説明

光触媒機能付与不織布

【課題】不織布に光触媒の機能を効果的に付与する。
【解決手段】光触媒機能付与不織布1は、フィラメントが一方向に配列されかつ延伸された延伸一方向配列不織布に、アナターゼ型酸化チタンまたはアモルファス型酸化チタンの微粒子を付着させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒による機能が付与された不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンに代表される光触媒は、光エネルギーを受けて、物質を酸化還元作用により分解する触媒である。光触媒を合成樹脂成形品に適用することによって、光触媒のこうした作用を利用して、空気浄化性、抗菌性、防黴性といった機能を合成樹脂成形品に付与することは既に知られている。例えば特許文献1には、光触媒による機能を付与した合成樹脂成形品として、プラスチックフィルムの表面に光触媒粒子が担持されたフィルム素材が開示されている。
【0003】
酸化チタンの中でも光触媒としての機能が高いのは、アナターゼ型酸化チタンと言われている。その光触媒としての機能は、酸化チタンの粒子径に依存する。酸化チタンの粒子径を調整する方法として、加熱処理があり、その処理温度は、一般には約300℃〜600℃である(特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3484470号公報
【特許文献2】特開2004−160359([0014]、[0015])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルムのような素材に光触媒による機能を付与する場合は、溶媒中に光触媒を分散させた溶液をフィルムの表面に塗布すればよい。しかし、光触媒を適用する素材が不織布である場合、溶液の一部が不織布の繊維間に浸透してしまうため、光触媒が効果的に機能しないことがある。このことは、繊維の配列がランダムでかつ開口率が高く、不織布としての形態を確保するためにある程度の目付が必要な、嵩高な不織布で特に顕著である。光触媒を効果的に機能させるためには加熱処理を行うことが考えられるが、一般的にいわれている300℃〜600℃の加熱処理では不織布自身が溶融してしまう。
【0005】
そこで本発明は、光触媒の機能が効果的に付与された不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光触媒機能付与不織布は、熱可塑性樹脂から紡糸された繊維が一方向に配列されかつ延伸された少なくとも1層の延伸一方向配列不織布からなる素材不織布の少なくとも片面に、アナターゼ型酸化チタンまたはアモルファス型酸化チタンの微粒子を付着させたものである。
【0007】
本発明の光触媒機能付与不織布では、少なくとも1層の延伸一方向配列不織布からなる素材不織布に、光触媒の微粒子を付着させている。延伸一方向配列不織布は、厚さが薄くてかつ目付むらが少ないため、効率よく全面で光を均一に受けることができ、また自身の光透過性も優れているため、光触媒の機能が他の不織布と比較して効率よく働く。
【0008】
光触媒の微粒子を付着させた素材不織布は、さらに、素材不織布を構成する熱可塑性樹脂の融点未満の温度で加熱処理を施すことが好ましい。これにより光触媒の機能がより向上する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光の受光効率および光透過性に優れた素材不織布に光触媒の微粒子を付着させることによって、光触媒の機能を効果的に付与させた光触媒機能付与不織布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1および図2はそれぞれ、本発明の一実施形態による光触媒機能付与不織布の部分斜視図である。本実施形態の光触媒機能付与不織布1,2は、熱可塑性樹脂から紡糸された多数のフィラメント(繊維)がほぼ一方向に配列され、かつその配列方向に延伸された延伸一方向配列不織布の少なくとも片面に光触媒を付着させたものである。延伸一方向配列不織布には、大きく分けて、縦延伸不織布と横延伸不織布とがあるが、特に、図1に示す光触媒機能付与不織布1は、縦延伸不織布に光触媒を塗布したものであり、図2に示す光触媒機能付与不織布2は、横延伸不織布に光触媒を塗布したものである。
【0012】
縦延伸不織布とは、不織布を製造する際の送り方向(MD:Machine Direction)にフィラメントが配列されかつ延伸された不織布である。横延伸不織布とは、不織布を製造する際の送り方向と直角な方向である横方向(CD:Cross Direction)、すなわち不織布の幅方向にフィラメントが配列されかつ延伸された不織布である。
【0013】
延伸一方向配列不織布は、上記のようにフィラメントをその配列方向に延伸したものであり、紡糸段階では通常の不織布と同様に繊度(太さ)が2〜3dTexのフィラメントを紡糸するが、これをフィラメントの配列方向に5〜10倍に延伸することにより、延伸一方向配列不織布の繊度は1.5dTex以下とされる。この場合、紡糸段階においてはフィラメントが未配向であり、かつ集積されたフィラメントが一定方向に配列されているので、フィラメントの配列方向に延伸することで、小さな繊度、言い換えれば細いフィラメントであっても延伸後の引張り強度が向上する。しかし、紡糸段階におけるフィラメントの配列は完全ではないので、延伸一方向配列不織布には、未延伸フィラメントや未配向フィラメントが若干混じっており、主として繊度が1.5dTex以下の延伸一方向配列不織布となる。未延伸フィラメントは、融点も低く、延伸一方向配列不織布のフィラメント同士の接着剤的機能を果たす。
【0014】
延伸一方向配列不織布を構成するフィラメントは長繊維フィラメントである。ここでいう長繊維フィラメントとは、実質的に長繊維であればよく、平均長さが100mmを超えているものをいう。フィラメントの直径は、50μm以上では剛直で交絡が不十分になるため、望ましくは30μm以下、さらに望ましくは25μm以下である。特に強度の強い不織布を目的とする場合は、フィラメント径が5μm以上であることが望ましい。フィラメントの長さおよび径は顕微鏡写真により測定する。
【0015】
上述のように、延伸一方向配列不織布は、フィラメントの配列方向(延伸方向)に高い引っ張り強度を有しているので、図1に示したような縦延伸不織布を用いた光触媒機能付与不織布1とするか、図2に示したような横延伸不織布を用いた光触媒機能付与不織布2とするかは、高い引っ張り強度を必要とする方向に応じて選択される。
【0016】
以下に、縦延伸不織布および横延伸不織布について詳細に説明する。
【0017】
まず、縦延伸不織布は、紡糸されたフィラメントにドラフト張力を与えてフィラメントを細径化した後、コンベアの移動を利用してコンベア上に集積することによって、フィラメントが縦方向に配列したウェブを形成し、これを縦方向に延伸することによって得られる。
【0018】
フィラメントにドラフト張力を与える方法として、メルトブロー法(MB法)や、狭義のスパンボンド法(SB法)が挙げられる。何れの方法でも、フィラメントを細径化する際にできるだけ分子配向を伴わないようにするために、フィラメントに熱風を噴射する。また、コンベア上でのフィラメントの配列性を向上させるために、コンベアの搬送面に対して傾斜させてフィラメントを紡糸したり、紡糸したフィラメントを、コアンダ効果を利用して縦方向に周期的に振動させたりする方法もある。コアンダ効果を利用した方法としては、熱風の流域中にロッド部材を配置し、このロッド部材の回転または移動させる方法や、熱風の流域中に板状の部材を配置し、熱風の気流軸に対する板状の部材の距離および角度を周期的に変化させる方法などがある。
【0019】
コンベア上に集積したウェブは、縦方向に延伸され、縦延伸不織布となる。
【0020】
ウェブの延伸には、1段で全延伸する場合もあるが、主に多段延伸が用いられる。多段延伸においては、1段目の延伸は紡糸直後の予備延伸として行われ、2段目以降の延伸が主延伸として行われる。
【0021】
ウェブの延伸方法としては、近接延伸法を用いることが好ましい。多段延伸において近接延伸法を用いる場合は、1段目の延伸に近接延伸を用いる。近接延伸法とは、隣接する2組のロールの表面速度の差によりウェブを延伸する方式において、短い延伸間距離(延伸の開始点から終点までの距離)を保って延伸を行う方法であり、延伸間距離が100mm以下であることが望ましい。このように、ウェブを近接延伸法で延伸することにより、個々のフィラメントを有効に延伸することができる。特に、フィラメントが全体として縦方向に配列していても個々にはある程度屈曲している場合には、できるだけ延伸間距離を短く保つことが、個々のフィラメントを有効に延伸する上で重要である。
【0022】
一般的なメルトブロー不織布では、フィラメントがランダムに配列しており、近接延伸法によって延伸しても、フィラメントの間隔が広がるだけで、個々のフィラメントが延伸される確率は低い。ところが本発明においては、ウェブは既に高度に一方向に配列しているので、近接延伸法によれば、より確実に個々のフィラメントを延伸することができる。
【0023】
次に、横延伸不織布について説明する。横延伸不織布を製造するには、まず、フィラメントが横方向に配列したウェブを形成する。フィラメントが横方向に配列したウェブは、紡糸ノズルより紡糸されたフィラメントを、紡糸ノズルの周囲に配したエア噴出孔からエアを直接噴出することにより横方向に振らせ、コンベア上に集積することによって形成することができる。また、他の方法として、上述したコアンダ効果を利用してフィラメントを横方向に周期的に振動させ、コンベア上に集積する方法もある。このようにして、コンベア上には、横方向に配列成分が多い状態でフィラメントが集積される。特に、コアンダ効果を利用すれば、ウェブのほぼ全幅にわたってフィラメントを振動させることも可能であり、フィラメントが横方向に配列したウェブの形成方法として優れている。フィラメントがウェブのほぼ全域にわたっていることは、後工程で行う横方向への延伸の際に有利に働く。
【0024】
こうして得られたウェブをフィラメントの配列方向すなわち横方向に延伸することにより、横延伸不織布となる。
【0025】
ウェブを横方向に延伸する方法としては、テンター方式やプーリ方式などが挙げられる。テンター方式は、フィルムなどを拡幅する方式として一般に用いられるが、設備の設置のために広い床面積が必要なこと、および製品幅や拡幅倍率の変更が困難である。不織布は用途に応じて延伸倍率を変更しなければならない。そこで、これらの変更を運転操作中でも簡単に行えるプーリ方式を用いるのが好ましい。テンター方式およびプーリ方式のいずれの方式でも横方向へのウェブの延伸の際には、ウェブの幅方向両端部を掴んで延伸する。したがって、ウェブの全幅にわたって存在するフィラメントが多ければ多いほど、ウェブの延伸によってフィラメントが効果的に延伸される。この意味では、上述したように、コアンダ効果を利用してフィラメントを横方向に配列したウェブは、ウェブの全幅にわたって存在するフィラメントが多いため、ウェブの延伸によってフィラメントを効果的に延伸させることができる。
【0026】
延伸一方向配列不織布の代表的な製造方法について、縦延伸不織布および横延伸不織布を例に挙げて説明したが、延伸一方向配列不織布の製造方法は上述した方法に限定されるものではなく、フィラメントをほぼ一方向に配列し、かつ配列したフィラメントをその配列方向に延伸できる方法であれば任意の方法を利用することができる。
【0027】
延伸一方向配列不織布を構成する熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロンやポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル等のように、フラットヤーンや産業資材繊維として使用される樹脂が挙げられる。それらの中でも特に、ポリプロピレンやポリエステルが、コストや取り扱いなどの点で優れている。
【0028】
延伸一方向配列不織布へ付着させる光触媒は、アナターゼ型酸化チタンまたはアモルファス型酸化チタンの微粒子である。延伸一方向配列不織布への光触媒の付着は、アナターゼ型酸化チタンまたはアモルファス型酸化チタンの微粒子を含む溶液を、延伸一方向配列不織布の光触媒機能を必要とする面(片面または両面)に塗布し、その後、溶液を塗布した延伸一方向配列不織布を乾燥させて溶媒を除去することによって行うことができる。溶液は延伸一方向配列不織布の片面または両面に塗布され乾燥されるが、実際には繊維間に溶液が浸透しているので、溶液が浸透した部分では、光触媒は延伸一方向配列不織布の内部においても繊維表面に付着している。微粒子を含む溶液の塗布には、浸漬法、スプレーコート法、ロールコート法、ブレードコート法など、任意の塗布方法を適用することができる。
【0029】
延伸一方向配列不織布は、フィラメントがほぼ一方向に配列され、かつ、フィラメント自身が延伸されていることから、フィラメント同士の重なり合いが少なく、フィラメント間の空隙も小さく、しかもフィラメント自身の径も小さいため、目付むらが少ない均一な、厚さが薄くて緻密な不織布となる。その結果、延伸一方向配列不織布の全体に対して光触媒を均一に付着させるのが容易であり、延伸一方向配列不織布も、その全面が均一に効率よく光を受けることができ、さらに延伸一方向配列不織布自身も光の透過性が優れており、結果として、光触媒による機能が効率よく働く。しかも延伸一方向配列不織布は、フィラメントが延伸されていることにより、小さなフィラメント径で高い機械的強度を有する。そのため、目付むらが少ないこととも相まって、低目付でも不織布としての体を成しやすく、極めて低目付で一定の強度を持った姿で不織布を製造することができる。延伸一方向配列不織布は、低目付になればなるほど、光の透過性が高まり、光触媒による機能を発現させるのには有利になる。
【0030】
延伸によって極細とされたフィラメントが緻密にかつ整然と配列された延伸一方向配列不織布に上記の光触媒を適用することで、厚さが薄くても十分な機械的強度を有し、しかも目付むらが少ないので全体で均一に光を受けることができ、また自身の光透過性も優れているという延伸一方向配列不織布の特性を生かし、抗菌性、防黴性、脱臭性、空気浄化性、自己クリーニング性といった、光触媒の機能を効果的に、不織布に付与することができる。
【0031】
光触媒を付着させた延伸一方向配列不織布である光触媒機能付与不織布1,2は、さらに加熱処理を施すことで、光触媒の微粒子の結晶化が進み、光触媒の機能を向上させることができる。ただし、前述したような、一般的にいわれている300℃〜600℃といった温度では、フィラメントが溶融してしまい、不織布としての形態を維持できなくなってしまう。
【0032】
加熱処理温度は、酸化チタンの微粒子の結晶化に大きく影響し、温度が高いほど結晶粒の粒径は大きくなる。結晶粒の粒径が大きいほど、光触媒としての機能は向上する。ただし、粒径が大きすぎると、表面積の占める割合が大きくなるので、光触媒としての機能は低下する傾向にある。
【0033】
しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、不織布に光触媒を適用した場合は、それよりもかなり低い温度、具体的には200℃未満といった樹脂の融点に達しないような温度でも、光触媒としての機能を強化できることがわかった。例えば、ポリエステルの融点は約260℃であるので、不織布をポリエステルで構成した場合は、それよりも十分に低い温度で加熱処理を行うことができる。不織布を構成する樹脂の融点未満の温度での加熱処理が可能であることにより、フィラメントを溶融させることなく、不織布としての形態を維持したまま、光触媒の機能を向上させることができる。
【0034】
加熱処理を行う場合、その温度は、不織布を構成する樹脂の融点未満の温度とされるが、樹脂の融点より10℃以上低い温度であることが、より好ましい。加熱処理によって樹脂の融点近くまで不織布が加熱されると、樹脂の種類によっては繊維同士が一体化するなど不織布としての体をなさなくなる程度に繊維が軟化してしまうこともある。このことは、その樹脂の融点との差が10℃未満の場合に発生し易い。そこで、加熱処理温度を、この不織布を構成する樹脂の融点より10℃以上低い温度とすることで、不織布としての形態をより安定して確保することができる。
【0035】
光触媒を付着させた不織布への加熱処理は、光触媒の微粒子の結晶化を進行させるという点で重要であり、その点では、加熱処理温度は、結晶化の進行が促進される温度以上であることが好ましい。その温度は130℃以上であり、より好ましくは150℃以上である。加熱処理温度が130℃未満では、不織布の開口率や繊維の配列性などによっては、加熱処理による効果が十分でない場合がある。
【0036】
不織布に光触媒を適用した場合に、より低い加熱処理温度で光触媒としての機能が強化される理由は、以下のとおりであると考えられる。一般には、光触媒は面状の基材表面に適用される。光触媒は、光を受ける面積が大きいほど、その機能が効果的に発揮される。不織布の表面に光触媒を適用した場合は、光触媒は繊維の表面に付着しているので、微視的に見ると、不織布の表面は繊維の配列や絡み合いなどに起因する無数の凹凸が存在しており、実際に光を受ける面積は単純な面に比較して格段に大きくなる。したがって、不織布に光触媒を適用した場合は、より小さな粒径の結晶粒でも光触媒としての機能が発揮されるものと考えられる。
【0037】
図3に、本発明の他の実施形態による光触媒機能付与不織布の部分斜視図を示す。図3に示す光触媒機能付与不織布3は、2枚の延伸一方向配列不織布3a,3bを、フィラメントの配列方向が互いに直交するように積層した直交積層不織布に光触媒を適用したものである。なお、図3では各延伸一方向配列不織布3a,3bを分離した状態で示している。延伸一方向配列不織布3a,3bとしては、前述した縦延伸不織布および横延伸不織布のいずれを用いることもでき、それらの組み合わせも任意であるが、縦延伸不織布および横延伸不織布を、それぞれそのまま、一方の延伸一方向配列不織布3aおよび他方の延伸一方向配列不織布3bとして用いることが望ましい。これにより、2枚の延伸一方向配列不織布3a,3bを連続的に繰り出して重ね合わせ、繋ぎ目のない連続した均一な光触媒機能付与不織布3を得ることができる。また、予め縦延伸不織布を作製しておき、横延伸不織布の製造段階で、横延伸不織布の搬送過程で横延伸不織布上に縦延伸不織布を繰り出して重ねることで、これらを効率よく積層することができる。
【0038】
2枚の延伸一方向配列不織布3a,3bは、例えば、熱エンボス法によって積層することができる。エンボス条件は、延伸一方向配列不織布3a,3bに用いられる樹脂の種類によって異なるが、その融点よりも30〜80℃低い温度とすることが好ましい。また、光触媒機能付与不織布3に高い表面平滑性が要求される場合には、2枚の延伸一方向配列不織布3a,3bの積層を、熱カレンダー処理によって行うこともできる。
【0039】
延伸一方向配列不織布3a,3bには、前述したようにして光触媒が塗布され、乾燥され、光触媒機能付与不織布3とされる。また、必要に応じて、光触媒機能付与不織布3にさらに加熱処理を施し、光触媒の機能を向上させることもできる。光触媒の種類および塗布方法は、前述した実施形態と同様である。光触媒の塗布後の加熱処理についても、その温度は前述した実施形態と同様である。
【0040】
光触媒の塗布は、延伸一方向配列不織布3a,3bの積層後に行ってもよいし、積層前に行ってもよい。積層後に光触媒を塗布する場合は、光触媒は、光触媒機能付与不織布3の片面または両面に塗布することができるが、延伸一方向配列不織布3a,3bの境界面には塗布されない。延伸一方向配列不織布3a,3bの積層前に光触媒を塗布する場合は、一方の延伸一方向配列不織布3a(または3b)のみに塗布してもよいし、両方の延伸一方向配列不織布3a,3bに塗布してもよい。両方の延伸一方向配列不織布3a,3bに塗布する場合も、各延伸一方向配列不織布3a,3bの片面のみに塗布するか、あるいは両面に塗布するかは任意である。また、積層前に光触媒を塗布した場合は、その後の加熱処理は、積層工程の前に行うこともできるし、積層工程の後に行うこともできる。上述のいずれの場合も、光を受ける側の最表層の面のみに光触媒を塗布することで、光触媒を最も効果のある部位だけに集中させ、光触媒をより効果的に利用することができる。
【0041】
本実施形態の光触媒機能付与不織布3は、前述した実施形態で述べた効果に加えさらに、フィラメントが互いに直交して積層されているので、縦方向および横方向の強度バランスに優れた不織布とすることができる。図3では2枚の延伸一方向配列不織布3a,3bを積層した例を示したが、延伸一方向配列不織布の層数は必要に応じて3層以上とすることもでき、また、各延伸一方向配列不織布のフィラメントの配列方向についても、引張り強度を必要とする方向に応じて適宜組み合わせることができる。
【0042】
上述した各実施形態において、光触媒機能付与不織布1〜3は、単独で用いてもよいが、用途によっては他の基材と積層して用いてもよい。積層される基材としては、フィルム、紙、合成紙、他の不織布、プラスチックネットなどを挙げることができる。
【0043】
さらに、本発明では、単一の種類の樹脂だけでなく複数種類の樹脂を複合して構成した不織布を用いることもできる。この場合、繊維自体を芯鞘構造や混紡繊維とするなど複合繊維としてもよいし、繊維自体は単一の種類の樹脂で形成し、その繊維を複数種類の樹脂で組み合わせることによって構成してもよいし、これらを組み合わせてもよい。また、不織布を複数種の熱可塑性樹脂で構成した場合の、光触媒の微粒子付着後の加熱処理温度は、不織布を構成する熱可塑性樹脂のうち最も融点の低い熱可塑性樹脂の融点未満の温度とすることができる。
【0044】
また、不織布を複数種の熱可塑性樹脂で構成する場合も、加熱処理温度を、不織布を構成している主たる熱可塑性樹脂の融点より10℃以上低い温度とすることが、より好ましい。ここで、不織布を構成している主たる熱可塑性樹脂とは、不織布を構成する熱可塑性樹脂の中でも強度を担っている樹脂であり、別の観点でいえば最も融点の高い樹脂である。強度を担う樹脂は、不織布の製造プロセス中においても、不織布を熱収縮させることなく高い寸法安定性をもって製造できるようにする働きを有している。加熱処理によって、強度を担う樹脂の融点近くまで不織布が加熱されると、強度を担う樹脂は軟化し、本来の機能を果たすことができなくなるおそれがある。このことは、融点との差が10℃未満の場合に顕著である。そこで、加熱処理温度を、この不織布の強度を担う樹脂の融点より10℃以上低い温度とすることで、単一の樹脂で構成した場合の効果に加え、不織布の寸法安定性を確保することができる。
【0045】
本発明の光触媒機能付与不織布の用途例について、利用する光触媒の機能とともに表1にまとめる。なお、表1は、利用する光触媒の機能で用途を分類しているので、複数種の機能を利用する用途については重複して記載されている。
【0046】
【表1】

【実施例】
【0047】
以下に、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明する。
【0048】
〈実施例1−1〉
サンプルの作製:新日石プラスト(株)製のポリエステル直交積層不織布「ミライフ」(登録商標)(品番:TY1515、目付:30g/m2)を12cm×10cmの長方形に切り出した。切り出した不織布を、(有)鯤コーポレーション製のアモルファス型酸化チタン水溶液(品番:PTA−170、固形分濃度:1.7w%)中に、完全に浸漬させた。60秒間の浸漬後、水溶液中から不織布を引き上げた。引き上げた不織布を、冷暗所で24時間自然乾燥して水分を除去し、不織布に光触媒の微粒子を付着させた。以上の一連の工程によってサンプルを作製した。
【0049】
評価:上述の手順で作製したサンプルの抗菌性能を評価した。評価にあたっては、サンプルに紫外線を照射して菌の培養を行ったこといがいは、JISL1902定量的抗菌性試験方法をベースとした。具体的には、予め滅菌処理を施した石英製のセル(光触媒が機能するのに必要な紫外線を遮断しないために石英素材を使用した。)に導入した。導入したサンプルに、1±0.3×105CFU/mlに調製した黄色ブドウ球菌懸濁液を100μl接種し、セルを密栓した。これを恒温器に入れ、37±1℃の雰囲気中で蛍光灯(消費電力:23W、照度:2360Lx)の光を照射した状態で、18時間の培養を行った。蛍光灯とサンプルとの距離は20cmとした。培養後のセルに洗い出し用の生理食塩水を2ml加えて菌を震盪分散し、これを適宜倍率で希釈して寒天培地に滴下した。菌を滴下した寒天培地を37±1℃の恒温器内で44時間、倒置培養してコロニーを育成させた。培養後の育成コロニー数(CFU)を数え、希釈倍率を乗じて菌数を算出して評
価結果とした。
【0050】
〈実施例1−2〉
サンプルの作製:光触媒として、(有)鯤コーポレーション製のアナターゼ型酸化チタン水溶液(品番:T0240、固形分濃度:2.4w%)を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にしてサンプルを作製した。
【0051】
評価:実施例1−1と同様の評価を行った。
【0052】
〈実施例2−1〉
サンプルの作製:実施例1−1で得られたサンプルにさらに、熱風式のファインオーブンにて130℃、1時間の加熱処理を施し、その後、常温にて1時間放置して常温に戻した。ちなみに、サンプルに用いられているポリエステルの融点は255℃であり、加熱処理を施してもサンプルは不織布としての形態が維持されていた。
【0053】
評価:実施例1−1と同様の評価を行った。
【0054】
〈実施例2−2〉
サンプルの作製:実施例1−2で得られたサンプルにさらに、熱風式のファインオーブンにて130℃、1時間の加熱処理を施し、その後、常温にて1時間放置して常温に戻した。ちなみにポリエステルの融点は255℃であり、加熱処理を施してもサンプルは不織布としての形態が維持されていた。
【0055】
評価:実施例1−1と同様の評価を行った。
【0056】
〈実施例2−3〉
サンプルの作製:加熱処理温度を150℃としたこと以外は、実施例2−1と同様にしてサンプルを作製した。
【0057】
評価:実施例1−1と同様の評価を行った。
【0058】
〈実施例2−4〉
サンプルの作製:加熱処理温度を150℃としたこと以外は、実施例2−2と同様にしてサンプルを作製した。
【0059】
評価:実施例1−1と同様の評価を行った。
【0060】
〈比較例1−1〉
サンプルの作製:素材となる不織布として東洋紡(株)製のポリエステルスパンボンド不織布「エクーレ」(登録商標)(品番:6301A、目付:30g/m2)を用いた他は、実施例1−1と同様にしてサンプルを作製した。
【0061】
評価:実施例1−1と同様の評価を行った。
【0062】
〈比較例1−2〉
サンプルの作製:素材となる不織布として東洋紡(株)製のポリエステルスパンボンド不織布「エクーレ」(登録商標)(品番:6301A、目付:30g/m2)を用いた他は、実施例1−2と同様にしてサンプルを作製した。
【0063】
評価:実施例1−1と同様の評価を行った。
【0064】
〈比較例2−1〉
サンプルの作製:素材となる不織布として東洋紡(株)製のポリエステルスパンボンド不織布「エクーレ」(登録商標)(品番:6301A、目付:30g/m2)を用いた他は、実施例2−1と同様にしてサンプルを作製した。
【0065】
評価:実施例1−1と同様の評価を行った。
【0066】
〈比較例2−2〉
サンプルの作製:素材となる不織布として東洋紡(株)製のポリエステルスパンボンド不織布「エクーレ」(登録商標)(品番:6301A、目付:30g/m2)を用いた他は、実施例2−2と同様にしてサンプルを作製した。
【0067】
評価:実施例1−1と同様の評価を行った。
【0068】
以上の各実施例および比較例の評価結果を表2および表3に示す。表2は、加熱処理を行わなかった場合の評価結果をまとめたものであり、表3は、加熱処理を行った場合の評価結果をまとめたものである。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表2および表3より、加熱処理を施していないグループおよび加熱処理を施したグループのいずれのグループにおいても、素材不織布がスパンボンド不織布である場合に比べて直交積層不織布の方が、抗菌性能が優れている。加熱処理を施していないグループと施したグループを比較すると、加熱処理をほどこすことによって抗菌性能が向上し、さらに、その加熱処理温度が高いほど効果が著しいことが分かる。特に、直交積層不織布において加熱処理温度を150℃とした場合は、育成コロニーは検出されなかった。また、加熱処理を施したグループにおいて、光触媒の種類による抗菌性能の違いを見ると、アモルファス型酸化チタンの方が、アナターゼ型酸化チタンよりも優れていることがわかる。本来、光触媒機能自体はアナターゼ型の方が優れているといわれており、それに反した結果となっている。これは、アモルファス型の方が、不織布に塗布したときの付着性が良いためであると推測される。実施例2−2と比較例2−1を比べると、抗菌性能に大きな違いはないが、これは、光触媒の種類が違うためであり、同じ加熱処理温度および同じ光触媒同士で比べる(実施例2−1と比較例2−1、実施例2−2と比較例2−2)と、直交積層不織布を用いると抗菌性能は大きく改善される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施形態による光触媒機能付与不織部の部分斜視図であり、フィラメントが縦方向に配列されたものの例を示す。
【図2】本発明の一実施形態による光触媒機能付与不織部の部分斜視図であり、フィラメントが横方向に配列されたものの例を示す。
【図3】本発明の他の実施形態による光触媒機能付与不織布の部分斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
1,2,3 光触媒機能付与不織布
3a,3b 延伸一方向配列不織布


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂から紡糸された繊維が一方向に配列されかつ延伸された少なくとも1層の延伸一方向配列不織布からなる素材不織布の少なくとも片面に、アナターゼ型酸化チタンまたはアモルファス型酸化チタンの微粒子を付着させた光触媒機能付与不織布。
【請求項2】
前記微粒子を付着させた前記素材不織布に、前記熱可塑性樹脂の融点未満の温度で加熱処理を施した、請求項1に記載の光触媒機能付与不織布。
【請求項3】
前記素材不織布は、2層の前記延伸一方向配列不織布を繊維の配列方向が互いに直交するように積層した直交積層不織布である、請求項1または2に記載の光触媒機能付与不織布。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−233376(P2006−233376A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50977(P2005−50977)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000231682)新日本石油化学株式会社 (33)
【Fターム(参考)】