説明

光触媒溶液組成物

【課題】チタニア微粒子を含む光触媒溶液組成物において、チタニア微粒子が沈殿することなくコロイド状態を保持する光触媒溶液組成物を提供すること。
【解決手段】光触媒溶液であるチタニア微粒子のゾルに対して、アニオン系界面活性剤である、カルボン酸Na基及びスルホン酸Na基を有するヘキサフルオロプロペンオリゴマー誘導体を添加することにより、チタニア微粒子が凝集及び沈殿することを抑制しチタニア微粒子のコロイド状態の安定化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物の表面に塗布して用いる光触媒溶液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌、防汚、曇り止めなど様々な用途で用いられる光触媒として酸化チタン(TiO)微粒子のゾルである光触媒溶液が知られている。この光触媒溶液が光触媒作用を発揮するのに必要な条件として、光触媒微粒子が光触媒溶液及びその塗布膜中に均一かつ安定して分散していること、光触媒微粒子が利用対象物に強力に固定され脱落しづらいこと、そして光触媒溶液自体が利用対象物に均一に塗布されるように利用対象物に対する濡れ性及びレベリング性などにおいて優れていることなどが挙げられる。しかしながら、光触媒微粒子の分散安定化を図ることが難しく、長期間保管していると光触媒微粒子の沈殿が生じ、このため塗布時に撹拌しなければならず手間を要するし、また撹拌が十分ではないと塗布膜にムラが生じて所要の触媒作用が得られないという問題がある。
【0003】
特許文献1には、チタン化合物を錯体化し更にその濃度を水性溶媒により適度に調整することにより、溶液中の酸化チタン粒子を分散安定化させる技術が記載されている。特許文献2には、界面活性剤を用いることなく酸化チタン粒子を分散安定化させる技術が記載されている。しかしこれらは本発明とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−195654号公報
【特許文献2】特開2007−330953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、チタニア微粒子を含む光触媒溶液組成物において、分散性が高く、長期間チタニア微粒子の沈殿が抑えられ、安定したコロイド状態が得られる光触媒溶液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における光触媒溶液組成物は、
アナタース型のチタニア微粒子と、
アニオン系界面活性剤と、を含むことを特徴とする。
前記アニオン系界面活性剤は、フッ素系の親油基を持っていてもよいし、カルボン酸系の親水基を持っていてもよい。
また前記光触媒溶液組成物は、無機系バインダーを含んでいてもよいし、抗菌性の金属成分を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、チタニア微粒子を含む光触媒溶液組成物にアニオン系界面活性剤が含有されているため、チタニア微粒子の凝集及び沈殿が抑制され、長期間安定したコロイド状態(良好な分散性)が得られる。このため本発明の光触媒溶液組成物を被塗布体に塗布したときに、乾燥する前のチタニア微粒子の凝集が抑えられるので、均一性の高い被膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の光触媒溶液組成物の実施形態として、初めにその製法について説明する。先ず、チタンアルコキシド例えばチタンテトライソプロポキシド(Ti(OC:TIP)と、このアルコキシドに対応するアルコール例えばイソプロパノール(iso−COH:IPA)とを所定のモル比例えばTIP/IPA/HO=1/10/4で混合し、さらに対応するアルコール例えばイソプロパノール、水及びアンモニアの混合液を加えて反応させる。
そして、この反応により得られた白色懸濁液を例えば濾過することにより固液分離し、固形分に対して乾燥、粉砕、乾燥の工程を経ることによりアモルファスチタニア微粒子が得られる。
【0009】
次いで、アモルファスチタニア微粒子と酸化剤例えば過酸化水素水とを、アモルファスチタニア微粒子1gに対して例えば31%過酸化水素水20mlの割合で混合し、さらにこの例では有機系シリケート例えばテトラエチルオルトシリケート((CO)Si:TEOS)を所定のモル比例えばTi/Si比が1/9以上となるように混合する。そして、この混合溶液を例えば温度293Kの下で2時間攪拌すると、ペルオキソ体のチタニアとシリカとの複合体であるチタニア−シリカ溶液(赤橙色透明溶液)が得られる。更に、この溶液を例えばTi/Si=1/1の場合には、室温例えば温度300Kの下で例えば1週間〜10日間放置してゲル化させると、ペルオキソ体のチタニア−シリカを含む黄色のゲル体が生成する。
このゲル体に分散媒として例えば31%過酸化水素水を所定量添加して混合し、例えば温度293Kの下で3日間静置すると、過酸化水素が分解しペルオキソ体の黄色透明のチタニア−シリカのゾルが得られる。
【0010】
そして、この混合溶液を、例えば150kPa、120℃で2時間、あるいは常圧、100℃で7時間〜8時間加熱する。これによりペルオキソ体が分解され、本実施形態におけるチタニアゾルである、アナタース型の結晶を含むチタニア−シリカ溶液が生成される。
【0011】
このチタニアゾルを例えば純水により所定の濃度例えば固形分濃度で0.85質量%に調整して、この調整済みチタニアゾルに対して界面活性剤及びバインダーを添加し混合する。この界面活性剤の親水基は、カルボキシル基を含む。具体的には、カルボン酸ナトリウム(カルボン酸Na)基及びスルホン酸ナトリウム(スルホン酸Na)基などが挙げられる。一方この界面活性剤の親油基は、フッ素を含有する官能基を含む。具体的には、ヘキサフルオロプロペンオリゴマー誘導体などが挙げられる。フッ素を含有する官能基を含む界面活性剤を用いることにより、本光触媒溶液組成物を塗布する利用対象物の表面が疎水性であろうとなかろうと高い均一性をもって塗布することが可能となる。本実施形態では、カルボン酸ナトリウム(カルボン酸Na)基及びスルホン酸ナトリウム(スルホン酸Na)基を有するヘキサフルオロプロペンオリゴマー誘導体を、例えば0.05質量%添加する。またバインダーとしては、無機バインダーである例えばコロイダルシリカを例えば0.85質量%添加する。
【0012】
このようにして製造された光触媒溶液組成物を利用者が利用対象物の表面に塗布することにより、その利用対象物の表面に光触媒溶液組成物の塗布膜が形成され光触媒機能を発揮することができる。
【0013】
上述の実施形態によれば、光触媒溶液であるチタニア微粒子のゾルに対して、アニオン系界面活性剤である、カルボン酸Na基及びスルホン酸Na基を有するヘキサフルオロプロペンオリゴマー誘導体を添加することにより、チタニア微粒子が凝集及び沈殿することを抑制しチタニア微粒子のコロイド状態の安定化を図ることができる。
【0014】
上述の実施形態では、界面活性剤としてフッ素系カルボン酸系界面活性剤を添加しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、アニオン系界面活性剤であれば例えばスルホン酸系界面活性剤でもよい。しかし、カルボン酸系の方が、実施例にて後述するように、抗菌性の面でより有効であり、またフッ素系の方が利用対象物表面の疎水性の有無に関係なく光触媒溶液組成物を高い均一性をもって塗布することができるので好ましい。
【0015】
また、上述の実施形態では、バインダーとして無機バインダーであるコロイダルシリカを添加しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば有機系バインダーでもよい。しかし、有機系バインダーは光触媒作用により酸化分解されるため、時間が経つにつれて徐々にチタニア微粒子を保持する能力が落ちて光触媒活性が低下するので、無機バインダーの方が好ましい。また、チタニアゾルは、抗菌性を有する金属を含む金属含有物質例えば銀担持チタニアを含有していてもよい。上述の光触媒溶液組成物の他に、例えば光触媒活性の向上を目的として、無機酸化物を光触媒溶液に添加してもよい。上述の実施形態では、チタニアとシリカとの複合化合物であるチタニア−シリカ溶液を用いているが、単なるチタニア溶液でもよいし、チタニアとシリカ以外の物質例えばアルミナとの複合化合物の溶液でもよい。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下に記載する光触媒溶液組成物の各材料の添加濃度は全て、作成した光触媒溶液組成物に対するものである。
〔サンプルの製法〕
(実施例1)
上述の実施形態において述べた光触媒溶液組成物の製造方法に則りつつ、その製造工程の途中で銀を添加して製造した、チタンとケイ素の組成比(Ti/Si比)が95/5のAgを担持したチタニアシリカのゾルと、バインダーとしてコロイダルシリカと、フッ素系カルボン酸系界面活性剤としてカルボン酸Na基及びスルホン酸Na基を有するヘキサフルオロプロペンオリゴマー誘導体であるフタージェント150(株式会社ネオス商品名)と、を混合し、光触媒溶液組成物を作成した。このとき、チタニアゾルの固形分濃度は0.85質量%に、コロイダルシリカ及び界面活性剤の添加濃度は夫々0.85質量%及び0.05質量%となるように調整した。この溶液を実施例1とする。
【0017】
(実施例2)
実施例1におけるフッ素系カルボン酸系界面活性剤の代わりに、フッ素系スルホン酸系界面活性剤としてヘキサフルオロプロペンオリゴマー誘導体であるフタージェント100(株式会社ネオス商品名)を0.05質量%添加したこと以外は実施例1と同様である。この溶液を実施例2とする。
【0018】
(実施例3)
実施例1におけるフッ素系カルボン酸系界面活性剤の代わりに、非フッ素系界面活性剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンからなるBYK−333(ビックケミージャパン株式会社商品名)を0.05質量%添加したこと以外は実施例1と同様である。この溶液を実施例3とする。
【0019】
(実施例4)
実施例1におけるTi/Si比が95/5のチタニアゾルの代わりに、Ti/Si比が50/50のチタニアゾルを用いたこと以外は実施例1と同様である。このチタニアゾルの添加濃度は実施例1のチタニアゾルと同じ0.85質量%である。この溶液を実施例4とする。
【0020】
(実施例5)
実施例4におけるフッ素系カルボン酸系界面活性剤の代わりに、フッ素系スルホン酸系界面活性剤としてヘキサフルオロプロペンオリゴマー誘導体であるフタージェント100(株式会社ネオス商品名)を0.05質量%添加したこと以外は実施例4と同様である。この溶液を実施例5とする。
【0021】
(実施例6)
実施例4におけるフッ素系カルボン酸系界面活性剤の代わりに、非フッ素系界面活性剤としてポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンからなるBYK−333(ビックケミージャパン株式会社商品名)を0.05質量%添加したこと以外は実施例4と同様である。この溶液を実施例6とする。
【0022】
(実施例7)
実施例1におけるチタニアゾルの代わりに、上述の実施形態におけるチタニアゾルの製造方法に則り製造した、銀を担持していないチタニアゾル(Ti/Si比が95/5)を用いた。このチタニアゾルの添加濃度は実施例1のチタニアゾルと同じ0.85質量%である。このこと以外は、実施例1と同様である。この溶液を実施例7とする。
【0023】
(比較例1)
界面活性剤を添加していないこと以外は実施例1と同様である。この溶液を比較例1とする。
(比較例2)
実施例1におけるフッ素系カルボン酸系界面活性剤の代わりに、界面活性剤としてノニオン系界面活性剤であるパーフルオロブタンスルホン酸含有化合物を0.05質量%添加したこと以外は実施例1と同様である。この溶液を比較例2とする。
【0024】
〔試験評価方法〕
以上の例に対して、光触媒溶液組成物の分散安定性の確認試験、光触媒溶液組成物の塗布膜の抗菌性、膜強度及び塗布膜表面の親水性について評価試験を行った。先ず、光触媒溶液組成物の分散安定性については、作成した光触媒溶液組成物を室温条件下にて1ヶ月間静置した後、目視にてその凝集及び沈殿状況について確認した。
抗菌性については、JIS R 1702(ファインセラミックス−光照射下での光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果)に準じて試験、評価した。
【0025】
光触媒溶液組成物の塗布膜の膜強度については、JIS K 5600−5−4(塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法))を参考にして、評価した。即ち、塗布膜に対して一定の条件にて、芯の硬度が既知の鉛筆により塗布膜を引っかき、これを塗布膜に傷ができるまで芯の硬度を上げながら繰り返す。そして塗布膜が傷つかない範囲で最も硬い鉛筆の芯の硬度をその塗布膜の測定値とすることにより評価した。
塗布膜表面の親水性については、JIS R 1703−1(ファインセラミックス−光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法−第1部:水接触角の測定)を参考にして、光触媒溶液組成物の塗布膜の表面の水接触角の紫外線照射時間に対する経時変化を測定し評価した。
本実施例における試験結果を表1に示す。
【0026】
〔考察〕
光触媒溶液組成物の分散安定性に関して、実施例1〜実施例7については静置開始1ヶ月後においてもコロイド状態が保持されていたが、比較例1では15日後には濁りや沈殿物が見られるようになり、比較例2では界面活性剤混合時点で沈殿が生じた。
抗菌性試験については、実施例1、実施例4及び実施例7、即ちTi/Si比やAg担持の有無に関係なく、フッ素系カルボン酸系界面活性剤を添加した実施例において抗菌活性値が最も高かった。続いて抗菌活性値が高かったのは、フッ素系スルホン酸系界面活性剤(実施例2及び実施例5)、アニオン系非フッ素系界面活性剤(実施例3及び実施例6)の順であった。これは、カルボン酸系及びフッ素系の界面活性剤を添加した実施例の方が、光触媒微粒子が塗布膜内により均一に分散しているため、光触媒活性による抗菌作用がより効率よく働くためと考えられる。
【0027】
塗布膜の膜強度試験については、フッ素系の界面活性剤を添加した実施例(実施例1、実施例2、実施例4、実施例5、実施例7)の方が非フッ素系界面活性剤を添加した実施例(実施例3及び実施例6)よりも膜強度が高い結果となった。これは、フッ素系界面活性剤を添加した実施例の方が成膜性能に優れるためと考えられる。
塗布膜の親水性試験については、紫外線照射開始時の水接触角は、実施例1〜実施例7のいずれも略同じ値であったが、紫外線を200時間照射すると、非フッ素系界面活性剤を添加した実施例(実施例3及び実施例6)においてのみ水接触角が増加、即ち親水性が低下した。これは、紫外線照射による光触媒活性により界面活性剤が分解されたためと考えられる。
比較例1については、塗布対象の基台に光触媒溶液組成物がはじかれてしまい、塗布することができなかった。比較例2については、ノニオン系界面活性剤を添加し混合するとすぐに沈殿を生じたため、上記評価試験を行わなかった。
【0028】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナタース型のチタニア微粒子と、
アニオン系界面活性剤と、を含むことを特徴とする光触媒溶液組成物。
【請求項2】
前記アニオン系界面活性剤は、フッ素系の親油基及びカルボン酸系の親水基の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項1記載の光触媒溶液組成物。
【請求項3】
前記光触媒溶液組成物は、抗菌性の金属成分を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒溶液組成物。

【公開番号】特開2013−6131(P2013−6131A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138883(P2011−138883)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】