説明

光触媒装置および水浄化装置

【課題】本発明は、光触媒であるリン酸銀が基体に強く固定された光触媒装置を提供する。
【解決手段】本発明の光触媒装置は、基体と、前記基体の上に設けられたリン酸銀層とを備え、前記リン酸銀層は、前記基体に接触する複数の粒状のリン酸銀粒子を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒装置および水浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化チタンなどの光触媒に紫外線光源(ブラックライト、水銀灯など)を照射することにより、光触媒の表面に接触する有機物をCO2などに酸化する浄化装置が知られている。これらの浄化装置により、例えば、光触媒の表面に水などを接触させると、水中の汚染物質の分解や殺菌を行うことができる。また、例えば、光触媒の表面に空気を接触させると、空気中の有機物質などを酸化することができる。
【0003】
光触媒による有機物の酸化分解機構は、次のように説明される。半導体である光触媒が受光することにより、光触媒の価電子帯の電子が励起され、伝導帯に電子が、価電子帯に正孔が形成される。光励起により形成された価電子帯の正孔は、(式1)のように光触媒の表面に吸着するOH-と反応して、OHラジカルが生成する。
(式1) OH- + h+ → OH・
【0004】
光触媒の表面に生成されるOHラジカルは活性種の中でも強い酸化力を有するため(OHラジカルの酸化電位:約3.0eV、塩素の酸化電位:1.36eV、オゾンの酸化電位:2.07eV)、水中や空気中の有機物や細菌、真菌、ウイルスなどの有機性不純物を酸化分解することができる。また、光触媒が受光することにより発生するOHラジカルは、従来殺菌のために使われてきたオゾン、塩素などと違い残留性がないという利点も有している。
【0005】
光触媒としては、酸化チタン(TiO2)が一般的に使われている。酸化チタンは、一般に入手容易であるとともに、約388nm以下の波長の光を受光することにより光触媒活性を有する。
しかし、酸化チタンの量子収率(入射光子数に対する反応分子数の割合)は、たかだか10〜20%であり、反応効率が悪い。これらを改良するために、白金を担持することもされているが、それでも25%程度である。高効率の光触媒材料が渇望されている。
【0006】
また、太陽光や蛍光灯中に紫外線は、2〜4%しか含まれておらず、光触媒として用いる酸化チタンはこの紫外線しか光触媒活性に利用できないため、光の利用効率が極端に低い。そこで太陽光や蛍光灯に多く含まれる可視光を利用できる光触媒の研究開発が盛んに行われている。
【0007】
可視光を利用できる光触媒として、約2.3〜2.5eVのバンドギャップを有するリン酸銀が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1においては、リン酸銀による光触媒性能が記されており、硝酸銀水溶液の分解試験においては、量子収率が90%という高い値をもつこと、またメチレンブルー溶液の脱色性能がTiO2と比較して格段に早いことから、殺菌作用についても、かなり有望な材料であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−78211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、リン酸銀は一般的に粉末であるため、リン酸銀を光触媒として用いて水などを浄化しようとすると、粉末が処理水中に混入したり、リン酸銀を固定した基体から粉末が取れてしまう場合がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、光触媒であるリン酸銀が基体に強く固定された光触媒装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、基体と、前記基体の上に設けられたリン酸銀層とを備え、前記リン酸銀層は、前記基体に接触する複数の粒状のリン酸銀粒子を含むことを特徴とする光触媒装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リン酸銀層に含まれるリン酸銀粒子が可視光を吸収することにより光触媒活性を有するため、この光触媒活性により気体や液体を浄化することができる。
本発明によれば、リン酸銀層は、基体に接触する複数の粒状のリン酸銀粒子を含むため、基体表面とリン酸銀粒子との間の接触面積が広くすることができリン酸銀粒子を基体に強く固定することができる。このことにより、リン酸銀粒子を基体に強く固定して光触媒として利用することができる。また、リン酸銀が基体から剥がれ処理水中に混入したり、リン酸銀が基体から剥がれ光触媒活性が低下することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態の光触媒装置の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の光触媒装置の構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の水浄化装置の構成を示す概略断面図である。
【図4】リン酸銀層の観察実験において撮影したSEM写真である。
【図5】リン酸銀層の観察実験において測定したリン酸銀粒子の平均粒径を示すグラフである。
【図6】リン酸銀層の観察実験において測定したリン酸銀粒子の平均粒径を示すグラフである。
【図7】リン酸銀層の観察実験において撮影したSEM写真である。
【図8】リン酸銀層の観察実験において撮影したSEM写真である。
【図9】リン酸銀層の観察実験において撮影したSEM写真である。
【図10】リン酸銀層の観察実験において撮影したSEM写真である。
【図11】光触媒活性評価実験の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の光触媒装置は、基体と、前記基体の上に設けられたリン酸銀層とを備え、前記リン酸銀層は、前記基体に接触する複数の粒状のリン酸銀粒子を含むことを特徴とする。
本発明において、リン酸銀とは、一般式Ag3PO4で表される物質(組成比はある程度幅があってよい)である。リン酸銀粒子とは、リン酸銀からなる粒子であり、複数のリン酸銀の小さな粒子がまとまり1つの塊を形成しているものも含む。また、リン酸銀粒子は、多孔性を有してもよい。粒状のリン酸銀粒子とは、リン酸銀からなり、形状が粒状である粒子である。
【0014】
本発明の光触媒装置において、前記基体は、少なくともその表面が導電性を有し、前記リン酸銀層は、前記基体の導電性を有する表面に接触するように設けられことが好ましい。
このような構成によれば、基体の導電性を有する面上に電解析出により金属銀を析出した後、この金属銀をリン酸化することにより、リン酸銀層を形成することができる。
本発明の光触媒装置において、前記複数の粒状のリン酸銀粒子は、前記基体の表面と平行な方向の平均粒径が前記基体の表面に垂直な方向の平均粒径の1倍以上1.5倍以下であることが好ましい。
このような構成によれば、基体の表面とリン酸銀粒子との間の接触面積を広くすることができ、リン酸銀粒子を基体に強く固定することができる。また、リン酸銀粒子の光触媒反応可能な表面が広くなり、光触媒装置の光触媒活性を高くすることができる。
【0015】
本発明の光触媒装置において、前記複数の粒状のリン酸銀粒子は、前記基体の表面と平行な方向の平均粒径が1μm以上20μm以下であることが好ましい。
このような構成によれば、基体の表面とリン酸銀粒子との間の接触面積を広くすることができ、リン酸銀粒子を基体に強く固定することができる。
本発明の光触媒装置において、前記複数の粒状のリン酸銀粒子は、80%以上の被覆率で前記基体の表面を覆うことが好ましい。
このような構成によれば、基体の表面に固定したリン酸銀粒子の密度を高くすることができ、光触媒装置の光触媒活性を高くすることができる。
【0016】
本発明の光触媒装置において、前記複数の粒状のリン酸銀粒子は、前記基体に付着した金属銀粒子をリン酸塩水溶液によりリン酸化することにより形成されたことが好ましい。
このような構成によれば、光触媒装置が基体に強く固定されたリン酸銀粒子を有することができる。
本発明の光触媒装置において、前記金属銀粒子は、電解析出により形成されたことが好ましい。
このような構成によれば、光触媒装置が基体に強く固定されたリン酸銀粒子を有することができる。
【0017】
本発明の光触媒装置において、前記基体は、300nm以上600nm以下の波長の光に対して、70%以上の透過率を有することが好ましい。
このような構成によれば、リン酸銀層は、基体のリン酸銀層が設けられた側から照射される光だけではなく、基体側からの光も受光することができ、光触媒活性を高くすることができる。
本発明の光触媒装置において、前記基体は、アクリル樹脂、プラスチック、ガラスまたは石英からなる基材と、前記基材と前記リン酸銀層との間に設けられた導電層とを有することが好ましい。
このような構成によれば、導電性を有さない基材上にリン酸銀層を形成することが可能になる。
【0018】
また、本発明は、本発明の光触媒装置と、水を貯留または流通させることができる浄化槽と、前記リン酸銀層に光を照射できるように設けられた光源とを備え、前記光触媒装置は、前記水に接触するように設けられた水浄化装置も提供する。
本発明の水浄化装置によれば、光触媒装置により浄化槽内の処理水を浄化することができる。
本発明の水浄化装置において、前記光源は、300nm以上600nm以下の発光波長を有することが好ましい。
このような構成によれば、リン酸銀層が光源からの光を受光することにより光触媒活性を有することができる。
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0020】
光触媒装置および水浄化装置の構成
図1および2は、それぞれ本発明の一実施形態の光触媒装置の構成を示す概略断面図であり、図3は、本発明の一実施形態の水浄化装置の構成を示す概略断面図である。
【0021】
本実施形態の光触媒装置10は、基体1と、基体1の上に設けられたリン酸銀層5とを備え、リン酸銀層5は、基体1に接触する複数の粒状のリン酸銀粒子8を含むことを特徴とする。
なお、本実施形態の光触媒装置10は、その光触媒活性により水を浄化するために用いられてもよく、空気を浄化するために用いられてもよい。
また、本実施形態の水浄化装置25は、光触媒装置10と、水を貯留または流通させることができる浄化槽11と、リン酸銀層5に光を照射できるように設けられた光源とを備え、光触媒装置10は、前記水に接触するように設けられたことを特徴とする。
以下、本実施形態の光触媒装置10および水浄化装置25について説明する。
【0022】
1.基体
基体1は、その上にリン酸銀層5を設けることができるものであれば、特に限定されない。基体1は、基材と導電層または導電層がリン酸化された層とを含んでもよい。
基体1に含まれる基材は、例えば、図1、2のように基板2であってもよい。このことにより、基板2を受光可能な場所や水槽内などに設置することにより、空気や水を浄化することができる。また、この場合、基板2により空気や水の流路を形成することもできる。
また、基体1は、樹脂フィルムや布、紙などのような柔軟性を有する基材を含んでもよい。このことにより、基体を受光可能な場所や水槽内に基体を貼り付けることにより、空気や水を浄化することができる。
また、基体1は、図3に示した水浄化装置25含まれる浄化槽11のように、浄化槽や浄化装置などであってもよい。このことにより、浄化槽や浄化装置の部品数を低減することができる。
基体1に含まれる基材の材料としては、例えば、アクリル樹脂、プラスチック、ガラスおよび石英などが挙げられる。また、これらの材料により構成される基材を有する基体1は、透光性を有することができ、後述するように光触媒装置10の光触媒活性を高くすることができたり、水浄化装置25の光源の数を減らせるという利点がある。
【0023】
基体1は、透光性を有することができる。また、基体1は、300 nm以上600 nm以下の波長の光に対して、70%以上の透過率を有することができる。このことにより、リン酸銀層5は、基体1のリン酸銀層5が設けられた側から照射される光だけではなく、基体1側からの光も受光することができ、光触媒活性を高くすることができる。また、このことにより、例えば、図2のように基体1の表面上および裏面上にリン酸銀層5を設けた場合、基体1の一方の面側から光を照射することにより、両方の面のリン酸銀層5が光触媒活性を有することができる。また、例えば、図3のように浄化槽11内に光触媒装置10で処理水流路20を形成する場合、光源部15に面したリン酸銀層5だけでなく、光源との間に基体1や他の光触媒装置10が介在しているようなリン酸銀層5にも光を照射することができ、光触媒活性を持たせることができる。このことにより水浄化装置25の光源の数を減らすことができる。
【0024】
基体1は、少なくともその表面が導電性を有することができる。例えば、基体1は金属のように導電性を有する材料からなってもよく、図1、2のように導電性を有さない基材の表面上に導電層3が設けられた構成を有してもよい。このことにより、基体1の導電性を有する表面に電解析出により金属銀を析出させることが可能となり、この金属銀をリン酸化することによりリン酸銀層5を形成することが可能となる。
導電層3としては、例えば、Au、Agなどの金属、ITO、FTO、SnO2などからなってもよい。なお、導電層3が金属などからなる場合、電解析出させた金属銀とともに導電層3がリン酸化されてもよい。この場合、導電層がリン酸化された層は、基体1の一部とみなすことができる。また、基体1は、基材が金属などの導電性を有する場合、基材の表面がリン酸化された層を含んでもよい。
【0025】
2.リン酸銀層
リン酸銀層5は、基体1の上に設けられる。リン酸銀層5は、図1のように基体1の1つの面上に設けられてもよく、図2のように複数の面上に設けられてもよい。
リン酸銀層5に含まれるリン酸銀粒子8が可視光を吸収することにより光触媒活性を有するため、この光触媒活性により気体や液体を浄化することができる。
リン酸銀層5は、気体を浄化できるように設けられてもよく、液体を浄化できるように設けられてもよい。気体を浄化する例としては、例えば、リン酸銀層5を蛍光灯のガラス管(基体1)の表面上に設けることが挙げられる。このことにより、蛍光灯からの光をリン酸銀層5が受光することにより、リン酸銀層5近傍の気体を浄化することができる。液体を浄化する例としては、例えば、リン酸銀層5を浄化槽内に設けることが挙げられる。このことにより、浄化槽内の処理液を浄化することができる。
リン酸銀層5は、受光可能に設けられるが、リン酸銀層5が受光する光は、例えば、蛍光灯の光、太陽光などである。
【0026】
リン酸銀層5は、基体1に接触する複数の粒状のリン酸銀粒子8を含む。このことにより、基体1の表面とリン酸銀粒子8との間の接触面積が広くすることができリン酸銀粒子8を基体1に強く固定することができる。このことにより、リン酸銀粒子8を基体1に強く固定して光触媒として利用することができる。また、リン酸銀が基体1から剥がれ処理水中に混入したり、リン酸銀が基体1から剥がれ光触媒活性が低下することを防止することができる。
また、リン酸銀層5は、実質的に複数のリン酸銀粒子8からなってもよい。さらに、リン酸銀層5は、針状のリン酸銀粒子を実質的に含まない構成を有してもよい。
【0027】
複数の粒状のリン酸銀粒子8は、基体1の表面と平行な方向の平均粒径dbが、基体1の表面に垂直な方向の平均粒径daの1倍以上1.5倍以下であってもよい。このことにより、基体1の表面とリン酸銀粒子8との間の接触面積を広くすることができ、リン酸銀粒子8を基体1に強く固定することができる。また、リン酸銀粒子8の光触媒反応可能な表面が広くなり、光触媒装置10の光触媒活性を高くすることができる。
なお、リン酸銀粒子8の基体1の表面と平行な方向の粒径dbおよび基体1の表面に垂直な方向の粒径daは、リン酸銀層5またはその断面を基体1の表面と平行な方向から観察することにより計測することができ、平均粒径は、十分な数(例えば100個)のリン酸銀粒子8のdaまたはdbの平均を求めることにより算出することができる。
【0028】
また、複数の粒状のリン酸銀粒子8は、基体1の表面と平行な方向の平均粒径が1μm以上20μm以下であってもよい。このことにより、基体1の表面とリン酸銀粒子8との間の接触面積を広くすることができ、リン酸銀粒子8を基体1に強く固定することができる。
また、複数の粒状のリン酸銀粒子8は、80%以上の被覆率で基体1の表面を覆ってもよい。基体1の表面に強く固定されたリン酸銀粒子8の密度を高くすることができ、光触媒装置10の光触媒活性を高くすることができる。なお、この被覆率は、リン酸銀層5を上から観察し、リン酸銀粒子8が見える面積と基体表面が見える面積とを比較することにより求めることができる。
また、リン酸銀層5は、基体1の導電性を有する表面に接触するように設けられてもよい。このことにより、基体1の導電性を有する面上に電解析出により金属銀を析出させた後、この金属銀をリン酸化することにより、リン酸銀層5を形成することができる。
【0029】
3.リン酸銀層の形成方法
リン酸銀層5は、例えば、次の製法により形成することができる。
まず、表面が導電性を有する基体1を硝酸銀水溶液などの銀イオンを含む溶液中に浸漬し、この基体1の表面を作用極として電圧を印加し、基体1の表面に金属銀を電解析出させる。
次に、この表面に金属銀を析出させた基体をリン酸水素二ナトリウム水溶液などのリン酸塩を含む溶液中に浸漬し、導電性を有する基体の表面を作用極として電圧を印加し、析出させた金属銀をリン酸化し、リン酸銀層5を形成することができる。
【0030】
4.水浄化装置
本実施形態の水浄化装置25は、光触媒装置10と、水を貯留または流通させることができる浄化槽11と、リン酸銀層5に光を照射できるように設けられた光源とを備え、光触媒装置10は、前記水に接触するように設けられる。
浄化槽11は、浄化する水を貯留または流通させることができる水槽であり、光触媒装置10は、浄化する水に接触するように設けられる。また、光源は、光触媒装置10に含まれるリン酸銀層5に光を照射できるように設けられる。
水浄化装置25は、例えば、図3のような断面を有することができる。
【0031】
浄化槽11は、処理水を浄化するための水槽である。浄化槽11は、処理水を溜めるまたは流すことができれば特に限定されない。浄化槽11は、例えば、金属製、樹脂製、強化プラスチック製、ガラス製、陶器製である。また、浄化槽11は、その表面にリン酸銀層5が形成され、光触媒装置10を形成してもよい。
また、浄化槽11は、その内部に処理水を流れる処理水流路20を備えることができる。このことにより、リン酸銀層5で発生させた活性種により処理水を効率的に浄化することができる。また、例えば、図3のように光触媒装置10により隔壁を形成し処理水流路20を形成することができる。このことにより、処理水流路20を流れる処理水を、光触媒活性を有するリン酸銀層5により効率的に浄化することができる。
また、水浄化装置25に含まれる光触媒装置10は、図3のように隔壁を形成してもよいし、浄化槽11の壁に貼り付けたものであってもよい。
【0032】
また、浄化槽11は、採光窓を有することができる。このことにより光触媒装置10を受光可能に設けることができる。また、採光窓は、太陽光などの外部の光を採光するものであってもよく、光源部15の光を採光するものであってもよい。水浄化装置25が備える光源は、水浄化装置25が太陽光などの外部の光を採光する場合、採光窓が光源であってもよく、水浄化装置25が光源部15からの光を採光する場合、光源部15であってもよい。光源部15の例としては、例えば、蛍光灯、水銀ランプ、キセノンランプなどである。また、光源部15は、300nm以上600nm以下の発光波長を有することができる。この発光をリン酸銀層5が受光することにより、光触媒装置10が高い光触媒活性を有することができる。
【0033】
採光窓は、浄化槽11が有する開口であってもよく、また、浄化槽11に接続した透光性部材であってもよい。例えば、図3のように光源部15と浄化槽11の内部とを仕切る透光性部材10であってもよく、太陽光を採光するために設けられた透光性部材であってもよい。
【0034】
浄化槽11は、浄化槽11で浄化する処理水の流入口17および排水口18を備えることができる。このことにより、浄化前の処理水を流入口17から浄化槽11内に流入させることができ、浄化槽11で浄化された処理水を排水口18から排出することができる。
また、流入口17から浄化槽11内に処理水を流入させる前に不純物を取り除けるように、フィルターを設けてもよい。フィルターは孔径の異なる複数の種類のフィルターを配置したものから成っていてもよい。例えば、MF膜やUF膜、RO膜等を使用することができる。このことにより、水浄化装置25の浄化能を向上させることができる。
【0035】
また、浄化槽11は、処理水が自然対流により対流するように設けられてもよく、処理水の温度分布を形成することにより対流するように設けられてもよく、処理水を対流させるためのファンやポンプを備えてもよい。このことにより、処理水を、より効率的に光触媒装置10により発生させた活性種により浄化することができる。
【0036】
5.光触媒装置作製実験
まず、硝酸銀(キシダ化学特級)の粉末を100mLの純水に溶かし、マグネチックスターラーで攪拌して20 mmol/L の硝酸銀水溶液を調製した。次に、リン酸水素二ナトリウム(キシダ化学特級)の粉末を100mLの純水に溶かして、マグネチックスターラー攪拌し、20 mmol/L のリン酸水素二ナトリウム水溶液を調製した。
【0037】
次に、硝酸銀水溶液中に、ガラス/TCO膜/シリコン層/裏面電極の積層構造からなるTCOガラス基板(AGCファブリテック製)の裏面電極を作用極、白金電極を対極、Ag/AgCl電極を参照極として、作用極と対極の間に、-0.5Vの直流電圧を印加し、TCOガラス 基板の裏面電極上に金属銀を析出させた。このとき、前記裏面電極上に白色の金属銀の層が形成された。金属銀を析出させたTCOガラス基板を水洗後、リン酸水素二ナトリウム水溶液中にセットし、TCOガラス基板の裏面電極を作用極、白金電極を対極、Ag/AgCl電極を参照極として、作用極と対極の間に、+0.5Vの直流電圧を印加して析出させた金属銀をリン酸化した。このとき、前記裏面電極上の白色の金属銀の層は、黄色の薄膜に変化した。上記プロセスによって、リン酸銀層が形成されていると考えられる。このことにより光触媒装置を製造することができた。
【0038】
形成されたリン酸銀について調べるために、まず、上記プロセス中において、銀析出およびリン酸化時の印加直流電圧はそれぞれ-0.5V、+0.5V で一定とし、それぞれの反応時間を表1のように変化させて装置A〜Eの光触媒装置を製造した。次に、作用極―対極間に印加する一定電圧を変化させて装置F、Gの光触媒装置を製造した。
【0039】
【表1】

【0040】
6.SEMによるリン酸銀層の観察実験
光触媒装置作製実験で製造した装置A〜装置Eに含まれるリン酸銀層をSEM(表面走査顕微鏡)により観察し、評価を行った。
光触媒装置作製実験で製造した装置Bに含まれるリン酸銀層を斜めから見たSEM像を図4に示す。TCOガラス基板の裏面電極上に多数の球体状(粒状)のリン酸銀粒子がくっついていることがわかる。リン酸銀粒子表面はさらに細かい鱗片状のもので形成されている。
この形状は、例えば、塗布法やスパッタ法といった物理的な手法では作製することが難しい形状で、上記プロセスによって、比較的容易に光触媒の表面積を増やすことが可能である。また、それぞれのリン酸銀粒子が独立的に、基板に固定化されているため、例えば、塗布法やスパッタ法によって形成される横方向につながった薄膜と比較して、接着強度が強い。すなわち、横方向につながった薄膜においては、どこか一箇所でも基板と剥離すると、横方向につながった全ての膜がはがれてしまうからである。
【0041】
光触媒装置作製実験で製造した装置A〜Cに含まれるリン酸銀層の、基板の表面と平行な方向から観察したSEM像から、多数の球体状のリン酸銀粒子の高さ(da)と横方向の長さ(db)を測定し、daの平均値およびdbの平均値をそれぞれ算出した。この算出したデータを図5に示す。なお、装置A〜Cは、金属銀をリン酸化する条件は、作用極と対極との間に印加する電圧が+0.5Vであり電圧印加時間が150秒であり、同じである。また、装置A〜Cは、裏面電極上に金属銀を析出させる条件は、作用極と対極との間に印加する電圧が−0.5Vであることは同じであるが、電圧印加時間は、装置A〜Cでそれぞれ異なる。図5に示した測定結果から、裏面電極上に金属銀を析出させるときの電圧印加時間を長くすることによって、リン酸銀粒子は高さ方向にも横方向にも大きさが大きくなることがわかった。
【0042】
次に、光触媒装置作製実験で製造した装置B、D、Eに含まれるリン酸銀層の、基板の表面と平行な方向から観察したSEM像から、球体状のリン酸銀粒子の高さ(da)と横方向の長さ(db)を測定し、daの平均値およびdbの平均値をそれぞれ算出した。この算出したデータを図6に示す。なお、装置B、D、Eは、裏面電極上に金属銀を析出させる条件は、作用極と対極との間に印加する電圧が−0.5Vであり電圧印加時間が300秒であり、同じである。金属銀をリン酸化する条件は、作用極と対極との間に印加する電圧が+0.5Vであることは同じであるが、電圧印加時間は、装置B、D、Eでそれぞれ異なる。図6に示した測定結果から、金属銀をリン酸化させるときの電圧印加時間を長くしても、リン酸銀粒子の粒径は高さ方向にも横方向にもほとんど変わらないことがわかった。
【0043】
これらの実験結果から、リン酸銀粒子の成長メカニズムは次のように類推できる。
硝酸銀水溶液に溶けた銀イオン(Ag+)は、作用極に印加されたマイナス電位に引き寄せられて、還元されて銀原子となり、TCOガラス基板の裏面電極上に接着する。この銀原子は、TCOガラス基板上で一定の間隔を持って、一様な密度で形成されるものと考えられる。この銀原子の周りに数個から数百個の銀原子が凝集して成長核となり、銀の析出時間に応じて、この成長核の周りにさらに大きな銀粒子が形成される。
次に、リン酸水素二ナトリウム水溶液に溶けたリン酸イオン(PO4-)は、作用極に印加されたプラス電位に引き寄せられて、銀粒子の表面で銀粒子をリン酸化する。この反応は表面反応であるため、リン酸銀粒子の大きさは析出した銀粒子の大きさから、ほとんど変化しないと考えられる。リン酸化反応は、析出した銀粒子表面の複数の場所で同時に起こるため、リン酸銀粒子はさまざまな結晶方位をもったリン酸銀結晶面で覆われる、と考えられる。
【0044】
また、図5、6から上記プロセスによって作製されるリン酸銀粒子は、横方向の大きさをx(db)、高さ方向の大きさをy(da)とすると、1.0 ≦ x/y ≦ 1.5 となっていることがわかった。
【0045】
図7、図8はそれぞれ、光触媒装置作製実験で製造した装置F(銀析出条件:−1.0V 600秒、リン酸化条件:+1.0V 600秒)に含まれるリン酸銀層の断面と斜めから見たSEM像である。装置Fのリン酸銀層に含まれるリン酸銀粒子の高さ方向の平均粒径(da)は5.4μmであり、横方向の平均粒径(db)は6.2μmであった。
図9、図10はそれぞれ、光触媒装置作製実験で製造した装置G(銀析出条件:−1.5V 600秒、リン酸化条件:+1.5V 600秒)に含まれるリン酸銀層の断面と斜めから見たSEM像である。装置Gのリン酸銀層に含まれるリン酸銀粒子の高さ方向の平均粒径(da)は13.8μmであり、横方向には隣接するリン酸銀粒子同士がくっついている状態であった。
【0046】
装置Gに含まれるリン酸銀層においては、基体の表面に垂直方向にリン酸銀が成長している様子が見られた。これは、リン酸化の際の印加電圧が強すぎるために、基体からリン酸銀粒子が剥がれ落ち、剥がれ落ちやリン酸銀粒子が基体に接着しているリン酸銀粒子の結晶を元に再度基体に接着したことによるものと考えられる。
【0047】
このように基体の表面に垂直方向にリン酸銀が成長した場合、リン酸銀層は基体から剥離しやすくなるというデメリットをもつと考えられる。また、基体の表面に垂直方向にリン酸銀が成長したリン酸銀層を、例えば水のような粘性の高い液体の浄化に用いようとすると、リン酸銀がたちまち基体から剥離し、浄化能力を失うことが考えられる。
【0048】
また、装置Fに含まれるリン酸銀層においては、図8からわかるように、リン酸銀粒子は基体の表面の面方向に密に詰まっていることがわかった。一方、装置Gに含まれるリン酸銀層においては、図10からわかるようにリン酸銀粒子が間隔をあけて基体に固定されていることがわかった。
単位面積あたりに固定されているリン酸銀粒子が多いほど、光触媒性能は高いと考えられるから、リン酸銀粒子は基体に高い密度で固定されていることが望ましい。
図4に示した装置Bに含まれるリン酸銀層を斜めから見た写真からも、リン酸銀粒子が間隔をあけて基体に固定されている様子が見える。
【0049】
装置A〜Gに含まれるリン酸銀層において、それぞれの上面SEM像の視野50μm×50μmから、リン酸銀粒子の接着密度(リン酸銀粒子による基体表面の被覆率)を算出したところ、装置A〜Eでは65%程度、装置Fでは95%程度以上、装置Gでは80%程度であった。
以上より、リン酸銀粒子は基体に高密度に付着し、50μm×50μmの視野において、80%以上の被覆率を有することが望ましい。
【0050】
7.光触媒活性評価実験
光触媒装置作製実験で製造した装置B、FおよびGに含まれるリン酸銀層の酸化還元能力をそれぞれ測定するために、10ppmのメチレンブルー色素を含む水溶液20mL に装置B、FおよびGのうち1つを入れて、装置B、FまたはGに含まれるリン酸銀層においてメチレンブルーの光分解反応をさせた。光分解反応は、蛍光灯を8時間照射することによって行った。装置BおよびFにより光分解反応を行ったメチレンブルー溶液について蛍光灯照射後のメチレンブルー溶液の上澄み液をアクリルケースに取り出し、透過率測定を行った。なお、装置Gにより光分解反応を行った測定においては、実験中にリン酸銀層の膜剥がれが起こった。このため、メチレンブルー溶液中にリン酸銀が混入しており装置Gにより光分解反応を行ったメチレンブルー溶液については透過率測定を行っていない。また、この装置Gのリン酸銀層の膜剥がれは、リン酸銀粒子が基体垂直方向に成長して、基体から剥離しやすくなったためだと考えられる。
【0051】
透過率測定の測定結果を図11に示す。図11からわかるように、装置B、Fのリン酸銀層による光分解反応によりメチレンブルーが分解されていることが確認され、装置B、Fのリン酸銀層が光触媒活性を有し浄化能力があることが確認された。また、装置Bのリン酸銀層に比べ、装置Fのリン酸銀層の方が光触媒活性が高いことがわかった。これは、装置Bのリン酸銀層に比べ装置Fのリン酸銀層の方が、リン酸銀粒子による基体表面の被覆率が高いことによるものと考えられる。
【符号の説明】
【0052】
1: 基体 2:基板 3:導電層 5:リン酸銀層 8:リン酸銀粒子 10:光触媒装置 11:浄化槽 14:透光性部材 15:光源部 17:流入口 18:排水口 20:処理液流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体の上に設けられたリン酸銀層とを備え、
前記リン酸銀層は、前記基体に接触する複数の粒状のリン酸銀粒子を含むことを特徴とする光触媒装置。
【請求項2】
前記基体は、少なくともその表面が導電性を有し、
前記リン酸銀層は、前記基体の導電性を有する表面に接触するように設けられた請求項1に記載の光触媒装置。
【請求項3】
前記複数の粒状のリン酸銀粒子は、前記基体の表面と平行な方向の平均粒径が前記基体の表面に垂直な方向の平均粒径の1倍以上1.5倍以下である請求項1または2に記載の光触媒装置。
【請求項4】
前記複数の粒状のリン酸銀粒子は、前記基体の表面と平行な方向の平均粒径が1μm以上20μm以下である請求項1〜3のいずれか1つに記載の光触媒装置。
【請求項5】
前記複数の粒状のリン酸銀粒子は、80%以上の被覆率で前記基体の表面を覆う請求項1〜4のいずれか1つに記載の光触媒装置。
【請求項6】
前記複数の粒状のリン酸銀粒子は、前記基体に付着した金属銀粒子をリン酸塩水溶液によりリン酸化することにより形成された請求項1〜5のいずれか1つに記載の光触媒装置。
【請求項7】
前記金属銀粒子は、電解析出により形成された請求項6に記載の光触媒装置。
【請求項8】
前記基体は、300nm以上600nm以下の波長の光に対して、70%以上の透過率を有する請求項1〜7のいずれか1つに記載の光触媒装置。
【請求項9】
前記基体は、アクリル樹脂、プラスチック、ガラスまたは石英からなる基材と、前記基材と前記リン酸銀層との間に設けられた導電層とを有する請求項1〜8のいずれか1つに記載の光触媒装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の光触媒装置と、水を貯留または流通させることができる浄化槽と、前記リン酸銀層に光を照射できるように設けられた光源とを備え、
前記光触媒装置は、前記水に接触するように設けられた水浄化装置。
【請求項11】
前記光源は、300nm以上600nm以下の発光波長を有する請求項10に記載の水浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−103145(P2013−103145A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246634(P2011−246634)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】