説明

光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットおよび光記録媒体の反射膜

【課題】 膜の良好な平坦性および耐紫外線性を有すると共に酸化による反射率の低下を防ぐことができる光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットおよびこのターゲットを用いて成膜した光記録媒体の反射膜を提供する。
【解決手段】 反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットが、In:0.5〜10質量%およびZn:0.5〜10質量%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる組成の銀合金からなる。または、In:0.5〜10質量%、Zn:0.5〜10質量%およびCu:0.5〜2質量%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる組成の銀合金からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットおよび光記録媒体の反射膜に関するものであり、特に波長405nmの青紫色レーザを使用して書きこみおよび読み取りを行う光記録媒体、および波長405nmの青紫色レーザを使用して読み取りを行う再生専用の光記録媒体を構成するAg合金反射膜、またはAg合金半透明反射膜(以下、反射膜と半透明反射膜とを含めて反射膜と総称する)をスパッタリングにより形成するための銀合金スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、CD−R,CD−RW,DVD−R,DVD−RW,DVD−RAMなどの光記録媒体の反射膜としてAgまたはAg合金反射膜が使用されており、このAgまたはAg合金反射膜は400〜830nmの幅広い波長域での反射率が高い特性を有している。一般に、この光記録媒体のAg合金反射膜は、同じ成分組成を有するAg合金製ターゲットを用い、スパッタリングすることにより形成されることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Cu:0.05〜2.0質量%、In:0.05〜2.0質量%、Al:0.01〜1.0質量%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる組成の銀合金からなる光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、銀を主成分とし、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム及びスズからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素を含有し、少なくとも1種類の各元素の含有量が0.1原子パーセント以上8.0原子パーセント以下である銀合金からなるスパッタリングターゲットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−203025号公報
【特許文献2】特開2004−2929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
近年、光記録媒体の大容量化のために記録膜へ形成される記録マークを小さくしていく必要性から通常のレーザよりも波長の短い青紫色レーザ(波長405nm)が用いられるようになってきた。この青紫色レーザを使用した光記録方式の場合、レーザ光が短波長であるために反射膜表面の凹凸の影響を受けやすく、従来のAg合金反射膜では、安定した書き込みおよび読み取りに必要な膜の平坦性を得ることが難しいという不都合があった。なお、上記特許文献2の技術のようにCuを含有させることで、膜の平坦性を向上させることができるが、Cuを多く含有させると酸化し易くなってCuの酸化に起因する光吸収によって反射率が低下してしまう問題があった。また、従来のAg合金反射膜では、保管時などにおいて蛍光灯の光や太陽光線に含まれる紫外線によって膜の平坦性が失われ、それによって反射率が低下して、読み取り時などに信号にノイズが発生してしまうことから、耐紫外線性の向上も要望されている。さらに、半透明反射膜として採用する場合、膜の透明性が重要であるが、従来のAg合金反射膜では青紫色レーザのレーザ光に対する吸収が多いため、透明性を高く維持することができる、すなわち紫外線による吸収率変化の小さい膜が要望されている。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、Ag合金反射膜の良好な平坦性および耐紫外線性を有し、さらには半透明反射膜として用いる場合、十分な透明性が安定して得られる光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットおよびこのターゲットを用いて成膜した光記録媒体の反射膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、光記録媒体用Ag合金反射膜をスパッタリングで形成する技術について研究を進めたところ、Al等を用いずにZnを添加することで、膜の平坦性と耐紫外線性とを得ることができると共に、さらに膜の十分な透明性を安定して得ることができることを突き止めた。
【0009】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットは、In:0.5〜10質量%およびZn:0.5〜10質量%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる組成の銀合金からなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットは、In:0.5〜10質量%およびZn:0.5〜10質量%を含有し、さらにCu:0.5〜2質量%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる組成の銀合金からなることを特徴とする。
【0011】
そして、本発明の光記録媒体の反射膜は、上記本発明の光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングすることにより成膜されたことを特徴とする。
【0012】
これらの光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットおよびこれを用いてスパッタリングされた光記録媒体の反射膜では、InおよびZnを上記含有量範囲で含有している銀合金であるので、Znによる膜の平坦効果と耐紫外線効果とにより、青紫色レーザによる安定した書き込みおよび読み取りが可能な平坦性および耐紫外線性が得られる。さらに、半透明反射膜として用いる場合、Znを添加することで、青紫色レーザのレーザ光に対して十分な透明性の膜を安定して得ることができる。
また、さらにCuを膜の透明性に影響が生じない上記含有量範囲内で添加することにより、さらに膜の平坦性を向上させることができる。
【0013】
次に、この発明の光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットおよびこのターゲットを用いてスパッタリングにより成膜された光記録媒体の反射膜における成分組成を上記の如く限定した理由を説明する。
【0014】
In:
Inは、スパッタにより形成された膜中の結晶粒を微細化し、膜の表面粗さを小さくする効果、およびAgに固溶して結晶粒の強度を高め、結晶粒の再結晶粒化を防止し、スパッタにより形成された反射膜の反射率の低下を抑制する効果がある。
なお、Inを0.5質量%未満含んでも十分に結晶粒を微細化すること、および結晶粒の再結晶粒化を防止することができないので、光記録媒体に繰り返し記録、再生、消去を行うことによる反射膜の反射率の低下を抑止することができない。一方、Inが10質量%を越えて含有すると、反射率の低いInの特性が現れるようになり、スパッタにより形成されたAg合金反射膜の反射率が低下するので好ましくない。また、Inが10質量%を越えて含有すると、スパッタにより形成されたAg合金反射膜の熱伝導率が低下し、高速記録に支障をきたすようになるので好ましくない。したがって、Ag合金反射膜およびこのAg合金反射膜を形成するためのスパッタリングターゲットに含まれるInの含有量は0.5〜10質量%(一層好ましくは1〜5質量%)に定めた。
【0015】
Zn:
Znは、Agに固溶して結晶粒の強度を高め、結晶粒の再結晶粒化を防止し、スパッタにより形成された反射膜の反射率の低下を抑制する効果があるが、Znを0.5質量%未満含んでも十分な結晶粒の再結晶粒化を防止することができないので反射膜の反射率の低下を抑止することができず、一方、Znが10質量%を越えて含有すると、反射率が低下し、光記録媒体の再生に支障をきたすようになるので好ましくない。したがって、Ag合金反射膜およびこのAg合金反射膜を形成するためのスパッタリングターゲットに含まれるこれらZnの含有量は0.5〜10質量%に定めた。特に全反射膜を形成するためのZn含有量の一層好ましい範囲は1〜10質量%であり、特に半透明反射膜を形成するためのZn含有量の一層好ましい範囲は0.5〜1質量%未満である。
【0016】
Cu:
Cu成分は、Agに固溶し、Ag合金反射膜の再結晶化防止をさらに促進する成分である。
なお、Cuを0.5質量%未満含んでも格段の効果が得られず、一方、2質量%を越えて含有すると、スパッタにより形成されたAg合金反射膜の熱伝導率が低下し、高速記録に支障をきたすようになるので好ましくない。また、Cuが2質量%を越えて含有すると、酸化によって膜に色が付いてしまい反射率が低下してしまう。したがって、Ag合金反射膜およびこのAg合金反射膜を形成するためのスパッタリングターゲットに含まれるこれら成分の含有量は0.5〜2質量%(一層好ましくは0.8〜1.5質量%)に定めた。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットおよびこれを用いてスパッタリングにより成膜された光記録媒体の反射膜によれば、InおよびZnを上記含有量範囲で含有している銀合金であるので、青紫色レーザによる安定した書き込みおよび読み取りが可能な平坦性および耐紫外線性が得られると共に、半透明反射膜として十分な透明性を安定して得ることができる。
したがって、紫外線に起因する経時変化による光記録媒体の劣化が少なく長期にわたって使用でき、特に半透明反射膜とした際に、青紫色レーザを用いても良好な書き込みおよび読み出しが可能な光記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットおよびこれを用いてスパッタリングにより成膜された光記録媒体の反射膜の一実施形態を、その製造方法と共に説明する。
【0019】
まず、原料として純度:99.99質量%以上の高純度Ag、いずれも純度:99.9質量%以上のInおよびZnを用意する。
Ag、InおよびZnを高周波真空溶解炉に装填し、炉内圧力が大気圧となるまでArガスを充填したのち、溶解し、黒鉛製鋳型に鋳造することによりインゴットを作製する。
【0020】
得られたインゴットを、例えば冷間圧延し、550℃、1時間の熱処理を施した後、機械加工することにより、直径:152.4mm、厚さ:6mmなどの寸法を有した本実施形態のターゲットを製造する。
このようにして作製されるスパッタリングターゲットは、In:0.5〜10質量%およびZn:0.5〜10質量%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる組成の銀合金である。
【0021】
なお、本実施形態の他の例として、上記原料として純度:99.9質量%以上のCuをさらに用意し、所定の配合比で秤量したCuをAg、InおよびZnと共に溶解し、上記と同様にして、鋳造することによりインゴットを作製しても良い。
このようにして作製されるスパッタリングターゲットは、In:0.5〜10質量%およびZn:0.5〜10質量%を含有し、さらにCu:0.5〜2質量%を含有し、残部がAgおよび不可避不純物からなる組成の銀合金である。
【0022】
次に、上記本実施形態のターゲットを無酸素銅製のバッキングプレートにはんだ付けし、これを直流マグネトロンスパッタ装置に装着し、真空排気装置にて直流マグネトロンスパッタ装置内を、例えば5×10−5Paまで排気した後、Arガスを導入して0.67Paのスパッタガス圧とする。続いて、直流電源にてターゲットに250Wの直流スパッタ電力を印加し、例えば上記ターゲットに対向しかつ70mmの間隔を設けてターゲットと平行に配置した縦:30mm、横:30mm、厚さ:1.1mmの無アルカリガラス基板と上記ターゲットとの間にプラズマを発生させ、厚さ:100nmのAg合金反射膜を形成する。
【実施例】
【0023】
次に、上記実施形態に基づいて、表1に示される成分組成を有する本発明のスパッタリングターゲット1〜15を作製し、これらのターゲットを用いてスパッタリングにより成膜した反射膜について、膜の平坦性と紫外線照射時の反射率変化(耐紫外線性)と紫外線照射時の半透明反射膜の吸収率変化(透過率)とを評価した結果を、表1に示す。
なお、上記ターゲットの製造条件および上記反射膜の成膜条件は、以下のように設定した。
【0024】
原料として純度:99.99質量%以上の高純度Ag、いずれも純度:99.9質量%以上のIn、ZnおよびCuを用意し、Ag、In、Znおよび必要に応じてCuを以下の表1に示される割合で秤量した。そして、これらを高周波真空溶解炉に装填し、炉内圧力が大気圧となるまでArガスを充填したのち、溶解し、黒鉛製鋳型に鋳造することによりインゴットを作製した。得られたインゴットを、冷間圧延し、550℃、1時間の熱処理を施した後、機械加工することにより、直径:152.4mm、厚さ:6mmの寸法で表1に示される成分組成を有する本発明ターゲット1〜15を製造した。同様にして、表1に示される、成分組成が本発明の範囲から外れる比較ターゲット1〜5を製造した。さらに、同様にして、表1に示される成分組成の従来ターゲット1〜3を製造した。
【0025】
これら表1に示される本発明ターゲット1〜15、比較ターゲット1〜5をそれぞれ無酸素銅製のバッキングプレートにはんだ付けした。これを直流マグネトロンスパッタ装置に装着し、真空排気装置にて直流マグネトロンスパッタ装置内を5×10−5Paまで排気した後、Arガスを導入して0.67Paのスパッタガス圧とした。続いて、直流電源にてターゲットに250Wの直流スパッタ電力を印加し、上記ターゲットに対向しかつ70mmの間隔を設けてターゲットと平行に配置した縦:30mm、横:30mm、厚さ:1.1mmの無アルカリガラス基板と上記ターゲットとの間にプラズマを発生させ、無アルカリガラス基板上に厚さ:100nmのAg合金反射膜および厚さ:10nmのAg合金半透明反射膜とを形成した。
【0026】
また、膜の平坦性と紫外線照射時の反射率・吸収率変化(耐紫外線性、透過率)とは、以下のようにして評価を行った。
(a)膜の平坦性評価
厚さ:100nmのAg合金反射膜の成膜直後の平均面粗さをセイコーインスツルメンツ株式会社製の走査プローブ顕微鏡SPA−400AFMを用いて膜面内1μm×1μmの領域で測定し、その結果を表1に示す。
(b)膜の耐紫外線性、透過率の評価
厚さ:100nmのAg合金反射膜の成膜直後の反射率および、厚さ:10nmの半透明反射膜の反射率と透過率を分光光度計により測定し、その後、形成したAg合金反射膜を紫外線照射装置により紫外線強度150mW/cmで1時間の紫外線照射を施した後、再度同じ条件で反射率および透過率を測定した。得られた反射率データから405nmにおける全反射膜の反射率を求めた。さらに、得られた半透明反射膜の反射率および透過率のデータから成膜直後および上記紫外線照射後の波長:405nmのレーザ光に対するAg合金半透明反射膜の吸収率を求めた。そして、これらの結果を表1に示して膜の耐紫外線性を評価した。
【0027】
【表1】

【0028】
これらの評価結果から、本実施例では、膜の良好な平坦性および耐紫外線性が得られていることがわかると共に、比較例に比べて高い透明性保持性能(低吸収率)を有していることがわかる。特に、青紫色レーザを用いる光記録媒体の半透明反射膜として優れた特性を有している。
【0029】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
In:0.5〜10質量%およびZn:0.5〜10質量%を含有し、
残部がAgおよび不可避不純物からなる組成の銀合金であることを特徴とする光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲット。
【請求項2】
In:0.5〜10質量%およびZn:0.5〜10質量%を含有し、
さらにCu:0.5〜2質量%を含有し、
残部がAgおよび不可避不純物からなる組成の銀合金であることを特徴とする光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光記録媒体の反射膜形成用銀合金スパッタリングターゲットを用いてスパッタリングすることにより成膜されたことを特徴とする光記録媒体の反射膜。

【公開番号】特開2013−37753(P2013−37753A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175574(P2011−175574)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】