する消臭剤や、有害物質を除去する吸着分解剤として機能する。
【0014】
本材による処理の対象となる物質(以下、「対象物質」という。)としては、例えば、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、トルエン、酢酸、硫化水素、アンモニアを挙げることができる。
【0015】
本材と、気体又は液体に含有される対象物質と、を接触させることにより、当該気体又は液体から当該対象物質を効果的に除去することができる。本材による対象物質の処理においては、当該対象物質の酸化反応、分解反応、吸着反応等、様々な化学的及び物理化学的な機構が関与する。
【0016】
本材は、光触媒と、ゼオライトに担持された金属イオンと、を含む。すなわち、本材において特徴的なことの一つは、金属を、ゼオライトに担持されたイオンの状態で、光触媒と共存させている点である。
【0017】
ここで、本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、金属イオンをゼオライトに担持された状態で光触媒と併用することによって、当該光触媒を単独で用いた場合や金属を他の態様で光触媒と併用した場合に比べて、対象物質の処理効率を向上させることができるという知見を独自に見出した。
【0018】
すなわち、本発明者らは、VOCの光触媒による酸化反応が平衡反応であることから、その反応の中間生成物に着目した。この中間生成物としては、例えば、アルデヒドの酸化反応により生成されるカルボン酸(例えば、アセトアルデヒドの酸化により生成される酢酸)を挙げることができる。
【0019】
そして、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、光触媒と、金属イオンを担持したゼオライト(以下、「金属イオン担持ゼオライト」という。)と、を共存させることにより、当該光触媒単独又は当該光触媒と他の態様の金属との組み合わせに比べて、VOCの酸化反応をより早く進行させ得ること、及びそれによって最終生成物である水や二酸化炭素までへの酸化反応もより早く進行させ得ることを見出した。
【0020】
この金属イオン担持ゼオライトによる効果は、ゼオライトが中間生成物を吸着することによって当該中間生成物を光触媒の近傍から速やかに除去するといった機構も含む、光触媒酸化反応における助触媒的効果と考えられる。
【0021】
さらに、本発明者は、金属イオン担持ゼオライトが、光触媒単独によっては除去されにくいトルエンの除去効率をも顕著に向上させることを見出した。また、本発明者らは、これらの効果が、特定の種類の金属イオンを用いることにより、特に顕著なものとなることも見出した。
【0022】
また、本発明者らは、光触媒に対するイオン注入等の従来用いられていた特別な手段を講じることなく、単に光触媒粉体と金属イオン担持ゼオライト粉体とを乳鉢等で混練するだけで、上述のような高い機能を発揮する光触媒材を容易に製造できることを見出した。
【0023】
また、本発明者らは、本材が、ゼオライトに担持された金属イオンを助触媒成分として有することにより抗菌性を示し、光が十分に照射されない状況においても、優れた抗菌作用を発揮することも見出した。
【0024】
本材に含まれる光触媒としては、紫外光や可視光等の光が照射されることによって触媒活性を示すものであれば特に限られず任意の種類のものを適宜選択して用いることができ、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
すなわち、光触媒としては、例えば、酸化チタン系光触媒、酸化タングステン系光触媒、可視光応答性の酸窒化チタン(Ti−O−N)系光触媒、及びこれらに銅や鉄等の金属をドープした光触媒を用いることができ、特に酸化チタン系光触媒や酸窒化チタン系光触媒を好ましく用いることができる。
【0026】
光触媒の平均粒子径は、例えば、1μm以下とすることが好ましい。すなわち、光触媒は、その平均粒子径を低減することにより、光触媒反応の反応場としての表面積を増大させ、反応効率を増大させることができる。このため、光触媒の平均粒子径を1μm以下とすることにより、本材の機能を特に優れたものとすることができる。
【0027】
本材に含まれるゼオライトとしては、結晶性アルミノケイ酸塩である三次元骨格構造を有するものであれば特に限られず任意の種類のものを適宜選択して用いることができ、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
すなわち、ゼオライトには数多くの結晶型が知られているが、本材に用いることのできる結晶型に特に制限はなく、不定形のものを用いることもでき、複数の種類の結晶型のものを混合して用いることもできる。
【0029】
具体的には、例えば、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、L型ゼオライト、β型ゼオライト、モルデナイト、エリオナイト、オフレタイト、クリノプチロライト、フェリエライト、ZSM−5、ZSM−11を用いることができる。
【0030】
ゼオライトは、その基本骨格成分としてシリカ(SiO)及びアルミナ(Al)を有している。そして、アルミナに対するシリカのモル比(SiO/Al比)(以下、「シリカ/アルミナ比」という。)が大きいほど、ゼオライトの疎水性が高くなって非極性溶媒を強く吸着できるようになる。また、シリカ/アルミナ比が小さいほど、ゼオライトの親水性が高くなって親水性物質との親和性が高くなる。
【0031】
一方、VOC等の対象物質の光触媒反応における中間生成物には、上述した酢酸等のカルボン酸のように、親水性の物質が多く含まれることがある。このため、中間生成物を効率的に吸着、除去する上では、親水性の高いゼオライトを用いることが好ましい。
【0032】
したがって、本材に用いるゼオライトのシリカ/アルミナ比は、30未満とすることが好ましい。また、金属イオンを効率よく担持することができるという点でも、シリカ/アルミナ比が30未満のゼオライトを用いることが好ましい。具体的に、例えば、親水性が高く、金属イオン交換能も高いことから、A型ゼオライトやX型ゼオライトを好ましく用いることができる。
【0033】
ゼオライトの平均粒子径は、例えば、10μm以下とすることが好ましい。金属イオン担持ゼオライト粉体は、その平均粒子径を10μm以下とすることによって、光触媒粉体とよく馴染むようになる。
【0034】
したがって、本材を光触媒粉体と金属イオン担持ゼオライト粉体との混合物として実現する場合には、当該光触媒粉体と金属イオン担持ゼオライト粉体とが均一に分散され、本材は、優れた処理能力を発揮することができる。
【0035】
本材は、ゼオライトに担持される金属イオンとして、例えば、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、銀イオン、カルシウムイオン、マンガンイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種とナトリウムイオンとを含み、又はナトリウムイオンのみを含むことができる。
【0036】
すなわち、ゼオライトは、例えば、ナトリウムを単独で、又はナトリウムに加えて、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、銀イオン、カルシウムイオン及びマンガンイオンから選ばれる1種又は2種以上の組合せを担持することができる。
【0037】
また、このような金属イオンとしては、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、銀イオンを好ましく用いることができ、銅イオン及びマグネシウムイオンをより好ましく用いることができ、銅イオンを特に好ましく用いることができる。もちろん、これらナトリウムイオン以外の金属イオンをゼオライトに担持させる場合には、当該ゼオライトにおいてナトリウムイオンが残存していてもよい。
【0038】
金属イオンは、例えば、ゼオライトに1〜25重量%の範囲内で担持されていることが好ましい。すなわち、金属イオン担持ゼオライトの全体に対する、当該金属イオンの重量比率は、1〜25重量%の範囲内とすることが好ましい。金属イオンの担持量をこの範囲内とすることにより、本材の機能を特に優れたものとすることができる。
【0039】
本材において、金属イオン担持ゼオライトの光触媒に対する重量比は、0.1〜30の範囲内とすることが好ましい。すなわち、本材は、金属イオン担持ゼオライトを、重量にして光触媒の10分の1以上、30倍以下含むことが好ましい。金属イオン担持ゼオライトの含有量をこの範囲内とすることにより、本材の機能を特に優れたものとすることができる。
【0040】
本材は、様々な形態で実現することができる。すなわち、本材は、上述のように、光触媒の粉体と、金属イオン担持ゼオライトの粉体と、の混合物とすることができる。
【0041】
また、本材は、上述のように、光触媒と、ゼオライトに担持された金属イオンと、が担持された基材をさらに含むこともできる。すなわち、この場合、本材は、基材に光触媒及び金属担持ゼオライトが担持されてなる構造体とすることができる。
【0042】
基材としては、光触媒及び金属イオン担持ゼオライトを担持することができ、その表面が気相と固相との界面となり得るものであれば特に限られず任意の種類のものを適宜選択して用いることができ、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
すなわち、例えば、フィルム、繊維、糸、織物、編物、不織布、三次元織物、粒子、紙、ウィスカーを用いることができる。また、例えば、壁、窓ガラス、鏡、床、天井といった建造物の一部を用いることもできる。
【0044】
次に、本材を製造する方法の一例について説明する。本材が、光触媒粉体と金属イオン担持ゼオライト粉体との混合粉体を含んで構成される場合には、本材の製造方法は、例えば、当該金属イオン担持ゼオライトを製造する工程と、製造された当該金属イオン担持ゼオライトと当該光触媒とを混合する工程と、を含むことができる。
【0045】
金属イオン担持ゼオライトの製造工程においては、例えば、担体となるゼオライトと、当該ゼオライトに担持されるべき金属イオンと、を含有する溶液を調製する。この溶液は、例えば、まず、ゼオライトの粉体を水等の媒液中に懸濁させて懸濁液を調製し、次いで、当該懸濁液に金属化合物又は金属化合物水溶液を添加することにより調製することができる。また、この溶液は、例えば、金属化合物水溶液中にゼオライトの粉体を添加し、攪拌することにより調製することもできる。
【0046】
こうして調製した溶液中においては、イオン交換作用により、ゼオライト結晶のイオン交換サイトに、金属化合物に由来する金属イオンを担持させることができる。この際、ゼオライト及び金属イオンを含有する溶液を加熱することでイオン交換反応を促進することができる。加熱する場合には、溶液の温度を、20〜100℃の範囲内とすることが好ましく、30〜80℃の範囲内とすることがより好ましい。加熱温度が80℃以上になると、ゼオライト結晶の崩壊が顕著になり、歩留りが低下することがある。また、溶液のpHは、弱酸性か弱アルカリ性とすることが好ましい。
【0047】
なお、合成ゼオライトを用いる場合、当該合成ゼオライトは、例えば、ケイ酸ナトリウム等のシリカ源、アルミン酸ナトリウム等のアルミナ源、水酸化ナトリウム等の鉱化剤及び水を含む原料を用いた水熱合成法により製造することができる。
【0048】
金属イオンの供給源となる金属化合物としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、酢酸銅、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化銀、硝酸銀、硫酸銀、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン、これらの水和物を用いるのが好ましく、これらのうち1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
このようにして得られた金属イオン担持ゼオライトは、例えば、公知の方法によって、洗浄後、濾別、乾燥を行い、必要に応じて粉砕も行うことにより、粉末状とするができる。
【0050】
そして、続く混合工程においては、例えば、上述のようにして得られた金属イオン担持ゼオライトの粉体と、光触媒の粉体と、を乳鉢等の器具を用いて混合することにより、これらの混合粉体を簡便に製造できる。また、例えば、金属イオン担持ゼオライト粉体と光触媒粉体とを、ボールミル、ハンマーミル、二軸粉砕機等の混練装置を用いて混練することによっても混合粉体を製造できる。また、例えば、金属イオン担持ゼオライト粉体と光触媒粉体とを水等の媒液中に懸濁させ、攪拌して混合し、さらに濾別、乾燥を行い、必要に応じて粉砕も行うことによっても、混合粉体を製造できる。
【0051】
本材が金属イオン担持ゼオライト及び光触媒が担持された基材を含む場合には、本材の製造方法は、当該基材に当該金属イオン担持ゼオライト及び光触媒を担持する工程を含む。担持方法としては、例えば、バインダーによる付着、物理的相互作用による付着、練り込み、漉き込み、基材を熱溶融させて付着、基材の表面を溶媒で溶融させて付着、ドープ中に懸濁させドープの凝固により内在化等、任意の方法を用いることができる。
【0052】
また、金属イオン担持ゼオライト及び光触媒を担持させる順序は特に限られず、先に一方を基材に担持させた後に他方を担持させることができ、又は両者を同時に基材に担持させることもできる。
【0053】
すなわち、例えば、まず基材にゼオライト粒子を付着させることにより基材にゼオライトを担持させ、次いで当該ゼオライトにイオン交換処理を施すことにより金属イオンを担持させ、その後、金属イオン担持ゼオライトを担持した基材に光触媒を担持させることもできる。
【0054】
そして、さらに、この金属イオン担持ゼオライトが担持された基材に、所定の方法により、光触媒粒子を付着させることにより、最終的に本材を製造することができる。
【0055】
次に、本材の具体的な実施例について説明する。
【0056】
[実施例1]
光触媒粉体と金属イオン担持ゼオライト粉体との混合粉体からなる光触媒材を製造した。まず、種々の金属イオン担持ゼオライトを製造した
【0057】
すなわち、銅イオン担持ゼオライト(以下、「Cuゼオライト」という。)を次のようにして製造した。平均粒子径が10μm以下のA型ゼオライト(モレキュラーシーブ4A、ユニオン昭和株式会社)5gを蒸留水1Lに分散してゼオライト懸濁液を調製した。一方、蒸留水100gに硫酸銅(CuSO・5HO、和光純薬工業株式会社)1.710gを溶解して硫酸銅水溶液を調製した。スターラーで攪拌しながら、硫酸銅水溶液をゼオライト懸濁液に少量ずつ滴下し、30分間攪拌した。その後、洗浄、減圧濾過し、乾燥してCuゼオライトを得た。Cuゼオライト1gあたりのCu含有量は6.8重量%、Na含有量は7.4重量%であった。
【0058】
マグネシウムイオン担持ゼオライト(以下、「Mgゼオライト」という。)を次のようにして製造した。無水硫酸マグネシウム(無水MgSO、和光純薬工業株式会社)0.329gを蒸留水1Lに分散し、さらに上述のA型ゼオライト2gを加えて30分間攪拌した。その後、洗浄、減圧濾過し、乾燥してMgゼオライトを得た。Mgゼオライト1gあたりのMg含有量は1.4重量%、Na含有量は10.1重量%であった。
【0059】
亜鉛イオン担持ゼオライト(以下、「Znゼオライト」という。)を次のようにして製造した。塩化亜鉛(ZnCl、和光純薬工業株式会社)0.373gを蒸留水1Lに分散し、さらに上述のA型ゼオライト2gを加えて30分間攪拌した。その後、洗浄、減圧濾過し、乾燥してZnゼオライトを得た。Znゼオライト1gあたりのZn含有量は7.5重量%、Na含有量は10.1重量%であった。
【0060】
カルシウムイオン担持ゼオライト(以下、「Caゼオライト」という。)を次のようにして製造した。塩化カルシウム(CaCl、和光純薬工業株式会社)0.304gを蒸留水1Lに分散し、上述のA型ゼオライト2gを加えて30分間攪拌した。その後、洗浄、減圧濾過し、乾燥してCaゼオライトを得た。Caゼオライト1gあたりのCa含有量は4.7重量%、Na含有量は7.3重量%であった。
【0061】
銀イオン担持ゼオライト(以下、「Agゼオライト」という。)を次のようにして製造した。硝酸銀(AgNO、和光純薬工業株式会社)0.47gを蒸留水1Lに分散し、上述のA型ゼオライト2gを加えて30分間攪拌した。その後、洗浄、減圧濾過し、乾燥してAgゼオライトを得た。Agゼオライト1gあたりのAg含有量は9.2%、Na含有量は9.7重量%であった。
【0062】
ナトリウムイオン担持ゼオライト(以下、「Naゼオライト」という。)としては、上述のA型ゼオライトをそのまま使用した。Naゼオライト1gあたりのNa含有量は12.6重量%であった。
【0063】
次に、これらの金属担持ゼオライトと光触媒とを混合した。すなわち、上述のようにして得られた金属イオン担持ゼオライトと、平均粒子径6nmのアナタース型酸化チタン粉体(AMT−100、テイカ株式会社)と、をアルミナ乳鉢を用いて、所定の比率で混合することにより、これらの混合粉体からなる12種類の光触媒材を得た。
【0064】
具体的には、Cuゼオライトを異なる比率で含有する3種類の光触媒材A1〜A3、Mgゼオライトを異なる比率で含有する3種類の光触媒材A4〜A6、Znゼオライトを異なる比率で含有する3種類の光触媒材A7〜A9、Caゼオライトを含有する光触媒材A10、Naゼオライトを含有する光触媒材A11、Agゼオライトを含有する光触媒材A12を製造した。
【0065】
一方、銅粉末(Cuパウダー、和光純薬工業株式会社)、硫酸銅(CuSO・5HO、和光純薬工業株式会社)、酸化銅(II)(CuO、和光純薬工業株式会社)、α型フタロシアニン銅(C3216CuN、東京化成工業株式会社)、無水硫酸マグネシウム(MgSO、和光純薬工業株式会社)又は塩化亜鉛(ZnCl、和光純薬工業株式会社)と、上述の酸化チタン粉体と、をアルミナ乳鉢を用いて、所定の比率で混合することにより、混合粉体からなる6種類の光触媒材を得た。
【0066】
具体的には、銅粉末を含有する光触媒材B2、硫酸銅を含有する光触媒材B3、酸化銅(II)を含有する光触媒材B4、フタロシアニン銅を含有する光触媒材B5、無水硫酸マグネシウムを含有する光触媒材B6、塩化亜鉛を含有する光触媒材B7を製造した。
【0067】
[実施例2]
上述の実施例1において製造された各光触媒材について、アセトアルデヒドガスの除去試験を行った。すなわち、各材を直径4cm、深さ1.5cmのガラス製シャーレに所定量入れ、このシャーレを、20ppmのアセトアルデヒドガス3Lとともに容積5Lのテドラーパックに封入した。
【0068】
そして、各材にブラックライトを照射し(主照射波長は360nm、照射強度は1.3mW/cm)、その後、テドラーパック内のアセトアルデヒド及びその中間生成物である酢酸の濃度をそれぞれ経時的に測定した。アセトアルデヒド及び酢酸の濃度は、ガス検知管(株式会社ガステック)を用いて測定した。
【0069】
また、金属イオン担持ゼオライトと混合していない酸化チタン単体からなる光触媒材B1、酸化チタンと混合していないCuゼオライト単体B8、Mgゼオライト単体B9、及びNaゼオライト単体B10についても同様にアセトアルデヒド除去試験を行った。
【0070】
図1には、アセトアルデヒド除去試験に用いられた各試料A1〜A12,B1〜B10について、その構成及び試験の結果を対応させて示す。すなわち、図1には、各試料について、含有される第一成分C1(酸化チタン)及び第二成分C2(金属イオン担持ゼオライト又は金属含有化合物)と、当該第一成分C1と第二成分C2との重量比C1/C2と、当該第一成分C1と、第二成分C2に含有される金属と、の重量比C1/Mと、を示している。
【0071】
例えば、図1には、光触媒材A1について、第一成分C1として酸化チタン、第二成分C2としてCuゼオライトを含有し、1.0重量部の酸化チタン(C1)に対するCuゼオライト(C2)の重量比は0.2重量部であり(「C1/C2重量比」欄における「1.0/0.2」との記載)、1.0重量部の酸化チタンに対する銅イオン及びナトリウムイオン(M)の重量比はそれぞれ0.014重量部及び0.015重量部であったこと(「C1/M重量比」欄における「1.0/0.014(Cu)+0.015(Na)」との記載)が示されている。
【0072】
また、図1には、各試料について、試験に使用された重量(g)と、ブラックライト照射開始から2時間後及び4時間後のそれぞれの時点で測定されたアセトアルデヒドの濃度(ppm)と、ブラックライト照射開始から7時間後の時点で測定された酢酸の濃度(ppm)と、を示している。
【0073】
例えば、図1には、光触媒材A1について、その0.0240gが使用され、2時間後及び4時間後のアセトアルデヒド(AA)の濃度はそれぞれ5ppm及び1ppmであり、7時間後に測定された酢酸濃度は0.25ppm未満であったことが示されている。
【0074】
図2及び図3には、アセトアルデヒド除去試験におけるアセトアルデヒドガス残存率の経時的変化を示す。図2及び図3において、横軸はブラックライト照射開始から経過した時間(分)を示し、縦軸は各時間においてテドラーパック内に残存していたアセトアルデヒドの割合を示す残存率(%)を示している。この残存率は、初期濃度20ppmに対する、各時間で測定されたアセトアルデヒド濃度(ppm)の割合(%)として算出した。また、図2において、黒菱形印はCuゼオライトを含有する光触媒材A2、黒四角印はMgゼオライトを含有する光触媒材A4、黒三角印はZnゼオライトを含有する光触媒材A8、白丸印は酸化チタン単体からなる光触媒材B1の結果をそれぞれ示している。また、図3において、白丸印は酸化チタン単体からなる光触媒材B1、白四角印は銅粉末を含有する光触媒材B2、白三角印は硫酸銅を含有する光触媒材B3、バツ印(×)はフタロシアニン銅を含有する光触媒材B5の結果をそれぞれ示している。
【0075】
図4には、アセトアルデヒド除去試験における酢酸濃度の経時的変化を示す。図4において、横軸はブラックライト照射開始から経過した時間(分)を示し、縦軸は各時間においてテドラーパック内で測定された酢酸の濃度(ppm)を示している。また、図4において、黒菱形印はCuゼオライトを含有する光触媒材A2、黒四角印はMgゼオライトを含有する光触媒材A4、白丸印は酸化チタン単体からなる光触媒材B1、白四角印は銅粉末を含有する光触媒材B2、白三角印は硫酸銅を含有する光触媒材B3の結果をそれぞれ示している。
【0076】
図1〜図3に示すように、金属イオン担持ゼオライトを含有する光触媒材A1〜A12を用いた場合には、他の材B1〜B10を用いた場合と比較して、アルデヒド濃度をより短時間でより低いレベルに減少させることができ、アセトアルデヒドガスの除去速度が大きかった。
【0077】
すなわち、例えば、図2に示すように、金属イオン担持ゼオライトを含有する光触媒材A2,A4,A8は、金属イオン担持ゼオライトを含有しない光触媒材B1と比較して、アルデヒドをより速やかに除去し、光触媒材A2,A4は240分、光触媒材A8は300分の時点でアセトアルデヒド濃度を検出不能なレベル(ゼロppm)にまで低減した。
【0078】
このように、ゼオライト結晶に担持された金属イオンは、その助触媒的効果により、光触媒反応によるアセトアルデヒド除去能を効果的に促進できた。このような助触媒的効果は、ゼオライトを含有しない光触媒材B1(図1、図2参照)、及びゼオライト結晶に担持されたイオンとは異なる状態で金属を含有する光触媒材B2〜B7(図1、図3参照)については確認されなかった。
【0079】
また、図1及び図4に示すように、金属イオン担持ゼオライトを含有する光触媒材A1〜A12は、他の光触媒材B1〜B7と比較して、酢酸を顕著に高い効率で除去できた。
【0080】
すなわち、図4に示すように、金属イオン担持ゼオライトを含有しない光触媒材B1〜B3を用いた場合には、アセトアルデヒドの酸化により発生した酢酸がテドラーパック内に放出され、その濃度は所定の値で長時間にわたって維持された。
【0081】
これに対し、金属イオン担持ゼオライトを含有する光触媒材A2,A4を用いた場合には、酢酸の生成は確認されたものの、その濃度は金属イオン担持ゼオライトを含有しない他の光触媒材B1〜B3に比べて顕著に低かった。さらに、酢酸の濃度は、ブラックライト照射開始から240分後には検出不能なレベル(ゼロppm)にまで速やかに低減され、その後は全く検出されなかった。
【0082】
この点、図1及び図2に示すように、光触媒材A2,A4を用いた場合には、アセトアルデヒドの濃度が速やかに低減されていた。したがって、光触媒材A2,A4を用いた場合においても、酸化されたアセトアルデヒドの量に対応する量の酢酸が生成されていたはずである。しかしながら、それにも関わらず、図4に示すように、光触媒材A2,A4を用いた場合に測定された酢酸濃度は、他の光触媒材B1〜B3を用いた場合に比べて顕著に低かった。しかも、発生した酢酸は短時間出で消失したのである。
【0083】
なお、図1に示すように、金属イオン担持ゼオライト単体B8〜B10を用いた場合にも、7時間後に測定された酢酸濃度はゼロppmであったが、一方でアセトアルデヒド濃度がほとんど低減されていないことから、もともと酢酸はほとんど生成されていなかったと考えられた。
【0084】
これらの結果より、金属を、ゼオライトに担持されたイオンの状態で光触媒と併用することにより、アセトアルデヒドの除去能を効果的に高めることができ、しかも、光触媒反応により生じる中間生成物である酢酸の空気中への拡散を効果的に防止でき、異臭の発生を効果的に防止できることが確認された。
【0085】
このような金属イオン担持ゼオライトによる効果が得られる機構の一つとしては、中間生成物の発生と同時に、金属イオン担持ゼオライトが当該中間生成物を速やかに吸着し、光触媒周囲の当該中間生成物の濃度を低レベルに維持することで、光触媒の負荷を減少させることができ、その結果、全体としてのアセトアルデヒド除去が加速されたことが推認された。
【0086】
[実施例3]
上述の実施例1において製造されたCuゼオライトを含有する光触媒材A2、Mgゼオライトを含有する光触媒材A4、酸化チタン単体からなる光触媒材B1、銅粉末を含有する光触媒材B2、及びCuゼオライト単体B8について、トルエンガスの除去試験を行った。
【0087】
すなわち、各材を直径4cm、深さ1.5cmのガラス製シャーレに所定量入れ、このシャーレを、82ppmのトルエンガス3Lとともに容積5Lのテドラーパックに封入した。
【0088】
そして、各材にブラックライトを照射し(主照射波長は360nm、照射強度は1.3mW/cm)、その後、テドラーパック内のトルエンの濃度を経時的に測定した。トルエンの濃度は、ガス検知管(株式会社ガステック)を用いて測定した。
【0089】
また、金属イオン担持ゼオライトと混合していない酸化チタン単体からなる光触媒材B1、銅粉末を含有する光触媒材B2、酸化チタンと混合していないCuゼオライト単体B8についても同様にトルエン除去試験を行った。
【0090】
図5には、トルエン除去試験に用いられた各試料A2,A4,B1,B2,B8について、その構成及び試験の結果を対応させて示す。図5に示されている各試料の構成は、図1に示したものと同様である。また、図5には、各試料について、試験に使用された重量(g)と、ブラックライト照射開始から2時間後及び4時間後のそれぞれの時点で測定されたトルエンの濃度(ppm)と、を示している。
【0091】
例えば、図5には、光触媒材A2について、その0.300gが使用され、2時間後及び4時間後のトルエン(Tol)の濃度はそれぞれ6ppm及び0ppmであったことが示されている。
【0092】
図6には、トルエン除去試験におけるトルエンガス残存率の経時的変化を示す。図6において、横軸はブラックライト照射開始から経過した時間(分)を示し、縦軸は各時間においてテドラーパック内に残存していたトルエンの割合を示す残存率(%)を示している。この残存率は、初期濃度82ppmに対する、各時間で測定されたトルエン濃度(ppm)の割合(%)として算出した。また、図6において、黒菱形印はCuゼオライトを含有する光触媒材A2、黒四角印はMgゼオライトを含有する光触媒材A4、白丸印は酸化チタン単体からなる光触媒材B1、白四角印は銅粉末を含有する光触媒材B2の結果をそれぞれ示している。
【0093】
図5及び図6に示すように、金属イオン担持ゼオライトを含有する光触媒材A2,A4を用いた場合には、他の材B1,B2,B8を用いた場合と比較して、トルエン濃度をより短時間でより低いレベルに減少させることができ、トルエンの除去速度が大きかった。
【0094】
特に、図6に示すように、Cuゼオライトを含有する光触媒材A2のトルエン除去能力は際立って高かった。すなわち、この光触媒材A2は、ブラックライトの照射を開始してから急激にトルエン濃度を低減させ、180分後には検出不能なレベル(ゼロppm)にまで速やかに低減させた。もちろん、Mgゼオライトを含有する光触媒材A4もまた、速やかにトルエン濃度を低減させ、ブラックライト照射開始から420分後には検出不能なレベルにまで低減させた。
【0095】
一方、光触媒単体である光触媒材B1を用いた場合には、トルエン濃度は緩やかにしか減少させることができず、トルエン除去速度は小さかった。しかも、ブラックライト照射開始から540分後の時点でも50%以上のトルエンガスが残存していた。すなわち、トルエンは、光触媒単独では十分に除去できなかった。また、銅粉末を含有する光触媒材B2を用いた場合には、光触媒材B1に比べるとトルエン除去速度が大きかったが、その効果は金属イオン担持ゼオライトを含有する光触媒材A2,A4には及ばず、540分後の時点でも10%以上のトルエンガスが残存していた。
【0096】
これらの結果より、金属を、ゼオライトに担持されたイオンの状態で光触媒と併用することにより、トルエンの除去能を効果的に高めることができることが確認された。特に、ゼオライトに担持された銅イオンの助触媒的効果は顕著に高かった。
【符号の説明】
【0097】
A1,A2,A3 Cuゼオライトを含有する光触媒材、A4,A5,A6 Mgゼオライトを含有する光触媒材、A7,A8,A9 Znゼオライトを含有する光触媒材、A10 Caゼオライトを含有する光触媒材、A11 Naゼオライトを含有する光触媒材、A12 Agゼオライトを含有する光触媒材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒と、ゼオライトに担持された金属イオンと、を含む
ことを特徴とする光触媒材。
【請求項2】
前記金属イオンとして、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、銀イオン、カルシウムイオン、マンガンイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種とナトリウムイオンとを含み、又はナトリウムイオンのみを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の光触媒材。
【請求項3】
前記金属イオンとして、銅イオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン及び銀イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種とナトリウムイオンとを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の光触媒材。
【請求項4】
前記金属イオンとして、銅イオンとナトリウムイオンとを含む
ことを特徴とする請求項3に記載の光触媒材。
【請求項5】
前記ゼオライトは、そのシリカ/アルミナ比が30未満である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光触媒材。
【請求項6】
前記金属イオンは、前記金属イオンを担持した前記ゼオライトに1〜25重量%の範囲内で担持されている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光触媒材。
【請求項7】
前記金属イオンを担持した前記ゼオライトの前記光触媒に対する重量比は、0.1〜30の範囲内である
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の光触媒材。
【請求項8】
前記光触媒と、前記ゼオライトに担持された前記金属イオンと、が担持された基材をさらに含む
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の光触媒材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−179197(P2010−179197A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22524(P2009−22524)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】