説明

光触媒膜、光触媒膜の製造方法、物品および親水化方法

【課題】
太陽光源照射下において光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された新規な光触媒膜を提供する。
【解決手段】
光半導体粒子を少なくとも一方の主表面に含有し、光照射によって前記主表面が親水化する光触媒膜であって、暗所保持後に半値幅15nm以下の光を照射した場合の親水化速度が、照射光の波長が370nm以上の領域では、2(1/deg/min/105)未満であり、かつ照射光の波長が300〜360nmの領域の少なくとも一部では、2(1/deg/min/105)以上であることを特徴とする光触媒膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒膜、光触媒膜の製造方法、物品および親水化方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、酸化チタン表面に特段の処理を必要とせずに、太陽光源照射下において光励起超親水性を示すが、分解活性をほとんど示さない新規な光触媒膜、該光触媒膜を効率よく製造する方法、上記光触媒膜を表面に有する物品および該物品を用いた親水化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、一般にそのバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射すると、伝導帯に電子が励起され、価電子帯に正孔が生じる。そして、励起されて生じた電子は表面酸素を還元してスーパーオキサイドアニオン(・O2-)を生成すると共に、正孔は表面水酸基を酸化して水酸ラジカル(・OH)を生成し、これらの反応性活性酸素種が強い酸化分解機能を発揮し、光触媒からなる膜の表面に付着している有機物質を高効率で分解することが知られている。
【0003】
このような光触媒の機能を応用して、例えば脱臭、防汚、抗菌、殺菌、さらには廃水中や廃ガス中の環境汚染上の問題となっている各種物質の分解・除去などが検討されている。
【0004】
また、光触媒のもう1つの機能として、該光触媒が光励起されると、例えば特許文献1に開示されているように、光触媒膜表面は、水と接触角が10度以下となる超親水化を発現することも知られている。このような光触媒の超親水化機能を応用して、例えば、防曇性、防滴性、防汚性、防霜性、滑雪性付与を目的として、高速道路の防音壁、道路反射鏡、各種反射体、街路灯、自動車をはじめとする車両のボディーコートやサイドミラーあるいはウインド用フィルム、窓ガラスを含む建材、道路標識、ロードサイド看板、冷凍・冷蔵用ショーケース、各種レンズ類やセンサー類などに光触媒膜を用いることが検討されている。
【0005】
このような光触媒については、これまで数多く知られており、中でも酸化チタンは代表的なものの一つに挙げられる。酸化チタンには無定形のアモルファス型のほか、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の3つの代表的な結晶系が存在し、これら3つの結晶系で光触媒活性を示し、有機物の分解能のほか、超親水性を発現することで有名である。特にアナターゼ型が最も高い活性を示すことが一般に知られている。
【0006】
当該アナターゼ型酸化チタンは、通常、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物を出発原料としゾルゲル法により得た加水分解縮合物や、四塩化チタンや硫酸チタニルなどの無機チタン化合物塩の水和酸化物などから得た無定形酸化チタンから熱処理を経ることによって得ることができる。しかしながら、これらは通常、400℃以上の高温下での熱処理が必要であるため、コスト高となることを避けられず、耐熱性の乏しい基板に成膜することが困難であるなど多くの問題を伴うものである。
【0007】
したがって、従来、特に活性の高いアナターゼ型酸化チタンを比較的低温で得る方法が種々試みられており、また開示されている。
【0008】
例えば、スパッタリングや真空蒸着などの物理的成膜手法によって基板上に酸化チタン膜を生成させる際に、水蒸気を導入させ無定形酸化チタン内に水酸基を多く含有させることによって、酸化チタン骨格中の原子の移動度を上昇せしめ、その後の熱処理よる結晶化を容易にする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。これによれば、結晶化温度を200℃程度にまで下げることが可能である。
【0009】
また、シリコンアルコキシドと加水分解性を有するチタン化合物を含む溶液から、チタン化合物とシリコンアルコキシドが所定のモル比で配合されている複合金属酸化物あるいは水酸化物を含むゲル膜を形成し、次いで、100℃以下の温水を接触させることによって、結晶径が数10〜100nm程度のアナターゼに帰属されるチタニア微結晶を析出させる方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
確かに上記の方法によれば、プラスチック基板など耐熱性の低い材料にも直接無定形酸化チタンを成膜し、その後、低温の熱処理工程を経てアナターゼ型酸化チタンを形成することができると考えられる。しかしながら、これらの方法で得られるアナターゼ型酸化チタンは、その公報中でも明示されているように、一般的なアナターゼ型酸化チタンと同様に光励起超親水性の発現のほか高い有機物分解活性も示すため、プラスチック基材などに直接形成させた場合には、その高い有機物分解活性により基材が短期間のうちに侵食され、基材物性が低下したり光触媒膜の脱落により光触媒機能が低下したりすることなどが容易に推察される。このため、上記各方法は、アナターゼ型酸化チタン膜とともに、別途活性遮断層を設けることを必要とし、例えば、アナターゼ型酸化チタン微粒子を無機系のバインダーに分散させて作られる常温で硬化が可能な光触媒コーティング剤を塗布する方法と比べて、明確な優位性が見出せないものであった。
【0011】
一方、アナターゼ型酸化チタンをプラスチックなどの有機基材上に直接付与させる方法として、例えば、フッ素系のシランカップリング剤でアナターゼ型酸化チタン表面を修飾し、アナターゼ型酸化チタン微粒子の表面エネルギーを低下させバインダー成分との相互作用を弱めることによって、塗膜表面に浮上(偏析)させた自己傾斜型光触媒コーティング剤が知られている(特許文献4参照)。また、酸化チタン表面を光触媒として不活性な無機材料で覆い、かつ無数に細孔を設ける処方によってマスクメロン型形状を有する光触媒材料などが提案されている(特許文献5参照)。
【0012】
これらはアナターゼ型酸化チタンが有機基材と直接接触することを回避できることから、有機基材に直接塗布可能と考えられる。しかし、これらは全てアナターゼ型酸化チタンの高い酸化力の影響が基材に及ぶことを防ぐ為に、複雑な表面処理をする必要があり、さらに、これらは酸化チタンの表面偏析の為に厚みがミクロンオーダー必要であることや、酸化チタン粒子そのものが数ミクロン径のものでしか作成できないなど、多くの制約を伴うものである。
【特許文献1】国際特許公開96/29375号パンフレット
【特許文献2】特開2000−345320号公報
【特許文献3】特開2002−97013号公報
【特許文献4】特開2005−131640号公報
【特許文献5】特許第3484470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような事情のもとで、酸化チタン表面に特段の処理をせずに、また基材との間に特別な中間層を設ける必要がなく、太陽光源照射下で光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された新規な光触媒膜を提供することを目的とする。また、本発明は、上記光触媒膜を効率よく製造する方法、上記光触媒膜を表面に有する物品、該物品を用いた親水化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本件発明者等が、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、光触媒膜における酸化分解機能や光励起超親水化現象は、全ての光半導体で認められる共通の現象というわけではなく、それぞれで満たすべき必要な条件があることを見出した。
すなわち、光触媒膜が酸化分解機能を有するためには、価電子帯が有機物を分解するに足る十分な酸化力を有しながら、導電帯が空気や水などを還元するに足る十分な還元力を有する必要があり、この酸化還元力を有するために、膜を構成する光触媒が適切なバンドギャップを有することが必要になる(このバンドギャップの違いから、二酸化チタンにおける酸化分解特性は、アナターゼ型が高活性となり、ルチル型が低活性となる)。
【0015】
一方、光触媒膜が光励起超親水性を有する理由は必ずしも明らかではないものの、光の吸収によって発生した正孔が光半導体表面の格子酸素にトラップされ金属原子−酸素原子間の結合を切断するとともに、水酸基の配位を誘引することにより発現すると考えられ、そのためには、価電子帯が酸素原子の電子軌道で形成されているとともに、空気、水あるいは何かしらの有機物を分解するに足る酸化力を有するエネルギー順位を有し、かつ導電帯が空気や水などを還元できる充分な還元力を有する必要があり、この酸化還元力を有するためにも、膜を構成する光触媒が適切なバンドギャップを有することが必要になると考えられる。
【0016】
このような知見の下で、本発明者等がさらに検討を加えたところ、光触媒膜の酸化分解性は光量(光子数)に比例して向上するが、光誘起超親水性は一定量以上の光量(光子数)を照射すれば実現されることを見出した。
これらの知見に基づいて、本件発明者等が検討を重ねた結果、太陽光の波長域のうち、光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された光量を有する波長域を選択し、選択した波長域の最長波長光のもつエネルギー値とエネルギー値が一致するバンドギャップを有する光触媒を用いることにより、太陽光源照射下で光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された新規な光触媒膜を得ることができると考えた。
そして、本発明者らは、前記目的を達成するためには、光半導体粒子を少なくとも一方の主表面に含有し、暗所保持後に半値幅15nm以下の光を照射した場合の前記主表面の親水化速度が、照射光の波長が370nm以上の領域では、2(1/deg/min/105)未満、かつ照射光の波長が300〜360nmの領域の少なくとも一部では、2(1/deg/min/105)以上である光触媒膜、光半導体結晶化物として結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンを少なくとも一方の主表面に含有する光触媒膜、または、光半導体結晶化物としてチューブ厚みが1〜10nmの範囲内にある光半導体ナノチューブを少なくとも一方の主表面に含有する光触媒膜が、太陽光源照射下で光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性をほとんど示さないことを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)光半導体結晶化物を少なくとも一方の主表面に含有し、光照射によって前記主表面が親水化する光触媒膜であって、
暗所保持後に半値幅15nm以下の光を照射した場合の親水化速度が、照射光の波長が370nm以上の領域では、2(1/deg/min/105)未満であり、かつ照射光の波長が300〜360nmの領域の少なくとも一部では、2(1/deg/min/105)以上であることを特徴とする光触媒膜
(以下、本発明の光触媒膜Iという)、
(2)光半導体結晶化物として結晶径が1〜10nmの範囲内にある光半導体粒子を少なくとも一方の主表面に含有することを特徴とする光触媒膜(以下、本発明の光触媒膜IIという)、
(3)前記光半導体結晶化物が結晶質酸化チタンを含んでなるものである上記(1)または(2)に記載の光触媒膜、
(4)全結晶質酸化チタンに占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの割合が90%以上である上記(3)に記載の光触媒膜、
(5)全結晶質酸化チタンに占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの割合が100%である上記(3)または(4)に記載の光触媒膜、
(6)少なくとも一方の主表面における結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの含有割合が3%以上である上記(3)〜(5)のいずれかに記載の光触媒膜、
(7)少なくとも一方の主表面における結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの含有割合が5%以上である上記(3)〜(5)のいずれかに記載の光触媒膜、
(8)透過型電子顕微鏡による光触媒膜の50nm×50nmの範囲における断面観察によって、少なくとも結晶粒が5個以上存在する部分を有する上記(3)〜(7)のいずれかに記載の光触媒膜、
(9)少なくとも一方の主表面において、結晶質酸化チタンとともに非晶質酸化チタンが存在してなる上記(3)〜(8)のいずれかに記載の光触媒膜、
(10)前記結晶質酸化チタンが非晶質酸化チタン中に分散してなる上記(3)〜(9)のいずれかに記載の光触媒膜、
(11)厚みが1μm以下である上記(1)〜(10)のいずれかに記載の光触媒膜、
(12)前記主表面の太陽光照射時における水に対する接触角が20度未満である上記(1)〜(11)のいずれかに記載の光触媒膜、
(13)3mW/cm2の人工太陽光照射時におけるメチレンブルーの分解速度が、塗布したメチレンブルーの最大吸収波長における吸光度の低下速度ΔABS/minで0.1以下である上記(1)〜(12)のいずれかに記載の光触媒膜、
(14)前記光半導体結晶化物がチタンアルコキシドの加水分解縮合物中に存在するとともに、
前記チタンアルコキシドが有機高分子化合物と加水分解縮合してその含有率が表面から深さ方向に向かって連続的に変化する複合体を形成してなる上記(1)〜(13)のいずれかに記載の光触媒膜、
(15)光半導体結晶化物以外の金属化合物系微粒子をさらに含んでなる上記(1)〜(14)のいずれかに記載の光触媒膜、
(16)光半導体結晶化物以外の金属化合物系微粒子がシリカ系微粒子である上記(15)に記載の光触媒膜、
(17)無機金属塩、有機金属塩ならびにチタンおよび珪素以外の金属のアルコキシドの中から選ばれる少なくとも1種類の金属系化合物をさらに含んでなる上記(1)〜(16)のいずれかに記載の光触媒膜、
(18)金属系化合物が、硝酸アルミニウムである上記(17)に記載の光触媒膜、
(19)非晶質酸化チタン膜に対して、水分存在下で、100℃以下の温度で加熱処理することを特徴とする上記(3)〜(18)のいずれかに記載の光触媒膜の製造方法、
(20)前記非晶質酸化チタン膜が、チタンアルコキシドと有機高分子化合物とが加水分解縮合してなる複合体を含むコーティング剤を1回のみ塗布することによって、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の含有率を表面から深さ方向に向かって連続的に変化させてなるものである上記(19)に記載の方法、
(21)光半導体結晶化物としてチューブ厚みが1〜10nmの範囲内にある光半導体ナノチューブを少なくとも一方の主表面に含有することを特徴とする光触媒膜(以下、本発明の光触媒膜IIという)、
(22)前記光半導体結晶化物が結晶質酸化チタンナノチューブを含んでなるものである上記(1)または(21)に記載の光触媒膜、
(23)バインダー成分をさらに含んでなる上記(21)または(22)に記載の光触媒膜、
(24)基材の表面に、上記(1)〜(18)および(21)〜(23)のいずれかに記載の光触媒膜または上記(19)および(20)のいずれかに記載の方法により得られた光触媒膜を有することを特徴とする物品、
(25)前記基材が有機基材である上記(24)に記載の物品、
(26)表面に厚みが500nm以下である機能膜をさらに有する上記(24)または(25)に記載の物品、
(27)前記機能膜がシリカを含んでなる上記(26)に記載の物品、および
(28)上記(24)〜(27)のいずれかに記載の物品を太陽光照射下で使用することを特徴とする親水化方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化チタン表面に特段の処理を施さずに、また基材との間に特別な中間層を設ける必要がない、太陽光源照射下で光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された新規な光触媒膜、上記光触媒膜を効率よく製造する方法、上記光触媒膜を表面に有する物品、該物品を用いた親水化方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
先ず、本発明の光触媒膜Iについて説明する。
本発明の光触媒膜は、光半導体結晶化物を少なくとも一方の主表面に含有し、光照射によって前記主表面が親水化する光触媒膜であって、半値幅15nm以下の光を照射した場合の親水化速度が、照射光の波長が370nm以上の領域では、2(1/deg/min/105)未満であり、かつ照射光の波長が300〜360nmの領域の少なくとも一部では、2(1/deg/min/105)以上であることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の光触媒膜は、光半導体結晶化物を少なくとも一方の主表面に含有し、光を照射することによって前記主表面が親水化するものである。そして、地上に到達する太陽光の内、全太陽光に対する相対放射照度が小さい短波長端からの特定範囲の波長のみに応答し、親水化を発現するように設計されていることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の光触媒膜を構成する光半導体結晶化物は、上記親水化速度が2(1/deg/min/105)未満となる領域が、370nm以上であるものが好ましく、365nm以上であるものがより好ましい。また、上記親水化速度が2(1/deg/min/105)以上となる領域が、300〜360nmであるものが好ましく、300〜355nmであるものがより好ましい。
【0022】
前記親水化速度とは、半値幅15nm以下の任意の特定波長の光を、照射主波長(最大放射波長)のフォトン(光子)数で計算して3.7×1015(quanta/cm2/s)となる照度(照射主波長が365nmの場合、概ね2mW/cm2)を照射した場合に得られる値を指す。
【0023】
本発明の光触媒膜を構成する光半導体粒子は、照射光波長が370nm以上の領域で上記親水化速度が2(1/deg/min/105)未満であり、波長370nm以上の光に対する応答性が低いために、有機物に対する分解活性を抑制することができ、また、照射光波長が300〜360nmの領域の少なくとも一部で上記親水化速度が2(1/deg/min/105)以上であり、波長300〜360nmの光に対する応答性が高いために、地上に到達する太陽光(300nm以上)のうち、親水化を発現する波長を効果的に捉えることができる。
【0024】
本発明の光触媒膜に含まれる光半導体結晶化物は、波長300〜360nmにおける有機物に対する分解活性が実用上問題にならない程度のものであり、この分解活性の程度は、上記波長域の上限が短波長側になればなるほど小さくなる傾向があるが、親水化速度も同様に遅くなるため、光に応答する上限の波長は、用途などに応じて適宜最適な波長に設計することが好ましい。
【0025】
図1に示す様に、半値幅が15nm以下である波長300nm以上の光を照射して親水化速度を測定し、得られた親水化速度と照射主波長との累乗関数近似線において親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を求めた場合、市販アナターゼ型酸化チタンを含む光触媒膜(後述する比較例2で得られた光触媒膜に対応する)およびルチル型酸化チタンを含む光触媒膜(後述する比較例3で得られた光触媒膜に対応する)においては、上記波長がそれぞれ、376nm、405nm付近であった。これらは、一般的に知られている吸収端とほぼ合致する。
【0026】
一方、図1に示す様に、本発明の光触媒膜に対応する、図1にAで示す光触媒膜(後述する実施例5で得られたSWM900hの光触媒膜に対応する)および図1にBで示す光触媒膜(後述する実施例2で得られたSWM900hの光触媒膜に対応する)は、上記親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長が、それぞれ、341nmおよび365nmであり、波長370nm以上の光に対する吸収(応答)がないか極めて小さいため、この領域においては光触媒性のひとつである有機物の分解活性を発現しないと解することができる。また、これらの光触媒膜は、波長300〜360nmにおいて、親水化速度が2(1/deg/min/105)以上となる領域を有することから、十分な親水性を示すと解することができる。
【0027】
このように、市販のアナターゼ型酸化チタンや、ルチル型酸化チタンが光吸収性を示す370nm以上の波長域は、370nm未満の場合と比較すると太陽光中での相対放射照度が多く、かつ太陽光が有する光波長域をより広く利用できることから、上記アナターゼ型酸化チタンやルチル型酸化チタンは親水性とともに光分解性を示しやすいと考えられるが、本発明の光触媒膜は、370nm以上の波長域においてほとんど光吸収性を示さず、かつ波長300〜360nmの波長域において、親水化速度が2(1/deg/min/105)以上であることから、地上に到達する太陽光(300nm以上)において、光励起超親水性を示しつつ、有機物に対する光分解性が抑制され得ると考えられる。
【0028】
本発明の光触媒膜Iは、以下に説明する光触媒膜II、光触媒膜IIIあるいは光触媒膜IVの特性を有するものであることが好ましい。
【0029】
本発明の光触媒膜IIは、光半導体結晶化物として結晶径が1〜10nmの範囲内にある光半導体粒子を少なくとも一方の主表面に含有することを特徴とするものである。
この時に用いられる光半導体材料は、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛など、バンドギャップが3.4eV以下の光半導体の中で、特にバンドギャップの価電子帯が酸素の電子軌道で形成されており、かつ空気、水あるいは何かしらの有機物を分解するに足る酸化力を有し得るエネルギー順位にありながら、バンドギャップの導電帯が空気や水などを還元できる充分な還元力を持つ半導体であることが好ましい。この様な光半導体群の中でもっとも好ましい光半導体材料として酸化チタンが挙げられる。
本発明の光触媒膜IIに含まれる結晶化チタニアとしては、結晶径が1〜10nmの範囲内にあるものであり、特に結晶径が3〜10nmの範囲内にあるものが好ましい。
【0030】
従来より、光半導体としては、平均粒径が小さいものでも20nm前後である二酸化チタンが知られており、このような二酸化チタンからなる光半導体は、各種物質の分解・除去性能や超親水化性能に優れることが知られていたが、上述したように、これら一般的な光半導体は、太陽光源照射下において、分解性能に優れるために、有機系基材に直接塗布した場合に有機系基材をも浸食してしまうという技術課題を有していた。
この技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンを少なくとも一方の主表面に主成分として含有する光触媒膜が、上述したような、太陽光源照射下で光励起超親水性を示すが、分解活性をほとんど示さないことを見出して、本発明を完成するに至ったものである。
【0031】
本発明者等の検討によって、結晶質酸化チタンの結晶径が小さいものほどより短波長側の紫外線で応答することを確認するとともに、前記の従来の二型酸化チタンよりも短波長領域で応答させるためには、結晶径が10nm以下である結晶質酸化チタンにすればよいことも見出された。
【0032】
また、地表に到達する太陽光の紫外線の波長はおよそ300nm以上である。そこで、屋外使用など太陽光源照射下を想定して検討した結果、300nm以上の短波長領域の紫外線で応答することが可能な結晶質酸化チタンの結晶径の下限は、およそ1nmであることも見出された。
【0033】
ところで、光励起超親水化は、それが光半導体の最表層で起こる現象であることに加え、光の吸収によって発生した正孔が光半導体表面の格子酸素にトラップされTi-O間の結合を切ることによって、水酸基の配位を誘引することにより発現すると考えられる。
【0034】
そこで、本発明者等は、光励起超親水化は、光半導体の表面のみを改質するだけの光量があればその改質部分に空気中の水が複層吸着する事によって発現する現象であるため、分解活性を発現させるよりも少ない光量でよいのではないかと考えた。
【0035】
つまり、本発明では、超親水化に必要な光は僅かで良いという認識の下、あえて、一般に見られる紫外応答型光触媒物質の吸収領域よりも、地表に降り注ぐ太陽光中の極僅かな光の波長領域しか応答しない光半導体を用いることで、太陽光照射下において、分解活性を示さず超親水性のみを示す光触媒物質を得ることができるのではないかとの考えに至った。
そして、前記結晶径と光への応答波長との関係についての知見とを組み合わせて、本発明の光触媒膜IIの完成に至ったものである。
本発明の光触媒膜IIは、本発明の光触媒膜Iの性質を有するものであることが好ましい。
【0036】
本発明の光触媒膜IIは光半導体結晶化物が結晶質酸化チタンを含んでなるものであることが好ましい。
結晶質酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の何れの結晶質酸化チタンであってもよく、あるいは、上記結晶質酸化チタンであって結晶欠陥や結晶歪みを内包するものでもよく、これ等の結晶質酸化チタンを2種以上組み合わせたものであってもよい。
【0037】
また、本発明の光触媒膜IIに含まれる、全結晶質酸化チタンに占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの割合は、90%以上であることが好ましく、100%であることがより好ましい。
なお、本発明の光触媒膜IIにおいて、結晶径とは、透過型電子顕微鏡で結晶質酸化チタンの断面を観察したときの結晶粒の格子縞の最大長さを意味し、また、結晶径が1〜10nmの範囲にある結晶質酸化チタンの含有割合は、光触媒膜の断面を透過型電子顕微鏡で観察したときの、全結晶数に対する結晶径が1〜10nmの範囲にある結晶数の割合を算出することによって求められる。
【0038】
また、本発明の光触媒膜IIは、少なくとも一方の主表面における結晶径が1〜10nmの範囲にある結晶質酸化チタンの含有割合が3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
本発明の光触媒膜IIは、透過型電子顕微鏡による光触媒膜の50nm×50nmの範囲における断面観察によって、少なくとも結晶粒が5個以上存在するものであることが好ましく、10個以上存在するものであることがより好ましい。上記観察範囲における結晶粒数が5個以上であることにより、超親水性付与機能を有するが、分解活性が抑制された光触媒膜を得ることができる。
本発明の光触媒膜IIは、結晶質酸化チタンが非晶質酸化チタン中に分散してなるものであることが好ましい。この場合、例えば、透過型電子顕微鏡で観察したときに、非晶質酸化チタンの海の中に結晶化チタン粒子が島状に点在してなるものが好ましい。
【0039】
本発明の光触媒膜IIは、その膜の両主表面において、結晶質酸化チタンを主成分として含有してもよいが、一方の主表面のみが結晶質酸化チタンを主成分として含有してもよい。
この場合、結晶質酸化チタンを主成分として含有する面を外部への露出面として使用することにより、光触媒膜として利用することが可能となる。
【0040】
本発明の光触媒膜IIは、有機基材に塗布する場合に基板と塗膜の線膨張係数差や密着性の乏しさなどに起因するクラックが生じる場合などにおいて、結晶質酸化チタンが分散した非晶質酸化チタンを含む膜であって、その非晶質酸化チタンの含有量が膜の厚さ方向に変化する成分傾斜性を有する膜であることが好ましい。この場合、結晶質酸化チタンを主成分として含有する面を外部への露出面として使用するとともに、反対側の主表面を有機成分を主成分とすることにより、各種有機系基材への接着性を向上させることができるとともに、線膨張係数差などに起因して発生する膜中の歪みを緩和し、有機基材上でも長期間安定な膜を形成することができる。
【0041】
光触媒膜IIの膜厚は、特に制限されないが、1μm以下であることが好ましく、0.01〜1μmであることがより好ましく、0.03〜0.5μmであることがさらに好ましく、0.05〜0.3μmであることが特に好ましい。
【0042】
本発明の光触媒膜IIは、太陽光照射時における水に対する限界接触角が20度未満であるものが好ましく、10度以下であるものがさらに好ましい。
【0043】
また、本発明の光触媒膜IIは、3mW/cm2の人工太陽光照射時におけるメチレンブルーの分解速度が、塗布したメチレンブルーの最大吸収波長における吸光度の低下速度(分解活性)ΔABS/minで0.1以下であるものが好ましく、0.05以下であるものがより好ましく、0.01以下であるものがさらに好ましく、0.0015以下であるものがさらに好ましい。
【0044】
上記水に対する接触角、メチレンブルーの分解速度は、例えば、結晶質酸化チタンの結晶径や含有割合を調整することにより制御することができる。
なお上記水に対する接触角、メチレンブルーの分解活性の評価方法については後で詳述する。
【0045】
本発明の光触媒膜IIは、前記光半導体結晶化物がチタンアルコキシドの加水分解縮合物中に存在するとともに、前記チタンアルコキシドが有機高分子化合物と加水分解縮合してその含有率が表面から深さ方向に向かって連続的に変化する複合体を形成してなるものであることが好ましい。
チタンアルコキシドの具体例としては、後述するチタンテトラアルコキシドを挙げることができ、また、有機化合物の具体例としては、後述する加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物を挙げることができる。
また、本発明の光触媒膜IIは、光半導体結晶化物以外の金属化合物系微粒子をさらに含んでなるものであることが好ましく、光半導体粒子以外の金属化合物系微粒子の具体例は後述するとおりであるが、特にシリカ系微粒子が好ましい。
また、本発明の光触媒膜IIは、無機金属塩、有機金属塩ならびにチタンおよび珪素以外の金属のアルコキシドの中から選ばれる少なくとも1種類の金属系化合物をさらに含んでなるものであることが好ましく、上記金属系化合物の具体例は、後述するとおりであるが、特に硝酸アルミニウムが好ましい。
本発明の光触媒膜IIは、以下に説明する本発明の光触媒膜の製造方法により、製造することが好ましい。
【0046】
次に、本発明の光触媒膜IIの製造方法について説明する。
本発明の光触媒膜の製造方法は、非晶質酸化チタン膜に対して、水分存在下で、100℃以下の温度で加熱処理することを特徴とするものである。
本発明の製造方法においては、温度100℃以下、相対湿度5%以上の環境下で光触媒を製造することが好ましい。
【0047】
また、本発明の光触媒膜IIの製造方法においては、上記環境下において、さらに250〜1200nmの波長域から選ばれる任意領域の波長を有するとともに、紫外光を含む光の存在下で製造することが好ましく、その場合は、放射照度5〜400W/m2の条件で照射しつつ、上記温度が30〜60℃、相対湿度が50〜80%とすることが好適な製造条件の一つに挙げられる。
【0048】
250〜1200nmの波長域から選ばれる任意領域の波長を有するとともに、紫外光を含む光としては、少なくとも、波長250〜260nm、290〜315nm、350〜1200nmの波長域の光を含むものであることが好ましく、放射照度200〜400W/m2の条件下で照射することが、さらに好ましい。
【0049】
本発明の光触媒膜IIの製造方法においては、少なくとも1回以上、水を噴霧することが好ましい。本発明の製造方法に用いられる設備や装置に関する制約は特にないが、代表的には、恒温恒湿環境が得られる各種設備のほか、カーボンアーク式サンシャインウエザーメーター、キセノンウエザーメーター、メタリングウエザーメーター、デューパネルウエザーメーターなどが例示できる。
【0050】
なお、上記と同等の条件が得られる屋外環境下における暴露によっても同様に本発明の酸化チタン化合物を製造することが可能である。
【0051】
本発明の製造方法において、本発明の光触媒膜IIを得る方法としては、
(I)(A)チタンテトラアルコキシドを加水分解縮合させて得られるチタニアゾルを含むコーティング剤により膜を形成させて、その形成させた膜に対して前述の製造条件で処理する方法、
(II)(A)チタンテトラアルコキシドを加水分解縮合させて得られるチタニアゾルを乾固させて非晶質酸化チタンからなる粉末を形成させた後、当該粉末を無機系および/または有機系のバインダーに混練することにより膜を形成させてその形成させた膜に対して前述の製造条件で処理する方法、
(III)(A)チタンテトラアルコキシドを加水分解縮合させて得られるチタニアゾルを乾固させて非晶質酸化チタンからなる粉末を形成させたのち、その粉末に対して前述の製造条件で処理することによって本発明の結晶質酸化チタンを含む粉末を形成させたのち、当該粉末を無機系および/または有機系のバインダーに混練することにより膜を形成させる方法、
などを挙げることができる。
【0052】
(A)成分であるチタンテトラアルコキシドを加水分解縮合させて得られるチタニアゾルの調製において、原料となるチタンテトラアルコキシドとしては、アルコキシル基の炭素数が1〜4程度のチタンテトラアルコキシドが用いられる。このチタンテトラアルコキシドにおいては、4つのアルコキシル基は、たがいに同一でも異なっていてもよいが、入手の容易さなどの点から、同一のものが好ましく用いられる。上記チタンテトラアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシドおよびチタンテトラ−tert−ブトキシドが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記チタンテトラアルコキシドを加水分解−縮合させて、チタニアゾル溶液を調製する。このチタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、好ましくは炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類を溶媒として用い、酸性触媒の存在下でチタンテトラアルコキシドに水を作用させることにより行われる。
【0054】
上記炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類としては、チタンテトラアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテルなどのセロソルブ系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。これらの中で、特にチタンテトラアルコキシドに対する相互作用が強いセロソルブ系溶剤が好ましい。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
このようなチタンテトラアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤を溶媒として用いることにより、チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応により得られたチタニアゾル溶液を安定化させることができ、縮合反応を進行させてもゲル化や粒子化が生じにくくなる。
【0056】
チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、チタンテトラアルコキシドに対し、4〜20倍モル程度、好ましくは5〜12倍モルの上記アルコール類と、0.5倍モル以上4倍モル未満程度、好ましくは1〜3.0倍モルの水を用い、塩酸、硫酸、硝酸などの酸性触媒の存在下、通常0〜70℃、好ましくは20〜50℃の範囲の温度において行われる。酸性触媒は、チタンテトラアルコキシドに対し、通常0.1〜1.0倍モル、好ましくは0.2〜0.7倍モルの範囲で用いられる。
【0057】
本発明の製造方法においては、上記非晶質酸化チタン膜として、チタンテトラアルコキシドと有機高分子化合物とを含むコーティング剤により形成されてなり、上記チタンテトラアルコキシドが有機高分子化合物と加水分解縮合して、その含有率が、膜表面から厚さ方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有するものを用いてもよい。
また、上記非晶質酸化チタン膜が、チタンアルコキシドと有機高分子化合物とが加水分解縮合してなる複合体を含むコーティング剤を1回のみ塗布することによって、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の含有率を表面から深さ方向に向かって連続的に変化させてなるものを用いてもよい。
上記成分傾斜構造を有する非晶質酸化チタン膜を用いることにより、一方の主表面のみが結晶質酸化チタンを主成分として含有する光触媒膜を得ることができる。
【0058】
上記成分傾斜構造を有する非晶質酸化チタン膜は、例えば、上記(A)チタンテトラアルコキシドを加水分解縮合させて得られるチタニアゾルと共に、(B)分子中に加水分解により酸化チタンと結合し得る金属含有基(加水分解性金属含有基と称することがある。)を有する有機高分子化合物を含むコーティング剤を用いて形成することができる。
【0059】
上記(B)成分の加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物は、例えば(a)加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と、(b)金属を含まないエチレン性不飽和単量体を共重合させることにより、得ることができる。
【0060】
上記(B)(a)成分である加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体としては、一般式(I)
【0061】
【化1】

(式中、R1は水素原子またはメチル基、Aはアルキレン基、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基、R2は加水分解性基または非加水分解性基であるが、その中の少なくとも1つは加水分解により、(A)成分と化学結合しうる加水分解性基であることが必要であり、また、R2が複数の場合には、各R2はたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、M1はケイ素、チタン、ジルコニウム、インジウム、スズ、アルミニウムなどの金属原子、kは金属原子M1の価数である。)
で表されるものを挙げることができる。
【0062】
上記一般式(I)において、R2のうちの加水分解により(A)成分と化学結合しうる加水分解性基としては、例えばアルコキシル基、イソシアネート基、塩素原子などのハロゲン原子、オキシハロゲン基、アセチルアセトネート基、水酸基などが挙げられ、一方、(A)成分と化学結合しない非加水分解性基としては、例えば低級アルキル基などが好ましく挙げられる。
【0063】
一般式(I)における−M12k-1で表される金属含有基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリ−n−プロポキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリ−n−ブトキシシリル基、トリイソブトキシシリル基、トリ−sec−ブトキシシリル基、トリ−tert−ブトキシシリル基、トリクロロシリル基、ジメチルメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルクロロシリル基、メチルジクロロシリル基、トリイソシアナトシリル基、メチルジイソシアナトシリル基など、トリメトキシチタニウム基、トリエトキシチタニウム基、トリ−n−プロポキシチタニウム基、トリイソプロポキシチタニウム基、トリ−n−ブトキシチタニウム基、トリイソブトキシチタニウム基、トリ−sec−ブトキシチタニウム基、トリ−tert−ブトキシチタニウム基、トリクロロチタニウム基、さらには、トリメトキシジルコニウム基、トリエトキシジルコニウム基、トリ−n−プロポキシジルコニウム基、トリイソプロポキシジルコニウム基、トリ−n−ブトキシジルコニウム基、トリイソブトキシジルコニウム基、トリ−sec−ブトキシジルコニウム基、トリ−tert−ブトキシジルコニウム基、トリクロロジルコニウム基、またさらには、ジメトキシアルミニウム基、ジエトキシアルミニウム基、ジ−n−プロポキシアルミニウム基、ジイソプロポキシアルミニウム基、ジ−n−ブトキシアルミニウム基、ジイソブトキシアルミニウム基、ジ−sec−ブトキシアルミニウム基、ジ−tert−ブトキシアルミニウム基、トリクロロアルミニウム基などが挙げられる。
【0064】
この(a)成分のエチレン性不飽和単量体は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
一方、上記(b)成分である金属を含まないエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(II)
【0066】
【化2】

(式中、R3は水素原子またはメチル基、Xは一価の有機基である。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、好ましくは一般式(II−a)
【0067】
【化3】

(式中、R3は前記と同じであり、R4は炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、あるいは上記一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて添加される密着性向上剤としての一般式(II−b)
【0068】
【化4】

(式中、R5は水素原子またはメチル基、R6はエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体との混合物を挙げることができる。
【0069】
上記一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R4で示される炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0070】
この一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
上記一般式(II−b)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R6で示されるエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。
【0072】
上記置換基のハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子がよい。上記炭化水素基の具体例としては、前述の一般式(II−a)におけるR4の説明において例示した基と同じものを挙げることができる。
【0073】
上記一般式(II−b)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどを好ましく挙げることができる。
【0074】
また、上記一般式(II)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、これら以外にもスチレン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレン、m−、o−またはp−ブロモスチレン、m−、o−またはp−クロロスチレン、m−、o−またはp−ビニルフェノール、1−または2−ビニルナフタレンなど、さらにはエチレン性不飽和基を有する重合性高分子用安定剤、例えばエチレン性不飽和基を有する、酸化防止剤、紫外線吸収剤および光安定剤なども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
また、一般式(II−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と一般式(II−b)で表されるエチレン性不飽和単量体とを併用する場合は、前者のエチレン性不飽和単量体に対し、後者のエチレン性不飽和単量体を1〜100モル%の割合で用いるのが好ましい。
【0076】
上記(a)成分の加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と(b)成分の金属を含まないエチレン性不飽和単量体とを、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル共重合させることにより、(B)成分である加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物が得られる。
【0077】
本発明の製造方法においては、上記のようにして得られた(A)成分であるチタニアゾルの溶液、または(A)成分であるチタニアゾルの溶液と(B)成分である加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物を適当な極性溶剤中に溶解させた溶液との混合液を、塗布に適した粘度に調整することによって塗工液を得ることができる。この際、必要ならば、上記塗工液に水および/または酸性触媒を添加してもよい。
【0078】
上記非晶質酸化チタン膜が成分傾斜構造を有するものである場合、膜の形成に用いられるコーティング剤には、光半導体粒子以外の金属化合物系微粒子、好ましくはシリカ微粒子を含有させることができる。
【0079】
上記成分傾斜膜にシリカ微粒子が含まれることにより、得られる光触媒膜が、塗膜の強度や硬度を向上させる作用の他、屈折率の調整効果や暗所保持時においても超親水性維持性能を持続させる効果を奏する。当該シリカ微粒子としては、コロイダルシリカが好ましい。
【0080】
このコロイダルシリカは、高純度の二酸化ケイ素(SiO2)を水またはアルコール系溶剤に分散させてコロイド状にした製品であって、平均粒子径は、通常1〜200nm、好ましくは5〜50nmの範囲である。シリコンアルコキシドの加水分解縮合物では、反応が終結していないので、水で溶出されやすく、それを含む光触媒膜は耐水性に劣る。一方、コロイダルシリカは、反応終結微粒子であるため、水で溶出されにくく、それを含む光触媒膜は、耐水性が良好なものとなる。
【0081】
さらに、上記成分傾斜構造を有する非晶質酸化チタン膜の形成に用いられるコーティング剤には、アモルファス状酸化チタンの結晶生成を調整する物質として、無機金属塩、有機金属塩並びにチタンおよび珪素以外の金属のアルコキシドの中から選ばれる少なくとも1種の金属系化合物を含有させることができる。具体的には、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムや、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム等の各塩類、ならびに、これら無機塩類の水和物、アルミニウムトリアセチルアセトナートなどのアルミニウムキレート類、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどの金属アルコキシド類、ならびにこれら化合物の加水分解物、あるいは、その縮合物を挙げることができる。これらの中で、特に硝酸アルミニウムならびにその水和物が好適である。前記結晶生成調整物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
このように、コーティング剤中に結晶生成調整物質を含有させることにより、形成される光触媒膜中の酸化チタンの微結晶生成挙動(例えば、結晶生成速度や結晶成長速度など)を調節することができる。また、使用される環境や要求される性能に応じて、超親水性発現までの時間をコントロールすることなどが可能であり、さらに収縮に伴う亀裂発生抑制など膜の安定性の調節に寄与することもできる。
【0083】
本発明の製造方法においては、有機基材上に、上述のようにして得られた塗工液を、乾燥塗膜の厚さが、通常0.01〜1μm、好ましくは0.03〜0.3μmの範囲になるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗布し、溶媒を揮散させて塗膜を形成させることが好ましい。
【0084】
上記有機基材としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。
【0085】
これらの有機基材は、本発明に係る成分傾斜膜との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
【0086】
なお、本発明において、有機基材としては、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材の表面に、有機系塗膜を有するものも包含する。
【0087】
本発明の製造方法においては、このようにして形成された塗膜に、通常0〜200℃、好ましくは15〜150℃の温度にて加熱処理を施すことにより、非晶質酸化チタン膜を形成することが好ましい。
【0088】
成分傾斜構造を有する非晶質酸化チタン膜を作製する場合、例えば得られた膜表面にスパッタリングを施して削っていき、経時的に膜表面の炭素原子とチタン原子の含有率を、X線光電子分光法などにより測定することによって、その構造を確認することができる。
【0089】
次に、本発明の光触媒IIIについて説明する。
本発明の光触媒膜IIIは、光半導体結晶化物としてチューブ厚みが1〜10nmの範囲内にある光半導体ナノチューブを少なくとも一方の主表面に含有することを特徴とするものである。
本発明の光触媒膜IIIに含まれる光半導体ナノチューブとは、光半導体材料からなるナノサイズのチューブ状物を意味し、このような光半導体ナノチューブとしては、例えば、特開平10−152323号公報に記載されている酸化チタンナノチューブ等が知られている。
本発明の光触媒膜IIIに含まれる光半導体ナノチューブは、チューブ厚みが1〜10nmの範囲内にあるものであり、特にチューブ厚みが3〜6nmの範囲内にあるものが好ましい。また、チューブ径(空隙部を含むチューブ垂直断面全体の径)、チューブ長さ(チューブの長手方向の長さ)は特に制限はないが、チューブ径が5〜80nm、チューブ長さが5〜1000nm程度であることが好ましい。
なお、本発明において、チューブ厚み、チューブ径、チューブ長は、透過型電子顕微鏡で光半導体ナノチューブを観察したときの、結晶部分における厚み、径、長さの平均値を意味する。
【0090】
光半導体ナノチューブの構成材料は、バンドギャップが3.4eV以下の光半導体の中で、特にバンドギャップの価電子帯が酸素の電子軌道で形成されており、かつ空気、水あるいは何かしらの有機物を分解するに足る酸化力を有し得るエネルギー順位にありながら、バンドギャップの導電帯が空気や水などを還元できる充分な還元力を持つ半導体を含んでなるものであることが好ましい。
この様な光半導体材料としては、結晶質酸化チタン、結晶質酸化タングステン、結晶質酸化亜鉛などを含んでなるものを挙げることができ、これらの中で、結晶質酸化チタンを含んでなるものが好ましい。
結晶質酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の何れの結晶質酸化チタンであってもよく、あるいは、上記結晶質酸化チタンであって結晶欠陥や結晶歪みを内包するものでもよく、これ等の結晶質酸化チタンを2種以上組み合わせたものであってもよい。
【0091】
酸化チタンナノチューブの原子配列は基本的にはアナターゼ型に類する周期構造を有しており、チューブの厚みが3〜5原子層レベル(3〜5nm程度)と、一方向のみではあるが5nm未満という、本発明の光触媒膜IIの粒径と同程度の微小なサイズを有している。
そこで発明者等は、分光光学的な手法を用い、親水化挙動の波長依存性を詳細に調査した結果、驚くべきことに、これらの材料が、光触媒膜IIを構成する5nm程度の微小なナノ酸化チタン結晶と同程度の親水化特性を示すことを見出した。すなわち、光触媒膜IIに含有される光半導体粒子のように、結晶のあらゆる方向に対して1〜10nmの微小な構造が必要なわけではなく、1部(チューブの厚み)のみでも10nm以下の微小なサイズ構造が存在すれば、その他のサイズ(チューブの直径や長手方向長さ)は巨大であっても所望の親水化特性を示すことを見出し、本知見に基づいて、本発明の光触媒IIIを完成させたものである。
【0092】
本発明の光触媒膜IIIは、少なくとも一方の主表面におけるチューブ厚みが1〜10nmの範囲内にある光半導体ナノチューブの含有割合が3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
【0093】
本発明の光触媒膜IIIは、バインダー成分をさらに含んでもよく、具体的には、光触媒含有液を有機基材に塗布する場合に、耐候性の良いバインダーと混合して成膜することが好ましい。
耐候性の良いバインダーとしては、例えばアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アルキル金属アルコキシドの部分加水分解・重縮合物等を挙げることができる。またUV吸収剤やラジカル補足剤などを含有させて耐候性を向上させた各種有機系・無機系バインダーも使用することが可能である。
【0094】
本発明の光触媒膜IIIは、その膜の両主表面において、光半導体ナノチューブを主成分として含有してもよいが、一方の主表面のみが光半導体ナノチューブを主成分として含有してもよい。この場合、光半導体ナノチューブを主成分として含有する面を外部への露出面として使用することにより、光触媒膜として利用することが可能となる。
【0095】
本発明の光触媒膜IIIは、光半導体結晶化物以外の金属化合物系微粒子をさらに含んでなるものであってもよく、光半導体結晶化物以外の金属化合物系微粒子としては、シリカ系微粒子が好ましい。本発明の光触媒膜IIIがシリカ系微粒子を含む場合、塗膜の強度や硬度を向上させる作用の他、屈折率の調整効果や暗所保持時においても超親水性維持性能を持続させる効果を奏し、好適である。
シリカ系微粒子としては、コロイダルシリカが好ましく、このコロイダルシリカは、高純度の二酸化ケイ素(SiO2)を水またはアルコール系溶剤に分散させてコロイド状にしたものであって、平均粒子径が、通常1〜200nm、好ましくは5〜50nmの範囲にあるものである。
【0096】
光触媒膜IIIの膜厚は、特に制限されないが、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、100nm〜10μm以下であることがさらに好ましい。
【0097】
本発明の光触媒膜IIIは、本発明の光触媒膜Iの性質を有するものであることが好ましい。
【0098】
本発明の光触媒膜IIIは、太陽光照射時における水に対する限界接触角が20度未満であるものが好ましく、10度以下であるものがさらに好ましい。
【0099】
また、本発明の光触媒膜は、3mW/cm2の人工太陽光照射時におけるメチレンブルーの分解速度が、塗布したメチレンブルーの最大吸収波長における吸光度の低下速度(分解活性)ΔABS/minで0.1以下であるものが好ましく、0.05以下であるものがより好ましく、0.01以下であるものがさらに好ましく、0.0015以下であるものがさらに好ましい。
【0100】
上記水に対する接触角、メチレンブルーの分解速度は、例えば、結晶質酸化チタン等からなる光半導体ナノチューブ結晶の長さや含有割合を調整することにより制御することができる。
なお上記水に対する接触角、メチレンブルーの分解活性の評価方法は、本発明の光触媒膜IIと同様であり、同法の詳細については後述する。
【0101】
次に、本発明の光触媒膜IIIを製造する方法について説明する。
本発明の光触媒膜IIIを構成する光半導体ナノチューブを製造する方法としては、結晶性酸化チタン粉末を高温・高圧下で所定時間アルカリ処理することによって製造する方法を挙げることができる。
原料として用いられる結晶性酸化チタン粉末を構成する結晶性酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型またはブルッカイト型のいずれか単相からなるのものであってもよいし、これらを2種以上含む混相からなるものであってもよい。小径なチューブ構造を効率よく製造するためには、結晶性酸化チタン粉末として、ルチル型結晶とアナターゼ型結晶の混相からなるものが好ましく、ルチル型結晶とアナターゼ型結晶の混相からなるものとしては、体積比(ルチル型/アナターゼ型)が20/80〜80/20の範囲にあるものがより好ましい。
【0102】
結晶性酸化チタン粉末の粒径は20nm以上が好ましい。製造方法にもよるが、粒径が20nm未満では得られる光半導体ナノチューブにおいて好適なチューブ形状を形成しにくいためである。
結晶性酸化チタン粉末のアルカリ処理は、密閉容器中に封入した状態で、所定時間、100℃〜180℃程度の温度に加熱しつつ行うことが好ましい。
【0103】
アルカリ処理に用いるアルカリ溶液としては、NaOH水溶液等を挙げることができる。アルカリ溶液としてNaOH水溶液を用いる場合、その濃度は1N〜20N程度であることが好ましい。
【0104】
加熱温度が180℃超であると、中空部を有さないナノロッド形状の酸化チタンが形成されることがあり、ナノロッド形状の酸化チタンは、そのバンドギャップが3.4eV未満になるため、所望の親水化特性を得ることができなくなる。また、加熱温度が100℃未満であると、光半導体ナノチューブの生成効率が悪化し、加熱時間の適切な調整が必要になる等の問題が生じる。
加熱時間は、原料や加熱温度によって変化するため一概に規定することはできないが、例えば180℃で処理する場合であれば、20時間を大きく超えることが好ましい。
【0105】
上記アルカリ処理後の反応液は、次いで、酸で中和し、さらに酸性領域下に曝して解繊処理した後に、分散剤と共に再び中和することが好ましい。
上記分散剤として好適なものとしては、特に限定はないが、例えばテトラ(n−ブチル)アンモニウム水酸化物を挙げることができる。また解繊しやすいようにチューブの長さを適切な長さにすることが好ましい。
このようにして、本発明の光触媒膜IIIを構成する光半導体ナノチューブを得ることができる。得られる光半導体ナノチューブのチューブ径やチューブ長さは、原料や処理方法によって調整できるが、さらに超音波処理などによって、チューブ長さを短く調整することもできる。超音波処理は、アルカリ処理工程後、解繊処理工程前に行うのが好ましい。
【0106】
本発明の光触媒膜IIIを製造する方法においては、上記に様にして得られた光半導体ナノチューブ分散液に、さらに耐候性の良いバインダーを混合した混合液を、塗布に適した粘度に調整することによって塗工液を得ることができる。
耐候性の良いバインダーとしては、例えばアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アルキル金属アルコキシドの部分加水分解・重縮合物等を挙げることができる。またUV吸収剤やラジカル補足剤などを含有させて耐候性を向上させた各種有機系・無機系バインダーも使用することができる。
【0107】
また上記塗工液は、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて各種添加剤、フィラー、顔料等を含んでもよい。上記添加剤としては、例えば、金属化合物系微粒子をあげることができる。金属化合物系微粒子としては、シリカ系微粒子が好ましい。塗工液中にシリカ系微粒子が含まれることにより、得られる光触媒膜の強度や硬度を向上させる作用の他に、屈折率の調整効果や暗所保持時においても超親水性維持性能を持続させる効果を奏する。当該シリカ系微粒子としては、コロイダルシリカが好ましい。
このコロイダルシリカは、高純度の二酸化ケイ素(SiO2)を水またはアルコール系溶剤に分散させてコロイド状にしたものであって、平均粒子径が、通常1〜200nm、好ましくは5〜50nmの範囲にあるものである。シリカ系微粒子としては、シリコンアルコキシドの加水分解縮合物も考えられるが、シリコンアルコキシドの加水分解縮合物では、反応が終結していない場合があり、その場合、水で溶出されやすく、それを含む光触媒膜は耐水性が劣ってしまう。一方、コロイダルシリカは、反応終結微粒子であるため、水で溶出されにくく、それを含む光触媒膜は、耐水性が良好なものとなる。
【0108】
本発明の光触媒膜IIIを製造する方法においては、上述のようにして得られた塗工液を基材上に塗布した後、溶媒を揮散させて塗膜を形成させることが好ましい。
【0109】
塗工液を塗布する基材としては、有機基材、ガラスやセラミックス系材料等からなる無機基材、金属基材等を挙げることができる。
有機基材としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。無機基材としては、シリカ系ガラス材料、陶磁器材料、タイル、その他金属酸化物系焼結物などからなる基材を挙げることができる。また、金属基材としては、アルミ、銀、銅、鉄鋼物や、ステンレスなどの合金材料などからなる基材を挙げることができる。
【0110】
これらの有機基材、無機基材、金属基材には、本発明に係る光触媒膜との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより予め表面処理を施してもよい。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
【0111】
塗工液を基材に塗布する方法としては、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、フローコート、刷毛塗り等を挙げることができる。
塗工液は、乾燥後の塗膜厚さが50nm以上になるように塗布することが好ましく、100nm以上になるように塗布することがより好ましく、100nm〜10μmになるように塗布することがさらに好ましい。
【0112】
塗工液を塗布した後、溶媒を揮散する乾燥条件は特に制限されないが、例えば、常温〜500℃で10秒〜数日間加熱処理することにより行われる。
【0113】
得られた塗膜表面には、さらに酸化法による表面処理を施すことで、暗所保持時において超親水性維持性能を持続させる効果を奏することができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。特にバインダーにアルキルシリコンアルコキシドの部分加水分解・重縮合物を選択した場合においては、上記表面処理によっても、コロイダルシリカを添加した場合と同様に、暗所保持時において高い超親水性維持性能を持続させる効果が得られる。
【0114】
次に、本発明の光触媒膜の別態様(以下、光触媒膜IVという)について説明する。
光触媒膜IVは、光半導体結晶化物として、シート厚みが0.5〜2.0nmの範囲内にある金属イオンまたは金属錯体担持光半導体ナノシートを少なくとも一方の主表面に含有することを特徴とするものである。
【0115】
光触媒膜IVにおいて、金属イオンまたは金属錯体担持光半導体ナノシートを構成する光半導体ナノシートとは、光半導体材料からなる厚みがナノサイズのシート状物を意味し、このような光半導体ナノシートとしては、例えば、特開2001-270022号公報に記載されている酸化チタンナノシート等が知られている。金属イオンまたは金属錯体担持光半導体ナノシートは、この光半導体ナノシートに金属イオンまたは金属錯体を担持させたもので、シート厚みが0.5〜2.0nmの範囲内にあるものが好ましい。
なお、本発明において、シート厚みとは、透過型電子顕微鏡で光半導体ナノシートを観察したときの、結晶部分における厚みの平均値を意味する。
【0116】
金属イオンまたは金属錯体担持光半導体ナノシートを構成する光半導体としては、バンドギャップの価電子帯が酸素の電子軌道で形成されており、かつ空気、水あるいは何かしらの有機物を分解するに足る酸化力を有し得るエネルギー順位にある、バンドギャップが3.5eV以上の光半導体の中で、その表面に金属イオンまたは金属錯体を担持させることによってこの金属イオンまたは金属錯体を還元サイトとして機能させるものであって、光半導体の価電子帯上端のエネルギー順位と金属イオンまたは金属錯体の水、あるいは空気の還元に関するエネルギー順位との差を3.4〜3.5eVとした、酸化還元順位が光半導体の価電子帯よりもむしろ導電帯に近い位置にあるものが好ましい。
【0117】
この様な光半導体材料としては、結晶質酸化チタン、結晶質酸化タングステン、結晶質酸化亜鉛などを含んでなるものを挙げることができ、これらの中で、結晶質酸化チタンを含んでなるものが好ましい。結晶質酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の何れの結晶質酸化チタンであってもよく、あるいは、上記結晶質酸化チタンであって結晶欠陥や結晶歪みを内包するものでもよく、これ等の結晶質酸化チタンを2種以上組み合わせたものであってもよい。
【0118】
また、光半導体ナノシートに担持する金属イオンあるいは金属錯体としては、銅イオン等を挙げることができる。
【0119】
酸化チタンナノシートの原子配列は基本的にはアナターゼ型に類する周期構造を有しており、シート厚みが1原子層レベル(1nm程度)であって、本発明の光触媒膜IIの粒径や光触媒IIIのチューブ厚みと同様にnmサイズである。
しかしながら、本発明者等が分光光学的な手法を用い、親水化挙動の波長依存性を詳細に調査した結果、酸化チタンナノシートでは、シート厚みが1nm程度とより薄いものであるため、例えば殺菌灯(約254nm)照射下では光励起親水化性を発現するが、太陽光(300nm以上)照射下では十分な光励起超親水化性を発現するとは必ずしも言い難い。
【0120】
そこで本発明者等は、上記光半導体ナノシートの吸収波長をより長波長側にシフト(レッドシフト)させ、太陽光源照射下で光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された新規な光触媒膜を得るために種々検討したところ、光半導体ナノシートに金属イオンまたは金属錯体をドープして、その酸化還元順位が結晶質酸化チタンの価電子帯よりもむしろ導電帯に近い位置にある金属イオンまたは金属錯体を光半導体に担持させることにより、所望の太陽光波長域において、光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された新規な光触媒膜IVを提供し得ることを見出した。
【0121】
上記レッドシフトさせる方法としては、例えば、結晶質酸化チタンの酸素のサイトに窒素や硫黄をドープする方法も考えられるが、この方法ではバンドギャップの価電子帯の最上部が酸素以外の元素の電子軌道で形成されることとなり、光応答性が低下することに加え、その製法上、結晶質酸化チタンナノシートが巨大な結晶に成長してしまう。また、Pt錯体を結晶質酸化チタンに担持する方法も考えられるが、Pt錯体の酸化還元電位は結晶質酸化チタンの導電帯よりもむしろ価電子帯に近い位置にあり、Pt錯体を担持した結晶質酸化チタンでは、光励起したPt錯体から結晶質酸化チタンの導電帯に電子励起する光励起機構が発現するようになり、バンドギャップの価電子帯が酸素の電子軌道で形成されないことになるため、光励起超親水化現象が起きにくくなると考えられる。
【0122】
光触媒膜IVは、金属イオンまたは金属錯体担持光半導体ナノシートの含有割合が3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。
【0123】
本発明の光触媒膜IVは、さらにバインダー成分を含んでもよく、具体的には、光触媒含有液を有機基材に塗布する場合に、耐候性の良いバインダーと混合して成膜することが好ましい。
耐候性の良いバインダーとしては、例えばアクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、アルキル金属アルコキシドの部分加水分解・重縮合物等を挙げることができる。またUV吸収剤やラジカル補足剤などを含有させて耐候性を向上させた各種有機系・無機系バインダーも使用することができる。
【0124】
光触媒膜IVは、その膜の両主表面において、金属イオン担持光半導体ナノシートを主成分として含有してもよいが、一方の主表面のみが金属イオン担持光半導体ナノシートを主成分として含有してもよい。この場合、金属イオン担持光半導体ナノシートを主成分として含有する面を外部への露出面として使用することにより、光触媒膜として利用することが可能となる。
【0125】
光触媒膜IVは、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて各種添加剤、フィラー、顔料等を含ませてもよい。添加剤としては、例えば金属系微粒子を挙げることができ、金属化合物系微粒子としてはシリカ系微粒子が好ましい。光触媒膜IVがシリカ系微粒子を含む場合、塗膜の強度や硬度を向上させる作用の他、屈折率の調整効果や暗所保持時においても超親水性維持性能を持続させる効果を奏するため、好適である。シリカ系微粒子としては、コロイダルシリカが好ましく、このコロイダルシリカは、高純度の二酸化ケイ素(SiO2)を水またはアルコール系溶剤に分散させてコロイド状にしたものであって、平均粒子径が、通常1〜200nm、好ましくは5〜50nmの範囲にあるものである。
【0126】
光触媒膜IVの膜厚は、特に制限されないが、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、100nm〜10μmであることがさらに好ましい。
【0127】
光触媒膜IVは、本発明の光触媒膜Iの性質を有するものであることが好ましい。
【0128】
光触媒膜IVは、太陽光照射時における水に対する限界接触角が20度未満であるものが好ましく、10度以下であるものがさらに好ましい。
【0129】
また、光触媒膜IVは、3mW/cm2の人工太陽光照射時におけるメチレンブルーの分解速度が、塗布したメチレンブルーの最大吸収波長における吸光度の低下速度(分解活性)ΔABS/minで0.1以下であるものが好ましく、0.05以下であるものがより好ましく、0.01以下であるものがさらに好ましく、0.0015以下であるものがさらに好ましい。
【0130】
上記水に対する接触角、メチレンブルーの分解速度は、例えば、結晶質酸化チタン等からなる光半導体ナノシート結晶の長さや含有割合を調整することにより制御することができる。
なお上記水に対する接触角、メチレンブルーの分解活性の評価方法は、本発明の光触媒膜IIと同様であり、同法の詳細については後述する。
【0131】
次に、本発明の物品について説明する。
本発明の物品は、基材の表面に、本発明の光触媒膜または本発明の方法により得られた光触媒膜を有することを特徴とするものである。
【0132】
さらに、本発明の物品は、本発明の光触媒膜の機能を害さない範囲で、前記光触媒膜の表面に、厚みが500nm以下である機能膜をさらに設けることができる。
上記機能膜の機能としては、暗所での親水保持性、導電性、帯電性、ハードコート性、反射特性制御、屈折率制御などが挙げられる。また、上記機能膜の具体的な構成成分としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ITO、酸化亜鉛などの金属酸化物系化合物が挙げられる。特に、太陽光が当たらない夜間において、親水性を保持するためなどを目的として、シリカを含んでなるものであることが好ましい。
【0133】
表面に設けられる本発明の光触媒膜は、太陽光源照射下において、超親水性付与機能を有するが、有機物に対する分解活性が抑制されたものであるため、従来必要とされていた活性遮断層を必要とすることなく、直接有機基材上に設けることができる。
【0134】
このため、本発明の物品としては、例えば、防曇性、防滴性、防汚性、防霜性、滑雪性付与を目的し、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材に設けたものを挙げることができる。
【0135】
これらの有機基材は、本発明に係る膜との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
【0136】
また、本発明において、有機基材としては、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材の表面に有機系塗膜を有するものも包含する。
【0137】
なお、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材表面にも設けられることは言うまでもない。
【0138】
具体的には、高速道路の防音壁、道路反射鏡、各種反射体、街路灯、自動車をはじめとする車両のボディーコートやサイドミラーあるいはウインド用フィルム、窓ガラスを含む建材、道路標識、ロードサイド看板、冷凍・冷蔵用ショーケース、各種レンズ類やセンサー類などを挙げることができる。
【0139】
また、本発明の物品としては、農業用フィルムを挙げることもできる。農業用フィルムは、近年、ハウス栽培やトンネル栽培に盛んに用いられるようになってきたものであり、このような栽培においては、農業用フィルムを展張使用する際、水滴付着による生じる曇りを防止するために、展張後に、防滴剤(防曇剤)を内面にスプレーしていたが、この防滴剤(防曇剤)は、短期間で防滴効果が失われるものであった。これに対して、本発明の光触媒膜を表面に有する農業用フィルムは、長期間親水性を維持し得るものであるため、再塗布を必要とせずに農作業を継続することが可能となる。
【0140】
次に、本発明の親水化方法について説明する。
本発明の親水化方法は、本発明の物品を太陽光照射下で使用することを特徴とするものである。
【0141】
上述したように、本発明の物品は、超親水性付与機能を有するが、分解活性が抑制された光触媒膜を有するものであるため、有機系基材を浸食することなく、物品の表面を親水化することが可能になる。
【実施例】
【0142】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0143】
なお、各種の評価・測定方法を以下に示す。
(1)カーボンアーク式サンシャインウエザーメーター(SWM)条件
装置名 :スガ試験機(株)製「サンシャインウエザーメーターS300」、
設定条件:照度255±55W/m2、照射光波長域250〜1200nm、
サイクル:照射102分間、照射+降雨18分間の2時間1サイクル、
ブラックパネル温度:63±3℃、
相対湿度:55±5%RH
【0144】
(2)恒温恒湿処理
装置名 :ヤマト科学(株)製「IG−42M」
【0145】
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
(i)試料作成(樹脂基板の場合):適当な大きさに切出し、樹脂に包埋した後、ダイアモンドナイフを用いてミクロトームにより断面の超薄切片を切出し、マイクログリッド付きCuメッシュへ載せてTEM試料とした。
使用装置:ミクロトーム:Leica製「ウルトラミクロトームULTRACUT UCT」
ナイフ:DiATONE製「ダイヤモンドナイフ」
(ii)試料作成(ガラス基板の場合):試料を切り出し、エポキシ樹脂を用いてダミー基板および補強リングと接着、研磨、ディンプリングし、最後にArイオンミリングを行い、TEM試料とした。
TEM:日本電子製「JEM−2010型 透過型電子顕微鏡」加速電圧200kV
【0146】
(4)結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶の数および存在割合測定
<結晶数>
断面TEM写真(倍率:400万倍、観察面積:2500nm2)中に存在する結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶の数を算出。
<存在割合>
断面TEM写真(倍率:400万倍、観察面積:2500nm2)中に観察される全結晶数に対する結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶数の割合を算出。
【0147】
(5)表面における結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの含有割合測定
断面TEM写真(倍率:400万倍、観察面積:2500nm2)中に存在する結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの断面積割合を算出。
(6)制限視野回折(SAD)測定
TEM(日本電子製「JEM−2010型 透過型電子顕微鏡」加速電圧200kV)を使用し、カメラ長50cm、分析領域65〜150nmφで測定。
【0148】
(7)親水化特性および親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長の求め方
暗所保持下で十分に疎水下させたサンプルについて、各種光源を使用し、所定波長の紫外線を照射したのち、接触角計(エルマ販売(株)製「G−1−1000」)で純水に対する接触角の経時変化を追跡した。親水化速度は、光照射時間(min)に対して水接触角値の逆数をプロットし、その直線近似線の傾きを取ることによって求めた。
なお、殺菌灯及び水銀ランプは、その照射光スペクトルの半値幅が15nm以下のものを使用し、適当なバンドパスフィルターを介して、所定の波長の紫外光を取り出した。またキセノン光源には、半値幅が15nm以下の各種バンドパスフィルターを介在させることにより、半値幅15nm以下の所定の波長の紫外光を取り出した。
それぞれの照度は、各照射主波長のフォトン数が概ね同一(およそ3.7×1015 quanta/cm2/s)となるように設定した。
各波長の紫外線照射に用いた光源と波長の種類(一部、バンドパスフィルターと組み合わせて使用)とそれぞれの照度:
各波長の紫外線照射に用いた光源と波長の種類(一部、バンドパスフィルターと組み合わせて使用)とそれぞれの照度を以下の表1に示す。
上記の様にして取り出した所定波長の紫外光のうち、300nm以上の波長の紫外光を照射して得られた親水化速度と照射主波長の関係から累乗関数近似線を求め、当概近似線において親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を求めた。なお、親水化速度2(1/deg/min/105)は、種々の実測結果から、明確に接触角低下の経時変化が認められる最下限の値と判断した値であり、また、上記波長を求めるために採用した親水化速度の値の有効数字は6桁とし、それ以下の値は四捨五入した。
【0149】
【表1】

【0150】
(8)メチレンブルー分解活性評価
<サンプル調製>
メチレンブルー0.1267gに対し100mLの純水の割合で作成したメチレンブルー水溶液に、サンプルを1時間浸漬させる。この時、サンプル表面にメチレンブルーが均質に付着するために、サンプル表面は10°以下程度に親水化させておくのが好ましい。
親水化していない場合は、BLBあるいは殺菌灯ランプなどの適当な光源を用い紫外線を照射し超親水化させておけばよい。
その後、サンプルを素早くキムタオル上に引き上げ、サンプル表面が乾いたら、裏面に付着したメチレンブルーを水およびメタノールを使用してきれいに拭き取る(以上の操作は、出来る限り遮光下で行うのが好ましい)。
その後、遮光下で2時間真空乾燥させておく。
<評価方法>
(a)メチレンブルーを吸着させたサンプルを紫外可視分光光度計にセットし、光照射前の吸収スペクトルを測定する。この時、メチレンブルーの吸収スペクトルのピークトップ(通常585〜615nm)の吸光度は0.15±0.10前後のほぼ同等の値を示す様にしておく。
(b)その後、人工太陽照明灯でトプコン(株)製照度計「UVR−2/UD−36」で照度を測定したときの値が3mW/cm2の値を示す条件にて紫外線を含む光を30秒間照射する。
(c)(b)の操作を、紫外線照射の累積時間が、1分後、2分後、3分後、5分後、7分後、10分後、15分後、20分後ごとに繰り返す。
(d)各測定点ごとに吸収スペクトルのピークトップ(通常585〜615nm)の吸光度を読み取る。
(e)各測定点のピークトップの吸光度と光照射前の吸光度との差(ΔTABS)を求め、かつ、結晶質酸化チタンを生成させる以前のサンプル(ブランク)も併せて用意しておき、ブランクのABSの減衰(ΔBLABS)を自然退色分とみなし、結晶質酸化チタンが生成したサンプルのΔTABSから当該ΔBLABSを差し引いた値ΔABSを正味の光触媒反応によるMBの分解とする。
その後、各測定点の正味のΔABSを光照射時間に対してプロットし、直線的にプロットが変化している範囲の傾きを取り、メチレンブルー分解速度とした。
<紫外可視分光光度計>島津製作所製「UV−2100」
<測定条件>測光モード:吸光度、測定波長:500nm〜700nm、スキャン速度:Fast、スリット幅:2nm、サンプリングピッチ:2nm、ベースライン:Air
【0151】
(9)AFM測定
使用装置:(株)キーエンス製 ナノスケールハイブリッド顕微鏡「VN−8010」
測定条件:タッピングモード(DMF) スキャンサイズ30×30μm サンプリング数512
測定した表面粗さパラメーターの具体的な説明は以下の通り。
平均粗さRa:平均面に対する平均粗さ
表面積S:30μm角視野(みかけの表面積は900μm2
比表面積Sr:S/900
一般に、粗い表面では、以下のウェンツェル式で表記されるように、その水接触角が見かけ上低くなることが報告されている。
COSθ=Sr×COSθ0
(但し、θ0は平滑面の水接触角、Srは理論上の平滑面の表面積S0に対する実表面積Sの比)
また、光触媒反応は表面反応であることから、一般に表面積が大きい方が分解活性に有利に働く。
平滑な表面(概ねSr=1.1以下)を有する光触媒膜で観測される親水化現象や分解活性は、純粋に光触媒膜自身の性能を示す値が得られると考えられる。
【0152】
(10)傾斜性評価
アルバックファイ(株)製、XPS装置「PHI−5600」を用い、アルゴンスパッタリング(4kV)を3分間隔で施して膜を削り、膜表面の炭素原子と金属原子の含有率をX線光電子分光法により測定した。
【0153】
合成例1
チタンアルコキシドの加水分解縮合液の合成
エチルセロソルブ149gに、チタンテトライソプロポキシド(商品名:A−1、日本曹達(株)製)75.7gを攪拌しながら滴下し、溶液(A)を得た。この溶液(A)にエチルセロソルブ58.3g、蒸留水4.55g、60質量%濃硝酸12.6gの混合溶液を攪拌しながら滴下し溶液(B)を得た。溶液(B)をその後、30℃で4時間攪拌することによってチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を得た。
【0154】
合成例2
耐候プライマー付PETフィルムの作成
紫外線吸収剤を練り込んだポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(帝人デュポンフィルム製:HB−3、厚み50μm)の片面に、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)がハイブリッドされた紫外線吸収性コーティング剤(日本触媒(株)製、ユーダブルシリーズUV−G301)100質量部とイソシアネート系硬化剤(住友バイエルウレタン(株)製、デスモジュールN3200)を12質量部の割合で混合した酢酸エチル溶液をドライ膜の厚みが6μmになるようにマイヤーバーで塗布したのち、熱架橋させて耐候プライマー付PETフィルム(E)を作成した。
【0155】
実施例1(チタンアルコキシドの加水分解物から成る薄膜(膜厚50nm))
(1)合成例1で得たチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)をエチルセロソルブで質量比で2倍に希釈し、チタンアルコキシドの加水分解縮合液(L)を得た。
チタンアルコキシドの加水分解縮合液(L)をアセトンならびにメタノールで十分に脱脂・洗浄した3mm厚のソーダライムガラス上に塗布したのち、ドライ厚みが50nmになるようにスピンコーターを用いて塗布して試験サンプルを得た。なお、この場合、チタンアルコキシドの加水分解縮合物は、理論上1m2当たり0.13gが塗布されている計算になる(チタンアルコキシドの加水分解縮合物の比重2.6で計算)。
(2)その後、カーボンアーク式サンシャインウエザーメーター(SWM)条件により、60サイクル(120時間)繰り返して暴露した。透過型電子顕微鏡写真を図2に示す。
図2より膜中に2〜3nm径の微結晶(結晶質酸化チタン粒子)が非晶質酸化チタン中に確認された。また、制限視野回折像から、アナターゼ型酸化チタンの主要な格子面(101、200)で指数付けすることができた。このとき、観察面(50nm×50nm=2500nm2)における微結晶粒の数は24個であった。また、観察面における全結晶質酸化チタン数に占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶数の割合は100%であった。また、光触媒膜主表面における晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの含有割合は4%であった。
(3)暴露後のサンプルを用い、各種光源を使用して、紫外線照射に伴う親水化挙動を追跡した。図3に示す様に、照射主波長が254nm、313nmの場合は徐々に水接触角が低下したが、334nm、365nmではほとんど変化は見られなかった。親水化速度を求めたところ、短波長側からそれぞれ0.00176、0.00005、0.00000、0.00000(1/度)/minであった。
なお、300nm以上の紫外光を照射した時の親水化速度と照射主波長の関係は、1点のみしか得られなかったため、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を求めることができなかったが、その測定結果から、330nm以下にあると推定された。
また、同サンプルを使用して、暗所に保管することにより疎水化させたのち、人工太陽照明灯を照射したところ、図4に示す様に、照射によって徐々に水接触角が低下した。親水化速度を求めたところ、0.00020(1/度)/minであった。
さらに、同サンプルを使用して、人工太陽照明灯を使用してメチレンブルー分解速度を測定したところ、ΔABS/minは0.00020であった。
当該サンプルのAFM測定による表面粗さ(Ra)と表面積(μm2)はそれぞれ0.34nmならびに900.080μm2であり、比表面積Srは1.00009であった。これらの物性値を、表2に示す。
(4)また、上記(1)で得たものと同様の試験サンプルを(2)において、SWMで、150サイクル(300時間)、450サイクル(900時間)、750サイクル(1500時間)それぞれ繰り返して暴露したときの各試験サンプルの透過型電子顕微鏡写真より、それぞれ、2〜3nm(150サイクル)2〜5nm(450サイクル)、2〜8nm(750サイクル)の径を有する微結晶(結晶質酸化チタン粒子)が確認された。それぞれ、指数付けできた格子面、観察面(50nm×50nm=2500nm2)における微結晶粒の数と観察面における全結晶数に対する結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶数の割合を表2に示す。
また、暴露後のサンプルを用い、上記と同様にして求めた、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を表2に示す。さらに、上記(3)と同様の方法で、光源や照射時間を変化させたときの各サンプルにおける親水化挙動を図4〜図7に示すとともに、親水化速度(1/度)/h、メチレンブルー分解速度(ΔABS/分)、表面粗さ(Ra)、比表面積Srを測定した結果を表2に示す。
このように、後述する比較例1と対比して、本発明の結晶質酸化チタンは、一般的なアナターゼ型酸化チタンよりも短波長側で応答することが明らかであり、酸化チタン表面に特段の処理を必要とせず、太陽光源照射下において光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された光触媒体であることが明らかである。
【0156】
実施例2(チタンアルコキシドの加水分解物から成る薄膜(膜厚200nm))
(1)チタンアルコキシドの加水分解物からなる薄膜をドライ厚みが200nmになるように形成した以外は、実施例1(1)と同様に処理して、試験サンプルを得た。なお、この場合、チタンアルコキシドの加水分解縮合物は、理論上1m2当たり0.52gが塗布されている計算になる(チタンアルコキシドの加水分解縮合物の比重2.6で計算)。
(2)その後、SWMで、150サイクル(300時間)繰り返して暴露したときの透過型電子顕微鏡写真を図8に示す。図8より、2〜5nmの径を有する微結晶(結晶質酸化チタン粒子)が非晶質酸化チタン中に確認された。また、制限視野回折像から、アナターゼ型酸化チタンの主要な格子面(101、004、200、211)で指数付けすることができた。このとき、観察面(2500nm2)における微結晶粒の数は65個で、観察面における全結晶質酸化チタン数に占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶数の割合は100%であった。また、光触媒膜主表面における結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの含有割合は33%であった。
(3)また、暴露後のサンプルを用い、各種光源を使用して、紫外線照射に伴う親水化挙動を追跡した。図9に示す様に、照射主波長が254nm、313nmの場合は徐々に水接触角が低下したが、334nm、365nmではほとんど変化は見られなかった。親水化速度を求めたところ、短波長側からそれぞれ0.00078、0.00018、0.00001、0.00000(1/度)/minであった。
300nm以上の紫外光を照射した時の親水化速度と照射主波長の関係から、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を求めたところ、328nmであった。また、波長300〜328nm全域にわたって、親水化速度が2(1/deg/min/105)以上であった。
また、同サンプルを使用して、暗所に保管することにより疎水化させたのち、人工太陽照明灯を照射したところ、図10に示す様に、照射によって徐々に水接触角が低下した。親水化速度を求めたところ、0.00045(1/度)/minであった。
さらに、同サンプルを使用して、人工太陽照明灯を使用してメチレンブルー分解速度を測定したところ、ΔABS/minは0.00331であった。
当該サンプルのAFM測定による表面粗さ(Ra)と表面積(μm2)はそれぞれ0.27nmならびに900.049μm2であり、比表面積Srは1.00005であった。これらの物性値を、表2に示す。
(4)また、上記(1)で得たものと同様の試験サンプルを(2)において、SWMで、450サイクル(900時間)および750サイクル(1500時間)それぞれ繰り返して暴露したときの各試験サンプルの透過型電子顕微鏡写真より、いずれも2〜8nmの径を有する微結晶(結晶質酸化チタン粒子)が確認された。それぞれ、指数付けできた格子面、及び、観察面(50nm×50nm=2500nm2)における微結晶粒の数と、観察面における全結晶質酸化チタン数に占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶数の割合を表2に示す。
また、暴露後のサンプルを用い、上記と同様にして求めた、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を表2に示す。各サンプルにおいては、波長300〜360nmの少なくとも一部において親水化速度が2(1/deg/min/105)以上であった。
さらに、上記(3)と同様の方法で、光源や照射時間を変化させたときの各サンプルにおける親水化挙動を図10〜図12に示すとともに、親水化速度(1/度)/h、メチレンブルー分解速度(ΔABS/分)、表面粗さ(Ra)、比表面積Srを測定した結果を表2に示す。
【0157】
実施例3(チタンアルコキシドの加水分解物から成る薄膜(膜厚50nm))
(1)チタンアルコキシドの加水分解物からなる薄膜を合成例2で得た耐候プライマー付PETフィルム上に塗布した以外は、実施例1(1)と同様に処理して、試験サンプルを得た。なお、この場合、チタンアルコキシドの加水分解縮合物は、理論上1m2当たり0.13g/m2が塗布されている計算になる(チタンアルコキシドの加水分解縮合物の比重2.6で計算)。
(2)その後、SWMで、150サイクル(300時間)繰り返して暴露したときの透過型電子顕微鏡写真を図13に示す。図13より、膜中に2〜3nm径の微結晶(結晶質酸化チタン粒子)が非晶質酸化チタン中に確認された。また、制限視野回折像から、アナターゼ型酸化チタンの主要な格子面(101、200)で指数付けすることができた。このとき、観察面(50nm×50nm=2500nm2)における微結晶粒の数は23個、また、観察面における全結晶質酸化チタン数に占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶数の割合は100%であった。また、光触媒膜主表面における全結晶質酸化チタンの含有割合は4%であった。
(3)暴露後のサンプルを使用して、暗所に保管することにより疎水化させたのち、人工太陽照明灯を照射したところ、図14に示す様に、照射によって徐々に水接触角が低下した。親水化速度を求めたところ、0.00019(1/度)/minであった。
さらに、同サンプルを使用して、人工太陽照明灯を使用してメチレンブルー分解速度を測定したところ、ΔABS/minは0.00026であった。
当該サンプルのAFM測定による表面粗さ(Ra)と表面積(μm2)はそれぞれ3.55nmならびに901.294μm2であり、比表面積Srは1.00144であった。これらの物性値を、表2に示す。
このように、後述する比較例1と対比して、本発明の結晶質酸化チタンは、その結晶径から、一般的なアナターゼ型酸化チタンよりも短波長側で応答することが明らかであり、酸化チタン表面に特段の処理を必要とせず、太陽光源照射下において光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された光触媒体であることが明らかである。
【0158】
実施例4 (チタンアルコキシドの加水分解物から成る薄膜(膜厚50nm))
(1)合成例1で得たチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)をエチルセロソルブで質量比で2倍に希釈し、チタンアルコキシドの加水分解縮合液(L)を得た。
チタンアルコキシドの加水分解縮合液(L)をアセトンならびにメタノールで十分に脱脂・洗浄した3mm厚のソーダライムガラス上に塗布したのち、ドライ厚みが50nmになるようにスピンコーターを用いて塗布して試験サンプルを得た。なお、この場合、チタンアルコキシドの加水分解縮合物は、理論上1m2当たり0.13gが塗布されている計算になる(チタンアルコキシドの加水分解縮合物の比重2.6で計算)。
(2)その後、恒温恒湿処理条件により、恒温恒湿チャンバーで43℃・50%RHの条件で120時間処理したときの透過型顕微鏡写真を図15に示す。図15より、2〜6nm径の微結晶(結晶質酸化チタン粒子)が非晶質酸化チタン中に確認された。また、制限視野回折像から、アナターゼ型酸化チタンの主要な格子面(101、004、200、211)で指数付けすることができた。このとき、観察面(2500nm2)における微結晶粒の数は47個で、観察面における全結晶質酸化チタン数に占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶数の割合は100%であった。また、光触媒膜主表面における結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの含有割合は24%であった。
また、上記恒温恒湿処理後に、各種光源を使用して、紫外線照射に伴う親水化挙動を追跡したところ、図16に示す様に、照射主波長が254nm、313nmの場合は徐々に水接触角が低下したが、334nm、365nmではほとんど変化は見られなかった。親水化速度を求めたところ、短波長側からそれぞれ0.00159、0.00031、0.00006、0.00001(1/度)/minであった。
300nm以上の紫外光を照射した時の親水化速度と照射主波長の関係から、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を求めたところ、352nmであった。また、波長300〜352nmの全域において親水化速度が2(1/deg/min/105)以上であった。
(3)処理後のサンプルを使用して、暗所に保管することにより疎水化させたのち、人工太陽照明灯を照射したところ、図17に示す様に、照射によって徐々に水接触角が低下した。親水化速度を求めたところ、0.00033(1/度)/minであった。
さらに、同サンプルを使用して、人工太陽照明灯を使用してメチレンブルー分解速度を測定したところ、ΔABS/minは0.00140であった。
この結果から、実施例1〜3と同様に、加湿加熱処理によっても、一般的なアナターゼ型酸化チタンよりも短波長側で応答する酸化チタン化合物が生成していることが明らかである。
(4)当該サンプルのAFM測定による表面粗さ(Ra)と表面積(μm2)はそれぞれ0.20nmならびに900.55μm2であり、比表面積Srは1.00006であった。これらの物性値を表2に示す。
【0159】
比較例1 アナターゼ型酸化チタン含有光触媒膜の製造例
(1)エチルセロソルブ168.3gとノルマルプロパノール180.0gの混合溶液に、合成例1のチタンアルコキシドの部分加水分解縮合液(C)16.9gを添加し、その後、純水11.25gと60質量%硝酸0.48gとを混合した溶液をそこに滴下した。
続いて、アナターゼ型酸化チタン分散液(チタン工業(株)製、「PC−201」、TEM粒径:20nm、濃度:20.7質量%)を23.19g滴下したのち、30℃で1時間半攪拌して、アナターゼ型酸化チタン含有コーティング液(M)を作製した。コーティング液(M)に含まれる固形成分の質量比と体積分率を表3に示す。チタンアルコキシドの加水分解縮合物の比重は2.6とし、アナターゼ型酸化チタンの比重は3.9とした。
コーティング液(M)をアセトンならびにメタノールで十分に脱脂・洗浄した3mm厚の石英ガラス上に塗布したのち、ドライ厚みが45nmになるようにスピンコーターを用いて塗布してアナターゼ型酸化チタン含有膜を得た。この場合、アナターゼ型酸化チタンは、理論上1m2当たり0.13gが塗布されている計算になる。
(2)成膜後のサンプルを用い、一度、ブラックライト灯にて超親水化状態まで到達させ、その後、暗所に保管することにより疎水化させたのち、各種光源を使用して、紫外線照射に伴う親水化挙動を追跡した。図18に示す様に、照射主波長が334nm、365nmの場合でも徐々に水接触角が低下した。405nmの照射主波長では、ほとんど応答が見られなかった。親水化速度を求めたところ、短波長側からそれぞれ0.00238、0.00030、0.00001(1/度)/minであった。
300nm以上の紫外光を照射した時の親水化速度と照射主波長の関係から、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を求めたところ、386nmであった。
また、同サンプルを使用して、暗所に保管することにより疎水化させたのち、人工太陽照明灯を照射したところ、図19に示す様に、照射によって徐々に水接触角が低下した。親水化速度を求めたところ、0.00507(1/度)/minであった。
さらに、同サンプルを使用して、人工太陽照明灯を使用してメチレンブルー分解速度を測定したところ、ΔABS/minは0.01007であった。
当該サンプルのAFM測定による表面粗さ(Ra)と表面積(μm2)はそれぞれ1.78nmならびに900.49μm2であり、比表面積Srは1.00054であった。これらの物性値を表2に示す。
以上、実施例1〜4および比較例1における物性値をまとめて、表2に示す。
【0160】
【表2】

【0161】
【表3】

【0162】
表2より、実施例1〜実施例4における、結晶径が1〜10nmの範囲内にある酸化チタン化合物を主表面に主成分として含有する光触媒膜と、比較例1における結晶径が10nmを超える酸化チタン化合物を主表面に主成分として含有する光触媒膜とを対比すると、実施例1〜実施例4の酸化チタン化合物は、太陽光源照射下において光励起超親水性を示すが有機物に対する分解活性が抑制されており、透明性に優れるという効果を示すことが分かる。
【0163】
合成例3 有機成分の合成
2Lセパラブルフラスコに窒素雰囲気下でメチルイソブチルケトン700g、メタクリル酸メチル337.4g、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン42.8gを添加し、60℃まで昇温した。この混合溶液にアゾビスイソブチロニトリル3.32gを溶かしたメチルイソブチルケトン116.6gを滴下して重合反応を開始し、30時間攪拌して有機成分溶液(D)を得た。
【0164】
実施例5 コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機成分との傾斜膜(厚み100nm)
(1)エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(純度99%、和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で作成したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で作成した有機成分溶液(D)7.30g、メチルイソブチルケトン235.8g、エチルセロソルブ138.9g、上記記載の溶液(G)104.22g、およびコロイダルシリカ(商品名:スノーテックスIPA−ST、日産化学工業(株)製)13.9gの順番で混合し、その後、32℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機成分との傾斜膜塗工液(H)を作成した。傾斜膜塗工液(H)を2mm厚の無色透明アクリル板(三菱レーヨン製、アクリライトL)にスピンコートを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。なお、傾斜膜塗工液(H)の比重は0.87であり、全固形成分濃度は2.78質量%である。全固形成分濃度のうち、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の質量比はTiO2に換算して28.2%であるので、理論上、微結晶を生成しうるチタンアルコキシドの加水分解縮合物は1m2当たり0.068gが塗布されている計算になる。
(2)その後、カーボンアーク式サンシャインウエザーメーター(SWM)条件により、150サイクル(300時間)繰り返して暴露した。透過型電子顕微鏡写真を図20に示す。図20より膜中に2〜3nm径の微結晶(結晶質酸化チタン粒子)が非晶質酸化チタン中に確認された。一方、制限視野回折像からは明確な回折リングが確認できなかったため、微結晶を同定することはできなかった。これは、微結晶の濃度が低いことに起因すると考えられる。実施例1に例示されているように同じサイクル数だけ暴露したチタンアルコキシドの加水分解物からなる薄膜では、同等の結晶径を有する微結晶が指数付けできるほどに生成していることが確認されているが、これは結晶化阻害剤として使用している硝酸アルミニウムが含有されていないことに起因すると考えられる。つまり、硝酸アルミニウムの添加により、少なくとも微結晶生成の速度を調節可能であることを示唆している。なお、このとき、観察面(50nm×50nm=2500nm2)における微結晶粒の数は17個であった。また、観察面における全結晶質酸化チタン数に占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶数の割合は100%であった。また、光触媒膜主表面における結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの含有割合は3%であった。
(3)さらに、暴露後のサンプルを用い、各種光源を使用して、紫外線照射に伴う親水化挙動を追跡した。図21に示す様に、照射主波長が310nm、320nmの場合は徐々に水接触角が低下したが、334nm以上ではほとんど変化は見られなかった。親水化速度を求めたところ、短波長側からそれぞれ0.00008、0.00003、0.00001、0.00000(1/度)/minであった。
300nm以上の紫外光を照射した時の親水化速度と照射主波長の関係から、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を求めたところ、325nmであった。また、波長300〜325nmの全域において親水化速度が2(1/deg/min/105)以上であった。
また、同サンプルを使用して、暗所に保管することにより疎水化させたのち、人工太陽照明灯を照射したところ、図22に示す様に、照射によって徐々に水接触角が低下した。親水化速度を求めたところ、0.00011(1/度)/minであった。
さらに、同サンプルを使用して、人工太陽照明灯を使用してメチレンブルー分解速度を測定したところ、ΔABS/minは0.00004であった。
当該サンプルのAFM測定による表面粗さ(Ra)と表面積(μm2)はそれぞれ4.78nmならびに900.852μm2であり、比表面積Srは1.00095であった。これらの物性値を、表2に示す。
(4)上記(1)で得たものと同様の試験サンプルを(2)において、SWMで、450サイクル(900時間)繰り返して暴露したときの試験サンプルの透過型電子顕微鏡写真より、2〜5nmの径を有する微結晶(結晶質酸化チタン粒子)が確認された。指数付けできた格子面、及び、観察面(50nm×50nm=2500nm2)における微結晶の数と観察面における全結晶数に対する結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶数の割合を表2に示す。
また、暴露後のサンプルを用い、上記と同様にして求めた、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を表2に示す。さらに、上記(3)と同様の方法で、光源や照射波長を変化させたときの各サンプルにおける親水化挙動を図22、図23に示すとともに、親水化速度(1/度)/h、メチレンブルー分解速度(ΔABS/分)、表面粗さ(Ra)、比表面積Srを測定した結果を表2に示す。
このように、後述する比較例2と対比して、本発明の結晶質酸化チタンは、一般的なアナターゼ型酸化チタンよりも短波長側で応答することが明らかであり、酸化チタン表面に特段の処理を必要とせず、太陽光源照射下において光励起超親水性を示すが、有機物に対する分解活性が抑制された光触媒体であることが明らかである。
(5)図24には、当該サンプルのXPSデプスプロファイル結果を示す。図24に示す様に、当該サンプルは最表面にSiO2が位置し、その下部にTiが配置され、さらにその下部に有機成分由来のCが配置し、成分傾斜している様子が判る。
【0165】
比較例2 アナターゼ型酸化チタン含有膜の物性
(1)実施例5の傾斜膜塗工液(H)に含まれる酸化チタン化合物の含有率(体積分率)と同じ割合のアナターゼ型酸化チタンを含むコーティング液を次のように作製した。傾斜膜塗工液(H)に含まれる固形成分の質量比と体積分率を表4に示す。なお、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の比重は2.6とし、有機成分の比重は1.19とした。表4に示すように、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の体積分率は21%と算出された。そこで、アナターゼ型酸化チタンの体積分率が21%となるコーティング液(I)を以下の様にして作成した。
エチルセロソルブ35.99gとノルマルプロパノール40.3gの混合溶液に、合成例1のチタンアルコキシドの部分加水分解縮合液(C)6.211gを添加し、その後、純水5.447gと60質量%硝酸0.145gとを混合した溶液をそこに滴下した。続いて、アナターゼ型酸化チタン分散液(チタン工業(株)製、「PC−201」。濃度:20.7質量%。)を1.304g滴下したのち、最後にコロイダルシリカ(日産化学工業(株)製、スノーテックスIPA−ST。濃度:30質量%)を0.63g滴下し、33℃で30分間攪拌して、アナターゼ型酸化チタン含有コーティング液(I)を作製した。なお、当該コーティング液(I)に含まれる固形成分の質量比と体積分率は表5のようになる。なお、コーティング液(I)中にもチタンアルコキシドの加水分解縮合物を含有するが、成膜した直後の段階では完全にアモルファス状態で存在するため、この状態では光触媒活性を示さない。
当概コーティング液(I)を2mm厚の無色透明アクリル板(三菱レーヨン製、アクリライトL)にスピンコートを使用して、約16μmのウェット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。なお、傾斜膜塗工液(I)の比重は0.86であり、全固形成分濃度は1質量%である。全固形分濃度のうち、アナターゼ型酸化チタンの質量比は、30%であるので、理論上、アナターゼ型酸化チタンが、0.041g塗布されている計算になる。
(2)成膜後のサンプルを用い、一度、ブラックライト灯にて超親水化状態まで到達させ、その後、暗所に保管することにより疎水化させたのち、各種光源を使用して、紫外線照射に伴う親水化挙動を追跡した。図25に示す様に、照射主波長が365nmの場合でも徐々に水接触角が低下した。親水化速度を求めたところ、短波長側からそれぞれ0.00089、0.00044、0.00010、0.00007、0.00006(1/度)/minであった。
また、光照射後のサンプルを用い、上記と同様にして求めた、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を表2に示す。
また、同サンプルを使用して、暗所に保管することにより疎水化させたのち、人工太陽照明灯を照射したところ、図26に示す様に、照射によって徐々に水接触角が低下した。親水化速度を求めたところ、0.00063(1/度)/minであった。
さらに、同サンプルを使用して、人工太陽照明灯を使用してメチレンブルー分解速度を測定したところ、ΔABS/minは0.00678であった。
当該サンプルのAFM測定による表面粗さ(Ra)と表面積(μm2)はそれぞれ14.7nmならびに900.134μm2であり、比表面積Srは1.00015であった。これらの物性値を表2に示す。
【0166】
【表4】

【0167】
【表5】

【0168】
比較例3 ルチル型酸化チタン含有膜の製造例
(1)エチルセロソルブ167.4gとノルマルプロパノール179.0gの混合溶液に、合成例1のチタンアルコキシドの部分加水分解縮合液(C)16.9gを添加し、その後、純水4.55gと60質量%硝酸0.17gとを混合した溶液をそこに滴下した。続いて、ルチル型酸化チタン分散液(シーアイ化成(株)製、「RTIPA−15WT%−GO2」。濃度:15質量%。)を32.0g滴下したのち、30℃で1時間半攪拌して、ルチル型酸化チタン含有コーティング液(N)を作製した。
コーティング液(N)に含まれる固形成分の質量比と体積分率を表6に示す。チタンアルコキシドの加水分解縮合物の比重は2.6とし、ルチル型酸化チタンの比重は4.2とした。
コーティング液(N)をアセトンならびにメタノールで十分に脱脂・洗浄した3mm厚の石英ガラス上に塗布したのち、ドライ厚みが45nmになるようにスピンコーターを用いて塗布してルチル型酸化チタン含有膜を得た。この場合、ルチル型酸化チタンは、理論上1m2当たり0.13gが塗布されている計算になる。
(2)成膜後のサンプルを用い、一度、ブラックライト灯にて超親水化状態まで到達させ、その後、暗所に保管することにより疎水化させたのち、各種光源を使用して、紫外線照射に伴う親水化挙動を追跡した。図27に示す様に、照射主波長が310nm、320nm、334nm、350nm、365nm、380nmのいずれの場合でも徐々に水接触角が低下した。親水化速度を求めたところ、短波長側からそれぞれ0.00060、0.00045、0.00021、0.00011、0.00008、0.00006(1/度)/minであった。
300nm以上の紫外光を照射した時の親水化速度と照射主波長の関係から、親水化速度が2(1/deg/min/105)となる波長を求めたところ、405nmであった。
当該サンプルのAFM測定による表面粗さ(Ra)と表面積(μm2)はそれぞれ18.7nmならびに900.57μm2であり、比表面積Srは1.00063であった。これらの物性値を表2に示す。
【0169】
【表6】

【0170】
実施例6 酸化チタンナノチューブを含有する光触媒膜の製造例
(1)10MNaOH(108g、≒80mL) 水溶液が入ったテフロン容器に、アナターゼ・ルチル混相型二酸化チタン(日本アエロジル(株)製P−25)1gを加え、スターラーで30分間撹拌した。次にオートクレーブ容器に移して密閉し、120℃オーブンに入れ、40時間加熱した。加熱後、室温まで冷却してから内容物を取り出し、5000rpmで15min遠心分離して、上清を除去した。得られた白色沈殿を0.1M HNO3水溶液で中和し、次いで蒸留水で洗浄した後、1M HNO3水溶液を加えて50mLまでメスアップし、室温にて15時間処理して、二酸化チタン反応物含有スラリーを得た。
上記方法と同様の方法で得たスラリーから、所定量の試料を採取して透過型電子顕微鏡(日立製作所(株)製H-9000UHR)で観察したところ、チューブ厚みが3nm、チューブ径が10nm、チューブ長さが1μm以上(視野以上につき特定不能)である酸化チタンナノチューブが生成していることを確認できた。
(2)バインダー成分である水溶性アクリルシリコーン樹脂(DIC(株)製、WS−910)とその硬化剤(DIC(株)製、WS−950)を混合したバインダー水溶液(濃度2%)50mLに、上記(1)で得たスラリーをゆっくりと加え、よく攪拌することにより塗工液を得た。
得られた塗工液を用いて、スピンコート法により、2mm厚の無色透明アクリル板(三菱レーヨン(株)製、アクリライトL)上に500rpmで2.5分間成膜した後、70℃で10時間乾燥させて厚み500nmの薄膜を形成した。
次に得られた薄膜の表面にコロナ放電処理(1000kJ/m2)を施し、アクリルシリコーン表面の一部をシリカに改質した。得られた薄膜をその後清浄な暗所下にて保管し、機能薄膜を得た。得られた薄膜の全光線透過率は94%であった。
この薄膜に人工太陽灯下(3mW/cm2)で光照射し、純水の接触角の経時変化を接触角計(エルマ販売(株)製「G−1−1000」)により測定した結果を図28に示す。図28に示されているように、初期WCA(水接触角)が30°であったのに対し、30時間後に20°まで、66時間後に10°まで減少し、親水化することを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明の光触媒膜は、光触媒体として太陽光源照射下において光励起超親水性を示すが、分解活性が抑制されているという特性を有している。したがって、本発明の光触媒膜を、屋外環境下での使用を想定した場合、有機基材に活性遮断層を介すことなく直接設け、例えば防曇性、防滴性、防汚性、防霜性、滑雪性付与を目的として、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材に設けたものが好適に用いられる。
【0172】
また、本発明において、有機基材としては、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材の表面に有機系塗膜を有するものも包含する。
【0173】
なお、有機系材料以外の材料、例えば金属系材料、ガラスやセラミックス系材料、その他各種無機系または金属系材料からなる基材表面にも設けられることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】各光触媒膜に対し、波長300nm以上の光を照射して親水化速度を測定し、得られた親水化速度と照射主波長から得た累乗関数近似線を示す図である。
【図2】実施例1で得られたサンプルの透過型電子顕微鏡写真と制限視野回折像を示す図である。
【図3】実施例1で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図5】実施例1で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図6】実施例1で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図7】実施例1で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図8】実施例2で得られたサンプルの透過型電子顕微鏡写真と制限視野回折像を示す図である。
【図9】実施例2で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図10】実施例2で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図11】実施例2で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図12】実施例2で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図13】実施例3で得られたサンプルの透過型電子顕微鏡写真と制限視野回折像を示す図である。
【図14】実施例3で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図15】実施例4で得られたサンプルの透過型電子顕微鏡写真と制限視野回折像を示す図である。
【図16】実施例4で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図17】実施例4で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図18】比較例1で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図19】比較例1で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図20】実施例5で得られたサンプルの透過型電子顕微鏡写真と制限視野回折像を示す図である。
【図21】実施例5で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図22】実施例5で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図23】実施例5で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図24】実施例5で得られたXPSデプスプロファイル結果を示すグラフである。
【図25】比較例2で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図26】比較例2で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図27】比較例3で得られたサンプルの紫外線照射に伴う親水化挙動を示すグラフである。
【図28】実施例6で得られた薄膜に対する、人工太陽灯照射に伴う純水の接触角の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光半導体結晶化物を少なくとも一方の主表面に含有し、光照射によって前記主表面が親水化する光触媒膜であって、暗所保持後に半値幅15nm以下の光を照射した場合の親水化速度が、照射光の波長が370nm以上の領域では、2(1/deg/min/105)未満であり、かつ照射光の波長が300〜360nmの領域の少なくとも一部では、2(1/deg/min/105)以上であることを特徴とする光触媒膜。
【請求項2】
光半導体結晶化物として結晶径が1〜10nmの範囲内にある光半導体粒子を少なくとも一方の主表面に含有することを特徴とする光触媒膜。
【請求項3】
前記光半導体結晶化物が結晶質酸化チタンを含んでなるものである請求項1または請求項2に記載の光触媒膜。
【請求項4】
全結晶質酸化チタンに占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの割合が90%以上である請求項3に記載の光触媒膜。
【請求項5】
全結晶質酸化チタンに占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの割合が100%である請求項3または請求項4に記載の光触媒膜。
【請求項6】
少なくとも一方の主表面における結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの含有割合が3%以上である請求項3〜請求項5のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項7】
少なくとも一方の主表面における結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの含有割合が5%以上である請求項3〜請求項5のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項8】
透過型電子顕微鏡による光触媒膜の50nm×50nmの範囲における断面観察によって、少なくとも結晶粒が5個以上存在する部分を有する請求項3〜請求項7のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項9】
少なくとも一方の主表面において、結晶質酸化チタンとともに非晶質酸化チタンが存在してなる請求項3〜請求項8のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項10】
前記結晶質酸化チタンが非晶質酸化チタン中に分散してなる請求項3〜請求項9のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項11】
厚みが1μm以下である請求項1〜請求項10のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項12】
前記主表面の太陽光照射時における水に対する接触角が20度未満である請求項1〜請求項11のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項13】
3mW/cm2の人工太陽光照射時におけるメチレンブルーの分解速度が、塗布したメチレンブルーの最大吸収波長における吸光度の低下速度ΔABS/minで0.1以下である請求項1〜請求項12のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項14】
前記光半導体結晶化物がチタンアルコキシドの加水分解縮合物中に存在するとともに、前記チタンアルコキシドが有機高分子化合物と加水分解縮合してその含有率が表面から深さ方向に向かって連続的に変化する複合体を形成してなる請求項1〜請求項13のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項15】
光半導体結晶化物以外の金属化合物系微粒子をさらに含んでなる請求項1〜請求項14のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項16】
光半導体結晶化物以外の金属化合物系微粒子がシリカ系微粒子である請求項15に記載の光触媒膜。
【請求項17】
無機金属塩、有機金属塩ならびにチタンおよび珪素以外の金属のアルコキシドの中から選ばれる少なくとも1種類の金属系化合物をさらに含んでなる請求項1〜16のいずれかに記載の光触媒膜。
【請求項18】
金属系化合物が、硝酸アルミニウムである請求項17に記載の光触媒膜。
【請求項19】
非晶質酸化チタン膜に対して、水分存在下で、100℃以下の温度で加熱処理することを特徴とする請求項3〜請求項18のいずれかに記載の光触媒膜の製造方法。
【請求項20】
前記非晶質酸化チタン膜が、チタンアルコキシドと有機高分子化合物とが加水分解縮合してなる複合体を含むコーティング剤を1回のみ塗布することによって、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の含有率を表面から深さ方向に向かって連続的に変化させてなるものである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
光半導体結晶化物としてチューブ厚みが1〜10nmの範囲内にある光半導体ナノチューブを少なくとも一方の主表面に含有することを特徴とする光触媒膜。
【請求項22】
前記光半導体結晶化物が結晶質酸化チタンナノチューブを含んでなるものである請求項1または請求項21に記載の光触媒膜。
【請求項23】
バインダー成分をさらに含んでなる請求項21または請求項22に記載の光触媒膜。
【請求項24】
基材の表面に、請求項1〜請求項18および請求項21〜請求項23のいずれかに記載の光触媒膜または請求項19および請求項20のいずれかに記載の方法により得られた光触媒膜を有することを特徴とする物品。
【請求項25】
前記基材が有機基材である請求項24に記載の物品。
【請求項26】
表面に厚みが500nm以下である機能膜をさらに有する請求項24または請求項25に記載の物品。
【請求項27】
前記機能膜がシリカを含んでなる請求項26に記載の物品。
【請求項28】
請求項24〜請求項27のいずれかに記載の物品を太陽光照射下で使用することを特徴とする親水化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2009−208062(P2009−208062A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178845(P2008−178845)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】