説明

光触媒水性組成物及び該組成物を用いた抗がん剤分解法

【課題】既に使用され、抗がん剤で汚染されている安全キャビネットに於いても、手軽に、抗がん剤を除去することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】0.1〜1.0重量%の光触媒活性な二酸化チタン粒子、及び
0.3〜0.5重量%の界面活性剤、を含み、分解対象物上に噴霧して使用されることを特徴とする光触媒水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒水性組成物及び該組成物を用いた抗がん剤分解法に関し、詳細には、二酸化チタンを含み、分解対象物上に噴霧して使用することを特徴とする光触媒水性組成物及び該組成物を用いた、医療用安全キャビネット内に付着した抗がん剤の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤師等の抗がん剤を取り扱う医療従事者の抗がん剤被爆が問題となっている。抗がん剤被爆は、微量ではあるが長期にわたるため、流産などの生殖毒性や発癌のリスク増加に繋がると報告されている(S.G. Selevan, M.L. Lindbohm, R.W. Hornung, K. Hemminki, A study of occupational exposure to antineoplastic drugs and fetal loss in nurses, N. Engl. J. Med, 313, 1173-1178 (1985))。
【0003】
抗がん剤の取り扱いに関し、日本病院薬剤師会監修、「注射薬・抗がん剤無菌調製ガイドライン」では、24時間運転の安全キャビネット内で行うこと、該安全キャビネット内を定期的に清掃すること等が推奨されている。該清掃方法としては、抗がん剤をアルカリ等で失活させた後にアルコール清拭すること、また、定期的に0.3M水酸化ナトリウム溶液で清拭し、薬剤種に応じて2%次亜塩素酸ナトリウム水、1%チオ硫酸ナトリウム水などを併用すること等が推奨されている。
【0004】
しかし、これら分解液の使用は、使用薬剤毎に使い分ける点や人体に刺激性がある点、使用後に水拭き除去しなくてはならない点で煩雑である。さらに、発がん性が報告されているシクロホスファミドなど一部の抗がん剤は、分解液として推奨されている0.3M水酸化ナトリウム水溶液中で、わずか28.5%しか分解されず、安全キャビネット内の3回の拭き取りによっても除去率は70%台と完全な拭き取り除去は困難であったと報告されている(望月千枝, 藤川郁世, 丁元鎮, 吉田仁, 抗がん剤調製用安全キャビネットの清拭用洗浄液の比較, 日本病院薬剤師会雑誌, 44, 601-604 (2008))。
【0005】
一方、二酸化チタンの光触媒活性を利用して、シクロホスファミド及び5−フロロウラシルを、渦巻き状のホウケイ酸ガラス上にコーティングされた二酸化チタンの薄膜上で無害な無機物に分解することが提案されている(非特許文献1)。また、医療施設の抗菌用途等に利用される、二酸化チタンゾルを含む水性組成物も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-84542号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Environ. Sci. Technol., 第25巻、第460-467頁、1991年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
二酸化チタン光触媒を使用する際には、図2に示すように、該二酸化チタンを何らかの基材上に固定化し、分解対象物(図中×印で表したもの)が該基材上に在る状態で分解するのが通常である。上記特許文献1においても、洗浄した塩化ビニル板等の基板に水性組成物を筆で塗布した後、常温で二日間乾燥させて塗膜状に固定化している(特許文献1、実施例)。これは、触媒自体は反応において変化を受けないので、繰り返し触媒活性を利用するために、固定化して使用するのが経済的にも理に適った方法だからである。
【0009】
しかし、既に使用され、抗がん剤で汚染された安全キャビネットは、安全性を考慮すると、一旦完全に清掃した上で二酸化チタンを固定化しなければならず、大変な労力、時間、及びコストがかかる。
【0010】
そこで、本発明は既に使用され、抗がん剤で汚染されている安全キャビネットに於いても、手軽に、抗がん剤を除去することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、
0.1〜1.0重量%の光触媒活性な二酸化チタン粒子、及び
0.3〜0.5重量%の界面活性剤、
を含み、分解対象物上に噴霧して使用されることを特徴とする光触媒水性組成物、
である。
【発明の効果】
【0012】
図1に示すように、本発明では、安全キャビネット内に上記光触媒水性組成物を噴霧した後、光を照射して分解する。触媒が分解対象物の上に在る点、及び、触媒を設備に固定化せずに一時的に施与する点で、常識を覆すものである。所定の組成の光触媒水性組成物を霧状にしてキャビネットのステンレス面に施与することによって、膜状にして使用するのよりも優れた分解効率を達成できる。また、触媒を繰り返し使用できないコスト面でのデメリットも、該光触媒水性組成物がバインダー等の製膜用成分を含まず、施工費用がかからないことから、問題無い範囲に収めることができる。本発明の光触媒水性組成物であれば、既に抗がん剤で汚染された安全キャビネットに対しても手軽に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光触媒水性組成物の使用方法を示す概念図である。
【図2】従来の二酸化チタン光触媒の使用方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
最初に、本発明の光触媒水性組成物(以下、「光触媒組成物」という場合がある)について説明した後、該組成物を用いる分解方法を説明する。
【0015】
<二酸化チタン>
本発明の光触媒組成物において、二酸化チタンは光触媒活性を有するものであれば特に限定されず、アナターゼ型、ブルッカイト型、可視光反応型光触媒酸化チタンのいずれであってもよく、これらの混合物であってもよい。高い触媒活性を示す点で、ブルッカイト型がより好ましい。斯かるブルッカイト型二酸化チタンとしては、例えば、ナノチタニア(登録商標、昭和タイタニウム(株)製)等が挙げられる。
【0016】
該二酸化チタンの、動的光散乱法法で測定される粒径は、5nm〜150nmであることが好ましく、より好ましくは10nm〜100nmである。
【0017】
光触媒組成物中の二酸化チタンの含有量は、該組成物総重量に対して0.05〜1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%、より好ましくは0.1〜0.3重量%である。該含有量が前記下限値未満では、十分な触媒効果が得られず、一方、前記上限値を超えては、組成物中での二酸化チタンの分散安定性が悪くなる傾向がある。
【0018】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、及びベタイン界面活性剤を利用することができる。アニオン系界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸系界面活性剤;アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンスチレン化フェニールエーテル硫酸塩等の硫酸塩系界面活性剤;エーテルカルボン酸等のカルボン酸系界面活性剤;アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
【0019】
カチオン系界面活性剤としては第1級〜第3級アルキルアミン塩;テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルキルピリジウム塩、アルキルイミダゾリウム塩などを挙げることができる。
【0020】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニールエーテル等のポリオキシアルキレン系界面活性剤;多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル等の脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0021】
ベタイン系界面活性剤としては、N−トリアルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン等のカルボキシベタイン、N−トリアルキル−N−スルフォアルキレンアンモニウムベタイン等のスルフォベタインが挙げられる。
【0022】
これらのうち、好ましくはアニオン性界面活性剤、より好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等のスルホン酸系界面活性剤が使用される。
【0023】
光触媒組成物中の界面活性剤の含有量は、該組成物総重量に対して0.1〜3.0重量%、好ましくは0.3〜0.5重量%である。含有量が前記下限値未満では、十分な濡れ性改良効果が得られず、前記上限値を超えても、量に比例した二酸化チタンの濡れ性の向上は得られない。
【0024】
<水>
光触媒組成物に使用する水は、二酸化チタンの触媒活性を失活させるナトリウム等の不純物が入っていなければよく、蒸留水、イオン交換水、精製水、超純水等のいずれであってよい。好ましくは、精製水が使用される。
【0025】
<任意成分>
上記各成分に加えて、本発明の光触媒組成物は、バインダ、水と相溶性である有機溶媒、及び粘度調整剤等を含むことができる。バインダとしてはアクリル系樹脂、例えば、共重合アクリル樹脂エマルジョン(固形分50%、水系)が挙げられる。該バインダを入れることによって、噴霧・乾燥後の、二酸化チタン微粉末の飛散が抑制され、安全性及び触媒活性を向上することができる。該バインダの量は、組成物総重量に対して、固形分で、0.001〜0.1重量%、好ましくは0.01〜0.05重量%、最も好ましくは0.02〜0.03重量%である。
【0026】
水と相溶性である有機溶媒としては、例えば、炭素数1〜6のアルコール、即ち、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール等の一価アルコール類;エチレングリコール等の二価アルコール類等が挙げられる。該アルコールの含有量は、組成物総重量に対して1〜10重量%、好ましくは3〜7重量%である。
【0027】
粘度調整剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、キサンタンガム等が挙げられる。好ましくは、ポリアクリル酸系粘度調整剤、例えば、ポリアクリル酸ソーダが使用され、分子量300万〜500 万のポリアクリル酸ソーダがより好ましい。光触媒組成物中の粘度調整剤の含有量は、光媒組成物のJIS−Z8803粘度測定方法で測定される粘度が2〜5mPa・sである量、好ましくは3〜4mPa・sとなる量である。アクリル酸系粘度調整剤を用いる場合には、該組成物総重量に対して0.1〜1重量%、好ましくは0.4〜0.8重量%である。
【0028】
本発明の光触媒組成物は、上記各成分及び、所望により任意成分、をミキサー等の公知の攪拌手段を用いて混合することによって作ることができる。
【0029】
斯くして得られる光触媒組成物の使用方法は以下のとおりである。先ず、光触媒組成物を噴霧用容器に収納する。該噴霧用容器は、光触媒組成物を細かい霧状にして噴霧することができれば、どのようなタイプのものであってもよい。例えば、加圧式ハンドスプレー、電機式スプレー、エアスプレー等を使用することができる。
【0030】
次いで、抗がん剤等を取り扱う医療用安全キャビネットの内壁に、光触媒組成物を万遍なく噴霧する。噴霧量は、二酸化チタン濃度、分解対象物等に依存して適宜調整することが好ましいが、約100〜150mL/m2であれば、平均的な安全キャビネットの内壁及び作業面を万遍無く濡らすことが可能である。一般に、キャビネットはステンレス製であるが、本発明の光触媒組成物の液滴は、弾かれずにステンレス表面を濡らすことができ、液滴となって落下することも無い。
【0031】
噴霧後、30〜120分程度かけて、自然乾燥させる。乾燥後のステンレス面上には、二酸化チタン粒子が残留して、表面が白く見える。該二酸化チタン粒子は、強制的に擦ったりしない限り、粉が舞ったり、剥離されることはない。
【0032】
次いで、二酸化チタンが光触媒活性を示す光を照射する。照射光源としては、例えば、315〜380nmの紫外線を出すブラックライト蛍光灯等を使用することができる。安全キャビネット内に装着されている紫外線灯を、ブラックライト蛍光灯に付け替えてもよい。照射時間は、光の強度及びキャビネットの汚染度にも依存して適宜調整することが好ましいが、照射強度が約0.2mW/cmの強度の場合、約10〜15時間程度の照射で、良好な結果が得られた。
【0033】
本発明において、分解対象とする抗がん剤は特に限定されず、二酸化チタンの酸化作用によって分解される可能性があるものであればいずれの抗がん剤であってもよい。例えば5−フロロウラシル、メソトレキセート、シタラビン、ゲムシタビン、フルダラビン、ペメトレキセド、ネララビン、エノシタビン等の代謝拮抗剤、シクロホスファミド、ブスルファン、ダカルバジン、ニムスチン、ラニムスチン、イホスファミド、メルファラン、アクチノマイシンD、テモゾロミド等のアルキル化剤、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチン等のプラチナ剤、イリノテカン、ノギテカン、エトポシド等のトポイソメラーゼ阻害剤、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ブンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン等の微小管重合阻害剤、ドキソルビシンおよびそのリポソーム製剤、アクラルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、ミトキサントロン、アムルビシン、ゲムツズマブオゾガマイシン等の抗がん抗生物質、抗体製剤、その他ペントスタチン、三酸化ヒ素、ブレオマイシン、マイトマイシン、クラドリビン、アスパラギナーゼなどの抗癌剤が挙げられる。
【0034】
光照射後は、アルコール等で拭き取ってもよいし、抗がん剤の完全な分解を期するために、水酸化ナトリウム等を用いる拭き取り清掃を行ってもよい。冒頭で述べたように、従来の拭き取りを3回行なっても約70%程度しか除去されないシクロホスファミドの場合、以下の実施例で示すように、本発明の光触媒組成物の噴霧だけでも約60%程度分解することができるので、拭き取りを組みわせれば、約90%近く(88=60+40×0.7)分解することができる。或いは、毎日の作業終了後に本発明の光触媒組成物を噴霧して、夜中光照射を行い、何日かそれを繰り返した後に、まとめて拭き取りを行なってもよい。
【0035】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
ブルッカイト型二酸化チタンゾル(ナノチタニア、昭和タイタニウム(株)製)3.0w/v%、スルホン酸塩型アニオン界面活性剤(ノプコウェット、サンノプコ(株)製)0.5w/v%、共重合アクリル樹脂エマルジョン(パンテックス、固形分50%、伸葉(株)製)0.05w/v%、及び、蒸留水(残分)を混合して、光触媒二酸化チタン濃度0.1w/v%の組成物を調製した。
【実施例2】
【0037】
光触媒二酸化チタン濃度を0.3w/v%としたことを除き、実施例1と同様にして光触媒濃度0.3w/v%の組成物を調製した。
【0038】
<比較例>
比較用に、昭和電工(株)製、ナノチタニア(商標)ゾルに付着剤としてジルコニアバインダーを配合したものを、10cm×10cmステンレス(SUS304)面に、厚み約0.2ミクロンとなるように塗布した後、120℃で焼き付け固着させて光触媒薄膜を得た。
【0039】
[光触媒性能の評価]
安全キャビネットに使用されているものと同材質のステンレス板(SUS304;10cm×10cm)を、安全キャビネット内の作業平面上に配置した。該ステンレス板に、生理食塩水で調製したシクロホスファミド水溶液(注射用エンドキサン100(塩野義製薬(株))を、シクロホスファミドとして1mgおよび4mgとなるよう滴下した。該水溶液は界面活性剤を含まずステンレス面上で弾かれるため、それぞれ10および20mg/mLに調製したシクロホスファミド水溶液を1μLあるいは2μLずつピペットを用いて均一になるように100個の滴下スポットとした。滴下した溶液が乾燥後、実施例1又は2の組成物をハンドスプレー先端より20cm離れた場所から150mL/mの容量で噴霧した。
【0040】
噴霧した光触媒水性組成物が乾燥した後、全幅1.3mの安全キャビネット内部に装着されている紫外線灯をブラックライト(東芝FL20SBLB)に付け替え、作業平面に配置した試験ステンレス板に波長350nmの近紫外線を約0.2mW/cmの強度で12時間照射した。
【0041】
近紫外線照射後、10mLの蒸留水と綿棒を用いて試験ステンレス板から滴下スポットを拭き取り、蒸留水で抽出後、得られた回収液を0.45μmのフィルターで濾過して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)分析に供した。HPLC分析条件は後述する。対照群は、滴下したシクロホスファミド水溶液が乾燥後、光触媒水性組成物を噴霧せず同様に回収した。
【0042】
比較例で調製した光触媒薄膜上にも、実施例と同様に、シクロホスファミドを1mg滴下し、近紫外線照射後、拭き取り回収を行った。対照群は、コーティング用光触媒を塗布していないステンレス板にシクロホスファミド水溶液を滴下し、乾燥後スプレー法と同様に回収した。
【0043】
上記一連の試験は、n=2又は3にて行い、シクロホスファミドの気化を防ぐため20℃に設定した室温で行った。
【0044】
<シクロホスファミドの測定方法>
シクロホスファミドの定量は、HPLC法によっておこなった。測定条件は以下のとおりである。40℃に維持した分析カラム(関東化学;RP-8 、内径4.6mm×長さ250mm、粒子径5μm)に移動相として水:アセトニトリル = 75 : 25を流速 l.0 mL / minにて流した。オートサンプラーを用いて各サンプルを20μL注入し(n=3)、195 nmの波長にて検出した。定量限界は、0.3μg/mL、拭き取り量に換算すると300μg/m2であった。
【0045】
HPLCの定量結果を用い、対照群に対する試験群のシクロホスファミド回収量から分解率を算出した。結果を表1に示す。
【表1】

【0046】
表1に示すように、シクロホスファミド1mg負荷では、本発明のスプレー法が比較例の薄膜法より高い分解率を示した。スプレー法では噴霧条件によると思われる数値の変動を認めたものの、触媒量が増える、あるいはシクロホスファミドが減るに従い分解率が向上する傾向を認めた。今回、測定機器の定量限界の問題で、シクロホスファミドの負荷量を、キャビネット内シクロホスファミド残留量として報告されている0.1〜6.6ng/cm2(J. Vandenbroucke, H. Robays, How to protect environment and employees against cytotoxic agents, the UZ Ghent experience, J. Oncol. Pharm. Pract, 6, 146-152 (2001))、の15,000〜400,000倍と高いものにせざるを得なかったが、実際の飛散状況では、表1に示す分解率よりも高い分解率を達成できるものと考えられる。また、本実施例では、ステンレス板を、安全キャビネット内の作業平面上に水平に配置したが、実施例の組成物を垂直の壁に噴霧しても、液垂れは無かった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の光触媒水性組成物は、既に抗がん剤で汚染されている安全キャビネットにも噴霧するだけで使用することができ、抗がん剤を除去するのに大変有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜1.0重量%の光触媒活性な二酸化チタン粒子、及び
0.3〜0.5重量%の界面活性剤、
を含み、分解対象物上に噴霧して使用されることを特徴とする光触媒水性組成物。
【請求項2】
二酸化チタンが、ブルッカイト型である、請求項1記載の光触媒水性組成物。
【請求項3】
界面活性剤が、スルホン酸系アニオン性界面活性剤である、請求項1又は2記載の光触媒水性組成物。
【請求項4】
固形分で0.001〜0.1重量%となる量の水系アクリル系樹脂エマルジョンを、さらに含む請求項1〜3のいずれか1項記載の光触媒水性組成物。
【請求項5】
分解対象物が抗がん剤である、請求項1〜4のいずれか1項記載の光触媒水性組成物。
【請求項6】
抗がん剤が、シクロホスファミドである、請求項5記載の光触媒水性組成物。
【請求項7】
噴霧用容器と、該容器内に収納された、請求項1〜6のいずれか1項記載の光触媒水性組成物からなる、抗がん剤分解用スプレー。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の光触媒水性組成物を医療用安全キャビネット内壁及び作業面に噴霧する工程、
噴霧された光触媒水性組成物を乾燥する工程、及び
医療用安全キャビネット内壁及び作業面に、315〜380nmの光を10〜15時間照射する工程、
を含む、医療用安全キャビネット内壁及び作業面に付着した抗がん剤を除去する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−91114(P2012−91114A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240664(P2010−240664)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(507148456)学校法人 岩手医科大学 (19)
【出願人】(510285953)五大化成株式会社 (1)
【出願人】(591221134)株式会社日本医化器械製作所 (9)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】