説明

光触媒組成物

【課題】特殊な光触媒粒子や、特殊な難分解性樹脂を必要とせず、含有される樹脂の光照射下での分解・劣化が抑止され、かつ光分解性能の優れた光触媒組成物を提供する。
【解決手段】光触媒粒子(A)、樹脂(B)及びフラーレン類(C)を含む光触媒組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪臭物質、汚染物質、有害物質などの分解除去に用いられる、光触媒粒子を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンに代表される光触媒は、半導体の一種で、バンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光を照射すると光励起により伝導帯に電子を、価電子帯に正孔を生じ、その電子や正孔の働きにより、様々な有機物を強力に分解する機能を持つものである。かような機能を有する光触媒は、悪臭物質、汚染物質、有害物質などの分解除去や抗菌の目的で使用されている。また、特に酸化チタンやその関連物質は光超親水化を利用した防汚機能も活用されている(非特許文献1参照)。
【0003】
光触媒は一般に粒子状であり、そのままの形態で使用されることは少なく、他の材料と複合されて使用される。光触媒の機能を広く活用するためには、樹脂と複合して、繊維、フィルム、成形体の形態にしたり、壁、布帛、紙などの基体にコーティングするなどの使い方が望まれるが、光照射された光触媒の作用により複合した樹脂も分解・劣化が進行し、製品寿命が短くなるという問題が生じる。
【0004】
このような問題に対していくつかの改善技術が知られている。
一つは、光触媒粒子の表面を無機物で部分的に被覆する方法である(例えば特許文献1参照。)。この方法は、部分的とはいえ光触媒粒子の表面が被覆されるので光触媒の光分解特性が低下する恐れがあること、また光触媒粒子の粒径や表面特性が変化し、分散性などに悪影響をもたらす恐れがあることから、適応できる用途が制限されるという問題があった。
【0005】
また、別の方法としては、コーティングに使う場合に限定される方法であるが、バインダーとして難分解性の樹脂を用いたり、樹脂の代わりに無機バインダーを用いる方法が挙げられる(例えば特許文献2参照)。この方法によれば、用いる光触媒粒子には制限がない。しかし、バインダーの種類が限定されるため、コーティング膜の特性、例えば柔軟性などを自由に設計することが困難であり、適用される用途が制限されてしまう。
【0006】
【特許文献1】特開平9−225319号公報
【特許文献2】特開平7−171408号公報
【非特許文献1】「図解光触媒のすべて」,株式会社工業調査会,初版,2003年10月,p8−17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特殊な光触媒粒子や、特殊な難分解性樹脂を必要とせず、含有される樹脂の光照射下での分解・劣化が抑止され、かつ光分解性能の優れた光触媒組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、光触媒粒子(A)、樹脂(B)及びフラーレン類(C)を含む光触媒組成物とすることにより、光分解性能に優れるとともに、樹脂の光照射下での分解・劣化が抑止されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)光触媒粒子(A)、樹脂(B)及びフラーレン類(C)を含む光触媒組成物。
(2)光触媒粒子(A)が酸化チタンである前記(1)記載の光触媒組成物。
(3)光触媒組成物中の光触媒粒子(A)の重量分率をWA、樹脂(B)の重量分率をWB、フラーレン類(C)の重量分率をWCとしたとき、WC/(WA+WB)が0.0001〜0.1である前記(1)又は(2)記載の光触媒組成物。
(4)さらに溶媒(D)を含む前記(1)〜(3)のいずれかに記載の光触媒組成物。
(5)光触媒粒子(A)、樹脂前駆体(E)及びフラーレン類(C)を含む光触媒組成物。
(6)さらに溶媒(D)を含む前記(5)記載の光触媒組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光触媒組成物は、光触媒粒子(A)や樹脂(B)に特殊なものを用いずとも、フラーレン類(C)の作用により、光照射下での樹脂(B)の分解・劣化が抑止され、かつ光分解性能に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の第1の光触媒組成物は、少なくとも、光触媒粒子(A)、樹脂(B)及びフラーレン類(C)を含む光触媒組成物である。
【0012】
本発明の第1の光触媒組成物を構成する光触媒粒子(A)としては、あらゆる公知のものが使用できるが、代表的なものは酸化チタンである。酸化チタンは、チタンの一部が別の金属元素で置換されていてもよく、また酸素の一部が窒素などの陰性元素で置換されていてもよい。また、酸化チタン以外の酸化タングステンや酸化亜鉛などであってもよい。光触媒粒子は単一成分からなるものでも、複数成分の混合物であってもよい。光触媒粒子は、分散性改良のためにカップリング剤などで処理されたものを用いてもよい。
【0013】
光触媒粒子(A)は平均粒径が30nm〜100μmであることが好ましく、平均粒径が30nm〜1μmであればさらに好ましい。
【0014】
本発明の第1の光触媒組成物を構成する樹脂(B)は、室温で液体ではない有機高分子を意味する。樹脂(B)は、結晶性であっても、ガラス状であっても、ゴム状であってもよい。また、非架橋高分子であっても、架橋高分子であってもよい。樹脂(B)は単一からなるものであっても、複数種の混合物であってもよい。
【0015】
樹脂の化学構造は特に限定されず、あらゆる公知の樹脂が使用可能であり、具体例としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリアセタール、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ビニルエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などを例示することができる。
【0016】
樹脂(B)は、熱、光、電離放射線、水分、酸素などの作用により架橋する性質を有してもよい。
【0017】
本発明の第1の光触媒組成物における、光触媒粒子(A)の重量分率をWA、樹脂(B)の重量分率をWBとすると、WA/(WA+WB)は0.05〜0.9であることが好ましい。
【0018】
本発明の第1の光触媒組成物を構成するフラーレン類(C)とはフラーレン又はフラーレン誘導体より選ばれる1種、あるいは複数種の混合物である。ここでフラーレンとは、炭素原子どうしがネットワーク状に結合して構成されれ、化学式Cnで表される球状分子又はチューブ状分子である。フラーレンはnが60、70、76、78、82、84などのものが知られているが、ここに例示されたものに限定されない。
【0019】
フラーレン誘導体には、球状骨格の内部にイットリウム、ヘリウムなどの原子や水素などの分子が内包された誘導体、球状骨格の外部に水素、酸素、フッ素、塩素、臭素などの原子や水酸基、アルキル基、アルキレン基、アルコキシ基、アリール基、アルキニル基、置換イミノ基、置換アミノ基、置換シリル基などの原子団が付加した誘導体、シクロデキストリン、シクロトリベラトリレン、カリクスアレーン、ポルフィリン誘導体などとの超分子錯体が知られている。本発明に用いるフラーレン誘導体は、いずれであってもよい。特に球状骨格の外部に原子団が付加した誘導体や、超分子錯体には樹脂との相溶性や溶媒に対する溶解性に優れるものがあり、光触媒組成物の成分として有用である。フラーレンおよびフラーレン誘導体の合成法は数多く知られており、例えば、A.Hirsch、M.Brettreich著、「Fullerene Chemistry and Reactions」、WILEY−VCH、2005年のような成書に詳述されている。
【0020】
フラーレン類(C)の添加により、光照射下での樹脂(B)の分解・劣化が抑制される。その機構の詳細は不明であるが、フラーレン類はラジカルが付加しやすい性質を有し、ラジカル性の活性酸素種や、樹脂の分解・劣化過程で生じるラジカル種をフラーレン類が補足するため、分解・劣化が抑止されるものと推定される。
【0021】
かかるフラーレン類(C)の効果を発現させるためには、光触媒組成物における光触媒粒子(A)の重量分率をWA、樹脂(B)の重量分率をWB、フラーレン類(C)の重量分率をWCとしたとき、WC/(WA+WB)は0.0001〜0.1であることが好ましい。
【0022】
本発明の第1の光触媒組成物において、フラーレン類(C)は組成物中に分子分散してもよく、凝集体として微分散されていてもよい。
【0023】
本発明の第1の光触媒組成物は、上述した以外の任意の成分、例えば、染料、顔料、フィラー、強化繊維、可塑剤、離型剤などの公知の添加剤を含有することができる。
【0024】
本発明の第1の光触媒組成物の形態は特に限定されないが、好ましい形態として成形体、フィルム、シート、繊維、ペレット、粉体、コーティング膜などの形態を例示することができる。
【0025】
本発明の第1の光触媒組成物の製造方法は特に限定されない。
たとえば、光触媒粒子(A)、樹脂(B)、フラーレン類(C)を2軸押出機などの装置を用いて混練して製造することができる。
【0026】
本発明の第2の光触媒組成物は、少なくとも光触媒粒子(A)、樹脂(B)、フラーレン類(C)、溶媒(D)を含む光触媒組成物である。ここで、光触媒粒子(A)、樹脂(B)、フラーレン類(C)は本発明の第1の光触媒組成物で述べたものと同様である。
【0027】
本発明の第2の光触媒組成物における溶媒(D)とは、常温もしくは加熱により揮散させることが可能な液体を意味する。具体的には、水および有機溶媒が例示される。さらに有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラリンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸2−エトキシエチルなどのエステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド、アセトニトリルなどのニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジエチルグリコール、ジメチルエーテル、乳酸エチル、トリメチルベンゼンなどを例示することができる。溶媒は、単一成分からなるものでもよく、複数成分の混合物であってもよい。
【0028】
本発明の第2の光触媒組成物における、光触媒粒子(A)の重量分率をWA、樹脂(B)の重量分率をWB、フラーレン類(C)の重量分率をWC、溶媒(D)の重量分率をWDとすると、WA/(WA+WB)は0.05〜0.9であることが好ましい。また、WC/(WA+WB)は0.0001〜0.1であることが好ましい。WDは、0.4〜0.99であることが好ましい。
【0029】
本発明の第2の光触媒組成物において、樹脂(B)やフラーレン(C)は、溶媒(D)に溶解してもよく、溶解せずに微分散していてもよい。樹脂(B)やフラーレン(C)が複数成分からなる場合、一部の成分が溶解し、一部の成分が分散していてもよい。具体的には、溶媒(D)が水であり、樹脂(B)が水溶性樹脂と非水溶性樹脂からなり、光触媒組成物が非水溶性樹脂とフラーレン類が水溶性樹脂の水溶液中に微分散した構成をとる例を示すことができる。
【0030】
溶媒(D)が複数成分からなる場合、各成分が混和していてもよく、コロイド状の混合物であってもよい。具体的には、溶媒(D)が水と、水と混和しない有機溶剤の2種からなり、光触媒組成物が樹脂(B)を溶解し、フラーレン類(C)を分散させた有機溶媒の液滴が、水中に分散した構成をとる例を示すことができる。
【0031】
本発明の第2の光触媒組成物は上述した以外の任意の成分、例えば、染料、顔料、フィラー、強化繊維、可塑剤、分散剤、レべリング剤などの公知の添加剤を含有することができる。
【0032】
本発明の第2の光触媒組成物は、何らかの基体に塗布し、常温又は加熱下で溶媒(D)を揮散させることにより、本発明の第1の光触媒組成物からなるコーティング膜を得ることができる。
また、本発明の第2の光触媒組成物は、溶液製膜あるいは溶液紡糸の手法により、本発明の第1の光触媒組成物からなるフィルムや繊維を得るためにも使用できる。
【0033】
本発明の第3の光触媒組成物は少なくとも光触媒粒子(A)、樹脂前駆体(E)、フラーレン類(C)からなる光触媒組成物である。
【0034】
本発明の第3の光触媒組成物を構成する光触媒粒子(A)、フラーレン類(C)は本発明の第1の光触媒組成物で述べたものと同様である。
【0035】
樹脂前駆体(E)とは、熱、光、電離放射線、水分、酸素などの作用により反応し、本発明でいう樹脂となるような物質又は組成物であって、モノマー及び/又は反応性オリゴマーの他に、所望により硬化剤、開始剤、促進剤、触媒、増感剤等を含む。具体的には、エポキシ化合物と硬化剤からなる組成物(エポキシ樹脂の前駆体)、アクリルモノマーと開始剤からなる組成物(アクリル樹脂またはビニルエステル樹脂の前駆体)、レゾールと触媒からなる組成物(フェノール樹脂の前駆体)、イソシアネートとポリオールと触媒からなる組成物(ポリウレタンの前駆体)などを挙げることができる。樹脂前駆体(E)は液体であってもよく、固体であってもよい。
【0036】
本発明の第3の光触媒組成物における、光触媒粒子(A)の重量分率をWA、樹脂(E)の重量分率をWE、フラーレン類(C)の重量分率をWCとすると、WA/(WA+WE)は0.05〜0.9であることが好ましく、WC/(WA+WE)は0.0001〜0.1であることが好ましい。
【0037】
本発明の第3の光触媒組成物において、フラーレン類(C)は分子分散してもよく、凝集体として微分散されていてもよい。
【0038】
本発明の第3の光触媒組成物は、上述した以外の任意の成分、例えば、染料、顔料、フィラー、強化繊維、可塑剤、離型剤、重合禁止剤、脱水剤などの公知の添加剤を含有することができる。また、本発明の第3の光触媒組成物は、さら樹脂を含有してもよい。ここでいう樹脂は、本発明の第1の構成要素として挙げたものと同様なものが用いられる。本発明の第4の光触媒組成物が樹脂を含む場合、樹脂は、樹脂前駆体(E)に溶解していてもよく、微粒子の形態で分散されていてもよい。
【0039】
本発明の第3の光触媒組成物は、注型、トランスファー成型、コーティングなどの後、熱、光、電離放射線、水分、酸素などを作用させて樹脂前駆体(E)を重合させることにより本発明の第1の光触媒組成物を得ることができる。
【0040】
本発明の第4の光触媒組成物は少なくとも光触媒粒子(A)、樹脂前駆体(E)、フラーレン類(C)、溶媒(D)からなる光触媒組成物である。光触媒粒子(A)、フラーレン類(C)は本発明の第1の光触媒組成物で述べたものと同様であり、樹脂前駆体(E)は、本発明の第3の光触媒組成物で述べたものと同様であり、溶媒(D)は本発明の第2の光触媒組成物で述べたものと同様である。
【0041】
本発明の第4の光触媒組成物において、フラーレン類(C)は溶媒(D)に溶解していても、樹脂前駆体(E)に分子分散してもよく、凝集体として微分散していてもよい。本発明の第4の光触媒組成物において、樹脂前駆体(E)は溶媒(D)に溶解してもよく、微分散してもよい。
【0042】
本発明の第4の光触媒組成物における、光触媒粒子(A)の重量分率をWA、樹脂(E)の重量分率をWE、フラーレン類(C)の重量分率をWC、溶媒(D)の重量分率をWDとすると、WA/(WA+WE)は0.05〜0.9であることが好ましく、WC/(WA+WE)は0.0001〜0.1であることが好ましい。WDは、0.05〜0.99であることが好ましい。
【0043】
本発明の第4の光触媒組成物は、上述した以外の任意の成分、例えば、染料、顔料、フィラー、強化繊維、可塑剤、分散剤、レベリング剤、重合禁止剤、脱水剤などの添加剤を含有することができる。また、本発明の第3の光触媒組成物は、さら樹脂を含有してもよい。ここでいう樹脂は、本発明の第1の構成要素として挙げたものと同様なものが用いられる。本発明の第4の光触媒組成物が樹脂を含む場合、樹脂は、溶媒(D)に溶解していても、樹脂前駆体(E)に溶解していてもよく、微粒子の形態で分散されていてもよい。
【0044】
本発明の第4の光触媒組成物は、何らかの基体に塗布し、常温または加熱下で溶媒(D)を揮散させた後、熱、光、電離放射線、水分、酸素などを作用させて、本発明の第1の光触媒組成物からなるコーティング膜を得ることができる。
【0045】
本発明の光触媒組成物は光照射により悪臭物質、汚染物質、有害物質などを分解除去するために用いることができる。有害物質としては、ホルムアルデヒド、窒素酸化物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを挙げることができ、悪臭物質としては硫化水素、メチルメルカプタン、アンモニア、トリメチルアミンなどを挙げることができる。
【0046】
本発明の光触媒組成物の光分解性能の評価は、基本的には、被分解物質を光触媒組成物と接触させ、酸素存在下で、光触媒が動作可能な分光分布をもつ光を照射し、被分解物質の減少、酸素の消費、分解生成物(二酸化炭素など)の生成などを測定することで行われる。被分解性物質と光触媒組成物を接触させる方法には、被分解物質を直接塗布する方法、被分解物質を含む空気を接触させる方法、被分解物質を含む溶液を接触させる方法などがある。一例として、JIS R 1701−1 「ファインセラミックス 光触媒材料の空気浄化性能試験方法」に示された方法を挙げることができる。
【0047】
本発明の光触媒組成物の分解・劣化の評価は、酸素存在下で含有する光触媒(A)の動作に適したスペクトルを有する光を一定時間照射し、特性の変化を調べることで行う。分解・劣化の指標に用いられる特性としては、引張強度、引張伸度、引張弾性率、動的粘弾性、ビッカース硬度、デュロメータ硬度、鉛筆硬度、ガラス転移温度、重量、色度、可視紫外スペクトル、赤外スペクトルなどを挙げることができる。引張強度、引張伸度、引張弾性率、動的粘弾性は、本発明の光触媒組成物の形態がフィルムまたは繊維の場合特に有用であり、ビッカース硬度、デュロメータ硬度は本発明の光触媒組成物の形態が成形体の場合特に有用であり、鉛筆硬度は本発明の光触媒組成物の形態がコーティング膜の場合特に有用である。
【0048】
本発明の光触媒組成物からなる繊維を用いた繊維製品、あるいは本発明の光触媒組成物をコーティングした繊維製品は、タオル、ハンカチ、雑巾などの払拭材、下着、靴下などの肌着類、マスク、白衣、ナースキャップ、シーツなどの病院用繊維製品、パジャマ、おむつカバー、シーツ、布団カバー、便座カバーなどの介護用繊維製品、トレーニングウェア、サポーターなどのスポーツ用繊維製品、カーペット、カーテン、足拭きマット、椅子やソファの布地などの住宅用繊維製品、セーター、ワイシャツ、ブラウスなどの衣料用繊維製品に好適に用いられる。本発明の光触媒組成物からなる繊維を用いた紙、あるいは発明の光触媒組成物をコーティングした紙は、障子、壁紙などに好適に用いられる。
【0049】
本発明の光触媒組成物からなるフィルムは、ゴミ袋、食品包装袋、住宅、家具用化粧フィルムなどに好適に用いることができる。
【0050】
本発明の光触媒組成物の成形体、洗面台、バス、流し台、てすりなどの住宅用品の部材、テレビ、電話機、エアコン室内機、パソコン、コピー機、洗濯機、除湿器、電気ポット、掃除機、照明器具などの電子・電気製品の部材、ダッシュボード、ハンドル、レバーなどの自動車用内装部材に好適に用いることができる。また、あるいは発明の第1の光触媒組成物を基材上にコーティングした部材も同様の用途に好適に用いることができる。本発明の光触媒組成物をコーティングする基材としては、樹脂成形体、皮革、金属、木材、コンクリート、陶磁器、セラミックなどを挙げることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
A.光触媒溶液の作製
光触媒材料として酸化チタンを使用した。まず、酸化チタンとバインダー樹脂からなる水溶液を作製した。アクリル樹脂エマルジョン(以下「アクリル1」と略記、大日本インキ化学工業株式会社 ボンコートAN−205、固形分55重量%)を純水で10倍に希釈し、それと等量の酸化チタンゾル(石原産業株式会社製 STS−01 固形分30重量%)と混合した(これを溶液Aとする)。
【0053】
B.フラーレン類分散液の作製
フラーレン類としてC60を使用した。C60(フロンティアカーボン株式会社製 ナノムパープルN60−S)をトルエン(和光純薬工業株式会社製)に溶解し、C60の濃度が10−3mol/lとなるよう調製した(これを溶液Bとする)。一方、ポリビニルピロリドン(以下PVPと略、和光純薬工業株式会社製 ポリビニルピロリドンK30)1gをクロロホルム(和光純薬工業株式会社製)20ml中に溶解した(これを溶液Cとする)。溶液B10mlと溶液C20mlとを混合し、室温で攪拌した。先ほどのC60/トルエン溶液10mlを加えて室温で1時間攪拌した(これを溶液Dとする)。エバポレーターを用いて溶液Dの溶媒であるトルエン及びクロロホルムを取り出した後、残った固形分中に純水20mlを加えて、室温にて攪拌して濾過した。濾過後の溶液は茶色の水溶液となった(これを溶液Eとする)。なお、ポリビニルピロリドンを用いることでC60を水中に安定して分散できることは例えば、Y.Yamakoshi, T. Yagami, K. Fukuhara, S. Sueyoshi, N. Miyata, J. Chem. Soc., Chem. Commun., pp. 517, 1994、に示されている。
【0054】
C.光触媒組成物溶液の作製
溶液Aと溶液Eの混合比を変えて、溶液中に含まれる酸化チタン及びフラーレン類の含有量の異なる溶液を作製した。また、溶液AにPVPのみを溶解し、さらに適宜純水を加えて、酸化チタン、バインダポリマー及びPVPからなる溶液を作製した。
【0055】
D.塗膜の作製
Cで作製した、溶液をガラス基板(コーニング社製 7059)上にスピンコート法にて塗膜を形成した。スピンコート条件は、回転数500rpmで5秒間の後、1000〜2000rpmで30秒間とした。その後、130℃に設定したホットプレートで3分間加熱して乾燥させた。乾燥後の膜厚を段差計にて計測したところ、それぞれ約2μmであった。
【0056】
E.光照射による硬度劣化測定
Dで作製した塗膜に、メタルハライドランプ(波長402nm付近の光照度 11mW/cm)を光源として光照射を実施した。光照射によるサンプル硬度変化をJIS K-5400鉛筆硬度試験法により測定した。
【0057】
F.光照射による物質分解特性の評価
Dで作製した塗膜による物質の分解性能を評価するため、ホルムアルデヒドの分解性能を評価することとした。分析手段としては、JIS R 1701-1 「ファインセラミックス 光触媒材料の空気浄化性能試験方法」に示された方法を用いた。この際に使用した光源は紫外線領域で発光スペクトルを有する蛍光灯(日本電気株式会社製 ブラックライト FL40SBL)であった。投入ガスは、酸素窒素混合ガス(窒素70vol%、酸素30vol%)とホルムアルデヒドガスの混合ガスとし、湿度50%でホルムアルデヒド濃度20ppmとした。これを、3.0l/分の流速で流し、光照射を行った。照射後のガスを、ガスクロマトグラフ(島津製作所製 GC-8APF)を用いて測定した。
【0058】
(実施例1)
溶液Aのみを使用し、表1に示す固形分量比からなる溶液を作製し、Dに示す方法で塗膜を作製した。
【0059】
【表1】

【0060】
(実施例2:本発明の組成物)
溶液Aと溶液Eを適宜混合し、表2に示す固形分量比からなる溶液を作製し、Dに示す方法で塗膜を作製した。
【0061】
【表2】

【0062】
(実施例3:本発明の組成物)
溶液Aと溶液Eを適宜混合し、表3に示す固形分量比からなる溶液を作製し、Dに示す方法で塗膜を作製した。
【0063】
【表3】

【0064】
(実施例4)
溶液AにPVPを加え、アクリル1、酸化チタン、PVPからなる溶液を作製した。量比は表4に示すとおりとした。
【0065】
【表4】

【0066】
(実施例5)
溶液AにPVPを加え、アクリル1、酸化チタン、PVPからなる溶液を作製した。量比は表5に示すとおりとした。
【0067】
【表5】

【0068】
(実施例6)
実施例1〜5で作製した溶液について、Dで示した方法により塗膜を作製し、さらにEで示した方法で、鉛筆硬度測定・評価を行った。光照射時間の経過に応じて鉛筆硬度は変化し、表6に示すような結果を得た。
【0069】
【表6】

【0070】
表6の結果から、実施例1での鉛筆硬度の経時変化と比較して、実施例2ではその変化が少なく、実施例3ではまったく変化が見られていないことがわかる。さらに実施例4、実施例5では、実施例1とほぼ同じように鉛筆硬度が時間経過と共に低下していくことがわかる。このことから、酸化チタンとアクリル1の混合体に、フラーレンを添加することによって鉛筆硬度の劣化が抑制されることが、実施例1と実施例2及び実施例3の結果の比較から言える。また、フラーレンの添加に伴い分散剤として使用しているPVPを添加しているが、PVPのみの添加では、鉛筆硬度の変化を抑制できないことが、実施例1と実施例4、実施例5との比較から言える。
【0071】
(実施例7)
Fで示した方法により光照射によるホルムアルデヒド分解特性の評価を行った。対象とする塗膜は、実施例1、実施例2、及び実施例3で得た溶液を使用したものである。測定結果を表7に示す。
【0072】
【表7】

【0073】
上記から、ホルムアルデヒドの濃度は実施例1、実施例2、実施例3ともに同程度に低減できていることがわかった。実施例6及び実施例7の結果を組み合わせると、フラーレンの添加は光によるホルムアルデヒド分解性能を損なうことなく、塗膜の硬度を維持していることがわかる。
【0074】
(実施例8)
次に、フラーレン類(C)としてフラーレン誘導体を用いた。フラーレン誘導体は、文献(Chemsitry Letters 33(12)、2004、1604−1605)に示される合成法によって得た。反応式を化学式1に示す。
【0075】
【化1】

【0076】
上記反応式で得られたフラーレン誘導体を以下「誘導体1」とする。これに対して、光触媒材料として酸化チタン分散液(テイカ社製 TKD−701)を使用し、さらに、化学式2に示すアクリルポリマー(分子量 約129,000、 以下「アクリル2」と略記)を添加して有機溶媒ジグライム中で混合分散した。なお、化学式2中、l、m、nの比は、式1に示すとおりである。
【0077】
【化2】

【0078】
上記に示す酸化チタン、アクリル2、フラーレン誘導体からなる溶液を作製した。成分比を表8に示す通りとした。溶液は総固形分を20重量%とした。
【0079】
【表8】

【0080】
(実施例9)
実施例8と同じアクリル2及び酸化チタン分散液を用い、フラーレンを含まない溶液を作製した。成分比を表9に示すとおりとした。溶液中の総固形分は20重量%とした。
【0081】
【表9】

【0082】
(実施例10)
実施例8及び実施例9で作製した溶液を5×5cm角のシリコン基板上にスピンコーターを用いて、塗膜した。スピンコートは、室温下、標準的な条件として回転数500rpmで5秒間回転後、2000rpmで30秒程度実施した。その後、温風乾燥器を用いて温度150℃で10分間乾燥させ薄膜を形成させた。膜厚が約1μmになるように固形分濃度及び回転条件を適宜調整した。
【0083】
次に、作製したサンプルに光照射を行った。光源は高安定キセノンランプ(浜松ホトニクス株式会社製 150W)を用い、光照射強度は波長365nm付近で20mW/cm程度とした。照射時間を変化させ、塗膜の構造変化を赤外分光法により測定した。赤外分光測定にはサーモエレクトロン社製 Thermo Nicolet 4700フーリエ変換赤外分光装置を用いた。測定条件は、室温、窒素ガス雰囲気下で透過法とした。
【0084】
実施例8、実施例9のいずれの溶液で作製した塗膜についても1730cm−1付近にアクリル2中に含まれるカルボニル基に由来する吸収線が見られた。この吸収線の積分値の変化を、光照射時間変化に応じて測定した。その結果を表10に示す。
【0085】
【表10】

【0086】
表10に示す結果から、本発明の組成物であるフラーレン誘導体を加えた実施例8ではカルボニル基の消失が実施例9に比べて抑制されることがわかった。
【0087】
(実施例11)
実施例8と同じアクリル2、誘導体1及び酸化チタン分散液を用い、混合溶液を作製した。成分比を表11に示すとおりとした。溶液中の総固形分は20重量%とした。
【0088】
【表11】

【0089】
(実施例12)
実施例8と同じアクリル2、誘導体1及び酸化チタン分散液を用い、混合溶液を作製した。成分比を表12に示すとおりとした。溶液中の総固形分は20重量%とした。
【0090】
【表12】

【0091】
(実施例13)
実施例8と同じアクリル2、誘導体1及び酸化チタン分散液を用い、混合溶液を作製した。成分比を表13に示すとおりとした。溶液中の総固形分は20重量%とした。
【0092】
【表13】

【0093】
(実施例14)
実施例9、実施例11、実施例12、及び実施例13で作製した溶液を5×5cm角のガラス基板上にスピンコーターを用いて、塗膜化した。スピンコートは、室温下、標準的な条件として回転数500rpmで5秒間回転後、1500rpmで30秒程度で実施した。 その後、温風乾燥器を用いて温度150℃で10分間乾燥させ薄膜化した。膜厚が約2μmになるように固形分濃度及び回転条件を適宜調整した。
【0094】
次に、作製したサンプルに空気雰囲気下で光照射を行った。光源は高安定キセノンランプ(浜松ホトニクス株式会社製 150W)を用い、光照射強度は波長365nm付近で5mW/cm程度とした。照射時間はすべて8時間とした。光照射を終えたサンプルについて、基板上から塗膜を剥ぎ取ってプラチナ皿に移し、熱重量測定装置(ティー・エイ・インスツルメント2950)を用いて窒素雰囲気下で毎分10℃で室温から800℃まで加熱しながらサンプル重量変化率を測定した。アクリル2は、加熱後400℃付近でガス化し、残りの成分量は光照射後に残存しているサンプル中の有機成分残存量を測定した。加熱前のそれぞれのサンプルの重量を基準とし、800℃まで加熱した後の残存重量を測定し、重量減少率を測定することで、光照射後にサンプル中に保持されているポリマー成分などの主要有機成分の量を見積もることができる。結果を表14に示す。
【0095】
【表14】

【0096】
表14に示す結果から、誘導体1を用いることによって、光照射によってアクリル2等の有機成分量などの減少が抑制されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒粒子(A)、樹脂(B)及びフラーレン類(C)を含む光触媒組成物。
【請求項2】
光触媒粒子(A)が酸化チタンである請求項1記載の光触媒組成物。
【請求項3】
光触媒組成物中の光触媒粒子(A)の重量分率をWA、樹脂(B)の重量分率をWB、フラーレン類(C)の重量分率をWCとしたとき、WC/(WA+WB)が0.0001〜0.1である請求項1記載の光触媒組成物。
【請求項4】
さらに溶媒(D)を含む請求項1〜3のいずれか1項記載の光触媒組成物。
【請求項5】
光触媒粒子(A)、樹脂前駆体(E)及びフラーレン類(C)を含む光触媒組成物。
【請求項6】
さらに溶媒(D)を含む請求項5記載の光触媒組成物。

【公開番号】特開2007−117917(P2007−117917A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315055(P2005−315055)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】