説明

光触媒機能を有する撥水性構造体

【課題】光触媒機能を有するとともに耐久性のある高度撥水性表面を有する構造体を実現する。
【解決手段】多孔質基材を用いて構成した多孔質構造体からなり、少なくとも該構造体内における外部に開放された空隙の形成面に光触媒が露出しており、かつ、該構造体の外部に現れる表面が水接触角120度以上の高度撥水性表面に構成されていることを特徴とする光触媒機能を有する撥水性構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒機能を有する撥水性構造体に関し、とくに、二酸化チタン等の光触媒を添加し、新鮮な表面が間欠的に表れてくるような、いわゆる「新陳代謝機能」を付加することで、高度撥水性状態の耐久性を著しく向上させた固体表面を有する構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
接触角が高い撥水性の表面は、低表面エネルギーに表面粗さを組み合わせることにより作製できることが知られている。この作製方法には様々なものがあり、例えば、特許文献1〜4に記載の方法が知られている。また、非特許文献1や非特許文献2において、その方法や効果が詳しく述べられている。非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7など関連する文献も数多く知られている。また、接触角が高められた超高度撥水性表面は、表面と水との接触面積を著しく小さくすることができるため、水を介した化学反応の進行や局部電池の形成、電気回線のショート、あるいは水素結合の形成を抑えることができる。このため、固体表面における着雪雨滴付着防止、汚れ防止、防錆、電気絶縁性、離型性などの様々な目的に対して、高い効果が期待できる。ここで述べる高度撥水性表面とは、平滑面では実現できない接触角120°以上のものを言う。そしてその適用範囲は、自動車や新幹線等の乗り物の外装、船底塗料、外灯、台所及び台所用品、浴室や洗面所とその用品、漁業用網、ブイ、歯科用品、電気機器、住宅の床や外装、玄関ドア及びノブ、屋根、プール及びプールサイド、橋脚、門扉、ポスト、ベンチ、鉄塔、アンテナ、電線、ガレージ、テント、傘、レインコート、スポーツ用品およびスポーツ衣料、ヘルメット、靴や鞄などの皮革製品、カメラ、ビデオ、紙、スピーカー等の屋外拡声器や音響機器、カーテン、絨毯、ガソリンスタンド等の注油ノズル、精油所等の化学プラント、金属製工具類、釘やネジ、バケツ類等、極めて広範囲に及ぶ。しかしながら、高度撥水性表面は、微細な表面構造と低表面エネルギーの組み合わせで実現させることから、その表面構造を形成する基材に固い素材を用いたとしても、摩耗等に対する耐久性を担保させることが困難であった。
【0003】
一方、分離精製媒体やカラムクロマトグラフィーの充填剤に使用される多孔性架橋ポリマー樹脂が、細い骨格により分離性能を示す一体構造を有する分離媒体(以下、有機モノリス構造体と言う。)の研究開発が行われており、一部実用化に至っている(例えば、特許文献5)。この特許文献5に示されているのは、エポキシ樹脂硬化物の三次元網目骨格を有する多孔体であり、三次元網目構造が柱状のエポキシ樹脂硬化物の共連続構造である。また、その際に、エポキシ樹脂の他に、スチレン、メタクリレート、アクリレート等の樹脂も用いることができることも知られている(例えば、特許文献6)。
【0004】
これまでに述べたように、高度撥水性表面を有する材料は、固体−水間の相互作用や水を介した各種の反応を緩和若しくは防止できるため、従来の材料では困難であった様々な機能を実現することが可能になり、新しい表面機能材料として注目されている。しかしながら、凹凸構造を形成する基材に固い素材を用いたとしても、摩耗等に対する耐久性を担保させることが困難であり、長期間に渡り撥水性を維持するのは困難であった。前述のような有機モノリス構造体は、細孔(空隙)と細孔(空隙)を構成する骨格が連結した共連続構造(スピノーダル)であることから、その塊をいかなる方向で切り分けてても、実質的に一定の凹凸構造を有する表面を形成する。有機モノリス構造体の骨格を撥水性に表面改質を行った場合、高い撥水性を呈するのに十分な表面凹凸構造を得ることができる。しかしながら、生物の新陳代謝のような“自己修復機能”を模倣した材料設計指針に取り入れ、常に新鮮な表面をさらすことで凹凸構造を維持することにより高度撥水性を維持できるようにした材料は、未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-25449号公報
【特許文献2】特開2000-26844号公報
【特許文献3】特開2001-152138号公報
【特許文献4】特開2008-6784号公報
【特許文献5】特開2009-269948号公報
【特許文献6】WO 2006/126387号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A. Nakajima, K. Hashimoto, and T. Watanabe, Monatshefte fur Chemie, 132, 31 (2001)
【非特許文献2】R. Blossey, Nature Material, 2, 301 (2003)
【非特許文献3】中島章、橋本和仁、渡部俊也:光化学、Vol.30,No.3、p199-206 (1999)
【非特許文献4】中島章、橋本和仁、渡部俊也:ペトロテック、vol.25, [4] p266-270 (2002)
【非特許文献5】中島章、橋本和仁、渡部俊也:セラミックス、37, No.3 148-151 (2002)
【非特許文献6】中島章、渡部俊也、橋本和仁:現代化学、371[2], 22-26 (2002)
【非特許文献7】中島章:未来材料、4[5], 42-48 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術に述べたように、高度撥水性表面の作製例は多数報告されているが、実用化までに至ったのは極めて限定的である。なぜなら、高度撥水性表面は、微細な表面構造と低表面エネルギーの組み合わせで実現させることから、その表面構造を形成する基材に固い素材を用いたとしても、摩耗等に対する耐久性を担保させることが困難であったためである。加えて、無機物を中心に表面構造を形成した際には撥水剤による表面改質を行うが、その撥水剤に物理的な摩耗や紫外線等による「剥がれや分解」が起きた場合、自発的に回復することはない。
【0008】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術の実情に鑑み、生物の新陳代謝のような“自己修復機能”を模倣した材料設計指針を取り入れ、光触媒機能を有するとともに耐久性のある高度撥水性表面を有する構造体を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る光触媒機能を有する撥水性構造体は、多孔質基材を用いて構成した多孔質構造体からなり、少なくとも該構造体内における外部に開放された空隙の形成面に光触媒が露出しており、かつ、該構造体の外部に現れる表面が水接触角120度以上の高度撥水性表面に構成されていることを特徴とするものからなる。
【0010】
このような撥水性構造体は、外部に開放された空隙を有する多孔質基材を用いて構成した多孔質構造体であり、構造体内における空隙の形成面には光触媒が露出しているので、外部から進入してきた光により、露出されている光触媒は、構造体内における空隙形成面上やその空隙の構造体外部への開放部周縁において、光触媒機能を発揮することができる。また、構造体の外部に現れる表面は、多孔質基材の表面凹凸構造等により、水接触角120度以上の高度撥水性表面に構成されているので、所望の撥水性を発揮することができる。そして、この多孔質構造体の基材が外部へ開放された空隙を有する多孔質基材であるので、その表面が摩耗や分解等により減退したとしても、新しく現れた表面もそれまでと同様の表面凹凸形状を呈することとなり、その多孔質基材の表面凹凸構造等によりそれまでと同様の高度撥水性を発揮することができると同時に、構造体内における空隙の形成面は、光触媒が露出したままの状態に保たれるから、それまでと同様の光触媒機能を発揮することができる。すなわち、構造体表面の摩耗や分解等にかかわらず、該構造体は、常に所望の表面高度撥水性と、光触媒機能とを発現可能となる。したがって、構造体表面についてみれば、常に新鮮な所望の性能を有する表面が現れるようにすることができ、いわば「新陳代謝による自己修復機能」を付加することができ、表面の高度超撥水性状態の維持に関して耐久性を著しく向上させることが可能になる。
【0011】
上記本発明に係る光触媒機能を有する撥水性構造体において、上記多孔質基材としては、多孔質構造を有するものであるかぎり特に限定されないが、とくに、この多孔質基材が、空隙と空隙を形成する骨格が三次元網目状に連結された共連続構造(スピノーダル)を有する有機モノリス構造体から構成されていることが好ましい。このような有機モノリス構造体としては、例えば前述の特許文献5に記載されているようなエポキシ樹脂硬化物からなる多孔体を使用できる。このような共連続構造を有する有機モノリス構造体の多孔質基材を使用し、その構造体内の空隙形成面および該空隙の構造体外部への開放部周縁に光触媒を露出させることにより、光触媒が有機モノリス構造体を表面側において徐々に分解(自己エッチング)するとき、常に新鮮な表面が現れるようにする、いわば「新陳代謝による自己修復機能」を付加することができる。すなわち、有機モノリス構造体は、空隙と空隙を形成する骨格が連結した共連続構造(スピノーダル)なので、その塊をいかなる方向で切り分けて表面を得たとしても、また、それまでの表面部位の分解等により異なる位置に新しい表面が形成されたとしても、その表面は実質的に一定の凹凸構造を有することができ、例えば、強い摩擦を与えて表面を剥ぎ取った場合でも、高度撥水性表面の形成に必要なひとつの要素である微細凹凸構造を常に維持することが可能になる。このように、有機モノリス構造体の表面を、常に、微細凹凸構造を呈する共連続構造に保つことが可能になり、表面の高度撥水性状態の維持に関しての耐久性を著しく向上させることが可能になる。
【0012】
また、本発明に係る光触媒機能を有する撥水性構造体において用いられる光触媒は、所定の光照射により(例えば、所定の波長範囲の光照射により)触媒機能を発揮できるものであれば特に限定されないが、代表的には酸化チタン(二酸化チタン)を用いることができる。酸化チタンの結晶構造としてはルチル型やアナターゼ型が知られているが、より良好な良好な光触媒機能を発揮できる点から、酸化チタンとしてはアナターゼ型結晶構造を有しているものが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る光触媒機能を有する撥水性構造体においては、上記多孔質基材の空隙形成面に光触媒を露出させておく形態として、例えば、光触媒が多孔質基材の空隙形成面にコーティングされている形態を採ることができる。また、光触媒が多孔質基材の骨格内に練り込まれている形態を採ることもできる。いずれの形態においても、光触媒は、空隙内に進入してきた光により、所望の光触媒機能を発揮することが可能である。
【0014】
このように光触媒が露出された形態において、例えば光触媒に紫外線が照射された場合、光触媒は「有機物分解反応」機能を有する。例えば、上述の有機モノリス構造体に光触媒を内部構造及び/又は表面に適当な量を添加して露出させた場合、有機モノリス構造体を光照射表面から順に分解し、水(例えば、降雨等)に暴露されることで常に新鮮な表面が現れるようになり、常にモノリス構造体の微細凹凸形状の表面を存在させることが可能になり(つまり、いわゆる自己エッチング機能を有することが可能になり)、高い撥水性を長期間にわたり維持することができる。
【0015】
また、本発明に係る光触媒機能を有する撥水性構造体においては、構造体の表面の高度撥水性は、基本的には、少なくとも上記多孔質基材の表面の凹凸構造(微細凹凸構造)により付与される。そして、この表面凹凸構造による撥水性に加え、構造体の表面の高度撥水性が、さらに、上記多孔質基材の母材に対しフッ素系樹脂を存在させ、該フッ素系樹脂を上記構造体の表面に露出させることにより付与されている形態を採用することも可能である。このようなフッ素系樹脂の存在により、さらに高度の撥水性、例えば、いわゆる超撥水性の発現が可能となる。このようなフッ素系樹脂は、上記多孔質基材の母材中に練り込まれていてもよく、多孔質基材にコーティングされていてもよい。高い撥水性を発現させるために、上記フッ素系樹脂として、例えばポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。
【0016】
また、本発明に係る光触媒機能を有する撥水性構造体においては、上記構造体内における空隙形成面に露出されている光触媒は、光触媒機能により、上記構造体の外部に現れる表面を形成する空隙形成骨格部位の周囲部から、該表面上に存在する有機物の少なくとも一部を分解可能な光触媒を構成していることが好ましい。すなわち、構造体の表面上に不要な有機物が存在するようになったとき、それを光触媒機能を利用して徐々に分解除去することにより、常に新鮮な表面、つまり、高度撥水性を有する新鮮な表面が現れるようにすることが可能である。
【0017】
このとき、上記光触媒は、上記表面上に存在する有機物が例えば該表面上の流水(例えば、雨水等による流水)により洗い流されることが可能な程度にまで、該表面上に存在する有機物の少なくとも一部を分解可能な光触媒からなることが好ましい。このように構成すれば、例えば屋外に設置される構造体の表面に対して、自然洗浄機能を持たせることが可能になり、表面の高度撥水性を自然に回復させることが可能になる。もちろん、高度撥水性の回復のために、布やサンドペーパー等で、不要な表面上存在物質を強制的に除去するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光触媒機能を有する撥水性構造体によれば、外部への開放空隙を有する多孔質構造体の表面を常に微細な凹凸構造に保持して高度な撥水性を維持させるとともに、少なくとも構造体内の空隙形成面に光触媒を常に露出させて所望の光触媒機能を維持させることができ、光触媒機能を有するとともに耐久性のある高度撥水性表面を有する構造体を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施態様に係る撥水性構造体における有機モノリス構造体を例示した説明図である。
【図2】実施例1における暴露試験の結果を示す暴露時間と接触角との関係図である。
【図3】暴露試験における水接触角の低下前(A)と低下後(B)の表面状態を示す図である。
【図4】暴露試験における水接触角の低下前(A)と低下後(B)〔復活前〕と水接触角の復活後(C)の表面状態を示す図である。
【図5】実施例2で綿布を用いて耐摩耗性試験を実施した結果の説明図である。
【図6】実施例3でサンドペーパーを用いて耐摩耗性試験を実施した結果の説明図である。
【図7】実施例4において有機モノリス構造体にPTFE粒子を添加し骨格自身の撥水性を向上したモノリス構造体を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、実施の形態とともに詳細に説明する。
まず、本発明に係る光触媒機能を有する撥水性構造体の作製方法の一例について説明する。基材として、空隙と空隙を構成する骨格が連結した共連続構造(スピノーダル)を有する有機モノリス構造体を用意する。これは、化学的に安定な粘弾性体で、空隙径の制御がある程度可能である(例えば、前述の特許文献6)。モノマーとしては、エポキシが好ましい。その空隙径は特に限定されないが、望ましくは200nm〜10μm 、より望ましくは、500nm〜1μm である。光触媒の酸化分解反応を用いてモノリス構造体を光照射表面から分解し常に初期状態と同等の表面凹凸構造を維持する、自己エッチング機能を利用した自己修復機能を付加するために、二酸化チタン光触媒をモノリス構造内部の空隙形成面、または空隙形成面に加えて構造体の表面の少なくとも一部に露出させるように設ける。例えば図1に示すようなモノリス構造体Mの内部に設置する場合には、モノリス構造を作製する際にモノマーに光触媒を0.01〜1Mass% で添加し、望ましくは、0.05〜0.5Mass%の範囲で添加することが望ましい。モノリス構造体Mの表面に設置する場合には、二酸化チタン光触媒を0.00001Mass%〜0.1Mass%で分散させたゾル溶液を含浸させ、望ましくは、0.0001Mass% 〜0.001Mass%の濃度に調整する。その溶媒には、有機モノリス構造体を溶解しない溶剤を用い、例えば水エタノール混合液のような表面張力が低いもの望ましい。その際、0.1MPa未満の負圧下で、1時間以上、望ましくは3時間以上含侵させることが望ましい。取り出したモノリス構造体は、例えばホットプレート上で乾燥させる。いずれの場合であっても、二酸化チタン光触媒の粒子サイズは特に限定されないが、モノリス構造体もしくは空隙径よりも十分に小さい粒径が適切であり、数10nm程度以下が望ましい。このような微細な表面凹凸構造を有するモノリス構造体Mは、その表面凹凸構造に基づく高度撥水性(例えば、120°以上の水接触角の撥水性)を有することが可能である。さらに、高度な撥水性を持たせるために、例えば、最後に、二酸化チタン光触媒が添加されたモノリス構造体を、撥水性ポリマー(フッ素系ポリマーが好ましいが、シリコン系ポリマーも可能である)を0.00061 〜0.61Mass% を有機溶媒に溶解したものに12時間以上含侵させ、表面改質を行う。このように表面改質されたモノリス構造体Mの表面は、図1に示すように、水滴Wに対し、例えば水接触角145°あるいはそれ以上の超撥水性を呈することが可能となる。
【0021】
以下に、本発明により実際に測定、評価した実施例を例示して、本発明をより具体的に説明する。尚、これらの実施例は単に例示であって本発明を制限するものではない。
【0022】
実施例1
(接触角の測定)
エポキシ系モノリス構造体を用いてTiO2光触媒をモノリス構造体中に配置する際には、モノリスポリマーのプレートにTiO2ゾル溶液(0.0001〜0.1 Mass %)を真空含浸させた(0.1MPa、3時間)。撥水化処理は、フッ素系樹脂の溶剤(0.00061 〜0.61 Mass%)に、浸漬させることで実施した(大気圧、12時間)。ちなみに、各溶剤から取り出した後は、乾燥機で乾燥させた(60℃、1時間)。浸漬後のSEMにより観察した像の例を、図1に示す。フッ素系ポリマーコート後も、共連続構造を維持しており、いずれの浸漬条件であっても接触角は概ね140°以上(図示例は、145°)を示した。
【0023】
(暴露試験)
評価サンプルは、神奈川サイエンスパーク内の暴露実験台(高さ:1.0m,角度:45°)に設置した。その際の接触角変化と降雨の関係を図2に示す。この結果から、降雨から乾燥の過程を経た場合に接触角が復活しており、有機モノリス構造体に光触媒を構造体内、またはそれに加えて少なくとも表面の一部に適当な量を添加した場合、有機モノリス構造体を表面から順に分解し、水(例えば、降雨等)で洗い流されることで間欠的に新鮮な表面が現れ(表面にモノリス構造が存在し)、高度な撥水性を長期間にわたり維持できることを確認した(図2)。接触角が低下した際の表面構造は、有機モノリス構造から皮脂状構造に変化した(図3の(A)から(B)の状態に変化した)。しかしながら、少量の光触媒を含有している場合、図4に示すように、「降雨」から「乾燥」への過程を経ることで、暴露前の状態(A)から皮脂状構造に変化した状態(B)(復活前の状態)に対し、表層が降雨で洗い流され(皮脂状構造が剥ぎ取られ)、接触角が回復した(図4(C)の復活後の状態)。
【0024】
実施例2、比較例1
(耐摩耗性試験)
図5に示すように、表面の物理的耐久性を評価した、荷重負荷手段2により、100 g重/cm2の荷重が掛った綿布3を、評価サンプル1上で往復運動させるトラバース試験を行った結果を図5に示す。有機モノリス構造体を利用して作製した高度撥水性表面(実施例2)は、単に市販されている超撥水コーティング(HIREC 450:PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粒子をフッ素系シリコン樹脂で固定したもの)を施したもの(比較例1)よりも、表面の不要物を溶剤(キシレン)で除去した後に測定した接触角の低下が抑制された。加えて、最後に、綿布で摩耗された表面をサンドペーパー(800番)で剥ぎ取ると、接触角を大幅に回復させることができた。
【0025】
実施例3
実施例2において、綿布の代わりに初期の段階からサンドペーパー4(800番)を用いて同様のトラバース試験を行った結果を図6に示す。サンドペーパーによる表面剥ぎ取りにより、接触角をさらに大幅に回復させることができた。
【0026】
実施例4
(有機モノリス構造体の骨格へのPTFE粒子の添加)
有機モノリス構造体の骨格内にPTFE粒子を配置(練り込みまたはコーティングにより配置)することで、有機モノリス構造体の骨格の撥水性をさらに向上させることが可能である。例えば、最表層が摩耗されて有機モノリス構造体の骨格がむき出しになった場合、多くの有機モノリス構造体は親水性であることから、撥水性を低下させる因子になり得た。しかしながら、例えば、図7に示すように、エポキシ樹脂からなる有機モノリス構造体11の骨格内にPTFE粒子12を配置させた場合、摩耗により有機モノリス構造体の骨格がむき出しになっても撥水性が維持され、高度撥水性の維持に寄与することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る光触媒機能を有する撥水性構造体は、光触媒機能とともに表面に耐久性のある高度撥水性が要求されるあらゆる構造体に適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
M 有機モノリス構造体
W 水滴
1 評価サンプル
2 荷重負荷手段
3 綿布
4 サンドペーパー
11 有機モノリス構造体
12 PTFE粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材を用いて構成した多孔質構造体からなり、少なくとも該構造体内における外部に開放された空隙の形成面に光触媒が露出しており、かつ、該構造体の外部に現れる表面が水接触角120度以上の高度撥水性表面に構成されていることを特徴とする光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項2】
前記多孔質基材が、空隙と空隙を形成する骨格が三次元網目状に連結された共連続構造を有する有機モノリス構造体から構成されている、請求項1に記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項3】
前記有機モノリス構造体がエポキシ樹脂硬化物からなる、請求項2に記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項4】
前記光触媒が酸化チタンからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項5】
前記酸化チタンがアナターゼ型結晶構造を有している、請求項4に記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項6】
前記光触媒が前記多孔質基材の空隙形成面にコーティングされている、請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項7】
前記光触媒が前記多孔質基材の骨格内に練り込まれている、請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項8】
前記構造体の表面の高度撥水性が、少なくとも前記多孔質基材の表面の凹凸構造により付与されている、請求項1〜7のいずれかに記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項9】
前記構造体の表面の高度撥水性が、さらに、前記多孔質基材の母材に対しフッ素系樹脂を存在させ、該フッ素系樹脂を前記構造体の表面に露出させることにより付与されている、請求項8に記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項10】
前記フッ素系樹脂が前記多孔質基材の母材中に練り込まれている、請求項9に記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項11】
前記フッ素系樹脂が前記多孔質基材にコーティングされている、請求項9に記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項12】
前記フッ素系樹脂がポリテトラフルオロエチレンからなる、請求項9〜11のいずれかに記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項13】
前記構造体内における空隙形成面に露出されている光触媒は、光触媒機能により、前記構造体の外部に現れる表面を形成する空隙形成骨格部位の周囲部から、該表面上に存在する有機物の少なくとも一部を分解可能な光触媒を構成している、請求項1〜12のいずれかに記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。
【請求項14】
前記光触媒は、前記表面上に存在する有機物が該表面上の流水により洗い流されることが可能な程度にまで、該表面上に存在する有機物の少なくとも一部を分解可能な光触媒からなる、請求項13に記載の光触媒機能を有する撥水性構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−162672(P2011−162672A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27404(P2010−27404)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、革新的部材産業創出プログラム、循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】