説明

光触媒膜およびそれを有する物品

【課題】 有機系基材上に1コート法で形成されてなる、優れた親水性能を有するが、分解活性をほとんど示さず、ヘイズ値の上昇を抑え、反射率を低下させて、透明性を向上させてなる光触媒膜を提供する。
【解決手段】 有機系基材上に、チタンアルコキシドと有機高分子化合物とが加水分解縮合してなる複合体を含むコーティング剤を1回のみ塗布することによって設けられた、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の含有率が表面から深さ方向に向かって連続的に変化する非晶質酸化チタン膜の表面が、水蒸気の存在下で100℃以下の温度に曝されることにより得られた光触媒膜であって、前記有機系基材の屈折率と前記光触媒膜表面の屈折率の差が、特定の関係にあると共に、光触媒粒子以外に、特定の粒径を有する金属酸化物粒子の1種または2種を、所定の割合で含む光触媒膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒膜およびそれを有する物品に関する。さらに詳しくは、有機系基材上に1コート法で形成されてなる、優れた親水性能を有するが、分解活性をほとんど示さず、しかもヘイズ値の上昇を抑え、反射率を低下させて、透明性を向上させてなる光触媒膜、および有機系基材上に該光触媒膜を有する物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、一般にそのバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射すると、伝導帯に電子が励起され、価電子帯に正孔が生じる。そして、励起されて生じた電子は表面酸素を還元してスーパーオキサイドアニオン(・O2−)を生成すると共に、正孔は表面水酸基を酸化して水酸ラジカル(・OH)を生成し、これらの反応性活性酸素種が強い酸化分解機能を発揮し、光触媒からなる膜の表面に付着している有機物質を高効率で分解することが知られている。
【0003】
このような光触媒の機能を応用して、例えば脱臭、防汚、抗菌、殺菌、さらには廃水中や廃ガス中の環境汚染上の問題となっている各種物質の分解・除去などが検討されている。
【0004】
また、光触媒のもう1つの機能として、該光触媒が光励起されると、例えば特許文献1に開示されているように、光触媒膜表面は、水と接触角が10度以下となる超親水化を発現することも知られている。このような光触媒の超親水化機能を応用して、例えば、防曇性、防滴性、防汚性、防霜性、滑雪性付与を目的として、高速道路の防音壁、道路反射鏡、各種反射体、街路灯、自動車をはじめとする車両のボディーコートやサイドミラーあるいはウインド用フィルム、窓ガラスを含む建材、道路標識、ロードサイド看板、冷凍・冷蔵用ショーケース、各種レンズ類やセンサー類などに光触媒膜を用いることが検討されている。
【0005】
このような光触媒については、これまで数多く知られており、中でも酸化チタンは代表的なものの一つに挙げられる。酸化チタンには無定形のアモルファス型のほか、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の3つの代表的な結晶系が存在し、これら3つの結晶系で光触媒活性を示し、有機物の分解能のほか、超親水性を発現することで有名である。特にアナターゼ型が最も高い活性を示すことが一般に知られている。
【0006】
当該アナターゼ型酸化チタンは、通常、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物を出発原料としゾルゲル法により得た加水分解縮合物や、四塩化チタンや硫酸チタニルなどの無機チタン化合物塩の水和酸化物などから得た無定形酸化チタンから熱処理を経ることによって得ることができる。しかしながら、これらは通常、400℃以上の高温下での熱処理が必要であるため、コスト高となることを避けられず、耐熱性の乏しい基板に成膜することが困難であるなど多くの問題を伴うものである。
【0007】
したがって、従来、特に活性の高いアナターゼ型酸化チタンを比較的低温で得る方法が種々試みられており、また開示されている。
【0008】
例えば、スパッタリングや真空蒸着などの物理的成膜手法によって基板上に酸化チタン膜を生成させる際に、水蒸気を導入させ無定形酸化チタン内に水酸基を多く含有させることによって、酸化チタン骨格中の原子の移動度を上昇せしめ、その後の熱処理よる結晶化を容易にする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。これによれば、結晶化温度を200℃程度にまで下げることが可能である。
【0009】
また、シリコンアルコキシドと加水分解性を有するチタン化合物を含む溶液から、チタン化合物とシリコンアルコキシドが所定のモル比で配合されている複合金属酸化物あるいは水酸化物を含むゲル膜を形成し、次いで、100℃以下の温水を接触させることによって、結晶径が数10〜100nm程度のアナターゼに帰属されるチタニア微結晶を析出させる方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
確かに上記の方法によれば、プラスチック基板など耐熱性の低い材料にも直接無定形酸化チタンを成膜し、その後、低温の熱処理工程を経てアナターゼ型酸化チタンを形成することができると考えられる。しかしながら、これらの方法で得られるアナターゼ型酸化チタンは、その公報中でも明示されているように、一般的なアナターゼ型酸化チタンと同様に光励起超親水性の発現のほか高い有機物分解活性も示すため、プラスチック基材などに直接形成させた場合には、その高い有機物分解活性により基材が短期間のうちに侵食され、基材物性が低下したり光触媒膜の脱落により光触媒機能が低下したりすることなどが容易に推察される。このため、上記各方法は、アナターゼ型酸化チタン膜とともに、別途活性遮断層を設けることを必要とし、例えば、アナターゼ型酸化チタン微粒子を無機系のバインダーに分散させて作られる常温で硬化が可能な光触媒コーティング剤を塗布する方法と比べて、明確な優位性が見出せないものであった。
【0011】
一方、アナターゼ型酸化チタンをプラスチックなどの有機基材上に直接付与させる方法として、例えば、フッ素系のシランカップリング剤でアナターゼ型酸化チタン表面を修飾し、アナターゼ型酸化チタン微粒子の表面エネルギーを低下させバインダー成分との相互作用を弱めることによって、塗膜表面に浮上(偏析)させた自己傾斜型光触媒コーティング剤が知られている(特許文献4参照)。また、酸化チタン表面を光触媒として不活性な無機材料で覆い、かつ無数に細孔を設ける処方によってマスクメロン型形状を有する光触媒材料などが提案されている(特許文献5参照)。
【0012】
これらはアナターゼ型酸化チタンが有機基材と直接接触することを回避できることから、有機基材に直接塗布可能と考えられる。しかし、これらは全てアナターゼ型酸化チタンの高い酸化力の影響が基材に及ぶことを防ぐ為に、複雑な表面処理をする必要があり、さらに、これらは酸化チタンの表面偏析の為に厚みがミクロンオーダー必要であることや、酸化チタン粒子そのものが数ミクロン径のものでしか作製できないなど、多くの制約を伴うものである。
【0013】
ところで、透明ガラスの代替として、軽量な透明プラスチックの外装材としての利用が進んでいる。しかしながら親水性の高く(水に対する接触角≒20度)一定の自浄効果が得られるガラス材料とは異なり、透明プラスチック材料は疎水的なことが多く(水に対する接触角>40度)、経時的な汚れが大きな問題となりやすい。
【0014】
プラスチック基材に代表される有機系基材に高い親水性能をもたせ、防汚性を発現させる方法としては、該基材上に光触媒層を設ける方法があるが、この場合、一般に光触媒層から発生する反応性活性種のもつ酸化分解能から、該有機系基材を保護する層を設けなければならず、したがって2層コート法となり、これがコスト高の要因となっていた。
【0015】
本発明者らは、このような問題に対処するために鋭意研究を重ね、先に、有機系基材上に1コート法で、優れた親水性能を発揮するが、該基材の劣化を抑制し得る光触媒膜を形成する技術を見出し、特許を出願した(特願2008−024479号明細書)。
【0016】
しかし、光触媒膜の表面は、一般的にプラスチック材料よりも高屈折率であることから、該光触媒膜の形成前後で反射率の上昇を招き、ギラ付きを発生させる原因となっていた。
高い親水性が要求される窓材、自動車のサイドミラー、カーブミラー、反射板などに用いられる光触媒膜は、特に高い親水性能と共に、高い透明性が要求される。
【0017】
【特許文献1】国際特許公開96/29375号パンフレット
【特許文献2】特開2000−345320号公報
【特許文献3】特開2002−97013号公報
【特許文献4】特開2005−131640号公報
【特許文献5】特許第3484470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、このような事情のもとで、高い親水性能と透明性が要求される分野に好適な、有機系基材上に1コート法で形成されてなる優れた親水性能を有するが、分解活性はほとんど示さず、ヘイズ値の上昇を抑え、反射率を低下させて、透明性を向上させてなる光触媒膜、および有機系基材上に該光触媒膜を有する物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示す知見を得た。
有機系基材上に、特定のコーティング剤を1コート法で塗布して、成分傾斜構造を有する非晶質酸化チタン膜を形成し、この非晶質酸化チタン膜の表面を特定の条件で、光触媒化されることにより、あるいは光触媒化処理することにより、超親水性を発揮するが、有機物に対する分解活性をほとんど示さず、有機系基材の劣化を効果的に抑制し得る光触媒膜が得られることを見出した。
【0020】
また、使用する有機系基材の屈折率に、形成する光触媒膜表面の屈折率を近づけ、「該有機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率」の値を特定の範囲に制御することにより、ヘイズ値の上昇を抑え、反射率を低下させて、透明性を向上させ得ること、そして、そのためには、特定の粒径範囲を有する屈折率の低い金属酸化物粒子1種または2種を特定の割合で用い、光触媒膜の表面近傍に含有させればよいことを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
【0021】
すなわち、本発明は、
[1] 有機系基材上に、チタンアルコキシドと有機高分子化合物とが加水分解縮合してなる複合体を含むコーティング剤を1回のみ塗布することによって設けられた、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の含有率が表面から深さ方向に向かって連続的に変化する非晶質酸化チタン膜の表面が、水蒸気の存在下で100℃以下の温度に曝されることにより得られた光触媒膜であって、
(1)前記有機系基材の屈折率と前記光触媒膜表面の屈折率の差が、下記の関係式(1)
0≦有機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率<0.25 …(1)
を満たすこと、および
(2)前記光触媒膜が、光触媒粒子以外に、平均粒径40nm未満の金属酸化物粒子A、平均粒径40nm以上80nm未満の金属酸化物粒子B、および平均粒径80nm以上150nm未満の金属酸化物粒子Cを、AとBとの質量比が100:0〜0:100の割合になるように、またはAとCとの質量比が100:0〜45:55の割合になるように含むこと、
を特徴とする光触媒膜、
[2] 有機系基材上に塗布された非晶質酸化チタン膜の表面を、水分存在下で100℃以下の温度にて加熱処理することにより得られた光触媒膜である上記[1]項に記載の光触媒膜、
[3] 光触媒粒子以外の金属酸化物粒子A〜Cが、シリカ微粒子および/またはルチル型酸化チタン微粒子である上記[1]または[2]項に記載の光触媒膜、
[4] 金属酸化物粒子A〜Cがシリカ微粒子である上記[3]項に記載の光触媒膜、
[5] 金属酸化物粒子A〜Cの混合比率を制御することにより、光触媒膜表面の屈折率を調整する上記[1]〜[4]項のいずれか1項に記載の光触媒膜、
[6] JIS K 7361に準拠して測定される、光触媒膜形成前後のヘイズ値の上昇が、0.2%以下である上記[1]〜[5]項のいずれか1項に記載の光触媒膜、
[7] 有機系基材の表面に上記[1]〜[6]項のいずれか1項に記載の光触媒膜を有することを特徴とする物品、および
[8] 光触媒膜の表面に、さらに機能膜を有する上記[7]項に記載の物品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機系基材上に1コート法で形成されてなる、優れた親水性能を有するが、分解活性をほとんど示さず、しかも該有機系基材のヘイズ値の上昇を抑え、反射率を低下させて、透明性を向上させてなる光触媒膜、および有機系基材上に該光触媒膜を有する物品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、本発明の光触媒膜について説明する。
本発明の光触媒膜は、有機系基材上に、チタンアルコキシドと有機高分子化合物とが加水分解縮合してなる複合体を含むコーティング剤を1回のみ塗布することによって設けられた、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の含有率が表面から深さ方向に向かって連続的に変化する非晶質酸化チタン膜の表面が、水蒸気の存在下で100℃以下の温度に曝されることにより得られた光触媒膜である。
【0024】
[光触媒膜の性状]
本発明の光触媒膜は、有機系基材上に設けられたチタンアルコキシド加水分解縮合物の含有率が、表面から深さ方向に向って連続的に変化する成分傾斜構造を有する非晶質酸化チタン膜の表面が、水蒸気の存在下で100℃以下の温度に曝され、光触媒化されることにより、あるいは水分の存在下で100℃以下の温度にて加熱処理し、光触媒化することにより得られたものであって、超親水性を発揮するが、有機物に対する分解活性をほとんど示さない特徴を有している。
このようにして得られた本発明の光触媒膜は、光半導体粒子を含有し、該光半導体粒子が結晶質酸化チタンを含んでいることが好ましい。
【0025】
結晶質酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型の何れの結晶質酸化チタンであってもよく、あるいは、上記結晶質酸化チタンであって結晶欠陥や結晶歪みを内包するものでもよく、これ等の結晶質酸化チタンを2種以上組み合わせたものであってもよい。
【0026】
また、本発明の光触媒膜に含まれる、全結晶質酸化チタンに占める結晶径が1〜10nmの範囲内にある結晶質酸化チタンの割合は、90%以上であることが好ましく、100%であることがより好ましい。
【0027】
なお、本発明において、結晶径とは、透過型電子顕微鏡で結晶質酸化チタンの断面を観察したときの結晶粒の格子縞の最大長さを意味し、また、結晶径が1〜10nmの範囲にある結晶質酸化チタンの含有割合は、光触媒膜の断面を透過型電子顕微鏡で観察したときの、全結晶数に対する結晶径が1〜10nmの範囲にある結晶数の割合を算出することによって求められる。
【0028】
本発明の光触媒膜は、透過型電子顕微鏡による光触媒膜の50nm×50nmの範囲における断面観察によって、少なくとも結晶粒が5個以上存在するものであることが好ましく、10個以上存在するものであることがより好ましい。上記観察範囲における結晶粒数が5個以上であることにより、超親水性付与機能を有するが、分解活性が抑制された光触媒膜を得ることができる。本発明の光触媒膜は、結晶質酸化チタンが非晶質酸化チタン中に分散してなるものであることが好ましい。この場合、例えば、透過型電子顕微鏡で観察したときに、非晶質酸化チタンの海の中に結晶化チタン粒子が島状に点在してなるものが好ましい。
【0029】
本発明の光触媒膜は、太陽光照射時における水に対する限界接触角が20度未満であるものが好ましく、10度以下であるものがさらに好ましい。
【0030】
また、本発明の光触媒膜は、3mW/cmの人工太陽光照射時におけるメチレンブルーの分解速度が、塗布したメチレンブルーの最大吸収波長における吸光度の低下速度(分解活性)ΔABS/minで0.1以下であるものが好ましく、0.05以下であるものがより好ましく、0.01以下であるものがさらに好ましく、0.0015以下であるものがさらに好ましい。
【0031】
上記水に対する接触角、メチレンブルーの分解速度は、例えば、結晶質酸化チタンの結晶径や含有割合を調整することにより制御することができる。
【0032】
さらに、本発明の光触媒膜は、
(1)前記有機系基材の屈折率と前記光触媒膜表面の屈折率の差が、下記の関係式(1)
0≦有機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率<0.25 …(1)
を満たすこと、および
(2)前記光触媒膜が、光触媒粒子以外に、平均粒径40nm未満の金属酸化物粒子A、平均粒径40nm以上80nm未満の金属酸化物粒子B、および平均粒径80nm以上150nm未満の金属酸化物粒子Cを、AとBとの質量比が100:0〜0:100の割合になるように、またはAとCとの質量比が100:0〜45:55の割合になるように含むこと、
を要する。
【0033】
本発明の光触媒膜が形成される有機系基材としては、高透明なプラスチック、例えばポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレートなどからなる基材が好ましく用いられる。前記ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート基材の屈折率は約1.6、ポリメチルメタクリレート基材の屈折率は約1.5であり、それぞれの基材は、その屈折率に応じた反射特性を示す。このような基材上に、屈折率の異なる前記光触媒膜を積層させると、その表面の反射特性は、該光触媒膜の屈折率で決まるようになる。また、該光触媒膜の厚みによっては、該光触媒膜表面の反射光と、基材との界面からの反射光とで干渉が生じ、結果として、色が付くこともある。
【0034】
したがって、本発明の光触媒膜を透明にするためには、基材の屈折率と、その上に形成された光触媒膜の屈折率を、できるだけ一致させることが最も簡単で効果的である。
【0035】
本発明の光触媒膜は、前述したように成分傾斜構造を有し、実質上、有機系基材側が有機高分子化合物成分であって、その反対側(開放面側)がチタンアルコキシド加水分解縮合物と他の金属酸化物粒子を含む無機成分である。したがって、当該光触媒膜の有機系基材側界面の屈折率は約1.5であるが、表面側(開放面側)の屈折率は、該無機成分中の金属酸化物粒子の屈折率、粒径および含有率を適宜選択することにより、使用した有機系基材の屈折率に近づけることができる。
【0036】
本発明において、前記の金属酸化物粒子として屈折率の小さいシリカ微粒子、好ましくはコロイダルシリカを用いることにより、当該光触媒膜表面の屈折率を、用いた有機系基材の屈折率に容易に近づけることができる。
【0037】
本発明においては、「有機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率」を0以上0.25未満に制御する。前記の屈折率が0未満(光触媒膜表面の屈折率が、有機系基材の屈折率より大きい)では透明性が低下し、一方、0.25以上であれば干渉縞が発生しやすい。前記の屈折率差の好ましい値は0〜0.20の範囲である。
【0038】
一方、光触媒膜表面に、ナノレベルでのラフネスを設けることによっても、反射率を低減することが可能である。したがって、本発明においては、光触媒膜中に、光触媒粒子以外に、平均粒径40nm未満の金属酸化物粒子A、平均粒径40nm以上80nm未満の金属酸化物粒子B、および平均粒径80nm以上150nm未満の金属酸化物粒子Cを、AとBとの質量比が100:0〜0:100の割合になるように、またはAとCとの質量比が100:0〜45:55の割合になるように含有させる。なお、当該光触媒膜表面の屈折率の関係から、前記金属酸化物粒子としては、シリカ微粒子、好ましくコロイダルシリカが好適である。
【0039】
このような条件を満たすことにより、JIS K 7361に準拠して測定される、光触媒膜形成前後のヘイズ値の上昇を0.2%以下に抑えながら、反射率を低減させ、透過率を向上させることができる。
【0040】
前記の平均粒径を有する金属酸化物粒子の混合割合が、前記範囲を逸脱すると、光触媒膜形成前後のヘイズ値が0.2%を超えて上昇する場合がある。また、金属酸化物粒子として、平均粒径が150nm以上の粒子を用いると、大幅なヘイズ値の上昇を招く。
【0041】
なお、当該光触媒膜表面の屈折率を、より高くする必要がある場合、金属酸化物粒子として、不活性なルチル型酸化チタン微粒子を用いることにより、屈折率を1.9程度まで上昇させることが可能となる。
有機系基材の屈折率および光触媒膜表面の屈折率は、下記の方法に従って測定した値である。
【0042】
<屈折率の測定>
(1)有機系基材の屈折率
屈折率を測定しようとする有機系基材について、日本分光社製の紫外・可視・赤外分光光度系「V−600」を用い、400nm〜800nmの反射率スペクトルRおよび透過率スペクトルTを測定し、その後、基材の裏面に黒色の艶消し塗料を塗布したのち、同様にして表面の反射率スペクトルRoを測定する。
次に、波長λの時の反射率R、Ro、透過率T及び基材の厚みd(単位:nm)から、以下の式を用いて消衰係数kmを求め、屈折率nmを求める。
【0043】
【数1】

最後にそれぞれの波長で得られたnmの平均値を持って、基材の屈折率とする。
【0044】
(2)光触媒膜表面の屈折率
まず光触媒膜を塗工した有機系基材の非塗工面に、黒色の艶消し塗料を塗布したのち、日本分光社製の紫外・可視・赤外分光光度計「V−600」を用い、光触媒塗工面側の400nm〜800nmの反射率スペクトルRtを測定する。また薄膜の断面を日本電子社製の電子顕微鏡「JSM−6700F」を用いて観察し、その膜厚dを測定する。(設定厚みと同じであることを確認する。)
一方上記(1)にて既知となった有機系基材の消衰係数km、屈折率nm、薄膜の膜厚dと、光触媒薄膜のおおよその消衰係数kp、屈折率npを元に、以下の式を用いて光触媒塗工面側の400nm〜800nmの反射率スペクトルRsを算出する。
【0045】
【数2】

【0046】
実際の反射率スペクトルRtと測定の反射率Rsを比較しながら、計算に用いた光触媒のおおよその消衰係数kp、屈折率npを調整することで両スペクトルを一致させ、スペクトルが一致したときの屈折率npを光触媒膜の真の屈折率とした。なお、後述の実施例5〜8及び比較例4〜6の場合では、表面に凹凸構造があるため、この方法で屈折率を算出することではできない。これらの塗膜の屈折率は、シリカ氏粒子の平均粒径が異なるのみでその質量比が同一である実施例3及び実施例4の光触媒膜の屈折率と同じであると近似した。
【0047】
また、有機系基材のヘイズ値および光触媒膜が設けられた有機系基材のヘイズ値は、下記の方法に従って測定した値である。
【0048】
<ヘイズ値の測定>
(1)有機系基材のヘイズ値
所定の有機系基材について、日本電色社製のヘイズメーター「NDH−2000」を用い、JIS K 7361に準拠してヘイズ値を求める。
(2)光触媒膜が設けられた有機系基材のヘイズ値
所定の有機系基材上に厚さ100nmの光触媒膜が設けられたものについて、日本電色社製のヘイズメーター「NDH−2000」を用い、JIS K 7361に準拠してヘイズ値を求める。
【0049】
本発明の光触媒膜に含まれる金属酸化物粒子AとBとの合計量またはAとCとの合計量は、光触媒膜表面の屈折率および該光触媒膜形成前後のヘイズ値の差などを考慮すると、10〜85質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。
なお、前記の各金属酸化物粒子の平均粒径は、レーザー散乱回折法により、測定される値である。
【0050】
[光触媒膜の製造]
本発明の光触媒膜は、前述したように、光半導体粒子である結晶質酸化チタンを含むと共に、表面に凹凸を付与するために、光触媒粒子以外に、それぞれ特定の粒径範囲を有する、金属酸化物粒子AとB、または金属酸化物粒子AとCとを含む。また、チタンアルコキシドが有機高分子化合物と加水分解縮合してその含有率が表面から深さ方向に向かって連続的に変化する複合体を形成している。
【0051】
チタンアルコキシドの具体例としては、後述するチタンテトラアルコキシドを挙げることができ、また、有機化合物の具体例としては、後述する加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物を挙げることができる。
【0052】
また、本発明の光触媒膜は、無機金属塩、有機金属塩ならびにチタンおよび珪素以外の金属のアルコキシドの中から選ばれる少なくとも1種類の金属系化合物をさらに含んでなるものであることが好ましく、上記金属系化合物の具体例は、後述するとおりであるが、特に硝酸アルミニウムが好ましい。
【0053】
本発明の光触媒膜は、非晶質酸化チタン膜が、水蒸気の存在下で、100℃以下の温度に曝されることによりあるいは水分の存在下で100℃以下の温度にて加熱処理することにより製造される。この場合、温度100℃以下、相対湿度5%以上の環境下で光触媒を製造することが好ましい。
【0054】
また、本発明においては、上記環境下において、さらに250〜1200nmの波長域から選ばれる任意領域の波長を有するとともに、紫外光を含む光の存在下で製造することが好ましく、その場合は、放射照度5〜400W/mの条件で照射しつつ、上記温度が30〜60℃、相対湿度が50〜80%とすることが好適な製造条件の一つに挙げられる。
【0055】
250〜1200nmの波長域から選ばれる任意領域の波長を有するとともに、紫外光を含む光としては、少なくとも、波長250〜260nm、290〜315nm、350〜1200nmの波長域の光を含むものであることが好ましく、放射照度200〜400W/mの条件下で照射することが、さらに好ましい。
【0056】
本発明においては、少なくとも1回以上、水を噴霧することが好ましい。本発明に用いられる設備や装置に関する制約は特にないが、代表的には、恒温恒湿環境が得られる各種設備のほか、カーボンアーク式サンシャインウエザーメーター、キセノンウエザーメーター、メタリングウエザーメーター、デューパネルウエザーメーターなどが例示できる。
【0057】
なお、上記と同等の条件が得られる屋外環境下における暴露によっても同様に本発明の光触媒膜を製造することが可能である。
【0058】
本発明の光触媒膜は、(A)チタンアルコキシドを加水分解縮合させて得られるチタニアゾルと、(B)分子中に加水分解により酸化チタンと結合し得る金属含有基(加水分解性金属含有基と称することがある。)を有する有機高分子化合物と、(C)凹凸形成用の金属酸化物粒子を含むコーティング剤を用いて形成させ、この膜が、前述の製造条件で光触媒化することにより製造される。
【0059】
(A)成分であるチタンテトラアルコキシドを加水分解縮合させて得られるチタニアゾルの調製において、原料となるチタンテトラアルコキシドとしては、アルコキシル基の炭素数が1〜4程度のチタンテトラアルコキシドが用いられる。このチタンテトラアルコキシドにおいては、4つのアルコキシル基は、たがいに同一でも異なっていてもよいが、入手の容易さなどの点から、同一のものが好ましく用いられる。上記チタンテトラアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラ−sec−ブトキシドおよびチタンテトラ−tert−ブトキシドが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
上記チタンテトラアルコキシドを加水分解−縮合させて、チタニアゾル溶液を調製する。このチタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、好ましくは炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類を溶媒として用い、酸性触媒の存在下でチタンテトラアルコキシドに水を作用させることにより行われる。
【0061】
上記炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類としては、チタンテトラアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテルなどのセロソルブ系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。これらの中で、特にチタンテトラアルコキシドに対する相互作用が強いセロソルブ系溶剤が好ましい。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
このようなチタンテトラアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤を溶媒として用いることにより、チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応により得られたチタニアゾル溶液を安定化させることができ、縮合反応を進行させてもゲル化や粒子化が生じにくくなる。
【0063】
チタンテトラアルコキシドの加水分解−縮合反応は、チタンテトラアルコキシドに対し、4〜20倍モル程度、好ましくは5〜12倍モルの上記アルコール類と、0.5倍モル以上4倍モル未満程度、好ましくは1〜3.0倍モルの水を用い、塩酸、硫酸、硝酸などの酸性触媒の存在下、通常0〜70℃、好ましくは20〜50℃の範囲の温度において行われる。酸性触媒は、チタンテトラアルコキシドに対し、通常0.1〜1.0倍モル、好ましくは0.2〜0.7倍モルの範囲で用いられる。
【0064】
上記(B)成分の加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物は、例えば(x)加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と、(y)金属を含まないエチレン性不飽和単量体を共重合させることにより、得ることができる。
【0065】
上記(B)(x)成分である加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体としては、一般式(2)
【0066】
【化1】

【0067】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Aはアルキレン基、好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基、Rは加水分解性基または非加水分解性基であるが、その中の少なくとも1つは加水分解により、(A)成分と化学結合しうる加水分解性基であることが必要であり、また、Rが複数の場合には、各Rはたがいに同一であってもよいし、異なっていてもよく、Mはケイ素、チタン、ジルコニウム、インジウム、スズ、アルミニウムなどの金属原子、kは金属原子Mの価数である。)
で表されるものを挙げることができる。
【0068】
上記一般式(2)において、Rのうちの加水分解により(A)成分と化学結合しうる加水分解性基としては、例えばアルコキシル基、イソシアネート基、塩素原子などのハロゲン原子、オキシハロゲン基、アセチルアセトネート基、水酸基などが挙げられ、一方、(A)成分と化学結合しない非加水分解性基としては、例えば低級アルキル基などが好ましく挙げられる。
【0069】
一般式(2)における−Mk−1で表される金属含有基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリ−n−プロポキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリ−n−ブトキシシリル基、トリイソブトキシシリル基、トリ−sec−ブトキシシリル基、トリ−tert−ブトキシシリル基、トリクロロシリル基、ジメチルメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルクロロシリル基、メチルジクロロシリル基、トリイソシアナトシリル基、メチルジイソシアナトシリル基など、トリメトキシチタニウム基、トリエトキシチタニウム基、トリ−n−プロポキシチタニウム基、トリイソプロポキシチタニウム基、トリ−n−ブトキシチタニウム基、トリイソブトキシチタニウム基、トリ−sec−ブトキシチタニウム基、トリ−tert−ブトキシチタニウム基、トリクロロチタニウム基、さらには、トリメトキシジルコニウム基、トリエトキシジルコニウム基、トリ−n−プロポキシジルコニウム基、トリイソプロポキシジルコニウム基、トリ−n−ブトキシジルコニウム基、トリイソブトキシジルコニウム基、トリ−sec−ブトキシジルコニウム基、トリ−tert−ブトキシジルコニウム基、トリクロロジルコニウム基、またさらには、ジメトキシアルミニウム基、ジエトキシアルミニウム基、ジ−n−プロポキシアルミニウム基、ジイソプロポキシアルミニウム基、ジ−n−ブトキシアルミニウム基、ジイソブトキシアルミニウム基、ジ−sec−ブトキシアルミニウム基、ジ−tert−ブトキシアルミニウム基、トリクロロアルミニウム基などが挙げられる。
【0070】
この(x)成分のエチレン性不飽和単量体は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
一方、上記(y)成分である金属を含まないエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(3)
【0072】
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Xは一価の有機基である。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、好ましくは一般式(3−a)
【0073】
【化3】

【0074】
(式中、Rは前記と同じであり、Rは炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、あるいは上記一般式(3−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と、必要に応じて添加される密着性向上剤としての一般式(3−b)
【0075】
【化4】

【0076】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rはエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体との混合物を挙げることができる。
【0077】
上記一般式(3−a)で表されるエチレン性不飽和単量体において、Rで示される炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例としては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0078】
この一般式(3−a)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
上記一般式(3−b)で表されるエチレン性不飽和単量体において、Rで示されるエポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を好ましく挙げることができる。上記置換基のハロゲン原子としては、塩素原子および臭素原子がよい。上記炭化水素基の具体例としては、前述の一般式(3−a)におけるRの説明において例示した基と同じものを挙げることができる。
【0080】
上記一般式(3−b)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどを好ましく挙げることができる。
【0081】
また、上記一般式(3)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、これら以外にもスチレン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレン、m−、o−またはp−ブロモスチレン、m−、o−またはp−クロロスチレン、m−、o−またはp−ビニルフェノール、1−または2−ビニルナフタレンなど、さらにはエチレン性不飽和基を有する重合性高分子用安定剤、例えばエチレン性不飽和基を有する、酸化防止剤、紫外線吸収剤および光安定剤なども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
また、一般式(3−a)で表されるエチレン性不飽和単量体と一般式(3−b)で表されるエチレン性不飽和単量体とを併用する場合は、前者のエチレン性不飽和単量体に対し、後者のエチレン性不飽和単量体を1〜100モル%の割合で用いるのが好ましい。
【0083】
上記(x)成分の加水分解性金属含有基を有するエチレン性不飽和単量体と(y)成分の金属を含まないエチレン性不飽和単量体とを、ラジカル重合開始剤の存在下、ラジカル共重合させることにより、(B)成分である加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物が得られる。
【0084】
一方、(C)成分である凹凸形成用の金属酸化物粒子は、前述で説明したように、平均粒径40nm未満の金属酸化物粒子Aと平均粒径40nm以上80nm未満の金属酸化物粒子Bとを、質量比100:0〜0:100の割合で、または前記金属酸化物粒子Aと平均粒径80nm以上150nm未満の金属酸化物粒子Cとを、質量比が100:0〜45:55の割合で用いる。
【0085】
この金属酸化物粒子A〜Cとしては、シリカ微粒子およびルチル型酸化チタン微粒子の中から選ばれる少なくとも1種が用いられるが、本発明においては、光触媒膜表面の屈折率を低下させる観点から、シリカ微粒子が好ましく、特にコロイダルシリカが好ましい。
【0086】
本発明においては、上記のようにして得られた(A)成分であるチタニアゾルの溶液と、(B)成分である加水分解性金属含有基を有する有機高分子化合物を適当な極性溶剤中に溶解させた溶液と、(C)成分である凹凸形成用の金属酸化物粒子との混合液を、塗布に適した粘度に調整することによって塗工液を得ることができる。この際、必要ならば、上記塗工液に水および/または酸性触媒を添加してもよい。
【0087】
上記塗工液に(C)成分を含有させることにより、得られる光触媒膜の表面に凹凸が付与され、反射率が低下し、透明性が向上する。
【0088】
さらに、成分傾斜構造を有する非晶質酸化チタン膜の形成に用いられるコーティング剤には、アモルファス状酸化チタンの結晶生成を調整する物質として、無機金属塩、有機金属塩並びにチタンおよび珪素以外の金属のアルコキシドの中から選ばれる少なくとも1種の金属系化合物を含有させることができる。具体的には、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムや、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム等の各塩類、ならびに、これら無機塩類の水和物、アルミニウムトリアセチルアセトナートなどのアルミニウムキレート類、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどの金属アルコキシド類、ならびにこれら化合物の加水分解物、あるいは、その縮合物を挙げることができる。これらの中で、特に硝酸アルミニウムならびにその水和物が好適である。前記結晶生成調整物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
このように、コーティング剤中に結晶生成調整物質を含有させることにより、形成される光触媒膜中の酸化チタンの微結晶生成挙動(例えば、結晶生成速度や結晶成長速度など)を調節することができる。また、使用される環境や要求される性能に応じて、超親水性発現までの時間をコントロールすることなどが可能であり、さらに収縮に伴う亀裂発生抑制など膜の安定性の調節に寄与することもできる。
【0090】
本発明においては、有機系基材上に、上述のようにして得られた塗工液を、乾燥塗膜の厚さが、通常0.01〜1μm、好ましくは0.03〜0.3μmの範囲になるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗布し、溶媒を揮散させて塗膜を形成させることが好ましい。
【0091】
上記有機系基材としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。
【0092】
これらの有機基材は、本発明に係る成分傾斜膜との密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
【0093】
本発明においては、このようにして形成された塗膜に、通常0〜200℃、好ましくは15〜150℃の温度にて加熱処理を施すことにより、表面に凹凸が付与された成分傾斜構造を有する非晶質酸化チタン膜が形成される。
【0094】
成分傾斜構造は、例えば得られた膜表面にスパッタリングを施して削っていき、経時的に膜表面の炭素原子とチタン原子の含有率を、X線光電子分光法などにより測定することによって、確認することができる。
次に、本発明の物品について説明する。
【0095】
[物品]
本発明の物品は、有機系基材の表面に本発明の光触媒膜を有することを特徴とする。
さらに、本発明の物品は、本発明の光触媒膜の機能を害さない範囲で、前記光触媒膜の表面に、厚みが500nm以下である機能膜をさらに設けることができる。
【0096】
上記機能膜の機能としては、暗所での親水保持性、導電性、帯電性、ハードコート性、反射特性制御、屈折率制御などが挙げられる。また、上記機能膜の具体的な構成成分としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、ITO、酸化亜鉛などの金属酸化物系化合物が挙げられる。特に、太陽光が当たらない夜間において、親水性を保持するためなどを目的として、シリカを含んでなるものであることが好ましい。
【0097】
本発明の物品において、光触媒膜が形成される有機系基材としては、前記で例示した有機系基材と同じものを挙げることができ、また前記と同様に、その上に設けられる光触媒膜との密着性を向上させるために、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。
【0098】
本発明の物品としては、高速道路の防音壁、道路反射鏡、各種反射体、街路灯、自動車をはじめとする車両のボディーコートやサイドミラーあるいはウインド用フィルム、窓ガラスを含む建材、道路標識、ロードサイド看板、冷凍・冷蔵用ショーケース、各種レンズ類やセンサー類などを挙げることができる。
【0099】
また、本発明の物品としては、農業用フィルムを挙げることもできる。農業用フィルムは、近年、ハウス栽培やトンネル栽培に盛んに用いられるようになってきたものであり、このような栽培においては、農業用フィルムを展張使用する際、水滴付着による生じる曇りを防止するために、展張後に、防滴剤(防曇剤)を内面にスプレーしていたが、この防滴剤(防曇剤)は、短期間で防滴効果が失われるものであった。これに対して、本発明の光触媒膜を表面に有する農業用フィルムは、長期間親水性を維持し得るものであるため、再塗布を必要とせずに農作業を継続することが可能となる。
【0100】
上述したように、本発明の物品は、超親水性付与機能を有するが、分解活性が抑制された光触媒膜を有するものであるため、有機系基材を侵食することなく、物品の表面を親水化することが可能になる。
【実施例】
【0101】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0102】
なお、各例で形成された光触媒膜の性能は、以下に示す方法に従って測定した。
(1)有機系基材の屈折率および光触媒膜表面の屈折率
明細書本文記載の方法に従って測定した。
(2)ヘイズ値の差
明細書本文記載の方法に従って、有機系基材および光触媒膜が設けられた有機系基材のヘイズ値を測定し、光触媒膜形成前後のヘイズ値の差(光触媒膜形成後のヘイズ値−形成前のヘイズ値)を求めた。
(3)全光線透過率の差
有機系基材の全光線透過率および光触媒膜が設けられた有機系基材の全光線透過率を、日本電色社製のヘイズメーター「NDH−2000」を用い、JIS K 7361に準拠して測定し、光触媒膜形成前後の全光線透過率の差(光触媒膜形成後の全光線透過率−形成前の全光線透過率)を求めた。
(4)比表面積
光触媒膜表面の比表面積を、原子間力顕微鏡AFM(キーエンス社製、「VN8000」)にて測定した。
(5)干渉色の有無
日本分光社製の紫外・可視・赤外分光光度系「V−600」を用い、光触媒を塗工した有機系基材の光触媒塗工面(表面)及び非塗工面(裏面)の400nm〜800nmの反射率スペクトルを測定する。
【0103】
それぞれの反射率スペクトルにおいて、400nm〜800nmの反射率の最大値と最小値を算出し、その差が3%未満であれば干渉がない、3%以上5%未満であれば干渉が僅かにあり、5%以上で干渉があるとした。
【0104】
合成例1:チタンアルコキシドの加水分解縮合液の調製
エチルセロソルブ149gに、チタンテトライソプロポキシド(商品名:A−1、日本曹達(株)製)75.7gを攪拌しながら滴下し、溶液(A)を得た。この溶液(A)にエチルセロソルブ58.3g、蒸留水4.55g、60質量%濃硝酸12.6gの混合溶液を攪拌しながら滴下し溶液(B)を得た。溶液(B)をその後、30℃で4時間攪拌することによってチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を得た。
【0105】
合成例2:有機高分子成分溶液の調製
2Lセパラブルフラスコに窒素雰囲気下でメチルイソブチルケトン704g、メタクリル酸メチル332g、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン42.0gを添加し、60℃まで昇温した。この混合溶液にアゾビスイソブチロニトリル3.2gを溶かしたメチルイソブチルケトン103gを滴下して重合反応を開始し、30時間攪拌して有機高分子成分溶液(D)を得た。
【0106】
実施例1
エチルセロソルブ30.6gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)4.37gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を39.4g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)5.21g、メチルイソブチルケトン233.2g、エチルセロソルブ164.0g、上記記載の溶液(G)74.4g、およびコロイダルシリカA(商品名:スノーテックスIPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)23.2gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは50質量%であった。
【0107】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.49である2mm厚の無色透明アクリル板(三菱レーヨン製、アクリライトL)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。次いで、この塗膜を恒温恒湿チャンバーにて85℃、95%RHの条件下で15時間光触媒化処理し、光触媒膜を形成した。この光触媒膜の屈折率は1.49であった。得られたサンプルは、塗工前後で全光線透過率(Tt)、ヘイズ値ともその差違は0.1%未満であった。また、干渉色の発生は認められなかった。
【0108】
また、XPS装置「PHI−5600」[アルバックファイ(株)製]を用い、アルゴンスパッタリング(4kV)を3分間隔で施し膜を削り、膜表面の炭素原子と金属原子の含有率をX線光電子分光法により測定し、傾斜性を調べたところ、表面から深さ方向に金属原子の含有率が連続的に減少する成分傾斜構造を有していることが確認された。
【0109】
実施例2
エチルセロソルブ12.3gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)1.75gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を15.8g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)2.09g、メチルイソブチルケトン229.4g、エチルセロソルブ201.7g、上記記載の溶液(G)29.8g、およびコロイダルシリカA(商品名:スノーテックスIPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)37.1gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは80質量%であった。
【0110】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.49である2mm厚の無色透明アクリル板(三菱レーヨン製、アクリライトL)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.35であった。得られたサンプルは、塗工前後で、ヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)が1.5%向上した。また、干渉色の発生は認められなかった。
【0111】
実施例3
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)7.30g、メチルイソブチルケトン235.8g、エチルセロソルブ138.9g、上記記載の溶液(G)104.15g、およびコロイダルシリカA(商品名:スノーテックスIPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)13.9gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは30質量%であった。
【0112】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.59である2mm厚の無色透明ポリカーボネート板(筒中プラスチック工業製、ECL−100)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.59であった。得られたサンプルは、塗工前後で、ヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)が0.5%向上した。また、干渉色の発生は認められなかった。
【0113】
実施例4
実施例3と同様にして、傾斜膜コーティング液(H)を得た。
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.66である100μm厚の無色透明ポリエステルフィルム(東レ製、ルミラーT60)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.59であった。得られたサンプルは、その比表面積をAFM(キーエンス社製、VN8000)にて測定した結果、1.0000であった。塗工前後で、ヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)が0.5%向上した。また、干渉色の発生は認められなかった。
【0114】
実施例5
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)7.30g、メチルイソブチルケトン235.8g、エチルセロソルブ138.9g、上記記載の溶液(G)104.15g、およびコロイダルシリカA(商品名:スノーテックスIPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)7.0g、コロイダルシリカB(商品名:スノーテックスIPA−ST−L(平均粒径50nm)、日産化学工業(株)製)7.0gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは30質量%、コロイダルシリカB/コロイダルシリカA=50/50(質量比)であった。
【0115】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.66である100μm厚の無色透明ポリエステルフィルム(東レ製、ルミラーT60)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.59であった。得られたサンプルは、その比表面積をAFM(キーエンス社製、VN8000)にて測定した結果、1.0005であった。塗工前後で、ヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)が1.0%向上した。また干渉色の発生は認められなかった。
【0116】
実施例6
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)7.30g、メチルイソブチルケトン235.8g、エチルセロソルブ138.9g、上記記載の溶液(G)104.15g、およびコロイダルシリカA(商品名:スノーテックスIPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)2.3g、コロイダルシリカB(商品名:スノーテックスIPA−ST−L(平均粒径50nm)、日産化学工業(株)製)11.6gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは30質量%、コロイダルシリカB/コロイダルシリカA=83/17(質量比)であった。
【0117】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.66である100μm厚の無色透明ポリエステルフィルム(東レ製、ルミラーT60)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.59であった。得られたサンプルは、その比表面積をAFM(キーエンス社製、VN8000)にて測定した結果、1.0006であった。塗工前後で、ヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)が1.5%向上した。また干渉色の発生は認められなかった。
【0118】
実施例7
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)7.30g、メチルイソブチルケトン235.8g、エチルセロソルブ138.9g、上記記載の溶液(G)104.15g、およびコロイダルシリカB(商品名:スノーテックスIPA−ST−L(平均粒径50nm)、日産化学工業(株)製)13.9gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは30質量%であった。
【0119】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.66である100μm厚の無色透明ポリエステルフィルム(東レ製、ルミラーT60)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.59であった。得られたサンプルは、その比表面積をAFM(キーエンス社製、VN8000)にて測定した結果、1.0020であった。塗工前後で、ヘイズ値が0.2%、全光線透過率(Tt)が1.5%上昇した。なお干渉色の発生は認められなかった。
【0120】
実施例8
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)7.30g、メチルイソブチルケトン235.8g、エチルセロソルブ138.9g、上記記載の溶液(G)104.22g、およびコロイダルシリカA(商品名:スノーテックスIPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)7.0g、コロイダルシリカC(商品名:スノーテックスIPA−ST−ZL(平均粒径100nm)、日産化学工業(株)製)7.0gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは30質量%、コロイダルシリカC/コロイダルシリカA=50/50(質量比)であった。
【0121】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.66である100μm厚の無色透明ポリエステルフィルム(東レ製、ルミラーT60)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.59であった。得られたサンプルは、その比表面積をAFM(キーエンス社製、VN8000)にて測定した結果、1.0004であった。塗工前後で、ヘイズ値が0.1%、全光線透過率(Tt)が1.5%上昇した。なお干渉色の発生は認められなかった。
【0122】
比較例1
エチルセロソルブ49.0gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)7.00gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を63.1g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)8.34g、メチルイソブチルケトン237.0g、エチルセロソルブ126.3g、上記記載の溶液(G)119.0g、およびコロイダルシリカA(商品名:スノーテックスIPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)9.3gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは20質量%であった。
【0123】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.49である2mm厚の無色透明アクリル板(三菱レーヨン製、アクリライトL)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.65であった。得られたサンプルは、塗工前後で、ヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)が1.0%低下した。また、干渉色の発生は認められなかった。
【0124】
比較例2
エチルセロソルブ61.2gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)8.75gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を78.8g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)10.43g、メチルイソブチルケトン239.6g、エチルセロソルブ101.2g、上記記載の溶液(G)148.8gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。このコーティング液(H)固形分中にはコロイダルシリカは含まれていない。
【0125】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.49である2mm厚の無色透明アクリル板(三菱レーヨン製、アクリライトL)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.75であった。得られたサンプルは、塗工前後で、ヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)が2.0%低下した。また、干渉色の発生が認められた。
【0126】
比較例3
実施例2と同様にして、傾斜膜コーティング液(H)を得た。
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.66である100μm厚の無色透明ポリエステルフィルム(東レ製、ルミラーT60)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.35であった。得られたサンプルは、塗工前後で、ヘイズ値の差違は0.1%未満であったが、全光線透過率(Tt)が1.5%向上した。但し僅かではあるが、干渉色の発生が認められた。
【0127】
比較例4
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)7.30g、メチルイソブチルケトン235.8g、エチルセロソルブ138.9g、上記記載の溶液(G)104.15g、およびコロイダルシリカA(商品名:スノーテックスIPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)2.3g、コロイダルシリカC(商品名:スノーテックスIPA−ST−ZL(平均粒径100nm)、日産化学工業(株)製)11.6gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは30質量%、コロイダルシリカC/コロイダルシリカA=83/17(質量比)であった。
【0128】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.66である100μm厚の無色透明ポリエステルフィルム(東レ製、ルミラーT60)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この時のコーティング膜の屈折率は、1.59であった。得られたサンプルは、その比表面積をAFM(キーエンス社製、VN8000)にて測定した結果、1.0010であった。塗工前後で、全光線透過率(Tt)が2.0%向上したが、ヘイズ値が0.4%上昇した。また干渉色の発生は認められなかった。
【0129】
比較例5
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)7.30g、メチルイソブチルケトン235.8g、エチルセロソルブ138.9g、上記記載の溶液(G)104.15g、およびコロイダルシリカC(商品名:スノーテックスIPA−ST−ZL(平均粒径100nm)、日産化学工業(株)製)13.9gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは30質量%であった。
【0130】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.66である100μm厚の無色透明ポリエステルフィルム(東レ製、ルミラーT60)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.59であった。得られたサンプルは、その比表面積をAFM(キーエンス社製、VN8000)にて測定した結果、1.0060であった。塗工前後で、全光線透過率(Tt)が2.0%向上したが、ヘイズ値が0.6%上昇した。また干渉色の発生は認められなかった。
【0131】
比較例6
エチルセロソルブ42.9gに硝酸アルミニウム・九水和物(和光純薬工業(株)製)6.12gを溶解させ、続いて合成例1で調製したチタンアルコキシドの加水分解縮合液(C)を55.2g加えてよく攪拌し溶液(G)を得た。続いて、合成例2で調製した有機高分子成分溶液(D)7.30g、メチルイソブチルケトン235.8g、エチルセロソルブ138.9g、上記記載の溶液(G)104.22g、およびコロイダルシリカA(商品名:スノーテックスIPA−ST(平均粒径20nm)、日産化学工業(株)製)12.8g、コロイダルシリカD(商品名:MP−2040(平均粒径190nm)、日産化学工業(株)製)0.83gの順番で混合し、その後、33℃の温浴で24時間攪拌して、コロイダルシリカと硝酸アルミニウムを混合したチタンアルコキシドの加水分解物と有機高分子成分との傾斜膜コーティング液(H)を作製した。この時、コーティング液(H)固形分中のコロイダルシリカは30質量%、コロイダルシリカD/コロイダルシリカA=8/92(質量比)であった。
【0132】
その後、コーティング液(H)を、屈折率が1.66である100μm厚の無色透明ポリエステルフィルム(東レ製、ルミラーT60)にスピンコーターを使用して、約10μmのウエット厚みで塗布し、ドライ厚みが100nmになるように塗布した。その後、実施例1と同様な操作を行い、傾斜膜表面に光触媒層を有する光触媒膜を作製した。この光触媒膜の屈折率は、1.59であった。得られたサンプルは、その比表面積をAFM(キーエンス社製、VN8000)にて測定した結果、1.0030であった。塗工前後で、全光線透過率(Tt)が1.0%向上したが、ヘイズ値が0.7%上昇した。また干渉色の発生は認められなかった。
前記実施例1〜8および比較例1〜6の結果を表1に示す。
【0133】
【表1】

[注]
PMMA:厚さ2mmの無色透明アクリル板、屈折率1.49
PC :厚さ2mmの無色透明ポリカーボネート板、屈折率1.59
PET :厚さ100μmの無色透明ポリエチレンテレフタレートフィルム、
屈折率1.66
【0134】
表1から分かるように、本発明の光触媒膜(実施例1〜8)を形成した有機系基材は、該光触媒膜形成前後で、いずれもヘイズ値の上昇が0.2%以下に抑えられる共に、全光線透過率が、実施例1を除いて0.5〜1.5%上昇し、かつ干渉色の発生が認められない。
【0135】
これに対し、比較例1〜6の光触媒膜が形成された有機系基材は、該光触媒膜形成前後で、全光線透過率が低下するか、またはヘイズ値が0.4〜0.7%上昇するか、あるいは干渉色の発生が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の光触媒膜は、有機系基材上に1コート法で形成されてなる、優れた親水性能を有するが、分解活性をほとんど示さず、しかも該有機系基材のヘイズ値の上昇を抑え、反射率を低下させて、透明性を向上させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系基材上に、チタンアルコキシドと有機高分子化合物とが加水分解縮合してなる複合体を含むコーティング剤を1回のみ塗布することによって設けられた、チタンアルコキシドの加水分解縮合物の含有率が表面から深さ方向に向かって連続的に変化する非晶質酸化チタン膜の表面が、水蒸気の存在下で100℃以下の温度に曝されることにより得られた光触媒膜であって、
(1)前記有機系基材の屈折率と前記光触媒膜表面の屈折率の差が、下記の関係式(1)
0≦有機系基材の屈折率−光触媒膜表面の屈折率<0.25 …(1)
を満たすこと、および
(2)前記光触媒膜が、光触媒粒子以外に、平均粒径40nm未満の金属酸化物粒子A、平均粒径40nm以上80nm未満の金属酸化物粒子B、および平均粒径80nm以上150nm未満の金属酸化物粒子Cを、AとBとの質量比が100:0〜0:100の割合になるように、またはAとCとの質量比が100:0〜45:55の割合になるように含むこと、
を特徴とする光触媒膜。
【請求項2】
有機系基材上に塗布された非晶質酸化チタン膜の表面を、水分存在下で100℃以下の温度にて加熱処理することにより得られた光触媒膜である請求項1に記載の光触媒膜。
【請求項3】
光触媒粒子以外の金属酸化物粒子A〜Cが、シリカ微粒子および/またはルチル型酸化チタン微粒子である請求項1または2に記載の光触媒膜。
【請求項4】
金属酸化物粒子A〜Cがシリカ微粒子である請求項3に記載の光触媒膜。
【請求項5】
金属酸化物粒子A〜Cの混合比率を制御することにより、光触媒膜表面の屈折率を調整する請求項1〜4のいずれか1項に記載の光触媒膜。
【請求項6】
JIS K 7361に準拠して測定される、光触媒膜形成前後のヘイズ値の上昇が、0.2%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の光触媒膜。
【請求項7】
有機系基材の表面に、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光触媒膜を有することを特徴とする物品。
【請求項8】
光触媒膜の表面に、さらに機能膜を有する請求項7に記載の物品。

【公開番号】特開2010−115609(P2010−115609A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291440(P2008−291440)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】