説明

光触媒組成物、壁材、建材、および光触媒組成物の製造方法

【課題】製造コストの抑制を図りつつ、光触媒活性を改善するのに適した光触媒組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の光触媒組成物は、微粒子状の窒素ドープ酸化チタンと、微粒子状のアタパルジャイトとを混合状態で含有する。上記アタパルジャイトは、組成成分として酸化チタンを1〜2重量%の割合で含む。上記光触媒組成物は、上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトの合計重量に対して上記窒素ドープ酸化チタンを25〜90重量%の割合で含む。上記アタパルジャイトは、針状粒子の状態で存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒組成物、その光触媒組成物を用いて構成された壁材および建材、ならびに光触媒組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光が照射された場合に触媒作用を示す光触媒としては、酸化チタンが広く知られている。酸化チタンに紫外線が照射されると、酸化チタンの光触媒活性によって、たとえば、大気汚染の原因物質とされる窒素酸化物や、シックハウス症候群の一因と考えられているアセトアルデヒドなどの有害物質が分解される。酸化チタンのこのような光触媒活性は、太陽光や白熱灯・蛍光灯などの自然光にごく一部含まれる紫外線の吸収によって発現されるが、可視光の照射では、酸化チタンの光触媒活性は紫外線照射の場合に比べて大幅に低下する。このため、酸化チタンは、自然光のもとでの光触媒活性としては不十分であった。
【0003】
これに対し、酸化チタンに窒素などの少量の不純物を添加(ドープ)することにより、可視光領域での光触媒活性が改善されることが知られている。また、このような優れた触媒活性を示す窒素ドープ酸化チタンに無機系吸着剤等を混合し、これを光触媒組成物として用いるといった試みもなされている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記した窒素ドープ酸化チタンは、その製造コストが酸化チタンに比べて高くついてしまう。このため、たとえば窒素ドープ酸化チタンを単独で光触媒として建材等に使用すると、コスト面で不利である。また、吸着剤等を混合する場合においては、光触媒活性の改善についての定性的な効果が不明であることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−90336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、製造コストの抑制を図りつつ、光触媒活性を改善するのに適した光触媒組成物を提供することを課題としている。また、本発明は、そのような光触媒組成物を、効率よく、かつ適切に製造するのに適した光触媒組成物の製造方法を提供することを他の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意検討した結果、天然の粘土状鉱物であるアタパルジャイトを所定の性状で窒素ドープ酸化チタンと混合することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される光触媒組成物は、微粒子状の窒素ドープ酸化チタンと、微粒子状のアタパルジャイトとを混合状態で含有することを特徴としている。
【0009】
好ましい実施の形態においては、上記アタパルジャイトは、組成成分として酸化チタンを1〜2重量%の割合で含む。
【0010】
好ましい実施の形態においては、上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトの合計重量に対して上記窒素ドープ酸化チタンを25〜90重量%の割合で含む。より好ましくは、上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトの合計重量に対して上記窒素ドープ酸化チタンを50〜70重量%の割合で含む。
【0011】
好ましい実施の形態においては、上記アタパルジャイトは、針状粒子の状態で存在する。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記針状粒子は、平均短軸が5〜20nm、平均長軸が300〜1000nmの大きさである。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記窒素ドープ酸化チタンは、その平均粒径が10〜30nmである。
【0014】
本発明の第2の側面によって提供される壁材は、本発明の第1の側面により提供される光触媒組成物を含むことを特徴としている。
【0015】
本発明の第3の側面によって提供される建材は、本発明の第1の側面により提供される光触媒組成物を含む被覆層が形成されていることを特徴としている。
【0016】
本発明の第4の側面によって提供される光触媒組成物の製造方法は、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを混合する混合工程と、上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトを、ともに微粒子化する微粒子化工程と、を含むことを特徴としている。
【0017】
本発明の第4の側面において、一つの実施形態によれば、上記微粒子化工程は、混合状態の上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトを乾燥状態で粉砕することにより行う。
【0018】
本発明の第4の側面において、他の実施形態によれば、上記微粒子化工程は、上記窒素ドープ酸化チタンと上記アタパルジャイトとを液体中で分散させ、当該液体から濾過分離することにより行う。
【0019】
本発明の第4の側面において、好ましい実施の形態によれば、上記アタパルジャイトは、組成成分として酸化チタンを1〜2重量%の割合で含む。
【0020】
本発明の第4の側面において、好ましい実施の形態によれば、上記混合工程では、上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトの合計重量に対して上記窒素ドープ酸化チタンを25〜90重量%の割合で混合する。より好ましくは、上記混合工程では、上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトの合計重量に対して上記窒素ドープ酸化チタンを50〜70重量%の割合で混合する。
【0021】
本発明の第4の側面において、好ましい実施の形態によれば、上記微粒子化工程では、上記アパタルジャイトを、平均短軸が5〜20nm、平均長軸が300〜1000nmの大きさの針状微粒子とし、上記窒素ドープ酸化チタンを、その平均粒径が10〜30nmの微粒子とする。
【0022】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】アタパルジャイトの組成比の一例を示す。
【図2】アタパルジャイト粉末のTEM写真である。
【図3】アタパルジャイト粉末と本発明に係る光触媒組成物のTEM写真である。
【図4】実施例および比較例に係る試料について行った一酸化窒素分解測定に係る測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例および比較例に係る試料について行ったアセトアルデヒド分解測定に係る測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0025】
本実施形態の光触媒組成物は、微粒子状の窒素ドープ酸化チタンと、微粒子状のアタパルジャイトとを混合状態で含有するものである。
【0026】
窒素ドープ酸化チタンは、酸化チタン(TiO2)の酸素の一部が窒素に置換された状態、または酸化チタンの結晶格子中に窒素原子が添加された状態のいずれも含むものである。窒素ドープ酸化チタン粒子の平均粒径は、たとえば10〜30nmである。
【0027】
窒素ドープ酸化チタンにおける窒素含有率は、特に限定されないが、光触媒活性を高める観点から、好ましくは1〜2重量%とされる。
【0028】
アタパルジャイトは、天然の粘土状鉱物として産出するパリゴルスカイト(含水マグネシウム珪酸塩)であり、構造式は、たとえばMg5(Si,Al)820(OH)2・8H2Oで示される。アタパルジャイトは、繊維状の構造が絡み合って凝集した塊状粉末であり、その粒径は5〜50μm程度とばらつきがある。アタパルジャイトの塊状粉末は、繊維間にトンネル状細孔が存在しており、吸着性能に優れている。
【0029】
本実施形態のアタパルジャイトは、組成成分として酸化チタン(TiO2)を含んでいる。アタパルジャイトは、天然の粘土状鉱物であるため不純物を含有しており、不純物含有量が産地によって異なっている。アタパルジャイトにおける不純物含有量は、蛍光X線分析によって確認することができる。本実施形態のアタパルジャイト(中国産、江蘇省淮源鉱業有限公司製、商品名:高粘凸凹棒粉)の蛍光X線分析結果による組成比の例を図1に示す。アタパルジャイトにおける酸化チタンの含有率は、たとえば1〜2重量%である。
【0030】
詳細は後述するが、本実施形態の光触媒組成物を構成するアタパルジャイトは、上記塊状粉末が微粒子化された針状粒子の状態で存在している。当該針状粒子の大きさは、たとえば平均短軸が5〜20nm、平均長軸が300〜1000nmである。光触媒組成物におけるアタパルジャイト針状粒子の分散状態や当該針状粒子の大きさは、透過電子顕微鏡(TEM)での観察によって確認することができる。
【0031】
本実施形態の光触媒組成物において、窒素ドープ酸化チタンおよびアタパルジャイトの合計重量に対する窒素ドープ酸化チタンの含有率は、たとえば25〜90重量%とされ、さらに好ましくは50〜70重量%とされる。
【0032】
本実施形態の光触媒組成物は、優れた光触媒活性を有しており、このことが本発明者らによって見出された。上記したように、本実施形態の光触媒組成物は、微粒子状の窒素ドープ酸化チタンと、微粒子状のアタパルジャイトとを混合状態で含有しており、アタパルジャイトは針状粒子の状態で存在している。
【0033】
詳細は後述の実施例において説明するが、窒素ドープ酸化チタン単独、酸化チタン単独、およびアタパルジャイト単独について、光触媒活性は、窒素ドープ酸化チタン、酸化チタン、アタパルジャイトの順に優れる。窒素ドープ酸化チタンは、紫外線照射および可視光照射での光触媒活性に優れている。酸化チタンは、紫外線照射での光触媒活性は優れるものの(窒素ドープ酸化チタンより劣る)、可視光照射での光触媒活性は大幅に低下する。アタパルジャイトは、紫外線照射では光触媒活性を有するが、可視光照射では光触媒活性を殆ど有さない。
【0034】
これに対し、本実施形態の光触媒組成物は、窒素ドープ酸化チタンと、アタパルジャイトとが混ざり合った複合体(以下、適宜、「本件複合体」という)であるが、本件複合体は、紫外線照射においては、窒素ドープ酸化チタン単独よりも優れた光触媒活性を示し、可視光照射においても、窒素ドープ酸化チタン単独と同程度の優れた光触媒活性を有する。本件複合体によれば、紫外光照射および可視光照射のいずれにおいても、光触媒活性を改善することが可能である。特に、アタパルジャイト単独では、可視光照射において光触媒活性を殆ど有さないにも拘わらず、本件複合体は、可視光照射において窒素ドープ酸化チタン単独に匹敵する優れた光触媒活性を有する。アタパルジャイトは、天然産出物の粘土状鉱物であって比較的安価に入手可能である一方、窒素ドープ酸化チタンは、材料コストないし製造コストが比較的高くつく。このようなことから理解されるように、アタパルジャイトを含有する本件複合体によれば、窒素ドープ酸化チタン単独の場合に比べて、製造コストの抑制を図りつつ、光触媒活性を改善するといった効果を奏することができるのである。
【0035】
本実施形態の光触媒組成物は、たとえば、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを混合し(混合工程)、窒素ドープ酸化チタンおよびアタパルジャイトをともに微粒子化する(微粒子化工程)ことにより、得ることができる。
【0036】
窒素ドープ酸化チタンの製造方法については特に限定されないが、チタン化合物(たとえば塩化チタン)と窒素化合物(たとえばヘキサメチレンテトラミン)の水熱反応による方法、チタン化合物(たとえば塩化チタンや硫酸チタン)から酸化チタンを生成し、この酸化チタンに窒素を添加する方法などを挙げることができる。
【0037】
窒素ドープ酸化チタンおよびアタパルジャイトを微粒子化する工程は、たとえば混合状態の窒素ドープ酸化チタンおよびアタパルジャイトを乾燥状態で粉砕することにより行うことができる(乾式混合)。この乾式混合では、たとえば、窒素ドープ酸化チタン粉末およびアタパルジャイト粉末の所定量をメノウ乳鉢を用いて軽く粉砕することにより、本実施形態の光触媒組成物を得ることができる。本方法によれば、窒素ドープ酸化チタンおよびアタパルジャイトの混合ないし微粒子化をまとめて行うことが可能であり、窒素ドープ酸化チタンおよびアタパルジャイトが所望の配合比率で混合された光触媒組成物(本件複合体)を、効率よく、かつ適切に製造することができる。
【0038】
窒素ドープ酸化チタンおよびアタパルジャイトを微粒子化する工程はまた、他の方法として、たとえば窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを液体中(たとえば水中)で分散させ、当該液体から濾過分離することにより行うことができる(湿式混合)。
【0039】
また、本実施形態の光触媒組成物の製造においては、窒素ドープ酸化チタンの製造、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトの混合ないし微粒子化をまとめて行うことも可能である。たとえば、塩化チタン(TiCl3)とヘキサメチレンテトラミンとを水溶液中で反応させる際に、当該水溶液にアタパルジャイト粉末を添加し、生成物を分離、洗浄、および乾燥することにより、光触媒組成物(本件複合体)を得ることができる。
【0040】
光触媒組成物による光触媒作用は、特に限定されないが、たとえば後述の実施例に示す一酸化窒素(NO)分解測定やアセトアルデヒド分解測定によって評価することができる。
【0041】
本発明には、上記した光触媒組成物を含んで構成された壁材や建材が包摂される。壁材としては、たとえば、モルタル、コンクリート、石膏ボード、漆喰などの種々の材料からなるものがあり、これらはスラリー状の壁材材料が固化して形成されるが、本発明の壁材は、たとえば、固化前の壁材材料と上記光触媒組成物とを混ぜ合わせ、当該混合物が固化することにより得ることができる。
【0042】
また、本発明の建材は、たとえば、基材の表面に上記光触媒組成物を含む被覆層が形成された構成とされている。上記基材としては、天井材、壁材、床材、カーテン材などを構成する金属板、樹脂板、木板、タイル、ガラス板、布生地などが挙げられる。上記被覆層としては、基材の種類に応じて種々のものを適宜選択することができ、塗料に上記光触媒組成物を分散させ基板の表面に塗布して形成される態様や、上記光触媒組成物を練り込んだバインダを基板の表面に塗布して形成される態様などを挙げることができる。
【0043】
本発明の壁材および建材は、本発明に係る上記光触媒組成物を含む。このため、本発明の壁材または建材を、外装材や内装材として使用すれば、太陽光や室内照明光の過半を占める可視光の照射によっても優れた光触媒活性を発揮することが期待できる。したがって、本発明の壁材および建材は、大気中や室内の有害物質の分解を促進するのに適している。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例および比較例に基づいて本発明をさらに詳しく述べる。
【0045】
〔実施例1〕
(1)光触媒組成物の製造
2gのヘキサメチレンテトラミン、5mlの20重量%TiCl3水溶液、および5mlの蒸留水を混合後、耐圧容器に入れ、250℃で10分間反応させ、窒素ドープ酸化チタンを析出させた。その後、生成物を遠心分離し、蒸留水およびアセトンで洗浄し、60℃で一晩真空乾燥させた。得られた窒素ドープ酸化チタン粉末、およびアタパルジャイト粉末(中国江蘇省淮源鉱業有限公司製、商品名:高粘凸凹棒粉)の所定量をメノウ乳鉢を用い軽く乾式混合し、光触媒組成物(本件複合体)である粉末状の試料を得た。本実施例では、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを重量比で7:3(本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率が70重量%)となるように混合し、試料1を得た。
【0046】
(2)透過電子顕微鏡(TEM)観察
アタパルジャイト粉末および上記方法によって得られた試料1のTEM(日本電子製、商品名:JEM−2010)による撮影画像を図2、図3に示す。図2(a)〜(c)は、アタパルジャイト粉末のTEM写真であり、(a)、(b)(c)の順に倍率が高くなっている。図2(a)、(b)に表れているように、アタパルジャイト粉末は、粒径が5〜50μm程度の不揃いな塊状粉末であるが、図2(c)に示すようにさらに高倍率で観察すると、針状粒子の凝集体であることが分かる。図3は、アタパルジャイト粉末と、試料1(本件複合体)のTEM写真である。図3(b)に示すように、試料1の本件複合体においては、針状粒子の周囲に窒素ドープ酸化チタン粒子が分散していることが観察された。
【0047】
(3)比表面積および細孔測定
アタパルジャイト粉末、窒素ドープ酸化チタン、および上記方法によって得られた試料1について、これらの比表面積と細孔をBET法・BJH法により測定した結果を表1に示す。アタパルジャイト粉末および窒素ドープ酸化チタン粉末はいずれも約200m2/gの大きな比表面積を有するため、複合化後の試料1(本件複合体)の比表面積の値は殆ど変化しなかったが、細孔容積の増加が認められた。これは、アタパルジャイト針状粒子と窒素ドープ酸化チタン粒子の複合化によって架橋構造が成形され、新たな細孔が形成されたことによるものと考えられる。
【0048】
【表1】

【0049】
(4)一酸化窒素(N0)分解測定
上記方法によって得られた試料1の光触媒活性について、種々の波長の光照射によるNOガスの分解測定によって評価した。NOガスの分解は、内容積373cm3の通流式反応器を用いて行った。本測定では、試料1の粉末0.2gをガラスホルダ(長さ20mm、幅16mm、深さ0.5mm)の窪み部分に入れ、当該ガラスホルダを反応器の中央底部に載置した。光源は450W高圧水銀ランプが用いられ、反応器に照射される光の波長は、フィルタを選択することによって調整された。当該フィルタとしては、290nmを超える波長(>290nm)についてはパイレックス(登録商標)ガラスが用いられ、400nmを超える波長(>400nm)についてはケンコー製(商品名:L41 Super Pro)が用いられ、510nmを超える波長(>510nm)については富士製のトリアセチルセルロースフィルタが用いられた。反応器内に通流させるガスは、NO濃度2ppmの窒素ガスと、空気とを1:1の割合で混合したガス(NO濃度1ppm)を用い、当該混合ガスの流量は200cm3/minとした。反応器を通過したガスのNO濃度は、窒素酸化物分析計(ヤナコ製、商品名:ECL−88A)を用いて測定された。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を図4に示す。
【0050】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1と同様の方法で光触媒組成物(本件複合体)を製造したが、本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率を実施例1と異ならせた。本実施例では、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを重量比で1:1(本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率が50重量%)となるように混合し、試料2を得た。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料2を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を図4に示す。
【0051】
〔実施例3〕
本実施例では、実施例1と同様の方法で光触媒組成物(本件複合体)を製造したが、本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率を実施例1,2と異ならせた。本実施例では、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを重量比で1:3(本件複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率が25重量%)となるように混合し、試料3を得た。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料3を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を図4に示す。
【0052】
〔比較例1〕
本比較例では、実施例1と同様の方法で光触媒組成物(複合体)を製造したが、当該複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率を実施例1〜3と異ならせた。本比較例では、窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを重量比で1:9(複合体における窒素ドープ酸化チタンの含有率が10重量%)となるように混合し、試料4を得た。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料4を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を図4に示す。
【0053】
〔比較例2〕
本比較例では、窒素ドープ酸化チタン粉末を試料5として用いた。窒素ドープ酸化チタンの製造は、実施例1と同様の方法で行った。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料5を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を図4に示す。
【0054】
〔比較例3〕
本比較例では、市販の酸化チタン粉末(デグサ製、商品名:P25)を試料6として用いた。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料6を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を図4に示す。
【0055】
〔比較例4〕
本比較例では、アタパルジャイト粉末を試料7として用いた。アタパルジャイト粉末は、実施例1で使用したものと同じものを用いた。NO分解測定については、実施例1と同じ装置を用い、実施例1の場合と同量(0.2g)の試料7を実施例1と同じ態様で反応器内にセットした。NOガスの供給態様および光照射の態様も実施例1と同様とした。上記した各波長の光を照射した場合のNO分解光触媒活性を図4に示す。
【0056】
図4に示す各試料についての測定データから分かるように、試料5(窒素ドープ酸化チタン単独)、試料6(酸化チタン単独)、および試料7(アタパルジャイト単独)について、NO分解光触媒活性は、窒素ドープ酸化チタン、酸化チタン、アタパルジャイトの順に優れる。窒素ドープ酸化チタンは、紫外線照射および可視光照射でのNO分解光触媒活性に優れている。酸化チタンは、紫外光照射でのNO分解光触媒活性は優れるものの(窒素ドープ酸化チタンより劣る)、可視光照射でのNO分解光触媒活性は大幅に低下する。アタパルジャイトは、紫外線照射ではNO分解光触媒活性を有するが、可視光照射ではNO分解光触媒活性を殆ど有さない。なお、不純物を含有しない純粋なアタパルジャイトは光触媒活性を有さない筈であるが、本測定で使用したアタパルジャイトは、光触媒活性を示した。このアタパルジャイトの光触媒活性は、当該アタパルジャイトに含まれる微量の酸化チタン(TiO2)に起因するものと考えられる。
【0057】
これに対し、実施例1〜3の試料1〜3(本件複合体)については、紫外線照射および可視光照射のいずれにおいても優れた光触媒活性を示した。より具体的には、試料1〜3(本件複合体)は、紫外線照射において、いずれも試料5(窒素ドープ酸化チタン単独)よりも優れたNO分解光触媒活性を示し、波長510nmを超える可視光照射下でも、試料5(窒素ドープ酸化チタン単独)と同程度の優れたNO分解光触媒活性を示した。窒素ドープ酸化チタンを70重量%配合した場合(試料1)には、すべての波長の光照射(紫外線照射および可視光照射)において、窒素ドープ酸化チタン単独(試料5)よりも優れたNO分解光触媒活性を示した。また、窒素ドープ酸化チタンを25重量%しか配合しなかった場合(試料3)でも、窒素ドープ酸化チタン(試料5)と同程度またはそれより高いNO分解光触媒活性を示した。
【0058】
図4に示す測定結果から理解されるように、実施例1〜3の試料1〜3(本件複合体)において、当該試料1〜3に含まれるアタパルジャイトは、光触媒活性の改善に重要な役割を果たしていることを示している。このことは、窒素ドープ酸化チタン単独(試料5)のNO分解光触媒活性とアタパルジャイト単独(試料7)のNO分解光触媒活性とを対比するだけでは想定できない結果であるが、上記したような複合化による細孔容積の増加により優れたガス吸着能が発揮され、当該吸着能によって光触媒反応が促進されたことによると考えられる。
【0059】
なお、本件複合体については、上述したように、窒素ドープ酸化チタンの含有率が70重量%の場合(試料1)に最も優れた光触媒活性を示した。この理由としては、窒素ドープ酸化チタン量が増えると光触媒能が向上する一方でガス吸着能が低下し、アタパルジャイト量が増えるとガス吸着能が向上する一方で光触媒能が低下するが、窒素ドープ酸化チタンの含有率が70重量%付近において、アタパルジャイトのガス吸着能と窒素ドープ酸化チタンの光触媒能とがマッチングするためと考えられる。
【0060】
〔実施例4〕
(5)アセトアルデヒド分解測定
上記の実施例1の方法によって得られた試料1の光触媒活性について、可視光照射によるアセトアルデヒドの分解測定によって評価した。アセトアルデヒドの分解は、内容積500cm3のバッチ式反応器を用いて行った。本測定では、試料1の粉末0.2gをガラス板上に塗布し、当該ガラス板を反応器の中央に配置した。光源は2.0W青色LEDランプが用いられ、照射光の波長は445nmであった。反応器内のガスは、アセトアルデヒド濃度(初濃度)が120ppmとされた。可視光の照射時間に応じた二酸化炭素(炭酸ガス)の濃度を測定した。炭酸ガスの濃度変化を図5に示す。
【0061】
〔実施例5〕
本実施例では、上記の実施例2の方法によって得られた試料2について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料2を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を図5に示す。
【0062】
〔実施例6〕
本実施例では、上記の実施例3の方法によって得られた試料3について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料3を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を図5に示す。
【0063】
〔比較例5〕
本比較例では、上記の比較例2で用いた試料5(窒素ドープ酸化チタン粉末)について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料5を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を図5に示す。
【0064】
〔比較例6〕
本比較例では、上記の比較例3で用いた試料6(酸化チタン粉末)について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料6を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を図5に示す。
【0065】
〔比較例7〕
本比較例では、上記の比較例4で用いた試料7(アタパルジャイト粉末)について、アセトアルデヒド分解測定を行った。アセトアルデヒド分解測定については、実施例4と同じ装置を用い、実施例4の場合と同量(0.2g)の試料7を実施例4と同じ態様で反応器内にセットした。初期のアセトアルデヒド含有ガスの初期の態様および光照射の態様も実施例4と同様とした。可視光の照射時間に応じた炭酸ガスの濃度変化を図5に示す。
【0066】
図5に示す各試料についての測定データから分かるように、アセトアルデヒドが炭酸ガスまで分解されていることが確認できた。本測定では、アタパルジャイト単独(試料7)でも酸化チタン単独(試料6)と同程度のアセトアルデヒド分解光触媒活性を示した。本件複合体(試料1〜3)のアセトアルデヒド分解光触媒活性は、窒素ドープ酸化チタンの含有率が増加するのにつれて増加し、窒素ドープ酸化チタンを70重量%配合した場合(試料1)には、窒素ドープ酸化チタン単独(試料5)の場合よりも優れた光触媒活性を示した。
【0067】
なお、上記実施例等においては、光触媒組成物を構成するアタパルジャイトが微量の酸化チタン(TiO2)を含む場合を例に挙げて説明したが、本発明の光触媒組成物を構成するアタパルジャイトとしては、酸化チタンを含有しないものであってもよい。酸化チタンを含有しないアタパルジャイトを用いて光触媒組成物を構成した場合においても、上記したような窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトの複合化によって細孔容積が増加し、光触媒活性が改善するものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子状の窒素ドープ酸化チタンと、微粒子状のアタパルジャイトとを混合状態で含有する、光触媒組成物。
【請求項2】
上記アタパルジャイトは、組成成分として酸化チタンを1〜2重量%の割合で含む、請求項1に記載の光触媒組成物。
【請求項3】
上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトの合計重量に対して上記窒素ドープ酸化チタンを25〜90重量%の割合で含む、請求項1または2に記載の光触媒組成物。
【請求項4】
上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトの合計重量に対して上記窒素ドープ酸化チタンを50〜70重量%の割合で含む、請求項3に記載の光触媒組成物。
【請求項5】
上記アタパルジャイトは、針状粒子の状態で存在する、請求項1ないし4のいずれかに記載の光触媒組成物。
【請求項6】
上記針状粒子は、平均短軸が5〜20nm、平均長軸が300〜1000nmの大きさである、請求項5に記載の光触媒組成物。
【請求項7】
上記窒素ドープ酸化チタンは、その平均粒径が10〜30nmである、請求項1ないし6のいずれかに記載の光触媒組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の光触媒組成物を含む、壁材。
【請求項9】
請求項1なしい7のいずれかに記載の光触媒組成物を含む被覆層が形成されている、建材。
【請求項10】
窒素ドープ酸化チタンとアタパルジャイトとを混合する混合工程と、
上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトを、ともに微粒子化する微粒子化工程と、
を含む、光触媒組成物の製造方法。
【請求項11】
上記微粒子化工程は、混合状態の上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトを乾燥状態で粉砕することにより行う、請求項10に記載の光触媒組成物の製造方法。
【請求項12】
上記微粒子化工程は、上記窒素ドープ酸化チタンと上記アタパルジャイトとを液体中で分散させ、当該液体から濾過分離することにより行う、請求項10に記載の光触媒組成物の製造方法。
【請求項13】
上記アタパルジャイトは、組成成分として酸化チタンを1〜2重量%の割合で含む、請求項10ないし12のいずれかに記載の光触媒組成物の製造方法。
【請求項14】
上記混合工程では、上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトの合計重量に対して上記窒素ドープ酸化チタンを25〜90重量%の割合で混合する、請求項10ないし13のいずれかに記載の光触媒組成物の製造方法。
【請求項15】
上記混合工程では、上記窒素ドープ酸化チタンおよび上記アタパルジャイトの合計重量に対して上記窒素ドープ酸化チタンを50〜70重量%の割合で混合する、請求項14に記載の光触媒組成物の製造方法。
【請求項16】
上記微粒子化工程では、上記アパタルジャイトを、平均短軸が5〜20nm、平均長軸が300〜1000nmの大きさの針状微粒子とし、上記窒素ドープ酸化チタンを、その平均粒径が10〜30nmの微粒子とする、請求項10ないし15のいずれかに記載の光触媒組成物の製造方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−239971(P2012−239971A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111489(P2011−111489)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(511121643)株式会社オ・エス・ビエンタプライズ (1)
【Fターム(参考)】