説明

光記録媒体

【課題】In−Co系合金等の穴開け記録タイプの記録層を形成した場合でも、良好なサーボ信号が得られる光記録媒体。
【解決手段】基板1と、グルーブ部11Gとランド部11Lとから成り、グルーブ部11Gの深さが26nm〜40nmの範囲内であり、トラックピッチTPが320nmであり、基板1の上面に形成された凹凸面11と、基板1の凹凸面11上に形成され、In−Co系合金又はSn−Co系合金から成り、穴あけ記録により記録が行われる記録層2と、記録層2の上に形成された光透過層3とを含む光記録媒体10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴あけ記録により情報の記録が行われる光記録媒体に係わり、追記型の光記録媒体に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
追記型光ディスクの記録方式として、相変化記録タイプ、穴あけ記録タイプ等が知られている。
従来の赤色レーザを使用した追記型光ディスクにおいては、記録層に有機色素を使用していた。
しかし、青色レーザを使用した追記型光ディスクにおいては、青色レーザを照射できる適切な有機色素がないため、無機材料を使用することが検討されている。
【0003】
無機材料を使用する場合には、充分な反射率を得るためや、レーザ照射による熱を放射させる目的で、記録層を多層膜により形成することがある。
しかし、多層膜により記録層を形成すると、多層膜の成膜に時間を要すると共に、数個の成膜室を備えた高価な成膜装置を必要とする。
【0004】
そこで、青色レーザを使用した追記型光ディスクにおいて、穴あけ記録タイプの記録層として、In−Co合金系の材料を使用することが提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献2を参照。)。
このような材料を記録層に使用することにより、記録層を単層で構成することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−217957号公報
【特許文献2】特開2007−196683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1及び前記特許文献2では、青色レーザを使用する光ディスクに通常用いられる基板を使用している。
この基板は、トラックピッチが320nmであり、Groove Duty(グルーブ部の比率)が50%程度であり、グルーブ部の幅(オングルーブ幅)が160nm前後であり、グルーブ部の溝の深さは25nm程である。
【0007】
しかしながら、穴開け記録では、記録前後のNPP信号(規格化プッシュプル信号)の変化が大きくなる。
そのため、前記特許文献1及び前記特許文献2に記載されている、グルーブ部の溝の深さが25nmの基板の上にIn−Co合金系の材料から成る記録層を形成した光ディスクでは、サーボ信号が乱れて、トラッキングサーボが不安定になってしまう問題がある。
【0008】
上述した問題の解決のために、本発明においては、In−Co系合金等の穴開け記録タイプの記録層を形成した場合でも、良好なサーボ信号が得られる光記録媒体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光記録媒体は、基板と、基板の上面に形成された凹凸面と、基板の凹凸面上に形成され、In−Co系合金又はSn−Co系合金から成り、穴あけ記録により記録が行われる記録層と、記録層の上に形成された光透過層とを含むものである。そして、基板の凹凸面は、基板の底面側から見て溝状の凹部となっているグルーブ部と、基板の底面側から見て凸部となっているランド部とから成り、グルーブ部とランド部とを合わせたトラックピッチが320nmである。さらに、グルーブ部の深さが26nm〜40nmの範囲内である。
【0010】
上述の本発明の光記録媒体の構成によれば、記録層がIn−Co系合金又はSn−Co系合金から成り、穴あけ記録により記録が行われるので、合金膜の単層膜により記録層を構成することができる。これにより、多層膜から成る記録層を有する光記録媒体と比較して、記録層を構成する膜の数を大幅に低減することができるため、記録層を成膜室の少ない安価な成膜装置で成膜することができる。
また、凹凸面のトラックピッチが320nmであり、グルーブ部の深さが26nm〜40nmの範囲内であるため、In−Co系合金又はSn−Co系合金から成る記録層を形成した場合でも、良好なサーボ信号を得ることが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
上述の本発明の光記録媒体の構成によれば、記録層を成膜室の少ない安価な成膜装置で成膜することができるので、記録層を短い時間でかつ安価に形成することができる。
これにより、光記録媒体の製造に要する時間を短縮すると共に、光記録媒体の製造コストを低減することができる。
また、良好なサーボ信号を得ることが可能になるので、良好な特性の光記録媒体を、容易に、安いコストで、製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の光記録媒体の一実施の形態の概略構成図(断面図)である。
【図2】溝の深さが25nmのときの記録前後のNPP信号の特性である。
【図3】溝の深さが29nmのときの記録前後のNPP信号の特性である。
【図4】溝の深さが33nmのときの記録前後のNPP信号の特性である。
【図5】溝の深さが40nmのときの記録前後のNPP信号の特性である。
【図6】溝の深さとグルーブ部の幅との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態とする)について説明する。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態
2.実験例
【0014】
<1.実施の形態>
本発明の光記録媒体の実施の形態の概略構成図(断面図)を、図1に示す。
この光記録媒体10は、グルーブ部11G及びランド部11Lが形成された凹凸面11を有する基板1上に、記録層2、光透過層3が順次積層形成されて成る。
【0015】
グルーブ部11Gは、基板1の底面1A側から見ると、溝状の凹部になっている。
ランド部11Lは、基板1の底面1A側から見ると、溝状のグルーブ部11Gの間の凸部になっている。
なお、グルーブ部11G及びランド部11Lの呼称は、赤色レーザを使用していた従来の光ディスクの呼称(表面側から見たときの凹部をグルーブ部としている)とは逆になっている。青色レーザを使用する光記録媒体では、このように基板の底面側から見た呼称が使われている。
【0016】
グルーブ部11G及びランド部11Lは、図示しないが、ディスク状の基板1の表面に、スパイラル状に形成された溝によって、構成されている。
【0017】
基板1の材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
光透過層(いわゆるカバー層)3の材料としては、例えば、UVレジン(紫外線硬化樹脂)を紫外線照射により硬化させたものを使用することができる。
【0018】
記録層2の材料としては、In−Co系合金、又は、Sn−Co系合金を使用する。
例えば、In−Co合金やSn−Co合金、In−CoにSn,Bi,Ge,Si,Niから選ばれる1種以上を加えた合金、Sn−CoにIn,Bi,Ge,Si,Niから選ばれる1種以上を加えた合金が挙げられる。
具体的には、例えば、In−Sn−Co合金を使用することができる。
In−Co系合金又はSn−Co系合金を記録層2の材料として使用することにより、穴あけ記録によって記録層2に情報の記録を行うことができる。また、記録層2を合金膜の単層膜で構成することが可能になる。
【0019】
記録層2の厚さは、In−Co系合金又はSn−Co系合金の単層膜で使用する場合、8nm〜25nmの範囲とすることが好ましい。
例えば、厚さ10nmの合金膜を記録層2として使用することができる。
【0020】
凹凸面11において、グルーブ部11Gの幅GWと、ランド部11Lの幅LWとを合わせた幅が、トラックピッチTPに相当する。
本実施の形態の光記録媒体10では、トラックピッチTPを320nmとする。
【0021】
この光記録媒体10に対しては、光透過層3の表面3A側から、記録層2に青色レーザを照射することにより、記録層2に対する情報の記録や、記録層2に記録された情報の再生が行われる。
記録層2に対して照射する青色レーザとしては、例えば、波長405nmのレーザを使用することができる。
【0022】
本実施の形態の光記録媒体10においては、特に、基板1の凹凸面11における溝の深さ(グルーブ部11Gの深さ)を、26nm〜40nmの範囲内とする。
凹凸面11の溝の深さが25nmであると、前述したように、サーボ信号が乱れて、トラッキングサーボが不安定になってしまう。
凹凸面11の溝の深さが40nmを超えると、320nmのトラックピッチTPでグルーブ部11Gを作製することが難しくなる。
【0023】
さらに、本実施の形態の光記録媒体10において、グルーブ部11Gの深さをx(nm)とし、グルーブ部11Gの幅GWをy(nm)とするとき、以下の条件を満たすことが望ましい。
222.5−2.5x≦y≦−195+15x (26≦x≦29)
5+5x≦y≦240 (29≦x≦33)
170≦y≦2670/7−30x/7 (33≦x≦40)
【0024】
上述の本実施の形態によれば、特に、基板1の凹凸面11における溝の深さ(グルーブ部11Gの深さ)を26nm〜40nmの範囲内としていることにより、良好なNPP特性を獲得して、安定なサーボ信号を得ることができる。
さらに、上述したグルーブ部11Gの深さx及びグルーブ部11Gの幅yの条件を満たすことにより、記録前後のNPPの比を0.75程度以上にすることができ、トラッキングサーボに充分な信号を得ることができる。
【0025】
また、In−Co系合金又はSn−Co系合金を記録層2の材料として使用していることにより、穴あけ記録によって記録層2に情報の記録を行うことができ、また記録層2を合金膜の単層膜で構成することが可能になる。
これにより、多層膜から成る記録層を有する光記録媒体と比較して、記録層を構成する膜の数を大幅に低減することができるため、記録層2を成膜室の少ない安価な成膜装置で成膜することができる。
従って、光記録媒体10を、短い時間で、かつ安価に製造することが可能になる。
【0026】
<2.実験例>
実際に光記録媒体を作製して、NPP特性を調べた。
【0027】
基板1には、厚さ1.1mmのポリカーボネート樹脂を使用した。
そして、トラックピッチTPを320nmとしたままで、on−groove幅(グルーブのデューティ)、即ちグルーブ部11Gの幅GWを変えると共に、溝の深さを、25nm、29nm、33nm、40nmと変えた基板1をそれぞれ作製した。
次に、基板1上に、In−Co−Sn合金膜を膜厚10nmで成膜することにより、記録層2を形成した。
さらに、記録層2上に紫外線効果樹脂を塗布して、紫外線照射により硬化させることにより、厚さ100μmの光透過層3を形成して、図1に示した構造の光記録媒体10を作製した。
作製したそれぞれの光記録媒体10に対して、波長405nmのレーザ光を照射して、記録層2に対する記録を行い、記録前後のNPP特性を評価した。
【0028】
評価結果として、それぞれの溝の深さ(グルーブ部11Gの深さ)の基板における、グルーブ部11Gの幅GWと記録前後のNPP特性との関係を、図2〜図5に示す。
溝の深さを25nmとした場合の結果を図2に示し、溝の深さを29nmとした場合の結果を図3に示し、溝の深さを33nmとした場合の結果を図4に示し、溝の深さを40nmとした場合の結果を図5に示す。
【0029】
サーボを安定して行うためには、記録前のNPP及び記録後のNPPが、0.20以上必要である。
また、記録前後のNPPの比(記録後のNPP/記録前のNPP)については、0.7〜1.3となることが好ましい。
【0030】
図2より、溝の深さを25nmとした、通常使用されている基板を使用した場合には、記録前のNPP特性は良好な値を示しているが、記録後のNPP特性は大きく変化しており、記録前後のNPPの比は0.75程度とマージンがほとんど無い状態である。
従って、光記録媒体の製造を行う際に、歩留まりが充分に得られないおそれがある。
【0031】
これに対して、図3〜図5に示すいずれの場合も、on−groove幅が大きい方が記録前後のNPP変化は小さくなっているのがわかる。
ただし、このトラックピッチが320nmの光ディスクにおいて、on−groove幅が240nmを超えると、ランド部の幅が狭くなり過ぎて基板作製が困難になるため、240nm以下にする必要がある。
溝の深さが29nmの基板については、on−groove幅150nm〜240nmにおいて、NPPは良好な値を示している。
溝の深さが33nmの基板については、on−groove幅170nm〜240nmにおいて、良好なNPPを示している。
溝の深さが40nmの基板については、溝が深いために広いon−groove幅の作製が難しくなるが、on−groove幅170nm〜210nmにおいて、良好なNPPを示していることが分かった。
【0032】
これらの結果から明らかになった、それぞれの溝の深さにおいて良好なNPPを示すon−groove幅の範囲の最大値max及び最小値minを、図6に示す。
ここで、マスタリングプロセスのしやすさから、on−groove幅に±10nmのマージンを持たせること、及び、溝深さは40nm以下とすること、を考慮する。
すると、基板の溝の深さが26nm〜40nmの範囲であり、かつ、図6のminとmaxとの間の領域のグルーブ部を有する基板であれば、良好なNPPを獲得し、安定なサーボ信号を得ることができるということがわかる。
【0033】
即ち、図6より、グルーブ部11Gの深さをx(nm)とし、グルーブ部11Gの幅GWをy(nm)とするとき、以下の条件を満たことが望ましい。
222.5−2.5x≦y≦−195+15x (26≦x≦29)
5+5x≦y≦240 (29≦x≦33)
170≦y≦2670/7−30x/7 (33≦x≦40)
【0034】
従って、上述したように基板を構成することにより、In−Co系合金やSn−Co系合金を記録層に用いた穴あけ記録光ディスクにおいても、良好なNPPを獲得し、安定なサーボ信号を得ることができる。
【0035】
上述の実施の形態では、記録層が1層のみの光記録媒体であったが、記録層を2層以上有する光記録媒体にも本発明を適用することができる。
例えば、穴あけによる追記型記録を行う記録層を2層以上有する構成や、穴あけによる追記型記録を行う記録層と他の記録方法を使用する記録層とを合わせて2層以上有する構成が考えられる。
記録層を2層以上有することにより、記録の容量を増やすことができる。
【0036】
また、本発明の光記録媒体において、記録層と基板との間、又は、記録層と光透過層との間に、さらにその他の層を有していても構わない。
【0037】
さらにまた、本発明の光記録媒体は、グルーブ部により記録トラックが形成されている構成であれば、通常のディスク状の光記録媒体に限らず、その他の形状とすることも可能である。
【0038】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【符号の説明】
【0039】
1 基板、2 記録層、3 光透過層、11 凹凸面、11G グルーブ部、11L ランド部、GW グルーブ部の幅、LW ランド部の幅、TP トラックピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の底面側から見て溝状の凹部となっているグルーブ部と、前記基板の底面側から見て凸部となっているランド部とから成り、前記グルーブ部の深さが26nm〜40nmの範囲内であり、前記グルーブ部と前記ランド部とを合わせたトラックピッチが320nmであり、前記基板の上面に形成された凹凸面と、
前記基板の前記凹凸面上に形成され、In−Co系合金又はSn−Co系合金から成り、穴あけ記録により記録が行われる記録層と、
前記記録層の上に形成された光透過層とを含む
光記録媒体。
【請求項2】
前記グルーブ部の深さをx(nm)とし、前記グルーブ部の幅をy(nm)とするとき、以下の条件を満たす、請求項1に記載の光記録媒体。
222.5−2.5x≦y≦−195+15x (26≦x≦29)
5+5x≦y≦240 (29≦x≦33)
170≦y≦2670/7−30x/7 (33≦x≦40)
【請求項3】
前記基板の材料がポリカーボネート樹脂である、請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項4】
前記光透過層が紫外線硬化樹脂を紫外線照射により硬化させて成る、請求項1に記載の光記録媒体。
【請求項5】
前記記録層がIn−Co−Sn合金からなる、請求項1に記載の光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−157302(P2010−157302A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282(P2009−282)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】