説明

光触媒素子及び光触媒

【課題】接触する化合物に引き起こされる化学反応の量子効率を向上させることが可能な光触媒素子を提供する。
【解決手段】光触媒素子200は、導電体211及び導電体211上に配置された酸化チタン層212を含む半導体電極210と、導電体211と電気的に接続された対極120と、を備える。酸化チタン層212は、表面近傍領域と導電体211との接合面近傍領域とで異なる結晶構造を有している。酸化チタン層212において、表面近傍領域ではアナターゼ型酸化チタンの存在比率がルチル型酸化チタンの存在比率よりも高く、かつ、接合面近傍領域ではルチル型酸化チタンの存在比率がアナターゼ型酸化チタンの存在比率よりも高い。真空準位を基準として、(I)酸化チタン層212の接合面近傍領域のフェルミ準位が、酸化チタン層212の表面近傍領域のフェルミ準位よりも大きく、かつ、(II)導電体211のフェルミ準位が、酸化チタン層212の接合面近傍領域のフェルミ準位よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射により化合物に化学反応を引き起こす光触媒素子と光触媒とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光触媒として機能する半導体材料に光を照射することにより水を分解して水素と酸素を採取したり(例えば、特許文献1参照)、前記半導体材料を用いて基材の表面を被覆することにより、前記基材の表面に吸着している有機物を分解して前記基材の表面を親水化したりすることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、電解液中にn型半導体電極と対極とを配置し、n型半導体電極の表面に光を照射することにより両電極の表面から水素及び酸素を採取する方法が開示されている。具体的には、n型半導体電極として、TiO2電極、ZnO電極、CdS電極等を用いることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、基材と、前記基材の表面に形成された被膜からなる親水性部材であって、前記被膜が、酸化チタン粒子を含む酸化チタン層と、前記酸化チタン層の上に配置された、酸化チタン以外の第2の光触媒材料からなる島状部とを有することが開示されている。具体的には、第2の光触媒材料として、伝導帯の下端及び価電子帯の上端のポテンシャルが酸化チタンよりも対標準水素電極電位を基準として正側(真空準位を基準にして負側)にある材料を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭51−123779号公報
【特許文献2】特開2002−234105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法の場合、光の照射による水の分解反応の量子効率が低いという問題があった。これは、光励起により生じたホールと電子が、水の電解反応に用いられる前に再結合することにより消滅する確率が高いためである。
【0007】
特許文献2には、光励起により生成した電子及びホールのうち、電子は第2の光触媒材料の伝導帯に移動し、ホールは酸化チタンの価電子帯に移動することより、電子−ホール対が分離するので、再結合する確率が低くなると記載されている。しかしながら、特許文献2には、酸化チタンと第2の光触媒材料との接合面におけるエネルギー状態がどのように設定されるかについては何も記載されていない。酸化チタンと第2の光触媒材料との接合面がショットキー接合となる場合、接合面において伝導帯及び価電子帯にショットキー障壁が発生する。このとき、光励起により生成した電子及びホールのうち、電子は伝導帯の接合面におけるショットキー障壁により堰き止められ、価電子帯の接合面におけるショットキー障壁がホール溜まりとして機能するので、ホールは価電子帯の接合面付近に溜まってしまう。そのため、酸化チタンと第2の光触媒材料とをそれぞれ単独で用いる場合よりも、電子及びホールの再結合する可能性が高くなってしまうという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑み、光励起により生成する電子及びホールを効率的に電荷分離することができ、光の照射によって接触している化合物に引き起こされる化学反応の量子効率を向上させることが可能な、光触媒素子及び光触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、
導電体及び前記導電体上に配置された酸化チタン層を含む半導体電極と、
前記導電体と電気的に接続された対極と、を備え、
前記酸化チタン層は、表面近傍領域と前記導電体との接合面近傍領域とで異なる結晶構造を有しており、
前記酸化チタン層において、前記表面近傍領域ではアナターゼ型酸化チタンの存在比率がルチル型酸化チタンの存在比率よりも高く、かつ、前記接合面近傍領域ではルチル型酸化チタンの存在比率がアナターゼ型酸化チタンの存在比率よりも高く、
真空準位を基準として、
(I)前記酸化チタン層の前記接合面近傍領域のフェルミ準位が、前記酸化チタン層の前記表面近傍領域のフェルミ準位よりも大きく、かつ、
(II)前記導電体のフェルミ準位が、前記酸化チタン層の前記接合面近傍領域のフェルミ準位よりも大きく、
前記酸化チタン層の表面に光が照射されることによって触媒機能が発揮される、
光触媒素子を提供する。
【0010】
また、前記目的を達成するために、本発明は、
ルチル型酸化チタン粒子と、前記ルチル型酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部に設けられたアナターゼ型酸化チタン膜と、によって構成されており、
真空準位を基準として、前記ルチル型酸化チタン粒子のフェルミ準位が、前記アナターゼ型酸化チタン膜のフェルミ準位よりも大きい、
光触媒を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光触媒素子及び光触媒によれば、光励起により生成する電子及びホールを効率的に電荷分離することができるので、光の照射によって接触している化合物に引き起こされる化学反応の量子効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1の光触媒素子の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1の光触媒素子において、半導体電極を構成する導電体、ルチル型酸化チタン層及びアナターゼ型酸化チタン層の接合前のバンド構造を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1の光触媒素子において、半導体電極を構成する導電体、ルチル型酸化チタン層及びアナターゼ型酸化チタン層の接合後のバンド構造を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態2の光触媒素子の構成を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態2の光触媒素子において、半導体電極を構成する導電体及び酸化チタン層の接合前のバンド構造を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態2の光触媒素子において、半導体電極を構成する導電体及び酸化チタン層の接合後のバンド構造を示す模式図である。
【図7】本発明の実施の形態3の光触媒素子の構成を示す概略図である。
【図8】本発明の実施の形態4の光触媒素子の構成を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態5の光触媒素子の構成を示す概略図である。
【図10】(a)及び(b)は、本発明の実施の形態6の光触媒の製造方法を説明する模式図である。
【図11】本発明の実施例1の光触媒素子において、電極上に吸着したアントシアニンの、UV−vis吸収スペクトルの吸光度の紫外線照射時間変化を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例及び比較例の光触媒素子において、電極上に吸着したアントシアニンの、波長600nmにおけるUV−vis吸収スペクトルの吸光度の紫外線照射時間変化を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例4において、光触媒による硫化メチルの分解能力を測定する方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は一例であり、本発明は以下の実施の形態に限定されない。また、以下の実施の形態では、同一部材に同一の符号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0014】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1の光触媒素子の構成について、図1〜図3を用いて説明する。図1は、本実施の形態の光触媒素子の構成を示す概略図である。図2は、本実施の形態の光触媒素子において、半導体電極を構成する導電体、ルチル型酸化チタン層及びアナターゼ型酸化チタン層の接合前のバンド構造を示す模式図である。図3は、本実施の形態の光触媒素子において、半導体電極を構成する導電体、ルチル型酸化チタン層及びアナターゼ型酸化チタン層の接合後のバンド構造を示す模式図である。図2及び3において、縦軸は、真空準位を基準とするエネルギー準位(単位:eV)を示す。
【0015】
図1に示すように、本実施の形態の光触媒素子100は、半導体電極110と、半導体電極110と対をなす電極である対極120と、を備えている。
【0016】
半導体電極110及び対極120は、その表面の少なくとも一部が露出しており、化学反応を生じさせる化合物と接触できるように配置されている。
【0017】
半導体電極110は、導電体111と、導電体111上に配置されたルチル型酸化チタン層112と、ルチル型酸化チタン層112上に配置されたアナターゼ型酸化チタン層113と、を備えている。すなわち、本実施の形態では、半導体電極110を構成する酸化チタン層が、ルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113によって形成されている。なお、半導体電極110のアナターゼ型酸化チタン層113側の面が露出しており、紫外線等の光がアナターゼ型酸化チタン層113に照射されるようになっている。
【0018】
半導体電極110における導電体111と、対極120とは、導線130により電気的に接続されている。なお、ここでの対極とは、半導体電極との間で電解液を介さずに電子の授受を行う電極のことを意味する。したがって、本実施の形態における対極120は、半導体電極110を構成している導電体111と電気的に接続されていればよく、半導体電極110との位置関係等は特に限定されない。
【0019】
次に、図1〜図3を参照しながら、本実施の形態に係る光触媒素子100の動作について説明する。
【0020】
半導体電極110のアナターゼ型酸化チタン層113に太陽光等の光が照射されると、アナターゼ型酸化チタン層113において伝導帯に電子が、価電子帯にホールが生じる。このとき生じたホールは、アナターゼ型酸化チタン層113の表面(露出面であり、化学反応を生じさせる化合物に曝される面)側に移動する。このホールにより、アナターゼ型酸化チタン層113の表面で、アナターゼ型酸化チタン層113に接触している化合物の酸化反応が起こり、当該化合物が分解される。一方、電子は、アナターゼ型酸化チタン層113とルチル型酸化チタン層112との界面、並びにルチル型酸化チタン層112と導電体111との界面における伝導帯のバンドエッジの曲がりに沿って、導電体111まで移動する。導電体111に移動した電子は、導線130を介して、半導体電極110と電気的に接続された対極120側に移動する。この電子により、対極120の表面で、対極120に接触している化合物の還元反応が起こり、当該化合物が分解される。
【0021】
詳細は後述するが、ルチル型酸化チタン層112とアナターゼ型酸化チタン層113との接合面にはショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなくアナターゼ型酸化チタン層113からルチル型酸化チタン層112に移動できる。さらに、ルチル型酸化チタン層112と導電体111との接合面にもショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなくルチル型酸化チタン層112から導電体111まで移動できる。したがって、光励起によりアナターゼ型酸化チタン層113内で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなる。これにより、本実施の形態の光触媒素子100によれば、光の照射による化学反応の量子効率を向上させることができる。
【0022】
次に、半導体電極110における導電体111、ルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113のバンド構造について、詳しく説明する。なお、ここで説明するバンド構造のエネルギー準位は、真空準位を基準としたものである。以下、本明細書において説明する半導体及び導電体のバンド構造のエネルギー準位も、同様に、真空準位を基準としたものである。
【0023】
図2に示すように、アナターゼ型酸化チタン層113の伝導帯のバンドエッジ準位EC2は、ルチル型酸化チタン層112の伝導帯のバンドエッジ準位EC1よりも大きい。また、アナターゼ型酸化チタン層113の価電子帯のバンドエッジ準位EV2と、ルチル型酸化チタン層112の価電子帯のバンドエッジ準位EV1とは、ほぼ等しい。
【0024】
さらに、光触媒素子100では、ルチル型酸化チタン層112のフェルミ準位EF1がアナターゼ型酸化チタン層113のフェルミ準位EF2よりも大きくなり、かつ、導電体111のフェルミ準位EFcがルチル型酸化チタン層112のフェルミ準位EF1よりも大きくなるように、それぞれ設計されている。
【0025】
ここで、ルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113を全体として酸化チタン層とみた場合、アナターゼ型酸化チタン層113は酸化チタン層の表面近傍領域、ルチル型酸化チタン層112は酸化チタン層の導電体111との接合面近傍領域となる。したがって、本実施の形態では、酸化チタン層において、表面近傍領域ではアナターゼ型酸化チタンの存在比率がルチル型酸化チタンの存在比率よりも高く、かつ、接合面近傍領域ではルチル型酸化チタンの存在比率がアナターゼ型酸化チタンの存在比率よりも高いといえる。さらに、酸化チタン層の導電体111との接合面近傍領域のフェルミ準位が、酸化チタン層の表面近傍領域のフェルミ準位よりも大きく、導電体111のフェルミ準位が、酸化チタン層の導電体111との接合面近傍領域のフェルミ準位よりも大きいといえる。
【0026】
次に、導電体111、ルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113を互いに接合させると、図3に示すように、ルチル型酸化チタン層112とアナターゼ型酸化チタン層113との接合面において、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、バンドエッジの曲がりが生じる。このとき、アナターゼ型酸化チタン層113の伝導帯のバンドエッジ準位EC2がルチル型酸化チタン層112における伝導帯のバンドエッジ準位EC1よりも大きく、アナターゼ型酸化チタン層113の価電子帯のバンドエッジ準位EV2とルチル型酸化チタン層112における価電子帯のバンドエッジ準位EV1とがほぼ同じであり、かつ、ルチル型酸化チタン層112のフェルミ準位EF1がアナターゼ型酸化チタン層113のフェルミ準位EF2よりも大きいことから、ルチル型酸化チタン層112とアナターゼ型酸化チタン層113との接合面には、ショットキー障壁は生じない。
【0027】
また、導電体111とルチル型酸化チタン層112との接合面においても、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、接合面付近におけるバンドエッジに曲がりが生じる。このとき、導電体111のフェルミ準位EFcがルチル型酸化チタン層112のフェルミ準位EF1よりも大きいことから、導電体111とルチル型酸化チタン層112との接合はオーミック接触となる。
【0028】
上記のような半導体電極110を、化学反応を生じさせる化合物と接触させると、当該化合物とアナターゼ型酸化チタン層113との界面において、アナターゼ型酸化チタン層113の表面付近における伝導帯のバンドエッジ準位EC2及び価電子帯のバンドエッジ準位EV2が持ち上げられる。これにより、アナターゼ型酸化チタン層113の表面付近では、伝導帯のバンドエッジ及び価電子帯のバンドエッジに曲がりが生じる。すなわち、アナターゼ型酸化チタン層113の表面付近に空間電荷層が生じる。
【0029】
アナターゼ型酸化チタン層113における伝導帯のバンドエッジ準位EC2はルチル型酸化チタン層112における伝導帯のバンドエッジ準位EC1よりも大きいので、アナターゼ型酸化チタン層113の表面付近にこのようなバンドエッジの曲がりが生じても、アナターゼ型酸化チタン層113内部における伝導帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、電子はアナターゼ型酸化チタン層113の内部に溜まることなくルチル型酸化チタン層112側へ移動し、電荷分離の効率が格段に向上する。
【0030】
一方、アナターゼ型酸化チタン層113における価電子帯のバンドエッジ準位EV2とルチル型酸化チタン層112における価電子帯のバンドエッジ準位EV1とはほぼ同じであるが、ルチル型酸化チタン層112のフェルミ準位EF1がアナターゼ型酸化チタン層113のフェルミ準位EF2よりも大きいことから、ルチル型酸化チタン層−アナターゼ型酸化チタン層間の価電子帯のバンドエッジ準位は、図3に示すように曲がることになる。したがって、アナターゼ型酸化チタン層113の表面付近に上記のように価電子帯のバンドエッジの曲がりが生じても、アナターゼ型酸化チタン層113内部における価電子帯のバンドエッジ準位EV2に井戸型ポテンシャルが生じない。そのため、ホールはアナターゼ型酸化チタン層113内部に溜まることなくアナターゼ型酸化チタン層113の表面方向に移動するので、電荷分離の効率が格段に向上する。
【0031】
本実施の形態の光触媒素子100においては、ルチル型酸化チタン層112のフェルミ準位EF1がアナターゼ型酸化チタン層113のフェルミ準位EF2よりも大きくなるように設定されている。この構成により、ルチル型酸化チタン層112とアナターゼ型酸化チタン層113との界面においてバンドの曲がりが生じ、かつ、ショットキー障壁が生じない。その結果、アナターゼ型酸化チタン層113内部で光励起により生成した電子とホールのうち、電子はルチル型酸化チタン層112の伝導帯に移動し、ホールは価電子帯をアナターゼ型酸化チタン層113の表面に移動する。したがって、電子及びホールが、ショットキー障壁により妨げられることなく効率的に電荷分離される。これにより、光励起によりアナターゼ型酸化チタン層113内部で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなるので、化学反応の量子効率が向上する。
【0032】
また、本実施の形態の光触媒素子100においては、導電体111のフェルミ準位が、ルチル型酸化チタン層112のフェルミ準位よりも大きくなるように設定されている。この構成により、導電体111とルチル型酸化チタン層112との接合面においてもショットキー障壁が生じない。そのため、ルチル型酸化チタン層112から導電体111への電子の移動がショットキー障壁により妨げられることがない。これにより、光励起によりアナターゼ型酸化チタン層113内部で生成した電子とホールとが再結合する確率がさらに低くなり、化学反応の量子効率がさらに向上する。
【0033】
次に、本実施の形態の光触媒素子100に設けられた各構成部材の材料について、それぞれ説明する。
【0034】
ルチル型酸化チタン層112はルチル型酸化チタンによって形成されており、アナターゼ型酸化チタン層113はアナターゼ型酸化チタンによって形成されている。本発明の光触媒素子100において用いられるルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンには、結晶構造が変化しない限り、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、銅、銀、亜鉛、カドミウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫、アンチモン等が金属イオンとして添加されていてもよい。ここでいう、「結晶構造が変化しない限り」とは、ルチル型酸化チタン及びアナターゼ型酸化チタンのバンド構造の関係(伝導帯及び価電子帯のバンドエッジ準位の大小関係)が変化しない程度ということである。このような観点から、添加される金属イオンの量は、例えば0.25atm%以下とでき、好ましくは0.1atm%以下である。
【0035】
光触媒素子100では、ルチル型酸化チタン層112のフェルミ準位EF1がアナターゼ型酸化チタン層113のフェルミ準位EF2よりも大きくなるように設定される必要があるため、作製時にこれらの層のフェルミ準位をコントロールする必要がある。ルチル型酸化チタン及びアナターゼ型酸化チタンのフェルミ準位は、結晶化度を変化させることによって、コントロールできる。結晶化度のコントロールは、成膜条件(例えば成膜温度)を変化させることによって、実現できる。
【0036】
半導体電極110の導電体111は、ルチル型酸化チタン層112との接合がオーミック接触となる。したがって、導電体111としては、例えば、Ti、Ni、Ta、Al、Cu及びAg等の金属、又は、ITO(Indium Tin Oxide)及びFTO(Fluorine doped Tin Oxide)等の導電性材料を用いることができる。
【0037】
導電体111の表面うち、ルチル型酸化チタン層112に被覆されない領域は、例えば樹脂等の絶縁体によって被覆されることが好ましい。このような構成によれば、例えば導電体111が何らかの溶液(例えば、分解目的の化合物が含まれる溶液)と接触している場合でも、導電体111がこの溶液に溶解することを抑制できる。
【0038】
対極120には、過電圧の小さい材料を用いることが好ましい。そこで、対極120として、例えばPt、Au、Ag、Fe及びNi等の金属触媒を用いることが好ましい。このような金属触媒を用いることにより対極120の活性を高めることができるので、化学反応の量子効率をさらに向上させることができる。なお、詳しくは後述するが、対極120を、導電体111と同じ材料で、導電体111と一体的に設けることも可能である。
【0039】
ここで、ルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113のフェルミ準位及び伝導帯下端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、フラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度を用いて求めることができる。半導体のフラットバンドポテンシャル及びキャリア濃度は、測定対象である半導体を電極として用いて測定されたMott−Schottkyプロットから求められる。
【0040】
ルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113の価電子帯上端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、バンドギャップと、上記の方法により求めたルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113の伝導帯下端のポテンシャルとを用いて求めることができる。ここで、ルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113のバンドギャップは、測定対象である半導体の光吸収スペクトル測定において観察される光吸収端から求められる。
【0041】
導電体111のフェルミ準位は、例えば、光電子分光法により測定できる。
【0042】
本実施の形態の光触媒素子100は、光励起により生成する電子及びホールを効率的に電荷分離することができるので、分解しようとする化合物と接触させた場合に、光の照射により高い量子効率でこの化合物に化学反応を引き起こして、この化合物を分解することができる。本実施の形態の光触媒素子100は、脱臭及び防汚等の光触媒の一般的な機能を有しており、その用途は特には限定されない。例えば、脱臭機能や防汚機能が要求される機器に光触媒素子100を搭載すれば、優れた脱臭機能や防汚機能を備えた機器を提供できる。具体的には、脱臭機能として空気清浄機、エアコン、冷蔵庫等の機器に、防汚機能として、機器のボディや建造物の外壁等に、光触媒素子100を搭載できる。例えば、金網で構成されたフィルタが設けられている空気清浄機の場合、この金網を導電体111として、その上にルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113を配置して半導体電極110とし、対極120は空気清浄機の側面や裏面に設けるとよい。
【0043】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の光触媒素子の構成について、図4〜図6を用いて説明する。図4は、本実施の形態の光触媒素子の構成を示す概略図である。図5は、本実施の形態の光触媒素子において、半導体電極を構成する導電体及び酸化チタン層の接合前のバンド構造を示す模式図である。図6は、本実施の形態の光触媒素子において、半導体電極を構成する導電体及び酸化チタン層の接合後のバンド構造を示す模式図である。
【0044】
図4に示すように、本実施の形態の光触媒素子200では、半導体電極210の構成が実施の形態1の半導体電極110とは異なるが、それ以外の構成は実施の形態1の光触媒素子100と同じである。したがって、本実施の形態では、半導体電極210についてのみ説明し、実施の形態1の光触媒素子100と同じ構成については同じ符号を用いて、説明を省略する。
【0045】
図4に示すように、本実施の形態の半導体電極210は、導電体211と、導電体211上に配置された酸化チタン層212とを備えている。半導体電極210における導電体211は、導線130により対極120と電気的に接続されている。
【0046】
酸化チタン層212は、ルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンとを含んでいる。酸化チタン層212において、アナターゼ型酸化チタンの存在比率は、導電体211との接合面から表面(酸化チタン層212の露出面であり、化学反応を生じさせる化合物に曝される面)に向かって増加しており、かつ、ルチル型酸化チタンの存在比率は、前記表面から導電体211との接合面に向かって増加している。したがって、本実施の形態では、酸化チタン層212において、表面近傍領域ではアナターゼ型酸化チタンの存在比率がルチル型酸化チタンの存在比率よりも高く(以下、「アナターゼリッチ」ということがある。)、かつ、接合面近傍領域ではルチル型酸化チタンの存在比率がアナターゼ型酸化チタンの存在比率よりも高い(以下、「ルチルリッチ」ということがある。)といえる。
【0047】
次に、半導体電極210における導電体211及び酸化チタン層212のバンド構造について説明する。なお、本実施の形態における酸化チタン層212は、結晶構造がルチル型とアナターゼ型との間で連続的に変化している1つの膜によって構成されているが、説明の便宜上、結晶構造が段階的に異なる複数(N個(Nは3以上の自然数))の酸化チタン薄膜が互いに接合されて酸化チタン層212を構成していると想定して、図5及び図6を参照しながらバンド構造について説明する。図5は、導電体211と酸化チタン層212とが接合されていない状態(説明の便宜上想定したN個の酸化チタン薄膜も互いに接合されていない状態)を示している。図6は、導電体211と酸化チタン層212とが接合されている状態を示している。なお、図5及び図6中、酸化チタン層212において、導電体211との接合面近傍領域を1番目の酸化チタン薄膜として212−1と示し、表面近傍領域をN番目の酸化チタン薄膜として212−Nと示し、中間領域を接合面近傍領域212−1からK番目(Kは、2≦K≦N−1を満たす任意の自然数)の酸化チタン薄膜として212−Kと示す。
【0048】
酸化チタン層212の表面近傍領域212−Nはアナターゼリッチであるので、伝導帯のバンドエッジ準位ECNは、ルチルリッチである酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1における伝導帯のバンドエッジ準位EC1よりも大きい(ECN>EC1)。また、酸化チタン層212は結晶構造が連続的に変化しているので、表面近傍領域212−Nと接合面近傍領域212−1との中間領域212−Kにおける伝導帯のバンドエッジ準位ECKは、表面近傍領域212−Nと接合面近傍領域212−1の各バンドエッジ準位の中間に位置する(ECN>ECK>EC1)。酸化チタン層212の表面近傍領域212−Nにおける価電子帯のバンドエッジ準位EVNと、中間領域212−Kにおける価電子帯のバンドエッジ準位EVKと、酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1における価電子帯のバンドエッジ準位EV1とは、ほぼ同じである(EVN≒EVK≒EV1)。また、酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1のフェルミ準位EF1は、酸化チタン層212の表面近傍領域212−Nのフェルミ準位EFNよりも大きくなるように設定されている(EFN<EF1)。酸化チタン層212は結晶構造が連続的に傾斜しているので、中間領域212−Kのフェルミ準位EFKは、表面近傍領域212−Nと接合面近傍領域212−1のフェルミ準位の中間に位置するように設定されている(EFN<EFK<EF1)。さらに、導電体211のフェルミ準位EFcは、酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1のフェルミ準位EF1よりも大きくなるように設定されている(EF1<EFc)。
【0049】
次に、導電体211、酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1、中間領域212−K及び表面近傍領域212−Nを互いに接合すると、酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1、中間領域212−K及び表面近傍領域212−Nの接合面において、互いのフェルミ準位が一致するようにキャリアが移動することにより、図6に示すようなバンドエッジの曲がりが生じる。このとき、上記に説明したとおり、ECN>ECK>EC1、EVN≒EVK≒EV1かつEFN<EFK<EF1の関係が満たされていることから、酸化チタン層212内にはショットキー障壁は生じず、酸化チタン層212内はオーミック接触となる。
【0050】
上記のような半導体電極210を、化学反応を生じさせる化合物と接触させると、酸化チタン層120の表面において、表面近傍領域212−Nにおける伝導帯のバンドエッジ準位ECN及び価電子帯のバンドエッジ準位EVNが持ち上げられる。これにより、酸化チタン層212の表面付近に空間電荷層が生じる。
【0051】
仮に、ルチルリッチとアナターゼリッチの位置関係が半導体電極210と逆である場合について検討する。すなわち、表面近傍領域がルチルリッチであり、導電体との接合面近傍領域がアナターゼリッチである酸化チタン層を備えた半導体電極を想定する。この場合、表面近傍領域における伝導帯のバンドエッジの曲がりと、表面近傍領域−接合面近傍領域間の伝導帯のバンドエッジ準位の差とにより、酸化チタン層内部における伝導帯のバンドエッジ準位に井戸型ポテンシャルが生じることになる。この井戸型ポテンシャルにより、酸化チタン層の内部に電子が溜まってしまい、光励起により生成した電子とホールが再結合する確率が高くなってしまう。
【0052】
これに対し、本実施の形態の光触媒素子200では、図6に示すように、酸化チタン層212の表面近傍領域212−Nにおける伝導帯のバンドエッジ準位ECNが接合面近傍領域212−1における伝導帯のバンドエッジ準位EC1よりも大きくなる。したがって、酸化チタン層212内部における伝導帯のバンドエッジ準位に、上記のような井戸型ポテンシャルが生じない。さらに、本実施の形態では、酸化チタン層212は厚さ方向に結晶構造が連続的に変化しているので、伝導帯もフラットではなく厚さ方向に傾斜することになる。そのため、電子は酸化チタン層212の内部に溜まることなく導電体211側へ移動し、電荷分離の効率が格段に向上する。
【0053】
また、本実施の形態の光触媒素子200においては、酸化チタン層212内部の伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位が上記のような関係であることに加えて、酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1のフェルミ準位EF1が表面近傍領域212−Nのフェルミ準位EFNよりも大きくなるように設定されている。この構成により、酸化チタン層212内部では、バンドの曲がりが生じ、かつ、ショットキー障壁が生じない。その結果、酸化チタン層212内部で光励起により生成した電子とホールのうち、電子は伝導帯を酸化チタン層212の導電体211との接合面方向に移動し、ホールは価電子帯を酸化チタン層212の表面方向に移動する。すなわち、電子及びホールがショットキー障壁により妨げられることなく、効率的に電荷分離される。これにより、光励起により酸化チタン層212内部で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなるので、光の照射による化学反応の量子効率が向上する。
【0054】
また、本実施の形態の光触媒素子200においては、導電体211のフェルミ準位EFcが、酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1のフェルミ準位EF1よりも大きくなるように設定されている。この構成により、導電体211と酸化チタン層212との接合面においてもショットキー障壁が生じない。そのため、酸化チタン層212から導電体211への電子の移動が、ショットキー障壁により妨げられることがない。これにより、光励起により酸化チタン層212内部で生成した電子とホールとが再結合する確率がさらに低くなり、光の照射による化学反応の量子効率がさらに向上する。
【0055】
なお、酸化チタン層212のフェルミ準位、伝導帯下端のポテンシャル(バンドエッジ準位)、価電子帯上端のポテンシャル(バンドエッジ準位)は、実施の形態1で説明した方法と同じ方法で求めることができる。また、導電体211のフェルミ準位も、実施の形態1で説明した方法を同じ方法で求めることができる。また、導電体211の材料は、実施の形態1の導電体111と同じである。
【0056】
酸化チタン層212については、例えば、成膜温度等の成膜条件を調整して、導電体211上に、厚さ方向にルチル型からアナターゼ型へと結晶構造が変化する酸化チタン膜を作製することによって、得ることができる。なお、酸化チタン層212は、厚さ方向におけるバンド構造の関係(伝導帯及び価電子帯のバンドエッジ準位の大小関係)が変化しない程度であれば、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、銅、銀、亜鉛、カドミウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、錫、アンチモン等が金属イオンとして添加されていてもよい。本実施の形態において、添加される金属イオンの量は、例えば0.25atm%以下とでき、好ましくは0.1atm%以下である。
【0057】
光触媒素子200では、酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1のフェルミ準位EF1が表面近傍領域212−Nのフェルミ準位EFNよりも大きくなるように設定される必要があるため、作製時に酸化チタン層212のフェルミ準位をコントロールする必要がある。酸化チタン層212のフェルミ準位は、結晶化度を変化させることによって、コントロールできる。結晶化度のコントロールは、成膜条件(例えば成膜温度)を変化させることによって、実現できる。
【0058】
次に、本実施の形態の光触媒素子200の動作について説明する。
【0059】
半導体電極210の酸化チタン層212に太陽光等の光が照射されると、酸化チタン層212の光が照射された部分(本実施の形態では、酸化チタン層212の表面近傍領域212−N)において、伝導帯に電子が、価電子帯にホールが生じる。このとき生じたホールは、酸化チタン層212の表面近傍領域212−Nに移動する。このホールにより、酸化チタン層212の表面に接触している化合物の酸化反応が起こり、当該化合物が分解される。一方、電子は、酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1から、導電体211と酸化チタン層212との接合による伝導帯のバンドエッジの曲がりに沿って、導電体211まで移動する。導電体211に移動した電子は、導線130を介して、半導体電極210と電気的に接続された対極120側に移動する。この電子により、対極120の表面で、対極120に接触している化合物の還元反応が起こり、当該化合物が分解される。
【0060】
このとき、酸化チタン層212内でショットキー障壁が生じないので、電子は妨げられることなく酸化チタン層212の接合面近傍領域212−1に移動することができる。したがって、光励起により酸化チタン層212内で生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなり、光の照射による化学反応の量子効率を向上させることができる。
【0061】
本実施の形態の光触媒素子200は、実施の形態1の光触媒素子100と同様に、種々の用途に利用できる。したがって、脱臭機能や防汚機能が求められる機器に光触媒素子200を搭載すれば、優れた脱臭機能や防汚機能を備えた機器を提供できる。
【0062】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3の光触媒素子の構成について、図7を用いて説明する。図7は、本実施の形態の光触媒素子の構成を示す概略図である。
【0063】
本実施の形態の光触媒素子300において、半導体電極310は、導電体311、導電体311上に配置されたルチル型酸化チタン層312及びルチル型酸化チタン層312上に配置されたアナターゼ型酸化チタン層313を備えている。さらに、半導体電極310には、導電体311においてルチル型酸化チタン層312が配置されている面と反対側の面に、絶縁層314が配置されている。対極320は、導電体311と一体的に設けられている。すなわち、導電体311を構成している導電性部材の一部が対極320として機能する。詳しくは、この導電性部材において、その表面上にルチル型酸化チタン層312及びアナターゼ型酸化チタン層313が設けられている領域が導電体311として機能し、この導電性部材において、その表面が露出している領域(ルチル型酸化チタン層312及びアナターゼ型酸化チタン層313が設けられていない領域)が対極320として機能する。
【0064】
ルチル型酸化チタン層312及びアナターゼ型酸化チタン層313は、それぞれ、実施の形態1におけるルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113と同じである。
【0065】
導電体311には、実施の形態1の導電体111と同じ材料を用いることができる。
【0066】
絶縁層314は、例えば樹脂やガラスによって形成されている。このような絶縁層314によれば、導電体311が何らかの溶液(例えば、分解目的の化合物が含まれる溶液)と接触している場合でも、導電体311がこの溶液に溶解することを抑制できる。
【0067】
本実施の形態では、対極320と導電体311とが一体的に設けられている。この構成によれば、導電体311と対極320とを電気的に接続するための導線が不要となる。これにより、導線に起因する抵抗損がなくなるので、より高い量子効率で、半導体電極310が接触している化合物の化学反応を引き起こすことができる。このように、簡易な構成により光触媒と金属触媒とを電気的に接続できる。
【0068】
本実施の形態の光触媒素子300は、実施の形態1の光触媒素子100と同様に、種々の用途に利用できる。したがって、脱臭機能や防汚機能が求められる機器に光触媒素子300を搭載すれば、優れた脱臭機能や防汚機能を備えた機器を提供できる。
【0069】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4の光触媒素子の構成について、図8を用いて説明する。図8は、本実施の形態の光触媒素子の構成を示す概略図である。
【0070】
本実施の形態の光触媒素子400では、半導体電極410が、導電体411、導電体411上に配置された酸化チタン層412を備えている。さらに、半導体電極410には、導電体411において酸化チタン層412が配置されている面と反対側の面に、絶縁層413が配置されている。
【0071】
酸化チタン層412は、実施の形態2の酸化チタン層212と同様に、その厚さ方向に結晶構造が変化する構成を有しており、表面近傍領域がアナターゼリッチであり、導電体411との接合面近傍領域がルチルリッチとなっている。対極420は、実施の形態3と同様に、導電体411と一体的に設けられている。すなわち、本実施の形態の光触媒素子400は、実施の形態3の光触媒素子300において、ルチル型酸化チタン層312及びアナターゼ型酸化チタン層313の代わりに、結晶構造が厚さ方向に変化している1つの酸化チタン層が設けられた構成を有している。したがって、光触媒素子400は、実施の形態3の光触媒素子300によって得られる効果に加え、実施の形態2で説明した、酸化チタン層の結晶構造を厚さ方向に変化させることで得られる更なる量子効率向上の効果も得ることができる。
【0072】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5の光触媒素子の構成について、図9を用いて説明する。図9は、本実施の形態の光触媒素子の構成を示す概略図である。
【0073】
本実施の形態の光触媒素子500において、半導体電極510は、導電体511、導電体511上に配置されたルチル型酸化チタン層512及びルチル型酸化チタン層512上に配置されたアナターゼ型酸化チタン層513を備えている。さらに、半導体電極510には、導電体511においてルチル型酸化チタン層512が配置されている面と反対側の面に、絶縁層514が配置されている。対極520は、導電体511上の、ルチル型酸化チタン層512及びアナターゼ型酸化チタン層513が配置されていない領域に配置されている。
【0074】
導電体511、ルチル型酸化チタン層512及びアナターゼ型酸化チタン層513の構成は、それぞれ、実施の形態1の導電体111、ルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113の構成と同じである。また、絶縁層514の構成は、実施の形態3の絶縁層314の構成と同じである。
【0075】
対極520を導電体511上に配置することにより、導電体511と対極520とを電気的に接続するための導線が不要となる。これにより、導線に起因する抵抗損がなくなるので、より高い量子効率で、半導体電極510が接触している化合物の化学反応を引き起こすことができる。また、導電体511と対極520とを異なる材料で作製できるので、実施の形態3や実施の形態4の光触媒素子と比較すると、対極材料の選択の幅が広がる。対極520には、例えば、実施の形態1で説明したような、金属触媒が好適に用いられる。例えば、導電体511上に、Pt等の金属触媒を蒸着することにより、導電体511上に金属触媒からなる対極520を作製できる。
【0076】
本実施の形態の光触媒素子500は、実施の形態1の光触媒素子100と同様に、種々の用途に利用できる。したがって、脱臭機能や防汚機能が求められる機器に光触媒素子500を搭載すれば、優れた脱臭機能や防汚機能を備えた機器を提供できる。
【0077】
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6の光触媒について用いて説明する。
【0078】
本実施の形態の光触媒は、ルチル型酸化チタン粒子と、前記ルチル型酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部に設けられたアナターゼ型酸化チタン膜と、によって構成されている。真空準位を基準として、ルチル型酸化チタン粒子のフェルミ準位が、アナターゼ型酸化チタン膜のフェルミ準位よりも大きくなるように、設定されている。前記ルチル型酸化チタン粒子と前記アナターゼ型酸化チタン膜とは固着されており、互いに電気的に接続されている。なお、ルチル型酸化チタン粒子の表面の一部を電極として機能させるために、ルチル型酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部は、アナターゼ型酸化チタン膜によって被覆されずに露出している。
【0079】
本実施の形態の光触媒では、ルチル型酸化チタン1次粒子の粒径は、例えば10〜100nm、2次粒子の粒径は、例えば100〜1000nmある。また、アナターゼ型酸化チタン膜の厚さは、例えば1〜10nmである。
【0080】
本実施の形態の光触媒は、例えば図10(a)及び(b)に示すように、次のような方法によって作製できる。
【0081】
図10(a)に示すように、基板61上にルチル型酸化チタン粒子(1次粒子62、2次粒子63)を均一に塗布し、反応性スパッタ法によりアナターゼ型酸化チタンを堆積させる(図中、64はスパッタ粒子を示す)。これにより、図10(b)に示すように、2次粒子63の表面上に、アナターゼ型酸化チタン膜65が形成される。その後、基板61から得られた粒子を回収することで、本実施の形態の光触媒が得られる。これにより、2次粒子63のスパッタ堆積される側の表面のみにアナターゼ型酸化チタン膜65が形成され、2次粒子63の影もしくは基板61によりマスクされた部分にはルチル型酸化チタンが露出した、本実施の形態の光触媒が作製できる。
【0082】
本実施の形態の光触媒は、実施の形態1の半導体電極110におけるルチル型酸化チタン層112及びアナターゼ型酸化チタン層113に対応する関係を有し、さらにルチル型酸化チタン粒子の表面の一部が実施の形態1の対極120として機能する。したがって、本実施の形態の光触媒は、光励起により生成する電子及びホールを効率的に電荷分離することができる。これにより、本実施の形態の光触媒を分解しようとする化合物と接触させた場合に、光の照射により高い量子効率でこの化合物に化学反応を引き起こして、この化合物を分解することができる。
【0083】
本実施の形態の光触媒は、脱臭及び防汚等の光触媒の一般的な機能を実現できるため、その用途は特には限定されない。また、この光触媒は粒子状であるため、設置場所等を選ばず、あらゆる用途に適用できる。例えば、エアコンや空気清浄機のフィルタにこの光触媒を散布あるいは塗布することにより、優れた脱臭機能を有するエアコンや空気清浄機を実現できる。また、この光触媒を機器のボディや建造物の外壁などに固着させることで、防汚機能を有する機器や建造物を実現することもできる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0085】
(実施例1)
本発明の光触媒素子の実施例として、図7に示した光触媒素子300と同様の構成を有する光触媒素子を作製した。以下、本実施例の光触媒素子について、図7を参照しながら説明する。
【0086】
半導体電極310は、以下の手順により作製した。
【0087】
1cm×2cmのガラス基板314上に、導電体311として、まずスパッタ法により膜厚150nmのITO膜(シート抵抗10Ω/□)を形成した。次に、導電体311上の1cm角に、ルチル型酸化チタン層312として、Ti金属をターゲットとして成膜温度600℃で反応性スパッタ法により膜厚150nmの酸化チタン膜を形成した。この反応性スパッタを行ったチャンバー内の雰囲気は、酸素分圧0.2Pa、アルゴン分圧0.8Paであった。
【0088】
最後に、ルチル型酸化チタン層312上に、アナターゼ型酸化チタン層313として、Ti金属をターゲットとして成膜温度300℃で反応性スパッタ法により膜厚350nmの酸化チタン膜を形成した。
【0089】
本実施例の半導体電極310は、アナターゼ型酸化チタン層313の表面が、光入射面となるように配置された。
【0090】
対極314としては、ルチル型酸化チタン層312及びアナターゼ型酸化チタン層313に被覆されていない導電体311の表面部分を用いた。この構成により、半導体電極310と対極320とを電気的に接続した。
【0091】
(実施例2)
本発明の光触媒素子の実施例として、図8に示した光触媒素子400と同様の構成を有する光触媒素子を作製した。以下、本実施例の光触媒素子について、図8を参照しながら説明する。
【0092】
半導体電極410は、以下の手順により作製した。
【0093】
1cm×2cmのガラス基板413上に、導電体411として、まずスパッタ法により膜厚150nmのITO膜(シート抵抗10Ω/□)を形成した。次に、導電体411上の1cm角に、導電体411側がルチルリッチとなり、反対側がアナターゼリッチとなるように、結晶構造を変化させた酸化チタン層412を作製した。具体的には、Ti金属をターゲットとして成膜温度400℃(導電体411の設定温度)で反応性スパッタ法により膜厚500nmの酸化チタン膜を形成した。本実施例で設定した成膜温度は、ルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンとの両方が成膜可能な温度であった。より導電体411に近い位置では、酸化チタンが成膜される面の温度が高くなるため、よりルチルリッチとなった。導電体411から離れるに従って、酸化チタンが成膜される面の温度が下がるため、よりアナターゼリッチとなった。この反応性スパッタを行ったチャンバー内の雰囲気は、酸素分圧0.2Pa、アルゴン分圧0.8Paであった。
【0094】
半導体電極410は、アナターゼリッチである酸化チタン層412の表面が、光入射面となるように配置される。なお、酸化チタン層412の結晶構造は、XRD(X-ray diffraction)とスパッタエッチングにより、表面側がアナターゼ型酸化チタン、導電体側がルチル型酸化チタンであることを確認した。これは導電体411側が加熱されており、導電体411側から表面側へと結晶構造が変化するのに最適な温度勾配ができていたためである。
【0095】
対極420としては、酸化チタン層412に被覆されていない導電体411の表面部分を用いた。この構成により、半導体電極410と対極420とを電気的に接続した。
【0096】
(実施例3)
本発明の光触媒素子の実施例として、図9に示した光触媒素子500と同様の構成を有する光触媒素子を作製した。以下、本実施例の光触媒素子について、図9を参照しながら説明する。
【0097】
半導体電極510は、実施例1の半導体電極310と同様の方法によって作製した。その後、対極520として、導電体511上の、ルチル型酸化チタン層512及びアナターゼ型酸化チタン層513が配置されていない領域に、厚さ10nmのPt膜を蒸着によって作製した。すなわち、実施例3の光触媒素子は、対極にPt膜を用いた点以外は、実施例1の光触媒素子と同じであった。
【0098】
(比較例1)
アナターゼ型酸化チタン層として、Ti金属をターゲットとして成膜温度200℃で反応性スパッタ法により膜厚350nmの酸化チタン膜を作製した以外は、実施例1の光触媒素子と同様の手順により、比較例1の光触媒素子を作製した。
【0099】
(比較例2)
実施例2の光触媒素子において、酸化チタン層412の代わりに、導電体411上の1cm角に、結晶構造が変化していないアナターゼ型酸化チタン層を作製した以外は、実施例2と同様の手順により、比較例2の光触媒素子を作製した。このアナターゼ型酸化チタン層として、Ti金属をターゲットとして成膜温度300℃で反応性スパッタ法により、膜厚500nmの酸化チタン膜を作製した。
【0100】
(比較例3)
実施例2の光触媒素子において、酸化チタン層412の代わりに、導電体411上の1cm角に、結晶構造が変化していないルチル型酸化チタン層を作製した以外は、実施例2と同様の手順により、比較例3の光触媒素子を作製した。このルチル型酸化チタン層として、Ti金属をターゲットとして成膜温度600℃で反応性スパッタ法により、膜厚500nmの酸化チタン膜を形成した。
【0101】
実施例1,3及び比較例1から3に係る光触媒素子の半導体電極を構成する、導電体、ルチル型酸化チタン層及びアナターゼ型酸化チタン層の、フェルミ準位、伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位を、以下の表1に示す。なお、伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位は、pHが0、温度25℃の電解液と接触した状態において、真空準位を基準とする値であり、文献から引用した。フェルミ準位は半導体の光電気化学測定(フラットバンドポテンシャル)を行った。また、実施例2の光触媒素子には、結晶構造が厚さ方向に傾斜した酸化チタン膜が設けられていたが、導電体との接合面近傍領域ではルチル型酸化チタン、表面側ではアナターゼ型酸化チタンであることが確認されたため、伝導帯のバンドエッジ準位及び価電子帯のバンドエッジ準位は、同様に文献から引用した値を用いた。実施例2における酸化チタン層のフェルミ準位は、半導体の光電気化学測定(フラットバンドポテンシャル)によって求めた。
【0102】
【表1】

【0103】
表1からわかるように、実施例1〜3における各光触媒素子の半導体電極は、表面側がアナターゼ型酸化チタン(アナターゼリッチ)となっており、導電体側がルチル型酸化チタン(ルチルリッチ)となっている。さらに、導電体、ルチル型酸化チタン及びアナターゼ型酸化チタンのフェルミ準位の大きさが、アナターゼ型酸化チタン<ルチル型酸化チタン<導電体、となっていた。すなわち、実施例1〜3の半導体電極は、実施の形態1〜5の半導体電極の構成を満たしていた。
【0104】
比較例1における光触媒素子の半導体電極では、表面側がアナターゼ型酸化チタン、導電体側がルチル型酸化チタンとなっているものの、ルチル型酸化チタンのフェルミ準位がアナターゼ型酸化チタンのフェルミ準位よりも小さかった。比較例2,3の半導体電極は、結晶構造を変化させない一つの酸化チタン層を備えていたため、酸化チタン層の表面側と導電体側とで伝導帯のバンドエッジ準位、価電子帯のバンドエッジ準位及びフェルミ準位は変化していなかった。
【0105】
(色素脱色実験)
実施例1〜3及び比較例1〜3の光触媒素子について、色素脱色実験を行った。まず、マローブルーの花びら10gを100gの水に入れて、10分間攪拌することですりつぶした。その後、花びらを取り除いたアントシアニン溶液に、実施例1〜3及び比較例1〜3の光触媒素子を室温で24時間浸漬し、各光触媒素子の半導体電極表面にアントシアニンを吸着させた。その後、強度0.5kWに調整した低圧水銀ランプを用いて、各半導体電極の表面に紫外線を所定の時間照射した。紫外線照射前後の、アントシアニンに相当するUV−vis吸収スペクトルの吸光度の変化を測定した。
【0106】
図11には、実施例1の光触媒素子の半導体電極上に吸着したアントシアニンについて、UV−vis吸収スペクトルの紫外線照射時間変化を示す。ここから求められる波長600nmについての吸光度の変化値をプロットしたものを、図12に示す。図12には、実施例2,3及び比較例1〜3について、実施例1と同様の方法で求められた波長600nmについての吸光度の変化値も示されている。
【0107】
この結果から、実施例1の光触媒素子は、比較例2,3の光触媒素子よりも、アントシアニンの吸光度の減少量が大きいことを確認できた。これは、光励起によりアナターゼ型酸化チタン層内で生成した電子とホールが効率的に電荷分離されることにより、生成した電子とホールとが再結合する確率が低くなり、アントシアニン分解反応の量子効率が高くなったためと考えられる。
【0108】
また、結晶構造を厚さ方向に変化させた酸化チタン層を備えた実施例2の光触媒素子は、実施例1の光触媒素子よりもアントシアニンの吸光度の減少量が大きかった。この結果から、ルチル型酸化チタン層及びアナターゼ型酸化チタン層の2層構造とするよりも、一つの酸化チタン層の中で厚さ方向に結晶構造を変化させる構成の方が、より電子とホールとが再結合する確率が低くなり、アントシアニン分解反応の量子効率が高くなると考えられる。
【0109】
比較例1の光触媒素子は、実施例1〜3及び比較例1,2に比べて、アントシアニンの吸光度の変化がかなり小さいことがわかった。この結果から、比較例1に係る光触媒においては、表1に示すように、ルチル型酸化チタンのフェルミ準位がアナターゼ型酸化チタンのフェルミ準位よりも小さいことから、ルチル型酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンとの接合面においてショットキー障壁が生じたため、光励起によりアナターゼ型酸化チタン内で生成した電子とホールが電荷分離されず、生成した電子とホールが再結合する確率が高くなったと考えられる。
【0110】
(実施例4)
ルチル型酸化チタン粒子(堺化学社製、STR−100N)0.5gを50mmφのガラスシャーレに均一に塗布し、Tiターゲットによる反応性スパッタ法(チャンバー内の酸素分圧は0.2Pa、アルゴン分圧は0.8Pa、ガラスシャーレの温度は300℃)により、ルチル型酸化チタン粒子上に、ルチル型酸化チタン粒子よりもフェルミ準位が小さいアナターゼ型チタン膜を設けた。これにより、アナターゼ型酸化チタン膜が形成されかつルチル型酸化チタン粒子の表面の一部が露出した、実施例4の光触媒が得られた。
【0111】
図13のように、本実施例の光触媒71が塗布されたシャーレ72を4Lチャンバー73内に設置した。チャンバー73内での濃度が40ppmになるように、注射器74で硫化メチルをチャンバー73に注入した。シャーレ72の上から光量が1500mW/cm2になるようにブラックライト75を照射し、照射時間に対するチャンバー73内の硫化メチルの濃度変化を、チャンバー73内のガスを注射器74で分取し、ガスクロマトグラフィー(島津GC−14A)で分析した。チャンバー73内の雰囲気は、攪拌ファン76で攪拌されていた。その結果、光照射30分後の硫化メチルの濃度は1ppmであった。
【0112】
(比較例4)
実施例4の反応性スパッタ成膜を行わないこと以外は、実施例4と同様の方法で比較例4の光触媒の作製及び評価を行った。その結果、照射30分後の硫化メチルの濃度は8ppmであった。
【0113】
実施例4と比較例4との比較により、ルチル型酸化チタン粒子と、このルチル型酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部に設けられたアナターゼ型酸化チタン膜と、によって構成されており、真空準位を基準として、ルチル型酸化チタン粒子のフェルミ準位がアナターゼ型酸化チタン膜のフェルミ準位よりも大きい光触媒によれば、化学反応の量子効率を向上させることが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の光触媒素子及び光触媒によると、光の照射によって接触する化合物に引き起こされる化学反応の量子効率を向上させることができ、脱臭機能や防汚機能が求められるあらゆる機器に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0115】
100,200,300,400,500 光触媒素子
110,210,310,410,510 半導体電極
111,211,311,411,511 導電体
112,312,512 ルチル型酸化チタン層
113,313,513 アナターゼ型酸化チタン層
212,412 酸化チタン層
120,320,420,520 対極
130 導線
314,413,514 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体及び前記導電体上に配置された酸化チタン層を含む半導体電極と、
前記導電体と電気的に接続された対極と、を備え、
前記酸化チタン層は、表面近傍領域と前記導電体との接合面近傍領域とで異なる結晶構造を有しており、
前記酸化チタン層において、前記表面近傍領域ではアナターゼ型酸化チタンの存在比率がルチル型酸化チタンの存在比率よりも高く、かつ、前記接合面近傍領域ではルチル型酸化チタンの存在比率がアナターゼ型酸化チタンの存在比率よりも高く、
真空準位を基準として、
(I)前記酸化チタン層の前記接合面近傍領域のフェルミ準位が、前記酸化チタン層の前記表面近傍領域のフェルミ準位よりも大きく、かつ、
(II)前記導電体のフェルミ準位が、前記酸化チタン層の前記接合面近傍領域のフェルミ準位よりも大きく、
前記酸化チタン層の表面に光が照射されることによって触媒機能が発揮される、
光触媒素子。
【請求項2】
前記酸化チタン層において、アナターゼ型酸化チタンの存在比率は、前記導電体との接合面から表面に向かって増加しており、かつ、
前記酸化チタン層において、ルチル型酸化チタンの存在比率は、表面から前記導電体との接合面に向かって増加している、
請求項1に記載の光触媒素子。
【請求項3】
前記酸化チタン層が、前記導電体上に配置されたルチル型酸化チタン層と、前記ルチル型酸化チタン層上に配置されたアナターゼ型酸化チタン層とによって形成されており、真空準位を基準として、
(i)前記ルチル型酸化チタン層のフェルミ準位が、前記アナターゼ型酸化チタン層のフェルミ準位よりも大きく、かつ、
(ii)前記導電体のフェルミ準位が、前記ルチル型酸化チタン層のフェルミ準位よりも大きい、
請求項1に記載の光触媒素子。
【請求項4】
前記対極が、前記導電体上に配置されている、請求項1〜3の何れか1項に記載の光触媒素子。
【請求項5】
前記対極と前記導電体とが一体的に設けられている、請求項1〜4の何れか1項に記載の光触媒素子。
【請求項6】
ルチル型酸化チタン粒子と、前記ルチル型酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部に設けられたアナターゼ型酸化チタン膜と、によって構成されており、
真空準位を基準として、前記ルチル型酸化チタン粒子のフェルミ準位が、前記アナターゼ型酸化チタン膜のフェルミ準位よりも大きい、
光触媒。
【請求項7】
前記ルチル型酸化チタン粒子と、前記アナターゼ型酸化チタン膜とが、互いに電気的に接続されている、請求項6に記載の光触媒。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−101844(P2011−101844A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257438(P2009−257438)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】