説明

光走査用レンズおよび光走査装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、光走査用レンズおよび光走査装置に関する
【0002】
【従来の技術】等角速度的に偏向する光束を、光走査用レンズにより被走査面上に光スポットとして集光させて被走査面を等速的に光走査する光偏向装置は従来から広く知られている。このような光走査装置において、光源から被走査面に到る光束光路を直線的に展開した「仮想光路」を想定し、この仮想光路上で主走査方向と平行になる方向を「主走査対応方向」と称し、上記仮想光路上で副走査方向と平行になる方向を「副走査対応方向」と称する。上記のような光走査装置においては、周期的に繰り返される光走査の走査起点を揃えるために、光走査領域へと偏向する偏向光束を同期検知用光センサーで検出して同期検出信号を発生させ、この同期検出信号発生から所定時間後に光走査を開始することが行なわれている。この場合、同期検知用光センサーは、光走査用レンズにより光スポットが形成される被走査面と同一の平面内に配備するのが好ましい。被走査面と同一の面内では偏向光束が小さい径のスポットに集光しているので、同期検知用光センサーの小さな受光面でも確実に偏向光束を検出できるからである。
【0003】しかし、被走査面には一般に、光導電性の感光体等の感光性記録媒体が配備されるため、感光性記録媒体の配備を妨げない位置に同期検知用光センサーを配備する必要がある。これを実行するための方法として「同期検知用光センサーの配備位置を、被走査面と同一の平面内で光走査領域から離して設定する」方法があるが、この方法の場合、光走査用レンズの主走査対応方向のレンズ系が大きくなり、光走査用レンズの製造が難しく、光走査用レンズのコスト高を招来するという問題がある。また、別の方法として「光走査用レンズによる集光光束をミラー等により折り返し、被走査面と等価な位置(上記ミラーにより被走査面の像が形成される位置)に光センサーを配備する」方法があるが、ミラー等の配置のための余分のスペースを必要とし、実際的見地からすると、ミラーや同期検知用光センサーの配置に対する制約が大きい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、同期検知用光センサーの配置の自由度を大きくできる新規な光走査用レンズおよび、この光走査用レンズを用いる光走査装置の提供を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1の光走査用レンズは「光源からの光束を光偏向器により等角速度的に偏向させ、偏向光束を結像レンズにより被走査面上に光スポットとして集光せしめて光走査を行なう光走査装置」において、偏向器と被走査面との間の光路上に配備されるレンズである。上記光走査装置は、光偏向器における所謂「面倒れ」の補正を行なわないことを前提とする。
【0006】請求項1記載の光走査用レンズは「結像レンズ部分と同期検出用レンズ部分とを一体化した単体構造」を有する。「結像レンズ部分」は、偏向光束を被走査面上に光スポットとして集光させる機能とリニアリティ補正機能を持ち、「同期検出用レンズ部分」は、偏向光束を同期検知用光センサー上に集光させる機能を有する。結像レンズ部分と同期検出用レンズ部分とは異なる結像特性を有する。ここに、「結像特性が異なる」とは、上記各レンズ部分が、焦点距離および/または光軸を異にすることを意味する。光走査用レンズは、全体がプラスチックによりモールド成形される。モールド成形で一体成形される際「モールド成形におけるゲートの側で、同期検出用レンズ部分が成形」される。上記請求項1記載の光走査用レンズは、「同期検出用レンズ部分が、同期検知用の偏向光束を、光走査用の偏向領域から遠ざける」ように、光軸を調整して形成することができる(請求項2)。
【0007】請求項3記載の光走査装置は、上記のような光走査用レンズを用いる光走査装置であって、「光源装置」と、この光源装置からの光束を等角速度的に偏向させる「光偏向器」と、この光偏向器による偏向光束を被走査面上に光スポットとして集光させる上記「光走査用レンズ」と、光走査の同期を取るための「同期検知用光センサー」とを有する。請求項3記載の光走査装置は、上述の如く、面倒れの補正を行なわないことを前提とする。従って偏向器としては、面倒れを高精度に補正した回転多面鏡や、原理的に面倒れの殆ど無いピラミダルミラーやホゾ型ミラーを用いるのが望ましい。請求項1記載の光走査用レンズに入射する偏向光束は、平行光束でも、弱い発散性の光束でもあるいは、弱い収束性の光束でも良い。偏向光束が平行光束である場合には、上記リニアリティ補正機能は所謂fθ機能であり、結像レンズ部分はfθレンズとなる。
【0008】請求項4記載の光走査用レンズは「光源からの光束を主走査対応方向に長い線像として結像させ、線像の結像位置の近傍に偏向反射面を持つ光偏向器により等角速度的に偏向させ、偏向光束を結像レンズにより被走査面上に光スポットとして集光せしめて光走査を行なう光走査装置」において、偏向器と被走査面との間の光路上に配備されるレンズである。この光走査用レンズの用いられる光走査装置は上記のように「面倒れ」を補正する機能を持っている。請求項4の光走査用レンズは、請求項1の光走査用レンズと同じく、結像レンズ部分と同期検出用レンズ部分とを一体化して成る単体構造である。「結像レンズ部分」は、主走査対応方向に関してリニアリティ補正機能を持ち、副走査対応方向に関しては「偏向反射面位置と被走査面位置とを幾何光学的に略共役な関係とする」機能を有し、偏向光束を被走査面上に光スポットとして集光させる。「同期検出用レンズ部分」は、偏向光束を同期検知用光センサー上に集光させ、結像レンズ部分と同期検出用レンズ部分とは異なる結像特性を有する。即ち、結像レンズ部分と同期検出用レンズ部分とは、少なくとも主走査対応方向に関して、焦点距離および/または光軸が異なる。光走査用レンズは、全体がプラスチックによりモールド成形される。モールド成形で一体成形される際「モールド成形におけるゲートの側で、同期検出用レンズ部分が成形」される。上記請求項4記載の光走査用レンズは、「同期検出用レンズ部分が、同期検知用の偏向光束を、光走査用の偏向領域から遠ざける」ように、光軸を調整して形成することができる(請求項5)。
【0009】請求項6の光走査装置は、請求項4または5に記載の光走査用レンズを用いる光走査装置である。この光走査装置は、「光源装置」と、この光源装置からの光束を主走査対応方向に長い線像として結像せしめる「線像結像光学系」と、線像の結像位置近傍に偏向反射面を持ち光束を等角速度的に偏向させる「光偏向器」と、この光偏向器による偏向光束を被走査面上に光スポットとして集光させる上記「光走査用レンズ」と、光走査の同期を取るための「同期検知用光センサー」とを有する。上述の如く、この光走査装置は面倒れを補正する機能を有するので、光偏向器として、通常の回転多面鏡等を用いることができる。光走査用レンズに入射する偏向光束は、副走査対応方向には発散性であるが、主走査対応方向においては、平行・弱い発散性・弱い収束性の何れでも良く、偏向光束が主走査対応方向に関して平行光束であるときは、結像レンズ部分は周知のアナモフィックなfθレンズとなる。
【0010】なお、請求項1または4において、「偏向光束を同期検出用光センサー上に集光させる」とは、少なくとも主走査対応方向において、同期検出用光センサーの受光面内に偏向光束が収束することを意味し、偏向光束が上記受光面上に像として結像している必要は必ずしもない。
【0011】
【作用】この発明では上記の如く、光走査用レンズが結像レンズ部分と同期検出用レンズ部分とを一体化して構成されるが、結像レンズ部分と同期検出用レンズ部分とが、異なる結像特性を持つので、同期検知用光センサーの所望の配置位置に応じて、同期検出用レンズ部分の焦点距離や光軸を調整して、偏向光束を適正に同期検出用光センサーの受光面上に集光することができる。請求項1,2,4,5に記載の光走査用レンズのような、細長いレンズをモールド成形する場合、成形時のゲートは、長手方向の一方の側に位置されるのが普通である。ゲートの近傍では成形の精度が低下しやすい。このため、レンズ面の精度は、レンズ長手方向のゲートから遠い側で高く、ゲートに近い側で低くなり、光軸に関して非対称に成り易い。この発明の光走査用レンズのように、結像レンズ部分の長手方向端部に同期検出用レンズ部分を一体的に形成する場合、同期検出用レンズ部分のレンズ面精度は、結像レンズ部分に比して比較的ラフで良いので、上記ゲートを同期検出用レンズ部分側にすることにより、結像レンズ部分でのレンズ面精度の低下を有効に防止することができる。また、請求項2,5記載の光走査用レンズのように「同期検出用レンズ部分が、同期検知用の偏向光束を、光走査用の偏向領域から遠ざける」ように、光軸を調整して形成すると、同期検知用光センサーの配備位置を光走査用の偏向領域から遠ざけることができ、同期検知用光センサーにより、走査光が「ケラれ」ないようにすることができ、同期検知用光センサーの配置位置の自由度が大きくなる。
【0012】
【実施例】以下、図面に即して具体的な実施例を説明する。図1(a)に示す光走査装置は、請求項6の光走査装置の1実施例である。
【0013】光源装置1は、半導体レーザーや発光ダイオード等の光源とコリメートレンズとの組合せにより構成され、実質的な平行光束を放射する。放射された平行光束は、線像結像光学系としてのシリンダーレンズ2により、副走査対応方向にのみ集束性を与えられ、光偏向器である回転多面鏡3の偏向反射面の近傍に、主走査対応方向に長い線像として結像し、偏向反射面により反射される。反射光束は、回転多面鏡3の回転により、等角速度的に偏向する偏向光束となって光走査用レンズ4に入射し、被走査面に向かって収束する。被走査面には、母線を被走査面に合致させて、ドラム状の光導電性感光体5が配備されており、光走査に同期して矢印方向へ回転し、光走査される感光体周面を副走査方向へ送る。偏向光束は、各光走査に先立って、同期検知用光センサー8により検知され、光走査の同期がとられる。
【0014】光走査用レンズ4は、図1(b)に示すように、結像レンズ部分41と同期検出用レンズ部分42とが一体化された単体構造である。結像レンズ部分41はアナモフィックなfθレンズであり、主走査対応方向に関してfθ機能を有する。このため、結像レンズ部分41により被走査面上に形成される光スポットは、感光体表面を等速的に光走査する。同期検出用レンズ部分42は、偏向光束を同期検知用光センサー8に向かって集光させる。同期検知用光センサー8は、光走査領域の光走査開始側の側方において、光走査用レンズ4と被走査面との間の所望の位置に配備されている。同期検出用レンズ部分42は、その焦点距離を同期検知用光センサー8の配備位置に応じて設定され、光走査領域に向かって偏向する偏向光束を、同期検知用光センサー8の受光面に向かって集光させる。同期検知用光センサー8は、例えばPINフォトダイオード等であり、その受光面の径は1〜2mm程度であるから受光面での集光状態は、少なくとも主走査対応方向において、この受光面領域に集光する程度で足りる。
【0015】この実施例において、結像レンズ部分41は、光偏向器たる回転多面鏡3の面倒れを補正する機能を有するが、同期検出用レンズ部分42は必ずしも面倒れ補正機能を持たなくても良い。同期検出用レンズ部分42に、面倒れ補正機能を持たせない場合には、同期検知用光センサー8に入射する偏向光束が副走査対応方向に変動して、場合によっては偏向光束の検出不全を生ずる可能性もある。これを避けるためには、同期検知用光センサー8の受光面上に集光する光束が副走査対応方向に長い形状となるようにすれば良い。そのためには、同期検出用レンズ部分42のパワーを、主・副走査対応方向で異ならせれば良い。もっとも、説明中の実施例の場合は、光走査用レンズ8に入射する偏向光束は主走査対応方向には平行光束で、副走査対応方向には発散性であるので、同期検出用レンズ部分42を球面レンズとして構成しても、同期検知用光センサー8の受光面に集光した光束状態は副走査対応方向に長いものとなるので問題はない。
【0016】同期検出用レンズ部分42の大きさは主走査対応方向に4〜5mm程度で良く、従って、この部分を結像レンズ部分41に一体化しても、光走査用レンズ4の大きさは、従来レンズとそれほど変わらない。光走査用レンズ4は、プラスチックを材料として、モールド成形により形成されている。前述の如く、光走査用レンズ4のような、細長いレンズをモールド成形する場合、成形時のゲートを長手方向の一方の側に持つのが普通であり、レンズ面の精度は光軸に関して非対称に成り易いが、この発明の光走査用レンズのように、結像レンズ部分の長手方向端部に同期検出用レンズ部分を一体的に形成する場合、同期検出用レンズ部分のレンズ面精度は、結像レンズ部分に比して比較的ラフで良いので、上記ゲートを同期検出用レンズ部分側にすることにより、結像レンズ部分でのレンズ面精度の低下を有効に防止することができる。
【0017】図2は、別の実施例を特徴部分のみ示している。この実施例の場合、光偏向器3による有効偏向角2θ1に対して、有効光走査偏向角2θ2が大きく、角θ1−θ2が比較的小さい。そこで、同期検知用光センサー8により、走査光が「ケラれ」ないように、光走査用レンズ4Aの同期検出用レンズ部分42Aの光軸を調整して、同期検知用の偏向光束10の方向を光走査用の偏向領域から遠ざけるようにし、同期検知用光センサー8の配備位置を光走査用の偏向領域から遠ざけている(請求項5)。以上、請求項5の光走査用レンズの実施例、請求項6の光走査装置の実施例につき説明したが、図1の構成において、シリンダーレンズ2を取り除くと、請求項3の光走査装置の実施例になる。この装置の場合は、光偏向器の面倒れを補正しないので、回転多面鏡3は面倒れの生じないように、偏向反射面や回転軸の精度を十分に高くしたものを用いるか、あるいは光偏向器としてピラミダルミラーやホゾ型ミラーを用いる。勿論、光走査用レンズの結像レンズ部分はアナモフィックにする必要はなく、光軸の回りに回転対称なレンズ面を持つ通常のfθレンズとすれば良い。
【0018】
【発明の効果】以上のように、この発明によれば新規な光走査用レンズおよび光走査装置を提供できる。この発明は上述の如き構成となっているから、光走査の同期をとるための同期検知用光センサーの配部における自由度が増大する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例を説明するための図である。
【図2】別実施例を特徴部分のみ示す図である。
【符号の説明】
1 光源装置
2 線像結像光学系としてのシリンダーレンズ
3 光偏向器としての回転多面鏡
4 光走査用レンズ
5 光導電性感光体
8 同期検知用 光センサー
41 結像レンズ部分
42 同期検出用レンズ部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】光源からの光束を光偏向器により等角速度的に偏向させ、偏向光束を結像レンズにより被走査面上に光スポットとして集光せしめて光走査を行なう光走査装置において、偏向器と被走査面との間の光路上に配備されるレンズであって、リニアリティ補正機能を持ち偏向光束を被走査面上に光スポットとして集光させる結像レンズ部分と、偏向光束を同期検知用光センサー上に集光させる同期検出用レンズ部分とを一体化してなる単体構造であり、上記結像レンズ部分と同期検出用レンズ部分とが、異なる結像特性を有し、全体がプラスチックによりモールド成形され、モールド成形におけるゲートの側で、同期検出用レンズ部分が成形されることを特徴とする、光走査用レンズ。
【請求項2】請求項1記載の光走査用レンズにおいて、同期検出用レンズ部分が、同期検知用の偏向光束を、光走査用の偏向領域から遠ざけるように光軸を調整されていることを特徴とする、光走査用レンズ。
【請求項3】光源装置と、この光源装置からの光束を等角速度的に偏向させる光偏向器と、この光偏向器による偏向光束を被走査面上に光スポットとして集光させる光走査用レンズと、光走査の同期を取るための同期検知用光センサーとを有し、光走査用レンズが請求項1または2に記載の光走査用レンズであることを特徴とする、光走査装置。
【請求項4】光源からの光束を主走査対応方向に長い線像として結像させ、上記線像の結像位置の近傍に偏向反射面を持つ光偏向器により等角速度的に偏向させ、偏向光束を結像レンズにより被走査面上に光スポットとして集光せしめて光走査を行なう光走査装置において、偏向器と被走査面との間の光路上に配備されるレンズであって、主走査対応方向に関してリニアリティ補正機能を持ち、副走査対応方向に関しては偏向反射面位置と被走査面位置とを幾何光学的に略共役な関係とする機能を有し、偏向光束を被走査面上に光スポットとして集光させる結像レンズ部分と、偏向光束を同期検知用光センサー上に集光させる同期検出用レンズ部分とを一体化してなる単体構造であり、上記結像レンズ部分と同期検出用レンズ部分とが、少なくとも主走査対応方向に関して異なる結像特性を有し、全体がプラスチックによりモールド成形され、モールド成形におけるゲートの側で、同期検出用レンズ部分が成形されることを特徴とする、光走査用レンズ。
【請求項5】請求項4記載の光走査用レンズにおいて、同期検出用レンズ部分が、同期検知用の偏向光束を、光走査用の偏向領域から遠ざけるように光軸を調整されていることを特徴とする、光走査用レンズ。
【請求項6】光源装置と、この光源装置からの光束を主走査対応方向に長い線像として結像せしめる線像結像光学系と、上記線像の結像位置近傍に偏向反射面を持ち光束を等角速度的に偏向させる光偏向器と、この光偏向器による偏向光束を被走査面上に光スポットとして集光させる光走査用レンズと、光走査の同期を取るための同期検知用光センサーとを有し、光走査用レンズが請求項4または5に記載の光走査用レンズであることを特徴とする、光走査装置。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3073801号(P3073801)
【登録日】平成12年6月2日(2000.6.2)
【発行日】平成12年8月7日(2000.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−212369
【出願日】平成3年8月23日(1991.8.23)
【公開番号】特開平5−53067
【公開日】平成5年3月5日(1993.3.5)
【審査請求日】平成10年8月5日(1998.8.5)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【参考文献】
【文献】特開 平3−274016(JP,A)
【文献】特開 平4−175718(JP,A)
【文献】特開 平4−281421(JP,A)
【文献】実開 昭64−55918(JP,U)