説明

光触媒機能を有する部材および複層ガラス

【課題】 光触媒活性の高い部材を及びこの部材を応用した複層ガラスを提供する。【解決手段】 基材(ガラス板)表面に結晶性の下地層(ZrO)を介して光触媒層(TiO)が形成され、この光触媒層と下地層との間にはデッドレイヤーが実質的に存在していない。更に基材と下地層との間に非晶質層を設けることで、光触媒層と基体間での膜剥離や欠点が見られない。特に各層の膜厚を特殊な領域で設計することにより、光学的な反射色の特徴と、反射率のバラつきの小ささ、光触媒の機能を総合的に両立するような膜構成を有した物品を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面に光触媒層を形成した部材およびこの部材を組み込んだ複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
アナターゼ型の酸化チタンなどの光触媒は紫外線の照射によって有機物を分解する防汚効果、抗菌性および親水性を発揮することが知られている。また最近では可視光によって触媒機能を発揮する光触媒も注目されている。
上述した光触媒の層をガラス等の部材表面に形成するには、スパッタリングや蒸着などの真空成膜法あるいは減圧成膜法による場合が多い。
【0003】
ガラス等の基材表面に光触媒層を形成するにあたり、基材と光触媒層との間に下地層を設ける提案が、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4になされている。
特許文献1には、ガラス基材の表面に光触媒組成物からなる媒体を形成するにあたり、ガラスから溶出するアルカリによる媒体の機能低下を防止するため、ガラス基材と光触媒組成物(媒体)との間にバリヤー層を設けることが開示され、バリヤー層としては酸化ジルコニウム、特に非晶質酸化ジルコニウムを用いることが提案されている。
特許文献2には、基材上に下地膜を介在させて光触媒層を形成すること、特に下地膜として酸化ジルコニウム、光触媒層として酸化チタンを用いる内容が開示されている。
特許文献3には、基材(アルミニウム)と光触媒層との間に酸化ジルコニウム等の金属酸化物層を介在させ、この金属酸化物層によって光触媒層から基材への酸素の拡散を抑制する内容が開示されている。
特許文献4には、光触媒物質として酸化ジルコニウムが挙げられ、この酸化ジルコニウムの外側に酸化チタン層を形成した内容が開示されている。
【0004】
また、酸化ジルコニウムと酸化チタンとを積層した膜の膜厚と光学特性との関係に言及した先行技術として、特許文献5及び特許文献6がある。
特許文献5には、アルカリ拡散防止層として厚さ10nm以下のSnOおよびZrOが挙げられ、TiOとしては20nm以下が挙げられ、更に物品に透明性を持たせる場合には被膜の厚さを薄くする必要があることが記載されている。
特許文献6には基板と酸化チタン層との間に、高温安定型の立方晶系又は斜方晶系の酸化ジルコニウム層が形成されていることが開示され、更に自動車用途では光触媒層の厚さは見通せる程度でなければならないことが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−227167号公報
【特許文献2】特開平10−66878号公報
【特許文献3】特開2000−312830号公報
【特許文献4】特開2001−205094号公報
【特許文献5】特開2000−513695号公報、第12頁8行
【特許文献6】PCT国際公開公報(WO 02/40417)、第10頁9行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
文献1〜5に記載した方法によって光触媒層を形成すると、光触媒としての機能を発揮しない場合があったり、光触媒層の厚みを厚くしないと光触媒としての機能を発揮せず物品の反射率が大きくなったり干渉色が現れたりして、好ましい反射率や色調と光触媒活性との両立が難しい場合があった。
【0007】
また特許文献6に開示されるように光触媒層(TiO)の下地層として結晶性酸化ジルコニウム層を設けると、光触媒活性に優れた光触媒層を形成することはできるが、高温安定型の立方晶系又は斜方晶系の酸化ジルコニウム層を形成する必要がある場合には、基板として耐熱性の低い樹脂などを用いることができない。また、大きなサイズの基板は均一に加熱することが技術的に難しいので建築用などの大きなサイズの光触媒性部材を得ることが困難であるなどの問題のほかに、色調にムラが生じる問題がある。
【0008】
また、複層ガラスには屋外側ガラス板の屋内側表面に、熱線反射膜(低放射率膜:Low−E膜)を設けた構成が公知であるが、この熱線反射膜を設けたガラス板は緑がかった色調になってしまい、色調の自由度において課題が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る光触媒機能を有する部材は、透明基材表面に珪素、錫の少なくとも一方を含む酸化物、酸窒化物、及び窒化物を主成分とする剥離防止層が設けられ、この剥離防止層の上に結晶性下地層を介して光触媒層が形成された光触媒機能を有する部材であって、前記結晶性下地層の厚みを2nm以上40nm以下、好ましくは3nm以上20nm以下とし、前記光触媒層の厚みを2nm以上15nm以下、好ましくは3nm以上10nm以下とした。
【0010】
前記剥離防止層としては非晶質の酸化珪素、前記結晶性下地層としては酸化ジルコニウム、前記光触媒層としては結晶性の酸化チタンが例示できる。特に結晶性下地層は単斜晶系酸化ジルコニウム結晶が好ましい。
【0011】
即ち、同じ成膜厚さの光触媒層(TiO)で、光触媒機能を発揮するものとしないものの断面構造を電子顕微鏡で観察したところ、その相違は光触媒層の結晶性にあることが判明した。即ち、柱状粒子構造が基材との界面から層の表面まで明確に連続して形成されている光触媒層(TiO)は顕著な光触媒効果を発揮するが、基材との界面付近に柱状粒子構造が認められず、アモルファス層(以下デッドレイヤーと称する)が存在する光触媒層は十分な光触媒効果を発揮しない。
【0012】
ここで、デッドレイヤーとはアモルファス(非晶質)の特徴が強く出た層であり、電子線回折像がハローパターンとなって観測される。尚、デッドレイヤーでない場合には回折スポットが観測される。
【0013】
また、上記のデッドレイヤーが実質的に存在しない構成とした場合、下地層から光触媒層まで連続的に粒子構造が形成されるため、これら粒子構造(柱状構造)の隙間を通り、表面から塩素イオンのようなイオン半径の小さいイオンや水分が、ガラス基板(基材)方向へ拡散する場合がある。このような拡散分子がガラス基板まで到達した場合、塩素イオンなどの陰イオンがガラス基板中に存在するナトリウムなどのアルカリイオンと反応して塩が生成し膜が剥離したり、欠点となったりする場合がある。
【0014】
本発明者らは以下の知見に基づいて本発明をなした。即ち、光触媒の結晶粒子の成長を助長する下地層を介して光触媒層を成膜すれば、上記のデッドレイヤーの出現を抑制でき、また下地層とガラス基板との間に剥離防止層を設ければ、ガラス基板からの膜の剥離や、欠点の発生を抑制でき、且つ光触媒性能の低下を抑制することができ、しかも下地層として単斜晶系酸化ジルコニウム結晶を含む層を用いることで光触媒の結晶粒子の成長を助長する効果が更に高まり、そして更に、結晶性下地層の厚みと光触媒層の厚みを特定の範囲にそれぞれ限定することで、反射率が低く、反射色調が薄いブルーで、反射率ムラや色調ムラもなくなるので、爽快感など特定のデザインを重視した大面積の建築用ガラスに好ましく適用できる。
【0015】
建築用ガラスのうち、特に複層ガラスの屋外側ガラス板として上記の光触媒機能を有する部材を適用することが考えられる。この場合、屋外側ガラス板の屋外側表面に、珪素、錫の少なくとも一方を含む酸化物、酸窒化物、及び窒化物を主成分とする剥離防止層が設けられ、この剥離防止層の上に厚み2nm以上25nm以下、好ましくは3nm以上5nm以下の結晶性下地層を介して、厚み2nm以上15nm以下、好ましくは3nm以上5nm以下の光触媒層が形成され、また屋外側ガラス板の屋内側表面に熱線反射膜が形成された構成とする。
【0016】
なお、上記の光触媒機能を有する部材または複層ガラスにおいて、剥離防止層の厚みは2nm〜200nmであり、好ましくは5nm〜100nmである。剥離防止層の厚みが2nmより薄いと、膜剥離、欠点の発生の抑制効果が充分ではなく好ましくない。またこれが200nmより厚くなっても、前記膜剥離、欠点の発生の抑制効果が大きく向上することはないので、経済的観点から、剥離防止層の厚みの上限は200nmが好ましい。剥離防止層の厚みが5nmより厚いと、水分の遮断効果が高まり、基板と膜との界面での水溶性塩の発生が完全に抑制されるようになり、より好ましい。またこの効果は、前記剥離防止層の厚みが100nm以下で充分発揮されるので、より好ましい剥離防止層の厚みの上限は100nmである。但し、剥離防止層として基板の屈折率と大きく異なる屈折率のものを選定する場合には、色調に変化を生じないように、できるだけ薄くすることが好ましい。
【0017】
前記剥離防止層は、表面からの塩素イオンのようなイオン半径の小さいイオンや水分を遮断し、これらイオンや分子がガラス基板(基材)まで到達するのを防ぎ水溶性の反応塩の発生を防ぐので、これが水に溶けて起こる基板からの下地層の剥離を抑制できる。
また、基材として、フロート法で作製したガラス基板を選定する場合には、ガラス基板の錫浴との接触面に形成される錫変質層或いは非晶質酸化錫層を剥離防止層とすることができる。
【0018】
また、本発明にあっては、前記下地層および光触媒層が結晶性の金属酸化物または金属酸窒化物からなり、前記下地層を構成する結晶中の酸素原子間の距離の少なくとも1つが、光触媒層を構成する結晶中の酸素原子間の距離の1つと近似していることが好ましい。この条件を満たす下地層と光触媒層の組み合わせだと、下地層上に光触媒層を形成する際、酸素原子を共通部分として、即座に結晶性の光触媒層が成長し易い。
酸素原子の間隔に注目すると、単斜晶酸化ジルコニウムとアナターゼ型酸化チタンはある部分で近似(90〜110%の範囲にある)しており、下地層として単斜晶系の結晶性ジルコニウム化合物を選定すれば、その上にアナターゼ型酸化チタンの結晶が形成され易いと考えられる。
下地層としては、前記単斜晶酸化ジルコニウムの他、窒素や錫や炭素が微量添加された酸化ジルコニウムや、酸窒化ジルコニウムが好ましく用いられる。
また、光触媒層としては、前記アナターゼ型酸化チタンの他、窒素や錫や炭素が微量添加された酸化チタンや、酸窒化チタンが好ましく用いられる。
【0019】
尚、下地層として好ましい酸化ジルコニウム単斜晶の層断面に対し直交方向から照射することで得られる電子線回折像としては、(111)面または(−111)面からの回折像があり、(111)配向面の面間隔は2.6〜3.0Å、(−111)配向面の面間隔は3.0〜3.4Åである。
この範囲外の面間隔の酸化ジルコニウムは、結晶中に歪みが発生しているので膜応力が大きく、膜剥がれを起こし易い。また、結晶面の酸素位置が歪みによってずれてしまい、酸化チタンなどの光触媒層を構成する酸化物と酸素位置の整合性が低くなるため、光触媒層の好ましい結晶成長が見られなくなる。
【0020】
また、光触媒層として好ましいアナターゼ型酸化チタンの層断面に対し直交方向から照射することで得られる電子線回折像としては、(101)面からの回折像があり、(101)配向面の面間隔は3.3〜3.7Åである。
この範囲外の面間隔の酸化チタンは、結晶中に歪みが発生しているので膜応力が大きく、膜剥がれを起こし易い。また、結晶面の酸素位置が歪みによってずれてしまい、酸化ジルコニウムなどの下地層を構成する酸化物と酸素位置の整合性が低くなるため、酸化チタンの好ましい結晶成長が見られない。
【0021】
前記下地層および光触媒層の形成方法としては、液相法(ゾルゲル法、液相析出法)、気相法(スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法)など、何れの方法でも良く、下地膜による光触媒層の結晶性向上効果が認められるが、結晶成長を伴うので、本発明において特に大きな効果が認められるスパッタリング法や蒸着法などの気相法がさらに適当である。
【0022】
また、前記光触媒層中に金属をドープすることでキャリアの発生を促進し光触媒効果を高めることができる。
ドープ金属としてはZn、Mo、Feなどが、光触媒活性向上効果が高く適当である。ZnおよびMoについては、添加量を0.1質量%以上1質量%以下とするのが好ましく、更に好ましくは0.2質量%以上0.5質量%以下とする。Feについては、光触媒層中の含有量が0.001質量%以上0.5質量%以下となるようにする。これらに限定するのは、添加量が少ないと効果が小さ過ぎ、多すぎると光触媒の結晶構造の乱れや再結合中心生成の原因となって光触媒活性が低下することによる。
【0023】
前記光触媒層の表面に親水性を有する薄膜を形成することで親水効果を高めることができる。親水性を有する薄膜は、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の酸化物が好ましい。これらのうち酸化珪素が、親水性向上効果と耐久性の観点から、さらに好ましく用いられる。親水性を有する薄膜は、多孔質状であることが好ましい。多孔質状であることで、保水効果が高まり、親水性の維持性能が高まるばかりでなく、紫外線照射によって光触媒層表面で発生した活性酸素等の活性種が物品の表面まで到達できるので、光触媒層の光触媒活性を大きく損なうことがないからである。
【0024】
多孔質状の親水性薄膜を形成する方法としては、液相法(ゾルゲル法、液相析出法)や気相法(スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法)が用いられる。一般に知られているゾルゲル法を適用すれば、多孔質状の薄膜が簡単に作製できるが、ゾルゲル法の原料液中に有機高分子や高級アルコールを添加することで、さらに容易に多孔質の薄膜を得ることができる。スパッタリング法などの気相法では、スパッタ時のガス圧を上げる、ガス中の酸素の量を減らす等、酸化物のダングリングボンドを増やすように成膜条件を調整することで、多孔質状の薄膜を作製することができる。
【0025】
前記親水性を有する薄膜の厚みは、1nm以上30nm以下が好ましい。1nmより薄いと、親水性の付与が十分でなく、30nmより厚いと光触媒層の光触媒活性を損なうので、好ましくない。また、この厚みのさらに好ましい範囲は、1nm以上20nm以下である。この範囲で、光が当らない時の親水性維持性能が高い。
【発明の効果】
【0026】
以上に説明したように本発明によれば、基材の表面に光触媒層を形成するにあたり、結晶性の下地層を設け、この下地層の上に形成される光触媒層を直接的に光触媒の結晶が表面まで連続的に成長するようにし、更に基材と下地層との間に剥離防止層を設けることで膜剥離や欠点などの発生を抑制するようにしたので、建築用の窓ガラス、ディスプレイ用ガラス板、DNA分析用のガラス基板、情報携帯機器、衛生設備、医療設備、電子機器、生体・医療用の検査チップ、水素・酸素発生装置用材料などのあらゆる部材に対して高い光触媒活性を有する材料を提供することができる。特に光学的なある種の特徴と、そのバラつきの小ささ、光触媒の機能を総合的に両立するような膜構成を有した物品を提供することができる。
【0027】
更に、本発明によれば結晶性下地層および光触媒層の厚みを、所定の厚さに収めたことで、反射色調を青色にすることができ、商品価値を高めることができ、複層ガラスへの応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
[図1]本発明に係る光触媒機能を有する部材の断面図
[図2]本発明に係る複層ガラスの断面図
[図3]ZrO層とTiO層の膜厚を10nmとしてSiO層の膜厚を10nmピッチで変化させた場合の透過光の色調の変化を示す図
[図4]ZrO層とTiO層の膜厚を10nmとしてSiO層の膜厚を10nmピッチで変化させた場合の反射光の色調の変化を示す図
[図5]SiO層とZrO層の膜厚を10nmとしてTiO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の可視光反射率を示す図
[図6]SiO層とTiO層の膜厚を10nmとしてZrO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の可視光反射率を示す図
[図7]SiO層とZrO層の膜厚を10nmとしてTiO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の複層ガラス(Low−E膜付き)の可視光反射率を示す図
[図8]SiO層とTiO層の膜厚を10nmとしてZrO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の複層ガラス(Low−E膜付き)の可視光反射率を示す図
[図9]SiO層とZrO層の膜厚を10nmとしてTiO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の色度座標間距離(D)の変化を示す図
[図10]図9に対応して色度座標間距離(D)が3.5以下の範囲を示す反射色調の変化を示す図
[図11]SiO層とTiO層の膜厚を10nmとしてZrO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の色度座標間距離(D)の変化を示す図
[図12]図11に対応して色度座標間距離(D)が3.5以下の範囲を示す反射色調の変化を示す図
[図13]SiO層とZrO層の膜厚を10nmとしてTiO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の複層ガラスの色度座標間距離(D)の変化を示す図
[図14]図13に対応して色度座標間距離(D)が3.5以下の範囲を示す反射色調の変化を示す図
[図15]SiO層とTiO層の膜厚を10nmとしてZrO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の複層ガラスの色度座標間距離(D)の変化を示す図
[図16]図15に対応して色度座標間距離(D)が3.5以下の範囲を示す反射色調の変化を示す図
[図17]SiO層、ZrO層、TiO層の膜厚を全て等しくしたガラス板を用いて複層ガラスとした場合の色調の変化を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、図1は本発明に係る光触媒機能を有する部材の典型的な断面図、図2は光触媒機能を有する部材を屋外側ガラス板とした複層ガラスの断面図である。
【0030】
図1に示す光触媒機能を有する部材にあっては、ガラス板などの透明基板1の表面に剥離防止層1としてSiO層が設けられ、この剥離防止層1の上に結晶性下地層2としてZrO層が設けられ、この結晶性下地層2を介して光触媒層3としてTiO層が設けられている。各層の厚さはSiO層が2nm以上200nm以下、ZrO層が2nm以上40nm以下、TiO層が2nm以上15nm以下である。
【0031】
図2に示す複層ガラスは屋外側ガラス板10と屋内側ガラス板20とをスペーサ30を介して間に緻密空間ができるように対向配置している。そして、屋外側ガラス板10の屋外側表面に剥離防止層1としてSiO層が設けられ、この剥離防止層1の上に結晶性下地層2としてZrO層が設けられ、この結晶性下地層2を介して光触媒層3としてTiO層が設けられている。また、屋外側ガラス板10の屋内側表面に低放射率膜4(Low−E膜)が形成されている。
【0032】
図3及び図4はZrOとTiOの膜厚を10nmとしてSiOの膜厚を10nmピッチで変化させた場合の透過光及び反射光の色調の変化を示す図であり、これらの図から、ガラスと屈折率が略等しいSiOについては膜厚を変化させても色調は殆ど変らず、色調の変化はガラスとの屈折率の差が大きくなるほど大きくなり、しかも膜厚が大きくなるほど変化率も大きくなることがわかる。
ここで、色調(a*、b*)はCIE1976UCSに基づき、分光光度計から得られたスペクトルより算出した。
【0033】
図5乃至図8は各層膜厚と可視光反射率(R)との関係を示す図であり、図5はSiO層とZrO層の膜厚を10nmとしてTiO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の可視光反射率を、図6はSiO層とTiO層の膜厚を10nmとしてZrO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の可視光反射率を、図7はSiO層とZrO層の膜厚を10nmとしてTiO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の複層ガラス(Low−E膜付き)の可視光反射率を、図8はSiO層とTiO層の膜厚を10nmとしてZrO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の複層ガラス(Low−E膜付き)の可視光反射率を示す。
ここで、可視光反射率は、JIS R3106に基づき、分光光度計で測定した結果から算出した。
これらの図から、可視光反射率はTiO層及びZrO層の膜厚が50〜60nmのときに高くなり、この範囲より小さいか大きいと可視光反射率は低下することがわかる。尚、可視光反射率(R)としては20%以下、好ましくは15%以下である。
【0034】
図9乃至図16は色度座標間距離(D)とこれに対応した反射色調の変化を示す図であり、図9はSiO層とZrO層の膜厚を10nmとしてTiO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の色度座標間距離(D)の変化を示す図、図10は図9に対応して色度座標間距離(D)が3.5以下の範囲を示す反射色調の変化を示す図、図11はSiO層とTiO層の膜厚を10nmとしてZrO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の色度座標間距離(D)の変化を示し、図12は図11に対応して色度座標間距離(D)が3.5以下の範囲を示す反射色調の変化を示す図、図13はSiO層とZrO層の膜厚を10nmとしてTiO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の複層ガラスの色度座標間距離(D)の変化を示し、図14は図13に対応して色度座標間距離(D)が3.5以下の範囲を示す反射色調の変化を示す図、図15はSiO層とTiO層の膜厚を10nmとしてZrO層の膜厚を5nmピッチで変化させた場合の複層ガラスの色度座標間距離(D)の変化を示し、図16は図15に対応して色度座標間距離(D)が3.5以下の範囲を示す反射色調の変化を示す図である。Dが3.5以下であれば、製造の際に膜厚の変動があっても色ムラが大きくならず、品質管理上好ましい。ここでD値の大きさは色の変化のし易さを示すことは明白だが、本発明は、その値がある範囲内に抑えられるような、それぞれの層の膜厚範囲を今回見出したものである。
ここで、色度座標間距離は、膜厚変化前と膜厚を5nm変えた場合の色度座標間の距離を示す。計算式を以下に示す。

【0035】
以上をまとめたのが以下の(表1)であり、この(表1)から、単膜単板(ガラス板の一面側にのみ光触媒層を形成したもの)については、色変化率、反射色(ブルーの範囲)、可視光反射率、親水性を考慮すると、ZrO層については2nm〜40nm好ましくは3nm〜20nm、TiO層については2nm〜15nm好ましくは3nm〜10nmであり、上記単板ガラスを用いた複層ガラス(Low−E膜付き)については、ZrO層については2nm〜25nm好ましくは3nm〜5nm、TiO層については2nm〜15nm好ましくは3nm〜5nmであるといえる。
尚、光触媒活性(親水性)の評価方法は、ブラックランプ(中心波長365nm)を光源に用い、照度を1mW/cmとし、UV照射60分後の水の接触角を測定し、親水化評価を行った。
【0036】


【0037】
また、図17はSiO層、ZrO層、TiO層の膜厚を全て等しくしたガラス板を用いて複層ガラスとした場合の色調の変化を示す図である。尚、図17において、Gはガラス、/は層が積層されていることを示し、
AKM5は、G/SiO(5nm)/ZrO(5nm)/TiO(5nm)
AKM10は、G/SiO(10nm)/ZrO(10nm)/TiO(10nm)
AKM15は、G/SiO(15nm)/ZrO(15nm)/TiO(15nm)
AKM20は、G/SiO(20nm)/ZrO(20nm)/TiO(20nm)
また、低放射率膜4の構成は、
Low−E=G/ZnO(35.2nm)/Ag(6.3nm)/ZnO(85.2nm)/Ag(12.1nm)/ZnO(35.2nm)
である。
この図17から、Low−E膜のみに比べ、屋外側ガラス板の第1面(屋外側面)に本願の光触媒層を形成した複層ガラスにあっては、屋外側から観察した反射色が緑色から青色の色調に変化していることがわかる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材表面に珪素、錫の少なくとも一方を含む酸化物、酸窒化物、及び窒化物を主成分とする剥離防止層が設けられ、この剥離防止層の上に結晶性下地層を介して光触媒層が形成された光触媒機能を有する部材であって、前記結晶性下地層の厚みを2nm以上40nm以下とし、前記光触媒層の厚みを2nm以上15nm以下としたことを特徴とする光触媒機能を有する部材。
【請求項2】
透明基材表面に珪素、錫の少なくとも一方を含む酸化物、酸窒化物、及び窒化物を主成分とする剥離防止層が設けられ、この剥離防止層の上に結晶性下地層を介して光触媒層が形成された光触媒機能を有する部材であって、前記結晶性下地層の厚みを3nm以上20nm以下とし、前記光触媒層の厚みを3nm以上10nm以下としたことを特徴とする光触媒機能を有する部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光触媒機能を有する部材において、前記剥離防止層は非晶質の酸化珪素、前記結晶性下地層は酸化ジルコニウム、前記光触媒層は結晶性の酸化チタンから構成されることを特徴とする光触媒機能を有する部材。
【請求項4】
請求項3に記載の光触媒機能を有する部材において、前記結晶性下地層は単斜晶系酸化ジルコニウム結晶を含むことを特徴とする光触媒機能を有する部材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の光触媒機能を有する部材において、前記下地層と前記光触媒層との間には電子線回折像においてハローパターンとなって観測されるデッドレイヤーが実質的に存在しないことを特徴とする光触媒機能を有する部材。
【請求項6】
屋外側ガラス板と屋内側ガラス板とを対向配置した複層ガラスにおいて、前記屋外側ガラス板の屋外側表面に、珪素、錫の少なくとも一方を含む酸化物、酸窒化物、及び窒化物を主成分とする剥離防止層が設けられ、この剥離防止層の上に厚み2nm以上25nm以下の結晶性下地層を介して厚み2nm以上15nm以下の光触媒層が形成され、また屋外側ガラス板の屋内側表面に熱線反射膜(低放射率膜)が形成されていることを特徴とする複層ガラス。
【請求項7】
屋外側ガラス板と屋内側ガラス板とを対向配置した複層ガラスにおいて、前記屋外側ガラス板の屋外側表面に、珪素、錫の少なくとも一方を含む酸化物、酸窒化物、及び窒化物を主成分とする剥離防止層が設けられ、この剥離防止層の上に厚み3nm以上5nm以下の結晶性下地層を介して厚み3nm以上5nm以下の光触媒層が形成され、また屋外側ガラス板の屋内側表面に熱線反射膜(低放射率膜)が形成されていることを特徴とする複層ガラス。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の複層ガラスにおいて、前記剥離防止層は非晶質の酸化珪素、前記結晶性下地層は酸化ジルコニウム、前記光触媒層は結晶性の酸化チタンから構成され、前記熱線反射膜はガラス板表面から順に、酸化亜鉛、銀、酸化亜鉛、銀、酸化亜鉛が積層されていることを特徴とする複層ガラス。
【請求項9】
請求項8に記載の複層ガラスにおいて、前記結晶性下地層は単斜晶系酸化ジルコニウム結晶を含むことを特徴とする複層ガラス。
【請求項10】
請求項6乃至請求項9のいずれかに記載の複層ガラスにおいて、前記下地層と前記光触媒層との間には電子線回折像においてハローパターンとなって観測されるデッドレイヤーが実質的に存在しないことを特徴とする複層ガラス。

【国際公開番号】WO2004/113064
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507201(P2005−507201)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008099
【国際出願日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】