説明

光触媒能を有する繊維、及びこの繊維を用いた布帛、並びに、この布帛を用いた布製品

【課題】有害成分の分解除去能に優れ、低コストで量産可能であり、耐久性に優れた光触媒能を有する繊維、及び該繊維を用いた布帛、並びに、該布帛を用いた布製品の提供。
【解決手段】光触媒を付着させてなることを特徴とする光触媒能を有する繊維である。該繊維は、光触媒を少なくとも含む溶液に浸漬し、縒ることにより、光触媒を付着させた糸を形成する態様、縒った後、光触媒を少なくとも含む溶液に浸漬することにより、光触媒を付着させた糸を形成する態様、光触媒が、光触媒アパタイトである態様等が好ましい。また、該光触媒能を有する繊維を用いた布帛、及び該布帛を用いた布製品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害物質や病原体等の有害成分の分解除去能に優れたマスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類などの衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などの形成に好適な光触媒能を有する繊維、及びこの繊維を用いた優れた光触媒能を有する布帛、並びに、該布帛を用いた優れた光触媒能を長期に持続可能な布製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、家庭等での建材や壁紙に使用される接着剤などから発生するホルムアルデヒドなどの有害物質が原因となる、シックハウス症候群が問題となっている。このような有害物質を除去等する方法として、例えば、活性炭や化学吸着剤を前記建材や壁紙に含有させる方法が提案されている。
しかし、前記活性炭や化学吸着剤では、ホルムアルデヒド等の有害物質をある程度吸着することが可能であるが、長期の使用により有害物質に対する吸着能が徐々に低下乃至消失してしまうという問題がある。
一方、風邪、インフルエンザ、SARS等の感染症予防や、花粉、ハウスダスト等にる花粉症対策などのため、マスクの着用が有効な手段として注目されている。該マスクは、ガーゼや不織布などが有するフィルター機能を有し、更に活性炭繊維などを併用することにより、その吸着能によりウィルスや花粉等が体内に侵入するのを防いでいる。
しかし、この場合、細菌、ウィルス、花粉等の病原体を物理的に捕らえることはできるが、これらを死滅させたり不活性化することはできず、感染等を完全に予防することは困難である。
【0003】
これらの問題を解決するため、最近では、酸化分解作用、抗菌作用、防汚作用等を発揮する、酸化チタン(TiO)等の一部の半導体物質の有する光触媒活性(以下、光触媒能と称することがある)が注目されている。光触媒活性を有する前記半導体物質においては、一般に、その価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップに相当するエネルギーを有する光を吸収すると、前記価電子帯に存在していた電子が前記伝導帯へと遷移する。前記伝導帯へと遷移した電子は、前記光触媒活性を有する半導体物質の表面に吸着している物質に移動する性質があり、該半導体物質の表面に物質が吸着されている場合には、該物質は前記電子により還元される。一方、前記価電子体に存在していた電子が前記伝導体に遷移すると、前記価電子帯には正孔が生ずる。そして、該価電子帯に生じた正孔は、前記光触媒活性を有する半導体物質の表面に吸着している物質から電子を奪い取る性質があり、該半導体物質の表面に物質が吸着されている場合には、該物質は前記正孔に電子を奪い取られて酸化される。以上の現象を具体的に説明すると、例えば、特に優れた光触媒活性を有する酸化チタンについてみれば、その価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップに相当するエネルギーを有する光を酸化チタンが吸収すると、該酸化チタンにおける前記価電子帯に存在していた電子が前記伝導帯へと遷移し、遷移した該電子は、空気中の酸素を還元してスーパーオキシドアニオン(・O)を生成させる一方、前記電子の遷移の結果、前記価電子帯には正孔が生じ、生じた該正孔は、前記酸化チタン表面に吸着している水を酸化してヒドロキシラジカル(・OH)を生成させる。このとき、該ヒドロキシラジカルは、非常に強い酸化力を有しているため、前記酸化チタンの表面に有機物等が吸着している場合には、該有機物等は前記ヒドロキシラジカルの作用によって分解され、最終的には水と二酸化炭素とにまで分解される。以上のように、酸化チタン等の、前記光触媒活性を有する半導体物質に対し、該半導体物質の価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップに相当するエネルギーを有する光が照射されると、該半導体物質が該光を吸収して、その表面に吸着されている有機物等を分解する結果、酸化分解作用、抗菌作用、防汚作用等が発現されるのである。
【0004】
前記酸化チタンは物質に対する吸着能に乏しいため、前記活性炭などの吸着剤と併用されることが多く、該吸着剤で吸着した物質を前記酸化チタンで分解することで、前記酸化分解作用、抗菌作用、防汚作用等を発現している。前記酸化チタンや吸着剤は、バインダや接着剤を用いて、マスク等の対象物(基材)に付着させて用いられている。
しかし、前記吸着剤の粒子より小さなウィルス等では、吸着剤に吸着されると、酸化チタンと接触しにくく、吸着剤が吸着した全ての物質を分解除去することは困難である。また、前述のように酸化チタンは有機物を分解するため,バインダや接着剤には有機物を用いることができず、無機性のバインダ等の特殊なものを使用する必要がある。また、有機性のバインダ等を用いる場合は、光触媒の表面をシリカなどで被覆し、バインダや接着剤と直接接触しないようにする必要がある。また、前記バインダや接着剤を使用した場合はいずれも、光触媒がこれらの内部に埋没し、この埋没した部分は光触媒能を発揮しないため、光触媒能に劣るとともに、高価な光触媒の無駄を生じて不経済となることがある。また、バインダや接着剤によりマスクの風合いを損ねるなどの問題もある。
また、前記バインダ等を使用せずに、前記マスク等の基材を光触媒溶液に浸漬して、基材に光触媒を含浸させる方法、基材に光触媒溶液を噴霧して付着させる方法なども行われている。
しかし、この場合、基材表面と酸化チタンとの結合性に乏しく、洗濯等で酸化チタンの殆どが基材から脱落してしまい、光触媒能が著しく低下する問題がある。また、酸化チタンの光触媒反応により、マスク等の繊維が分解されて、強度が低下するなどの問題がある。
【0005】
一方、光触媒として、光触媒能と物質の吸着能の双方を備える光触媒アパタイトが開発されている。該光触媒アパタイトは、自身の優れた吸着性により酸化チタンのように吸着剤を併用する必要がない。また、繊維の分解などを生じることがないため、バインダや接着剤の種類を選ばず、表面をシリカ等で被覆する必要もない。
前記光触媒アパタイトの基材への付着方法としては、前記酸化チタンと同様に、マスク等の基材を光触媒溶液に浸漬して付着させる方法(例えば、特許文献1参照)、バインダや接着剤を用いて光触媒アパタイトを基材に付着させる方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。前記特許文献2では、更に、前記光触媒アパタイトを付着させた基材の表面に保護層を設けて、基材からの光触媒アパタイトの脱落を防止する方法も開示されている。
しかし、この場合も、基材への付着にバインダや接着剤を用いた場合は、これらに埋没して、光触媒能が低下し、不経済である。また、バインダ等を用いた場合も、浸漬により付着させた場合も、光触媒アパタイトが基材表面に付着しているだけなので、洗濯等により脱落し易い問題は残っている。
【0006】
したがって、基材の強度や風合い等を損なうことがなく耐久性に優れ、低コストで量産可能であり、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害物質や病原体等の有害成分に対する分解除去能に優れ、該優れた光触媒能を、長期に持続可能なマスク等の製品に対する優れた提案はいまだ提供されていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2005−177320号公報
【特許文献2】特開2005−124777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害物質や病原体等の有害成分の分解除去能に優れ、低コストで量産可能であり、耐久性に優れ、マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタなどの形成に好適な光触媒能を有する繊維、及び該繊維を用いることにより、光触媒能に優れ、低コストで量産可能であり、耐久性に優れ、マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などの形成に好適な布帛、並びに、該布帛を用いることにより、優れた光触媒能を長期に持続可能なマスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などの布製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。即ち、光触媒として、光触媒アパタイトを用いることにより、繊維などに直接付着させても、該繊維を劣化させることなく、優れた光触媒能が得られるという知見である。また、基材の表面に光触媒を付着させるのではなく、マスク等を形成するための布帛を形成する繊維に光触媒を付着させ、該繊維を用いて布帛を形成することにより、繊維の網目や交差部に物理的に光触媒を固定することができ、バインダ等を用いなくても、布帛と光触媒との強固な結合性が得られるという知見である。
【0010】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、後述する付記に列挙した通りである。即ち、
本発明の光触媒能を有する繊維は、光触媒を付着させてなることを特徴とする。
該繊維においては、光触媒を付着させているので、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害成分(分解対象物)が、該光触媒により分解除去される。該光触媒は、バインタや接着剤等を使用せずに付着させることにより、該バインダ等に光触媒が埋没することがなく、光触媒の表面が外部に露出して、光触媒能を充分に発揮することができる。また、光触媒能に優れる前記繊維を低コストで量産でき、繊維の強度や風合い等が損なわれることがなく、耐久性に優れた繊維が得られる。そのため、本発明の布帛、及び該布帛を用いた本発明の布製品に、好適に用いられる。
【0011】
本発明の布帛は、本発明の前記光触媒能を有する繊維を用いて形成されることを特徴とする。
本発明の前記布帛においては、本発明の前記光触媒能を有する繊維を用いて形成されているので、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害成分が、布帛に付着した光触媒により分解除去される。
従来は、光触媒をバインタや接着剤等を使用してマスク等に付着させていたので、光触媒がバインダ等に埋没することから、有害成分との接触性に劣り、光触媒能を充分に発揮できなかった。また、バインダ等により、マスク等の風合い等が損なわれていた。更に、バインダ等を使用せずに、該マスク等を光触媒溶液に浸漬したり、光触媒溶液を噴射することにより光触媒を付着させる場合には、光触媒とマスク等との結合性に劣り、マスク等の表面にのみ光触媒が付着するだけで、洗濯等で光触媒の殆どが脱落して光触媒能が著しく低下する問題があった。また、光触媒として酸化チタンを用いた場合は、マスク等に直接付着させた場合、光触媒反応で繊維が分解されて強度が低下するなどの問題があった。
本発明の布帛では、光触媒を予め付着させた繊維を用いて形成しているので、該繊維が互いに交差したり、絡み合うことで、光触媒が繊維の網目や交差部に保持され、布帛と光触媒との結合性が高められる。また、布帛表面だけでなく、布帛内部にまで多くの光触媒を付着させることができる。更に、優れた結合性により、バインタや接着剤等を使用せずに付着させることができ、有害成分との接触面積が増大し、布帛の強度や風合い等が損なわれることがない。また、光触媒アパタイトを用いることで、繊維の劣化を良好に防止できる。その結果、優れた光触媒能を発揮可能な布帛を、低コストで量産できる。また、洗濯等でも光触媒が容易に脱落することがなく、耐久性に優れ、前記優れた光触媒能を長期に発揮させることが可能な布帛が得られる。そのため、本発明の布製品に、好適に用いられる。
【0012】
本発明の布製品は、本発明の前記布帛を用いて形成されることを特徴とする。
本発明の前記布製品においては、本発明の前記布帛を用いて形成されているので、低コストで量産でき、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害成分が、布製品に付着した光触媒により分解除去される。また、洗濯等でも光触媒が容易に脱落することがなく、布製品の強度や風合い等も損なわれることもなく、耐久性に優れ、前記優れた光触媒能を長期に発揮できる。そのため、本発明の布製品は、防護マスク、防塵マスク、防臭マスク、スポーツ用マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などに好適に用いられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来における前記問題を解決することができ、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害物質や病原体等の有害成分の分解除去能に優れ、低コストで量産可能であり、耐久性に優れた光触媒能を有する繊維、及び該繊維を用いることにより、光触媒能に優れ、低コストで量産可能であり、耐久性に優れた布帛、並びに、該布帛を用いることにより、優れた光触媒能を長期に持続可能な、マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などの布製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(光触媒能を有する繊維)
本発明の光触媒能を有する繊維は、光触媒を付着させてなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の成分を付着させてなる。
−繊維−
前記繊維の素材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、綿、麻、絹、毛、パルプ、合成繊維、再生繊維、などが挙げられ、これらの中でも、綿が、より好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記繊維の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、綿、毛、パルプなどの短繊維であってもよいし、絹、合成樹脂などの長繊維であってもよい。また、前記短繊維を縒って(紡績)形成した糸であってもよいし、前記長繊維を縒って形成した糸であってもよい。
【0015】
前記繊維への光触媒の付着方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、光触媒を水などの溶媒中に分散させて光触媒溶液を形成し、該光触媒溶液中に、前記繊維を浸漬し、乾燥させることにより付着させる方法、静電気等で付着させる方法、などが挙げられる。
前記繊維への光触媒の付着方法としては、更に、前記のような光触媒溶液に、前記短繊維、長繊維等の繊維を浸漬し、乾燥させた後、該繊維を縒ることにより、光触媒を付着させた糸を形成する方法、前記繊維を予め縒った後、前記光触媒溶液に浸漬し、乾燥させることにより、光触媒を付着させた糸を形成する方法、などが好ましく挙げられる。
このように、縒り(紡績)をかけることにより、糸の縒り目や繊維の網目に、前記光触媒を物理的に固定することができ、繊維と光触媒との結合性が向上する。
特に、光触媒として、光触媒アパタイトを使用することにより、繊維に直接付着させても、該繊維の劣化が防止され、優れた耐久性を得ることができる。
【0016】
−光触媒−
前記光触媒は、その形態としては、特に制限はなく、その形状、構造、大きさ、比重等については適宜選択することができるが、前記形状としては、例えば、粒子状(粒状)、粉状、多孔質固形状、などが好適に挙げられる。これらの中でも、前記繊維との付着性が良好な点で、粉状であるのが特に好ましい。
前記光触媒の大きさとしては、特に制限はなく、前記繊維の太さ、長さ等に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記光触媒が前記粉状乃至粒子状(粒状)である場合には、該光触媒の平均粒径としては、3〜8μmであるのが好ましい。
【0017】
前記光触媒の構造としては、例えば、単層構造、積層構造、多孔質構造、コア・シェル構造、などが挙げられる。
前記光触媒の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記光触媒の比重としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、小さいほど好ましい。
前記光触媒が前記粉状である場合、該光触媒の粒度分布としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記粒度分布がシャープである(狭くなる)程、前記光触媒を前記繊維に、均一に分散させることができる。
なお、前記光触媒の同定及び形態等の観察は、例えば、TEM、XRD、XPS、FT−IR等に行うことができる。
【0018】
前記光触媒の光触媒活性の発現に必要な光の波長としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、紫外光乃至可視光等の広帯域の光に対して吸収性を示し、光触媒活性を発現可能であるのが好ましい。
【0019】
前記光触媒の前記繊維に対する付着量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記光触媒の付着量が多くなるほど、前記有害成分(分解対象物)の分解除去能に優れるが、前記繊維との結合性が低下するため、成形可能な程度に添加量を多くするのが好ましく、例えば、繊維100質量部に対して、0.001〜50質量部が好ましく、0.01〜30質量部がより好ましい。
【0020】
前記光触媒の具体的な材質乃至組成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、光触媒活性(光触媒能)を有するアパタイトなどが特に好適に挙げられる。該光触媒が、光触媒活性を有するアパタイトであると、該アパタイトの優れた吸着特性により、気体、水等に含まれる前記有害成分に対する吸着特性に優れる点で有利であり、また、その光触媒活性(光触媒能)により、吸着した前記有害成分を効率的に光触媒活性により分解除去可能である点で有利である。
これらの光触媒の中でも、光触媒活性を有するアパタイトと、可視光吸収性金属原子とを少なくとも含んでなるものが好ましく、更に紫外光吸収性金属原子を含んでなるものがより好ましい。前記光触媒が、前記可視光吸収性金属原子を含んでなる場合には、蛍光灯下の日常使用条件下での使用に好適な点で有利であり、前記紫外光吸収性金属原子を更に含んでいると、太陽光等の紫外光を含む光の照射条件下での使用に好適な点で有利である。
なお、本発明においては、前記光触媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記可視光吸収性金属原子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、波長400nm以上の光に対し、吸収特性を有するもの、などが好適に挙げられ、具体的には、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)から選択される少なくとも1種などがより好ましい。
【0021】
前記光触媒活性(光触媒能)を有するアパタイトとしては、光触媒活性を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アパタイトが、光触媒活性を有するのに必要な金属原子(以下、「光触媒活性を発現可能な金属原子」と称することがある。)を有してなるものなどが好適に挙げられる。前記アパタイトが該光触媒活性を有するのに必要な金属原子を有すると、該アパタイトの表面に吸着している前記有害成分(分解対象物)から電子を奪い取ることができ、該有害成分を酸化し、分解させることができる。
【0022】
前記アパタイトとしては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、下記一般式(1)で表されるもの、などが好適に挙げられる。
【0023】
【化1】

【0024】
前記一般式(1)において、Aは、金属原子を表し、該金属原子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、ユウロピウム(Eu)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、などが挙げられる。これらの中でも、吸着性に優れる点で、カルシウム(Ca)が特に好ましい。
Bは、リン原子(P)及び硫黄原子(S)のいずれかを表し、これらの中でも、生体親和性に優れる点で、リン原子(P)が好ましい。
Oは、酸素原子を表す。
Xは、水酸基(OH)、CO、及びハロゲン原子のいずれかを表し、これらの中でも、前記Aの金属原子と共に金属酸化物型の光触媒性部分構造を形成可能な点で、水酸基(OH)が特に好ましい。なお、前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、などが挙げられる。
m、n、z、及びsは、整数を表し、例えば、電荷バランスが良好な点で、mは8〜10が好ましく、nは3〜4が好ましく、zは5〜7が好ましく、sは1〜4が好ましい。
【0025】
前記一般式(1)で表されるアパタイトとしては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト若しくはクロロアパタイト、又は、これらの金属塩、リン酸三カルシウム若しくはリン酸水素カルシウム、などが挙げられる。これらの中でも、上記一般式(1)における、Xが水酸基(OH)であるハイドロキシアパタイトが好ましく、上記一般式(1)における、Aがカルシウム(Ca)であり、Bがリン原子(P)であり、かつXが水酸基(OH)であるカルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP)、即ち、Ca10(PO)(OH)が特に好ましい。
【0026】
前記カルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP)は、カチオンに対してもアニオンに対してもイオン交換し易いため、各種の有害成分(分解対象物)に対する吸着特性に優れ、特にタンパク質等の有機物に対する吸着特性に優れており、加えて、ウイルス、カビ、細菌等の微生物等に対する吸着特性にも優れ、これらの増殖を阻止乃至抑制し得る点で好ましい。
【0027】
なお、前記分解対象物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、その成分としては、タンパク質、アミノ酸、脂質、糖質、などが挙げられる。該分解対象物は、これらを1種単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。該分解対象物の具体例としては、一般に、人間の皮膚に由来する汚れ成分、ゴミ、埃、汚泥、不要成分、廃液成分、土壌中乃至空気中の有害物質、微生物、ウイルス、などの病原体、などが挙げられる。なお、前記有害物質としては、例えば、タール成分、アセトアルデヒドガス(壁紙等から放出されるホルムアルデヒド、タバコ等の煙中に含まれるアセトアルデヒドなど)、フェノール成分(煙等に含まれるフェノール)などが挙げられる。
前記微生物としては、特に制限はなく、原核生物及び真核生物のいずれであってもよいし、原生動物も含まれ、前記原核生物としては、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌等の細菌などが挙げられ、前記真核生物としては、例えば、酵母菌類、カビ、放線菌等の糸状菌類などが挙げられる。また、スギ、ヒノキ、ブタクサ、その他の花粉なども挙げられる。
前記ウイルスとしては、例えば、DNAウイルス、RNAウイルスなどが挙げられ、具体的には、インフルエンザウイルス、SARSウイルス、などが挙げられる。
これらの分解対象物は、前記気体中、土壌中、及び水中等に、1種単独で含まれていることもあれば、2種以上が同時に含まれていることもある。
これらの分解対象物は、固体状、液体状、及び気体状のいずれの態様で存在していてもよい。前記液体状の場合には、前記分解対象物としては、例えば、廃液、栄養液、循環液、などが挙げられる。また、前記気体状の場合には、前記分解対象物としては、例えば、空気、排ガス、循環ガス、などが挙げられる。
【0028】
前記アパタイトの前記光触媒における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、85〜97mol%であるのが好ましく、85〜90mol%であるのがより好ましい。
前記アパタイトの含有量が、85mol%未満であると、前記光触媒の光触媒活性が十分でないことがあり、97mol%を超えても、それに見合う効果が得られず、また、該光触媒の前記有害成分(分解対象物)に対する吸着特性や光触媒活性等が低下することがある。
なお、前記アパタイトの前記光触媒における含有量は、例えば、ICP−AESによる定量分析を行うことにより測定することができる。
【0029】
前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子としては、光触媒中心として機能し得る限り特に制限はなく、光触媒活性を有するものとして公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、光触媒活性に優れる点で、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、インジウム(In)、鉄(Fe)、などから好適に選択される少なくとも1種が好適に挙げられる。これらの中でも、特に前記光触媒活性(光触媒能)に優れる点で、チタン(Ti)が好ましい。
【0030】
前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子の前記光触媒における含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記光触媒における全金属原子に対し、5〜15mol%であるのが好ましく、8〜12mol%であるのがより好ましい。
前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子の含有量が、5mol%未満であると、前記光触媒の光触媒活性が十分でないことがあり、15mol%を超えても、それに見合う効果が得られず、また、該光触媒の分解対象物に対する吸着特性や光触媒活性等が劣化することがある。
なお、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子の前記光触媒における含有量は、例えば、ICP−AESによる定量分析を行うことにより測定することができる。
【0031】
前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子が、前記アパタイトの結晶構造を構成する金属原子の一部として該アパタイトの結晶構造中に取り込まれる(置換等される)ことによって、該アパタイトの結晶構造内に、光触媒機能を発揮し得る「光触媒性部分構造」が形成される。
このような光触媒性部分構造を有する前記アパタイトは、光触媒活性を有し、また、アパタイト構造部分が吸着特性に優れ、光触媒活性を有する公知の金属酸化物よりも、前記有害成分(分解対象物)に対する吸着特性に優れるため、分解作用、抗菌作用、防汚作用、カビや細菌等の増殖阻止乃至抑制作用に優れる。
【0032】
前記光触媒の具体例としては、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子がチタン(Ti)であり、前記アパタイトがカルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP):Ca10(PO)(OH)であるものが好ましい。
このような光触媒は、空気、水等に含まれる前記有害成分(分解対象物)の吸着性能に優れる。
前記光触媒活性を有するアパタイトとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記光触媒活性を有するアパタイトの合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記アパタイト中に、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子をドープさせることにより行うことができる。
前記光触媒活性を有するアパタイトの市販品としては、例えば、前記カルシウム・チタンハイドロキシアパタイトでは、太平化学産業株式会社製の商品名「PHOTOHAP PCAP−100」などが好適に挙げられる。
【0033】
前記ドープの態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、置換、化学結合、吸着などが挙げられるが、これらの中でも、反応の制御が容易であり、ドープされた後で前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子が脱離等することがなく、これらを前記光触媒中で安定に保持させることができる点で、置換が好ましい。
前記置換の態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記アパタイトにおける金属原子の少なくとも一部を、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子により置換させる態様、前記金属原子の少なくとも一部を、前記可視光吸収性金属原子により置換させる態様、などが好適に挙げられる。これらの態様の場合には、前記光触媒活性を有するのに必要な原子が、前記アパタイトに脱落不能に保持される点で有利である。
【0034】
前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子による置換の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換、などが好適に挙げられる。該置換がイオン交換の場合には、置換効率に優れる点で有利である。
【0035】
前記ドープの具体的な方法、即ち前記アパタイト中への前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子のドープの具体的な方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子を含む化合物等を溶解させた(共存させた)水溶液中に、前記アパタイトを浸漬させることにより行う浸漬法、前記アパタイトの原料と、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子を含む化合物等を溶解させた(共存させた)水溶液中で、該原料と該光触媒活性を有するのに必要な金属原子を共沈させる共沈法、などが好適に挙げられる。
なお、前記水溶液は、静置しておいてもよいが、攪拌した方が前記置換が効率的に行われる点で好ましい。なお、該攪拌は、公知の装置、手段を用いて行うことができ、例えば、マグネティックスターラーを用いてもよいし、攪拌装置を用いてもよい。これらの方法の中でも、簡便に操作可能な点で、浸漬法がより好ましい。
【0036】
なお、前記浸漬法においては、上述のように、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子を溶解させた(共存させた)水溶液中に、前記アパタイトを浸漬させてもよいし、逆に、前記アパタイトを分散させた水溶液中に、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子を含む化合物を溶解させてもよい。
【0037】
前記ドープの際の前記水溶液中での前記アパタイトの濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、0.3〜1.0質量%が好ましく、0.4〜0.6質量%がより好ましい。
前記アパタイトの濃度が、0.3質量%未満であると、光触媒活性が低下することがあり、1.0質量%を超えても、それに見合う光触媒活性の向上効果が得られず、却って光触媒活性が低下することがある。
【0038】
前記ドープの際の前記水溶液中での前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1×10−4〜1×10−3Mが好ましく、1×10−4〜5×10−4Mがより好ましい。
前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子の濃度が、1×10−4M未満であると、光触媒活性が低下することがあり、1×10−3Mを超えても、それに見合う光触媒活性の向上効果が得られず、却って光触媒活性が低下することがある。
【0039】
前記ドープを行う反応系としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、液中、空気中、などで行うことができるが、液中で行うのが好ましい。
この場合、該液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、水乃至水を主体にした液が好ましい。
なお、該液を収容する容器としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、ラージスケールであれば混合器、攪拌器などが挙げられ、スモールスケールであればビーカーなどが好適に挙げられる。
【0040】
前記ドープの際の条件としては、特に制限はなく、温度、時間、圧力等については目的に応じて適宜選択することができる。
前記温度としては、特に制限はなく、材料の種類や量比等に応じて異なり、一概に規定することはできないが、例えば、通常、0℃〜100℃程度であり、室温(20℃〜30℃)が好ましい。前記時間としては、特に制限はなく、材料の種類や量比に応じて異なり、一概に規定することはできないが、通常、10秒〜30分間程度であり、1〜10分間がより好ましい。前記圧力としては、特に制限はなく、材料の種類や量比等に応じて異なり、一概に規定することはできないが、通常、大気圧であるが好ましい。
なお、前記光触媒における、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子の量は、添加量(M)、あるいは前記条件を適宜調整することにより、所望に制御することができる。
【0041】
前記焼成は、前記アパタイト中に、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子をドープさせた後、ドープが完了した該アパタイトを600〜800℃で焼成する工程である。
前記焼成の温度が、600℃未満であると、光触媒活性が最大とならないことがあり、800℃を超えると、分解が生ずることがある。
【0042】
前記焼成の条件、例えば、時間、雰囲気、圧力、装置等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記時間としては、前記ドープが完了したアパタイトの量等に応じて異なり、一概に規定することはできないが、例えば、1時間以上が好ましく、1〜2時間がより好ましい。前記雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、大気雰囲気などが挙げられるが、大気雰囲気が好ましい。前記圧力としては、例えば、大気圧などが挙げられる。前記装置としては、公知の焼成装置を使用することができる。
前記焼成を行うことにより、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子をドープした、前記アパタイトの結晶性を高めることができ、前記光触媒における光触媒能(吸着特性、光触媒活性などを含む)をより高めることができる。
【0043】
ここで、前記光触媒の製造方法の一例について説明する。前記ドープを前記置換で行う場合、具体的には前記置換をイオン交換により浸漬法で行う場合には、まず、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子としてのチタンを含む硫酸チタン水溶液を調製する。ビーカーに前記アパタイトとしてのカルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP)を秤量し、そこに前記硫酸チタン水溶液を添加する。この混合液をマグネティックスターラーで5分間攪拌した後、濾紙でアスピレータを使用して吸引濾過を行い、純水で洗浄し、100℃のオーブンで2時間乾燥することにより、前記チタンをドープさせたTiHAP粉体が得られる。その後、マッフル炉で650℃にて1時間の焼成(大気雰囲気)を行う。以上により、前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子としてのチタンをドープさせたTiHAP粉体(光触媒活性を有するのに必要な金属原子を有してなるアパタイト)からなる光触媒が製造される。
【0044】
−その他の成分−
前記繊維に付着させるその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、マスク、フィルタ、医療生地、衣料等の場合は、香料、抗菌剤、薬剤、などを付着させてもよい。
【0045】
本発明の繊維は、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害物質や病原体等の有害成分の分解除去能に優れ、低コストで量産可能であり、耐久性に優れているので、各種分野に好適に使用することができるが、例えば、マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などに特に好適に用いることができ、本発明の前記布帛、該布帛を用いた本発明の前記布製品に、特に好適に用いることができる。
【0046】
(布帛)
本発明の前記布帛は、本発明の前記光触媒能を有する繊維を用いて形成される。
前記布帛の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、織布であってもよいし、不織布であってもよいし、紙であってもよい。これらの中でも、光触媒との結合性に優れる観点から、織布が好ましい。
【0047】
−織布−
前記織布は、織り機などにより前記繊維で形成された糸を織った織物であってもよいし、編み機などにより前記糸を編んだ編み物であってもよい。
前記織布は、複数の糸が縦横に交差したり、絡まることで形成される網目や、糸の交差部に、光触媒が物理的に固定されるので、バインダ等が不要であり、光触媒が織布から容易に脱落することのない、強固な結合性が得られる。
【0048】
−不織布−
前記不織布は、前記繊維を編みや織りによらず、繊維を絡ませることにより布状に形成したものである。
前記不織布の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、湿式製法、乾式製法、が挙げられる。前記湿式製法としては、水流絡合法、などが挙げられ、乾式製法としては、スパンボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、などが挙げらる。
前記不織布においては、繊維が複雑に絡み合うことで形成される網目や接合部に、光触媒が固定されるので、光触媒が不織布から容易に脱落することのない、強固な結合性が得られる。
【0049】
−紙−
前記紙としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、和紙が特に好適に挙げられる。
前記紙の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、光触媒を含む溶液を、紙漉き用の液に入れ、和紙を漉くことにより、光触媒を和紙の繊維に付着させながら、該光触媒が付着した繊維で和紙を形成することができ、低コストで容易に容易な製造が可能となる。また、
この場合も、繊維が複雑に絡み合うことで形成される網目や接合部に、光触媒が固定されるので、光触媒が紙から容易に脱落することのない、強固な結合性が得られる。
【0050】
前記布帛としては、超音波洗浄機にて30分間洗浄した際の、洗浄前の光触媒付着量に対する、洗浄後の光触媒の残存率、即ち、〔洗浄後の付着量(g)/洗浄前の付着量(g)〕×100が、40〜100%であるのが好ましく、50〜100%であるのがより好ましい。
【0051】
本発明の前記布帛では、光触媒を予め付着させた繊維を用いて形成しているので、繊維が交差したり、絡み合うことで、光触媒が繊維間に固定され、布帛と光触媒との結合性を高めることができる。また、布帛表面だけでなく、布帛内部にまで多くの光触媒を付着させることができる。更に、優れた結合性により、バインタや接着剤等を使用せずに付着させることができ、有害成分との接触面積が増大し、かつ、布帛の強度や風合い等が損なわれることがないし、光触媒を用いることにより、繊維が分解されることもない。その結果、優れた光触媒能を発揮可能な布帛を、低コストで量産できる。また、洗濯等でも光触媒が容易に脱落することがなく、耐久性に優れ、前記優れた光触媒能を長期に発揮させることが可能な布帛が得られる。
本発明の布帛は、マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などの布製品に好適に用いることができ、本発明の前記布製品に、特に好適に用いられる。
【0052】
(布製品)
本発明の前記布製品は、本発明の前記布帛を用いて形成される。
前記布製品においては、本発明の前記布帛を用いて形成されているので、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害成分が、布帛に付着した光触媒により分解除去される。このように優れた光触媒能を発揮可能な布製品を、低コストで量産できる。また、洗濯等でも光触媒が容易に脱落することがなく、布製品の強度や風合い等も損なわれることがなく、耐久性に優れ、前記優れた光触媒能を長期に発揮させることが可能な布製品が得られる。
本発明の布製品は、防護マスク、防塵マスク、防臭マスク、スポーツ用マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などに好適に用いられる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
−ガーゼ(綿布地)の形成−
水中に光触媒アパタイト粉末(太平化学産業株式会社製のカルシウム・チタンハイドロキシアパタイト PHOTOHAP PCAP−100)を分散させて、光触媒溶液を調製した。
前記光触媒溶液中に、綿繊維を浸漬し、乾燥させることにより、光触媒アパタイト粉末が6.0mg付着した綿繊維を作製した。次に、前記綿繊維を編みこみ,綿布地(網目間隔1mmのガーゼ状)を形成し、実施例1のサンプルを得た。
【0055】
(比較例1)
市販の綿ガーゼ(網目間隔1mm)を用意し、光触媒が付着していない比較例1のサンプルとした。
【0056】
(比較例2)
比較例1と同様の市販の綿ガーゼに、前記実施例1で調製した光触媒水溶液を、霧吹きにて吹き付け、乾燥させることにより、光触媒アパタイト粉末が6.0mg付着した比較例2の綿布地のサンプルを得た。
【0057】
(比較例3)
比較例1と同様の市販の綿ガーゼを、前記実施例1で調製した光触媒水溶液に浸漬し、乾燥させることにより、光触媒アパタイト粉末が6.0mg付着した比較例3の綿布地のサンプルを得た。
【0058】
(比較例4)
実施例1において、光触媒アパタイトを酸化チタン(石原化学産業製 ST−21)に代え、酸化チタンが付着した綿繊維を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、該酸化チタンが6.0mg付着した綿繊維を用いて綿布地を形成し、比較例4のサンプルを作製した。
【0059】
−評価−
(1)<光触媒アパタイト付着強度の測定>
前記実施例1及び前記比較例2〜3のサンプル(サイズ:25×150mm)の質量を測定した。次に、各サンプルを水を充填したビーカーに入れ、超音波洗浄機にて30分間洗浄した。その後、サンプルを乾燥した後、洗浄後の各サンプルの質量を測定した。
前記超音波洗浄前後のサンプル質量の変化により、サンプルに残存する光触媒の残存率を、次式、(洗浄後の付着量/洗浄前の付着量)×100により算出し、該残存率を、付着強度として評価した。結果を図1に示す。
図1の結果より、本発明の光触媒能を有する繊維で形成した綿布地を用いた実施例1のサンプルでは、従来の噴霧や浸漬により光触媒を付着させた綿布地を用いた比較例2及び3のサンプルに比べて、光触媒の残存率が多く、付着強度(結合性)に優れることが判った。
【0060】
(2)<光触媒活性の評価>
前記実施例1及び比較例1のサンプル(短冊状:25×150mm)を、各々アセトアルデヒド(10,000ppm)を満たした容器(500cc)に入れ、ブラックライトにより紫外線1.0mW/cm(at365nm)を照射した。該紫外線の照射により、分解発生した二酸化炭素量を、ガスクロマトグラフィ(GLサイエンス製,GS−560)を用いて測定し、光触媒活性を評価した。結果を図2に示す。
図2の結果より、本発明の光触媒能を有する繊維で形成した綿布地を用いた実施例1のサンプルでは、二酸化炭素の発生が認められ、アセトアルデヒドが分解されたことが判り、光触媒活性があることが確認された。一方、光触媒を何ら付着させていない綿布地を用いた比較例1のサンプルでは、二酸化炭素を発生しておらず、光触媒活性はなかった。
【0061】
(3)<繊維劣化の評価>
前記実施例1、比較例1及び比較例4のサンプル(短冊状:25×150mm)を、紫外線照射ボックスに入れ、紫外線を2.0mW/cm(at365nm)を照射し続けて、1ヵ月後及び3ヵ月後の、各サンプルの引張強度を引っ張り試験機(インストロン製)により測定した。結果を図3に示す。
図3の結果より、本発明の光触媒能を有する繊維で形成した綿布地を用いた実施例1の綿布地では、紫外線照射後も、光触媒を付着していない比較例1のサンプルと同等の繊維強度を示し、光触媒による繊維の劣化が観察されなかった。一方、酸化チタンを付着させた比較例4のサンプルでは、引張強度が著しく低下し、繊維が劣化したことが判った。
【0062】
本発明の好ましい態様を付記すると、以下の通りである。
(付記1) 光触媒を付着させてなることを特徴とする光触媒能を有する繊維。
(付記2) 光触媒を少なくとも含む溶液に浸漬することにより光触媒を付着させる付記1に記載の光触媒能を有する繊維。
(付記3) 光触媒を少なくとも含む溶液に浸漬し、縒ることにより、光触媒を付着させた糸を形成する付記1から2のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
(付記4) 縒った後、光触媒を少なくとも含む溶液に浸漬することにより、光触媒を付着させた糸を形成する付記1から2のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
(付記5) 光触媒が、粒子状である付記1から4のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
(付記6) 光触媒が、少なくとも可視光により光触媒活性を発現可能である付記1から5のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維維。
(付記7) 光触媒が、光触媒活性を有するアパタイトと、可視光吸収性金属原子とを少なくとも含んでなる付記1から6のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
(付記8) 光触媒活性を有するアパタイトが、金属原子を有してなり、該金属原子の少なくとも一部が、可視光吸収性金属原子により置換されてなる付記7に記載の光触媒能を有する繊維。
(付記9) 可視光吸収性金属原子が、クロム(Cr)である付記7から8のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
(付記10) 光触媒活性を有するアパタイトが、光触媒活性を有するのに必要な金属原子を有してなる付記7から9のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
(付記11) 光触媒活性を有するのに必要な金属原子が、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、インジウム(In)、及び鉄(Fe)から選択される少なくとも1種である付記10に記載の光触媒能を有する繊維。
(付記12) アパタイトが、下記一般式(1)で表される付記7から11のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
【化2】

ただし、前記一般式(1)中、Aは、金属原子を表す。Bは、リン原子(P)及び硫黄原子(S)のいずれかを表す。Oは、酸素原子を表す。Xは、水酸基、CO、及びハロゲン原子のいずれかを表す。m、n、z、及びsは、整数を表す。
(付記13) Aが、カルシウム(Ca)であり、Bが、リン原子(P)であり、かつXが、水酸基であり、光触媒活性を有するアパタイトが、カルシウムハイドロキシアパタイトCa10(PO(OH)である付記12に記載の光触媒能を有する繊維。
(付記14) 光触媒活性を有するのに必要な金属原子が、チタン(Ti)である付記11から13のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
(付記15) 光触媒が、紫外光吸収性金属原子を含む付記1から14のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
(付記16) 付記1から15のいずれかに記載の繊維を用いて形成されたことを特徴とする布帛。
(付記17) 織布、不織布、及び紙のいずれかである付記16に記載の布帛。
(付記18) 超音波洗浄機にて30分間洗浄した際の、洗浄前の光触媒付着量に対する、洗浄後の光触媒の残存率、〔洗浄後の付着量(g)/洗浄前の付着量(g)〕×100が、40〜100%である付記15から17のいずれかに記載の布帛。
(付記19) 付記16から18のいずれかに記載の布帛を用いて形成されたことを特徴とする布製品。
(付記20) 防護マスク、防塵マスク、防臭マスク、スポーツ用マスク、医療生地、包帯、ガーゼ、カーテン、カーペット、壁紙、衣類、タオル、シーツ、布団、フィルタ、及びユニフォームのいずれかである付記19に記載の布製品。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の光触媒能を有する繊維は、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害物質や病原体等の有害成分の分解除去能に優れ、低コストで量産可能であり、耐久性に優れるので、マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などの布製品に好適に適用することができる。
本発明の布帛は、本発明の前記光触媒能を有する繊維を用いて形成されているので、気体中、土壌中、及び水中等に含まれる有害物質や病原体等の有害成分の分解除去能に優れ、低コストで量産可能であり、耐久性に優れるので、マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などの布製品に好適に適用することができる。
本発明の布製品は、本発明の前記布帛を用い手形成されているので、優れた光触媒能を長期に持続可能であり、マスク、医療生地、包帯、ガーゼ等の衛生用品、カーテン、カーペット、壁紙等の室内装飾用品、ユニフォーム、衣類等の衣料品、タオル、シーツ、布団等の生活用品、各種フィルタ、などに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の光触媒能を有する繊維で形成された綿布地を用いた実施例1と、噴霧により光触媒を付着させた綿布地を用いた比較例2と、浸漬により光触媒を付着させた綿布地を用いた比較例3との、光触媒付着強度の測定結果を表すグラフである。
【図2】図2は、本発明の実施例1と、光触媒を付着させてない綿布地を用いた比較例1との、光触媒活性の測定結果を表すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施例1と、比較例1と、比較例4との、引張試験の測定結果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を付着させてなることを特徴とする光触媒能を有する繊維。
【請求項2】
光触媒を少なくとも含む溶液に浸漬し、縒ることにより、光触媒を付着させた糸を形成する請求項1に記載の光触媒能を有する繊維。
【請求項3】
縒った後、光触媒を少なくとも含む溶液に浸漬することにより、光触媒を付着させた糸を形成する請求項1から2のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
【請求項4】
光触媒が、少なくとも可視光により光触媒活性を発現可能である請求項1から3のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
【請求項5】
光触媒が、光触媒活性を有するアパタイトと、可視光吸収性金属原子とを少なくとも含んでなる請求項1から4のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
【請求項6】
光触媒活性を有するアパタイトが、カルシウムハイドロキシアパタイトCa10(PO(OH)である請求項5に記載の光触媒能を有する繊維。
【請求項7】
アパタイトが、光触媒活性を有するのに必要な金属原子を有してなり、該金属原子が、チタン(Ti)である請求項5から6のいずれかに記載の光触媒能を有する繊維。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の繊維を用いて形成されたことを特徴とする布帛。
【請求項9】
超音波洗浄機にて30分間洗浄した際の、洗浄前の光触媒付着量に対する、洗浄後の光触媒の残存率、〔洗浄後の付着量(g)/洗浄前の付着量(g)〕×100が、40〜100%である請求項8に記載の布帛。
【請求項10】
請求項8から9のいずれかに記載の布帛を用いて形成されたことを特徴とする布製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−262621(P2007−262621A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90772(P2006−90772)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】